(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】薄肉金属の領域選択的に磁気振動撹拌を実現できる摩擦溶接装置および溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 13/00 20060101AFI20240603BHJP
【FI】
B23K13/00 Z
(21)【出願番号】P 2023022968
(22)【出願日】2023-02-16
【審査請求日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】202210288039.2
(32)【優先日】2022-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520154254
【氏名又は名称】江蘇科技大学
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU UNIVERSITY OF SCIENCE AND TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】No.2 Mengxi Road,Zhenjiang,Jiangsu 212003,China
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】陳書錦
(72)【発明者】
【氏名】石銘霄
(72)【発明者】
【氏名】陳▲シィン▼毅
(72)【発明者】
【氏名】楊志東
(72)【発明者】
【氏名】羅建坤
(72)【発明者】
【氏名】陳樹君
(72)【発明者】
【氏名】孫宏偉
(72)【発明者】
【氏名】張本順
(72)【発明者】
【氏名】芦笙
(72)【発明者】
【氏名】劉彬
(72)【発明者】
【氏名】李瑞峰
(72)【発明者】
【氏名】徐洋
(72)【発明者】
【氏名】段瑞海
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-154790(JP,A)
【文献】特表2013-535338(JP,A)
【文献】米国特許第05277744(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 13/00-13/08
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄肉金属の領域選択的に磁気振動撹拌を実現できる摩擦溶接装置であって、回転モータースピンドル(4)が撹拌ヘッド(3)を駆動し、
前記摩擦溶接装置は、撹拌ヘッド(3)に固定されるパルス磁場発生器(2)を備え、
前記パルス磁場発生器(2)は、溶接予定の薄肉金属部品(1)に向かう端部に、薄肉金属部品(1)の溶接領域を加熱する高周波誘導線加熱コイルM(201)と、薄肉金属部品(1)の溶接領域に高周波振動磁場を生成する三相コイルモジュール(202)とが設けられ、
前記三相コイルモジュール(202)は、互いに位相差が120°である3つの独立した電源Aと、電源Bと、電源Cとを備え、前記電源A、前記電源B、前記電源Cの三相電源間の位相シーケンスおよび周波数が調整可能であ
り、前記電源A、前記電源B、前記電源Cが後退側の上方に設置され、前記高周波誘導線加熱コイルM(201)が撹拌ヘッドの前方に設けられる、ことを特徴とする薄肉金属の領域選択的に磁気振動撹拌を実現できる摩擦溶接装置。
【請求項2】
前記摩擦溶接装置は、回転モータースピンドル(4)に接続される溶接装置ハウジング(5)と、溶接予定の薄肉金属部品(1)を挟持する垂直伸縮作業台(6)とを備え、
前記パルス磁場発生器(2)は、調整可能なコネクティングロッド(10)によって溶接装置ハウジング(5)に接続される、ことを特徴とする請求項1に記載の薄肉金属の領域選択的に磁気振動撹拌を実現できる摩擦溶接装置。
【請求項3】
前記パルス磁場発生器(2)のハウジング(203)内に、周方向誘導コイル(205)が設けられ、前記周方向誘導コイル(205)および撹拌ヘッド(3)は静止している時、0~15°傾斜する、ことを特徴とする請求項2に記載の薄肉金属の領域選択的に磁気振動撹拌を実現できる摩擦溶接装置。
【請求項4】
前記高周波誘導線加熱コイルM(201)および三相コイルモジュール(202)は、カバーシート(204)によって、ハウジング(203)の薄肉金属部品(1)に近い端部に実装される、ことを特徴とする請求項3に記載の薄肉金属の領域選択的に磁気振動撹拌を実現できる摩擦溶接装置。
【請求項5】
撹拌ヘッド(3)に向かう前記垂直伸縮作業台(6)の位置に、振動計(11)が設けられる、ことを特徴とする請求項4に記載の薄肉金属の領域選択的に磁気振動撹拌を実現できる摩擦溶接装置。
【請求項6】
前記三相コイルモジュール(202)の3つの電源は、それぞれ、周波数調整器に接続され、パルス磁場発生器(2)によって3つの電源A、電源B、電源Cに印加される周波数を調整し、
前記高周波誘導線加熱コイルM(201)が、電流を調整する電力調整器に接続される、ことを特徴とする請求項5に記載の薄肉金属の領域選択的に磁気振動撹拌を実現できる摩擦溶接装置。
【請求項7】
前記垂直伸縮作業台(6)は、薄肉金属部品(1)に向かう位置に、2つの赤外線温度計(12)が設けられ、前記赤外線温度計(12)は、所定の周波数で薄肉金属部品の溶接領域をスキャンして温度を測定し、かつ溶接領域の温度をリアルタイムに記録およびフィードバックする、ことを特徴とする請求項6に記載の薄肉金属の領域選択的に磁気振動撹拌を実現できる摩擦溶接装置。
【請求項8】
2つの前記赤外線温度計(12)が検出した温度差が10℃未満である場合、平均値を計算してフィードバックし、
検出された実効温度と期待温度との差が大きい時、撹拌ヘッド(3)を薄肉金属部品(1)に垂直する方向に沿って上昇させ、動作初始点に戻った後、撹拌ヘッド(3)の回転を停止する、ことを特徴とする請求項7に記載の薄肉金属の領域選択的に磁気振動撹拌を実現できる摩擦溶接装置。
【請求項9】
前記パルス磁場発生器(2)の3つの電源A、電源B、電源Cは、「A-B-C-ストップ-A-C-B-ストップ」の通電シーケンスで通電し、かつ、周波数は、前記撹拌ヘッド(3)の回転周波数の2倍以上である、ことを特徴とする請求項1~請求項8のいずれか1つに記載の薄肉金属の領域選択的に磁気振動撹拌を実現できる摩擦溶接装置。
【請求項10】
請求項2~請求項8のいずれか1つに記載の薄肉金属の領域選択的に磁気振動撹拌を実現できる摩擦溶接装置を用いて、
a.撹拌ヘッド(3)の寸法および溶接予定の板材(1)の厚さに応じて調整可能なコネクティングロッド(10)の長さを調整し、パルス磁場発生器(2)の位置を固定するステップと、
b.撹拌ヘッド(3)が回転を開始し、垂直伸縮作業台(6)の方向に沿って溶接予定の板材(1)に対して0.8-2cmまで移動し、5s後、撹拌ヘッド(3)が溶接予定の薄肉金属部品(1)に差し込み、溶接を開始するステップと、
c.パルス磁場発生器(2)が通電して動作し、高周波誘導加熱コイルM(201)は、撹拌摩擦溶接予熱過程を開始し、三相コイルモジュール(202)の3つの電源A、電源B、電源Cの位相シーケンスおよび周波数を調整して溶接を行うステップとを含む、ことを特徴とする薄肉金属選択領域磁気振動摩擦溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄肉金属溶接装置および方法の技術分野に属し、特に、薄肉金属の領域選択的に磁気振動撹拌を実現できる摩擦溶接装置および溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄肉金属の撹拌摩擦溶接では、撹拌ヘッドの押し込み量が少なく、回転速度が小さく、可塑化金属の体積も少なく、かつ後退側の金属が適切に流動できないため、溶接スリットにバリヤ穴欠陥などが生成する場合がある。また、撹拌ヘッドの摩擦押し付け力が不十分な場合、発熱が低く、撹拌ピンの抵抗が比較的に大きく、撹拌ピンが断裂による溶接失敗が生じる場合がある。したがって、上記の問題を防ぐために、補助エネルギーを補う必要がある。
【0003】
国内外の多くの研究者がこれに関連する研究を行っており、殆どの場合、撹拌摩擦溶接の補助加熱または振動を実現するために、超音波振動技術を採用している。この手法は、溶接領域での金属を振動させ、金属成形の速度を加速することができる。しかし、超音波振動の方向は単一であり、装置構造も複雑である。特許文献(公開番号:CN211921652U)には、熱源付加型撹拌摩擦溶接装置を提案しており、熱源付加装置として、レーザー、電気アーク、プラズマ、および/または誘導加熱熱源を使用している。このような装置は、適用場面が限られ、設備が高価かつ複雑であり、特に、ガス保護装置やモーター付きの可動熱源装置を追加する必要があるため、コストを抑えることができない。また、撹拌子の軸を中心線として直接電磁誘導加熱を行うと、撹拌ヘッドが過剰に加熱され、損耗するおそれがある。この問題を解決するために、従来の電磁誘導加熱を使用する場合、静止している電磁誘導コイルの中心軸を撹拌ヘッドの中心軸とあえて一致させず、撹拌ヘッドの片側に偏るように設置する。これによって、局部的な部分だけを誘導加熱することができる。このような装置では、永久磁石を使用しており、ワークの方向に対して垂直に移動させて電磁誘導加熱を行うことができるが、高周波での誘導電流を実現できず、かつ局在部しかに作用できない。また、ワークに通電しており、溶接領域の金属が磁場の力の下で移動すると、安全問題が生じる。実際の使用では、ワークに流れる電流が制御できず、力の方向を制御できないという問題がある。また、磁石を回転させて回転磁界を発生させる場合、質量が小さく、回転速度が遅い磁石しか使用できないため、装置の適用性は良くない。
【0004】
従来技術では、薄肉金属の前進側と後退側の溶接均一性をどのように実現するか、特に、従来の薄肉金属の後退側の領域における磁力振動撹拌によって生成される磁場の均一性をどのように改善するかは、当該技術分野における解決しようとする課題である。この課題を解決できれば、薄肉金属の溶接領域の温度均一性をできる限り温度差が10度以内に実現でき、薄肉金属全体の溶接領域の溶接クレータの均一性および長い寸法の薄肉構造部材の溶接歩留まりを改善できると期待されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来技術の問題を解決するために、本発明は、パルス磁場発生器が撹拌ヘッドに固定されており、パルス磁場発生器には、溶接予定の薄肉金属部品に向かう端部に、高周波誘導線加熱コイルMおよび三相コイルモジュールを備える、薄肉金属の領域選択的に磁気振動撹拌を実現できる摩擦溶接装置および溶接方法を提供している。パルス磁場発生器によって、薄肉金属部品の溶接領域での加熱及び高周波振動磁場を提供することができ、前記三相コイルモジュールは、互いに位相差が120°である3つの独立した電源Aと、電源Bと、電源Cとを備え、前記電源A、前記電源B、前記電源Cの三相電源間の位相シーケンスおよび周波数が調整可能である。この構造によって、薄肉金属部品の後退側に、周方向高周波振動を実現させ、後退側の上方に設置された三相コイルモジュールの電源A、B、Cおよび撹拌ヘッドの前方に設けられた高周波誘導加熱コイルMによって周方向振動力が発生する。前記三相コイルモジュールは、薄肉金属部品の後退側の金属にパルス磁場成分を生成する。前記パルス磁場は、後退側の金属に対して往復作用することで、当該領域において高周波振動を形成することができる。また、撹拌ヘッドの前方にある高周波誘導加熱コイルMによる高温は、溶接領域での金属塑性変形および流動に有利であり、ワークの底部の金属流動性を改善し、撹拌ピンの後ろの空洞が溶融金属によって素早く充填され、分散した空洞による欠陥の生成を防ぐことができ、溶接構造と粒子の微細化を実現することができる。また、溶接構造をより均一にし、材料の塑性変形抵抗力を減らし、撹拌ヘッドの損耗を低減し、溶接品質が向上することができる。
【0006】
本発明は、薄肉金属の領域選択的に磁気振動撹拌を実現できる摩擦溶接装置であって、回転モータースピンドルが撹拌ヘッドを駆動し、前記摩擦溶接装置は、撹拌ヘッドに固定されるパルス磁場発生器を備え、前記パルス磁場発生器は、溶接予定の薄肉金属部品に向かう端部に、薄肉金属部品の溶接領域を加熱する高周波誘導線加熱コイルMと、薄肉金属部品の溶接領域に高周波振動磁場を生成する三相コイルモジュールとが設けられ、前記三相コイルモジュールは、互いに位相差が120°である3つの独立した電源Aと、電源Bと、電源Cとを備え、前記電源A、前記電源B、前記電源Cの三相電源間の位相シーケンスおよび周波数が調整可能である、ことを特徴とする薄肉金属の領域選択的に磁気振動撹拌を実現できる摩擦溶接装置を提供する。
【0007】
好ましくは、前記摩擦溶接装置は、回転モータースピンドルに接続される溶接装置ハウジングと、溶接予定の薄肉金属部品を挟持する垂直伸縮作業台とを備え、前記パルス磁場発生器は、調整可能なコネクティングロッドによって溶接装置ハウジングに接続される。
【0008】
好ましくは、前記パルス磁場発生器のハウジング内に、周方向誘導コイルが設けられ、前記周方向誘導コイルおよび撹拌ヘッドは静止している時、0~15°傾斜する。
【0009】
好ましくは、前記高周波誘導線加熱コイルMおよび三相コイルモジュールは、カバーシートによって、ハウジングの薄肉金属部品(1)に近い端部に実装される。
【0010】
好ましくは、撹拌ヘッドに向かう前記垂直伸縮作業台の位置に、振動計が設けられる。
【0011】
好ましくは、前記三相コイルモジュールの3つの電源は、それぞれ、周波数調整器に接続され、パルス磁場発生器によって3つの電源A、電源B、電源Cに印加される周波数を調整し、前記高周波誘導線加熱コイルMが、電流を調整する電力調整器に接続される。
【0012】
好ましくは、前記垂直伸縮作業台は、薄肉金属部品に向かう位置に、2つの赤外線温度計が設けられ、前記赤外線温度計は、所定の周波数で薄肉金属部品の溶接領域をスキャンして温度を測定し、かつ溶接領域の温度をリアルタイムに記録およびフィードバックする。
【0013】
好ましくは、2つの前記赤外線温度計が検出した温度差が10℃未満である場合、平均値を計算してフィードバックし、検出された実効温度と期待温度との差が大きい時、撹拌ヘッドを薄肉金属部品に垂直する方向に沿って上昇させ、動作初始点に戻った後、撹拌ヘッド(3)の回転を停止する。
【0014】
好ましくは、前記パルス磁場発生器の3つの電源A、電源B、電源Cは、「A-B-C-ストップ-A-C-B-ストップ」の通電シーケンスで通電し、かつ、周波数は、前記撹拌ヘッドの回転周波数の2倍以上である。
【0015】
本発明は、薄肉金属選択領域磁気振動摩擦溶接方法を提供し、当該方法は、上述した薄肉金属の領域選択的に磁気振動撹拌を実現できる摩擦溶接装置を用いて、a.撹拌ヘッドの寸法および溶接予定の板材の厚さに応じて調整可能なコネクティングロッドの長さを調整し、パルス磁場発生器の位置を固定するステップと、b.撹拌ヘッドが回転を開始し、垂直伸縮作業台の方向に沿って溶接予定の板材に対して0.8-2cmまで移動し、5s後、撹拌ヘッドが溶接予定の薄肉金属部品に差し込み、溶接を開始するステップと、c.パルス磁場発生器が通電して動作し、高周波誘導加熱コイルMは、撹拌摩擦溶接予熱過程を開始し、三相コイルモジュールの3つの電源A、電源B、電源Cの位相シーケンスおよび周波数を調整して溶接を行うステップとを含む。
【発明の効果】
【0016】
従来技術と比較して、本発明は以下の有利な効果を有する。
【0017】
本発明の薄肉金属の領域選択的に磁気振動撹拌を実現できる摩擦溶接装置は、薄肉金属部品付近に固定されたパルス磁場発生器端部に設けられた三相コイルモジュールと高周波誘導加熱コイルMとによって、薄肉金属部品が溶接するとき、撹拌ヘッドの前進側または後退側のいずれか1つで溶接されているかどうかにかかわらず、溶接領域に均一な高周波振動が生成され、かつ溶接領域での金属塑性変形および流動に有利である高周波誘導加熱コイルMの高温が形成することができる。また、本発明では、溶接部品の底部の金属流動性を改善し、撹拌ピンの後ろに生成された空洞を素早く充填できるので、分散した空洞による欠陥を防ぐことができ、溶接構造の結晶粒微細化に有益である。また、溶接構造をより均一にし、材料の塑性変形抵抗力を減らし、撹拌ヘッドの損失を低減し、薄肉金属部品の溶接品質を向上させることができる。
【0018】
本発明の薄肉金属選択領域磁気振動摩擦溶接方法は、上述した溶接装置に基づき、パルス磁場発生器の位置を合理的に調整し、かつ動作タイミングを制御して撹拌ヘッドとの協動を実現して薄肉金属部品の溶接を行うことで、薄肉金属部品の溶接品質を向上させることができる。
【0019】
上述したように、本発明の磁力振動撹拌摩擦溶接装置および溶接方法は、プロセスが簡単で、低コスト、高溶接効率、高安全性などの利点を有する。また、撹拌ヘッドの使用寿命を延ばすことができ、かつ薄肉金属部品の溶接周方向の温度均一性およびパルス磁場の均一性を確保し、溶接構造の粒子が均一かつ微細になり、薄肉金属部品の溶接性能が優れる。また、本発明の溶接方法は、連続運転が可能であり、長い寸法のワーク溶接を実現でき、薄肉金属部品の溶接歩留まりの向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】薄肉金属の領域選択的に磁気振動撹拌を実現できる摩擦溶接装置の構造概念図である。
【
図2】パルス磁場発生器2と撹拌ヘッド3との接続構造を示す図である。
【
図5】パルス磁場発生器2の内部コイル構造図である。
【符号の説明】
【0021】
1-薄肉金属部品、2-パルス磁場発生器、201-高周波誘導加熱コイルM、2011-銅巻線、2012-絶縁層、202-三相コイルモジュール、203-ハウジング、204-カバーシート、205-周方向誘導コイル、3-撹拌ヘッド、4-回転モータースピンドル、5-溶接装置ハウジング、6-垂直伸縮作業台、7-クランプ装置、8-固定ノブ、9-ERコレット部材、10-調整可能なコネクティングロッド、11-振動計、12-赤外線温度計。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。前記実施形態を添付の図面に示している。図面では、同一または類似の機能を有する同一または類似の要素に、同一または類似の符号を付与している。なお、以下の説明および図面は、本願発明の実施形態を示しているが、いずれも本発明を説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0023】
本発明の説明において、「中央」、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」または「右」などの用語によって示される方向または位置関係は、図面に示す方向または位置関係であり、本発明を構成する各構成要素の相対的な位置関係を示しており、位置の限定を意味することではない。また、本発明の実施形態に関する内容において、「中央」、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」または「右」などの用語が示す位置関係は、
図1に示す位置関係に基づいている。
【0024】
図1に示すように、本発明の薄肉金属の領域選択的に磁気振動撹拌を実現できる摩擦溶接装置は、回転モータースピンドル4を介して撹拌ヘッド3を駆動する。前記摩擦溶接装置は、撹拌ヘッド3に固定されるパルス磁場発生器2を備える。前記パルス磁場発生器2は、薄肉金属部品1の溶接領域に対して加熱および高周波振動磁場を提供するために、溶接予定の薄肉金属部品1に向かう端部に、高周波誘導線加熱コイルM201および三相コイルモジュール202が設けられる。前記三相コイルモジュール202は、位相が順次120°異なる3つの独立した電源A、B、Cを備え、前記A、B、Cの三相電源の位相シーケンスおよび周波数を調整することができる。具体的に、
図2は、パルス磁場発生器2および撹拌ヘッド3の接続構造図を示しており、薄肉金属の周方向振動力は、後退側の上方に設置された三相コイルモジュール202の3つの電源A、B、Cおよび撹拌ヘッドの前方にある高周波誘導加熱コイルM201によって提供される。前記三相コイルモジュール202は、後退側の金属に向かってパルス磁場成分を発生させ、当該パルス磁場成分は、後退側の金属に対して作用することで、当該領域に高周波振動が生じる。撹拌ヘッドの前方の高周波誘導加熱コイルM201の作用は、後退側の金属塑性変形および流動に有利である。具体的な実施過程では、
図5に示すように、高周波誘導加熱コイルM201は、銅コイル2011の外側に絶縁層2012で覆われた後、螺旋状(ばね状)に湾曲して構成されている。
【0025】
図1に示すように、溶接予定の薄肉金属部品1は、溶接の安定性を確保するために、クランプ装置7によって垂直伸縮作業台6に挟持される。調整可能なコネクティングロッド10の一端は、固定ノブ8によって溶接装置ハウジング5に固定され、他端は、前記パルス磁場発生器2に固定されている。これによって、垂直伸縮作業台6に対するパルス磁場発生器2の相対位置を調整することができる。垂直伸縮作業台6に対するパルス磁場発生器2の相対位置を調整できれば、別の実施形態では、調整可能なコネクティングロッド10の頂部は、他の周囲の機器または支持体によって固定されてもよい。回転モータースピンドル4は、ERコレット部材9によって、撹拌ヘッド3および溶接装置ハウジングに固定されている。これによって、撹拌ヘッド3および回転モータースピンドル4を固定することができ、動作の安定性を確保することができる。
【0026】
また、
図1に示すように、磁力振動撹拌摩擦溶接装置の前記摩擦溶接装置は、回転モータースピンドル4に接続される溶接装置ハウジング5と、溶接予定の薄肉金属部品1を挟持する垂直伸縮作業台6とを備える。前記パルス磁場発生器2は、調整可能なコネクティングロッド10を介して溶接装置ハウジング5に接続されており、固定姿勢を調整することができる。ただし、前記パルス磁場発生器2は撹拌ヘッド3と回転しないため、垂直伸縮作業台6における溶接薄肉金属部品1との相対距離Lが調整可能に設置されている。これによって、溶接予定の薄肉金属部品1とパルス磁場発生器2との間の距離を調整することに有利であり、適切なパルス磁場および加熱温度に調整して薄肉金属部品1の溶接を容易にすることができる。
【0027】
図2および
図3に示すように、磁力振動撹拌摩擦溶接装置の前記パルス磁場発生器2のハウジング203内に、周方向誘導コイル205が設けられており、前記周方向誘導コイル205および撹拌ヘッド3は静止している状態で0~15°傾斜するように設置されている。これによって、パルス磁場発生器2によって発生される磁場および熱場がさらに強化され、薄肉金属部品1の溶接過程に良好な効果をもたらすことができる。
【0028】
図3に示すように、磁力振動撹拌摩擦溶接装置の前記高周波誘導線加熱コイルM201および三相コイルモジュール202は、カバーシート204によって、ハウジング203付近の薄肉金属部品1の端部に実装されており、検出性能および精度が向上することができる。
【0029】
より好ましい実施形態は、
図1に示されており、当該実施形態では、磁力振動撹拌摩擦溶接装置の前記垂直伸縮作業台6は、撹拌ヘッド3に向かう位置に振動計11が設けられ、この振動計11によって、磁力振動ヘッドで生成される振動をリアルタイムにフィードバックすることができる。
【0030】
より好ましい実施形態では、磁力振動撹拌摩擦溶接装置の前記三相コイルモジュール202の3つの電源はそれぞれ周波数調整器に接続され、パルス磁場発生器2によって3つの電源A、B、Cに印加される周波数を調整することができる。
【0031】
図4は、三相コイルモジュール202の3つの電源A、B、Cおよび三相電圧型ブリッジインバータ回路(右)との接続図であり、これは、A、B、Cの三相電源間の位相シーケンスおよび周波数の調整を実現するためのものである。インバータ回路の導通角は、180°の3つのブリッジアームで構成されており、同相の上下の2つのブリッジアームが交互に通電し、各相の導通角の位相差が120°である。すなわち、同一時点で、IGBTスイッチは、K1、K3、K6がオンになり、その他がオフである。次の時点で、IGBTスイッチは、K3、K5、K2がオンになり、導通角によって120°遅らせた後、IGBTスイッチは、K5、K1、K4がオンになる、このように繰り返すことで、周波数制御可能な三相交流電流を生成することができる。交流電流が三相モーターに通電すると、回転磁場が形成され、回転磁場によって回転子巻線に誘導電流が生成される。電流を運ぶ回転子導体は、固定子の回転磁場の作用で電磁力を形成し、モーターを回転させるための電磁トルクが形成される。モーターの回転速度は、周波数に依存する。前記高周波誘導線加熱コイルM201は、電流を調整する電力調整器に接続されている。溶接中、パルス磁場発生器2が、振動計11によってフィードバックされた振動値に從って調整する。
【0032】
振動計11が受信した振動強度値が期待値よりも低い場合、電力調整器によって高周波誘導線加熱コイルMに出力された電流を増加させる方法、周波数調整器によって電源A、B、Cの周波数を増加させ方法、またはこの2つの方法を組み合せることで調整することができる。
【0033】
振動計11が受信した振動強度値が期待値よりも高い場合、電力調整器によって高周波誘導線加熱コイルMに出力された電流を減少させる方法、周波数調整器によって電源A、B、Cの周波数を減少させる方法、またはこの2つの方法を組み合せることで調整することができる。これによって、誘導回転磁場の回転周波数および誘導磁場の強度を制御することができる。回路図から分かるように、異なる電磁場周波数が形成されることで、異なる補助熱起動力および薄肉金属部品の塑性変形力を形成し、溶接部での変形および材料流動が改善され、溶接品質が向上する。
【0034】
図1に示すように、磁力振動撹拌摩擦溶接装置の前記垂直伸縮作業台6が薄肉金属部品1に向かう位置に、2つの赤外線温度計12が設けられ、薄肉金属部品溶接領域を所定の周波数でスキャンして、対応領域の温度を測定し、かつ溶接領域の温度をリアルタイムで記録およびフィードバックする。これによって、薄肉金属部品1の溶接領域の安定性および均一性を確保でき、また、温度が所定の温度を超えた時に警告できるので、薄肉金属部品1の溶接領域での溶接クレータの均一性および外観の完全性を向上できる。
【0035】
より好ましい実施形態では、磁力振動撹拌摩擦溶接装置の2つの前記赤外線温度計12が検出した温度差が10℃未満である場合、平均値を取得してフィードバックする。
検出された実効温度と期待温度との差が比較的に大きい時、装置は、薄肉金属部品1に垂直する方向に沿って撹拌ヘッド3を上昇させ、作業初始点に戻った後、撹拌ヘッド3の回転を停止し、装置はスタンバイ状態にする。これによって、薄肉金属部品の溶接領域の良好および完璧な性能をよりよく制御することができる。
【0036】
より好ましい実施形態では、磁力振動撹拌摩擦溶接装置の前記パルス磁場発生器2の3つの電源A、B、Cは、「A-B-C-ストップ-A-C-B-ストップ」の通電シーケンスに從って通電する。使用する周波数は、前記撹拌ヘッド3の回転周波数の2倍以上である。溶接中、後退側および撹拌ヘッド3の前方に、パルス電磁力および高周波誘導線加熱コイルMが発生する起動力を印加する。これは、溶接領域の金属塑性変形および流動に有利であり、溶接部の底部での金属流動性を改善し、撹拌ピンの後ろのキャビティが即時充填可能であり、分散した空洞欠陥を補い、溶接構造の結晶粒微細化に有益であり、かつ溶接構造をより均一にし、材料の塑性変形抵抗力および撹拌ヘッドの損傷を減らし、溶接品質を改善することができる。
【0037】
本発明の薄肉金属選択領域磁気振動摩擦溶接方法は、
図1に示す構造より分かる。
【0038】
薄肉金属の領域選択的に磁気振動撹拌を実現できる摩擦溶接装置を使用し、以下のステップを実行する。
a.撹拌ヘッド3の寸法および溶接予定の板材1の厚さに応じて、調整可能なコネクティングロッド10の長さを調整し、パルス磁場発生器2の位置を固定する。当該ステップの目的は、パルス磁場発生器2の位置を調整可能に固定することである。
b.撹拌ヘッド3が回転を開始しかつ垂直伸縮作業台6の方向に沿って溶接予定の板材1に対して0.8~2cm位置まで移動する。5s後、撹拌ヘッド3は、溶接予定の薄肉金属部品1に差し込み、溶接を開始する。ステップaおよびステップbは、溶接中に薄肉金属部品1が撹拌ヘッド3と良好な接触性を有することを保証するための溶接前での準備ステップである。
c.パルス磁場発生器2が通電作業を開始する。
高周波誘導加熱コイルM201は、まず、撹拌摩擦溶接予熱ステップを開始し、三相コイルモジュール202の3つの電源A、B、Cの位相シーケンスおよび周波数を調整して溶接を行う。これによって、薄肉金属部品1の溶接を実現することができる。
【0039】
本発明の実施形態に関する説明では、好ましい実施形態を開示しているが、本発明はこれに限定されない。当業者が前述した実施形態に基づいて変更および改良を加えることができ、その変更および改良はいずれも本願特許請求の範囲に含まれている。