IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オーディーエス カンパニーリミテッドの特許一覧

特許7497098透明歯列矯正装置形成用組成物、透明歯列矯正装置の製造方法およびその方法により製造された透明歯列矯正装置(Composition for forming transparent orthodontic device, method of preparing transparent orthodontic device and transparent orthodontic device prepared thereby)
<>
  • 特許-透明歯列矯正装置形成用組成物、透明歯列矯正装置の製造方法およびその方法により製造された透明歯列矯正装置(Composition  for  forming  transparent  orthodontic  device,  method  of  preparing  transparent  orthodontic  device  and  transparent  orthodontic  device  prepared  thereby) 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】透明歯列矯正装置形成用組成物、透明歯列矯正装置の製造方法およびその方法により製造された透明歯列矯正装置(Composition for forming transparent orthodontic device, method of preparing transparent orthodontic device and transparent orthodontic device prepared thereby)
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/60 20200101AFI20240603BHJP
   B29C 64/106 20170101ALI20240603BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240603BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240603BHJP
   A61C 7/08 20060101ALI20240603BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
A61K6/60
B29C64/106
B33Y10/00
B33Y70/00
A61C7/08
C08F290/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023500287
(86)(22)【出願日】2021-08-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-06
(86)【国際出願番号】 KR2021011443
(87)【国際公開番号】W WO2022045796
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-01-02
(31)【優先権主張番号】10-2020-0107965
(32)【優先日】2020-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】323009689
【氏名又は名称】オーディーエス カンパニーリミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083138
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100189625
【弁理士】
【氏名又は名称】鄭 元基
(74)【代理人】
【識別番号】100196139
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100199004
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 洋
(72)【発明者】
【氏名】パク スンウォン
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/133999(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/025943(WO,A1)
【文献】特開平03-265612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00- 6/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で示された第1光硬化性化合物100重量部;
下記化学式2で示された第2光硬化性化合物35~75重量部;
下記化学式3で示された第3光硬化性化合物15~65重量部;および
下記化学式4で示された第4光硬化性化合物5~40重量部;および
下記化学式5で示された第5光硬化性化合物1~15重量部を含む透明歯列矯正装置形成用組成物:
[化学式1]
R'CH2[C(CH3)(R)CH2]2CH2R'(R=HまたはCH3、R'=NHCO2CH2CH2O2CC(CH3)=CH2)
[化学式2]
【化1】
[化学式3]
CH2=C(CH3)COOCH2CH2OH
[化学式4]
【化2】
[化学式5]
CH2=C(CH3)COO(CH2CH2O)3COC(CH3)=CH2.
【請求項2】
前記第1光硬化性化合物、前記第2光硬化性化合物、上前記第3光硬化性化合物、前記第4光硬化性化合物および前記第5光硬化性化合物の総重量100重量部に対してアクリル樹脂0.5~5重量部を更に含む 請求項1に記載の透明歯列矯正装置形成用組成物。
【請求項3】
前記第1光硬化性化合物、前記第2光硬化性化合物、上前記第3光硬化性化合物、前記第4光硬化性化合物および前記第5光硬化性化合物の総重量100重量部に対して光開始剤1 ~20重量部を更に含む 請求項1に記載の透明歯列矯正装置形成用組成物。
【請求項4】
前記第1光硬化性化合物、前記第2光硬化性化合物、上前記第3光硬化性化合物、前記第4光硬化性化合物および前記第5光硬化性化合物の総重量100重量部に対して酸化防止剤0.1~2重量部を更に含む 請求項1に記載の透明歯列矯正装置形成用組成物。
【請求項5】
顔料を含まないことを特徴とする請求項1に記載の透明歯列矯正装置形成用組成物。
【請求項6】
溶媒を含まないことを特徴とする請求項1に記載の透明歯列矯正装置形成用組成物。
【請求項7】
300~800cpsの粘度を有することを特徴とする請求項1に記載の透明歯列矯正装置形成用組成物。
【請求項8】
液状の、光硬化性の、3Dプリンティング用であることを特徴とする請求項1に記載の透明歯列矯正装置形成用組成物。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれかによる透明歯列矯正装置形成用組成物を製造する段階(S10);
前記透明歯列矯正装置形成用組成物を3Dプリンティングして部分硬化した透明歯列矯正装置を製造する段階(S20);および
前記部分硬化した透明歯列矯正装置を完全硬化させて最終透明歯列矯正装置を製造する段階(S30)を含む透明歯列矯正装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
透明歯列矯正装置形成用組成物、透明歯列矯正装置の製造方法およびその方法により製造された透明歯列矯正装置が開示される。より詳しくは、強度に優れ、割れにくい透明歯列矯正装置を提供できる透明歯列矯正装置形成用組成物、透明歯列矯正装置の製造方法およびその方法によって製造された透明歯列矯正装置が開示される。
【背景技術】
【0002】
透明歯列矯正装置は熱可塑性であり、板状の透明な高分子複合樹脂(以下、樹脂)を熱加圧成形して所望の歯の移動を達成する装置を指す。
透明歯列矯正装置は、一般の矯正装置のように歯に付着して突出し、目立つ構造物や金属製ワイヤーがなく、色がほとんど透明で、一般の矯正装置に比べて審美的な側面で優れている。したがって、矯正治療を受けたいが、矯正装置を歯に付着することが職場生活、対人関係および自信に悪影響を与えることを懸念して矯正治療を選択できない人が多いが、透明歯の矯正装置はこのような負担感を避けて気軽に矯正治療を受けられるようにする。
また、装置の厚さが薄くて着用が楽なうえ、食事や歯磨きのためにしばらく口腔から除去することもできるので、日常生活の不便感も著しく少ない。したがって、不正咬合は人口に非常に頻発するので、透明歯列矯正装置を用いた矯正治療に対する大衆の関心と需要が大きくならざるを得ず、透明歯列矯正装置関連の市場規模は持続的に拡張している傾向である。
透明歯列矯正装置、すなわち熱加圧成形された樹脂は通常、アライナー(aligner)と呼ばれるが、歯の移動を樹脂の弾性限界内で前記樹脂に段階的に具現して患者の口腔に着用させることで計画された歯の移動を連続的に達成する。このような効果を得るためには、アライナーを熱加圧成形するために使用する歯列の模型(鋳型(mold))に歯の移動様相が段階的に再現されていなければならない。
鋳型(mold)に歯の段階的移動様相を再現するために使用する方法としては、以下の二つの方法がある。
第一に、手作業方式である。患者の歯列の石膏模型を採得し、前記採得された石膏模型から各歯を一つずつ糸鋸で分離した後、歯の移動方向と樹脂の弾性限界を考慮して分離された個別の歯を適切な位置に移した後、接着剤やワックスで前記採得された石膏模型に再び固定する。結果的な石膏模型を鋳型として使用して熱加圧成形を行う。このようにして得られたアライナーを患者の口腔内に装着すると、アライナーに具現された歯の次の段階の位置移動情報が樹脂の弾性復元力で歯に伝達され、歯の移動が発生する。
アライナーは、これに具現された歯の移動が実際の歯に現れるまで十分な時間着用しなければならない(一般的に1日16~21時間、7~14日以上)。その後、次の段階の歯の移動のためのアライナーを得るために、患者の口腔印象を再び採得し、それに歯科用石膏を注いで固めた患者の歯列の石膏模型を得た後、前記過程を連続的に繰り返して所望の歯列を得る方式である。
第二に、3Dスキャニングおよび3Dプリンティング技術に基づいた方式である。患者の歯列の三次元映像をスキャナーで得て、この映像を用いて所望の歯の移動方向と樹脂の弾性を考慮して段階的な歯の移動をコンピュータプログラムでシミュレーションする。個別の歯の移動が最初の位置から最後の位置まで段階的に具現される。その後、段階別に一つずつ樹脂の熱加圧成形のための鋳型(mold)を三次元プリンターで出力する。このように出力された鋳型に熱加圧成形を実施して歯の移動のための各段階のアライナーを得る。
【0003】
手作業方式に比べてこれの長所は、患者を繰り返し呼んで印象を採得する必要がなく、歯列の三次元映像を基盤にコンピュータ画面に具現された歯の移動の段階別シミュレーションを確認し、事前に歯の移動が合理的に設定されたか確認して調節できる。したがって、最終的な治療結果と治療過程について患者と医師、または医師とサービスを提供する会社とのコミュニケーションが可能であり、万が一発生しうるエラーを事前に防ぐことができる。この方式の代表的なサービスがInvisalign(Align Technology)である。
前述したように、透明歯列矯正装置は装置の審美性と使用の利便性に優れ、一般的なワイヤー矯正装置に比べて矯正治療を希望する人々に非常に魅力的である。しかし、既存の透明歯列矯正装置は、曲げ強さ、曲げ弾性率および破断伸びを満たさない問題点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一具現例は、強度に優れ、割れにくい透明歯列矯正装置を提供できる透明歯列矯正装置形成用組成物を提供する。
本発明の他の具現例は、前記透明歯列矯正装置形成用組成物を製造する段階を含む透明歯列矯正装置の製造方法を提供する。
本発明のさらに他の具現例は、前記透明歯列矯正装置の製造方法によって製造された透明歯列矯正装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面は、
下記化学式1で示された第1光硬化性化合物100重量部;
下記化学式2で示された第2光硬化性化合物35~75重量部;
下記化学式3で示された第3光硬化性化合物15~65重量部;
下記化学式4で示された第4光硬化性化合物5~40重量部;および
下記化学式5で示された第5光硬化性化合物1~15重量部を含む透明歯列矯正装置形成用組成物:
[化学式1]
R'CH2[C(CH3)(R)CH2]2CH2R'(R=HまたはCH3、R'=NHCO2CH2CH2O2CC(CH3)=CH2)
[化学式2]
【化1】


[化学式3]
CH2=C(CH3)COOCH2CH2OH
[化学式4]
【化2】

[化学式5]
CH2=C(CH3)COO(CH2CH2O)3COC(CH3)=CH2.
前記透明歯列矯正装置形成用組成物は、前記第1光硬化性化合物、前記第2光硬化性化合物、前記第3光硬化性化合物、前記第4光硬化性化合物および前記第5光硬化性化合物の総重量100重量部に対してアクリル樹脂0.5~5重量部をさらに含めることができる。
前記透明歯列矯正装置形成用組成物は、前記第1光硬化性化合物、前記第2光硬化性化合物、前記第3光硬化性化合物、前記第4光硬化性化合物および前記第5光硬化性化合物の総重量100重量部に対して光開始剤1~20重量部をさらに含めることができる。
前記透明歯列矯正装置形成用組成物は、前記第1光硬化性化合物、前記第2光硬化性化合物、前記第3光硬化性化合物、前記第4光硬化性化合物および前記第5光硬化性化合物の総重量100重量部に対して酸化防止剤0.1~2重量部をさらに含めることができる。
前記透明歯列矯正装置形成用組成物は、顔料を含めないことができる。
前記透明歯列矯正装置形成用組成物は、溶媒を含めないことができる。
前記透明歯列矯正装置形成用組成物は、300~800cpsの粘度を有することができる。
前記透明歯列矯正装置形成用組成物は、液状の、光硬化性の、3Dプリンティング用であり得る。
本発明の他の側面は、
前記透明歯列矯正装置形成用組成物を製造する段階(S10);
前記透明歯列矯正装置形成用組成物を3Dプリンティングして部分硬化した透明歯列矯正装置を製造する段階(S20);および
前記部分硬化した透明歯列矯正装置を完全硬化させて最終透明歯列矯正装置を製造する段階(S30)を含む透明歯列矯正装置の製造方法を提供する。
本発明のさらに他の側面は、
前記透明歯列矯正装置の製造方法によって製造された透明歯列矯正装置を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一具現例による透明歯列矯正装置形成用組成物は、強度に優れ、かつ破損しにくく、大部分が樹脂で形成されていて表面が柔らかいため、正常な歯を損傷させない透明歯列矯正装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一具現例による透明歯列矯正装置の製造方法を示した流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一具現例による透明歯列矯正装置形成用組成物を詳細に説明する。
本発明の一具現例による透明歯列矯正装置形成用組成物は、下記化学式1で示された第1光硬化性化合物100重量部、下記化学式2で示された第2光硬化性化合物35~75重量部、下記化学式3で示された第3光硬化性化合物15~65重量部、下記化学式4で示された第4光硬化性化合物5~40重量部、および下記化学式5で示された第5光硬化性化合物1~15重量部を含む:
[化学式1]
R'CH2[C(CH3)(R)CH2]2CH2R'(R=HまたはCH3、R'=NHCO2CH2CH2O2CC(CH3)=CH2)
[化学式2]
【化1】

[化学式3]
CH2=C(CH3)COOCH2CH2OH
[化学式4]
【化2】

[化学式5]
CH2=C(CH3)COO(CH2CH2O)3COC(CH3)=CH2.

前記第1光硬化性化合物は、R=Hである異性体およびR=CH3である異性体が所定の比率で混合されている混合物であり得る。例えば、前記第1光硬化性化合物は、分子がC23H38N2O8であり、分子量が470.56であり得る。
前記第1光硬化性化合物、前記第2光硬化性化合物、前記第3光硬化性化合物および前記第4光硬化性化合物の含有量がそれぞれ前記範囲内であれば、曲げ強さ(flexural strength)に優れ、破断伸び(Elongation at Break)が長く、曲げ弾性率(flexural modulus of elasticity)が適正水準であるため、割れにくいだけでなく、大部分が樹脂で形成されていて表面が柔らかいため、正常な歯を損傷させない透明歯列矯正装置を製造することができる。
前記それぞれの光硬化性化合物は、UV(紫外線)硬化性であり得る。
【0009】
また、前記透明歯列矯正装置形成用組成物は、前記第1光硬化性化合物、前記第2光硬化性化合物、前記第3光硬化性化合物、前記第4光硬化性化合物および前記第5光硬化性化合物の総重量100重量部に対してアクリル樹脂0.5~5重量部をさらに含めることができる。前記アクリル樹脂の含有量が前記範囲内であれば、透明歯列矯正装置の全般的な物性(すなわち、曲げ強さ、破断伸びおよび曲げ弾性率以外の物性)が向上する。
前記アクリル樹脂は、Dianal BR-83(三菱レイヨン製造、ガラス転移温度105℃、重量平均分子量40,000)、Dianal BR-87(三菱レイヨン製造、ガラス転移温度105℃、重量平均分子量25,000)、Dianal BR-60(三菱レイヨン製造、ガラス転移温度75C、重量平均分子量70,000)、Dianal BR-77(三菱レイヨン製造、ガラス転移温度80C、重量平均分子量65,000)またはこれらの組み合わせを含めることができる。
また、前記透明歯列矯正装置形成用組成物は、前記第1光硬化性化合物、前記第2光硬化性化合物、前記第3光硬化性化合物、前記第4光硬化性化合物および前記第5光硬化性化合物の総重量100重量部に対して光開始剤1~20重量部をさらに含めることができる。前記光開始剤の含有量が前記範囲内であれば、前記透明歯列矯正装置形成用組成物の硬化時間が適当であり、保存の安定性が向上し、硬化物(すなわち、最終透明歯列矯正装置)の表面にしわが生じず、滑らかな表面を得ることができる。
前記光開始剤は、アセトフェノン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾフェノン、2-ベンゾイル安息香酸、4,4'-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4'-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、4-ベンゾイル安息香酸、 2,2'-ビス(2-クロロフェニル)-4,4,5,5'-テトラフェニル-1,2'-ビイミダゾール、2-ベンゾイル安息香酸メチル、2-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4′-モノホリノブチロフェノン、(±)-カンファーキノン、 2-クロロチオキサントン、4,4'-ジクロロベンゾフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,4-ジエチルチオキサンテン-9-オン、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、1,4-ジベンゾイルベンゼン、2-エチルアントラキノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシ-4'-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン、2-イソプロピルチオキサントン、フェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸リチウム、2-メチル-4'-(メチルチオ)-2-モルホリノプロピオフェノン、2-イソニトロソプロピオフェノン、2-フェニル-2-(p-トルエンスルホニルオキシ)アセトフェノン、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドまたはこれらの組み合わせを含めることができる。
また、前記透明歯列矯正装置形成用組成物は、前記第1光硬化性化合物、前記第2光硬化性化合物、前記第3光硬化性化合物、前記第4光硬化性化合物および前記第5光硬化性化合物の総重量100重量部に対して酸化防止剤0.1~2重量部をさらに含めることができる。前記酸化防止剤の含有量が前記範囲内であれば、十分な酸化防止効果を得ながらも、透明歯列矯正装置の他の物性に悪影響を与えないことができる。
【0010】
前記酸化防止剤は、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、4,4'-メチレンビス(6-tert-ブチル-o-クレゾール)のようなヒンダードフェノール系化合物;ジオクチルジフェニルアミン、α-フェニルナフタレンのような芳香族アミン系化合物; 硫黄化合物;リン化合物;硫黄とリンの複合物であるジアルキルジチオリン酸塩(例えば、硫化脂肪、ジセチルスルフィド、ジベンジルジスルフィド、アルキルジチオリン酸塩); ジサリシリジンジアミノプロパン;ジドデシルチオベンズイミダゾール;またはこれらの組み合わせを含めることができる。
また、前記透明歯列矯正装置形成用組成物は、顔料を含まないことができる。
前記透明歯列矯正装置形成用組成物は、300~800cps(centipoise)の粘度を有することができる。本明細書において、「粘度」は、Brookfield社のDV-クアッドheometer RPM(shear rate: 25/s)を用いて常温(25℃)で測定された粘度を意味する。
前記透明歯列矯正装置形成用組成物は、溶媒を含まないことができる。しかし、本発明がこれに限定されるわけではなく、前記透明歯列矯正装置形成用組成物は溶媒をさらに含めることもできる。
前記溶媒は、エタノール、メタノール、イソプロパノール、ブタノール、水、メチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、シクロヘキサノン、シクロヘキサン、メチレンクロライド、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、酢酸メチルグリコール、トルエン、ベンゼン、ジエチルエーテル、ベンジルアルコール、グリセリンまたはこれらの組み合わせを含めることができる。
前記の透明歯列矯正装置形成用組成物は、安定化剤、可塑剤などの添加剤をさらに含めることができる。
【0011】
前記安定化剤は、ベンゾフェノン、しゅう酸アニリド、ベンゾトリアゾール、ハロゲン化ベンゾトリアゾール、トリアジンまたはこれらの組み合わせを含めることができる。
前記可塑剤は、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、ソルビトール、マンニトールまたはこれらの組み合わせを含めることができる。
前記透明歯列矯正装置形成用組成物は、液状(または懸濁液)であり、光硬化性であり、3Dプリンティング用であり得る。
以下、本発明の一具現例による透明歯列矯正装置の製造方法を詳細に説明する。
図1は、本発明の一具現例による透明歯列矯正装置の製造方法を示した流れ図である。
図1を参照すると、本発明の一具現例による透明歯列矯正装置の製造方法は、透明歯列矯正装置形成用組成物を製造する段階(S10)、前記透明歯列矯正装置形成用組成物を3Dプリンティングして部分硬化した透明歯列矯正装置を製造する段階(S20)、および前記部分硬化した透明歯列矯正装置を完全硬化させて最終透明歯列矯正装置を製造する段階(S30)を含む。
前記段階(S10)では、目標とする曲げ強さ、破断伸びおよび曲げ弾性率を有する透明歯列矯正装置を得ることができるように、前記透明歯列矯正装置形成用組成物の組成範囲内で、前記5種の光硬化性化合物、前記アクリル樹脂、前記光開始剤および前記酸化防止剤の混合比率を適切に調節することができる。
前記段階(S20)は、3Dプリンターによって遂行することができ、3Dプリンティングの工程中にプリンティングされた透明歯列矯正装置形成用組成物に紫外線を連続的にまたは断続的に照射することによって、前記透明歯列矯正装置形成用組成物を部分硬化させ、透明歯列矯正装置の形状を作っていく。本明細書において、「部分硬化(partial curing)」とは、硬化率が40%~90%であることを意味する。
前記段階(S30)では、前記部分硬化した透明歯列矯正装置を別途の硬化装置を用いて完全硬化させることによって、最終透明歯列矯正装置を製造する。本明細書において、「完全硬化(complete curing)」とは、硬化率が99%~100%であることを意味する。
【0012】
以下、前記透明歯列矯正装置の製造方法によって製造された透明歯列矯正装置を詳細に説明する。
前記透明歯列矯正装置は、優れた機械的物性(高い曲げ強さ、高い破断伸びおよび適正水準の曲げ弾性率)と高透明度を有する。
以下、本発明を下記実施例を挙げて説明するが、本発明が下記実施例のみに限定されるわけではない。
実施例1-1~1-9および比較例1-1~1-8:透明歯列矯正装置形成用組成物の製造
光硬化性化合物として前記化学式1で示されたジウレタンジメタクリレート(Cas No. 72869-86-4、R=Hである物質およびR=CH3である物質の混合物、分子式: C23H38N2O8)(PP1)、前記化学式2で示されたビスフェノールAグリセロラートジメタクリラート(Cas No. 41637-38-1)(PP2)、前記化学式3で示されたヒドロキシエチルメタクリレート(Cas No. 868-77-9)(PP3)、前記化学式4で示されたウレタンアクリレートオリゴマー(Cas No. 106556-00-7)(PP4)、および前記化学式5で示されたトリエチレングリコールジメタクリレート(Cas No. 109-16-0)(PP5)、アクリル樹脂としてDianal BR-83(三菱レイヨン製造、ガラス転移温度105℃、重量平均分子量40,000)、光重合開始剤としてフェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(Cas No. 162881-26-7)、および酸化防止剤として2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを含む透明歯列矯正装置形成用組成物を製造した。各実施例および比較例で使用された物質および含有量を下表1に示した。下表1において、各数値の単位は重量部である。また、アクリル樹脂、光開始剤および酸化防止剤の含有量は、前記5種の光重合性化合物の総重量100重量部に対する含有量である。
【0013】
【表1】
実施例2-1~2-7および比較例2-1~2-6:透明歯列矯正装置の製造
前記各実施例および比較例で製造された透明歯列矯正装置形成用組成物を3Dプリンターでプリンティングし、部分硬化させ、部分硬化した透明歯列矯正装置を製造した。以後、前記部分硬化した透明歯列矯正装置を硬化装置を用いて完全硬化させ、最終透明歯列矯正装置を製造した。前記3Dプリンターと硬化装置は1セットで製作されたものであり、Ray Dent Studiof社の製品である。各透明歯列矯正装置形成用組成物を用いて三つずつの透明歯列矯正装置を製造した。
【0014】
評価例1:透明歯列矯正装置の機械的物性評価
前記各実施例および比較例で製造された透明歯列矯正装置に対して、引張試験機を用いて曲げ強さ、曲げ弾性率(曲げ係数)および破断伸び(Elongation at Break)を測定し、その結果を下表2に示した。ここで、破断伸びは、互いに離隔して配置された一対の細長い支持台の上に細長い切断された透明歯列矯正装置の試験片を、前記一対の支持台の上にこれらと垂直な方向に掛けた後、前記試験片の中央部をプッシャーで上から下に押し下げる時、前記試験片が切れるまで前記プッシャーが下降した距離(すなわち、プッシャーが試験片に最初に接触した時点を出発点として試験片が切れるまで下降した距離)を意味する。
評価例2:透明歯列矯正装置の透明度評価
前記の各実施例および比較例で製造された透明歯列矯正装置に対して官能検査を実施した。具体的には、訓練された5人の評価要員を対象に、下記の方法で官能検査を実施した。すなわち、それぞれの透明歯列矯正装置の透明度の水準を肉眼観察により5点法で評価した後、各点数を平均して下表2に示した。ここで、各項目の点数が高いほど該当項目の類似性が高いことを意味する。
【表2】
【0015】
前記表2を参照すると、実施例2-1~2-9で製造された透明歯列矯正装置は、比較例2-1~2-8で製造された透明歯列矯正装置に比べて曲げ強さおよび破断伸びが優れていることが分かった。
また、前記表2を参照すると、実施例2-1~2-9で製造された透明歯列矯正装置は、比較例2-2~2-7で製造された透明歯列矯正装置に比べて曲げ強度、曲げ弾性率および破断伸びが高いことが分かった。
ただし、比較例2-1および2-8で製造された透明歯列矯正装置は、実施例2-1~2-9で製造された透明歯列矯正装置に比べて曲げ強さは大差がないが、曲げ弾性率および破断伸びははるかに低いことが分かった。
また、実施例2-1~2-9および比較例2-1~2-8で製造された透明歯列矯正装置は、すべて透明度が高いことが分かった。
以上で図面および実施例を参照して本発明による望ましい具現例が説明されたが、これは例示的なものに過ぎず、当該技術分野で通常の知識を持つ者であれば、これから様々な変形および均等な他の具現例が可能だという点を理解できる。したがって、本発明の保護範囲は、添付された特許請求の範囲によって定められなければならない。
図1