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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】測位装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/32 20100101AFI20240603BHJP
   G01S 19/51 20100101ALI20240603BHJP
   G01S 19/52 20100101ALI20240603BHJP
   G01S 19/44 20100101ALN20240603BHJP
【FI】
G01S19/32
G01S19/51
G01S19/52
G01S19/44
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020155411
(22)【出願日】2020-09-16
(65)【公開番号】P2022049286
(43)【公開日】2022-03-29
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】長保 龍
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103033825(CN,A)
【文献】特開2006-017604(JP,A)
【文献】国際公開第2018/198641(WO,A1)
【文献】特開2005-016955(JP,A)
【文献】特開2003-279635(JP,A)
【文献】特開2003-185728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 19/00-19/55
G01C 21/26-21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の衛星から送信される測距信号を基準局および受信機が受信して前記基準局に対する前記受信機の相対位置を計算する測位装置であり、
前記受信機が受信した前記測距信号を用いて最小二乗法を適用した単独測位およびカルマンフィルタを適用した単独測位を実施する第1の測位部と、
前記受信機が受信した前記測距信号および前記基準局が受信した前記測距信号を用いて相対測位を実施する第2の測位部と、を有し、
前記第1の測位部から出力される、前記カルマンフィルタを適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の速度、前記最小二乗法を適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の位置と前記カルマンフィルタを適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の位置との差、および前記カルマンフィルタを適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の位置と前記衛星の位置との間の距離のうちの少なくとも1つを利用して前記第2の測位部が前記相対測位を実施する、
ことを特徴とする測位装置。
【請求項2】
前記第1の測位部が、前記カルマンフィルタを適用した前記単独測位によって前記受信機の速度を算出するKF単独測位部を備え、
前記第2の測位部が、前記速度を利用して算出される前記受信機の移動距離を加算することにより、カルマンフィルタの事前推定状態量の前記受信機の3次元位置を更新する事前推定位置更新部を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の測位装置。
【請求項3】
前記第1の測位部が、前記最小二乗法を適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の位置と前記カルマンフィルタを適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の位置との差を算出する位置差算出部を備え、
前記第2の測位部が、前記差の絶対値が所定の閾値以上である場合に、カルマンフィルタのシステムノイズ共分散行列に前記差を加算することにより、前記システムノイズ共分散行列を更新するシステムノイズ更新部を備える、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の測位装置。
【請求項4】
前記第1の測位部が、前記最小二乗法を適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の位置と前記カルマンフィルタを適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の位置との差を算出する位置差算出部を備え、
前記第2の測位部が、前記差の絶対値が所定の閾値以上である場合に、カルマンフィルタの観測ノイズ共分散行列に所定の増幅係数を乗算することにより、前記観測ノイズ共分散行列を更新する観測ノイズ更新部を備える、
ことを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の測位装置。
【請求項5】
前記第1の測位部が、前記カルマンフィルタを適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の位置および前記衛星の位置に基づくコード擬似距離と前記測距信号に基づくコード観測量との差を前記複数の衛星それぞれの搬送波ごとに算出する擬似距離残差算出部を備え、
前記第2の測位部が、前記複数の衛星それぞれの搬送波ごとに算出される前記差の絶対値の平均値が所定の閾値以上である場合に、カルマンフィルタの観測ノイズ共分散行列に所定の増幅係数を乗算することにより、前記観測ノイズ共分散行列を更新する観測ノイズ更新部を備える、
ことを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の測位装置。
【請求項6】
前記第1の測位部が、
前記最小二乗法を適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の位置と前記カルマンフィルタを適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の位置との位置差を算出する位置差算出部と、
前記カルマンフィルタを適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の位置および前記衛星の位置に基づくコード擬似距離と前記測距信号に基づくコード観測量との距離差を前記複数の衛星それぞれの搬送波ごとに算出する擬似距離残差算出部と、を備え、
前記第2の測位部が、
前記位置差の絶対値が所定の閾値以上であり、且つ、
前記複数の衛星それぞれの搬送波ごとに算出される前記距離差の絶対値の平均値が所定の閾値以上である場合に、
カルマンフィルタの観測ノイズ共分散行列に所定の増幅係数を乗算することにより、前記観測ノイズ共分散行列を更新する観測ノイズ更新部を備える、
ことを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の測位装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、測位装置に関し、特に、全球測位衛星システムの衛星から送信される測距信号を受信して観測局側の観測データと基準局側の観測データとを用いて相対測位を実施する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
GPS(Global Positioning System の略)などを含む全球測位衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System の略)は、衛星から発信される電波(具体的には、測距信号)を利用して受信点の位置を算定する仕組みである。全球測位衛星システムを用いて位置や方位などを測定する測位装置は、複数の衛星から送信されたそれぞれの信号に基づいて当該の測位装置の位置や方位などを測定する。
【0003】
GNSSを利用して相対測位を実施する従来の技術として、互いに同一の組合せによる複数の衛星から送信された測位情報を用いて測位を行う複数の測位手段を有し、複数の測位手段による測位結果の差分を取ることで複数の測位手段間の距離を求める測位システム、が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-287850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、GNSS受信機で、例えばカルマンフィルタを適用して測位を実施する場合には、状態更新モデルを構築する必要がある。この状態更新モデルは、一般的には、事前推定位置を前回測位位置と推定した速度量とで表現し、状態モデルでシステムノイズと観測ノイズとを生成して加算し、測位アルゴリズムを解くことで位置を計算する。
【0006】
システムノイズは、一般的には位置や速度に対するノイズをモデル化したパラメータで構成されることが多い。しかしながら、測位環境の変化なども加味したノイズを与える必要があるため、測位環境の変化に沿ったパラメータを適用しないと測位精度が低下する、という問題がある。また、速度量の推定を別の処理で実施する場合(例えば、別の測位モデル、または慣性航法装置などで実施する場合)には、速度量の誤差などを適切に与えることが困難となる。このため、cm級測位(例えば、相対測位)のように高精度な測位位置を推定する場合は、測位環境の変化や速度量を推定するモデルの信頼度を測位処理へと適切に反映する必要がある。
【0007】
そこでこの発明は、測位環境の変化や速度量の信頼度を測位処理へと適切に反映して高精度な測位位置を推定することが可能な、測位装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、複数の衛星から送信される測距信号を基準局および受信機が受信して前記基準局に対する前記受信機の相対位置を計算する測位装置であり、前記受信機が受信した前記測距信号を用いて最小二乗法を適用した単独測位およびカルマンフィルタを適用した単独測位を実施する第1の測位部と、前記受信機が受信した前記測距信号および前記基準局が受信した前記測距信号を用いて相対測位を実施する第2の測位部と、を有し、前記第1の測位部から出力される、前記カルマンフィルタを適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の速度、前記最小二乗法を適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の位置と前記カルマンフィルタを適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の位置との差、および前記カルマンフィルタを適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の位置と前記衛星の位置との間の距離のうちの少なくとも1つを利用して前記第2の測位部が前記相対測位を実施する、ことを特徴とする測位装置である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の測位装置において、前記第1の測位部が、前記カルマンフィルタを適用した前記単独測位によって前記受信機の速度を算出するKF単独測位部を備え、前記第2の測位部が、前記速度を利用して算出される前記受信機の移動距離を加算することにより、カルマンフィルタの事前推定状態量の前記受信機の3次元位置を更新する事前推定位置更新部を備える、ことを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の測位装置において、前記第1の測位部が、前記最小二乗法を適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の位置と前記カルマンフィルタを適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の位置との差を算出する位置差算出部を備え、前記第2の測位部が、前記差の絶対値が所定の閾値以上である場合に、カルマンフィルタのシステムノイズ共分散行列に前記差を加算することにより、前記システムノイズ共分散行列を更新するシステムノイズ更新部を備える、ことを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3に記載の測位装置において、前記第1の測位部が、前記最小二乗法を適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の位置と前記カルマンフィルタを適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の位置との差を算出する位置差算出部を備え、前記第2の測位部が、前記差の絶対値が所定の閾値以上である場合に、カルマンフィルタの観測ノイズ共分散行列に所定の増幅係数を乗算することにより、前記観測ノイズ共分散行列を更新する観測ノイズ更新部を備える、ことを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1から3に記載の測位装置において、前記第1の測位部が、前記カルマンフィルタを適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の位置および前記衛星の位置に基づくコード擬似距離と前記測距信号に基づくコード観測量との差を前記複数の衛星それぞれの搬送波ごとに算出する擬似距離残差算出部を備え、前記第2の測位部が、前記複数の衛星それぞれの搬送波ごとに算出される前記差の絶対値の平均値が所定の閾値以上である場合に、カルマンフィルタの観測ノイズ共分散行列に所定の増幅係数を乗算することにより、前記観測ノイズ共分散行列を更新する観測ノイズ更新部を備える、ことを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1から3に記載の測位装置において、前記第1の測位部が、前記最小二乗法を適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の位置と前記カルマンフィルタを適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の位置との位置差を算出する位置差算出部と、前記カルマンフィルタを適用した前記単独測位によって算出される前記受信機の位置および前記衛星の位置に基づくコード擬似距離と前記測距信号に基づくコード観測量との距離差を前記複数の衛星それぞれの搬送波ごとに算出する擬似距離残差算出部と、を備え、前記第2の測位部が、前記位置差の絶対値が所定の閾値以上であり、且つ、前記複数の衛星それぞれの搬送波ごとに算出される前記距離差の絶対値の平均値が所定の閾値以上である場合に、カルマンフィルタの観測ノイズ共分散行列に所定の増幅係数を乗算することにより、前記観測ノイズ共分散行列を更新する観測ノイズ更新部を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1ないし請求項6に記載の発明によれば、単独測位を実施する第1の測位部から出力される情報を利用して第2の測位部が相対測位を実施するようにしているので、測位環境の変化や速度量の信頼度を測位処理へと適切に反映することができ、高精度な測位位置を推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の実施の形態に係る測位装置を含むGNSS受信機の概略構成を示す機能ブロック図である。
図2図1のGNSS受信機における処理手順を示すフロー図である。
図3】事前推定位置更新部およびシステムノイズ更新部における処理手順を示すフロー図であり、図2のフロー図におけるステップS9の処理の詳細を示すフロー図である。
図4】観測ノイズ更新部における処理手順を示すフロー図であり、図2のフロー図におけるステップS10の処理の詳細を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。図1は、この発明の実施の形態に係る測位装置8を含むGNSS受信機1の概略構成を示す機能ブロック図である。図2は、実施の形態に係るGNSS受信機1における処理手順を示すフロー図である。図2のフロー図に示す処理手順は、主に測位装置8が例えばプログラムに従って実行する処理内容であり、所定の時間間隔(例えば、1秒間隔)で繰り返し実行される。
【0017】
GNSS受信機1は、全球測位衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System の略)によって位置情報を取得するための仕組みである。GNSS受信機1は、GNSSアンテナ2と、GNSS受信部3と、データ通信用アンテナ4と、データ受信部5と、衛星情報取得部6と、基準局情報取得部7と、測位装置8と、を有する。GNSS受信機1は、他のGNSS受信機に対する自身の相対位置を計算して出力する。
【0018】
上記における他のGNSS受信機は、相対位置の計算(即ち、相対測位)において「基準局」と位置づけられる。基準局は、固定的に設置されて設置位置が予め定まっている(即ち、設置位置が既知である)。
【0019】
GNSSアンテナ2は、複数の衛星(例えば、GPS衛星)のそれぞれから送信される電波(測距信号;具体的には、所定の周波数の搬送波(即ち、キャリア)にPRN(擬似ランダムノイズ)コードおよび航法メッセージが重畳された信号)を受信してGNSS受信部3へと転送する。
【0020】
ここで、全球測位衛星システムを構成する衛星であってGNSS受信機1や基準局において受信される電波(測距信号)を送信する複数の衛星を「複数の衛星Sx」と表記する。そして、複数の衛星Sxの各々を相互に区別するときは(言い換えると、相互に異なる衛星であることを意味する場合には)添字xを変えて表記する。具体的には例えば、「衛星Sj」と「衛星Sk」とは相互に異なる衛星であることを表す。
【0021】
GNSS受信部3は、GNSSアンテナ2から転送される測距信号に対して所定の処理を施して衛星情報取得部6において利用可能な形式の信号を出力する。GNSS受信部3は、例えば、GNSSアンテナ2から転送される測距信号の周波数を中間周波数に変換するとともにアナログ-デジタル変換処理を行ってデジタル信号を生成し、前記デジタル信号に対して復調処理を施して復調した測距信号を出力する(ステップS1)。
【0022】
データ通信用アンテナ4は、基準局から送信されるデータを受信してデータ受信部5へと転送する。GNSS受信機1と基準局との間では、予め定められた所定のフォーマットに従って信号の送受信が行われる。
【0023】
基準局から送信されるデータには、複数の衛星Sxのそれぞれから送信されて基準局がGNSSアンテナを介して受信した電波(測距信号;具体的には、所定の周波数の搬送波(即ち、キャリア)にPRN(擬似ランダムノイズ)コードおよび航法メッセージが重畳された信号)が含まれる。基準局が受信した複数の衛星Sxごとの測距信号を含む、基準局から送信されてGNSS受信機1のデータ通信用アンテナ4によって受信されるデータのことを「基準局衛星情報」と呼ぶ。基準局衛星情報が、所定の周期ごとに基準局から送信されてGNSS受信機1へと供給される(ステップS2)。
【0024】
データ受信部5は、データ通信用アンテナ4から転送されるデータ(即ち、基準局衛星情報)に対して所定の処理を施して基準局情報取得部7において利用可能な形式の信号を出力する。
【0025】
衛星情報取得部6、基準局情報取得部7、および測位装置8は、例えばCPU(Central Processing Unit の略)、メモリ、および入力・出力ポートなどを含む演算ユニット内に構成され、メモリに記憶された制御プログラムや各種データをCPUが参照することによって必要な処理を実行する。
【0026】
衛星情報取得部6は、所定の周期ごとに、GNSS受信部3から出力される測距信号を用いて、必要に応じて前記測距信号に対して従来周知の演算処理を施して、複数の衛星Sxごとに、前記測距信号および前記測距信号を送信した衛星に関する情報(「観測局観測データ」と呼ぶ)を取得する(ステップS3)。
【0027】
衛星情報取得部6は、複数の衛星Sxの各々について、観測局観測データとして、例えば、GNSSアンテナ2を介して受信した測距信号の位相(別言すると、搬送波位相)、前記測距信号を送信した衛星とGNSS受信機1(特に、GNSSアンテナ2)との間の擬似距離(「コード擬似距離」と呼ぶ)、および、前記測距信号を送信した衛星の3次元位置(x,y,z)を取得する。
【0028】
基準局情報取得部7は、所定の周期ごとに、データ受信部5から出力される基準局衛星情報に含まれる、基準局が受信した測距信号に係る情報を用いて、必要に応じて前記測距信号に対して従来周知の演算処理を施して、複数の衛星Sxごとに、基準局が受信した測距信号および前記測距信号を送信した衛星に関する情報(「基準局観測データ」と呼ぶ)を取得する(ステップS4)。
【0029】
基準局情報取得部7は、基準局が電波(測距信号)を受信した複数の衛星Sxの各々について、基準局観測データとして、例えば、基準局が受信した測距信号の位相(別言すると、搬送波位相)、前記測距信号を送信した衛星と基準局(特に、GNSSアンテナ)との間の擬似距離(「コード擬似距離」と呼ぶ)、および、前記測距信号を送信した衛星の3次元位置(x,y,z)を取得する。
【0030】
上記の観測局観測データと基準局観測データとは、必要に応じて、必要な項目については、GPS時刻などが利用されて同期がとられる。
【0031】
なお、上記の基準局観測データのうちの一部もしくは全部は、基準局において計算されたうえで、基準局衛星情報に含められて基準局からGNSS受信機1へと送信されるようにしてもよい。
【0032】
測位装置8は、複数の衛星Sxから送信される測距信号に基づいて、当該測位装置8を含むGNSS受信機1(別言すると、観測局)と基準局との相対位置(即ち、基準局に対する観測局の相対位置)を計算するための仕組みであり、第1の測位部81と第2の測位部82とを有する。
【0033】
この実施の形態に係る測位装置8は、複数の衛星Sxから送信される測距信号を基準局およびGNSS受信機1が受信して基準局に対するGNSS受信機1の相対位置を計算するための機序であり、GNSS受信機1が受信した測距信号を用いて最小二乗法を適用した単独測位およびカルマンフィルタを適用した単独測位を実施する第1の測位部81と、GNSS受信機1が受信した測距信号(具体的には、観測局観測データ)および基準局が受信した測距信号(具体的には、基準局観測データ)を用いて相対測位を実施する第2の測位部82と、を有し、第1の測位部81から出力される、カルマンフィルタを適用した単独測位によって算出されるGNSS受信機1の速度、最小二乗法を適用した単独測位によって算出されるGNSS受信機1の位置とカルマンフィルタを適用した単独測位によって算出されるGNSS受信機1の位置との差、およびカルマンフィルタを適用した単独測位によって算出されるGNSS受信機1の位置と衛星の位置との間の距離を利用して第2の測位部82が相対測位を実施する、ようにしている。
【0034】
第1の測位部81は、単独測位を実施して第2の測位部82における測位処理へと提供する情報を生成するための仕組みであり、最小二乗測位部811、KF単独測位部812、位置差算出部813、および擬似距離残差算出部814を備える。
【0035】
最小二乗測位部811は、GNSS受信機1が受信した電波(測距信号)を用いて最小二乗法を適用した測位処理(具体的には、単独測位)を実施する(ステップS5)。
【0036】
最小二乗法を適用した測位処理(具体的には、単独測位)は、周知の技術であるので詳細の説明はここでは省略するが、概略としては、複数の衛星Sxの各衛星の3次元位置を既知変数とするとともにGNSS受信機1の3次元位置および時計誤差を未知変数とした、複数の衛星SxについてのGNSS受信機1との間のコード擬似距離に基づく連立方程式を反復演算によって近似推定的に解いて、GNSS受信機1の3次元位置を算出する処理である。
【0037】
最小二乗測位部811は、最小二乗法を適用した測位処理(具体的には、単独測位)によって算出される、GNSS受信機1の3次元位置(「最小二乗測位位置」と呼ぶ)を出力する。
【0038】
KF単独測位部812は、GNSS受信機1が受信した電波(測距信号)を用いてカルマンフィルタ(Kalman Filter)を適用した測位処理(具体的には、単独測位)を実施する(ステップS6)。
【0039】
ここで、ステップS6の処理で用いられる測位方程式を以下の数式1のように表す(尚、添字iは、単独測位であることを表す)。
(数1) yi = Hi・xi+ε
【0040】
数式1における、yiは各衛星の3次元位置および各衛星とGNSS受信機1との間のコード擬似距離を要素に持つ観測ベクトルであり、Hiは計画行列であり、さらに、xiはGNSS受信機1の3次元の位置(未知)および速度(未知)を要素に持つ未知数ベクトルである。また、εは雑音項である。
【0041】
KF単独測位部812は、数式1の未知数ベクトルxi(具体的には、GNSS受信機1の3次元の位置ベクトルおよび3次元の速度ベクトルを要素に持つ)をカルマンフィルタ(以下の数式2参照)を適用して求める。
【0042】
【数2】
【0043】
数式2における各変数は以下の通りである(尚、「x^」はxの直上に^が付いていることを表す)。
n:時刻
x^(n|n-1):(n-1)時刻までの情報を用いて推定した、n時刻における
事前推定状態量
x^(n|n) :n時刻までの情報を用いて推定した、n時刻における
事後推定状態量
y(n):観測値
F(n):状態推移行列
M(n):観測行列
K(n):カルマンゲイン
P(n|n-1):事前誤差共分散行列
P(n|n) :事後誤差共分散行列
Rε(n):観測ノイズ共分散行列
Rδ(n):システムノイズ共分散行列
I:単位行列
T:転置を表す。
【0044】
数式1と数式2との関係について、数式2における、観測値y(n)は数式1における観測ベクトルyiに対応し、観測行列M(n)は数式1における計画行列Hiに対応する。
【0045】
数式2により、事後推定状態量x^(n|n)は、観測予測誤差にカルマンゲインK(n)を乗じたものを事前推定状態量x^(n|n-1)に加えることによって計算される。具体的には、KF単独測位部812による処理では、GNSS受信機1の3次元の位置および速度が計算される。
【0046】
KF単独測位部812は、カルマンフィルタを適用した測位処理(具体的には、単独測位)によって算出される、GNSS受信機1の3次元の位置(「KF単独測位位置」と呼ぶ)および速度(「KF単独測位速度」と呼ぶ)を出力する。
【0047】
位置差算出部813は、最小二乗測位部811から出力される最小二乗測位位置とKF単独測位部812から出力されるKF単独測位位置との差(言い換えると、前記2つの3次元位置の間の直線距離)を算出して出力する(ステップS7)。
【0048】
擬似距離残差算出部814は、KF単独測位部812から出力されるKF単独測位位置と観測局観測データに含まれている衛星の3次元位置とを用いてコード擬似距離を算出し、算出したコード擬似距離と、観測局観測データに含まれている衛星とGNSS受信機1との間のコード擬似距離(「コード観測量」と呼ぶ)との差を算出して出力する(ステップS8)。
【0049】
擬似距離残差算出部814は、複数の衛星Sxごとに、コード擬似距離を算出するとともに、前記コード擬似距離と観測局観測データに含まれているコード観測量との差(つまり、擬似距離残差=コード擬似距離-コード観測量)を算出して出力する。擬似距離残差算出部814は、また、各衛星から送信されるL1波(即ち、周波数が1575.42MHzの搬送波)に基づくコード擬似距離についてコード観測量との差を算出するとともに、L2波(即ち、周波数が1227.60MHzの搬送波)に基づくコード擬似距離についてコード観測量との差を算出する。
【0050】
なお、コード擬似距離は、衛星とGNSS受信機1との間の幾何学的距離+光速×(GNSS受信機1の時計誤差-衛星の時計誤差)+電離層遅延量+対流圏遅延量+雑音 によって算出される。また、コード観測量は、(衛星の発信時刻-GNSS受信機1で受信した時刻)×光速 によって算出される。
【0051】
第2の測位部82は、相対測位を実施してGNSS受信機1の3次元位置を計算するための仕組みであり、事前推定位置更新部821、システムノイズ更新部822、観測ノイズ更新部823、実数解計算部824、および整数解計算部825を備える。
【0052】
はじめに、第2の測位部82で用いられる測位方程式について説明する。
【0053】
まず、衛星Ssの電波を基準局で受信した際の測距信号の位相(別言すると、搬送波位相:キャリア観測量)φb_s[cycle]は以下の数式3のように表される。
(数3) λsφb_s = ρb_s+λsNb_s+c(dtb-dT_s)-Db_s+Tb_s
ここに、
λs :衛星Ssの搬送波の波長[m]
ρb_s :基準局と衛星Ssとの間の幾何学距離[m]
Nb_s :実数値バイアス[cycle]
dtb :基準局の時計誤差[秒]
dT_s :衛星の時計誤差[秒]
Db_s :基準局と衛星Ssとの間における電離層遅延量[m]
Tb_s :基準局と衛星Ssとの間における対流圏遅延量[m]
c :搬送波の速度[m/秒]
添字b:基準局を表す。
添字s:衛星Ssを表す。
【0054】
数式3に倣って表される測距信号の位相について、観測局観測データおよび基準局観測データを利用した相対測位を実施する際のGNSS受信機1(観測局)と基準局とにおける、衛星Su(基準衛星とする)と衛星Skとに関する測距信号の位相の二重差(二重位相差)φrb_ukを計算すると以下の数式4のようになる。
(数4) λφrb_uk = ρrb_uk+λNrb_uk
ここに、
λ :衛星Su,Skの搬送波(例えば、L1波やL2波)の波長
ρrb_uk:幾何学距離の二重差
Nrb_uk:実数値バイアスの二重差
添字r :GNSS受信機1(観測局)を表す。
添字b :基準局を表す。
添字u :衛星Su(基準衛星)を表す。
添字k :衛星Skを表す。
【0055】
数式4から分かるように、観測量の二重差を計算することにより、観測データに重畳しているGNSS受信機1(観測局)と基準局の時計誤差、衛星の時計誤差、電離層遅延量、および対流圏遅延量が相殺される。
【0056】
また、相対測位を実施する際のGNSS受信機1(観測局)と基準局とにおける、衛星Su(基準衛星とする)と衛星Skとに関する測距信号の位相(別言すると、搬送波位相)の二重差φrb_ukは以下の数式5のように求められる。
(数5) φrb_uk = [φr_u-φb_u]-{φr_k-φb_k}
ここに、
φr_u :GNSS受信機1で受信した衛星Su(基準衛星)の測距信号の位相
φb_u :基準局で受信した衛星Su(基準衛星)の測距信号の位相
φr_k :GNSS受信機1で受信した衛星Skの測距信号の位相
φb_k :基準局で受信した衛星Skの測距信号の位相
添字r:GNSS受信機1(観測局)を表す。
添字b:基準局を表す。
添字u:衛星Su(基準衛星)を表す。
添字k:衛星Skを表す。
【0057】
なお、数式4における幾何学距離の二重差ρrb_ukは ρrb_uk = [ρr_u-ρb_u]-[ρr_k-ρb_k] のように表され、基準局から衛星Su(基準衛星)までの幾何学距離ρb_uおよび基準局から衛星Skまでの幾何学距離ρb_kは、衛星軌道情報(別言すると、エフェメリス)を基に算出される衛星Su,Skそれぞれの3次元位置と、既知の基準局の3次元位置とから求められる。また、GNSS受信機1から衛星Su(基準衛星)までの幾何学距離ρr_uおよびGNSS受信機1から衛星Skまでの幾何学距離ρr_kは、衛星軌道情報を基に算出される衛星Su,Skそれぞれの3次元位置と、GNSS受信機1の概略3次元位置とから求める。GNSS受信機1の概略3次元位置を基点にした、GNSS受信機1の正確な3次元位置までの位置の差分量は未知であるため、測位方程式で未知数として求めることになり、未知数が求まることでGNSS受信機1の正確な3次元位置が求められる。
【0058】
また、数式4における実数値バイアスの二重差Nrb_ukは、GNSS受信機1と衛星Suとの間における実数値バイアスNr_u,基準局と衛星Suとの間における実数値バイアスNb_u,GNSS受信機1と衛星Skとの間における実数値バイアスNr_k,および基準局と衛星Skとの間における実数値バイアスNb_kを用いて、Nrb_uk = [Nr_u-Nb_u]-[Nr_k-Nb_k] のように表される。
【0059】
そして、数式5に従って求められる位相の二重差φrb_ukを観測量とする測位方程式(即ち、第2の測位部82で用いられる測位方程式)を以下の数式6のように表す(尚、添字rは、相対測位であることを表す)。
(数6) yr = Hr・xr+ε
【0060】
数式6における、yrは数式5に従って求められる位相の二重差φrb_ukを要素に持つ観測ベクトルであり、Hrは計画行列であり、さらに、xrはGNSS受信機1の3次元位置(未知)および数式4における実数値バイアスの二重差Nrb_uk(未知)を要素に持つ未知数ベクトルである。また、εは雑音項である。
【0061】
第2の測位部82は、数式6の未知数ベクトルxr(具体的には、GNSS受信機1の3次元位置および実数値バイアスの二重差Nrb_ukを要素に持つ)をカルマンフィルタ(上記の数式2参照)を適用して求める。
【0062】
数式6と数式2との関係について、数式2における、観測値y(n)は数式6における観測ベクトルyrに対応し、観測行列M(n)は数式6における計画行列Hrに対応する。
【0063】
第2の測位部82による処理では、実数値バイアス(言い換えると、整数値バイアスの実数解)が計算されるとともに、前記実数値バイアスが整数化されて整数値バイアスの整数解が求められる。
【0064】
事前推定位置更新部821はカルマンフィルタ(数式2参照)の事前推定状態量x^(n|n-1)を更新し、そして、システムノイズ更新部822はカルマンフィルタのシステムノイズ共分散行列Rδ(n)を更新する(ステップS9)。図3は、事前推定位置更新部821およびシステムノイズ更新部822における処理手順を示すフロー図であり、図2のフロー図におけるステップS9の処理の詳細を示すフロー図である。
【0065】
事前推定位置更新部821は、KF単独測位部812から出力されるKF単独測位速度(具体的には、3次元の速度ベクトル)に第2の測位部82による前回の相対測位の処理から今回の相対測位の処理までの経過時間を乗じることにより、GNSS受信機1の3次元の移動距離(「推定移動距離」と呼ぶ)を算出する。
【0066】
事前推定位置更新部821は、次に、カルマンフィルタ(数式2参照)の事前推定状態量x^(n|n-1)に要素として含まれているGNSS受信機1の3次元位置(つまり、事前推定位置)を、第2の測位部82による前回の相対測位の処理によって求められたGNSS受信機1の3次元位置に対して推定移動距離を加算することにより、更新する(ステップS9-1)。なお、第2の測位部82による前回の相対測位の処理が行われていない初期においては、GNSS受信機1の3次元位置の初期値として、例えば、KF単独測位部812から出力されるKF単独測位位置が用いられるようにしてもよい。
【0067】
第2の測位部82における測位処理(具体的には、相対測位)において、第1の測位部81による測位処理(具体的には、単独測位)によって得られるKF単独測位速度を利用して更新したGNSS受信機1の3次元位置を用いることにより、演算量の削減を図ることができる。また、第2の測位部82における測位処理では速度の推定を行わないようにすることにより、高精度であるものの負荷が大きい相対測位の処理の演算量の軽減を図ることができる。
【0068】
システムノイズ更新部822は、位置差算出部813から出力される、最小二乗測位位置とKF単独測位位置との差の絶対値(「測位位置差ΔPlk」と呼ぶ)が位置差閾値Tpd以上であるか否かを判断する(ステップS9-2)。
【0069】
位置差閾値Tpdは、GNSS受信機1の測位に纏わる、現時刻における測位環境が良好であるか不良であるかを判断するための閾値である。位置差閾値Tpdは、特定の値に限定されるものではなく、前記の判断が適切に行われ得ることや単独測位において通常想定される誤差の大きさが考慮されるなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。位置差閾値Tpdは、例えば、3~10m程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられ、特に5m程度の値に設定されることが考えられる。
【0070】
そして、測位位置差ΔPlkが位置差閾値Tpd以上である場合には(ステップS9-2:Yes)、システムノイズ更新部822は、測位位置差ΔPlkをカルマンフィルタ(数式2参照)のシステムノイズ共分散行列Rδ(n)に加算することにより、システムノイズ共分散行列Rδ(n)を更新する(ステップS9-3)。
【0071】
ここで、最小二乗測位位置とKF単独測位位置との差の絶対値(即ち、測位位置差ΔPlk)が大きいということは、測位環境が不良であり、したがってKF単独測位速度の誤差も大きくなると考えられるため、速度誤差として、カルマンフィルタ(数式2参照)のシステムノイズ共分散行列Rδ(n)を測位位置差ΔPlkの大きさに応じた分だけ増幅する。これにより、測位環境の変化や速度量の信頼度が測位処理へと適切に反映される。特に、瞬時推定である最小二乗法による測位と逐次推定であるカルマンフィルタによる測位との間における差異に着目することにより、推定精度が低下し易い場合が的確に判断されてその判断結果が測位処理へと適切に反映され得る。
【0072】
測位位置差ΔPlkが位置差閾値Tpd以上である場合には、システムノイズ更新部822は、具体的には、以下の数式7に示すように、測位位置差ΔPlkをカルマンフィルタ(数式2参照)のシステムノイズ共分散行列Rδ(n)に加算することにより、システムノイズ共分散行列Rδ(n)を更新する。
【数7】
【0073】
数式7における各変数(尚、スカラー値)は以下のとおりである。
Rδx(n):ECEF座標系のx座標位置に対するシステムノイズ共分散値
(尚、ECEF:Earth Centered,Earth Fixed の略)
Rδy(n):ECEF座標系のy座標位置に対するシステムノイズ共分散値
Rδz(n):ECEF座標系のz座標位置に対するシステムノイズ共分散値
RδSk(n):衛星Skに対するシステムノイズ共分散値(但し、k=1,2,3,…)
ΔPlk(n):第1の測位部の処理による、最小二乗測位位置とKF単独測位位置との差の絶対値(即ち、測位位置差)
β:係数(具体的には例えば、0.001,0.0001など)
n:時刻
【0074】
そして、システムノイズ更新部822は、相対測位の処理手順をステップS10の処理へとすすめる。
【0075】
一方、測位位置差ΔPlkが位置差閾値Tpd未満である場合には(ステップS9-2:No)、システムノイズ更新部822は、相対測位の処理手順をステップS10の処理へとすすめる。
【0076】
観測ノイズ更新部823は、カルマンフィルタ(数式2参照)の観測ノイズ共分散行列Rε(n)を更新する(ステップS10)。図4は、観測ノイズ更新部823における処理手順を示すフロー図であり、図2のフロー図におけるステップS10の処理の詳細を示すフロー図である。
【0077】
観測ノイズ更新部823は、擬似距離残差算出部814から出力される、コード擬似距離と観測局観測データのコード観測量との差の絶対値の平均値(「擬似距離残差平均値ΔDavg」と呼ぶ)が距離差閾値Tdd以上であるか否かを判断する(ステップS10-1)。
【0078】
観測ノイズ更新部823は、具体的には、複数の衛星Sxごとの、L1波に基づくコード擬似距離についてのコード観測量との差の絶対値と、L2波に基づくコード擬似距離についてのコード観測量との差の絶対値と、の平均値(つまり、すべての衛星のすべての搬送波に関する平均値)を擬似距離残差平均値ΔDavgとして、距離差閾値Tdd以上であるか否か判断する。
【0079】
距離差閾値Tddは、GNSS受信機1の測位に纏わる、現時刻における測位環境が良好であるか不良であるかを判断するための閾値である。距離差閾値Tddは、特定の値に限定されるものではなく、前記の判断が適切に行われ得ることや単独測位において通常想定される誤差の大きさが考慮されるなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。距離差閾値Tddは、例えば、1~5m程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられ、特に2m程度の値に設定されることが考えられる。
【0080】
そして、擬似距離残差平均値ΔDavgが距離差閾値Tdd以上である場合には(ステップS10-1:Yes)、観測ノイズ更新部823は、続いて、位置差算出部813から出力される、最小二乗測位位置とKF単独測位位置との差の絶対値(即ち、測位位置差ΔPlk)が位置差閾値Tpd以上であるか否かを判断する(ステップS10-2)。
【0081】
なお、このステップS10-2の処理では、上述のステップS9-2の処理における位置差閾値Tpdと異なる値が位置差閾値として用いられるようにしてもよい。
【0082】
そして、測位位置差ΔPlkが位置差閾値Tpd以上である場合には(ステップS10-2:Yes)、観測ノイズ更新部823は、観測ノイズ増幅係数を、擬似距離残差平均値ΔDavgと測位位置差ΔPlkとに基づく値に設定する(ステップS10-3)。
【0083】
ここで、コード擬似距離とコード観測量との差の絶対値の平均値(即ち、擬似距離残差平均値ΔDavg)が大きいということは、測位環境が不良であると考えられるため、カルマンフィルタ(数式2参照)の観測ノイズ共分散行列Rε(n)を増幅する。これにより、測位環境の変化が測位処理へと適切に反映される。
【0084】
また、最小二乗測位位置とKF単独測位位置との差の絶対値(即ち、測位位置差ΔPlk)が大きいということは、測位環境が不良であると考えられるため、カルマンフィルタ(数式2参照)の観測ノイズ共分散行列Rε(n)を増幅する。これにより、測位環境の変化が測位処理へと適切に反映される。特に、瞬時推定である最小二乗法による測位と逐次推定であるカルマンフィルタによる測位との間における差異に着目することにより、推定精度が低下し易い場合が的確に判断されてその判断結果が測位処理へと適切に反映され得る。
【0085】
擬似距離残差平均値ΔDavgが距離差閾値Tdd以上であり且つ測位位置差ΔPlkが位置差閾値Tpd以上である場合には、観測ノイズ更新部823は、具体的には、観測ノイズ増幅係数の値を、擬似距離残差平均値ΔDavgと測位位置差ΔPlkとの和とする(つまり、観測ノイズ増幅係数α=擬似距離残差平均値ΔDavg+測位位置差ΔPlk;但し、観測ノイズ増幅係数は1.0以上)。
【0086】
そして、観測ノイズ更新部823は、相対測位の処理手順をステップS10-5の処理へとすすめる。
【0087】
一方、擬似距離残差平均値ΔDavgが距離差閾値Tdd未満である場合(ステップS10-1:No)、また、測位位置差ΔPlkが位置差閾値Tpd未満である場合には(ステップS10-2:No)、観測ノイズ更新部823は、観測ノイズ増幅係数を1.0に設定する(ステップS10-4)。そして、観測ノイズ更新部823は、相対測位の処理手順をステップS10-5の処理へとすすめる。
【0088】
観測ノイズ更新部823は、次に、観測ノイズ増幅係数をカルマンフィルタ(数式2参照)の観測ノイズ共分散行列Rε(n)に乗じることにより、観測ノイズ共分散行列Rε(n)を更新する(ステップS10-5)。
【0089】
観測ノイズ更新部823は、ステップS10-5の処理を、第2の測位部82における相対測位の処理に用いるすべての衛星のそれぞれに対して、また、各衛星から送信されるL1波とL2波とのそれぞれに対して行う。つまり、観測ノイズ更新部823は、カルマンフィルタ(数式2参照)の観測ノイズ共分散行列Rε(n)に含まれている、衛星それぞれのL1波に関する観測ノイズ要素およびL2波に関する観測ノイズ要素に対して観測ノイズ増幅係数を乗じる。
【0090】
観測ノイズ更新部823は、具体的には、以下の数式8に示すように、観測ノイズ増幅係数をカルマンフィルタ(数式2参照)の観測ノイズ分散値に乗算することにより、観測ノイズ共分散行列Rε(n)を更新する。
【数8】
【0091】
数式8における各変数(尚、スカラー値)は以下のとおりである。
u1(n):衛星Su(基準衛星)のL1波の測距信号の観測ノイズ分散値
u2(n):衛星Su(基準衛星)のL2波の測距信号の観測ノイズ分散値
j1(n):衛星Sj(基準衛星以外)のL1波の測距信号の観測ノイズ分散値
j2(n):衛星Sj(基準衛星以外)のL2波の測距信号の観測ノイズ分散値
α(n):(ΔDavg+ΔPlk)で表される観測ノイズ増幅係数
n:時刻
但し、j=1,2,3,・・・,m
【0092】
ここで、上記の数式8では基準衛星以外の衛星Sjの観測ノイズ分散値Rj1(n),Rj2(n)に対して観測ノイズ増幅係数α(n)を乗じるようにしているが、観測ノイズ増幅係数α(n)を乗じる処理は、基準衛星以外の衛星への処理に限定されるものではなく、例えば、基準衛星SuのL1波の測距信号の観測ノイズ分散値Ru1(n)や基準衛星SuのL2波の測距信号の観測ノイズ分散値Ru2(n)に対して乗じるようにしてもよい。
【0093】
また、上記の数式8では観測ノイズ共分散行列Rε(n)の対角要素のみに対して観測ノイズ増幅係数α(n)を乗じるようにしているが、観測ノイズ増幅係数α(n)を乗じる対象は、対角要素に限定されるものではなく、対角要素以外の要素に対しても観測ノイズ増幅係数α(n)を乗じるようにしてもよい。
【0094】
さらに、上記の数式8では観測ノイズ共分散行列Rε(n)に対して観測ノイズ増幅係数α(n)として擬似距離残差平均値ΔDavgと測位位置差ΔPlkとの和をそのまま乗じるようにしているが、観測ノイズ共分散行列Rε(n)に対して乗じる値(即ち、観測ノイズ増幅係数α(n))は、擬似距離残差平均値ΔDavgと測位位置差ΔPlkとの和そのものに限定されるものではなく、例えば、擬似距離残差平均値ΔDavgや測位位置差ΔPlkの大きさに応じて変化する値(言い換えると、擬似距離残差平均値ΔDavgおよび測位位置差ΔPlkに基づく値)であってもよく、具体的には例えば、擬似距離残差平均値ΔDavgおよび測位位置差ΔPlkを変数とする関数によって計算される値や、擬似距離残差平均値ΔDavgと測位位置差ΔPlkとの和の範囲ごとに予め定められる値であってもよい。
【0095】
そして、観測ノイズ更新部823は、相対測位の処理手順をステップS11の処理へとすすめる。
【0096】
実数解計算部824は、カルマンフィルタ(数式2参照)を適用した相対測位の実施として、ステップS9,S10の処理においてシステムノイズ共分散行列Rδ(n)および観測ノイズ共分散行列Rε(n)が更新されたカルマンフィルタを適用して測位方程式(数式6参照)を解くことにより、実数値バイアス(言い換えると、整数値バイアスの実数解)を計算する(ステップS11)。
【0097】
整数解計算部825は、引き続きカルマンフィルタ(数式2参照)を適用した相対測位の実施として、ステップS11の処理によって計算される実数値バイアスを整数化する(言い換えると、整数値バイアスの実数解に基づいて整数値バイアスの整数解を求める)(ステップS12)。
【0098】
整数解計算部825は、例えば、ステップS11の処理によって計算される実数値バイアス(実数解)に対して誤差が最も小さい整数値バイアス(整数解;即ち、波数)を第1候補として求め、誤差が次に小さい整数値バイアス(整数解;即ち、波数)を第2候補として求める。誤差が小さい整数解を特定する手法は、特定の手法には限定されないものの、例えば整数最小二乗法が用いられ、特に、整数値バイアスの無相関化をはかって整数解の探索空間を狭めて解を特定するLAMBDA法が用いられ得る。
【0099】
整数解計算部825は、続いて、上記で特定された整数解をfixするか否かを判定する。具体的には、上記で特定された整数解の信頼性を判断し、信頼性の高い整数解が得られた場合には、当該の整数解をfixする。そして、fixされた整数解が用いられて相対測位が実施される。整数値バイアス(言い換えると、整数値バイアスの整数解、即ち波数)が用いられて計算されるGNSS受信機1の3次元位置を「fix解」と呼ぶ。
【0100】
整数解の信頼性を判定する手法は、特定の手法には限定されないものの、例えばレシオテストが用いられ得る。レシオテストで使用される指標であるレシオは、実数値バイアス(言い換えると、整数値バイアスの実数解)と整数値バイアス(言い換えると、整数値バイアスの整数解)の第1候補との間の距離(「ノルム」と呼ばれる)に対する、実数値バイアスと整数値バイアスの第2候補との間の距離の比である。レシオは、一般的に、高い値であるほど整数値バイアスの第1候補の信頼度が高いことを表す。そこで、閾値を適当に設定して、レシオが閾値よりも大きい場合に、整数値バイアスの信頼性が高いと判定して、整数値バイアスの第1候補を採用するようにすることが考えられる。
【0101】
上記のような測位装置8によれば、単独測位を実施する第1の測位部81から出力される情報を利用して第2の測位部82が相対測位を実施するようにしているので、測位環境の変化や速度量の信頼度を測位処理へと適切に反映することができ、高精度な測位位置を推定することが可能となる。
【0102】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0103】
例えば、上記の実施の形態では下記のア)ないしエ)の処理を行うようにしているが、下記のア)ないしエ)の処理をすべて行うことはこの発明において必須の構成ではなく、下記のア)ないしエ)の処理のうちの少なくとも1つが行われるようにしてもよい。
ア)カルマンフィルタを適用した単独測位によってGNSS受信機1の速度であるKF単独測位速度を算出し(ステップS6)、KF単独測位速度を利用して算出されるGNSS受信機1の移動距離である推定移動距離を加算することにより、カルマンフィルタの事前推定状態量のGNSS受信機1の3次元位置を更新する(ステップS9-1)。
イ)最小二乗測位位置とKF単独測位位置との差を算出し(ステップS7)、前記差の絶対値である測位位置差ΔPlkが位置差閾値Tpd以上である場合に(ステップS9-2:Yes)、カルマンフィルタのシステムノイズ共分散行列Rδ(n)に測位位置差ΔPlkを加算することにより、カルマンフィルタのシステムノイズ共分散行列Rδ(n)を更新する(ステップS9-3)。
ウ)最小二乗測位位置とKF単独測位位置との差を算出し(ステップS7)、前記差の絶対値である測位位置差ΔPlkが位置差閾値Tpd以上である場合に(ステップS10-2:Yes)、カルマンフィルタの観測ノイズ共分散行列Rε(n)を増幅する(ステップS10-3)。
エ)KF単独測位位置と衛星の3次元位置とから算出されるコード擬似距離とコード観測量との差を算出し(ステップS8)、前記差の絶対値の平均値である擬似距離残差平均値ΔDavgが距離差閾値Tdd以上である場合に(ステップS10-1:Yes)、カルマンフィルタの観測ノイズ共分散行列Rε(n)を増幅する(ステップS10-3)。
【0104】
また、この発明の要点は、上記のア)ないしエ)の処理のうちの少なくとも1つが行われることであり、GNSS受信機1や測位装置8の具体的な構成は図1に示す例に限定されるものではなく、また、前記要点以外の処理内容は上記の実施の形態における処理内容には限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0105】
この発明は、例えば、車載用ナビゲーションシステムの分野や、車両の制御や自動運転システムの分野に適用され得る。
【符号の説明】
【0106】
1 GNSS受信機
2 GNSSアンテナ
3 GNSS受信部
4 データ通信用アンテナ
5 データ受信部
6 衛星情報取得部
7 基準局情報取得部
8 測位装置
81 第1の測位部
811 最小二乗測位部
812 KF単独測位部
813 位置差算出部
814 擬似距離残差算出部
82 第2の測位部
821 事前推定位置更新部
822 システムノイズ更新部
823 観測ノイズ更新部
824 実数解計算部
825 整数解計算部
図1
図2
図3
図4