IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イーグル工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-摺動部品 図1
  • 特許-摺動部品 図2
  • 特許-摺動部品 図3
  • 特許-摺動部品 図4
  • 特許-摺動部品 図5
  • 特許-摺動部品 図6
  • 特許-摺動部品 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】摺動部品
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3244 20160101AFI20240603BHJP
   F16J 15/34 20060101ALI20240603BHJP
   F16J 15/16 20060101ALI20240603BHJP
   F16J 15/3252 20160101ALI20240603BHJP
   F04C 18/02 20060101ALN20240603BHJP
【FI】
F16J15/3244
F16J15/34 G
F16J15/16 B
F16J15/3252
F04C18/02 311L
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022535279
(86)(22)【出願日】2021-07-01
(86)【国際出願番号】 JP2021024944
(87)【国際公開番号】W WO2022009770
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2024-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2020116359
(32)【優先日】2020-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓志
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-360903(JP,A)
【文献】特開平11-303858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3244
F16J 15/34
F16J 15/16
F16J 15/3252
F04C 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏心回転を伴って相対摺動する摺動面を有する摺動部品であって、
前記摺動面には、周方向に延び、径方向に振幅を有する波形の側壁により区画された動圧発生溝が形成されており、
前記動圧発生溝は、前記側壁の内径側頂点と該内径側頂点と隣接する外径側頂点との間で延びる交差面を有し、
前記交差面の径方向幅寸法は、該交差面の周方向幅寸法よりも長寸に形成されている摺動部品。
【請求項2】
前記動圧発生溝の径方向両側の側壁が振幅を有する波形状である請求項1に記載の摺動部品。
【請求項3】
前記動圧発生溝は、環状に形成されている請求項1または2に記載の摺動部品。
【請求項4】
前記側壁は、一定周期の波形状である請求項1ないし3のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項5】
前記側壁は、曲面状をなす波形状である請求項1ないし4のいずれかに記載の摺動部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心機構を含む回転機械に用いられる摺動部品に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な産業分野で利用されている回転駆動を伴う機械は、中心軸が定位置に保持されたまま回動する回転機械だけではなく、中心軸が偏心を伴って回転する回転機械がある。偏心を伴って回転する回転機械の一つにスクロール圧縮機等があり、この種の圧縮機は、端板の表面に渦巻状のラップを備える固定スクロール、端板の表面に渦巻状のラップを備える可動スクロールからなるスクロール圧縮機構、回転軸を偏心回転させる偏心機構等を備え、可動スクロールを回転軸の回転により固定スクロールに対して偏心回転を伴わせながら相対摺動させることにより、両スクロールの外径側の低圧室から供給された流体を加圧し、固定スクロールの中央に形成される吐出孔から高圧の流体を吐出させる機構となっている。
【0003】
可動スクロールを固定スクロールに対して偏心回転を伴わせながら相対的に摺動させるメカニズムを利用したこれらスクロール圧縮機は、圧縮効率が高いだけではなく、低騒音であることから、例えば冷凍サイクル等多岐に利用されているが、両スクロール間の軸方向隙間からの冷媒漏れが発生するといった問題があった。特許文献1に示されるスクロール圧縮機は、可動スクロールの背面側において可動スクロールと相対摺動するスラストプレートを備え、このスラストプレートの背面側に形成される背圧室にスクロール圧縮機構により圧縮された冷媒の一部を供給し、可動スクロールを固定スクロールに向けて押圧することにより、冷媒の圧縮時において両スクロール間の軸方向隙間からの冷媒漏れを低減できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-61208号公報(第5頁~第6頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示されるスクロール圧縮機においては、スクロール圧縮機構により圧縮される冷媒の一部を利用しスラストプレートを介して可動スクロールを背面側から固定スクロールに向けて押圧させていることから、両スクロール間の軸方向隙間からの冷媒漏れを低減できるものの、両スクロール間、特に可動スクロールとスラストプレートとの偏心回転を伴う摺動面において、軸方向両側から押圧力が作用するため摩擦抵抗が大きくなり、可動スクロールの円滑な動作が阻害され圧縮効率を高められないといった問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、偏心回転を伴う摺動面間の摩擦抵抗を安定して低減することができる摺動部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の摺動部品は、
偏心回転を伴って相対摺動する摺動面を有する摺動部品であって、
前記摺動面には、周方向に延び、径方向に振幅を有する波形の側壁により区画された動圧発生溝が形成されている。
これによれば、動圧発生溝の側壁は径方向に振幅を有する波形で周方向に延びているので、偏心回転角度によらず動圧を発生させる交差面を複数確保することができる。これにより、摺動面は傾きを小さくした状態で他の摺動面から離間し、摺動面間の摩擦抵抗を安定して低減することができる。
【0008】
前記動圧発生溝の径方向両側の側壁が振幅を有する波形状であってもよい。
これによれば、摺動面が偏心回転を伴って相対摺動したときに、内径側側壁と外径側側壁との両方で周方向に複数の箇所で動圧を発生させることができるため、摺動面は傾きを小さくした状態で離間する。
【0009】
前記動圧発生溝は、環状に形成されていてもよい。
これによれば、摺動面の全周に亘って動圧を発生させることができる。
【0010】
前記側壁は、一定周期の波形状であってもよい。
これによれば、摺動面の周方向に亘って均等に動圧を発生させることができる。
【0011】
前記側壁は、曲面状をなす波形状であってもよい。
これによれば、動圧発生溝を移動する流体の移動が円滑となり、安定して動圧を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る実施例1の摺動部品としてのサイドシールが適用されるスクロール圧縮機を示す概略構成図である。
図2】本発明の実施例1のサイドシールの摺動面を示す図である。
図3】A-A断面図である。
図4】本発明の実施例1のサイドシールの摺動面とスラストプレートの摺動面との相対摺動を示す図である。尚、(a)を開始位置として、(b)は90度、(c)は180度、(d)は270度まで回転軸が偏心回転したときに相対摺動するサイドシールの摺動面とスラストプレートの摺動面との位置関係を示している。
図5図4(a)から図4(b)の状態に向かって偏心回転するサイドシールの摺動面において、動圧発生溝内に発生する動圧の発生箇所を示す図である。
図6】本発明に係る実施例2の摺動部品としてのサイドシールの摺動面を示す図である。
図7】本発明に係る実施例3の摺動部品としてのサイドシールの摺動面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る摺動部品を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0014】
実施例1に係る摺動部品につき、図1から図5を参照して説明する。尚、説明の便宜上、図面において、摺動部品の摺動面に形成される溝等にドットを付している。
【0015】
本発明の摺動部品は、偏心機構を含む回転機械、例えば自動車等の空調システムに用いられる流体としての冷媒を吸入、圧縮、吐出するスクロール圧縮機Cに適用される。尚、本実施例において、冷媒は気体であり、ミスト状の潤滑油が混合した状態となっている。
【0016】
先ず、スクロール圧縮機Cについて説明する。図1に示されるように、スクロール圧縮機Cは、ハウジング1と、回転軸2と、インナーケーシング3と、スクロール圧縮機構4と、摺動部品としてのサイドシール7と、スラストプレート8と、駆動モータMと、から主に構成されている。
【0017】
ハウジング1は、円筒状のケーシング11と、ケーシング11の開口を閉塞するカバー12と、から構成されている。ケーシング11におけるカバー12により閉塞される開口とは軸方向反対側の開口は駆動モータMにより閉塞されている。
【0018】
ケーシング11の内部には低圧室20と、高圧室30と、背圧室50と、が形成されている。低圧側の外部空間としての低圧室20は、図示しない冷媒回路から吸入口10を通して低圧の冷媒が供給されている。高圧室30は、スクロール圧縮機構4により圧縮された高圧の冷媒が吐出されている。高圧側の外部空間としての背圧室50は、スクロール圧縮機構4により圧縮された冷媒の一部が潤滑油と共に供給されている。尚、背圧室50は、ケーシング11の内部に収容される円筒状のインナーケーシング3の内部に形成されている。
【0019】
カバー12には、吐出連通路13が形成されている。吐出連通路13は、図示しない冷媒回路と高圧室30とを連通している。また、カバー12には、高圧室30と背圧室50とを連通する背圧連通路14の一部が吐出連通路13から分岐して形成されている。尚、吐出連通路13には、冷媒から潤滑油を分離するオイルセパレータ6が設けられている。
【0020】
インナーケーシング3は、その軸方向端部をスクロール圧縮機構4を構成する固定スクロール41の端板41aに当接させた状態で固定されている。また、インナーケーシング3の側壁には、径方向に貫通する吸入連通路15が形成されている。すなわち、低圧室20は、インナーケーシング3の外部から吸入連通路15を介してインナーケーシング3の内部まで形成されている。吸入連通路15を通ってインナーケーシング3の内部まで供給された冷媒は、スクロール圧縮機構4に吸入される。
【0021】
スクロール圧縮機構4は、固定スクロール41と、可動スクロール42と、から主に構成されている。固定スクロール41は、カバー12に対して密封状に固定されている。可動スクロール42は、インナーケーシング3の内部に収容されている。
【0022】
固定スクロール41は、金属製であり、渦巻状のラップ41bを備えている。渦巻状のラップ41bは、円板状の端板41aの表面、すなわち端板41aから可動スクロール42に向けて突設されている。また、固定スクロール41には、端板41aの背面、すなわち端板41aのカバー12に当接する端面の内径側が該カバー12とは反対方向に凹む凹部41cが形成されている。この凹部41cとカバー12とから高圧室30が画成されている。
【0023】
可動スクロール42は、金属製であり、渦巻状のラップ42bを備えている。渦巻状のラップ42bは、円板状の端板42aの表面、すなわち端板42aから固定スクロール41に向けて突設されている。また、可動スクロール42には、端板42aの背面の中央から突出するボス42cが形成されている。ボス42cには、回転軸2に形成される偏心部2aが相対回転可能に挿嵌される。尚、本実施例においては、回転軸2の偏心部2aと、回転軸2から外径方向に突出するカウンタウエイト部2bとにより、回転軸2を偏心回転させる偏心機構が構成されている。
【0024】
回転軸2が駆動モータMにより回転駆動されると、偏心部2aが偏心回転し、可動スクロール42が固定スクロール41に対して姿勢を保った状態で偏心回転を伴って相対摺動する。このとき、固定スクロール41に対して可動スクロール42は偏心回転し、この回転に伴いラップ41b、42bの接触位置は回転方向に順次移動し、ラップ41b、42b間に形成される圧縮室40が中央に向かって移動しながら次第に縮小していく。これにより、スクロール圧縮機構4の外径側に形成される低圧室20から圧縮室40に吸入された冷媒が圧縮されていき、最終的に固定スクロール41の中央に設けられる吐出孔41dを通して高圧室30に高圧の冷媒が吐出される。
【0025】
次いで、本実施例における摺動部品としてのサイドシール7について説明する。図2および図3に示されるように、サイドシール7は、樹脂製であり、断面矩形状かつ軸方向視円環状を成している。また、サイドシール7は、可動スクロール42の端板42aの背面に固定されている(図1参照)。尚、図2では、サイドシール7の摺動面7aが図示されている。
【0026】
サイドシール7には、スラストプレート8に形成される摺動面8a(図1参照)に当接する摺動面7aが形成されている。
【0027】
図2に示されるように、サイドシール7の摺動面7aは、摺動面7aに沿って無端環状に形成された動圧発生溝70を備えている。
【0028】
図2及び図3に示されるように、動圧発生溝70は、内側壁70aと、外側壁70bと、底面70cと、により区画されている。内側壁70aは、内径側のランド72の平坦な表面72aに直交して深さ方向に延びる内径側の側壁として形成されている。外側壁70bは、外径側のランド73の平坦な表面73aに直交して深さ方向に延びる外径側の側壁として形成されている。底面70は、同一面上に形成された表面72a,73aと平行に延び、内側壁70a及び外側壁70bの端部同士を連結して形成されている。
【0029】
内側壁70a及び外側壁70bは、軸方向から見て、周方向に延び、且つ径方向に振幅を有する波形状を成している。この内側壁70a及び外側壁70bは、一定周期かつ一定振幅の波形状である。
【0030】
尚、以下、本実施例では、内側壁70aの振幅における径方向の頂点を内径側頂点74、外径側頂点75と称し、外側壁70bの振幅における径方向の頂点を内径側頂点76、外径側頂点77と称する。
【0031】
さらに尚、内側壁70aの内径側頂点74からサイドシール7の中央に対し、時計回り方向外径側に隣接する外径側頂点75に向けてS字状に延びる部位を交差面701と称する。また、内径側頂点74からサイドシール7の中央に対し、反時計回り方向外径側に隣接する外径側頂点75に向けて反転S字状に延びる部位を交差面702と称する。また、外側壁70bの内径側頂点76からサイドシール7の中央に対し、時計回り方向外径側に隣接する外径側頂点77に向けてS字状に延びる部位を交差面703と称する。また、内径側頂点76からサイドシール7の中央に対し、反時計回り方向外径側に隣接する外径側頂点77に向けて反転S字状に延びる部位を交差面704と称する。
【0032】
具体的には、図2に示されるように、内径側頂点74、外径側頂点75、内径側頂点76、及び外径側頂点77は、それぞれ周方向に等配されている。内側壁70aにおいて隣接する内径側頂点74と外径側頂点75とは、円周上に延びる仮想的な基準線αを基準として内径側の最大振幅L1a及び外径側の最大振幅L1bが同じ、かつこれら最大振幅L1a,L1bはそれぞれ周方向に亘って同じである。
【0033】
さらに、外側壁70bにおいて隣接する内径側頂点76と外径側頂点77とは、円周上に延びる仮想的な基準線βを基準として内径側の最大振幅L2a及び外径側の最大振幅L2bが同じ、かつこれら最大振幅L2a,L2bはそれぞれ周方向に亘って同じである。尚、これら最大振幅L1a,L1b及び最大振幅L2a,L2bは同じ長さとなっている(L1a,L1b=L2a,L2b)。
【0034】
また、内側壁70aにおいて隣接する内径側頂点74同士の周方向の距離L3(すなわち波長)は、周方向に亘って一定であるとともに、外側壁70bにおいて隣接する内径側頂点76同士の周方向の距離L4(すなわち波長)は周方向に亘って一定である。
【0035】
また、距離L3は距離L4と略同じ、厳密には距離L3よりも距離L4が僅かに長い、長さとなっている(L3=L4)。尚、図示しないが、外径側頂点75同士の周方向の距離は距離L3と同じ長さであり、外径側頂点77同士の周方向の距離は距離L4と同じ長さである。
【0036】
また、内側壁70a及び外側壁70bは、曲面状をなす波形状である。具体的には、内径側頂点74および内径側頂点76の近傍の部位は、内径側に凸を成す曲面であり、外径側頂点75および外径側頂点77の近傍の部位は外径側に凸を成す曲面である。
【0037】
図3に示されるように、この動圧発生溝70の径方向の幅寸法L5(すなわち、内側壁70a及び外側壁70bの離間幅)は、周方向に亘って一定であり、動圧発生溝70の深さ寸法L6よりも大きく形成されている(L5>L6)。この径方向の幅寸法L5は、動圧発生溝70の全周に亘って一定となっている。尚、動圧発生溝70の幅寸法は深さ寸法よりも大きく形成されていれば、動圧発生溝70の幅寸法及び深さ寸法は自由に変更できるが、幅寸法L5は深さ寸法L6の10倍以上であることが好ましい。尚、説明の便宜上、図3では、動圧発生溝70の深さ寸法L6を実際よりも深く図示している。
【0038】
図1を参照し、スラストプレート8は、金属製であり、円環状を成している。また、スラストプレート8には、シールリング43が固定されている。シールリング43は、インナーケーシング3の内側面に当接している。これにより、スラストプレート8は、サイドシール7を介して可動スクロール42の軸方向の荷重を受けるスラスト軸受として機能している。
【0039】
また、サイドシール7とシールリング43は、インナーケーシング3の内部において、可動スクロール42の外径側に形成される低圧室20と可動スクロール42の背面側に形成される背圧室50とを区画している。背圧室50は、インナーケーシング3と回転軸2の間に形成された密閉空間である。シールリング44は、インナーケーシング3の他方の端の中央に設けられる貫通孔3aの内周に固定され、貫通孔3aに挿通される回転軸2に密封状に摺接する。また、高圧室30と背圧室50とを連通する背圧連通路14は、カバー12、固定スクロール41、インナーケーシング3に亘って形成されている。また、背圧連通路14には、図示しないオリフィスが設けられており、オリフィスにより減圧調整された高圧室30の冷媒がオイルセパレータ6で分離された潤滑油と共に背圧室50に供給されるようになっている。このとき、背圧室50内の圧力は、低圧室20内の圧力よりも高くなるように調整される。尚、インナーケーシング3には、径方向に貫通し、低圧室20と背圧室50とを連通する圧力抜き孔16が形成されている。また、圧力抜き孔16内には圧力調整弁45が設けられている。圧力調整弁45は、背圧室50の圧力が設定値を上回ることで開放するようになっている。
【0040】
また、スラストプレート8の中央の貫通孔8bには、可動スクロール42のボス42cが挿通されている。貫通孔8bは、ボス42cに挿嵌される回転軸2の偏心部2aによる偏心回転を許容できる径の大きさに形成されている。すなわち、サイドシール7の摺動面7aは、回転軸2の偏心回転によりスラストプレート8の摺動面8aに対して偏心回転を伴って相対摺動できるようになっている(図4参照)。
【0041】
尚、図4においては、図4(a)~(d)は、固定スクロール41側から見た場合のボス42cの黒矢印で示す回転軌跡のうち、図4(a)を時計周り方向の基準として、ボス42cがそれぞれ90度、180度、270度回転した状態を示している。また、サイドシール7の摺動面7aとスラストプレート8の摺動面8aとの摺動領域をドットにより模式的に示している。また、説明の便宜上、回転軸2については、ボス42cに挿嵌される偏心部2aのみを図示し、偏心機構を構成するカウンタウエイト部2b等の図示を省略している。
【0042】
このように、サイドシール7は、スラストプレート8の摺動面8aに対して偏心回転を伴って相対摺動する摺動面7aを有する摺動部品である。
【0043】
次に、スラストプレート8に対するサイドシール7の相対摺動時における動圧の発生について、図5を参照して説明する。尚、図5では、サイドシール7が図4(d)の状態から図4(a)の状態に向かって移動するときの態様を示している。また、図5では、摺動面7aを軸方向から見た場合のサイドシール7が図示されており、拡大部に示される丸印は、動圧発生溝70において圧力が高くなる箇所を示している。また、動圧発生溝70内には、回転停止時であっても冷媒および潤滑油等を含む流体が貯留されている。
【0044】
図5に示されるように、サイドシール7が白矢印方向に移動しようとすると、動圧発生溝70内の流体が白矢印に対して相対的に反対方向に向かって移動する。これにより、動圧発生溝70を区画する内側壁70a及び外側壁70bで動圧が発生し、摺動面7a,8a同士がわずかに離間され、流体による流体膜が形成される。
【0045】
具体的には、スラストプレート8をアナログ時計に見立てた時、紙面直上を12時の位置とし、動圧発生溝70における12時の位置では、内側壁70aにおける各交差面701で主に動圧が発生する。また、動圧発生溝70における3時の位置では、外側壁70bにおける各交差面704で主に動圧が発生する。また、動圧発生溝70における6時の位置では、外側壁70bにおける各交差面703で主に動圧が発生する。また、動圧発生溝70における9時の位置では、内側壁70aにおける各交差面702で主に動圧が発生する。
【0046】
このように、動圧発生溝70の内側壁70a及び外側壁70bは波形状で周方向に延びており、サイドシール7の偏心回転に対して交差する複数の交差面701~704を有しているので、交差面701~704によりサイドシール7の偏心回転角度によらず動圧を発生させることができ、摺動面7a,8aの傾きを小さくした状態で離間させ、摺動面7a,8aの摩擦抵抗を安定して低減することができる。
【0047】
また、動圧発生溝70における12時の位置、6時の位置では、交差面701,703が白矢印に対して相対的に反対方向に向かって移動する動圧発生溝70内の流体を保持する凹形状をなしているので、交差面701,703近傍の流体が周方向に分散されにくく、動圧を発生させやすくなっている。すなわち、動圧発生溝70における12時の位置、6時の位置では、動圧発生溝70における3時の位置、9時の位置よりも大きな動圧が発生している。
【0048】
尚、図5では、サイドシール7が図4(d)の状態から図4(a)の状態に向かって移動するときの形態について説明したが、サイドシール7が図4(a)の状態から図4(b)の状態、図4(b)の状態から図4(c)の状態、図4(c)の状態から図4(d)の状態に向かって移動するときと略同一の形態で動圧が発生することから、サイドシール7が図4(a)の状態から図4(b)の状態、図4(b)の状態から図4(c)の状態、図4(c)の状態から図4(d)の状態に向かって移動するときの形態についての説明は省略する。
【0049】
また、スラストプレート8に対するサイドシール7の偏心回転を伴う相対摺動においては、サイドシール7の摺動面7aの移動方向に応じて、動圧発生溝70において大きな動圧が発生する位置が、該動圧発生溝70の周方向に沿って連続的に移動するので、摺動面7a,8a同士の相対的な傾きを抑制した状態を維持できる。
【0050】
また、動圧発生溝70は環状に形成されているため、摺動面7aの全周に亘って動圧を発生させることができ、サイドシール7の偏心回転角度によらず摺動面7a,8aの傾きを小さくできる。
【0051】
また、内側壁70a及び外側壁70bは一定周期の波形状であるため、摺動面7aの周方向に亘って均等に動圧を発生させることができる。
【0052】
また、内側壁70a及び外側壁70bは、曲面状をなす波形状であるため、動圧発生溝70内の流体の移動が円滑となり、安定して動圧を発生させることができる。
【0053】
また、背圧室50は、摺動面7a,8aの内径側まで延びているため、摺動面7a,8a同士が離間したときに、摺動面7a,8aの内径側から背圧室50内の流体が導入される。また、スクロール圧縮機構4の駆動時には、背圧室50の圧力は高くなり、背圧室50から摺動面7a,8a間に高圧の流体が導入されるため、該流体の圧力により摺動面7a,8a同士をさらに離間させることができる。
【0054】
また、本実施例では、動圧発生溝70の径方向の幅寸法L5(すなわち、内側壁70a及び外側壁70bの離間幅)が全周に亘って一定となっている形態を例示したが、これに限られず、動圧発生溝の周方向の異なる位置で、該動圧発生溝の径方向の幅寸法が異なるように配置されていてもよい。例えば、内側壁と外側壁とが異なる振幅を有する波形状に形成されていてもよい。
【実施例2】
【0055】
次に、実施例2に係るサイドシール107の動圧発生溝170につき、図6を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0056】
図6に示される実施例2のサイドシール107は、周方向に弧状に延びる動圧発生溝170が摺動面107aの周方向に離間して複数配置されている。
【0057】
これによれば、各動圧発生溝170の内側壁170a及び外側壁170bに加えて、各動圧発生溝170の周方向両端部170d,170eでも動圧を発生させることができる。尚、この場合、動圧発生溝170が周方向に等配されていることが好ましい。
【実施例3】
【0058】
次に、実施例3に係るサイドシール207の動圧発生溝270につき、図7を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0059】
図7に示される実施例3のサイドシール207の動圧発生溝270は、内側壁270aが軸方向からみて波形状をなしている。また、外側壁270bは軸方向からみて円形状をなしている。このように、動圧発生溝は、内側壁及び外側壁のうち少なくとも一方が波形状をなしていればよい。
【0060】
また、内側壁270aは、鋭角に先細りする外径側頂点275を有している。また、内側壁270aは、波形状をなしている。これによれば、外径側頂点275の周方向の幅を小さくできるので、隣接する外径側頂点275間に形成される内径側に凸を成す円弧状の交差面271を大きく確保することができる。
【0061】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0062】
例えば、前記実施例1~3では、内側壁及び外側壁が曲面状をなす波形状である形態を例示したが、これに限られず、軸方向から見て矩形状、三角形状などの波形状であってもよい。
【0063】
また、前記実施例1~3では、自動車等の空調システムに用いられるスクロール圧縮機Cに摺動部品としてのサイドシール7が適用される態様について説明したが、これに限らず、偏心機構を含む回転機械であれば、例えば膨張機と圧縮機を一体に備えたスクロール膨張圧縮機等に適用されてもよい。
【0064】
また、摺動部品の摺動面の内外の空間に存在する流体は、それぞれ気体、液体または気体と液体の混合状態のいずれであってもよい。
【0065】
また、本発明の摺動部品は、偏心回転を伴って相対摺動する摺動面を有するものであれば、摺動面の内外に圧力差がある環境に限らず、摺動面の内外の圧力が同一である環境で使用されてもよい。また、本発明の摺動部品には、シールとしての機能は必要なく、摺動面の摩擦抵抗を安定して低減できるものであればよい。
【0066】
また、前記実施例1~3では、相対摺動する摺動面を有するサイドシールが樹脂製、スラストプレートが金属製のものとして説明したが、摺動部品の材料は使用環境等に応じて自由に選択されてよい。
【0067】
また、前記実施例1~3では、サイドシールの摺動面に動圧発生溝が形成される態様について説明したが、これに限らず、偏心回転を伴って相対摺動する摺動面を有する摺動部品であるスラストプレートの摺動面の摺動領域(図4参照)に動圧発生溝が形成されていてもよい。また、サイドシールの摺動面とスラストプレートの摺動面の両方に動圧発生溝が形成されていてもよい。
【0068】
また、前記実施例前記実施例1~3では、サイドシールの摺動面と摺動部品としてのスラストプレートの摺動面とが偏心回転を伴って相対摺動する構成について説明したが、これに限らず、サイドシールとスラストプレートのいずれか一方のみを備え、偏心回転を伴って相対摺動する摺動面に動圧発生溝が形成されてもよい。例えば、スラストプレートのみを備える場合には、摺動部品としてのスラストプレートの摺動面と可動スクロールの端板の背面のいずれか一方または両方に動圧発生溝が形成されてもよい。また、サイドシールのみを備える場合には、摺動部品としてサイドシールの摺動面に動圧発生溝が形成されてもよい。この場合には、サイドシールがインナーケーシングの内周面に当接して可動スクロールの軸方向の荷重を受けるスラスト軸受としても機能する。
【0069】
また、サイドシールとスラストプレートを備えず、可動スクロールの端板の背面がインナーケーシングの内周面に当接して可動スクロールの軸方向の荷重を受けるスラスト軸受として機能する場合には、可動スクロールの端板の背面に形成される摺動面に動圧発生溝が形成されてもよい。
【0070】
また、摺動面には、摺動面の内径側または外径側の外部空間と動圧発生溝とを導通する導通溝が設けられていてもよい。
【0071】
また、サイドシールの外径側に低圧側の外部空間が存在し、サイドシールの内径側に高圧の外部空間が存在する形態を例示したが、サイドシールの内径側に低圧側の外部空間、サイドシールの外径側に高圧の外部空間が存在していてもよい。
【符号の説明】
【0072】
4 スクロール圧縮機構
7 サイドシール(摺動部品)
7a 摺動面
8 スラストプレート
8a 摺動面
20 低圧室(外径側の外部空間)
30 高圧室
40 圧縮室
41 固定スクロール
42 可動スクロール
50 背圧室(内径側の外部空間、高圧側の外部空間)
70 動圧発生溝
70a 内側壁(内径側の側壁)
70b 外側壁(外径側の側壁)
107 サイドシール(摺動部品)
107a 摺動面
170 動圧発生溝
170a 内側壁(内径側の側壁)
170b 外側壁(外径側の側壁)
207 サイドシール(摺動部品)
270a 内側壁(内径側の側壁)
270b 外側壁(外径側の側壁)
271 交差面
701~704 交差面
C スクロール圧縮機
M 駆動モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7