(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】アルカリ電池用負極集電子、アルカリ電池用負極集電子の製造方法、およびアルカリ電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/66 20060101AFI20240603BHJP
H01M 4/75 20060101ALI20240603BHJP
H01M 6/08 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
H01M4/66 A
H01M4/75 Z
H01M6/08 A
(21)【出願番号】P 2018231671
(22)【出願日】2018-12-11
【審査請求日】2021-11-17
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤波 大輔
(72)【発明者】
【氏名】國谷 繁之
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】渡辺 努
【審判官】山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-60636(JP,A)
【文献】特開2003-82497(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/64-4/84
H01M6/00-6/22
C23C22/00-22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛又は亜鉛合金を負極活物質として含む負極ゲルを備えたインサイドアウト型のアルカリ電池に用いられる負極集電子であって、
真鍮からなる棒状の基体の表面に、錫メッキ層が形成されているとともに、当該錫メッキ層の表面に
第三リン酸塩からなる被膜が形成され、
前記錫メッキ層は前記基体から当該錫メッキ層の表面に向かって錫金属が柱状となる表面構造を有する、
ことを特徴とするアルカリ電池用負極集電子。
【請求項2】
亜鉛又は亜鉛合金を負極活物質として含む負極ゲルを備えたインサイドアウト型のアルカリ電池に用いられる負極集電子の製造方法であって、
真鍮からなる棒状の基体の表面に、錫メッキ層を電解メッキにより形成するステップと、
前記錫メッキ層の表面に第三リン酸塩からなる被膜を形成するステップと、
を含む、
ことを特徴とするアルカリ電池用負極集電子の製造方法。
【請求項3】
インサイドアウト型のアルカリ電池であって、亜鉛又は亜鉛合金を負極活物質として含む負極ゲルと、請求項1に記載のアルカリ電池用負極集電子とを備えていることを特徴とするアルカリ電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ電池用負極集電子、およびアルカリ電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なアルカリ電池は、正極合剤、セパレーター、および負極合剤が、KOH水溶液などのアルカリ性の電解液とともに有底円筒状の金属製電池缶内に密封されてなる。
図1にLR6型のアルカリ電池1の構造を示した。この
図1では、円筒軸100の延長方向を上下(縦)方向としたときのアルカリ電池1の縦断面図を示している。
図1に示したアルカリ電池1は、インサイドアウト型であって、有底筒状の金属製電池缶2、環状に成形された正極合剤3、この正極合剤3の内側に配設された有底円筒状のセパレーター4、亜鉛合金を含んでセパレーター4の内側に充填される負極ゲル5、この負極ゲル5中に挿入された負極集電子6、皿状の金属製負極端子板7、樹脂製の封口ガスケット8などにより構成される。
【0003】
電池缶2は、正極合剤3に直接接触することにより、正極集電体を兼ねる。また電池缶2の底部外面には正極端子9が形成されている。正極端子9が電池缶2の下面に形成されていることとして上下方向を規定すると、皿状の負極端子板7は、フランジ状の縁がある皿状で、正極端子9を下方としたとき、その皿を伏せた状態で縁の部分が電池缶2の上端部に封口ガスケット8を介してかしめられている。
【0004】
負極ゲル5中に挿入された負極集電子6は、普通、真鍮製で、プレス加工により、上下方向に延長する棒状の胴部62の上端に円板状の頭部61を一体的に備えた釘状の形状に形成されてなる。なお、負極集電子6は、頭部61の上面63が皿状の負極端子板7の下面71に溶接され、電池缶2内に立設した状態で固定されている。また、負極端子板7、負極集電子6および封口ガスケット8は、封口体としてあらかじめ一体に組み合わせられており、封口ガスケット8が電池缶2の開口縁部と負極端子板7におけるフランジ状の縁との間に挟持された状態で電池缶2が封口される。
【0005】
封口ガスケット8は、円盤の周囲に上方に立設する壁面81が巡るカップ状で、円盤の中心は、負極集電子6が圧入される中空円筒状のボス部82となっている。ボス部82の外周から円盤の周縁に至る膜状の部位83には、溝状の薄肉部84が形成されている。そして、この薄肉部84は、電池缶2内の圧力が異常に上昇した際に先行破断し、最終的に、その内圧の原因となったガスを負極端子板7に設けられた排気孔72を介して大気開放させる防爆安全機構として機能する。
【0006】
負極ゲル5は、電解液であるKOH水溶液にゲル化剤(例えば、架橋型のポリアクリル酸塩)を加えて電解液をゲル状にしたのち、そのゲル状の電解液に負極活物質である粉体状の亜鉛あるいは亜鉛合金を分散させたものである。なおアルカリ電池1の基本的な構造や製造手順などについては以下の非特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】FDK株式会社、”アルカリ電池のできるまで”、[online]、[平成30年11月20日検索]、インターネット<URL:http://www.fdk.co.jp/denchi_club/denchi_story/arukari.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アルカリ電池の電池缶内では、様々な化学反応に起因して漏液の原因となるガスが発生する。例えば、負極ゲルに含まれる粉体状の亜鉛や亜鉛合金の粒子(以下、亜鉛粒子と言うことがある)は、長期間にわたって電解液に触れていると、粒子表面が腐食して水素ガスを発生させる。また、銅を含んだ真鍮製の負極集電子も電解液と接触することで腐食し、水素ガスを発生させる。なお、亜鉛粒子の腐食反応については、ビスマスやインジウムなどの金属を負極ゲル中に微量含ませることで、腐食反応を抑制することができ、市販されているアルカリ電池の多くは、ビスマスとインジウムとが添加された負極ゲルを用いている。
【0009】
一方、負極集電子の腐食反応を抑制するためには、例えば、真鍮などからなる釘状の形状の基体の表面に金属メッキされた被膜(以下、メッキ層と言うことがある)を設け、腐食し易い基体の表面が電解液と直接接触しないようにしている。しかし、ピンホールのないメッキ層を確実に形成することは難しい。そして、メッキ層にピンホールがあると、負極集電子の基体の表面と電解液とが接触してしまいガスが発生する。また、電池缶内でメッキ層と電解液とが長時間接触していると、メッキ層を構成する金属が電解液中に溶出する可能性もある。そのため、メッキ層にピンホールが僅かでもあれば、メッキ層が溶出してピンホールが拡大し、水素ガスの発生が助長されてしまう可能性がある。溶出した金属が負極ゲルと反応して水素ガスが発生する可能性もある。さらに、アルカリ電池を電源とする機器内に、終止電圧に至った使用済みのアルカリ電池を放置するなどしてアルカリ電池を過放電の状態にすると、メッキ層の金属の種類によっては、その金属が溶出し易くなり、水素ガスがさらに発生してしまう可能性がある。そして、アルカリ電池の内部で水素ガスが発生し続ければ、最終的に爆安全機構が作動し、アルカリ電池が漏液する。
【0010】
そこで、本発明は、アルカリ電池を長期保存したり、過放電状態で放置したりしても、漏液を抑制することができるアルカリ電池用負極集電子と、その負極集電子を備えて耐漏液特性に優れたアルカリ電池とを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、亜鉛又は亜鉛合金を負極活物質として含む負極ゲルを備えたインサイドアウト型のアルカリ電池に用いられる負極集電子であって、
真鍮からなる棒状の基体の表面に、錫メッキ層が形成されているとともに、当該錫メッキ層の表面に第三リン酸塩からなる被膜が形成され、
前記錫メッキ層は前記基体から当該錫メッキ層の表面に向かって錫金属が柱状となる表面構造を有する、
ことを特徴とするアルカリ電池用負極集電子である。
【0012】
本発明は、亜鉛又は亜鉛合金を負極活物質として含む負極ゲルを備えたインサイドアウト型のアルカリ電池に用いられる負極集電子の製造方法であって、
真鍮からなる棒状の基体の表面に、錫メッキ層を電解メッキにより形成するステップと、
前記錫メッキ層の表面に第三リン酸塩からなる被膜を形成するステップと、
を含む、
ことを特徴とするアルカリ電池用負極集電子の製造方法とすることもできる。
【0013】
本発明のその他の態様は、インサイドアウト型のアルカリ電池であって、亜鉛又は亜鉛合金を負極活物質として含む負極ゲルと、上記アルカリ電池用負極集電子とを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アルカリ電池を長期間保存したり、過放電状態で放置したりしても、漏液を抑制することができるアルカリ電池用負極集電子と、その負極集電子を備えて耐漏液特性に優れたアルカリ電池とが提供される。その他の効果につては以下の記載で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一般的な円筒形アルカリ電池の構造を示す図である。
【
図2】本発明の実施例に係る負極集電子の表面構造を模式的に示す図である。
【
図3】比較例に係る負極集電子の表面構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
===実施例===
本発明の実施例に係るアルカリ電池用負極集電子(以下、負極集電子と言うことがある)の外観は、
図1に示した一般的なアルカリ電池1に採用されているものと同じである。しかし、実施例に係る負極集電子は、基体の表面構造に特徴を有し、アルカリ電池に組み込まれた際、そのアルカリ電池が未使用状態で長期に渡って保存されたり、過放電状態になったりしても、水素ガスが発生し難いようになっている。
図2に、実施例に係る負極集電子6aの表面構造を模式的に示した。
図2は、
図1において円101で示した領域の拡大図に対応している。
【0017】
図2に示したように、負極集電子6aは、所定の金属や合金からなる基体64の表面にSnメッキ層65が形成され、そのSnメッキ層65の表面にリン酸塩からなる被膜層66が形成されている。負極集電子6aの基体64は、鉄や真鍮などで構成することができるが、実施例に係る負極集電子6aの基体64は、一般的なアルカリ電池1に用いられている負極集電子6と同様に真鍮からなる。
【0018】
また、負極集電子6aは、アルカリ電池1に組み込まれると、Snメッキ層66の表面に施された被膜66が、アルカリ性の電解液や電解液を含む負極ゲル5に直接触れることになることから、実施例に係る負極集電子6aにおけるリン酸塩からなる被膜66は、耐アルカリ性に優れた第三リン酸塩(例えば、第三リン酸亜鉛など)からなる。
【0019】
実施例に係る負極集電子6aのSnメッキ層65は、電解メッキにより形成されている。周知のごとく、電解メッキは、無電解メッキに対し、厚いメッキ層を容易に形成することができる。また、同じ厚さであれば、無電解メッキに対して抵抗を低くすることができる。そして、電解メッキにより形成されたメッキ層は、基体側からメッキ層の表面に向かってメッキされる金属が柱状に成長する。一方、無電解メッキにより形成されたメッキ層は、金属が層状に成長する。なお、電解メッキ層あるいは無電解メッキ層の、柱状あるいは層状の表面構造は、メッキ層の断面を電子顕微鏡で撮影することで観察することができる。
【0020】
===負極集電子の作製手順===
次に、実施例に係る負極集電子6aの作製手順について説明する。まず、プレス加工により、釘状の形状を有する真鍮製の基体64を作製する。そして、基体64の表面に電解メッキによってSnメッキ層65を形成し、さらに、そのSnメッキ層65の表面にリン酸塩の被膜66を形成する。リン酸塩の被膜66は、Snメッキ処理後の中和処理によって形成することができる。具体的には、Snメッキ処理後の中和処理に用いる弱アルカリ性の中和液として、可溶性リン酸塩を含む水溶液を用いている。すなわち、実施例に係る負極集電子6aは、基体64の表面にSnメッキ層65を形成する手順に対し、リン酸塩の被膜66を形成するための工程を別途追加することなく作製することができる。もちろん、基体64にSnメッキ処理を施した後に、適宜なアルカリ水溶液を用いた中和処理を行い、その上でリン酸塩の被膜66を形成することもできる。
【0021】
===特性評価===
<負極集電子>
実施例に係る負極集電子6aの特性を評価するために、表面構造が異なるLR6型アルカリ電池用の4種類の負極集電子を作製した。
図3は、実施例に係る負極集電子6aに対する比較例として作製された3種類の負極集電子(6b~6d)の表面構造を模式的に示している。
図3に示したように、3種類の負極集電子(6b~6d)は、真鍮からなる基体64にSnメッキ層65のみが形成された負極集電子6d、基体64のみからなる負極集電子6c、および基体64の表面にリン酸塩の被膜66が形成された負極集電子6dである。
【0022】
<長期保存試験>
図2および
図3に示した合計4種類の負極集電子(6a~6d)を用いたアルカリ電池の長期保存特性を評価するために、上記4種類の負極集電子(6a~6d)をサンプルとして作製し、各サンプルを、負極ゲル5に浸漬された状態に相当する環境下に置く長期保存試験を行い、試験後のガスの発生状態を観察した。具体的には、扁平な容器内に、亜鉛粉と40%KOH水溶液からなる電解液とを入れるとともに、容器内の亜鉛粉を平坦に均した(整地した)。次いで、容器を一日間放置し、電解液を十分に亜鉛粉に吸収させた。それによって、放置後の容器内では、亜鉛粉が容器の底に整地され、余剰分の電解液が整地された亜鉛粉の上方に上澄み液のように容器内に満たされた状態となった。そして、各サンプルについて、100個の個体を用意し、全ての個体を、容器内で整地された状態の亜鉛粉の上に並べて配置した後、2時間後、および10時間後に、サンプルの表面に気泡が発生しているか否かを目視で観察した。
【0023】
以下の表1に、各サンプルの表面構造と長期保存試験の結果とを示した。
【0024】
【表1】
表1において、サンプル1、2、3、および4は、それぞれ、
図3に示した負極集電子3b、
図2に示した実施例に係る負極集電子6a、
図3に示した負極集電子6c、および6dである。サンプル1、2におけるSnメッキ層65の形成条件、およびサンプル2、4におけるリン酸塩の被膜66の形成条件は同じである。そして、サンプル1、2のSnメッキ層65の厚さは1.5μmであった。
【0025】
表1に示したように、基体64にSnメッキ層65のみを設けたサンプル1では、保存開始から24時間後に気泡が発生した。また、基体64のみのサンプル3では、保存開始から2時間で気泡が発生した。Snメッキ層65の有無に拘わらず、表層にリン酸塩の被膜が形成されているサンプル2とサンプル4では、気泡が発生しなかった。以上により、表層にリン酸塩の被膜66が形成されている負極集電子(6a、6d)を用いたアルカリ電池は、未使用の状態で長期保存しても、漏液の発生を抑止できることがわかった。
【0026】
<過放電試験>
次に、表1に示したサンプル1、2、3、および4のそれぞれに対応する4種類の負極集電子(6b、6a、6c、および6d)を用いて4種類のLR6型アルカリ電池を作製し、これら4種類のアルカリ電池をサンプルとした。そして、各サンプルに対して過放電試験を行った後、各サンプルを所定の環境下で保存して漏液の有無を確認した。
【0027】
ここでは、各サンプルに40Ω、および75Ωの負荷で放電を行い、0.6Vの終止電圧に至るまでの時間を100%としたときに、110%、150%の時間で放電させる過放電試験と、10Ωの負荷で48時間(hr)放電させる過放電試験とを行った。さらに、過放電試験後のサンプルを所定の温度や湿度で、所定日数保存した。そして、保存後に各サンプルにおける漏液の有無を目視で確認した。なお、それぞれの過放電試験において、異なる種類のサンプル毎に10個の個体を用意した。
【0028】
表2に各サンプルに対する過放電試験の結果を示した。
【0029】
【表2】
表2に示したように、40Ω、および75Ωの負荷で過放電させたサンプルは、過放電試験後に60℃の温度下で10日間保存され、10Ωの負荷で48hr放電させたサンプルは、60℃の温度で湿度90%の環境下で20日間保存された。表2では、各過放電試験の結果が、10個の個体のうち、漏液が発生した個体数で示されている。合否の欄では、合格が「○」で示され、不合格が「×」で示されている。合否の判定基準は、全ての過放電試験において、漏液が発生した個体が5個以下であれば、そのサンプルを合格とし、全ての過放電試験において、6個以上の個体漏液が発生した試験が一つでもあれば、そのサンプルを不合格としている。
【0030】
表2に示したように、実施例に係る負極集電子6aを用いたサンプル6と、基体64の表面にSnメッキ層65のみが形成されたサンプル8が合格となった。したがって、基体64にSnメッキ層65を設けられた負極集電子(6a、6b)を用いたアルカリ電池1では、過放電状態で放置しても漏液を抑制することができる。
【0031】
以上、表1と表2とに示した試験結果より、基体64の表面にSnメッキ層65が形成され、そのSnメッキ層65の表面にリン酸塩の被膜66が形成されている負極集電子6aを用いたアルカリ電池は、未使用の状態で長期保存したとき、および過放電状態で保存したときの双方において優れた耐漏液性能を備えていることが分かった。
【符号の説明】
【0032】
1 アルカリ電池、2 電池缶(正極缶)、3 正極合剤、4 セパレーター、
5 負極ゲル、6,6a~6c 負極集電子、7 負極端子板、8 封口ガスケット、9 正極端子、64 負極集電子の基体、65 Snメッキ層、66 リン酸塩の被膜、72 通気孔、84 封口ガスケットの薄肉部