(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】新規ヒールアセンブリおよびそれを備える履物
(51)【国際特許分類】
A43B 21/24 20060101AFI20240603BHJP
【FI】
A43B21/24
(21)【出願番号】P 2019207389
(22)【出願日】2019-11-15
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】517160950
【氏名又は名称】宮田 周平
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】宮田 周平
【審査官】葛谷 光平
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-505456(JP,A)
【文献】特許第6295386(JP,B2)
【文献】特開2013-081710(JP,A)
【文献】米国特許第05448839(US,A)
【文献】登録実用新案第3098254(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部分と、第2部分と、第3部分と、第4部分とを接地面に備える履物用ヒールアセンブリであって、
前記第1部分は、前記
接地面における前後方向の両端部の間の距離を二等分する線と、内外方向の両端部の間の距離を二等分する線とで、前記
接地面をそれぞれ4
分割したうちの、外側かつ前側の部分であり、
前記第2部分は前記4
分割したうちの、内側かつ前側の部分であり、
前記第3部分は前記4
分割したうちの、外側かつ後側の部分であり、
前記第4部分は前記4
分割したうちの、内側かつ後側の部分であって、
ヒールハイトが3cm以上であり、
前記接地面の面積が、25mm
2
~500mm
2
であり、
前記接地面において、水平部分が前記接地面の全面積の30%以下であり、
前記第1部分、第2部分、第3部分および第4部分は、以下の(i)~(iv)を満たす傾斜を有
し、前記傾斜の方向角度δが40°~70°である、ヒールアセンブリ:
(i)前記第1部分から前記第4部分に向けて傾斜を有する;
(ii)前記第3部分から前記第4部分に向けて傾斜する;
(ii
i)前記第1部分から前記第2部分に向けて傾斜を有する;
(i
v)前記第
1部分から前記第
3部分に向けて傾斜を有するかまたは前記第
1部分と前記第
3部分との間に傾斜がない;
(
v)前記第2部分から前記第4部分に向けて傾斜を有するかまたは前記第2部分と前記第4部分との間に傾斜がない。
【請求項2】
前記傾斜が、リフトの形状によって達成される、請求項
1に記載のヒールアセンブリ。
【請求項3】
前記傾斜が、トップリフトによって達成される、請求項1
または2に記載のヒールアセンブリ。
【請求項4】
前記傾斜が、リフトの形状およびトップリフトによって達成される、請求項1~
3のいずれか一項に記載のヒールアセンブリ。
【請求項5】
前記トップリフトは、厚み
が均一の板状部材と楔状部材とを備える、請求項
3または
4のいずれか一項に記載のヒールアセンブリ。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載のヒールアセンブリを備える履物
であって、ハイヒールである、履物。
【請求項7】
請求項
4~
5のいずれか1項に記載のトップリフト。
【請求項8】
請求項
5に記載の楔状部材。
【請求項9】
履物の修理方法であって、
前記履物のトップリフトを修理部材に交換する工程を包含し、前記修理部材が請求項
7に記載の別のトップリフトである、方法。
【請求項10】
履物の修理方法であって、
前記履物のトップリフトに修理部材を装着する工程を包含し、前記修理部材が請求項
8に記載の楔状部材である、方法。
【請求項11】
前記履物の所有者が歩行時に距骨下関節が過回外になる対象であ
る、請求項
9または1
0に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、履物用ヒールアセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
履物のヒールアセンブリは、履物本体に接着されるリフトと、滑り止めおよび衝撃吸収のためのトップリフトを含む。従来、トップリフトは、下端面がトップリフトの中心軸に対して垂直であった(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
図12(a)および
図12(b)は、一般的なトップリフトを備えたヒールアセンブリが接地するときの様子を示す。
図12(a)では、左足用ヒールアセンブリの左側面が示されており、
図12(a)の左方向が前側であり、右方向が後側である。
図12(b)では、左足用ヒールアセンブリの前面が示されており、
図12(b)の左方向が内側であり、右方向が外側である。ヒールアセンブリが取り付けられる履物本体は省略されている。
【0004】
人間は歩行するとき踵から接地するため、従来のヒールアセンブリでは、歩行時、まず、トップリフトの後端部のみが接地する(
図12(a)の状態1を参照)。続いて、接地点を軸に前側に(
図12(a)の矢印方向に)ヒールアセンブリが回転することにより、トップリフトの接地面全体が接地する(
図12(a)の状態2を参照)。このときに足には種々の力がかかり、その影響は足や関節の健康状態にも及び得る。
【0005】
また、人間の距骨下関節の構造により、地面から足を上げているとき、足は、足の親指側(右足であれば左側、左足であれば右側)が地面から遠くなり、足の小指側(右足であれば右側、左足であれば左側)が地面に近くなるように傾斜する。そのため、従来のトップリフトでは、歩行時、まず、トップリフトの外端部のみが接地する(
図12(b)の状態1を参照)。続いて、接地点を軸に内側側に(
図12(b)の矢印方向に)ヒールアセンブリが回転することにより、トップリフトの接地面全体が接地する(
図12(b)の状態2を参照)。
【0006】
より詳細に説明すると、正常な人の正常な歩行においては、立脚期(歩行の間において足が地面に接地している間)の前半には、質量中心は足の外側を移動し、負荷がかかるポイントは足の外側に沿って維持される。その後、立脚期後半には質量中心が内側に移動し、負荷がかかるポイントは第1中足骨頭に向かい指先に移動する(
図13を参照)。このような正常な歩行に対して効果的であると考えられるヒールアセンブリの概念は、特許第6295386号に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実公平5-6808号公報
【文献】特許第6295386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のとおり、履物のヒールアセンブリは、歩行時の足と地面との最初の接触を担っており、足や関節の健康状態に大きく影響する。
【0009】
本発明は、脚への負担が少ない履物用ヒールアセンブリを提供することによって、上記課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、多数の人について、ヒールの減り方、歩き方、およびヒールの傾斜との関係を詳細に検討した結果、予想外に、当該分野で「正常な人の正常な歩行」と考えられているような立脚期の質量中心の移動に従って歩行をしている人は少なく、特許第6295386号公報のようなヒールアセンブリでは現実的には十分に対応できない事例があることを発見した。そこで、本発明者はさらに鋭意研究を重ね、ヒールアセンブリの外側前端部の厚みを厚くし、内側後端部の厚みを薄くして、ヒールアセンブリにおいて外側前端部から内側後端部に向けた傾斜を生じさせることによって、上記課題が解決されることを予想外に発見した。
【0011】
本発明は、以下の項目を提供する。
(項目1)
第1部分と、第2部分と、第3部分と、第4部分とを接地面に備える履物用ヒールアセンブリであって、
前記第1部分は、前記少なくとも一方における前後方向の両端部の間の距離を二等分する線と、内外方向の両端部の間の距離を二等分する線とで、前記少なくとも一方をそれぞれ4等分したうちの、外側かつ前側の部分であり、
前記第2部分は前記4等分したうちの、内側かつ前側の部分であり、
前記第3部分は前記4等分したうちの、外側かつ後側の部分であり、
前記第4部分は前記4等分したうちの、内側かつ後側の部分であって、
前記第1部分、第2部分、第3部分および第4部分は、以下の(i)~(iv)を満たす傾斜を有する、ヒールアセンブリ:
(i)前記第1部分から前記第4部分に向けて傾斜を有する;
(ii)前記第3部分から前記第4部分に向けて傾斜する;
(ii)前記第1部分から前記第2部分に向けて傾斜を有する;
(iii)前記第1の部分から前記第3の部分に向けて傾斜を有するかまたは前記第1の部分と前記第3の部分との間に傾斜がない;
(iv)前記第2部分から前記第4部分に向けて傾斜を有するかまたは前記第2部分と前記第4部分との間に傾斜がない。
(項目2)
ヒールハイトが約3cm以上である、項目1に記載のヒールアセンブリ。
(項目3)
前記接地面が、縦横約45mmの範囲内に入る、項目1または2に記載のヒールアセンブリ。
(項目4)
前記第1部分から前記第4部分において、水平部分が前記第1部分から前記第4部分の全面積に対して約30%以下である、項目1~3のいずれか一項に記載のヒールアセンブリ。
(項目5)
前記傾斜の方向角度δが約40°~約70°である、項目1~4のいずれか1項に記載のヒールアセンブリ。
(項目6)
前記傾斜が、リフトの形状によって達成される、項目1~5のいずれか一項に記載のヒールアセンブリ。
(項目7)
前記傾斜が、トップリフトによって達成される、項目1~6のいずれか一項に記載のヒールアセンブリ。
(項目8)
前記傾斜が、リフトの形状およびトップリフトによって達成される、項目1~7のいずれか一項に記載のヒールアセンブリ。
(項目9)
前記トップリフトは、厚みが略均一の板状部材と楔状部材とを備える、項目7または8のいずれか一項に記載のヒールアセンブリ。
(項目10)
項目1~9のいずれか1項に記載のヒールアセンブリを備える履物。
(項目11)
ハイヒールである、項目10に記載の履物。
(項目12)
項目7~9のいずれか1項に記載のトップリフト。
(項目13)
項目9に記載の楔状部材。
(項目14)
履物の修理方法であって、
前記履物のトップリフトを修理部材に交換する工程を包含し、前記修理部材が項目12に記載の別のトップリフトである、方法。
(項目15)
履物の修理方法であって、
前記履物のトップリフトに修理部材を装着する工程を包含し、前記修理部材が項目13に記載の楔状部材である、方法。
(項目16)
前記交換または装着する工程の前に、前記履物の所有者が歩行時に距骨下関節が過回外になる対象であることを確認する工程を包含する、項目14または15に記載の方法。
(項目17)
履物の修理方法であって、
(1)前記履物のヒールアセンブリの接地面において減っている領域を確認する工程と、
(2)減り始めの点における接線に対する垂線から一定角度内転させた方向に沿って、前側から後側に傾斜する傾斜方向を有するように、前記ヒールアセンブリを修理する工程と、
を包含する、修理方法。
(項目18)
前記工程(2)は、
(2a)減っている領域の外縁の略中点を特定する工程、
(2b)前記略中点における接線に対する垂線から前記一定角度内転させた前記傾斜方向を特定する工程、および
(2c)前記傾斜方向を有するように前記ヒールアセンブリを修理する工程
を含む、項目17に記載の修理方法。
(項目19)
前記一定角度は約5°~約40°である、項目17または18に記載の修理方法。
(項目20)
前記工程(2)の前記ヒールアセンブリを修理する工程は、
・前記ヒールアセンブリに、前記傾斜方向の傾斜を付与すること、および/または
・前記ヒールアセンブリを、前記傾斜方向の傾斜を有するヒールアセンブリに交換すること、
を含む、項目17~19のいずれか一項に記載の修理方法。
(項目21)
前記傾斜方向の傾斜が、トップリフトによって達成される、項目20に記載の修理方法。
(項目22)
前記トップリフトは、厚みが略均一の板状部材と楔状部材とを備える、項目21に記載の修理方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、脚への負担が少ない履物用ヒールアセンブリを提供することができる。本発明は特に、3cm以上のヒールハイトのヒールアセンブリの場合に有効であり得る。本発明はさらに、前足部外反群やハイヒールでの歩行時に距骨下関節が過回外になる対象において有効であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のヒールアセンブリ100が装着された履物10の一例を示す外観図。
【
図2】本発明のヒールアセンブリにおける、第1部分から第4部分を説明するための図であって、
図2は左足用トップリフトの接地面を上側とした状態における斜視図。
【
図3】トップリフトを説明する斜視図であって、
図3(a)は現在の一般的のトップリフトを示す図、
図3(b)は本発明の左足用トップリフトの一例を示す図。
【
図4】ヒールアセンブリの傾斜角度θを説明する図。
【
図5】本発明のヒールアセンブリの傾斜の方向角度δを説明する、履物の下面図。
【
図6A】トップリフトの各部分の厚さの種々の実施形態のうちパターン1を示す模式図。
【
図6B】トップリフトの各部分の厚さの種々の実施形態のうちパターン2を示す模式図。
【
図6C】トップリフトの各部分の厚さの種々の実施形態のうちパターン3を示す模式図。
【
図6D】トップリフトの各部分の厚さの種々の実施形態のうちパターン4を示す模式図。
【
図6E】トップリフトの各部分の厚さの種々の実施形態のうちパターン5を示す模式図。
【
図7】板状部材と楔状部材とを備えたトップリフトのベース121を説明する図。
【
図8】トップリフト120の変形例であるトップリフト120aをリフト130に装着している様子を示す図であって、
図8(a)は装着前を示す図、
図8(b)は装着後を示す図。
【
図9】リフト130の変形例であるリフト130aに、厚みが均一の公知のトップリフト120bを装着している様子を示す図であって、
図9(a)は装着前の様子を示す図であり、
図9(b)は装着後の様子を示す図。
【
図10】リフト130の変形例であるリフト130aに、厚みが均一の公知のリフト120cを装着している様子を示す図であって、
図10(a)は装着前の様子を示す図であり、
図10(b)は装着後の様子を示す図。
【
図11】本発明の別実施例のトップリフト120dを説明する図であって、
図11(a)は、トップリフト120dの斜視図、
図11(b)はトップリフト120dの側面図、
図11(c)はトップリフト120dの前面図。
【
図12】従来のヒールアセンブリが接地するときの様子を示す図であって、
図12(a)は左足用ヒールアセンブリの左側面図、
図12(b)は左足用ヒールアセンブリの前面図。
【
図13】正常な人の歩行における、立脚期での質量中心の移動の様子(臨床足装具学2015年第1版第3刷 62頁
図3-22)。
【
図14】本発明の修理方法を示すための、ヒールアセンブリ接地面の模式図である。
【
図15】本発明の修理方法を示すための、ヒールアセンブリ接地面の模式図である。
【
図16】本発明の修理方法を示すための、ヒールアセンブリ接地面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0015】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0016】
本明細書において「足」とは、踝より下方の身体の部分のことをいう。
【0017】
本明細書において「脚」とは、骨盤から下方の身体の部分のことをいう。
【0018】
本明細書において「履物」(例えば、
図1の符号10を参照)は、履物本体(例えば、
図1の符号110を参照)とヒールアセンブリ(例えば、
図1の符号100を参照)とを備える任意の靴をいう。
【0019】
本明細書において「ヒールアセンブリ」とは、履物における略踵部下方にあり、履物本体よりも接地面側に存在する部材をいう。また、ヒールアセンブリにおいて接地する面を「接地面」(例えば、
図1における符号125を参照)といい、履物本体と接着される面を「ヒールシート」(例えば、
図1における符号135を参照)という。ヒールアセンブリは、履物本体と接着される「リフト」(例えば、
図1における符号130を参照)と、接地面側に装着される「トップリフト」(例えば、
図1における符号120を参照)とを含む。「トップリフト」は、「ベース」(例えば、
図2における符号121を参照)と「ピン」(例えば、
図2における符号121を参照)とを含み、さらにベースよりも「軟質の層」(例えば、
図11(a)における符号Rを参照)を含んでもよい。
【0020】
本明細書において「ヒールハイト」とは、履物における踵の設置部分の略中心から接地面までの垂直距離をいう。
【0021】
本明細書において、軟質の層を有するトップリフトにおいて、当該トップリフトのベースの軟質の層と接着する面を「境界面」という。
【0022】
本明細書において「第1部分」とは、ヒールアセンブリの接地面(例えば、
図2における符号125)および/または境界面における前後方向の両端部の間の距離を略二等分する線(例えば、
図2における符号L1)と、内外方向の両端部(内外方向で最も離れた部分)の間の距離
を二等分する線(例えば、
図2における符号L2)とで、ヒールアセンブリの接地面125をそれぞれ4
分割したうちの、外側かつ前側(進行方向)の部分(例えば、
図2における符号A1を参照)をいう。本明細書において「第2部分」とは、ヒールアセンブリの接地面125および/または境界面における前後方向の両端部の間の距離
を二等分する線L1と、内外方向の両端部の間の距離
を二等分する線L2とで、ヒールアセンブリの接地面125をそれぞれ4
分割したうちの、内側かつ前側の部分(例えば、
図2における符号A2を参照)をいう。本明細書において「第3部分」とは、ヒールアセンブリの接地面125における前後方向の両端部の間の距離
を二等分する線L1と、内外方向の両端部の間の距離
を二等分する線L2とで、ヒールアセンブリの接地面125および/または境界面をそれぞれ4
分割したうちの、外側かつ後側の部分(例えば、
図2における符号A3を参照)をいう。本明細書において「第4部分」とは、ヒールアセンブリの接地面125および/または境界面における前後方向の両端部の間の距離
を二等分する線L1と、内外方向の両端部の間の距離を略二等分する線L2とで、ヒールアセンブリの接地面125をそれぞれ4
分割したうちの、内側かつ後側の部分(例えば、
図2における符号A4を参照)をいう。なお、接地面125において凹部が形成される場合があるが、そのような場合には、上記の「第1部分」~「第4部分」は、接地面125において当該凹部を除いた部分をいう。
【0023】
本明細書において、ヒールアセンブリの接地面について、ある部分Aから別の部分Bに向けて「傾斜」しているとは、ヒールアセンブリが履物本体に装着されたときに、トップリフト接地面の部分Aが接地方向に突出し、部分Aに比較して部分Bが接地方向に突出しないことによって、部分Aから部分Bに向かって傾斜していることをいう(例えば、
図3(b)、
図4、
図8(b)における、点A、点Bを参照)。なお、この部分Aまたは部分Bからは、接地面において凹部が形成される場合の凹部は除く。
【0024】
本明細書において「傾斜角度θ」とは、接地面の基準面に対する傾斜の角度をいう。接地面についての基準面は履物を水平面に静置したときの水平面である。接地面の部分Aから部分Bへの傾斜の傾斜角度は、部分Aにおける最も接地方向に突出した部分と部分Bにおける最も接地方向に突出していない部分とを結んだ線と、基準面である水平面との角度(例えば、
図4における角度θを参照)をいう。
【0025】
本明細書において、傾斜の「方向角度δ」とは、接地面の中心線(前端部略中心と後端部略中心とを通る線)と、傾斜の方向との間の角度をいう。接地面の部分Aから部分Bへの傾斜の方向角度δは、部分Aにおける最も接地面側に突出した部分と部分Bにおける最も接地面側に突出していない部分とを結んだ線(例えば、
図5における直線L3を参照)を含む傾斜面上であり、かつ結んだ線の垂線(例えば、
図5における直線L4を参照)と、接地面の中心線との間の角度(例えば、
図5における角度δを参照)である。
【0026】
本明細書において、「厚さ」とは、基準面(接地面についての水平面)に対して垂線方向の距離をいう。例えばトップリフトの接地面の「第1部分が第2部分よりも厚い」という場合、トップリフトの第1部分の厚さのうち最大のものが、第2部分の任意の部分の厚さよりも大きいことをいう。
【0027】
本明細書において、ヒールアセンブリの接地面の「水平部分」とは、履物を水平面に静置したときに水平面に平行である、接地面における部分をいう。
【0028】
本明細書において「ハイヒール」とは、ヒールアセンブリの接地面側の端部と履物本体との接触面側の端部との距離が約3cm以上のものをいう。
【0029】
本明細書において使用される用語「約」とは、後に続く数値の±10%の範囲を意味する。
【0030】
(傾斜)
本発明は、ヒールアセンブリ100の接地面125を、外側かつ前側の第1部分(
図2等のA1)と、内側かつ前側の第2部分(A2)と、外側かつ後側の第3部分(A3)と、内側かつ後側の第4部分(A4)とに分けたときに、第1部分(A1)から第4部分(A4)に向けて傾斜する傾斜面を有する履物を構成することを企図する。本発明者は、このような傾斜をヒールアセンブリ100に設けることによって、内股や足の痛みの軽減、側方動揺性の軽減の1または複数を達成することができる。
【0031】
さらに理論に拘束されることを意図しないが、本発明において、後側部分の外側から内側へ向かう傾斜(すなわち、第3部分から第4部分へ向かう傾斜)は、歩行時に内股になるのを防いだり、親指の付け根や小指の先の痛みを軽減する効果を奏し得る。ヒール接地面の後側部分は、踵接地~足底接地の履物の挙動を担う。ヒールアセンブリの接地時には、接地した部分からブレーキがかかり、そのブレーキがかかる方向に履物が引っ張られるように力が発生する。特にハイヒールを使用する女性には内股の特徴を有する者が多く、内側から接地して履物に外から内に回転するように力がかかる。そうすると、履物の内部が足の親指の付け根や小指の先と摩擦を起こし、親指の付け根や小指の先の痛みを生じ得る。本発明は、歩行時に地面に最初に接地する後側部分において、外側から内側へ向かう傾斜を設けることにより、歩行時に外側から接地して履物に内から外に回転するように力がかかる。これによって、内股が抑制され、親指の付け根や小指の先の痛みが軽減され得る。踵骨粗面アキレス腱停止部の靴ずれやふくらはぎの張りも防止され得る。
【0032】
理論に拘束されることを意図しないが、本発明において、前側部分の外側から内側へ向かう傾斜(すなわち、第1部分から第2部分へ向かう傾斜)は、特に立脚期後半の側方動揺性の軽減に寄与し得る。立脚中期ヒール接地面の前側部分は、歩行時に、足の接地後に足に体重が載ったタイミング(踵接地より後かつ踵離れより前)の履物の挙動を担う。典型的に、中足骨は内側列から外側列に向って短くなる。そうすると、人は接地時に内から外に向かう力を足に受け、体重がかかると体が傾く。これを側方動揺性という。側方動揺性は、特に人の足腰の疾患に関連し得る。本発明は特に、前側部分を外側から内側に向けて傾斜させることによって、側方動揺性を軽減し、歩行時の側方動揺性による膝関節への負担を軽減し得る。さらに、距骨下関節の自然な回内が促進されるから、リフトの破損や、踵骨粗面アキレス腱停止部付近の靴ずれが防止され得る。
【0033】
上記のような、外側から内側へ向かう傾斜により、本発明は、前足部外反群やハイヒールでの歩行時に距骨下関節が過回外になる対象において特に有効であり得る。
【0034】
本発明は、上述の前側部分および後側部分それぞれにおける外側から内側へ向かう傾斜に加えて、前側から後側への傾斜も有し得る。すなわち、本発明のヒールアセンブリは、第1部分から第3部分への傾斜を有するか、第2部分から第4部分への傾斜を有するか、またはその双方の傾斜を有する。このように、接地面において前側部分から後側部分への傾斜を提供することによって、ヒールアセンブリの接地面側からの摩耗による消耗を抑制し得る。また、この前側から後側への傾斜により、前足部の荷重の低減やフィッティングの改善も図ることができる。さらに、ヒールアセンブリを備える靴を履いた場合、一般的に歩行者は足が前に滑り落ちるような感覚を覚えるが、これを軽減することができる。
【0035】
本発明において、傾斜面における、第1部分から第4部分への傾斜の傾斜角度θは、約2°≦θ≦約20°であり得る。具体的には、第1部分から第4部分への傾斜の傾斜角度θは、約2°≦θ≦約18°、約2°≦θ≦約16°、約4°≦θ≦約18°、約4°≦θ≦約16°、約6°≦θ≦約18°、約6°≦θ≦約15°、約8°≦θ≦約15°であるが、これらに限定されない。
【0036】
傾斜角度θの最適角度は、(5+X)°(Xはヒールハイト(cm))である。また、本発明における傾斜角度θの適用範囲は、最適角度の±3°の範囲が好ましく、±2°の範囲がさらに好ましく、±1°の範囲が特に好ましい。ヒールハイトの高さに応じて履物にかかる回転モーメントは変化するため、傾斜角度θがヒールハイトの高さに依存する。すなわち、ヒールハイトの高さの変化に伴い、内側の踝と外側の踝との傾斜が変化し、それにより距骨下関節の回内変位が変わり、その結果、回転モーメントが変化する。ヒールハイトが高くなるに従って回転モーメントが大きくなる傾向となる。そのため、ヒールハイトが高くなるに従い傾斜角度θを大きくすることで回転モーメントを抑制することができる。
【0037】
本発明者は、これらの好ましい角度だと、トップリフトの偏摩耗が防止されて交換寿命が延長され得ることを予想外に見出した。また、傾斜面の任意の点における接平面と基準面との角度がθ×0.8以上かつθ以下であることが好ましい。
【0038】
第1部分から第2部分への傾斜の傾斜角度は、0°超θ以下であり得る。第1部分から第3部分への傾斜の傾斜角度は、0°以上θ以下であり得る。第2部分から第4部分への傾斜の傾斜角度は、0°以上θ以下であり得る。第3部分から第4部分への傾斜の傾斜角度は0°超θ以下であり得る。第1部分、第2部分、第3部分、第4部分のそれぞれは、段差を形成するのではなく、滑らかに傾斜を形成することが好ましい。なお、ヒールアセンブリ100の接地面125に凹みや突起が形成されていたとしても、接地面125が全体として本発明で企図される傾斜を達成している限り、本発明の範囲内に入ることが当然に理解されるべきである。
【0039】
本発明のヒールアセンブリ100の接地面125の傾斜は、
・トップリフト120の厚さを変動させること、
・リフト130の形状を変更すること、
のうちの1つまたは両方によって達成され得る。例えば、ヒールアセンブリ100の接地面125が「第1部分から第4部分に向けて傾斜している」構成は、トップリフト120の第1部分を第4部分よりも相対的に厚くすることによって達成され得る。加えて/あるいは、ヒールアセンブリ100の接地面125が「第1部分から第4部分に向けて傾斜している」構成は、リフト130の下方(トップリフト120側)において、トップリフト120の第1部分に対応する部分を、トップリフト120の第4部分に対応する部分よりも下方に突出させ、トップリフト120の第2部分および第3部分に対応する部分は少なくとも第1部分に対応する部分よりも下方には突出させないことによって達成され得る。
【0040】
本発明の接地面125の傾斜のパターンを、
図6A~
図6Eに図示する。
図6Aはパターン1の実施形態を示し、
図6Bはパターン2の実施形態を示し、
図6Cはパターン3の実施形態を示し、
図6Dはパターン4の実施形態を示し、
図6Eはパターン5の実施形態を示している。いずれのパターンにおいても、第1部分から第4部分に向けて傾斜している点は本発明の根幹であり、全パターンに共通している点に留意されたい。なお、
図6A~
図6Eにおいて示される(i)~(iv)は、(i)から(iv)まで数字の小さいものから大きいものに向かって接地面が傾斜していることを意味している。
【0041】
図6Aに示されるように、パターン1の傾斜は、第1部分から第4部分に傾斜するのに加えて、第1部分から第2部分および第3部分に向かって傾斜し、そして第2部分および第3部分からも第4部分に向かって傾斜している。
【0042】
図6Bに示されるように、パターン2の傾斜は、第1部分→第2部分→第3部分→第4部分の順に厚さが薄くなるように傾斜している。傾斜によって得られる効果は他のパターンのとおりである。
【0043】
図6Cに示すパターン3の傾斜は、
図6Bのパターン2の傾斜の変形例で、第1部分→第3部分→第2部分→第4部分の順に厚さが薄くなるように傾斜している。
【0044】
図6Dに示すパターン4の傾斜は、第1部分から第4部分へ、第1部分から第2部分へ、第3部分から第4部分へそれぞれ傾斜し、さらに第1部分から第3部分へ傾斜しているが、第2部分から第4部分へは傾斜していない。
【0045】
図6Eに示すパターン5の傾斜は、第1部分から第4部分へ、第1部分から第2部分へ、第3部分から第4部分へそれぞれ傾斜し、さらに第2部分から第4部分へ傾斜しているが、第1部分から第3部分へは傾斜していない。
【0046】
パターン1~5の傾斜は、トップリフトの厚みを変動させることによっても達成され得る。本発明の効果の観点からは、パターン1~5が好ましく、パターン3(
図6C)が特に好ましい。
【0047】
図5は、
図3(b)、
図4に示すトップリフト120の傾斜面125の第1部分から第4部分への傾斜の方向角度δを示す図である。
【0048】
傾斜の方向角度δは、約0°≦δ≦約90°、約35°≦δ≦約85°、約40°≦δ≦約70°、好ましくは約45°≦δ≦約65°であり得る。上述のとおり、本発明においては、前側の外側から内側への傾斜、後側の外側から内側への傾斜、および前方から後方への傾斜はそれぞれ異なる効果を奏するものである。本発明者は、広範な被験体に試作品を試験した結果、上記の方向角度δでヒールアセンブリを傾斜させることが、多くの対象(特に、過回外の人)に好ましいことを見出した。
【0049】
なお、本発明のヒールアセンブリ、リフトまたはトップリフトの特定の実施形態(パターン1、パターン3、パターン4またはパターン5)は、左足用と右足用とで鏡像関係にあり、別個の部材であることが理解されるであろう。慣習的に、リフトもトップリフトも、それゆえヒールアセンブリも当然に、左足用と右足用とで同一の形状であった。しかしながら、本発明の特定の実施形態(パターン1、パターン3、パターン4またはパターン5)は、内側・前側の第1部分から外側・後側の第4部分に向かってヒールアセンブリの接地面を傾斜させるため、左足用と右足用とでは形状が異なる。1つの実施形態において、本発明は、左足用のヒールアセンブリと右足用のヒールアセンブリの組み合わせを提供する。
【0050】
(履物およびヒールアセンブリ)
本発明において、履物は、例えば、ハイヒールなどの婦人靴、紳士靴、運動靴等の任意の靴であり得る。
【0051】
ヒールアセンブリは、履物本体とは別部材であってもよいし、履物本体と一体に形成された部分であってもよい。リフトとトップリフトとを、単一部材から構成してもよく、別個の部材から構成してもよい。
【0052】
1つの実施形態において、本発明の履物におけるトップリフトの接地面の全体の面積は、45mm×45mmの範囲内に入る程度の面積であり得る。このように狭い面積においては、接地面の傾斜の足へ及ぼす影響が大きいため、特に好ましい。
【0053】
1つの実施形態において、本発明の履物は、ハイヒールである。ハイヒールは、特に接地面のトップリフトが偏摩耗して交換が必要になることが多い靴であるが、トップリフトを交換するときに、トップリフトの形状を調整することによって、本発明の好ましい傾斜をハイヒールに設けることが容易にできる。
【0054】
履物がハイヒールである実施形態において、ハイヒールのトップリフトの接地面の全体の面積は、約25mm2~約900mm2であり、さらなる実施形態においては約25mm2~約500mm2である。
【0055】
履物がハイヒールである実施形態において、ハイヒールのトップリフトの厚みは一番厚いところで、約2mm~約20mm、約3mm~約15mm、特に好ましくは約4mm~約8mmであり得る。
【0056】
トップリフトの傾斜%は、約5%~約100%であり得る。好ましい実施形態においては、約10%~約50%の範囲であり得る。さらに好ましい実施形態においては、約15%~約30%であり得る。ここで、傾斜%とは、トップリフトの一番薄い場所の厚さに対する一番厚い場所の厚さの割合のことをいう。
【0057】
本発明は、本発明の傾斜を有する履物の製造方法だけでなく、使用済みまたは使用中の履物の修理の際に本発明の傾斜を当該履物に付与する、履物の修理方法も含む。
【0058】
代表的な1つの実施形態において、本発明の履物の修理方法は、ヒールアセンブリのトップリフトを交換して本発明の傾斜を付与する工程を包含し得る。本発明の修理方法において、上記トップリフトの交換は、ヒールアセンブリのトップリフトに後述する楔状部材を装着することを包含し得る。トップリフトの交換による本発明の傾斜の付与は、形状を調整したトップリフトを製造し、それを使用済みのトップリフトと交換することによって達成されてもよいし、従来の傾斜のない平坦なトップリフトを装着した際に、例えば接地面を削ることによって達成されてもよいし、従来の傾斜のない平坦なトップリフトを装着したものに、楔状部材を装着することによって達成されてもよい。
【0059】
本発明のヒールアセンブリの接地面において、水平部分は接地面全体の約60%以下であってもよく、約50%以下であってもよく、約40%以下であってもよく、約30%以下であってもよく、好ましくは約20%以下であり、特に好ましくは約10%以下であり得る。慣習的に、ヒールアセンブリは、ヒールアセンブリの接地面において水平部分を多くすることでヒールアセンブリの接地面積を増加させ接地時の安定化を図っていたが、傾斜面を設けることにより水平部分が接地面全体の約30%以下といった水平部分をかなり少なくした場合であっても、接地時の安定性が損なわれるどころか増すことを本発明者は発見した。
【0060】
本発明の傾斜は、歩行時に距骨下関節が過回外になる対象において特に有用であることから、1つの実施形態において、本発明の履物の修理方法は、修理前にまず、履物の所有者が歩行時に距骨下関節が過回外になる対象であることを確認し、その後、当該履物のヒールアセンブリが本発明の傾斜を有するように修理するものであってもよい。
【0061】
(具体的な実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0062】
図1は、本発明のヒールアセンブリ100が装着された履物10の一例を示す外観図である。
図1において、履物10は、ハイヒールとして説明するが、本発明はこれに限定されない。例えば、ハイヒール以外の婦人靴、紳士靴、運動靴、ウェッジソールなどであってもよい。
【0063】
ヒールアセンブリ100は、トップリフト120と、リフト130とを備える。トップリフト120は、履物10の後部において接地する部分であり、接地面125を有する。リフト130は、履物本体110とトップリフト120とを接続する部分であり、接続する面であるヒールシート135を有する。
【0064】
図3は、トップリフトを説明する斜視図であって、
図3(a)は従来のトップリフトを示す図、
図3(b)は本発明の左足用トップリフトを示す図である。
図3(a)および(b)に示されるトップリフトは、それぞれ左足用のトップリフトである。
図3(b)に示す本発明のトップリフト120は、
図3(a)に示す従来のトップリフトと同様に、ベース121とピン122とを備える。ベース121は、ピン122が延びる第1の面と、第1の面と反対側の第2の面とを備える。ベース121の第1の面は、リフトとの接続面である。そして、ベース121の第2の面は、接地面125である。ピン122は、トップリフト120をリフト130(図示せず)に装着するために、リフト130の底面に形成された挿入穴に嵌め合い挿入される。好ましい実施形態において、ピン122の表面をローレット加工(凹凸加工)してもよい。こうすることにより、ピン122がリフト130内部で回転することを防止し、リフト130からトップリフト120が抜け落ちることを抑制する。
【0065】
図3(b)に示す実施形態において、リフト130とトップリフト120との接続を、リフト130の挿入孔にトップリフト120のピン122を嵌め合い挿入する場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。任意の接続方法を採用し得る。例えば、リフト130とトップリフト120とを接着剤などで接着固定してもよいし、ボルトによる固定であってもよい。
【0066】
トップリフト120の第1の面および第2の面の表面形状は任意の形状であり得る。
図3(b)に示す実施形態においては、馬蹄形状であるが、本発明はこれに限定されない。例えば、円形状であってもよいし、半円形状であってもよいし、矩形状であってもよいし、多角形状であってもよい。
【0067】
トップリフト120のベース121の材料は、当該分野で公知の任意の材料から形成することができる。例えば、1つの実施形態において、ベース121は、ステンレススチールやアルミニウムなどの金属、ゴムやエラストマーなどの樹脂、木材、天然または人工の皮革から形成され得る。代表的な実施形態において、ベース121の材料は樹脂であり得るが、本発明はこれに限定されない。また、ベース121は1種類の材料から構成してもよいし、複数の種類の材料から構成してもよい。
【0068】
例えば、
図7に示すように、ベース121は、厚みが略均一の板状部材と楔状部材とを備え、それぞれを同じ材料から構成してもよいし、それぞれを異なる種類の材料から構成してもよい。例えば、1つの実施形態において、本発明のベース121は、公知の板状部材に、別部材である楔状部材を装着することによって形成してもよい。本発明の楔状部材は、ステンレススチールやアルミニウムなどの金属、ゴムやエラストマーなどの樹脂、木材、天然または人工の皮革から形成され得る。また、後述する軟質の層を備える実施形態においては、ベース121は当該層よりも硬質な材料から構成され得る。楔状部材は、板状部材の接地面側に装着してもよいし、リフトとの接続面側に装着してもよい。
【0069】
トップリフト120のピン122は、歩行時における衝撃や回転モーメントに耐えることが可能な範囲で任意の材料から形成することができる。例えば、1つの実施形態において、ステンレススチールやアルミニウムなどの金属材料によって形成するが、本発明はこれに限定されない。
【0070】
リフト130は任意の材料であり得る。例えば、1つの実施形態において、ステンレススチールやアルミニウムなどの金属、ゴムやエラストマーなどの樹脂、木材、天然または人工の皮革から形成されるが、本発明はこれに限定されない。また、リフト130は、1種類の材料から構成してもよいし、複数の種類の材料から構成してもよい。
【0071】
リフト130のトップリフト120との接続面の形状は、任意の形状をとり得る。好ましい実施形態において、意匠の観点から接続されるトップリフトの形状に沿った形状であるが、本発明はこれに限定されない。
【0072】
図3(b)に示されるように、ベース121は、外側かつ前側の第1部分(A1)と、内側かつ前側の第2部分(A2)と、外側かつ後側の第3部分(A3)と、内側かつ後側の第4部分(A4)とを備える。第1部分(A1)は、厚さt
1を有し、第2部分(A2)は、厚さt
2を有し、第3部分は、厚さt
3を有し、第4部分(A4)は、厚さt
4を有する。本発明のトップリフト120のベースの厚さt
1、厚さt
2、厚さt
3、厚さt
4は、
図3(a)に示す従来のトップリフトのベースとは異なり、それぞれ均一の厚さではない。
図3(b)に示すトップリフト120は、内側および外側の高さが同じである公知のリフト130に装着されると、厚さt
1を有する第1部分(A1)が外側かつ前側に位置し、厚さt
2を有する第2部分(A2)が内側かつ前側に位置し、図示されていない厚さt
3を有する第3部分(A3)が外側かつ後側に位置し、厚さt
4を有する第4部分(A4)が内側かつ後側に位置する。その状態において、ベース121は、外側かつ前側に位置する部分が最も厚く、内側かつ後側に位置する部分が最も薄くなっている。
【0073】
図4は、トップリフト120の左側面図である。
図4は、トップリフト120を、内側および外側の高さが同じである公知のリフトを介して履物本体110に装着し、履物を水平面(地面)に静置したときのトップリフト120の状態を示しており、リフトおよび履物本体は省略している。履物本体にリフトを取り付ける位置や向きについては履物の形状などに応じて適宜調整可能であることは明らかである。
【0074】
図4に示されるように、ベース121の第1部分とベース121の第4部分とを結ぶ線は、水平面に対してθの傾斜角度をなす傾斜面125を形成している。θの傾斜角度を有する傾斜面125により、歩行時に踵の部分が最初に接地するときにトップリフト120の前側と後側との広い部分が接地するようになるため、従来のトップリフトに比べて歩行時の動的安定性が向上されるとともに、トップリフト120の後端部の偏摩耗が抑制されトップリフト120の長寿命化の効果を得ることが可能となる。
【0075】
図5に示されるように、トップリフト120の接地面125の傾斜面が矢状面(履物の中心線)に対してδの方向角度をなすように形成されている。
【0076】
図8はトップリフト120の変形例であるトップリフト120aを内側および外側の高さが同じである公知のリフト130に装着している様子を示す図であって、
図8(a)は装着前を示す図であり、
図8(b)は装着後を示す図である。
図8(a)および(b)では、リフト130の断面が示されており、ヒールシートを含む上部は省略している。上述した例では、トップリフト120のベース121の下端面(接地面125)を傾斜させることにより、ヒールアセンブリの各部分の厚さを異ならせる例を説明したが、本発明のヒールアセンブリは、
図8(a)および(b)に示されるように、ベース121aの上端面が傾斜したトップリフト120aをリフト130に装着することによって、ヒールアセンブリの各部分の厚さを異ならせるようにしてもよい。
【0077】
図8(a)に示されるように、トップリフト120aがリフト130に嵌め合い挿入される前、トップリフト120aのベース121aの上端面において、第1部分との第4部分とを結ぶ線が、水平面に対してθの傾斜角度をなす傾斜面を形成する。
【0078】
図8(b)に示されるように、トップリフト120aがリフト130に嵌め合い挿入されると、ベース121aは、ベース121aの上端面の傾斜面全体がリフト130のベース121aとの接続面と接触するように変形する。これにより、トップリフト120aがリフト130を介して履物本体110に装着され、履物が水平面に静置されたとき、トップリフト120aのベース121aの下端面において、ベース121aの第1部分と第4部分とを結ぶ線が、水平面に対してθの傾斜角度をなす傾斜面が形成される。これにより、
図3(b)および
図4に示すトップリフト120と同様の効果を奏することが可能となる。
【0079】
図9は、リフト130の変形例であるリフト130aに、厚みが均一の公知のトップリフト120bを装着している様子を示す図であって、
図9(a)は装着前の様子を示す図であり、
図9(b)は装着後の様子を示す図である。
図9(a)および(b)では、リフト130aの断面が示されており、ヒールシートを含む上部は省略している。
【0080】
上述した例では、トップリフト120のベース121の下端面または上端面を傾斜させることにより、ヒールアセンブリの各部分の厚さを異ならせる例を説明したが、本発明のヒールアセンブリは、
図9(a)および(b)に示されるように、トップリフト120のベース121bとの接続面が傾斜したリフト130aに、厚みが均一の公知のトップリフト120bを装着することによって、ヒールアセンブリの各部分の厚さを異ならせるようにしてもよい。
【0081】
図9(a)に示されるように、厚みが均一の公知のトップリフト120bがリフト130aに嵌め合い挿入される前、リフト130aのベース121bとの接続面には、水平面に対してθの傾斜角度をなす傾斜面が形成される。
図9(b)に示されるように、厚みが均一の公知のトップリフト120bがリフト130aに嵌め合い挿入されると、ベース121bは、ベース121bの上端面がリフト130の傾斜した接続面全体と接触するように変形する。これにより、厚みが均一の公知のトップリフト120bがリフト130aを介して履物本体110に装着され、履物が水平面に静置されたとき、トップリフト120bのベース121bの下端面において、ベース121bの第1部分と第4部分とを結ぶ線が、水平面に対してθの傾斜角度をなす傾斜面が形成される。これにより、
図3(b)および
図4に示すトップリフト120と同様の効果を奏することが可能となる。
【0082】
図10は、リフト130の変形例であるリフト130aに、厚みが均一の公知のリフト120cを装着している様子を示す図であって、
図10(a)は装着前の様子を示す図であり、
図10(b)は装着後の様子を示す図である。
図10(a)および(b)では、リフト130aの断面が示されており、ヒールシートを含む上部は省略している。
【0083】
トップリフト120cは、リフト130aと接続される面の断面積が、リフト130aのトップリフト120cと接続される面の断面積よりも大きい点で、
図9に示されるトップリフト120bと異なっている。
【0084】
トップリフト120cをリフト130aに装着する方法は、
図9に示すトップリフト120bをリフト130aに装着する方法と同じである。装着した後、
図10(b)に示すように、トップリフト120cの不要な部分(点線部分)を削除し、最終的に
図10に示すトップリフト121cを形成するようにしてもよい。
【0085】
上述した例では、トップリフト120のベース121の下端面、トップリフト120のベース121の上端面、または、リフト130のベース121との接続面のいずれかを傾斜させることにより、ヒールアセンブリの各部分の厚さを異ならせる例を説明したが、トップリフト120のベース121の下端面、トップリフト120のベース121の上端面、および、リフト130のベース121との接続面のうちの少なくとも2つを傾斜させることにより、ヒールアセンブリの各部分の厚さを異ならせることも本発明の範囲内である。上記変形例において、傾斜角度θを付ける種々の場合について説明したが、傾斜の方向角度δについても同様に種々の変形を行うことが可能である。
【0086】
図11は、本発明のトップリフト120とは別のトップリフト120dを説明する図であって、
図11(a)は、トップリフト120dの斜視図であり、
図11(b)はトップリフト120dの側面図、
図11(c)はトップリフト120dの前面図である。
【0087】
トップリフト120dは、
図3(b)および
図4に示すトップリフト120のベース121の傾斜面に、ベース121よりも軟質な層Rを設けている。なお、
図11においては、層Rを設けることによって、全体としてはトップリフトの厚みを略均一にしているが、層Rは軟質な素材で構成されているので、ベース121に形成されている本発明の傾斜の効果が損なわれることなく奏されることに留意されたい。
【0088】
また、
図11は層Rを設けることによってトップリフトの厚みが略均一になっている実施形態を示したが、層Rが設けられていたとしても、トップリフトがベース121の傾斜と同様の傾斜を有する(すなわち、層Rの厚みが略均一であり、ベース121の傾斜がトップリフトの傾斜に反映される)実施形態も本発明に含まれることは当然である。また、
図8(a)に示されるトップリフト120aのベース121aの傾斜面に軟質層Rを設けることによって全体としてのトップリフトの厚みを略均一にする実施形態も
図11に示すトップリフト同様に本発明に含まれることは当然である。軟質の層Rは、ベース121(例えば、
図7の板状部材および楔状部材)の硬さに比べて、明確に軟質である範囲で任意の素材であり得る。例えば、層Rを構成する素材は、軟質ウレタン、軟質ゴムなどの軟質樹脂、または発泡樹脂であるが、本発明はこれに限定されない。
【0089】
図14は、本発明の修理方法を示すための、ヒールアセンブリ接地面の模式図である。本発明の修理方法においては、まず、修理者はユーザの靴のヒールアセンブリの接地面を観察し、ヒールアセンブリ後方においてどこが減っているかを確認し得る。(1)は、ヒールアセンブリの後側外側からヒールアセンブリが減っている(黒色部分)ことを示し、これは靴の所有者が歩行時に距骨下関節が過回外になる傾向があることを示す。(2)はヒールアセンブリの後側略中心からヒールアセンブリが減っていることを示し、これは靴の所有者が歩行時に距骨下関節が過回内になる傾向があることを示す。(3)はヒールアセンブリの後側内側からヒールアセンブリが減っていることを示し、これは靴の所有者が歩行時に距骨下関節が著しく過回内になる傾向があることを示す。
【0090】
次いで、
図15に記載されているように、修理者は減り始める点Xを特定する。減り始める点Xは、ヒールアセンブリの接地面において、接地面の基準面から最も減っている部分のヒールアセンブリの接地面上の点であり、減っている領域の端点(
図15におけるaおよびbを参照のこと)の外縁の略中点であることが多い。その点Xにおける接線Yに対する垂線Zを特定する。この垂線Zの矢印の方向が、ヒールアセンブリのユーザの踵接地の方向である。
【0091】
次いで、
図16に記載されているように、垂線Zから角度βだけ角度を内転させて(左足においては反時計回り方向、右足においては時計回り方向)、傾斜方向αを決定する。傾斜方向αは、前側から後側に向って、線αに沿って傾斜する傾斜を表す。本発明の修理方法においては、この傾斜方向αに沿って、ヒールアセンブリに傾斜を付与することができる。この傾斜の付与の方法としては、上記のとおり、傾斜を有するトップリフトへの交換によってもよいし、楔状部材を装着してもよいし、平坦なトップリフトに交換した際に接地面を削ることによってもよいし、平坦なトップリフトを装着したものに楔状部材をさらに装着することによって達成してもよい。
【0092】
本発明の好ましい実施形態において、本発明の修理方法における角度βは、約0°~約45°、約5°~約40°、好ましくは約10°~約30°であり得る。
【0093】
理論に拘束されることを意図しないが、上記のように、ユーザの普段の歩行時の踵接地の方向から、ヒールアセンブリの接地面の傾斜を内転させることによって、ヒールアセンブリの後側部分は、歩行時に内股になるのを防いだり、親指の付け根や小指の先の痛みを軽減する効果を奏し得る。ヒール接地面の後側部分は、踵接地~足底接地の履物の挙動を担う。ヒールアセンブリの接地時には、接地した部分からブレーキがかかり、そのブレーキがかかる方向に履物が引っ張られるように力が発生する。特にハイヒールを使用する女性には内股の特徴を有する者が多く、内側から接地して履物に外から内に回転するように力がかかる。そうすると、履物の内部が足の親指の付け根や小指の先と摩擦を起こし、親指の付け根や小指の先の痛みを生じ得る。本発明は、歩行時に地面に最初に接地する後側部分において、普段の歩行よりも外側から内側へ向かう傾斜を設けることにより、歩行時に外側から接地して履物に内から外に回転するように力がかかる。これによって、内股が抑制され、親指の付け根や小指の先の痛みが軽減され得る。踵骨アキレス腱円側停止部の靴ずれやふくらはぎの張りも防止され得る。
【0094】
理論に拘束されることを意図しないが、上記のように、ユーザの普段の歩行時の踵接地の方向から、ヒールアセンブリの接地面の傾斜を内転させることによって、ヒールアセンブリの前側部分は、特に立脚期後半の側方動揺性の軽減に寄与し得る。立脚中期ヒール接地面の前側部分は、歩行時に、足の接地後に足に体重が載ったタイミング(踵接地より後かつ踵離れより前)の履物の挙動を担う。典型的に、中足骨は内側列から外側列に向って短くなる。そうすると、人は接地時に内から外に向かう力を足に受け、体重がかかると体が傾く。これを側方動揺性という。側方動揺性は、特に人の足腰の疾患に関連し得る。本発明の修理方法は、普段の歩行時の踵接地の方向よりも、前側部分を外側から内側に向けて傾斜させることによって、側方動揺性を軽減し、歩行時の側方動揺性による膝関節への負担を軽減し得る。
【0095】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。
【符号の説明】
【0096】
10 履物
100 ヒールアセンブリ
110 履物本体
120 トップリフト
121 ベース
122 ピン
130 リフト