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▶ ミレニアム ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッドの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】慢性回腸嚢炎の治療のための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240603BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20240603BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240603BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240603BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240603BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240603BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20240603BHJP
   C07K 16/46 20060101ALN20240603BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 Y
A61K31/496
A61K45/00
A61P1/00
A61P1/04
A61P43/00 121
C07K16/18 ZNA
C07K16/46
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019565281
(86)(22)【出願日】2018-05-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-27
(86)【国際出願番号】 IB2018053760
(87)【国際公開番号】W WO2018215995
(87)【国際公開日】2018-11-29
【審査請求日】2021-05-26
(31)【優先権主張番号】62/511,832
(32)【優先日】2017-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500287639
【氏名又は名称】ミレニアム ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MILLENNIUM PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100181168
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 智裕
(72)【発明者】
【氏名】ロザリオ,マリア
(72)【発明者】
【氏名】スミス,マイケル デイビッド ローレンス
(72)【発明者】
【氏名】タン,ハウ
【審査官】平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-514346(JP,A)
【文献】ClinicalTrials.gov Archive NCT02790138 on 2017_05_04,2017年05月04日,Retrieved from the Internet: URL,https://clinicaltrials.gov/ct2/history/NCT02790138
【文献】臨牀と研究,2014年,91巻8号,1017-1021
【文献】医学のあゆみ,2016年,Vol.265, No.10,p.1107-1111
【文献】Int J Colorectal Dis,2017年01月,32,597-598
【文献】Inflammatory Bowel Diseases,2017年01月,Volume 23, Issue 1, Pages E5-E6
【文献】日本大腸肛門病会誌,2011年,64,834-841
【文献】ClinicalTrials.gov Archive NCT02620046 on 2017_05_24,2017年05月24日,Retrieved from the Internet: URL,https://clinicaltrials.gov/ct2/history/NCT02790138
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象における慢性回腸嚢炎を治療するための組成物であって、前記組成物は、治療的有効用量の、IgG抗体であるヒト化抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を含み、前記抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片が、配列番号4に記載されるCDR3ドメイン、配列番号3に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号2に記載されるCDR1ドメインを含む重鎖可変領域を含み、かつ配列番号8に記載されるCDR3ドメイン、配列番号7に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号6に記載されるCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含み、
前記組成物が、前記ヒト対象にシプロフロキサシンを投与することをさらに含む投薬レジメンに従って投与され、前記シプロフロキサシンは、前記抗α4β7抗体またはその抗原結合断片の初回投与後4週までに中断され、
前記ヒト対象が、選択時に6の内視鏡的回腸嚢炎疾患活性指数(PDAI)サブスコアおよび7以上の回腸嚢炎疾患活性指数(PDAI)スコアを有しており、
前記ヒト対象が、潰瘍性大腸炎に対する全直腸結腸切除術及び回腸嚢肛門吻合術(IPAA)を受けており
前記ヒト対象が、抗生物質を用いた治療に対し、十分な応答が欠如していたか、応答が喪失していたか、または不耐性であったものであり、かつ、
前記ヒト対象が、前記抗α4β7抗体またはその抗原結合断片の前記初回用量後約14週までに回腸嚢炎の寛解を達成し、前記寛解が、<5の修正された回腸嚢炎疾患活性指数(mPDAI)スコア、及び基準から2以上の総体的なmPDAIスコアにおける減少を有する回腸嚢炎として定義されるものである、
前記組成物。
【請求項2】
前記治療的有効用量が、108mgまたは300mgである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物は、300mgの初回用量の前記ヒト化抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片、続いて、その後少なくとも2週後に、300mgの第2の用量の前記抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を前記ヒト対象に投与することを含む投薬レジメンに従って投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記第2の用量が初回用量から2週後に投与される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記投薬レジメンが108mgの用量を2週毎にヒト対象に皮下投与することをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片が、配列番号1に記載される重鎖可変領域と、配列番号5に記載される軽鎖可変領域と、を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片が、配列番号9に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号10に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記抗α4β7抗体はベドリズマブである、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
シプロフロキサシンが毎日投与される、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記ヒト対象が、選択の前に、長期の連続的な低用量抗生物質療法を受けているか、または頻回パルスの抗生物質を受けている、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記ヒト対象が、選択の少なくとも1年前に回腸嚢肛門吻合術(IPAA)を受けている、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
寛解が、前記抗α4β7抗体、またはその断片の前記初回用量後少なくとも34週持続される、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記ヒト対象が、
回腸嚢炎の症候的な寛解、
基準と比較した14週及び34週での内視鏡的PDAIスコアにおける変化、
基準と比較した14週及び34週での組織学的所見のPDAIスコアにおける変化、基準と比較した14週及び34週でのPDAIスコアにおける変化、
基準と比較した14、22、34週での炎症性腸疾患アンケート(IBDQ)の合計スコア及びサブスケールスコアの変化、または
基準と比較した14、22、34週での3項目Cleveland Global Quality of Life(CGQL)の変化
のうちの少なくとも1つを達成する、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記抗α4β7抗体、またはその断片が、前記ヒト対象の静脈内に投与される、請求項1または3に記載の組成物。
【請求項15】
前記抗α4β7抗体、またはその断片が、前記ヒト対象の皮下に投与される、請求項1または3に記載の組成物。
【請求項16】
前記ヒト対象が、
選択の1年前に3回の再発を発症し、2週間の抗生物質または他の療法でそれぞれ治療されたか、または
選択の直前に4週間の連続的な抗生物質療法を継続する必要があった
のいずれかである、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
前記ヒト対象が、選択時にTNFαナイーブであった、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
経口コルチコステロイド療法と組み合わせて投与される、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
前記経口コルチコステロイド療法は、減少または中断されるように漸減される、請求項18に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2017年5月26日に出願された、米国仮出願第62/511,832号に対する優先権を主張する。優先権文書の内容が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、慢性回腸嚢炎の治療または予防のための例えば、ベドリズマブのような抗α4β7インテグリン抗体の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
回腸嚢炎は病態が十分に理解されておらず、回腸嚢の処置を受けている患者において10年~11年にわたって23%~46%の累積度数と報告されている(Fazio VW,et al.Ileal pouch-anal anastomoses complications and function in 1005 patients.Ann Surg 1995;222(2):120-7、Ferrante M,et al.Outcome after proctocolectomy with ileal pouch-anal anastomosis for ulcerative colitis.Inflamm Bowel Dis 2008;14(1):20-8)。回腸嚢炎の病因は、多因子性である可能性が高い。回腸嚢炎は、嚢の回腸粘膜が、短鎖脂肪酸及び胆汁酸のような排泄物の有害成分に曝露されることに一部起因し得、それを完全に適合させることができない。変更された免疫調節、回腸に影響を及ぼす以前に診断されていないクローン病疾患(CD)、及び粘膜血流が減少されることに起因する虚血が、回腸嚢炎の病因においてさらに関与し得る(Shen B.Acute and chronic pouchitis--pathogenesis,diagnosis and treatment.Nat Rev Gastroenterol Hepatol 2012;9(6):323-33)。
【0004】
メトロニダゾールまたはシプロフロキサシンのような抗生物質、及びLactobacilliを含むプロバイオティクスを用いた治療に対する回腸嚢炎の臨床応答は、排泄物の沈滞、C.difficile感染、バクテリアの異常増殖、またはディスバイオシス(排泄物のバクテリア集団間の割合の変化)が誘因であり得ることを示唆する。成功した場合もあればそうでない場合もある、回腸嚢炎の治療のために試験された他の治療剤には、メサラミン、コルチコステロイド、栄養剤(座薬または浣腸剤ごとに投与される短鎖脂肪酸、グルタミン、または可溶性繊維)、免疫修飾剤、紙巻タバコ及び経皮ニコチン、ビスマス含有剤、ならびにアロプリノールが含まれる。(Shen B.Acute and chronic pouchitis-pathogenesis,diagnosis and treatment.Nat Rev Gastroenterol Hepatol 2012;9(6):323-33)。重要なことに、これらの治療法は、治験における有効性が示されていない。さらに、それらの非特異的な作用機構のために、これらの治療法のうちのいくつかの使用は、患者が感染合併症のリスクにさらされ得る。
【0005】
回腸嚢炎の一次及び二次予防のためのプロバイオティクス剤VSL#3の3つの治験からの結果が公表されており、およそ85%~90%の有効性が示されている。しかしながら、慣例のケアにおける長期的な有効性は、別の研究において再現できなかった。
【0006】
回腸嚢炎は、短期的な抗生物質療法に応答し得るが、一部の患者は再発性の回腸嚢炎を経験し、寛解を維持するための長期にわたる抗生物質療法、または嚢の外科的除去のより抜本的な選択が必要とされる。慢性または再発性の回腸嚢炎は、最も頻繁に処方される抗生物質であるメトロニダゾール及びシプロフロキサシンを用いた、長期的な抗生物質の投与により多くの場合に管理される(Mahadevan et al.Diagnosis and management of pouchitis.Gastroenterology 2003;124(6):1636-50)。
【0007】
現在、米国またはヨーロッパにおいて、回腸嚢炎の治療または予防のための承認された薬は存在しない。したがって、回腸嚢炎、特に慢性回腸嚢炎のための効果的な治療法に対して、大きな未だ満たされていない医学的ニーズが存在する。
【発明の概要】
【0008】
本明細書で提供される発明は、とりわけ、例えばベドリズマブのような抗α4β7インテグリン抗体を対象に投与することにより、回腸嚢炎を治療する方法を開示する。本発明は、例えばベドリズマブのような抗α4β7インテグリン抗体を対象に投与することにより、慢性回腸嚢炎を治療する方法をさらに提供する。
【0009】
一態様において、本発明は、ヒト対象における慢性回腸嚢炎を治療する方法であって、該方法が、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を選択することと、慢性回腸嚢炎が治療されるように、治療的有効用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を対象に投与することと、を含み、抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片が、配列番号4に記載されるCDR3ドメイン、配列番号3に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号2に記載されるCDR1ドメインを含む重鎖可変領域を含み、かつ配列番号8に記載されるCDR3ドメイン、配列番号7に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号6に記載されるCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む、方法を提供する。
【0010】
別の態様において、本発明は、ヒト対象における慢性回腸嚢炎を治療する方法であって、該方法が、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を選択することと、慢性回腸嚢炎が治療されるように、治療的有効用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を対象に投与することと、を含み、抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片が、配列番号4に記載されるCDR3ドメイン、配列番号3に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号2に記載されるCDR1ドメインを含む重鎖可変領域を含み、かつ配列番号8に記載されるCDR3ドメイン、配列番号7に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号6に記載されるCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含み、ヒト対象が、選択時に6の内視鏡的回腸嚢炎疾患活性指数(PDAI)サブスコアを有しており、及び/または選択時にTNFαナイーブであった、方法を提供する。
【0011】
一実施形態において、治療的有効用量は、108mg、300mg、及び600mgからなる群から選択される。
【0012】
別の態様において、本発明は、ヒト対象における慢性回腸嚢炎を治療する方法であって、該方法が、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を選択することと、慢性回腸嚢炎が対象において治療されるように、300mgの初回用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片、続いて、その後少なくとも2週毎に300mgの後続用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片をヒト対象に1回以上投与することと、を含み、抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片が、配列番号4に記載されるCDR3ドメイン、配列番号3に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号2に記載されるCDR1ドメインを含む重鎖可変領域を含み、かつ配列番号8に記載されるCDR3ドメイン、配列番号7に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号6に記載されるCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む、方法を提供する。
【0013】
別の態様において、本発明は、ヒト対象における慢性回腸嚢炎を治療する方法であって、該方法が、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を選択することと、ヒト対象に、300mgの初回用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、初回用量から約2週後に、300mgの第2の用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、初回用量から約6週後に、300mgの第3の用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、第3の用量後8週毎に、300mgの後続用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を1回以上投与することと、を含み、抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片が、配列番号4に記載されるCDR3ドメイン、配列番号3に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号2に記載されるCDR1ドメインを含む重鎖可変領域を含み、かつ配列番号8に記載されるCDR3ドメイン、配列番号7に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号6に記載されるCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む、方法を含む。
【0014】
また別の態様において、本発明は、ヒト対象における慢性回腸嚢炎を治療する方法であって、該方法が、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を選択することと、ヒト対象に、300mgの初回用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、初回用量から約2週後に、300mgの第2の用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、初回用量から約6週後に、300mgの第3の用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、第3の用量後4もしくは8週毎に、300mgの用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、を含み、抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片が、配列番号4に記載されるCDR3ドメイン、配列番号3に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号2に記載されるCDR1ドメインを含む重鎖可変領域を含み、かつ配列番号8に記載されるCDR3ドメイン、配列番号7に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号6に記載されるCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む、方法を提供する。
【0015】
さらなる態様において、本発明は、ヒト対象における慢性回腸嚢炎を治療する方法であって、該方法が、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を選択することと、ヒト対象に、600mgの初回用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、初回用量から約2週後に、600mgの第2の用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、初回用量から約6週後に、600mgの第3の用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、第3の用量後4もしくは8週毎に、600mgの用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、を含み、抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片が、配列番号4に記載されるCDR3ドメイン、配列番号3に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号2に記載されるCDR1ドメインを含む重鎖可変領域を含み、かつ配列番号8に記載されるCDR3ドメイン、配列番号7に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号6に記載されるCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む、方法を提供する。
【0016】
追加の態様において、本発明は、ヒト対象における慢性回腸嚢炎を治療する方法であって、該方法が、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を選択することと、ヒト対象に、300もしくは600mgの初回用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、初回用量から約2週後に、300もしくは600mgの第2の用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、初回用量から約6週後に、300もしくは600mgの第3の用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、第3の用量の後1または2週毎に、108mgの用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を皮下に投与することと、を含み、抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片が、配列番号4に記載されるCDR3ドメイン、配列番号3に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号2に記載されるCDR1ドメインを含む重鎖可変領域を含み、かつ配列番号8に記載されるCDR3ドメイン、配列番号7に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号6に記載されるCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む、方法を提供する。
【0017】
さらなる態様において、本発明は、ヒト対象における慢性回腸嚢炎を治療する方法であって、該方法が、慢性回腸嚢炎を有する対象を選択することと、慢性回腸嚢炎が治療されるように、治療的有効用量の抗α4β7抗体を対象に投与することと、を含み、抗α4β7抗体がベドリズマブであり、ヒト対象が、選択時に5を超える内視鏡的PDAIサブスコアを有しており、及び/またはヒト対象が、選択時にTNFαナイーブであった、方法を提供する。
【0018】
一実施形態において、抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、配列番号1に記載される重鎖可変領域と、配列番号5に記載される軽鎖可変領域と、を含む。
【0019】
一実施形態において、抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、配列番号9に記載される重鎖と、配列番号10に記載される軽鎖と、を含む。
【0020】
一実施形態において、治療的有効用量は、108mg、300mg、及び600mgからなる群から選択される。
【0021】
一実施形態において、抗α4β7抗体は、例えばIgG1またはIgG4アイソタイプのようなIgG抗体である。
【0022】
一実施形態において、抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片はヒト化されている。
【0023】
一態様において、本発明は、ヒト対象において慢性回腸嚢炎を治療する方法であって、該方法が、慢性回腸嚢炎を有する対象を選択することと、慢性回腸嚢炎が治療されるように、治療有効量の抗α4β7-抗体を対象に投与することと、を含み、抗α4β7抗体がベドリズマブである、方法を提供する。一実施形態において、ベドリズマブの治療的有効用量は、108mg、300mg、及び600mgからなる群から選択される。
【0024】
別の態様において、本発明は、ヒト対象における慢性回腸嚢炎を治療する方法であって、該方法が、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を選択することと、慢性回腸嚢炎が対象において治療されるように、300mgの初回用量の抗α4β7抗体、続いて、その後少なくとも2週毎に300mgの後続用量の抗α4β7抗体を1回以上ヒト対象に投与することと、を含み、抗α4β7抗体がベドリズマブである、方法を特徴とする。
【0025】
さらに別の態様において、本発明は、ヒト対象における慢性回腸嚢炎を治療する方法であって、該方法が、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を選択することと、ヒト対象に、300mgの初回用量の抗α4β7抗体を投与することと、初回用量から約2週後に、300mgの第2の用量の抗α4β7抗体を投与することと、初回用量から約6週後に、300mgの第3の用量の抗α4β7抗体を投与することと、第3の用量後8週毎に、300mgの後続用量の抗α4β7抗体を1回以上投与することと、を含み、抗α4β7抗体がベドリズマブである、方法を提供する。
【0026】
別の態様において、本発明は、ヒト対象における慢性回腸嚢炎を治療する方法であって、該方法が、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を選択することと、慢性回腸嚢炎が対象において治療されるように、600mgの初回用量の抗α4β7抗体、続いて、その後少なくとも2週毎に600mgの後続用量の抗α4β7抗体を1回以上ヒト対象に投与することと、を含み、抗α4β7抗体がベドリズマブである、方法を特徴とする。
【0027】
さらに別の態様において、本発明は、ヒト対象における慢性回腸嚢炎を治療する方法であって、該方法が、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を選択することと、ヒト対象に、600mgの初回用量の抗α4β7抗体を投与することと、初回用量から約2週後に、600mgの第2の用量の抗α4β7抗体を投与することと、初回用量から約6週後に、600mgの第3の用量の抗α4β7抗体を投与することと、第3の用量後8週毎に、300mgの後続用量の抗α4β7抗体を1回以上投与することと、を含み、抗α4β7抗体がベドリズマブである、方法を提供する。
【0028】
特定の実施形態において、本発明は、ヒト対象における慢性回腸嚢炎を治療する方法であって、該方法が、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を選択することと、慢性回腸嚢炎が対象において治療されるように、300mgまたは600mgの初回用量の抗α4β7抗体、続いて、その後少なくとも2週毎に300mgまたは600mgの後続用量の抗α4β7抗体をヒト対象に投与することと、を含み、抗α4β7抗体がベドリズマブである、方法を提供する。
【0029】
追加の態様において、本発明は、ヒト対象における慢性回腸嚢炎を治療する方法であって、該方法が、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を選択することと、ヒト対象に、300mgまたは600mgの初回用量の抗α4β7抗体を投与することと、初回用量から約2週後に、300mgまたは600mgの第2の用量の抗α4β7抗体を投与することと、初回用量から約6週後に、300mgまたは600mgの第3の用量の抗α4β7抗体を投与することと、第3の用量後8週毎に、300mgまたは600mgの後続用量の抗α4β7抗体を1回以上投与することと、を含み、抗α4β7抗体がベドリズマブである、方法を提供する。
【0030】
一実施形態において、初回用量は300mgであり、後続用量は600mgであり、かつ初回用量後4週毎または8週毎に投与される。
【0031】
別の実施形態において、初回用量は600mgであり、後続用量は600mgであり、かつ初回用量後4週毎または8週毎に投与される。
【0032】
別の実施形態において、初回用量は300mgであり、後続用量は300mgであり、かつ初回用量後4週毎に投与される。
【0033】
一実施形態において、本発明は、例えば日常的に、ヒト対象に例えばシプロフロキサシンのような抗生物質を投与することをさらに含む。一実施形態において、抗生物質は、抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片の初回投与後から4週までに中断される。
【0034】
一実施形態において、ヒト対象は、本明細書に記載される治療方法の選択の前に(及び選択に使用された)、長期の連続的な低用量抗生物質療法を受けているか、または頻回パルスの抗生物質(frequent pulse antibiotic)を受けている。
【0035】
一実施形態において、ヒト対象は、選択の少なくとも1年前に回腸嚢肛門吻合術(IPAA)を受けている。
【0036】
一実施形態において、ヒト対象は炎症性腸疾患(IBD)を有する。一実施形態において、IBDは潰瘍性大腸炎、例えば中程度から重度のUCである。一実施形態において、IBDはクローン病、例えば中程度から重度のクローン病である。
【0037】
一態様において、本発明の方法は、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象において、回腸嚢炎の臨床的寛解を達成するために使用される。
【0038】
一実施形態において、ヒト対象は、抗α4β7抗体またはベドリズマブの初回投与後約14週で寛解を達成する。一実施形態において、ヒト対象は、抗α4β7抗体またはベドリズマブの初回投与後約34週で寛解を達成する。
【0039】
一実施形態において、寛解は、<5の修正された回腸嚢炎疾患活性指数(mPDAI)、及び基準から≧2の総体的なmPDAIスコアにおける減少を有する回腸嚢炎として定義される。
【0040】
一実施形態において、本明細書に開示される方法は、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を治療するために使用され、ヒト対象は、回腸嚢炎の症候的な寛解、基準と比較した14週及び34週での内視鏡的PDAIスコアにおける変化、基準と比較した14週及び34週での組織学的所見のPDAIスコアにおける変化、基準と比較した14週及び34週でのPDAIスコアにおける変化、基準と比較した14、22、34週での炎症性腸疾患アンケート(IBDQ)の合計スコア及びサブスケールスコアの変化、または基準と比較した14、22、34週での3項目Cleveland Global Quality of Life(CGQL)の変化のうちの少なくとも1つを達成する。
【0041】
一実施形態において、抗α4β7抗体は、ヒト対象の静脈内に投与される。一実施形態において、抗α4β7抗体は、ヒト対象の皮下に投与される。
【0042】
一実施形態において、本明細書に開示される方法において使用される抗α4β7抗体は、エトロリズマブである。一実施形態において、エトロリズマブは、例えば、0週及びその後4週毎に105mgの用量で、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象の皮下に投与される。
【0043】
特定の実施形態において、本発明は、潰瘍性大腸炎のような炎症性腸疾患を有するヒト対象における、慢性回腸嚢炎の治療おいて使用するための抗α4β7抗体をさらに提供する。一実施形態において、抗α4β7抗体は、ベドリズマブであり、0週、2週、6週、及びその後8週毎に300mgのベドリズマブをヒト患者に投与することにより、クローン病または潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患を有するヒト対象における、慢性回腸嚢炎の治療において使用される。一実施形態において、抗α4β7抗体は、ベドリズマブであり、0週、2週、6週、及びその後4週毎に300mgのベドリズマブをヒト患者に投与することにより、クローン病または潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患を有するヒト対象における、慢性回腸嚢炎の治療において使用される。一実施形態において、抗α4β7抗体は、ベドリズマブであり、0週、2週、6週、及びその後2週毎に108mgのベドリズマブをヒト患者に投与することにより、クローン病または潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患を有するヒト対象における、慢性回腸嚢炎の治療において使用される。ベドリズマブは、皮下または静脈内のどちらかに投与され得る。本明細書に開示される方法及び他の治療パラメータ(例えば、サブ集団、臨床的エンドポイント)を使用する慢性回腸嚢炎の治療において使用するための、エトロリズマブなどの他の抗α4β7抗体も考慮される。
【発明を実施するための形態】
【0044】
最近では、潰瘍性大腸炎を有する患者における慢性回腸嚢炎の治療にベドリズマブを使用する、様々な関係者により研究が完成されている。Barらに記載された一研究(Bar et al.(Dec.2017)Aliment.Pharmacol.Ther.47:581-587)において、潰瘍性大腸炎及び難治性回腸嚢炎(慢性抗生物質依存性回腸嚢炎)を有する患者は、0、2、6、10週で300mgのベドリズマブを静脈内に投与された。0、2、6、10、及び14週に、患者はOreslandスコア(OS)を使用して、難治性回腸嚢炎の改善について分析された。14週の治療後に、研究における20人の患者全員がそれらのOSスコアにおいて低減を有し(改善を示す)、17人の患者が抗生物質治療を中断することができた。かかる研究は、慢性回腸嚢炎を治療するための、ベドリズマブなどの抗α4β7抗体の使用に関連する本明細書に開示される方法を支持する。
【0045】
I.定義
本発明がより容易に理解されるために、特定の用語を最初に定義する。
【0046】
本明細書で使用される「回腸嚢炎」という用語は、回腸嚢肛門吻合術(IPAA)(本明細書では「回腸嚢」としても称される)による炎症を指す。慢性回腸嚢炎とは、嚢の継続的な炎症を指し、無症候性か、または無症候性ではなく、かつ時折、再発(繰り返される)する可能性がある。本明細書で使用される「慢性回腸嚢炎」または「再発性回腸嚢炎」という用語は、再発性または治療抵抗性の疾患であることを指す。いくつかの実施形態において、再発性回腸嚢炎は、治療後に再発が回帰する疾患である。本明細書で使用される「治療抵抗性」という用語は、治療の試みられた形態に一般に応答しない疾患または状態を指す。一実施形態において、治療抵抗性の慢性回腸嚢炎は、抗生物質治療に応答しない慢性回腸嚢炎(すなわち、抗生物質抵抗性の慢性回腸嚢炎)である。一実施形態において、治療抵抗性の慢性回腸嚢炎は、抗生物質依存的であり、例えば、長期の抗生物質療法及び/またはプロバイオティクス療法を特徴とする。一実施形態において、治療抵抗性の慢性回腸嚢炎は、TNFαアンタゴニストを用いた治療に応答しない慢性回腸嚢炎(すなわち、TNF抵抗性の慢性回腸嚢炎)である。ヒト対象が回腸嚢炎を有する場合は、対象が全直腸結腸切除術及び回腸嚢肛門吻合術(IPAA)を受けていることが推測される。
【0047】
「基準」という用語は、比較のために使用される起点を指す。一実施形態において、基準とは、抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を用いて治療する以前、例えば0日目の時点を指す。
【0048】
「寛解」とは、それが回腸嚢炎に関連するとして、回腸嚢炎と診断された対象が活動性疾患を有しない臨床状態を指す。一実施形態において、対象が5未満の修正された嚢疾患活性指数(mPDAI)スコアを有する場合に、回腸嚢炎を有する対象は寛解状態にある。別の実施形態において、寛解は、例えば、抗α4β7抗体を用いた治療の以前に対する対象の基準mPDAIスコアから、≧2ポイントの対象の総体的なmPDAIスコアにおける減少として定義される。一実施形態において、寛解は、治療以前に対する対象の基準スコアと比較して、7未満のPDAIスコア及び/またはPDAIスコアにおける3以上のポイントの減少として定義される。
【0049】
「治療」または「治療する」という用語は、疾患または障害を予防または保護する、すなわち臨床症状が発症しないようにすること、疾患または障害の阻害、すなわち臨床症状の発症を阻止または抑制すること、及び/または疾患または障害の緩和、つまり臨床症状の退行を引き起こすことを含む、ヒト対象における疾患または障害の任意の治療を意味する。一実施形態において、慢性回腸嚢炎の治療は、慢性回腸嚢炎を有する対象が抗α4β7抗体を用いた投薬レジメンを施した後に抗生物質を中断することで達成される。
【0050】
「治療的有効用量」という用語は、疾患をすでに患う患者における疾患及びその合併症を治療する、または少なくとも部分的に静止させるのに十分な量として定義される。一実施形態において、治療的有効用量は、該疾患を有するヒト対象において症状を改善し、及び/または慢性回腸嚢炎に関連する合併症(例えば、抗生物質の長期使用)を排除または減少させることができる抗α4β7抗体の用量である。一実施形態において、治療的有効用量は、回腸嚢炎疾患活性指数(PDAI)スコアを低下させるか、または修正されたPDAIを、慢性回腸嚢炎と診断されたヒト対象において慢性回腸嚢炎を定義したスコアよりも低いスコアに減少させることができる抗α4β7抗体の用量である。別の実施形態において、治療的有効用量は、長期的な抗生物質またはコルチコステロイド治療を中断することができる用量である。
【0051】
細胞表面分子、「α4β7インテグリン」または「α4β7」(全体にわたって互換的に使用される)は、α4鎖(CD49D、ITGA4)とβ7鎖(ITGB7)とのヘテロダイマーである。ヒトα4及びβ7遺伝子(GenBank(National Center for Biotechnology Information、Bethesda、Md.)参照配列受託番号は、それぞれNM_000885及びNM_000889)は、B及びTリンパ球、特にメモリーCD4+リンパ球によって発現される。多くのインテグリンの典型的なα4β7は、休止または活性化状態のどちらかで存在し得る。α4β7に対するリガンドには、血管細胞接着分子(VCAM)、フィブロネクチン、及び粘膜アドレシン(MAdCAM(例えば、MAdCAM-1))が含まれる。
【0052】
本明細書で使用される「抗α4β7抗体」または「抗α4β7インテグリン抗体」とは、α4β7インテグリンと特異的に結合する抗体を指す。一実施形態において、抗α4β7抗体は、α4β7インテグリンに対する1つ以上のそのリガンドとの結合を遮断または阻害する。一実施形態において、抗α4β7抗体はα4β7と結合するが、α4β1またはαEB7とは結合しない。一実施形態において、抗α4β7抗体はベドリズマブである。
【0053】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、特定の抗原(例えば、α4β7インテグリン)と特異的に結合するまたは相互作用するCDRを含む任意の抗原結合分子を意味する。一実施形態において、抗体は、ジスルフィド結合によって相互接続された4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖、及び2つの軽(L)鎖を含むIgG抗体である。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVRまたはVHと略記される)、及び重鎖定常領域(CH)から構成される。重鎖定常領域は、3つのドメインCH1、CH2、及びCH3から構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVRまたはVLと略記される)、及び軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLから構成される。VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と称されるより保存された領域と共に散在する、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域に、さらに細分することができる。各VH及びVLは、3つのCDR及び4つのFRから構成され、アミノ末端からカルボキシ末端へと、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で配列される。CDRは、抗体の抗原結合特異性を決定する超可変ドメインとして定義される。IgG抗体の例には、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4が含まれる。重及び軽鎖を含む他の種類の抗体には、IgM、IgA1、IgA2、IgD、及びIgEが含まれる。
【0054】
本明細書で使用される、抗体の「抗体断片」または「抗原結合断片」という用語は、全体を通して互換的に使用され、Fab、Fab’、F(ab’)、及びFv断片、一本鎖抗体、機能性重鎖抗体(ナノボディ)、ならびに特異的に結合する無傷抗体と競合する、少なくとも1つの所望されるエピトープに対する特異性を有する抗体の任意の部分(例えば、エピトープと特異的に結合するために十分なフレームワーク配列を有する相補性決定領域の単離された部分)を指す。抗原結合断片は、組換え技術によって、または酵素的もしくは化学的な抗体の切断によって生成され得る。
【0055】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に同種の抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、その集団に含まれる個々の抗体は、同一であり、及び/または同じエピトープに結合するが、モノクローナル抗体の産生中に生じ得る想定されるバリアントは除外され、かかるバリアントは、一般に、少量で存在する。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。「モノクローナル」という修飾語は、実質的に同種の抗体の集団から得られるという抗体の特徴を示すものであり、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするものとして解釈されないものとする。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、最初にKohler et al.,Nature 256:495(1975)によって記載されたハイブリドーマ法によって作製されても、または組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号を参照のこと)によって作製されてもよい。「モノクローナル抗体」は、例えば、Clackson et al.,Nature,352:624-628(1991)、及びMarks et al.,J.Mol.Biol.,222:581-597(1991)に記載される技術を使用して、ファージ抗体ライブラリから単離されることもできる。
【0056】
本明細書におけるモノクローナル抗体には、具体的には、重鎖及び/または軽鎖の一部が、特定の種に由来するか、または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体内の対応する配列と同一または相同である一方で、鎖(複数可)の残りが、別の種に由来するか、または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体内の対応する配列と同一または相同である「キメラ」抗体、ならびにそれらが所望される生物学的活性を呈する限りそのような抗体の断片を含む(米国特許第4,816,567号及びMorrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851-6855(1984))。
【0057】
本明細書で使用される「ヒト化抗体」という用語は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むキメラ抗体を指す。一般的に、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域からの残基が、所望の特異性、親和性、及び能力を有するマウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域からの残基によって置き換えられる、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの場合において、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見られない残基を含み得る。これらの修飾は、抗体の性能をさらに改良するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、超可変ループ(相補性決定領域)の全てまたは実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに対応し、FRの全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のFRである、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含むことになる。ヒト化抗体は、必要に応じて、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部も含むことになる。さらなる詳細については、Jones et al.,Nature 321:522-525(1986)、Riechmann et al.,Nature 332:323-329(1988)、及びPresta,Curr.Op.Struct.Biol.2:593-596(1992)を参照されたい。
【0058】
本明細書で使用される「組換え抗体」という用語は、組換え発現ベクターに担持された遺伝子の転写及び翻訳の結果として産生される抗体を指す。一実施形態において、ベクターは宿主細胞に導入されている。あるいは、ベクターは無細胞系で使用されることができる。
【0059】
本明細書で使用される「約」という用語は、「およそ」という用語と同義で使用される。実例として、「約」という用語の使用は、引用された値のわずかに外側の値、つまりプラスまたはマイナス5%を示す。
【0060】
「TNFαナイーブ」または「TNFナイーブ」という用語は、ヒト対象が、回腸嚢炎及び/または潰瘍性大腸炎の治療のためにTNFαアンタゴニストを以前に処方されていなかった、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象の以前の治療歴を指す。TNFαアンタゴニストの例には、アダリムマブ、ゴリムマブ、エタネルセプト、インフリキシマブ、セトロリズマブペゴル、またはそれらの任意のバイオ後続品が含まれる。
【0061】
II.慢性回腸嚢炎を治療するための方法
本発明は、例えばベドリズマブ、または抗体の抗原結合断片のような抗α4β7インテグリン抗体を投与することを含む、ヒト対象において慢性回腸嚢炎を治療するための方法を提供する。本明細書に記載される治療方法は、例えば、直腸結腸切除術後の回腸嚢の炎症(回腸嚢炎)を阻害するために使用される。
【0062】
最近の研究において明白に、抗α4β7インテグリン抗体を使用して慢性回腸嚢炎を治療できることが示されている。上述されるように、Bar et al.(Bar et al.(Dec.2017)Aliment.Pharmacol.Ther.47:581-587)は、慢性回腸嚢炎を治療するためのベドリズマブの使用を検討した研究からの結果を提供する。慢性回腸嚢炎を治療するための、例えばベドリズマブなどの抗α4β7インテグリン抗体の使用を支持する追加の研究には、1)以前のTNF療法が失敗しており、ベドリズマブを投与された活動性回腸嚢炎を有するUC患者の治療の成功を記載する、Singh et al.(2018)Vedolizumab for Chronic Antibiotic Refractory Pouchitis(Digestive Disease Week(DDW)abstract Sa1829)、2)治療された患者において改善が確認された、以前のTNFアンタゴニスト療法にも失敗している、活動性回腸嚢炎を有するクローン病患者のベドリズマブを用いた治療を検討した研究の遡及的分析を記載する、Kahn et al.(2018)Vedolizumab Treatment in Crohn’s Disease of the Pouch(DDW,abstract Su1807)、ならびに3)さらに、ベドリズマブが、回腸嚢炎の臨床症状を改善することができた、クローン病及び回腸嚢炎を有する患者の治療に対してベドリズマブを検討したクローン病の研究の遡及的批評を記載する、Gregory et al.(2018)Vedolizumab for the Treatment of Pouchitis(DDW,abstract Mo1900)が含まれる。
【0063】
潰瘍性大腸炎(UC)などの大腸炎を有する患者に対して選択される外科的治療は、結腸の除去とそれに続く回腸嚢肛門吻合術(IPAA)による構築である。一般に回腸嚢炎と呼ばれる「嚢」の炎症は、これらの患者において最も共通で長期的な合併症であり、切迫感、失禁、腹部痙攣、倦怠感、及び発熱に関連する水気が多い、時には血を含む便を特徴とする。これらの異常に加えて、嚢の生検では、急性及び慢性炎症細胞、例えば多形核(PMN)白血球(例えば、好中球)の両方の強い浸潤を伴う慢性炎症性の変化が示される。
【0064】
回腸嚢炎は、例えば、潰瘍性大腸炎(UC)(医学的に難治性のUC、異形成を伴うUCを含む)、ならびに例えば肛門周囲及び/または小腸疾患を伴わない家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)もしくは若年性ポリポーシス大腸及びクローン病疾患を有する対象において、治療として使用されるIPAAによる修復直腸結腸切除術に起因する嚢の炎症である。回腸嚢炎の症状は、排便頻度の増加、切迫感、しぶり、失禁、夜間漏出、直腸出血、腹部痙攣、骨盤不快感、倦怠感、発熱を含むことができるが、これらに限定されない。急性回腸嚢炎は、一般に抗生物質治療に応答するが、急性回腸嚢炎を発症する少数の患者(およそ5%~19%)は慢性回腸嚢炎を発症し、これは管理がより困難である(例えば、Achkar et al.(2005)Clinical Gastroenterology and Hepatology 3:60-66を参照されたい)。いくつかの実施形態において、抗α4β7抗体を使用して、大腸の家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)、または若年性ポリポーシスなどのポリポーシスを経験したヒト患者において慢性回腸嚢炎を治療することができる。いくつかの実施形態において、抗α4β7抗体を使用して、結腸癌を経験したヒト患者において慢性回腸嚢炎を治療することができる。
【0065】
回腸嚢炎疾患活性指数(PDAI)は、回腸嚢炎の重症度を評価するために共通に使用される手段である(Sandborn et al.Pouchitis after ileal pouch-anal anastomosis:A pouchitis disease activity index. Mayo Clin Proc 1994;69:409-15に記載され、その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。PDAIは、臨床症状、ならびに内視鏡的及び組織学的な急性炎症に対して定量的スコアを適用する。PDAIは、IPAA後の嚢炎症について、客観的及び定量的な判断基準として開発された。18ポイントの総合スコアは、臨床症状(0~6)、内視鏡的所見(0~6)、及び組織学的変化(0~6)に基づく3つの個別の6ポイントスケールから計算される。PDAIは、内視鏡検査での症状及び炎症に加えて、急性炎症の組織学的特徴を取り入れ、「回腸嚢炎」(≧7ポイント)及び「回腸嚢炎なし」(<7ポイント)を区別するために7のカットオフを確立する。一実施形態において、本明細書に開示される方法に従った治療についてのヒト対象は、慢性回腸嚢炎を示すPDAIスコア、例えば7以上のPDAIスコアを使用して治療のために選択される。
【0066】
一実施形態において、本明細書に開示される方法を使用する治療のために選択されたヒト対象は、慢性回腸嚢炎及び5の内視鏡的PDAIサブスコアを有する。一実施形態において、本明細書に開示される方法を使用する治療のために選択されたヒト対象は、慢性回腸嚢炎及び6の内視鏡的PDAIサブスコアを有する。
【0067】
標準PDAIは依然として回腸嚢炎を診断するための共通な方法であるが、修正されたPDAIはPDAIの代替的な採点手段を提供する。修正されたPDAI(mPDAI)には、PDAIからの症状及び内視鏡検査のスコアが含まれるが、組織学のスコアは省略される。mPDAIは、急性または急性再発性の回腸嚢炎を有する患者の診断において、同様の感度及び特異性を提供する。5のカットオフは、回腸嚢炎を有する患者(mPDAI≧5)と回腸嚢炎を有しない患者(mPDAI<5)とを区別する(Shen et al.Dis Colon Rectum 2003:46(6):748-53、その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。一実施形態において、本明細書に開示される方法に従った治療についてのヒト対象は、慢性回腸嚢炎を示すmPDAIスコア、例えば5以上のmPDAIスコアを使用して治療のために選択される。一実施形態において、本明細書に開示される方法に従った治療についてのヒト対象は、慢性回腸嚢炎を示すmPDAIスコア、例えば5を超えるmPDAIスコアを使用して治療のために選択される。
【0068】
本発明の方法は、特に困難な種類の回腸嚢炎、すなわち慢性回腸嚢炎を治療するために使用される。一態様において、慢性回腸嚢炎は、治療、例えば抗生物質を用いた治療の存在下でさえ、持続期間が4週以上続く回腸嚢炎である。別の実施形態において、慢性回腸嚢炎は、≧5の修正された回腸嚢炎疾患活性指数(mPDAI)、及び1年以内の回腸嚢炎の2回を超える発症により定義される回腸嚢炎である。別の態様において、慢性回腸嚢炎は、長期の連続的な低用量抗生物質療法(例えば、シプロフロキサシンを250~500mg/日、またはメトロニダゾールを500mg/日が一度に数週間または数ヶ月間服用される)、または頻回パルスの抗生物質療法を必要とする回腸嚢炎を指す。
【0069】
例えばベドリズマブのような、抗α4β7インテグリン抗体を用いて治療する以前に、ヒト対象は慢性回腸嚢炎を有する(例えば、mPDAIスコアの≧5、前年内に2回を超える回腸嚢炎の発症を有する、または長期の連続的な低用量抗生物質療法、例えば毎日、継続的もしくは頻回パルスの抗生物質療法を必要とする)ものとして選択される。急性回腸嚢炎は短期の抗生物質療法に応答することができるが、再発性または慢性回腸嚢炎は、回腸嚢炎を管理するために長期的な抗生物質療法を必要とする場合があり、しかしながら、長期的な抗生物質の使用は抗生物質耐性につながる可能性がある。一部の対象は、慢性または再発性の回腸嚢炎を治療するために、回腸嚢の外科的除去による、より抜本的な選択に着手する場合がある。本発明の方法は、治療が困難であることが有名である再発性もしくは慢性回腸嚢炎の治療、及び/または予防を提供する。上述されるように、PDAIまたはmPDAIスコアは、本明細書に開示される方法に従って治療についてヒト対象を選択する際に使用され得る。
【0070】
特定の実施形態における、本発明の1つの利点として、慢性回腸嚢炎を有する対象は、例えば抗生物質、免疫抑制剤、免疫調節剤、及び/またはコルチコステロイドを含む、慢性回腸嚢炎の治療のために使用される従来の治療剤の長期的な使用(延長される使用とも称される)を中断することができる。実際に、抗生物質、免疫抑制剤、免疫調節剤、またはコルチコステロイドなどの治療剤の長期的な使用は、有害な副反応に関連する可能性がある。したがって、本発明の1つの目的は、これらの他の薬剤の必要性を停止または減少させることである。ベドリズマブは、長期的な使用について安全性が実証されている。治療薬の長期的な使用は、一般的に、容認された治療レジメンを超える時間の延長、または疾患の性質を考慮すると治療薬の完了日が想定されない治療薬の連続的な使用として定義される。一実施形態において、治療薬の長期的な使用とは、薬剤が投与されている間の期間を指し(薬剤の標準的な投与による)、期間は、3週超、少なくとも4週、少なくとも2ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも4ヶ月、4ヶ月超、少なくとも6ヶ月、6ヶ月超、8ヶ月超、12ヶ月超、15ヶ月超、18ヶ月超、もしくは2年超、またはそれよりも長い。いくつかの実施形態において、長期的な抗生物質の使用またはコルチコステロイドの使用とは、3週超、4週超、2~6週、1~2ヶ月、もしくはそれよりも長い持続期間である。本発明は、抗α4β7抗体を用いた慢性回腸嚢炎を有するヒト対象の治療を含み、ここでヒト対象は、抗生物質、免疫抑制剤、免疫調節剤、またはコルチコステロイドを含むがこれらに限定されない長期的な療法を用いた治療を受けている。
【0071】
いくつかの実施形態において、長期とは、治療の有効性が維持される期間を指す。例えば、一実施形態において、慢性回腸嚢炎の長期的な有効性または寛解は応答の1つであり、それは少なくとも3ヶ月、少なくとも34週、少なくとも4ヶ月、4ヶ月超、少なくとも6ヶ月、6ヶ月超、8ヶ月超、12ヶ月超、少なくとも56週、15ヶ月超、18ヶ月超、2年超、もしくはそれよりも長く続く、少なくとも1つの症状または寛解での改善である。
【0072】
本発明の一実施形態において、例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、潰瘍性大腸炎を有する対象においてIPAAに関連する慢性回腸嚢炎を有するヒト対象に投与される。本発明の別の実施形態において、例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、クローン病を有する対象においてIPAAに関連する慢性回腸嚢炎を有するヒト対象に投与される。一実施形態において、ヒト対象は、少なくとも18歳である。一実施形態において、ヒト対象は、18歳未満である。一実施形態において、ヒト対象は、65歳超である。一実施形態において、ヒト対象は、5~18または10~15歳である。一実施形態において、ヒト対象は成人である。
【0073】
別の実施形態において、抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、例えばシプロフロキサシンのような抗生物質と組み合わせて投与される。抗生物質による治療は、例えばベドリズマブなどの抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を用いた治療の開始後に中断することがでる。一実施形態において、例えばシプロフロキサシンのような抗生物質は、抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片の初回投与後に、例えば500mgの投与量で、1日2回、最大4週まで投与することができる。
【0074】
一実施形態において、本発明の方法は、回腸嚢炎の寛解、例えば臨床的に関連する寛解をもたらす。例えば、本発明の方法は、回腸嚢炎の症候的な寛解、嚢炎症における軽減、回腸嚢炎の症候的な寛解、基準と比較した14週及び34週での内視鏡的PDAIスコアにおける変化、基準と比較した14週及び34週での組織学的所見のPDAIスコアにおける変化、基準と比較した14週及び34週での合計PDAIスコアにおける変化、基準と比較した14、22、34週での炎症性腸疾患アンケート(Inflammatory Bowel Disease Questionnaire(IBDQ))の合計スコア及びサブスケールスコアの変化、及び/または基準と比較した14、22、34週での3項目Cleveland Global Quality of Life(CGQL)の変化をもたらし得る。寛解は、<5の修正された回腸嚢炎疾患活性指数(mPDAI)、及び基準測定値から≧2の総体的なmPDAIスコアにおける減少を有する対象として定義され得る。
【0075】
本明細書に開示される方法を使用して、例えば少なくとも14週、少なくとも15週、少なくとも16週、少なくとも17週、少なくとも18週、少なくとも19週、少なくとも20週、少なくとも21週、少なくとも22週、少なくとも23週、少なくとも24週、少なくとも25週、少なくとも26週、少なくとも27週、少なくとも28週、少なくとも29週、少なくとも30週、少なくとも31週、少なくとも32週、少なくとも33週、少なくとも34週、少なくとも35週、少なくとも36週、少なくとも5ヶ月、少なくとも6ヶ月などの所定の期間で、寛解が達成され得る。一実施形態において、寛解は、本明細書に開示される方法を4ヶ月を超えて使用した回腸嚢炎を有するヒト対象において維持される。
【0076】
一実施形態において、治療のために選択されたヒト対象は、慢性回腸嚢炎に対する、例えばシプロフロキサシン(Cipro(商標))もしくはメトロニダゾール(Flagyl(商標))などの抗生物質を用いた治療に対し、十分な応答の欠如、応答の喪失を有している可能性があり、または、不耐性であった。治療は、対象による抗生物質の使用の縮小、排除、または縮小及び排除を可能とし得る。一実施形態において、対象は、例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体の投与後に抗生物質の使用を中断し得る。例えば、抗生物質の使用は、1、2、3、4、5、またはそれ以上の用量の例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体の投与後に中断され得る。一実施形態において、例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、例えば、シプロフロキサシンなどの抗生物質と共に、0、2、6、14、22、及び30週に1回、例えば毎日、または1日2回で最大4週まで慢性回腸炎を有する対象に投与され得る。
【0077】
一実施形態において、例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、α4β7インテグリンのそのリガンドとの結合を阻害する有効量で投与される。いくつかの実施形態において、抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、α4β7インテグリンのMAdCAM、またはMAdCAM及びフィブロネクチンとの結合を阻害するが、VCAMとの結合は阻害しない。回腸嚢炎の治療のための有効量は、所望される治療(予防を含む)効果を達成するのに十分であろう(例えば、回腸嚢炎の臨床的に関連する寛解、回腸嚢炎の症候的な寛解、嚢炎症の減少、内視鏡的PDAIスコアの減少、組織学的所見のPDAIスコアの減少、及び/または総体的なPDAIスコアの減少などの寛解をもたらすのに十分な量)。いくつかの実施形態において、例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片の有効量は、回腸嚢炎の再発を減少または排除、例えば疾患の再発を排除するのに十分な量である。
【0078】
例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を用いた慢性回腸嚢炎の治療は、有効量の抗体を、それを必要とするヒト対象に投与することにより達成される。例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体の例示的な用量には、108mg、160mg、216mg、300mg、450mg、または600mgが含まれるが、これらに限定されない。
【0079】
例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、例えば静脈内及び/または皮下などの当技術分野で公知である任意の方法に従って、治療のためにヒト対象に投与され得る。一実施形態において、例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象に対して静脈内(IV)に投与される。一実施形態において、例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象に対して皮下に投与される。一実施形態において、例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、例えば、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象へのIVを介して投与される初回用量と、それに続く皮下投与を介して投与される第2の用量のような静脈内及び皮下投与の両方を含む投薬レジメンに従って投与される。いくつかの実施形態において、例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象へIVを介して0及び2週、または0、2、及び6週で、続いて例えば2、4、6、または8週後に、皮下投与を介して投与される後続投与により投与される。静脈内に投与される場合の抗体の用量は、約20分、約25分、約30分、約35分、または約40分内にヒト対象へ投与され得る。
【0080】
一実施形態において、例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、0、2、及び6週で約300mgの用量、続いて、その後2週毎に300mgの用量で慢性回腸嚢炎を有するヒト対象に投与される。一実施形態において、例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、0、2、及び6週で約300mgの用量、続いて、その後2週毎に108mgの用量で慢性回腸嚢炎を有するヒト対象に投与される。一実施形態において、例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、0及び2週で約300mgの用量、続いて、6週及びその後2週毎に300mgの用量で慢性回腸嚢炎を有するヒト対象に投与される。一実施形態において、例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、0及び2週で約300mgの用量、続いて、6週及びその後4週毎に300mgの用量で慢性回腸嚢炎を有するヒト対象に投与される。一実施形態において、例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、0及び2週で約300mgの用量、続いて、6週及びその後8週毎に300mgの用量で慢性回腸嚢炎を有するヒト対象に投与される。一実施形態では、例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、0及び2週で約300mgの用量、続いて、6週、10週、及び/または14週で300mgの用量、続いてその後、8週毎に300mgの用量で慢性回腸嚢炎を有するヒト対象に投与される。一実施形態において、例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、0及び2週で約300mgの用量、続いて、6週及びその後2週毎に108mgの用量で慢性回腸嚢炎を有するヒト対象に投与される。一実施形態において、例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、0及び2週で約300mgの用量、続いて、6週及びその後4週毎に108mgの用量で慢性回腸嚢炎を有するヒト対象に投与される。一実施形態において、例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、0及び2週で約300mgの用量、続いて、6週及びその後1週毎に108mgの用量で慢性回腸嚢炎を有するヒト対象に投与される。いくつかの実施形態において、例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、0及び2週で約300mgの用量、続いて、6週で300mgの用量及びその後1、2、または4週毎に108mgの用量で慢性回腸嚢炎を有するヒト対象に投与される。一実施形態において、例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、0、1、2、4、及び6週で約160mgの用量、続いて、その後2週毎に108mgの用量で慢性回腸嚢炎を有するヒト対象に投与される。この実施形態において、抗α4β7抗体の用量の全ては皮下に行うものであり得る。
【0081】
いくつかの実施形態において、300mg、450mg、または600mgの用量は、抗α4β7抗体のIV用量であり得る。いくつかの実施形態において、108mg、160mg、または216mgの用量の抗α4β7抗体は、皮下に投与され得る。皮下用量の場合に、抗α4β7抗体は自己投与され得る。各用量間の期間を長くすることを利用して、治療に応答する患者における症状の寛解を維持することができる。また、各用量間の期間を長くすることにより、例えば50kg以下もしくは30kg以下のように軽い、または5~10歳のような若い患者についても使用できる。各用量間の期間を短くすることにより、例えば、疾患の再発または治療が困難である場合に、治療剤の量を増加させる手段として使用できる。
【0082】
一態様では、治療レジメンには、0日目での例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片の投与、約2週での投与、約6週での投与、及びその後4もしくは8週毎の投与が含まれる。例えば、慢性回腸嚢炎のための治療レジメンは、0日目、約2週、約6週、及びその後2、4、または8週毎に300mgの例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を、例えばIV投与で投与することを含むことができる。
【0083】
一実施形態において、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象は、300mgの初回用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片、続いて初回用量から約2週後に、300mgの第2の用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片、続いて初回用量から約6週後に、300mgの第3の用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片、続いて第3の用量後8週毎に、300mgの後続用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を1回以上の投薬レジメンに従って治療される。
【0084】
一態様において、治療レジメンには、0日目での600mgの用量の例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片の投与、2週での投与、6週での投与、及びその後4週または8週毎の投与が含まれる。例えば、慢性回腸嚢炎のための治療レジメンは、0日目、約2週、約6週、及びその後2、4、または8週毎に600mgの例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を、例えばIV投与で投与することを含むことができる。
【0085】
一実施形態において、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象は、600mgの初回用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片(例えばベドリズマブ)、続いて初回用量から約2週後に、600mgの第2の用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片、続いて初回用量から約6週後に、600mgの第3の用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片、続いて第3の用量後8週毎に、600mgの後続用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を1回以上の投薬レジメンに従って治療される。
【0086】
一実施形態において、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象は、対象に4週毎に105mgのエトロリズマブを皮下に投与することにより治療される。
【0087】
一実施形態において、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象は、対象に4週毎に210mgのエトロリズマブを皮下に投与することにより治療される。
【0088】
例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、単独または別の治療薬と組み合わせて慢性回腸嚢炎を有するヒト対象に投与され得る。本発明の方法で使用される例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、例えば抗生物質などの追加の治療薬の投与の前に、それと同時に、またはその後に投与することができる。
【0089】
一実施形態において、例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片は、抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を用いた治療期間中に経時的に中断または低減される薬物治療と同時に施される。例えば、抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を用いて治療する開始時またはそれ以前に抗生物質(例えばシプロフロキサシン、メトロニダゾールなど)で治療されている患者は、抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片と同時期に投与レジメンを行い、その後抗生物質を減少させるかまたは中断する。例えば、抗α4β7抗体またはその抗原結合断片は、0週の開始時またはそれ以前に抗生物質を毎日投与することに加えて0、2、6週に1回投与できる。抗生物質は、毎日の投与の1、2、3、4、または5週後に量を低減させるかまたは中断することができ、例えば、抗生物質は4週に中断できる。一実施形態において、例えばシプロフロキサシンのような抗生物質は、500mgを錠剤で、最大4週まで、1日2回経口で投与される。
【0090】
特定の実施形態において、本明細書に記載される治療方法を用いて治療されるヒト対象は慢性回腸嚢炎を有するが、以下の胃腸部の特徴のうちの1つ以上を有しない:クローン病(CD)もしくは嚢のCD、過敏性嚢症候群(IPS)、カフ炎、嚢の機械的合併症(例えば、嚢狭窄または嚢瘻)、または計画された治療中にUCに対して計画された外科的介入を必要とする、または計画されている。
【0091】
特定の実施形態において、本明細書に記載される治療方法を用いて治療されるヒト対象は慢性回腸嚢炎を有するが、以下の感染症の特徴のうちの1つ以上を有しない:治療または基準の選択中の活動性感染症(例えば敗血症、サイトメガロウイルス、またはリステリア症など)の証拠、治療歴に関係しない、活動性または潜在性結核(TB)(以下のうちのいずれかによって証明される:TB歴;選択または基準内で実行される診断TB検査、例えば、QUANTIFERON(登録商標)(Cellectis Limited、Chadstone、Victoria)検査、または2つの連続した不確定のQUANTIFERON検査、または≧10mmのツベルクリン皮膚試験応答で定義される(>15mg/日のプレドニゾンの同等物を受けた対象で≧5mm、治療の0週以前で3ヶ月以内の胸部X線で肺TBの疑いがあり、選択または基準以前の30日以内、またはスクリーニング期間中に2つの連続した不確定のQUANTIFERON検査が陽性である)または選択もしくは基準時でのB型肝炎表面抗原(HBsAg)、C型肝炎ウイルスに対する抗体(抗HCV)、またはヒト免疫不全ウイルス感染の既知の病歴(例えば、共通な可変免疫不全、ヒト免疫不全ウイルス[HIV]感染、臓器移植)についての陽性検査結果。特定の実施形態において、本明細書に記載される治療方法を用いて治療されるヒト対象は、慢性回腸嚢炎を有するが、以下の特徴のうちの1つ以上を有しない:ベドリズマブ、ナタリズマブ、エファリズマブ、リツキシマブ、エトロリズマブ、または抗粘膜アドレシン細胞接着分子-1(MAdCAM-1)療法への事前の曝露、ベドリズマブまたはその成分に対する過敏症もしくはアレルギーの病歴、シプロフロキサシンに対するアレルギー及び/または禁忌(チザニジンなどの相互作用剤を含む)、60日以内または選択から5半減期(いずれか長い方)以内に、治験製剤または承認済みの生物学的製剤またはバイオ後続品製剤を受けている、選択または基準より以前の日の30日または5半減期(いずれか長い方)以内に治験中の非生物学的療法を受けている、選択または基準より以前の30日または5半減期(いずれか長い方)以内に、治験中のプロトコルで承認された非生物学的療法(5-アミノサリチル酸[5-ASA]、コルチコステロイド、アザチオプリン、6-メルカプトプリン[6-MP]などを含む)を受けている、選択または基準より以前の30日以内に任意の生ワクチン接種を受けている、選択または基準時に、進行性の多発性白質脳症(PML)自覚症状チェックリストが陽性である、キノロン投与に関連する腱断裂障害の病歴を有する、腎臓、心臓、または肺の移植を受けている、重症筋無力症、末梢神経障害、QT延長、または発作の病歴を有する、悪性腫瘍の病歴を有する(以下を除く:適切に治療された非転移性基底細胞皮膚癌、十分に治療されており、選択時または基準時の少なくとも1年前に再発していない扁平上皮皮膚癌、及び十分に治療されており、選択または基準の少なくとも3年前に再発していない子宮頸部上皮内癌の病歴)。特定の実施形態において、本明細書に記載される治療方法を用いて治療されるヒト対象は、慢性回腸嚢炎を有するが、以下のうちの1つ以上を有しない:脳卒中、多発性硬化症、脳腫瘍、脱髄、もしくは神経変性疾患を含む主要な神経障害の病歴、及び/または選択または基準内での以下の検査での異常:<8g/dLのヘモグロビンレベル、<3×10^9/Lの白血球(WBC)数、<0.5×10^9/Lのリンパ球数、<100×10^9/Lもしくは>1200×10^9/Lの血小板数、>3×正常上限(ULN)のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)またはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、>3×ULNのアルカリホスファターゼ、または>2×ULNの血清クレアチン、グルコース-6-ホスフェートデヒドロゲナーゼ(G6PD)欠乏症を有する。
【0092】
特定の実施形態において、本明細書に記載される治療方法を用いて治療されるヒト対象は慢性回腸嚢炎を有するが、以下の胃腸部の特徴のうちの1つ以上を有しない:表面またはコアタンパク質のいずれかに対する抗体、及びHPV DNAに対するポリメラーゼ連鎖反応の陽性により確認された慢性B型肝炎ウイルス(HPV)感染、ウイルス負荷検査により確認された慢性C型肝炎ウイルス感染、例えば、臨床検査により確認されている、スクリーニング中のClostridium difficileによる活動性感染、治療1日目から4週までのチザニジン、メトトレキサート及び/またはゾルピデムの使用、循環器系の予防のための毎日の低用量(例えば100mg)のアセチルサリチル酸を除く、無作為化以前の30日以内及び34週までの研究を通して2週の非ステロイド性抗炎症薬の連続的な使用、例えば、5-ASAまたはコルチコステロイドのような浣腸剤または座薬などの無作為化(例えば、1日目)以前の15日以内及び34週までの直腸製品の使用。
【0093】
特定の実施形態において、本明細書に記載される治療方法を用いて治療されるヒト対象は、研究中に以下の薬物治療のうちの1つ以上の使用が許可される:シプロフラキシン投与中に、例えば慎重にまたは監視しながら、シトクロムP450 1A2酵素(CYP1A2)によって代謝される薬物、例えば、疾患の発赤に必要な場合の14週以降の追加の抗生物質、無作為化の少なくとも2週前及び34週までを通して用量に変動のない場合の経口5-ASA、無作為化の少なくとも2週前に変動のない用量である場合に、例えばシプロフラキシンに追加する、回腸嚢炎に対する抗生物質療法、無作為化の少なくとも4週前に変動のない用量であるが、研究の4週以降に漸減した場合の回腸嚢炎に対する経口コルチコステロイド療法、無作為化の少なくとも8週前及び34週までを通して変動のない用量である場合の例えばSaccharomyces boulardii、及び/または免疫調節剤、例えばアザチオプリン、または6-メルカプトルプリンのようなプロバイオティクス療法。
【0094】
特定の実施形態において、本明細書に記載される治療方法を用いて治療されるヒト対象は、以下の状態のうちの1つ以上を有する;例えば重症筋無力症、末梢神経障害、QT延長、及び/または発作の病歴。
【0095】
特定の実施形態において、本発明の方法の期間中、慢性回腸嚢炎の治療のための経口コルチコステロイドの使用は、例えば、7、8、9または10週までに減少または中断されるように漸減される。いくつかの実施形態において、プレドニゾンの最大用量は20または30mg/日であり、例えば10mg/日、5mg/日まで漸減されるか、または中断される。いくつかの実施形態において、ブデソニドの最大用量は9mg/日であり、例えば3mg/日の間隔で、例えば中断するまで漸減される。いくつかの実施形態において、ジプロピオン酸ベクロメタゾンまたは同等物の最大用量は5mg/日であり、例えば中断するまで漸減される。
【0096】
特定の実施形態において、本発明の方法は、腫瘍壊死因子(TNF)アンタゴニスト(例えばアダリムマブ、インフリキシマブ、ゴリムマブ、エタネルセプト、及び/またはセルトリズマブペゴル(例えばCIMZIA(登録商標))に対して失敗している、応答していない、及び/または不十分な応答を有していたヒト対象の治療を含む。本明細書に開示される治療方法は、これらの治療困難な患者を治療するために使用され得る。
【0097】
本明細書に開示される本発明の方法は、対象が、慢性回腸嚢炎または潰瘍性大腸炎などのIBDの治療のために以前にTNFアンタゴニスト療法を受けていないという点で、慢性回腸嚢炎を有し、かつTNFナイーブである対象を治療するために使用することもできる。
【0098】
特定の実施形態において、本発明の方法は、コルチコステロイド治療に失敗しているヒト対象の治療を含む。
【0099】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される本発明の方法は、さらにニコチンを使用するか、または紙巻タバコを吸う慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を治療することを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に開示される本発明の方法は、さらに神経変性疾患を有する回腸嚢炎を有するヒト対象を治療することを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に開示される本発明の方法は、さらに関節炎を有する慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を治療することを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に開示される本発明の方法は、さらに糖尿病または心臓疾患を有する慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を治療することを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に開示される本発明の方法は、さらに逆流性回腸炎を有する慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を治療することを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に開示される本発明の方法は、さらに肝臓内で炎症を起こし、硬化した胆管を有する慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を治療することを含む。
【0100】
本明細書に開示される治療方法は、腫瘍壊死因子(TNF)遮断剤または免疫調節剤に対して不十分な応答を有していた、応答が衰えていた、もしくは不耐性であった、またはコルチコステロイドに対して不十分な応答を有していた、不耐性であった、もしくは依存を示していた慢性回腸嚢炎を有する成人患者を治療するために使用され得る。
【0101】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される方法は、慢性回腸嚢炎を有するヒト患者の治療のために使用され得、患者は、追加の治療剤または複数の薬剤を組み合わせて投与される。組み合わせにより、追加の薬剤または複数の薬剤は、抗α4β7抗体を用いた治療の前、同時、もしくは後に投与されることを意味することを意図している。併用療法は、抗α4β7抗体及び追加の薬剤(複数可)の両方を含む組成物を意味するものとして意図しない。例えば、慢性回腸嚢炎を有するヒト患者は、抗α4β7抗体、抗生物質、及び経口コルチコステロイドを含む併用療法が施される。別の例において、慢性回腸嚢炎を有するヒト患者は、抗α4β7抗体、抗生物質、経口コルチコステロイド、及びTNFアンタゴニストを含む併用療法が施される。別の例において、慢性回腸嚢炎を有するヒト患者は、抗α4β7抗体、抗生物質、及びTNFアンタゴニストを含む併用療法が施される。別の例において、慢性回腸嚢炎を有するヒト患者は、抗α4β7抗体、抗生物質、経口コルチコステロイド、及び免疫調節剤を含む併用療法が施される。別の例において、慢性回腸嚢炎を有するヒト患者は、抗α4β7抗体、抗生物質、及び免疫調節剤を含む併用療法が施される。
【0102】
前述の実施形態において、1つ以上の薬剤は、抗α4β7抗体を用いた治療中に中断することができる。本発明の方法は、特定の実施形態において、長期的な療法のために使用される他の治療剤、例えば抗生物質またはコルチコステロイドの中断を提供し得る。かかる薬剤の中断は、薬物治療関連の副作用の回数を低減させ得、治療費を下げ得、より良い患者のコンプライアンスをもたらし得、及び対象の総体的な生活の質を改善し得るとして、ヒト対象にとって有益である。いくつかの実施形態において、例えば再発期間中に、中断された薬剤は、応答または寛解を回復するために、例えば2~6週で再導入され得る。特定の実施形態において、寛解、例えば複数の薬剤を用いた寛解の証拠後に、1つ以上の薬剤が中断され得る。いくつかの実施形態において、抗α4β7抗体は、慢性回腸嚢炎の長期的な寛解期間中に慢性回腸嚢炎の治療のための単一の治療剤として投与される。
【0103】
抗α4β7抗体は、慢性回腸嚢炎の治療のための薬学的または生理学的組成物の一部として個体に投与することができる。かかる組成物は、本明細書に記載される抗α4β7抗体、及び薬学的または生理学的に許容される担体を含むことができる。特定の実施形態において、併用療法のための薬学的または生理学的組成物は、抗α4β7抗体及び1つ以上の追加の治療剤を含む。いくつかの実施形態において、抗α4β7抗体及び追加の治療剤は、投与前に混合されて一緒となるか、または別々に投与される別々の組成物の成分である。製剤は、選択された投与経路(例えば、溶液、乳状液、カプセル)によって異なるであろう。好適な担体としては、免疫グロブリンまたは抗原結合断片、及び/または追加の治療剤と相互作用しない不活性材料が含まれ得る。Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,Paに記載されるような標準的な薬学的製剤技術を使用することができる。非経口投与に好適な担体としては、例えば滅菌水、生理食塩水、静菌性食塩水(約0.9%(9mg/ml)のベンジルアルコールを含む生理食塩水)、リン酸緩衝生理食塩水、5%デキストロース、ハンクス液、リンゲル乳酸塩などが含まれる。組成物を封入化するための方法(硬ゼラチンまたはシクロデキストランによるコーティングなどで)は、当技術分野で即知である(Baker,et al.,”Controlled Release of Biological Active Agents”,John Wiley and Sons,1986)。吸入の場合は、薬剤を可溶化し、投与に好適なディスペンサ(例えば、アトマイザ、ネブライザ、または加圧式エアゾルディスペンサ)に装填され得る。
【0104】
例えばベドリズマブのような抗α4β7抗体を投与するために好適な薬学的製剤の例としては、米国特許出願公開第US20140341885号及び第US20140377251号に記載されており、その両方が参照により本明細書に組み込まれる。
【0105】
II.治療の方法で使用するための抗α4β7抗体
本明細書で開示される治療方法は、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象への抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片の投与に基づいている。特定の実施形態において、抗α4β7抗体は、ベドリズマブ、またはベドリズマブに対応する結合領域、例えばCDRを有する抗α4β7抗体または抗原結合断片である。
【0106】
α4β7インテグリンは、消化管に優先的に移動するリンパ球の個別のサブセットの表面に発現している。MAdCAM-1は、主に腸内皮細胞またはパイエル板などの二次リンパ領域に発現し、Tリンパ球の腸リンパ組織への回帰性において重要な役割を果たす。α4β7インテグリンとMAdCAM-1との相互作用は、潰瘍性大腸炎及びクローン病の顕著な特徴である慢性炎症の重要な要因として関係している。
【0107】
ベドリズマブは、α4β7インテグリンと特異的に結合し、α4β7インテグリンと粘膜アドレシン細胞接着分子-1(MAdCAM-1)との相互作用を遮断し、炎症を起こした胃腸部の実質的な組織への内皮を介したメモリーTリンパ球の移動を阻害するヒト化モノクローナル抗体である。ベドリズマブは、α4β1及びαEβ7インテグリンの機能に結合または阻害せず、α4インテグリンと血管細胞接着分子-1(VCAM-1)との相互作用に拮抗しない。
【0108】
ベドリズマブは、潰瘍性大腸炎(UC)及びクローン病の治療の誘導及び維持に有効である。ベドリズマブは、メモリーT細胞及びB細胞上のα4β7インテグリンと腸内の血管内皮上に発現するMAdCAM-1との相互作用を無効する。MAdCAM-1レベルは、IBDにおいて上昇している。本明細書に記載されるように、ベドリズマブは、回腸嚢炎を含むGI管の他の慢性炎症性疾患の治療に有効である。
【0109】
ベドリズマブは、その商品名ENTYVIO(登録商標)(Takeda Pharmaceuticals,Inc.)としても知られている。ベドリズマブは、ヒト化IgG1モノクローナル抗体である。ベドリズマブの配列は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第US20140341885号及び第US20140377251号に記載されている。
【0110】
ベドリズマブの重鎖可変領域は配列番号1として本明細書に提供され、ベドリズマブの軽鎖可変領域は配列番号5として本明細書に提供される。ベドリズマブは、配列番号2のCDR1、配列番号3のCDR2、及び配列番号4のCDR3を含む重鎖可変領域を含む。ベドリズマブは、配列番号6のCDR1、配列番号7のCDR2、及び配列番号8のCDR3を含む軽鎖可変領域を含む。ベドリズマブ及びベドリズマブの配列は、米国特許公開第2014/0341885号及び米国特許公開第2014/0377251号にも記載されており、それぞれの内容全体が参照によりその全体が本明細書に明示的に組み込まれる。一実施形態において、本明細書の方法で使用される抗α4β7抗体は、配列番号9に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖を含み、配列番号10に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖を含む。
【0111】
抗α4β7抗体、特にベドリズマブ、またはベドリズマブの結合領域、すなわちCDRもしくは可変領域を有する抗体もしくは抗原結合断片は、慢性回腸嚢炎の治療のための本発明の方法において有用である。
【0112】
抗体が本明細書に記載される場合は、抗原結合断片もまた使用できることに留意されるべきである。
【0113】
また、本発明には、本明細書に開示される方法と共に代替抗体の使用も含まれる。詳細には、本明細書に記載される方法は、ナタリズマブを含むがこれに限定されないα4インテグリンと結合する抗体、またはその抗原結合断片を使用して実施することができる。別の代替形態において、本明細書に記載される方法は、インテグリンα4β7及びαEβ7の両方と結合するエトロリズマブ(エトロリズマブの配列はUS20180086833に記載されており、参照により本明細書に組み込まれる)を含むがこれに限定されないβ7インテグリンと結合する抗体、またはその抗原結合断片を使用して実施することができる。
【0114】
別の代替形態において、本明細書に記載される方法は、完全なヒトモノクローナル抗体であるPF-00547659を含むがこれに限定されないMAdCAM-1と結合する抗体、またはその抗原結合断片を使用して実施することができる。別の代替形態において、本明細書に記載される方法は、完全なヒトモノクローナル抗体であるAMG-181を含むがこれに限定されないα4β7インテグリンと結合する抗体、またはその抗原結合断片を使用して実施することができる。
【0115】
以下の実施例は、ヒト対象において回腸嚢炎を治療するための方法を例示する。
【0116】
実施例1:ヒト患者での慢性回腸嚢炎の治療におけるベドリズマブの有効性及び安全性の研究
この実施例では、直腸結腸切除術、及び慢性または再発性の回腸嚢炎を発症している潰瘍性大腸炎(UC)のための回腸嚢肛門吻合術(IPAA)を受けた対象において、静脈内(IV)への300mgのベドリズマブを34週の治療期間(最終用量は30週)にわたって有効性及び安全性を評価する、第4相無作為化二重盲検化プラセボ対照化多施設共同治験について記載する。
【0117】
概要
慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を治療するためにベドリズマブを試験した。この研究では、ベドリズマブを服用した対象における回腸嚢の炎症の治癒を調査する。
【0118】
この研究(治験識別子番号NCT02790138)は、慢性または再発性の回腸嚢炎を有するおよそ100~200人の成人対象を登録する。慢性または再発性の回腸嚢炎は、a)スクリーニング時の1年前に3回の再発を発症し、2週の抗生物質または他の処方による療法でそれぞれ治療されたか、またはb)基準内視鏡検査時の直前に4週の連続的な抗生物質療法を継続する必要があることのどちらかを伴う、基準内視鏡検査の直前の3日間からの平均として評価される5以上の修正された回腸嚢炎疾患活性指数(mPDAI)スコア、及び2の最小内視鏡的サブスコア(ステープルまたは縫合線の外側)として定義する。
【0119】
内視鏡検査は、14週、及び34週のスクリーニング(基準内視鏡検査)で実施する。
【0120】
対象は2つの治療群のうちの1つに無作為に割り当てられ、研究中は患者及び研究担当医師に開示されないままである(緊急の医学的ニーズがない限り)。治療群1には、IVにより300mgのベドリズマブを投与する。治療群2には、プラセボを投与する。
【0121】
研究群1における全ての対象は、シプロフロキサシン500mgを1日2回、経口で、4週までにわたる併用抗生物質治療に加えて0週すなわち1日目、2、6、14、22、及び30週に300mgのベドリズマブの静脈内(IV)注入を受ける(下記の表1を参照されたい)。
【0122】
この多施設共同治験は、北米及びヨーロッパで実施されるであろう。この研究に参加する全体の時間は34週である。対象は、診療所を複数回訪問し、加えて安全性フォローアップ評価のために治験薬の最後の用量から18週後に訪問する。対象はさらに、治験薬の最後の用量から6ヶ月後(56週)に電話による長期的安全性フォローアップに参加する。
【表1】
【0123】
適応性
研究に適格な年齢は、18歳~80歳である。全ての性別が適格となる。健康なボランティアは、適格ではない。
【0124】
選択基準
対象の適格性は、研究に入る前に次の基準に従って決定する:
対象は、研究1日目の少なくとも1年前に、完了した潰瘍性大腸炎(UC)に対しての回腸嚢肛門吻合術(IPAA)の既往歴がある。
【0125】
対象は、≧5の修正された回腸嚢炎疾患活性指数(mPDAI)、及びスクリーニング時から1年内の>2の発症、または継続的に毎日長期の連続的な低用量抗生物質療法(例えば、シプロフロキサシンを250~500mg/日で、またはメトロニダゾールを500mg/日で一度に数週間もしくは数ヶ月間服用)、もしくは頻回パルスの抗生物質療法を必要とすることによって定義される慢性または再発性の回腸嚢炎を有する。代替の基準としては、対象が、a)スクリーニング時の1年前以内に3回の再発を発症し、2週の抗生物質または他の処方による療法でそれぞれ治療されたか、またはb)基準内視鏡検査時の直前に4週の連続的な抗生物質療法を継続する必要があることのどちらかを伴う、基準内視鏡検査の直前の3日間からの平均として評価される5以上の修正された回腸嚢炎疾患活性指数(mPDAI)スコア、及び2の最小内視鏡的サブスコア(ステープルまたは縫合線の外側)を有する。
【0126】
対象は、研究の1日目に抗生物質療法を中止し、研究の4週までわたってシプロフロキサシン(500mgを1日2回)に切り替えることに同意する。シプロフロキサシンの追加の過程は、必要に応じて、14週以降の再発に対して許可される。
【0127】
不妊化されておらず、出産の可能性がある女性パートナーと性的に活発な男性対象は、研究期間中及び最後の用量後18週までにわたり、インフォームドコンセントの署名より適切な避妊法を使用することに同意する。
【0128】
不妊化されていない男性パートナーと性的に活発な出産の可能性がある女性対象は、研究期間中及び最後の用量後18週までにわたり、インフォームドコンセントの署名より定期的に適切な避妊法を使用することに同意する。
【0129】
除外基準
特定のヒト対象を、治験の目的のために除外する。一般的に、除外基準は、胃腸部の除外基準、感染症の除外基準、及び一般的な除外基準の3つのカテゴリに分類される。対象が女性である場合に、対象が、妊娠もしくは授乳中である、または研究薬物治療の最後の用量前、用量中、もしくは用量後18週以内に妊娠または授乳を予定している、またはかかる期間中に卵子を寄付するつもりである場合は除外する。男性の場合は、対象がこの研究の過程で、または研究薬物治療の最後の用量後18週まで、精子を寄付する、または子供をもうけるつもりである場合は研究から除外する。1回目の訪問以前の1年以内に薬物乱用の来歴(あらゆる違法薬物使用として定義される)またはアルコール乱用の来歴を有する対象も除外される。
【0130】
対象は、クローン病(CD)、嚢のCD、過敏性嚢症候群(IPS)、単離性もしくは一般的なカフ炎、造設ストーマ、または嚢の機械的合併症を有する対象を研究から除外する。対象が、ベドリズマブ、ナタリズマブ、エファリズマブ、リツキシマブ、エトロリズマブ、または抗粘膜アドレシン細胞接着分子-1(MAdCAM-1)療法を用いた以前の治療を受けていた場合も除外する。対象は、対象が無作為化から60日以内に治験薬、または承認された生物学的製剤、またはバイオ後続品製剤を受けていた場合も除外する。
【0131】
ベドリズマブIVと共に同時投与され得る回腸嚢炎の治療のための経口コルチコステロイドの最大用量は、無作為化の少なくとも4週前に変動のない用量で使用されている限り、20mg/日のプレドニゾン、または9mg/日のブデソニド、または5mg/日のジプロピオン酸ベクロメタゾン(または同等物)である。経口コルチコステロイドを受けた対象は、研究の4週(4回目の訪問)までに漸減化レジメンを開始する必要がある。推奨される漸減化予定は、可能である場合に8週までに終了すべきである。
【0132】
主要な評価項目
主要な有効性の評価測定値は、治療の14週後に臨床的に関連する寛解を達成する慢性または再発性の回腸嚢炎の対象の割合である。臨床的に関連する寛解は、<5のmPDAIスコア、及び基準から2ポイントの総体的なスコアの減少として定義した。
【0133】
二次評価項目
二次評価測定値は次のとおりである:
mPDAIの変化。34週の治療後(最後の用量は30週)にmPDAI<5、基準から少なくとも2ポイントの総体的なスコアの減少を達成した対象の割合
【0134】
PDAIの変化。14週の治療後及び34週の治療後(最後の用量は30週)にPDAIスコア<7、基準PDAIスコアから少なくとも3ポイントの総体的なスコアの減少を達成した対象の割合
【0135】
寛解までの時間。(期間枠:最大34週までの基準)。寛解は、PDAIスコア<7、及び基準から少なくとも3ポイントのPDAIスコアの低減として定義した。
【0136】
部分奏効の達成。部分奏功を達成した対象の割合(基準から少なくとも2ポイントのmPDAIスコアの減少として定義した)。
【0137】
内視鏡的PDAIサブスコアのスクリーニングからの変化。期間枠:14及び34週のスクリーニング(28日目)。内視鏡的PDAIスケールには、浮腫、粒度、脆弱性、血管原型の喪失、粘液滲出液、及び潰瘍が含まれる。各項目は、0(回腸嚢炎の症状なし)から1(回腸嚢炎)のスケールで採点した。合計内視鏡的PDAIスコアは、各症状からのスコアを合計して計算した。合計スコアの範囲は0~6である。最大スコアは、疾患の悪化を示す。
【0138】
組織学的PDAIサブスコアのスクリーニングからの変化。(期間枠:14及び34週のスクリーニング(28日目))。組織学的PDAIスケールには、多形核白血球浸潤(軽度=1、中程度+陰窩膿瘍=2、及び重度+陰窩膿瘍=3)、及び低倍率視野あたりの潰瘍形成(平均値)が含まれる。合計組織学的PDAIスケールは、各測定からのスコアを合計することによって計算した。合計スコアの範囲は0~6である。最大スコアは、疾患の悪化を示す。
【0139】
合計PDAIスコアのスクリーニングからの変化。(期間枠:14及び34週のスクリーニング(28日目))。PDAIは、回腸嚢肛門吻合術(IPAA)後の嚢炎症に対する客観的及び定量的な判断基準をカバーする。18ポイントの総合スコアは、臨床症状(0~6)、内視鏡的所見(0~6)、及び組織学的変化(0~6)に基づく3つの個別の6ポイントスケールから計算される。PDAIは、内視鏡検査での症状及び炎症に加えて、急性炎症の組織学的特徴を取り入れ、「回腸嚢炎」(≧7ポイント)及び「回腸嚢炎なし」(7<ポイント)を区別するために7のカットオフを確立する。
【0140】
炎症性腸疾患アンケート(IBDQ)の合計スコア及びサブスケールスコアの変化。(期間枠:1日目、14、22、及び34週)。IBDQは、炎症性腸疾患(IBD)を有する成人対象における生活の質を評価するために使用される手段である。健康に関連する生活の質(HRQOL)の4分野に関する32の質問が含まれる:腸器官(10項目)、感情に対する作用(12項目)、社会に対する作用(5項目)、及び全身に対する作用(5項目)。対象は、過去2週の症及び生活の質を思い出し、7ポイントのリッカート尺度(1=最悪~7=最高)で各項目を評価するように求められる。合計IBDQスコアは各分野からのスコアを合計して計算する:合計IBDQスコアは32~224の範囲であり、スコアが低いほどHRQOLの悪化を示す。
【0141】
Cleveland Global Quality of Life(CGQL)の変化。(期間枠:1日目、14、22、及び34週)。CGQL(Fazioスコア)は、特に回腸嚢肛門吻合術を受けた対象に対する生活の質の指標である。対象は、3項目(現在の生活の質、現在の健康の質、及び現在のエネルギーレベル)を各0~10(0=最悪、10=最高)のスケールで評価する。スコアが追加され、この結果を30で除算することにより、最終的なCGQL効用スコアを取得した。
【0142】
上記に加えて、この研究は、回腸嚢炎の症状が再発するまでの時間または再発の回数をさらに調査する;Robarts病理組織学的指数(RHI)の変化、ならびに糞便カルプロテクチン及びC反応性タンパク質(CRP)を含むバイオマーカーの変化。
【0143】
実施例2:ベドリズマブを用いた慢性回腸嚢炎の治療
GEMINI Iは、活動性潰瘍性大腸炎(UC)を有する患者におけるベドリズマブの導入及び維持療法の第3相無作為化二重盲検プラセボ対照試験である(例えば、Feagan et al.(2013)N Engl J Med.369(8):699-710)、また治験識別子番号NCT00783718を参照されたい)。
【0144】
GEMINI I治験に参加する患者の選択基準には、Mayo Clinicスコア(0~12の範囲、12が最も活動性な疾患)の6~12で定義される活動性UCを有する患者が含まれる。さらに、患者は、1つ以上のグルココルチコイド、免疫抑制薬物治療(すなわち、アザチオプリン及び6-メルカプトプリン)、またはTNFアンタゴニストを用いた以前の治療の失敗(すなわち、応答の欠如または容認できない有害事象)を有していた。
【0145】
GEMINI Iにおいて、患者は0及び2週に300mgのベドリズマブまたはプラセボを静脈内に受け、6週に疾患を評価した。維持療法の治験において、6週にベドリズマブに応答を有したいずれかのコホートの患者は、8または4週毎に300mgのベドリズマブを受け取ることを継続するか、または最大52週でプラセボに切り替えるように無作為に割り当てられた。
【0146】
GEMINI Iからの結果は、ベドリズマブが6週で臨床応答(≧3ポイントのMayo Clinicスコア、及び基準から≧30%の減少に加えて、直腸出血サブスケールの少なくとも1ポイントの減少、または0または1の直腸出血の絶対スコア)、及び52週で臨床寛解(Mayoスコアの2以下及び1を超えるサブスコアが無い)における改善の主要なエンドポイントを満たすことができたことを示した。ベドリズマブを受けた患者の顕著に大きな割合が、プラセボと比較して、二次エンドポイントである6及び52週で粘膜治癒(0または1の内視鏡的Mayoサブスコア)、ならびに52週でステロイド寛解の両方を達成した。
【0147】
慢性回腸嚢炎はGEMINI Iの選択基準ではなく、全結腸切除は治験の除外基準であった。しかしながら、GEMINI Iのレトロスペクティブ分析により、中程度から重度の潰瘍性大腸炎、また慢性回腸嚢炎を有する患者において寛解率が観察されたことを明らかにした:プラセボ群の寛解率は8%であり、ベドリズマブ群は23%であった。
【0148】
同等物
当業者であれば、慣用的な実験のみを使用して、本明細書に記載される本発明の特定の実施形態に対する多くの同等物を認識するか、または確認し得るであろう。かかる同等物は、次の特許請求の範囲によって包含されることが意図される。
【0149】
参照による援用
本出願を通して引用された全ての参考文献、特許及び公開済みの特許出願の内容は、参
照により本明細書に組み込まれる。
【表2-1】

【表2-2】


本発明は次の実施態様を含む。
[1]
ヒト対象における慢性回腸嚢炎を治療する方法であって、前記方法が、慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を選択することと、慢性回腸嚢炎が治療されるように、治療的有効用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を前記対象に投与することと、を含み、前記抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片が、配列番号4に記載されるCDR3ドメイン、配列番号3に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号2に記載されるCDR1ドメインを含む重鎖可変領域を含み、かつ配列番号8に記載されるCDR3ドメイン、配列番号7に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号6に記載されるCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含み、前記ヒト対象が、選択時に6の内視鏡的回腸嚢炎疾患活性指数(PDAI)サブスコアを有しており、及び/または選択時にTNFαナイーブであった、前記方法。
[2]
前記治療的有効用量が、108mg、300mg、及び600mgからなる群から選択される、上記[1]に記載の方法。
[3]
ヒト対象における慢性回腸嚢炎を治療する方法であって、前記方法が、
慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を選択することと、
前記慢性回腸嚢炎が前記対象において治療されるように、300mgもしくは600mgの初回用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片、続いて、その後少なくとも2週毎に300mgもしくは600mgの後続用量の前記抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を前記ヒト対象に投与することと、を含み、
前記抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片が、配列番号4に記載されるCDR3ドメイン、配列番号3に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号2に記載されるCDR1ドメインを含む重鎖可変領域を含み、かつ配列番号8に記載されるCDR3ドメイン、配列番号7に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号6に記載されるCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む、前記方法。
[4]
ヒト対象における慢性回腸嚢炎を治療する方法であって、前記方法が、
慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を選択することと、
前記ヒト対象に、300mgの初回用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、
前記初回用量から約2週後に、300mgの第2の用量の前記抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、
前記初回用量から約6週後に、300mgの第3の用量の前記抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、
前記第3の用量後4または8週毎に、300mgの用量の前記抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、を含み、
前記抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片が、配列番号4に記載されるCDR3ドメイン、配列番号3に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号2に記載されるCDR1ドメインを含む重鎖可変領域を含み、かつ配列番号8に記載されるCDR3ドメイン、配列番号7に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号6に記載されるCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む、前記方法。
[5]
ヒト対象における慢性回腸嚢炎を治療する方法であって、前記方法が、
慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を選択することと、
前記ヒト対象に、600mgの初回用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、
前記初回用量から約2週後に、600mgの第2の用量の前記抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、
前記初回用量から約6週後に、600mgの第3の用量の前記抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、
前記第3の用量後4または8週毎に、600mgの用量の前記抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、を含み、
前記抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片が、配列番号4に記載されるCDR3ドメイン、配列番号3に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号2に記載されるCDR1ドメインを含む重鎖可変領域を含み、かつ配列番号8に記載されるCDR3ドメイン、配列番号7に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号6に記載されるCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む、前記方法。
[6]
ヒト対象における慢性回腸嚢炎を治療する方法であって、前記方法が、
慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を選択することと、
前記ヒト対象に、300もしくは600mgの初回用量の抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、
前記初回用量から約2週後に、300もしくは600mgの第2の用量の前記抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、
前記初回用量から約6週後に、300もしくは600mgの第3の用量の前記抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を投与することと、
前記第3の用量後1または2週毎に、108mgの用量の前記抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片を皮下に投与することと、を含み、
前記抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片が、配列番号4に記載されるCDR3ドメイン、配列番号3に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号2に記載されるCDR1ドメインを含む重鎖可変領域を含み、かつ配列番号8に記載されるCDR3ドメイン、配列番号7に記載されるCDR2ドメイン、及び配列番号6に記載されるCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む、前記方法。
[7]
前記抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片が、配列番号1に記載される重鎖可変領域と、配列番号5に記載される軽鎖可変領域と、を含む、上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
前記抗α4β7抗体がIgG抗体である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[9]
前記IgG抗体が、IgG1またはIgG4アイソタイプである、上記[8]に記載の方法。
[10]
前記抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片がヒト化されている、上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[11]
ヒト対象における慢性回腸嚢炎を治療する方法であって、前記方法が、慢性回腸嚢炎を有する対象を選択することと、慢性回腸嚢炎が治療されるように、治療的有効用量の抗α4β7抗体を前記対象に投与することと、を含み、前記抗α4β7抗体がベドリズマブであり、前記ヒト対象が、選択時に5を超える内視鏡的PDAIサブスコアを有しており、及び/または前記ヒト対象が、選択時にTNFαナイーブであった、前記方法。
[12]
前記ベドリズマブの治療的有効用量が、108mg、300mg、及び600mgからなる群から選択される、上記[11]に記載の方法。
[13]
ヒト対象における慢性回腸嚢炎を治療する方法であって、前記方法が、
慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を選択することと、
前記慢性回腸嚢炎が前記対象において治療されるように、300mgもしくは600mgの初回用量の抗α4β7抗体、続いて、その後少なくとも2週毎に、300mgもしくは600mgの後続用量の前記抗α4β7抗体を前記ヒト対象に投与することと、を含み、前記抗α4β7抗体がベドリズマブである、前記方法。
[14]
ヒト対象における慢性回腸嚢炎を治療する方法であって、前記方法が、
慢性回腸嚢炎を有するヒト対象を選択することと、
前記ヒト対象に、300mgまたは600mgの初回用量の抗α4β7抗体を投与することと、
前記初回用量から約2週後に、300mgまたは600mgの第2の用量の前記抗α4β7抗体を投与することと、
前記初回用量から約6週後に、300mgまたは600mgの第3の用量の前記抗α4β7抗体を投与することと、
前記第3の用量後8週毎に、300mgまたは600mgの後続用量の前記抗α4β7抗体を1回以上投与することと、を含み、
前記抗α4β7抗体がベドリズマブである、前記方法。
[15]
前記初回用量が300mgであり、前記後続用量が600mgであり、かつ前記初回用量後4週毎または8週毎に投与される、上記[3]または[13]に記載の方法。
[16]
前記初回用量が600mgであり、前記後続用量が600mgであり、かつ前記初回用量後4週毎または8週毎に投与される、上記[3]または[13]に記載の方法。
[17]
前記初回用量が300mgであり、前記後続用量が300mgであり、かつ前記初回用量後4週毎に投与される、上記[3]または[13]に記載の方法。
[18]
前記ヒト対象に抗生物質を投与することをさらに含む、上記[1]、[3]、[4]、[5]、[6]、[11]、[13]、または[14]のいずれかに記載の方法。
[19]
前記抗生物質が、前記抗α4β7抗体、またはその抗原結合断片の前記初回投与後4週までに中断される、上記[18]に記載の方法。
[20]
前記抗生物質がシプロフロキサシンである、上記[18]に記載の方法。
[21]
前記抗生物質が毎日投与される、上記[18]に記載の方法。
[22]
前記ヒト対象が、選択の前に、長期の連続的な低用量抗生物質療法を受けているか、または頻回パルスの抗生物質を受けている、上記[1]、[3]、[4]、[5]、[6]、[11]、[13]、または[14]のいずれかに記載の方法。
[23]
前記ヒト対象が、選択の少なくとも1年前に回腸嚢肛門吻合術(IPAA)を受けている、上記[1]、[3]、[4]、[5]、[6]、[11]、[13]、または[14]のいずれかに記載の方法。
[24]
前記ヒト対象が、潰瘍性大腸炎(UC)またはクローン病を有する、上記[1]、[3]、[4]、[5]、[6]、[11]、[13]、または[14]のいずれかに記載の方法。
[25]
前記潰瘍性大腸炎が中程度から重度のUCである、上記[24]に記載の方法。
[26]
前記ヒト対象が回腸嚢炎の寛解を達成する、上記[1]、[3]、[4]、[5]、[6]、[11]、[13]、または[14]のいずれかに記載の方法。
[27]
前記ヒト対象が、前記抗α4β7抗体またはベドリズマブの前記初回用量後約14週までに寛解を達成する、上記[26]に記載の方法。
[28]
寛解が、<5の修正された回腸嚢炎疾患活性指数(mPDAI)、及び基準から≧2の総体的なmPDAIスコアにおける減少を有する回腸嚢炎として定義される、上記[26]に記載の方法。
[29]
寛解が、前記抗α4β7抗体、またはその断片の前記初回用量後少なくとも34週持続される、上記[26]に記載の方法。
[30]
前記ヒト対象が、
回腸嚢炎の症候的な寛解、
基準と比較した14週及び34週での内視鏡的PDAIスコアにおける変化、
基準と比較した14週及び34週での組織学的所見のPDAIスコアにおける変化、基準と比較した14週及び34週でのPDAIスコアにおける変化、
基準と比較した14、22、34週での炎症性腸疾患アンケート(IBDQ)の合計スコア及びサブスケールスコアの変化、または
基準と比較した14、22、34週での3項目Cleveland Global Quality of Life(CGQL)の変化のうちの少なくとも1つを達成する、上記[1]、[3]、[4]、[5]、[6]、[11]、[13]、または[14]のいずれかに記載の方法。
[31]
前記抗α4β7抗体、またはその断片が、前記ヒト対象の静脈内に投与される、上記[1]、[3]、[4]、[5]、[6]、[11]、[13]、または[14]のいずれかに記載の方法。
[32]
前記抗α4β7抗体、またはその断片が、前記ヒト対象の皮下に投与される、上記[1]、[3]、[4]、[5]、[6]、[11]、[13]、または[14]のいずれかに記載の方法。
【配列表】
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