(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20240603BHJP
H05B 3/32 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
G03G15/20 505
H05B3/32
(21)【出願番号】P 2020026804
(22)【出願日】2020-02-20
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池上 祥一郎
(72)【発明者】
【氏名】秋月 智雄
(72)【発明者】
【氏名】笹目 大樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 雄介
(72)【発明者】
【氏名】衣川 達也
【審査官】内藤 万紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-069202(JP,A)
【文献】特開2006-267395(JP,A)
【文献】特開平03-233586(JP,A)
【文献】国際公開第2017/131041(WO,A1)
【文献】特開2002-299016(JP,A)
【文献】特開平09-197864(JP,A)
【文献】特開2018-010221(JP,A)
【文献】特開2011-081160(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0186077(US,A1)
【文献】特開2016-212449(JP,A)
【文献】特開2001-222180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
H05B 3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のフィルムと、
ヒータと、前記ヒータを保持する保持部材と
、を有し、前記フィルムの内側に配置されたニップ部形成ユニットと、
前記フィルムを挟んで前記ニップ部形成ユニットに対向し前記フィルムとの間にニップ部を形成する加圧部材と、
を有し、前記ニップ部で記録材を挟持して搬送しながら記録材上の画像を記録材に定着させる
定着装置であって、
前記ヒータは、金属で形成された基板であって長手方向の長さが短手方向の長さより大きい板状の基板と、前記基板の厚さ方向における一方側の面に絶縁材料で形成された絶縁層と、前記絶縁層上に配置され通電により発熱する発熱体と、前記発熱体を覆う保護層と、を有し、外力を受けていない状態において、前記長手方向に沿って前記厚さ方向における前記一方側に反った形状であり、
前記保持部材は、前記加圧部材の加圧方向において前記ヒータを支持する座面であって、前記長手方向における中央部が前記長手方向における両端部に比べて前記加圧部材側に突出している座面を有し、
前記座面の突出量は前記ヒータの反り量よりも大きい、
ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記厚さ方向における前記基板の他方側の面には、前記基板と異なる材料の層は設けられていない、
ことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記絶縁層を第1の絶縁層とするとき、
前記ヒータは、前記厚さ方向における前記基板の他方側の面に絶縁材料で形成された第2の絶縁層を更に有し、
前記第1の絶縁層及び前記保護層の合計の厚みは、前記第2の絶縁層の厚みより大きい
ことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項4】
外力を受けていない状態における前記ヒータの反り量は、500μm以上である、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項5】
前記絶縁層及び前記保護層は、前記基板より線膨張係数が小さい材料で形成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項6】
前記座面の突出量と、外力を受けていない状態における前記ヒータの反り量との差が500μm未満である、
ことを特徴とする請求項
1乃至5のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項7】
前記長手方向における前記ニップ部の中央部における記録材の搬送速度が、前記長手方向における前記ニップ部の両端部における記録材の搬送速度より小さい、
ことを特徴とする請求項
1乃至
6のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項8】
前記保護層が前記フィルムの内面と摺接する、
ことを特徴とする請求項
1乃至
7のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項9】
回転する像担持体と、
前記像担持体の表面に担持されたトナー像を記録材に転写する転写手段と、
前記転写手段によって記録材に転写されたトナー像を記録材に定着させる請求項
1乃至
8のいずれか1項に記載の定着装置と、を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録材に画像を定着させる定着装置及び記録材に画像を形成する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式のプリンタや複写機に搭載される熱定着方式の定着装置として、セラミックス製等の基板上に発熱抵抗体を有するヒータと、ヒータに接触しつつ移動する定着フィルムと、定着フィルムを介してヒータに対向する加圧ローラを有するものがある。未定着トナー像を担持する記録材は、定着フィルムと加圧ローラの間のニップ部(定着ニップ部)で挟持搬送されつつ加熱され、これにより記録材上のトナー像は記録材に加熱定着される。
【0003】
省電力化とクイックスタートを可能にする定着装置に用いられる加圧ローラとしては、弾性層が多数の細かい気泡を内包しているスポンジゴムから成るスポンジゴムローラが多用される。スポンジローラを用いたフィルム加熱方式の定着装置では、記録材にシワ(以下、紙シワと称する)が発生するという問題がある。紙シワは、記録材の搬送速度が、加圧ローラの回転軸方向(長手方向)で左右端部よりも中央部の方が速い場合に発生すると考えられる。特許文献1には、定着ニップ部の長手方向位置において、中央部のニップ幅を両端部のニップ幅より広くすることで紙シワの低減を図った定着装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記文献に記載の構成では、ヒータを保持するヒータホルダを、長手方向の中央部が加圧ローラに向かって突出する凸形状としており、ヒータが凸形状に沿って変形することに伴う応力が発生していた。ヒータにはこのような機械的ストレスに加えて加熱による熱ストレスも作用するため、基板の破損や発熱体のパターン破壊といった問題が生じる懸念があった。
【0006】
そこで、本発明は、耐久性の高いヒータを備える定着装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、筒状のフィルムと、ヒータと、前記ヒータを保持する保持部材と、を有し、前記フィルムの内側に配置されたニップ部形成ユニットと、前記フィルムを挟んで前記ニップ部形成ユニットに対向し前記フィルムとの間にニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部で記録材を挟持して搬送しながら記録材上の画像を記録材に定着させる定着装置であって、前記ヒータは、金属で形成された基板であって長手方向の長さが短手方向の長さより大きい板状の基板と、前記基板の厚さ方向における一方側の面に絶縁材料で形成された絶縁層と、前記絶縁層上に配置され通電により発熱する発熱体と、前記発熱体を覆う保護層と、を有し、外力を受けていない状態において、前記長手方向に沿って前記厚さ方向における前記一方側に反った形状であり、前記保持部材は、前記加圧部材の加圧方向において前記ヒータを支持する座面であって、前記長手方向における中央部が前記長手方向における両端部に比べて前記加圧部材側に突出している座面を有し、前記座面の突出量は前記ヒータの反り量よりも大きい、ことを特徴とする定着装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐久性の高いヒータを備える定着装置及び画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】実施例1に係る定着装置に用いられるフィルムアセンブリの分解図。
【
図4】実施例1に係る定着装置の一部を示す正面図。
【
図5】実施例1に係るヒータの断面図(a)及び上面図(b)。
【
図6】実施例2に係るヒータの断面図(a)及び上面図(b)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための例示的な形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0011】
(1)画像形成装置
図1は実施例1に係る画像形成装置としての、電子写真技術を用いたレーザビームプリンタ(以下、単にプリンタ100とする)の断面図である。以下、プリンタ100の構成及び動作を簡単に説明する。
【0012】
プリンタ100は、プリント指示を受けると、スキャナユニット3が画像情報に応じたレーザ光Lを、像担持体としての感光体1に出射する。帯電ローラ2によって所定の極性に帯電された感光体1はレーザ光Lによって走査され、これにより感光体1の表面には画像情報に応じた静電潜像が形成される。その後、現像器4が感光体1にトナーを供給し、感光体1に画像情報に応じたトナー像を形成する。感光体1の矢印R1方向への回転により感光体1と、転写手段としての転写ローラ5との間に形成される転写部(転写ニップ部)に到達したトナー像は、カセット6からピックアップローラ7によって給送されてくる記録材Pに転写される。転写ニップ部を通過した感光体1の表面はクリーナ8でクリーニングされる。トナー像t(
図2)が転写された記録材Pは、熱定着方式の定着装置9で熱及び圧力を掛けられ定着処理される。
【0013】
その後、記録材Pは排出ローラ10によってトレイ11に排出される。なお、記録材Pとして、普通紙及び厚紙等の紙、プラスチックフィルム、布、コート紙のような表面処理が施されたシート材、封筒やインデックス紙等の特殊形状のシート材等、サイズ及び材質の異なる多様なシートを使用可能である。また、ここでは感光体1から記録材Pにトナー像を直接転写する方式を挙げたが、感光体に形成したトナー像を中間転写ベルト等の中間転写体を介して記録材に転写する方式の画像形成装置に対して以下で説明する技術を適用してもよい。
【0014】
(2)定着装置
定着装置9について説明する。定着装置9はテンションレスタイプのフィルム加熱方式である。即ち、定着装置9は、耐熱性フィルムとして可撓性を有する無端ベルト状(もしくは円筒状)の定着フィルムを用い、定着フィルムの周長の少なくとも一部は常にテンションが掛からない状態とし、定着フィルムが加圧部材の回転駆動力で回転する構成である。
【0015】
以後、本実施例に係るフィルム加熱方式の定着装置9について詳細を説明する。
図2は定着装置9の断面図である。
図3は定着装置9に用いられるフィルムアセンブリ20の分解斜視図である。
図4は定着装置9の一部を示す正面図である。なお、
図2及び
図4において、矢印Xは定着装置9の長手方向を表し、矢印Zは鉛直方向上方を表し、矢印Yは長手方向及び鉛直方向に垂直な方向を表す。
【0016】
本実施例の定着装置9は、
図2~
図4に示すように筒状の定着フィルム23と、定着フィルム23の内面に接触する加熱体であるヒータ22と、定着フィルム23を介してヒータ22に向けて押圧される加圧部材としての加圧ローラ30とを有する。ヒータ22が定着フィルム23に接触している領域と重なる部分に、定着フィルム23と加圧ローラ30との間のニップ部として定着ニップ部Nfが形成される。ヒータ22は耐熱樹脂の保持部材であるヒータホルダ21に保持されている。ヒータ22及びヒータホルダ21は、定着ニップ部Nfを形成するための本実施例のニップ部形成ユニットとして機能する。ヒータホルダ21は定着フィルム23の回転を案内するガイドの機能も有している。加圧ローラ30はモータから動力を受けて矢印b方向に回転する。加圧ローラ30が回転することによって定着フィルム23が従動して矢印a方向に回転する。
【0017】
ヒータホルダ21は、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)や液晶ポリマー等の耐熱性樹脂の成形品である。ヒータ22は、少なくとも金属又は合金を主材とした細長い板状の基板(金属基板)と、通電により発熱する抵抗発熱体(発熱体)と、抵抗発熱体と基板を絶縁する絶縁層と、発熱体を保護するガラスコート層を有している。ヒータ22の詳細については後述する。
【0018】
ヒータ22の定着フィルム23に対する当接面と反対側(図中上側)には、温度検知素子であるサーミスタ25及び通電遮断素子40が当接している。サーミスタ25の検知温度に応じて発熱体への通電が制御されることで、定着ニップ部Nfの温度が画像の定着に適した設定温度に維持される。通電遮断素子40は所定温度に達するとヒータ22への通電を物理的に遮断する機能を有し、定着装置9が不測の事態において暴走状態となる異常昇温に対する安全装置の役割を果たしている。通電を確実かつ安全に遮断するためには、暴走状態において、ヒータ22が破損する前に通電遮断素子40が動作する必要がある。
【0019】
定着フィルム23の厚みは、良好な熱伝導性を確保するため20μm以上100μm以下程度が好ましい。定着フィルム23としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)・PFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル)・PPS等の材質の単層フィルムが好適である。また、定着フィルム23としては、PI(ポリイミド)・PAI(ポリアミドイミド)・PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)・PES(ポリエーテルスルホン)等の材質からなる基層23aの表面に、PTFE・PFA・FEP(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル)等を離型層23b(表層)としてコーティングした複合層フィルムも好適である。さらに、高熱伝導性を有するSUS、Al、Ni、Cu、Zn等の純金属、合金等を基層23aに用い、離型層23bに前述のコーティング処理、フッ素樹脂チューブの被覆を行ったものも好適である。
【0020】
本実施例では、定着フィルム23の基層23aを厚さ60μmのPIとし、離型層23bには通紙による離型層の摩耗と熱伝導性の両立を考慮して厚み12μmのPFAをコーティングしたものを用いた。
【0021】
加圧部材(加圧回転体)としての加圧ローラ30は、鉄やアルミニウム等の材質の芯金30aと、シリコーンゴム等の材質の弾性層30bと、PFA等の材質の離型層30cと、を有する(
図2)。弾性層30bは芯金30aの外周に形成され、離型層30cは弾性層30bの外周に形成されて加圧ローラ30の最表層を構成している。加圧ローラ30の芯金30aの軸方向片側の端部には、駆動ギア33(
図4)が取り付けられており、不図示の駆動手段から駆動ギア33を介して回転駆動力を受けることで加圧ローラ30が回転する。
【0022】
本実施例では加圧ローラ30の外径はφ18mmとし、芯金30aはφ11の鉄製とし、弾性層30bは連泡スポンジゴムにより厚み3.5mmで形成、表層の離型層30cはPFAにより厚み20μmmで形成した。また、硬度に関しては500g荷重のアスカーC硬度で50°とした。
【0023】
図2の断面図を参照して、定着装置の構成について説明する。補強部材24は鉄等の金属からなり、ヒータホルダ21を加圧ローラ30側に押圧する圧力でも大きく変形しないように強度を維持する部材である。ヒータ22は後述の押圧手段によって、ヒータホルダ21と補強部材24を介して加圧ローラ30側に押圧されている。この押圧力により加圧ローラ30と定着フィルム23が密着している領域(圧接領域)が、本実施例における定着ニップ部Nfである。そして、加圧ローラ30の加圧位置(加圧ローラ30に対するヒータ22の押圧力の作用点の位置)と、記録材の搬送方向におけるヒータ22の中央部の位置は略同一としている。
【0024】
次に、
図3の斜視図を参照して説明する。ヒータホルダ21は、横断面で略樋型(U字型)形状を有しており、桶型の内側に補強部材24が嵌合する。ヒータホルダ21の加圧ローラ30と対向する側にはヒータ受け溝が設けられており、ヒータ22がヒータ受け溝に嵌ることで所望の位置に位置決めされる。定着フィルム23は上述の部品が組みつけられたヒータホルダ21の外側に周長に余裕を持って外嵌している。定着フィルム23の円筒形状の軸方向(図中で定着フィルム23が挿入される矢印方向)を、定着装置9の「長手方向」と称する。本実施例において、加圧ローラ30、ヒータ22及びヒータホルダ21は、いずれも長手方向に延びる細長い部材である。
【0025】
補強部材24の長手方向両端部は、定着フィルム23の両端から突き出た張り出し部となっており、それぞれフランジ部材26,26が嵌着されている。定着フィルム23、ヒータ22、ヒータホルダ21、補強部材24及びフランジ部材26,26は、全体でフィルムアセンブリ20として組み立てられる。
【0026】
ヒータ22の給電端子も定着フィルム23に対して長手方向一方側に突出しており、該給電端子に給電コネクタ27が嵌合されている。給電コネクタ27がヒータ22の電極部と当接圧をもって接触し、商用電源から供給される電力をヒータ22に供給する給電経路を構成している。
【0027】
ヒータ22の長手方向他方側(給電端子とは反対側)には、ヒータクリップ28が取り付けられている。ヒータクリップ28は、コの字型(U字型)に曲げられた金属板であり、そのバネ性によってヒータ22の端部をヒータホルダ21に対して保持している。
【0028】
次に
図4の正面図を参照して説明する。各フランジ部材26は回転走行する定着フィルム23の長手方向への移動を規制し、定着装置稼働中の定着フィルム23の位置を規制するものである。長手方向両側のフランジ部材26,26のつば(定着フィルム端部と摺接する部分)の間の距離は、定着フィルム23の長手方向の長さより長く設定されている。これは、通常使用時に定着フィルム端部にダメージを与えないためである。
【0029】
また、加圧ローラ30の長手方向の長さが定着フィルム23よりも約10mm程度短く構成されている。これは定着フィルム23の端部からはみ出したグリスが加圧ローラ30に付着して、加圧ローラ30が記録材に対するグリップ力を失いスリップが発生することを防止するためである。
【0030】
フィルムアセンブリ20は加圧ローラ30に対向して設けられ、長手方向(図内の左右方向)への移動は規制され、かつ、上下方向に移動可能な状態で、定着装置9の天板側筐体41に支持されている。天板側筐体41には加圧バネ45が圧縮した状態で取り付けられている。加圧バネ45の押圧力は補強部材24の張り出し部が受けており、加圧ローラ30側に補強部材24が押圧されることで、フィルムアセンブリ20全体が加圧ローラ30に押し付けられている。
【0031】
加圧ローラ30の芯金を軸支するように軸受部材31が設けられている(
図3も参照)。軸受部材31はフィルムアセンブリ20からの押圧力を、加圧ローラ30を介して受け止めている。比較的高温になる加圧ローラ30の芯金を回転自在に支持するために、軸受の材質は耐熱性があって、かつ摺動性に優れる材質が用いられる。軸受部材31は定着装置の底側筐体43に取り付けられている。
【0032】
底側筐体43及び天板側筐体41は、フィルムアセンブリ20に対して長手方向両側に設けられて上下に延びるフレーム側板42,42と共に、定着装置9の筐体(枠体)を構成している。
【0033】
(3)ヒータ
次に、本実施例のヒータ22を構成する材料、製造方法等について
図5から
図7を用いて説明する。
【0034】
図5(a)はヒータ22の断面図である。ヒータ22は、金属製の基板22aと、通電により発熱する発熱抵抗層としての発熱体22cと、発熱体22cと基板22aを絶縁する絶縁層22bと、発熱体を保護するガラスコート層等の保護層22dとを有する。基板22aは、金属又は合金を主材とした細長い板状である。即ち、基板22aは、定着装置に組み付けられた場合の長手方向の長さが短手方向(定着ニップ部Nfにおける記録材の搬送方向)の長さより大きい金属板である。
【0035】
基板22aに用いられる材料としては、ステンレス、ニッケル、銅、アルミのいずれか、又はそれらを主材とする合金が好適に用いられる。これらのうち、ステンレスが強度、耐熱性、腐食の観点で最も好ましい。ステンレスの種類としては特に限定されず、必要な機械的強度、次項で述べる絶縁層及び発熱体の形成に合わせた線膨張係数、市場における板材の入手のし易さ等を考慮して適宜選べば良い。
【0036】
一例を挙げると、クロム系ステンレス(400系)のマルテンサイト系及びフェライト系がステンレスの中でも線膨張係数が比較的低く、絶縁層及び発熱体の形成がし易く好適に用いられる。
【0037】
基板22aの厚みは、強度や熱容量、放熱性能を考慮して決めれば良い。薄い基板22aは、熱容量が小さいためクイックスタート性(ヒータ22の通電開始から目標温度到達までの時間の短さ)には有利だが、薄すぎると発熱抵抗体の加熱成型時に歪み等の問題が生じ易くなる。逆に厚い基板22aは、発熱抵抗体の加熱成型時の歪みの面では有利であるが、厚すぎると熱容量が大きいためクイックスタートには不利となる。基板22aの好ましい厚みは、量産性やコスト、性能のバランスを考慮した場合0.3mm~2.0mmである。
【0038】
絶縁層22bの材質は特に限定はされないが、実使用上の温度を鑑みて耐熱性のある絶縁材料を選択する必要がある。絶縁層22bの材質としてはガラスやPI(ポリイミド)が耐熱性の観点で好ましく、ガラスの場合の具体的粉末材料の選定は、実施形態の特性を損なわない範囲で適宜選択されれば良い。必要に応じて絶縁性を有する熱伝導フィラーなどを混合させても良い。絶縁層22bは同じ材質を用いても、異なる材質を用いても何ら問題はない。厚みに関しても同様に絶縁層22bで同じにしても良いし、必要に応じて変更しても問題ない。
【0039】
一般的に画像形成装置に用いるヒータ22としては絶縁耐圧を1.5KV程度有しておくことが好ましい。そのため発熱体22cと基板22a間で絶縁耐圧性能1.5KVを得るべく、絶縁層22bの膜厚を材料に応じて確保すれば良い。
【0040】
絶縁層22bの成型方法としては特に限定されないが、一例としてはスクリーン印刷法等で平滑に成形することができる。基板22a上にガラスやPI(ポリイミド)の絶縁層を形成する際には、材料間の線膨張係数差により絶縁層にクラックや剥がれが生じないように、基板と絶縁層材料の線膨張係数を適宜調整する必要がある。
【0041】
発熱体22cは、(A)導電成分、(B)ガラス成分、(C)有機結着成分を混合した発熱抵抗体ペーストを絶縁層22b上に印刷した後、焼成したものである。発熱抵抗体ペーストを焼成すると(C)の有機結着成分が焼失し(A)、(B)成分が残るため、導電成分とガラス成分とを含有する発熱体22cが形成される。
【0042】
ここで、(A)の導電成分としては、銀・パラジウム(Ag・Pd)、酸化ルテニウム(RuO2)、等の単独もしくは複合で用いられ、0.1[Ω/□]~100[KΩ/□]のシート抵抗値とするのが好適である。また、上記(A)~(C)以外においても実施形態の特性を損なわない程度の微量であれば他の材料を含有していてもよい。
【0043】
図5(b)に示す給電用電極22f及び導電パターン22gは、銀(Ag)、白金(Pt)、金(Au)や銀・白金(Ag・Pt)合金、銀・パラジウム(Ag・Pd)合金を例とする導電成分を主体とする。給電用電極22f及び導電パターン22gは、発熱抵抗体ペーストと同様に(A)導電成分、(B)ガラス成分、(C)有機結着成分を混合したペーストを絶縁層22b上に印刷した後、焼成したものである。給電用電極22fと導電パターン22gは発熱体22cに給電する目的で設けられた導電部であり、抵抗は発熱体22cに対して十分低くしている。
【0044】
ここで、前述の発熱抵抗体ペースト及び給電用電極及び導電パターンペーストは、基板22aの融点より低い温度で軟化溶融する材質を選択し、実使用上の温度を鑑みて耐熱性のある材料を選択する必要がある。
【0045】
図5(a)に示すように、ヒータ22の絶縁層22bの上(絶縁層上)には発熱体22c及び導電パターン22gを覆う保護層22dが設けられている。発熱体22cを基板22aの定着フィルム23と接触する側(
図2における下側)に配置した場合は、保護層22dは発熱体22cと定着フィルム23との電気的な絶縁性を確保し、発熱体22cと定着フィルム23との摺動性を確保する保護機能を有する。材質としてはガラスやPI(ポリイミド)が耐熱性の観点で好ましく、必要に応じて絶縁性を有する熱伝導フィラーなどを混合しても良い。
【0046】
本実施例では基板22aとして幅6mm・長さ300mm・厚さ0.5mmのフェライト系ステンレス基板(SUS430:18Crステンレス、線膨張係数11.0×10^-5/℃)を準備した。
【0047】
次に前述のステンレス基板に絶縁層ガラスペーストをスクリーン印刷にて塗工後、180℃の乾燥及び850℃の焼成を経て絶縁層22bを形成した。焼成後の絶縁層22bの厚みは60μmとした。
【0048】
その後、銀・パラジウム(Ag・Pd)を導電成分とし、その他ガラス成分、有機結着成分を混合した発熱抵抗体ペーストと、銀を導電成分とし、その他ガラス成分、有機結着成分を混合した給電用電極及び導電パターン用のペーストを用意した。各ペーストをステンレス基板にスクリーン印刷にて塗工後、180℃の乾燥及び850℃の焼成を経て、発熱体22c、給電用電極22f及び導電パターン22gを形成した。焼成後の発熱体22cの厚みは15μm、長さは220mm、幅は1mmとした。
【0049】
次に、保護層ガラスペーストを準備し、発熱体22c及び導電パターン22g上に保護層ガラスペーストをスクリーン印刷にて塗工後、180℃の乾燥及び850℃の焼成を経て、保護層22dを形成した。焼成後の保護層22dの厚みは後述する。絶縁層22bと保護層22dは同じガラス材料を使用し、線膨張係数は基板22aの線膨張係数より小さい値(0.85×10^-6/℃)である。
【0050】
本実施例では基板22aの発熱体22c側の面である絶縁層22bの厚みを60μm、及び保護層22dの厚みを60μmとし、発熱体22cがある側とは反対側には絶縁層を設けない構成とした。熱膨張率の異なる部材を組み合わせ焼成することから、常温においては残留応力が発生するため、ヒータ焼成時にヒータ22に反りを意図的に発生させている。本実施例では焼成時のヒータ反り量を500μmとなるよう絶縁層22bと保護層22dの厚みを調整した。
【0051】
なお、ヒータ22の反り量は、ヒータ22を水平な定盤に発熱体22cが上面となるように配置し、定盤から一番高くなっている箇所の高さを反り量として定義した。また、紙シワの低減及び耐久性の面で好ましいヒータ22の反り量の範囲については後述するが、反り量の上限は、ヒータホルダ21への組み付け性を考慮して設定することができる。例えば、反り量を15mm(15000μm)以下とすると好適である。
【0052】
(4)紙シワの発生メカニズム
記録材を挟持して搬送する構成の熱定着方式の定着装置においては、紙シワが発生することがある。紙シワは定着装置の回転軸方向(長手方向)における搬送速度差に起因する。長手方向における定着ニップ部の中央部の記録材搬送速度が両端部の記録材搬送速度よりも速いとき、記録材には定着ニップ部の手前(搬送方向上流側)の領域で、中央部へ引き寄せられる方向の力が作用する。このとき、記録材の坪量が小さくコシが弱い薄紙ほど波打ちが発生しやすい。さらに記録材の搬送が進み、波打ちの先端がニップに噛みこまれたとき、コシが強い記録材の場合は滑りが生じニップ面に倣うことにより紙シワは発生しないが、コシが弱い記録材の場合は座屈し易く紙シワの発生に至る。
【0053】
紙シワの発生を防止するためには、上述の構成の逆が良いことが分かっている。長手方向に関して定着ニップ部の両端部における記録材搬送速度を中央部における記録材搬送速度よりも速くした構成においては紙シワが発生しにくくなる。これは、記録材には左右端部方向に引っ張られる方向の力が作用し、定着ニップ部の手前において紙シワの原因である波打ちの発生が抑えられるためである。
【0054】
(5)ヒータのクラウン形状変形
フィルム加熱方式の定着装置において、連泡スポンジゴムから成る加圧ローラ30ではニップ幅と記録材搬送速度の間に負の相関があることが分かっている。長手方向の中央部の記録材搬送速度を両端部のそれと比べて遅くするためには、中央部のニップ幅を両端部のそれと比べ大きくする必要がある。ニップ幅の差は、定着ニップ部の中央部における加圧ローラ30の潰し量を両端部に比べ大きくすることで実現可能であり、加圧ローラ30の潰し量の差はヒータ22にクラウン形状を付与することで実現できる。
【0055】
ヒータ22のクラウン形状とは、長手方向におけるヒータ22の中央部が、長手方向の両端部に比べて、基板22aの厚さ方向において一方側(発熱体22cが設けられている側)に突出している形状を指す。厚さ方向の一方側とは、本実施例の場合、ヒータ22が定着装置に組み込まれた後の状態における加圧ローラ30の加圧方向で加圧ローラ30側(加圧部材側)と同じである。
【0056】
ヒータ22はヒータホルダ21に嵌合され、ヒータホルダ21は補強部材24によって支持されており、ヒータ22にクラウン形状を付与するには、ヒータホルダ21ないし補強部材24もしくは、それら両方にクラウン形状を付与すれば良い。本実施例ではヒータホルダ21の座面(ヒータ22の発熱体22cとは反対側の面を支持する面)にクラウン形状を付与し、加圧時にヒータ22がクラウン形状をとり、所望のニップ幅および記録材搬送速度分布をとるように設定した。
【0057】
なお、ヒータホルダ21のクラウン形状は、ヒータ22を支持するヒータホルダ21の座面について、長手方向における座面の中央部が、長手方向の両端部に比べて加圧ローラ30の加圧方向に関して加圧ローラ30側に突出している形状を指す。また、ヒータホルダ21のクラウン量とは、長手方向における座面の中央部が、長手方向の両端部に比べて加圧ローラ30側に突出している突出量を指す。
【0058】
本実施例の構成ではヒータ22をヒータホルダ21に組み込み、フィルムアセンブリ20の状態で加圧ばね45により押圧された場合は、ヒータ22はヒータホルダ21のクラウン形状に倣う構成となっている。例えば、ヒータホルダ21のクラウン量が800μmでヒータ22の反り量が500μmであった場合は、加圧ばね45に押圧されることでヒータ22は500μmから800μmまで反った状態となる。つまり、定着ニップ部の加圧が行われている状態におけるヒータ22の反り量は、本実施例においてヒータホルダ21のクラウン量と実質的に一致する。そのため、ヒータ22の反り量と、ヒータホルダ21のクラウン量の差が大きくなるほどヒータ22に発生する応力が高くなる。
【0059】
(6)作用効果
本実施例の構成では、ヒータ22にヒータホルダ21のクラウン面と同じ方向の反りを発生させる。つまり、本実施例のヒータ22は、定着装置に組み込まれた際に加圧ローラ30の加圧力によって生じる応力の変化を相殺するプレストレスが予め付与されたプレストレスト材である。これにより、従来よりも大きなクラウン量をヒータホルダ21に付与した場合においても、ヒータ22に発生する応力を低減させることができ、ヒータ22の耐久性を向上可能である。そして、薄紙などの坪量が低く、コシの弱い記録材Pに対しても紙シワ抑制効果が高く、異常昇温時のヒータ破壊に対するマージンを高くすることができ、ヒータ22が破壊される前に通電遮断素子40は安全に動作することができる。
【0060】
本実施例の作用効果について比較例と対比させて説明する。先ず、比較例の構成として、ヒータ22の反り量を0μmのものを用いたフィルム加熱方式の定着装置を用意した。基板22aは幅6mm、厚み0.5mm、長さ300mmであり、ヒータホルダ21のクラウン量は無加圧状態において比較例の構成1では0μm、比較例の構成2では300μm、比較例の構成3では500μm、比較例の構成4では800μmとした。本実施例ではヒータ22の反り量500μmのものを用意し、ヒータホルダ21のクラウン量は無加圧状態において構成1で500μm、構成2で800μmとした。さらに、ヒータ22の反り量800μmとし、ヒータホルダ21に付与するクラウン量は無加圧状態において800μmとなる構成3を用意した。
【0061】
それぞれの構成においてニップ幅、ニップ幅と対応する位置における記録材搬送速度、紙シワ発生有無評価、異常昇温遮断評価、画像評価をおこなった。ニップ幅はベタ黒画像印刷済み記録材を裏面向けに通紙させ、ニップ部に噛みこんだタイミングで強制停止させることでベタ黒画像部に加圧ローラ接触領域を熱転写させることで測定を行った。ニップ幅差は長手方向中央部におけるニップ幅と、長手方向両端部のニップ幅の差とした。
【0062】
ニップ幅に対応する位置における記録材搬送速度は幅30mmの短冊状に切った記録材(Canon Red Label Superior FSC 80g/m2 A4 paper)を用いて測定した。即ち、短冊状の記録材を、定着装置の長手方向中央部と左右端部の位置で通紙させ、搬送速度を測定した。定着ニップ下流における記録材搬送速度をデジタルレーザードップラー速度計(キヤノン株式会社)によって測定した。長手方向中央部における記録材搬送速度と、長手方向両端部における記録材搬送速度の差を計算した。
【0063】
紙シワ発生有無評価はそれぞれの構成において定着性をそろえた状態で、紙の坪量を振って通紙し、紙シワ発生の有無を調べることで確認した。また、実験は室温33℃湿度80%の高温高湿環境で実施した。紙シワは紙の坪量が低く、コシが弱いほど起こりやすいため、坪量を振り、コシが弱くなる高温高湿環境において評価した。
【0064】
異常昇温遮断評価は、回転停止状態でヒータに外部電源より公差を見込んだ最大電力を投入させることで二重故障時想定の異常昇温を引き起こし、ヒータ22が破損するまでの時間と通電遮断素子40が動作するまでの時間とを比較するという評価である。なお、製品構成では通電遮断素子40が動作するとヒータ22への通電は遮断される(すなわちヒータの加熱は停止する)が、本評価においては予め評価用に回路を分離し、ヒータ22と通電遮断素子40の双方が破壊するまで通電できるようにしている。上記評価結果について、ヒータ22のほうが通電遮断素子40の動作よりも早く破損した場合、もしくは、通電遮断素子40の動作後1秒未満にヒータ22が破損した場合はマージンが無いと判断し×とした。また、通電遮断素子40の動作後1秒以上3秒未満の場合はマージン小と判断し△、3秒以上を適切マージンと判断し○とした。
【0065】
【0066】
表1に比較例の構成と本実施例の構成における紙シワ発生評価と異常昇温遮断評価結果を示す。比較例1~4の結果から、ヒータ22の反り量0mmの構成においては、ヒータ22のクラウン量を増していくと紙シワは良くなるが異常昇温遮断評価は悪化していることが分かる。特に坪量が52[g/m2]以下の記録材Pに対応する場合、異常昇温遮断試験評価と両立する箇所がないことが確認された。なお、紙シワ防止性能に注目すると、ヒータホルダ21のクラウン量(使用時のヒータ22の反り量)は300μm以上が好ましく、500μm以上がより好ましく、800μm以上がより好ましい。
【0067】
本実施例の構成1においては、ヒータ22の反り量を500μmとしたことで、ヒータホルダ21のクラウン量を500μmと大きくしてもヒータ22に発生する応力を小さくすることができる。そのため、坪量が52[g/m2]の記録材Pを用いた場合においても異常昇温遮断評価に問題ないことが確認された。
【0068】
本実施例の構成2においては、ヒータ22の反り量を500μmとしている。このため、ヒータホルダ21のクラウン量が800μmと大きく、ヒータ22に発生する応力を実施例1の構成1よりは高くなるものの、坪量が52[g/m2]の記録材Pを用いた場合でも紙シワの発生は確認されなかった。
【0069】
本実施例の構成3においては、ヒータ22の反り量を800μmとし、ヒータホルダ21のクラウン量も800μmとどちらも大きい。このため、ヒータ22に発生する応力を実施例1の構成1と同程度にでき、坪量が52[g/m2]の記録材Pを用いた場合でも紙シワの発生は確認されなかった。このように、外力を受けていない状態におけるヒータ22の反り量を500μm以上とした場合に紙シワ及びヒータの耐久性に関して良好な結果が得られた。
【0070】
以上説明したように、本実施例によれば、加熱体が変形力(外力)を受けない状態において発熱体と保護層を設けた側にクラウン状に反った形状にしている。これにより、薄紙のような坪量の低い記録材Pを通紙した場合においても紙シワの発生を抑制しつつ、通電遮断評価の安全マージンを両立することが可能となる。
【0071】
なお、本実施例では基板22aの発熱体22cがある面にのみ絶縁層22b及び保護層22dを設け、基板22aの厚さや絶縁層22b及び保護層22dの厚さを調整することでヒータ22の反り量を調整していが、他の方法で反り量を調整してもよい。
図6(a、b)に示すように、発熱体22cがある面とは反対側の面にも絶縁層22e(絶縁層22bを第1の絶縁層とするときの、第2の絶縁層)を設けてもよい。この場合、絶縁層22bと保護層22dの合計厚みより、絶縁層22eを薄くすることにより、ヒータ22にヒータホルダ21のクラウン面と同じ方向の反りを調整した場合においても本実施例と同様の効果が得られる。
【実施例2】
【0072】
実施例2に係る定着装置及び画像形成装置について説明する。本実施例は、ヒータ22の撓み剛性を高くし、ヒータホルダ21のクラウン形状によらずにヒータ22の反り量で定着ニップ部のニップ幅の差を作り出す点が実施例1と異なっていることを説明する。その他の実施例1と共通の符号を付した要素は実施例1と同様の構成及び作用を有するものとする。
【0073】
本実施例ではヒータ22の撓み剛性を高くするために、基板22aの厚さを1.5mmとしている。また、絶縁層は発熱体22cのある面のみとし、絶縁層22bと保護層22dの合計厚さを振ることで、ヒータ反り量が300μm/500μm/800μmの3水準となるヒータ22を作成した。また、比較例としてヒータ反り量が0mmの構成を挙げる。
【0074】
表2に本実施例の構成と比較例の構成において、紙シワ発生有無の評価と異常昇温遮断評価の結果を示す。比較例の構成は、実施例1と同様に、反り量が0mmのヒータ22を用いた。
【0075】
【0076】
比較例の構成に関しては、ヒータ22の反り量0mmであるため、長手方向中央部と長手方向端部のニップ幅差がなく、記録材Pの搬送速度差が生じなかったため、紙坪量が64[g/m2]以下の記録材Pにおいて紙シワが発生した。本実施例の構成においては、ヒータ22の反り量が大きくなるにつれ、長手方向中央部と長手方向端部のニップ幅差が大きくなり、記録材Pの搬送速度差を設けることができている。ヒータ22の反り量が300μmである構成1では記録材Pの坪量が64[g/m2]、ヒータ22の反り量が500μmである構成2では記録材Pの坪量が52[g/m2]、ヒータ22の反り量が800μmである構成3では記録材Pの坪量が42[g/m2]まで紙シワがそれぞれ発生しないことを確認された。また、本実施例の構成ではヒータ22が加圧により変形しないため、構成1~3のいずれにおいても異常昇温遮断評価のマージンがあることを確認できた。
【0077】
本実施例では絶縁層は発熱体22cのある面のみとしたが、これに限定されるものではなく、基板22aに対して両側に絶縁層を設けてもよい。この場合、発熱体22cがある面の絶縁層の厚さを発熱体22cがない面の絶縁層より厚くすることでヒータ22の反り量を設ける構成としても同様の効果が得られる。
【0078】
(その他の実施例)
上述した各実施例ではモノクロ画像形成装置を用いて説明した。しかし、本技術は、記録材搬送ベルトを用いたタンデム型のカラー画像形成装置や、4サイクル型の中間転写方式のカラー画像形成装置や、タンデム型の中間転写方式のカラー画像形成装置にも適用可能である。また、中間転写方式において記録材搬送ベルトを用いたカラー画像形成装置、さらには、4つ以上のトナーを使用した画像形成装置など、類似の構成に用いた定着装置においても、本技術を適用できる。
【0079】
また、実施例1において、ヒータ22の反り量と、ヒータホルダ21のクラウン量の差分について、最も効果の得られる構成の条件として500μm未満が望ましい旨説明した。しかし、ヒータ22の抵抗値(に伴う異常昇温遮断評価で使用する電力)や通電遮断素子40の構成をはじめ、定着装置の構成によって、異常昇温遮断評価のマージンは変わるものである。ヒータ22の反り量と、ヒータホルダ21のクラウン量の差分が500μm以上であっても、加熱体が変形力(外力)を受けない状態において発熱体と保護層を設けた側にクラウン状に反った形状に構成してあれば、同様の効果が得られる場合がある。
【0080】
また、実施例1において、ヒータホルダ21のクラウン量の条件として300μm以上が望ましい旨説明した。しかし、画像形成装置の記録材搬送構成などによって、紙シワの発生しやすさは変わるものである。ヒータホルダ21のクラウン量300μm未満であっても、加熱体が変形力を受けない状態において発熱体と保護層を設けた側にクラウン状に反った形状に構成してあれば、同様の効果が得られ、本技術を適用できる。
【0081】
また、外力を受けていない状態でヒータ22が沿った形状とする方法として、上記の各実施例では基板22aと線膨張率の異なる材料の層を基板22aの片面のみに形成し、或いは両面での層厚に差を設けることを例示したが、他の方法を用いてもよい。例えば、基板22aとして予め曲げ加工した板材を用いてもよい。
【0082】
また、上述した各実施例の定着装置は、ヒータ22がフィルム内面に直接接触しているが、ヒータとフィルム内面との間に、熱伝導性が高いシート状の部材(例えば材質が合金鉄やアルミのシート状の部材)を配置してもよい。つまり、ヒータがシート状の部材を介してフィルムを加熱する構成のニップ部形成ユニットを用いてもよい。
【符号の説明】
【0083】
9…定着装置/21…ニップ部形成ユニット、保持部材(ヒータホルダ)/22…ニップ部形成ユニット、ヒータ/22a…基板/22b…絶縁層、第1の絶縁層/22c…発熱体/22d…保護層/22e…第2の絶縁層/23…フィルム(定着フィルム)/30…加圧部材(加圧ローラ)/100…画像形成装置(プリンタ)/Nf…ニップ部(定着ニップ部)