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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】複合材、飛翔体及び複合材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/85 20060101AFI20240603BHJP
   F42B 15/34 20060101ALI20240603BHJP
   B64C 1/00 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
C04B41/85 B
F42B15/34
B64C1/00 B
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020033742
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021134130
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100205350
【弁理士】
【氏名又は名称】狩野 芳正
(74)【代理人】
【識別番号】100117617
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭策
(72)【発明者】
【氏名】西川 紘介
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-157271(JP,A)
【文献】特開平05-017243(JP,A)
【文献】特開平03-265573(JP,A)
【文献】米国特許第05902756(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/85
F42B 15/34
B64C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1繊維クロスに第1スラリーを含浸させた第1シートと、第2繊維クロスに第2スラリーを含浸させた第2シートとを積層することと、
積層した前記第1シートと前記第2シートとを熱分解によりセラミックスに変化する温度まで加熱し、中間体を生成することと、
前記中間体に第3スラリーを含浸させて、熱分解により前記第3スラリーがセラミックスに変化する温度より低い温度で加熱することと、
を含み、
前記第1スラリーは、融点または分解温度が2750℃以上の超耐熱セラミックス粒子を含み、前記第1スラリーの成分は、前記第2スラリーの成分と異なり、前記第2スラリーよりも前記超耐熱セラミックス粒子を多く含む複合材の製造方法。
【請求項2】
前記低い温度は、前記第3スラリーの加熱による質量減少が加熱前の質量に対する所望の割合になる温度を含む
請求項1に記載の複合材の製造方法。
【請求項3】
前記所望の割合は、10%以下を含む
請求項2に記載の複合材の製造方法。
【請求項4】
前記第1スラリーが熱分解された第1焼結体の耐熱性は、前記第2スラリーが熱分解された第2焼結体の耐熱性よりも高い
請求項1から3のいずれか1項に記載の複合材の製造方法。
【請求項5】
前記第2焼結体の強度は、前記第1焼結体の強度よりも高い
請求項4に記載の複合材の製造方法。
【請求項6】
前記積層することは、第3繊維クロスに第4スラリーを含浸させた第3シートを、前記第1シートと前記第2シートとの間に積層することを含み、
前記第4スラリーの成分は、前記第1スラリーの成分と、前記第2スラリーの成分と異なる
請求項1から5のいずれか1項に記載の複合材の製造方法。
【請求項7】
前記第4スラリーが熱分解された第3焼結体の断熱性は、前記第1スラリーが熱分解された第1焼結体の断熱性よりも高い
請求項6に記載の複合材の製造方法。
【請求項8】
前記第4スラリーが熱分解された第3焼結体の断熱性は、前記第2スラリーが熱分解された第2焼結体の断熱性よりも高い
請求項6または7に記載の複合材の製造方法。
【請求項9】
第1マトリクスを有する第1層と、
第2マトリクスを有し、前記第1層の下に設けられた第2層と、
を備え、
前記第1層は、前記第1マトリクスの前駆体を含み、
前記第1マトリクスは、融点または分解温度が2750℃以上の超耐熱セラミックス粒子を含み、前記第2マトリクスの成分は、前記第1マトリクスの成分と異なり、前記第2マトリクスよりも前記超耐熱セラミックス粒子を多く含む複合材。
【請求項10】
前記第1層の耐熱性は、前記第2層の耐熱性よりも高い
請求項9に記載の複合材。
【請求項11】
前記第2層の強度は、前記第1層の強度よりも高い
請求項9または10に記載の複合材。
【請求項12】
第3マトリクスを有し、前記第1層と前記第2層との間に設けられた第3層をさらに備え、
前記第3層の断熱性は、前記第1層の断熱性よりも高い
請求項9から11のいずれか1項に記載の複合材。
【請求項13】
前記第3層の断熱性は、前記第2層の断熱性よりも高い
請求項12に記載の複合材。
【請求項14】
前記第1層は、外表面を形成し、
前記外表面は、空気の流れを整える
請求項9から13のいずれか1項に記載の複合材。
【請求項15】
前記空気の流れは、音速以上である
請求項14に記載の複合材。
【請求項16】
請求項9から15のいずれか1項に記載の複合材を空力加熱が加えられる部分に備える飛翔体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材、飛翔体及び複合材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複合材料から作製される部品上に自己修復層を形成するために、組成物を部品に塗布することが開示されている。組成物はコロイドシリカ懸濁液と、粉末形態にあるホウ素またはホウ素化合物と、粉末形態にある炭化ケイ素と、少なくとも1種の超耐熱性酸化物とを含むことが、さらに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2011-522099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の状況に鑑み、複数の特性、例えば耐熱性と強度とを有する複合材の製造方法を提供することを目的の1つとする。他の目的については、以下の記載及び実施の形態の説明から理解することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下に、発明を実施するための形態で使用される番号・符号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号・符号は、特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態との対応関係の一例を示すために、参考として、括弧付きで付加されたものである。よって、括弧付きの記載により、特許請求の範囲は、限定的に解釈されるべきではない。
【0006】
上記目的を達成するための一実施の形態による複合材の製造方法は、第1繊維クロスに第1スラリー(214)を含浸させた第1シート(210)と、第2繊維クロスに第2スラリー(224)を含浸させた第2シート(220)とを積層することと、積層した第1シート(210)と第2シート(220)とを熱分解によりセラミックスに変化する温度まで加熱し、中間体(300)を生成することとを含む。製造方法は、さらに中間体(300)に第3スラリーを含浸させて、熱分解により前記第3スラリーがセラミックスに変化する温度より低い温度で加熱することを含む。上記製造方法において、前記第1スラリーは、融点または分解温度が2750℃以上の超耐熱セラミックス粒子を含み、前記第1スラリーの成分は、前記第2スラリーの成分と異なり、前記第2スラリーよりも前記超耐熱セラミックス粒子を多く含む。
【0007】
上記目的を達成するための一実施の形態による複合材は、第1マトリクス(114)を有する第1層(110)と、第2マトリクス(134)を有し、第1層(110)の下に設けられた第2層(130)とを備える。第1層(110)は、第1マトリクス(114)の前駆体を含む。前記第1マトリクスは、融点または分解温度が2750℃以上の超耐熱セラミックス粒子を含み、第2マトリクス(134)の成分は、第1マトリクスの成分(114)と異なり、前記第2マトリクスよりも前記超耐熱セラミックス粒子を多く含む
【0008】
上記目的を達成するための一実施の形態による飛翔体は、前述の複合材を空力加熱が加えられる部分に備える。
【発明の効果】
【0009】
上記の形態によれば、複合材は複数の特性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施の形態における複合材の概略図である。
図2A】一実施の形態における第1層の概略断面図である。
図2B図2AのA-A断面の概略図である。
図3】一実施の形態における第2層の概略断面図である。
図4】一実施の形態における第3層の概略断面図である。
図5】一実施の形態における飛翔体の概略図である。
図6】一実施の形態における複合材の製造方法を表すフローチャートである。
図7】一実施の形態において、複合材の製造に利用されるシートの概略図である。
図8】一実施の形態において、積層体の概略図である。
図9】一実施の形態において、積層体の熱分解を説明するための図である。
図10】一実施の形態における中間体の概略図である。
図11】一実施の形態における複合材の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施の形態)
図1に示すように、一実施の形態による複合材100は、複数の層(例えば第1層110、第2層120、第3層130を含む)を備える。複合材100は、加熱される外表面100aと、外表面100aに対向する内表面100bとを備える。複合材100の外表面100aが加熱され、加熱された熱は熱伝導により外表面100aから内表面100bに伝達される。第1層110は、複合材100の外表面100aを形成し、他の層、例えば第2層120、第3層130よりも耐熱性が高い材料で形成されてもよい。第2層120は、他の層、例えば第1層110、第3層130よりも断熱性が高い材料で形成されてもよい。第3層130は、複合材100の内表面100bを形成し、他の層、例えば第1層110、第2層120よりも高い強度、例えば引張強度、高温時の曲げ強度などを有する材料で形成されてもよい。引張強度は、例えば、JIS R 1606により測定される。高温時の曲げ強度は、例えば、JIS R 1604により測定され得る。
【0012】
第1層110は強化繊維セラミックスを含む。例えば、第1層110は、図2A、2Bに示すように、第1強化繊維112と、第1マトリクス114と、第1前駆体116とを備える。第1強化繊維112は、例えば、炭素繊維、炭化ケイ素(SiC)繊維、ホウ化ジルコニウム(ZrB2)繊維、又はこれらの組み合わせを含む。第1マトリクス114は、多孔質形状に、セラミックスで形成されている。第1マトリクス114は、例えば超耐熱セラミックス(Ultra High Temperature Ceramics;UHTC)のうち2750℃以上の融点または分解温度を有する素材(例えば、ホウ化ジルコニウム(ZrB2)、炭化ハフニウム(HfC)、ホウ化ハフニウム(HfB2))を含む。また、第1マトリクス114は、一部SiCなどの2750℃未満の融点または分解温度を有する素材を含んでもよい。第1前駆体116は第1マトリクス114の孔に含浸されるように形成されている。第1前駆体116はセラミックスが生成される前の物質を含む。第1前駆体116は、熱分解されるとセラミックスとなる物質、例えばポリカルボシラン(Polycarbosilane;PCS)を含んでもよい。超耐熱セラミックスは融点および分解温度が2000℃より高いセラミックスを含み得る。分解温度は、例えば物質が熱分解される温度を含む。
【0013】
第2層120も、第1層110と同様に強化繊維セラミックスを含む。例えば、第2層120は、図3に示すように、第2強化繊維122と、第2マトリクス124と、第2前駆体126とを備える。第2強化繊維122は、例えば、炭素繊維、炭化ケイ素(SiC)繊維、ホウ化ジルコニウム(ZrB2)繊維、又はこれらの組み合わせを含む。第2マトリクス124は、多孔質形状に、セラミックスで形成されている。第2マトリクス124は、例えば炭化ケイ素(SiC)、超耐熱セラミックスのうち2750℃以上の融点または分解温度を有する素材(例えば、ホウ化ジルコニウム(ZrB2)、炭化ハフニウム(HfC)、酸化ジルコニウム(ZrO2))を含んでもよい。第2前駆体126は第2マトリクス124の孔に含浸されるように形成されている。第2前駆体126はセラミックスが生成される前の物質を含む。第2前駆体126は、熱分解されるとセラミックスとなる物質、例えばポリカルボシラン(Polycarbosilane;PCS)を含んでもよい。
【0014】
第3層130も、第1層110と同様に強化繊維セラミックスを含む。例えば、第3層130は、図4に示すように、第3強化繊維132と、第3マトリクス134と、第3前駆体136とを備える。第3強化繊維132は、例えば、炭素繊維、炭化ケイ素(SiC)繊維、ホウ化ジルコニウム(ZrB2)繊維、又はこれらの組み合わせを含む。第3マトリクス134は、多孔質形状に、セラミックスで形成されている。第3マトリクス134は、例えば炭化ケイ素(SiC)、超耐熱セラミックスのうち2750℃以上の融点または分解温度を有する素材(例えば、ホウ化ジルコニウム(ZrB2)、炭化ハフニウム(HfC))を含んでもよい。第3前駆体136は第3マトリクス134の孔に含浸されるように形成されている。第3前駆体136はセラミックスが生成される前の物質を含む。第3前駆体136は、熱分解されるとセラミックスとなる物質、例えばポリカルボシラン(Polycarbosilane;PCS)を含んでもよい。
【0015】
各層の強化繊維、例えば第1強化繊維112と、第2強化繊維122と、第3強化繊維132とは、同じ材料でもよく、異なる材料でもよい。各層の前駆体、例えば第1前駆体116と、第2前駆体126と、第3前駆体136とは、同じ材料でもよい。
【0016】
第1層110の耐熱性は、他の層、例えば第2層120、第3層130の耐熱性より高くてもよい。例えば、第1マトリクス114の成分(例えば、素材と、各素材の割合とを含む)は、他の層のマトリクス、例えば第2マトリクス124の成分と、第3マトリクス134の成分と異なってもよい。第1マトリクス114の素材は、他の層のマトリクスの素材と異なってもよく、他の層のマトリクスの素材と同じでも各素材の割合、例えば質量パーセント濃度が異なってもよい。第1マトリクス114に含まれる耐熱性が高い素材、例えばZrB2、HfB2の第1層110における割合、例えば質量パーセント濃度は、他の層、例えば第2層120、第3層130よりも高くてもよい。耐熱性が高い素材は、超耐熱セラミックスを含んでもよい。耐熱性が高い素材は、融点または分解温度がSiCの分解温度より高い素材、例えば融点または分解温度が2750℃以上の超耐熱性セラミックスを含んでもよい。耐熱性が高い素材は、空気が高速(例えば音速)に流れている環境に設置されたときに、単位時間に減少する質量(例えば減肉量(g/sec))がSiCより低い素材でもよく、単位時間に表面が損耗する長さ(例えば減耗速度(μm/sec))がSiCより低い素材でもよい。ここで、また、単位時間に表面が損耗する長さは、例えば、空気が高速(例えば音速)に流れている環境に所望の厚さの物質が置かれたときに、1秒間に物質の厚さが減少する長さを表す。例えば、第1層110において、耐熱性が高い素材の質量パーセント濃度は3%以上でもよい。
【0017】
第2層120の耐熱性は、第2層120より内表面100b方向の層、例えば第3層130の耐熱性より高くてもよい。第2マトリクス124の成分は、第3マトリクス134の成分と異なってもよい。第2マトリクス124に含まれる耐熱性が高い素材、例えばZrO2の第2層120における割合、例えば質量パーセント濃度は、第2層120より内表面100b方向の層よりも高くてもよい。
【0018】
第2層120の断熱性は、他の層、例えば第1層110、第3層130の断熱性より高くてもよい。例えば、第2層120の熱伝導率は、第1層110、第3層130の熱伝導率より低い。熱伝導率は、例えばJIS R1611、JID R2251などにより測定される。第2マトリクス124に含まれる断熱性が高い素材、例えばZrO2の第2層120における割合、例えば質量パーセント濃度は、他の層、例えば第1層110、第3層130より高くてもよい。断熱性が高い素材は、熱伝導率がSiCより低い素材を含んでもよい。断熱性が高い素材は、所望の温度、例えば常温または高温(例えば、2000度)における熱伝導率がSiCより低い素材を含んでもよい。
【0019】
複合材100は、特性の異なる複数の層を有することで、高い耐熱性と高い強度を有することができる。加熱される外表面100aを形成する第1層110は高い耐熱性を有する。中間層、例えば第2層120は高い断熱性を有する。内表面100bを形成する第3層130は高い強度を有する。よって、外表面100aが高温に熱せられても内表面100bの温度は外表面100aより低いため、第3層130は強度の高い材料を用いることができる。
【0020】
複合材100は、一方の表面が加熱され、他方の表面が加熱されない部分に適用してもよい。例えば、図5に示すように、飛翔体10(例えばミサイル)の先端部分に複合材100が設けられてもよい。飛翔体10が飛行するときに、空力加熱が加えられる部分に複合材100が設けられてもよい。飛翔体10は、推進装置15、例えばロケットモータ、ジェットエンジンを備え、音速以上で飛行してもよい。複合材100は、飛翔体10の外表面が複合材100の外表面100aを含むように設けられる。
【0021】
複合材100は、高い耐熱性と、高い強度を有することができる。複合材100の外表面100aを形成する第1層110は耐熱性が高いため、複合材100は空力加熱による高温に耐えることができる。また、複合材100の第3層130が高い強度を有し、かつ、第1層110を支持しているため、外表面100aへの空圧による第1層110の変形を抑制することができる。このように、外表面100aは、空気の流れ、例えば音速以上の空気の流れの中でも空気の流れを保ち得る。このため、複合材100は、音速以上の空気の流れの中でも、空力特性に大きな影響を与えずに空気の流れを整えることができる。
【0022】
(製造方法)
複合材100は、図6に示す方法により製造することができる。ステップS110において、繊維クロスにスラリーを含浸させたシートが複数準備される。例えば、第1層110に対応する第1シート210と、第2層120に対応する第2シート220と、第3層130に対応する第3シート230とが準備される。第1シート210と、第2シート220と、第3シート230とは、それぞれ複数準備されてもよい。
【0023】
例えば、図7に示すように、第1層110に対応する第1シート210が準備される。第1強化繊維112で形成された第1繊維クロス212と、第1マトリクス114を形成する第1スラリー214とが準備される。第1繊維クロス212に第1スラリー214を含浸して、第1シート210が形成される。第1スラリー214は、セラミックス粒子(例えばSiC粒子、融点または分解温度が2750℃以上の超耐熱セラミックス粒子)を混ぜた前駆体、例えばセラミックス前駆体を含む。このセラミックス前駆体はポリカルボシランを含んでもよい。複数の第1シート210が準備されてもよい。
【0024】
例えば、第2層120に対応する第2シート220が準備される。第2強化繊維122で形成された第2繊維クロス222と、第2マトリクス124を形成する第2スラリー224とが準備される。第2繊維クロス222に第2スラリー224を含浸して、第2シート220が形成される。第2スラリー224は、セラミックス粒子(例えばSiC粒子、融点または分解温度が2750℃以上の超耐熱セラミックス粒子)を混ぜた前駆体、例えばセラミックス前駆体を含む。このセラミックス前駆体はポリカルボシランを含んでもよい。複数の第2シート220が準備されてもよい。
【0025】
例えば、第3層130に対応する第3シート230が準備される。第3強化繊維132で形成された第3繊維クロス232と、第3マトリクス134を形成する第3スラリー234とが準備される。第3繊維クロス232に第3スラリー234を含浸して、第3シート230が形成される。第3スラリー234は、セラミックス粒子(例えばSiC粒子、融点または分解温度が2750℃以上の超耐熱セラミックス粒子)を混ぜた前駆体、例えばセラミックス前駆体を含む。このセラミックス前駆体はポリカルボシランを含んでもよい。複数の第3シート230が準備されてもよい。
【0026】
スラリーに含まれるセラミックス粒子の割合の変化に応じて、各層の特性、例えば耐熱性、断熱性、強度が変化する。第1スラリー214の成分は、他の層のスラリーの成分、例えば第2スラリー224の成分と、第3スラリー234の成分とは異なってもよい。第1スラリー214の素材は、他の層のスラリーの素材と異なってもよく、他の層のスラリーの素材と同じでも各素材の割合、例えば質量パーセント濃度が異なってもよい。
【0027】
第1スラリー214が熱分解された第1焼結体は、他のスラリーが熱分解された焼結体、例えば、第2スラリー224の第2焼結体と、第3スラリー234の第3焼結体よりも、耐熱性が高くてもよい。例えば、第1スラリー214における耐熱性が高い粒子、例えば、ZrB2粒子、HfB2粒子の全体に対する割合、例えば質量パーセント濃度は、他のスラリー、例えば第2スラリー224、第3スラリー234より高くてもよい。
【0028】
第2スラリー224が熱分解された第2焼結体は、他のスラリーが熱分解された焼結体、例えば第1スラリー214の第1焼結体と、第3スラリー234の第3焼結体よりも、断熱性が高くてもよい。第2スラリー224における断熱性が高い粒子、例えば、ZrO2粒子の全体に対する割合、例えば質量パーセント濃度は、他のスラリー、例えば第1スラリー214、第3スラリー234より高くてもよい。
【0029】
第3スラリー234が熱分解された第3焼結体は、他のスラリーが熱分解された焼結体、例えば第1スラリー214の第1焼結体と、第2スラリー224の第2焼結体よりも、強度が高くてもよい。第3スラリー234における強度が高い粒子、例えばSiC粒子の全体に対する割合、例えば質量パーセント濃度は、他のスラリー、例えば第1スラリー214、第2スラリー224より高くてもよい。
【0030】
ステップS120において、準備されたシートが積層されて、積層体200が形成される。例えば、図8に示すように、第1シート210は第2シート220の上に配置され、第2シート220は第3シート230の上に配置されてもよい。また、第2シート220は、第1シート210と第3シート230との間に配置される。複数の第1シート210が第1層110を形成し、複数の第2シート220が第2層120を形成し、複数の第3シート230が第3層130を形成してもよい。複数の第2シート220は、複数の第1シート210と、複数の第3シート230との間に配置されてもよい。
【0031】
ステップS130において、積層体200が真空雰囲気または不活性雰囲気(例えば窒素雰囲気、アルゴン雰囲気を含む)での加熱により熱分解されて、中間体300が形成される。図9に示すように、積層されたシートは、成形型20、30に挟まれた状態で加熱される。成形型20、30は積層されたシートに圧力を加えてもよい。シートは熱分解によりセラミックスに変化する温度、例えば800℃~1000℃まで加熱される。成形型20、30は、例えば金型、カーボン型などを含む。
【0032】
ステップS140において、熱分解された中間体300にスラリーが含浸される。中間体300は、図10に示すように、セラミックス収率(ceramic yield)に応じて、複数の孔310が形成される。中間体300の孔310を埋めるように、スラリーは中間体300に含浸される。中間体300は真空雰囲気に調整された真空チャンバー内で含浸されてもよい。中間体300に含浸されるスラリーは、第1スラリー214と、第2スラリー224と、第3スラリー234とのいずれでもよい。中間体300に含浸されるスラリーは、第1スラリー214と第2スラリー224と第3スラリー234と異なるスラリーでもよい。なお、セラミックス収率は、セラミックス前駆体の質量と、そのセラミックス前駆体を加熱して得られるセラミックスの質量との比率を含んでもよい。
【0033】
ステップS150において、加熱した回数が所望の回数と比較される。加熱した回数が所望の回数に達していないとき(ステップS150;NO)、ステップS130の処理に戻る。加熱した回数が所望の回数に達したとき(ステップS150;YES)、ステップS160の処理に移行する。所望の回数は、製造する複合材100の特性に応じて決定される。例えば、所望の回数は、例えば3以下の数を含み、1を含んでもよい。なお、2回目以降のステップS130の処理では、成形型20、30は使用されなくてもよい。
【0034】
ステップS160において、スラリーを含浸した中間体300が低温で加熱される。中間体300を加熱する温度は、スラリーが熱分解によりセラミックスに変化する温度よりも低い。加熱する温度は、熱分解挙動により質量減少が加熱前の質量に対する所望の割合になる温度より小さくてもよい。この所望の割合は、例えば10%以下を含み、5%以下でもよい。この質量減少の割合は、熱重量分析(thermal gravimetric analysis;TG)、熱重量・示差熱分析(thermal gravimetric analysis ‐ differential thermal analysis;TG-DTA)などを用いて測定される。例えば、ポリカルボシランの場合、加熱する温度は400℃未満でもよい。
【0035】
このように、最後にスラリーを含浸した中間体300を低温で加熱して、第1層110の成分と、第2層120の成分と、第3層130の成分とが異なる複合材100を製造することができる。また、加熱する温度が低温に抑えられることで、複合材100に占める孔310の割合を抑制することができる。
【0036】
加熱処理の回数を制限することで、複合材100は特性の異なる層を有することができる。ステップS140において、中間体300の各層に生じた孔310に同じスラリーが含浸される。このため、各層の孔310には同じ成分のマトリクスが焼結される。加熱処理とスラリーの含浸とを繰り返すことで、各層のマトリクスの成分が類似する。加熱処理の回数を制限することで、各層は異なる特性を有することができる。
【0037】
さらに、加熱処理の回数を制限することで、緻密な構造体を少ない工程で製造することができる。この結果、製造コストが抑制される。
【0038】
複合材100が前駆体116、126、136を含むことで、複合材100は高い耐熱性を有し得る。複合材100が加熱されると前駆体116、126、136が熱分解し吸熱し得る。また、前駆体116、126、136が気化することにより、空力加熱による複合材100への入熱が抑制され得る。
【0039】
(変形例)
複合材100は、2層でもよく、3層以上でもよい。例えば、複合材100は、高い耐熱性を有する第1層110と、高い強度を有する第3層130とから構成されてもよい。複合材100は、第1層110と第2層120との間に、第1層110より耐熱性が低く、第2層120より耐熱性が高い層が設けられてもよい。
【0040】
複合材100は、図11に示すように、吸湿防止コーティング140を備えてもよい。吸湿防止コーティング140は、撥水性を高めるコーティング、例えばポリマーコーティングを含んでもよい。吸湿防止コーティング140は、複合材100が備える前駆体、例えば第1前駆体116、第2前駆体126、第3前駆体136の劣化、例えば酸化、分解などを抑制することができる。
【0041】
以上において説明した実施の形態および変形例は一例であり、機能を阻害しない範囲で変更してもよい。また、各実施の形態および変形例で説明した構成は、機能を阻害しない範囲で、任意に変更してもよく、または/および、任意に組み合わせてもよい。
【0042】
各実施の形態に記載の複合材の製造方法は、例えば以下のように把握される。
【0043】
第1の態様に係る複合材の製造方法は、第1スラリー(214)を有する第1シート(210)と、第2スラリー(234)を有する第2シート(230)とを積層することと、積層した第1シート(210)と第2シート(230)とを熱分解によりセラミックスに変化する温度まで加熱し、中間体(300)を生成することとを含む。製造方法は、さらに中間体(300)に第3スラリーを含浸させて、熱分解によりセラミックスに変化する温度より低い温度で加熱することを含む。
【0044】
中間体(300)を熱分解によりセラミックスに変化する温度より低い温度で加熱することで、複合材(100)は、異なる特性を有する複数の層を備えることができる。この結果、複合材は、複数の特性、例えば高い耐熱性と高い強度とを有し得る。
【0045】
第2の態様に係る複合材の製造方法は、第1の態様に係る複合材の製造方法であって、中間体(300)を加熱する際の低い温度が第3スラリーの加熱による質量減少が加熱前の質量に対する所望の割合になる温度を含むように構成されている。
【0046】
第3の態様に係る複合材の製造方法は、第2の態様に係る複合材の製造方法であって、第3スラリーの加熱による質量減少が加熱前の質量に対する所望の割合が10%以下を含むように構成されている。
【0047】
中間体(300)を加熱する温度が第3スラリーの質量減少が所望の割合になる温度までであることで、製造される複合材(100)は前駆体(116、126、136)を含み得る。これにより、複合材(100)を占める孔(310)の割合は抑制され得る。
【0048】
第4の態様に係る複合材の製造方法は、第1の態様に係る複合材の製造方法であって、第1スラリー(214)が熱分解された第1焼結体の耐熱性が、第2スラリー(234)が熱分解された第2焼成体よりも、高くなるように構成されている。
【0049】
これにより、第1スラリー(214)を含む第1シート(210)が熱分解された第1層(110)が高い耐熱性を有することで、複合材(100)は第1層(110)の表面(100a)からの加熱に対する高い耐熱性を有する。
【0050】
第5の態様に係る複合材の製造方法は、第4の態様に係る複合材の製造方法であって、第2焼結体の強度が第1焼結体の強度よりも高くなるように構成されている。
【0051】
これにより、第2スラリー(234)を含む第2シート(230)が熱分解された第2層(130)が高い強度を有することで、第2層(130)が第1層(110)を支持し、複合材(100)は高い強度を有する。
【0052】
第6態様に係る複合材の製造方法は、第1の態様に係る複合材の製造方法であって、積層することが、第4スラリー(224)を有する第3シート(220)を、第1シート(210)と第2シート(230)との間に積層することを含む。また、第4スラリー(224)の成分は、第1スラリー(214)の成分と、第2スラリー(234)の成分と異なる。
【0053】
これにより、製造される複合材は、特性の異なる3以上の層を有することができる。
【0054】
第7の態様に係る複合材の製造方法は、第6の態様に係る複合材の製造方法であって、第4スラリー(224)が熱分解された第3焼結体の断熱性は、第1スラリー(214)が熱分解された第1焼結体の断熱性よりも高くなるように構成されている。
【0055】
第8の態様に係る複合材の製造方法は、第6の態様に係る複合材の製造方法であって、第4スラリー(224)が熱分解された第3焼結体の断熱性は、第2スラリー(234)が熱分解された第2焼結体の断熱性よりも高くなるように構成されている。
【0056】
製造される複合材は、第1層(110)と、第2層(130)との間に断熱性の高い第3層(120)を有するため、加熱された第1層(110)の熱が第2層(130)に伝わるのを抑制することができる。
【0057】
各実施の形態の複合材は、例えば以下のように把握される。
【0058】
第9の形態に係る複合材は、第1マトリクス(114)を有する第1層(110)と、第2マトリクス(134)を有し、第1層(110)の下に設けられた第2層(130)とを備える。第1層(110)は、第1マトリクス(114)の前駆体を含む。第2マトリクス(134)の成分は、第1マトリクスの成分(114)と異なる。
【0059】
複合材は、異なる特性を有する複数の層を備えることができる。この結果、複合材は、複数の特性、例えば高い耐熱性と高い強度とを有し得る。また、第1層(110)が第1マトリクス(114)の前駆体を含むため、複合材(100)を占める孔(310)の割合は抑制され得る。
【0060】
第10の態様に係る複合材は、第9の態様に係る複合材であって、第1層(110)の耐熱性が第2層(130)の耐熱性よりも高くなるように構成されている。
【0061】
複合材は第1層(110)の表面(100a)からの加熱に対する高い耐熱性を有する。
【0062】
第11の態様に係る複合材は、第9の態様に係る複合材であって、第2層(130)の強度が第1層(110)の強度より高くなるように構成されている。
【0063】
第2層(130)が高い強度を有することで、第2層(130)が第1層(110)を支持し、複合材は高い強度を有する。
【0064】
第12の態様に係る複合材は、第9の態様に係る複合材であって、第3マトリクス(134)を有し、第1層(110)と第2層(130)との間に設けられた第3層(120)をさらに備える。第3層(120)の断熱性は、第1層(110)の断熱性より高い。
【0065】
第13の態様に係る複合材は、第12の態様に係る複合材であって、第3層(120)の断熱性が第2層(130)の断熱性よりも高くなるように構成されている。
【0066】
複合材は、第1層(110)と、第2層(130)との間に断熱性の高い第3層(120)を有するため、加熱された第1層(110)の熱が第2層(130)に伝わるのを抑制することができる。
【0067】
第14の態様に係る複合材は、第9の態様に係る複合材であって、第1層(110)が外表面(100a)を形成し、外表面(100a)が空気の流れを整えるように構成されている。
【0068】
第15の態様に係る複合材は、第14の態様に係る複合材であって、外表面(100a)が音速以上の空気の流れを整えるように構成されている。
【0069】
各実施の形態の飛翔体は、例えば以下のように把握される。
【0070】
第16の形態に係る飛翔体は、第9の態様に係る複合材を空力加熱が加えられる部分に備える。
【符号の説明】
【0071】
10 :飛翔体
15 :推進装置
20 :成形型
30 :成形型
100 :複合材
100a :外表面
100b :内表面
110 :第1層
112 :第1強化繊維
114 :第1マトリクス
116 :第1前駆体
120 :第2層
122 :第2強化繊維
124 :第2マトリクス
126 :第2前駆体
130 :第3層
132 :第3強化繊維
134 :第3マトリクス
136 :第3前駆体
140 :吸湿防止コーティング
200 :積層体
210 :第1シート
212 :第1繊維クロス
214 :第1スラリー
220 :第2シート
222 :第2繊維クロス
224 :第2スラリー
230 :第3シート
232 :第3繊維クロス
234 :第3スラリー
300 :中間体
310 :孔
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11