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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】改良地盤の製造方法および不溶化剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/10 20060101AFI20240603BHJP
   C09K 17/02 20060101ALI20240603BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20240603BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240603BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
C09K17/10 P
C09K17/02 P
E02D3/12 102
C04B28/02
C04B22/14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020042213
(22)【出願日】2020-03-11
(65)【公開番号】P2021143262
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】足立 有史
(72)【発明者】
【氏名】グエン ホン ソン
(72)【発明者】
【氏名】根岸 敦規
(72)【発明者】
【氏名】山田 実
(72)【発明者】
【氏名】北山 博之
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-328587(JP,A)
【文献】特開平09-208952(JP,A)
【文献】特開平11-187773(JP,A)
【文献】米国特許第05049285(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00 - 17/52
C04B 2/00 - 32/02
C04B 40/00 - 40/06
B09B 1/00 - 5/00
B09C 1/00 - 1/10
E02D 3/12
CAplus/REGISTRY (STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントスラリーを原位置で原地盤に混合して混合地盤を得る混合工程と、該混合地盤を固化して改良地盤を得る固化工程と、を含む改良地盤の製造方法であって、
前記原地盤が、前記改良地盤の強度発現を阻害する金属を含むと共に、JIS A 1219に準拠する標準貫入試験によって求められるN値が5以下である軟弱地盤であり、
前記セメントスラリーが、前記改良地盤の強度発現を阻害する金属の不溶化剤を含むか、あるいは前記セメントスラリーが前記不溶化剤を含まない場合には前記不溶化剤が前記混合工程において前記セメントスラリーと共に前記原地盤に混合され、
前記不溶化剤が、NaHSを含むことを特徴とする改良地盤の製造方法。
【請求項2】
前記前記改良地盤の強度発現を阻害する金属が亜鉛であることを特徴とする請求項1に記載の改良地盤の製造方法。
【請求項3】
前記混合工程に先立ち、前記原地盤と前記NaHSの前記原地盤に対する濃度を変更した複数のセメントスラリーとを混合した供試体をそれぞれ作成し、該それぞれの供試体の強度を比較することでNaHS添加濃度を決定する添加濃度決定工程と、を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の改良地盤の製造方法。
【請求項4】
前記セメントスラリーが、さらに水溶性高分子を前記原地盤100gあたり0.5g以上となる添加量で含むことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の改良地盤の製造方法。
【請求項5】
原位置で原地盤に混合されて該原地盤を固化して改良地盤を得るために使用されるセメントスラリーに、前記原地盤が前記改良地盤の強度発現を阻害する金属を含むと共に、JIS A 1219に準拠する標準貫入試験によって求められるN値が5以下である軟弱地盤である場合に添加される、前記改良地盤の強度発現を阻害する金属の不溶化剤であって、NaHSを含むことを特徴とする不溶化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良地盤の製造方法及び不溶化剤に関し、特に、セメントスラリーを原地盤に混合して固化する改良地盤の製造方法及び前記セメントスラリーに添加される不溶化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
泥や多量の水を含んだ常に柔らかい粘土、未固結の軟らかい砂から成る地盤などの軟弱地盤上にはそのまま建築物、橋梁などを構築することができないため、従来、原地盤にセメント系固化材を混合撹拌する地盤改良が行われる。
【0003】
しかし、地盤に亜鉛、銅、鉛などの金属が含まれていると、セメント系固化材の強度発現が阻害される。
【0004】
この対策として、従来、ケーシング掘削等で非亜鉛含有土への置換後にセメント系固化材を攪拌混合する方法や、原位置で亜鉛不溶化剤等による不溶化処理をした後に、セメント系固化材を攪拌混合する方法がとられる。
【0005】
非特許文献1には、後者の方法のうち、不溶化処理を行った場合の金属等の溶出抑制効果が調査されている。これによれば、酸化マグネシウム系の不溶化材を用い、原位置での混合精度が確保された処理土における鉛、ひ素およびふっ素の不溶化効果が、7年以上の長期間にわたって持続することが確認されており、したがって、かかる不溶化処理を行った処理土に対してセメント系固化材を撹拌混合することで、セメント系固化材の強度発現の阻害を抑制し得ることが期待される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】第12回環境地盤工学シンポジウム発表論文集、第277~284頁、2017年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、非特許文献1の不溶化処理を含む方法、すなわち、原位置で不溶化剤による不溶化処理を行った後に、セメント系固化材を攪拌混合する方法によれば、セメント系固化材の攪拌混合処理に先立ち、別途に金属等の不溶化処理を行う必要があるため、工期、コストの面で工事推進に大きく負荷がかかり現実的な対策とはいえない。
【0008】
上記課題を鑑みた本願発明の目的は、従来の方法と比較して現場での工程を増やすことなく、改良地盤の強度発現に負の影響を与える金属を含有する軟弱地盤を目標とする強度まで改良し得る地盤改良方法、およびこの地盤改良方法に用いられる前記金属の不溶化剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
セメント系固化材に、軟弱地盤中の金属と結合してこれを不溶化させる金属の不溶化剤を直接添加すれば不溶化処理とセメント系固化材の撹拌混合処理とを一度に実施することができるものの、不溶化剤がセメント系固化材と金属との反応と競合して金属と不溶化剤との反応が不十分となり、また、不溶化剤と反応する前に金属がセメント系固化材と反応してセメント系固化材による強度発現が阻害される虞があることから、セメント系固化材の撹拌混合処理に先立ち、事前に不溶化剤を軟弱地盤中の金属と接触させておいた方が良いと考えられていた。
【0010】
発明者らは、鋭意検討の結果、原地盤中の金属の不溶化剤としてNaHSを採用することで、事前に不溶化処理を施すことなく、直接セメントスラリーに金属の不溶化剤を含ませた場合であっても固化後の地盤の強度を十分に高めることが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明の前記目的は、
セメントスラリーを原地盤に混合して混合地盤を得る混合工程と、該混合地盤を固化して改良地盤を得る固化工程と、を含む改良地盤の製造方法であって、
前記原地盤が、前記改良地盤の強度発現を阻害する金属を含み、前記セメントスラリーが、前記改良地盤の強度発現を阻害する金属の不溶化剤を含むか、あるいは前記セメントスラリーが前記不溶化剤を含まない場合には前記不溶化剤が前記混合工程において前記セメントスラリーと共に前記原地盤に混合され、前記不溶化剤が、NaHSを含むことを特徴とする改良地盤の製造方法によって達成されることが見出された。
【0012】
また、好ましくは、前記前記改良地盤の強度発現を阻害する金属が亜鉛である。
【0013】
さらに、前記混合工程に先立ち、前記原地盤と前記NaHSの前記原地盤に対する濃度を変更した複数のセメントスラリーとを混合した供試体をそれぞれ作成し、該それぞれの供試体の強度を比較することでNaHS添加濃度を決定する添加濃度決定工程と、を有することが好ましい。
【0014】
そのうえ、前記セメントスラリーが、さらに水溶性高分子を含むことが好ましい。
【0015】
さらに、本発明の前記目的は、原地盤に混合されて該原地盤を固化して改良地盤を得るために使用されるセメントスラリーに、前記原地盤が前記改良地盤の強度発現を阻害する金属を含む場合に添加される、前記改良地盤の強度発現を阻害する金属の不溶化剤であって、NaHSを含むことを特徴とする不溶化剤によっても達成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の改良地盤の製造方法及び本発明の不溶化剤によれば、原地盤が前記改良地盤の強度発現を阻害する金属を含む場合に、セメントスラリーがNaHSを含む、改良地盤の強度発現を阻害する金属の不溶化剤を含むか、あるいは不溶化剤がセメントスラリーと共に原地盤に混合されるので、セメントスラリーと原地盤との混合と同時に改良地盤の強度発現を阻害する金属の不溶化が行なわれる。したがって、原地盤の地盤改良処理に先立ち、原地盤中の強度発現を阻害する金属の不溶化処理工程を行なう必要もなく、従来の方法と比較して現場での工程を増やすことなく地盤の目標強度を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の改良地盤の製造方法のフローチャートである。
図2】本発明の添加濃度決定工程(S120)を詳細に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<改良地盤の製造方法>
本発明の改良地盤の製造方法は、セメントスラリーを原地盤に混合して混合地盤を得る混合工程と、該混合地盤を経時的に固化して改良地盤を得る固化工程と、を含む。
【0019】
本発明において、原地盤は、地盤改良が必要な軟弱地盤であり、有機質土、高有機質土(腐食土)、N値3以下の粘性土、N値5以下の砂質土などが例示される。ここで、N値は、JIS A 1219に準拠する標準貫入試験によって求められる。原地盤は、後述する改良地盤の強度発現を阻害する金属を含む。
【0020】
改良地盤の強度発現を阻害する金属は、セメントスラリーの経時的な固化による強度発現を阻害する金属であればどのようなものであってよいが、例えば、亜鉛、鉛、銅が挙げられ、特に、亜鉛がイオン化傾向の大きさの観点から問題となる。
【0021】
セメントスラリーは、セメントと、水と、任意にその他の添加剤と、を含む。
【0022】
セメントは、水で練ったときに固化性を示す無機質接合材であり、本発明においては、水硬性セメントを用いる。水硬性セメントとしては、ポルトランドセメント、水硬性石灰、ローマンセメント、天然セメントなどの単味セメントを用いてもよく、石灰混合セメント、混合ポルトランドセメントなどの混合セメントを用いてもよい。
【0023】
なお、後述するように、原地盤が十分な水分を有している場合、セメントスラリーに代えてセメントと任意にその他の添加材との混合物を用いてもよい。
【0024】
任意のその他の添加剤としては、ポゾラン類、膨張材、フライアッシュ、スラグ粉末(高炉スラグ)、珪砂などの珪酸質の微粉末、シリカフュームなどの混和材や、AE剤、減水剤、AE減水剤、流動化剤、遅延剤、促進剤、急結剤、水中不分離混和剤、起泡剤・発泡剤、防水剤、着色剤、防錆剤(鉄筋)、収縮低減剤、接着剤、保水剤(分離防止)などの混和剤が挙げられる。
【0025】
さらに、セメントスラリーが、改良地盤の強度発現を阻害する金属の不溶化剤を含む(セメントスラリーが不溶化剤を含まない場合には、この不溶化剤が後述する混合工程においてセメントスラリーと共に原地盤に混合される。)。この不溶化剤は、NaHS(硫化水素ナトリウム)を含む。NaHSによる原地盤中の金属イオンの不溶化、およびこの不溶化によるセメントの強度回復のメカニズムを、金属によるセメントの固化阻害のメカニズムと共に以下に説明する。なお、原地盤中の金属イオンとしてはどのようなものであってもよいが、ここでは亜鉛イオンを例に説明する。
【0026】
i)亜鉛イオンとセメントの反応によるセメントの固化阻害
セメントスラリーが原地盤と混合されると、原地盤中のZn2+はアルカリ環境で水酸化物イオン(OH)と反応して、Zn(OH)(水酸化亜鉛)の沈殿を形成する。なお、セメントスラリー中にはCa(OH)も存在するが、CaはZnよりもイオン化傾向が大きいため、Zn(OH)の溶解度はCa(OH)の溶解度よりも小さく、以下の式(I)の反応が進む。
【0027】
Zn2+ + OH → Zn(OH)↓ (I)
【0028】
このZn(OH)が、セメント固化で生じたC-S-H(ケイ酸カルシウム水和物)ゲルの表面に付着したCa(OH)と反応してCaZn(OH)・6HO(亜鉛酸カルシウム)を生じる。
【0029】
Ca(OH) + 6HO + 2Zn(OH)
→ CaZn(OH)・6HO↓ (II)
【0030】
CaZn(OH)・6HOの化合物も水に不溶で、且つ初期のセメントの水和反応で生成されたC-S-Hゲルの表面を覆うように生成されるため、それ以降の水和反応が妨げられ、結果としてセメントスラリーの固化が原地盤中の亜鉛により阻害されることとなる。
【0031】
ii)亜鉛と硫化水素ナトリウムとの反応
下記式(III)に示すように、原地盤中の亜鉛イオンと硫化水素ナトリウムはアルカリ性で反応し、硫化亜鉛を沈殿し、
2Zn2+ + 2NaHS + H
→ 2ZnS↓ + 2NaOH (III)
原地盤中で式(I)の反応が先行してZn(OH)が形成されていたとしても、下記式(IV)の反応により硫化亜鉛を沈殿する。
【0032】
Zn(OH) + NaHS
→ ZnS↓ + Na(OH) + HO (IV)
硫化亜鉛は水酸化亜鉛よりも溶けにくいので、セメントの水和に影響を与えず、Caは常温やセメント水和による発熱程度では硫化物を生じることはないため、セメントの固化に硫化水素ナトリウムが関与することもない。
【0033】
よって、硫化水素ナトリウムをセメントスラリーに添加する不溶化剤として用いることで、セメントスラリーと原地盤との混合物中のZn2+及びZn(OH)をZnSとして沈殿させ、上記式(II)の反応を阻害し、これによりセメントの十分な強度発現が得られるものと考えられる。
【0034】
なお、原地盤中に含まれる、改良地盤の強度発現を阻害する金属として亜鉛を例に説明したが、この金属は亜鉛に限られない。Caよりもイオン化傾向が小さく、亜鉛同様にセメントスラリー中で水酸化物を生成し、NaHSと反応して硫化物を生成する金属であればどのようなものであってもよい。例えば、改良地盤の強度発現を阻害する金属として、ニッケル、スズ、鉛、銅、カドミウム、コバルト、マンガンなどが挙げられる。
【0035】
また、セメントスラリーが、さらに水溶性高分子を含むことが好ましい。水溶性高分子が含まれることで、地盤の改良(すなわち、セメントの固化)前後の地盤中からのNaHSの当該地盤上部に溜まる雨水中への流出や当該地盤の周辺地盤へのNaHSの流出が抑制され、且つ、セメントの水和反応に必要な水の流出も抑制することができる。また、改良後の地盤に未反応分のNaHSが保持されている場合、この改良地盤に接する重金属がNaHSによりトラップされ、改良地盤の不透水性を向上させる効果も期待できる。また、水溶性高分子が含まれる場合、水溶性高分子が改良地盤中の土粒子を包み込むので、改良地盤からの濁水の流出抑制効果も期待できる。
【0036】
水溶性高分子は、例えば、キサンタンガム、プルラン、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、グアーガム、アラビアゴム、トラガントガム、ゼラチン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、又はこれらの混合物等を用いることができる。
【0037】
セメントスラリーは、セメントに対して粉末状のその他の任意の添加剤を添加して粉体混合し、得られた粉体混合物に対して水を添加して混錬することで得られる。水は、例えば、粉体混合物100質量部に対して60質量部以上140質量部以下、好ましくは70質量部以上130質量部以下、特に好ましくは80質量部以上120質量部以下の量で粉体混合物に添加される。経験的に、水を粉体混合物100質量部に対して60質量部以上140質量部以下の量で粉体混合物に添加することで、施工時の混合・攪拌性を高めつつ、セメント量を抑えて経済的にも好ましいセメントスラリーとすることができる。
【0038】
粉体混合は、本技術分野において周知のハンドミキサー、パン型ミキサー、コンクリートミキサーなどを用いることができ、条件としては材料に水を加えない空練り条件にて、約30秒~2分間の空練りを行うことにより実施される。
【0039】
混錬には、上記のハンドミキサー、パン型ミキサー、コンクリートミキサーなどをそのまま用いることができ、一例として水を加えてさらに約30秒~2分の混錬を行うことで実施される。
【0040】
不溶化剤は、粉体混合時に添加されてもよく、混錬時に添加されてもよい。不溶化剤に添加されているNaHSの添加濃度は、改良地盤の強度発現を阻害する金属を不溶化させ、その阻害を緩和しうる量であればどのような量であってもよいが、原地盤中に添加された場合に、原地盤中の前記金属に対するモル比(NaHS/前記金属)が0.02以上となる量であればよく、0.03以上となる量であることが好ましく、0.09以上となる量であることが特に好ましい。
【0041】
水溶性高分子が添加される場合、水溶性高分子は粉体混合時に添加されてもよく、混練時に添加されても良いが、ダマの発生防止の観点から粉体混合時に添加しておくことが好ましい。
【0042】
水溶性高分子の添加量は、セメントスラリーが原地盤に混合された場合に、流動性を失いゲルを形成する程度の量が少なくともあればよい。水溶性高分子が少なくともこの量であることで、上述の水溶性高分子による各効果をより確実に発揮させることが可能となる。例えば、セメントスラリーが原地盤に混合された場合に、原地盤100gあたりの水溶性高分子の添加量は0.2g以上であり、好ましくは0.5g以上であり、特に好ましくは0.8g以上である。
【0043】
以下、図1及び図2の記載に基づき、本発明の各工程についてさらに説明する。
【0044】
[混合工程(S100)]
本工程において、セメントスラリーを原地盤に混合して混合地盤を得る。なお、セメントスラリーが不溶化剤を含まない場合には、不溶化剤がセメントスラリーと共に(好ましくは、セメントスラリーと同時に)原地盤に混合される。セメントスラリーは、どのような量であってもよいが、単位セメント量として、例えば、原地盤1mあたり80kg以上であり、好ましくは100kg以上であり、特に好ましくは250kg以上である。
【0045】
なお、原地盤が十分な水分を有している場合、セメントスラリーではなく、粉体のセメントが原地盤に混合されることも、上記セメントスラリーが原地盤に混合される場合に含まれるものとする。
【0046】
セメントスラリーの原地盤への混合は、セメントスラリーをロータリー式攪拌機、トレンチャー式攪拌機などで原地盤と混合することにより行うことができ、また、攪拌翼を用いてセメントスラリーと原地盤とを混合攪拌する柱状改良に適用することも可能である(以上、混合工程(S100))。
【0047】
[固化工程(S110)]
本工程においては、混合工程で得られた混合地盤を経時的に固化する。
【0048】
固化工程の期間は、改良地盤に要求される強度(JIS A 1216「土の一軸圧縮試験方法」に準拠した一軸圧縮試験による一軸圧縮強さ(単位:kN/m))が発現するまでの期間であればどのようなものであってもよく、たとえば、2~3日であり、好ましくは7日以上である。
【0049】
固化工程においては、混合地盤からの水分の蒸発を防ぐため、あるいは降雨などによる混合地盤中の成分の流出などの影響を避けるため、混合地盤上に養生シートを敷いておくことが好ましい(以上、固化工程(S110))。
【0050】
改良地盤の要求される強度は、改良地盤上に建築される建築物によりさまざまであるが、例えば、JIS A 1216「土の一軸圧縮試験方法」に準拠した一軸圧縮試験による一軸圧縮強さ(単位:kN/m)で表した場合に、建築物により、一般に100kN/m以上5,000kN/m以下の範囲である。また、原地盤が砂質土である場合、セメント改良土の一般的な強度は、上記JIS A 1216「土の一軸圧縮試験方法」に準拠した一軸圧縮試験による一軸圧縮強さ(単位:kN/m)で表した場合に、1,000kN/m以上5,000kN/m以下の範囲である。
【0051】
したがって、本発明の改良地盤の製造方法によれば、原地盤が前記改良地盤の強度発現を阻害する金属を含む場合に、セメントスラリーがNaHSを含む、改良地盤の強度発現を阻害する金属の不溶化剤を含むので、セメントスラリーと原地盤との混合と同時に改良地盤の強度発現を阻害する金属の不溶化が行なわれる。したがって、原地盤の地盤改良処理に先立ち、原地盤中の強度発現を阻害する金属の不溶化処理工程を行なう必要もなく、従来の方法と比較して現場での工程を増やすことなく地盤の目標強度を確保することが可能となる。
【0052】
また、従来の改良地盤の強度発現を阻害する金属の不溶化剤は比較的高価なものであったところ、NaHSは相対的に安価であるから、NaHSを含む不溶化剤の使用によるコスト削減の効果も大きい。
【0053】
[添加濃度決定工程(S120)]
なお、NaHSの適切な添加量を決定するため、本発明の改良地盤の製造方法は、混合工程に先立ち、原地盤とNaHSの前記原地盤に対する濃度を変更した複数のセメントスラリーとを混合した供試体をそれぞれ作成し、該それぞれの供試体の強度を比較することでNaHS添加濃度を決定する添加濃度決定工程(S120)を含むことが好ましい。
【0054】
本工程では、少なくともNaHSの前記原地盤に対する濃度を変更したセメントスラリーを複数準備し、これを原地盤と混合してNaHS濃度の異なる供試体を作成し、この供試体の強度を比較する本検討(S124)を行い、NaHSの適切な添加量を決定(S125)することができる。
【0055】
NaHSの添加量の決定(S125)は、例えば、本検討(S124)の結果から横軸をセメント添加量、縦軸を一軸圧縮強さとして、異なるNaHS濃度についてそれぞれグラフを作成し、このグラフから最適なセメント添加量及びNaHS濃度を決定することで、行うことができる。
【0056】
また、供試体の強度の指標としては、例えば、JIS A 1216「土の一軸圧縮試験方法」に準拠した一軸圧縮試験による一軸圧縮強さ(単位:kN/m)やJGS 3432に規定する針貫入試験を用いることができるが、これらに限られるものではなく、改良地盤の周知の強度指標のいかなる強度指標を用いてもよい。
【0057】
さらに、原地盤に対するセメントスラリーの添加量違いで3水準以上、NaHSの前記原地盤に対する濃度違いで3水準以上、すなわち、3×3=9種以上の供試体を作成し、この供試体の強度を比較することが好ましい。これによれば、好適な改良地盤の強度が得られるときのセメントスラリーの原地盤に対する添加量およびNaHSの原地盤に対する添加濃度の双方を一度に決定することができる。
【0058】
原地盤にセメントスラリーを添加した後の固化期間は、少なくとも2~3日以上であり、好ましくは7~28日の範囲である。
【0059】
また、添加濃度決定工程は、いきなり供試体を作成してその強度を測定するのみに限らず、さらにサンプル数を減らした事前検討(S122)を含んでいてもよい。たとえば、供試体の作成、および各供試体の強度の比較に先立ち、NaHSの添加量のみを変更させた複数のセメントスラリーを準備し、これらを少量の原地盤と混合したサンプルを作成し、このサンプルに対して上記針貫入試験などの簡易的な試験を行ってもよい。
【0060】
事前検討(S122)においては、NaHS添加の効果が有るか否かを確認し(S123)、効果がある場合(YES判定)、本検討(S124)に移行し、効果が無い場合(NO判定)、NaHSの添加量を変更させて再度事前検討(S123)を行う。
【0061】
添加濃度決定工程にこの事前検討(S122)を含ませることで、続く本検討(S124)においてより最適なセメントスラリー及びNaHSの配合の検討が可能となる。また、上記事前検討(S122)によりNaHSの添加量のアタリをつけることができる(すなわち、添加量の範囲を狭めることができる)ので、供試体の検討区分を減らすことができ、したがってセメントスラリーおよび原地盤の使用量を削減することができる(以上、添加濃度決定工程(S120))。
【0062】
また、本発明は原地盤が改良地盤の強度発現を阻害する金属を含んでいることを前提としているが、原地盤が前記金属を含んでいるかどうか不明である場合には、その金属の含有量分析および溶出量分析(S121)を、事前検討(S122)や本検討(S124)の前に行うことができる。
【0063】
原地盤中の改良地盤の強度発現を阻害する金属としては、上述のとおりZn、Cu、Pb、Ni、Co、Cd、Mnなどが考えられるが、それぞれの金属に応じた周知の分析方法を用いることができる。
【0064】
なお、原地盤中の、改良地盤の強度発現を阻害する金属の含有量分析および溶出量分析(S121)は、上記[添加濃度決定工程]の前に行うことができる。
【0065】
原地盤中の、改良地盤の強度発現を阻害する金属の含有量分析および溶出量分析(S121)は、各金属に対して周知の測定方法を適宜に用いて実施することができる。例えば、平成15年環境省告示第18号(環告18号)(溶出量)、平成15年環境省告示第19号(環告19号)(含有量)、JIS K 0102 工場排水試験方法を挙げることができる。
【0066】
<不溶化剤>
本発明の不溶化剤は、原地盤に混合されて該原地盤を経時的に固化して改良地盤を得るために使用されるセメントスラリーに、前記原地盤が前記改良地盤の強度発現を阻害する金属を含む場合に添加される、前記改良地盤の強度発現を阻害する金属の不溶化剤であって、NaHSを含む。
【0067】
原地盤、セメントスラリー、改良地盤の強度発現を阻害する金属については、すでに上記<改良地盤の製造方法>で説明済みであるので、ここでの記載は省略する。
【0068】
原地盤に含まれる金属によるセメントの固化阻害、および不溶化剤中のNaHSによる上記金属の不溶化のメカニズムについては、上述の通りである。
【0069】
不溶化剤は、セメントスラリーに添加される。その添加は、セメントが他の任意の添加材と粉体混合する際、あるいはその粉体混合物に水を加えて練る際に添加される。
【0070】
不溶化剤中のNaHSの添加濃度は、<改良地盤の製造方法>で述べたとおり、原地盤中に添加された場合に、原地盤中の前記金属に対する質量比(NaHS/前記金属)が0.02以上となる量であればよく、0.03以上となる量であることが好ましく、0.09以上となる量であることが特に好ましい。
【0071】
不溶化剤は、実際の改良地盤の製造に用いられる前は、セメントとは別に不溶化剤単独で製造・販売されてもよく、セメント中に混合された粉体混合物の形態、あるいはセメントと不溶化剤とのキットの形態で製造・販売することも可能である。しかし、NaHSは高い反応性・潮解性を示すので、不溶化剤の形態またはセメントと不溶化剤とのキットの形態で取り扱われることが好ましい。
【実施例
【0072】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0073】
<亜鉛による改良地盤の強度発現の阻害と、不溶化剤(NaHS)の添加効果の検討>
1.対象土について
原地盤として想定される対象土として、3.31質量%の亜鉛含有量の砂質土を用いた。亜鉛含有量は、蛍光X線分析により分析した。また、この砂質土の原子吸光法による亜鉛溶出量は、0.21ppmであった。
【0074】
砂質土について、その他の物性の測定結果を以下の表に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
2.供試体の作成およびその強度の測定
高炉セメントB種(JIS R 5211規格品、宇部三菱セメント(株)製)にNaHSの粉末を添加して粉体混合し、この粉体混合物に水を水セメント比100%で添加し、混合・撹拌してセメントスラリーを作成した。NaHSの高炉セメントB種への添加量は、セメントスラリーが後述する砂質土に混合された場合に、砂質土に対してそれぞれ、0質量%(NaHS添加せず)、0.1質量%、0.3質量%、0.5質量%となるような添加量とした。すなわち、セメントスラリーはNaHSの添加量を変えて4種類準備した。
【0077】
上記NaHSの添加量が異なる各セメントスラリーを、上記1.の物性を有する砂質土100gに対して単位セメント量でそれぞれ100kg/m、250kg/m、400kg/mとなる量で混合・撹拌し、円筒形状の型中で経時的に固化して直径5cm、高さ10cmの供試体を得た(なお、NaHSを添加しない区分については、砂質土100gに対してセメントスラリーが単位セメント量で70kg/m、150kg/m、250kg/m、300kg/m、450kg/mとなる供試体を作成した)。この供試体を室温、常圧下で7日間保管した後、JIS A 1216「土の一軸圧縮試験方法」に準拠した一軸圧縮試験を行い、各供試体の一軸圧縮強さ(単位:kN/m)を求めた。
【0078】
結果を、以下の表に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
※1:材齢7日時点の一軸圧縮強度は、各供試体区分について3本ずつ供試体を作成し、同区分の供試体について3回一軸圧縮強度を測定しており、3回の測定の平均値を材齢7日の一軸圧縮強度の平均値として記載した。
※2:材齢7日の一軸圧縮強度の平均値に1.5を掛けた値を、材齢28日時点の推定一軸圧縮強度の値とした。
【0081】
表2に示すように、亜鉛を含有する砂質土において、NaHSを含む亜鉛の不溶化剤をセメントスラリーに添加しない場合、供試体の一軸圧縮強度は材齢7日において0.27kN/m~9.88kN/mと低く、経時的な供試体の強度発現が大きく阻害されていた(比較例参照)。
【0082】
一方、NaHSを含む亜鉛の不溶化剤をセメントスラリーに添加すると、経時的な供試体の強度発現が観察され(供試体No.A-1~3、B-1~3、C-1~3参照)、NaHSとセメントスラリーの組み合わせ次第では、材齢7日の供試体の一軸圧縮強度の値から推定される材齢28日の一軸圧縮強度が1600kN/mを超える供試体区分が多数存在していた(供試体No.A-3、B-2~3、C-2~3参照)。
【0083】
したがって、不溶化剤が、セメントスラリーと金属との反応に競合することが想定され、これを回避すべく事前に不溶化剤を金属と接触させておいた方がよいとも思われたが、検討の結果、不溶化剤がNaHSを含む場合に、不溶化剤を含むセメントスラリーを砂質土(原地盤に相当)と接触させた場合であっても十分に強度発現させることができることがわかった。そして、表2の不溶化剤の濃度とセメントスラリーの添加量の観点から、本願発明の改良地盤の製造方法が実用的であることも示された。
図1
図2