(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】蛍光偏光測定システム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20240603BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
(21)【出願番号】P 2020055140
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2023-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2019160627
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、先端計測分析技術・機器開発プログラム「オンサイト蛍光偏光イムノアッセイ装置の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】303018827
【氏名又は名称】Tianma Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】城川 政宜
(72)【発明者】
【氏名】住吉 研
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-281876(JP,A)
【文献】特開2010-266380(JP,A)
【文献】特表2001-512569(JP,A)
【文献】特開2016-095315(JP,A)
【文献】特開2017-125809(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0032759(US,A1)
【文献】SPITZ, J-A. et. al.,Scanning-less wide-field single-photon counting device for fluorescence intensity, lifetime and time-resolved anisotropy imaging microscopy,Journal of Microscopy,2008年01月,Vol.229, No.1,104-114
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光偏光測定システムであって、
蛍光画像分析装置と、
光源と、
ダイクロイックミラーと、
前記光源と前記ダイクロイックミラーとの間の第1偏光子と、
イメージセンサと、
前記イメージセンサと前記ダイクロイックミラーとの間に配置され、ON/OFFされることで、前記第1偏光子を通過した直線偏光と平行な直線偏光成分又は垂直な直線偏光成分を通過させる、液晶セルと、
を含み、
前記蛍光画像分析装置は、前記ダイクロイックミラーを使用して前記イメージセンサにより撮像された、
第1基準蛍光サンプル測定画像及び第2基準蛍光サンプル測定画像と、
第1分析対象蛍光サンプル測定画像及び第2分析対象蛍光サンプル測定画像と、
を格納し、
前記第1基準蛍光サンプル測定画像は、面内蛍光強度の関係が予め知られている基準蛍光サンプルに対して前記光源から前記第1偏光子を通過した直線偏光を照射し、前記液晶セルによる前記基準蛍光サンプルからの蛍光の前記直線偏光に垂直な偏光成分を測定した画像であり、
前記第2基準蛍光サンプル測定画像は、前記基準蛍光サンプルに対して前記光源から前記第1偏光子を通過した直線偏光を照射し、前記液晶セルによる前記基準蛍光サンプルからの蛍光の前記直線偏光に平行な偏光成分を測定した画像であり、
前記第1分析対象蛍光サンプル測定画像は、分析対象蛍光サンプルに対して前記光源から前記第1偏光子を通過した直線偏光を照射し、前記液晶セルによる前記分析対象蛍光サンプルからの蛍光の直線偏光に垂直な偏光成分を測定した画像であり、
前記第2分析対象蛍光サンプル測定画像は、前記基準蛍光サンプルに対して前記光源から前記第1偏光子を通過した直線偏光を照射し、前記液晶セルによる前記基準蛍光サンプルからの蛍光の前記直線偏光に平行な偏光成分を測定した画像であり、
前記
蛍光画像分析装置は、
前記第1基準蛍光サンプル測定画像に基づき、測定画像内の画素間の測定光強度の不均一を補正する第1補正係数を決定し、
前記第2基準蛍光サンプル測定画像に基づき、測定画像内の画素間の測定光強度の不均一を補正する第2補正係数を決定し、
前記第1補正係数を使用して、前記第1分析対象蛍光サンプル測定画像内の画素の光強度を補正し、
前記第2補正係数を使用して、前記第2分析対象蛍光サンプル測定画像内の画素の光強度を補正する、
蛍光偏光測定システム。
【請求項2】
蛍光偏光測定システムであって、
蛍光画像分析装置と、
光源と、
ダイクロイックミラーと、
前記光源と前記ダイクロイックミラーとの間の第1偏光子と、
イメージセンサと、
前記イメージセンサと前記ダイクロイックミラーとの間に配置され、通過する第1の所定の偏光成分の光の強度を周期的に変化させる、液晶セルと
を含み、
前記蛍光画像分析装置は、前記ダイクロイックミラーを使用して前記イメージセンサにより撮像された、
基準蛍光サンプル測定画像と、
分析対象蛍光サンプル測定画像と、
を取得し、
前記基準蛍光サンプル測定画像は、面内蛍光強度の関係が予め知られている基準蛍光サンプルに対して前記光源から前記第1偏光子を通過した直線偏光を照射し、前記基準蛍光サンプルからの蛍光の前記第1の所定の偏光成分を測定した画像であり、
前記分析対象蛍光サンプル測定画像は、分析対象蛍光サンプルに対して直線偏光を照射し、前記分析対象蛍光サンプルからの蛍光の前記第1の所定の偏光成分を測定した画像であり、
前記蛍光画像分析装置は、
前記基準蛍光サンプル測定画像を使用して、測定画像内の画素間の測定光強度の不均一を補正する補正係数を決定し、
前記補正係数を使用して、前記分析対象蛍光サンプル測定画像内の画素の光強度を補正し、
以下の数式により偏光度Pを計算し、
P=(π/4√2)*(B/A)
A=(LD1+LD2+LD3+LD4)
B=√{(LD1-LD3)
2
+(LD2-LD4)
2
}
LD1からLD4は、前記液晶セルを通過する光強度の連続する四つの期間での、前記補正係数を使用して補正された前記分析対象蛍光サンプル測定画像の着目領域の光強度を示す、
蛍光偏光測定システム。
【請求項3】
蛍光偏光測定システムであって、
蛍光画像分析装置と、
光源と、
ダイクロイックミラーと、
前記光源と前記ダイクロイックミラーとの間の偏光子と、
撮像素子と、前記偏光子を通過した直線偏光と平行な偏光成分及び垂直な偏光成分それぞれに対応する偏光フィルタと、を含む、偏光カメラと、
を含み、
前記蛍光画像分析装置は、前記ダイクロイックミラーを使用して前記偏光カメラにより撮像された、
第1基準蛍光サンプル測定画像及び第2基準蛍光サンプル測定画像と、
第1分析対象蛍光サンプル測定画像及び第2分析対象蛍光サンプル測定画像と、
を取得し、
前記第1基準蛍光サンプル測定画像は、面内蛍光強度の関係が予め知られている基準蛍光サンプルに対して前記光源から前記偏光子を通過した直線偏光を照射し、前記基準蛍光サンプルからの蛍光の前記直線偏光に垂直な偏光成分を測定した画像であり、
前記第2基準蛍光サンプル測定画像は、前記基準蛍光サンプルに対して前記光源から前記偏光子を通過した直線偏光を照射し、前記基準蛍光サンプルからの蛍光の前記直線偏光に平行な偏光成分を測定した画像であり、
前記第1分析対象蛍光サンプル測定画像は、分析対象蛍光サンプルに対して前記光源から前記偏光子を通過した直線偏光を照射し、前記分析対象蛍光サンプルからの蛍光の前記直線偏光に垂直な偏光成分を測定した画像であり、
前記第2分析対象蛍光サンプル測定画像は、前記分析対象蛍光サンプルに対して前記光源から前記偏光子を通過した直線偏光を照射し、前記分析対象蛍光サンプルからの蛍光の前記直線偏光に平行な偏光成分を測定した画像であり、
前記蛍光画像分析装置は、
前記第1基準蛍光サンプル測定画像を使用して、測定画像内の画素間の測定光強度の不均一を補正する第1補正係数を決定し、
前記第2基準蛍光サンプル測定画像を使用して、測定画像内の画素間の測定光強度の不均一を補正する第2補正係数を決定し、
前記第1補正係数を使用して、前記第1分析対象蛍光サンプル測定画像内の画素の光強度を補正し、
前記第2補正係数を使用して、前記第2分析対象蛍光サンプル測定画像内の画素の光強度を補正する、
蛍光偏光測定システム。
【請求項4】
請求項1又は3に記載の蛍光偏光測定システムであって、
画素(i,j)の前記第1補正係数は、次の式で計算され、
a⊥(i,j)=(1/Ir⊥(i,j))*|Ir⊥(i,j)|
Ir⊥(i,j)は、前記第1基準蛍光サンプル測定画像の前記画素(i,j)における光強度を表し、
|Ir⊥(i,j)|は、前記第1基準蛍光サンプル測定画像において、前記画素(i,j)を含む所定領域を構成する複数画素の光強度の平均値であり、
画素(i,j)の前記第2補正係数は、次の式で計算され、
a∥(i,j)=(1/Ir∥(i,j))*|Ir∥(i,j)|
Ir∥(i,j)は、前記第2基準蛍光サンプル測定画像の前記画素(i,j)における光強度を表し、
|Ir∥(i,j)|は、前記第2基準蛍光サンプル測定画像において、前記画素(i,j)を含む所定領域を構成する複数画素の光強度の平均値である、
蛍光偏光測定システム。
【請求項5】
請求項1、2又は3に記載の蛍光偏光測定システムであって、
前記基準蛍光サンプルの面内蛍光強度は均一である、
蛍光偏光測定システム。
【請求項6】
請求項1、2又は3に記載の蛍光偏光測定システムであって、
前記基準蛍光サンプルは、YAGセラミック片である、
蛍光偏光測定システム。
【請求項7】
請求項1又は3に記載の蛍光偏光測定システムであって、
前記蛍光画像分析装置は、予め設定されているオフセット値に基づき、前記第1及び第2分析対象蛍光サンプル測定画像内の画素の光強度を補正する、
蛍光偏光測定システム。
【請求項8】
請求項1又は3に記載の蛍光偏光測定システムであって、
前記蛍光画像分析装置は、
前記第1及び第2分析対象蛍光サンプル測定画像において、前記分析対象蛍光サンプルの領域外の領域におけるバックグランド光強度を決定し、
前記バックグランド光強度に基づき、前記第1及び第2分析対象蛍光サンプル測定画像内の画素の光強度を補正する、
蛍光偏光測定システム。
【請求項9】
請求項1又は3に記載の蛍光偏光測定システムであって、
前記蛍光画像分析装置は、
予め設定されている撮像素子ノイズ閾値に基づき、前記第1及び第2基準蛍光サンプル測定画像内の画素及び前記第1及び第2分析対象蛍光サンプル測定画像内の画素から撮像素子の固定パターンノイズを検出し、
前記第1及び第2補正係数の決定において、前記第1及び第2基準蛍光サンプル測定画像内のノイズを有する画素を除外し、
前記第1及び第2分析対象蛍光サンプル測定画像内の画素の光強度の決定において、前記第1及び第2分析対象蛍光サンプル測定画像内のノイズを有する画素を除外する、
蛍光偏光測定システム。
【請求項10】
請求項2に記載の蛍光偏光測定システムであって、
前記蛍光画像分析装置は、予め設定されているオフセット値に基づき、前記分析対象蛍光サンプル測定画像内の画素の光強度を補正する、
蛍光偏光測定システム。
【請求項11】
請求項2に記載の蛍光偏光測定システムであって、
前記蛍光画像分析装置は、
前記分析対象蛍光サンプル測定画像において、前記分析対象蛍光サンプルの領域外の領域におけるバックグランド光強度を決定し、
前記バックグランド光強度に基づき、前記分析対象蛍光サンプル測定画像内の画素の光強度を補正する、
蛍光偏光測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蛍光画像分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光画像分析は、様々な分子の様々な状態を測定するために、広く利用されている。蛍光画像は、蛍光標識されたサンプルに励起光として偏光を照射し、蛍光の特定の偏光成分を抽出することで得られる。例えば、蛍光偏光解消法は、励起光の偏光方向と平行な蛍光の偏光成分と、励起光の偏光方向と垂直な蛍光の偏光成分とから、蛍光偏光度を算出し、対象のサンプルを分析する。蛍光偏光度(蛍光異方性)は、分子の大きさや形状、濃度、粘度等に関する情報を与えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2017/0074796号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
偏光蛍光画像を取得する蛍光偏光測定装置は、偏光依存性を有することがある。つまり、蛍光偏光測定装置は、異なる偏光方向に対して異なる感度を有することがあり、その依存性を補正するために、Gファクタが計算され、蛍光偏光度の計算において補正係数として使用される。Gファクタは、蛍光の入射直線偏光に平行な偏光成分と垂直な偏光成分の比で表わされる。
【0005】
しかし、蛍光偏光測定装置において、蛍光画像の変化を引き起こす複数の要因が存在し、Gファクタのみでは正確な蛍光偏光測定を行うことが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、蛍光画像分析装置であって、1以上のプロセッサと、1以上の記憶装置と、を含む。前記1以上の記憶装置は、基準蛍光サンプル測定画像と、分析対象蛍光サンプル測定画像と、を格納する。前記基準蛍光サンプル測定画像は、面内蛍光強度の関係が予め知られている基準蛍光サンプルに対して直線偏光を照射し、前記基準蛍光サンプルからの蛍光の第1の所定の偏光成分を測定した画像である。前記分析対象蛍光サンプル測定画像は、分析対象蛍光サンプルに対して直線偏光を照射し、前記分析対象蛍光サンプルからの蛍光の第2の所定の偏光成分を測定した画像である。前記1以上のプロセッサは、前記基準蛍光サンプル測定画像に基づき、測定画像内の画素間の測定光強度の不均一を補正する補正係数を決定する。前記1以上のプロセッサは、前記補正係数に基づき、前記分析対象蛍光サンプル測定画像内の画素の光強度を補正する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、より正確な蛍光偏光測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態1及び2における、蛍光偏光測定システムに含まれる蛍光偏光測定装置の構成例を模式的に示す。
【
図2】蛍光偏光測定システムの論理構成例を模式的に示す。
【
図3】蛍光偏光測定制御装置の構成例を模式的に示す。
【
図4】蛍光偏光測定制御装置の動作例のフローチャートを示す。
【
図5】基準蛍光サンプル測定画像の取得の詳細例のフローチャートを示す。
【
図6】装置制御プログラムによる液晶セルの駆動電圧及び液晶セルの透過光強度の関係を模式的に示す。
【
図7】分析対象蛍光サンプル測定画像の取得の詳細例のフローチャートを示す。
【
図8】分析対象蛍光サンプル測定画像の分析の詳細例のフローチャートを示す。
【
図10】補正前の分析対象蛍光サンプル測定光強度(液晶セルON)のグラフを示す。
【
図11】基準蛍光サンプル測定光強度(液晶セルON)のグラフを示す。
【
図12】基準蛍光サンプル測定光強度に基づき、分析対象蛍光サンプル測定光強度を補正した結果のグラフを示す。
【
図13】補正前の分析対象蛍光サンプル測定光強度(液晶セルOFF)のグラフを示す。
【
図14】基準蛍光サンプル測定光強度(液晶セルOFF)のグラフを示す。
【
図15】基準蛍光サンプル測定光強度に基づき、分析対象蛍光サンプル測定光強度を補正した結果のグラフを示す。
【
図16】実施形態2において、液晶セルに印加される電圧の時間変化の例を示す。
【
図17】
図16に示す電圧が液晶セルに印加されているときに、液晶セルを通過する蛍光の光強度(光強度)の変化を模式的に示す。
【
図18】実施形態2において、基準蛍光サンプル測定画像格納の詳細例を示すフローチャートである。
【
図19】実施形態2において、分析対象蛍光サンプル測定画像格納の詳細例を示すフローチャートである。
【
図20】実施形態2において、分析対象蛍光サンプル測定画像分析の詳細例のフローチャートを示す。
【
図21】期間D1における補正前の分析対象蛍光サンプル測定光強度のグラフを示す。
【
図22】期間D1における基準蛍光サンプル測定光強度のグラフを示す。
【
図23】基準蛍光サンプル測定光強度に基づき、分析対象蛍光サンプル測定光強度を補正した結果のグラフを示す。
【
図24A】液状サンプルを収容するセルの構成例を模式的に示す。
【
図26】
図4から8を参照して説明した方法による補正前後の偏光度を示すグラフを示す。
【
図27】
図16から20を参照して説明した方法による補正前後の偏光度を示すグラフを示す。
【
図28】蛍光偏光測定装置の他の構成例を模式的に示す。
【
図29】実施形態3における、蛍光偏光測定システムの論理構成例を模式的に示す。
【
図30】実施形態3における、基準象蛍光サンプル測定画像分析の詳細例のフローチャートを示す。
【
図31】実施形態3における、分析対象蛍光サンプル測定画像分析の詳細例のフローチャートを示す。
【
図32】偏光カメラ方位0°であり励起光に平行な偏光方位(∥)における補正前の分析対象蛍光サンプル測定光強度のグラフを示す。
【
図33】偏光カメラ方位0°であり励起光に平行な偏光方位(∥)における基準蛍光サンプル測定光強度のグラフを示す。
【
図34】基準蛍光サンプル測定光強度に基づき、分析対象蛍光サンプル測定光強度を補正した結果のグラフを示す。
【
図35】蛍光偏光測定装置のさらに他の構成例を模式的に示す。
【
図36】実施形態4における、蛍光偏光測定システムの論理構成例を模式的に示す。
【
図37】実施形態4における、基準象蛍光サンプル測定画像分析の詳細例のフローチャートを示す。
【
図38】実施形態4における、分析対象蛍光サンプル測定画像分析の詳細例のフローチャートを示す。
【
図39】偏光ビームスプリッタ方位pであり励起光に平行な偏光方位(∥)における補正前の分析対象蛍光サンプル測定光強度のグラフを示す。
【
図40】偏光ビームスプリッタ方位pであり励起光に平行な偏光方位(∥)における基準蛍光サンプル測定光強度のグラフを示す。
【
図41】基準蛍光サンプル測定光強度に基づき、分析対象蛍光サンプル測定光強度を補正した結果のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を説明する。本実施形態は本開示を実現するための一例に過ぎず、本開示の技術的範囲を限定するものではないことに注意すべきである。
【0010】
以下に開示される蛍光画像分析装置は、蛍光画像の面内光強度分布についての補正を行う。蛍光画像は、蛍光偏光測定装置により撮像される。蛍光偏光測定装置は、蛍光画像を変化させるいくつかの要因を含み得る。
【0011】
例えば、蛍光偏光測定装置がダイクロイックミラーを含む場合、ダイクロイックミラーは、蛍光画像の面内光強度に傾斜の変化を発生させ得る。つまり、面内光強度が均一のサンプルの蛍光画像は、面内で傾斜する光強度を示し得る。他の要因の例は、励起光照度分布である。励起光照度分布が不均一である場合、蛍光画像の面内光強度を変化させ得る。つまり、面内光強度が均一のサンプルの蛍光画像は、面内で不均一な光強度を示し得る。
【0012】
以下に開示する蛍光画像分析装置は、基準蛍光サンプル測定画像に基づき、測定画像内の画素間の測定光強度の不均一性の補正値を決定し、補正値に基づき、分析対象蛍光サンプル測定画像内の画素の光強度値を補正する。これにより、分析対象蛍光サンプル測定画像における装置起因の光強度値の変化を適切に補正することができる。
【0013】
<実施形態1>
[装置構成]
図1は、蛍光偏光測定システムに含まれる蛍光偏光測定装置の構成例を模式的に示す。後述するように、蛍光偏光測定システムは、蛍光偏光測定装置、及び、蛍光偏光測定装置を制御し、蛍光偏光測定装置による蛍光画像を分析する、蛍光偏光測定制御装置を含む。
【0014】
図1に示す構成例において、蛍光偏光測定装置10は、光源101、集光レンズ103、アイリス105、コリメータ107、偏光調整素子109、励起光フィルタ111、ダイクロイックミラー113を含む。蛍光偏光測定装置10は、さらに、対物レンズ115、及びステージ117、吸収フィルタ119、偏光調整素子121、結像レンズ123、及び撮像装置125を含む。
【0015】
測定サンプル151は、ステージ117に配置される。光源101は、例えば、LEDであり、サンプル151の蛍光を励起する波長の励起光(例えば中心波長470nmの青色光)を出力する。光源101からの励起光は、集光レンズ103により集光されて、アイリス105を通過する。アイリス105は、外光を低減する。
【0016】
アイリス105を通過した励起光は、コリメータ107により平行光にされ、偏光調整素子109に入射する。偏光調整素子109は、例えば、偏光板、偏光ビームスプリッタ又は液晶セルである。以下に説明する例において、偏光調整素子109は、偏光板である。偏光調整素子109は、特定方位の直線偏光を通過させる。偏光調整素子109からの直線偏光励起光は、励起光フィルタ111を通過し、ダイクロイックミラー113によって、対物レンズ115に向かって反射される。励起光フィルタ111は、励起光の波長を含む波長域を選択するフィルタであり、偏光調整素子109からの励起光と異なる光を低減する。
【0017】
対物レンズ115は、ダイクロイックミラー113によって反射された直線偏光励起光を、ステージ117上のサンプル151に集光する。サンプル151は、対物レンズ115からの直線偏光励起光に応じて特定波長の蛍光(例えば緑色光)を生成する。蛍光は、対物レンズ115により平行光となり、ダイクロイックミラー113及び吸収フィルタ119を通過する。ダイクロイックミラー113は、サンプル151からの蛍光を含む所定波長域の光を選択的に通過させ、他の光を反射する。吸収フィルタ119は、サンプル151からの蛍光の波長を含む波長域を選択するフィルタであり、蛍光以外の光を低減する。
【0018】
吸収フィルタ119を通過した蛍光は、偏光調整素子121に入射する。偏光調整素子121は、例えば、偏光板、偏光ビームスプリッタ又は液晶セルである。または偏光調整素子は、偏光カメラ内の偏光フィルタでもよい。偏光カメラは、偏光フィルタをセンサ上に搭載することにより被写体の偏光情報を取得する撮像装置である。以下に説明する例において、偏光調整素子121は、印加電圧が制御される液晶セルである。偏光調整素子121は、蛍光における特定の直線偏光成分のみを通過させる。具体的には、偏光調整素子121は、励起光の偏光方位と平行な直線偏光又は垂直な直線偏光を通過させる。
【0019】
偏光調整素子121を通過した直線偏光の蛍光は、結像レンズ123によって、撮像装置125の撮像面に結像される。撮像装置125は、例えば、CMOSイメージセンサを含む。撮像装置125は、複数の画素を含み、蛍光の光強度に応じた画像データを生成して、蛍光偏光測定制御装置(
図1において不図示)に送信する。
【0020】
蛍光偏光測定装置10は、
図1に示す構成と異なる構成を有することができる。例えば、蛍光偏光測定装置10は、励起光をサンプルに斜めに入射し、ダイクロイックミラー113を省略してもよい。アイリス105、励起光フィルタ111、及び吸収フィルタ119は、必要により設置される。蛍光偏光測定装置10は、設計に応じて、
図1に示すレンズに追加して又は代えて他のレンズを含むことができる。
【0021】
図2は、蛍光偏光測定システムの論理構成例を模式的に示す。蛍光偏光測定システム1は、蛍光偏光測定装置10、蛍光偏
光制御装置20、及びDAコンバータ(DAC)30を含む。蛍光偏光測定装置10の構成は、
図1を参照して説明した通りである。蛍光偏光測定制御装置20は、蛍光偏光測定装置10を制御し、蛍光偏光測定装置10が撮像した蛍光画像を分析する。具体的には、蛍光偏光測定装置10は、蛍光偏光測定装置10の光源101、液晶セル(偏光調整素子)121、及び撮像装置125を制御する。
【0022】
例えば、蛍光偏光測定制御装置20は、測定動作中、光源101を常にONに設定し、励起光をサンプルに照射する。蛍光偏光測定制御装置20は、DAコンバータ30を使用して、液晶セル121に印加する電圧を制御する。液晶セル121への印加電圧を制御することで、液晶セル121を通過する蛍光の偏光成分を制御することができる。
【0023】
液晶セル121は、例えば、対向する二つの透明基板、基板の対向面に配置されている透明電極、基板間に封入されている液晶材料、及び液晶セル121の撮像装置側(出射側又は下流側)の外側面に配置されている偏光板を含む。液晶セル121の構成は、通過する蛍光の偏光成分を調整することができる範囲で、任意である。
【0024】
蛍光偏光測定制御装置20は、液晶セル121の印加電圧と共に撮像装置125の露出時間(撮像時間)、つまり、撮像の開始時刻及び期間を制御して、蛍光の所望の偏光成分の画像データを取得する。蛍光偏光測定制御装置20は、取得した画像データの分析を行う。後述するように、蛍光偏光測定制御装置20、基準サンプルの画像に基づき、分析対象サンプルの測定値を補正する。これにより、蛍光偏光測定装置10の構成に起因する画像変化を補正し、より正確な測定が可能となる。
【0025】
図3は、蛍光偏光測定制御装置20の構成例を模式的に示す。蛍光偏光測定制御装置20は計算機構成を有することができる。
図3の構成例において、蛍光偏光測定制御装置20は、プロセッサ201、メモリ(主記憶装置)202、補助記憶装置203、出力装置204、入力装置205、及び通信インタフェース(I/F)207を含む。上記構成要素は、バスによって互いに接続されている。メモリ202、補助記憶装置203又はこれらの組み合わせは記憶装置であり、プロセッサ201が使用するプログラム及びデータを格納している。
【0026】
メモリ202は、例えば半導体メモリから構成され、主に実行中のプログラムやデータを保持するために利用される。プロセッサ201は、メモリ202に格納されているプログラムに従って、様々な処理を実行する。
図3の構成例において、メモリ202は、不図示のオペレーティングシステムに加え、装置制御プログラム221及び蛍光画像分析プログラム222を格納している。
【0027】
プロセッサ201は、プログラムに従って動作することで、様々な機能部が実現される。例えば、プロセッサ201は、装置制御プログラム221に従って装置制御部として動作し、蛍光画像分析プログラム222に従って蛍光画像分析部として動作する。
【0028】
補助記憶装置203は、例えばハードディスクドライブやソリッドステートドライブなどの大容量の記憶装置から構成され、プログラムやデータを長期間保持するために利用される。
図3の構成例において、補助記憶装置203は、基準蛍光サンプル測定画像データベース(DB)231及び分析対象蛍光サンプル測定画像データベース232を格納している。分析対象蛍光サンプル測定画像データベース232は、分析対象サンプルの測定画像を格納している。基準蛍光サンプル測定画像データベース231は、分析対象サンプル測定画像の光強度値に基づく値を補正するための基準蛍光サンプル測定画像を格納している。
【0029】
プロセッサ201は、単一の処理ユニットまたは複数の処理ユニットで構成することができ、単一もしくは複数の演算ユニット、又は複数の処理コアを含むことができる。プロセッサ201は、1又は複数の中央処理装置、マイクロプロセッサ、マイクロ計算機、マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサ、ステートマシン、ロジック回路、グラフィック処理装置、チップオンシステム、及び/又は制御指示に基づき信号を操作する任意の装置として実装することができる。
【0030】
補助記憶装置203に格納されたプログラム及びデータが起動時又は必要時にメモリ202にロードされ、プログラムをプロセッサ201が実行することにより蛍光偏光測定制御装置20の各種処理が実行される。したがって、以下においてプログラムにより実行される処理は、プロセッサ201又は蛍光偏光測定制御装置20による処理である。
【0031】
入力装置205は、ユーザが蛍光偏光測定制御装置20に指示や情報などを入力するためのハードウェアデバイスである。出力装置204は、入出力用の各種画像を提示するハードウェアデバイスであり、例えば、表示デバイス又は印刷デバイスである。通信I/F207は、ネットワークとの接続のためのインタフェースである。入力装置205及び出力装置204は省略されてもよく、蛍光偏光測定制御装置20は、ネットワークを介して、端末からアクセスされてもよい。
【0032】
蛍光偏光測定制御装置20の機能は、1以上のプロセッサ及び非一過性の記憶媒体を含む1以上の記憶装置を含む1以上の計算機からなる計算機システムに実装することができる。複数の計算機はネットワークを介して通信する。例えば、蛍光偏光測定制御装置20の複数の機能の一部が一つの計算機に実装され、他の一部が他の計算機に実装されてもよい。
【0033】
[動作]
以下において、蛍光偏光測定制御装置20の動作を説明する。装置制御プログラム221は、
図2を参照して説明したように、蛍光偏光測定装置10の光源101、液晶セル(偏光調整素子)121、及び撮像装置125を制御する。以下の説明する例において、液晶セル121は、ON/OFFの間で切り替えられる。液晶セル121は、OFFの状態において、サンプルに入射した直線偏光と平行な直線偏光成分のみ通過させる。また、液晶セル121は、ONの状態において、サンプルに入射した直線偏光と垂直な直線偏光成分を通過させる。液晶セル121は、ON状態において、直線偏光を90°回転させる。なお、液晶セル121のON/OFFの状態は、上記例と逆でもよい。
【0034】
図4は、蛍光偏光測定制御装置20の動作例のフローチャートを示す。装置制御プログラム221は、基準蛍光サンプル測定画像を蛍光偏光測定装置10から取得し、基準蛍光サンプル測定画像データベース231に格納する(S101)。以下に説明する例において、装置制御プログラム221は、直線偏光の励起光に平行及び垂直な直線偏光成分それぞれの基準蛍光サンプル測定画像を取得する。
【0035】
次に、装置制御プログラム221は、分析対象蛍光サンプル測定画像を蛍光偏光測定装置10から取得し、分析対象蛍光サンプル測定画像データベース232に格納する(S102)。以下に説明する例において、装置制御プログラム221は、直線偏光の励起光に平行及び垂直な直線偏光成分それぞれの分析対象蛍光サンプル測定画像を取得する。
【0036】
次に、蛍光画像分析プログラム222は、基準蛍光サンプル測定画像に基づき、分析対象蛍光サンプル測定画像を分析する(S103)。以下に説明する例において、蛍光画像分析プログラム222は、分析対象蛍光サンプル測定画像を基準蛍光サンプル測定画像に基づき補正し、分析対象蛍光サンプル測定画像の偏光度を算出する。
【0037】
図5は、基準蛍光サンプル測定画像の取得(S101)の詳細例のフローチャートを示す。基準蛍光サンプルは、オペレータによって、ステージ117上に設置されている。装置制御プログラム221は、液晶セル121に、液晶セル121がONとなる駆動電圧を付与する(S201)。
【0038】
装置制御プログラム221は、撮像装置125に所定の露出期間受光させ、第1基準蛍光サンプル測定画像を撮像させる(S202)。第1基準蛍光サンプル測定画像は、蛍光の励起光に垂直な直線偏光成分の画像である。装置制御プログラム221は、第1基準蛍光サンプル測定画像を撮像装置125から取得して、基準蛍光サンプル測定画像データベース231に格納する(S203)。
【0039】
次に、装置制御プログラム221は、液晶セル121に、液晶セル121がOFFとなる駆動電圧を付与する(S204)。装置制御プログラム221は、撮像装置125に所定の露出期間受光させ、第2基準蛍光サンプル測定画像を撮像させる(S205)。第2基準蛍光サンプル測定画像は、蛍光の励起光に平行な直線偏光成分の画像である。装置制御プログラム221は、第2基準蛍光サンプル測定画像を撮像装置125から取得して、基準蛍光サンプル測定画像データベース231に格納する(S206)。
【0040】
図6は、装置制御プログラム221による液晶セル121の駆動電圧及び液晶セル121の透過光強度の関係を模式的に示す。装置制御プログラム221は、液晶セル121をON状態にするため、正負の所定電圧値の間で周期的に振動する矩形波401を与える。正負のいずれの電圧値においても液晶セル121はON状態である。液晶セル121がON状態である期間(ON期間)411内において、測定期間42
1が定義される。
【0041】
装置制御プログラム221は、測定期間421において、撮像装置125に蛍光を受光させ、蛍光画像を撮像させる。液晶セル121がON状態であるとき、サンプルからの蛍光の励起光の偏光方位に垂直な偏光成分が受光される。その受光強度I⊥は、測定期間421における総受光量又はその時間平均で表わされる。
【0042】
装置制御プログラム221は、液晶セル121をOFF状態にするため、ゼロ電圧402を与える。液晶セル121がOFF状態である期間(OFF期間)412内において、測定期間422が定義される。装置制御プログラム221は、測定期間422において、撮像装置125に蛍光を受光させ、蛍光画像を撮像させる。液晶セル121がOFF状態であるとき、サンプルからの蛍光の励起光の偏光方位に平行な偏光成分が受光される。その受光強度I∥は、測定期間422の受光量又はその時間平均で表わされる。
【0043】
図7は、分析対象蛍光サンプル測定画像の取得(S102)の詳細例のフローチャートを示す。分析対象蛍光サンプルは、オペレータによって、ステージ117上に設置されている。装置制御プログラム221は、液晶セル121に、液晶セル121がONとなる駆動電圧を付与する(S301)。
【0044】
装置制御プログラム221は、撮像装置125に所定の露出期間受光させ、第1分析対象蛍光サンプル測定画像を撮像させる(S302)。第1分析対象蛍光サンプル測定画像は、蛍光の励起光に垂直な直線偏光成分の画像である。装置制御プログラム221は、第1分析対象蛍光サンプル測定画像を撮像装置125から取得して、分析対象蛍光サンプル測定画像データベース232に格納する(S303)。
【0045】
次に、装置制御プログラム221は、液晶セル121に、液晶セル121がOFFとなる駆動電圧を付与する(S304)。装置制御プログラム221は、撮像装置125に所定の露出期間受光させ、第2分析対象蛍光サンプル測定画像を撮像させる(S305)。第2分析対象蛍光サンプル測定画像は、蛍光の励起光に平行な直線偏光成分の画像である。装置制御プログラム221は、第2分析対象蛍光サンプル測定画像を撮像装置125から取得して、分析対象蛍光サンプル測定画像データベース232に格納する(S306)。
【0046】
図8は、分析対象蛍光サンプル測定画像の分析(S103)の詳細例のフローチャートを示す。蛍光画像分析プログラム222は、第1基準蛍光サンプル測定画像を基準蛍光サンプル測定画像データベース231より取得する(S401)。第1基準蛍光サンプル測定画像は、励起光の偏光方向に垂直な直線偏光成分の基準蛍光サンプル測定画像である。蛍光画像分析プログラム222は、第1分析対象蛍光サンプル測定画像のための補正係数(第1補正係数)を算出する(S402)。第1補正係数の算出方法の詳細は後述する。
【0047】
次に、蛍光画像分析プログラム222は、第2基準蛍光サンプル測定画像を基準蛍光サンプル測定画像データベース231より取得する(S403)。第2基準蛍光サンプル測定画像は、励起光の偏光方向に平行な直線偏光成分の基準蛍光サンプル測定画像である。蛍光画像分析プログラム222は、第2分析対象蛍光サンプル測定画像のための補正係数(第2補正係数)を算出する(S404)。第2補正係数の算出方法の詳細は後述する。
【0048】
次に、蛍光画像分析プログラム222は、第1及び第2分析対象蛍光サンプル測定画像を、分析対象蛍光サンプル測定画像データベース232より取得する(S405)。蛍光画像分析プログラム222は、第1及び第2補正係数、並びに、第1及び第2分析対象蛍光サンプル測定画像に基づき、第1及び第2分析対象蛍光サンプル測定画像の偏光度を算出する(S406)。蛍光画像分析プログラム222は、算出した偏光度を、補助記憶装置203に格納し、出力装置204に出力する。蛍光画像分析プログラム222は、第1及び第2分析対象蛍光サンプル測定画像を、出力装置204に出力してもよい。
【0049】
[補正方法]
以下において、基準蛍光サンプル測定画像に基づく補正係数の計算方法を説明する。蛍光画像分析プログラム222は、第1基準蛍光サンプル測定画像から第1補正係数を算出する。本例において、視野内で基準蛍光サンプルが占める領域は、分析対象サンプルの全てのROIを含む。また、基準蛍光サンプルが生成する蛍光の面内光強度は均一である。なお、面内蛍光強度の関係が予め知られていれば、光強度は均一でなくてもよい。
【0050】
第1補正係数は、直線偏光である励起光の偏光方位と垂直な直線偏光成分の分析対象蛍光サンプル測定画像(第1分析対象蛍光サンプル測定画像)のための補正係数である。補正係数a⊥(i,j)は、例えば、次の式で計算できる。
a⊥(i,j)=(1/Ir⊥(i,j))*|Ir⊥(i,j)|
【0051】
補正係数は、画素毎に決定される。Ir⊥(i,j)は、第1基準蛍光サンプル測定画像の画素(i,j)における光強度(受光強度)を表す。|Ir⊥(i,j)|は、第1基準蛍光サンプル測定画像において、画素(i,j)を含む所定領域を構成する複数画素の光強度の平均値である。
【0052】
所定領域は、例えば、測定画像(視野)全体、基準蛍光サンプルからの蛍光を受光し光強度が閾値を超える全画素からなる領域、又は、分析対象蛍光サンプルの複数のROI(Region Of Interest)を含む画像内の一部領域である。所定領域が、基準蛍光サンプルからの蛍光を受光する全ての画素を含むことで、補正可能な画素を増やし、より正確な補正が可能となる。
【0053】
蛍光画像分析プログラム222は、第2基準蛍光サンプル測定画像から第2補正係数を算出する。第2補正係数は、直線偏光である励起光の偏光方位と平行な直線偏光成分の分析対象蛍光サンプル測定画像(第2分析対象蛍光サンプル測定画像)のための補正係数である。補正係数a∥(i,j)は、例えば、次の式で計算できる。
a∥(i,j)=(1/Ir∥(i,j))*|Ir∥(i,j)|
【0054】
Ir∥(i,j)は、第2基準蛍光サンプル測定画像の画素(i,j)における光強度(受光強度)を表す。|Ir∥(i,j)|は、第2基準蛍光サンプル測定画像の所定領域の複数画素における光強度の平均値である。所定領域は、第1基準蛍光サンプル測定画像の所定領域と同様である。
【0055】
蛍光画像分析プログラム222は、バックグランド補正のための補正係数を使用してもよい。例えば、サンプルが容器、例えば、セルのマイクロ流路に収容されている場合、セルからの光の波長が測定される波長域に含まれることがある。このバックグランドノイズを補正することで、より正確な測定が可能となる。第1基準蛍光サンプル測定画像のためのバックグランド補正係数(オフセット値)b⊥(i,j)及び第2基準蛍光サンプル測定画像のためのバックグランド補正係数(オフセット値)b∥(i,j)は、予め設定されている。
【0056】
基準蛍光サンプル測定画像から計算される補正係数a⊥(i,j)、a∥(i,j)、及び、バックグランド補正係数b⊥(i,j)、b∥(i,j)に基づき、分析対象蛍光サンプル測定画像それおれの各画素の光強度が補正される。具体的には、第1分析対象蛍光サンプル測定画像における補正後の画素の光強度は、以下の数式で表わすことができる。
Ic⊥(i,j)=a⊥(i,j)*It⊥(i,j)+b⊥(i,j)
It⊥(i,j)は、撮像装置125により撮像された補正前の第1分析対象蛍光サンプル測定画像における画素(i,j)の光強度である。Ic⊥(i,j)は、補正後の当該画素(i,j)の光強度である。
【0057】
同様に、第2分析対象蛍光サンプル測定画像における補正後の画素の光強度は、以下の数式で表わすことができる。
Ic∥(i,j)=a∥(i,j)*It∥(i,j)+b∥(i,j)
It∥(i,j)は、撮像装置125により撮像された補正前の第2分析対象蛍光サンプル測定画像における画素(i,j)の光強度である。Ic∥(i,j)は、補正後の当該画素(i,j)の光強度である。
【0058】
ROIの偏光度Pは、以下の式で表わされる。
P=(Ic∥-Ic⊥)/(Ic∥+Ic⊥)
Ic∥は、ROIの画素の補正光強度値Ic∥(i,j)の総和又は平均値であり、Ic⊥は、ROIの画素の補正光強度値Ic⊥(i,j)の総和又は平均値である。
【0059】
蛍光画像分析プログラム222は、他の関数により分析対象蛍光サンプル測定画像における画素の光強度を補正してもよい。例えば、蛍光画像分析プログラム222は、分析対象蛍光サンプル測定画像における画素の光強度のバックグランド補正を行い、その値を基準蛍光サンプル測定画像から計算される補正係数により補正してもよい。
【0060】
蛍光画像分析プログラム222は、分析対象蛍光サンプル測定画像において、バックグランドの領域(サンプルが存在しない領域)の光強度(バックグランド光強度)の平均値を計算する。蛍光画像分析プログラム222は、例えば、マイクロ流路を含むセルにおける流路外の領域の光強度の平均値bを計算する。平均値を計算する領域は、例えば、サンプルのROIと同じ面積を有する。
【0061】
蛍光画像分析プログラム222は、以下の式に従って、励起光に平行及び垂直な分析対象蛍光サンプル測定画像それぞれの画素の光強度It(i,j)を補正することができる。
Ic(i,j)=a(i,j)*(It(i,j)-b)
Ic(i,j)は、補正後の画素(i,j)の光強度、a(i,j)は基準蛍光サンプル測定画像から計算される補正係数、It(i,j)は補正前の画素(i,j)の光強度、bはバックグランド補正係数である。
【0062】
ダイクロイックミラー113や光源101による画素の受光強度への影響は、偏光方向成分に応じて異なり得る。従って、上述のように、励起光の直線偏光方位と平行な直線偏光成分と垂直な直線偏光成分それぞれの補正係数を使用することで、分析対象サンプルの蛍光偏光をより適切に測定することができる。なお、システム設計によっては、一方の直線偏光成分の基準蛍光サンプル測定画像のみを使用してもよい。
【0063】
[測定結果例]
以下において、蛍光サンプルの測定結果例を説明する。
図9は、ROIの位置を示している。測定画像(視野)内において、サンプル領域501内に、九つのROIが定義されている。サンプル領域501内の数字は、ROIの番号を示す。分析対象蛍光サンプルは、容器内に収容された液体材料(蛍光標識溶液)である。基準蛍光サンプルは、YAGセラミック片である。
【0064】
図10は、補正前の分析対象蛍光サンプル測定光強度(液晶セルON)のグラフを示す。横軸はROI番号を示し、縦軸はROIの光強度を示す。ROIの光強度は、ROIを構成する画素(撮像装置125の画素)の光強度の総和である。液晶セル121がON状態にあり、蛍光の測定光強度は、励起光の直線偏光方位に垂直な直線偏光成分の光強度である。
【0065】
図11は、基準蛍光サンプル測定光強度(液晶セルON)のグラフを示す。横軸はROI番号を示し、縦軸はROIの光強度を示す。液晶セル121がON状態にあり、蛍光の測定光強度は、励起光の直線偏光方位に垂直な直線偏光成分の光強度である。
【0066】
図12は、基準蛍光サンプル測定光強度に基づき、分析対象蛍光サンプル測定光強度を補正した結果のグラフを示す。横軸はROI番号を示し、縦軸は、ROIの光強度を示す。
図10のグラフと
図12のグラフを比較すると、測定光強度のROI間の差(ばらつき)が小さくなっている。分析対象蛍光サンプルの測定光強度は面内で均一であるはずである。基準蛍光サンプル測定光強度に基づく補正により、分析対象蛍光サンプルのより正確な測定を行うことができることが分かる。
【0067】
図13は、補正前の分析対象蛍光サンプル測定光強度(液晶セルOFF)のグラフを示す。横軸はROI番号を示し、縦軸はROIの光強度を示す。液晶セル121がOFF状態にあり、蛍光の測定光強度は、励起光の直線偏光方位に平行な直線偏光成分の光強度である。
【0068】
図14は、基準蛍光サンプル測定光強度(液晶セルOFF)のグラフを示す。横軸はROI番号を示し、縦軸はROIの光強度を示す。液晶セル121がOFF状態にあり、蛍光の測定光強度は、励起光の直線偏光方位に平行な直線偏光成分の光強度である。
【0069】
図15は、基準蛍光サンプル測定光強度に基づき、分析対象蛍光サンプル測定光強度を補正した結果のグラフを示す。横軸はROI番号を示し、縦軸は、ROIの光強度を示す。
図13のグラフ
と比較すると、
図15のグラフは、測定光強度のROI間の差(ばらつき)が小さくなっている。分析対象蛍光サンプルの測定光強度は面内で均一であるはずである。基準蛍光サンプル測定光強度に基づく補正により、分析対象蛍光サンプルのより正確な測定を行うことができることが分かる。
【0070】
上記構成例は、液晶セル121を制御することで、蛍光から異なる偏光成分を抽出することができる。他の構成例は、液晶セル121に代えて偏光板を使用してもよい。オペレータ又は蛍光偏光測定制御装置20が、偏光板の向きを変えることで、蛍光の所望の偏光成分を抽出できる。
【0071】
上記例は、基準蛍光サンプル測定画像の測定値を使用して補正係数を決定している。他の構成例は、内挿や回帰分析等に基づく2次元カーブフィッティングによって、基準蛍光サンプル測定画像の画素の光強度を補正してもよい。これにより、基準蛍光サンプル測定画像のノイズを低減し、より適切な補正が可能となる。任意のフィッティング関数を使用することが可能であり、例えば、撮像面(画素アレイ)のX方向及びY方向それぞれを所定の次数(例えば6次)の関数を用いて測定値にフィッティングする曲面を定義することができる。
【0072】
上記例は、撮像素子がランダムに有する固定パターンノイズを除去せずにROI内の光強度平均値の計算にはノイズ光強度を含めて計算している。他の構成例は、固定パターンノイズを有する画素のうち、予め設定された閾値(撮像素子ノイズ閾値)に基づき固定パターンノイズ画素(いわゆる、ホットピクセル)を決定し、これを除外する処理を行う。
【0073】
蛍光画像分析プログラム222は、画素の光強度の一定の閾値を決定するため、例えば、周辺の24画素(5(縦)x5(横)-1(当該画素)=24画素)の光強度平均値を計算する。蛍光画像分析プログラム222は、当該画素の光強度が、例えば光強度平均値の105%を超える場合に、当該画素を固定パターンノイズ画素と決定する。蛍光画像分析プログラム222は、同様の計算を画像内の全画素について実施し、固定パターンノイズ画素群のx,y座標マップを作成する。蛍光画像分析プログラム222は、固定パターンノイズ画素群のx,y座標マップを、分析対象蛍光サンプルおよび基準蛍光サンプルの光強度計算から除外し、残りの画素群から光強度計算を実施できる。
【0074】
<実施形態2>
[測定方法]
分析対象蛍光サンプルの他の測定方法の例における補正を説明する。主に実施形態1との相違点を説明する。装置制御プログラム221は、反転周期よりも長い周期で周期的に変化する電圧を液晶セル121に与える。
図16は、液晶セルに121に印加される電圧の時間変化の例を示す。横軸は時間、縦軸は印加電圧を示す。
図16に示すように、印加電圧は、高い周波数で、正の値と負の値との間で反転する。正の包絡線と負の包絡線は、横軸について線対称である。包絡線は、反転周期よりも長い周期において、周期的に変化する。
【0075】
図17は、
図16に示す電圧が液晶セル121に印加されているときに、液晶セル121を通過する蛍光の光強度の変化を模式的に示す。蛍光光強度は、正弦波に近い形で変化し、印加電圧の絶対値の増加に伴い減少し、減少に伴い増加している。なお、光強度変化が正弦波に近い変化を示すことができれば、液晶セル121への印加電圧の波形は特に限定されない。
【0076】
蛍光画像分析プログラム222は、例えば、期間D1からD4の各期間において、蛍光サンプルの画像におけるROIの光強度を計算する。各期間の光強度は、各期間におけるROIの光強度の時間についての積分値であり、各期間(露出期間)におけるROIの画素の総受光量である。蛍光画像分析プログラム222は、期間D1からD4それぞれの光強度に基づき、サンプルの蛍光偏光を評価する。期間D1からD4のそれぞれにおいて、撮像装置125は、蛍光の所定の偏光成分の光を受光する。各期間における偏光成分は、偏光方位の幅を持っている。
【0077】
測定の全体の流れは、
図4に示すフローチャートに示す方法と同様である。
図4に示す各ステップに詳細を以下に説明する。
図18は、基準蛍光サンプル測定画像格納S101の詳細例を示すフローチャートである。装置制御プログラム221は、液晶セル121に、
図16に示すような周期的に変化する駆動電圧を付与する(S501)。
【0078】
装置制御プログラム221は、撮像装置125によって、四つの期間D1からD4それぞれの、基準蛍光サンプル測定画像を撮像する(S502)。各期間の測定画像は、撮像装置125の各画素の期間内に蛍光受光量を示す。装置制御プログラム221は、四つの期間D1からD4それぞれの基準蛍光サンプル測定画像を、基準蛍光サンプル測定画像データベース231に格納する(S503)。
【0079】
図19は、分析対象蛍光サンプル測定画像格納S102の詳細例を示すフローチャートである。装置制御プログラム221は、液晶セル121に、
図16に示すような周期的に変化する駆動電圧を付与する(S601)。
【0080】
装置制御プログラム221は、撮像装置125によって、四つの期間D1からD4それぞれの、分析対象蛍光サンプル測定画像を撮像する(S602)。装置制御プログラム221は、四つの期間D1からD4それぞれの分析対象蛍光サンプル測定画像を、分析対象蛍光サンプル測定画像データベース232に格納する(S603)。
【0081】
図20は、分析対象蛍光サンプル測定画像分析S103の詳細例のフローチャートを示す。蛍光画像分析プログラム222は、ステップS701からS703を各期間のデータについて行う。蛍光画像分析プログラム222は、当該期間の基準蛍光サンプル測定画像を、基準蛍光サンプル測定画像データベース231より取得する(S701)。蛍光画像分析プログラム222は、取得した基準蛍光サンプル測定画像から、当該期間の分析対象蛍光サンプル測定画像のための補正係数を算出する(S702)。本例において、分析対象蛍光サンプル測定画像と同一偏光成分の基準蛍光サンプル測定画像から補正係数が計算される。これらの偏光成分は必ずしも同一でなくてもよい。
【0082】
補正係数の計算方法は、
図8を参照して説明した第1又は第2補正係数の計算方法と同様である。蛍光画像分析プログラム222は、下記数式に従って、各画素の光強度の補正係数a(i,j)を決定する。
a(i,j)=(1/Ir(i,j))*|Ir(i,j)|
Ir(i,j)は、基準蛍光サンプル測定画像における撮像装置125の画素(i,j)の光強度であり、|Ir(i,j)|は所定領域の画素の光強度の平均値である。
【0083】
蛍光画像分析プログラム222は、補正係数a(i,j)に基づき、分析対象蛍光サンプル測定画像のそれぞれの画素(i,j)の光強度値を補正する(S703)。実施形態1において説明したように、バックグランド補正係数が合わせて使用されてもよい。
【0084】
全ての期間のデータについてステップS701からS703の実行後、蛍光画像分析プログラム222は、補正された四つの期間の分析対象蛍光サンプル測定画像の光強度値に基づき、偏光度を計算する(S704)。例えば、蛍光画像分析プログラム222は、以下の数式により偏光度Pを計算する。
P=(π/4√2)*(B/A)
A=(LD1+LD2+LD3+LD4)
B=√{(LD1-LD3)2+(LD2-LD4)2}
LD1からLD4は、それぞれ、補正された四つの期間の分析対象蛍光サンプル測定画像のROIの光強度(受光量)を示す。
【0085】
[測定結果例]
以下において、
図16から20を参照して説明した測定による蛍光サンプルの測定結果例を示す。以下において、四つの期間における期間D1の例を説明する。分析対象蛍光サンプルは、容器内に収容された液体材料(蛍光標識溶液)である。基準蛍光サンプルは、YAGセラミック片である。
【0086】
図21は、期間D1における補正前の分析対象蛍光サンプル測定光強度のグラフを示す。横軸はROI番号を示し、縦軸はROIの光強度を示す。
図22は、期間D1における基準蛍光サンプル測定光強度のグラフを示す。横軸はROI番号を示し、縦軸はROIの光強度を示す。
図23は、基準蛍光サンプル測定光強度に基づき、分析対象蛍光サンプル測定光強度を補正した結果のグラフを示す。横軸はROI番号を示し、縦軸は、ROIの光強度を示す。
【0087】
図21のグラフと
図23のグラフを比較すると、測定光強度のROI間の差(ばらつき)が小さくなっている。分析対象蛍光サンプルの測定光強度は面内で均一であるはずである。基準蛍光サンプル測定光強度に基づく補正により、分析対象蛍光サンプルのより正確な測定を行うことができることが分かる。なお、他の期間D2からD4についても、補正は同様の効果を奏した。
【0088】
図24A及び
図24Bは、液状サンプルを収容するセルの構成例を模式的に示す。
図24Bは、
図24AにおけるBB切断線での断面構造を示す。
図24Aに示すように、セル600は、複数のマイクロ流路601を含み、各流路601に液体を注入するための孔602を含む。
図24Aにおいて、例として、一つの流路が符号601で指示され、一つの孔が符号602で指示されている。流路601の幅は、例えば、100μm程である。
【0089】
図24Bに示すように、セル600は、流路601に対応する溝が形成された有色(例えば黒)シリコン基板612と、溝を塞ぐようにシリコン基板612に重ねられた透明なガラス基板611と、を含む。ガラス基板611が撮像装置125を向くように、セル600はステージ117上に設置される。励起光はガラス基板611を通ってサンプルに入射し、サンプルからの蛍光はガラス基板611を通って対物レンズ115に向かって進む。
【0090】
以下において、マイクロ流路を含むセルに収容されたサンプルの測定結果例を示す。
図25は、ROIの位置を示している。サンプルを収容している流路601内において、五つのROIが定義されている。ROIを示す矩形内の数字は、ROIの番号を示す。分析対象蛍光サンプルは、容器内に収容された液体材料(蛍光標識溶液)である。基準蛍光サンプルは、Ce:YAGセラミック片である。
【0091】
図26は、
図4から8を参照して説明した方法による補正前後の偏光度を示すグラフを示す。横軸はROI番号を示し、縦軸は偏光度を示す。
図26は、複数のセルに収容されたサンプルの補正前後の偏光度を示す。線701は第1セルの補正前の偏光度を示し、線702は第1セルの補正後の偏光度を示す。線703は第2セルの補正前の偏光度を示し、線704は第2セルの補正後の偏光度を示す。線705は第3セルの補正前の偏光度を示し、線706は第3セルの補正後の偏光度を示す。
【0092】
同一セルの偏光度を比較すると、補正後の偏光度のROI間の差(ばらつき)が小さくなっている。分析対象蛍光サンプルの測定光強度はROIによらず均一であるはずである。基準蛍光サンプル測定光強度に基づく補正により、分析対象蛍光サンプルのより正確な測定を行うことができることが分かる。
【0093】
図27は、
図16から20を参照して説明した方法による補正前後の偏光度を示すグラフを示す。横軸はROI番号を示し、縦軸は偏光度を示す。
図27は、一つのセルにおける複数のROIの補正前後の偏光度を示す。線751は補正前の偏光度を示し、線752は補正前の偏光度を示す。補正後の偏光度のROI間の差(ばらつき)が小さくなっている。分析対象蛍光サンプルの測定光強度はROIによらず均一であるはずである。基準蛍光サンプル測定光強度に基づく補正により、分析対象蛍光サンプルのより正確な測定を行うことができることが分かる。
【0094】
本実施形態2においても、固定パターンノイズ画素群のx,y座標を、分析対象蛍光サンプルおよび基準蛍光サンプルの光強度計算から除外し、残りの画素から光強度計算を実施できる。
【0095】
<実施形態3>
[装置構成]
蛍光偏光分析装置の他の装置構成の例における測定方法を説明する。主に実施形態1との相違点を説明する。装置は、
図28に表記の構成である。実施形態1の構成である
図1との違いは、2点である。(1)本実施形態3では偏光板あるいは液晶セルは構成に含めない。(2)通常の撮像装置の代わりに偏光カメラ127を用いる。
【0096】
偏光カメラは、偏光フィルタをセンサアレイ(撮像素子)の直上に搭載することにより被写体の偏光情報を取得する撮像装置である。撮像素子は複数の画素を含み、偏光フィルタは、蛍光における異なる方位の直線偏光を透過させる、複数の偏光素子を含む。各偏光素子を透過した直線偏光は、1又は複数の画素に入射する。
【0097】
偏光カメラは、偏光フィルタが透過させる直線偏光の方位それぞれの画像を同時に、指定した露光時間内で、それぞれの方位の同一枚数の画像を、撮像することができる。以下に説明する例においては、偏光カメラ127の偏光フィルタは、励起光の偏光方位と平行な直線偏光(0°)と垂直な直線偏光(90°)を通過させる。
【0098】
[動作]
以下において、蛍光偏光測定制御装置20の動作を説明する。装置制御プログラム221は、
図29に表記されているように、蛍光偏光測定装置10の光源101、及び偏光カメラ127を制御する。以下の説明する例において、偏光カメラ127は2方位の偏光方位(0°、90°)を撮像できるとする。偏光方位0°はサンプルに入射した直線偏光と平行な直線偏光成分のみ通過させた蛍光偏光画像である。偏光方位90°は、サンプルに入射した直線偏光と垂直な直線偏光成分を通過させた蛍光偏光画像である。なお、この偏光方位の0°と90°の状態は、上記例と逆でもよい。その他の動作は実施形態1と同様である。主に実施形態1との相違点を説明する。
【0099】
例えば、蛍光偏光測定制御装置20は、測定動作中、光源101を常にONに設定し、励起光をサンプルに照射する。蛍光偏光測定制御装置20は、偏光カメラ127の露出時間(撮像時間)、つまり、撮像の開始時刻及び期間を制御して、蛍光の所望の偏光成分の画像データを取得する。蛍光偏光測定制御装置20は、取得した画像データの分析を行う。蛍光偏光測定制御装置20は、基準サンプルの画像に基づき、分析対象サンプルの測定値を補正する。これにより、蛍光偏光測定装置10の構成に起因する画像変化を補正し、より正確な測定が可能となる。
【0100】
例えば、蛍光偏光測定制御装置20は、偏光カメラ127の露出時間(撮像時間)、つまり、撮像の開始時刻及び期間を制御して、分析対象蛍光サンプルからの蛍光の複数の偏光成分と基準サンプルからの蛍光の複数の偏光成分とを、同一時間で測定する。これにより、時間変化での、画像変化を抑制できるため、正確な測定が可能となる。
【0101】
[測定方法]
実施形態1と同様に、直線偏光の励起光に平行及び垂直な直線偏光成分それぞれの、分析対象蛍光サンプル測定画像および基準蛍光サンプル測定画像を取得する。
【0102】
測定の全体の流れは、実施形態1の、
図4に示すフローチャートに示す方法と同様である。主に実施形態1との相違点を説明する。
図30は、基準蛍光サンプル測定画像格納S101の詳細例を示すフローチャートである。装置制御プログラム221は、偏光カメラ127を2方位(0°、90°)の偏光画像が撮像できるモードに設定し(S1501)、2種の偏光方位(0°、90°)の基準蛍光サンプル測定画像を同時に撮像する(S1502)。偏光方位0°の測定画像が、直線偏光の励起光に平行な基準蛍光サンプル測定画像であり、偏光方位90°の測定画像が、直線偏光の励起光に垂直な基準蛍光サンプル測定画像である。装置制御プログラム221は、測定画像を基準蛍光サンプル測定画像データベース231に格納する(S1503)。
【0103】
図31は、分析対象蛍光サンプル測定画像格納S102の詳細例を示すフローチャートである。装置制御プログラム221は、偏光カメラ127を2方位(0°、90°)の偏光画像が撮像できるモードに設定し(S1601)、2種の偏光方位(0°、90°)の分析対象蛍光サンプル測定画像を同時に撮像する(S1602)。偏光方位0°の測定画像が、直線偏光の励起光に平行な分析対象蛍光サンプル測定画像であり、偏光方位90°の測定画像が、直線偏光の励起光に垂直な分析対象蛍光サンプル測定画像である。装置制御プログラム221は、測定画像を分析対象蛍光サンプル測定画像データベース232に格納する(S1603)。
【0104】
蛍光画像分析プログラム222は、実施形態1と同様に、
図8のフローチャートに従い、第1及び第2分析対象蛍光サンプル測定画像のための補正係数(第1補正係数及び第2補正係数)を算出する(S402)。
【0105】
蛍光画像分析プログラム222は、補正係数の算出方法(S402)に基づき、求めた補正係数を用いて、分析対象蛍光サンプル測定画像のそれぞれの画素(i,j)の光強度値を補正する(S703)。実施形態1において説明したように、バックグランド補正係数が合わせて使用されてもよい。
【0106】
本実施形態3でも、固定パターンノイズ画素群のx,y座標を、分析対象蛍光サンプルおよび基準蛍光サンプルの光強度計算から除外し、残りの画素から光強度計算を実施できる。
【0107】
[測定結果例]
以下において、実施形態3で説明した偏光カメラを用いた測定による蛍光サンプルの測定結果例を示す。以下において、偏光カメラ127の偏光方位0°であり、直線偏光の励起光に平行な測定画像の例を説明する。分析対象蛍光サンプルは、容器内に収容された液体材料(蛍光標識溶液)である。基準蛍光サンプルは、YAGセラミック片である。
【0108】
図32は、偏光カメラ127の偏光方位0°であり、直線偏光の励起光に平行な方位の、補正前と、基準蛍光サンプル測定光強度に基づき、分析対象蛍光サンプル測定光強度を補正した後の、分析対象蛍光サンプルを全て同一濃度水準で、測定用マイクロ流路セルの5流路に充填して測定した光強度の、5流路平均値(MEAN)を示す。縦軸は5流路平均の光強度を示す。
図33は、偏光カメラ127の偏光方位0°での、補正前と補正後の、分析対象蛍光サンプルを全て同一濃度水準で、測定用マイクロ流路セルの5流路に充填して測定した光強度の、5流路での標準偏差(σ)を示す。縦軸は、5流路での標準偏差を示す。
【0109】
図34は、偏光カメラ127の偏光方位0°での、補正前と補正後の、分析対象蛍光サンプルを全て同一濃度水準で、測定用マイクロ流路セルの5流路に充填して測定した光強度の、5流路での光強度分散(σ/MEAN)を示す。縦軸は、5流路での光強度分散(σ/MEAN)を示す。
図34の補正前と補正後を比較すると、補正後は測定光強度の流離間の差(ばらつき)が小さくなっている。分析対象蛍光サンプルの測定光強度は面内で均一であるはずである。基準蛍光サンプル測定光強度に基づく補正により、分析対象蛍光サンプルのより正確な測定を行うことができることが分かる。
【0110】
<実施形態4>
[装置構成]
蛍光偏光分析装置の他の装置構成の例における測定方法を説明する。主に実施形態1との相違点を説明する。装置は、
図35に表記の構成である。実施形態1の構成である
図1との違いは、2点である。(1)本実施形態4での偏光調整素子は偏光板あるいは液晶セルではなく、偏光ビームスプリッタ110である。(2)撮像装置125を2台用いる。
【0111】
偏光ビームスプリッタ110は蛍光における特定の直線偏光成分(p)を通過させ、左記の偏光成分(偏光ビームスプリッタ110の方位:p)と直行する成分(偏光ビームスプリッタ110の方位:s)を反射する。具体的には、励起光の偏光方位と平行な直線偏光(p)を通過させ、励起光の偏光方位と垂直な直線偏光(s)を反射させる。
【0112】
[動作]
以下において、蛍光偏光測定制御装置20の動作を説明する。装置制御プログラム221は、
図36に表記されているように、蛍光偏光測定システム1は、蛍光偏光測定装置10、蛍光偏
光制御装置20、及びDAコンバータ(DAC)30を含む。蛍光偏光測定装置10の構成は、図
35を参照して説明した通りである。蛍光偏光測定制御装置20は、蛍光偏光測定装置10を制御し、蛍光偏光測定装置10が撮像した蛍光画像を分析する。
【0113】
具体的には、蛍光偏光制御装置20は、蛍光偏光測定装置10の光源101、及び2台の撮像装置125を制御する。以下の説明する例において、偏光調整素子は偏光ビームスプリッタ110であり、偏光方位(p、s)を撮像できるとする。偏光方位pはサンプルに入射した直線偏光と平行な直線偏光成分のみ通過させた蛍光偏光画像である。偏光方位sは、サンプルに入射した直線偏光と垂直な直線偏光成分を通過させた蛍光偏光画像である。なお、この偏光方位のpとsの状態は、上記例と逆でもよい。その他の動作は実施形態1と同様である。主に実施形態1との相違点を説明する。
【0114】
例えば、蛍光偏光測定制御装置20は、測定動作中、光源101を常にONに設定し、励起光をサンプルに照射する。蛍光偏光測定制御装置20は、DAコンバータ30を使用して、2台の撮像装置125の露出時間(撮像時間)、つまり、撮像の開始時刻及び期間を制御して、蛍光の所望の偏光成分の画像データを取得する。蛍光偏光測定制御装置20は、取得した画像データの分析を行う。蛍光偏光測定制御装置20、基準サンプルの画像に基づき、分析対象サンプルの測定値を補正する。これにより、蛍光偏光測定装置10の構成に起因する画像変化を補正し、より正確な測定が可能となる。
【0115】
例えば、蛍光偏光測定制御装置20は、プロセッサにより、2台の撮像装置125の露出時間(撮像時間)、つまり、撮像の開始時刻及び期間を制御して、分析対象蛍光サンプルからの二つの方位の偏光成分を同一測定時間(同一時間露光)、測定する。さらに、基準サンプルからの二つの方位の偏光成分を、分析対象蛍光サンプルと同一の時間測定(同一時間露光)、測定する。これにより、時間変化での、画像変化を抑制できるため、正確な測定が可能となる。
【0116】
[測定方法]
実施形態1と同様に、直線偏光の励起光に平行及び垂直な直線偏光成分それぞれの、分析対象蛍光サンプル測定画像および基準蛍光サンプル測定画像を取得する。
【0117】
測定の全体の流れは、実施形態1の、
図4に示すフローチャートに示す方法と同様である。主に実施形態1との相違点を説明する。
図37は、基準蛍光サンプル測定画像格納S101の詳細例を示すフローチャートである。装置制御プログラム221は、2台の撮像装置(カメラ)125を同一の露光条件に設定する(S1701)。装置制御プログラム221は、2台の撮像装置125を同期駆動して、偏光ビームスプリッタを通過した蛍光信号による2種の偏光方位(p、s)の基準蛍光サンプル測定画像を、同時に撮像する(S1702)。偏光方位pの測定画像が、直線偏光の励起光に平行な基準蛍光サンプル測定画像であり、偏光方位sの測定画像が、直線偏光の励起光に垂直な基準蛍光サンプル測定画像である。装置制御プログラム221は、測定画像を基準蛍光サンプル測定画像データベース231に格納する(S1703)。
【0118】
図38は、分析対象蛍光サンプル測定画像格納S102の詳細例を示すフローチャートである。装置制御プログラム221は、2台の撮像装置(カメラ)125を同一の露光条件に設定する(S1801)。装置制御プログラム221は、2台の撮像装置125を同期駆動して、偏光ビームスプリッタを通過した蛍光信号による2種の偏光方位(p、s)の分析対象蛍光サンプル測定画像を同時に撮像する(S1802)。偏光方位pの測定画像が、直線偏光の励起光に平行な分析対象蛍光サンプル測定画像であり、偏光方位sの測定画像が、直線偏光の励起光に垂直な分析対象蛍光サンプル測定画像である。装置制御プログラム221は、測定画像を分析対象蛍光サンプル測定画像データベース232に格納する(S1803)。
【0119】
蛍光画像分析プログラム222は、実施形態1と同様に、
図8のフローチャートに従い、第1及び第2分析対象蛍光サンプル測定画像のための補正係数(第1補正係数及び第2補正係数)を算出する(S402)。
【0120】
蛍光画像分析プログラム222は、補正係数の算出方法(S402)に基づき、求めた補正係数を用いて、分析対象蛍光サンプル測定画像のそれぞれの画素(i,j)の光強度値を補正する(S703)。実施形態1において説明したように、バックグランド補正係数が合わせて使用されてもよい。
【0121】
本実施形態4でも、固定パターンノイズ画素群のx,y座標を、分析対象蛍光サンプルおよび基準蛍光サンプルの光強度計算から除外し、残りの画素から光強度計算を実施できる。
【0122】
[測定結果例]
以下において、実施形態4で説明した撮像装置を用いた測定による蛍光サンプルの測定結果例を示す。以下において、偏光ビームスプリッタの偏光方位:pであり、直線偏光の励起光に平行な測定画像の例を説明する。分析対象蛍光サンプルは、容器内に収容された液体材料(蛍光標識溶液)である。基準蛍光サンプルは、YAGセラミック片である。
【0123】
図39は、偏光ビームスプリッタの偏光方位:pであり、直線偏光の励起光に平行な方位の、補正前と、基準蛍光サンプル測定光強度に基づき、分析対象蛍光サンプル測定光強度を補正した後の、分析対象蛍光サンプルを全て同一濃度水準で、測定用マイクロ流路セルの5流路に充填して測定した光強度の、5流路平均値(MEAN)を示す。縦軸は5流路平均の光強度を示す。
図40は、偏光ビームスプリッタの偏光方位:pでの、補正前と補正後の、分析対象蛍光サンプルを全て同一濃度水準で、測定用マイクロ流路セルの5流路に充填して測定した光強度の、5流路での標準偏差(σ)を示す。縦軸は、5流路での標準偏差を示す。
【0124】
図41は、偏光ビームスプリッタの偏光方位:pでの、補正前と補正後の、分析対象蛍光サンプルを全て同一濃度水準で、測定用マイクロ流路セルの5流路に充填して測定した光強度の、5流路での光強度分散(σ/MEAN)を示す。縦軸は、5流路での光強度分散(σ/MEAN)を示す。
図41の補正前と補正後を比較すると、補正後は測定光強度の流離間の差(ばらつき)が小さくなっている。分析対象蛍光サンプルの測定光強度は面内で均一であるはずである。基準蛍光サンプル測定光強度に基づく補正により、分析対象蛍光サンプルのより正確な測定を行うことができることが分かる。なお、他の偏光方位である、偏光ビームスプリッタの偏光方位:sについても、補正は同様の効果を奏した。
【0125】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明が上記の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、上記の実施形態の各要素を、本発明の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0126】
1 蛍光偏光測定システム、10 蛍光偏光測定装置、20 蛍光偏光測定制御装置、30 DAコンバータ、101 光源、103 集光レンズ、105 アイリス、107 コリメータ、109 偏光板、110 偏光ビームスプリッタ、111 励起光フィルタ、113 ダイクロイックミラー、115 対物レンズ、117 ステージ、119 吸収フィルタ、121 液晶セル、123 結像レンズ、125 撮像装置、127 偏光カメラ、151 サンプル、201 プロセッサ、202 メモリ、203 補助記憶装置、204 出力装置、205 入力装置、221 装置制御プログラム、222 蛍光画像分析プログラム、231 基準蛍光サンプル測定画像データベース、232 分析対象蛍光サンプル測定画像データベース、420、421、422 測定期間、501 サンプル領域、600 セル、601 マイクロ流路、602 孔、611 ガラス基板、612 シリコン基板