(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】車両用表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20240603BHJP
【FI】
G02B27/01
(21)【出願番号】P 2020077022
(22)【出願日】2020-04-24
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081433
【氏名又は名称】鈴木 章夫
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 隆延
(72)【発明者】
【氏名】菅原 和弘
(72)【発明者】
【氏名】中野 優治
【審査官】小濱 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-095157(JP,A)
【文献】特開平11-133403(JP,A)
【文献】実開平03-109924(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/00-27/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像表示面に画像を表示するための複数の画素を備える画像表示部と、表示された画像の画像光を車両のウインドシールドに投射する光学系を備え、当該ウインドシールドで反射された光により前記画像の虚像を視認できるようにした車両用表示装置であって、
前記画像表示部は前記画像表示面に複数の画像を表示することが可能であり、
前記画像表示部は前記画像表示面に配設されたプリズムシートを備えており、
前記プリズムシートは、前記複数の画像を表示する複数の画像領域において、前記複数の画素に対向配置されて当該複数の画素から出射される画像光を偏向する複数のマイクロプリズムを備え、
前記複数のマイクロプリズムは、
同じ画像領域内にある複数のマイクロプリズムは画像光を所定の同一の角度で偏向し、異なる画像領域の複数のマイクロプリズムは画像光を前記所定の角度とは異なる同一の角度で偏向する構成とされ、
さらに、前記光学系の光軸から離れた画像領域に配設されたマイクロプリズムの偏向角は、当該光軸に近い画像領域に配設されたマイクロプリズムの偏向角よりも大きくなるように構成されていることを特徴とする車両用表示装置。
【請求項2】
前記光学系は、前記画像表示部から出射された前記画像光を前記ウインドシールドに向けて反射する凹面鏡を備える請求項1に記載の車両用表示装置。
【請求項3】
前記画像表示面の複数の画素はマトリクス状に行列配置されており、前記複数のマイクロプリズムは1列画素単位又は複数列画素単位で対向配置されている請求項
1に記載の車両用表示装置。
【請求項4】
前記画素は複数のサブ画素で構成されており、前記マイクロプリズムはサブ画素単位でそれぞれ対向配置されている請求項
1に記載の車両用表示装置。
【請求項5】
前記画素は複数のサブ画素で構成されており、前記マイクロプリズムは
、画素単位及びサブ画素単位で対向配置されており、前記光軸に近い画素に対向配置されるマイクロプリズムの偏向角は、
前記光軸から離れたサブ画素に対向配置されるマイクロプリズムの偏向角よりも小さくなるように構成されている請求項
1に記載の車両用表示装置。
【請求項6】
前記マイクロプリズムは前記画像光を屈折して出射する傾斜した出射面を備え、偏向角の大きなマイクロプリズムの出射面の傾斜角が、偏向角の小さいマイクロプリズムの出射面の傾斜角よりも大きく構成されている請求項
1ないし5のいずれかに記載の車両用表示装置。
【請求項7】
前記マイクロプリズムは、前記画像光を出射する出射面に光を発散または拡散する光学層を備える請求項
6に記載の車両用表示装置。
【請求項8】
前記複数のマイクロプリズムは同じプリズムシートに一体に形成されている請求項
1ないし7のいずれかに記載の車両用表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等の車両に装備される表示装置に関し、特にヘッドアップディスプレイ装置(以下、HUD装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
HUD装置として、自動車のフロントガラスに画像を構成する光を投射し、その反射光により運転者等の乗員が当該画像の虚像を視認できるようにしたものが提案されている。なお、以降において虚像を視認できるようにすることを、画像を表示するとも言う。また、1つのHUD装置で複数の画像を表示できるようにしたHUD装置も提案されている。例えば、特許文献1には、液晶ディスプレイ(以下、液晶装置)を含む画像表示部に表示された複数の画像の光(以下、画像光)を光学素子によりそれぞれ異なる方向に向けて出射させることにより、各画像をそれぞれ独立して表示する構成のHUD装置が提案されている。
【0003】
すなわち、特許文献1の技術は、画像表示部の表示面に導光体からなる光学素子を配設し、この光学素子から画像光を出射する出射面を傾斜させることにより、画像表示部の表示面から出射される画像光を屈折している。そして、複数の画像光についてそれぞれの屈折の角度、すなわち偏向する方向を相違させることにより、各画像を表示するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術は、光学素子を構成している導光体の出射面が画像に対応した1つの連続した傾斜面として形成されている。そのため、このような光学素子を用いて複数の画像を表示したときには、表示される各画像を奥行き方向に傾斜、シフトさせることができる。しかし、複数の画像光を作り出すプリズムの境界では、画像表示部から少なからず広がる画像光空間が制御できない光となり、虚像の品質を低下させる不具合が発生し易い。
【0006】
前記不具合は表示画像同士が近接する場合に特に発生し易い。しかし、表示する複数の画像の間隔を大きくしようとすると、大きな画像表示部が必要になり、コストアップにつながるばかりではなく、画像光を偏向する角度を大きくすることになり、これに伴って出射面の傾斜の角度も大きくなる。そのため、光学素子の光軸方向の寸法が大きくなって光学素子の厚み寸法が大きくなり、当該光学素子を備えた画像表示部の厚み寸法も大きくなる。
【0007】
本発明の目的は、複数の画像が傾斜されることなく表示するとともに、画像表示部を薄型に構成して小型化を実現した車両用表示装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、画像表示面に画像を表示するための複数の画素を備える画像表示部と、表示された画像の画像光を車両のウインドシールドに投射する光学系を備え、当該ウインドシールドで反射された光により画像の虚像を視認できるようにした車両用表示装置である。画像表示部は画像表示面に配設されたプリズムシートを備えており、このプリズムシートは、画像を構成する複数の画素に対向配置され、当該画素から出射される画像光を偏向する複数のマイクロプリズムを備えている。
【0009】
本発明において、光学系は、画像表示部から出射された画像光をウインドシールドに向けて反射する凹面鏡を備える。また、画像表示部は画像表示面に複数の画像を表示することが可能であり、マイクロプリズムは、同じ画像領域内にある複数のマイクロプリズムは画像光を所定の同一の角度で偏向し、異なる画像領域内の複数のマイクロプリズムは所定の角度とは異なる同一の角度で偏向する構成とする。さらに、光学系の光軸から離れた領域に配設されたマイクロプリズムの偏向角が、当該光軸に近い領域に配設されたマイクロプリズムの偏向角よりも大きくなるように構成される。
【0010】
本発明の好ましい形態として、画像表示面の複数の画素はマトリクス状に行列配置されており、複数のマイクロプリズムは1列画素単位又は複数列画素単位で対向配置される。あるいは、画像表示面の画素は複数のサブ画素で構成されており、マイクロプリズムはサブ画素単位でそれぞれ対向配置される。
【0011】
本発明においては、複数のマイクロプリズムは同じプリズムシートに一体に形成されていることが好ましい。また、マイクロプリズムには画像光を出射する出射面に光を発散または拡散する光学層を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、画像表示面に配設されたプリズムシートのマイクロプリズムにより複数の画素から出射される画像光をそれぞれ個別に偏向する構成とすることにより、ウインドシールドに投射する画像光の方向を制御し、表示する画像を制御することができる。これにより、複数の画像をそれぞれ好適な状態で表示するとともに、画像表示部の小型化を実現した車両用表示装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図9】画像表示部の実施形態2の概略構成の断面図。
【
図10】実施形態2の作用を説明する模式的な光路図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は自動車に適用したHUD装置の概念構成図である。自動車のダッシュボードDB内にHUD装置1が配設されており、当該HUD装置1から出射した画像光Lを、当該ダッシュボードの上面開口Hoを通して自動車のフロントガラス(ウインドシールドと称する)WSに投射させる。投射された画像光LはウインドシールドWSで反射されて自動車の運転者等の乗員Mに向けられる。この画像光Lが乗員Mの眼に入ることにより、当該乗員MはウインドシールドWSを透して自動車の前方位置に画像光による虚像Iを視認することができ、当該画像の表示が行われる。
【0015】
前記HUD装置1は、画像表示部2と、この画像表示部2に表示された画像をウインドシールドWSに投射する光学系3を備えている。画像表示部2は複数の画像、ここでは2つの画像を表示することが可能とされている。また、光学系3は画像表示部2で表示された2つの画像の画像光をそれぞれ異なる角度をもってウインドシールドWSに投射させるようになっている。これにより、ウインドシールドにおいて反射された複数の画像光Lが乗員Mの眼に入ることになり、乗員Mは複数の虚像Ia,Ibを視認することが可能になる。
【0016】
すなわち、画像表示部2に表示された2つの独立した画像の画像光La,Lbが、それぞれ水平方向に並んだ光路でウインドシールドWSに投射されており、これらの画像光La,Lbは光学系3の凸面鏡31と凹面鏡32、さらにウインドシールドWSで反射されることで様々な影響を受け、乗員Mの眼に入ることにより各画像の虚像Ia,Ibの位置や傾きを所望の状態で視認できるように構成されている。この例では、ウインドシールドWSを通して左側にスピードメータの虚像Iaが視認でき、右側に虚像Iaよりも奥の位置にナビゲーションの虚像Ibが視認できるように表示を行うようになっている。
【0017】
図2に前記HUD装置1を側面方向から見た模式図を示す。前記光学系3は画像表示部2で表示された画像の画像光Lを反射する第1反射部31と、この第1反射部31で反射された光を更に反射してウインドシールドWSに投射する第2反射部32を備えている。第1反射部31は凸面鏡で構成され、第2反射部32は凹面鏡で構成されている。ここでは凸面鏡31は反射面の曲率半径が異なる2つの凸面鏡31a,31bで構成されており、画像光Laは所定の曲率半径の凸面鏡31aで反射され、画像光Lbはそれよりも曲率半径の大きい凸面鏡31bで反射される。また、凸面鏡31a、凸面鏡31bの曲率が同じ場合でも、凸面鏡31aの方が凸面鏡31bよりも画像表示部2に近い位置に配置することで、虚像Ibを虚像Iaよりも奥の位置に表示してもよい。
【0018】
前記凹面鏡32は所要の焦点距離となる曲率の球面、非球面または自由曲面で構成されており、凸面鏡31により凹面鏡32での収差が改善され、かつ凹面鏡32の焦点距離が実質的に延長される。そして、画像表示部2において表示された画像が凹面鏡32の焦点距離内に配置されるようにHUD装置1を構成することにより、表示された画像の虚像Iを乗員Mが視認することができる。
【0019】
(実施形態1)
図3は実施形態1の画像表示部2の概略構成を示す分解斜視図であり、画像表示部2は、液晶装置21とプリズムシート22を備えている。液晶装置21は画像表示面23に所望の画像を表示することが可能であり、既存のものを用いることができる。また、この液晶装置21は、
図3では簡略図示しているが、画像表示面23が行列方向にマトリクス配置された多数の画素(ピクセル)24で構成されている。そして、この画像表示面23を行方向に2つの領域に区分し、一方のA領域23aにA画像Oaを表示し、他方のB領域23bにB画像Obを表示する構成とされている。ここで、A画像Oaは前記スピードメータ画像に対応し、B画像Obは前記ナビゲーション画像に対応する。
【0020】
また、前記液晶装置21は、各画素24がそれぞれRGBの3つのサブ画素(サブピクセル)25(25r,25g,25b)を備えるカラー液晶装置として構成されており、カラー画像の表示が可能とされている。これらのサブ画素25は、行方向に並んで配置されている。また、列方向に並んで配置されている複数の画素24については、それぞれのRGBの各サブ画素25(25r,25g,25b)と同じ配列とされている。なお、実際の画素24は極めて微小なサイズであり、その微小な画素24でA画像OaとB画像Obを表示しているが、
図3ではプリズムシート22との対応を説明するために大きなサイズで図示している。
【0021】
前記プリズムシート22は透光性があり屈折率をもった材料であり、限定はしないが樹脂のような転写性の良い材料で作られたシートで構成されており、多数の楔型(三角型)をしたマイクロプリズム26が平面上に配列かつ一体に形成されている。これらのマイクロプリズム26は、行方向に傾斜された出射面を備える2種類のそれぞれ複数のAマイクロプリズム26aとBマイクロプリズム26bで構成されている。これらAマイクロプリズム26aとBマイクロプリズム26bは、液晶装置21の画素24に対応して配設されている。ここでは行列配置された画素24の1列画素単位で配設されており、いわゆるレチキュラーレンズの構成とされている。また、Aマイクロプリズム26aとBマイクロプリズム26bの各出射面は、同じ傾斜角度であるが、傾斜方向については行方向に反対の方向に傾斜された傾斜面として構成されている。各マイクロプリズム26aと26bのそれぞれについて高さ寸法、すなわち厚み寸法は同じである。
【0022】
図4に画像表示部2の断面構成を示すように、前記プリズムシート22の裏面は平坦であり、この裏面において前記液晶装置21の画像表示面23に密接した状態で、かつ所定の位置関係をもって取り付けられている。すなわち、複数のAマイクロプリズム26aとBマイクロプリズム26bは、それぞれ液晶装置21の各列の画素24に対して位置決めされた状態で取り付けられている。したがって、A領域21aの画素群から出射される画像光LaはAマイクロプリズム26aにより中央に対し外側方向(
図4の左方向)に向けて屈折されて出射面から出射される。B領域21bの画素群から出射される画像光LbはBマイクロプリズム26bにより中央に対し外側方向(
図4の右方向)に向けて屈折されて出射面から出射される。但し、画像光Laと画像光Lbのマイクロプリズムから凸面に進むにつれて距離が離れる場合、一方の画像光だけが外側を向いてもよい。
【0023】
図5はHUD装置1における画像表示の形態を説明するための模式的な平面図である。画像表示部2においてA画像とB画像を表示すると、
図4に示したように、A画像Oaの画像光(以下、A画像光)LaはAマイクロプリズム26aにより光軸に対し左方向に偏向され、B画像Obの画像光(以下、B画像光)LbはBマイクロプリズム26bにより光軸に対して右方向に偏向される。なお、液晶表示面23の中心から垂直に出射された光が通る光路を光軸Lxとしている。
【0024】
それぞれ反対方向に偏向されたA画像光LaとB画像光Lbは凸面鏡31a,31bで反射され、次いで凹面鏡32で反射された後、ウインドシールドWSに投射される。したがって、これらの画像光La,LbがウインドシールドWSで反射されて乗員の眼に入ることにより、乗員はA画像OaとB画像Ob、ここではスピードメータ画像とナビゲーション画像の各虚像、すなわちA虚像IaとB虚像Ibをそれぞれ視認することができ、各画像の表示が行われる。このとき、B虚像IbはA虚像Iaよりも奥位置に表示される。
【0025】
従来、液晶装置21で構成された画像表示部2において、表示されるA画像OaとB画像Obの各画像光が近接された状態で画像表示面23に表示されると、A虚像IaとB虚像Ibも近接した状態で表示されることになり、両画像を分離して視認できなくなることがある。このHUD装置1では、液晶装置21の画像表示面23にプリズムシート22が配設されているので、このプリズムシート22により各画像Oa,Obの画像光La,Lbを偏向して所望の角度差をつけることができる。
【0026】
これにより、A虚像IaとB虚像Ibを所望の間隔をおいて視認できるようになり、好ましい表示が可能になる。この角度差はAマイクロプリズム26aやBマイクロプリズム26bの出射面の角度を調整することにより変化できる。したがって、乗員から見て任意の方向にA虚像IaとB虚像Ibを観察するように構成することができる。例えば、Aマイクロプリズム26aとBマイクロプリズム26bの出射面の角度を相違させることにより、A虚像IaとB虚像Ibのそれぞれの方向を個別に設定することもできる。
【0027】
マイクロプリズム26は、1つのプリズムシート22として構成されているので、液晶装置21の画像表示面23に取り付けられても、液晶装置21の厚み寸法、すなわち画像表示部2厚み寸法の増加はプリズムシート22の厚み寸法のみとなる。また、マイクロプリズム26は、1つが液晶装置21の1列の画素24に対応して形成されているので、行方向の寸法は極めて小さい。したがって画像光の偏向角度を大きくするためにマイクロプリズム26の出射面の傾斜角を大きくしても、各マイクロプリズム26における厚み寸法の増加は極めて小さくて済む。これにより、プリズムシート22の厚み寸法も小さくでき、画像表示部2の厚み寸法も顕著に大きくなることはなく、小型のHUD装置が構成される。
【0028】
さらに、Aマイクロプリズム26aとBマイクロプリズム26bからなるマイクロプリズム26はプリズムシート22として透光性樹脂等により一体成形により製造できるので、マイクロプリズム26を画素24ないしサブ画素25の寸法に製造することは容易である。しかもプリズムシート22を液晶装置21に対して位置決めすれば、マイクロプリズム26を対応する画素24に対して正確に位置決めすることができ、この点からも画像表示部2の製造は容易である。
【0029】
(変形例1)
図6は画像表示部2の変形例1の断面図である。実施形態1と等価な部分には同一符号を付してある。この変形例1は、プリズムシート22のマイクロプリズム26cは、1つが液晶装置21の2列の画素24の単位で配設されている。すなわち、1つのマイクロプリズム26cは2列の画素24に対向配置されており、1つのマイクロプリズム26cは対向する2列の画素24の画素光を偏向させる構成になっている。
【0030】
この変形例1においても前記実施形態1と同様にA画像とB画像の各虚像を所要の間隔をもって視認させることは可能である。また、2列の画素24毎に画像光を偏向させるので、特許文献1の技術に比較して視認される虚像の傾斜を抑制することができる。さらに、変形例1は、同じ規格の液晶装置に適用する場合には、プリズムシート22に形成するマイクロプリズム26cの数が低減できるので、プリズムシート22の製造が容易になる。その一方で、この変形例1はマイクロプリズム26cの出射面の傾斜角が大きくなるとマイクロプリズム26cの高さ寸法、すなわちプリズムシート22の厚み寸法も大きくなるので、画像光を偏向する角度が相対的に小さいHUD装置に適用する場合に好適である。
【0031】
(変形例2)
図7は画像表示部2の変形例2の断面図である。この変形例では、プリズムシート22は液晶装置21の1つの画素24を構成している3つのRGBの各サブ画素25(25r,25g,25b)に対応したマイクロプリズム26dが形成されている。すなわち、1つの画素24において、3つのサブ画素25r,25g,25bの画像光をそれぞれ独立してマイクロプリズム26dで偏向させる構成になっている。
【0032】
この変形例2においてもA画像とB画像の各虚像を所望の間隔を持って観察させることは可能である。また、サブ画素毎に画像光を偏向させるので、視認される虚像の傾斜を抑制することができる。さらに、変形例2は、マイクロプリズム26dの行方向の寸法がサブ画素25の寸法に対応して短くできるので、出射面の傾斜角が大きくされても、当該マイクロプリズム26dの高さ寸法、すなわちプリズムシート22の厚み寸法が大きくなることを抑制できる。したがって、A画像とB画像の各虚像の間隔寸法をより大きくすることが要求されるHUD装置に適用しても画像表示部2の厚み寸法の増加が防止できる。
【0033】
(変形例3)
図8は画像表示部の変形例3の断面図である。この変形例3は実施形態1のAマイクロプリズム26aとBマイクロプリズム26bの出射面に、出射される画像光を発散または拡散する光学層27が積層されている。あるいは、この光学層27は光を発散する凹レンズマイクロプリズムとして構成されてもよい。
【0034】
変形例3では、各マイクロプリズム26a,26bから出射される画像光は、光学層27において光束(光の束)が広げられる。そのため、各画素24においてRGBのサブ画素25の一部のみから画像光が出射された場合でも、1画素24、すなわち3つのサブ画素25r,25g,25bから画像光が出射された場合とほぼ等しい光束が得られ、均一な明るさの虚像が視認できるようになる。
【0035】
(変形例4)
図示は省略するが、変形例4として、プリズムシートの微細な加工や製造が可能であるのであれば、行列配置した画素の1つの画素毎に1つのマイクロプリズムが配設されてもよい。あるいは、全てのサブ画素毎に1つのマイクロプリズムが配設されてもよい。逆に、プリズムシートの微細な加工、製造が厳しい場合には、行方向及び/又は列方向に複数個をまとめた画素毎に1つのマイクロプリズムが配設されてもよい。
【0036】
(変形例5)
また、図示は省略するが、変形例5として、画像表示面を構成する全ての画素のうち、一部にのみ対向してマイクロプリズムが配設されてもよい。この場合には、他の画素の画像光は偏向させることなく画像表示面の垂直方向に出射されることになる。
【0037】
(変形例6)
さらに、図示は省略するが、変形例6として、液晶装置は画像表示面に3つの異なる画像を表示するように構成され、プリズムシートは傾斜角がそれぞれ異なるAマイクロプリズム、Bマイクロプリズム、Cマイクロプリズムのように、3つ異なるマイクロプリズムで構成されてもよい。例えば、AマイクロプリズムでA画像光を左方向に偏向し、BマイクロプリズムでB画像光を右方向に偏向し、CマイクロプリズムはC画像光を偏向しない構成とされる。このようにすることで、3つの異なる画像を水平方向に並んで表示させることができる。4つ以上の画像を表示するように構成されてもよい。
【0038】
(実施形態2)
ところで、本発明のような液晶装置21を用いるHUD装置では、液晶装置21の画像表示面23から出射される画像光は当該画像表示面23からほぼ垂直方向のおおよそ平行な光束として出射されることが求められる。このため、表示する画像におけるコントラストが低下されることがある。すなわち、液晶装置21の特性として、光が液晶装置21に斜め入射した場合、液晶装置21内の要素位置関係が適した関係から外れるため、光をほぼ遮光するとき、あるいは光をほぼ透光するときに漏光が発生する。この漏光が発生すると、液晶装置の表示できる白と黒の明るさ比、すなわちコントラストが低下する。
【0039】
実施形態1のHUD装置1においては、画像表示部2から出射された光は同一の表示領域であれば同じ方向に偏向しているが、小型で大きな虚像を表示するHUD装置では、画像表示面23の中心部では画像光は垂直で、端部の画像光では光軸Lxに対して外側に広がる画像光となる。そのため、端部では液晶を斜めに進んだ光で虚像が表示されることになり、前記した液晶特性からコントラストが低下する。
【0040】
実施形態2では、
図10に液晶装置21から出射される光の光路を模式的に示すように、液晶装置21の画像表示面23の中心を光軸Lxに設定した場合に、画像表示面23の中心部では画像光Lcは垂直である。この光軸Lxから離れた領域、すなわち画像表示面23の中心から離れた周辺領域から出射される画像光Lsの偏向を制御することにより前記したコントラストを改善している。すなわち、プリズムシートに形成されるマイクロプリズムについて、画像表示面23の周辺領域に対応するマイクロプリズムの出射面の傾斜角を、それよりも中央側のマイクロプリズムの出射面の傾斜角よりも相対的に大きくしている。
【0041】
図9(a)は実施形態2の画像表示部2の第1例の断面図である。この第1例では、実施形態1と同様に液晶装置の1列の画素24に対して1つのマイクロプリズム26を配設しているが、画像表示面23の光軸に近い領域のマイクロプリズム26dの出射面の傾斜角よりも、当該光軸から離れた領域マイクロプリズム26eの出射面の傾斜角を大きくしている。このようにすることにより、離れた領域のマイクロプリズム26eから出射される画像光の偏向角度が大きくなるが、液晶内を垂直に近い状態で進んだ光を利用するため、コントラストの低下が発生せず良質な表示を提供できる。
【0042】
実施形態2においては、
図9(b)の断面図のように、光軸に近い領域では1つの画素24に対応したマイクロプリズム26fが配設され、光軸から離れた領域ではサブ画素25(25r,25g,25b)に対応したマイクロプリズム26gが配設されるようにしてもよい。このようにすれば、
図9(a)に示した1画素に対して配設したマイクロプリズム26eのように傾斜角を大きくする場合に比較して、マイクロプリズム26gの高さ寸法が増加することが防止でき、プリズムシート22の厚み寸法が増加することが防止できる。
【0043】
以上説明した実施形態及び変形例では、複数の画像を水平方向に並べて表示する例を示したが、虚像を鉛直方向、すなわち上下方向に並べて表示する場合についても本発明を同様に適用することができる。この場合には、プリズムシートに形成するマイクロプリズムにより画像光を列方向に偏向するように構成すればよい。
【0044】
本発明において、画像表示部は画像光を出射する構成であればよいので、微細ミラーをマトリクス配置して光源の光を選択的に反射して画像光を出射するDMD装置を用いた光学系の中間像に構成されてもよい。あるいは、有機ELで構成されてもよい。また、光学系の第1反射部は凸面鏡に限られるものではなく、平面鏡であってもよい。さらには、HUD装置が自動車の他の装置と干渉する等の不具合が発生しない場合には、凹面鏡以外の光学部材を省略してもよい。また、光学系3のうち、少なくとも一つは2つ以上に分割され、複数の画像に対しそれぞれ専用の光学系として構成してもよい。
【0045】
本発明におけるウインドシールドは実施形態に記載の自動車のフロントガラスに限定されるものではなく、車両に備えられる透光性のあるウインド等の車体の一部であってもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 HUD装置
2 画像表示部
3 光学系
21 液晶装置
22 プリズムシート
23 画像表示面
24 画素
25(25r,25g,25b) サブ画素
26(26a,26b,26c,26d,26e,26f,26g) マイクロプリズム
27 光学層
31(31a,31b) 第1反射部(凸面鏡)
32 第2反射部(凹面鏡)
WS ウインドシールド
Oa,Ob 画像
I,Ia,Ib 虚像
L,La,Lb 画像光
Lx 光軸