IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 鹿島建設株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社日本触媒の特許一覧

<>
  • 特許-構造部材及び部材の構築工法 図1
  • 特許-構造部材及び部材の構築工法 図2
  • 特許-構造部材及び部材の構築工法 図3
  • 特許-構造部材及び部材の構築工法 図4
  • 特許-構造部材及び部材の構築工法 図5
  • 特許-構造部材及び部材の構築工法 図6
  • 特許-構造部材及び部材の構築工法 図7
  • 特許-構造部材及び部材の構築工法 図8
  • 特許-構造部材及び部材の構築工法 図9
  • 特許-構造部材及び部材の構築工法 図10
  • 特許-構造部材及び部材の構築工法 図11
  • 特許-構造部材及び部材の構築工法 図12
  • 特許-構造部材及び部材の構築工法 図13
  • 特許-構造部材及び部材の構築工法 図14
  • 特許-構造部材及び部材の構築工法 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】構造部材及び部材の構築工法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20240603BHJP
   C04B 24/24 20060101ALI20240603BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20240603BHJP
   C04B 24/32 20060101ALI20240603BHJP
   E02B 5/02 20060101ALI20240603BHJP
   E04B 5/43 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/24 B
C04B22/06 Z
C04B24/32 A
E02B5/02 G
E04B5/43 J
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020109728
(22)【出願日】2020-06-25
(65)【公開番号】P2022007050
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】向 俊成
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 有寿
(72)【発明者】
【氏名】森本 正和
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-088633(JP,A)
【文献】特開平02-107544(JP,A)
【文献】特開2011-057555(JP,A)
【文献】特開2005-082416(JP,A)
【文献】特開平03-141145(JP,A)
【文献】特開2019-173473(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0112517(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
C04B 40/02
E02B 5/02
E04B 5/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材表面の少なくとも一部の表層部に、ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層を有し、
前記ポリマーセメントに用いるポリマーは、ポリマーの原料となる全モノマー成分100質量%に対して、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーの割合が0.6~12質量%であり、炭素数4~30の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合が50質量%以上であり、ガラス転移温度が35~100℃であり、
前記ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層は、膨張材及び/又は収縮低減剤を含み、前記層中のポリマーが液体又はゴム状態の、若しくは、液体又はゴム状態を経てガラス状態となった加熱処理物であることを特徴とする構造部材。
【請求項2】
前記膨張材は、酸化カルシウムを含むことを特徴とする請求項1に記載の構造部材。
【請求項3】
前記収縮低減剤は、(ポリ)アルキレングリコール構造含有化合物を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の構造部材。
【請求項4】
部材表面の少なくとも一部の表層部に、ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層を有し、
前記ポリマーセメントに用いるポリマーは、25℃におけるイオン交換水100gへの溶解量が1g未満である疎水性単量体由来の構造単位を有するものであり、ポリマーの原料となる全モノマー成分100質量%に対して、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーの割合が0.6~12質量%であり、炭素数4~30の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合が50質量%以上であり、ガラス転移温度が35~100℃であり、
前記ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層は、前記層中のポリマーが液体又はゴム状態の、若しくは、液体又はゴム状態を経てガラス状態となった加熱処理物であることを特徴とする構造部材。
【請求項5】
前記疎水性単量体は、環構造を有することを特徴とする請求項に記載の構造部材。
【請求項6】
部材の一部をポリマーセメントを含む材料で構築する部材の構築方法であって、
該構築方法は、部材にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設する工程と、該打設工程後の部材をポリマーセメントに用いられるポリマーのガラス転移温度以上の温度であって、かつ40~100℃の温度で加熱する加熱工程とを含み、
該ポリマーセメントは、膨張材及び/又は収縮低減剤を含み、
該ポリマーセメントに用いられるポリマーは、ポリマーの原料となる全モノマー成分100質量%に対して、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーの割合が0.6~12質量%であり、炭素数4~30の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合が50質量%以上であり、ガラス転移温度が35~100℃であることを特徴とする部材の構築工法。
【請求項7】
前記膨張材は、酸化カルシウムを含むことを特徴とする請求項に記載の部材の構築工法。
【請求項8】
前記収縮低減剤は、(ポリ)アルキレングリコール構造含有化合物を含むことを特徴とする請求項又はに記載の部材の構築工法。
【請求項9】
部材の一部をポリマーセメントを含む材料で構築する部材の構築方法であって、
該構築方法は、部材にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設する工程と、該打設工程後の部材をポリマーセメントに用いられるポリマーのガラス転移温度以上の温度であって、かつ40~100℃の温度で加熱する加熱工程とを含み、
該ポリマーセメントに用いられるポリマーは25℃におけるイオン交換水100gへの溶解量が1g未満である疎水性単量体由来の構造単位を有し、ポリマーの原料となる全モノマー成分100質量%に対して、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーの割合が0.6~12質量%であり、炭素数4~30の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合が50質量%以上であり、ガラス転移温度が35~100℃であることを特徴とする部材の構築工法。
【請求項10】
前記疎水性単量体は、環構造を有することを特徴とする請求項に記載の部材の構築工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造部材及び部材の構築工法に関する。より詳しくは、建築、土木構造物の建設の際に使用することができる構造部材及び部材の構築工法に関する。
【背景技術】
【0002】
形状を自由に設計することができ、耐久性が高いコンクリートは、土木、建築の分野で欠くことのできない材料であり、様々な構造物の材料として幅広く使用されている。
コンクリート構造物には、更なる強度向上の要求や、建設から年数の経過したコンクリート構造物のうち、かぶり部と称される最も劣化しやすい表層断面を補修する方法や、かぶり部を強化させるといった方法への要求があり、従来様々な方法が検討されている。従来のコンクリート構造物のかぶり部の引張強度を高める方法として、短繊維とコンクリートとを含む高強度繊維補強コンクリートが知られている(特許文献1、2参照)。また、コンクリート構造物の補修方法として、所定のガラス転移温度のポリマーを用いたポリマーセメントモルタルでコンクリート構造物を補修する方法や、表層が劣化した用水路の表層コンクリートをハツリ除去した後、特定のポリマーセメントモルタルを塗布し補修材層を形成する方法、コンクリート構造物の表面を特殊な非水硬性化合物を含有する断面修復材で修復し、断面修復材が硬化した後に表面を炭酸化処理する方法等が知られている(特許文献3~5参照)。
【0003】
農業用水路やダム等においては、物理的な劣化対策(断面減少対策)としてすり減り抵抗性の高い材料が求められる。ダムについては、ダム堤体の耐摩耗性を高める工法として、高強度コンクリートを打設する工法が知られている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-110399号公報
【文献】特開2018-91063号公報
【文献】特開2006-124232号公報
【文献】特開2011-148695号公報
【文献】特開2007-22878号公報
【文献】特開2002-69981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のとおり、コンクリート構造物やその構築方法として従来種々の技術が開発されている。しかしながら、従来のコンクリート構造物は、曲げ強度といったじん性が充分ではなく、改善の余地があった。本発明者は、コンクリート構造物の曲げ強度を高めるために、ポリマーセメントを用いて加熱養生を行うことを検討したが、曲げ強度を向上させることができる一方で、初期材齢時にコンクリートの収縮歪みが大きくなるという新たな課題を見出した。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、曲げ強度が高く、かつ、初期材齢時の歪みを抑制することができる構造部材及び部材の構築工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、構造部材の歪みを抑制する方法について種々検討したところ、部材の一部をポリマーセメントを含む材料で構築する方法において、ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層に、膨張材及び/又は収縮低減剤を用いる、又は、特定のポリマーを用いることにより、構造部材の曲げ強度を高め、かつ、初期材齢時の歪みを抑制することができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち第1の本発明は、部材表面の少なくとも一部の表層部に、ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層を有し、前記ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層は、膨張材及び/又は収縮低減剤を含み、前記層中のポリマーが液体又はゴム状態の、若しくは、液体又はゴム状態を経てガラス状態となった加熱処理物である構造部材である。
【0009】
前記膨張材は、酸化カルシウムを含むことが好ましい。
【0010】
前記膨張材の含有割合がセメント100質量%に対して、0.1~30質量%であることが好ましい。
【0011】
前記収縮低減剤は、(ポリ)アルキレングリコール構造含有化合物を含むことが好ましい。
【0012】
前記収縮低減剤の含有割合がセメント100質量%に対して、0.1~10質量%であることが好ましい。
【0013】
第2の本発明はまた、部材表面の少なくとも一部の表層部に、ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層を有し、前記ポリマーセメントに用いるポリマーは、疎水性単量体由来の構造単位を有するものであり、上記疎水性単量体は、25℃におけるイオン交換水100gへの溶解量が1g未満であり、前記ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層は、前記層中のポリマーが液体又はゴム状態の、若しくは、液体又はゴム状態を経てガラス状態となった加熱処理物である構造部材である。
【0014】
前記ポリマーにおける疎水性単量体由来の構造単位の割合は、全構造単位100質量%に対して、10~70質量%であることが好ましい。
【0015】
前記疎水性単量体は、単独重合体のガラス転移温度が50℃以上であることが好ましい。
【0016】
前記疎水性単量体は、環構造を有することが好ましい。
【0017】
前記ポリマーは、ガラス転移温度が35~100℃であることが好ましい。
【0018】
第3の本発明はまた、部材の一部をポリマーセメントを含む材料で構築する部材の構築方法であって、該構築方法は、部材にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設する工程と、該打設工程後の部材をポリマーセメントに用いられるポリマーのガラス転移温度以上の温度であって、かつ40~100℃の温度で加熱する加熱工程とを含み、前記ポリマーセメントは、膨張材及び/又は収縮低減剤を含む部材の構築工法である。
【0019】
前記膨張材は、酸化カルシウムを含むことが好ましい。
【0020】
前記膨張材の使用量がセメント100質量%に対して、0.1~30質量%であることが好ましい。
【0021】
前記収縮低減剤は、(ポリ)アルキレングリコール含有化合物を含むことが好ましい。
【0022】
前記収縮低減剤の使用量がセメント100質量%に対して、0.1~10質量%であることが好ましい。
【0023】
第4の本発明はまた、部材の一部をポリマーセメントを含む材料で構築する部材の構築方法であって、該構築方法は、部材にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設する工程と、該打設工程後の部材をポリマーセメントに用いられるポリマーのガラス転移温度以上の温度であって、かつ40~100℃の温度で加熱する加熱工程とを含み、該ポリマーセメントに用いられるポリマーは、25℃におけるイオン交換水100gへの溶解量が1g未満である疎水性単量体由来の構造単位を有する部材の構築工法である。
【0024】
前記ポリマーにおける疎水性単量体由来の構造単位の割合は、全構造単位100質量%に対して、10~70質量%であることが好ましい。
【0025】
前記疎水性単量体は、単独重合体のガラス転移温度が50℃以上であることが好ましい。
【0026】
前記疎水性単量体は、環構造を有することが好ましい。
【0027】
前記ポリマーセメントに用いるポリマーは、ガラス転移温度が35~100℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明の構造部材及び部材の構築工法は、上述の構成よりなり、構造部材における曲げ強度を向上させ、かつ、初期材齢時の歪みを抑制することができるため、様々なコンクリート構造物の構築に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の構造部材の実施形態の一例である第1の実施形態を示した図である。
図2】本発明の部材の構築工法の第1の工法の実施形態の一例を示した図である。
図3】本発明の部材の構築工法の第1の工法の実施形態の一例を示した図である。
図4】本発明の構造部材の実施形態の一例である第2の実施形態を示した図である。
図5】本発明の第1の工法の実施形態の一例を示した図である。
図6】本発明の第1の工法の実施形態の一例を示した図である。
図7】本発明の構造部材の実施形態の一例である第3の実施形態を示した図である。
図8】本発明の部材の構築工法の第2の工法の実施形態の一例を示した図である。
図9】本発明の部材の構築工法の第2の工法の実施形態の一例を示した図である。
図10】本発明の構造部材の実施形態の一例である第4の実施形態を示した図である。
図11】本発明の部材の構築工法の第3の工法の実施形態の一例を示した図である。
図12】本発明の部材の構築工法の第3の工法の実施形態の一例を示した図である。
図13】本発明の構造部材の実施形態の一例である第5の実施形態を示した図である。
図14】本発明の部材の構築工法の第3の工法の実施形態の一例を示した図である。
図15】本発明の部材の構築工法の第3の工法の実施形態の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明を詳述する。本明細書中において単に「本発明」という場合には第1~4の本発明に共通する事項を意味するものとする。また、「本発明の構造部材」という場合には第1及び第2の本発明に共通する事項を意味するものとする。「本発明の部材の構築工法」という場合には第3及び第4の本発明に共通する事項を意味するものとする。
本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態に該当する。
【0031】
本発明の構造部材及び本発明の部材の構築工法は、ポリマーセメントモルタル/ポリマーセメントコンクリートを用いることを1つの特徴とする。ポリマーセメントモルタル/コンクリートは、特殊な設備を使用せずとも現場で打設できる。本発明の構造部材及び本発明の部材の構築工法では、高い強度が求められる部材表面の表層部をポリマーセメントモルタル/コンクリートで形成し、その他の部材内部等を通常のコンクリートで形成することで更なる低コスト化を実現することができる。
【0032】
本発明の構造部材は、部材表面の少なくとも一部の表層部に、ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層を有するものである。
以下においては、本発明の構造部材のポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層によって構成される表層部について説明し、その後に表層部以外の部分の構造を説明する。その後、本発明の構造部材の実施形態について、本発明の部材の構築方法とともに説明する。
【0033】
1.ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層によって構成される表層部
本発明の構造部材は、ポリマーが液体又はゴム状態の、若しくは、液体又はゴム状態を経てガラス状態となった加熱処理物であるポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層を部材表面の少なくとも一部の表層部に有するものであればよく、ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層の位置や大きさ等は特に制限されず、構造部材の形状等も特に制限されない。
ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層によって構成される表層部は、鉄筋コンクリート構造の鉄筋のかぶり部の少なくとも一部を構成することがより好ましい。このような構造であると表層部が内部に鉄筋を有することになり、構造部材が更に強度に優れたものとなる。
【0034】
第1の本発明において、ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層は、膨張材及び/又は収縮低減剤を含むものであり、第2の本発明において、ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層におけるポリマーは、25℃におけるイオン交換水100gへの溶解量が1g未満である疎水性単量体由来の構造単位を有するものであることを特徴とする。これらの少なくともいずれか一方の特徴を有することにより、構造部材における曲げ強度を向上させ、かつ、初期材齢時における歪みを抑制することができる。また、これにより、引張強度も向上させることができる。第1の本発明の構造部材は膨張材及び/又は収縮低減剤を含み、第2の本発明の構造部材は上記疎水性単量体由来の構造単位を有するポリマーを含むことを必須の特徴とするものであるが、これ以外について、第1及び第2の本発明の構造部材は共通する。また、第1の本発明の構造部材が上記疎水性単量体由来の構造単位を有するポリマーを含んでいてもよく、第2の本発明の構造部材が膨張材及び/又は収縮低減剤を含んでいてもよい。
【0035】
<膨張材及び/又は収縮低減剤>
第1の本発明において、ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層は、膨張材及び/又は収縮低減剤を含むものである。
【0036】
上記膨張剤は、コンクリートに収縮と同程度の膨張を生じさせることによって、乾燥収縮ひび割れ等を防止することを目的として使用されるものであって、水とともに練り混ぜた場合、水和反応によってエトリンガイト(3CaO・Al3・3CaSO・32HO)又は水酸化カルシウム(Ca(OH))の結晶を生成してその結晶成長あるいは生成量の増大によりモルタル又はコンクリートを膨張させる作用を有する混和材である。
膨張材としては特に制限されず通常用いられるものが挙げられ、具体的には、酸化カルシウムを含む石灰系、石膏系、カルシウムスルホアルミネート系等が挙げられる。好ましくは石灰系である。これにより、構造部材の初期材齢時における歪みをより充分に抑制することができる。石灰系膨張剤として具体的には生石灰、生石灰-石膏混合系、仮焼ドロマイト等が挙げられる。好ましくは生石灰である。
【0037】
上記膨張剤における酸化カルシウムの割合としては特に制限されないが、膨張剤100質量%に対して10~100質量%であることが好ましい。より好ましくは25~100質量%であり、更に好ましくは40~100質量%である。
尚、酸化カルシウムの量とは、膨張剤中の未反応の遊離酸化カルシウムの量であり、通常f-CaO(フリーライム)で表される。
【0038】
上記収縮低減剤は、コンクリートの乾燥に伴う収縮を防止して、ひび割れの発生を抑制する混和剤である。収縮低減剤としては特に制限されないが、硬化体中の水の表面張力を低下させる作用を有する有機系界面活性剤が挙げられる。好ましくは(ポリ)アルキレングリコール構造を有する化合物である。
【0039】
上記(ポリ)アルキレングリコール構造含有化合物としては特に制限されないが、炭素数1~8の低級アルコールのアルキレンオキシド付加物;ポリエーテル類、グリコールエーテル類等が挙げられる。
上記(ポリ)アルキレングリコール構造含有化合物として好ましくは下記式(1);
-(OA)n-O-R(1)
(式中、R、Rは、同一又は異なって、水素原子又は炭素原子数1~8の炭化水素基を表す。OAは、同一又は異なって、炭素数2~18のオキシアルキレン基を表す。nは、OAの平均付加モル数を表し、0~40の数である。)で表される構造が好ましい。
【0040】
上記R、Rは、少なくとも一方が炭素数1~8の炭化水素基であることが好ましい。より好ましくはR、Rの一方が炭素数1~6の炭化水素基であることが好ましい。
上記炭化水素基の炭素数として好ましくは1~8であり、より好ましくは1~6であり、更に好ましくは1~4である。
上記炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、イソオクチル基、2,3,5-トリメチルヘキシル基、4-エチル-5-メチルオクチル基及び2-エチルヘキシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、イコシル基等の直鎖または分岐鎖のアルキル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びシクロオクチル等の環状のアルキル基;フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、o-,m-若しくはp-トリル基、2,3-若しくは2,4-キシリル基、メシチル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニリル基、ベンズヒドリル基、トリチル基及びピレニル基等のアリール基などが挙げられる。これらの中でも、直鎖状、又は分岐のアルキル基が好ましい。
【0041】
上記収縮低減剤は、(ポリ)アルキレングリコール構造含有化合物とこれ以外のその他の化合物を含むものであってもよく、その他の化合物としては炭化水素系化合物が挙げられる。炭化水素系化合物としては炭化水素基を有するものであれば特に制限されないが、パラフィン、オレフィン、アルキン、シクロパラフィン、シクロオレフィン、芳香族等を主成分とする化合物が挙げられる。
【0042】
上記炭化水素系化合物として好ましくは平均分子量が150~600であり、流動点が20℃以下の化合物であり、このような化合物としては、流動点が20℃以下の石油の蒸留における灯油留分(沸点170~250℃)、軽油留分、重質軽油留分、潤滑油留分(沸点350~550℃)の各留分、更に精密蒸留あるいは抽出や化学処理などの精製により得られる鉱油系炭化水素が挙げられる。
【0043】
上記鉱油系炭化水素としてはパラフィン系、ナフテン系、芳香族系等が挙げられる。
パラフィン系の鉱油系炭化水素は、一般に、環分析(n-d-M法)によるカーボン比率で、パラフィン炭素数(%CP)が50以上である炭化水素である。
ナフテン系の鉱油系炭化水素は、一般に、ナフテン炭素数(%CN)が30~45である炭化水素である。芳香族系の鉱油系炭化水素は、一般に、芳香族炭素数(%CA)が35以上である芳香族系である。
上記鉱油系炭化水素は、スピンドル油、シリンダー油、流動パラフィン油、マシン油、タービン油等の分類名称で呼ばれるものもあるが、本発明においてはこれらのいずれも用いることができる。
【0044】
上記炭化水素系化合物は、上記鉱油系炭化水素以外の炭化水素系化合物を含んでいてもよく、例えば人工的に化学的手段などにより合成された炭化水素、天然物より抽出精製された炭化水素等が挙げられる。具体的には、ポリ-α-オレフィン、ポリイソブチレン(ポリブテン)等である。
上記ポリ-α-オレフィンとしては、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン等をポリマー化又はオリゴマー化したもの若しくはこれらを水素化したもの等が挙げられる。
【0045】
上記収縮低減剤が、(ポリ)アルキレングリコール構造含有化合物と炭化水素系化合物とを含む形態は本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0046】
上記構造部材において上記ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層は、膨張材及び収縮低減剤の少なくともいずれかを含むものであるが、これらを併用してもよい。膨張材及び収縮低減剤を併用する形態は本発明の好ましい実施形態の1つである。
上記ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層における膨張材及び収縮低減剤の合計の割合はセメント100質量%に対して、0.1~40質量%であることが好ましい。より好ましくは0.2~20質量%であり、更に好ましくは0.5~10質量%である。
【0047】
上記ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層が膨張材を含む場合、その割合はセメント100質量%に対して、0.1~30質量%であることが好ましい。より好ましくは0.3~20質量%であり、更に好ましくは0.5~15質量%であり、一層好ましくは0.5~10質量%であり、更に一層好ましくは0.5~8質量%であり、特に好ましくは0.5~5質量%である。
【0048】
上記ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層が収縮低減剤を含む場合、その割合はセメント100質量%に対して、0.1~10質量%であることが好ましい。より好ましくは0.3~8質量%であり、更に好ましくは0.5~5質量%である。
【0049】
<第1の本発明におけるポリマー>
第1の本発明は、部材表面の少なくとも一部の表層部に、ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層を有し、上記層中のポリマーが液体又はゴム状態の、若しくは、液体又はゴム状態を経てガラス状態となった加熱処理物である構造部材である。
上記ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層中に膨張材及び/又は収縮低減剤とともに上記のような加熱処理物を用いることで、構造部材を曲げ強度に優れるものとすることができる。更にこの加熱処理物を用いることで、高いすり減り抵抗性や高い凍結融解抵抗性を発揮することができる。上記ポリマーとしてより好ましくは、液体又はゴム状態を経てガラス状態となった加熱処理物である。
【0050】
上記ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層中のポリマーを液体又はゴム状態の、若しくは、液体又はゴム状態を経てガラス状態となった加熱処理物とするための加熱温度は、ポリマーが液体又はゴム状態となる温度、すなわち、ポリマーのガラス転移温度以上の温度であればよいが、該加熱処理物は、50~100℃の温度での加熱処理物であることが好ましい。このような温度で加熱処理されたものは、十分な加熱処理が行われたものであり、このような加熱処理物を含む構造部材は、上記特性により優れたものとなる。加熱処理物としては、より好ましくは、60~100℃で加熱処理されたものであり、更に好ましくは、60~70℃で加熱処理されたものである。また、加熱処理後、部材を気中もしくは乾燥養生をさせることが望ましい。ここで、気中養生とは、水分を与えないで空気中にさらしている状態で養生する養生方法であり、乾燥養生とは、気中養生のうち温度履歴等を与えて積極的に乾燥させる工程を含む養生方法をいう。
上記加熱処理物は、外温30℃においてガラス状態となっているものであることが好ましい。より好ましくは屋外設置時点(養生終了時点)でガラス状態となっているものである。
【0051】
第1の本発明においてポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層中のポリマー(以下、ポリマー(1)ともいう。)は、液体又はゴム状態の、若しくは、液体又はゴム状態を経てガラス状態となった加熱処理物であれば特に制限されないが、ガラス転移温度(Tg)が35~100℃であるものが好ましい。このようなTgのポリマーを用いると、ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートが、より強度が高く、かつ、すり減り抵抗性にも優れたものとなる。ポリマーのTgはより好ましくは、35~90℃であり、更に好ましくは、35~70℃であり、特に好ましくは、35~60℃であり、最も好ましくは、35~50℃である。
なお、ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、ポリマーの原料となる単量体成分の種類や使用割合によって制御することができ、次のFOXの式(2)により求められる他、DSC(示差走査熱量測定装置)やDTA(示差熱分析装置)によって求めることができる。
【0052】
【数1】
【0053】
式中、Tg’は、共重合体エマルション粒子のTg(絶対温度)である。W1’、W2’、・・・Wn’は、全単量体成分に対する各単量体の質量分率である。Tg1、Tg2、・・・Tgnは、各単量体成分からなるホモポリマー(単独重合体)のガラス転移温度(絶対温度)である。上記計算に用いるホモポリマーのガラス転移温度は、文献に記載されている値を用いることができ、例えば、「POLYMER HANDBOOK 第3版」(John Wiley & Sons, Inc.発行)などに記載されている。
【0054】
上記ポリマー(1)は、酸価が5~100であることが好ましい。酸価が100以下であると、ポリマーが適度な粘度を有するものとなり、製造もしやすくなる。ポリマーの酸価は、より好ましくは、5~50であり、更に好ましくは、5~25であり、特に好ましくは、10~20である。
【0055】
上記ポリマー(1)としては、エマルション形態のものが好ましい。セメントとの混練時の分散されやすさや、構造部材の耐湿性の観点からもエマルション形態であることが好ましい。ポリマーエマルションは、ポリマーを1種含むものであってもよく、2種以上含むものであってもよい。以下、ポリマー(1)のエマルション形態をポリマーエマルション(1)ともいう。上記ポリマーエマルション(1)は、カルボン酸(塩)基をもつモノマー単位を有するポリマーを含むことが好ましい。上記カルボン酸(塩)基とは、カルボン酸基及び/又はカルボン酸塩基を意味する。
上記カルボン酸塩基の塩としては、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等が好ましいものとして挙げられる。金属塩を形成する金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等の1価の金属原子;カルシウム、マグネシウム等の2価の金属原子;アルミニウム、鉄等の3価の金属原子がより好ましい。また、有機アミン塩としては、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩や、トリエチルアミン塩等のアルキルアミン塩がより好ましい。
【0056】
上記カルボン酸(塩)基をもつモノマーとしては、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーが好ましい。上記(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーとは、アクリロイル基若しくはメタクリロイル基、又は、これらの基における水素原子が他の原子若しくは原子団に置き換わった基の少なくとも1つの基を有し、かつ、該基中のカルボニル基を含んで構成されるカルボン酸基(-COOH基)、その塩又はその酸無水物基(-C(=O)-O-C(=O)-基)を有するモノマーである。
上記(メタ)アクリル酸系モノマー(酸基含有モノマー)の塩としては、上記カルボン酸塩基の塩と同様のものを挙げることができる。
上記(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーは、(メタ)アクリル酸又はその塩であることが好ましい。
【0057】
上記ポリマーエマルション(1)は、(メタ)アクリル系ポリマーを含むことが好ましい。該(メタ)アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー由来の構造単位を含むことが好ましい。(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマーとは、(メタ)アクリル酸のカルボン酸基がエステルとなった構造を有するモノマー又はそのようなモノマーの誘導体を言う。前記エステルにアルキル基を有してもよく(アルキルエステル部)、該アルキルエステル部に官能基(水酸基、アミノ基、グリシジル基等)を含んでもよい。(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマーには、アクリロイル基若しくはメタクリロイル基が一つ以上含まれてもよい。
【0058】
上記(メタ)アクリル系ポリマーを得るためのモノマー成分は、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーと(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマーとを含み、それ以外に、その他の共重合可能な不飽和結合含有モノマーを含んでもよい。したがって、上記(メタ)アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー由来の構造単位、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー由来の構造単位とを含み、それ以外に、その他の共重合可能な不飽和結合含有モノマー由来の構造単位を含んでもよい。
(メタ)アクリル系ポリマーを得るためのモノマー成分が(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーを含むことにより、得られるポリマーエマルションのセメント分散性が向上する。また、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマーや、その他の共重合可能な不飽和結合含有モノマーを含むことにより、重合体の酸価、ガラス転移温度(Tg)等を調整しやすくなる。上記不飽和結合含有モノマーの不飽和結合は、炭素-炭素二重結合であることが好ましい。
【0059】
上記(メタ)アクリル系ポリマーは、例えば、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー0.6~12質量%、並びに、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー及びその他の共重合可能な不飽和結合含有モノマー88~99.4質量%から構成されるモノマー成分を共重合して得られるものであることが好ましい。上記モノマー成分において、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーが0.8質量%以上、並びに、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー及びその他の共重合可能な不飽和結合含有モノマーが99.2質量%以下であることがより好ましく、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーが1.0質量%以上、並びに、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー及びその他の共重合可能な不飽和結合含有モノマーが99.0質量%以下であることが更に好ましく、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーが1.2質量%以上、並びに、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー及びその他の共重合可能な不飽和結合含有モノマーが98.8質量%以下であることが特に好ましい。また、上記モノマー成分において、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーが6質量%以下、並びに、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー及びその他の共重合可能な不飽和結合含有モノマーが94質量%以上であることがより好ましく、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマーが3質量%以下、並びに、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー及びその他の共重合可能な不飽和結合含有モノマーが97質量%以上であることが更に好ましい。このような範囲内とすることにより、モノマー成分が安定に共重合する。
【0060】
上記(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、tert-ブチルアクリレート、tert-ブチルメタクリレート、ペンチルアクリレート、ペンチルメタクリレート、イソアミルアクリレート、イソアミルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、オクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、イソオクチルアクリレート、イソオクチルメタクリレート、ノニルアクリレート、ノニルメタクリレート、イソノニルアクリレート、イソノニルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルアクリレート、ドデシルメタクリレート、トリデシルアクリレート、トリデシルメタクリレート、ヘキサデシルアクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、オクタデシルアクリレート、オクタデシルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート等の炭素数4~30の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等の炭素数4~30の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することが好適である。
【0061】
上記(メタ)アクリル系ポリマーの原料となるモノマー成分は、上記(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマーを、全モノマー成分100質量%に対して、20質量%以上含有することが好ましく、40質量%以上含有することがより好ましく、60質量%以上含有することが更に好ましい。また、上記(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマーを、全モノマー成分100質量%に対して、99.9質量%以下含有することが好ましく、99.5質量%以下含有することがより好ましい。
【0062】
上記モノマー成分が含む(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマーは、炭素数4~30の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とすることが好ましい。より好ましくは、(メタ)アクリル系ポリマーの原料となる全モノマー成分100質量%に対して、炭素数4~30の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを50質量%以上含むことであり、更に好ましくは、70質量%以上含むことである。
【0063】
上記(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー、及び、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー以外の、その他の共重合可能な不飽和結合含有モノマーとしては、芳香環及び共重合可能な不飽和結合を含有するモノマー(以下、芳香族ビニル系単量体ともいう)等が挙げられる。
【0064】
上記芳香族ビニル系単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン等が挙げられ、好ましくはスチレンである。このように、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー、及び、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー以外の、その他の共重合可能な不飽和結合含有モノマーの種類、及び配合量を適宜選択して用いることで、比較的容易にポリマー性状を制御することが可能となる。
【0065】
上記(メタ)アクリル系ポリマーの原料となるモノマー成分が、上記芳香族ビニル系単量体を含む場合は、全モノマー成分100質量%中、1質量%以上含むことが好ましく、5質量%以上含むことがより好ましく、10質量%以上含むことが更に好ましく、20質量%以上含むことが一層好ましく、40質量%以上含むことが特に好ましい。また、該モノマー成分は、該芳香族ビニル系単量体を、全モノマー成分100質量%中、80質量%以下含むことが好ましく、70質量%以下含むことがより好ましく、60質量%以下含むことが更に好ましい。なお、上記(メタ)アクリル系ポリマーの原料となるモノマー成分として、芳香族ビニル系単量体を用いなくてもよい。
【0066】
上記以外のその他の共重合可能な不飽和結合含有モノマーとして例えば、クロトン酸、チグリン酸、3-メチルクロトン酸、2-メチル-2-ペンテン酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、フマル酸やその塩等の(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の酸(塩)系モノマー;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の炭素数3~10の脂肪酸ビニルエステル;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、アクリロニトリル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル等の多官能化合物等;メタクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド等の窒素原子含有モノマーが挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0067】
上記(メタ)アクリル系ポリマーの原料となるモノマー成分が、上記(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の酸(塩)系モノマーを含む場合は、全モノマー成分100質量%中、0.1~5質量%含むことが好ましい。より好ましくは、0.3~4質量%含むことであり、更に好ましくは、0.5~3質量%含むことである。
上記(メタ)アクリル系ポリマーの原料となるモノマー成分が、(メタ)アクリル酸(塩)系モノマー以外の酸(塩)系モノマーを除く、それ以外の上記その他の共重合可能な不飽和結合含有モノマーを含む場合、全モノマー成分100質量%中、1.1~12質量%含むことが好ましい。より好ましくは、1.3~10質量%含むことであり、更に好ましくは、1.5~8.0質量%含むことである。
【0068】
上記ポリマーエマルション(1)は、エマルションを形成する溶媒として水系溶媒を含むことが好ましい。水系溶媒は、水を含む限りその他の有機溶媒を含んでいてもよいが、溶媒として水のみを含むことが好ましい。
【0069】
上記ポリマーエマルション(1)が含む水系溶媒の量は、ポリマーエマルション全体100質量%に対して40~80質量%であることが好ましい。より好ましくは、45~72質量%であり、更に好ましくは、45~60質量%である。
【0070】
上記ポリマーエマルション(1)が含むポリマーは、重量平均分子量が10000~500000であることが好ましい。このような重量平均分子量であると、耐水性が付与できる。重量平均分子量は、より好ましくは、20000~250000であり、更に好ましくは、30000~200000である。
重合体の重量平均分子量は、GPCを用い、以下の条件により測定することができる。
測定機器:HLC-8120GPC(商品名、東ソー社製)
分子量カラム:TSK-GEL GMHXL-Lと、TSK-GELG5000HXL(いずれも東ソー社製)とを直列に接続して使用
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
検量線用標準物質:ポリスチレン(東ソー社製)
測定方法:測定対象物を固形分が約0.2質量%となるようにTHFに溶解し、フィルターにてろ過した物を測定サンプルとして分子量を測定する。
【0071】
上記ポリマーエマルション(1)のpHは特に限定されないが、2~10であることが好ましい。pHがこのような範囲にあると、エマルション中の樹脂が安定に存在することができる。pHは、3~9.5であることがより好ましく、7~9であることが更に好ましい。上記エマルションのpHは、当該樹脂に、アンモニア水、水溶性アミン類、水酸化アルカリ水溶液等を添加することによって調整することができる。
【0072】
上記ポリマーエマルション(1)の粘度は特に限定されないが、1~10000mPa・sであることが好ましい。樹脂エマルションの粘度がこのような範囲にあると、実際にポリマーセメントを調整する際に容易に混合することが可能となる。粘度は、5~4000mPa・sであることがより好ましく、10~2000mPa・sであることが更に好ましい。
ポリマーエマルションの粘度は、B型粘度計により測定することができる。
【0073】
上記ポリマーエマルション(1)は、エマルション粒子の平均粒子径が10~5000nmであることが好ましい。より好ましくは50~500nmであり、更に好ましくは80~250nmである。
ポリマーエマルションのエマルション粒子の平均粒子径は、動的光散乱測定法により測定することができる。
【0074】
上記ポリマーエマルション(1)は、原料となる単量体成分を乳化重合することにより製造することができる。乳化重合を行う形態としては特に限定されず、例えば、水性媒体中に単量体成分、重合開始剤及び乳化剤を適宜加えて重合することにより行うことができる。また、分子量調節のために重合連鎖移動剤等を用いてもよい。
【0075】
上記水系溶媒としては特に限定されず、例えば、水、水と混じり合うことができる溶媒の1種又は2種以上の混合溶媒、このような溶媒に水が主成分となるように混合した混合溶媒等が挙げられる。これらの中でも、水が好ましい。
【0076】
上記乳化剤、重合開始剤、重合連鎖移動剤としては、例えば、WO2007/023819に記載のもの等を適宜選択して使用することができる。
【0077】
上記重合は、必要に応じて、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム等のキレート剤、ポリアクリル酸ナトリウム等の分散剤や、無機塩等の存在下で行ってもよい。また、単量体成分や重合開始剤等の添加方法としては、例えば、一括添加法、連続添加法、多段添加法等の方法を適用することができる。また、これらの添加方法を適宜組み合わせてもよい。
【0078】
上記製造方法における重合条件に関し、重合温度としては特に限定されず、例えば、0~100℃であることが好ましく、より好ましくは40~95℃である。また、重合時間も特に限定されず、例えば、1~15時間とすることが好適で、より好ましくは2~10時間である。
単量体成分や重合開始剤等の添加方法としては特に限定されず、例えば、一括添加法、連続添加法、多段添加法等の方法を適用することができる。また、これらの添加方法を適宜組み合わせてもよい。
【0079】
上記ポリマーエマルション(1)の製造方法においては、乳化重合によりエマルションを製造した後、中和剤によりエマルションを中和することが好ましい。これにより、エマルションが安定化されることになる。
中和剤としては特に限定されず、例えば、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン等の三級アミン;ジグリコールアミン、アンモニア水;水酸化ナトリウム等を用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0080】
本発明において用いるポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートにおいて、上記ポリマーエマルション(1)の配合割合は、固形分換算で、ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートの全量100質量%に対して、0.25~25質量%となるように設定することが好ましい。より好ましくは0.5~20質量%であり、更に好ましくは1.0~15質量%である。
また、上記ポリマーエマルション(1)の配合割合は、固形分換算で、セメント及び膨張材の総量100質量%に対して、1~60質量%となるように設定することが好ましい。より好ましくは3~50質量%であり、更に好ましくは5~40質量%であり、特に好ましくは10~30質量%である。または1~50質量%、3~40質量%、5~30質量%、10~25質量%であってもよい。
なお、本明細書中、固形分含量は、以下のようにして測定することができる。
[固形分測定方法]
1.アルミ皿を精秤する。
2.1で精秤したアルミ皿に固形分測定物を精秤する。
3.窒素雰囲気下130℃に調温した乾燥機に2で精秤した固形分測定物を1.5時間入れる。
4.1時間後、乾燥機から取り出し、室温のデシケーター内で15分間放冷する。
5.15分後、デシケーターから取り出し、アルミ皿+測定物を精秤する。
6.5で得られた質量から1で得られたアルミ皿の質量を差し引き、2で得られた固形分測定物の質量で除することで固形分を測定する。
【0081】
<第2の本発明におけるポリマー>
第2の本発明において、ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層におけるポリマー(以下、ポリマー(2)ともいう。)は、25℃におけるイオン交換水100gへの溶解量が1g未満である疎水性単量体由来の構造単位を有するものである。これにより構造部材の初期材齢時における歪みを抑制することができる。疎水性単量体の25℃におけるイオン交換水100gへの溶解量として好ましくは0.5g未満であり、更に好ましくは0.3g未満であり、一層好ましくは0.1g未満であり、特に好ましくは0.05g未満である。
【0082】
上記疎水性単量体として具体的には、アルキル基の炭素数が3~30の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、芳香族ビニル系単量体等が挙げられる。これらの具体例は上述のとおりである。
【0083】
上記疎水性単量体としては、環構造を有するものであることが好ましい。
環構造を有する疎水性単量体として具体的には、上述の芳香族ビニル系単量体;シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル基含有単量体等が挙げられる。
上記疎水性単量体としてより好ましくは芳香族ビニル系単量体であり、より好ましくはスチレンである。
【0084】
上記疎水性単量体の単独重合体のガラス転移温度が50℃以上であることが好ましい。これにより上記ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層中のポリマーのガラス転移温度をより好ましい範囲とすることができる。
疎水性単量体の単独重合体のガラス転移温度としてより好ましくは60℃以上であり、更に好ましくは90℃以上である。ガラス転移温度として好ましくは150℃以下である。
【0085】
上記ポリマー(2)における疎水性単量体由来の構造単位の割合は、全構造単位100質量%に対して、10~70質量%であることが好ましい。これによりセメント中の空気量が多くなりすぎることを充分に抑制することができる。より好ましくは20~65質量%であり、更に好ましくは30~60質量%である。
【0086】
上記ポリマー(2)が芳香族ビニル系単量体由来の構造単位を有する場合、その割合は、全構造単位100質量%に対して、20~60質量%であることが好ましい。これによりセメント中の空気量が多くなりすぎることを充分に抑制することができる。より好ましくは25~50質量%であり、更に好ましくは25~40質量%である。
【0087】
上記ポリマー(2)は、上記疎水性単量体以外のその他の単量体由来の構造単位を有していてもよい。その他の単量体としては25℃におけるイオン交換水100gへの溶解量が1g以上であれば特に制限されないが、上述のカルボン酸(塩)基をもつモノマー;上記(メタ)アクリル系モノマー及び上記その他の共重合可能な不飽和結合含有モノマーのうち疎水性単量体に該当しないモノマー等が挙げられる。
【0088】
上記ポリマー(2)におけるその他の単量体由来の構造単位の割合は、全構造単位100質量%に対して、30~90質量%であることが好ましい。より好ましくは35~80質量%であり、更に好ましくは40~70質量%である。
【0089】
上記ポリマー(2)としては、エマルション形態のものが好ましい。ポリマーエマルションは、ポリマーを1種含むものであってもよく、2種以上含むものであってもよい。以下、ポリマー(2)のエマルション形態をポリマーエマルション(2)ともいう。
【0090】
上記ポリマーエマルション(2)は、カルボン酸(塩)基をもつモノマー単位を有するポリマー、(メタ)アクリル系ポリマーを含んでいてもよい。カルボン酸(塩)基をもつモノマー単位を有するポリマー、(メタ)アクリル系ポリマーの具体例、好ましい形態はポリマーエマルション(1)に述べたとおりである。
【0091】
上記ポリマーエマルション(2)を形成する溶媒、溶媒の量、ポリマーエマルション(2)が含むポリマーの重量平均分子量、ポリマーエマルション(2)のpH、粘度、エマルション粒子の平均粒子径、ポリマーエマルション(2)の製造方法、ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートにおける上記ポリマーエマルション(2)の配合割合は特に制限されないが、上述のポリマーエマルション(1)におけるこれらと同様であることが好ましい。
【0092】
<セメント、骨材>
上記ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートに用いるセメントとしては、水硬性又は潜在水硬性を有するものであれば特に限定されず、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメントや、シリカセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、アルミナセメント、各種混合セメント;珪酸三カルシウム、珪酸二カルシウム、アルミン酸三カルシウム、鉄アルミン酸四カルシウム等のセメントの構成成分;高炉水砕スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム、石灰石微粉末等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、普通ポルトランドセメントが通常よく使用され、好適に適用することができる。
【0093】
上記ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートに用いる骨材としては、砂、砂利、砕砂、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0094】
<その他の添加剤>
本発明において用いるポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートは、上記(メタ)アクリル系ポリマーエマルション以外のその他の添加剤を含んでいてもよい。
ここでいうその他の添加剤とは、ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートに含まれるセメント、水、骨材、上記(メタ)アクリル系ポリマーエマルション以外の成分を意味する。
【0095】
その他の添加剤としては、通常使用されるセメント分散剤や減水剤、水溶性高分子物質、遅延剤、急結剤、早強剤・促進剤、鉱油系消泡剤、油脂系消泡剤、脂肪酸系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤、オキシアルキレン系消泡剤、アルコール系消泡剤、アミド系消泡剤、リン酸エステル系消泡剤、金属石鹸系消泡剤、シリコーン系消泡剤、AE剤、界面活性剤、防水剤、防錆剤、防腐剤、ひび割れ低減剤、上記以外のその他の膨張材、セメント湿潤剤、増粘剤、分離低減剤、凝集剤、上記以外のその他の乾燥収縮低減剤、強度増進剤、セルフレベリング剤、着色剤、防カビ剤、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、コロイダルシリカ、繊維、石膏、等のセメント添加剤(材)が挙げられる。
【0096】
上記繊維は短繊維が好ましい。ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートに混入する短繊維としては特に限定されず、例えば下記のような短繊維が使用可能である。また繊維を混入せずにポリマーセメントモルタルやポリマーセメントコンクリートを使用することも可能である。
短繊維としては例えば、鋼繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、セラミック繊維、PAN型炭素繊維、ピッチ型炭素繊維等の炭素繊維等の無機繊維;ポリプロピレン繊維、パラ型アラミド繊維、メタ型アラミド繊維等のアラミド繊維、超高強力ポリエチレン繊維等のポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンズアゾール繊維、超高強力ポリビニルアルコール繊維等のポリビニルアルコール繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリイミド繊維、フッ素繊維、ビニロン繊維、ポリアミド繊維、ポリビニリデン繊維、ポリ乳酸繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維等の有機繊維等が挙げられる。
【0097】
セメント分散剤(減水剤)としては特に限定されず、例えば、(i)ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸塩系分散剤;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂、スルホン酸塩系分散剤;アミノアリールスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸塩系分散剤;リグニンスルホン酸塩、変成リグニンスルホン酸塩等のリグニンスルホン酸塩系分散剤;ポリスチレンスルホン酸塩系分散剤;等の分子中にスルホン酸基を有する各種スルホン酸系分散剤(減水剤);(ii)特公昭59-18338号公報、特開平7-223852号公報に記載の如く、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル系単量体、(メタ)アクリル酸系単量体、およびこれらの単量体と共重合可能な単量体から得られる共重合体;特開平10-236858号公報、特開2001-220417号公報、特開2002-121055号公報、特開2002-121056号公報に記載の如く、不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル系単量体、マレイン酸系単量体または(メタ)アクリル酸系単量体から得られる共重合体;等の分子中に(ポリ)オキシアルキレン基とカルボキシル基とを有する各種ポリカルボン酸系分散剤(減水剤);(iii)特開2006-52381号公報に記載の如く、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、リン酸モノエステル系単量体、およびリン酸ジエステル系単量体から得られる共重合体等の、分子中に(ポリ)オキシアルキレン基とリン酸エステル基とを有する共重合体;特表2008-517080号公報に記載の如く、(ポリ)オキシアルキレン基と芳香環族基及び/又は複素環式芳香族基とを有する単量体、リン酸(塩)基及び/又はリン酸エステル基と芳香環族基及び/又は複素環式芳香族基とを有する単量体、およびアルデヒド化合物からなる重縮合生成物;特表2015-508384号公報に記載の如く、芳香族トリアジン構造単位、ポリアルキレングリコール構造単位、およびリン酸エステル構造単位を有する分散剤;等の各種リン酸系分散剤(減水剤)等が挙げられる。
これらの中でも、ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートは、更に減水剤を含むものであることが好ましい。これによりペースト分の骨材への粘着性がより向上する。
【0098】
上記急結剤としては公知の急結剤であれば良く特に限定されない。用いる急結剤は粉体急結剤、液体急結剤でも、スラリータイプの急結剤でも良い。液体急結剤としては例えば硫酸アルミニウム、フッ素、及びアルカリ金属、さらに、これらとアルカノールアミンを含有するものが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。また本発明で使用する液体急結剤には、既知の水溶性の水和促進剤を使用することが可能である。水和促進剤としては、例えば、ギ酸又はその塩、酢酸又はその塩、及び乳酸又はその塩等の有機系の水和促進剤や、水ガラス、硝酸塩、亜硝酸塩、チオ硫酸塩、及びチオシアン酸塩等の無機系の水和促進剤を使用することが可能である。粉体急結剤としては例えば、カルシウムアルミネート類、硫酸塩類、アルカリ金属アルミン酸塩類、アルカリ金属炭酸塩類、及びオキシカルボン酸類を含有してなるもの等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0099】
前記消泡剤としては、公知の消泡剤であれば良く特に限定されない。例えば、燈油、流動パラフィン等の鉱油系消泡剤;動植物油、ごま油、ひまし油、これらのアルキレンオキシド付加物等の油脂系消泡剤;オレイン酸、ステアリン酸、これらのアルキレンオキシド付加物等の脂肪酸系消泡剤;ジエチレングリコールモノラウレート、グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノラウレート、天然ワックス等の脂肪酸エステル系消泡剤;オクチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、グリコール類、ポリオキシアルキレングリコール等のアルコール系消泡剤;ポリオキシアルキレンアミド、アクリレートポリアミン等のアミド系消泡剤;リン酸トリブチル、ナトリウムオクチルホスフェート等のリン酸エステル系消泡剤;アルミニウムステアレート、カルシウムオレエート等の金属石鹸系消泡剤;シリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変成ポリシロキサン、フルオロシリコーン油等のシリコーン系消泡剤;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン付加物等のオキシアルキレン系消泡剤;等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0100】
上記例示の消泡剤の中でも特に、オキシアルキレン系消泡剤が最も好ましい。本発明のセメント混和剤用共重合体とオキシアルキレン系消泡剤とを組み合わせて用いると、消泡剤使用量が少なくて済み、さらに消泡剤と共重合体との相溶性にも優れるからである。オキシアルキレン系消泡剤としては、分子内にオキシアルキレン基を有しかつ水性液体中の気泡を減少させる作用を有する化合物であれば特に制限はないが、その中でも下記一般式(3)で表わされる特定のオキシアルキレン系消泡剤が好ましい。
{-T-(R O)t-R }s (3)
上記式(3)中、R 、Rは、同一又は異なって、水素原子、炭素数1~22のアルキル基、炭素数1~22のアルケニル基、炭素数1~22のアルキニル基、フェニル基またはアルキルフェニル基(アルキルフェニル基中のアルキル基の炭素数は1~22である)を表わす。ROは、炭素数2~4のオキシアルキレン基の1種または2種以上の混合物を表わし、2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい。tは、オキシアルキレン基の平均付加モル数であり、0~300の数を表わす。tが0のとき、R、Rが同時に水素原子であることはなく、Tは-O-、-CO-、-SO-、-PO-又は-NH-の基を表わす。sは、1又は2の整数を表わし、Rが水素原子のとき、sは1である。
【0101】
上記式(3)で表されるオキシアルキレン系消泡剤の例としては、(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレン類;ジエチレングリコールヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン-2-エチルヘキシルエーテル、炭素数12~14の高級アルコールへのオキシエチレンオキシプロピレン付加物等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル類;ポリオキシプロピレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等の(ポリ)オキシアルキレン(アルキル)アリールエーテル類;2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、3-メチル-1-ブチン-3-オール等のアセチレンアルコールにアルキレンオキシドを付加重合させたアセチレンエーテル類;ジエチレングリコールオレイン酸エステル、ジエチレングリコールラウリル酸エステル、エチレングリコールジステアリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシプロピレンメチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェノールエーテル硫酸ナトリウム等の(ポリ)オキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル硫酸エステル塩類;(ポリ)オキシエチレンステアリルリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルリン酸エステル類;ポリオキシエチレンラウリルアミン等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン類;等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0102】
上記ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートにおいて、上記減水剤は使用することが可能であるが、使用しないことも可能である。上記減水剤を使用する場合の配合割合としては、固形分換算で、ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートの全量100質量%に対して、0~1質量%であることが好ましい。より好ましくは0~0.5質量%であり、更に好ましくは0~0.3質量%である。
【0103】
上記ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートにおいて、上記消泡剤の配合割合としては、固形分換算で、ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートの全量100質量%に対して、0.01~1質量%であることが好ましい。より好ましくは0.05~0.5質量%であり、更に好ましくは0.07~0.3質量%である。
【0104】
上記ポリマーセメントモルタルにおいて、その1mあたりの単位セメント量及び水/セメント比は特に限定されず、例えば、単位セメント量200~2000kg/m、水/セメント比(重量比)=0.15~0.6であることが好ましい。より好ましくは、単位セメント量400~1500kg/m、水/セメント比(重量比)=0.15~0.5である。
【0105】
上記ポリマーセメントコンクリートにおいて、その1mあたりの単位セメント量及び水/セメント比は特に限定されず、例えば、単位セメント量200~2000kg/m、水/セメント比(重量比)=0.15~0.6であることが好ましい。より好ましくは、単位セメント量200~1000kg/m、水/セメント比(重量比)=0.2~0.6である。
【0106】
本発明の構造部材に用いられるポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリート以外のコンクリートとしては、通常のコンクリートを用いることができ、上述したポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートの原料となるセメント、骨材と同様のものを用いることができ、水/セメント比、骨材/セメント比もポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントコンクリートと同様である。
本発明の構造部材に用いられる鉄筋も、土木、建築の分野で一般的に使用される鉄筋を使用することができる。
【0107】
本発明の構造部材は、曲げ強度が高く、かつ、硬化物の歪みを抑制することができることの他、すり減り抵抗性にも優れる。
本発明の構造部材は、ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層によって構成される表層部が、奥田式すり減り試験での4時間後のすり減り係数が超高強度繊維補強コンクリート相当となるすり減り抵抗性を有するものであることが好ましい。このようなすり減り係数のものであると、表層部がすり減り抵抗性に特に優れたものであるといえ、本発明の構造部材がダムの洪水吐の減勢工の表面や、重力式コンクリートダム堤体の外殻部の表層部に特に適したものとなる。試験開始から4時間後の表層部のすり減り係数は、好ましくは、300mm/cm以下であり、より好ましくは、250mm/cm以下である。
【0108】
本発明の構造部材は、寒冷地に適用される構造物の表層部にも適用することができる。例えば、山間部等の寒冷地に構築されるコンクリート構造物などである。このようなコンクリートには、高い凍結融解抵抗性が求められ、JIS A 1148「コンクリートの凍結融解試験方法」によれば300サイクルの凍結融解試験で、相対動弾性係数60%以上の条件が設定されている。
本発明の構造部材/構造物は、高いすり減り抵抗性に加えて、高い凍結融解抵抗性も有している。即ち、コンクリート構造物の凍結融解抵抗性に関して規定する、上記技術基準を満足する性能を有している。
【0109】
本発明の構造部材は、ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層によって構成される表層部が、300サイクル凍結融解試験での相対動弾性係数が60%以上となる耐凍結融解抵抗性を有するものであることが好ましい。このような相対動弾性係数のものであると、表層部が耐凍結融解抵抗性に特に優れたものであるといえ、本発明の構造部材が山間部等の寒冷地に構築される、コンクリート構造物に特に適したものとなる。表層部の相対動弾性係数は、より好ましくは、70%以上であり、更に好ましくは、80%以上である。
【0110】
2.ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層によって構成される表層部以外の部分の構造
ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層によって構成される表層部以外の部分の構造は特に制限されないが、鉄筋と普通コンクリートとで構成される鉄筋コンクリート構造であることが好ましい。鉄筋コンクリート構造であることで構造部材がより強度に優れたものとなる。本発明の構造部材は、高い強度が求められる部材表面の表層部をポリマーセメントモルタル/コンクリートで形成し、その他の部材内部等を通常のコンクリートで形成することで更なる低コスト化を実現することができる。
【0111】
3.本発明の部材の構築工法及び本発明の構造部材の実施形態
本発明の部材の構築工法は、部材の一部をポリマーセメントを含む材料で構築する部材の構築方法であって、上記構築方法は、部材にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設する工程と、該打設工程後の部材をポリマーセメントに用いられるポリマーのガラス転移温度以上の温度であって、かつ40~100℃の温度で加熱する加熱工程とを含む部材の構築工法である。
第3の本発明の部材の構築工法は、上記ポリマーセメントが膨張材及び/又は収縮低減剤を含むことを必須の特徴とし、第4の本発明の部材の構築工法は、ポリマーセメントに用いられるポリマーが25℃におけるイオン交換水100gへの溶解量が1g未満である疎水性単量体由来の構造単位を有することを必須の特徴とし、これらの少なくともいずれか一方の特徴を有することにより、得られる部材における曲げ強度を向上させ、かつ、初期材齢時における歪みを抑制することができる。
第3及び第4の本発明の部材の構築工法は、上記必須の特徴以外について、部材の構築工法は共通する。また、第3の本発明の部材の構築工法において、上記疎水性単量体由来の構造単位を有するポリマーを用いてもよく、第4の本発明の部材の構築工法において膨張材及び/又は収縮低減剤を用いてもよい。
【0112】
第3の本発明の部材の構築工法における膨張材及び/又は収縮低減剤の具体例及び好ましい形態は上述の第1の本発明の構造部材に述べたとおりである。
第3の本発明の部材の構築工法におけるポリマーセメントは、膨張材及び収縮低減剤の少なくともいずれかを含むものであるが、これらを併用してもよい。
上記ポリマーセメントにおける膨張材及び収縮低減剤の合計の使用量、膨張材の使用量、収縮低減剤の使用量は、第1の本発明の構造部材のポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層におけるこれらの割合の好ましい範囲と同様である。
【0113】
第4の本発明の部材の構築工法における疎水性単量体由来の構造単位を有するポリマー(ポリマー(2))の具体例及び好ましい形態は第2の本発明の構造部材に述べたとおりである。
上記ポリマーセメントにおけるポリマー(2)の使用量は、第2の本発明の構造部材のポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層におけるこれらの割合の好ましい範囲と同様である。
【0114】
本発明の部材の構築工法には、以下の3つの工法がある。
(1)部材内部に配置される鉄筋を構築する鉄筋組立工程、及び、部材表面の少なくとも一部の表層部を除く領域にコンクリートを打設するコンクリート打設工程を含み、コンクリート打設工程でコンクリートが打設されなかった表層部にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設し、所定の温度で加熱する工法(以下、本発明の第1の工法と記載)
(2)部材表面の少なくとも一部の表層部にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設する工程と、ポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートが打設された表層部を所定の温度で加熱する工程と、鉄筋組立工程とを含み、更に、ポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設した表層部を除く領域にコンクリートを打設するコンクリート打設工程を行う工法(以下、本発明の第2の工法と記載)
(3)ポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリート層を所定の温度で加熱する加熱工程を経て構築された、ポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリート層を有する埋設型枠を少なくとも外側の一部に配置する埋設型枠設置工程、埋設型枠内部に鉄筋を構築する鉄筋組立工程、埋設型枠内部にコンクリートを打設するコンクリート打設工程を行う工法(以下、本発明の第3の工法と記載)
【0115】
本発明の構造部材においてポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層の位置や大きさ等は特に制限されず、構造部材の形状等も特に制限されない。このため、様々な実施形態が考えられるが、以下において、本発明の構造部材の実施形態の代表的な例を、本発明の部材の構築方法とともに説明する。
【0116】
(I)本発明の構造部材の第1及び第2の実施形態並びに本発明の部材の構築工法の第1の工法
図1は、本発明の構造部材を寒冷地の床版、導水路等として使用する場合の実施形態の1つ(本発明の構造部材の第1の実施形態)を示した図である。
図1の構造部材は、下部に鉄筋と普通コンクリートとで構成された鉄筋コンクリート構造部を有し、表層部である上部にポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層を有する。表層部は、鉄筋コンクリート構造の鉄筋のかぶり部を構成している。
表層部の鉄筋は下部の鉄筋コンクリートの鉄筋と一体として構築されていてもよく、下部の鉄筋コンクリートから上方に突出した鉄筋と連結させた鉄筋であってもよい。
図1の構造部材は、以下の本発明の部材の構築工法の第1の工法(以下、本発明の第1の工法ともいう。)により構築することができる。
本発明の第1の工法は、ポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設する表層部以外のコンクリートの打設を先に行い、その後に表層部の少なくとも一部にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設し、所定の温度で加熱する、内側を先行して打設する工法である。
図2、3は本発明の第1の工法によって寒冷地の床版、導水路等を構築する場合の実施形態の1つを示した図である。これらの図を用いて第1の工法について説明する。
本発明の第1の工法では、まず、部材内部の鉄筋1の構築を行う鉄筋組立工程と、部材表面の少なくとも一部の表層部を除く領域にコンクリート2を打設するコンクリート打設工程が行われる。図2では、部材内部に配置される鉄筋1が組立てられ、鉄筋の上部を一部残してコンクリート2が打設されている。コンクリート打設工程では、普通コンクリートが打設される。
【0117】
本発明の第1の工法では、上記コンクリート打設工程の前に、ポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設する表層部とその表層部を除く領域とを仕切部材を配置して仕切る仕切部材設置工程を行うことが好ましい。仕切部材設置工程を行うことで、ポリマーセメントモルタル/コンクリートを打設する表層部と、それ以外の部分との区分けを確実にし、後にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設する表層部を確実に確保することができる。
【0118】
次に、コンクリート2が打設されなかった表層部にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリート3を打設するポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程が行われ、その後、ポリマーセメントに用いるポリマーのガラス転移温度以上の温度であって、かつ40~100℃の温度で加熱する加熱工程が行われる。加熱後、部材を気中もしくは乾燥養生をさせることが望ましい。ここで、気中養生とは、水分を与えないで空気中にさらしている状態で養生する養生方法であり、乾燥養生とは、気中養生のうち温度履歴等を与えて積極的に乾燥させる工程を含む養生方法をいう。
図3では、普通コンクリート2が打設されなかった鉄筋1の上部を含む表層部にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリート3が打設されている。表層部の鉄筋は下部の鉄筋コンクリートの鉄筋と一体として構築されていてもよく、下部の鉄筋コンクリートから上方に突出した鉄筋と連結させた鉄筋であってもよい。
【0119】
上記ポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程においては、先に打設された普通コンクリートとの一体化を図るため、バイブレーターを使用した振動締固めを行うことが好ましい。この作業により、普通コンクリート2とポリマーセメントモルタル/コンクリート3とが十分に一体化される。
このような、ポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程の後に、バイブレーターによる振動でコンクリート打設部とポリマーセメントモルタル/コンクリート打設部とを締固めて一体化させる、締固め一体化工程を含むことは、本発明の第1の工法の好適な実施形態である。
図3の場合、下部の普通コンクリート層の深さまでバイブレーター4を挿入して振動締固めを行うことで、下部の普通コンクリート2と上部のポリマーセメントモルタル/コンクリート3とが十分に一体化される。
【0120】
本発明の第1の工法では、上記ポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程の前に、アジテータ車にポリマーを後添加することでポリマーセメントモルタル/コンクリートを混練するポリマーセメントモルタル/コンクリート混練工程を行うことが好ましい。このようにすることで、プラントに特殊な設備を設置することなくポリマーセメントモルタル/コンクリートの製造が可能となる。
【0121】
上記ポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程の後、加熱工程の前に表層部の締固め及び仕上げ工程を行うことが好ましい。この工程は、タンパーや鏝仕上げ用の均し機械等により実施することができる。
また、上記ポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程の後、加熱工程の前に湿潤養生する工程を行うことが好ましい。これにより、コンクリート中のセメントの水和反応が促進され、耐久性の高いコンクリートとなる。湿潤養生は、湛水養生やシート養生により行うことができ、湿潤養生の期間は、3日以上とすることが好ましい。より好ましくは、3~7日である。
【0122】
上記加熱工程は、ポリマーセメントに用いるポリマーのガラス転移温度以上の温度であって、かつ40~100℃の温度で加熱されることになる限り、加熱方法は特に制限されず、例えば、表層部にジェットヒーター、フィルムヒーターなどのヒーターを配置して表層部を加熱することにより行うことができる。また、加熱する面積が小さい場合には、アイランプで給熱してもよい。
加熱工程における加熱は、ポリマーセメントに用いるポリマーのガラス転移温度以上の温度であって、かつ40~100℃の温度で行われればよいが、より高い温度履歴を与えることでポリマーセメントモルタル/コンクリートの強度を向上させる効果が発揮されるため、可能な限り高温で加熱することが好ましく、50~100℃で行うことが好ましい。より好ましくは、60℃~100℃である。加熱後、部材を気中もしくは乾燥養生をさせることが望ましい。
【0123】
図4は、本発明の構造部材を水路等の壁部を構築する部材として使用する場合の実施形態の1つ(本発明の構造部材の第2の実施形態)を示した図である。
図4の構造部材は、中央部側に鉄筋と普通コンクリートとで構成された鉄筋コンクリート構造部を有し、端部となる壁部にポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層を有する。壁部は、鉄筋コンクリート構造の鉄筋のかぶり部を構成している。中央部と壁部とは仕切部材で仕切られている。仕切り部材としては、型枠内に埋設するものとしてラス網、エアチューブ、コンクリート打継ぎ止めくし等を使用することができる。
図4の構造部材は、以下の本発明の第1の工法の別の実施形態のようにして構築することができる。
【0124】
本発明の第1の工法の別の実施形態として、水路等の壁部を構築する場合を図5、6に示す。
この実施形態では、まず型枠5を配置し、型枠内で鉄筋1を組み立てる鉄筋組立工程を行う。その際、端部となる壁部と、中央部側の領域を仕切るため、これらの境界部に仕切り部材6を配置する。仕切り部材としては、型枠内に埋設するものとして、ラス網、エアチューブ、コンクリート打継ぎ止めくし等を使用することができる。仕切り部材6は鉄筋1(図横方向鉄筋)を挿通させ、鉄筋1に固定しておく。この状態で、中央部側に普通コンクリート2を打設するコンクリート打設工程を行う(図5)。
【0125】
次に、端部となる壁部にポリマーセメントモルタル/コンクリート3を打設するポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程を行う(図6)。ポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程の後、先に打設された普通コンクリート2との一体化を図るため、上述のバイブレーターを使用した締固め一体化工程を行うことが好ましい。
【0126】
コンクリートが水和反応により所定の脱型強度(5N/mm程度)を発現した後、型枠を脱型する脱型工程を行う。脱型工程を行うまでの期間は特に制限されず、所定の脱型強度を発現した後であればよいが、普通コンクリートであれば、例えば打設後2~4日で脱型することができる。
【0127】
ポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程から脱型工程までの間は、湿潤養生する工程を行うことが好ましい。これにより、コンクリート中のセメントの水和反応が促進され、耐久性の高いコンクリートとなる。湿潤養生の期間は、3日以上とすることが好ましい。より好ましくは、3~7日である。
その後、加熱工程を行う。加熱工程は、上記と同様にして行うことができる。
【0128】
(II)本発明の構造部材の第3の実施形態及び本発明の部材の構築工法の第2の工法
図7は、壁部材や版(スラブ)部材の外側表面だけにポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリート層を有する本発明の構造部材の第3の実施形態である。
図7の構造部材は、外側となる壁外表面部(図7左側)と底面にL字型にポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層を有し、ポリマーセメントモルタル層又はポリマーセメントコンクリート層と仕切部材で仕切られた右側に鉄筋と普通コンクリートとで構成された鉄筋コンクリート構造部を有する。仕切り部材としては、型枠内に埋設するものとしてラス網、エアチューブ、コンクリート打継ぎ止めくし等を使用することができる。
図7の構造部材は、以下の本発明の部材の構築方法の第2の工法(以下、本発明の第2の工法ともいう。)により構築することができる。
【0129】
上記第2の工法は、部材の表層部の少なくとも一部へのポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートの打設を先に行い、所定の温度で加熱した後にそれ以外の部分のコンクリートの打設を行う、外側を先行して打設する工法である。
図8、9は本発明の第2の工法によって部材を構築する場合の実施形態の1つを示した図である。この実施形態は、壁部材や版(スラブ)部材の外側表面だけにポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを先行打設する場合等の実施形態である。これらの図を用いて第2の工法について説明する。
この実施形態では、まず型枠5を配置し、型枠内で鉄筋1を組み立てる。その際、外側となる壁外表面部(図8左側)と、中央部側の領域を仕切るため、これらの境界部に仕切り部材6を配置する。仕切り部材としては、型枠内に埋設するものとしてラス網、エアチューブ、コンクリート打継ぎ止めくし等を使用することができる。仕切り部材6は配力筋(図8紙面直角方向鉄筋)に固定しておく。
【0130】
外側となる壁外表面部(図8左側)及び外側となるスラブ下面(図8下側)のポリマーセメントモルタル/コンクリート3を先に打設する工程を行う。
本発明の第2の工法では、このように、ポリマーセメントモルタル/コンクリートの打設工程前に、ポリマーセメントモルタル/コンクリートを打設する表層部と、それ以外の部分とを仕切る仕切部材を配置する仕切部材設置工程を行うことが好ましい。これにより、ポリマーセメントモルタル/コンクリートを打設する表層部と、それ以外の部分との区分けを確実にすることができる。
【0131】
本発明の第2の工法においても、上記ポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程の前に、アジテータ車にポリマーを後添加することでポリマーセメントモルタル/コンクリートを混練するポリマーセメントモルタル/コンクリート混練工程を有することが好ましい。このようにすることで、プラントに特殊な設備を設置することなくポリマーセメントモルタル/コンクリートの製造が可能となる。
【0132】
その後、壁中央部側及びスラブ上側に普通コンクリートを打設する工程を行う(図9)。
この際、外表面部のポリマーセメントコンクリート若しくはポリマーセメントモルタルと、その内側の普通コンクリートとの一体化を図るため、境界部にバイブレーターを挿入して振動締固めを行うことが好ましい。振動締固めは上述した方法で行うことができる。
すなわち、本発明の第2の工法においても、普通コンクリート打設工程の後、バイブレーターによる振動で、ポリマーセメントモルタル/コンクリート打設部とコンクリート打設部とを一体化する締固め一体化工程を行うことは好適な実施形態である。
【0133】
その後、コンクリートが水和反応により所定の脱型強度(5N/mm程度)を発現した後、型枠を脱型する脱型工程を行う。脱型工程を行うまでの期間は特に制限されず、所定の脱型強度を発現した後であればよいが、普通コンクリートであれば、例えば打設後2~4日で脱型することができる。
【0134】
ポリマーセメントモルタル/コンクリート打設工程から脱型工程までの間は、湿潤養生する工程を行うことが好ましい。これにより、コンクリート中のセメントの水和反応が促進され、耐久性の高いコンクリートとなる。湿潤養生の期間は、3日以上とすることが好ましい。より好ましくは、3~7日である。
その後、加熱工程を行う。加熱工程は、上記と同様にして行うことができる。
【0135】
(III)本発明の構造部材の第4及び第5の実施形態並びに本発明の部材の構築工法の第3の工法
図10は、水路を形成する樋状部材、カルバート、版(スラブ)部材の外側表面だけにポリマーセメントモルタル/ポリマーセメントコンクリートを埋設型枠として配置する本発明の構造部材の第4の実施形態である。
図10の構造部材は、少なくとも外側の一部に所定の温度で加熱されたポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリート層を有する埋設型枠7の中に、鉄筋1と普通コンクリート2とで構成された鉄筋コンクリート構造部とを有する。
図10の構造部材は、以下の本発明の部材の構築工法の第3の工法(以下、本発明の第3の工法ともいう。)により構築することができる。
【0136】
本発明の第3の工法は、所定の温度で加熱されたポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリート層を少なくとも外側の一部に有する埋設型枠を配置し、埋設型枠内部にコンクリートを打設する工法である。
図11、12は本発明の第3の工法によって部材を構築する場合の実施形態の1つを示した図である。この実施形態は、水路を形成する樋状部材、カルバート、版(スラブ)部材の外側表面だけにポリマーセメントモルタル/ポリマーセメントコンクリートを埋設型枠として配置する場合等の実施形態である。これらの図を用いて第3の工法について説明する。
第3の工法では、少なくとも外側の一部に所定の温度で加熱されたポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリート層を有する埋設型枠7を使用する。
【0137】
埋設型枠は、予め埋設型枠作成用の型枠内の一部又は全部にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設し、ポリマーセメントに用いるポリマーのガラス転移温度以上の温度であって、かつ40~100℃の温度で加熱した後、脱型して作製することができる。埋設型枠の一部のみがポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリート層によって形成された埋設型枠は、埋設型枠作成用の型枠内に仕切り部材を配置して型枠内を仕切り、仕切られた型枠内の一部にポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリートを打設し、それ以外の部分に普通コンクリートを打設して作成することができる。
埋設型枠は、埋設型枠を作成するプレキャスト工場で蒸気養生を実施することが好ましい。その際、より高い温度履歴を与えることで強度向上効果が発揮されるため、プレキャスト工場が有する蒸気養生槽の可能な範囲で最も高い温度で養生をすることが好ましい。また、蒸気養生の後、部材を気中もしくは乾燥養生をさせることが望ましい。埋設型枠を作製する際には、プラントが有する混和剤のタンクにポリマーエマルションを入れることによって、通常のコンクリートの製造過程と同様の過程でポリマーセメントモルタル/コンクリートを製造することが可能となる。
【0138】
図11の実施形態では、所定の温度で加熱されたポリマーセメントモルタル/コンクリート層を少なくとも外側の一部に有する埋設型枠7を配置し、型枠内で鉄筋1を組み立てる。その後、型枠5を配置して埋設型枠7と型枠5との間に普通コンクリートを打設する(図12)。
【0139】
その後、コンクリートが水和反応により所定の脱型強度(5N/mm程度)を発現した後、型枠5を脱型する脱型工程を行う。脱型工程を行うまでの期間は特に制限されず、所定の脱型強度を発現した後であればよいが、普通コンクリートであれば、例えば打設後2~4日で脱型することができる。
【0140】
図13は、埋設型枠を用いた構造部材の別の実施形態(本発明の構造部材の第5の実施形態)である。
図13の構造部材は、上部の表層部の一部が、少なくとも外側の一部に所定の温度で加熱されたポリマーセメントモルタル又はポリマーセメントコンクリート層を有する埋設型枠7で構成され、それ以外の表層部及び部材内部が鉄筋1と普通コンクリート2とで構成された鉄筋コンクリート構造部となっている。
図13の構造部材は、以下の本発明の第3の工法の別の実施形態のようにして構築することができる。
【0141】
図14、15は、本発明の第3の工法によってプレキャスト部材を構築する場合の別の実施形態を示した図である。図14、15は、ポリマーセメントモルタル/コンクリートからなる埋設型枠を高速道路等の床版表層部となるように構築する場合等の実施形態である。
図14の実施形態では、ポリマーセメントモルタル/コンクリート層を少なくとも外側の一部に有する埋設型枠7と型枠5とを下側向きに配置し、内部で鉄筋1を組み立てる。その後、型枠内部に普通コンクリート2を打設し、コンクリートが水和反応により所定の脱型強度(5N/mm程度)を発現した後、型枠を脱型する。
【0142】
4.本発明の構造部材及び本発明の部材の構築方法の用途
本発明の構造部材及び本発明の部材の構築方法は、すり減り抵抗性や耐久性に優れ、施工性やコスト面にも優れたものであることから、上述したダムの減勢工の表層部及びその構築に使用することができるが、用途はこれに限られず、ダムの放水管、取水管(特に、断面が収縮して水圧が大きくなる箇所)に同様に適用でき、また、ダム以外にも農業用水路やその他すり減り抵抗性が必要となる箇所に適用できる。例えば、橋梁の床版やシールドのセグメント、鋼殻ブロック、建築の床部材等にも適用できる。
このような、本発明の構造部材を用いて構成される構造物もまた、本発明の1つである。
【実施例
【0143】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0144】
本実施例を含め、Foxの計算式より重合体を構成する単量体成分のガラス転移温度(Tg)を算出するのに使用したホモポリマーのTgを下記に記した。
メチルメタクリレート:105℃
エチルアクリレート:-22℃
アクリル酸:95℃
ヒドロキシエチルメタクリレート:55℃
スチレン:100℃
ブチルアクリレート:-56℃
【0145】
<平均粒子径>
エマルション粒子の平均粒子径は動的光散乱法による粒度分布測定器(大塚電子株式会社FPAR-1000)を用い測定した。
<固形分(N.V.)>
得られたエマルション約1gを秤量、熱風乾燥機で150℃×1時間後、乾燥残量を不揮発分として、乾燥前質量に対する比率を質量%で表示した。
【0146】
<合成例1>
水1066重量部、ポリオキシエチレンノニルフェニル硫酸エステルナトリウム塩14重量部、開始剤として過硫酸カリウム1.5重量部と、モノマー原料として、メチルメタクリレート478重量部、エチルアクリレート218重量部、アクリル酸11重量部、ヒドロキシエチルメタクリレート7重量部を混合し、窒素雰囲気下75℃で5時間、エマルション重合を行った。前記エマルション重合終了後、25%アンモニア水を添加しpHを9.8に調整し、100メッシュの金網で濾過することにより、セメント添加剤用樹脂エマルション(1)を得た。得られたエマルション(1)の各種物性を表1に示す。
【0147】
<合成例2>
水1279重量部、ポリオキシエチレンノニルフェニル硫酸エステルナトリウム塩17重量部、開始剤として過硫酸カリウム1.8重量部と、モノマー原料として、メチルメタクリレート364重量部、ブチルアクリレート214重量部、アクリル酸13重量部、ヒドロキシエチルメタクリレート9重量部、スチレン257重量部を混合し、窒素雰囲気下75℃で5時間、エマルション重合を行った。前記エマルション重合終了後、ジメチルアミノエタノールを11重量部添加しpHを9.3に調整し、100メッシュの金網で濾過することにより、セメント添加剤用樹脂エマルション(2)を得た。得られたエマルション(2)の各種物性を表1に示す。
【0148】
合成例1及び2で用いた単量体の25℃におけるイオン交換水100gへの溶解量は以下のとおりである。
スチレン:0.03g
シクロヘキシルメタクリレート:0.013g
ブチルアクリレート:0.2g
メチルメタクリレート:1.5g
エチルアクリレート:1.5g
ヒドロキシエチルメタクリレート:11.8g
アクリル酸:水に任意に溶解
【0149】
【表1】
【0150】
<モルタルの配合例>
上記合成例1、2で得られたセメント添加剤用樹脂エマルション(1)、(2)を添加したモルタルを下記表2に記載の配合例1~10の通り作製した。エマルション固形分がセメント及び膨張材の総量に対し20重量%になるようにエマルションの添加量を調整し、水量がセメント及び膨張材の総量に対し30重量%になるようにエマルション中の水量を加味して、追加水分量を調整した。(但し、収縮低減剤は外割で添加した。)
【0151】
【表2】
【0152】
上記表2に記載のC、S、W、P、消泡剤、膨張材、収縮低減剤は以下のとおりである。
C:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
S:シリカサンド7号(東洋マテラン社製)
W:添加した純水量とセメント添加剤用樹脂エマルション例1~5に含有している水の合計値
P:エマルションの固形分量
消泡剤(1):MA-404(BASFポゾリス社製)、セメントに対して0.8質量%添加
消泡剤(2):ノプコ8034L(サンノプコ社製)、セメントに対して0.3質量%添加
膨張材A:ハイパーエクスパン(太平洋マテリアル社製)
膨張材B:デンカパワーCSAタイプS(デンカ社製)
膨張材C:デンカCSA#20(デンカ社製)
収縮低減剤A:テトラガードAS-21(太平洋マテリアル社製)
収縮低減剤B:デンカエスケーガード(デンカ社製)
収縮低減剤C:シュリンクガードR-3(フローリック社製)
膨張材について、配合例2は膨張材A、配合例3は膨張材B、配合例4は膨張材Cを使用した。
収縮低減剤について、配合例5は収縮低減剤A、配合例6は収縮低減剤B、配合例7は収縮低減剤Cを使用した。
また、配合例8は膨張材Aと収縮低減剤A、配合例9は膨張材Aと収縮低減剤C、配合例10は膨張材Bと収縮低減剤Aを使用した。
【0153】
配合例1~10における各成分間における比率を表3に示す。表3中、Bは普通ポルトランドセメント(C)と膨張材を合せた無機バインダー成分の総量を表す。
【0154】
【表3】
【0155】
<ポリマーセメントモルタルの作製方法>
温度が20℃±1℃、相対湿度が60%±10%の環境下で、ホバート型モルタルミキサー(型番N-50;ホバート社製)にステンレス製ビーター(撹拌羽根)を取り付け、C、膨張材、Sを投入し、1速で120秒間混練した。次に、C、膨張材、S以外を投入し、1速で60秒間混練した後、ミキサーを停止し、30秒間モルタルの掻き落としを行い、その後、更に120秒間1速で混練を行い、モルタルを作製した。
【0156】
<15打フロー値測定>
モルタルを混練容器からポリエチレン製1L容器に移し、スパチュラで20回撹拌した後、直ちにフロー測定板(30cm×30cm)に置かれたフローコーン(JIS R 5201-2015に記載)に半量詰めて15回つき棒で突き、更にモルタルをフローコーンのすりきりいっぱいまで詰めて15回つき棒で突き、最後に不足分を補いスランプコーンの表面をならした。その後、直ちにフローコーンを垂直に引き上げ、15秒間に15回の落下運動を与えてから、モルタルの15打フローを測定し、これを15打フロー値とした。フローの測定は、JIS R 5201-2015に準じて行った。なお、フローの値は、数値が大きい程、分散性が高いことを示す。モルタルフロー値の結果を表4に示す。
【0157】
<モルタル空気量の測定>
上記モルタル空気量(初期空気量)の測定は、JIS-A-1128(2014年改正)の方法により行った。モルタルを500mLのガラス製メスシリンダーに約200mL詰め、径8mmの丸棒で突き、手で軽く振動させて粗い気泡を抜いた。更にモルタルを約200mL加えて同様に気泡を抜いた後、モルタルの体積と質量を測り、各材料の密度から空気量を計算した。空気量の結果を表4に示す。
【0158】
<曲げ強度供試体の作成方法>
曲げ強度に使用する供試体(4×4×16cm)は前述の<ポリマーセメントモルタルの作製方法>に従い、混練したモルタルを使用して、JIS A 1171-2016に記載の方法に準じて実施した。
つまり、4×4×16cmの型枠に調整したポリマーセメントモルタルを二層に詰めて成形する。ポリマーセメントを型枠の高さの約半分まで詰め、突き棒を用いて、全面にわたって突いた後、型枠容器に振動を加え、粗い気泡を抜いた。次にポリマーセメントを型枠の上端まで詰め、突き棒を用いて、全面に突いた後、型枠容器に振動を加え、粗い気泡を抜いた。最後に表面を平らに慣らした後、容器を密閉し20℃で保管し、初期養生(封緘養生)を行った。1日後に脱型し、続いて、蒸気養生(20℃から65℃まで3時間で昇温後、65℃で62時間養生。さらに20℃まで9時間で降温した。)を行い、さらに20℃×24日間養生し、曲げ強度用供試体を作成した。
【0159】
<曲げ強度測定>
曲げ強度測定はJIS R 5201-2015に記載の方法に準じて、<曲げ強度供試体の作成方法>で作成した曲げ強度供試体を用いて実施した。使用した強度試験器は、全自動耐圧試験機(TYPE:ACA-50S-B2、前川試験機製作所製)に専用の曲げ強度治具を設置して、試験を行った。曲げ強度測定結果を表4に示す。
【0160】
<歪試験>
歪試験は共和電業社の『KMC型コンクリート埋込型ひずみゲージ取扱説明書』の使用方法に準じて、<曲げ強度供試体の作成方法>で作成した曲げ強度供試体を別途作成し、歪ゲージ(KMC-70-120-H3(共和電業社製))を供試体に埋設し、初期24時間までの歪を測定した。歪試験の結果を表4に示す。
【0161】
【表4】
【0162】
<モルタルの配合例>
上記合成例2で得られたセメント添加剤用樹脂エマルション(2)を添加したモルタルを下記表5に記載の配合例11の通り作製した。エマルション固形分がセメントに対し20重量%になるようにエマルションの添加量を調整し、水量がセメントに対し32重量%になるようにエマルション中の水量を加味して、追加水分量を調整した。(但し、収縮低減剤は単位水量の一部とした。)また、ブランクとして膨張材および収縮低減剤、エマルションを含まないモルタルを下記表5に記載の配合例12の通り作製した。
【0163】
【表5】
【0164】
上記表5に記載のW、C、Ex、S、SP、SRA、Psは以下のとおりである。
W 上水道水とセメント添加剤に含有している水の合計値
C 普通ポルトランドセメント (太平洋セメント社製)
Ex 膨張材A:ハイパーエクスパン(太平洋マテリアル社製)
S 山砂 千葉県君津市産
SP ポリカルボン酸系高性能減水剤(フローリック社製)
SRA 収縮低減剤A:テトラガードAS-21(太平洋マテリアル社製)
Ps セメント添加剤用樹脂エマルション(2)の固形分
【0165】
<ポリマーセメントモルタルの作製>
温度が20℃±5℃、相対湿度が60%±10%の環境下で、モルタルミキサー(型番マイティS20V;愛工社製)にC、Ex、Sを投入し30秒間混錬した。次に、W、SP、SRA、Psを投入し90秒間混錬した後、ミキサーを停止し30秒間かき落としを行い、さらに180秒間混錬を行い、モルタルを作製した。
【0166】
<曲げ強度試験体作製>
配合例11、12のポリマーセメントモルタルを□40×40×160mmの型枠に入れ、20℃で1日間静置した後、脱型し、90℃の蒸気養生を2日間実施し、更に60℃、湿度30%で14日間乾燥養生を行った。
【0167】
<曲げ強度試験>
JSCE-G552を参考に、精密万能試験機(型番AG-100kNG;島津社製)に専用の曲げ試験治具を取り付け、作製した曲げ強度試験体に対し、三等分点載荷による曲げ強度試験を実施した。曲げ強度試験の結果を表6に示す。
【0168】
<歪試験>
配合例11、12のポリマーセメントモルタルを□100×100×400mmの型枠に入れ、熱電対内蔵型埋込みひずみ計(型番KM100BT;東京測器社製)を埋設し、測定した。
20℃で1日間静置した後、脱型し、90℃の蒸気養生を2日間実施し、更に60℃、湿度30%で14日間乾燥養生を行う。その後、20℃、湿度60%で歪計測を継続した。歪試験の結果を表6に示す。
【0169】
【表6】
【符号の説明】
【0170】
1:鉄筋
2:普通コンクリート
3:ポリマーセメントモルタル/コンクリート
4:バイブレーター
5:型枠
6:仕切り部材
7:埋設型枠
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15