(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】法面の補修方法
(51)【国際特許分類】
E02D 17/20 20060101AFI20240603BHJP
E02D 5/80 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
E02D17/20
E02D5/80 Z
(21)【出願番号】P 2020147303
(22)【出願日】2020-09-02
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】508321823
【氏名又は名称】株式会社イノアック住環境
(74)【代理人】
【識別番号】100158067
【氏名又は名称】江口 基
(74)【代理人】
【識別番号】100147854
【氏名又は名称】多賀 久直
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大輔
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-273862(JP,A)
【文献】特開2002-256054(JP,A)
【文献】特開2012-041697(JP,A)
【文献】特開平05-222717(JP,A)
【文献】特開2019-031836(JP,A)
【文献】特開平08-302348(JP,A)
【文献】特公平05-022775(JP,B2)
【文献】特開2016-205016(JP,A)
【文献】特開2013-036226(JP,A)
【文献】特開2012-167452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
E02D 5/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
法面保護構造物が設けられた法面に形成された空所を埋める補修方法であって、
前記空所を構成する地盤に形成した挿入孔に棒状鋼を挿入し、
前記挿入孔に固化材を注入して、前記棒状鋼を前記地盤に固定し、
前記空所にウレタン材料を注入して該ウレタン材料を該空所で発泡させることで、得られるポリウレタンフォームによって該空所を塞ぎ、
前記ポリウレタンフォームから表側へ突出する前記棒状鋼の先端部に締結材を取り付け、該締結材と前記地盤との間に該ポリウレタンフォームを挟む
ことを特徴とする法面の補修方法。
【請求項2】
前記ウレタン材料を、前記空所の下部から注入する請求項1記載の法面の補修方法。
【請求項3】
前記ポリウレタンフォームの表側を遮蔽材で覆うようにする請求項1または2記載の法面の補修方法。
【請求項4】
前記空所を覆う前記法面保護構造物を貫通する貫通孔を介して前記挿入孔を削孔し、
前記挿入孔よりも大径に形成した前記貫通孔から前記ウレタン材料を前記空所へ注入する請求項1~3の何れか一項に記載の法面の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、法面保護構造物が設けられた法面に形成された空所を補修する法面の補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
傾斜地(盛土や地山など)における法面の保護工(安定化対策工)は、法面の浸食や崩壊を抑止するために行われる。その保護工としては、コンクリートなどの法面保護構造物を法面に設ける工法が一般的に行われている。このようなコンクリートによる法面保護構造物としては、例えば、鉄筋コンクリート製の法枠を格子状に設けて、法枠の内側を植生工やモルタル吹き付け工等で覆ったものがある。
【0003】
想定以上の雨や地下水等による地盤の緩みなどによって、法面保護構造物の背面の土砂が流れ出し、法面保護構造物と地盤との間に空所が生じることがある。そこで、既存の吹き付けモルタル法面と地盤との間にできてしまった空所に、流動性グラウト材を充填することで、空所を埋める工法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、流動性グラウト材として、セメントやフライアッシュやスラグやフライアッシュとセメントを主体とする可塑状FMグラウトや、スラグとセメントを主体とするスラグ系可塑状グラウトを用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の工法は、空所が複雑な三次元形状である場合、流動性グラウト材が空所にうまく充填されないことがある。また、セメントを含むグラウト材が比較的重いため、グラウト材が斜面に沿って滑るおそれがあり、長期的な安定性に欠けている。
【0006】
本発明は、従来の技術に係る前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、空所のより確実な閉塞が可能であると共に、長期的な安定性に優れた法面の補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明に係る法面の補修方法は、
法面保護構造物が設けられた法面に形成された空所を埋める補修方法であって、
前記空所を構成する地盤に形成した挿入孔に棒状鋼を挿入し、
前記挿入孔に固化材を注入して、前記棒状鋼を前記地盤に固定し、
前記空所にウレタン材料を注入して該ウレタン材料を該空所で発泡させることで、得られるポリウレタンフォームによって該空所を塞ぎ、
前記ポリウレタンフォームから表側へ突出する前記棒状鋼の先端部に締結材を取り付け、該締結材と前記地盤との間に該ポリウレタンフォームを挟むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る法面の補修方法によれば、ポリウレタンフォームによって空所のより確実な閉塞が可能であると共に、空所を埋めるポリウレタンフォームの長期的な安定性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施例に係る補修方法によって補修された法面を破断して示す概略斜視図である。
【
図2】実施例の補修方法によって補修された法面を
図1と別の位置で破断して示す概略斜視図である。
【
図3】実施例の補修方法によって補修された法面の要部を拡大して示す概略斜視図である。
【
図4】空所が形成される前の法面の一部を示す概略斜視図である。
【
図5】実施例の補修方法における棒状鋼の配置を示す説明図である。
【
図6】実施例の補修方法による補修工程を示す説明図である。
【
図7】実施例の補修方法による補修工程を示す要部説明図である。
【
図8】実施例の補修方法による補修工程を示す要部説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明に係る法面の補修方法につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。
【実施例】
【0011】
図1および
図4は、法面保護構造物12が設けられた法面10を示す概略斜視図である。
図4は、法面10に空所S(
図1~
図3参照)ができる前であり、
図1は法面10に形成された空所Sを、実施例の補修方法によって復旧した後を示している。実施例の法面保護構造物12は、法面10の縦横に交差するように設けられた法枠14と、法枠14の間の法面10を被覆するように設けられた吹付コンクリート16とから構成されている。また、実施例の法面保護構造物12は、地山に固定されたアンカー18によって、法枠14における縦横の交差部が保持されている。
【0012】
実施例における空所Sを埋めて法面10を補修する補修方法について順に説明する。なお、実施例では、法面保護構造物12おける法枠14および吹付コンクリート16を含む範囲の裏側に、法面10における表層土の流出等によって空所Sが形成された場合である(
図6(a)および
図7(a)参照)。まず、吹付コンクリート16における空所Sに対応する位置に、コアドリル等の削孔機を用いて貫通孔20を形成する(
図7(b)参照)。貫通孔20を介して穿孔機によって、法面10における空所Sの底面に挿入孔22を形成する(
図7(c)参照)。棒状鋼24を貫通孔20から挿入孔22に挿入し(
図7(d)参照)、セメントミルクやモルタル等の固化材26を挿入孔22に注入することで、棒状鋼24を地盤Jに定着させる(
図7(e)参照)。このとき、棒状鋼24は、貫通孔20から吹付コンクリート16の表側に頭が突出するように配置する。
【0013】
棒状鋼24は、ねじ筋鉄筋や異形棒鋼等の汎用品を用いることができ、この中でもねじ筋鉄筋を用いることが締結材として汎用のナット36を用いることができることから好ましい。棒状鋼24は、例えば、呼び径D19~D32の範囲にあるものを用いることができる。後述するように充填材であるポリウレタンフォーム28が軽量であることから、土木用途として細いクラスであるD19の棒状鋼を用いることが可能である。棒状鋼24は、空所Sに対応して、1.0m~2.0m(1本/1.0m
2~1本/4.0m
2)の間隔、より好ましくは1.5m~2.0m(1本/2.25m
2~1本/4.0m
2)の間隔で配置することが、地盤Jの崩れを抑えて充填材であるポリウレタンフォーム28を適切に支持できることから好ましい。また、棒状鋼24は、千鳥状に配置することが、地盤Jの崩れを抑えて充填材であるポリウレタンフォーム28を適切に支持できることから好ましい(
図5参照)。更に、棒状鋼24は、地盤Jへの挿入深さを、2m~5mの範囲に設定することが、地盤Jの崩れを抑えて充填材であるポリウレタンフォーム28を適切に支持できることから好ましい。なお、上述した棒状鋼24に関する条件は、地盤Jの硬さ(N値)や空所Sの大きさや充填するポリウレタンフォーム28の密度などに応じて適宜設定される。
【0014】
挿入孔22の大きさ(口径)は、挿入する棒状鋼24の直径よりも大きく設定され、例えば、棒状鋼24の直径の3倍~5倍に設定することが、棒状鋼24が挿入された挿入孔22へ固化材26を注入し易いので好ましい。なお、挿入孔22の深さは、前述した棒状鋼24の挿入深さに合わせればよい。
【0015】
貫通孔20の大きさ(口径)は、貫通孔20を通る棒状鋼24の直径よりも大きく設定される。ここで、貫通孔20の大きさは、挿入孔22の大きさよりも大きく設定することが、ポリウレタンフォーム28を空所Sに充填し易くなることから好ましい。貫通孔20を大きく設定しておくと、ポリウレタンフォーム28を注入するためのノズル30を、棒状鋼24が通る貫通孔20から空所Sへ挿入したとき(
図8(a)および(b)参照)、ノズル30を上下左右に向けることができる。これにより、ポリウレタンフォーム28を空所Sに充填し易くなる。
【0016】
棒状鋼24を挿入した挿入孔22に固化材26を注入した後(
図6(b)および
図7(e)参照)、貫通孔20からノズル30を通して、ウレタン材料Mを空所Sに吹き付けるように注入する(
図8(a)および(b)参照)。このとき、ウレタン材料Mは、空所Sの下部に対応する位置にあけた貫通孔20から、空所Sの下部に注入するとよい。空所Sに注入されたウレタン材料Mは、空所S内で発泡して膨張し、これによりポリウレタンフォーム28が空所Sに隙間なく充填される(
図8(c)参照)。ポリウレタンフォーム28は、現場でA液(ポリオール)とB液(イソシアネート)とを混合し、スプレー発泡機の吹き付けによりポリウレタンフォームを形成する、所謂現場発泡ポリウレタンフォームである。
【0017】
空所Sにおけるポリウレタンフォーム28の充填度合いは、ノズル30を通している貫通孔20以外の貫通孔20からのポリウレタンフォーム28の漏れ出によって確認したり、貫通孔20を通したマイクロスコープで空所Sを見て確認したりするなど、様々な方法で確認可能である。例えば、空所Sの下部からウレタン材料Mを注入した場合、空所Sの上部に対応する貫通孔20からポリウレタンフォーム28が漏れてくると、ポリウレタンフォーム28が空所Sの上部まで充填されていることが判る。
【0018】
ポリウレタンフォーム28としては、圧縮強度が高い硬質ポリウレタンフォームが用いられ、気泡構造としては独立気泡構造のものが水を通さないので好ましい。また、ポリウレタンフォーム28は、その密度が20kg/m3~60kg/m3の範囲にある軽量なものを用いるとよい。なお、上述したポリウレタンフォーム28に関する条件は、空所Sの大きさや空所Sを覆う法面保護構造物12の荷重などに応じて適宜設定される。
【0019】
次に、貫通孔20から漏れた余分なポリウレタンフォーム28を排除するなどの処理を行った後、貫通孔20をモルタル等の遮蔽材32で塞ぎ、吹付コンクリート16から表側に出ているポリウレタンフォーム28の表側を遮蔽材32で覆う(
図8(d)参照)。貫通孔20から表側に突き出た棒状鋼24の先端部を、プレート34に形成した孔に通して、貫通孔20を覆うようにプレート34を吹付コンクリート16の表面にセットする。プレート34から表側に突き出た棒状鋼24の先端部に、締結材としてのナット36を取り付けて締め付ける(
図8(e)参照)。これにより、締結材36と地盤との間にポリウレタンフォーム28が挟まれた状態になり、法面10の補修が完了する(
図6(c)参照)。
【0020】
前述した法面10の補修方法によれば、地盤Jに定着させた棒状鋼24の設置により、吹付コンクリート16(法面保護構造物12)および充填材であるポリウレタンフォーム28の滑動を抑えることができる。また、ポリウレタンフォーム28が自身を貫く棒状鋼24に付着するので、吹付コンクリート16(法面保護構造物12)の滑動を抑えることができる。このように、前述した法面10の補修方法によれば、棒状鋼24の設置によって法面10を長期間に亘って安定化させることができる。
【0021】
モルタルなどのセメント系充填材と比べて軽量(単位体積当たりの重量が小さい)であるポリウレタンフォーム28を用いているので、地盤Jからの滑動を抑えることができ、また、法面保護構造物12に加わる荷重を軽減することができる。しかも、ポリウレタンフォーム28が軽量であるから、棒状鋼24の設置本数を減らしたり、棒状鋼24の地盤Jへの挿入深さ(定着長)を短くしたりすることなどが可能となる。従って、前述した法面10の補修方法によれば、棒状鋼24を設置する手間を軽減できると共に、棒状鋼24に設置の難易度を下げることができ、法面10の補修の作業性を向上し、工事規模の縮小化や工期の短縮化に寄与できる。
【0022】
前述した法面10の補修方法によれば、ポリウレタンフォーム28を空所Sで発泡させるので、複雑な三次元形状になっている空所Sにおいてポリウレタンフォーム28を隙間なく充填させることができる。また、セメント系充填材であれば複数回に分けて充填しなくてはならない空所Sであっても、ポリウレタンフォーム28であれば充填回数を少なくすることができる。しかも、ポリウレタンフォーム28は、セメント系充填材と比べて硬化までの時間が非常に短いので、工期を大幅に短縮することが可能になる。ポリウレタンフォーム28は、発泡倍率などの反応調整によって、密度や圧縮強度を現場毎に簡単に調節することができる。これにより、法面保護構造物12の重量などの条件に応じて、密度や圧縮強度などの物性を適切に設定することができ、法面10をより好適に安定化させることができる。ポリウレタンフォーム28は化学的に安定しているので、棒状鋼24がポリウレタンフォーム28で覆われることで錆び難くなり、棒状鋼24の維持管理で必要な二重防錆の基準を手間なく満たすことが可能となる。
【0023】
ウレタン材料Mが発泡して膨張することから、ウレタン材料Mを空所Sの下部から入れても空所Sの上側に向けて膨らみ、空所Sの下部から上部に亘って隙間なくポリウレタンフォーム28を充填することができる。また、地盤Jを削るなど、ウレタン材料Mの注入時の地盤Jへの悪影響を回避することができる。更に、ウレタン材料Mを吹き付けによって空所Sに注入することで、地盤Jを削るなど、充填材注入時の地盤Jへの悪影響をより好適に回避することができる。
【0024】
吹付コンクリート16の貫通孔20を介して表側へ現れるポリウレタンフォーム28の表側を遮蔽材32で覆うことで、日光や排気ガスなどのポリウレタンフォーム28に悪影響を与えるものから保護することができる。従って、法面10を長期間に亘って安定化させることができる。
【0025】
吹付コンクリート16を貫通する貫通孔20を形成する際に挿入孔22よりも大径にすることで、貫通孔20からノズル30を挿入して空所Sへウレタン材料Mを注入し易くすることができる。特に、貫通孔20から挿入したノズル30の向きを上下左右へ変え易く、ウレタン材料Mを空所Sへより適切に注入することができる。
【0026】
表1に示す条件のモデルケースを設定し、充填材としてポリウレタンフォームを用いる実施例と、充填材としてモルタルを用いる比較例とで、必要となる棒状鋼の条件を比較する。なお、比較の結果を表2に示す。
【0027】
【0028】
【0029】
表2に示すように、充填材としてポリウレタンフォームを用いる実施例は、充填材としてモルタルを用いる比較例1および2と比べて、棒状鋼の必要本数が大幅に少なくなることが判る。また、実施例と比較例1との対比によれば、実施例では棒状鋼の定着長が大幅に短くなることが判る。NEXCO施工基準によると、隣り合う棒状鋼の間隔を1.0m~1.5m程度(1本/2m2程度)にすることが求められる。例えば、棒状鋼を1.0m間隔で配置すると184本を配置可能であり、棒状鋼を1.5m間隔で配置すると65本配置可能である。このことから、実施例ではNEXCO施工基準を満たしており、比較例1では約0.6m間隔になって基準から外れてしまう。ここで、NEXCO施工基準によると、棒状鋼1本当たりの長さを2.0~5.0m程度にすることが求められるが、5.0mを満たすギリギリの棒状鋼の定着長である比較例1であっても、比較例1は棒状鋼の間隔基準を満たしていない。
【0030】
(変更例)
前述した事項に限らず、例えば以下のようにしてもよい。
(1)実施例では、既設の吹付コンクリートが残っている場合であるが、既設の吹付コンクリートや植生工等の法面を覆っていた被覆工が崩落等によって失われていても、本開示の補修方法を適用可能である。
(2)被覆工が失われた空所を補修する場合、吹付コンクリートや植生工などの被覆工を、ポリウレタンフォームの表側に遮蔽材として設けるとよい。
【符号の説明】
【0031】
10 法面,12 法面保護構造物,20 貫通孔,22 挿入孔,24 棒状鋼,
26 固化材,28 ポリウレタンフォーム,32 遮蔽材,36 ナット(締結材),
S 空所,J 地盤,M ウレタン材料