IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社パイロットコーポレーションの特許一覧

<>
  • 特許-筆記具 図1
  • 特許-筆記具 図2
  • 特許-筆記具 図3
  • 特許-筆記具 図4
  • 特許-筆記具 図5
  • 特許-筆記具 図6
  • 特許-筆記具 図7
  • 特許-筆記具 図8
  • 特許-筆記具 図9
  • 特許-筆記具 図10
  • 特許-筆記具 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 3/00 20060101AFI20240603BHJP
   B43K 7/00 20060101ALI20240603BHJP
   B43K 5/00 20060101ALI20240603BHJP
   B43K 8/00 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
B43K3/00 Z
B43K7/00 100
B43K5/00 100
B43K8/00 100
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020175538
(22)【出願日】2020-10-19
(65)【公開番号】P2022066924
(43)【公開日】2022-05-02
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 光樹
(72)【発明者】
【氏名】福田 晃
(72)【発明者】
【氏名】村上 和広
【審査官】内藤 万紀子
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-175779(JP,U)
【文献】実開昭60-120875(JP,U)
【文献】特開2009-202453(JP,A)
【文献】特開2015-036192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 3/00
B43K 7/00
B43K 5/00
B43K 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に筆記具用インキが充填されたインキ収容筒、及び前記インキ収容筒の先端に取り付けられた筆記先端部を有する筆記体と、
前記筆記体の少なくとも一部を覆い、前端に前記筆記先端部を外部へ突出させる前端開口部を有する軸筒と、
を備え、
前記軸筒は、前記前端開口部に向けて先細りとなる傾斜内面を有する前端領域を備え、
前記傾斜内面に外部まで貫通した少なくとも1つの液抜開口部が設けられており、
前記液抜開口部は、内面側よりも外面側が大きい外側に拡がった形状を有することを特徴とする筆記具。
【請求項2】
内部に筆記具用インキが充填されたインキ収容筒、及び前記インキ収容筒の先端に取り付けられた筆記先端部を有する筆記体と、
前記筆記体の少なくとも一部を覆い、前端に前記筆記先端部を外部へ突出させる前端開口部を有する軸筒と、
を備え、
前記軸筒は、前記前端開口部に向けて先細りとなる傾斜内面を有する前端領域を備え、
前記傾斜内面に外部まで貫通した少なくとも1つの液抜開口部が設けられており、
前記軸筒の内面に、毛細管現象により液体を引き込んで保持する溝が設けられていることを特徴とする筆記具。
【請求項3】
前記溝が前記液抜開口部に繋がっていることを特徴とする請求項に記載の筆記具。
【請求項4】
内部に筆記具用インキが充填されたインキ収容筒、及び前記インキ収容筒の先端に取り付けられた筆記先端部を有する筆記体と、
前記筆記体の少なくとも一部を覆い、前端に前記筆記先端部を外部へ突出させる前端開口部を有する軸筒と、
を備え、
前記軸筒は、前記前端開口部に向けて先細りとなる傾斜内面を有する前端領域を備え、
前記傾斜内面に外部まで貫通した少なくとも1つの液抜開口部が設けられており、
前記軸筒の内面に撥水層が形成されていることを特徴とする筆記具。
【請求項5】
内部に筆記具用インキが充填されたインキ収容筒、及び前記インキ収容筒の先端に取り付けられた筆記先端部を有する筆記体と、
前記筆記体の少なくとも一部を覆い、前端に前記筆記先端部を外部へ突出させる前端開口部を有する軸筒と、
を備え、
前記軸筒は、前記前端開口部に向けて先細りとなる傾斜内面を有する前端領域を備え、
前記傾斜内面に外部まで貫通した少なくとも1つの液抜開口部が設けられており、
操作部を前記軸筒の前側へ押圧することにより、前記筆記先端部を前記前端開口部から突出した突出状態にし、前記筆記先端部の突出状態を解除する操作により、前記筆記先端部が前記軸筒の中に没入した没入状態にする出没機構を備え、
前記軸筒が前記出没機構を覆い、
前記軸筒の軸方向における前記出没機構の両端の位置に、前記軸筒の内外を貫通する更なる液抜開口部が設けられていることを特徴とする筆記具。
【請求項6】
前記液抜開口部が前記軸筒の軸方向に延びた長穴形状を有することを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の筆記具。
【請求項7】
前記筆記体を除く部材が樹脂またはステンレスで形成されていることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の筆記具。
【請求項8】
請求項1からの何れか1項に記載の筆記具を洗浄する方法であって、
前記筆記具から前記筆記体を取り外す第1の工程と、
前記筆記体が取り外された前記筆記具を、洗剤を含む液体で洗浄する第2の工程と、
前記軸筒の内部に残る液体を、前記液抜開口部を含む開口部から前記軸筒の外部へ排出する第3の工程と、
前記筆記体を前記筆記具に装着する第4の工程と、
を含むことを特徴とする筆記具の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空の軸筒を有する筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衛生に対する関心が高まっており、特に、ウイルスや細菌等による感染防止の観点から、中空の軸筒を有する筆記体を洗浄する要望が高まっている。このような要望に対応するため、ポリカーボネート樹脂組成物から成る筆記具用軸筒が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-95899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の軸筒は、ポリカーボネート樹脂組成物から形成されているので、耐薬品性に優れ、洗浄剤等の各種薬品が付着しても、割れ等の不具合の発生するのを抑制できる。しかし、筆記体を洗浄するとき、洗浄液等が軸筒の中に入ると、液体を外に出すための開口は、筆記体の筆記先端部を突出させる前端開口部ぐらいしかないので、液体を軸筒の外部へ排出するのは容易でない。このため、軸筒の中の水分が蒸発するまで、長い期間、筆記具を使用できなくなる虞がある。また、軸筒の中が十分乾かない間に使用を開始すると、筆記中に紙面に内部の液体が滴下する不具合が生じる虞がある。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記の課題を解決するものであり、軸筒の中の液体を容易に外部に排出することができる筆記具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの実施態様に係る筆記具は、
内部に筆記具用インキが充填されたインキ収容筒、及び前記インキ収容筒の先端に取り付けられた筆記先端部を有する筆記体と、
前記筆記体の少なくとも一部を覆い、前端に前記筆記先端部を外部へ突出させる前端開口部を有する軸筒と、
を備え、
前記軸筒は、前記前端開口部に向けて先細りとなる傾斜内面を有する前端領域を備え、
前記傾斜内面に外部まで貫通した少なくとも1つの液抜開口部が設けられている。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、軸筒の中の液体を容易に外部に排出することができる筆記具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の1つの実施形態に係る筆記具の外形を示す斜視図である。
図2】本発明の1つの実施形態に係る筆記具の外形を示す側面図である。
図3】本発明の1つの実施形態に係る筆記具の軸筒を半割にして内部構造を示す図である。
図4】本発明のその他の実施形態に係る筆記具の外形を示す斜視図であって、キャップが取り付けられた状態を示す図である。
図5】本発明のその他の実施形態に係る筆記具の外形を示す斜視図であって、キャップが取り外された状態を示す図である。
図6】本発明のその他の実施形態に係る筆記具の外形を示す側面図であって、キャップが取り付けられた状態を示す図である。
図7】本発明のその他の実施形態に係る筆記具の外形を示す側面図であって、キャップが取り外された状態を示す図である。
図8】従来の筆記具の軸筒の前端領域の一例を模式的に示す図である。
図9】本発明に係る筆記具の軸筒の前端領域の一例を模式的に示す図であって、軸筒の軸方向に力がかかるように軸筒を振った場合を示す図である。
図10】本発明に係る筆記具の軸筒の前端領域の一例を模式的に示す図であって、軸筒を周方向に遠心力がかかるように軸筒を回転させた場合を示す図である。
図11】軸筒を半割にして、本発明に係る筆記具の軸筒の内面に設けられた溝の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための実施形態を説明する。なお、以下に説明する筆記具は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。
各図面中、同一の機能を有する部材には、同一符号を付している場合がある。要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態や実施例に分けて示す場合があるが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせは可能である。後述の実施形態では、前述と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施形態や実施例ごとには逐次言及しないものとする。各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張して示している場合もある。本明細書において、「前」とは、筆記具の先端部側を指し、「後」とは、その反対側を指す。
【0010】
(本発明の1つの実施形態に係る筆記具)
はじめに、図1から図3を参照しながら、ノック式の筆記具である本発明の1つの実施形態に係る筆記具の説明を行う。図1は、本発明の1つの実施形態に係る筆記具の外形を示す斜視図である。図2は、本発明の1つの実施形態に係る筆記具の外形を示す側面図である。図3は、本発明の1つの実施形態に係る筆記具の軸筒を半割にして内部構造を示す図である。なお、図3に示す軸筒では、前側及び後側の軸筒の接続部の位置、形状が図1、2に示すものと若干異なるが、内部構造及び軸筒に設けられた開口部の位置は同様である。
【0011】
本実施形態に係る筆記具2では、中空の軸筒20の中に、ボールペンレフィルからなる筆記体10が収容されている。筆記体2は、内部に筆記具用インキが充填されたインキ収容筒12、及びインキ収容筒12の先端に取り付けられた筆記先端部14を有する。筆記具用インキとして、熱変色性インキをはじめとする任意の油性、水性インキを用いることができる。軸筒10は、前側の軸筒と後側の軸筒とが着脱自在に螺着して構成されており、前側の軸筒を後側の軸筒から取り外して、中に収容された筆記体10を交換することができる。
【0012】
軸筒20の前端には、筆記先端部14を外部へ突出させる前端開口部22を有する。軸筒20は、前端開口部22に向けて先細りとなる傾斜内面24Aを有する前端領域24を備える。
本実施形態に係る筆記体2では、操作部となるノック体32を軸筒20の前側へ押圧することにより、筆記先端部14を前端開口部22から突出した突出状態にし、筆記先端部14の突出状態を解除する操作により、筆記先端部14が軸筒20の中に没入した没入状態にする出没機構30を備える。
【0013】
図3を参照しながら、出没機構30について更に詳細に述べる。筆記体10は、コイルスプリングからなる弾発体60によって、軸筒20の後端方向に向かって、摺動自在に付勢して収容されている。弾発体60は、前端開口部22近傍の軸筒20の受け面26によって、その先端部が受け止められ、もう一方の端部(後端部)は、筆記体10の受け面16に当接している。これにより、筆記体10は、軸筒20の後端方向に向かって付勢されている。
【0014】
軸筒20の後端部には、軸筒20の後端から後方に突出するようにノック体32が配設されている。ノック体32の前端にはカム部が設けられ、回転カム34と当接している。回転カム34は、インキ収容筒12の後端領域を収容し、インキ収容筒12の後端と当接している。回転カム34の外周には、軸筒20の内面に設けられたカム溝の中に摺動可能に配置された突起を有する。筆記体10を後端側に付勢している弾発体60の付勢力は、回転カム34を介してノック体32に伝達され、ノック体32は、軸筒20の後端から後方に突出するように付勢されている。主に、ノック体32の前端のカム部、回転カム34及び軸筒20のカム溝により、筆記体10の筆記先端部14を軸筒10から出没させる出没機構30が構成されている。
【0015】
軸筒20の中に位置する筆記先端部14を軸筒20の前端開口部22から突出させるには、弾発体60により後端側へ付勢されたノック体32を指等で前側に押圧し、ノック体32と連動する回転カム34を前端開口部22側に前進させる。このとき、回転カム34の突起は、軸筒20のカム溝の深溝に沿って前進した後、ノック体32のカム部によって、カム溝の浅溝側に回転し、筆記先端部14を突出した状態を維持することができる。
筆記先端部14が軸筒20の前端開口部22から突出した状態で、ノック体32を押圧すると、回転カム34の突起は、ノック体32のカム部によって回転し、浅溝から深溝に移動して、弾発体60の付勢力によって、深溝の底部まで達して筆記先端部14を没入せせることができる。
本実施形態では、出没機構30として、回転カム34を有する出没機構30を例示しているが、ノック体を押圧することで、筆記先端部が出没可能な出没機構であれば、既知の任意の機構を採用することができる。
【0016】
近年、筆記具を洗浄する需要が高まっているが、筆記具を、洗剤を含む洗浄液で洗浄した場合、洗剤を含む洗浄液、それを除去するために流す水をはじめとする液体が、軸筒20の中に残存することになる。本実施形態に係る筆記具2では、軸筒20の中に残存する液体を外部に排出するための開口部が設けられている。
具体的には、前端開口部22に向けて先細りとなる傾斜内面24Aを有する前端領域24に、外部まで貫通した第1の液抜開口部40が設けられている。本実施形態では、周方向で約90度の間隔を開けて、4個の第1の液抜開口部40が設けられている。
【0017】
また、軸筒20の軸方向における出没機構30の両端の位置に第2の液抜開口部42A、42Bが設けられている。第2の液抜開口部42A、42Bは、軸筒20の内外面を貫通するように設けられている。出没機構30の前側の端部の位置に第2の液抜開口部42Aが設けられ、出没機構30の後側の端部の位置に第2の液抜開口部42Bが設けられている。本実施形態では、周方向で約180度の間隔を開けて、それぞれ2個ずつの第2の液抜開口部42A、42Bが設けられている。
【0018】
更に、ノック体32は、内部に空間を有する中空の構造を有し、周方向で約180度の間隔を開けて、2個の第3の液抜開口部44が設けられている。第3の液抜開口部44は、中空なノック体32の内外面を貫通するように設けられている、
以上のような、液抜開口部40、42A、42B、44の機能については、追って詳細に述べる。
【0019】
(本発明のその他の実施形態に係る筆記具)
次に、図4から図7を参照しながら、キャップ式の筆記具である本発明のその他の実施形態に係る筆記具の説明を行う。図4は、本発明のその他の実施形態に係る筆記具の外形を示す斜視図であって、キャップが取り付けられた状態を示す図である。図5は、本発明のその他の実施形態に係る筆記具の外形を示す斜視図であって、キャップが取り外された状態を示す図である。図6は、本発明のその他の実施形態に係る筆記具の外形を示す側面図であって、キャップが取り付けられた状態を示す図である。図7は、本発明のその他の実施形態に係る筆記具の外形を示す側面図であって、キャップが取り外された状態を示す図である。
【0020】
本実施形態に係る筆記具2でも、中空の軸筒20の中に、ボールペンレフィルからなる筆記体10が収容される。内部に筆記具用インキが充填されたインキ収容筒12が、軸筒20の中に収容され、インキ収容筒12の先端に取り付けられた筆記先端部14が、軸筒20の前端開口部22から突出した状態になっている。
軸筒10は、前側の軸筒と後側の軸筒とが着脱自在に螺着して構成されており、前側の軸筒を後側の軸筒から取り外して、中に収容された筆記体10を交換することができる。筆記体2に用いる筆記具用インキは、上記の実施形態と同様に、熱変色性インキをはじめとする任意の油性、水性インキを用いることができる。
【0021】
本実施形態に係るキャップ式の筆記具2では、出没機構は有さず、筆記先端部14は、常に軸筒20の前端開口部22から突出した状態になっている。代わりに、筆記具2は、軸筒20の前端側に着脱可能なキャップ4を備える。このキャップ4を軸筒20の前端側に装着することにより、軸筒20から突出した筆記先端部14を覆うことができるので、筆記先端部14を保護し、筆記先端部14の先端部におけるインクの乾燥を防ぐことができる。
【0022】
本実施形態に係るキャップ式の筆記具2でも、前端開口部22に向けて先細りとなる傾斜内面を有する前端領域24を有する。この前端領域24に、外部まで貫通した第1の液抜開口部40が設けられている。本実施形態では、周方向で約180度の間隔を開けて、2個の第1の液抜開口部40が設けられている。
【0023】
また、キャップ4にも、周方向で約180度の間隔を開けて、2個の第4の液抜開口部46が設けられている。第4の液抜開口部46は、キャップ4の内外面を貫通するように設けられている。ただし、キャップ4を軸筒20に装着したとき、筆記先端部14の先端部が位置する領域には第4の液抜開口部46が設けられておらず、筆記先端部14の先端におけるインクの乾燥を防ぐことができる構造になっている。
これらの液抜開口部40、46の機能については、追って詳細に述べる。
【0024】
(前端領域に設けられた第1の液抜開口部)
次に、図8から図10を参照しながら、上記の実施形態に係る筆記具2の軸筒20の前端領域24に設けられた第1の液抜開口部40の説明を行う。図8は、従来の筆記具の軸筒の前端領域の一例を模式的に示す図である。図9は、本発明に係る筆記具の軸筒の前端領域の一例を模式的に示す図であって、軸筒の軸方向に力がかかるように軸筒を振った場合を示す図である。図10は、本発明に係る筆記具の軸筒の前端領域の一例を模式的に示す図であって、軸筒を周方向に遠心力がかかるように軸筒を回転させた場合を示す図である。
【0025】
図8から図10に示す何れの場合も、筆記体が装着されていない状態で筆記具2、102を洗浄し、軸筒20、120の内部に貯まった液体を外部に排出する場合を示している。
図8に示すように、従来の筆記具102では、筆記先端部を軸筒20から突出させる前端開口部122は設けられているが、前端開口部122に向けて先細りとなる傾斜内面124Aを有する前端領域124には、開口が設けられていない。前端領域124は、前端開口部122に向けて先細りとなるノズルのような形状を有する。
【0026】
例えば、軸筒120内に入った液体を前端開口部122から外部へ排出するため、体温計を振るように筆記具102を振って、液体に軸方向の力(遠心力)Fをかけた場合を考える。この場合、遠心力Fを受けた液体は傾斜内面124Aから中心軸Gに向かう反力を受けるので、実線の矢印で示すように、中心軸G側の進行ベクトルが生じる。つまり、先細りとなる傾斜内面124Aの影響を受けて、中心軸G側へ流れようとする。
このため、360度周囲から中心軸Gに向けた流れが生じるので、液体は互いに干渉し合って流動抵抗が大きくなる(点線の矢印参照)。これにより、液体の流れが滞り、前端開口部122の液体には表面張力Sも生じるので、前端領域124内に液体が溜まる傾向となる。よって、筆記具102を振っても、軸筒120内の液体を前端開口部122から排出するのは困難となる。
【0027】
一方、図9に示すように、本発明の上記の実施形態に係る筆記具2では、前端開口部22に向けて先細りとなる前端領域24の傾斜内面24Aに外部まで貫通した第1の液抜開口部40が設けられている。よって、体温計を振るように筆記具2を振って、軸筒20内の液体に軸方向の力(遠心力)Fをかければ、実線の矢印に示すように、液体は、干渉を受けることなく、第1の液体開口部40を通って外部へ排出される。また、第1の液抜開口部40から液体を排出するとき、前端開口部22が、大気を軸筒20の中に流入させる通気口として機能するので、前端領域24内が負圧になることなく、液体をよりスムーズに軸筒20の外部へ排出することができる。
【0028】
更に、図10に示すように、前端領域24に第1の液抜開口部40が設けられている場合には、体温計を振るように筆記具2を振る場合だけでなく、軸筒20を、中心軸Gを回転中心として、一方向に回転させる、または時計回り・反時計回りに繰り返し回転させることにより、軸筒20内に入った液体を第1の前端開口部22から外部へ排出することもできる。軸筒20を、中心軸Gを回転中心として回転させたとき、軸筒20の中の液体には、前端領域24の傾斜内面24Aに対して外向きの遠心力Cがかかる。この半径方向外側にかかる遠心力Cにより、実線の矢印に示すように、液体は、干渉を受けることなく、第1の液体開口部40を通って外部へ排出される。洗濯機の回転脱水層を考えれば、軸筒20内の液体を容易に排出できることが想定できる。
なお、図8に示す従来例では、前端領域124に開口を有さないので、筆記具102を回転させても、内部の液体を排出できないのは明らかである。
【0029】
上記の実施形態に係る筆記体2では、前端領域24の周方向に4つまたは2つの第1の液体開口部40が設けられているが、これに限られるものではない。前端領域24に少なくとも1つの第1の液体開口部40が設けられていればよく、その他の任意の数の第1の液体開口部40を設けることができる。また、前端領域24の軸方向における異なる位置に、複数の第1の液体開口部40を設けることもできる。
【0030】
ウイルスや細菌等による感染防止の観点から、筆記体を洗浄する要望が増大しているが、本発明の上記の実施形態に係る筆記具2では、前端開口部22に向けて先細りとなる前端領域24の傾斜内面24Aに、外部まで貫通した少なくとも1つの液抜開口部40が設けられているので、洗浄により軸筒20内に残った液体を容易に外部へ排出することができる。これにより、軸筒20の中の液体を容易に外部に排出することができる筆記具2を提供することができる。
なお、液体を外部に排出する機能と、前端領域24の強度とを考慮すると、液抜開口部40の総面積が前端開口部22の面積の2~6倍程度であるのが好ましい。
【0031】
(出没機構の両端に設けられた第2の液抜開口部)
図1から図3に示すように、ノック式の1つの実施形態に係る筆記具2では、筆記体10の筆記先端部14を軸筒10から出没させる出没機構30を有する。出没機構30は、ノック体32の前端のカム部、回転カム34及び軸筒20のカム溝のような部材が組み合わされて構成されているので、液体が排出されにくい構造となっている。
【0032】
上記の1つの実施形態に係る筆記体2の軸筒20には、出没機構30の前側の端部の位置に第2の液抜開口部42Aが設けられ、出没機構30の後側の端部の位置に第2の液抜開口部42Bが設けられている。よって、例えば、図10に示す場合と同様に、軸筒20を一方向に回転させる、または時計回り・反時計回りに繰り返し回転させることにより、軸筒20内に入った液体を第2の前端開口部42A、42Bから外部へ排出することができる。
以上のように、軸筒20の軸方向における出没機構30の両端の位置に第2の液抜開口部42A、42Bを設けることにより、出没機構30を軸筒20で保護するとともに、出没機構30の領域に残存する液体を効果的に外部へ排出することができる。
【0033】
なお、上記の実施形態に係る筆記体2では、周方向にそれぞれ2個ずつの第2の液抜開口部42A、42Bが設けられているが、これに限られるものではない。出没機構30の両端の位置に、それぞれ少なくとも1つの第2の液抜開口部42A、42Bが設けられていればよく、その他の任意の数の第2の液体開口部42A、42Bを設けることができる。
【0034】
(ノック体に設けられた第3の液抜開口部)
図1から図3に示すように、ノック式の1つの実施形態に係る筆記具2では、中空構造のノック体32に、内外面を貫通する第3の液抜開口部44が2つ設けられている。この第3の液抜開口部44により、ノック体32内の液体を容易に外部に排出することができる。なお、ノック体32に設けられる第3の液抜開口部44の数は2に限られない。少なくとも1つの第3の液抜開口部44が設けられていればよく、その他の任意の数の第3の液体開口部44を設けることができる。
【0035】
(キャップに設けられた第4の液抜開口部)
図4から図7に示すように、キャップ式のその他の実施形態に係る筆記具2では、キャップ4に、内外面を貫通する第4の液抜開口部46が2つ設けられている。この第4の液抜開口部46により、キャップ4内の液体を容易に外部に排出することができる。なお、キャップ4に設けられる第4の液抜開口部46の数は2に限られない。少なくとも1つの第4の液抜開口部46が設けられていればよく、その他の任意の数の第4の液体開口部46を設けることができる。
【0036】
(液抜開口部の形状)
図1から図9に示されるように、第1の液抜開口部40は、軸筒20の軸方向に延びた長穴形状を有する。液体を外部へ排出する観点からは開口の面積は大きい方が良いが、一方、開口の面積を大きくすると、軸筒20の前端領域24の強度が低下する虞がある。そこで、開口の周方向の寸法は抑制し、軸方向の長さを伸ばすことにより、軸筒20の前端領域24の強度を確保しながら、液体を排出する開口の面積を大きくすることができる。更に、液体が軸方向に進んで第1の液抜開口部40を通過する場合(図9参照)、第1の液抜開口部40が軸方向に延びた長穴形状である方が、液体がより干渉少なく第1の液抜開口部40を通過することができる。
【0037】
同様に、図1から図3に示すように、第2の液抜開口部42A、42Bも、軸筒20の軸方向に延びた長穴形状を有する。また、第3の液抜開口部44も、軸筒20(ノック体32)の軸方向に延びた長穴形状を有する。更に、図4から図7に示すように、第4の液抜開口部46も、キャップ4の軸方向に延びた長穴形状を有する。何れの液抜開口部42A、42B、44、46においても、開口の周方向の寸法を抑制し、軸方向の長さを伸ばすことにより、外殻の強度を確保しながら、液体を排出する開口の面積を大きくすることができる。
【0038】
以上のように、何れの液抜開口部40、42A、42B、44、46においても、軸方向に延びた長穴形状を有することにより、外殻の強度を確保しながら、液体をより容易に外部へ排出する開口を得ることができる。
なお、長穴形状のアスペクト比として、長辺方向の長さが短辺方向の長さの2~8倍程度有するのが好ましい。
【0039】
図9図10に示すように、第1の液抜開口部40は、傾斜内面24A側よりも傾斜外面24B側が大きい外側に拡がった形状を有する。第2の液抜開口部42A、42B、第3の液抜開口部44及び第4の液抜開口部46も、同様に、内面側よりも外面側が大きい外側に拡がった形状を有する。
【0040】
何れの液抜開口部40、42A、42B、44、46においても、開口が外側に拡がった形状を有することにより、液体の流動抵抗を減らして、液体を開口からより排出し易くすることができる。また、金型を用いた射出成形で外殻を形成する場合においても、開口を外側に拡がった形状にすることにより、金型を取り外し易くすることができる。
【0041】
(その他の好ましい形態)
上記の実施形態に係る軸筒20の内面に撥水層が形成されていることが好ましい。例えば、軸筒20の内面にフッ素樹脂をコーティングすることにより、撥水層を形成することができる。撥水層で軸筒20の内面の液体をはじくことにより、より確実に液抜開口部40、42A、42Bから外部へ液体を排出することができる。
【0042】
また、洗浄時に取り外す筆記体10を除く筆記具2の部材は、樹脂またはステンレスで形成されていることが好ましい。筆記体10を取り外して筆記具2を洗浄した場合、部材が樹脂またはステンレスで形成されている場合には、錆びることなく筆記具を長期間使用することができる。
【0043】
(毛細管現象が生じる溝)
次に、図11を参照しながら、筆記具2の軸筒20に設けられた毛細管現象が生じる溝50について説明を行う。図11は、軸筒を半割にして、本発明に係る筆記具の軸筒の内面に設けられた溝の一例を模式的に示す図である。図11の(a)は、半割になった軸筒20の全体を示す図であり、(b)は、(a)の断面A-Aを示す断面図である。
軸筒20の内面20Aには、軸筒20の軸方向に延びる微細な溝50が設けられている。溝50の幅Wとして、0.05~0.5mmを例示することができる。微細な溝50は、万年筆の櫛溝と同様に、毛細管現象により軸筒20内の液体を引き込んで保持することができる。
【0044】
このように、毛細管現象により液体を引き込んで保持する溝50を設けることにより、仮に液体が軸筒20内に残った状態で筆記を行った場合でも、液体が紙面等に落ちるのを防ぐことができる。
なお、毛細管現象により液体を引き込む溝50の機能を考慮すると、溝50には上記の撥水層を形成しないことが好ましい。例えば、軸筒20の内面にフッ素樹脂をコーティングするとき、溝50にマスクを施して、フッ素樹脂が溝50に付着しないようにするのが好ましい。
【0045】
図11に示す例では、周方向において、第1の液抜開口部40及第2の液抜開口部42A、42Bの位置が一致しており、溝50により、第1の液抜開口部40及第2の液抜開口部42Aの間を繋ぐとともに、第2の液抜開口部42A及び第2の液抜開口部42Bの間も繋いでいる。
【0046】
このように、溝50が液抜開口部40、42A、42Bに繋がっているので、毛細管現象により引き込んだ液体を、液抜開口部40、42A、42Bを介して効果的に外部へ排出することができる。
【0047】
(筆記具の洗浄方法)
次に、上記の実施形態に係る筆記具2を洗浄する方法を簡潔に説明する。
洗浄するには、
(1)筆記具2から筆記体10を取り外す第1の工程を行い、
(2)筆記体10が取り外された筆記具2を、洗剤を含む液体で洗浄する第2の工程を行い、
(3)軸筒20の内部に残る液体を、液抜開口部40、42A、42B、44、46を含む開口部から軸筒20の外部へ排出する第3の工程を行い、軸筒20内の液体が除去された後、
(4)筆記体10を筆記具に装着する第4の工程を行う。
【0048】
このように、液抜開口部40、42A,B、44,46を用いて、軸筒20内の液体を排出することにより、効率的に筆記具2の洗浄を行うことができる。
【0049】
本発明に係る筆記具は、上記の実施形態に限定されるものでななく、中空の軸筒を有するものであれば、その他の任意の筆記体が含まれる。本発明の実施の形態、実施の態様を説明したが、開示内容は構成の細部において変化してもよく、実施の形態、実施の態様における要素の組合せや順序の変化等は請求された本発明の範囲および思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【符号の説明】
【0050】
2 筆記具
4 キャップ
10 筆記体
12 インキ収容筒
14 筆記先端部
16 受け面
20 軸筒
20A 内面
22 前端開口部
24 前端領域
24A 傾斜内面
24B 傾斜外面
26 受け面
30 出没機構
32 ノック体
34 回転カム
40 第1の液抜開口部
42A、42B 第2の液抜開口部
44 第3の液抜開口部
46 第4の液抜開口部
50 溝
60 弾発体
102 筆記具
120 軸筒
122 前端開口部
124 前端領域
124A 傾斜内面
F 遠心力
G 中心軸
S 表面張力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11