(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】地中試料採取装置
(51)【国際特許分類】
E02D 5/50 20060101AFI20240603BHJP
【FI】
E02D5/50
(21)【出願番号】P 2020182463
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000179915
【氏名又は名称】ジェコス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健治
(72)【発明者】
【氏名】黒田 裕規
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-076200(JP,A)
【文献】特開2012-082617(JP,A)
【文献】実開昭58-186456(JP,U)
【文献】特開昭58-044124(JP,A)
【文献】実開平03-088142(JP,U)
【文献】実開昭53-035904(JP,U)
【文献】登録実用新案第3221101(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2015/0027696(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/00-3/115
E02D 5/22-5/80
E02D 7/00-13/10
G01N 1/00-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレボーリングされた杭孔に挿入され、そのまま前記杭孔に設置される既製杭または芯材に取り付けられ、前記既製杭または芯材と共に前記杭孔に挿入され、かつ前記杭孔の底部に注入された根固め材の一部を未固化試料として採取する試料採取器と、前記試料採取器を前記杭孔の底部から回収する引揚げ用ウィンチを備えてなる地中試料採取装置であって、前記試料採取器は、筒状に形成され、
前記既製杭または芯材の側面部に脱着可能に取り付けられる採取器本体と、
前記採取器本体の上部開口部と下部開口部にそれぞれ取り付けられ、
前記採取器本体が前記根固め材の中を下降し
て前記根固め材の一部を採取する間開き、
前記採取器本体が上昇
して回収される間閉じる天蓋および底蓋と、
前記採取器本体の試料を溜め込むタンク部分と仕切られた部分に内蔵され、前記採取器本体を
前記既製杭または芯材の側面部に脱着可能に取り付ける電磁石を備え、かつ地上からの通電により前記電磁石の磁力によって前記採取器本体が前記既製杭または芯材の側面部に脱着可能に取り付くように構成されていることを特徴とする地中試料採取装置。
【請求項2】
請求項1記載の地中試料採取装置において、前記電磁石に通電しかつ通電を遮断するリモート操作手段を備えていることを特徴とする地中試料採取装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の地中試料採取装置において、前記底蓋は、前記採取器本体に内蔵された電磁石によって開き、かつ前記採取器本体に取り付けられたばねによって閉じるように取り付けられていることを特徴とする地中試料採取装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の地中試料採取装置において、前記採取器本体は、前記底蓋の開閉を知らせる開閉センサーを備えていることを特徴とする地中試料採取装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の地中試料採取装置において、前記採取器本体の下部開口部に格子が取り付けられていることを特徴とする地中試料採取装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の地中試料採取装置において、前記採取器本体の底部に前記試料採取器内に採取された根固め材を取り出す試料取出しバルブが取り付けられていることを特徴とする地中試料採取装置。
【請求項7】
プレボーリングされた杭孔に挿入され、そのまま前記杭孔に設置される既製杭または芯材に取り付けられ、前記既製杭または芯材と共に前記杭孔に挿入され、かつ前記杭孔の底部に注入された根固め材の一部を未固化試料として採取する試料採取器と、前記試料採取器を前記杭孔の底部から回収する引揚げ用ウィンチを備え、前記試料採取器は筒状に形成され、前記既製杭または芯材の側面部に脱着可能に取り付けられる採取器本体と、前記採取器本体の上部開口部と下部開口部にそれぞれ取り付けられ、前記採取器本体が前記根固め材の中を下降して前記根固め材の一部を採取する間開き、前記採取器本体が上昇して回収される間閉じる天蓋および底蓋と、前記採取器本体の試料を溜め込むタンク部分と仕切られた部分に内蔵され、前記採取器本体を前記既製杭または芯材の側面部に脱着可能に取り付ける電磁石を備え、かつ地上からの通電により前記電磁石の磁力によって前記採取器本体が前記既製杭または芯材の側面部に脱着可能に取り付くように構成されてなる地中試料採取装置を用いて前記杭孔の底部に注入された根固め材の一部を未固化試料として採取する地中試料の採取方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする地中試料の採取方法。
(1)前記電磁石に通電して前記採取器本体を前記既製杭または芯材の側面部に取り付ける工程。
(2)前記既製杭または芯材を前記試料採取器と共に前記杭孔内に挿入して前記杭孔底部に注入された根固め材の一部を採取する工程。
(3)前記電磁石への通電を遮断して前記採取器本体を前記既製杭または芯材の側面部から切り離す工程。
(4)前記ウィンチを作動させて前記試料採取器を前記杭孔から引き揚げ地上に回収する工程。
(5)前記既製杭または芯材を前記杭孔内にそのまま本設する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレボーリングされた杭孔の底部に注入された根固め材の一部を未固結試料として採取するために用いられる地中試料採取装置に関し、杭孔が深い場合でも根固め材の一部を未固結試料として確実にかつ容易に採取できるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
プレボーリングされた杭孔内に既製杭やソイルセメント柱列壁の芯材などを設置するプレボーリング工法においては、通常、プレボーリングされた杭孔の底部について、既製杭や芯材が自重等で沈まないように事前に根固め材を注入して根固め処理がなされる(
図5(a),(b)、6参照)。
【0003】
図5(a),(b)は、それぞれ構台杭とソイル柱列癖の根固め処理を図示したものであり、また、
図6は構台・山留の設置例を図示したものである。
【0004】
また、杭孔の底部に注入された根固め材については、杭施工の品質管理の一環として、一部を未硬化の状態で採取して計画通りの配合で注入されているか等の、根固め部の性能調査がなされる。
【0005】
従来、杭孔の底部に注入された根固め部の未固化試料の採取は、既製杭や芯材の先端部に試料採取器を取り付け、当該試料採取器を前記既製杭や芯材と共に杭孔の底部に挿入し、前記杭孔底部の根固め材の一部を前記試料採取器に採取した後、杭孔より既製杭や芯材を引き抜いて前記試料採取器を回収することにより行っていた。
【0006】
また、特許文献1には、杭孔底部の充填物を一時的に収納する収納タンクと当該収納タンクに形成された充填物の採取口と当該採取口を開閉する採取蓋と当該採取蓋を移動させるアクチュエータを備えた採取装置の発明が開示されている。
【0007】
特に、アクチュエータには地上からの操作が可能な油圧アクチュエータが用いられ、充填物の採取口は当該採取装置の外周よりも内側に形成されている。また、収納タンクの底部に、当該収納タンクに一時的に収納された充填物を取り出すための取出し口と当該取出し口を開閉する取出し蓋が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-1797号公報
【文献】特許第4478351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、既製杭や芯材の先端部に試料採取器を取り付けて、杭孔底部の根固め材の一部を採取する方法は、杭孔底部の根固め材の一部を採取するために、杭孔内に挿入した既製杭または芯材を一度引き抜きいた後、再び挿入する必要があるため作業性が非常に悪いという課題があった。
【0010】
また、杭孔が深いと、希望する深さの未固化試料を的確に採取できているか不確定なだけでなく、未固化試料の採取中に孔壁が崩壊して、既製杭または芯材の再度の挿入ができなくなるおそれがあった。また、既製杭または芯材を杭孔から引き揚げるクレーンの引き揚げ能力が杭孔の深さを超えてしまうと、根固め材の採取ができなくなるという課題があった。
【0011】
さらに、既製杭、芯材のいずれも継手を設けると、杭長に関わらず杭孔から引き抜くのが困難になり、杭孔底部の根固め材の採取が非常に困難になるという課題があった。
【0012】
一方、特許文献1に開示された採取装置は、採取口を開閉する採取蓋が油圧アクチュエータで作動する構造になっているため、油圧系統を備え、簡便な装置とはいえず取扱いが面倒であった。
【0013】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、特に杭孔が深い場合でも、希望する深度における杭孔底部の根固め材の一部を未固化試料として確実にかつ容易に採取できる地中試料採取装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、杭孔に設置される既製杭または芯材に取り付けられ、前記既製杭または芯材と共に前記杭孔に挿入され、かつ前記杭孔の底部に注入された根固め材の一部を未固化試料として採取する試料採取器と、前記試料採取器を前記杭孔の底部から回収するウィンチとを備えてなる地中試料採取装置の発明であり、前記試料採取器は、筒状に形成された採取器本体と、当該採取器本体の上部開口部と下部開口部にそれぞれ取り付けられ、前記根固め材の中を下降する間開き、上昇する間閉じる天蓋および底蓋とを備え、かつ前記採取器本体に内蔵された電磁石によって前記既製杭または芯材に吸着し、前記電磁石への通電が遮断されることにより前記既製杭または芯材から離れるように構成されていることを特徴とするものである。
【0015】
前記電磁石に通電しかつ通電を遮断するためのリモート操作手段が備えてあれば、既製杭または芯材と共に杭孔の底部に挿入された試料採取器を、地上からの遠隔操作により既製杭または芯材から簡単に切り離すことができ、また底蓋を簡単に閉めることができる。
【0016】
前記底蓋は、前記採取器本体に内蔵された電磁石によって開き、前記採取器本体に取り付けられたばねによって閉じるように取り付けてあれば、底蓋の開閉を確実に行うことができる。さらに、前記底蓋の開閉を知らせる開閉センサーを備えていることであれば、底蓋の開閉を地上において確認することができる。
【0017】
また、前記採取器本体の下部開口部に格子が取り付けてあれば、未固化試料として採取される根固め材に土塊などの混入を回避することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれは、試料採取器が、プレボーリングされた杭孔に設置される既製杭または芯材の先端部に電磁石によって取り付けられているため、既製杭または芯材と共に前記杭孔の底部に挿入して杭孔底部の根固め材の一部を採取した後、前記電磁石への通電を遮断することにより、試料採取器のみを地上に引き上げて回収することができ、これにより深い杭孔底部に注入された根固め材であっても、その一部を未固化試料として確実かつ容易に採取することができる。
【0019】
また、既製杭または芯材の杭孔への挿入は、試料採取器と共に挿入する当初の一回でよいので、試料採取時の孔壁崩壊等によって既製杭または芯材の設置が困難になる等の問題が発生することもない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態であり、図(a)は芯材の側面部に取り付けられた試料採取器と当該試料採取器を杭孔の底部から引揚げるウィンチを示す縦断面図、図(b)、(c)はそれぞれ、試料採取器の平面図と底面図である。
【
図2】図(a)~(c)は、杭孔底部に注入された根固め材の中における底蓋と天蓋の動作を示す試料採取器の縦断面図である。
【
図3】図(a)~(c)は、プレボーリングされた杭孔の底部に注入された根固め材の一部を未固化試料として採取する方法の手順を示す説明図である。
【
図4】図(a)~(c)は、プレボーリングされた杭孔の底部に注入された根固め材の一部を未固化試料として採取する方法の手順であり、
図3(a)~(c)の手順に続く説明図である。
【
図5】図(a),(b)は、それぞれ構台杭とソイル柱列癖の根固め処理を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1~
図4は、本発明の一実施形態であり、地中試料採取装置1は、既製杭または芯材(以下「芯材」)Aの先端部に脱着可能に取り付けられ、プレボーリングされた杭孔Bの底部に芯材Aと共に挿入される試料採取器2と、当該試料採取器2を杭孔Bの底部から地上に回収するウィンチ3とから構成されている。
【0022】
試料採取器2は、平面視矩形状に形成されかつ縦長の筒状に形成された採取器本体2aと、当該採取器本体2aの下部開口部と上部開口部にそれぞれ取り付けられた底蓋2bおよび天蓋2cとから縦長の箱状に形成され、特に下部開口部には格子が取り付けられている。
【0023】
底蓋2bは採取器本体2aの下部開口部に、天蓋2cは採取器本体2aの上部開口部にそれぞれ回転軸2dを軸に上方にハッチ状に開閉可能に取り付けられ、また、採取器本体2aの芯材Aと対向する側の内側に複数の電磁石4が内蔵されている。
【0024】
さらに、採取器本体2aの下端部に底蓋2bの開閉を感知する開閉センサー5と、採取器本体2a内に採取され根固め材を取り出す試料取出しバルブ6がそれぞれ取り付けられている。
【0025】
また、採取器本体2aの上端部に吊りピース7が取り付けられ、
当該吊りピース7にウィンチ3から繰り出された引揚げ用ワイヤー8の端部が結束されている。
【0026】
電磁石4は、採取器本体2aの試料を溜め込むタンク部分とは完全に仕切られた部分に内蔵され、地上からの通電により磁力を発生し、これにより試料採取器2が芯材Aの側面部にくっ付き、かつ底蓋2bが回転軸2dを軸に上方に回転してハッチ状に開くようになっている。また、地上からの通電を遮断することにより、試料採取器2は芯材Aの側面部から離れ、底蓋2bが閉まって下部開口部を塞ぐようになっている。
【0027】
なお、底蓋2bは自重で閉まるように取り付けられていてもよく、またバネ等によって強制的に閉まるように取り付けられていてもよい。
【0028】
このような構成において、試料採取器2が芯材Aの側面部にくっ付き、かつ底蓋2bが開いた状態で芯材Aと共に杭孔底部の根固め材Cの中を下降すると、採取器本体2aの下部開口部から根固め材Cが採取器本体2a内に採り込まれる(
図3(a)~(c)参照)。この場合、採取器本体2aの下部開口部に格子が取り付けられていることで、根固め材Cに混入した土塊などは除去される。
【0029】
また、底蓋2bが閉じて、試料採取器2が芯材Aの側面部から離れ、根固め材Cの中を上昇すると同時に天蓋2cが閉じることにより、試料採取器2に採り込まれた根固め材Cは試料採取器2から漏れることなく採取される(
図4(a)~(c)参照)。
【0030】
さらに、底蓋2bが閉まると開閉センサー5が感知して、地上のアラーム(図示省略)が鳴るかまたはLEDランプ(図示省略)が点灯することにより、底蓋2bが閉じたことの確認が可能になる。
【0031】
次に、本発明の試料採取装置1を用いて杭孔Bの底部に注入された根固め材Cの一部を未硬化試料として採取する方法の手順を説明する(
図3,4参照)。
【0032】
(1)最初に、電磁石4に通電して試料採取器2を芯材Aの側面部にくっ付け、また、底蓋2bを全開に開け、かつ試料放出バルブ6を閉める(
図3(a)参照)。
【0033】
(2)次に、芯材Aをプレボーリングされた杭孔B内に試料採取器2と共に挿入する(
図3(b)~(c)参照)。試料採取器2が杭孔底部の根固め材Cの中を下降すると同時に、杭孔底部の根固め材Cの一部が下部開口部から採取器本体2a内に流入する。この場合、地上のウィチ6から引揚げ用ワイヤー8を杭孔B内に繰り出すことにより、試料採取器2はその自重により杭孔Bおよび杭孔底部の根固め材Cの中を下降する。
【0034】
(3)次に、芯材Aの下端部が杭孔Bの底部に到達したら、電磁石4への通電を遮断する。電磁石4への通電を遮断すると、試料採取器2は芯材Aの側面部から離れる。また、底蓋2bが閉じて採取器本体2aの下部開口部は閉じる(
図4(a),(b)参照)。この場合、地上でアラームが鳴るか、或はLEDランプが点燈することにより底蓋2bが閉じたことを確認することができる。
【0035】
(4)次に、ウィンチ3を作動させて、引揚げ用ワイヤー8を巻き上げることにより試料採取器2を杭孔Bから地上に引き揚げて回収する(
図4(c)参照)。これにより杭孔Bの底部に注入された中詰め材Cの一部を試料採取器2内に未固化試料として確実に採取することができる(
図4(c)参照)。
【0036】
試料採取器2内に採取された根固め材Cは、試料取出しバルブ6を開けて取り出すことができる。また、芯材Aはそのまま杭孔B内に本設することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、プレボーリングされた杭孔が深い場合でも、当該杭孔の底部に注入された根固め材の一部を未固化試料として確実かつ容易に採取することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 地中試料採取装置
2 試料採取器
2a 採取器本体
2b 底蓋
2c 天蓋
2d 回転軸
3 ウィンチ(引揚げ用ウィンチ)
4 電磁石
5 開閉センサー
6 試料取出しバルブ
7 吊りピース
8 引揚げ用ワイヤー
A 芯材(既製杭または芯材)
B 杭孔
C 根固め材