(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】合わせガラス、及び車両システム
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20240603BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20240603BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
C03C27/12 L
B32B17/10
B60J1/00 H
(21)【出願番号】P 2020527122
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2020014632
(87)【国際公開番号】W WO2020203986
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2019069117
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】中山 和彦
(72)【発明者】
【氏名】野原 敦
(72)【発明者】
【氏名】伊井 大三
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/115626(WO,A1)
【文献】特開2015-097087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/12,
B32B 17/06-17/10,
B60J 1/00,
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面からの波長900~1300nmにおける平均透過率をTAとし、かつ他方の面の入射角60°の波長900~1300nmにおける最大反射率をRAとすると、以下の式(1)を用いて計算されるT/R比(A)が1より大き
く、
第1及び第2のガラス板と、前記第1及び第2のガラス板の間に配置される中間膜を備え、
前記中間膜が、車外側に配置される第1の樹脂層と、車内側に配置される第2の樹脂層と、前記第1及び第2の樹脂層の間に設けられる赤外線反射層とを備え、
前記第1の樹脂層が、最大吸収波長ピークが900~1300nmである第1の赤外線吸収剤を含み、
前記赤外線反射層が金属箔付き樹脂フィルムである合わせガラス。
T/R比(A)=log10(TA/100)/log10(RA/100)・・・(1)
【請求項2】
一方の面からの波長900~1000nmにおける平均透過率をT1とし、かつ他方の面の入射角60°の波長900~1000nmにおける最大反射率をR1とすると、以下の式(2-1)により計算されるT/R比(1)が1より大き
く、
第1及び第2のガラス板と、前記第1及び第2のガラス板の間に配置される中間膜を備え、
前記中間膜が、車外側に配置される第1の樹脂層と、車内側に配置される第2の樹脂層と、前記第1及び第2の樹脂層の間に設けられる赤外線反射層とを備え、
前記第1の樹脂層が、最大吸収波長ピークが900~1300nmである第1の赤外線吸収剤を含み、
前記赤外線反射層が金属箔付き樹脂フィルムである合わせガラス。
T/R比(1)=log10(T1/100)/log10(R1/100)・・・(2-1)
【請求項3】
一方の面からの波長1000~1100nmにおける平均透過率をT2とし、かつ他方の面の入射角60°の波長1000~1100nmにおける最大反射率をR2とすると、以下の(2-2)より計算されるT/R比(2)が1より大き
く、
第1及び第2のガラス板と、前記第1及び第2のガラス板の間に配置される中間膜を備え、
前記中間膜が、車外側に配置される第1の樹脂層と、車内側に配置される第2の樹脂層と、前記第1及び第2の樹脂層の間に設けられる赤外線反射層とを備え、
前記第1の樹脂層が、最大吸収波長ピークが900~1300nmである第1の赤外線吸収剤を含み、
前記赤外線反射層が金属箔付き樹脂フィルムである合わせガラス。
T/R比(2)=log10(T2/100)/log10(R2/100)・・・(2-2)
【請求項4】
一方の面からの波長1100~1200nmにおける平均透過率をT3とし、かつ他方の面の入射角60°の波長1100~1200nmにおける最大反射率をR3とすると、以下の式(2-3)により計算されるT/R(3)比が1より大き
く、
第1及び第2のガラス板と、前記第1及び第2のガラス板の間に配置される中間膜を備え、
前記中間膜が、車外側に配置される第1の樹脂層と、車内側に配置される第2の樹脂層と、前記第1及び第2の樹脂層の間に設けられる赤外線反射層とを備え、
前記第1の樹脂層が、最大吸収波長ピークが900~1300nmである第1の赤外線吸収剤を含み、
前記赤外線反射層が金属箔付き樹脂フィルムである合わせガラス。
T/R比(3)=log10(T3/100)/log10(R3/100)・・・(2-3)
【請求項5】
一方の面からの波長1200~1300nmにおける平均透過率をT4とし、かつ他方の面の入射角60°の波長1200~1300nmにおける最大反射率をR4とすると、以下の式(2-4)により計算されるT/R比(4)が1より大き
く、
第1及び第2のガラス板と、前記第1及び第2のガラス板の間に配置される中間膜を備え、
前記中間膜が、車外側に配置される第1の樹脂層と、車内側に配置される第2の樹脂層と、前記第1及び第2の樹脂層の間に設けられる赤外線反射層とを備え、
前記第1の樹脂層が、最大吸収波長ピークが900~1300nmである第1の赤外線吸収剤を含み、
前記赤外線反射層が金属箔付き樹脂フィルムである合わせガラス。
T/R比(4)=log10(T4/100)/log10(R4/100)・・・(2-4)
【請求項6】
赤外線モニタリングシステムにおいて用いられる合わせガラスであり、
前記赤外線モニタリングに使用される赤外線光源の最大発光波長の±50nmにおける一方の面からの平均透過率をTBとし、かつ他方の面の入射角60°の前記最大発光波長の±50nmにおける最大反射率をRBとすると、以下の式(3)により計算されるT/R比(B)が1より大き
く、
第1及び第2のガラス板と、前記第1及び第2のガラス板の間に配置される中間膜を備え、
前記中間膜が、車外側に配置される第1の樹脂層と、車内側に配置される第2の樹脂層と、前記第1及び第2の樹脂層の間に設けられる赤外線反射層とを備え、
前記第1の樹脂層が、最大吸収波長ピークが900~1300nmである第1の赤外線吸収剤を含み、
前記赤外線反射層が金属箔付き樹脂フィルムである合わせガラス。
T/R比(B)=log10(TB/100)/log10(RB/100)・・・(3)
【請求項7】
前記赤外線吸収剤が、遮熱粒子を含む請求項
1~6のいずれか1項に記載の合わせガラス。
【請求項8】
車両本体に設けられる請求項1~
7のいずれか1項に記載の合わせガラスと、
前記車両本体内部に設けられ、かつ赤外線を出射する光源と、
前記車両本体内部に設けられ、かつ前記赤外線が照射された被観察体からの反射光を受光する受光手段とを備え、
前記受光手段により受光した反射光により被観察体の状態を検知する、車両システム。
【請求項9】
前記車両が自動車であり、前記合わせガラスが、フロントガラス、サイドガラス、及びリアガラスのいずれかを構成する請求項
8に記載の車両システム。
【請求項10】
前記合わせガラスが、前記フロントガラスを構成する請求項
9に記載の車両システム。
【請求項11】
前記受光した反射光により前記被観察体の顔を認識する顔認識システムをさらに備える請求項
8~
10のいずれか1項に記載の車両システム。
【請求項12】
前記被観察体からの反射光を、前記合わせガラスによる反射を介して前記受光手段に受光させる請求項
8~
11のいずれか1項に記載の車両システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラス及び合わせガラスを有する車両システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の窓ガラスは、2枚のガラス板の間に、中間膜を介在させ一体化させた合わせガラスが広く使用されている。中間膜は、ポリビニルアセタール樹脂に可塑剤が配合された可塑化ポリビニルアセタールより形成されることが多い。合わせガラスは、外部衝撃を受けて破損してもガラスの破片が飛散することが少なく安全性が高められている。
【0003】
従来、自動車に使用される合わせガラスは、太陽光などの外光により自動車内部が高温になりすぎることを防止するために遮熱性を向上させることが求められている。そのため、合わせガラス用中間膜に、遮熱効果の高い有機色素、金属酸化物粒子などを配合したり、赤外線反射層を設けたりすることが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。さらには、赤外線反射層と、赤外線吸収層からなる機能性プラスチックフィルムが設けられることも知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
一方、自動車の自動運転システムの開発が近年進められており、現在、いわゆるLEVEL3(条件付運転自動化)での実用化が進められている。LEVEL3の自動運転システムは、稼働中においても、緊急時などシステムからの要請があれば運転者が操作を行う必要がある。そのため、運転手が操作可能な状態で乗車していることをモニタリングすることが重要である。
モニタリングシステムとしては、赤外線をドライバーの顔に照射して、反射光を赤外線カメラで撮影することで、ドライバーの顔認識する技術が提案されている。赤外線は、人の眼には認識できず、かつ人の肌で反射されやすい近赤外域の波長が用いられる。これにより、ドライバーの着座の有無、視線の向き、居眠り運転していないか、またその前兆がないかなどを判断できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2015/115627号公報
【文献】国際公開2014/200108号公報
【文献】国際公開2010/098287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、赤外光は、太陽光など車外から侵入する外光にも含まれる。そのため、モニタリングシステムを適用した場合に、車外からの赤外光がドライバーの顔に照射されるとノイズとなり、また、場合によっては光量過剰によるハレーションが起こり、顔認識の障害となる。なお、ハレーションとは、光線が強すぎたために、カメラの検出感度を超え、観察像が不鮮明になることをいう。
特許文献1~3に示すように、中間膜中に有機色素や金属酸化物粒子を配合したり、赤外線反射層や赤外線吸収層を設けたりすると、赤外光は、中間膜によって吸収ないし反射され、車外からドライバーの顔に照射されることが防止される。
【0007】
しかしながら、顔認識システムにおいて使用する赤外線光源(例えば、LED)の波長は、人の皮膚の赤外線反射波長から、900~1300nmの近赤外線を使用することが望ましい。このような波長の光は、従来の遮熱を目的とした有機色素、金属酸化物粒子などでは十分に反射、遮蔽できずに、監視システムにおけるノイズやハレーションが十分に防止できないおそれがある。
【0008】
さらに、顔認識システムに使用する赤外線光源は、ダッシュボードに設置させるために、一旦フロントガラスなどの窓ガラスで反射させたうえで人の顔に照射することが検討されている。同様に、赤外線で照射された被写体を観察するための赤外線カメラもダッシュボードに設置させることが検討されている。ダッシュボードに設置された赤外線カメラによって、被写体を観察するためには、赤外線を合わせガラスで反射させたうえで、赤外線カメラに入射させることが望ましい。しかし、従来の合わせガラスは、車内側で赤外線を反射させることが想定されておらず、赤外線が適切に反射できずに、モニタリングが適切に行えないおそれがある。
【0009】
そこで、本発明は、自動車などの各種車両において、赤外光モニタリングシステムを導入しても、赤外光によりモニタリングが適切に行える合わせガラスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、赤外の所定波長領域における、一方の面からの平均透過率と、他方の面における入射角60°の最大反射率の関係を一定の関係とすることで、上記課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[16]を提供する。
[1]一方の面からの波長900~1300nmにおける平均透過率をTAとし、かつ他方の面の入射角60°の波長900~1300nmにおける最大反射率をRAとすると、以下の式(1)を用いて計算されるT/R比(A)が1より大きい合わせガラス。
T/R比(A)=log10(TA/100)/log10(RA/100)・・・(1)
[2]一方の面からの波長900~1000nmにおける平均透過率をT1とし、かつ他方の面の入射角60°の波長900~1000nmにおける最大反射率をR1とすると、以下の式(2-1)により計算されるT/R比(1)が1より大きい合わせガラス。
T/R比(1)=log10(T1/100)/log10(R1/100)・・・(2-1)
[3]一方の面からの波長1000~1100nmにおける平均透過率をT2とし、かつ他方の面の入射角60°の波長1000~1100nmにおける最大反射率をR2とすると、以下の(2-2)より計算されるT/R比(2)が1より大きい合わせガラス。
T/R比(2)=log10(T2/100)/log10(R2/100)・・・(2-2)
[4]一方の面からの波長1100~1200nmにおける平均透過率をT3とし、かつ他方の面の入射角60°の波長1100~1200nmにおける最大反射率をR3とすると、以下の式(2-3)により計算されるT/R(3)比が1より大きい合わせガラス。
T/R比(3)=log10(T3/100)/log10(R3/100)・・・(2-3)
[5]一方の面からの波長1200~1300nmにおける平均透過率をT4とし、かつ他方の面の入射角60°の波長1200~1300nmにおける最大反射率をR4とすると、以下の式(2-4)により計算されるT/R比(4)が1より大きい合わせガラス。
T/R比(4)=log10(T4/100)/log10(R4/100)・・・(2-4)
[6]赤外線モニタリングシステムにおいて用いられる合わせガラスであり、
前記赤外線モニタリングに使用される赤外線光源の最大発光波長の±50nmにおける一方の面からの平均透過率をTBとし、かつ他方の面の入射角60°の前記最大発光波長の±50nmにおける最大反射率をRBとすると、以下の式(3)により計算されるT/R比(B)が1より大きい合わせガラス。
T/R比(B)=log10(TB/100)/log10(RB/100)・・・(3)
[7]赤外線反射層を備える上記[1]~[6]のいずれか1項に記載の合わせガラス。
[8]第1及び第2のガラス板と、前記第1及び第2のガラス板の間に配置される中間膜を備え、前記中間膜が、赤外線吸収剤を含有する上記[1]~[7]のいずれか1項に記載の合わせガラス。
[9]前記赤外線吸収剤が、最大吸収波長ピークが900~1300nmである第1の赤外線吸収剤を含む上記[8]に記載の合わせガラス。
[10]前記赤外線吸収剤が、遮熱粒子を含む上記[8]又は[9]に記載の合わせガラス。
[11]第1及び第2のガラス板と、前記第1及び第2のガラス板の間に配置される中間膜を備え、
前記中間膜が、一方の面側に配置される第1の樹脂層と、他方の面側に配置される第2の樹脂層と、前記第1及び第2の樹脂層の間に設けられる赤外線反射層とを備え、
第1及び第2の樹脂層の少なくとも一方が赤外線吸収剤を含有する上記[1]~[10]のいずれか1項に記載の合わせガラス。
[12]車両本体に設けられる上記[1]~[11]のいずれか1項に記載の合わせガラスと、
前記車両本体内部に設けられ、かつ赤外線を出射する光源と、
前記車両本体内部に設けられ、かつ前記赤外線が照射された被観察体からの反射光を受光する受光手段とを備え、
前記受光手段により受光した反射光により被観察体の状態を検知する、車両システム。
[13]前記車両が自動車であり、前記合わせガラスが、フロントガラス、サイドガラス、及びリアガラスのいずれかを構成する上記[12]に記載の車両システム。
[14]前記前記合わせガラスが、前記フロントガラスを構成する上記[13]に記載の車両システム。
[15]前記受光した反射光により前記被観察体の顔を認識する顔認識システムをさらに備える上記[12]~[14]のいずれか1項に記載の車両システム。
[16]前記被観察体からの反射光を、前記合わせガラスによる反射を介して前記受光手段に受光させる上記[12]~[15]のいずれか1項に記載の車両システム。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、各種車両において、赤外光モニタリングシステムを導入しても、赤外光によりモニタリングが適切に行える合わせガラスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る合わせガラスの断面図である。
【
図2】本発明の別の一実施形態に係る合わせガラスの断面図である。
【
図3】本発明のさらに別の一実施形態に係る合わせガラスの断面図である。
【
図4】楔形状の中間膜を有する合わせガラスの断面図である。
【
図7】本発明の合わせガラスを有する車両システムの一実施形態を示す模式図である。
【
図8】赤外線カメラ観察試験を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について実施形態を用いて詳細に説明する。
<合わせガラス>
(T/R比)
本発明の合わせガラスは、赤外の所定波長領域における、一方の面からの平均透過率をT、上記所定波長領域における、他方の面における入射角60°の最大反射率をRとすると、以下の式(A)により計算されるT/R比が1より大きくなるものである。
T/R比=log10(T/100)/log10(R/100)・・・(A)
【0015】
上記式(1)において、log10(T/100)、及びlog10(R/100)は、それぞれ、平均透過率(T)、及び最大反射率(R)が小さいほど、絶対値が大きくなるものであり、T/R比が1より大きいことは、合わせガラスの最大反射率(R)が、平均透過率(T)よりも大きいことを意味する。そのため、本発明の合わせガラスは、平均透過率(T)が相対的に小さくなり、合わせガラスの一方の面から入射される所定波長領域における赤外線を十分に遮蔽する。したがって、合わせガラスの一方の面(例えば、車外側の面)より入射される太陽光などの外光に含まれる、所定波長領域の赤外線は、合わせガラスにより十分に遮蔽される。また、合わせガラスは、他方の面(例えば、車内側の面)において、60°の角度で入射された、所定波長領域の赤外線を十分に反射できる。
【0016】
なお、合わせガラスは、第1及び第2のガラス板を有し、各種車両において、第1のガラス板が車外側に、第2のガラス板が車内側に配置される。そして、第1のガラス板の表面が上記一方の面に、また、第2のガラス板が上記他方の面になるとよい。以下の説明においても同様である。
また、反射率の測定において、入射角を60°としたのは、赤外線モニタリングシステムにおいて、モニタリングで使用される赤外線は、一定の角度で傾いて合わせガラスに入射されることが多いためである。
なお、平均透過率(T)、及び最大反射率(R)の測定方法は、具体的には実施例で示すとおりである。
【0017】
本発明の実施形態についてより具体的に説明すると、本発明の一実施形態に係る合わせガラスは、一方の面からの波長900~1300nmにおける平均透過率をTA、他方の面における入射角60°の波長900~1300nmにおける最大反射率をRAとすると、以下の式により計算されるT/R比(A)が1より大きくなるものである。
T/R比(A)=log10(TA/100)/log10(RA/100)・・・(1)
【0018】
自動車などの各種車両内部に、赤外線モニタリングシステムを導入する場合、900~1300nmの赤外光がモニタリングに使用することが望ましい。900~1300nmの赤外光は、人の眼には認識できない一方で、人肌などによって反射されやすく、例えば運転手などの乗員をモニタリングすることに適している。一方で、上記式(1)を満たす合わせガラスは、合わせガラスの一方の面より入射される太陽光などの外光に含まれる、波長900~1300nmの赤外線を合わせガラスにより十分に遮蔽できる。
したがって、上記式(1)を満たす本実施形態の合わせガラスを使用すれば、車両内部に、運転手などをモニタリングするための赤外線モニタリングシステムを導入しても、太陽光などの外光が、モニタリングする際のノイズとなることが防止され、適切なモニタリングが行えるようになる。具体的には、例えば、顔認識システムでは、瞼の動きなどにより、居眠りしているかどうかなどが検知されるが、本実施形態の合わせガラスを使用することで、そのような瞼の動きなども少ないノイズで検知できる。
【0019】
また、赤外線モニタリングシステムにおいて、赤外線は、合わせガラスにより構成される窓ガラスにより反射して使用されることがあるが、本実施形態における合わせガラスは、式(1)を満たすことで、他方の面(すなわち、車内側の面)において、900~1300nmの赤外光を十分に反射できる。そのため、モニタリングするための赤外線を窓ガラスにて反射させて使用する場合でも、赤外線は十分に反射され、高い精度で適切なモニタリングを実現できる。
【0020】
T/R比(A)は、ノイズを減らして、精度の高い赤外線モニタリングを実現するために、2.3より大きいことが好ましく、3.6より大きいことがより好ましく、8より大きいことが好ましい。また、T/R比(A)は、可視光透過率などを十分に高く維持するために、例えば、20以下、好ましくは15以下である。
【0021】
また、本発明の別の一実施形態に係る合わせガラスは、以下の式(2-1)~(2-4)より算出される、T/R比(1)~(4)の少なくともいずれか1つが1より大きくなる。
T/R比(1)=log10(T1/100)/log10(R1/100)・・・(2-1)
T/R比(2)=log10(T2/100)/log10(R2/100)・・・(2-2)
T/R比(3)=log10(T3/100)/log10(R3/100)・・・(2-3)
T/R比(4)=log10(T4/100)/log10(R4/100)・・・(2-4)
【0022】
なお、式(2-1)において、T1は、合わせガラスの一方の面からの波長900~1000nmにおける平均透過率であり、R1は、合わせガラスの他方の面の入射角60°の波長900~1000nmにおける最大反射率である。
式(2-2)において、T2は、合わせガラスの一方の面からの波長1000~1100nmにおける平均透過率であり、R2は、合わせガラスの他方の面の入射角60°の波長1000~1100nmにおける最大反射率である。
式(2-3)において、T3は合わせガラスの一方の面からの波長1100~1200nmにおける平均透過率であり、R3は合わせガラスの他方の面の入射角60°の波長1100~1200nmにおける最大反射率である。
式(2-4)において、T4は合わせガラスの一方の面からの波長1200~1300nmにおける平均透過率であり、R4は合わせガラスの他方の面の入射角60°の波長1200~1300nmにおける最大反射率である。
【0023】
赤外線モニタリングシステムにおいて使用される赤外線光源は、LEDが使用されることが多く、LEDは一般的に発光波長領域が狭い。そのようなLEDを使用して、狭い波長領域の赤外線を選択的に使用する場合などにおいては、T/R比(1)~(4)のいずれか少なくとも1つを1より大きくして、特定の波長領域における赤外線の透過率、反射率を制御することで、少ないノイズで精度の高いモニタリングが実現できるようになる。
【0024】
上記のように、T/R比(1)~(4)の少なくともいずれか1つを1より大きくする場合、赤外線モニタリングシステムで使用する赤外線光源の最大発光波長は、T/R比(1)~(4)の1より大きくなる波長領域中に存在するようにするとよい。すなわち、T/R比(1)が1より大きい場合には、使用する光源の最大発光波長を900~1000nmとするとよい。また、T/R比(2)が1より大きい場合には、使用する光源の最大発光波長を1000~1100nmとするとよい。T/R比(3)が1より大きい場合には、使用する光源の最大発光波長を1100~1200nmとするとよい。T/R比(4)が1より大きい場合には、使用する光源の最大発光波長を1200~1300nmとするとよい。
【0025】
本発明の一実施形態において、合わせガラスは、T/R比(1)~(4)のうち、好ましくは2つ以上、より好ましくは3つ以上が1より大きくなる。このように広範囲の波長領域にわたって、T/R比が1より大きくなると、よりノイズを少なくして、精度の高いモニタリングを実現できる。
また、2つ又は3つのT/R比が1より大きくなる場合、隣接する波長領域のT/R比が1より大きくなることが好ましい。すなわち、T/R比(1)とT/R比(2)、T/R比(2)とT/R比(3)、又は、T/R比(3)とT/R比(4)が1より大きくなることが好ましい。
さらに、T/R比(1)とT/R比(2)とT/R比(3)、あるいは、T/R比(2)とT/R比(3)とT/R比(4)が1より大きくなることがより好ましい。このように、互いに隣接する波長領域のT/R比を1より大きくすると、広範囲の波長領域にわたって連続的にT/R比を大きくできるので、より一層少ないノイズで精度の高いモニタリングが実現できるようになる。また、より一層少ないノイズで精度の高いモニタリングが実現できるようにするためには、T/R比(1)~(4)の全てが1より大きいことが好ましい。
【0026】
上記のようにT/R比(1)~(4)の少なくとも1つが1より大きくなる場合、上記したT/R比(A)は必ずしも1より大きくなる必要はないが、T/R比(A)は1より大きくなることが好ましい。T/R比(1)~(4)の少なくとも1つが1より大きくなって、かつT/R比(A)も1より大きくなることで、より少ないノイズで精度の高いモニタリングが実現しやすくなる。その場合、上記のとおり、T/R比(1)~(4)の少なくとも2つが1より大きくなることがより好ましく、T/R比(1)~(4)の少なくとも3つが1より大きくなることがさらに好ましく、T/R比(1)~(4)の全てが1より大きくなることがよりさらに好ましい。T/R比(1)~(4)の少なくとも2つ又は3つが1より大きくなる場合の具体的な組み合わせは上記のとおりである。
【0027】
本実施形態の合わせガラスにおいて、T/R比(1)は、2.3より大きいことが好ましく、3.6より大きいことがより好ましく、8より大きいことが好ましい。T/R比(1)をこのように大きくすると、ノイズを減らして、適切な赤外線モニタリングを実現でき、特に最大発光波長が900~1000nmの光源を使用した場合により精度の高い赤外線モニタリングを実施できる。また、T/R比(1)は、可視光透過率などを十分に高く維持するために、例えば、20以下、好ましくは15以下である。
【0028】
T/R比(2)は、2.3より大きいことが好ましく、3.6より大きいことがより好ましく、8.0より大きいことが更に好ましい。T/R比(2)をこのように大きくすると、ノイズを減らして、精度の高い赤外線モニタリングを実現でき、特に最大発光波長が1000~1100nmの光源を使用した場合により精度の高い赤外線モニタリングを実施できる。また、T/R比(2)は、可視光透過率などを十分に高く維持するために、例えば、20以下、好ましくは15以下である。
【0029】
T/R比(3)は、2.3より大きいことが好ましく、3.6より大きいことがより好ましく、8.0より大きいことが更に好ましい。T/R比(3)をこのように大きくすると、ノイズを減らして、精度の高い赤外線モニタリングを実現でき、特に最大発光波長が1100~1200nmの光源を使用した場合により精度の高い赤外線モニタリングを実施できる。また、T/R比(3)は、可視光透過率などを十分に高く維持するために、例えば、20以下、好ましくは15以下である。
【0030】
T/R比(4)は、2.3より大きいことが好ましく、3.6より大きいことがより好ましく、8.0より大きいことが更に好ましい。T/R比(4)をこのように大きくすると、ノイズを減らして、精度の高い赤外線モニタリングを実現でき、特に最大発光波長が1200~1300nmの光源を使用した場合により精度の高い赤外線モニタリングを実施できる。また、T/R比(4)は、可視光透過率などを十分に高く維持するために、例えば、20以下、好ましくは15以下である。
【0031】
本発明のさらに別の一実施形態に係る合わせガラスは、赤外線モニタリングシステムにおいて用いられる合わせガラスであり、以下の式(3)により計算されるT/R比(B)が1より大きくなる。
T/R比(B)=log10(TB/100)/log10(RB/100)・・・(3)
式(3)において、TBは、最大発光波長±50nmにおける、合わせガラスの一方の面からの平均透過率であり、RBは、最大発光波長±50nmにおける、合わせガラスの他方の面における入射角60°の最大反射率である。なお、最大発光波長とは、モニタリングに使用される赤外線光源の発光強度が最も高くなる波長である。
【0032】
上記のとおり、赤外線モニタリングシステムにおいて使用される赤外線光源は、LEDが使用されることが多く、LEDは一般的に発光波長領域が狭い。そのため、その光源の最大発光波長及びその近傍の波長領域における、T/R比(B)を1より大きくすることで、少ないノイズで精度の高いモニタリングが実現できるようになる。
【0033】
T/R比(B)は、2.3より大きいことが好ましく、3.6より大きいことがより好ましく、8より大きいことが好ましい。T/R比(B)をこのように大きくすると、ノイズを減らして、精度の高い赤外線モニタリングを実現できる。また、T/R比(B)は、可視光透過率などを十分に高く維持するために、例えば、20以下、好ましくは15以下である。
【0034】
(平均透過率)
本発明において、波長900~1300nmにおける平均透過率TAは、25%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、15%以下がさらに好ましい。平均透過率TAを低くすると、上記したT/R比(A)や、T/R比(1)~(4)、T/R比(B)を1より大きくしやすくなる。また、波長900~1300nmにおける平均透過率TAは、赤外線によるモニタリングを適切に行う観点からは低ければ低いほどよいが、合わせガラスの可視光透過率を高くする観点からは、例えば1%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上である。
【0035】
また、本発明では、上記のように、T/R比(1)~(4)、T/R比(B)が1より大きくなる波長領域における平均透過率T(例えば、T/R比(1)が1より大きくなる場合には、900~1000nmにおける平均透過率T1)は、25%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、15%以下がさらに好ましい。各波長領域の平均透過率Tを低くすると、T/R比(1)~(4)、T/R比(B)を1より大きくしやすくなる。
また、T/R比(1)~(4)、T/R比(B)が1より大きくなる波長領域における平均透過率Tは、赤外線によるモニタリングを適切に行う観点からは低ければ低いほどよいが、合わせガラスの可視光透過率を高くする観点からは、例えば1%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上である。
【0036】
(最大反射率)
波長900~1300nmにおける最大反射率RAは、例えば12%以上、好ましく30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上、特に好ましくは73%以上である。このように最大反射率RAを大きくすると、T/R比(A)や、T/R比(1)~(4)、T/R比(B)を1より大きくしやすくなる。また、波長900~1300nmにおける最大反射率RAは、赤外線によるモニタリングを適切に行う観点からは高ければ高いほどよいが、実用的には95%以下であり、また85%以下でもよい。
【0037】
上記のようにT/R比(1)~(4)、T/R比(B)が1より大きくなる波長領域における最大反射率R(例えば、T/R比(1)が1より大きくなる場合には、900~1000nmにおける最大反射率R1)は、例えば8%以上、好ましく30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上、特に好ましくは73%以上である。このように最大反射率Rを大きくすると、T/R比(1)~(4)、T/R比(B)を1より大きくしやすくなる。
また、T/R比(1)~(4)、T/R比(B)が1より大きくなる波長領域における最大反射率Rは、赤外線によるモニタリングを適切に行う観点からは高ければ高いほどよいが、実用的には95%以下であり、また85%以下でもよい。
【0038】
(可視光透過率)
本発明の合わせガラスにおける可視光透過率(Tv)は、窓ガラスとして好適に使用するために60%以上が好ましく、自動車のフロントガラスに好適に使用するために70%以上がより好ましく、さらに好ましくは75%以上、よりさらに好ましくは80%以上である。一方、可視光透過率は、窓ガラスの透明性の観点から、高ければ高いほどよいが、上記したように所定の赤外波長領域における透過率を低くし、また、遮熱性を高めやすくするためには、99%以下が好ましく、95%以下がより好ましく、92%以下がさらに好ましい。
なお、可視光透過率(Tv)は、JIS R3212(2015)に準拠して測定すればよく、具体的な測定方法は、実施例に示すとおりである。
【0039】
(Tts)
本発明の合わせガラスは、例えば車両内部が太陽光などの外光により加熱されることを防止するために遮熱性を高くすることが望ましい。そのような観点から、合わせガラスのTtsは、例えば、70%以下、好ましくは65%以下、より好ましくは60%以下、さらに好ましくは55%以下である。なお、Ttsは、Total solar energy transmitted through a glazingの略であり、遮熱性を表す指標である。合わせガラスは、Ttsが上記上限値以下とすることで、十分な遮熱性を有する。Ttsは、一定以上の可視光透過率を確保する観点から、例えば30%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは45%以上、さらに好ましくは50%以上である。
また、本発明では、後述するように中間膜に配合される赤外線吸収剤の種類や赤外線反射層の種類などを適宜調整して、透明性を高めつつTtsも低くできるものである。具体的には、可視光透過率を70%以上確保しつつ、Ttsを例えば65%以下、60%以下、あるいは55%以下にできる。なおTtsは、ISO 13837(2008)に準拠して測定すればよく、具体的な測定方法は、実施例に示すとおりである。
【0040】
(Tds(1.5))
Tds(1.5)は、合わせガラスの波長300~2500nmでの日射透過率Tds(1.5)である。本発明の合わせガラスのTds(1.5)は、遮熱性を高めるために、例えば60%以下、好ましくは55%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは45%以下である。また、一定以上の可視光透過率を確保する観点から、例えば20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは35%以上、さらに好ましくは40%以上である。
また、本発明では、上記の通り、透明性を高めつつTds(1.5)も低くできるものであり、具体的には、可視光透過率を70%以上確保しつつ、Tds(1.5)を例えば55%以下、50%以下、あるいは45%以下などにできる。
なお、日射透過率Tds(1.5)は、ISO 13837(2008)に準拠して測定すればよく、具体的な測定方法は、実施例に示すとおりである。
【0041】
次に、本発明の合わせガラスの構成について、詳細に説明する。
合わせガラスは、一対のガラス板(第1及び第2のガラス)と、一対のガラス板の間に配置される中間膜を備える。一対のガラス板は、中間膜によって接着されて合わせガラスを構成する。
【0042】
(赤外線吸収剤)
本発明の合わせガラスは、赤外線吸収剤を好ましくは含有する。合わせガラスは赤外線吸収剤を含有することで、900~1300nmの波長領域における透過率を低くして、上記した各T/R比を1より大きくしやすくなる。また、遮熱性なども向上させやすくなる。赤外線吸収剤は、好ましくは中間膜に含有される。
【0043】
赤外線吸収剤としては、有機色素、遮熱粒子などが挙げられる。有機色素は、金属元素を含む有機色素が好ましい。上記有機色素は、1種単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、有機色素が金属元素を含む場合、その金属元素は、1種単独でもよく、2種以上であってもよい。また、該金属元素は金属酸化物などの化合物の形で含有されていてもよい。
金属元素は、遷移元素であってもよいし、典型金属であってもよい。遷移元素としては、第4族元素、第5族元素、第6族元素、第7族元素、第8族元素、第9族元素、第10族元素、第11族元素、又は第12族元素などが挙げられる。典型金属としては、例えば、第13族元素、第14族元素などが挙げられる。具体的な金属元素としては、銅、亜鉛、バナジウム、スズなどが挙げられる。
【0044】
有機色素としては、フタロシアニン化合物、ナフタロシアニン化合物、アントラシアニン化合物等が挙げられる。
フタロシアニン化合物は、フタロシアニン、又はフタロシアニン骨格を有するフタロシアニン誘導体であり、好ましくはこれらに金属元素が含有される。ナフタロシアニン化合物は、ナフタロシアニン、又はナフタロシアニン骨格を有するナフタロシアニン誘導体であり、好ましくはこれらに金属元素が含有される。アントラシアニン化合物は、アントラシアニン、又はアントラシアニン骨格を有するアントラシアニン誘導体であり、好ましくはこれらに金属元素が含有される。
なお、これら有機色素において、金属元素は、ナフタロシアニン骨格、ナフタロシアニン骨格、アントラシアニン骨格の中心金属となるとよい。
また、有機色素としては、上記した中でも、金属元素を含有するフタロシアニン化合物が好ましい。
【0045】
遮熱粒子は、波長が780nm以上の赤外線、すなわち熱線を吸収することができる材料である。遮熱粒子は、無機材料からなり、その具体例としては、金属酸化物粒子、六ホウ化ランタン(LaB6)粒子等の金属酸化物粒子以外の粒子が挙げられる。金属酸化物粒子としては、アルミニウムドープ酸化錫粒子、インジウムドープ酸化錫粒子、アンチモンドープ酸化錫粒子(ATO粒子)などの酸化錫粒子、ガリウムドープ酸化亜鉛粒子(GZO粒子)、インジウムドープ酸化亜鉛粒子(IZO粒子)、アルミニウムドープ酸化亜鉛粒子(AZO粒子)、錫ドープ酸化亜鉛粒子及び珪素ドープ酸化亜鉛粒子などの酸化亜鉛粒子、ニオブドープ酸化チタン粒子などの酸化チタン粒子、錫ドープ酸化インジウム粒子(ITO粒子)などの酸化インジウム粒子、ナトリウムドープ酸化タングステン粒子、セシウムドープ酸化タングステン粒子(CWO粒子)、タリウムドープ酸化タングステン粒子、ルビジウムドープ酸化タングステン粒子などの酸化タングステン粒子が挙げられる。また、これら以外の遮熱粒子を用いてもよい。遮熱材料は、一種単独で使用しても良いし、2種以上を併用してもよい。
これらの中では、熱線の遮蔽機能が高いため、金属酸化物粒子が好ましく、ATO粒子、GZO粒子、ITO粒子及びCWO粒子から選択される少なくとも1種を使用することがより好ましく、ITO粒子又はCWO粒子を使用することがさらに好ましい。
【0046】
遮熱粒子の平均粒子径の好ましい下限は10nm、より好ましい下限は20nm、好ましい上限は100nm、より好ましい上限は80nm、更に好ましい上限は50nmである。平均粒子径が上記好ましい下限以上となると、熱線の遮蔽性を充分に高めることができる。また、平均粒子径が上記好ましい上限以下であると、遮熱材料によって可視光線を遮蔽しにくくなり、上記した可視光透過率を所定の範囲内に調整しやすくなる。
なお、「平均粒子径」は、体積平均粒子径を示す。平均粒子径は、粒度分布測定装置(日機装社製「UPA-EX150」)等を用いて測定できる。
【0047】
本発明において、赤外線吸収剤の吸収特性を適宜調整することで、上記したT/R比(A),T/R比(1)~(4)、T/R比(B)を1より大きくできる。例えば、最大吸収波長ピークが900~1300nmの範囲内にある赤外線吸収剤(以下、「第1の赤外線吸収剤」ともいう)を使用することで、T/R比(A),T/R比(1)~(4)、T/R比(B)を1より大きくしやすくなる。
具体的には、例えば、最大吸収波長ピークが900~1100nmである第1の赤外線吸収剤を使用することで、T/R比(1)、(2)が1より大きくなりやすくなる。より具体的には、最大吸収波長ピークが1000~1100nmである第1の赤外線吸収剤を使用することで、T/R比(2)が1より大きくなりやすく、最大吸収波長ピークが900~1000nmである第1の赤外線吸収剤を使用することで、T/R比(1)が1より大きくなりやすくなる。さらに、例えば、最大吸収波長ピークが1100~1300nmである第1の赤外線吸収剤を使用することで、T/R比(3)、(4)を低くできる。
【0048】
第1の赤外線吸収剤としては、有機色素を使用すればよく、中でも金属元素を有する有機色素が好ましく、金属元素を有するフタロシアニン化合物がより好ましい。有機色素は、基本骨格に置換される置換基や、金属元素の種類を適宜調整することで、最大吸収波長ピークが調整でき、例えば、フタロシアニン化合物では、フタロシアニン骨格に置換される置換基、中心金属の種類を適宜変更することで、最大吸収波長ピークを900~1300nmの範囲内に調整できる。
第1の赤外線吸収剤は、市販品を使用してもよく、例えば、金属元素を有するフタロシアニン化合物として商品名「TIR-915」(最大吸収波長ピーク:約950nm)、商品名「TX-EX-902K」(最大吸収波長ピーク:1026nm)、商品名「TX-EX-931」(最大吸収波長ピーク:945nm)、商品名「IR-924」(いずれも、株式会社日本触媒製)などが挙げられる。
【0049】
勿論、赤外線吸収剤は、第1の赤外線吸収剤に限定されず、最大吸収波長ピークを780nm以上900nm未満の範囲内にある赤外線吸収剤(以下、「第2の赤外線吸収剤」ともいう)を使用してもよい。第2の赤外線吸収剤としても、上記した中では有機色素、特に金属元素を有する有機色素が好ましく、金属元素を有するフタロシアニン化合物がより好ましい。
第2の赤外線吸収剤は、市販品を使用してもよく、例えば、金属元素を有するフタロシアニン化合物として商品名「イーエスカラー IR-14」(最大吸収波長ピーク:834nm)、商品名「TX-EX-W801」(最大吸収波長ピーク:785nm)(いずれも、日本触媒社製)、商品名「NIR-43V」(山田化学社製)などが挙げられる。
第2の赤外線吸収剤は、典型的には、第1の赤外線吸収剤と併用されるとよいし、あるいは、遮熱粒子と併用されるとよい。
【0050】
なお、赤外線吸収剤の最大吸収波長ピークは以下の方法によって測定できる。クロロホルム100質量部に対して、測定する化合物0.0002~0.002質量部を混合し、クロロホルム溶液を得る。得られるクロロホルム溶液を光路長1.0cmの分光光度計用石英セルへ入れる。自記分光光度計(日立製作所社製「U4100」)を用いて、300~2500nm透過率を測定し、極大吸収波長ピークを求める。極大吸収波長ピークとは、透過率が極小値を示す波長であって、複数存在する場合があるが、その場合、最大吸収波長ピークとは該極小値が最小である波長のことを指す。
【0051】
また、赤外線吸収剤としては、遮熱粒子を使用することも好ましい。遮熱粒子は、900~1300nmの波長領域の赤外線を吸収する性能はそれほど高くないが、熱線や赤外線の入射を効果的に遮蔽することができる。したがって、上記した第1の赤外線吸収剤や、後述する赤外線反射層と併用することで、900~1300nmの透過率を低くしつつ、遮熱粒子により、車内側が温度上昇することを防止することができる。
【0052】
[吸収剤含有層]
赤外線吸収剤は、好ましくは中間膜に含有される。また、中間膜は、赤外線吸収剤を含有する樹脂層(以下、「吸収剤含有層」ということがある)を有することが好ましい。吸収剤含有層を構成する樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。すなわち、吸収剤含有層は、上記赤外線吸収剤に加えて、熱可塑性樹脂を含有することが好ましく、赤外線吸収剤が熱可塑性樹脂中に分散ないし溶解されているとよい。吸収剤含有層は、熱可塑性樹脂を含有することで、接着層としての機能を果たしやすくなり、ガラス板や後述する赤外線反射層との接着性が良好になる。
【0053】
吸収剤含有層における赤外線吸収剤の含有量は、T/R比(A),T/R比(1)~(4)、及びT/R比(B)を上記した所定の範囲内に調整できる範囲内とすればよいが、例えば0.005質量%以上1.5質量%以下、好ましくは0.01質量%以上1.2質量%以下、さらに好ましくは0.015質量%以上1.0質量%以下である。
また、赤外線吸収剤を2種以上使用する場合には、その2種以上の赤外線吸収剤の合計含有量が、上記範囲内であればよい。
【0054】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、アイオノマー樹脂、ポリウレタン樹脂、熱可塑性エラストマー、アクリル樹脂、アクリル-酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂及びポリスチレン樹脂などが挙げられる。これら樹脂を使用することで、ガラス板との接着性を確保しやすくなる。
本発明の吸収剤含有層において熱可塑性樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中では、ポリビニルアセタール樹脂及びエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂から選択される少なくとも1種が好ましく、特に、可塑剤と併用した場合に、ガラスに対して優れた接着性を発揮する点から、ポリビニルアセタール樹脂がより好ましい。
【0055】
(ポリビニルアセタール樹脂)
ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂であれば特に限定されないが、ポリビニルブチラール樹脂が好適である。上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度の好ましい下限は40モル%、好ましい上限は85モル%であり、より好ましい下限は60モル%、より好ましい上限は75モル%である。
【0056】
上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量の好ましい下限は15モル%、好ましい上限は35モル%である。水酸基量を15モル%以上とすることで、ガラス板などとの接着性が良好になりやすくなり、合わせガラスの耐貫通性などを良好にさせやすくなる。また、水酸基量を35モル%以下とすることで、合わせガラスが硬くなり過ぎたりすることを防止する。上記水酸基量のより好ましい下限は25モル%、より好ましい上限は33モル%である。
ポリビニルアセタール樹脂としてポリビニルブチラール樹脂を用いる場合も、同様の観点から、水酸基量の好ましい下限は15モル%、好ましい上限は35モル%であり、より好ましい下限は25モル%、より好ましい上限は33モル%である。
なお、上記アセタール化度及び上記水酸基量は、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により測定することができる。
【0057】
ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化することにより調製することができる。ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルを鹸化することにより得られ、鹸化度80~99.8モル%のポリビニルアルコールが一般的に用いられる。
ポリビニルアセタール樹脂の重合度の好ましい下限は500、好ましい上限は4000である。重合度を500以上することで、合わせガラスの耐貫通性が良好になる。また、重合度を4000以下とすることで、合わせガラスの成形がしやすくなる。重合度のより好ましい下限は1000、より好ましい上限は3600である。
【0058】
上記アルデヒドは特に限定されないが、一般には、炭素数が1~10のアルデヒドが好適に用いられる。上記炭素数が1~10のアルデヒドは特に限定されず、例えば、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n-バレルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド、n-ノニルアルデヒド、n-デシルアルデヒド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。なかでも、n-ブチルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、n-バレルアルデヒドが好ましく、n-ブチルアルデヒドがより好ましい。これらのアルデヒドは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
(エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂)
エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂としては、非架橋型のエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂であってもよいし、また、高温架橋型のエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂であってもよい。また、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物、エチレン-酢酸ビニルの加水分解物などのようなエチレン-酢酸ビニル変性体樹脂も用いることができる。
【0060】
エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂は、JIS K 6730「エチレン・酢酸ビニル樹脂試験方法」またはJIS K 6924-2:1997に準拠して測定される酢酸ビニル含量が好ましく10~50質量%、より好ましくは20~40質量%である。酢酸ビニル含量をこれら下限値以上とすることで、ガラスへの接着性が高くなり、また、合わせガラスの耐貫通性が良好になりやすくなる。また、酢酸ビニル含量をこれら上限値以下とすることで、吸収剤含有層の破断強度が高くなり、合わせガラスの耐衝撃性が良好になる。
【0061】
(アイオノマー樹脂)
アイオノマー樹脂としては、特に限定はなく、様々なアイオノマー樹脂を用いることができる。具体的には、エチレン系アイオノマー、スチレン系アイオノマー、パーフルオロカーボン系アイオノマー、テレケリックアイオノマー、ポリウレタンアイオノマー等が挙げられる。これらの中では、合わせガラスの機械強度、耐久性、透明性などが良好になる点、ガラスへの接着性に優れる点から、エチレン系アイオノマーが好ましい。
【0062】
エチレン系アイオノマーとしては、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーが透明性と強靭性に優れるため好適に用いられる。エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、少なくともエチレン由来の構成単位および不飽和カルボン酸由来の構成単位を有する共重合体であり、他のモノマー由来の構成単位を有していてもよい。
不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等が挙げられ、アクリル酸、メタクリル酸が好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。また、他のモノマーとしては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、1-ブテン等が挙げられる。
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体としては、該共重合体が有する全構成単位を100モル%とすると、エチレン由来の構成単位を75~99モル%有することが好ましく、不飽和カルボン酸由来の構成単位を1~25モル%有することが好ましい。
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーは、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体が有するカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和または架橋することにより得られるアイオノマー樹脂であるが、該カルボキシル基の中和度は、通常は1~90%であり、好ましくは5~85%である。
【0063】
アイオノマー樹脂におけるイオン源としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、亜鉛等の多価金属が挙げられ、ナトリウム、亜鉛が好ましい。
【0064】
アイオノマー樹脂の製造方法としては特に限定はなく、従来公知の製造方法によって、製造することが可能である。例えばアイオノマー樹脂として、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーを用いる場合には、例えば、エチレンと不飽和カルボン酸とを、高温、高圧下でラジカル共重合を行い、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体を製造する。そして、そのエチレン・不飽和カルボン酸共重合体と、上記のイオン源を含む金属化合物とを反応させることにより、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーを製造することができる。
【0065】
(ポリウレタン樹脂)
ポリウレタン樹脂としては、イソシアネート化合物と、ジオール化合物とを反応して得られるポリウレタン、イソシアネート化合物と、ジオール化合物、さらに、ポリアミンなどの鎖長延長剤を反応させることにより得られるポリウレタンなどが挙げられる。また、ポリウレタン樹脂は、硫黄原子を含有するものでもよい。その場合には、上記ジオールの一部又は全部を、ポリチオール及び含硫黄ポリオールから選択されるものとするとよい。ポリウレタン樹脂は、有機ガラスとの接着性を良好にすることができる。そのため、ガラス板が有機ガラスである場合に好適に使用される。
【0066】
(熱可塑性エラストマー)
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマー、脂肪族ポリオレフィンが挙げられる。スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。スチレン系熱可塑性エラストマーは、一般的に、ハードセグメントとなるスチレンモノマー重合体ブロックと、ソフトセグメントとなる共役ジエン化合物重合体ブロック又はその水添ブロックとを有する。スチレン系熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレン-イソプレンジブロック共重合体、スチレン-ブタジエンジブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体、スチレン-ブタジエン/イソプレン-スチレントリブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレントリブロック共重合体、並びにその水素添加体が挙げられる。
上記脂肪族ポリオレフィンは、飽和脂肪族ポリオレフィンであってもよく、不飽和脂肪族ポリオレフィンであってもよい。上記脂肪族ポリオレフィンは、鎖状オレフィンをモノマーとするポリオレフィンであってもよく、環状オレフィンをモノマーとするポリオレフィンであってもよい。中間膜の保存安定性、及び、遮音性を効果的に高める観点からは、上記脂肪族ポリオレフィンは、飽和脂肪族ポリオレフィンであることが好ましい。
上記脂肪族ポリオレフィンの材料としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、trans-2-ブテン、cis-2-ブテン、1-ペンテン、trans-2-ペンテン、cis-2-ペンテン、1-ヘキセン、trans-2-ヘキセン、cis-2-ヘキセン、trans-3-ヘキセン、cis-3-ヘキセン、1-ヘプテン、trans-2-ヘプテン、cis-2-ヘプテン、trans-3-ヘプテン、cis-3-ヘプテン、1-オクテン、trans-2-オクテン、cis-2-オクテン、trans-3-オクテン、cis-3-オクテン、trans-4-オクテン、cis-4-オクテン、1-ノネン、trans-2-ノネン、cis-2-ノネン、trans-3-ノネン、cis-3-ノネン、trans-4-ノネン、cis-4-ノネン、1-デセン、trans-2-デセン、cis-2-デセン、trans-3-デセン、cis-3-デセン、trans-4-デセン、cis-4-デセン、trans-5-デセン、cis-5-デセン、4-メチル-1-ペンテン、及びビニルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0067】
(可塑剤)
本発明の吸収剤含有層は、熱可塑性樹脂を含有する場合、さらに可塑剤を含有してもよい。吸収剤含有層は、可塑剤を含有することにより柔軟となり、その結果、合わせガラスに柔軟性を向上させ耐貫通性を向上させる。さらには、ガラス板に対する高い接着性を発揮することも可能になる。可塑剤は、熱可塑性樹脂としてポリビニルアセタール樹脂を使用する場合に含有させると特に効果的である。
可塑剤としては、例えば、一塩基性有機酸エステル及び多塩基性有機酸エステル等の有機エステル可塑剤、並びに有機リン酸可塑剤及び有機亜リン酸可塑剤などのリン酸可塑剤等が挙げられる。なかでも、有機エステル可塑剤が好ましい。
【0068】
有機エステル可塑剤は、例えば、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジカプリレート、トリエチレングリコールジ-n-オクタノエート、トリエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、ジブチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジブチルカルビトールアジペート、エチレングリコールジ-2-エチルブチレート、1,3-プロピレングリコールジ-2-エチルブチレート、1,4-ブチレングリコールジ-2-エチルブチレート、1,2-ブチレングリコールジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、ジプロピレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジ-2-エチルペンタノエート、テトラエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコールジカプリエート、トリエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ヘキシルシクロヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ヘプチルノニル、セバシン酸ジブチル、油変性セバシン酸アルキド、リン酸エステルとアジピン酸エステルとの混合物、混合型アジピン酸エステルなどが挙げられる。混合型アジピン酸エステルとしては、炭素数4~9のアルキルアルコール及び炭素数4~9の環状アルコールから選択される2種以上のアルコールから作製されたアジピン酸エステルが挙げられる。
上記可塑剤のなかでも、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)が特に好適に用いられる。
【0069】
吸収剤含有層において可塑剤の含有量は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましい下限は20質量部であり、好ましい上限は70質量部である。可塑剤の含有量を20質量部以上とすると、合わせガラスが適度に柔軟になり、耐貫通性等が良好になる。また、可塑剤の含有量を70質量部以下とすると、吸収剤含有層から可塑剤が分離することが防止される。可塑剤の含有量のより好ましい下限は35質量部、より好ましい上限は63質量部である。
また、吸収剤含有層において、樹脂、又は樹脂及び可塑剤が主成分となるものであり、熱可塑性樹脂及び可塑剤の合計量が、着色領域における吸収剤含有層全量基準で、通常70質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上100質量%未満である。100質量%未満とすることで、吸収剤含有層が赤外線吸収剤を含有できる。
【0070】
(その他の添加剤)
また、吸収剤含有層は、必要に応じて、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、接着力調整剤、蛍光増白剤、結晶核剤等の添加剤を含有してもよい。
【0071】
また、中間膜は、単層の樹脂層からなり単層構造を有していてもよいが、複数の樹脂層からなる多層構造を有していてよい。単層の樹脂層からなる場合、その1つの樹脂層が、上記した吸収剤含有層となるとよい。また、複数の樹脂層からなる場合、全ての樹脂層が赤外線吸収剤を含有して吸収剤含有層となってよいが、少なくとも1つの樹脂層が吸収剤含有層となるとよい。
なお、赤外線吸収剤を含有せず、吸収剤含有層とならない樹脂層は、赤外線吸収剤を含有しない以外は、上記した吸収剤含有層と同様であるので、その説明は省略する。
【0072】
複数の樹脂層を有する場合、各樹脂層を構成する樹脂は、上記で列挙した樹脂から適宜選択されればよい。また、各樹脂層を構成する樹脂は、互いに異なる樹脂であってもよいが、互いに同一であることが好ましい。
したがって、複数の樹脂層を有する場合、各樹脂層を構成する樹脂はいずれも、ポリビニルアセタール樹脂又はエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂であることが好ましく、ポリビニルアセタール樹脂であることがより好ましい。
また、複数の樹脂層を有し、各樹脂層が可塑剤を含有する場合、各樹脂層の可塑剤の量や種類は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0073】
[赤外線反射層]
本発明の合わせガラスは、赤外線反射層を有することが好ましい。赤外反射層は、中間膜に含有されることが好ましく、より好ましくは2層の樹脂層の間に挟み込まれるように含有される。赤外線反射層は、2層の樹脂層の間に配置されることで、2つの樹脂層によって高い接着力で接着されるので、安定して中間膜に含有させることができる。本発明の合わせガラスは、赤外線反射層を有することで、他方の面及び一方の面から入射された赤外線が反射され、900~1300nmにおける最大反射率Rが高く、平均透過率Tが低くなる。そのため、T/R比(A)、T/R比(1)~(4)、T/R比(B)の値を大きくできる。また、遮熱性も向上し、上記したTtsや、Tds(1.5)の値も所望の範囲内に調整しやすくなる。
【0074】
本発明で使用する赤外線反射層は、赤外線を反射する性能を有していれば特に限定されない。赤外線反射層は、一方の面からの波長900~1300nmにおける平均透過率をTAが低く、かつ他方の面の入射角60°の波長900~1300nmにおける最大反射率が高いものを用いることが好ましい。
また、赤外線を反射する性能に優れることから、上記赤外線反射層が、900~1300nmの範囲内の少なくとも1つの波長において、赤外線透過率が40%以下である性質を有することが好ましい。なお、後述する実施例で用いた赤外線反射層の赤外線透過率は、上記の好ましい条件を満足する。900~1300nmの範囲内の少なくとも1つの波長において、赤外線透過率はより好ましくは30%以下、更に好ましくは20%以下である。
【0075】
上記赤外線反射層としては、金属箔付き樹脂フィルム、樹脂フィルム上に金属層及び誘電層が形成された多層積層フィルム、グラファイトを含むフィルム、多層樹脂フィルム、液晶フィルム、及び赤外線反射性粒子を含む樹脂フィルム等が挙げられる。これらのフィルムは、赤外線を反射する性能を有する。
【0076】
金属箔付き樹脂フィルムは、樹脂フィルムと、該樹脂フィルムの外表面に積層された金属箔とを備える。上記樹脂フィルムの材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリビニルアセタール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル共重合体、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル及びポリイミド等が挙げられる。上記金属箔の材料としては、アルミニウム、銅、銀、金、パラジウム、及びこれらを含む合金等が挙げられる。
【0077】
上記樹脂フィルム上に金属層及び誘電層が形成された多層積層フィルムは、樹脂フィルムに、金属層及び誘電層が交互に任意の層数で積層された多層積層フィルムである。上多層積層フィルムにおける上記樹脂フィルムの材料の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、ポリ(4-メチルペンテン-1)、ポリフッ化ビニリデン、環状ポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ナイロン6,11,12,66などのポリアミド、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド及びポリエーテルイミド等が挙げられる。
多層積層フィルムにおける金属層の材料としては、上記金属箔付き樹脂フィルムにおける上記金属箔の材料と同様の材料が挙げられる。上記金属層の両面もしくは片面に、金属もしくは混合酸化物のコート層を付与することができる。上記コート層の材料としては、ZnO、Al2O3、Ga2O3、InO3、MgO、Ti、NiCr及びCu等が挙げられる。また、多層積層フィルムにおける誘電層の材料としては、例えば酸化インジウム等が挙げられる。
【0078】
上記多層樹脂フィルムは、複数の樹脂フィルムが積層された積層フィルムである。多層樹脂フィルムの材料としては、上記多層積層フィルムにおける上記樹脂フィルムの材料と同様の材料が挙げられる。上記多層樹脂フィルムにおける樹脂フィルムの積層数は、2以上であり、3以上であってもよく、5以上であってもよい。上記多層樹脂フィルムにおける樹脂フィルムの積層数は、1000以下であってもよく、100以下であってもよく、50以下であってもよい。
多層樹脂フィルムは、異なる光学的性質(屈折率)を有する2種類以上の熱可塑性樹脂層が交互に又はランダムに任意の層数で積層された多層樹脂フィルムであってもよい。このような多層樹脂フィルムは、所望の赤外線反射性能が得られるように構成される。
【0079】
上記液晶フィルムとしては、任意の波長の光を反射するコレステリック液晶層を任意の層数で積層したフィルムが挙げられる。このような液晶フィルムは、所望の赤外線反射性能が得られるように構成される。
【0080】
赤外線反射層において使用する赤外線反射性粒子の1つとしては、厚みがマイクロからナノスケールの平板粒子が挙げられる。例えば、銀ナノ平板粒子を分散させた樹脂フィルムにおいて粒子の厚み、面積およびその配置状態をコントロールすることで赤外線反射性能をもつものが得られる。
【0081】
赤外線反射層としては、上記のなかでは、金属箔付き樹脂フィルム、多層積層フィルム、多層樹脂フィルム又は液晶フィルムであることが好ましい。これらのフィルムは、赤外線の反射性能により優れる。したがって、これらのフィルムを使用することで、T/R比(A)、T/R比(1)~(4)、T/R比(B)の値をより一層大きくしやすくなり、さらには、上記したTtsや、Tds(1.5)の値も所望の範囲内に調整しやすくなる。
【0082】
また、上記した中でも、金属箔付き樹脂フィルム、多層樹脂フィルムがより好ましく、さらに好ましくは金属箔付き樹脂フィルムである。金属箔付き樹脂フィルムは、上記のように樹脂層上に金属箔が形成されることで、900~1300nmの全ての波長領域において、優れた赤外線反射性能を有するため、T/R比(A)、T/R比(1)~(4)、T/R比(B)の全ての値を大きくしやすくなる。
一方で、多層樹脂フィルムは、主に900~1100nmの波長領域において、優れた赤外線反射性能を有する。そのため、T/R比(1)、(2)の値、さらには、T/R比(A)、T/R比(B)の値を大きくしやすくなる。また、多層積層フィルムは、電磁波を遮蔽する部材を有しないため、電磁波透過性を確保できる。そのため、自動運転、その他の通信などに必要とされる電磁波が自動車の窓ガラスにおいて遮蔽されることが防止できる。
赤外線反射層の厚さは、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.04mm以上、更に好ましくは0.07mm以上であり、また、好ましくは0.3mm以下、より好ましくは0.2mm以下、更に好ましくは0.18mm以下、特に好ましくは0.16mm以下である。赤外線反射層の厚みを上記下限以上とすると、T/R比(A)、T/R比(1)~(4)、T/R比(B)の値を大きくしやすくなり、遮熱性も向上しやすくなる。また、赤外線反射層の厚さを上記上限以下とすると、合わせガラスの透明性が高くなり、可視光透過率を高くしやすくなる。
【0083】
[ガラス板]
合わせガラスで使用するガラス板としては、無機ガラス、有機ガラスのいずれでもよいが、無機ガラスが好ましい。無機ガラスとしては、特に限定されないが、クリアガラス、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入り板ガラス、線入り板ガラス、グリーンガラス等が挙げられる。
また、有機ガラスとしては、一般的に樹脂ガラスと呼ばれるものが使用され、特に限定されないが、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリル共重合体樹脂、ポリエステルなどの樹脂から構成される有機ガラスが挙げられる。
合わせガラスで使用する第1及び第2のガラス板は、互いに同種の材質から構成されてもよいし、別の材質から構成されてもよい。例えば、一方が無機ガラスで、他方が有機ガラスであってもよいが、第1及び第2のガラス板の両方が無機ガラスであるか、又は有機ガラスであることが好ましい。
また、第1及び第2のガラス板のそれぞれの厚さは、特に限定されないが、例えば、0.1~15mm程度、好ましくは0.5~5mmである。各ガラス板の厚さは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0084】
[層構成]
本発明の合わせガラスの積層構造を
図1~3に示す。
図1~3に示すように、合わせガラス20は、第1及び第2のガラス板21、22と、第1及び第2のガラス板21、22の間に配置される中間膜10とを備え、中間膜10によって第1及び第2のガラス板21、22が接着される。なお、自動車などの車両に設けられる場合、合わせガラス20は、第1のガラス板21が車外側、第2のガラス板22が車内側に配置される。
【0085】
中間膜10は、
図1に示すように単層の樹脂層11からなってもよい。中間膜10が単層の樹脂層11からなる場合、単層の樹脂層11は吸収剤含有層となるとよい。
また、中間膜10は、
図2、3に示すように、複数の樹脂層を有することが好ましく、例えば、第1のガラス板21側(すなわち、一方の面側)の第1の樹脂層11Aと、第2のガラス板22側(すなわち、他方の面側)の第2の樹脂層11Bを有するとよい。この場合、
図3に示すように第1及び第2の樹脂層11A、11Bの間には、赤外線反射層13が設けられてもよいが、
図2に示すように赤外線反射層は設けられなくてもよい。ただし、T/R比(A),T/R比(1)~(4)、T/R比(B)を大きくする観点から赤外線反射層13を設けた方がよい。
【0086】
上記のように、第1及び第2の樹脂層11A、11Bを有する場合、第1及び第2の樹脂層11A、11Bの少なくともいずれかが吸収剤含有層となるとよい。
【0087】
図3に示すように、赤外線反射層13が設けられる合わせガラス20では、第1の樹脂層11A及び第2の樹脂層11Bの少なくとも一方が吸収剤含有層であることが好ましいが、第1の樹脂層11Aが吸収剤含有層、又は第1及び第2の樹脂層11A、11Bの両方が吸収剤含有層であることがより好ましい。このような構成によると、赤外線反射層13により最大反射率Rを高めつつ、第1の樹脂層11A(吸収剤含有層)により平均透過率Tを下げることができるので、各波長領域におけるT/R比を高めやすくなる。
【0088】
第1の樹脂層11Aが吸収剤含有層である場合、吸収剤含有層の詳細は、上記したとおりであるが、吸収剤含有層(第1の樹脂層11A)に第1の赤外線吸収剤が含有されることが特に好ましい。第1の赤外線吸収剤が第1の樹脂層11Aに含有されることで、900~1300nmにおける赤外線が、第1の樹脂層11Aによって十分に吸収され、上記したT/R比(A),T/R比(1)~(4)、T/R比(B)を大きくできる。
さらに、第1の樹脂層11Aを構成する吸収剤含有層は、第1の赤外線吸収剤を含有する場合、第1の赤外線吸収剤に加えて、遮熱粒子を含有することも好ましい。
さらには、第1の樹脂層11Aを構成する吸収剤含有層には、互いに最大吸収波長ピークが異なる2種以上の第1の赤外線吸収剤を含有させることも好ましい。
【0089】
また、第1の樹脂層11Aが吸収剤含有層であり、かつ
図3に示すように赤外線反射層13が設けられる態様においては、第1の樹脂層11Aを構成する吸収剤含有層は、第1の赤外線吸収剤及び遮熱粒子の少なくとも一方を含有する構成も好ましい。このような構成によれば、赤外線反射層13と吸収剤含有層の両方により、反射率Rを大きくしつつ、平均透過率Tを下げることができるので、上記したT/R比(A),T/R比(1)~(4)、T/R比(B)がより一層大きくなりやすい。
また、赤外線反射層13が設けられたことで、第1の樹脂層11Aにおいて、900~1300nmの波長領域の赤外線を第1の赤外線吸収剤によって積極的に吸収しなくても、上記したT/R比(A),T/R比(1)~(4)、T/R比(B)を大きくできる。したがって、第1の樹脂層11A(吸収剤含有層)は、第1の赤外線吸収剤を含有しなくてもよいが、含有する態様も好ましく、また、第1の赤外線吸収剤と遮熱粒子の両方を含有する態様も好ましい。
【0090】
第1の樹脂層11Aを構成する吸収剤含有層における赤外線吸収剤の含有量は、例えば0.005質量%以上0.6質量%以下、好ましくは0.01質量%以上0.4質量%以下、さらに好ましくは0.015質量%以上0.3質量%以下である。
また、第1の樹脂層11Aにおける第1の赤外線吸収剤の含有量は、0.005質量%以上0.3質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.2質量%以下がより好ましく、0.015質量%以上0.1質量%以下がさらに好ましい。第1の赤外線吸収剤の含有量を上記範囲内とすることで、上記した各波長における最大反射率Rを大きく下げることなく、各波長における平均透過率Tを低くして、T/Rを大きくしやすくなる。
【0091】
また、第1の樹脂層11Aが遮熱粒子を含有する場合、第1の樹脂層11Aを構成する吸収剤含有層における遮熱粒子の含有量は、0.005質量%以上0.5質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.4質量%以下がより好ましく、0.015質量%以上0.2質量%以下がさらに好ましい。遮熱粒子の含有量をこれら範囲内とすることで、反射率Rを大きく下げることなく、上記した各波長における平均透過率Tを低くして、T/Rを大きくしやすくなる。
さらに、第1の樹脂層11Aを構成する吸収剤含有層が、第1の赤外線吸収剤と遮熱粒子の両方を含有する場合、第1の赤外線吸収剤に対する遮熱粒子の質量比(遮熱粒子/第1の赤外線吸収剤)は、0.25以上15以下が好ましく、0.5以上10以下がより好ましく、0.7以上8以下がさらに好ましい。
なお、第1の樹脂層11Aに使用する遮熱粒子はCWOがより好ましい。CWOは、遮熱粒子のなかでも、900~1300nmの赤外線に対する遮蔽率が高いため、第1の樹脂層11AにCWOを含有させることで、平均透過率Tをより一層低下しやすくなる。
【0092】
図3に示すように赤外線反射層13が設けられる場合においては、第2の樹脂層11Bが吸収剤含有層である態様も好ましい。第2の樹脂層11Bが吸収剤含有層であると、他方の面(第2のガラス板22の表面)から入射された赤外線が、第2の樹脂層11Bに部分的に吸収されるが、赤外線反射層13が設けられることで、赤外領域における各波長の最大反射率Rを高い値に維持できる。そのため、上記したT/R比(A),T/R比(1)~(4)、及びT/R比(B)も大きくできる。
【0093】
上記各態様において、第2の樹脂層11Bを構成する吸収剤含有層は、赤外線吸収剤として、遮熱粒子を含有することが好ましい。遮熱粒子を用いることで、第2のガラス板22の表面から入射された赤外線が、第2の樹脂層11Bによって吸収される量を少なくできる。また、外部から入射された熱線を吸収して、車内の温度が上昇することも防止できる。
吸収剤含有層(第2の樹脂層11B)における赤外線吸収剤の含有量は、例えば0.005質量%以上1.5質量%以下、好ましくは0.01質量%以上1.2質量%以下、さらに好ましくは0.015質量%以上1.0質量%以下である。
また、第2の樹脂層11Bにおける遮熱粒子の含有量は、0.005質量%以上1.4質量%以下が好ましく、0.1質量%以上1.0質量%以下がより好ましく、0.15質量%以上0.9質量%以下がさらに好ましい。遮熱粒子の含有量を上記範囲内とすることで、最大反射率Rを大きく下げることなく、上記した各波長における平均透過率Tを低くして、T/R比を大きくしやすくなる。また、外部から入射された熱線を十分に吸収して、車内の温度が上昇することを防止しやすくなる。
【0094】
また、第2の樹脂層11Bを構成する吸収剤含有層は、上記吸熱粒子に加えて、第1及び第2の赤外線吸収剤の少なくとも一方(すなわち、最大吸収波長ピークが780~1300nmである赤外線吸収剤)を含有してよいが、含有してもその量を少なくすることが好ましく、または含有しないことが好ましい。このように、第1及び第2の赤外線吸収剤を少なくすることで、可視光透過率やT/R比が低下することを防止できる。
具体的には、第1及び第2の赤外線吸収剤の合計含有量は、0.1質量%未満が好ましく、0.05質量%未満がより好ましく、0.01質量%未満がさらに好ましく、0質量%が最も好ましい。
【0095】
さらに、
図3に示すように赤外線反射層13が設けられる場合においては、第1及び第2の樹脂層11A、11Bの両方が吸収剤含有層である態様も好ましい。このような態様において、吸収剤含有層である第1及び第2の樹脂層11A、11Bの構成は上記したとおりである。
【0096】
なお、以上のように中間膜10が樹脂層を複数層有する構成では、代表的に樹脂層として第1及び第2の樹脂層11A,11Bが設けられる構成を例に説明したが、中間膜10の構成は上述した構成に限定されない。例えば、
図2に示す構成では、第1及び第2の樹脂層11A,11Bの間にさらに樹脂層が設けられてもよいし、第1の樹脂層11Aと、第1のガラス板21の間や、第2の樹脂層11Bと第2のガラス板22の間に樹脂層が設けられてもよい。
また、
図3に示すように赤外線反射層を有する構成でも、第1の樹脂層11Aと赤外線反射層13との間,第2の樹脂層11Bと赤外線反射層13の間、第1の樹脂層11Aと、第1のガラス板21の間、又は第2の樹脂層11Bと第2のガラス板22の間のいずれかに、さらに樹脂層が設けられてもよい。
第1及び第2の樹脂層以外に樹脂層が設けられる場合、その樹脂層(第3の樹脂層ともいう)に様々な機能を付加してもよい。例えば、第3の樹脂層には励起光の照射により発光する発光粒子を含有させて、中間膜を発光中間膜としてもよい。また、第3の樹脂層に使用される熱可塑性樹脂をポリビニルアセタール樹脂とし、かつ水酸基量や、可塑剤を適宜調整することでいわゆる遮音層としてもよい。
【0097】
中間膜の厚さは、好ましくは0.2mm以上1.8mm以下、より好ましく0.25mm以上1.0mm以下、さらに好ましくは0.3mm以上0.9mm以下である。
また、中間膜を構成する樹脂層の厚さは、樹脂層(すなわち、吸収剤含有層)が1層単層からなる場合には、その樹脂層の厚さは、中間膜と同様に、好ましくは0.2mm以上1.5mm以下、より好ましく0.25mm以上1.0mm以下、さらに好ましくは0.3mm以上0.9mm以下である。
なお、中間膜は、後述するように楔形状である場合には、厚さが変動するが、その変動する最小厚さ、及び最大厚さの両方が上記範囲内であるとよい。他の層に関しても同様である。
【0098】
また、中間膜を構成する樹脂層が複数層からなる場合、各樹脂層の厚さは、中間膜の厚さが上記範囲内になるように適宜調整すればよい。例えば、
図2、3に示すように、樹脂層が2層からなる場合には、各樹脂層の厚さは、好ましくは0.05mm以上1.5mm以下、より好ましくは0.15mm以上1mm以下、さらに好ましくは0.25mm以上0.6mm以下である。樹脂層の厚さをこれら下限値以上とすることで、樹脂層が例えば吸収剤含有層である場合には、赤外線を適切に吸収し、各波長におけるT/R比を大きくしやすくなる。また、遮熱粒子を含有する場合には、十分な遮熱効果が得られるようになる。一方、で上記上限値以下とすることで、可視光透過率なども高くできる。
【0099】
また、上記中間膜は、
図1~3に示すように断面矩形であったが、断面矩形に限定されず、例えば楔形状を有していてよい。楔形状を有する中間膜30は、
図4~6に示すように一端30Aと、その一端30Aの反対側に他端30Bとを有し、他端30Bの厚さが、一端30Aの厚みよりも大きくなり、中間膜30全体して楔形状を有するものである。
楔形状の中間膜30は、例えば、得られる合わせガラス20をヘッドアップディスプレイシステムに用いることを可能とする。
【0100】
楔形状の中間膜30は、例えば
図4に示すように台形形状を有してもよいが、三角形状を有してもよい。また、楔形状の中間膜30は、他端30Aから一端30Bに向けて厚さが変化するものであるが、全ての部分で厚さが変化する必要はなく、
図5に示すように厚さが一定の部分30Cを有しており、厚さが変化する部分が一部分であってもよい。
さらに、
図4、5では、厚さが変化する部分において、一端30Aから他端30Bに向けて、厚さの増加量が一定であったが、厚さの増加量は一定である必要はなく、
図6に示すように、漸次変化して、断面において例えば曲線的になっていてもよい。
【0101】
なお、楔角θは、
図4、5に示すように、厚さの増加量が一定である場合には、楔角度も一定である。したがって、中間膜30一方の表面30Xに対する、他方の表面30Xの傾斜角度が楔角θとなる。
一方で、
図6に示すように、厚さの増加量が変化する場合には、楔角θは、以下の通りである。すなわち、楔角θは、中間膜30の一方の表面30Xにおいて、中間膜30における最大厚み部分30Mと最小厚み部分30Sの最近接部位を結んだ直線L1と、他方の表面30Yにおいて、最大厚み部分30Mと最小厚み部分30Sの最近接部位を結んだ直線L2との交点における内角である。
楔角θは、0.1mrad以上であることが好ましく、より好ましくは0.2mrad以上、更に好ましくは0.3mrad以上であり、また、1mrad以下が好ましく、0.9mrad以下がさらに好ましい。楔角θをこれら範囲内とすることで、合わせガラスにより反射された赤外線を撮影装置などの受光手段において1点に結像しやすくなる。
【0102】
なお、中間膜が楔形状でかつ多層構造である場合、中間膜が楔形状となるように、各層の断面形状を適宜調整すればよく、例えば、
図2、3に示したように、複数の樹脂層が設けられる場合には、複数の樹脂層のうち少なくとも1つの樹脂層の厚さを一端から他端に向けて厚さが増加するように調整すればよい。
なお、合わせガラスの光学特性は、例えば中間膜が楔形状の場合などには、領域によって変わることがある。そのような場合、上記したT/R比、T/R比(A)、T/R比(1)~(4)、T/R比(B)、最大反射率、可視光透過率、Tts、Tds(1.5)などの各種光学特性は、合わせガラスの全領域が上記で説明した各要件を満たしてもよいが、一部の領域が上記各要件を満たせばよい。例えば、赤外線モニタリングシステムを導入する場合、モニタリング対象の運転者などに照射される外光が入射される領域や、光源からの光が反射される領域などにおいて各光学特性が上記で説明した各要件を満たせばよい。
【0103】
(製造方法)
合わせガラスの製造においては、例えば、2枚のガラス板の間に、中間膜を構成する各層(樹脂層、赤外線反射層など)を積層して、熱圧着などすることで製造できる。
また、中間膜を構成する樹脂層は、まず、熱可塑性樹脂、必要に応じて添加される可塑剤、赤外線吸収剤、その他の添加剤などの樹脂層を構成する材料よりなる樹脂組成物を用意し、押出成形、プレス成形などにより、成形するとよい。また、樹脂層が複数である場合には、例えば、2つ以上の押出機を用意し、複数の押出機の先端に多層用フィードブロックを取り付けて共押出する方法を採用してもよい。また、合わせガラスは、共押出などの押出成形、熱ラミネート、プレス成形などにより成形した単層又は多層構造の中間膜を、2枚のガラス板の間に配置させ、熱圧着などすることで製造できる。
【0104】
[合わせガラスの使用方法]
本発明の合わせガラスは、例えば窓ガラスとして使用されるものであり、より具体的には、自動車、電車、船舶、航空機などの各種乗り物に使用されることが好ましく、より好ましくは、自動車、電車などの車両用窓ガラスに使用され、さらに好ましくは自動車用窓ガラスとして使用される。
【0105】
(赤外線モニタリングシステム)
本発明の合わせガラスは、例えば、赤外線モニタリングシステムが搭載された車両に窓ガラスとして取り付けられる。なお、赤外線モニタリングシステムが搭載された車両全体のシステムを車両システムという。ここで、車両は、自動車であることが好ましく、その場合、車両本体は、自動車ボディであり、窓ガラスは自動車ボディの開口を塞ぐ窓ガラスである。本発明の合わせガラスは、フロントガラス、サイドガラス、及びリアガラスのいずれかであってもよい。
【0106】
赤外線モニタリングシステム(すなわち、車両システム)は、光源及び受光手段を備え、これら光源及び受光手段は車両本体内部に設けられる。赤外線モニタリングシステムは、乗員、特に好ましくは運転手をモニタリングするためのシステムである。赤外線モニタリングシステムは、車両本体内部に配置された光源から出射された赤外線を乗員、好ましくは運転手(被観察体)に照射し、その被観察体で反射した赤外線を、車両本体内部に設けられた受光手段で受光し、その受光した光に応じて乗員(被観察体)の状態を検知する。
【0107】
ここで、光源は、赤外線を出射する赤外線光源であり、光源の最大発光波長は、900~1300nmであることが好ましい。900~1300nmの赤外線は、人の眼には認識できない一方で、人肌などによって反射されやすく、例えば運転手などの乗員をモニタリングすることに適している。一方で、合わせガラスは、上記したように、T/R比(A),T/R比(1)~(4)、T/R比(B)のいずれかが1より大きく、車両外部から入射される900~1300nmの赤外線を十分に遮蔽される。そのため、車体外部から赤外線がノイズとなって入射されることが防止できる。また、後述するように、モニタリングに使用する赤外線を反射させる場合には、合わせガラスにおいてモニタリングに使用する赤外線の反射率が高くなるので、モニタリングの精度が高められ、適切なモニタリングを実施できる。
なお、光源の最大発光波長は、より詳細には上記したとおり、T/R比(1)~(4)の1より大きくなる波長領域中に存在させるようにするとよく、また、T/R(B)が1より大きくなるように選択すればよい。また、光源は、好ましくはLEDである。LEDを使用することで、発光波長領域を比較的狭くでき、それにより、モニタリングの精度を高めやすくなる。
【0108】
車両システムで使用する受光手段は、好ましくは赤外線カメラなどの撮影装置であり、被観察体(運転手など)からの反射光を受光することで被観察体を撮影する。車両システムは、撮影装置で撮影された画像により、被観察体の状態を検知すればよい。具体的には、運転者の顔に赤外線を照射して、運転者の顔画像を撮影装置で撮影することで、被観察体の状態を検知することが好ましい。
ただし、受光手段は、撮影装置である必要はなく、受光する光の強度のみを検知する受光センサなどでもよい。受光センサを使用する場合でも、反射光の強度により、乗員が所定の位置に着座しているか否か(例えば、運転手が運転席に座っているか否か)などを検知できる。
【0109】
車両システムは、顔認識システムを含み、顔認識システムにより、被観察体の顔画像により顔を認識して、その認識された顔により被観察体の状態を検知することが好ましい。顔認識システムは、より具体的には、例えば、予め保存された顔テンプレートと、撮影された顔画像とにより、顔画像における瞼の位置を検知し、瞼の状態を検知することで、居眠りしているか否かなどを検知できる。顔認識システムは、例えば、DSP,CPUなどの各種プロセッサにより構成される。
【0110】
また、上記赤外線モニタリングシステムでは、光源から出射させる赤外線は、好ましくは、本発明の合わせガラスで反射させられたうえで、被観察体に照射させる。また、好ましくは、被観察体からの反射光を本発明の合わせガラスで反射させたうえで、受光手段に受光させることが好ましい。
【0111】
車両が自動車である場合には、少なくともフロントガラスが本発明の合わせガラスであることが好ましく、より好ましくはフロントガラス、サイドガラス、及びリアガラスの全てが本発明の合わせガラスである。
赤外線モニタリングシステムは、好ましくは運転者をモニタリングするために使用される。そのため、フロントガラスを本発明の合わせガラスとすることで、外光に含まれる赤外線が運転者に照射されにくくなりノイズが低減されやすくなる。また、フロントガラスを本発明の合わせガラスとすると、光源から出射した赤外線をフロントガラスにて反射させて運転者に照射させる場合、あるいは運転者からの反射光をフロントガラスにて反射させて受光手段により受光させる場合、その反射率が高くなるので、高い精度でモニタリングを行うことができる。
また、フロントガラスを本発明の合わせガラスとすると、運転者からの反射光をフロントガラスにて反射させて受光手段により受光させることで、顔の正面からの反射光を受光手段で受光できる。そのため、顔の正面の状態をモニタリング可能になり、モニタリング精度がより一層高められる。
また、フロントガラスに加えて、サイドガラス、及びリアガラスの全てが本発明の合わせガラスであると、よりノイズを低減しやすくなる。
【0112】
図7は、好ましい一実施形態に係る車両システムを示す。
図7を参照して好ましい一実施形態に係る車両システムをより詳細に説明する。本実施形態の車両システム50は、
図7に示すように、合わせガラス20と、赤外線を出射する光源51と、受光手段52とを備える。
ここで、車両システム50は、自動車に設けられたシステムであり、合わせガラス20は自動車のフロントガラスを構成する。また、受光手段52は、赤外線カメラなどからなる撮影装置であり、光源51及び受光手段52は、自動車のダッシュボード53に設けられる。また、車両システム50は、さらに顔認識システム54も備える。顔認識システム54は、上記の通り、例えばプロセッサにより構成される。プロセッサは例えばダッシュボード53に設けられる。
【0113】
本実施形態において、光源51は、出射された赤外線URが、合わせガラス20(フロントガラス)によって反射されたうえで、運転者の顔DFに照射される。運転者の顔DFで反射された赤外線URは、反射光RLとして、合わせガラス20で反射されて、受光手段52によって受光される。
ここで、光源51は、運転席の上方に赤外線URが照射されるように調整されるが、運転者の顔DFに確実に赤外線URを照射できるように出射方向、出射位置が変更できる構成を有していてもよい。同様に、受光手段52は、運転席の上方の画像を撮影できるように調整されているが、光源51と同様に、受光位置、受光方向が適宜調整できる構成を有していてもよい。
受光手段52は、上記のように撮影装置であり、したがって、運転者の顔を撮影し、顔認識システム54においてその撮影された顔画像に基づき、運転者の顔が認識され、例えば瞼が閉じているかどうかなどが検知される。
なお、赤外線UR及び反射光RLの光路中心は、それぞれ、合わせガラス20の表面(第2のガラス板の表面)に対して、傾斜させて入射させるとよい。その入射角度は、特に限定されないが、例えば20~80°、好ましくは40~70°である。
【0114】
本実施形態の車両システムによれば、上記のとおり、フロントガラスに本発明の合わせガラスを使用することで、運転者のモニタリングを適切に行うことが可能になる。また、自動車はさらにサイドガラス、リアガラスを有するが、本実施形態の車両システムは、より精度の高いモニタリングを行うために、これらサイドガラス、リアガラスも上記した本発明の合わせガラスで構成することが好ましい。
なお、以上説明した本実施形態の車両システムは、車両システムの一例であって、本発明の効果を奏する限り種々の変更が可能である。
【実施例】
【0115】
本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
本発明において、各種物性の測定方法、及び合わせガラスの評価方法は、以下の通りである。
【0116】
(可視光透過率(Tv))
JIS R3212(2015)に準拠して、分光光度計(日立ハイテクノロジー社製「U-4100」)を用いて、合わせガラスの可視光線光透過率(Tv)を測定した。測定の際、合わせガラスを透過した平行光のみが積分球へ受光するように、光源と積分球との光路上で且つ光軸の法線に平行となるように積分球から13cm離れた位置に合わせガラスを設置し、分光透過率を測定した。得られた上記分光透過率から可視光線透過率を算出した。また測定条件は、スキャンスピードを300nm/min、スリット巾を8nmとし、それ以外の条件はJIS R 3212(2015)に準拠して測定を行った。
【0117】
(Tds(1.5))
ISO 13837(2008)に準拠して、分光光度計(日立ハイテクノロジー社製「U-4100」)を用いて、合わせガラスの日射透過率Tds(1.5)を測定した。測定の際、合わせガラスを透過した平行光のみが積分球へ受光するように、光源と積分球との光路上で且つ光軸の法線に平行となるように積分球から13cm離れた位置に合わせガラスを設置し、分光透過率を測定した。得られた上記分光透過率から合わせガラスの波長300~2500nmでの日射透過率Tds(1.5)を求めた。また測定条件は、スキャンスピードを300nm/min、スリット巾を8nmとし、それ以外の条件はISO 13837(2008)に準拠して測定を行った。
(Tts)
ISO 13837(2008)に準拠して、分光光度計(日立ハイテク社製「U-4100」)を用いて、波長300~2500nmの透過率/反射率を測定して、Ttsを算出した。また、測定条件は、スキャンスピードを300nm/min、スリット巾を8nmとし、それ以外の条件はISO 13837(2008)に準拠して測定を行った。
【0118】
(平均透過率T)
可視光透過率と同様の測定方法で900~1300nmの0°透過率を測定した。各波長領域の透過率の平均値を求めた。なお、透過率のデータ測定間隔は5nmとした。
(最大反射率R)
入射角度60°における赤外光反射率を測定した。具体的には、分光光度計(日本分光社製「V-670」)に絶対反射率測定ユニット(日本分光社製「ARSN-733」)を取り付け、光源からの入射角が60°となるように調整して測定した。測定条件は850nm以上はバンド幅20nm、850nm未満はバンド幅2.0nmで測定した。なおデータ測定間隔は5nm間隔とした。測定された反射率のうち、各波長領域において最大となった反射率を最大反射率とした。
【0119】
(赤外線カメラ観察試験)
図8に示すように、仮想の赤外線モニタリングシステムを組み立てた。具体的には、各実施例、比較例で得られた合わせガラス20を用意し、水平方向に対して45°傾けて配置した。合わせガラスに正対するように運転者を想定した被験者を配置した。
光源51としてLEDライトを、受光手段52として赤外線カメラを用意した。これらは、合わせガラス20の下方に配置し、光源51からガラスに対する入射角が60°になるよう赤外線を合わせガラス20に照射して、合わせガラス20で反射させて、被験者の顔DFに照射させた。被験者の顔DFからの反射光を赤外線カメラで受光させて動画を撮影した。得られた撮影動画を10人のパネラーで観察させて、以下の評価基準で評価した。
A:すべてのパネラーが被験者の顔の瞼の動きが確認できた。
B:80%以上100%未満のパネラーが被験者の顔の瞼の動きが確認できた。
C:50%以上80%未満のパネラーが被験者の顔の瞼の動きが確認できた。
D:50%以上80%未満のパネラーが被験者の顔の瞼の動きが確認できた。
E:50%未満のパネラーしか被験者の顔の瞼の動きが確認できなかった。
赤外線カメラ観察試験は、最大発光波長が、約950nm、約1050nm、約1150nm、約1250nmであるLED発光素子を用意し、複数のLED発光素子から構成した光源を用いた。光源としては、最大発光波長が約950nmの発光素子からなる光源、最大発光波長が約1050nmの発光素子からなる光源、最大発光波長が約1150nmの発光素子からなる光源、最大発光波長が約1250nmの発光素子からなる光源を用意した。さらに、最大発光波長が約950nm、約1050nm、約1150nm、及び約1250nmのLED発光素子を全て有する複合光源も用意し、それぞれの光源を用いて評価した。
【0120】
(周波数0.1~26.5GHzにおける電磁波透過性の評価)
KEC法測定(近傍界の電磁波シールド効果測定)によって、0.1~2GHzの範囲の反射損失値(dB)を通常の板厚2.5mmのフロートガラス単板と比較し、上記周波数での差の平均値が10dB未満のものを「A」、10dB以上のものを「B」と記載した。また、2~26.5GHzの範囲の反射損失値(dB)は、送信受信用の1対のアンテナ間にサンプル600mm角を立て、電波信号発生装置からの電波をスペクトルアナライザーで受信し、そのサンプルの透過性を評価した(遠方界の電磁波測定法)。
【0121】
実施例、比較例では以下の成分、素材を使用した。
(ガラス板)
クリアガラス:厚み2.5mm、可視光透過率が90%、日射透過率Tds(1.5)が87%、900-1300nmの透過率が84%で900-1300nmにピークを持つ吸光剤を含まず、900-1300nmの入射角0°の反射率が7%であり、それ以外の項目がJISR3202-2011に準じるガラス
グリーンガラス:厚み2.1mm、可視光透過率が86%、日射透過率Tds(1.5)が72%、900-1300nmの透過率が56%で900-1300nmにピークを持つ吸光剤を含まず、かつ入射角0°の900-1300nmの反射率が6%であり、それ以外の項目がJISR3202-2011に準じるガラス
(樹脂)
ポリビニルブチラール:ポリビニルブチラール樹脂、アセタール化度69モル%、水酸基量30モル%、アセチル化度1モル%、重合度1700
(可塑剤)
可塑剤:トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート
(遮熱粒子)
ITO:錫ドープ酸化インジウム粒子(ITO粒子)、平均粒子径35nm
CWO:セシウムドープ酸化タングステン粒子(CWO粒子)、平均粒子径50nm
(有機色素)
IR-915:日本触媒株式会社製、フタロシアニン化合物、商品名「TIR-915」
TX-EX-902K:日本触媒株式会社製、フタロシアニン化合物、商品名「TX-EX-902K」
IR-14:日本触媒株式会社製、フタロシアニン化合物、商品名「IR-14」
(赤外線反射層)
3M90S:Nano90S(3M、多層樹脂フィルム、住友スリーエム社製「マルチレイヤー Nano 90S」)
XIR:XIR-75(金属箔付き樹脂フィルム、Southwall Technologies社製「XIR-75」)
遮熱フィルム:NEXFIL社製「SpG60」
【0122】
[実施例1]
(第1の樹脂層の作製)
表1に示す配合に従って、ポリビニルブチラール樹脂、可塑剤、遮熱粒子、及び有機色素を混合し、得られた熱可塑性樹脂組成物を二軸異方押出機により押出成形して、厚さ380μmの第1の樹脂層を作製した。なお、各成分を混合する際、有機色素に関しては、予め可塑剤に分散させたうえで混合させた。
(第2の樹脂層の作製)
配合を表1に記載に従って変更した以外は、第1の樹脂層と同様に作製した。
(合わせガラスの作製)
第1のガラス、第1の樹脂層、第2の樹脂層、及び第2のガラスの順で積層し、真空バック法によって仮圧着した。その仮圧着された積層体を、オートクレーブ内で、温度140℃、圧力1.3MPaの条件下に10分間保持した後、50℃まで温度を下げ大気圧に戻すことにより本圧着を終了して、合わせガラスを得た。合わせガラスは、第1のガラス板/第1の樹脂層(吸収剤含有層)/第2の樹脂層/第2のガラス板の層構成からなるものであった。
【0123】
[実施例2~19、比較例7]
第1の樹脂層と、第2の樹脂層の間に、赤外線反射層を設けた点、第1及び第2の樹脂層の配合を表1、2に記載される通りに変更した点、及び第1及び第2のガラスとして表1、2に記載のガラスを使用した点を除いて実施例1と同様に実施した。
なお、実施例2~21では、合わせガラス作製時に、第1のガラス、第1の樹脂層、赤外線反射層、第2の樹脂層、及び第2のガラスの順で積層し、得られる合わせガラスを、第1のガラス板/第1の樹脂層/赤外線反射層/第2の樹脂層/第2のガラス板の層構成からなるものとした。
【0124】
[実施例20]
第1の樹脂層と第2の樹脂層の間に、赤外線反射層を配置し、等脚台形の楔形形状となるように、熱ラミネートすることにより中間膜を作製した。なお、第1の樹脂層及び第2の樹脂層は、各位置において互いの厚みが同じとなるように、赤外線反射層を中心に対称に成形した。得られた中間膜は、最大厚み1160μm、最小厚み760μm、楔角度が0.4mradであった。中間膜は、他端から一端に向かって厚さが漸次大きくなり、他端から一端までの長さが1mであった。なお、第1の樹脂層、第2の樹脂層の配合、及び赤外線反射層は、表2の通りとした。
第1のガラス、中間膜、及び第2のガラスの順で積層し、真空バック法によって仮圧着した。その仮圧着された積層体を実施例1と同様の方法で本圧着して合わせガラスを得た。
なお、合わせガラスの各光学特性の測定は、中間膜の他端から30cmのポジションで行い、その位置の厚みは880μmであった。
【0125】
[比較例1~6]
第1及び第2の樹脂層の配合を表2に記載される通りに変更した点、及び第1及び第2のガラスとして表2に記載のガラスを使用した点を除いて実施例1と同様に実施した。
【0126】
【0127】
【表2】
※表1、2において、ポリビニルブチラール、及び可塑剤は、質量部で表し、遮熱粒子及び有機色素は、各樹脂層全量基準の質量%を表す。
【0128】
以上の実施例に示すように、各波長領域における平均透過率Tと、最大反射率Rより算出されるT/R比が1より大きくなると、その波長領域に最大発光波長を有する光源を用いて、赤外線モニタリングを行うと、適切にモニタリングを行うことができた。
それに対して、比較例に示すように、各波長領域における平均透過率Tと、最大反射率Rより算出されるT/R比が1以下となると、その波長領域に最大発光波長を有する光源を用いて赤外線モニタリングすると、適切にモニタリングを行うことができなかった。
【符号の説明】
【0129】
10、30 中間膜
20 合わせガラス
11 樹脂層(吸収剤含有層)
11A 第1の樹脂層
11B 第2の樹脂層
13 赤外線反射層
21 第1のガラス板
22 第2のガラス板
50 車両システム
51 光源
52 受光手段
54 顔認識システム