IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オー・エム・ピー・オッフィチーネ・マッツォッコ・パッニョーニ・エス・エール・エルの特許一覧

<>
  • 特許-可変容量型ロータリーベーンポンプ 図1
  • 特許-可変容量型ロータリーベーンポンプ 図2
  • 特許-可変容量型ロータリーベーンポンプ 図3
  • 特許-可変容量型ロータリーベーンポンプ 図4
  • 特許-可変容量型ロータリーベーンポンプ 図5
  • 特許-可変容量型ロータリーベーンポンプ 図6
  • 特許-可変容量型ロータリーベーンポンプ 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】可変容量型ロータリーベーンポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 14/22 20060101AFI20240603BHJP
   F04C 14/20 20060101ALI20240603BHJP
   F04C 15/00 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
F04C14/22 D
F04C14/20 C
F04C15/00 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020546141
(86)(22)【出願日】2019-03-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 IB2019051787
(87)【国際公開番号】W WO2019171281
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】102018000003344
(32)【優先日】2018-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507163574
【氏名又は名称】オー・エム・ピー・オッフィチーネ・マッツォッコ・パッニョーニ・エス・エール・エル
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【弁理士】
【氏名又は名称】笹沼 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100225026
【弁理士】
【氏名又は名称】古後 亜紀
(74)【代理人】
【識別番号】100230248
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 圭二
(72)【発明者】
【氏名】ロ・ビウンド・ジュセッペ
(72)【発明者】
【氏名】パンコッティ・アンジェロ
【審査官】山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0322944(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102013021187(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102015223452(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 14/22
F04C 14/20
F04C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変容量型ロータリーベーンポンプ(110)であって、
ポンプボディ(112)と、
前記ポンプボディ(112)内で回転軸心(O)回りに回転するように構成され、且つ複数のベーン(118)が設けられているロータ(114)と、
前記ロータ(114)を中心とする偏心位置に設けられた揺動ステータ(122)と、
前記ポンプボディ(112)に対する前記揺動ステータ(122)回転用の揺動ピン(123)と、
当該ポンプ(110)の吐出量を調節する調節手段(126)であって、前記揺動ステータ(122)を前記ロータ(114)及び前記ポンプボディ(112)に対して動かすように当該揺動ステータ(122)に作用する、調節手段(126)と、
前記揺動ピン(123)と前記ポンプボディ(112)の内面に形成された凹所(112a)との間に介設されたスライドエレメント(140,240,340,440)であって、前記凹所(112a)内で少なくとも部分的に自由に回転することが可能であるスライドエレメント(140,240,340,440)と、
を備え、前記揺動ピン(123)が、前記揺動ステータ(122)の外面から突出し、前記揺動ステータ(122)との一体品で形成されていて、かつ、前記凹所(112a)に収容されており、
回転軸心(F)が前記揺動ピン(123)内および前記凹所内に画成されて、前記揺動ステータ(122)が前記回転軸心(F)を基準として回転する、ポンプ(110)。
【請求項2】
請求項1に記載の可変容量型ロータリーベーンポンプ(110)において、前記スライドエレメント(340)は、前記ロータ(114)に対する前記揺動ステータ(122)の最大偏心量の位置と最小偏心量の位置との間で当該揺動ステータ(122)が動くときに、前記ポンプボディ(112)又は当該揺動ステータ(122)に選択的に当接するように構成された、曲げられた両端部(346,348)を有している、ポンプ(110)。
【請求項3】
請求項1または2に記載の可変容量型ロータリーベーンポンプ(110)において、前記スライドエレメント(140,240,340)が、前記揺動ピン(123)に対して少なくとも部分的に自由に回転することが可能である、ポンプ(110)。
【請求項4】
請求項1または2に記載の可変容量型ロータリーベーンポンプ(110)において、前記スライドエレメント(440)が、前記揺動ピン(123)または前記揺動ステータ(122)に一体的に連結されている、ポンプ(110)。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の可変容量型ロータリーベーンポンプ(110)において、前記スライドエレメント(140,240,340,440)が、金属材料からなる、ポンプ(110)。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の可変容量型ロータリーベーンポンプ(110)において、前記スライドエレメント(140,240,340,440)の形状が、前記揺動ピン(123)の形状及び前記凹所(112a)の形状に少なくとも一部マッチしている、ポンプ(110)。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の可変容量型ロータリーベーンポンプ(110)において、前記ポンプボディ(112)が、金属材料から作られている、ポンプ(110)。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の可変容量型ロータリーベーンポンプ(110)において、前記揺動ステータ(122)が、非金属材料から作られている、ポンプ(110)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変容量型ロータリーベーンポンプに関する。
【0002】
好ましくは、本発明のポンプは、自動車業界で、特には自動車の内燃エンジンにおけるオイルポンプとして使用される。また、本発明のポンプは、内燃エンジンのエンジン冷却回路におけるウォータポンプや、当該エンジンの供給回路における燃料ポンプとして使用されることも可能である。
【0003】
以降の説明では、本発明のポンプの使用として、具体的に、自動車のガソリン内燃エンジン又はディーゼル内燃エンジンにおけるオイルポンプとしての使用について言及する。なお、説明の内容は、異なる種類の内燃エンジンや別の種類の乗り物にも広汎に当てはまる。
【背景技術】
【0004】
図1及び図2に、従来技術の可変容量型オイルポンプ(全体に符号10を付した)を示す。ポンプ10は、ポンプボディ12、ポンプボディ12内で回転軸心O回りに回転することが可能なロータ14、およびロータ14を中心とする偏心位置に設けられていて且つポンプボディ12内で揺動ピン(又は枢支点)23周りに動くことが可能な揺動ステータ22を備える。図2は、ポンプ10のうちの揺動ピン23の部分の拡大図である。
【0005】
揺動ピン23は、ポンプボディ12及び揺動ステータ22とは別体の部品であり、ポンプボディ12の内表面に形成された凹所12aに一部、さらには、揺動ステータ22に形成された凹所22aに一部収容されている。
【0006】
ポンプボディ12および揺動ピン23は金属材料(例えば、アルミニウム、鋼等)からなる一方、揺動ステータ22は非金属材料(例えば、カーボングラファイト、プラスチック等)からなり得る。
【0007】
本願の出願人は、上記の種類のポンプにおいて揺動ステータ22の凹所22aの領域が、高い機械的応力に曝されることを見出した。この高い機械的応力が原因で、揺動ピン23と揺動ステータ22との間に生じる摩擦、および/またはこれらの部品の摩耗が高くなる。これにより、ポンプの効率および信頼性が低下する。
【0008】
本願の出願人は、さらに、そのような高い摩擦が、揺動ステータ22のうちの、前述の凹所22aを設けたことが原因で高耐力部が減少してしまった領域にて発生することを見出した。高耐力部のこのような減少により、内部で起こる高い応力に十分に抵抗するために構造耐力を高くするのがむしろ適切であるような領域でまさに、揺動ステータ22の構造弱化が発生する。
【0009】
DE 10 2015 223452(特許文献1)には、請求項1の前提部に記載のポンプが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】独国特許出願公開第102015223452号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の根底を成す技術的課題は、前述した短所を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
よって、本発明は、請求項1に記載の可変容量型ロータリーベーンポンプに関する。
【0013】
このポンプは、
ポンプボディと、
前記ポンプボディ内で回転軸心回りに回転することが可能であり且つ複数のベーンが設けられているロータと、
前記ロータを中心とする偏心位置に設けられた揺動ステータ(oscillating stator)と、
前記ポンプボディに対する前記揺動ステータ回転用の枢支点(fulcrum)と、
当該ポンプの吐出量(displacement)を調節する調節手段であって、前記揺動ステータを前記ロータ及び前記ポンプボディに対して動かすように当該揺動ステータに作用する、調節手段と、
を備える。前記枢支点は、前記揺動ステータとの一体品で形成されていて、かつ、前記ポンプボディに形成された凹所に収容されている。このポンプは、さらに、前記枢支点と前記凹所との間に介設されたスライドエレメント、を備える。
【0014】
以降の説明および添付の特許請求の範囲において、「スライドエレメント」という表現は、2つの部品間の摩擦を当該スライドエレメントが同部品間に設けられていない場合と比べて軽減させることが可能なエレメントと、当該2つの部品よりも耐摩耗性が高い材料からなるエレメントの両方を指すのに用いられる。
【0015】
有利なことに、前記揺動ステータと一体化した前記枢支点が設けられることで、当該枢支点と当該揺動ステータとの間の摩擦の問題がなくなり、かつ、前述のスライドエレメントが設けられることで、前記枢支点と前記ポンプボディとの間の摩擦および/またはそれらの摩耗が大幅に減少する。まとめると、本発明のポンプでは、前記ポンプボディに対する前記揺動ステータの回転で起こる摩擦により生じる影響が、先述の従来技術のポンプと比べて大幅に軽減されて、当該ポンプの効率および信頼性が向上する。
つまり、前記枢支点は、前記揺動ステータと同じ材料からなる。
【0016】
前記枢支点は、前記揺動ステータにおいて、耐力が向上した部位を有する領域を形成する。これにより、前記揺動ステータの構造耐力が向上する。前記枢支点が前記揺動ステータとは別体の部品でないため、前記ポンプの取付作業や保守作業が容易になる。
前記揺動ステータが前記枢支点で曝される応力は、これらの応力の一部が実際には前記スライドエレメントにより逃がされて且つ支えられるので減少する。
【0017】
前記スライドエレメントは、前記枢支点が前記凹所に対して回転する際に当該枢支点と当該凹所とを構造的に切り離し、前記枢支点が前記凹所へ逃がす応力の一部を支承し、予測される又は計測された荷重に応じて、広めに又は狭めに選択され得る表面上で当該応力を分散させる。様々なサイズや素材のスライドエレメントを用意することで、最も適切と考えられるスライドエレメントを使用したり、元々使っていたスライドエレメントを測定又は試験で最も適切であると認められた別のスライドエレメントに又は保守時に別のスライドエレメントに最終的に交換したりすることが可能になる。
【0018】
本発明のポンプの好適な構成は、従属請求項に記載されている。各従属請求項の構成は、単独で使用することも、明らかに互いに相容れない場合を除くが別の従属請求項に記載された構成と組み合わせて使用することも可能である。
【0019】
本発明のポンプにおいて、前記スライドエレメントは、前記凹所内で少なくとも部分的に自由に回転することが可能である。この場合、前記枢支点から前記ポンプボディに加わる荷重により生じる摩擦は、当該荷重の一部が前記凹所内の前記スライドエレメントの回転を引き起こすため、なおいっそう減少する。
【0020】
好ましくは、前記スライドエレメントは、前記ロータに対する前記揺動ステータの最大偏心量の位置と最小偏心量の位置との間で当該揺動ステータが動くときに前記ポンプボディ又は当該揺動ステータに選択的に当接するように構成された、曲げられた両端部を有している。当該曲げられた端部は、前記ポンプボディ又は前記揺動ステータに対する前記スライドエレメントの相対回転を所定の角度に制限し、当該スライドエレメントを前記凹所外へ出ないように阻止する。
【0021】
しかしながら、前記スライドエレメントは、前記ポンプボディと一体的であるようにして前記凹所に収容されたものとすることが可能である。この場合、前記スライドエレメントは、前記ポンプボディを構成する材料よりも摩擦係数が低い材料、または前記ポンプボディを構成するのに用いられる材料よりも耐摩耗性が高い材料からなるのが好ましい。
【0022】
好ましくは、前記スライドエレメントは、前記枢支点に対して少なくとも部分的に自由に回転することが可能である。この場合、前記枢支点への荷重により生じる前記ポンプボディとの摩擦は、当該枢支点から当該ポンプボディに加わった荷重の一部が当該枢支点に対する前記スライドエレメントの回転を引き起こすためなおいっそう減少する。
【0023】
本発明のポンプの代替的な一実施形態において、前記スライドエレメントは、前記枢支点に一体的に連結されている。この場合、前記スライドエレメントは、当該スライドエレメントが使用されていない場合と比べて前記枢支点とポンプボディとの間の摩擦の低下を実現することができるように、前記揺動ステータとは異なる材料、特には前記揺動ステータよりも摩擦係数が低い材料からなるのが好ましい。一変形例として、前記スライドエレメントは、当該スライドエレメントが使用されていない場合と比べて前記枢支点と前記ポンプボディとの間の摩耗の減少を実現するように、前記揺動ステータよりも耐摩耗性が高い材料からなるものとされてもよい。
【0024】
上記の代替的な実施形態では、前記スライドエレメントが、前記枢支点又は前記揺動ステータに形成された各凹部にそれぞれ挿入された、曲げられた両端部を有するのが好ましい。
【0025】
前記曲げられた端部を設けるのに代えて、前記スライドエレメントを前記枢支点に連結した際に当該スライドエレメントが弾性変形することが可能であるように且つ当該弾性変形後に前記枢支点へと圧縮力が加わるように当該スライドエレメントを弾性材料で形成することにより、それらスライドエレメントと枢支点との安定した連結を実現するようにしてもよい。
好ましくは、前記スライドエレメントは、金属材料、好ましくは鋼または鋼合金からなる。
【0026】
有利なことに、前記スライドエレメントが前記枢支点と一体的なものである場合、当該スライドエレメントと前記ポンプボディに形成された前記凹所との間の回転は、摩擦の低下した状態や摩耗の少ない状態で行われるようになる。
【0027】
好ましくは、前記スライドエレメントの形状は、前記枢支点の形状及び前記凹所の形状に少なくとも一部マッチしている。これにより、前記揺動ステータと前記ポンプボディとの間で所望の相対回転が実現される。
【0028】
好ましくは、前記ポンプボディは、金属材料、特にはアルミニウムもしくはアルミニウム合金または鋼もしくは鋼合金からなる。
前記揺動ステータは、金属材料、特にはアルミニウムもしくはアルミニウム合金または鋼もしくは鋼合金からなるものとされ得る。この場合の前記揺動ステータは、ダイカスト法で得ることができる。
【0029】
好ましくは、前記揺動ステータは、非金属材料、特には、カーボングラファイト、プラスチック、またはフィラーもしくは添加剤有りもしくは無しの熱可塑性材料もしくは熱硬化性材料からなる。この場合の前記揺動ステータは、モールド成形法で得ることができる。
【0030】
本発明のさらなる特徴および利点は、本発明を限定するものでないあくまでも例示で設けた本発明の好適な実施形態についての、添付の図面を参照しながら行う以下の詳細な説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】先述の従来技術に従って製造された可変容量型オイルポンプを示す概略断面図である。
図2図1のポンプのうちの拡大した部分、具体的には、図1において丸印で囲んだ部分IIを示す概略図である。
図3】本発明に従って製造された可変容量型オイルポンプの第1の実施形態を示す概略断面図である。
図4図3のポンプのうちの拡大した部分、具体的には、図3において丸印で囲んだ部分IVを示す概略図である。
図5】本発明に従って製造された可変容量型オイルポンプの3つのさらなる実施形態のうちの一つの、(図4と同様の)部分を示す概略断面図である。
図6】本発明に従って製造された可変容量型オイルポンプの3つのさらなる実施形態のうちの別の実施形態の、(図4と同様の)部分を示す概略断面図である。
図7】本発明に従って製造された可変容量型オイルポンプの3つのさらなる実施形態のうちのさらに別の実施形態の、(図4と同様の)部分を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
まず図3及び図4を参照しながら、本発明にかかる可変容量型ロータリーベーンポンプ(具体的には、可変容量型オイルポンプ)の第1の実施形態について説明する。このポンプには、符号110を付した。
【0033】
ポンプ110は、内部でロータ114が回転するポンプボディ112を備える。ロータ114には、内部でベーン118がスライドする径方向空間116が設けられている。図示の明瞭性のために、符号116は図示の前記径方向区間のうちの一つのみに付しており、かつ、符号118は図示の前記ベーンのうちの一つのみに付している。
【0034】
ロータ114は、ポンプボディ112内で回転軸心O回りに回転することが可能である。
揺動ステータ122は、ロータ114を中心とする偏心位置に設けられている。揺動ステータ122は、ポンプボディ112内で枢支点123周りに動くことが可能である。
【0035】
ベーン118の径方向外側端部120は、ロータ114と揺動ステータ122との間に介設されたリング121と接触する。リング121は、揺動ステータ122の径方向内表面122bに接している。
【0036】
ベーン118、リング121およびロータ114が、ポンプボディ112内に複数のチャンバ124を画成する(図示の明瞭性のために、符号124は図示の前記チャンバのうちの一つのみに付している)。チャンバ124には、オイルが供給される。ロータ114が回転すると、チャンバ124の容積が減少する影響で、当該オイルに圧力がかかる。そして、圧力のかかった当該オイルが、エンジンのうちの潤滑が必要な部分へと供給される。
【0037】
ポンプ110の容積または吐出量は、揺動ステータ122の中心とロータ114の回転軸心Oとの間の偏心量で決まる。つまり、この偏心量が変化することで、前記ポンプの流量または吐出量が変化する。
【0038】
揺動ステータ122をロータ114及びポンプボディ112に対して動かすため、調節手段126が、揺動ステータ122に作用して当該揺動ステータ122とロータ114との間の偏心量を調節する。つまり、調節手段126は、ポンプ110の流量または吐出量を調節するように構成されている。
【0039】
図3に示す本発明を限定しない例では、ロータ114と揺動ステータ122との間の偏心量が、ポンプボディ112と揺動ステータ122との間に画成された押圧チャンバ128内に圧送された流体(典型的には、オイル)が揺動ステータ122へ加える押圧作用、コイルばね(helical spring)130によって揺動ステータ122へ加わる押圧作用、および揺動ステータ122内の圧力がかかったオイルにより当該揺動ステータ122へ加わる力(以降、「内力」と称する)の釣り合いで決まる。
【0040】
圧縮型のコイルばね(helical spring)130は、第1の自由端部がポンプボディ112に設けられており、反対側の自由端部が揺動ステータ122のうちのロータ114を基準として枢支点123とは反対側に位置した第1の外表面部122cを押圧する。ポンプボディ112と揺動ステータ122の第2の外表面部122dとの間に、前記押圧チャンバ128が画成される。
【0041】
つまり、ロータ114の回転軸心Oと揺動ステータ122の中心との間の偏心量は、コイルばね130が揺動ステータ122の第1の外表面部122cに加える押圧作用、押圧チャンバ128内に圧送された所定量の流体(典型的には、オイル)が揺動ステータ122の第2の外表面部122dに加える逆方向の押圧作用、および前述の内力の釣り合いで決まる。
【0042】
コイルばね130、および高圧の流体で満たされた際の押圧チャンバ128が、前述の調節手段126を形成する。
【0043】
一変形例では、リング121が省略されてもよい。この場合、ベーン118の径方向外側端部120が揺動ステータ122の径方向内表面122bに接触し、ベーン118、揺動ステータ122およびロータ114がポンプボディ112内に前記複数のチャンバ124を画成する。
【0044】
揺動ステータ122は、ポンプボディ112内で枢支点123にてピボットされており、ロータ114の回転軸心Oと当該揺動ステータ122の中心との間の偏心量が最小になる第1の位置とロータ114の回転軸心Oと当該揺動ステータ122の中心との間の偏心量が最大になる第2の位置との間で、ロータ114に対して動くことが可能である(図3には、最大偏心量に近い又は相当する状態が描かれている)。
【0045】
枢支点123は、揺動ステータ122との一体品で形成されていて、かつ、ポンプボディ112に形成された凹所112aに収容されている。
枢支点123の外壁123aの一部は、略円筒形状である。
枢支点123内には回転軸心Fが規定されており、揺動ステータ122が当該回転軸心Fを基準として回転する。
【0046】
ポンプ110は、さらに、枢支点123とポンプボディ112の凹所112aとの間に介設されたスライドエレメント140を備える。
スライドエレメント140の形状は、ロータ114に対する揺動ステータ122の最大偏心量の位置と最小偏心量の位置との間にわたって揺動ステータ122とポンプボディ112とが相対回転可能であるように、枢支点123及び凹所112aの形状と少なくとも部分的にマッチしている。
具体的に述べると、凹所112aは、スライドエレメント140が配置される略円筒形状の表面を有している。
【0047】
スライドエレメント140は、円周弧に沿って延在しており、かつ、略一様な径方向厚さを有している。
スライドエレメント140は、枢支点123の外壁123aに面する径方向内壁142、およびポンプボディ112の凹所112aに面する径方向外壁144を有する。
径方向内壁142および径方向外壁144は、略円筒形状を有する。
【0048】
図4に示す本発明を限定しない例において、スライドエレメント140の周方向全範囲は凹所112aの周方向全範囲よりも大きい。具体的に述べると、スライドエレメント140のうちの1つ又は2つの端部146,148は、凹所112aから(凹所112aのうちの一方の部分だけから、あるいは、図4のように凹所112aの両側の部分の双方から)飛び出して枢支点123の外壁123aを引き続き少なくとも部分的に取り囲んでいる。
【0049】
スライドエレメント140は、凹所112aにおいて少なくとも部分的に自由に回転することが可能である。具体的に述べると、スライドエレメント140は、枢支点123の(時計回り及び反時計回りの)回転に部分的に随伴して凹所112aでスライドする。
また、スライドエレメント140は、枢支点123に対して少なくとも部分的に自由に回転することも可能である。
【0050】
動作時には、揺動ロータ122の枢支点123がポンプボディ112に対して所与の角度回転をすると、スライドエレメント140が枢支点123と同じ方向に、ただし、それよりも小さい、枢支点123と当該スライドエレメント140との間の摩擦力および当該スライドエレメント140と凹所112aとの間の摩擦力に依存する角度で回転する。
【0051】
これらの摩擦力は、さらに、それらの部品を構成する材料にも依存する。
好ましくは、ポンプボディ112は、金属材料、特には、アルミニウムもしくはアルミニウム合金または鋼もしくは鋼合金からなる。
好ましくは、揺動ステータ122は、非金属材料、特には、カーボングラファイト、プラスチック、またはフィラーもしくは添加剤有りもしくは無しの熱可塑性材料もしくは熱硬化性材料からなる。
好ましくは、スライドエレメント140は、金属材料からなり、より好ましくは、鋼または鋼合金からなる。
一変形例として、揺動ステータ122は、金属材料、特にはアルミニウムもしくはアルミニウム合金または鋼もしくは鋼合金からなるものとされてもよい。
本発明の一変形例において、スライドエレメント140は、ポンプボディ112と一体的であるようにして凹所112aに収容されたものとされてもよい。この場合、スライドエレメント140は、ポンプボディ112を構成する材料よりも摩擦係数が低い材料からなるのが好ましい。例えば、スライドエレメント140は、自己潤滑材料からなるものとされ得る。
【0052】
図5に、本発明にかかる可変容量型ロータリーベーンポンプ110(具体的には、可変容量型オイルポンプ)の第2の実施形態の一部を示す。
このポンプは、符号240を付したスライドエレメントが、図3及び図4のポンプ110と実質上異なる。具体的に述べると、スライドエレメント240は、その周方向全範囲がスライドエレメント140の周方向全範囲よりも小さい、具体的には凹所112aの周方向全範囲よりも小さいという点で、図4のスライドエレメント140と実質上異なる。
【0053】
また、スライドエレメント240の周方向全範囲は、凹所112aの周方向全範囲と略等しい、すなわち、図5に示す周方向全範囲よりも小さいものとされてもよい。重要なのは、スライドエレメント240が、揺動ステータ122の最大偏心量の位置と最小偏心量の位置との間に定まる当該揺動ステータ122の全ての角度方向位置にて当該揺動ステータ122の回転を支持するという点である。
【0054】
スライドエレメント240の周方向全範囲が凹所112aの周方向全範囲以下である場合、当該スライドエレメント240の両端部146,148は、凹所112a又は枢支点123を傷付けないように丸みを帯びているのが好ましく、あるいは、少なくとも先端が鋭くないのが望ましい。
【0055】
図6に、本発明にかかる可変容量型ロータリーベーンポンプ110(具体的には、可変容量型オイルポンプ)の第3の実施形態の一部を示す。
このポンプは、符号340を付したスライドエレメントが、図3及び図4のポンプ110と実質上異なる。
具体的に述べると、スライドエレメント340は、当該スライドエレメント340の端部346,348の両側が枢支点123の回転軸心Fから遠ざかるように曲げられているので、図4のスライドエレメント140と実質上異なる。
【0056】
これらの端部346,348は、ロータ114に対する揺動ステータ122の最大偏心量の位置と最小偏心量の位置との間で当該揺動ステータ122が動いた際にポンプボディ112または当該揺動ステータ122に選択的に当接するように構成されている。具体的に述べると、本明細書で説明する具体例では、端部346,348が、ポンプボディ112aのうちの、凹所112a付近に位置した部分346a,348aに選択的に当接する。これにより、当該端部346,348は、ポンプボディ112に対するスライドエレメント340の相対回転を制限し、当該スライドエレメント340を凹所112a外へ出ないように阻止する。
【0057】
図7に、本発明にかかる可変容量型ロータリーベーンポンプ110(具体的には、可変容量型オイルポンプ)の第4の実施形態の一部を示す。
このポンプは、符号440を付したスライドエレメントが、図3及び図4のポンプ110と実質上異なる。
【0058】
具体的に述べると、スライドエレメント440は、枢支点123に一体的に連結されているので、図4のスライドエレメント140と実質上異なる。
この目的のために、スライドエレメント440の端部446,448は、互いに向かって、すなわち、枢支点123の回転軸心Fに近付くように曲げられている。
端部446,448は、枢支点123に形成された各凹部446a,448aに挿入されている。
【0059】
図示しない代替的な一実施形態において、スライドエレメント440は、その形状が図4のスライドエレメント140の形状または図5のスライドエレメント240の形状と同一にされると共に、当該スライドエレメント440を枢支点123に連結した際に当該スライドエレメント440が弾性変形することが可能であるように且つ当該弾性変形によって枢支点123へと圧縮力が加わるように弾性材料で形成される。
【0060】
スライドエレメント440は、当該スライドエレメント440が使用されていない場合と比べて枢支点123とポンプボディ112との間の摩擦の低下を実現することができるように、揺動ステータ122よりも摩擦係数が低い材料からなるものとされ得る。
【0061】
具体的に述べると、揺動ステータ122が非金属材料(特には、カーボングラファイト、プラスチック、またはフィラーもしくは添加剤有りもしくは無しの熱可塑性材料もしくは熱硬化性材)からなり且つポンプボディ112が金属材料(特には、アルミニウムもしくはアルミニウム合金または鋼もしくは鋼合金)からなる場合、スライドエレメント140は、当該スライドエレメント440とポンプボディ112に形成された凹所112aとの間の回転が摩擦の低下した状態や摩耗の少ない状態で行われるよう金属材料(例えば、鋼、鋼合金等)からなるのが好ましい。
【0062】
既述したどの実施形態においても、スライドエレメント140,240,340,440は、ポンプボディ112および/または揺動ステータ122よりも耐摩耗性が高い材料からなるものとされ得る。また、この場合、スライドエレメント140,240,340,440を構成する当該材料は、ポンプボディ112および/または揺動ステータ122の摩擦係数以上の摩擦係数を有するものとされてもよい。
【0063】
当業者であれば、特定の要件や偶発的な要件を満たすために、図3図7を参照しながら前述した可変容量型ロータリーベーンポンプに様々な変更や変形を施すことが可能であり、これらの変更や変形はいずれも添付の特許請求の範囲により定まる本発明の保護範囲内のものである。
以下、本発明に含まれる態様を記す。
〔態様1〕可変容量型ロータリーベーンポンプ(110)であって、
ポンプボディ(112)と、
前記ポンプボディ(112)内で回転軸心(O)回りに回転するように構成され、且つ複数のベーン(118)が設けられているロータ(114)と、
前記ロータ(114)を中心とする偏心位置に設けられた揺動ステータ(122)と、
前記ポンプボディ(112)に対する前記揺動ステータ(122)回転用の枢支点(123)と、
当該ポンプ(110)の吐出量を調節する調節手段(126)であって、前記揺動ステータ(122)を前記ロータ(114)及び前記ポンプボディ(112)に対して動かすように当該揺動ステータ(122)に作用する、調節手段(126)と、
を備え、前記枢支点(123)が、前記揺動ステータ(122)との一体品で形成されていて、かつ、前記ポンプボディ(112)に形成された凹所(112a)に収容されており、
当該ポンプ(110)が、さらに、
前記枢支点(123)と前記凹所(112a)との間に介設されたスライドエレメント(140,240,340,440)、
を備える、ポンプ(110)において、前記スライドエレメント(140,240,340)が、前記凹所(112a)内で少なくとも部分的に自由に回転することが可能であることを特徴とする、ポンプ(110)。
〔態様2〕態様1に記載のポンプ(110)において、前記スライドエレメント(340)は、前記ロータ(114)に対する前記揺動ステータ(122)の最大偏心量の位置と最小偏心量の位置との間で当該揺動ステータ(122)が動くときに、前記ポンプボディ(112a)又は当該揺動ステータ(122)に選択的に当接するように構成された、曲げられた両端部(346,348)を有している、ポンプ(110)。
〔態様3〕態様1または2に記載のポンプ(110)において、前記スライドエレメント(140,240,340)が、前記枢支点(123)に対して少なくとも部分的に自由に回転することが可能である、ポンプ(110)。
〔態様4〕態様1から3のいずれか一態様に記載のポンプ(110)において、前記スライドエレメント(440)が、前記枢支点(123)または前記揺動ステータ(122)に一体的に連結されている、ポンプ(110)。
〔態様5〕態様1から4のいずれか一態様に記載のポンプ(110)において、前記スライドエレメント(140,240,340,440)が、金属材料、好ましくは鋼または鋼合金からなる、ポンプ(110)。
〔態様6〕態様1から5のいずれか一態様に記載のポンプ(110)において、前記スライドエレメント(140,240,340,440)の形状が、前記枢支点(123)の形状及び前記凹所(112a)の形状に少なくとも一部マッチしている、ポンプ(110)。
〔態様7〕態様1から6のいずれか一態様に記載のポンプ(110)において、前記ポンプボディ(112)が、金属材料、好ましくはアルミニウムもしくはアルミニウム合金または鋼もしくは鋼合金から作られている、ポンプ(110)。
〔態様8〕態様1から7のいずれか一態様に記載のポンプ(110)において、前記揺動ステータ(122)が、非金属材料、好ましくは、カーボングラファイト、プラスチック、またはフィラーもしくは添加剤有りもしくは無しの熱可塑性材料もしくは熱硬化性材料から作られている、ポンプ(110)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7