(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】遺伝子組換え単鎖免疫グロブリン
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240603BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240603BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20240603BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20240603BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20240603BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240603BHJP
C12N 5/0781 20100101ALI20240603BHJP
C12N 5/0789 20100101ALI20240603BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240603BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240603BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240603BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240603BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240603BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20240603BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240603BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240603BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240603BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240603BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240603BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240603BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/86 Z
C12N7/01
C12N5/10
C12N5/0781
C12N5/0789
C07K16/18
C07K16/46
C12P21/08
A61K31/7088
A61K35/76
A61K35/545
A61K35/17
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P29/00
A61P31/00
A61P37/06
A61K39/395 T
G01N33/53 D
(21)【出願番号】P 2020546451
(86)(22)【出願日】2019-03-05
(86)【国際出願番号】 EP2019055453
(87)【国際公開番号】W WO2019170677
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-02-16
(32)【優先日】2018-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2018-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512132491
【氏名又は名称】エタブリスモン フランセ ドュ サン
【氏名又は名称原語表記】ETABLISSEMENT FRANCAIS DU SANG
【住所又は居所原語表記】20 avenue du Stade de France, F-93218 La Plaine Saint Denis, FRANCE
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】ダンジェ, ヤニック
(72)【発明者】
【氏名】コーニュ, ミシェル
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/148447(WO,A1)
【文献】特表2007-524605(JP,A)
【文献】特表2015-531751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え核酸分子であって、当該組換え核酸分子は、
-免疫グロブリン重鎖可変領域(V
H)をコードする配列と、
-免疫グロブリン軽鎖可変領域(V
L)をコードする配列と、
-軽鎖定常領域(C
L)をコードする配列と、
-ペプチドリンカー(PL1及びPL2)をコードする2つの配列と、
-ドナースプライス部位と、を含み、
前記ドナースプライス部位は、一定の免疫グロブリン重鎖遺伝子のCH1ドメインとの接合のためのドナースプライス部位であり、
前記核酸分子は、以下の構造
V
H-PL1-V
L-C
L-PL2-ドナースプライス部位
を含み、PL1及びPL2は、同一又は異な
り、
前記核酸分子は、宿主細胞のゲノム内の連結領域(JH)の遺伝子と免疫グロブリン重鎖の定常領域(C
H
)の遺伝子との間の免疫グロブリン重鎖座位内への、前記核酸分子の組込みを誘導するための追加のポリヌクレオチドをさらに含む組換え核酸分子。
【請求項2】
前記ペプチドリンカーは、10~25アミノ酸長である請求項
1に記載の組換え核酸分子。
【請求項3】
PL1及び/又はPL2は、配列番号1~7の配列と、少なくとも90%の配列番号1~7の配列との配列同一性を有する配列とからなる群から選択された配列を含むか、又はからなる請求項1
又は2に記載の組換え核酸分子。
【請求項4】
PL1及び/又はPL2は、配列番号1の配列、又は少なくとも90%の配列番号1の配列との配列同一性を有する配列を含むか、又はからなる請求項1~
3のいずれかに記載の組換え核酸分子。
【請求項5】
前記核酸の発現を適切な宿主細胞内において調節配列と適合する条件下で誘導する1つ以上の調節配列に操作可能に連結される請求項1~
4のいずれかに記載の組換え核酸分子を含む発現カセット。
【請求項6】
請求項
5に記載の発現カセットを含むベクター。
【請求項7】
前記ベクターは、ウイルスベクターである請求項
6に記載のベクター。
【請求項8】
前記ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである請求項
6に記載のベクター。
【請求項9】
請求項
6~8のいずれかに記載のベクターを含むウイルス粒子。
【請求項10】
請求項1~
4のいずれかに記載の組換え核酸分子、請求項
5に記載の発現カセット、請求項
6~8のいずれかに記載のベクター又は請求項
9に記載のウイルス粒子を含む単離細胞。
【請求項11】
前記単離細胞は、ヒト胚性幹細胞ではない請求項
10に記載の単離細胞。
【請求項12】
前記細胞は、マウス胚性幹細胞である請求項
10又は
11に記載の細胞。
【請求項13】
前記細胞は、B細胞である請求項
10~12のいずれかに記載の細胞。
【請求項14】
請求項
10~13のいずれかに記載の少なくとも1つの細胞を含む、遺伝子組換え生物。
【請求項15】
前記生物はマウスである請求項
14に記載の遺伝子組換え生物。
【請求項16】
免疫グロブリン重鎖可変領域(V
H)と、免疫グロブリン軽鎖可変領域(V
L)と、免疫グロブリン軽鎖定常領域(C
L)と、免疫グロブリン重鎖定常領域(C
H)と、ペプチドリンカー(PL1及びPL2)をコードする2つの配列とを含み、V
HはV
LにPL1を介して融合され、C
LはC
HにPL2を介して融合され、PL1及びPL2は同一か又は異なる抗体を産生する方法であって、
前記抗体を発現する請求項
10~13のいずれかに記載の細胞又は請求項
14又は
15に記載の遺伝子組換え生物を提供するステップと、前記抗体を前記細胞培養液から又は前記生物の試料から回収するステップとを含む、抗体産生方法。
【請求項17】
請求項1~
4のいずれかに記載の組換え核酸分子、請求項
5に記載の発現カセット、請求項
6~8のいずれかに記載のベクター、請求項
9に記載のウイルス粒子、又は請求項
10~13のいずれかに記載の宿主細胞と、製薬上許容される賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項18】
病気の予防又は治療において使用するための、請求項1~
4のいずれかに記載の組換え核酸分子、請求項
5に記載の発現カセット、請求項
6~8のいずれかに記載のベクター、請求項
9に記載のウイルス粒子、請求項
10~13のいずれかに記載の宿主細胞又は請求項
17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
病気の診断又は検知方法において使用するための、請求項1~
4のいずれかに記載の組換え核酸分子、請求項
5に記載の発現カセット、請求項
6~8のいずれかに記載のベクター、請求項
9に記載のウイルス粒子、請求項
10~13のいずれかに記載の宿主細胞又は請求項
17に記載の医薬組成物。
【請求項20】
病気の診断又は検知のためのキットであって、当該キットは、請求項1~
4のいずれかに記載の組換え核酸分子、請求項
5に記載の発現カセット、請求項
6~8のいずれかに記載のベクター、請求項
9に記載のウイルス粒子、請求項
10~13のいずれかに記載の宿主細胞又は請求項
17に記載の医薬組成物を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、医薬分野、特に、意図的にB細胞の特異性を再操作することに対する行き詰まりを打破することができる免疫グロブリンの新しい構造に関する。
【背景技術】
【0002】
[発明の背景]
癌治療は、細胞療法及び遺伝子治療の両方の免疫療法に関して開発が多数されて非常に活気のある分野である。腫瘍特異型抗原又は免疫チェックポイントを標的とする抗体が、完全に、多くの腫瘍タイプの予後を変え、長期寛解をもたらし、最終的に、死に至る病を概ね免疫系による制御の下、慢性病に転換させた。
【0003】
抗体分子が、このように癌に対する主要な対抗手段となってきているが、このような薬物を産生する細胞には、なおバイオテクノロジー操作及び細胞療法の利用が依然として不可能なままである。いくつかの報告では、形質細胞による遺伝子組換えタンパク質(とりわけ、凝固因子)の産生が事前に得られているが、但し、短期間に過ぎず、しかも、実験の設定において、だった(Hung他, 2018, Mol. Ther. J. Am. Soc. Gene Ther., 26, p. 456-467、Levy他, 2016, J. Thromb. Haemost. JTH, 14, p. 2478-2492)。意図的にB細胞の特異性を再操作し腫瘍特異型B細胞を生成することへの関心が高いことは明らかだが、これは、2つの生物化学的な行き詰まりにより阻害されている。
【0004】
第一に、免疫グロブリンは、化学量論的発現を必要としかつ、2つの組換えタンパク質が適正なIg産生のために同時に発現されることを必要とするH-L高分子である。第二に、B細胞は、大量の内在性Igを頻繁に発現する。よって、追加のドナー(d)のHd及びLd鎖を、すでにHr及びLr分子を発現しているレシピエント(r)の細胞に、単に追加すること(最終的に発現が乏しくなる)は、ハイブリッド分子の混合体(HrLr,HrLd,HdLr及びHdLd…)をもたらし、当該混合体の間において、所望のドナーのような特異性を伴って適正に組織化されるHL鎖の量は、全く予測不可能である。
【発明の概要】
【0005】
第1の態様において、本発明は、組換え核酸分子に関し、当該組換え核酸分子は、
-免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)をコードする配列と、
-免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)をコードする配列と、
-軽鎖定常領域(CL)をコードする配列と、
-ペプチドリンカー(PL1及びPL2)をコードする2つの配列と、を含み、
核酸分子は、以下の構造を含み、
VH-PL1-VL-CL-PL2
PL1及びPL2は、同一又は異なる。
【0006】
組換え核酸分子は、ドナースプライス部位を含み得、以下の構造、VH-PL1-VL-CL-PL2ドナースプライス部位を示し得る。
【0007】
その代わりに、組換え核酸分子は、以下を含み得る。
-免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)をコードする配列と、
-免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)をコードする配列と、
-軽鎖定常領域(CL)をコードする配列と、
-免疫グロブリン重鎖定常領域(CH)をコードする配列と、
-ペプチドリンカー(PL1及びPL2)をコードする2つの配列と、を含み得、
核酸分子は、以下の構造を含み、
VH-PL1-VL-CL-PL2-CH
PL1及びPL2は、同一又は異なる。
【0008】
免疫グロブリン重鎖定常領域をコードする配列は、3つ又は4つの免疫グロブリン重鎖定常ドメインをコードすることが、好ましい。
【0009】
組換え核酸分子は、さらに、前記核酸分子の組込みの誘導を、宿主細胞のゲノム内の正確な位置へ、好ましくは、免疫グロブリン重鎖座位内へ、さらに好ましくは、連結領域(JH)の遺伝子と免疫グロブリン重鎖の定常領域(CH)の遺伝子との間において、相同組換えにより起こすための追加のポリヌクレオチドを含み得る。
【0010】
ドナースプライス部位は、定常免疫グロブリン重鎖遺伝子のCH1ドメインとの接合のためのドナースプライス部位であることが好ましい。
【0011】
ペプチドリンカーは、好ましくは、10~25アミノ酸長であり、さらに好ましくは、15~20アミノ酸長である。
【0012】
別の態様において、本発明は、本発明の組換え核酸分子を含む発現カセットに関し、当該発現カセットは、前記核酸の発現を適切な宿主細胞内において調節配列と適合し得る条件下で誘導する1つ以上の調節配列に操作可能に連結される本発明の組換え核酸分子を含む。
【0013】
特に、組換え核酸分子は、免疫グロブリンVHプロモーターに操作可能に連結され得る。
【0014】
別の態様において、本発明は、本発明の発現カセットを含むベクターに関する。
【0015】
ベクターは、好ましくは、ウイルスベクター、より好ましくは、レトロウイルスベクター、さらに好ましくは、レンチウイルスベクターに関する。
【0016】
好ましい実施形態において、前記ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであり、好ましくは、AAV6ベクターである。
【0017】
別の態様において、本発明は、本発明のベクターを含むウイルス粒子に関する。
【0018】
別の態様において、本発明は、本発明の組換え核酸分子、発現カセット、ベクター又はウイルス粒子を含む単離細胞に関する。
【0019】
細胞は、マウス胚性幹細胞であることが、好ましい。
【0020】
その代わりに、細胞は、B細胞、好ましくはヒトB細胞である。
【0021】
別の態様において、本発明は、ヒトを除いた、遺伝子組換え生物に関し、当該遺伝子組換え生物は、本発明の少なくとも1つの細胞を含み、好ましくは、前記遺伝子組換え生物は、マウスである。
【0022】
別の態様において、本発明は、抗体に関し、当該抗体は、
-免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)と、
-免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)と、
-免疫グロブリン軽鎖定常領域(CL)と、
-免疫グロブリン重鎖定常領域(CH)と、
-ペプチドリンカー(PL1及びPL2)をコードする2つの配列と、を含み、
VHは、VLにPL1を介して融合し、CLは、CHにPL2を介して融合し、PL1及びPL2は、同一又は異なる。
【0023】
本発明はまた、本発明の抗体を産生する方法に関し、当該方法は、本発明の細胞又は遺伝子組換え生物を提供し、前記細胞又は生物が前記抗体を発現するステップと、前記抗体を細胞培養液又は前記生物の試料から回収するステップとを含む。
【0024】
別の態様において、本発明は、さらに、本発明の組換え核酸分子、発現カセット、ベクター、ウイルス粒子、細胞又は抗体と、製薬上許容される賦形剤とを含む医薬組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】免疫グロブリンのG1クラス(左、先行技術)と、本発明の完全長単鎖IgG1型(右)の概略図である。天然のIgG1と比較すると、重鎖可変ドメインが、軽鎖可変ドメインに、ペプチドリンカーにより、重鎖可変ドメインのC末端から軽鎖可変ドメインのN末端へと、連結されている。軽鎖定常ドメインのC末端部分が、N末端の重鎖定常ドメインに、別のペプチドリンカーにより、付着されている。
【
図2】リツキシマブのVDJ配列をVJ配列へひょう疽218リンカーにより連結した。転写を最適化するために、イントロン構造を、重鎖可変ドメインをコードする第1のエクソンと第2のエクソンとの間に保存した。定常K配列を、定常重鎖に、同一のひょう疽218リンカーにより連結した。この配列の合成は、Genecust Companyから注文され、pCDNA3.1(+)ベクター内に挿入された。
【
図3】遺伝子導入されたCHO又はHEK293細胞株の上清をELISA法で解析した。上清中のIgG分子が、96プレート上にコーティングされた抗-Fcポリクローナル抗体により捕捉された。検知は、HRP-結合抗-IgG(H+L)ポリクローナル抗体を追加することにより実現した。IgG1組換えタンパク質がポジティブコントロールとして使用されるのに対して、ネガティブコントロールは、IgM-クラスの組換え分子だった。
【
図4】scFull-Ig上清を伴った標的細胞の染色。
図4A)フローサイトメトリープロファイル: ポジティブCD20細胞株(SUDHL4及びDOHH)上におけるscFull-Ig抗-CD20の検知、又はネガティブコントロール: CD20発現のために破壊されたDOHH KOCD20。SUDHL4細胞株を、上清50μL中で2~8℃で30分間インキュベートした。洗浄後、蛍光性ポリクローナル抗hIgG(H+L)抗体を、2~8℃で20分間インキュベートした。細胞を、FACSCaliburサイトメーターにおけるフロー解析前に洗浄した。蛍光の幾何平均を、異なる細胞株(SUDHL4、DOHH2及びDOHH2 KO CD20)において測定し、これは、希釈された上清によるインキュベーションを右側のヒストグラムにグラフ化した後だった。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書における本発明者らは、意図的なB細胞の特異性を、特に、抗原に対する膜連結型B細胞受容体(BCR)として又は分泌型抗体として、単鎖発現に適する免疫グロブリンの形態で、再操作することへの行き詰まりを打破する方法を本明細書において提供する。実際に、本発明者らは、組換え完全長免疫グロブリンが、2つのリンカーを含み通常の完全な免疫グロブリンと構造が非常によく似た単鎖分子として発現され得ることを、実証した。この分子は、不特定の抗体の全てのドメインを、少なくとも2つのペプチドリンカーを使用することにより、融合させることによって得られ、第1のリンカーが、重鎖可変領域のC末端を、軽鎖可変領域のN末端に融合させ、第2のリンカーが、軽鎖定常領域のC末端を、γ重鎖定常領域CH1ドメインのN末端の部分に融合させる(
図1)。本願の実験の節に図示したように、本発明者らは、核酸が前記完全長単鎖免疫グロブリンをコードすることで形質転換したCHO及びHEK 293細胞が、組換え抗体を効率的に産生することができ、またこの抗体は、効率的にその抗原を認識し得ることを実証した。
【0027】
この方法は、重鎖と軽鎖との間の化学量論についての課題を解決するばかりでなく、内在性免疫グロブリンの重鎖発現を容易に中断させ、組換え抗体の高発現を促進し、場合によっては内在性の制御配列であって、膜型Ig及び分泌型Igの交互のスプライシングとポリアデニル化とを制御する同配列を用いることができ、その結果、組換え抗体が、記憶Bリンパ球内の膜結合型のBCRとして又は形質細胞内の分泌型Igとして、発現され得る。
【0028】
よって、第1の態様において、本発明は、組換え核酸分子に関し、当該分子は、
-免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)をコードする配列と、
-免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)をコードする配列と、
-軽鎖定常領域(CL)をコードする配列と、
-ペプチドリンカー(PL1及びPL2)をコードする2つの配列と、を含み又はそれらからなり、
核酸分子は、以下の構造を含む。
VH-PL1-VL-CL-PL2
【0029】
好ましくは、構造VH-PL1-VL-CL-PL2は、これらの要素のすべてが、すぐ隣のものに隣接する、すなわち、VHをコードする配列が、直接、PL1をコードする配列に連結され、PL1をコードする配列が、直接、VLをコードする配列に連結され、VLをコードする配列が、直接、CLをコードする配列に連結され、CLをコードする配列が、直接、PL2をコードする配列に連結されることを意味する。
【0030】
本明細書において使用される「核酸分子」、「核酸」及び「ポリヌクレオチド」という用語は、互換的に使用され、任意の長さのヌクレオチドの重合形態、リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドを指す。つまり、この用語は、一本鎖、二本鎖、若しくは多重鎖のDNA若しくはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-RNAハイブリッド、又はプリン塩基及びピリミジン塩基を含む、若しくは他の天然の、化学的若しくは生化学的に修飾した、非天然の若しくは生成したヌクレオチド塩基を含む重合体を包含するが、これらに限定されない。ポリヌクレオチドの骨格は、(RNA又はDNAに通常見受けられ得るように)糖とリン酸基、又は修飾若しくは置換された糖若しくはリン酸基を含み得る。あるいは、ポリヌクレオチドの骨格は、ホスホロアミダイト等の合成サブユニットの重合体を含み得、つまり、オリゴデオキシヌクレオシドホスホロアミダイト(P-NH2)又は混合ホスホロアミダイトホスホジエステルオリゴマーであり得る。本発明の核酸は、化学合成、組換え、突然変異誘発を含む、当業者に既知の任意の方法によって調製することができる。好ましい実施形態において、本発明の核酸はDNA分子、好ましくは二本鎖DNA分子であり、当業者に既知の組換え方法によって合成可能である。
【0031】
「組換え核酸」とは、操作されているとともに、それ自体、自然環境及び特に野生型生物には見受けられない核酸を指す。
【0032】
本発明の核酸分子は、免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)をコードする配列と、免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)をコードする配列と、を含む。
【0033】
抗体の「可変領域」又は「可変ドメイン」は、抗体の重鎖又は軽鎖のアミノ末端ドメインを指す。用語「免疫グロブリン重鎖可変領域」又は「重鎖の可変ドメイン」を、「VH」と呼び得る。用語「免疫グロブリン軽鎖可変領域」又は「軽鎖の可変ドメイン」を、「VL」と呼び得る。このようなドメインは、一般に、抗体の最も変化し得る部分であり、抗原結合部位を含む。
【0034】
軽鎖又は重鎖可変領域(VL又はVH)は、「相補性決定領域」又は「CDR」と呼ばれる3つの高頻度可変領域により中断されたフレームワークからなる。VL又はVHは、一般に、4つのフレームワーク領域又は「FR」を含み、当該フレームワーク領域は、当該技術において、それぞれ、「フレームワーク領域1」又は「FR1」、「フレームワーク領域2」又は「FR2」、「フレームワーク領域3」又は「FR3」、「フレームワーク領域4」又は「FR4」と呼ばれる。このようなフレームワーク領域及び相補性決定領域は、以下の順番に操作可能に連結されることが好ましい。FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4(アミノ末端からカルボキシ末端)。
【0035】
フレームワーク領域及びCDRの程度は、例えば、Kabatのものと同様に正確に定義されている(「Sequences of Proteins of Immunological Interest」、E. Kabat他、U.S. Department of Health and Human Services(1983))。所定のVH又はVLのCDRは、当業者に利用可能な任意の方法により決定され得る。例えば、非限定的なやり方で、Chlothia又はKabatの方法を用いて、CDRを決定し得る(Chothia他,Nature 342,p.877-883,Kabat他,1991,Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版,United States Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda)。AbM(Oxford Molecular AbM antibody modeling software)と呼ばれる、ChlothiaとKabatとの中間的な方法、又は利用可能な複合構造体の解析に基づく、いわゆる「接触型」の方法等、CDRを決定する代替方法を用いることもできる。
【0036】
抗体のフレームワーク領域は、構成要素の軽鎖と重鎖とが組み合わされたフレームワーク領域であって、CDRを配置し位置を合わせる役割を担い、CDRが主に抗原への結合を担う。
【0037】
本発明の核酸分子は、軽鎖定常領域(CL)をコードする配列を含む。
【0038】
本明細書において定義する「定常領域」とは、軽鎖又は重鎖免疫グロブリン定常領域の遺伝子の一つによりコードされた、抗体由来の定常領域を意味する。
【0039】
「免疫グロブリン軽鎖定常領域」によって、本明細書において使用される「定常軽鎖」又は「軽鎖定常領域」とは、カッパ(Chappa)又はラムダ(Clambda)軽鎖によりコードされた抗体領域を意味し、「CL」と呼び得る。定常軽鎖は、典型的には、単一のドメインを含む。
【0040】
一部の実施形態において、本発明の核酸分子は、
-免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)をコードする配列と、
-免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)をコードする配列と、
-軽鎖定常領域(CL)をコードする配列と、
-免疫グロブリン重鎖定常領域(CH)をコードする配列と、
-ペプチドリンカー(PL1及びPL2)をコードする2つの配列と、を含み、
核酸分子は、以下の構造を含む。
VH-PL1-VL-CL-PL2-CH
【0041】
PL2をコードする配列が、直接、CHをコードする配列に連結されることが、好ましい。
【0042】
本明細書において使用する「免疫グロブリン重鎖定常領域」、「定常重鎖」又は「重鎖定常領域」とは、ミュー、デルタ、ガンマ、アルファ又はイプシロン遺伝子によりコードされて、抗体のアイソタイプを、それぞれ、IgM、IgD、IgG、IgA又はIgEと定義する抗体の領域を意味する。この領域を「CH」と呼び得る。
【0043】
定常重鎖は、典型的には、3つ又は4つのドメインを含む。図示のように、完全長IgD、IgG又はIgA抗体について、定常重鎖領域は、本明細書において定義するように、CH1ドメインのN末端からCH3ドメインのC末端を指し、完全長IgE又はIgM抗体について、定常重鎖領域は、本明細書において定義するように、CH1ドメインのN末端からCH4ドメインのC末端を指す。
【0044】
その代わりに、CH領域は、完全長抗体の定常重鎖の断片を含み又はそれらからなり得る。例えば、CH1及び/又はCH2等の1つ又は2つのドメインを含む又はそれらからなり得る。
【0045】
一部の他の実施形態において、本発明の核酸分子は、
-免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)をコードする配列と、
-免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)をコードする配列と、
-軽鎖定常領域(CL)をコードする配列と、
-ペプチドリンカー(PL1及びPL2)をコードする2つの配列と、
-ドナースプライス部位と、を含み又はこれらからなり、
核酸分子は、以下の構造を含む。
VH-PL1-VL-CL-PL2ドナースプライス部位
【0046】
PL2をコードする配列は、直接、ドナースプライス部位を含む配列に連結されることが、好ましい。
【0047】
ドナースプライス部位は、本発明の核酸発現を予定している宿主細胞と、想定される組込み部位とに応じて設計される。
【0048】
ドナースプライス部位は、宿主細胞の定常免疫グロブリン重鎖遺伝子のCH1ドメインとの境界のために設計されることが好ましい。このようなドナースプライス部位の使用が、Delpy他(Eur. J. Immunol.,2003,33,p. 2108-2113)又はCasola他(Nat. Immunol.,2004,5,p.317-327)の本文に図示されている。
【0049】
多数の生命情報科学的な器具が、当業者に知られており、GeneSplicer(http://ccb.jhu.edu/software/genesplicer/)又はSpliceport(http://spliceport.cbcb.umd.edu/)等のスプライス信号及びスプライス事象を予測及び設計することに使用可能である。Breathnach R,Chambon P. Annu Rev Biochem. 1981,50:p.349-83も参照。一実施形態において、ドナースプライス部位は、潜在的スプライス部位である。
【0050】
本発明の核酸分子は、少なくとも2つの、ペプチドリンカー、すなわちPL1及びPL2をコードする配列を含む。
【0051】
ペプチドリンカーPL1及びPL2は、同一又は異なるものとし得る。
【0052】
本発明の核酸分子によりコードされた抗体において、ペプチドリンカーPL1は、VH領域のC末端をVL領域のN末端に接合し、ペプチドリンカーPL2は、CL領域のC末端をCH領域のN末端に接合する。
【0053】
本発明の核酸分子において、ペプチドリンカーPL1をコードする配列は、VH領域をコードする配列を、VL領域をコードする配列に接合する。
【0054】
実施形態によって、ペプチドリンカーPL2をコードする配列は、CL領域をコードする配列を、CH領域をコードする配列又はドナースプライス部位を含む配列に接合する。
【0055】
ペプチドリンカーのアミノ酸の長さは、5~50であることが典型的である。ペプチドリンカーは、アミノ酸の長さが、好ましくは10~25であり、さらに好ましくは15~20であり、なお一層好ましくは約18である。
【0056】
ペプチドリンカーの配列は、大多数の親水性アミノ酸を含み、又はグリシン及びセリン等の親水性アミノ酸からなることが、典型的である。
【0057】
本発明において有用なペプチドリンカーは、当業者が、単鎖断片可変(scFv)抗体内において、既述の任意のペプチドリンカーから選択可能である。このようなペプチドリンカーの実施例は、Gu他(Ann Biomed Eng. 2010年2月,38(2): p.537-49,Volkel他(Protein Eng. 2001年10月14日(10):p.815-23),Pantoliano他,(Biochemistry. 1991年10月22日,30(42):p. 10117-25),Whitlow他,(Protein Eng. 1993年11月,6(8):p. 989-95)又はHennecke他,(Protein Eng. 1998年5月,11(5):p.405-10)に記載されている。
【0058】
このようなペプチドリンカーの特定の実施例を以下に示す。
【0059】
特定の実施形態において、PL1及び/又はPL2は、配列番号:1~7の配列と、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の、配列番号:1~7の配列との配列同一性を有する配列とからなる群から選択される配列を含むか又はそれらからなる。
【0060】
特定の実施形態において、PL1及び/又はPL2は、配列GSTSGSGKPGSGEGSTKG(配列番号1)又は少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の、配列番号1の配列との配列同一性を有する配列を含むか又はそれらからなる。
【0061】
本明細書に使用されているように、「配列同一性」又は「同一性」という用語は、2つのポリぺプチド配列のアライメントにおける位置の整合数(%)(同一のアミノ酸残基)を指す。配列同一性は、配列のギャップを最小化しながら重複と同一性とを最大化するようにアライメントされるときに配列を比較することで決定される。特に、配列同一性は、2つの配列の長さに応じて、多くの数学的グローバル又はローカルアライメントアルゴリズムの任意のものを使用して決定することができる。類似する長さの配列は、配列を全長にわたり最適にアライメントするグローバルアライメントアルゴリズム(例えば、ニードルマン・ウンシュアルゴリズム、Needleman及びWunsch、1970)を使用して好ましくはアライメントされる一方で、実質的に異なる長さの配列は、ローカルアライメントアルゴリズム(例として、スミス・ウォーターマンアルゴリズム(Smith及びWaterman、1981)又はアルトシュル(Altschul)アルゴリズム(Altschul他、1997;Altschul他、2005)を使用して好ましくはアライメントされる。アミノ酸配列同一性率を決定するためのアライメントは、例えば、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/又はhttp://www.ebi.ac.uk/Tools/emboss/等のインターネット上のウェブサイトにおいて公的に利用可能なコンピュータソフトウエアを使用して、当該技術の範囲内である種々の方法で行うことができる。当業者は、比較される配列全長にわたって最大のアライメントを得るために必要とされる任意のアルゴリズムを含む、アライメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。本明細書の目的のため、アミノ酸配列同一性率値%は、ニードルマン・ウンシュアルゴリズムを使用して2つの配列の最適なグローバルアライメントを行う、ペアワイズシーケンスアライメントプログラムであるEMBOSS Needleを使用して生成された値を指し、全ての検索パラメータは、デフォルト値、即ち、スコアリングマトリクス=BLOSUM62、ギャップオープン=10、ギャップエクステンド=0.5、エンドギャップペナルティ=偽、エンドギャップオープン=10、及びエンドギャップエクステンド=0.5に設定される。
【0062】
本発明の組換え核酸分子は、さらに、前記核酸分子の組込みの誘導を、宿主細胞のゲノム内の正確な位置における相同組換えにより起こすための、追加の配列を含み得る。
【0063】
本発明の核酸分子の両端に、宿主細胞のゲノムの正確な位置への配列相同が隣接することが、好ましい。このような配列は、当業者が容易に設定可能である。
【0064】
相同組換えは、ZFNs、TALE ヌクレアーゼ、CRISPR/Cas9等の組換えのために決まって使用されるヌクレアーゼの助けの有無に拘わらず行われ得る。
【0065】
特に、追加の配列は、CRISPR/Cas9システムにより作り出される二重鎖切断(DSB)点上方にまたがるマイクロホモロジー配列であり得る。マイクロホモロジー配列は、短い(通常約10~50bp)配列で、所定の遺伝子に対する特異性が高く、標的ゲノムの別の場所には見つからないことを特徴とする。多数の生命情報科学的な器具が、当業者に知られており、NBRP Medaka(http://viewer.shigen.info/cgi-bin/crispr/crispr.cgi)等の配列を設計することに使用可能である。任意だが、このようなマイクロホモロジー配列には、PITCh結合部位が隣接して、MMEJ(マイクロホモロジー媒介末端結合)機構を用いて組込み可能である(Sakuma他,Nat Protoc. 2016年1月,11(1): p.118-33)。
【0066】
好ましい実施形態では、このような追加の配列によって、免疫グロブリン重鎖の座への相同組換えにより、さらに好ましくは、免疫グロブリン重鎖の結合領域(JH)遺伝子と、定常領域(CH)遺伝子との間において、組込みが可能となる。好ましくは、本実施形態において、本発明の核酸分子は、上に明確にしたように、以下の構造、VH-PL1-VL-CL-PL2ドナースプライス部位を発現し、RNAスプライシングは、VH-PL1-VL-CL-PL2-CHを含む融合タンパク質をもたらし、ここで、CHは、宿主細胞ゲノムによりコードされたものである。挿入部位は、その配列が相同配列を設計するために使用されるものであって、任意のCH1エクソンの、任意のIg重鎖遺伝子より上流において選択可能である。
【0067】
別の態様において、本発明は、本発明の組換え核酸分子を含む発現カセットに関し、本発明の組換え核酸分子は、1つ以上の調節配列に操作可能に連結され、制御配列は、適切な宿主細胞内における前記核酸の発現を調節配列と適合し得る条件下で誘導する、発明の組換え核酸分子を含む発現カセットに関する。
【0068】
「調節配列」という用語は、遺伝子の発現に必要な核酸配列を意味する。調節配列は、天然のもの(自然に生じるゲノム内のコード配列に操作可能に連結される)であるか、又は異種の(自然に生じるゲノム内のコード配列に操作可能に連結される調節配列とは異なる)ものであってよい。そのような調節配列は、リーダー、ポリアデニル化配列、プロモーター、シグナルペプチド配列、及び転写ターミネーターを含むがこれらに限定されない。
【0069】
本明細書において使用されているように、「操作可能に連結される」という用語は、一方の機能が他方により影響される、単一の核酸分子上における核酸配列の関連付けを指す。例えば、プロモーターは、コード配列と、そのコード配列の発現に影響し得るとき、すなわち、コード配列が、プロモーターの転写制御の下にあるときに、操作可能に連結されるということである。
【0070】
本明細書において使用されているように、「発現カセット」という用語は、コード配列及び該コード配列の発現に必要とされる1つ以上の調節配列を含む核酸コンストラクトを指す。一般に、発現カセットは、コード配列と、目的の遺伝子産物の発現に必要とされるコード配列に先行する制御配列(5’非コード配列)及びコード配列に後続する制御配列(3’非コード配列)と、を含む。よって、発現カセットが、典型的には、プロモーター配列と、5’非翻訳領域と、コード配列と、通常ポリアデニル化部位及び/又は転写ターミネーターを含む3’非翻訳領域とを、含む。発現カセットはまた、例えば、エンハンサー配列、ベクター及び/又はスプライシングシグナル配列内へのDNA断片の挿入を促進するポリリンカー配列等の追加の制御因子も含み得る。発現カセットは、通常、ベクター内に含まれて、クローニング及び形質転換を促進する。
【0071】
特定の実施形態において、本発明の組換え核酸は、免疫グロブリンVHプロモーターに、好ましくは、当該宿主細胞の免疫グロブリンVHプロモーターに、操作可能に連結される。このようなプロモーターは、当業者が容易に選択可能である。好ましくは、当該宿主細胞は、ヒト宿主細胞であり、プロモーターは、ヒトプロモーター、好ましくは、ヒト免疫グロブリンVHプロモーター又はB細胞系内において活性化する任意のプロモーターである。
【0072】
好ましい実施形態において、プロモーターは、誘導的プロモーターである。このプロモーターで、意図的に組換え単鎖抗体の産生を引き起こすことができる。
【0073】
本発明の発現カセットは、さらに、追加の配列を含み得、追加の配列は、相同組換えを正確な位置において宿主細胞のゲノム内へ起こすことにより組込みを誘導する。このような配列は、本発明の組換え核酸分子について上述した通りであってもよい。
【0074】
組換え核酸分子の全ての実施形態もまた、この態様において企図される。
【0075】
別の態様において、本発明は、組換え核酸分子又は本発明の発現カセットを含むベクターに関する。
【0076】
「ベクター」は、核酸分子を意味し、好ましくは、例えば、プラスミド、バクテリオファージ又はウイルス由来のDNA分子を意味し、その中に、核酸配列が、挿入又はクローン化され得る。ベクターの非限定的例は、プラスミド、ファージ、コスミド、ファージミド、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、ヒト人工染色体(HAC)、アデノウイルスベクター又はレトロウイルスベクター等のウイルスベクター、及び遺伝子操作において従来使用されているかつ/又は所望のDNA配列を宿主細胞内の所望の場所に運び得る他のDNA配列を含む。
【0077】
ベクターは、好ましくは、1つ以上の制限酵素部位を含み、また標的細胞若しくは組織、又は前駆細胞若しくは組織を含む所定の宿主細胞内において自律増殖可能か、又は部分的に若しくは全体的に所定の宿主のゲノムを組み込んでクローン化された配列を再産生可能である。よって、ベクターは、自律増殖ベクター、すなわち、染色体外の、その増殖が染色体増殖とは無関係である実体として、例えば、線状又は閉環状プラスミド、染色体外因子、小染色体、又は人工染色体として存在するベクターであってよい。ベクターは、自己複製を確実にするための任意の手段を含んでもよい。あるいは、ベクターは、宿主細胞に導入されるとゲノムに組み込まれ、ベクターが組み込まれた染色体と共に複製されるものであってよい。ベクターの選択は、典型的には、ベクターと、ベクターが導入される宿主細胞との適合性に左右されることになる。
【0078】
ベクターは、さらに、栄養要求性マーカー等の選択マーカー(例えば、LEU2、URA3、TRP1、又はHIS3)をコードする1つ以上の核酸配列、蛍光若しくは発光タンパク質等の検知可能な標識(例えば、GFP、eGFP、DsRed、CFP)、又は化学的/毒性化合物に対する耐性を与えるタンパク質(例えば、テモゾロミドに対する耐性を与えるMGMT遺伝子)を、含むことができる。これらのマーカーは、ベクターを含む宿主細胞を選択又は検知するために使用可能であり、宿主細胞に対応して当業者が容易に選択可能である。
【0079】
本発明のベクターは、好ましくは、宿主細胞内において本発明の組換え核酸分子の発現を確立するのに必要とされる任意の要素を含むウイルスのゲノムベクターであって、任意の要素には、例えば、プロモーター、ITR、リボソーム結合要素、ターミネーター、エンハンサー、選択マーカー、イントロン、ポリAシグナル及び/又は複製開始点等が含まれる。
【0080】
一部の実施形態において、ベクターは、モロニーマウス白血病ウイルスベクター(MoMLV)、MSCV、SFFV、MPSV又はSNV由来のベクター等のウイルスベクターであり、レンチウイルスベクター(例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)又はウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)由来)、アデノウイルス(Ad)ベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、サルウイルス40(SV-40)ベクター、ウシパピローマウイルスベクター、エプスタイン・バーウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、ハーベイマウス肉腫ウイルスベクター、マウス乳癌ウイルスベクター、ラウス肉腫ウイルスベクターである。
【0081】
特定の実施形態において、ベクターは、レトロウイルスベクターであり、好ましくは、レンチウイルスベクター又は非病原性パルボウイルスである。
【0082】
当該技術において知られているように、利用が検討される特定のウイルスベクターによっては、適切な配列を、AAVベクターに対するAAV ITR又はレンチウイルスベクターに対するLTR等機能的なウイルスベクターを得るための本発明のベクターに導入すべきである。
【0083】
好ましい実施形態において、ベクターは、AAVベクターである。
【0084】
ヒトパルボウイルスのアデノ随伴ウイルス(AAV)は、自然には複製できないディペンドウイルスであり、感染細胞のゲノムに組み込んで潜伏感染を行うことができる。最後の特性は、染色体19(19ql3.3-qter)に位置する、AAVSIと呼称されるヒトゲノムの特定の部位で組込みが起こることから、哺乳類のウイルスのなかでも特有であると考えられる。ゆえに、AAVは、ヒト遺伝子治療用の使用可能なベクターとして考慮されるべき対象となっている。ウイルスの好ましい特性には、任意のヒト疾患との関連がないこと、分裂細胞と非分裂細胞との両方に感染できること、感染可能な種々の組織由来の広範囲の細胞株がある。
【0085】
本明細書において使用されるとき、「AAVベクター」という用語は、少なくとも1つのAAV末端逆位反復配列(ITR)、好ましくは2つのITRが側部に位置する、1つ以上の異種配列(すなわち、AAV由来ではない核酸配列)を含むポリヌクレオチドベクターを指す。そうしたAAVベクターは、適切なヘルパーウイルスに感染させた(又は適切なヘルパー機能を発現している)とともにAAVのrep及びcap遺伝子産物(すなわちAAVのRep及びCapタンパク質)を発現する宿主細胞に存在するとき、複製して、感染性ウイルス粒子にパッケージングすることができる。
【0086】
「末端逆位反復」又は「ITR」配列は、当該技術分野において十分に理解されている用語であり、反対の位置にあるウイルスゲノムの末端に見受けられる比較的短い配列を指す。「AAV末端逆位反復(ITR)」配列は、天然の一本鎖AAVゲノムの両末端に存在する約145のヌクレオチドの配列である。ITRにおける最外の125のヌクレオチドは、2つの別の位置のいずれかに存在して、種々のAAVゲノム同士の間及び単一のAAVゲノムの2つの端部の間で不均質性をもたらし得る。また、最外の125のヌクレオチドは、いくつかのより短い自己相補領域(指定したA、A’、B、B’、C、C及びD領域)を含んで、鎖内塩基対形成をこのITR部分内で行うことができる。本発明のベクター内で使用するためのAAVのITRは、野生型ヌクレオチド配列を有してもよく、又は挿入、削除若しくは置換によって変化させることができる。AAVベクターの末端逆位反復(ITR)の血清型は、任意の既知のヒト又は非ヒトAAV血清型から選択することができる。
【0087】
12のヒト血清型及び非ヒト霊長動物の100を超える血清型を含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)の複数の血清型が現在特定されている(Howarth等、2010、Cell Biol Toxicol 26: p.1-10)。これらの血清型のなかでも、ヒト血清型2は、遺伝子伝達ベクターとして開発された最初のAAVであった。現在使用される他のAAV血清型は、AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAVrh8、AAV9、AAV10、AAVrh10、AAV11、AAV12、AAVrh74、及びAAVdj等を含むが、これらに限定されない。さらに、非天然の改変変異体及びキメラAAVも有用であり得る。
【0088】
好ましくは、本発明のベクターは、AAV6ベクターである。
【0089】
AAVベクターをさらに大きいポリヌクレオチド(例えば、染色体、又はクローン化若しくは遺伝子導入のために使用されるプラスミド等の別のベクター)に組み込むと、AAVベクターは、AAVパッケージング機能と適切なヘルパー機能とが存在する状態で複製及びキャプシド形成により、「レスキュー」され得る「プロベクター(pro-vector)」呼ばれ得る。本発明のAAVベクターは、いくつかの形態の任意の形態とすることができ、脂質と複合されリポソーム内で被包され、ウイルス粒子、例えばAAV粒子内でキャプシド形成されるプラスミド、線状人工染色体を含み得るが、これらに限定されない。
【0090】
本発明の組換え核酸分子又は発現カセットは、当業者に既知の任意の方法によりベクター内に導入してもよい。
【0091】
本発明の組換え核酸分子及び発現カセットの全ての実施形態もまた、この態様において企図される。
【0092】
本発明のベクターは、ウイルスカプシドにパッケージングして「ウイルス粒子」を生成することができる。つまり、さらなる態様において、本発明はまた、本発明のベクターを含むウイルス粒子にも関する。
【0093】
特定の実施形態において、ベクターは、AAVベクターであり、「アデノ随伴ウイルス粒子」又は「AAV粒子」を生成するように、AAV由来のカプシド内にパッケージングされる。特に、本明細書において使用される「AAV粒子」という用語は、少なくとも1つのAAVカプシドタンパク質と、カプシド形成されたAAVベクターゲノムとからなるウイルス粒子を指す。
【0094】
カプシド血清型は、AAV粒子の指向範囲を決定する。
【0095】
カプシド血清型は、予め同定されたヒト又は非ヒト血清型から、又は非天然の改変変異体及びキメラAAVカプシドから選択可能である。特に、カプシドタンパク質は、形質導入効率を促進する1つ以上のアミノ酸置換を含む変異体であってよい。
【0096】
別のAAV血清型を、特定の標的細胞の形質導入を最適化する又は特定の標的組織内の特定の細胞タイプを標的とするように用いる。AAV粒子は、AAVの同じ血清型又は任意の天然若しくは人工の配列変異体のウイルスタンパク質及びウイルス核酸を含むことができる。例えば、AAV粒子は、AAV6カプシドタンパク質と、少なくとも1つ、好ましくは2つのAAV6 ITRを含み得る。AAV粒子の産生のためのAAV血清型の任意の組み合わせを、本明細書においてそれぞれの組合せを明確に述べてきたものとして、本明細書に示している。
【0097】
好ましい実施形態において、AAV粒子は、AAV6由来のカプシドを含む。
【0098】
AAVウイルスは、従来の分子生物学の技術を用いて操作してよく、以下の目的のためこの粒子を最適化することができる。すなわち、細胞特有の核酸配列運搬のため、免疫原性を最小限にするため、安全性及び粒子の寿命を調整するため、効率的な分解のため、核への正確な運搬のため、この粒子を最適化することができる。
【0099】
AAV天然血清型を用いる代わりに、人工AAV血清型が、本発明の文脈において使用されてもよく、非天然に生じるカプシドタンパク質を伴うAAVを含むが、限定されない。このような人工カプシドは、任意の適切な技術によって、選択されたAAV配列(例えば、VP1カプシドタンパク質の断片)を、選択された別のAAV血清型から、同じAAV血清型の非隣接部分から、非AAVウイルス源から、又は非ウイルス源から得られる異種の配列と組み合わせて用いて、生成し得る。人工AAV血清型は、非限定的に、キメラAAVカプシド又は突然変異AAVカプシドであってよい。
【0100】
キメラカプシドは、少なくとも2つの異なるAAV血清型由来のVPカプシドタンパク質を含む、又は、少なくとも2つのAAV血清型由来のVPタンパク質領域若しくはドメインを組み合わせた少なくとも1つのキメラVPタンパク質を含む。
【0101】
カプシドタンパク質は、特に、形質導入効率を高くするように、突然変異したものであってもよい。突然変異AAVカプシドは、エラープローンPCRによって挿入したカプシド改変及び/若しくはペプチド挿入、又は1つ又は複数のアミノ酸置換を含むことにより、得られる。
【0102】
さらに、AAV粒子のゲノムベクター(すなわち、本発明のベクター)は、単鎖又は自己相補的な二本鎖のゲノムであってよい。自己相補型二本鎖AAVベクターは、末端分離部位(terminal resolution site)(trs)をAAV末端反復配列の一つから欠失させることにより、生成される。これらの改変されたベクターは、その複製ゲノムが野生型AAVゲノムの長さの半分であって、DNA二量体をパッケージングする傾向を有する。好ましい実施態様では、本発明において実施されたAAV粒子は、一本鎖ゲノムを有する。
【0103】
多数の方法が、ウイルス粒子の産生技術において知られており、特に、AAV粒子は、遺伝子導入と、安定的な細胞株産生と、アデノウイルス-AAVハイブリッド、ヘルペスウイルス-AAVハイブリッド(Conway, JE他、(1997) Virology 71(11): p. 8780-8789)及びバキュロウイルス-AAVハイブリッドを含む感染ハイブリッド型ウイルス産生系とを含む。
【0104】
AAVウイルス粒子産生のためのAAV産生培養はすべて、1)適切な宿主細胞、例えば、HeLa、A549又は293細胞等のヒト由来の細胞株、又はバキュロウイルス産生系の場合SF-9等の昆虫由来の細胞株を含み、2)野生型又は突然変異型アデノウイルス(温度感受性アデノウイルス等)、ヘルペスウイルス、バキュロウイルス又はプラスミドコンストラクトが提供するへルパー機能により提供される、適切なヘルパーウイルス機能、3)AAVrep及びcap遺伝子及び遺伝子産生物、4)少なくとも1つのAAV ITR配列、例えば、本発明のベクターが隣接する目的の核酸、及び5)当該技術において周知のAAV産生をサポートする適切な培地及び培地構成要素を必要とする。
【0105】
本発明を実施する際、AAV粒子を産生するための宿主細胞は、哺乳類細胞、昆虫細胞、植物細胞、微生物及び酵母を含む。宿主細胞はまた、AAVrep及びcap遺伝子が、AAVベクターゲノムが安定的に維持される宿主細胞又は産生株細胞(producer cell)内に、安定的に維持されるパッケージング細胞でもあり得る。例示のパッケージング及び産生株細胞は、293、A549又はHeLa細胞由来である。AAV粒子は、当該技術において既知の標準的な技術を用いて、精製され、製剤化される。
【0106】
本発明の組換え核酸分子のすべての実施形態、発現カセット又はベクターもまた、この態様において企図される。
【0107】
別の態様において、本発明は、本発明の発現カセット、ベクター又はウイルス粒子を含み、それらで形質転換又は遺伝子導入された、単離された宿主細胞にも関する。
【0108】
宿主細胞は、本発明の1つ又は複数の、同一又は異なる組換え核酸、発現カセット又はベクターを含み得る。
【0109】
特定の実施形態において、宿主細胞は、本発明の組換え核酸であって、当該組換え核酸は、3’末端にスプライスドナー部位を含み、前記スプライスドナー部位は、宿主細胞のゲノム内のスプライス受容部位と適合する。
【0110】
また、「宿主細胞」という用語は、複製中に起こる突然変異のために、親の宿主細胞と同一ではない、親の宿主細胞の任意の後代を含む。
【0111】
「細胞」又は「宿主細胞」という用語は、本発明の組換え核酸分子を発現するのに適切な任意の細胞を含む。抗体コード用ベクターを発現するのに適切な宿主細胞は、本明細書に記載の原核生物又は真核生物の細胞を含む。
【0112】
例えば、抗体は、特に、糖鎖付加及びFcエフェクター機能が必要とされていないときに、細菌内で産生可能である。細菌における抗体断片及びポリペプチドの発現について、例えば、米国特許第5,648,237号明細書、米国特許第5,789,199号明細書、米国特許第5,840,523号明細書を参照(Charlton, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ, 2003), p.245-254,大腸菌における抗体断片の発現を説明)。発現後、抗体は、細菌の細胞可溶化物から可溶性画分内において単離され、さらに精製され得る。
【0113】
原核生物に加えて、糸状真菌又は酵母等の真核生物の微生物が、抗体コード用ベクターにとって適切な発現宿主であって、糖鎖付加路が「ヒト化」されている真菌及び酵母株を含み、部分的に又は完全にヒト糖鎖付加のパターンで抗体が産生される。Gerngross, Nat. Biotech. 22: p.1409-1414 (2004)、及びLi他, Nat. Biotech. 24:p.210-215 (2006)を参照。
【0114】
糖鎖付加された抗体の発現に適切な宿主細胞も、多細胞生物(無脊椎動物及び脊椎動物)由来である。無脊椎動物細胞の例は、植物及び昆虫細胞を含む。多数のバキュロウイルス株が、昆虫細胞と関連して、特にヨトウガの細胞の遺伝子導入のために使用可能であり、特定されている。植物細胞培養もまた宿主として利用可能である。例えば、米国特許第5,959,177号明細書、米国特許第6,040,498号明細書、米国特許第6,420,548号明細書、米国特許第7,125,978号明細書,及び米国特許第6,417,429号明細書を参照。
【0115】
脊椎動物細胞もまた、宿主として使用してよい。例えば、懸濁液中で増殖するように適合された哺乳類細胞株が有用であり得る。有用な哺乳類宿主細胞株の他の例は、SV40により形質転換させたサル腎臓CV1株(COS-7)であり、ヒト胚性腎臓株(例えば、Graham他, J. Gen Virol.36:59 (1977)に説明されている293又は293細胞)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、マウスセルトリ細胞(例えば、Mather, Biol. Reprod. 23:243-251 (1980))に説明されているTM4細胞)、サル腎臓細胞(CV1)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76)、ヒト子宮頸癌細胞(HELA)、イヌ腎臓細胞(MDCK、バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A)、ヒト肺細胞(W138)、ヒト肝臓細胞(Hep G2)、マウス乳癌(MMT 060562)、TRI細胞(例えば、Mather他, Annals N. Y. Acad. Sci. 383:44-68 (1982)に説明)、MRC5細胞、及びFS4細胞である。他の有用な哺乳類宿主細胞株は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を含み、DHFR CHO細胞(Urlaub 他, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980))、及びY0、NS0及びSp2/0等の骨髄腫細胞株を含む。抗体産生に適切な特定の哺乳類宿主細胞株を概観するために、例えば、Yazaki及びWu, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ), p.255-268 (2003)を参照。
【0116】
特定の実施形態において、宿主細胞は、マイコバクテリア細胞、真菌細胞、酵母細胞、植物細胞、昆虫細胞、非ヒト動物細胞、ヒト細胞、又は例えば融合細胞等の細胞融合物から、選択される。好ましくは、細胞は、哺乳類から選択される。好ましくは、細胞は、ヒト、霊長類、ウサギ又はげっ歯動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット)の細胞から選択される。より好ましくは、細胞は、ヒト及びマウスの細胞から選択される。さらに好ましくは、細胞は、ヒト細胞である。好ましい実施形態において、ヒト胚性幹細胞は、除外される。
【0117】
好ましい実施形態において、細胞は、B細胞であり、好ましくは、ヒト又はマウスのB細胞であり、より好ましくはヒトB細胞である。
【0118】
宿主細胞は、好ましくは、非ヒト細胞であって、全能性、多能性若しくは成体幹細胞、接合体、又は体細胞であってよい。一実施形態において、宿主細胞は、胚性幹細胞であり、好ましくは、非ヒト胚性幹細胞であり、より好ましくは、マウス胚性幹細胞である。
【0119】
本発明の発現カセット又はベクターは、任意の既知の技術(リン酸カルシウム-DNA沈殿法、DEAE-デキストラン沈殿法、エレクトロポレーション、微量注入法、遺伝子銃、リポフェクション又はウイルス感染を含むが、これらに限定されない)を用いて、宿主細胞に導入され、宿主細胞内において異所の形態で維持されるか、又はゲノム内に組み込まれ得る。
【0120】
好ましい実施形態において、本発明の発現カセット又はベクターは、宿主細胞内にウイルス感染により、好ましくは、本発明のウイルス粒子を用いて、より好ましくは本発明のAAV粒子を用いて、導入される。
【0121】
本発明の組換え核酸分子、発現カセット、ベクター又はウイルス粒子の全ての実施形態もまた、この態様において企図される。
【0122】
別の態様において、本発明は、さらに、遺伝子組換え生物、好ましくは、非ヒト遺伝子組換え生物に関し、本発明の少なくとも1つの宿主細胞を含む。本発明はまた、本発明の少なくとも1つの遺伝子導入宿主細胞を含む遺伝子組換え生物を生成する方法に関する。
【0123】
本発明の組換え核酸分子、発現カセット、ベクター、ウイルス粒子、宿主細胞の全ての実施形態もまた、この態様において企図される。
【0124】
特に、生物は、霊長類(例えば、サル等の非ヒト霊長類)、ウサギ又はげっ歯動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット)の非ヒト動物であってよい。好ましくは、遺伝子組換え生物は、非ヒト哺乳類である。さらに好ましくは、遺伝子組換え生物は、マウスである。
【0125】
遺伝子組換え生物、特にトランスジェニックマウスの生成法が、当業者に周知である。このような方法を用いて、本発明を実施することが可能であり、本明細書に開示の方法は、非限定的であることを理解すべきである。
【0126】
特に、遺伝子組換え生物の生成方法は、
本発明の発現カセット又はベクターを非ヒト胚性幹細胞内に導入するステップと、
遺伝子導入胚性幹細胞を得るステップであって、本発明の組換え核酸分子が、ゲノム内に、好ましくは相同組換えにより挿入される、遺伝子導入胚性幹細胞を得るステップと、
前記遺伝子導入胚性幹細胞を、キメラを形成するように非ヒト動物の胚盤胞内に注入するステップと、
前記注入された胚盤胞を里親に再移植するステップと
を、含み得る。
【0127】
胚性幹(ES)細胞は、典型的には、体外培養された着床前の胚から得られる。本発明のカセット又はベクターは、前記ES細胞内にエレクトロポレーションにより遺伝子導入されることが好ましい。ES細胞は、関連技術において既知の方法を用いて、遺伝子導入のために培養され調製される。本発明のカセット又はベクターで遺伝子導入されるES細胞は、導入される発育中の胚又は胚盤胞と同一種の胚又は胚盤胞由来である。ES細胞は、典型的には、動物において発生の胚盤胞段階で胚に導入されると、内部細胞塊に融合し個体の生殖系に寄与し得るように、選択される。一実施形態において、ES細胞は、マウス胚盤胞から単離される。
【0128】
ES細胞へ遺伝子導入した後、本発明の組換え核酸分子は、細胞のゲノムDNAと統合して、後述するように本発明の抗体が産生される。
【0129】
遺伝子導入後、ES細胞を、遺伝子導入された細胞を検知するのに適切な条件の下培養する。例えば、カセット又はベクターが、マーカー遺伝子、例えば、抗生物質耐性マーカー(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子)を含む場合、細胞は、その抗生物質中で培養する。生存ES細胞のDNA及び/又はタンパク質の発現を、サザンブロット法を用いて解析して、カセットの適切な組込みを確認することができる。
【0130】
選択されたES細胞を非ヒト動物の胚盤胞内に注入して、キメラを形成する。非ヒト動物は、好ましくはマウス、ハムスター、ラット又はウサギである。さらに好ましくは、非ヒト動物は、マウスである。
【0131】
特に、ES細胞を、微量注入法を用いて、初期の胚内へ挿入し得る。注入された胚盤胞を里親に再移植する。後代が誕生すると、後代を、本発明の組換え核酸分子、発現カセット又はベクターの存在を求めて、例えば、サザンブロット法及び/又はPCR法を用いて、スクリーニングする。ヘテロ接合体を、識別し、相互に交差させて、ホモ接合動物を生成する。
【0132】
他の実施形態において、遺伝子組換え生物の生成方法は、
非ヒト受精卵に、(i)本発明の発現カセット又はベクターと、(ii)カセット又はベクターを正しい座位において相同組換えにより標的化するために使用されるヌクレアーゼ系とを導入するステップと、
遺伝子導入受精卵を得るステップであって、本発明の発現カセット又はベクターが、ゲノム内に相同組換えにより挿入される遺伝子導入受精卵を得るステップと、
前記注入された受精卵を里親に再移植するステップと
を、含み得る。
【0133】
カセット又はベクターを正しい座位において標的化するために使用されるヌクレアーゼ系は、ZFN、TALE又はCRISPR/Cas9ヌクレアーゼを含む系等、当業者に知られた任意の適切な系であり得る。
【0134】
好ましくは、ヌクレアーゼ系は、CRISPR/Cas9系である。Cas9を使用してゲノム配列を改変するために、タンパク質を直接細胞に届けることができる。その代わりに、Cas9をコードするmRNAが、細胞に輸送され得るか、又はCas9をコードするmRNAの発現を提供する遺伝子が、細胞に輸送され得る。その上、標的特異的なcrRNA及びtracrRNA、又は標的特異的なgRNAが、細胞に輸送され得る(あるいは、このようなRNAは、このようなRNAを発現するように作成された遺伝子により産生され得る)。標的部位の選択とcrRNA/gRNAの設計とは、当該技術において周知である。
【0135】
本発明はまた、不死化細胞と初代細胞又は組織とを含む、細胞又は組織を提供し、当該細胞又は組織は、本発明の遺伝子導入非ヒト動物とその後代由来であって、特に、ハイブリドーマ又は骨髄腫等本発明の抗体を産生する細胞又は組織である。
【0136】
別の態様において、本発明は、抗体に関し、当該抗体は、
-免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)と、
-免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)と、
-免疫グロブリン軽鎖定常領域(CL)と、
-免疫グロブリン重鎖定常領域(CH)と、
-ペプチドリンカー(PL1及びPL2)をコードする2つの配列と、を含み、
VHがVLにPL1を介して融合され、CLがCHにPL2を介して融合される。
PL1及びPL2は、同一又は異なるものでよい。
【0137】
特に、本発明の抗体は、本発明の組換え核酸分子のコード配列の発現により得られる任意の抗体であってよい。
【0138】
本発明の組換え核酸分子、発現カセット、ベクター、ウイルス粒子、宿主細胞及び遺伝子導入動物の全ての実施形態もまた、この態様において企図される。
【0139】
本明細書における「抗体」という用語は、最も広い意味で使用されており、特に、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、抗体断片、及びその誘導体をカバーし、鎖にVH、VL、CL、CH、PL1及びPL2を含む限り、VHは、VLにPL1を介して融合し、CLは、CHにPL2を介して融合する。
【0140】
本発明の抗体は、VH、VL、CL、CH、PL1及びPL2が含まれる1本の鎖のみを含む単鎖抗体であってよい。その代わりに、本発明の抗体は、VH、VL、CL、CH、PL1及びPL2が含まれる少なくとも2本の鎖を含み得、また上述のように、前記鎖は、ジスルフィド架橋(disulfure bridges)を介して結合されることが好ましい。
【0141】
特定の実施形態において、本発明の抗体は、1つ又は複数のジスルフィド架橋を介して結合された2本の鎖を含み、それぞれの鎖は、免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)と、免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)と、免疫グロブリン軽鎖定常領域(CL)と、免疫グロブリン重鎖定常領域(CH)と、ペプチドリンカー(PL1及びPL2)をコードする2つの配列とを含み、VHは、VLにPL1を介して融合し、CLは、CHにPL2を介して融合する。
【0142】
一部の実施形態において、抗体は、さらに大きい融合分子の一部であり得、当該抗体が、1つ以上の他のタンパク質又はペプチドと共有結合又は非共有結合による関連付けされることにより形成され得る。特に、本発明の抗体は、追加の抗体ドメイン、例えば、追加の重鎖ドメイン及び軽鎖ドメインをさらに含み得る。
【0143】
一部の実施形態において、抗体は、完全長抗体である。本明細書で用いられている「完全長抗体」という用語は、以下に定義する抗体断片ではなく、天然の抗体構造と実質的に同一の構造を有する抗体のことを指す。用語は、特に、Fc領域を含む重鎖を有する抗体を指す。好ましい実施形態において、完全長IgG抗体における抗体は、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4から選択され、好ましくは、完全長IgG1抗体である。しかしながら、任意の他の免疫グロブリンクラスを用いることができる。
【0144】
一部の他の実施形態において、抗体は、抗体断片である。本明細書に使用するとき、「抗体断片」という用語は、完全長抗体の一部を指し、好ましくは、重鎖の可変ドメイン、リンカーPL1、軽鎖、リンカーP2及び定常重鎖のN末端の少なくとも1つの断片を含む断片を指す。抗体断片は、好ましくは、Fab、Fab’、F(ab)2、F(ab’)2及びF(ab)3からなる群から選択される。
【0145】
抗体断片は、各種の方法により作製され得、当該方法は、当業者に周知の無傷抗体のタンパク質消化及び本明細書に説明した組換え方法を含むが、これらに限定されない。抗体のパパイン消化によって、2つの同一の抗原結合断片、いわゆる「Fab」断片であって、当該断片のそれぞれは単一の抗原結合部位を有する「Fab」断片と、残りの「Fc」断片であって、その名称は、容易に結晶化する能力を反映している「Fc」断片とが産生される。ペプシン処理は、2つの抗原結合部位を有し、抗原をなお架橋させ得るF(ab’)2断片をもたらす。
【0146】
本明細書において用いられている「Fab」、「Fab断片」又は「Fab領域」は、VH、CH1、VL及びCL免疫グロブリンドメインを含むポリペプチドを意味する。Fabは、単離されたこの領域、又は本明細書に記載のポリペプチドの文脈におけるこの領域を指し得る。
【0147】
Fab’断片は、抗体ヒンジ領域から1つ以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端にいくつかの残基が追加されることにより、Fab断片とは異なっている。F(ab’)2抗体断片は、元々は、ヒンジシステインを間に有するFab’断片対として産生される。抗体断片の他の化学結合もまた、知られている。
【0148】
「抗体誘導体」という用語は、本明細書に使用するとき、本明細書において提供される抗体、例えば完全長抗体又は抗体の断片を指し、アミノ酸の1つ以上のアミノ酸が、例えばアルキル化、ペグ化、アシル化、エステル又はアミド形成又は同類のものによって化学的に修飾される。特に、この用語は、本明細書において提供される抗体であって、当該技術において知られており容易に入手可能な追加の非タンパク質成分を含むようにさらに改変された抗体を指し得る。抗体の誘導体化に適切な成分は、水溶性高分子を含むがそれに限定はしない。水溶性高分子の実施例は、PEG、エチレングリコール/プロピレングリコールの共重合体、カルボキシメチルセルロース、デキストラン及びポリビニルアルコールを含むが、これらに限定されない。
【0149】
誘導体はまた、1つ以上の異種の分子に結合された本発明の抗体を含む免疫複合体でもよく、細胞毒、蛍光性成分、診断放射性同位元素若しくは造影剤等の検知可能な成分、又はアガロースビーズ若しくはそれに類するもの等の固体の支持体を、含むが、それらに限定されない。細胞毒の例は、化学療法剤若しくは薬物、増殖抑制剤、毒素(例えば、タンパク質毒素、細菌、真菌、植物若しくは動物起源の酵素活性毒素、又はそれらの断片)、又は放射性同位元素を含むが、それらに限定されない。抗体及び細胞毒の結合は、当業者に周知の種々の二官能性タンパク質カップリング剤を用いて行い得る。リンカーは、細胞中の細胞障害性薬物の解放を促進する「切断可能なリンカー」であってよい。例えば、酸易動性リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、感光性リンカー、ジメチルリンカー又はジスルフィド含有リンカー(Chari他, Cancer Res. 52:p.127-131 (1992))を使用し得る。
【0150】
本発明の抗体は、機能的Fc領域、天然の配列Fc領域又はバリアントFc領域を含み得る。
【0151】
「機能的Fc領域」は、天然の配列Fc領域のエフェクター機能をそなえている。例示的な「エフェクター機能」は、C1q結合、細胞依存性の細胞毒性(CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性の細胞毒性(ADCC)、貧食、抗体依存性細胞貧食(ADCP)、細胞表面の受容体の抑制低下等を含む。このようなエフェクター機能は、一般的に、Fc領域が、結合ドメイン(例えば、抗体可変ドメイン)と組み合わされることを必要とし、種々の周知のアッセイを用いて評価可能である。
【0152】
「天然の配列のFc領域」は、天然の、好ましくは天然の配列のヒトFc領域において見られるFc領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む。
【0153】
「バリアントFc領域」は、少なくとも1つのアミノ酸修飾により、好ましくは、1つ以上のアミノ酸置換により、天然の配列のFc領域のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を含む。好ましくは、バリアントFc領域は、例えば、およそ1つから10のアミノ酸置換、好ましくは、およそ1つから5つのアミノ酸置換を、天然の配列のFc領域又は親のポリペプチドのFc領域内に、天然の配列のFc領域又は親のポリペプチドのFc領域と比較して少なくとも1つのアミノ酸置換を有する。本明細書におけるバリアントFc領域は、好ましくは、天然の配列のFc領域及び/又は親のポリペプチドのFc領域との配列同一性を、少なくとも約80%、最も好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%、有することになる。一部の実施形態において、本明細書において提供される抗体は、多特異性抗体、例えば二重特異性抗体である。多特異性抗体は、少なくとも2つの異なる部位のための結合特異性を有するモノクローナル抗体である。
【0154】
本発明の多特異性抗体は、本発明の2本の単鎖抗体につながる本発明の2つの組換え核酸分子の宿主細胞内における組換え共発現により得ることができる。この鎖は、ジスルフィド架橋を介して自然に関連付けられて、少なくとも2本の軽鎖と、少なくとも2本の重鎖と、少なくとも2つの異なるエピトープを認識する前記鎖の可変ドメインとを含む多特異性抗体を形成する。
【0155】
一部の実施形態において、抗体は、精製抗体である。「精製」抗体は、産生環境の構成要素から分離された抗体であり、好ましくは、産生細胞及び/又は他の抗体から分離された抗体である。特に、抗体は、例えば、電気泳動法(例えば、SDS-PAGE、電点電気泳動法(IEF)、キャピラリー電気泳動法等)又はクロマトグラフィー(例えば、イオン交換又は逆相HPLC)による測定で、95%又は99%を超える純度まで精製し得る。抗体純度の評価方法の概説のために、例えば、Flatman他, J. Chromatogr. B848: p.79-87 (2007)を参照されたい。抗体は、例えば、本発明の組換え核酸分子を発現する宿主細胞を含む培地から精製し得る。
【0156】
本発明又は本願の抗体を産生する方法によって、本発明の抗体は、ポリクローナル又はモノクローナル抗体となり得る。抗体は、モノクローナル抗体であることが、好ましい。本明細書において使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均質な抗体集団から得られる抗体を指し、すなわち、集団を構成する個々の抗体は、自然起源で起こり微量に存在し得る突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、特異性が高く、単一の抗原部位に対して作られる。さらに、異なる決定基(エピトープ)に対して作られた異なる抗体を典型的に含む従来の(ポリクローナル)抗体調製とは対照的に、それぞれのモノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して作られる。モノクローナル抗体は、当業者に既知の任意の方法により作製することができる。
【0157】
本発明の抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体であり得る。
【0158】
「キメラ」抗体は、重鎖及び/又は軽鎖の一部分が、特定の種由来の又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体における対応の配列と同一又は相同の抗体であり、それと同時に、鎖の残りの部分は、別の種由来の又は別の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体、並びにこのような抗原の断片が所望の生物学的活性を示す限り抗原の断片における対応の配列と、同一又は相同である(Morrison他, Proc. Natl. Acad Sci.米国81 :p.6851-6855(1984))。好ましくは、抗体のフレームワークの少なくとも一部分は、ヒト共通フレームワーク配列である。
【0159】
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」の形態は、非ヒト免疫グロブリン由来の最少の配列を含むキメラ抗体である。殆どの部分について、ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であって、当該ヒト免疫グロブリンにおいて、レシピエントの高頻度可変領域の残基が、所望の特異性、親和性及び能力を有するマウス、ラット、ウサギ又は非ヒト霊長類等の非ヒト種(ドナー抗体)からの高頻度可変領域の残基と置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体又はドナー抗体内には見つからない残基を含み得る。このような改変は、抗体の性能をさらに高めるために行われる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含むことになり、当該可変ドメインにおいて、高頻度可変領域の全て又は実質的に全ては、非ヒト免疫グロブリンの同領域に対応し、FRの全て又は実質的に全ては、ヒト免疫グロブリン配列の同領域である。ヒト化抗体はまた、任意選択的に、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部分を、典型的には、ヒト免疫グロブリンのそれを含む(Jones他, Nature 321 : p.522-525 (1986)、Reichmann他, Nature 332:323.329(1988)及びPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2: p593-596 (1992))。追加のフレームワーク領域の改変は、ヒトフレームワーク配列内において行い得る。よって、ヒト化抗体はまた、レシピエント抗体又はドナー抗体内のいずれにも見つからない残基を含み得る。このようなアミノ酸改変は、抗体機能をさらに高めかつ/又はヒト化工程を増進するために行い得る。抗体の「人間らしさ(Humanness)」は、Gao S H, Huang K, Tu H, Adler A S. BMC Biotechnology. 2013: 13:55に記載の通り、T20スコアアナライザーを用いて測定して、抗体の可変領域の人間らしさを定量化することができる。「ヒト抗体」又は「完全ヒト抗体」は、ヒトにより産生された抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有しかつ/又は本明細書に開示のヒト抗体を作製する方法の任意の方法を用いて産生された抗体である。ヒト抗体のこの定義は、特に、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を除外する。
【0160】
好ましい実施形態において、本発明の抗体は、モノクローナル抗体、好ましくは、ヒトモノクローナル抗体である。
【0161】
本発明の抗体は、治療用抗体であることが好ましい。治療用抗体は、癌、炎症性疾患、感染性疾患又は自己免疫性疾患等、任意の病気の治療に有用であり得る。
【0162】
特に、本発明の抗体は、治療用抗体、好ましくは承認済みの(EMA又はFDA承認済みの)治療用抗体の可変及び/又は定常領域を含み得る。特定の実施形態において、本発明の抗体は、治療用抗体の、好ましくは承認済みの治療用抗体の可変及び/又は定常領域を含む。このような治療用抗体の例には、アブシキシマブ、アダリムマブ、アレムツズマブ、アリロクマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、バシリキシマブ、ベリムマブ、ベバシズマブ、ベズロトクスマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブ、ブロダルマブ、カナキヌマブ、カプロマブ、セツキシマブ、ダクリズマブ、ダラツムマブ、デノスマブ、ジヌツキシマブ、デュピルマブ、デュルバルマブ、エクリズマブ、エロツズマブ、エボロクマブ、ゴリムマブ、イブリツモマブ、イダルシズマブ、インフリキシマブ、イピリムマブ、イキセキズマブ、メポリズマブ、ナタリズマブ、ネシツムマブ、ニボルマブ、オビルトキサキシマブ (obiltoxaximab)、オビヌツズマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、オララツマブ、オマリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ペムブロリズマブ、ペルツズマブ、ラムシルマブ、ラニビズマブ、レスリズマブ、セクキヌマブ、シルツキシマブ、トシリズマブ、ウステキヌマブ、ベドリズマブ、サリルマブ、リツキシマブ、グセルクマブ、イノツズマブ、アダリムマブ、ゲムツズマブ、ベバシズマブ、ベンラリズマブ、エミシズマブ及びトラスツズマブが含まれるが、これらに限定されない。
【0163】
本発明はまた、本発明の抗体を産生する方法に関し、当該方法は、本発明の宿主細胞又は遺伝子組換え生物を提供するステップと、前記宿主細胞を培養する又は前記生物が抗体発現に適切な条件下で増殖可能とするステップと、任意選択的に、抗体を宿主細胞培養物から又は前記生物の試料から回収するステップと、を含む。任意選択的に、回収された抗体は、さらに精製し得る。適切な培地、培養条件及び産生方法が、当業者に周知であり、宿主細胞と産生される抗体によって容易に選択可能である。宿主細胞又は遺伝子組換え生物は、非ヒトであることが好ましい。
【0164】
別の態様において、本発明は、さらに、本発明の組換え核酸分子、発現カセット、ベクター、ウイルス粒子、宿主細胞又は抗体、及び製薬上許容される賦形剤を含む医薬組成物に関する。組成物は、本発明の1つ又は複数の組換え核酸分子、1つ又は複数の発現カセット、1つ又は複数のベクター、1つ又は複数のウイルス粒子、1つ又は複数の宿主細胞及び/又は1つ又は複数の抗体を含み得る。
【0165】
本明細書において使用されるように、「医薬製剤」又は「医薬組成物」という用語は、有効成分の生物学的活性が有効となるような形態であり、かつ製剤が投与される被検体に許容不可能な毒性をもたらす余分な成分を含まない調製を指す。このような製剤は、滅菌されており、すなわち、無菌又は全ての生存微生物及びその胞子がいない状態であることが、好ましい。
【0166】
本明細書において使用するとき、「製薬上許容される」という用語は、動物及び/又はヒトにおける使用について、規制機関又は欧州薬局方などの指定薬局方によって承認されたことを意味する。「賦形剤」という用語は、それとともに治療剤が投与される希釈剤、アジュバント、担体、又はビヒクルを指す。
【0167】
許容される担体、賦形剤、又は安定剤は、用いられる投与量、濃度においてレシピエントに非毒性であり、緩衝剤、安定化剤、保存剤、等張化剤(isotonifiers)、非イオン性界面活性剤、抗酸化剤及び他の種々の添加剤を含むが、これらに限定されない。
【0168】
当該技術分野では周知であるように、製薬上許容される賦形剤は、薬理的に有効な物質の投与を容易にする比較的不活性の物質であり、液剤又は懸濁剤として、乳剤として、又は使用前に液体に溶解又は懸濁することに適した固体剤形として提供することができる。例として、賦形剤は、剤形若しくは硬度を与える、又は希釈剤として機能することができる。適切な賦形剤は、安定化剤、湿潤及び乳化剤、異なる重量モル浸透圧濃度のための塩、内包剤、pH緩衝物質、及び緩衝剤を含むが、これらに限定されない。そうした賦形剤は、不適当な毒性なく投与できる、目に直接的に送達することに適する任意の医薬剤を含む。製薬上許容される賦形剤は、ソルビトール、種々のツイーン化合物、及び水、生理食塩水、グリセロール及びエタノール等の液体を含むが、これらに限定されない。製薬上許容される塩には、例えば、塩酸塩、臭化水素酸、リン酸塩、硫酸及び同類のもの等の無機酸塩、並びにアセテート、プロピオン酸、マロン酸、安息香酸及び同類のもの等の有機酸が含まれ得る。製薬上許容される賦形剤の適切な記載は、Remington's Pharmaceutical Sciencesの15版にて入手可能である。
【0169】
医薬組成物の形態、投与経路、投与量及び投与計画は、治療条件、病気の深刻さ、患者の年齢、体重及び性別等に左右される。
【0170】
投与に使用する用量は、種々のパラメータに応じて、特に使用される投与モード、関連する病理学、あるいは求められる治療存続期間に応じて、適応させ得る。
【0171】
本発明の医薬組成物は、局所、経口、非経口、鼻腔、静脈内、筋肉内、皮下又は眼内投与及び同類投与のために製剤化し得る。
【0172】
医薬製剤は注射可能な医薬製剤であることが、好ましい。これらは、特に、等張性で、滅菌された生理食塩水(単ナトリウム又は二ナトリウムリン酸、ナトリウム、カリウム、カルシウム若しくは塩化マグネシウム及び同類のもの又はこのような塩の混合物)、又は場合によって滅菌水又は生理食塩水を添加して注射剤の構成を可能とする乾性の、特に凍結乾燥された組成物であり得る。
【0173】
滅菌注射剤は、活性化合物を必要量、上に列挙した種々のその他の原料を適切な溶媒に導入することにより、調製することができ、必要な場合、その後に、フィルター式滅菌を行う。滅菌注射剤の調製のための無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、予め滅菌フィルターされた溶液から任意の所望の原料を加えて、有効成分の粉末をもたらす真空乾燥及び凍結乾燥技術である。
【0174】
静脈内又は筋肉内注射等非経口投与のために製剤化された組成物に加えて、他の製薬上許容される形態は、例えば、錠剤又は経口投与用の他の固形物、経時放出カプセル、及び現在用いられているその他任意の形態を含む。
【0175】
医薬組成物は、さらに、1つ又は複数の追加の活性化合物を含み得る。追加の活性化合物の例は、化学療法剤、抗生物質、抗寄生虫剤、抗真菌剤又は抗ウイルス剤を含むが、限定されない。
【0176】
本発明の組換え核酸分子、発現カセット、ベクター、ウイルス粒子、宿主細胞及び抗体の全ての実施形態もまた、この態様において企図される。
【0177】
本発明は、さらに、病気の予防若しくは治療に使用される本発明の組換え核酸分子、発現カセット、ベクター、ウイルス粒子、宿主細胞、抗体又は医薬組成物に関する。
【0178】
本発明は、病気治療のための薬剤としての、本発明の組換え核酸分子、発現カセット、ベクター、ウイルス粒子、宿主細胞、抗体又は医薬組成物に関する。本発明はまた、薬剤の製造又は調製のための本発明の組換え核酸分子、発現カセット、ベクター、ウイルス粒子、宿主細胞又は抗体の使用に関する。
【0179】
特に、本発明は、被検体において病気を治療する方法に関し、当該方法は、前記被検体に、本発明の組換え核酸分子、発現カセット、ベクター、ウイルス粒子、宿主細胞、抗体又は医薬組成物を有効量投与するステップを含む。
【0180】
本明細書に使用されるとき、「被検体」又は「患者」という用語は、哺乳類を指し、好ましくはヒトを指す。
【0181】
病気は、抗体、特に本発明の抗体の働きによって治療、予防又は軽減し得る任意の病気であってよい。このような病気の例には、癌、感染症、自己免疫疾患及び炎症性疾患を含むが、限定はされない。
【0182】
本発明の組換え核酸分子、発現カセット、ベクター、ウイルス粒子、宿主細胞、抗体、医薬組成物の全ての実施形態もまた、この態様において企図される。
【0183】
本発明は、さらに、病気の診断若しくは検知方法に使用するための本発明の組換え核酸分子、発現カセット、ベクター、ウイルス粒子、宿主細胞、抗体若しくは医薬組成物、好ましくは本発明の抗体に関する。
【0184】
診断又は検知される病気は、抗体に左右される。
【0185】
本方法は、生物試料を本発明の抗体と、試料内に存在する場合、抗体が抗原に結合可能な条件下で接触させるステップと、複合物が、抗体と抗原との間に形成されるか否かを検知するステップとを含む。このような方法は、インビトロ又はインビボ方法であってよい。本明細書において使用される「検知する」という用語は、定量的又は定性的検知を含む。
【0186】
好ましい実施形態において、診断方法において用いられる本発明の抗体は、標識される。標識は、直接検知される標識又は成分(蛍光、発色団、高電子密度、化学発光及び放射性標識等)、並びに間接的に検知される、例えば、酵素反応又は分子相互作用による酵素又はリガンド等の成分を含むが、限定されない。
【0187】
本発明は、さらに、病気の診断又は検知用のキットに関し、当該キットは、本発明の組換え核酸分子、発現カセット、ベクター、ウイルス粒子、宿主細胞、抗体若しくは医薬組成物と、任意選択的にこのようなキットを使用するガイドラインを提供するパンフレットとを含む。本発明のキットは、さらに、本発明の抗体とその抗原との複合体を検知するのに必要とされる1つ又は複数の試薬を含み得る。本発明は、さらに、病気を診断又は検知するための本発明のキットの使用に関する。
【0188】
本明細書に使用するとき、「約」という用語は、特定値の±10%の値の範囲を指し、より好ましくは特定値の±5%の値の範囲を指す。例えば、「約1」は、10%を考えた場合、0.9から1.1を意味し、5%を考えた場合、0.95から1.05を意味する。
【0189】
本明細書において使用する「含む」という動詞は、非限定的な意味で使用され、その言葉に類するものが含まれることを意味するが、特に触れないものでも、除外はされないという意味で使用している。その上、不定冠詞「a」又は「an」による要素への言及は、文脈が、明確に、要素を一つ、要素を一つだけ必要とする場合でない限り、1つを超える要素が存在する可能性を除外しない。不定冠詞「a」又は「an」は、よって、通常は、「少なくとも1つ」を意味する。
【0190】
本明細書において引用した全ての特許文献及び論文は、言及によってその全体が本明細書に援用される。
【0191】
以下の実施例は、例示の目的で提供され、限定するものではない。
【実施例】
【0192】
材料及び方法
抗-CD20 scFull-Igの作成
遺伝子合成反応を用いて、抗-CD20 scFull-Ig(単鎖完全長Ig)をコードする完全合成カセットを作り出した。可変ドメインは、リツキシマブ配列に基づいたものだった。単鎖Fab断片を得るために、以下による独創的な方法を設計した。
-完全長VH、DJH及びVKJKを、18-残基リンカー(Whitlow 218リンカー、GSTSGSGKPGSGEGSTKG(配列番号:1)により連結した。
-この次に、Ckと、γ重鎖CH1ドメインとを、まさに同一の18残基リンカー配列により再度連結した。
【0193】
それから、単鎖「Fab」ドメインをコードするこの配列に、CH2及びCH3配列と、ポリアデニル化部位とが続く。Ig配列の最適な発現は、イントロンにより支持されるので、天然の第1のイントロン[リーダーエクソン-VHエクソン]をVH配列の上流に含めて、生殖系配列によって、エクソン1及び2とともにVH遺伝子構造を保存する。さらには、VHプロモーター配列をコンストラクトの上流に挿入した。
【0194】
最後に、本コンストラクトは、pCDNA3.1(+)ベクター内へクローン化され、当該ベクターは、HindIII及びEcoRI部位に、ネオマイシン遺伝子選択耐性を含む。
【0195】
産生
CHO及び293細胞に対して、プラスミドベクターでMacsfectin試薬により遺伝子導入し、遺伝子導入の翌日0.5~1mg/mLのG418を補った培地による選択を行った。3~4週間後、上清を、発現のため、酵素結合免疫吸着検定法、そして、フローサイトメトリーによりスクリーニングした。上清を、最終的に、10-kDa(分子量)のカットオフを伴うビバスピンディスポーザルで遠心分離法により濃縮した。
【0196】
特徴
ELISAについて、scFull-Igは、ポリクローナル抗ヒトFc特異的抗体により捉えられ、HRPコンジュゲート抗ヒトIgG(H+L)抗体により検知された(どちらもSigma Aldrich社製)。
【0197】
フローサイトメトリーについて、CD20膜型抗原を発現する100000の細胞(又はネガティブコントロール細胞)を、上清50μLで30分間2~8℃でインキュベートした。低温PBS-1% SABで3回洗浄後、希釈された抗ヒトIgG(H+L)-Dylight650を10μL細胞懸濁液に追加した。その次に、20分間2~8℃でインキュベートし、細胞を再度3回洗浄し、最後に、緩衝液300μlで再懸濁させた。ヨウ化プロピジウムを、死細胞を除外するための判断をする直前に追加した。生細胞に依存する10000イベントをFACS Caliburサイトメーターに記録した。
【0198】
【0199】
図2:抗-CD20scFull-Ig発現のために作成されたプラスミドマップ。作成物を、HindIII及びEcoRI部位においてpCDNA3.1(+)ベクター内に挿入した。
【0200】
図3:組換え型mAbを未精製の上清中においてELISAにより検知。遺伝子導入された細胞から上清を捕集しELISAにより解析した。組換え型IgG1及びIgM mAbを、それぞれ、ポジティブ及びネガティブコントロールとして用いた。予想通り、scFull-Igが、CHOと293遺伝子導入細胞株の上清中に検知された。
【0201】
図4:scFull-Ig上清を伴う標的細胞を染色する。scFull-Ig構造体の機能を保証するために、異なる細胞の標的を、異なるバッチ又は未精製の上清希釈液でインキュベートした。4A、異なる未精製の上清を検査してSUD細胞株に観察された典型的な染色。4B、ポジティブ(SUD及びDOHH2)又はネガティブ(DOHH2-KO CD20)CD20細胞株において測定された幾何平均蛍光性。リツキシマブをポジティブコントロールとして使用した。
【配列表】