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特許7497323てん充道床軌道の施工方法及びてん充道床軌道
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  • 特許-てん充道床軌道の施工方法及びてん充道床軌道 図1
  • 特許-てん充道床軌道の施工方法及びてん充道床軌道 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】てん充道床軌道の施工方法及びてん充道床軌道
(51)【国際特許分類】
   E01B 27/02 20060101AFI20240603BHJP
   E01B 1/00 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
E01B27/02
E01B1/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021075622
(22)【出願日】2021-04-28
(65)【公開番号】P2022169909
(43)【公開日】2022-11-10
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】渕上 翔太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 貴蔵
(72)【発明者】
【氏名】中村 貴久
(72)【発明者】
【氏名】桃谷 尚嗣
【審査官】佐久間 友梨
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-108401(JP,A)
【文献】特開2020-147906(JP,A)
【文献】特開2017-133252(JP,A)
【文献】特開2019-002185(JP,A)
【文献】特開平09-003450(JP,A)
【文献】特開昭60-055101(JP,A)
【文献】特開昭62-141201(JP,A)
【文献】米国特許第04451180(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 1/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バラスト道床を有する鉄道用軌道をてん充道床軌道とするてん充道床軌道の施工方法であって、
前記バラスト道床におけるまくらぎに隣接する、泥土化した部分を含む一部の領域のバラストを撤去し、
バラストが撤去された領域の下方に残存する再利用可能なバラストにセメント安定処理を施してセメント安定処理層を形成し
該セメント安定処理層の上に直接に、撤去されたバラストとは別のバラストを供給し、
供給されたバラストに流動性を有するてん充材を注入すること
を特徴とするてん充道床軌道の施工方法。
【請求項2】
前記てん充材が前記セメント安定処理層の上面に僅かに浸透することにより前記てん充材により固化される領域と前記セメント安定処理層の一体化を図ることを特徴とする請求項1に記載のてん充道床軌道の施工方法。
【請求項3】
前記バラストを撤去した領域の軌道横方向両側に、下端部が前記セメント安定処理を施した箇所に当接又は隣接し、上端部がまくらぎ下面付近まで立ち上がるように遮水板を設置した状態で、前記てん充材を注入することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のてん充道床軌道の施工方法。
【請求項4】
前記てん充材が超微粒子セメントを含むことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のてん充道床軌道の施工方法。
【請求項5】
レールと、
前記レールの下側に配置されたまくらぎと、
前記レールを前記まくらぎに締結するレール締結装置と、
前記まくらぎを支持する道床とを備え、
前記道床は、
前記まくらぎに隣接する領域に設けられバラストの間隔にてん充材が注入されたてん充改良層と、
前記てん充改良層の下側に直接に設けられ、セメント安定処理された再利用バラストからなるセメント安定処理層とを有すること
を特徴とするてん充道床軌道。
【請求項6】
前記てん充改良層の軌道横方向両側に、下端部が前記セメント安定処理層に当接又は隣接し、上端部がまくらぎ下面付近まで立ち上がる状態で設置された遮水板を有すること
を特徴とする請求項5に記載のてん充道床軌道。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道用のてん充道床軌道の施工方法及びてん充道床軌道に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道用の軌道は、レールが締結されるまくらぎを、例えば砕石、砂利等のバラストからなるバラスト道床等の道床によって支持して構成されている。
てん充道床軌道は、バラスト道床の内部にグラウト材等のてん充材を注入して固化させるものであり、一般的なバラスト道床に対して強固でありかつ搗き固め作業を必要としない効果を有する。
てん充道床軌道に関する従来技術として、例えば特許文献1には、バラストの入れ替え作業を低減、あるいは不要として施工効率を向上するため、まくらぎの両側に位置するバラストを取り出して遮水シートを配設し、遮水シートの内側のバラストに高流動性のてん充材を注入するてん充道床軌道の施工方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-133252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バラスト軌道において、経年した道床内に土砂が混入して道床の排水性が低下し、道床の一部が泥土化する場合がある。
このような泥土が列車の走行時などに道床の表面に噴出することを道床噴泥という。
道床噴泥が生じている道床においては、特許文献1のような高流動性のてん充材を用いたとしても、てん充材を注入することは困難であることから、このようなバラスト軌道をてん充道床軌道化する場合には、従来は道床交換(通常は新品バラストへの交換)が必要となり、工数、コスト、廃棄物処理などの面で大きな負担となっていた。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、既存のバラストの一部を再利用して施工することが可能なてん充道床軌道の施工方法及びてん充道床軌道を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明のてん充道床軌道の施工方法は、バラスト道床を有する鉄道用軌道をてん充道床軌道とするてん充道床軌道の施工方法であって、前記バラスト道床におけるまくらぎに隣接する一部の領域のバラストを撤去し、バラストが撤去された領域の下方に残存するバラストにセメント安定処理を施し、バラストが撤去された領域に撤去されたバラストとは別のバラストを供給し、供給されたバラストに流動性を有するてん充材を注入することを特徴とする。
これによれば、まくらぎに隣接する一部の領域のみバラストを交換し、交換されたバラストにてん充材を注入して固化することにより、既存のバラストの一部を再利用して施工を行うことができる。
また、てん充材を注入する領域より下方の領域において、既存のバラストにセメント安定処理を施すことにより、てん充材により固化される領域の下方における道床を強固にするとともに、てん充材を注入する際のてん充材の下方への流出を防止することができる。
【0006】
本発明において、バラストが撤去される領域は、泥土化した部分を含む構成とすることができる。
これによれば、バラスト道床の泥土化が生じている場合であっても、泥土化した部分を含む一部のバラストを交換し、てん充材を注入することによって、再利用可能なバラストを活用しつつ、てん充道床軌道化を行うことができる。
【0007】
本発明において、前記バラストを撤去した領域の軌道横方向両側に、下端部が前記セメント安定処理を施した箇所に当接又は隣接するように遮水板を設置した状態で、前記てん充材を注入する構成とすることができる。
これによれば、てん充材を注入する領域の軌道横方向からてん充材が流出することを防止でき、てん充材の使用量を抑制するとともに、例えばまくらぎの取り外しや軌道変位の整正などの保線作業のため、バラストを撤去する可能性がある領域までてん充材が注入されて固化することを防止できる。
【0008】
本発明において、前記てん充材が超微粒子セメントを含む構成とすることができる。
これによれば、てん充材の流動性を高め、自然流下により良好な注入を行うことができるとともに、てん充材がセメント安定処理層の上面に僅かに浸透することによりてん充材により固化される領域とセメント安定処理層の一体化が図られ、施工品質を向上することができる。
【0009】
また、上述した課題を解決するため、本発明のてん充道床軌道は、レールと、前記レールの下側に配置されたまくらぎと、前記レールを前記まくらぎに締結するレール締結装置と、前記まくらぎを支持する道床とを備え、前記道床は、前記まくらぎに隣接する領域に設けられバラストの間隔にてん充材が注入されたてん充改良層と、前記てん充改良層の下側に設けられ、セメント安定処理されたバラストからなるセメント安定処理層とを有することを特徴とする。
本発明において、前記てん充改良層の軌道横方向両側に、下端部が前記セメント安定処理層に当接又は隣接する状態で設置された遮水板を有する構成とすることができる。
これらの各発明においても、上述したてん充道床軌道の施工方法に係る発明の効果と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、既存のバラストの一部を再利用して施工することが可能なてん充道床軌道の施工方法及びてん充道床軌道を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明を適用したてん充道床軌道の実施形態の構成を示す斜視断面図である。
図2】実施形態のてん充道床軌道の施工方法における道床の断面の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用したてん充道床軌道の施工方法、及び、てん充道床軌道の実施形態について説明する。
実施形態のてん充道床軌道の施工方法は、例えば、まくらぎの下部において泥土化が進行し、道床噴泥が生じている既設線のバラスト軌道を、てん充道床軌道化するものである。
【0013】
図1は、実施形態のてん充道床軌道の構成を示す斜視断面図である。
軌道1は、レール10、まくらぎ20、レール締結装置30、道床40、路盤50等を有して構成されている。
レール10は、例えば平底の普通レールであって、左右一対が所定の軌間離間した状態で平行に配置されている。
まくらぎ20は、軌道横方向に延在し、左右のレール10が取り付けられる部材である。
まくらぎ20は、一例として、コンクリートの内部に鋼棒などの芯材が埋設されたプレストレストコンクリート(PC)まくらぎである。
レール締結装置30は、レール10をまくらぎ20に締結するものである。
レール締結装置30は、レール10をまくらぎ20に固定して軌間を保持し、温度変化や列車の制動で生ずるレールふく進に抵抗するとともに、列車の車輪からレール10に入力される衝撃を緩和してまくらぎ20に伝達する機能を有する。
【0014】
道床40は、路盤50の上に設置されるとともに、まくらぎ20が載置され、支持される部分である。
実施形態において、道床40は、既設線のバラスト軌道を後述する施工方法によっててん充道床化したものである。
道床40は、SFC改良層41、セメント安定処理層42、遮水板43、バラスト部44等を有して構成されている。
【0015】
SFC改良層41は、砕石、砂利等からなるバラストの間隔に、流動性を有するグラウト材をてん充材として注入し、固化したてん充改良層である。
グラウト材として、例えば、平均粒径が4μm以下の超微粒子セメント(SFC)を主成分とするSFCミルクを用いることができる。
SFC改良層41は、まくらぎ20の下面と当接し、あるいはまくらぎ20の下面と隣接する領域に設けられている。
SFC改良層41は、例えば、道床40の高さ方向における上部の領域(一例として、まくらぎ20の下の道床40の厚さが十分に厚い場合には、高さ方向における中間部よりも上方の領域)でありかつ軌道横方向における中央部(まくらぎ20の下部)に設ける構成とすることができる。
【0016】
セメント安定処理層42は、バラストに固形(粉末状)の高炉セメントを主成分とする改良材を散布するとともに攪拌し、散水して安定化(バラスト間の結合力を強化)した部分である。
セメント安定処理層42は、SFC改良層41の下面よりも下側に形成されている。
セメント安定処理層42の上面は、SFC改良層41の下面と接している。
セメント安定処理層42の下面は、路盤50の上面と接している。
【0017】
遮水板43は、防水性を有するシート状の部材である。
遮水板43は、SFC改良層41の軌道横方向(図1図2における横方向)における両側に配置されている。
遮水板43は、SFC改良層41の側部に沿って上下方向に延在するとともに、下端部はSFC改良層41の下側に回り込むよう屈曲して形成されている。
遮水板41の下端部は、セメント安定処理層42の上面部と当接している。
【0018】
バラスト部44は、てん充材の注入やセメント安定処理が施されていない既設バラストが残存する領域である。
バラスト部44は、SFC改良層41、セメント安定処理層42の軌道横方向両側にそれぞれ設けられている。
【0019】
以下、泥土化が生じている既設バラスト軌道を、上述した実施形態のてん充道床軌道化する施工方法について説明する。
図2は、実施形態のてん充道床軌道の施工方法における道床の断面の推移を示す図である。
図2(a)乃至図2(d)は、軌道1をレール10の長手方向から見た模式的断面を時系列で順次示している。
図2(a)は、施工前の状態を示している。
この状態では、道床40はバラスト道床であるが、まくらぎ20の下部に、泥土化部45が形成されている。
このような泥土化部45は、道床外部からの土砂の流入や、バラスト自体の細粒化などにより、道床40の排水性が低下することにより生成される。
泥土化部45が存在すると、列車の走行時に泥土が噴出する道床噴泥の原因となる。
【0020】
実施形態のてん充道床軌道の施工方法においては、先ず、レール10、まくらぎ20、レール締結装置30を撤去し、まくらぎ20の下部の道床40のうち、泥土化部45を含む領域(道床40の高さ方向における中間部よりも上方の領域)のバラストを撤去する。
その後、バラストを撤去した領域の下方に残存する既存のバラストに、例えば高炉セメントを主成分とする改良剤を散布し、改良剤とバラストとを攪拌し、散水して固化させるセメント安定処理を行う。
これにより、上述したセメント安定処理層42が形成される。
図2(b)は、セメント安定処理を完了した状態を示す図である。
【0021】
次に、バラストを撤去した領域の軌道横方向における両側に、遮水板43を設置する。
その後、レール10、レール締結装置30、まくらぎ20を設置し、交換用のバラスト(一例として新品のバラスト、あるいは、泥土化や細粒化を生じていない中古のバラスト)を投入して供給する。
図2(c)は、バラストの投入を行った直後の状態を示す図である。
【0022】
次に、タイタンパ(振動機)による道床40の突き固めにより、レール面の整正を行った後、バラストを投入した領域に、てん充材としてSFCミルクを注入して、てん充道床軌道化は完了する。
図2(d)は、てん充道床軌道化が完了した状態を示す図である。
【0023】
以上説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)まくらぎ20に隣接する一部の領域のみバラストを交換し、交換されたバラストにSFCミルクを注入して固化することにより、既存のバラストの一部を再利用しててん充道床軌道化の施工を行うことができる。
これにより、道床交換を伴う従来技術に対して、コスト、工数、廃棄物などの面で有利となる。
また、SFCミルクを注入する領域より下方の領域において、既存のバラストにセメント安定処理を施すことにより、SFCミルクにより固化される領域の下方における道床を強固にするとともに、SFCミルクを注入する際のSFCミルクの下方への流出を防止することができる。
(2)泥土化部45を含む一部のバラストを交換し、SFCミルクを注入することによって、泥土化が生じているバラスト道床の場合であっても、再利用可能なバラストを活用しつつ、てん充道床軌道化を行うことができる。
(3)SFC改良層41の軌道横方向両側に、下端部がセメント安定処理層42に接する状態で遮水板43を配置したことにより、SFCミルクを注入する領域の軌道横方向からSFCミルクが流出することを防止でき、SFCミルクの使用量を抑制するとともに、例えばまくらぎ20の取り外しや軌道変位の整正などの保線作業のため、バラストを撤去する可能性がある領域(バラスト部44)までSFCミルクが注入されて固化することを防止できる。
(4)超微粒子セメントを主成分とするSFCミルクをてん充材として用いることにより、てん充材の流動性を高め、自然流下により良好な注入を行うことができるとともに、てん充材がセメント安定処理層の上面に僅かに浸透することによりてん充材により固化される領域とセメント安定処理層の一体化が図られ、施工品質を向上することができる。
【0024】
(他の実施形態)
なお、本発明は上述した各実施形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。
(1)軌道、道床を構成する各部分の形状、構造、材質、製法、配置などは、上述した実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
(2)実施形態ではてん充材として超微粒子セメントを主成分とするSFCミルクを用いているが、これに限らず、既存のセメント系、アスファルト系などのてん充材(グラウト材)であっても、注入性に問題がない場合には用いることができる。
(3)実施形態では、一例として泥土化が生じたバラスト道床のてん充道床軌道化について説明しているが、本発明はこれに限らず、泥土化が生じていないバラスト道床のてん充道床軌道化にも利用することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 軌道 10 レール
20 まくらぎ 30 レール締結装置
40 道床 41 SFC改良層
42 セメント安定処理層 43 遮水板
44 バラスト部 45 泥土化部
50 路盤
図1
図2