(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】ステレオレンズ装置および撮像装置
(51)【国際特許分類】
G03B 17/14 20210101AFI20240603BHJP
G03B 19/07 20210101ALI20240603BHJP
G03B 37/00 20210101ALI20240603BHJP
G03B 15/00 20210101ALI20240603BHJP
G02B 7/02 20210101ALI20240603BHJP
【FI】
G03B17/14
G03B19/07
G03B37/00 A
G03B15/00 W
G02B7/02 A
G02B7/02 C
(21)【出願番号】P 2021160381
(22)【出願日】2021-09-30
【審査請求日】2023-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100104628
【氏名又は名称】水本 敦也
(74)【代理人】
【識別番号】100121614
【氏名又は名称】平山 倫也
(72)【発明者】
【氏名】村上 太郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】深井 陽介
(72)【発明者】
【氏名】日塔 潔
(72)【発明者】
【氏名】上原 匠
(72)【発明者】
【氏名】野田 豊人
【審査官】殿岡 雅仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-051282(JP,A)
【文献】特開平11-149004(JP,A)
【文献】特開2014-077305(JP,A)
【文献】特開2013-238792(JP,A)
【文献】特開2020-154008(JP,A)
【文献】特開平11-337801(JP,A)
【文献】特開2014-102363(JP,A)
【文献】国際公開第2012/017684(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 35/00 - 37/06
G02B 7/02 - 7/16
G03B 19/00 - 19/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列配置された2つの光学系を有するステレオレンズ装置であって、
前記2つの光学系はそれぞれ、物体側から像側へ順に配置された、第1レンズ群と、第2レンズ群と、第3レンズ群とを有し、前記第1レンズ群と前記第2レンズ群との間および前記第2レンズ群と前記第3レンズ群との間での光路の折り曲げにより、前記2つの光学系における2つの前記第1レンズ群の光軸間隔よりも2つの前記第3レンズ群の光軸間隔が狭くなっており、
前記第3レンズ群を保持するための付勢力を発生するバネを含み、前記2つの第3レンズ群のそれぞれを保持する2つの保持機構のうち一方の保持機構の
前記バネおよび該バネが掛けられたフックが他方の保持機構に設けられた凹部内に配置され、前記他方の保持機構の
前記バネおよび該バネが掛けられたフックが前記一方の保持機構に設けられた凹部内に配置されていることを特徴とするステレオレンズ装置。
【請求項2】
前記2つの保持機構のそれぞれにおいて、該2つの保持機構が隣り合う部分が他の部分よりも前記第3レンズ群の光軸に直交する方向での厚みが小さくなるように形成されており、
前記保持機構の前記
バネおよび該バネが掛けられたフックと前記凹部が、前記隣り合う部分に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のステレオレンズ装置。
【請求項3】
前記保持機構は、前記第3レンズ群を加締めにより保持する加締め部を含み、
前記2つの保持機構が隣り合う部分において、それぞれの前記保持機構で前記加締め部を設けない部分の前記第3レンズ群の光軸回りでの位置が異なることを特徴とする請求項1
または2に記載のステレオレンズ装置。
【請求項4】
前記保持機構は、前記第3レンズ群の光学調整を行う調整機構を含むことを特徴とする請求項1から
3のいずれか一項に記載のステレオレンズ装置。
【請求項5】
前記調整機構は、前記第3レンズ群の光学調整のための複数の偏心コロを含み、
前記複数の偏心コロが、前記2つの保持機構が隣り合う部分以外の部分に配置されていることを特徴とする請求項
4に記載のステレオレンズ装置。
【請求項6】
前記ステレオレンズ装置は、撮像装置に着脱可能なマウントを有しており、
前記2つの第3レンズ群の光軸間隔が前記マウントの内径よりも小さく、
前記2つの第1レンズ群の光軸間隔が前記マウントの内径よりも大きいことを特徴とする請求項1から
5のいずれか一項に記載のステレオレンズ装置。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項に記載のステレオレンズ装置が着脱可能に装着され、
前記2つの光学系により形成される2つの光学像を撮像する単一の撮像素子を有することを特徴とする撮像装置。
【請求項8】
請求項1から
5のいずれか一項に記載のステレオレンズ装置と、
前記2つの光学系により形成される2つの光学像を撮像する単一の撮像素子とを有することを特徴とするステレオ撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体視可能な画像(ステレオ画像)の撮像に好適なレンズ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
撮像によるステレオ画像の取得を可能とするステレオレンズ装置として、2つの光学系を互いに視差を持つように並列配置したものが用いられる。特許文献1には、2つの光学系(魚眼レンズ)を並列配置し、各光学系内に2つの反射部材を配置して光路を折り曲げたステレオレンズ装置が開示されている。光路を折り曲げることで、2つの光学系における物体側レンズ群間の基線長を確保しつつ、像側レンズ群間の間隔を狭めて2つの光学系のイメージサークルを単一の撮像素子上に形成できるようにすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたレンズ装置を一般的なレンズ交換型撮像装置に装着可能とするためには、2つの光学系の像側レンズ群を撮像装置に着脱されるマウント内に収める必要がある。このため、像側レンズ群間の間隔をできるだけ狭めることが求められる。しかしながら、像側レンズ群間の間隔を狭めると、該間隔内に各像側レンズ群を保持する保持機構を配置することが難しくなる。
【0005】
本発明は、像側レンズ群間の間隔を狭めつつ、該間隔内にそれぞれの像側レンズ群を保持する保持機構を配置できるようにしたステレオレンズ装置およびこれを備えた撮像装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面としてのステレオレンズ装置は、並列配置された2つの光学系を有する。2つの光学系はそれぞれ、物体側から像側へ順に配置された、第1レンズ群と、第2レンズ群と、第3レンズ群とを有し、第1レンズ群と第2レンズ群との間および第2レンズ群と第3レンズ群との間での光路の折り曲げにより、2つの光学系における2つの第1レンズ群の光軸間隔よりも2つの第3レンズ群の光軸間隔が狭くなっている。第3レンズ群を保持するための付勢力を発生するバネを含み、2つの第3レンズ群のそれぞれを保持する2つの保持機構のうち一方の保持機構のバネおよび該バネが掛けられたフックが他方の保持機構に設けられた凹部内に配置され、他方の保持機構のバネおよび該バネが掛けられたフックが一方の保持機構に設けられた凹部内に配置されていることを特徴とする。なお、上記ステレオレンズ装置が着脱可能な又は一体に備えた撮像装置も、本発明の他の一側面を構成する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ステレオレンズ装置において、第3レンズ群間の間隔を狭めつつ、該間隔内にそれぞれの第3レンズ群を保持する保持機構を配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図6】実施例1の変形例の撮像レンズのA-A線での断面図。
【
図8】実施例1の撮像レンズの光軸と撮像素子上のイメージサークルを示す図。
【
図9】実施例1の撮像レンズにおける一方の光学系からの他方の光学系への映り込みを示す図。
【
図10】実施例1の撮像レンズが装着されたカメラを示す図。
【
図11】実施例2のステレオ撮像レンズの構成を示す図。
【
図12】実施例2の撮像レンズの構成を示す別の図。
【
図14】実施例2の撮像レンズのフォーカス操作部を示す図。
【
図17】実施例2の撮像レンズのフォーカス調整部の分解斜視図。
【
図19】実施例2の撮像レンズのフォーカス調整部の部分拡大図。
【
図20】実施例2の撮像レンズの荷重バランスを示す模式図。
【
図21】実施例2におけるフォーカス調整部の分解斜視図。
【
図22】実施例2におけるフォーカス調整部の断面図。
【
図23】実施例2におけるフォーカス調整部の斜視図。
【
図24】実施例2におけるフォーカス調整部の模式図。
【
図27】実施例3の撮像レンズにおける第3レンズ群の保持機構の後面図。
【
図28】実施例3における第3レンズ群の保持機構の分解斜視図。
【
図29】実施例3における第3レンズ群の保持機構の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明の実施例1であるステレオレンズ装置としてのステレオ撮像レンズ(以下、単に撮像レンズという)200の断面を示している。
図2および
図3はそれぞれ、分解した撮像レンズ200を被写体側(前側)および像側(後側)から見て示している。撮像レンズ200は、後述するレンズ交換型撮像装置に対して着脱(交換)が可能な交換レンズである。ただし、撮像レンズ200をレンズ一体型撮像装置に設けてステレオ撮像装置を構成してもよい。
【0011】
撮像レンズ200は、第1光学系としての右眼光学系201Rと、第2光学系としての左眼光学系201Lを有する。右眼光学系201Rと左眼光学系201Lは、左右方向(
図1の紙面の上下方向)に並列配置されている。なお、第1光学系と第2光学系を、上下方向(
図1の紙面に垂直な方向)に並列配置してもよい。以下の説明において、右眼光学系201Rの構成要素には符号の末尾にRを付し、左眼光学系201Lの構成要素には符号の末尾にLを付す。
【0012】
右眼および左眼光学系201R、201Lはそれぞれ、物体側(被写体側)から像側に順に、第1レンズ群211R、211Lと、第2レンズ群221R、221Lと、第3レンズ群231R、231Lとを有する。各レンズ群は、1つ以上のレンズにより構成されている。
【0013】
第1レンズ群211R、211Lはそれぞれ、第1光軸OA1R、OA1Lを有する。第1光軸OA1R、OA1Lは、左右方向において互いに距離(光軸間隔)L1だけ離れている。距離L1は、基線長ともいう。第1レンズ群211R、211Lはそれぞれ、その被写体側に凸形状の前レンズ面211Aを有しており、これにより右眼および左眼光学系201R、201Lは180°以上の画角を有する。
【0014】
第2レンズ群221R、221Lはそれぞれ、左右方向において第1光軸OA1R、OA1Lに直交するように延びる第2光軸OA2R、OA2Lを有する。
【0015】
第3レンズ群231R、231Lはそれぞれ、第2光軸OA2R、OA2Lに直交する(第1光軸OA1R、OA1Lに平行になる)ように延びる第3光軸OA3R、OA3Lを有する。各第3レンズ群は、物体側から像側に順に配置された前レンズ231aと後レンズ231bにより構成されている。第3光軸OA3R、OA3Lは、左右方向において基線長L1よりも短い距離(狭い光軸間隔)L2だけ互いに離れている。以下の説明において、第1光軸OA1(R、L)と第3光軸OA3(R、L)が延びる方向を光軸方向という。また、光軸方向(前後方向)に直交する方向を径方向、光軸方向および左右方向に直交する方向を上下方向、第1および第3光軸OA1(R、L)、OA3(R、L)回りの方向を周方向という。
【0016】
第1レンズ群211R、211Lと第2レンズ群221R、221Lとの間にはそれぞれ、第1レンズ群211R、211Lを通過した光の光路を第2レンズ群221R、221Lに向かうように折り曲げる反射部材としての第1プリズム220R、220Lが配置されている。また、第2レンズ群221R、221Lと第3レンズ群231R、231Lとの間には、第2レンズ群221R、221Lを通過した光の光路を第3レンズ群231R、231Lに向かうように折り曲げる反射部材としての第2プリズム230R、230Lが配置されている。
【0017】
右眼および左眼光学系201R、201Lはそれぞれ、レンズ保持部材212R、212Lにより保持されて外装カバー部材203内に収容され、レ ンズトップベース300にビス締め固定される。レンズトップベース300は、外装カバ ー部材203内に配置されたレンズボトムベース301にビス締め固定される。レンズボ トムベース301は、外装カバー部材203に設けられた直進ガイド部によって回転が制 限された状態で光軸方向に移動できるように保持される。これにより、右眼および左眼光 学系201R、201Lは、レンズトップベース300およびレンズボトムベース301 (以下、レンズトップ/ボトムベース300、301ともいう)と共に一体で光軸方向に 移動してフォーカス調整を行うことができる。外装カバー部材203の後端には、レンズ マウント202がビス締め固定される。
【0018】
また、外装カバー部材203の前端には、前面外装部材204がビス締めや接着により固定される。前面外装部材204には、右眼および左眼光学系201R、201Lは、201Lの第1レンズ211R、211Lの前レンズ面211Aを露出させる2つの開口部204Fを有する。
【0019】
図4は、被写体側から見た撮像レンズ200を示している。
図7は、
図4の撮像レンズ200におけるB-B線での断面を示している。
【0020】
右眼光学系201Rと左眼光学系201Lにはそれぞれ、180°以上の画角から有効光束が入射する。
図4に示すように、第1レンズ群211R、211Lの前レンズ面211Aのうち有効入射径211Cよりも径方向内側の領域を有効入射面211Bとするとき、画角180°の光束は、有効入射面211Bに第1光軸OA1(R、L)と直交する方向から入射する。また、180°を超える画角の光束は、有効入射面211Bよりも像側から有効入射面211Bに向かう。この180°を超える画角の光束を遮らないようにするため、
図7に示すように、前面外装部材204の前面は、第1レンズ群211R、211Lの有効入射面211Bよりも像側に配置されている。前面外装部材204の開口部204Fと第1レンズ群211R、211Lとの間に配置されるカバー部材213の前面も、同様に有効入射面Bよりも像側に配置される。
【0021】
具体的には、
図4に示すように、右眼光学系201Rと左眼光学系201Lとの間の中心点Oよりも右側を右眼領域20R、中心点Oよりも左側を左眼領域20Lとする。このとき、
図7に示すように、前面外装部材204のうち右眼領域20Rには、左眼光学系201Lに180°以上の画角FOVから入射する最外有効光束(図中の太点線)を遮らない右前面204Aが形成されている。具体的には、右前面204Aは、左眼光学系201Lの第1レンズ群211Lから右側に離れるほどより像側に位置する形状を有する。
【0022】
同様に、前面外装部材204のうち左眼領域20Lには、右眼光学系201Rに180°以上の画角から入射する最外有効光束を遮らない左前面204Bが形成されている。具体的には、左前面204Bは、右眼光学系201Rの第1レンズ群211Rから左側に離れるほどより像側に位置する形状を有する。
【0023】
なお、右前面204Aにおける開口部204Fの周囲のうち中心点Oよりの上下の部分には、右前面204Aよりも前側に突出して開口部204Fに沿って円弧状に延びる壁部204Cが形成されている。同様に、左前面204Bにおける開口部204Fの周囲のうち中心点Oよりの上下の部分には、左前面204Bよりも前側に突出して開口部204Fに沿って円弧状に延びる壁部204Dが形成されている。壁部204Cは、右眼光学系201Rに入射する有効光束は遮らないが、左眼光学系201Lに向かう光束の一部を遮る。壁部204Dは、左眼光学系201Lに入射する有効光束は遮らないが、右眼光学系201Rに向かう光束の一部を遮る。これにより、後述するように壁部204Cが左眼光学系201Lのイメージサークル内に映り込み、壁部204Dが右眼光学系201Rのイメージサークル内に映り込む。
【0024】
図5は、
図4の撮像レンズ200における左眼光学系201Lの第1レンズ群211Lの周辺部におけるA-A線での断面を示している。ここでは、左眼光学系201Lの第1レンズ群211Lの保持構造について説明するが、右眼光学系201Rの第1レンズ群211Rの保持構造も同じである。
【0025】
第1レンズ群211Lは、第2レンズ群221L、第3レンズ群231L、第1プリズム220Rおよび第2プリズム230Rとともにレンズ保持部材212Lにより保持される。レンズ保持部材212Lの外周には、開口部を有するリング状のカバー部材213が取り付けられる。カバー部材213の開口部を囲む前端内縁部213Aは、第1レンズ群211Lの前レンズ面211Aのうち外縁211Dおよびその近傍を覆っている。すなわち、カバー部材213の開口部の内径は、前レンズ面211Aの外縁211Dの径よりも小さい。前レンズ面211Aの外縁211Dは、第1レンズ群211Lの外周面211Eとの境界であり、二点鎖線で示す第1レンズ群211の有効入射径211Cよりも径方向外側にある。
【0026】
第1レンズ群211Lの側面211Eより後側には、側面211Eよりも径方向外側に突出した凸部211Fが形成されている。レンズ保持部材212Lは、この凸部211Fを前後から挟むことで第1レンズ群211を光軸方向にて保持し、凸部211Fの外周面に当接することで第1レンズ群211を径方向にて保持する。
【0027】
このように第1レンズ群211Lを保持したレンズ保持部材212Lは、その外周に取り付けられたカバー部材213が前面外装部材204のうち左前面204Bの開口部204Fに嵌め込まれることで前面外装部材204、さらにはこれが固定された外装カバー部材203によって保持される。
【0028】
図6は、
図5に対する変形例を示している。
図6に示した第1レンズ群211Lには、
図5に示した第1レンズ群211Lが有する側面211Eがなく、凸部211F′のみが形成されている。すなわち、前レンズ面211Aの外縁211Dに連続するように凸部211F′が形成されている。
図6においても、レンズ保持部材212Lは、凸部211F′を前後から挟むことで第1レンズ群211を光軸方向にて保持し、凸部211F′の外周面に当接することで第1レンズ群211を径方向にて保持する。
【0029】
図5および
図6において、カバー部材213の開口部(前端内縁部213A)の内径をΦA、前レンズ面211Aの外縁211Dの径をΦBとする。このとき、前端内縁部213Aが前レンズ面211Aのうち外縁211Dから径方向内側の部分を覆うオーバーラップ量Xは、
X=(ΦB-ΦA)/2
で示される。このように、前レンズ面211Aの外縁211Dをカバー部材213の前端内縁部213Aで覆うことは、外観品位の観点で好ましい。
【0030】
また、カバー部材213は、レンズ保持部材212Lに対して光軸方向には変位しないように取り付けられる。具体的には、カバー部材213の内周における周方向(光軸回り方向)複数箇所に周方向に延びる溝部213Bが形成され、これら溝部213Bにレンズ保持部材212Lの外周における周方向複数箇所に設けられたバヨネット爪部212Aが係合する。組み立て時には、溝部213Bとバヨネット爪部212Aが周方向において互いに異なる位相となるようにカバー部材213をレンズ保持部材212Lに組み付ける。その後、カバー部材213を周方向に回転させることで、バヨネット爪部212Aが溝部213B内に入り込んで溝部213Bと光軸方向にて係合する。なお、カバー部材213にバヨネット爪部を設け、レンズ保持部材212Lに溝部を設けてもよい。
【0031】
一方、カバー部材213は、レンズ保持部材212Lに対して径方向にてギャップYだけ変位可能に取り付けられている。ギャップYは、カバー部材213のオーバーラップ量Xよりも小さい。このため、
図5および
図6に示すようにギャップYの分だけレンズ保持部材212Lがカバー部材213から離れるように変位しても、前レンズ面211Aの外縁211Dがカバー部材213の前端内縁部213Aで覆われた状態は維持される。
【0032】
このようにレンズ保持部材212Lに取り付けられたカバー部材213の外周面は、前面外装部材204の開口部204Fの内周面に対して光軸方向に移動可能に嵌合する。これにより、カバー部材213とレンズ保持部材212Lは、前面外装部材204に対して一体で光軸方向に移動可能に保持される。なお、カバー部材213の外周面と開口部204Fの内周面との間の嵌合ギャップは微小であり、前述したギャップYよりも小さい。
【0033】
このように、前面外装部材204の開口部204Fにレンズ保持部材212Lを直接嵌合させるのではなく、レンズ保持部材212Lの径方向でのギャップY分のガタを許容するカバー部材213を開口部204Fに嵌合させる。これにより、レンズ保持部材212Lの左右方向での位置が製造誤差によりずれても、その位置が無理に矯正されることがない。このため、右眼および左眼光学系201R、201Lのそれぞれの光学性能や右眼および左眼光学系201R、201Lの相対誤差が前面外装部材204の組み付けによって変化することを防止できる。
【0034】
また、
図2および
図3に示すように、カバー部材213には回転制限キー部213Cが設けられている。回転制限キー部213Cが前面外装部材204に設けられた回転制限溝部204Eに係合することで、カバー部材213の周方向での回転が制限される。これにより、レンズ保持部材212Lに取り付けられたカバー部材213が回転して、溝部213Bとバヨネット爪部212Aとの係合が外れること防止できる。なお、カバー部材213に回転制限溝部を設け、前面外装部材204に回転制限キー部を設けてもよい。
【0035】
また、
図5および
図6に示すように、カバー部材213において像側を向いた前側内面213Dとレンズ保持部材212において物体側を向いた前端面212Bとの間には、防滴防塵用のリング状の第1シール部材214が圧縮状態で挟み込まれるように配置される。第1シール部材214は、ゴムやスポンジ等の弾性変形可能な材料で形成されている。前側内面213Dと前端面212Bとの間で圧縮された第1シール部材214の弾性力により、カバー部材213とレンズ保持部材212とが光軸方向にて互いに反対側に付勢される。これによりカバー部材213とレンズ保持部材212との間の光軸方向でガタを減らすことができる。また、第1シール部材214は、カバー部材213に対してレンズ保持部材212が径方向において前述したギャップYの分変位したときは、その変位に追従して弾性変形する。これにより、防滴防塵機能とカバー部材213とレンズ保持部材212の付勢機能を維持する。
【0036】
さらに、カバー部材213の外周に設けられた溝部213Eの底面と前面外装部材204の開口部204Fの内周面と間には、防滴防塵のための第2シール部材215が径方向にて圧縮された状態で挟み込まれるように配置される。
【0037】
以上説明した構成を有する撮像レンズ200は、高い外観品位、光学性能および防塵防滴性能を有しつつ、180°以上の画角でステレオ画像(互いに視差を有する視差画像としての右眼画像と左眼画像)を取得するための撮像を可能とする。ステレオ画像は、VRゴーグル等を通してVR画像として観察者により観察される。
【0038】
図8は、右眼および左眼光学系201R、201Lの第1~第3光軸OA1R、OA1L~OA3R、OA3Lと、レンズマウント202と、撮像装置に設けられた単一の撮像素子111上のイメージサークルICR、ICLとの光軸方向から見たときの位置関係を示す。
【0039】
撮像素子111の撮像面上には、右眼光学系201Rのイメージサークル(以下、右イメージサークルという)ICRと左眼光学系201Lのイメージサークル(以下、左イメージサークルという)ICLとが左右方向に並んで形成される。各イメージサークルの直径ΦD2と左右イメージサークルICR、ICL間の中心間距離は、左右イメージサークルICR、ICLが重なり合わないように設定されている。例えば、撮像素子111の撮像面を左右半分に分け、右側の撮像面の中心に右イメージサークルICRの中心が位置し、左側の撮像面の中心に左イメージサークルICLの中心が位置するように設定してもよい。
【0040】
また、本実施例における右眼および左眼光学系201R、201Lは、撮像面上に180°以上の画角に含まれる被写体の円像を形成する全周魚眼レンズとして構成されており、
図8に示す左右イメージサークルICR、ICL内にも円像を示している。
【0041】
例えば、撮像素子(撮像面)111のサイズを縦24mm×横36mm、各イメージサークルの直径ΦD2をΦ17mm、第3光軸OA3R、OA3L間の距離L2を18mm、第2光軸OA2R、OA2Lの長さを21mmとする。このとき、第1光軸OA1R、OA1L間の基線長L1は60mmとなり、成人の眼幅とほぼ等しくなる。第3レンズ群231R,231Lの径と第3光軸OA3R、OA3L間の距離L2を、第3レンズ群231R,231Lがレンズマウント202の内側に収まるように設定することで、基線長L1をレンズマウント202の内径ΦDよりも長くすることができる。すなわち、ΦD、L1およびL2は、
L1>ΦD>L2
の関係となる。
【0042】
本実施例では、少なくとも180°に画角を広げてより臨場感のあるVR画像の観察を可能とする。180°の画角のイメージサークルの径ΦD3は、180°を超える最大画角のイメージサークルの径ΦD2に対して、
ΦD2>ΦD3
となる。
【0043】
図9は、右イメージサークルICR内への左眼領域20Lの映り込みを示している。右イメージサークルICR内には、左眼領域20Lにある左眼光学系201Lの第1レンズ群211L、カバー部材213、前面外装部材204の壁部204Dおよびその近傍部分が映り込む。カバー部材213、壁部204Dおよびその近傍部分は最大画角のイメージサークルICR(径ΦD2)内に映り込むが、180°画角のイメージサークル(径ΦD3)内には映り込まず、このイメージサークルより外側に映り込む。一方、第1レンズ群211Lの像は、180°画角のイメージサークル(径ΦD3)内にも映り込む。このように、撮像レンズ200の仕様上、右イメージサークルICR内への左眼領域20Lの一部の映り込みが発生する。
【0044】
しかし、カバー部材213、前面外装部材204の壁部204Dおよびその近傍部分は、第1レンズ群211Lの頂点よりも水平方向外側(
図9における左側)に映り込む。このため、魚眼レンズにより形成される円像の撮像画像のうち第1レンズ群211Lの頂点よりも水平方向外側の部分、すなわち
図9に示す直線Zより左側の小さな領域を画像処理や画像編集においてトリミング(カット)する。これにより、180°を超える画角での撮像および観察に対する影響をなくすることができる。このことは、左イメージサークルICL内への右眼領域20Rの映り込みについても同様である。
【0045】
図10は、撮像レンズ200をレンズ交換型撮像装置としてのデジタルカメラ(以下、単にカメラという)110に装着して構成されるステレオ撮像システム100を示している。撮像レンズ200は、右眼および左眼光学系201R、201Lに加えて、レンズ制御部209を有する。
【0046】
カメラ110は、撮像素子111、A/D変換器112、画像処理部113、表示部114、操作部115、記憶部116、カメラ制御部117およびカメラマウント122を有する。撮像レンズ200のレンズマウント202がカメラ110のカメラマウント122に装着されると、カメラ制御部117とレンズ制御部209とが電気的に接続され、通信を開始する。
【0047】
撮像素子111は、右眼および左眼光学系201R、201Lのそれぞれにより形成される光学像である右眼像(ICR)と左眼像(ICL)を光電変換(撮像)してアナログ電気信号を生成するCCDセンサやCMOSセンサ等の単一の光電変換素子である。A/D変換器112は、撮像素子111から出力されたアナログ電気信号をデジタル信号に変換する。画像処理部113は、A/D変換器112から出力されたデジタル信号に対して種々の画像処理を行って画像データを生成する。表示部114は、液晶パネル等の表示素子を有し、画像データに応じた画像や各種情報を表示する。
【0048】
操作部115は、ユーザが各種指示を入力するためのインタフェースとして機能する。表示部114がタッチセンサを備えている場合には、このタッチセンサも操作部115に含まれる。記憶部116は、RAM、ROMおよびSSD等で構成され、画像処理部113で生成された画像データや、コンピュータとしてのカメラ制御部117がその動作に使用するプログラムおよび各種データを記憶する。
【0049】
カメラ制御部117は、CPU等により構成され、カメラ110の動作を制御するとともに、レンズ制御部209との通信を通じて撮像レンズ200の動作を制御する。
【実施例2】
【0050】
次に本発明の実施例2について説明する。
図11は、実施例1と同じ撮像レンズ200とこれが着脱可能に装着されたカメラ110とにより構成されるステレオ撮像システム100を示している。本実施例の構成要素として実施例1の構成要素と同じものには、実施例1と同一の符号を付す。
【0051】
実施例1で説明したように、右眼および左眼光学系201R、201Lはレンズトップベース300に取り付けられる。より詳細には、左眼光学系201Lはレンズトップベース300に固定され、右眼光学系201Rはレンズトップベース300に対して光軸方向に移動可能に取り付けられる。レンズトップベース300は、レンズボトムベース301に固定され、レンズボトムベース301と共に外装カバー203により光軸方向に移動可能に支持される。このため、レンズトップ/ボトムベース300、301を光軸方向に移動させることで、右眼および左眼光学系201R、201Lを一体で同方向に移動させることができる。右眼および左眼光学系201R、201Lの全体を光軸方向に移動させることで、撮像素子111に対するフォーカス調整を行うことができる。
【0052】
右眼および左眼光学系201R、201Lの全体移動によるフォーカス調整を行う理由は、以下の通りである。各光学系を構成する一部のレンズを移動させてフォーカス調整を行う場合に、それら移動レンズの位置に誤差があると、右眼および左眼光学系201R、201Lの光学特性に差が生じる。その結果、立体視用の右眼画像と左眼画像とでフォーカス状態が異なることになり、立体視において違和感が生じるおそれがある。このため、右眼および左眼光学系201R、201Lを全体移動させることで、右眼および左眼光学系201R、201Lの光学特性に差が生じないようにすることができる。
【0053】
フォーカス操作部400は、その外周部が外装カバー部材203の外部に露出しており、右眼および左眼光学系201R、201L(レンズトップ/ボトムベース300、301)を光軸方向に移動させるためにユーザにより周方向に回転操作される。フォーカス操作部400の回転操作により右眼および左眼光学系201R、201Lを光軸方向に移動させる構成の詳細については後述する。
【0054】
また、実施例1で説明したように、撮像レンズ200のレンズマウント202がカメラ110のカメラマウント122に装着される。このとき、レンズマウント202のマウント面が撮像素子(撮像面)111に平行となっていれば、撮像素子111上での右眼および左眼光学系201R、201Lのフォーカス状態が互いに一致する。
【0055】
しかし、
図12に示すように、カメラ110の製造誤差によって、撮像素子111がレンズマウント202のマウント面に対して微小な傾きを有して平行にならない場合がある。 この状態では、撮像素子111上での右眼および左眼光学系201R、201Lのフォーカス状態が互いに一致しなくなる。なお、
図12では、撮像素子111の傾きを実際よりも誇張して示している。
【0056】
上記のような撮像素子111の傾きに対して、本実施例では、右眼光学系201Rをレンズトップ/ボトムベース300、302およびこれに固定された左眼光学系201Lに対して光軸方向への移動を可能としている。フォーカス調整部500は、外装カバー部材203の外側からアクセスすることができ、右眼光学系201Rの光軸方向での位置を調整するためにユーザにより操作される。フォーカス調整部500の操作により右眼光学系201Rの光軸方向での位置を調整する位置調整機構の詳細については後述する。
【0057】
フォーカス調整部500を操作することで、
図12に示したように撮像素子111が傾きを有していても、それに合わせて左眼光学系201Lに対する右眼光学系201Rの光軸方向での位置を調整することができる。これにより、撮像素子111上での右眼および左眼光学系201R、201Lのフォーカス状態を互いに一致させることができる。そしてこの状態から第1フォーカス操作部400を回転操作して右眼および左眼光学系201R、201Lのフォーカス調整を行うことで、右眼および左眼光学系201R、201Lの合焦状態を得ることができる。
【0058】
図13は、フォーカス操作部400の回転操作により右眼および左眼光学系201R、201Lを移動させる構成を分解して示している。なお、図には、フォーカス調整部500も示している。
【0059】
レンズボトムベース301は、その周方向3箇所にカムフォロア部301aを有する。カムフォロア部301aは、カム部材302の周方向3箇所に設けられたカム部302aに光軸方向において当接する。レンズボトムベース301は、カムフォロア部301aがカム部302bに常に当接するように、不図示のばねによって付勢されている。
図14に示すように、カム部302aは、その光軸方向(図の上下方向)での厚みが周方向にてリニアに変化する形状を有する。カム部材302は、外装カバー部材303により周方向に回転可能に保持されている。
【0060】
フォーカス操作部400としてのフォーカスリングは、外装カバー部材203を構成する前カバー部材203aと後カバー部材203bとの間に光軸方向にて挟まれて周方向に回転可能に保持されている。フォーカスリング400の内周部における周方向3箇所の部分は、周方向においてカム部302aの側面に係合している。このため、フォーカスリング400がユーザにより周方向に回転操作されると、カム部材302も一体で回転する。
【0061】
カム部材302が回転すると、カム部302aのうちカムフォロア部301aに当接する位置での光軸方向での厚みが変化する。これにより、レンズボトムベース301が光軸方向に移動する。すなわち、右眼および左眼光学系201R、201Lが一体で光軸方向に移動する。
【0062】
次に、
図13、
図15および
図16を用いて、右眼および左眼光学系201R、201Lをレンズトップベース300に取り付ける構成について説明する。
図15および
図16はそれぞれ、前側および側方から見た右眼および左眼光学系201R、201Lとベースプリズムボトム311とレンズトップベース300を示している。
【0063】
右眼および左眼光学系201R、201Lは、レンズトップベース300を左右方向にて挟むように配置される。レンズトップベース300の右側面および左側面にはそれぞれ、
図13に示すようにレンズ保持部材212R、212Lに設けられたベース結合部311R、311Lが結合される。なお、本実施例では、後述するようにレンズトップベース300に対するベース結合部311R、311Lの光軸方向へのスライドが許容される。
【0064】
レンズトップベース300は、右眼および左眼光学系201R、201Lの第1光軸OA1R、OA1Lの間に配置されている。第2光軸OA2R、OA2Lと第3光軸OA3R、OA3Lは、レンズトップベース300において後方に向かって開いた凹部を通る。これは、第3光軸OA3R、OA3Lの間にレンズトップベース300を配置すると、第3光軸OA3R、OA3L間の間隔が広くなり、第3レンズ群231R、231Lをレンズマウント202の内側に収めることができなくなるためである。
【0065】
図15および
図16に示すように、レンズトップベース300とレンズ保持部材212R、212Lのベース結合部311R、311Lとが結合する結合面312R、312Lは、第1光軸OA1R、OA1Lを結ぶ線OACに直交する面として形成されている。なお、結合面312R、312Lは、第2光軸OA2R、OA2Lにも直交する面である。また、結合面312R、301Lはそれぞれ、第1光軸OA1R、OA1Lおよび第3光軸OA3R、OA3Lと平行な面として、第1光軸OA1Rと第3光軸OA3Rとの間および第1光軸OA1Lと第3光軸OA3Lとの間に配置されている。このように配置により、スペース効率を高めることができ、結合面312R、312Lの間に回路基板310を配置できるようにしている。
【0066】
次に、
図17、
図18および
図19を用いて、右眼光学系201Rをレンズトップベース300に対して移動させる位置調整機構について説明する。
図17は分解した位置調整機構を、
図18は側面から見た位置調整機構をそれぞれ示している。
図19は位置調整機構の一部を拡大して示している。
【0067】
右眼光学系201Rを保持するレンズ保持部材212Rのベース結合部311Rは、3つのネジ501a~501cと、これらの外周に配置された3つの圧縮バネ502a~502cによって、レンズトップベース300の右側面に対して常に付勢された状態で結合される。レンズトップベース300には、偏心回転部材503が段付きネジ504によって回転可能に取り付けられる。偏心回転部材503は、ベース結合部311Rに設けられた穴部251内に配置される。偏心回転部材503は、フォーカス調整部500が回転操作されることで穴部251内で回転する。
【0068】
図19に示すように、偏心回転部材503は、回転中心OZ1に対して外形中心OZ2が偏心している。穴部251の内側には、光軸方向両側にDカット部251a、251bが設けられている。また、ベース結合部311Rとレンズトップベース300は、これらの間に掛けられた第1引張りバネ507によって光軸方向における互いに近づく方向に付勢されている。このため、偏心回転部材503の外周面が穴部251のDカット部251a、251bに当接する。
【0069】
このような構成において、偏心回転部材503が回転中心OZ1回りで回転すると、回転中心OZ1に対する外形中心OZ2の偏心量の分だけベース結合部311R(つまりは右眼光学系201R)がレンズトップベース300に対して光軸方向にスライドする。これにより、右眼光学系201Rのレンズトップベース300に対する光軸方向での位置調整が可能となる。
【0070】
また、レンズトップベース300には、2つの転がり軸受け505a、505bが光軸方向に並ぶように段付きネジ506a、506bによって回転可能に取り付けられる。転がり軸受け505a、505bはそれぞれベース結合部311Rに設けられたガイド穴部252、253内に配置され、ガイド穴部252、253内の直進ガイド面252a、252b、253a、253bに当接している。これにより、右眼光学系201Rを光軸方向にガイドする直進ガイド部が構成される。
【0071】
さらに、
図18に示すように、ベース結合部311Rとレンズトップベース300との間には第2引張りバネ508が掛けられている。第2引張りバネ508は、ベース結合部311Rとレンズトップベース300を光軸方向における互いに近づく方向に付勢するとともに、偏心回転部材503と穴部251aとの当接部を中心とする回転モーメントをベース結合部311Rに発生させる。この構成により、右眼光学系201Rは、上下方向にガタつくことなく2つの転がり軸受け505a、505bによりガイドされながら光軸方向に移動することができる。
【0072】
次に、
図20を用いて、レンズトップベース300と右眼光学系201Rとの間に発生する荷重バランスについて説明する。ここでは、右眼光学系201の質量をm、重力加速度をg、レンズトップベース300と右眼光学系201Rとの間の静止摩擦係数をμ、3つの圧縮ばね502a~502cのバネ定数をk1、伸び量をx1とする。また、第1引張りバネ507のバネ定数をk2、伸び量をx2、第2引張りバネ508のバネ定数をk3、伸び量をx3とする。この場合に、右眼光学系201Rが重力方向(下方向)を向いているときに、以下の式(1)、(2)で示す荷重バランスの条件を満足する必要がある。
【0073】
μN+Mg<k2・x2+k3・x3 (1)
N=3(k1・x1) (2)
この条件を満足することで、撮像レンズ200がどの向きを向いても(どのような姿勢であっても)、常に偏心回転部材503と右眼光学系201Rとがガタなく当接し、偏心回転部材503の回転に対して右眼光学系201Rが追従せずに光軸方向に移動しないことを回避できる。
【0074】
以上説明した右眼光学系201Rの位置調整機構により、フォーカス調整部500が右眼光学系201Rの光軸から離れた位置に配置されていても、右眼光学系201Rをガタつきなくレンズトップベース300に対して光軸方向に移動させることが可能となる。
【0075】
上記と同様の位置調整機構を、左眼光学系201Lに対しても設けてもよい。撮像レンズ200の組立て時に偏心回転部材を回転させることで、左眼光学系201Lのレンズトップベース300に対する光軸方向での位置を調整することができる。また、レンズ保持部材203R、203L(ベース結合部311R、311L)が他の部品を介さずに直接、レンズベーストップ300に結合されることで、フォーカス調整時に右眼および左眼光学系201R、201Lの相対的な傾きや偏心の発生を抑制することができる。
【0076】
なお、本実施例では、偏心回転部材を用いる構成の位置調整機構について説明したが、他の構成の位置調整機構を用いてもよい。また、位置調整機構の直進ガイド部に転がり軸受けを用いる場合について説明したが、光軸方向に延びるガイドバー等を用いてもよい。
【0077】
次に、
図21および
図22を用いて、フォーカス調整部500の構成について説明する。
図21は、分解したフォーカス調整部500を示している。
図22は、フォーカス調整部500と前述した位置調整機構の偏心回転部材503との連結を示している。
【0078】
フォーカス調整部500において、調整ベース521は、中央に貫通穴が形成された小径部と大径部を有する。調整ベース521は、小径部が外装カバー部材203における外面から奥まった部分に設けられた穴部に挿入され、小径部と大径部の間の段差部が穴部の周囲に当接した状態で、外装カバー部材203に2本のねじ525で取り付けられる。調整ベース521の小径部とこれが挿入された外装カバー部材203の穴部との間には、Oリング529が配置される。
【0079】
調整ピン526は、調整ベース521の貫通穴に回転可能に挿入される。調整ベース521に挿入された調整ピン526の中間部の外周にはバネ522が配置される。バネ522は、調整ピン526に取り付けられた止め輪523と調整ベース521の小径部の端面との間で圧縮される。これにより、調整ピン526は、調整ベース521への挿入方向に付勢される。
【0080】
調整ピン526の先端に設けられた第1案内部526aには、連結部材524が係合する。第1案内部526aは、調整ピン526の軸方向に平行な2面を調整ピン526の軸を挟む両側に有しており、連結部材524に設けられた溝部内に同じく軸方向に平行な2面として形成された第2案内部524aに当接する。これにより、連結部材524は、調整ピン526の軸方向に直交する方向に移動可能に保持される。
【0081】
また、
図22に示すように、連結部材524の先端部には、キー形状の突起として形成された第3案内部524bが設けられている。第3案内部524bは、偏心回転部材503に設けられた第4案内部503aに当接する。このため、調整ピン526をユーザが工具を用いて回転させるよう操作することで、偏心回転部材503を回転させ、右眼光学系201Rの光軸方向での位置を調整することができる。
【0082】
なお、本実施例では、第2案内部524aを溝部内に形成し、第3案内部524bを突起として形成したが、第2案内部524aを突起として形成し、第3案内部524bを溝部内に形成してもよい。
【0083】
また、連結部材524において、第2案内部524aと第3案内部524bは、調整ピン526の軸方向に直交する方向のうち互いに直交する方向に形成されている。このように第2案内部524aと第3案内部524bを形成することで、連結部材524が調整ピン526に対して移動できる方向と偏心回転部材503に対して移動できる方向とが互いに直交する。これにより、例えば外装カバー部材203と右眼光学系201Rとの位置関係が、フォーカス調整部500を操作することで変化した場合でも、調整ピン526を回転させることで右眼光学系201Rを光軸方向に移動させることができる。
【0084】
偏心回転部材503は、バネ527とストッパーピン528によりレンズトップベース300に押圧され、レンズトップベース300との間の摩擦によって回転位置が保持される。これにより、右眼光学系201Rの光軸方向での位置が衝撃等の外力によって容易に変化することを防止している。
【0085】
図23は、連結部材524と偏心回転部材503を示している。上述したように連結部材524は、その溝部内に、調整ピン526に設けられた第1案内部526aに当接する第2案内部524aを有する。連結部材524は、第1案内部526aと第2案内部524aとの当接により調整ピン526に対してその軸方向に直交する図中のX方向に移動可能である。また、連結部材524の第3案内部524bは、X方向に直交するY方向に延びる突起として形成されている。第3案内部524bは、偏心回転部材524にY方向に延びるように設けられた第4案内部503aに当接する。これにより、連結部材524は、偏心回転部材524に対してはY方向に移動可能で、調整ピン526に対してはその軸方向に直交し、かつY方向に直交するX方向に移動可能である。
【0086】
図24は、フォーカス操作部400とフォーカス調整部500が回転操作されたときの偏心回転部材503と連結部材524の位置関係を示している。偏心回転部材503を太線円で、連結部材524を細線円で示す。また、連結部材524に設けられた第2案内部524aを細実線で、第3案内部524bを細破線で示している。さらに、偏心回転部材503の回転中心(
図19中のOZ1)を点A、連結部材524と係合した調整ピン526の回転中心を点Bとする。調整ピン526は外装カバー部材203により定位置に保持されているので、点Bの位置は不動である。中立位置においては、点Bの位置は点Aの位置に一致している。AXは光軸方向を示す。XとYは、
図23と同じ方向を示している。
【0087】
中立位置からフォーカス操作部400が回転操作されると、レンズトップベース300がAX方向に移動し、レンズトップベース300に取り付けられた偏心回転部材503も同方向に移動する。この際、偏心回転部材503と連結部材524は第3案内部524bと第4案内部503aの当接によってX方向での相対移動が制限され、かつ連結部材524(第2案内部524a)は調整ピン526(第1案内部526a)に対してX方向での相対移動が許容されている。このため、偏心回転部材503が光軸方向AXに移動すると、状態(1)や状態(2)に示すように連結部材524もそれに伴ってAX方向(=X方向)に移動する。
【0088】
さらに、例えば状態(1)から調整ピン526が回転操作されて連結部材524と偏心回転部材503が回転した状態(3)では、X方向がAX方向に対して傾く。この状態でフォーカス操作部400が回転操作されると、偏心回転部材503は、連結部材524とともに調整ピン526に対してX方向に移動しながら連結部材524に対してY方向に移動することでAX方向に移動する。このため、フォーカス操作部400が回転操作された後でも、調整ピン526から連結部材524を介した偏心回転部材503への回転の伝達が可能である。
【0089】
このように調整ピン526と偏心回転部材503との間にそれらに対してX方向とY方向に移動可能な連結部材524を設けることにより、フォーカス操作部400とフォーカス調整部500の互いに独立した操作が可能となる。
【実施例3】
【0090】
図25および
図26は、本発明の実施例3である撮像レンズ200のうち右眼および左眼光学系(第1レンズ群21R、211L~第3レンズ群231R、231L)がレンズ保持部材212R、212Lにより保持された光学ユニットを示している。
図25は後側(像側)から見た光学ユニットの下面図を、
図26は上側から見た光学ユニットを示している。
図27、
図28および
図29は、第3レンズ群231R、231Lの保持機構を示している。
図27は後側から見た保持機構を、
図28は分解した保持機構を示している。なお、第3レンズ群231R、231Lの保持機構は、第3光軸OA3R、OA3L回りでの配置の位相が異なるだけ(レンズマウントの中心軸に関して回転対称である)ので、
図28には一方の保持機構を示している。
図29は、後側から見た保持機構の後述する偏心コロの中心軸を通る断面を示している。
【0091】
第3レンズ群231R、231Lは、実施例1で説明したように前レンズ231aと後レンズ231bにより構成されている。第3レンズ群231R、231Lのそれぞれにおいて、前レンズ231aは、その外周部全体が3群ベース233に熱加締めされることで3群ベース233により保持される。3群ベース233は、その基本形状である円筒の周方向一部がDカットされた形状の壁部233dを有する。第3レンズ群231R、231Lはそれぞれ、レンズ保持部材212R、212Lにビス締めにより固定される。
【0092】
後レンズ231bは、その外周部における周方向4箇所が3群ホルダ234の周方向4箇所に設けられた加締め部234aに熱加締めされることで3群ホルダ234により保持される。左右の3群ベース233は、壁部233dのDカットされた部分が隣り合うように配置される。左右の3群ホルダ234の外周部の一部は、3群ベース233の壁部233dのDカットされた(壁部233dがない)領域において互いに隣り合う。このように形成および配置された左右の保持機構は、それらが隣り合う部分が他の部分(壁部233dが設けられた部分)よりも径方向(各第3レンズ群の光軸に直交する方向)での厚みが小さい。
【0093】
3群ホルダ234のうち加締め部234aが設けられていない部分には後述するコロ座が配置される。一般にはレンズはこれを保持する部材に3箇所で加締められる。
【0094】
ただし本実施例では、
図27に示すように3群ホルダ234が左右で隣り合っている。この場合、レンズマウントの中心軸となるV面とH面の交線上に左右の3群ホルダ234の加締め部を設けて熱加締めを行うと、それぞれの加締め部から溶け出た樹脂が凸部を形成し、凸量は加工のばらつきによって一定ではないためこれらが互いに干渉するおそれがある。このため、左右の3群ホルダ234のうち互いに隣り合う部分に、
図28にも示すように後方に突出する柱部234bを設けてこの部分では熱加締めをしないようにすることで、干渉し合う凸部が形成されないようにしている。
【0095】
また、
図27に示すように、後方から見たときの領域全体をV面とH面で右眼上領域20RU、左眼上領域20LU、右眼下領域20RDおよび左眼下領域20LDに分ける。このとき、右側の3群ホルダ234の柱部234bは右眼下領域20RD寄りの位相(光軸回りでの位置)に設けられ、左側の3群ホルダ234の柱部234bは左眼上領域20LU寄りの位相に設けられている。このように位相がずれた柱部234bの配置により、左右の3群ホルダ234のそれぞれにおいて凸部が形成されないように熱加締めを行わない部分を、左右の3群ホルダ234の柱部234bを左右対称の位相に配置する場合よりも小さくすることができる。これにより、3群ホルダ234による後レンズ231bの保持強度(加締め強度)の低下を抑えることができる。
【0096】
3群ベース233の壁部233dには、1つの第1穴部233aと、2つの第2穴部233bと、2つの第3穴部233cが形成されている。第1穴部233aと第2穴部233bには第1偏心コロ236が挿入され、第3穴部233cには第2偏心コロ237が挿入される。これら5つの偏心コロ236、237は、3群ホルダ234の外周部における周方向5箇所に設けられたコロ座234dに回転可能に取り付けられる。第1および第2偏心コロ236、237と第1から第3穴部233a~233cを有する3群ベース233により、各第3レンズ群の光学調整を可能とする光学調整機構が構成される。
【0097】
第1穴部233aは、第1偏心コロ236に2段に設けられた偏心部と同心部にそれぞれ嵌合する2段の嵌合部を外周面側と内周面側に有する。外周面側の嵌合部は第1偏心コロ236の偏心部と光軸方向(第3光軸OA3R、OA3Lが延びる方向)において嵌合し、周方向においては嵌合しない。また、内周側の嵌合部は第1偏心コロ236の同心部に全周において嵌合する。
【0098】
第2穴部233bは、第1偏心コロ236の偏心部に嵌合する嵌合部を有する。この嵌合部は、第1偏心コロ236の偏心部と光軸方向において嵌合し、周方向においては嵌合しない。
【0099】
第3穴部233cは、第2偏心コロ237の偏心部に嵌合する嵌合部を有する。この嵌合部は、第2偏心コロ237の偏心部と周方向において嵌合し、光軸方向においては嵌合しない。
【0100】
3つの第1偏心コロ236をその中心軸回りで回転させることにより、後レンズ231bの前レンズ231aに対する光軸方向の間隔を調整することができる。また、第2偏心コロ237をその中心軸回りで回転させることにより、後レンズ231bの前レンズ231aに対する偏心を調整することができる。
【0101】
また、上述した各偏心コロの各穴部に対する嵌合ガタにより生じる後レンズ231bの光軸方向や周方向での変位を防止する(すなわち後レンズ231をガタなく保持する)ための付勢力を発生する3つの第3引張ばね238が設けられている。第3引張ばね238は、
図27に示す3群ホルダ234に設けられたフック234cと3群ベース233に設けられたフック233eと間に光軸方向に対して斜めになるように掛けられている。これにより、第3引張ばね238は、3群ホルダ234を3群ベース233に対して周方向と光軸方向における互いに近づく方向に付勢する。
【0102】
また、右の保持機構の3つの第3引張ばね238のうち左の保持機構に隣り合う部分に設けられた1つとこれが掛けられた3群ベース233のフック233e(つまりは一方の保持機構の一部)は、V面を超えて左の保持機構側に配置されている。また、左の保持機構の3つの第3引張ばね238のうちのうち右の保持機構に隣り合う部分に設けられた1つとこれが掛けられた3群ベース233のフック233e(つまりは他方の保持機構の一部)は、V面を超えて右の保持機構側に配置されている。
【0103】
より具体的には、
図27に示すように、右の保持機構において右眼上領域20RUに大部分が配置された第3引張ばね238の一部とこれが掛けられたフック233eが左眼上領域20LUに突出している。また、左の保持機構において左眼下領域20LDに大部分が配置された第3引張ばね238の一部とこれが掛けられたフック233eが右眼下領域20RDに突出している。
【0104】
このとき、左の保持機構の3群ベース233のうち右の保持機構に隣り合う部分には、右の保持機構の第3引張ばね238とフック233eが配置されるスペースを作る凹部233fが設けられている。同様に、右の保持機構の3群ベース233のうち左の保持機構に隣り合う部分には、左の保持機構の第3引張ばね238とフック233eが配置されるスペースを作る凹部233fが設けられている。このように凹部233f内に第3引張ばね238とフック233eに配置することで、右の保持機構の第3引張ばね238とフック33eが左の保持機構に干渉したり、左の保持機構の第3引張ばね238とフック33eが右の保持機構に干渉したりすることを回避できる。
【0105】
第3引張バネ238がフック233e、234cに掛けられた後、外観の向上やゴミの侵入を防止するために、
図28に示すように、3群ベース233に3群キャップ235をビス締めにより固定する。
【0106】
第3レンズ群231R、231Lがレンズ保持部材212R、212Lに固定され、さらにレンズ保持部材212R、212Lがレンズトップベース300に固定されることで左右の保持機構は一体化される。この状態で、
図25、
図26および
図29に示すように左右の保持機構のうち両者が隣り合う部分の端であるV面側の側面には偏心コロは設けられておらず、V面側の側面以外の部分に5つの偏心コロ236、237が配置されている。このため、左右の保持機構が一体となった状態で偏心コロ236、237の全てに対して各保持機構の径方向外側からアクセスすることができ、これらを回転させて各第3レンズ群の光学調整を行うことができる。
【0107】
本実施例によれば、左右の第3レンズ群231R、231Lを近接させることができ、これらをレンズマウント内に収めることができる。さらに、第3レンズ群231R、231Lのそれぞれの光学調整が可能な保持機構を同じ部品を用いてレンズマウントの中心軸回りで回転対称に配置することで実現しているので、撮像レンズの製造コストを抑えることが可能となる。
【0108】
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0109】
200 ステレオ撮像レンズ
201R 右眼光学系
201L 左眼光学系
211R、211L 第1レンズ群
221R、221L 第2レンズ群
231R、231L 第3レンズ群
233 3群ベース
233e フック
233f フック
234 3群ホルダ
236、237 偏心コロ
238 第3引張りバネ