(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】リング状プレート
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20240603BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20240603BHJP
H01L 21/31 20060101ALN20240603BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
H01L21/68 N
H01L21/31 C
(21)【出願番号】P 2021214239
(22)【出願日】2021-12-28
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】穂積 葉子
(72)【発明者】
【氏名】天野 正実
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-034390(JP,A)
【文献】特表2020-518128(JP,A)
【文献】特表2008-535203(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0198753(US,A1)
【文献】特開2021-153138(JP,A)
【文献】特開2001-319964(JP,A)
【文献】国際公開第2020/236235(WO,A1)
【文献】特開2010-171083(JP,A)
【文献】特表2020-521330(JP,A)
【文献】特開2003-249458(JP,A)
【文献】特表2002-503765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01L 21/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さT1で形成されたリング状の胴体部と、当該リング状の胴体部の内周面から突設しかつ当該胴体部の下面から高さT2(T2<T1)の位置に半導体治具を載置可能な載置面が形成された鍔部と、を備え、さらに、ボルトのネジ部を挿通可能とするために前記胴体部を貫通する複数の貫通孔が形成された、セラミックス製のリング状プレートにおいて、
前記胴体部の下面における前記貫通孔の両側に、径方向に沿って形成された溝部を設け、
さらに、前記胴体部の下面における外周面側には、隣接する貫通孔間に形成された溝部と連設しかつ外周に沿って形成された、円弧状の切欠部を設ける、
ことを特徴とするリング状プレート。
【請求項2】
さらに、前記リング状に形成された胴体部の中心から前記外周面までの長さをR1とし、当該胴体部の中心から前記内周面までの長さをR2とし、当該胴体部の中心から前記鍔部の先端までの長さをR3とした場合において、
前記T1、T2、R1、R2およびR3は、「0.1×T1≦T2≦0.5×T1」、「0.8×R1≦R2≦0.95×R1」および「0.9×R2≦R3≦0.96×R2」の関係を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載のリング状プレート。
【請求項3】
さらに、前記溝部および前記切欠部の深さをHとし、前記溝部の幅をW1とし、前記切欠部の幅をW2とした場合において、
前記H、W1およびW2は、「0.34≦H/T1≦0.58」、「0.19≦W1/D≦0.57」および「0.17≦W2/(R1-R2)≦0.50」の関係が成立する、
ことを特徴とする請求項2に記載のリング状プレート。
【請求項4】
前記貫通孔は、ボルトのネジ溝を切っていない穴とし、さらに、ボルトの頭部を挿通可能に前記胴体部の下面側に形成された第1の挿通部と、ボルトのネジ部を挿通可能かつボルトの頭部を係止可能に前記胴体部の上面側に形成された第2の挿通部と、を有する構成とし、
ボルトと半導体製造装置側との螺合によるボルト頭部からの押圧によって、半導体製造装置に固定される、
ことを特徴とする請求項1、2または3に記載のリング状プレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置にネジ止め固定されるセラミックス製のリング状プレートに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置には、従来から各種のセラミックス製リング状プレートが使用されており、その一例として、半導体ウェーハを支持するための治具がある。この治具が使用される理由は、最もウェーハに荷重がかからない支持方法であり、スリップ、傷等の問題を回避することができるからである。
【0003】
一方で、セラミックス製のリング状プレートは、ウェーハを支持するだけでなく、たとえば、ドライエッチングに使用される半導体治具を支持する場合もある。たとえば、半導体製造装置の1つであるエッチング装置は、薬液や反応ガス、イオンの化学反応を用いてウェーハ表面をエッチングする装置であるが、この装置を用いてドライエッチングを行う場合には、プラズマで原料ガスを励起することから反応を促進できるものの、電子自身が持つ温度が高いことからイオン衝撃ダメージが大きく、シリコンウェーハに損傷を与えてしまう、という問題があった。また、原料ガスがチャンバー内で乱流となっているため、反応生成物がチャンバー内表面に大量に堆積する、という問題もあった。このような問題を解決するために、上記半導体治具として、プラズマ励起空間とウェーハ処理空間とを仕切ることができ、さらにガスの流れを均一かつ層流状にすることができる、シャワープレートが使用されている。
【0004】
そして、このシャワープレートは、耐プラズマ性の高いセラミックス材料で製造され、たとえば、直接エッチング装置に固定されているか、または、メンテナンス等を考慮してセラミックス製のリング状プレートに載置され支持されていることが多い。
【0005】
そのため、シャワープレートやリング状プレートの素材には、耐プラズマ性を表すエッチングレート(非特許文献1参照)が比較的低いとされるイットリア(Y2O3)やアルミナ(Al2O3)等が一般的に使用されている。
【0006】
一方、特許文献1には、高温ガスタービンに使用されるセラミック製シュラウドリングが開示されている。このセラミック製シュラウドリングは、内周側が高温ガスに晒され、外周側は冷却エアにより冷やされているため、内外で300℃以上の温度差がある。そのため、熱膨張の差による歪が発生する。そして、特許文献1には、この歪は断面積が小さくなっているキー溝に集中し熱応力が発生するため、この部分からクラックが入りやすいことが記載されている。
【0007】
また、特許文献1には、キー溝の応力値を低減させることを目的として、キー溝が負担している熱膨張差による歪みを新たに設けた切欠溝に分散させること、が記載されている。具体的には、シュラウドリングの外周には等間隔に少くとも3個のキー溝が設けられているが、さらに、隣り合ったキー溝の間に、等間隔に複数個の滑らかな凹曲面の切欠溝を設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】表面技術 小特集:機能性圧膜の成膜技術と最新動向 「ドライエッチング装置用セラミックスコーティング」 日野高志 2018年 69巻 11号 p.490-493
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来のエッチング装置においてプラズマで励起された原料ガスは、電子が非常に高温のエネルギーを持つため、このガスに触れるシャワープレートも高温になる。しかしながら、チャンバー内壁は金属が高温にならないように水冷されているため、シャワープレートは、上面側と下面側と間に温度差が生じる。そのため、脆性材料であるセラミックス製のシャワープレートは、このような温度差で破損する可能性が高い、という問題があった。
【0011】
また、上記破損の問題に対する対策として、シャワープレートの素材に石英を採用した場合には、イットリアやアルミナと比較して、熱膨張率が約1/10であり、ヤング率が約1/2であることから破損する可能性は低いが、一方で、セラミックス材料の耐プラズマ性を比較すると、石英のエッチングレートは1.181μm/Hであり他の材料よりエッチングレートが高いため(非特許文献1参照)、プラズマ曝露によりシャワープレートが一緒にエッチングされる、という問題があった。
【0012】
一方で、上記破損の問題に対する対策として、シャワープレートを耐プラズマ性の高いセラミックスで作製しつつ、シャワープレートに応力がかからないようにするためにリング状プレートに載置する方法をとることも可能である。しかしながら、このような使用形態のリング状プレートは、シャワープレートのずれや落下を防止するために、エッチング装置の内壁にネジ留め固定する必要がある。そのため、リング状プレートには、シャワープレートの熱膨張によって力が加わった場合にネジ止め位置付近に応力が集中し、これにより、リング状プレートが破損する場合があった。たとえば、リング状プレートの内側にシャワープレートを載置可能な鍔部が設けられている場合には、プラズマ励起により高温ガスが触れたシャワープレートは熱膨張し、鍔部に対して斜め上からの力が加わることになる。そして、これがモーメントとなり、リング状プレートは、鍔部の先端が外側に向かって回転するように変形し、ネジ止め位置付近の最も肉薄な場所に引張応力が発生して破損する。
【0013】
また、上記にように、内側に鍔部を設けたリング状プレートを半導体製造装置にネジ止め固定するような使用形態においては、応力発生を抑制するような形状として、たとえば、特許文献1のように、リング形状を維持した状態で、外周面に複数個の切欠溝を設けることにより、貫通孔付近にかかる応力を低減させる方法も考えられるが、一方で、この方法が、鍔部に対して斜め上から加わる力で発生する引張応力に効果的であるとは言えない。鍔部に対して斜め上から加わる力に対しては、これに対応する新たな技術思想に基づく構造設計が必要である。
【0014】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであって、リング状プレートの内側に半導体治具を載置可能な鍔部が設けられ、半導体治具を鍔部に載置した状態でリング状プレートを半導体製造装置にネジ止め固定する場合において、半導体治具の熱膨張によって発生する応力を抑制可能なリング状プレートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明にかかるリング状プレートは、厚さT1で形成されたリング状の胴体部と、当該リング状の胴体部の内周面から突設しかつ当該胴体部の下面から高さT2(T2<T1)の位置に半導体治具を載置可能な載置面が形成された鍔部と、を備え、さらに、ボルトのネジ部を挿通可能とするために前記胴体部を貫通する複数の貫通孔が形成された、セラミックス製のリング状プレートである。そして、前記胴体部の下面における前記貫通孔の両側に、径方向に沿って形成された溝部を設け、さらに、前記胴体部の下面における外周面側には、隣接する貫通孔間に形成された溝部と連設しかつ外周に沿って形成された、円弧状の切欠部を設けることを特徴とする。
【0016】
本発明にかかるリング状プレートによれば、半導体治具の熱膨張によって鍔部に対して力がかかった場合であっても、溝部および切欠部を設けることにより、肉薄な貫通孔周辺に発生する応力を効果的に分散させ抑制することができるため、リング状プレートの破損を大幅に減らすことができる。
【0017】
また、本発明にかかるリング状プレートにおいては、さらに、リング状に形成された胴体部の中心から外周面までの長さをR1とし、胴体部の中心から内周面までの長さをR2とし、胴体部の中心から鍔部の先端までの長さをR3とし、前記T1、T2、R1、R2およびR3は、「0.1×T1≦T2≦0.5×T1」、「0.8×R1≦R2≦0.95×R1」および「0.9×R2≦R3≦0.96×R2」の関係を有することが望ましい。
【0018】
また、本発明にかかるリング状プレートにおいては、さらに、前記溝部および前記切欠部の深さをHとし、前記溝部の幅をW1とし、前記切欠部の幅をW2とし、前記H、W1およびW2は、「0.34≦H/T1≦0.58」、「0.19≦W1/D≦0.57」および「0.17≦W2/(R1-R2)≦0.50」の関係が成立することが望ましい。
【0019】
また、本発明にかかるリング状プレートにおいて、貫通孔は、ボルトのネジ溝を切っていない穴とし、さらに、ボルトの頭部を挿通可能に胴体部の下面側に形成された第1の挿通部と、ボルトのネジ部を挿通可能かつボルトの頭部を係止可能に胴体部の上面側に形成された第2の挿通部と、を有する構成とし、ボルトと半導体製造装置側との螺合によるボルト頭部からの押圧によって、半導体製造装置に固定されることとした。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、リング状プレートの内側に半導体治具を載置可能な鍔部が設けられ、半導体治具を鍔部に載置した状態でリング状プレートを半導体製造装置にネジ止め固定する場合において、半導体治具の熱膨張によって発生する応力を抑制することができるため、リング状プレートの破損を大幅に減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明にかかるリング状プレートの構造の一例を示す図であり、(a)は上面図を示し、
図1(b)は図を示す。
【
図2】
図2は、本発明にかかるリング状プレートの一部を模式的に示す図であり、
図2(a)は
図1(b)の点線で囲われた部分の拡大図を示し、
図2(b)は
図1(a)のA-A’断面図を示し、
図2(c)は
図1(b)のB-B’断面図を示す。
【
図3】
図3は、本発明にかかるリング状プレートの一部を模式的に示す斜視図である。
【
図4】
図4は、本実施例のモーメントを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明にかかるリング状プレートの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0023】
<リング状プレート>
図1は、本発明にかかるリング状プレートの構造の一例を示す図であり、
図1(a)は上面図を示し、
図1(b)は下面図を示す。また、
図2は、本発明にかかるリング状プレートの一部を模式的に示す図であり、
図2(a)は
図1(b)の点線で囲われた部分の拡大図を示し、
図2(b)は
図1(a)のA-A’断面図を示し、
図2(c)は
図1(b)のB-B’断面図を示す。また、
図3は、本発明にかかるリング状プレートの一部を模式的に示す斜視図である。
【0024】
本実施形態のリング状プレート1は、セラミックス製(イットリア(Y
2O
3)やアルミナ(Al
2O
3)等)であり、たとえば、リング状に形成された胴体部11と、所定の半導体治具(半導体ウェーハ、シャワープレート等を含む)を載置可能な複数の載置面12aが形成された鍔部12と、を備える。そして、
図1および
図2に示すとおり、胴体部11は、上面、下面、外周面および内周面から構成され、鍔部12は、リング状の胴体部の内周面から径方向中心に向かって突設する構成とした。ここで、
図1(a)に示すR1はリング状プレート1の中心(リング状に形成された胴体部11の中心に相当)から外周面までの長さであり、R2はリング状プレート1の中心から内周面までの長さであり、R3はリング状プレート1の中心から鍔部12の先端までの長さである。すなわち、本実施形態のリング状プレート1において、胴体部11の幅はR1-R2であり、鍔部12の幅はR2-R3である。
【0025】
また、本実施形態のリング状プレート1において、胴体部11は、厚さT1で形成され、さらに、鍔部12に形成された載置面12aは、胴体部の下面から高さT2(T2<T1)の位置に、すなわち、胴体部11の上面とは段差を有する平面となるように、形成されている(
図2(b)参照)。
【0026】
上記のように構成された本実施形態のリング状プレート1は、一例として、「0.1×T1≦T2≦0.5×T1」、「0.8×R1≦R2≦0.95×R1」および「0.9×R2≦R3≦0.96×R2」を満たすように形成されている。
【0027】
また、本実施形態のリング状プレート1において、胴体部11には、上面と下面とを貫通する複数の貫通孔13が形成されている(
図1および
図2(b)参照)。本実施形態においては、一例として、等間隔に8個の貫通孔13を設けた(
図1参照)。さらに、胴体部11の下面には、貫通孔13の両側に深さHおよび幅W1で径方向に沿って形成された溝部14を有し、さらに、胴体部11の下面の外周面側には、隣接する貫通孔13間に形成された溝部14と連設しかつ深さH(溝部14と同一の深さ)および幅W2で外周に沿って形成された、円弧状の切欠部15を有する構成とした(
図1(b)および
図2(a)(c)参照)。なお、溝部14を形成することによって、鍔部12は、溝部14を回避する形状となるため、断続的に形成される。また、貫通孔13とその両側に形成される溝部14との位置関係は、近いほど効果を発揮するが、近すぎるとボルト穴の強度を担保できないため、貫通孔13の下面側内周面から4.5mm以上離れていることが好ましい。
【0028】
また、貫通孔13は、たとえば、六角穴付ボルト用のネジ溝を切っていない穴とし、ボルトの頭部を挿通可能に下面側に形成された穴径Dの第1の挿通部13aと、ボルトのネジ部を挿通可能かつ頭部を係止可能に上面側に形成された穴径dの第2の挿通部13bとを有する(
図2(b)参照)。すなわち、第2の挿通部13bの穴径dは、「ボルトのネジ部径<d<ボルトの頭部径」である。六角穴付ボルトは、半導体製造装置側のネジ穴(図示せず)とのみ螺合し、この螺合により、リング状プレート1はボルト頭部に押圧され、半導体製造装置に固定される。なお、本実施形態においては、一例として、六角穴付ボルトを使用することとしたが、これに限るものではなく、リング状プレート1を半導体製造装置にネジ止め固定可能なボルトであれば、どのような形状およびサイズのボルトを使用してもよい。
【0029】
上記のように構成された本実施形態のリング状プレート1は、たとえば、「0.1×T1≦T2≦0.5×T1」、「0.8×R1≦R2≦0.95×R1」および「0.9×R2≦R3≦0.96×R2」を満たすリング状プレートであって、さらに、「0.34≦H/T1≦0.58」、「0.19≦W1/D≦0.57」および「0.17≦W2/(R1-R2)≦0.50」の関係が成立することを特徴とする。H/T1が0.34未満の場合は、応力を効果的に抑制できないため好ましくない。また、H/T1が0.58を超える場合は、溝部14の深さHが深すぎること(胴体部11が薄くなること)が原因で破損する可能性があるため好ましくない。また、W1/Dが0.19未満の場合は、応力抑制効果が期待できないため好ましくない。また、W1/Dが0.57を超える場合は、顎部12の面積が小さくなり、単位面積当たりの治具から受ける荷重が大きくなるため好ましくない。また、W2/(R1-R2)が0.17未満の場合は、応力抑制効果が期待できないため好ましくない。また、W2/(R1-R2)が0.5を超える場合は、リングの加工が困難になるため好ましくない。なお、W2は、R1-R2(胴体部11の幅)を超えることはないので、W2/(R1-R2)が1以上となることはない。
【0030】
<効果>
上記のように、本実施形態のリング状プレート1は、厚さT1で形成されたリング状の胴体部11と、当該リング状の胴体部11の内周面から突設しかつ胴体部11下面から高さT2(T2<T1)の位置に半導体治具を載置可能な載置面12aが形成された鍔部12と、を備え、さらに、ボルトのネジ部を挿通可能とするために胴体部11を貫通する複数の貫通孔13が形成された、セラミックス製のリング状プレートとした。そして、胴体部11の下面における貫通孔13の両側に、径方向に沿って形成された溝部14を設け、さらに、胴体部11の下面における外周面側には、隣接する貫通孔13間に形成された2つの溝部14と連設しかつ外周に沿って形成された、円弧状の切欠部15を設ける構成とした。これにより、半導体治具の熱膨張によって鍔部12に対して力がかかった場合であっても、肉薄のネジ止め位置周辺(貫通孔周辺)に発生する応力を効果的に分散させ抑制することができるため、リング状プレートの破損(欠け、割れ等)を大幅に減らすことができる。
【0031】
なお、本実施形態においては、リング状プレートに使用するセラミックス材料として、イットリア(Y2O3)やアルミナ(Al2O3)を挙げたが、これらに限るものではなく、たとえば、炭化ホウ素(B4C)、酸化ジルコニウム(ZrO2),オキシフッ化イットリウム(YOF)等、その他のセラミックス材料を使用することも可能である。
【0032】
また、本実施形態においては、一例として、等間隔に8個の貫通孔13を設けたが、これに限るものではなく、貫通孔13の間隔および個数は任意であり、少なくとも2個の貫通孔13が形成されていればよい。
【0033】
また、本実施形態においては、溝部14と切欠部15の深さHを同一としたが、必ずしも同一でなくてもよい。たとえば、両者の深さに差を設けた場合(
図3参照)であっても、肉薄のネジ止め位置周辺(貫通孔周辺)に発生する応力を抑制することは可能である。
【0034】
また、本実施形態においては、リング状プレート1に載置する半導体治具として、半導体ウェーハやシャワープレートを挙げたが、これに限るものではなく、たとえば、リング状プレート1に載置され半導体製造装置にネジ止め固定された状態で、加熱により熱膨張する、すべての半導体治具に適用可能である。
【実施例】
【0035】
つづいて、本発明にかかるリング状プレートの実施例について説明する。なお、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
【0036】
<リング状プレート>
本実施例では、上記実施形態における「0.1×T1≦T2≦0.5×T1」、「0.8×R1≦R2≦0.95×R1」および「0.9×R2≦R3≦0.96×R2」の条件を満たし、胴体部に複数の貫通孔を有する、最外径463mmのセラミックス製のリング状プレートを用意した(比較対象(条件1)として用意した)。具体的には、R1を231.5mmとし、R2を209.5mmとし、R3を205.5mmとし、T1(胴体部の厚さ)を19mmとし、T2(鍔部の厚さ)を3.5mmとした。すなわち、胴体部の幅(R1-R2)は22mmであり、鍔部の幅(R2-R3)は4mmである。また、貫通孔は、
図1同様、8個とした。また、セラミックス素材はアルミナとした。
【0037】
また、上記比較対象(条件1)として用意したリング状プレートに加え、上記と同一仕様のリング状プレートに対して、下記のように製造条件(H,W1,W2)を変更しながら、上述した溝部および切欠部を形成することによって、さらに、37種類のリング状プレートを用意した(条件2~条件38の製造条件で製造したリング状プレートを用意した)。
(製造条件)
・条件1:
溝部なし,切欠部なし
・条件2:
H/T1=0.07,W1/D=0.19,W2/(R1-R2)=0.17
・条件3:
H/T1=0.07,W1/D=0.38,W2/(R1-R2)=0.17
・条件4:
H/T1=0.07,W1/D=0.38,W2/(R1-R2)=0.33
・条件5:
H/T1=0.11,W1/D=0.19,W2/(R1-R2)=0.17
・条件6:
H/T1=0.18,W1/D=0.38,W2/(R1-R2)=0.50
・条件7:
H/T1=0.18,W1/D=0.38,W2/(R1-R2)=0.17
・条件8:
H/T1=0.18,W1/D=0.57,W2/(R1-R2)=0.17
・条件9:
H/T1=0.18,W1/D=0.19,W2/(R1-R2)=0.17
・条件10:
H/T1=0.18,W1/D=0.19,W2/(R1-R2)=0.33
・条件11:
H/T1=0.18,W1/D=0.19,W2/(R1-R2)=0.50
・条件12:
H/T1=0.18,W1/D=0.38,W2/(R1-R2)=0.33
・条件13:
H/T1=0.26,W1/D=0.19,W2/(R1-R2)=0.17
・条件14:
H/T1=0.34,W1/D=0.38,W2/(R1-R2)=0.50
・条件15:
H/T1=0.34,W1/D=0.38,W2/(R1-R2)=0.33
・条件16:
H/T1=0.34,W1/D=0.57,W2/(R1-R2)=0.17
・条件17:
H/T1=0.34,W1/D=0.19,W2/(R1-R2)=0.17
・条件18:
H/T1=0.34,W1/D=0.38,W2/(R1-R2)=0.17
・条件19:
H/T1=0.34,W1/D=0.38,W2/(R1-R2)=0.33
・条件20:
H/T1=0.42,W1/D=0.38,W2/(R1-R2)=0.50
・条件21:
H/T1=0.42,W1/D=0.38,W2/(R1-R2)=0.33
・条件22:
H/T1=0.42,W1/D=0.57,W2/(R1-R2)=0.17
・条件23:
H/T1=0.42,W1/D=0.19,W2/(R1-R2)=0.17
・条件24:
H/T1=0.42,W1/D=0.19,W2/(R1-R2)=0.33
・条件25:
H/T1=0.42,W1/D=0.19,W2/(R1-R2)=0.50
・条件26:
H/T1=0.42,W1/D=0.38,W2/(R1-R2)=0.17
・条件27:
H/T1=0.42,W1/D=0.38,W2/(R1-R2)=0.33
・条件28:
H/T1=0.50,W1/D=0.38,W2/(R1-R2)=0.33
・条件29:
H/T1=0.58,W1/D=0.19,W2/(R1-R2)=0.17
・条件30:
H/T1=0.58,W1/D=0.19,W2/(R1-R2)=0.33
・条件31:
H/T1=0.58,W1/D=0.38,W2/(R1-R2)=0.17
・条件32:
H/T1=0.58,W1/D=0.38,W2/(R1-R2)=0.33
・条件33:
H/T1=0.58,W1/D=0.38,W2/(R1-R2)=0.50
・条件34:
H/T1=0.58,W1/D=0.57,W2/(R1-R2)=0.17
・条件35:
H/T1=0.75,W1/D=0.19,W2/(R1-R2)=0.17
・条件36:
H/T1=0.75,W1/D=0.19,W2/(R1-R2)=0.33
・条件37:
H/T1=0.75,W1/D=0.19,W2/(R1-R2)=0.50
・条件38:
H/T1=0.75,W1/D=0.38,W2/(R1-R2)=0.50
【0038】
なお、本実施例では、アルミナ製のシャワープレートを各リング状プレートの載置面上に載置し、これらのリング状プレートを呼び径M8のボルト(JIS規格(JIS B 1176(1999-2000)))で半導体製造装置に固定した状態を想定する。ボルトは六角穴付ボルトとし、JIS規格より、リング状プレートにおける貫通孔の頭部穴径:D(上述した第1の挿通部13aの穴径Dに相当)を14mmとし、ネジ部穴径:d(上述した第2の挿通部13bの穴径dに相当)を9mmとした。
【0039】
そして、シャワープレートの熱膨張によって38種類のリング状プレートに対して力が加わった状態で、各リング状プレートに発生する応力を測定した。具体的には、貫通孔の個数に合わせて8等分した3次元モデル(
図3に相当)を作成し、周期対称機能を用いて有限要素法の数値解析を実施した。熱膨張によるシャワープレートの変形を考慮し、与えたモーメントは、
図4に示すように、鍔部に対して45°の方向からの0.03mmの強制変位とした。
【0040】
なお、ボルトは、頭部のみをモデル化し、リング状プレートにおける下面側の貫通孔から挿入し、半導体製造装置側のネジ穴に螺合させた。これにより、各リング状プレートがボルトの頭部に押圧され、半導体製造装置に固定された状態とした。すなわち、上記与えたモーメント以外にリング状プレートが受ける力は、ボルトの頭部からの押圧のみとなる。
【0041】
<評価結果>
本実施例の評価結果を表1に示す。本実施例では、比較対象(条件1)のリング状プレート(溝部および切欠部ともになし)の応力値(条件1における応力値)に対し、応力が50%以下となったときの条件で製造されたリング状プレートを、ネジ回りの剛性を下げることによって引張応力を十分小さくする効果が得られた特に好ましいものとして、最良(〇)とした。また、条件1における応力値に対し応力が50%より大きく80%以下となったときの条件で製造されたリング状プレート、すなわち、50%以下とはならなかったが上記引張応力を小さくする一定の効果が得られたリング状プレートを、好ましいものとして良好(△)とし、破損を含むそれ以外のリング状プレートを不良(×)とした。
【0042】
【0043】
表1に示すとおり、条件2~条件13のリング状プレートについては、いずれも比較対象(条件1)のリング状プレートの応力値に対し、応力値50%以下を達成することはできなかった。しかしながら、条件6~条件8および条件10~条件13のリング状プレートについては、いずれも条件1のリング状プレートの応力値に対し、応力値80%以下を達成することができたので、評価結果として良品(△)であることが確認できた。一方、条件2~条件5および条件9のリング状プレートについては、主に溝部の深さHが足りないことが原因で応力を効果的に抑制できない結果となった(×)。
【0044】
また、条件35、条件36および条件38のリング状プレートについては、溝部の深さHが深すぎる(H/T1=0.75)ことが原因で破損する結果となった(×)。一方で、条件37のリング状プレートについては、溝部の深さHが深すぎる(H/T1=0.75)にもかかわらず、その他の条件で応力が効果的に分散され、破損することなく応力値80%以下を達成することができた(△)。
【0045】
また、条件14~条件34のリング状プレートについては、比較対象(条件1)のリング状プレートに対して応力が50%以下となり、評価結果として最良(〇)であることが確認できた。すなわち、表1に示す最良(〇)の評価結果から、溝部の深さHが胴体部の厚さT1の58%を超えるとその溝部の深さHが深すぎることが原因で破損する可能性があるため、また、溝部の深さHが胴体部の厚さT1の34%未満の場合には応力抑制効果が期待できないため、溝部の深さHは、胴体部の厚さT1に対して「0.34≦H/T1≦0.58」であることが望ましい。また、表1に示す最良(〇)の評価結果から、貫通孔付近の溝部の幅W1は、ボルトの頭部穴径Dに対して「0.19≦W1/D≦0.57」であることが望ましく、さらに、切欠部の幅W2は、胴体部の幅「R1-R2」に対して「0.17≦W2/(R1-R2)≦0.50」であることが望ましい、といえる。
【0046】
上記のように、溝部および切欠部を上記望ましい範囲で形成することにより、そのリング状プレートについては、条件1のリング状プレート(溝部および切欠部ともになし)に対しモーメントによる発生応力を50%以下とすることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 リング状プレート
11 胴体部
12 鍔部
12a 載置面
13 貫通孔
13a 第1の挿通部
13b 第2の挿通部
14 溝部
15 切欠部