IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ラジウス ファーマシューティカルズ,インコーポレイテッドの特許一覧

特許7497353ESR1変異を含むモデルにおいて癌を治療するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】ESR1変異を含むモデルにおいて癌を治療するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/137 20060101AFI20240603BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240603BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
A61K31/137
A61P35/00
A61P35/04
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021531817
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-31
(86)【国際出願番号】 US2019064980
(87)【国際公開番号】W WO2020118202
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-12-05
(31)【優先権主張番号】62/776,338
(32)【優先日】2018-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517378016
【氏名又は名称】ラジウス ファーマシューティカルズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100187850
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】パテル,ヒティシャ
(72)【発明者】
【氏名】ビハニ,ティール
(72)【発明者】
【氏名】アールト,ハイク
(72)【発明者】
【氏名】タオ,ニアンジュン
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-514593(JP,A)
【文献】特表2018-518529(JP,A)
【文献】特表2018-514549(JP,A)
【文献】Clinical Cancer Research,2017年,Vol.23, No.6,p.4793-4804
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タモキシフェン、フルベストラント及びアロマターゼ阻害剤で以前に処置された被験体において変異エストロゲン受容体α陽性ヒト上皮成長因子2(HER2)陰性癌を抑制及び分解する方法に使用するための、エラセストラント又はその薬学的に許容され得る塩若しくは溶媒和物を含む医薬組成物であって、エストロゲン受容体変異がD538G変異であり、該方法が、被験体に治療有効量のエラセストラント又はその薬学的に許容され得る塩若しくは溶媒和物を投与する工程を含む、医薬組成物。
【請求項2】
変異エストロゲン受容体α陽性癌が、抗エストロゲン、アロマターゼ阻害剤、及びその組み合わせからなる群より選択される薬物に対して耐性であるか又はそれらに対して進行する、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
変異エストロゲン受容体α陽性癌が、乳癌、子宮癌、卵巣癌、乳癌脳転移、及び下垂体癌からなる群より選択される、請求項1~いずれか記載の医薬組成物。
【請求項4】
変異エストロゲン受容体α陽性癌が、乳癌である、請求項1~いずれか記載の医薬組成物。
【請求項5】
変異エストロゲン受容体α陽性癌が進行性又は転移性乳癌である、請求項1~いずれか記載の医薬組成物。
【請求項6】
被験体が閉経後の女性である、請求項1~いずれか記載の医薬組成物。
【請求項7】
被験体が閉経前の女性である、請求項1~いずれか記載の医薬組成物。
【請求項8】
被験体が、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)及び/又はアロマターゼ阻害剤(AI)での以前の治療後に再発又は進行した閉経後の女性である、請求項1~いずれか記載の医薬組成物。
【請求項9】
エラセストラントが、約200mg/日~約500mg/日の用量で被験体に投与される、請求項1~いずれか記載の医薬組成物。
【請求項10】
エラセストラントが、約200mg/日、約300mg/日、約400mg/日、又は約500mg/日の用量で被験体に投与される、請求項1~いずれか記載の医薬組成物。
【請求項11】
エラセストラントが、被験体についての最大許容投与量である用量で被験体に投与される、請求項1~いずれか記載の医薬組成物。
【請求項12】
該方法が、ABL1、AKT1、AKT2、ALK、APC、AR、ARID1A、ASXL1、ATM、AURKA、BAP、BAP1、BCL2L11、BCR、BRAF、BRCA1、BRCA2、CCND1、CCND2、CCND3、CCNE1、CDH1、CDK4、CDK6、CDK8、CDKN1A、CDKN1B、CDKN2A、CDKN2B、CEBPA、CTNNB1、DDR2、DNMT3A、E2F3、EGFR、EML4、EPHB2、ERBB2、ERBB3、ESR1、EWSR1、FBXW7、FGF4、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FLT3、FRS2、HIF1A、HRAS、IDH1、IDH2、IGF1R、JAK2、KDM6A、KDR、KIF5B、KIT、KRAS、LRP1B、MAP2K1、MAP2K4、MCL1、MDM2、MDM4、MET、MGMT、MLL、MPL、MSH6、MTOR、MYC、NF1、NF2、NKX2-1、NOTCH1、NPM、NRAS、PDGFRA、PIK3CA、PIK3R1、PML、PTEN、PTPRD、RARA、RB1、RET、RICTOR、ROS1、RPTOR、RUNX1、SMAD4、SMARCA4、SOX2、STK11、TET2、TP53、TSC1、TSC2、及びVHLから選択される1つ以上の遺伝子の発現の増大を測定することにより治療について被験体を同定する工程をさらに含む、請求項1~11いずれか記載の医薬組成物。
【請求項13】
1つ以上の遺伝子が、AKT1、AKT2、BRAF、CDK4、CDK6、PIK3CA、PIK3R1、及びMTORから選択される、請求項12記載の医薬組成物。
【請求項14】
投与後の腫瘍中のエラセストラント又はその塩若しくは溶媒和物の濃度の、血漿中のエラセストラント又はその塩若しくは溶媒和物の濃度に対する比(T/P)は、少なくとも約15である、請求項1~13いずれか記載の医薬組成物。
【請求項15】
抗エストロゲンが、タモキシフェン、トレミフェン及びフルベストラントからなる群より選択され、アロマターゼ阻害剤が、エキセメスタン、レトロゾール及びアナストロゾールからなる群より選択される、請求項記載の医薬組成物。
【請求項16】
エラセストラントが、約300mg/日の用量で被験体に投与される、請求項10記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2018年12月6日に出願された米国仮特許出願第62/776,338号に対する35 U.S.C. § 119(e)下の優先権を主張する。前記出願の全ての内容は、参照により図面を含むその全体が本明細書に援用される。
【0002】
技術分野
本開示は、標準治療療法(standard of care therapy)に対して耐性のESR1変異を含む癌モデルにおいてエラセストラント(elacestrant)を使用して抗腫瘍活性を提供する方法を提供する。本開示はまた、内分泌耐性に寄与し得るESR1変異を有するエストロゲン陽性(ER+)癌を治療する方法に関し、ここで、該癌は、エラセストラントを使用して効果的に治療される。
【背景技術】
【0003】
背景
乳癌は、3つの受容体:エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)、及びヒト上皮成長因子受容体-2(Her2)の発現に基づいて3つのサブタイプに分類される。ERの過剰発現は、多くの乳癌患者において見出される。ER陽性(ER+)の乳癌は、すべての乳癌の3分の2を構成する。乳癌以外にも、エストロゲン及びERは、例えば、卵巣癌、結腸癌、前立腺癌、及び子宮内膜癌と関連している。
【0004】
ERは、エストロゲンによって活性化され、核へ転位してDNAに結合し、それにより、様々な遺伝子の活性を調節し得る。例えば、Marino et al., “Estrogen Signaling Multiple Pathways to Impact Gene Transcription,” Curr. Genomics 7(8): 497-508 (2006);及びHeldring et al., “Estrogen Receptors: How Do They Signal and What Are Their Targets,” Physiol. Rev. 87(3): 905-931 (2007)を参照。
【0005】
エストロゲン産生を阻害する薬剤、例えば、アロマターゼ阻害剤(AI、例えば、レトロゾール、アナストロゾール、及びエキセメスタン)、又はER活性を直接ブロックするもの、例えば、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM、例えば、タモキシフェン、トレミフェン、ドロロキシフェン、イドキシフェン、ラロキシフェン、ラソフォキシフェン、アルゾキシフェン、ミプロキシフェン、レボルメロキシフェン、及びEM-652(SCH 57068))並びに選択的エストロゲン受容体ディグレーダー(selective estrogen receptor degrader)(SERD、例えば、フルベストラント、TAS-108(SR16234)、ZK191703、RU58668、GDC-0810(ARN-810)、GW5638/DPC974、SRN-927、ICI182780、及びAZD9496)は、以前に使用されているか、又はER陽性乳癌の治療において開発されている。
【0006】
SERM及びAIは、ER陽性乳癌のための第1選択のアジュバント全身療法としてしばしば使用されている。AIは、体内でアンドロゲンをエストロゲンに変えるアロマターゼの活性をブロックすることによって末梢組織中のエストロゲン産生を抑える。しかしながら、AIは、卵巣がエストロゲンを生成するのを止めることができない。そのため、AIは、主に、閉経後の女性を治療するために使用される。さらに、AIは、より少ない重篤な副作用を伴い、SERMタモキシフェンよりも効果的であるため、AIは、卵巣機能が抑えられた閉経前の女性を治療するためにも使用され得る。例えば、Francis et al., “Adjuvant Ovarian Suppression in Premenopausal Breast Cancer,” the N. Engl. J. Med., 372:436-446 (2015)を参照。
【0007】
内分泌療法に対する耐性は、エストロゲン受容体陽性(ER+)乳癌を有する患者の管理において困難な局面である。最近の研究は、獲得耐性が、アロマターゼ阻害剤での治療後に、エストロゲン受容体1(ESR1)遺伝子中の変異の出現により発現(develop)され得ることを示した。これらの薬剤での初期の治療は成功し得たが、多くの患者は、結局、薬物耐性の乳癌を再発する。ERに影響を及ぼす変異は、この耐性の発現についての1つの潜在的な機構として現われた。例えば、Robinson et al., “Activating ESR1 mutations in hormone-resistant metastatic breast cancer,” Nat Genet. 45:1446-51 (2013)を参照。ERのリガンド結合ドメイン(LBD)における変異は、内分泌治療のうちの少なくとも1つの方針(line)を受けた患者からの転移性ER陽性乳腫瘍試料の20~40%に見出される。Jeselsohn, et al., “ESR1 mutations―a mechanism for acquired endocrine resistance in breast cancer,” Nat. Rev. Clin. Oncol., 12:573-83 (2015)。
【0008】
従って、現在の内分泌療法に関連する難題のいくつかを克服しかつ耐性の発現と闘うために、より持続可能かつ効果的なER標的化療法に対するニーズが残されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の要旨
一局面において、本開示は、被験体に治療有効量のエラセストラント又はその薬学的に許容され得る塩若しくは溶媒和物を投与する工程を含む、被験体において変異エストロゲン受容体α陽性癌を抑制及び分解する方法に関する。
【0010】
本発明のこの局面の態様は、以下の任意の特徴の1つ以上を含み得る。いくつかの態様において、変異エストロゲン受容体α陽性癌は、D538G、Y537X1、L536X2、P535H、V534E、S463P、V392I、E380Q及びその組み合わせ(式中:X1はS、N、又はCであり;X2はR又はQである)からなる群より選択される1つ以上の変異を含む。いくつかの態様において、変異はY537Sである。いくつかの態様において、変異はD538Gである。いくつかの態様において、変異エストロゲン受容体α陽性癌は、抗エストロゲン、アロマターゼ阻害剤及びその組み合わせからなる群より選択される薬物に対して耐性である。いくつかの態様において、変異エストロゲン受容体α陽性癌は、乳癌、子宮癌、卵巣癌、及び下垂体癌からなる群より選択される。いくつかの態様において、変異エストロゲン受容体α陽性癌は、進行性(advanced)又は転移性乳癌である。いくつかの態様において、変異エストロゲン受容体α陽性癌は乳癌である。いくつかの態様において、被験体は閉経後の女性である。いくつかの態様において、被験体は閉経前の女性である。いくつかの態様において、被験体は、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)及び/又はアロマターゼ阻害剤(AI)での以前の治療後に再発又は進行した閉経後の女性である。いくつかの態様において、エラセストラントは、約200mg/日~約500mg/日の用量で被験体に投与される。いくつかの態様において、エラセストラントは、約200mg/日、約300mg/日、約400mg/日、又は約500mg/日の用量で被験体に投与される。いくつかの態様において、エラセストラントは、被験体についての最大許容投与量である用量で被験体に投与される。いくつかの態様において、方法は、ABL1、AKT1、AKT2、ALK、APC、AR、ARID1A、ASXL1、ATM、AURKA、BAP、BAP1、BCL2L11、BCR、BRAF、BRCA1、BRCA2、CCND1、CCND2、CCND3、CCNE1、CDH1、CDK4、CDK6、CDK8、CDKN1A、CDKN1B、CDKN2A、CDKN2B、CEBPA、CTNNB1、DDR2、DNMT3A、E2F3、EGFR、EML4、EPHB2、ERBB2、ERBB3、ESR1、EWSR1、FBXW7、FGF4、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FLT3、FRS2、HIF1A、HRAS、IDH1、IDH2、IGF1R、JAK2、KDM6A、KDR、KIF5B、KIT、KRAS、LRP1B、MAP2K1、MAP2K4、MCL1、MDM2、MDM4、MET、MGMT、MLL、MPL、MSH6、MTOR、MYC、NF1、NF2、NKX2-1、NOTCH1、NPM、NRAS、PDGFRA、PIK3CA、PIK3R1、PML、PTEN、PTPRD、RARA、RB1、RET、RICTOR、ROS1、RPTOR、RUNX1、SMAD4、SMARCA4、SOX2、STK11、TET2、TP53、TSC1、TSC2、及びVHLから選択される1つ以上の遺伝子の発現の増大を測定することにより治療について被験体を同定する工程をさらに含む。いくつかの態様において、1つ以上の遺伝子は、AKT1、AKT2、BRAF、CDK4、CDK6、PIK3CA、PIK3R1、及びMTORから選択される。いくつかの態様において、投与後の腫瘍中のエラセストラント又はその塩若しくは溶媒和物の濃度の、血漿中のエラセストラント又はその塩若しくは溶媒和物の濃度に対する比(T/P)は、少なくとも約15である。
【0011】
別の局面において、本開示は、変異エストロゲン受容体αを有する被験体において薬物耐性のエストロゲン受容体α陽性癌を治療する方法に関し、該方法は、被験体に治療有効量のエラセストラント又はその薬学的に許容され得る塩若しくは溶媒和物を投与する工程を含み、該変異エストロゲン受容体αは、D538G、Y537X1、L536X2、P535H、V534E、S463P、V392I、E380Q及びその組み合わせ(式中、X1はS、N、又はCであり;X2はR又はQである)からなる群より選択される1つ以上の変異を含む。
【0012】
本発明のこの局面の態様は、以下の任意の特徴の1つ以上を含み得る。いくつかの態様において、癌は、抗エストロゲン、アロマターゼ阻害剤、及びその組み合わせからなる群より選択される薬物に対して耐性である。いくつかの態様において、抗エストロゲンは、タモキシフェン、トレミフェン及びフルベストラントからなる群より選択され、アロマターゼ阻害剤は、エキセメスタン、レトロゾール及びアナストロゾールからなる群より選択される。いくつかの態様において、薬物耐性のエストロゲン受容体α陽性癌は、乳癌、子宮癌、卵巣癌、及び下垂体癌からなる群より選択される。いくつかの態様において、癌は進行性又は転移性の乳癌である。いくつかの態様において、癌は乳癌である。いくつかの態様において、被験体は閉経後の女性である。いくつかの態様において、被験体は閉経前の女性である。いくつかの態様において、被験体は、SERM及び/又はAIでの以前の治療後に再発又は進行した閉経後の女性である。いくつかの態様において、被験体は、D538G、Y537S、Y537N、Y537C、E380Q、S463P、L536R、L536Q、P535H、V392I及びV534Eからなる群より選択される少なくとも1つの変異エストロゲン受容体αを発現する。いくつかの態様において、変異はY537Sを含む。いくつかの態様において、変異はD538Gを含む。いくつかの態様において、方法は、ABL1、AKT1、AKT2、ALK、APC、AR、ARID1A、ASXL1、ATM、AURKA、BAP、BAP1、BCL2L11、BCR、BRAF、BRCA1、BRCA2、CCND1、CCND2、CCND3、CCNE1、CDH1、CDK4、CDK6、CDK8、CDKN1A、CDKN1B、CDKN2A、CDKN2B、CEBPA、CTNNB1、DDR2、DNMT3A、E2F3、EGFR、EML4、EPHB2、ERBB2、ERBB3、ESR1、EWSR1、FBXW7、FGF4、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FLT3、FRS2、HIF1A、HRAS、IDH1、IDH2、IGF1R、JAK2、KDM6A、KDR、KIF5B、KIT、KRAS、LRP1B、MAP2K1、MAP2K4、MCL1、MDM2、MDM4、MET、MGMT、MLL、MPL、MSH6、MTOR、MYC、NF1、NF2、NKX2-1、NOTCH1、NPM、NRAS、PDGFRA、PIK3CA、PIK3R1、PML、PTEN、PTPRD、RARA、RB1、RET、RICTOR、ROS1、RPTOR、RUNX1、SMAD4、SMARCA4、SOX2、STK11、TET2、TP53、TSC1、TSC2、及びVHLから選択される1つ以上の遺伝子の発現の増大を測定することにより治療について被験体を同定する工程をさらに含む。いくつかの態様において、1つ以上の遺伝子は、AKT1、AKT2、BRAF、CDK4、CDK6、PIK3CA、PIK3R1、及びMTORから選択される。いくつかの態様において、エラセストラントは、約200~約500mg/日の用量で被験体に投与される。いくつかの態様において、エラセストラントは、約200mg、約300mg、約400mg、又は約500mgの用量で被験体に投与される。いくつかの態様において、エラセストラントは、約300mg/日の用量で被験体に投与される。いくつかの態様において、投与後の腫瘍中のエラセストラント又はその塩若しくは溶媒和物の濃度の、血漿中のエラセストラント又はその塩若しくは溶媒和物の濃度に対する比(T/P)は、少なくとも約15である。
【0013】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術の当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。方法及び材料は、本発明における使用について本明細書に記載され;当該分野において公知の他の適切な方法及び材料もまた使用され得る。材料、方法、及び実施例は、例示のみのものであり、限定することを意図しない。全ての刊行物、特許出願、特許、配列、データベース入力物(database entry)、及び本明細書で言及される他の参照文献は、それらの全体において参照により援用される。矛盾する場合、本明細書が、定義を含めて支配する。
【0014】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び図面、並びに特許請求の範囲から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図面の簡単な説明
以下の図面は、例として提供され、本発明の範囲を限定することを意図しない。
図1図1.上の行に示される代表的な図は、Y537Sクローン1、Y537Sクローン2、D538Gクローン1、D538Gクローン2、及びS463Pクローン1の変異癌細胞株についてビヒクル対照で処置された腫瘍細胞を可視化する。下の行に示される図は、100nMのエラセストラントで処置されたY537Sクローン1、Y537Sクローン2、D538Gクローン1、D538Gクローン2、及びS463Pクローン1の腫瘍細胞を可視化する。
図2図2.ビヒクル対照、エラセストラント(30、60、及び120mg/kg)及びフルベストラント(1mg/用量)で処置されたマウス異種移植片モデルにおける経時的な平均+/-SEM腫瘍体積。
図3図3A.ビヒクル対照、エラセストラント(10、100、及び1000nM)、E2(10pM)、及びフルベストラント(10、100、1000nM)で処置された野生型、S463P、D538G、及びY537Sの変異を有する腫瘍細胞モデルについてのプロゲステロン受容体(PgR)の対照に対する倍率変化(fold change)。図3B.ビヒクル対照、エラセストラント(10、100、及び1000nM)、E2(10pM)、及びフルベストラント(10、100、1000nM)で処置された野生型、S463P、D538G、及びY537Sの変異を有する腫瘍細胞モデルにおけるエストロゲンにより調節される成長(GREB1)の対照に対する倍率変化。図3C.ビヒクル対照、エラセストラント(10、100、及び1000nM)、E2(10pM)、及びフルベストラント(10、100、1000nM)で処置された野生型、S463P、D538G、及びY537Sの変異を有する腫瘍細胞モデルにおけるトレフォイル因子(trefoil factor)1(TFF1)の対照に対する倍率変化。
図4A図4A.ビヒクル対照及びエラセストラント(30及び60mg/kg)で処置されたESR1:D538G変異を有し(タモキシフェン、アロマターゼ阻害剤、及びフルベストラントで以前に処置された)ST2535-HI PDX異種移植片を移植された無胸腺ヌードマウスにおける経時的な平均+/-SEM腫瘍体積。
図4B図4B.ビヒクル対照、エラセストラント(30及び60mg/kg)、及びフルベストラント(3mg/用量)で処置されたESR1:D538G変異を有し(タモキシフェン、アロマターゼ阻害剤、及びフルベストラントで以前に処置された)CTG-1211-HI PDX異種移植片を移植された無胸腺ヌードマウスにおける経時的な平均+/-SEM腫瘍体積。
図4C図4C.ビヒクル対照、エラセストラント(30及び60mg/kg)及びフルベストラント(3mg/用量)で処置されたESR1:D538G変異を有し(タモキシフェン、アロマターゼ阻害剤、及びフルベストラントで以前に処置された)WHIM43-HI PDX異種移植片を移植された無胸腺ヌードマウスにおける経時的な平均+/-SEM腫瘍体積。
図5A-B】図5A.ビヒクル対照及びエラセストラント(30及び60mg/kg)で処置されたESR1:D538G変異を有し(タモキシフェン、アロマターゼ阻害剤、及びフルベストラントで以前に処置された)ST2535-HI PDX異種移植片モデルにおけるプロゲステロン受容体(PgR)mRNAレベルのビヒクル対照に対する倍率変化。図5B.ビヒクル対照及びエラセストラント(30及び60mg/kg)で処置されたESR1:D538G変異を有するST2535-HI PDX異種移植片モデルにおけるPgR発現を例示するウエスタンブロット。
図5C-D】図5C.ビヒクル対照、エラセストラント(30及び60mg/kg)、及びフルベストラント(3mg/用量)で処置されたESR1:D538G変異を有し(タモキシフェン、アロマターゼ阻害剤、及びフルベストラントで以前に処置された)CTG-1211-HI PDX異種移植片モデルにおけるプロゲステロン受容体(PgR)mRNAレベルのビヒクル対照に対する倍率変化。図5D.ビヒクル対照、エラセストラント(30及び60mg/kg)、及びフルベストラントで処置されたESR1:D538G変異を有するCTG-1211-HI PDX異種移植片モデルにおけるPgR発現を例示するウエスタンブロット。
図5E-F】図5E.ビヒクル対照、エラセストラント(30及び60mg/kg)、及びフルベストラント(3mg/用量)で処置されたESR1:D538G変異を有し(タモキシフェン、アロマターゼ阻害剤、及びフルベストラントで以前に処置された)WHIM43-HI PDX異種移植片モデルにおけるプロゲステロン受容体(PgR)mRNAレベルのビヒクル対照に対する倍率変化。図5F.ビヒクル対照、エラセストラント(30及び60mg/kg)、及びフルベストラントで処置されたESR1:D538G変異を有するWHIM43-HI PDX異種移植片モデルにおけるPgR発現を例示するウエスタンブロット。
図6図6A.ビヒクル対照、エラセストラント(10、30、及び60mg/kg) フルベストラント(3mg/用量)、serd1用量1、及びserd1用量2で処置されたESR1:Y537S変異を含むST941-HI PDXモデルにおける経時的な平均+/-SEM腫瘍体積。図6B.ビヒクル対照、エラセストラント(10、30、及び60mg/kg) フルベストラント(3mg/用量)、serd2用量1、及びserd2用量2で処置されたESR1:Y537S変異を含むST941-HI PDXモデルにおける経時的な平均+/-SEM腫瘍体積。
図7図7A.ビヒクル対照、フルベストラント(3mg/用量)、エラセストラント(30mg/kg)、serd1用量1、serd1用量2、serd2用量1、及びserd2用量2で処置されたESR1:Y537S変異を含むST941-HI PDXモデルにおけるプロゲステロン受容体(PgR)mRNAレベルに関するビヒクル対照に対する倍率変化。図7B.ビヒクル対照、フルベストラント(3mg/kg)、エラセストラント(30mg/kg)、serd1用量1、及びserd1用量2で処置されたPgR発現を示すESR1:Y537S変異を含むST941-HI PDXモデルを例示するウエスタンブロット。図7C.ビヒクル対照、フルベストラント(3mg/kg)、エラセストラント(30mg/kg)、serd2用量1、及びserd2用量2で治療されたPgR発現を示すESR1:Y537S変異を含むST941-HI PDXモデルを例示するウエスタンブロット。
図8図8A.ST941-HI PDX細胞株についてLog[濃度(μm)]に関して提供されたインビトロ細胞生存能力(対照の%)。図8B.PDX由来のインビトロST941-HI細胞株の処置において使用されたエラセストラント(0、10、100、及び1000nM)及びフルベストラント(0、10、100、及び1000nM)の濃度に関してプロットされたプロゲステロン受容体(PgR)mRNAレベルのビヒクル対照に対する倍率変化。
図9図9A.時間並びにビヒクル対照、エラセストラント(10、30、及び60mg/kg)及びフルベストラント(3mg/用量)を用いたその処置に関してプロットされたESR1:Y537S変異を含むST941-HI PDXを移植されたマウスにおける平均+/-SEM腫瘍体積。図9B.ビヒクル対照、フルベストラント(3mg/用量)、及びエラセストラント(10、30、及び60mg/kg)でのその処置に関してプロットされたST941-HI PDXモデルにおけるプロゲステロン受容体(PgR)mRNA発現の対照に対する倍率変化。
図10A-D】図10A.ビヒクル対照、エラセストラント(30、及び60mg/kg)及びフルベストラント(3mg/用量)で処置されたESR1:Y537Shom変異を有するWHIM20 PDX異種移植片を移植されたマウスにおける経時的な平均+/-SEM腫瘍体積。図10B.ビヒクル対照、エラセストラント(30及び60mg/kg)、及びフルベストラント(3mg/用量)で処置されたESR1:Y537Shom変異を有するWHIM20 PDX異種移植片モデルにおけるプロゲステロン受容体(PgR)のビヒクル対照に対する倍率変化。図10C.ビヒクル対照、エラセストラント(30及び60mg/kg)、及びフルベストラント(3mg/用量)で処置されたESR1:Y537Shom変異を有するWHIM20 PDX異種移植片モデルにおけるトレフォイル因子1(TFF1)の対照に対する倍率変化。図10D.ビヒクル対照、エラセストラント(30及び60mg/kg)、及びフルベストラント(3mg/用量)で治療されたESR1:Y537Shom変異を有するWHIM20 PDX異種移植片モデルにおけるエストロゲンにより調節される成長(GREB1)の対照に対する倍率変化。
図10E図10E.PgR発現を示しかつビヒクル対照、フルベストラント(3mg/用量)、及びエラセストラント(30及び60mg/kg)で処置されたESR1:Y537Shom変異を有するWHIM20 PDX異種移植片モデルを例示するウエスタンブロット。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
本明細書で使用される場合、エラセストラント又は「RAD1901」は、経口的に 生物学的利用可能な(bioavailable)選択的エストロゲン受容体ディグレーダー(SERD)であり、以下の化学構造:
【化1】

を有し、これは、その塩、溶媒和物(例えば、水和物)、及びプロドラッグを含む。前臨床データは、エラセストラントが野生型ESR1を有するER+乳癌及び変異ESR1を有するER+乳癌の両方のモデルにおいて腫瘍成長の抑制に効果的であることを示した。本明細書に記載されるいくつかの態様において、エラセストラントは、以下の化学構造:
【化2】

を有する二塩酸(bis-hydrochloride)(・2HCl)塩として投与される。
【0017】
閉経後の女性において、ER+癌、例えば、乳癌に対する現在の標準治療(standard of care)は、1)エストロゲンの合成を阻害すること(アロマターゼ阻害剤(AI));2)SERM(例えば、タモキシフェン)を使用してERに直接結合しその活性を調節すること;及び/又は3)SERD(例えば、フルベストラント)を使用してERに直接結合し受容体分解を引き起こすことによりER経路を阻害することを含む。閉経前の女性において、現在の標準治療は、卵巣摘出術又は黄体化ホルモン放出ホルモン(LHRH)アゴニストによる卵巣抑制をさらに含む。患者が臨床的に承認された治療に典型的に良好に応答するにも関わらず、ESR1変異は、転移性乳癌においてたびたび(例えば、20~40%)生じ得、内分泌耐性(endocrine resistance)に寄与し得る。AI及び/又はSERDに対するESR1変異の応答は十分に理解されていないが、パルボシクリブ及びフルベストラント対プラセボ及びフルベストラントのPALOMA-3試験のctDNA分析からの最近のデータは、フルベストラント治療後のESR1 Y537S変異の選択への傾向を示した。このデータは、フルベストラントの筋肉内投与の必要と組み合わせてESR1が変異する傾向を示し、ESR1及び全てのESR1変異に対して効力を有する新規の及び/又は改善された経口的に生物学的利用可能な内分泌療法に対するニーズを強調する。
【0018】
フルベストラント治療にほとんど応答しない腫瘍を標的化するエラセストラントの予想外の効力及び変異ERαを発現する腫瘍におけるエラセストラントの予想外の効力は、エラセストラントとERαの間の特有の相互作用のためであり得る。エラセストラント及び他のERα結合化合物に結合したERαの構造モデルを、分析して、特異的な結合相互作用についての情報を得た。コンピューターモデリングは、エラセストラント-ERα相互作用が、ERαのLBDの変異、例えばY537X変異(式中、Xが、S、N、又はCである);D538G;及びS463Pによって影響を受ける可能性が低いことを示し、該変異は、内分泌治療のうちの少なくとも1つの方針を受けた患者からの転移性ER陽性乳房腫瘍試料の最近の研究において見出されたLBD変異の約81.7%を占める。これは、結合にとって重大なERαのC末端リガンド結合ドメインにおける特定の残基の同定をもたらし、これは、野生型ERαだけでなく、その特定の変異及びバリアントにも結合し、アンタゴナイズする化合物を開発するために使用され得る情報であった。
【0019】
これらの結果に基づいて、被験体に治療有効量のエラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩を投与することによってERα陽性癌又は腫瘍の成長の抑制又はその退縮の発生を必要とする被験体においてERα陽性癌又は腫瘍の成長を抑制する又はその退縮を発生させるための方法が、本明細書に提供される。特定の態様において、エラセストラント又はその塩若しくは溶媒和物(例えば、水和物)の投与は、例えば、癌細胞増殖の阻害又はERα活性の阻害(例えば、エストラジオール結合の阻害又はERαの分解により)を含む腫瘍成長の抑制に加えて、さらなる治療的利益を有する。特定の態様において、方法は、筋肉、骨、乳房、及び子宮に対して負の効果を提供しない。
【0020】
本明細書において提供される腫瘍成長抑制又は退縮方法の特定の態様において、方法は、患者がエラセストラント又はその溶媒和物(例えば、水和物)若しくは塩を投与する前にERαを発現する腫瘍を有するかどうかを決定する工程をさらに含む。本明細書において提供される腫瘍成長抑制又は退縮方法の特定の態様において、方法は、患者がエラセストラント又はその溶媒和物(例えば、水和物)若しくは塩を投与する前に変異ERαを発現する腫瘍を有するかどうかを決定する工程をさらに含む。本明細書において提供される腫瘍成長抑制又は退縮方法の特定の態様において、方法は、患者がエラセストラント又はその溶媒和物(例えば、水和物)若しくは塩を投与する前にAI、SERD(例えば、フルベストラント)、及び/又はSERM(例えば、タモキシフェン)治療に応答性又は非応答性であるERαを発現する腫瘍を有するかどうかを決定する工程をさらに含む。これらの決定は、当該分野において公知の発現検出の任意の方法を使用してなされ得、被験体から採取した(remove)腫瘍又は組織試料を使用してインビトロで実施され得る。
【0021】
本明細書に記載される方法において、エラセストラントは、ESR1:D538G及びESR1:Y537S変異を含むいくつかのPDXモデル、例えば、パルボシクリブ耐性の、フルベストラント耐性の、及びアロマターゼ阻害剤/タモキシフェン/フルベストラントで以前に処置されたモデルの成長を抑制することが示される。エラセストラントはまた、ESR1:D538G変異を含むPDXモデルにおいてERの分解及びERシグナル伝達の阻害の両方をすることが示される。エラセストラントは、Y537S変異を含むインビトロ及びインビボST941-HIモデルにおいて効果的である。さらに、アクリル酸側鎖を有する2つのSERDは、ST941-HI PDXモデルにおいてインビボで部分的な成長抑制を示した。フルベストラントは、インビトロでは効果的であるが、ST941-HI PDXモデルにおいてインビボでの活性を欠くことが示された。エラセストラント及びフルベストラントの両方は、両薬剤がERを分解しERシグナル伝達を阻害するにも関わらず、ESR1:Y537S変異を含むWHIM20モデルにおいて部分的な効力を示すが、腫瘍成長におけるエラセストラントの役割及び他の腫瘍形成駆動体(driver)の阻害剤との組み合わせは、改善された効力を有する腫瘍治療において前進を提供する。
【0022】
内分泌耐性におけるESR1変異の役割及び内分泌治療の効力に対するそれらの影響は、複雑な関係を有する。実際、パルボシクリブ及びフルベストラント対プラセボ及びフルベストラントのPALOMA3試験のctDNA分析からの最近のデータは、フルベストラント治療後のESR1:Y537S変異の選択への傾向を示した。この研究は、フルベストラントが限定された活性を有するかもしれないESR1変異の特定の背景が存在し得ることを示唆する。従って、癌に対する治療としてのエラセストラントの効果的な使用が全てのESR1変異に対して効力を有することを示す本明細書における研究は、将来有望な発見である。
【0023】
定義
本明細書で使用される場合、以下の定義は、他に示されない限り、適用されるものとする。
【0024】
本明細書で使用される場合、用語「RAD1901」及び「エラセストラント」は、同じ化合物を言い、交換可能に使用される。
【0025】
本明細書で使用される場合、ERα陽性腫瘍の「成長の抑制」は、腫瘍成長の速度を遅くすること、又は腫瘍成長を完全に停止させることを言い得る。
【0026】
本明細書で使用される場合、「腫瘍退縮」又はERα陽性腫瘍の「退縮」は、腫瘍の最大サイズを低減することを言い得る。特定の態様において、本明細書に記載される組み合わせ、又はその溶媒和物(例えば、水和物)若しくは塩の投与は、ベースライン(換言すれば、治療の開始前のサイズ)に対する腫瘍サイズの低減を生じ得る、又は腫瘍の根絶若しくは部分的な根絶さえ生じ得る。従って、特定の態様において、本明細書において提供される腫瘍退縮の方法は、代替的に、ベースラインに対して腫瘍サイズを低減する方法として特徴づけられ得る。
【0027】
本明細書で使用される場合、「腫瘍」は、悪性腫瘍であり、「癌」と交換可能に使用される。
【0028】
本明細書で使用される場合、「エストロゲン受容体α」又は「ERα」は、野生型ERαアミノ酸配列を含む、それからなる、又はそれから本質的なるポリペプチドを言い、該アミノ酸配列は、遺伝子ESR1によりコードされる。
【0029】
本明細書で使用される場合、「エストロゲン受容体αに対して陽性」、「ERα陽性」、「ER+」又は「ERα+」である腫瘍は、1つ以上の細胞が少なくとも1つのERαのアイソフォームを発現する腫瘍を言う。
【0030】
本明細書で使用される場合、「標準治療療法(Standard of Care Therapy)」は、癌、例えば、乳癌を治療することが公知でありそのために一般的に使用される薬剤、例えば、アロマターゼ阻害剤(AI、例えば、レトロゾール、アナストロゾール及びエキセメスタン)、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM、例えば、タモキシフェン、トレミフェン、ドロロキシフェン、イドキシフェン、ラロキシフェン、ラソフォキシフェン、アルゾキシフェン、ミプロキシフェン、レボルメロキシフェン、及びEM-652(SCH 57068))、及び/又は選択的エストロゲン受容体ディグレーダー(SERD、例えば、フルベストラント、TAS-108(SR16234)、ZK191703、RU58668、GDC-0810(ARN-810)、GW5638/DPC974、SRN-927、ICI182782及びAZD9496)を言う。
【0031】
治療方法
いくつかの態様において、本開示は、被験体に治療有効量のエラセストラント、又はその薬学的に許容され得る塩若しくは溶媒和物を投与する工程を含む、被験体において変異エストロゲン受容体α陽性癌を抑制及び分解する方法に関する。
【0032】
他の態様において、本開示は、変異エストロゲン受容体αを有する被験体において薬物耐性のエストロゲン受容体α陽性癌を治療する方法に関し、該方法は、被験体に治療有効量のエラセストラント、又はその薬学的に許容され得る塩若しくは溶媒和物を投与する工程を含み、変異エストロゲン受容体αは、D538G、Y537X1、L536X2、P535H、V534E、S463P、V392I、E380Q及びその組み合わせ(式中:X1はS、N、又はCであり;X2はR又はQである)からなる群より選択される1つ以上の変異を含む。
【0033】
エラセストラントの投与
エラセストラント又はその溶媒和物(例えば、水和物)若しくは塩は、被験体に投与する場合、1つ以上の癌又は腫瘍に対して治療的効果を有する。腫瘍成長抑制又は退縮は、特定の組織若しくは器官内の単一の腫瘍に又は腫瘍のセットに局在化され得る、或いは全身性(換言すれば、全ての組織又は器官中の腫瘍に影響を及ぼす)であり得る。
【0034】
エラセストラントはエストロゲン受容体β(ERβ)に対してERαに優先的に結合することが公知であるので、他に特定しない限り、エストロゲン受容体、エストロゲン受容体α、ERα、ER、及び野生型ERαは、本明細書において交換可能に使用される。特定の態様において、ER+細胞は、ERαを過剰発現する。特定の態様において、患者は、ERβの1つ以上の形態を発現する腫瘍内に1つ以上の細胞を有する。特定の態様において、ERα陽性の腫瘍及び/又は癌は、乳房、子宮、卵巣、又は下垂体の癌に関連する。これらの態様の特定のものにおいて、患者は、乳房、子宮、卵巣、又は下垂体の組織に位置する腫瘍を有する。患者が乳房に位置する腫瘍を有するこれらの態様において、腫瘍は、HER2について陽性であってもなくてもよいルミナール(luminal)乳癌に関連し得、HER2+腫瘍について、腫瘍は、HER2を高又は低発現し得る。他の態様において、患者は、別の組織又は器官(例えば、骨、筋肉、脳)に位置する腫瘍を有するが、それにも関わらず、乳房、子宮、卵巣、又は下垂体の癌(例えば、乳房、子宮、卵巣、又は下垂体の癌の移動又は転移由来の腫瘍)に関連する。従って、本明細書において提供される腫瘍成長抑制又は腫瘍退縮の方法の特定の態様において、標的化される腫瘍は転移性腫瘍である及び/又は腫瘍は他の器官(例えば、骨及び/又は筋肉)におけるERの過剰発現を有する。特定の態様において、標的化される腫瘍は、脳の腫瘍及び/又は癌である。特定の態様において、標的化される腫瘍は、別のSERD(例えば、フルベストラント、TAS-108(SR16234)、ZK191703、RU58668、GDC-0810(ARN-810)、GW5638/DPC974、SRN-927、及びAZD9496)、Her2阻害剤(例えば、トラスツズマブ、ラパチニブ、アド(ado)-トラスツズマブエムタンシン、及び/又はペルツズマブ)、化学療法(例えば、アブラキサン、アドリアマイシン、カルボプラチン、サイトキサン(cytoxan)、ダウノルビシン、ドキシル、エレンス(ellence)、フルオロウラシル、ジェムザール、ヘラベン(helaven)、イクゼンプラ(lxempra)、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトキサントロン(micoxantrone)、ナベルビン、タキソール、タキソテール、チオテパ、ビンクリスチン、及びゼローダ)、アロマターゼ阻害剤(例えば、アナストロゾール、エキセメスタン、及びレトロゾール)、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン、ラソフォキシフェン、及び/又はトレミフェン)、新脈管形成阻害剤(例えば、ベバシズマブ)、及び/又はリツキシマブを用いた治療よりもエラセストラントの治療により感受性であり得る。
【0035】
野生型ERαを発現する腫瘍において腫瘍成長を抑制するエラセストラントの能力を示すことに加えて、エラセストラントがERαの変異型、即ちY537S ERαを発現する腫瘍の成長を抑制する能力を示す。ERα変異の例、例えば、Y537X変異体(式中、Xが、S、N、又はCである)を有するERα、D538G変異体を有するERα、及びS463P変異体を有するERαからなる群から選択される1つ以上の変異体を有するERαのコンピューターモデリング評価は、これらの変異のいずれも、LBDに影響を与えることも、又はエラセストラント結合を特異的に妨げることも予測されなかったことを示した。これらの結果に基づいて、被験体に、治療有効量のエラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩を投与することによって、癌に罹患している被験体において、Y537X1(式中、X1が、S、N、又はCである)、D538G、L536X2(式中、X2が、R又はQである)、P535H、V534E、S463P、V392I、E380Qからなる群から選択される、リガンド結合ドメイン(LBD)内の1つ以上の変異体を有するERα、特にY537S ERαに対して陽性である腫瘍の成長を抑制するか、又はその退縮を生じるための方法が、本明細書に提供される。本明細書で使用される場合、「変異体ERα」は、ERαのアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、それからなる、又は本質的にそれからなる、1つ以上の置換又は欠失を含むERα、及びそれらのバリアントを指す。
【0036】
動物異種移植片モデルにおける乳癌腫瘍成長を抑制することに加えて、エラセストラントが、腫瘍細胞内に有意な蓄積を示し、血液脳関門を通過し得る。血液脳関門を通過する能力は、エラセストラントの投与が、脳転移異種移植片モデルにおいて有意に生存を延長したことを示すことによって確認された。従って、本明細書に提供される腫瘍成長の抑制又は腫瘍退縮の方法の特定の態様において、標的化されるERα陽性腫瘍は、脳又は中枢神経系の他の場所に位置する。これらの態様の特定のものにおいて、ERα陽性腫瘍は、主として脳癌と関連している。他の態様では、ERα陽性腫瘍は、主として、別の型の癌、例えば乳房、子宮、卵巣、又は下垂体の癌と関連している転移性腫瘍であるか、或いは別の組織又は器官から移動してきた腫瘍である。これらの態様の特定のものにおいて、腫瘍は、乳癌脳転移(BCBM)等の脳転移である。本明細書に開示される方法の特定の態様において、エラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩は、標的腫瘍内の1つ以上の細胞に蓄積する。
【0037】
本明細書に開示される方法の特定の態様において、エラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩は、好ましくは、約15以上、約18以上、約19以上、約20以上、約25以上、約28以上、約30以上、約33以上、約35以上、又は約40以上のT/P(腫瘍中のエラセストラント濃度/血漿中のエラセストラント濃度)比で腫瘍に蓄積する。
【0038】
投与量
本明細書に開示される方法で用いるための治療有効量のエラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩の組み合わせは、特定の時間間隔にわたって投与される場合、1つ以上の治療的基準の達成(例えば、腫瘍成長を遅らせる又は停止させること、腫瘍退縮を生じさせること、症状の停止等)をもたらす量である。現在開示される方法で用いるための組み合わせは、被験体に1回又は複数回投与され得る。化合物が複数回投与されるこれらの態様では、該化合物は、一定の間隔、例えば、毎日、隔日、毎週、又は毎月投与され得る。あるいは、該化合物は、例えば、症状、患者の健康状態等に基づいて、必要に応じての基準で、不規則な間隔で投与され得る。組み合わせの治療有効量は、1日間、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも7日間、少なくとも10日間、又は少なくとも15日間、毎日投与され得る。任意に、癌の状態又は腫瘍の退縮は、例えば、被験体のFES-PETスキャンによって、治療中またはその後にモニタリングされる。被験体に投与される組み合わせの投与量は、検出された癌の状態又は腫瘍の退縮に応じて増加又は減少され得る。
【0039】
理想的には、治療有効量は、治療された被験体の50%以上が悪心又は他の毒性反応を経験し、それによりさらなる薬物投与が妨げられる最大許容投与量を超えない。治療有効量は、被験体の症状の種類及び程度、性別、年齢、体重、又は一般的健康状態、投与モード及び塩又は溶媒和物の型、薬物に対する感受性の変度(variation)、特定の型の疾患等を含む、様々な要因に応じて被験体について変化し得る。
【0040】
本明細書に開示される方法で用いるためのエラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩の治療有効量の例としては、耐性ER駆動型腫瘍(ER-driven tumor)又は癌を有する被験体について、約150~約1,500mg、約200~約1,500mg、約250~約1,500mg、又は約300~約1,500mgの1日投与量、野生型ER駆動型腫瘍及び/又は癌と耐性腫瘍及び/又は癌の両方を有する被験体について、約150~約1,500mg、約200~約1,000mg又は約250~約1,000mg又は約300~約1,000mgの1日投与量、並びに主に野生型ER駆動型腫瘍及び/または癌を有する被験体について、約300~約500mg、約300~約550mg、約300~約600mg、約250~約500mg、約250~約550mg、約250~約600mg、約200~約500mg、約200~約550mg、約200~約600mg、約150~約500mg、約150~約550mg、又は約150~約600mgの1日投与量が挙げられるが、これらに限定されない。特定の態様において、成人被験体について一般的な現在開示される方法に使用するための式Iの化合物(例えば、エラセストラント)又はその塩若しくは溶媒和物の投与量は、経口毎日で、約200mg、400mg、30mg~2,000mg、100mg~1,500mg、又は150mg~1,500mgであり得る。この1日投与量は、単回投与又は複数回投与を介して達成され得る。
【0041】
変異受容体(1つ又は複数)を発現する耐性株及び例を含む乳癌の治療におけるエラセストラントの用量は、1日当たり100mg~1,000mgの範囲にある。例えば、エラセストラントは、1日当たり100、200、300、400、500、600、700、800、900又は1,000mgで投与され得る。特に、1日当たり200mg、400mg、500mg、600mg、800mg及び1,000mgが注目される。PO投与後のヒトにおけるエラセストラントの驚くべきほど長い半減期は、この選択肢を特に見込みのあるものにする。従って、薬物は、1日2回200mg(1日当たり全部で400mg)、1日2回250mg(1日当たり全部で500mg)、1日2回300mg(1日当たり全部で600mg)、1日2回400mg(1日当たり800mg)又は1日2回500mg(1日当たり全部で1,000mg)として投与され得る。いくつかの態様において、投与は経口である。
【0042】
本明細書に開示される方法の特定の態様において、エラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩は、好ましくは、約15以上、約18以上、約19以上、約20以上、約25以上、約28以上、約30以上、約33以上、約35以上、又は約40以上のT/P(腫瘍中のエラセストラント濃度/血漿中のエラセストラント濃度)比で腫瘍に蓄積する。
【0043】
エラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩は、被験体に1回又は複数回投与され得る。化合物が複数回投与されるこれらの態様では、該化合物は、一定の間隔、例えば、毎日、隔日、毎週、又は毎月投与され得る。あるいは、該化合物は、例えば、症状、患者の健康状態等に基づいて、必要に応じての基準で、不規則な間隔で投与され得る。
【0044】
製剤
いくつかの態様において、エラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩は、単一製剤の一部として投与される。例えば、エラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩は、経口投与用の単一の丸剤又は注射用の単一用量で製剤化される。特定の態様において、単一製剤における化合物の投与は、患者のコンプライアンスを改善する。
【0045】
いくつかの態様において、エラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩を含む製剤は、1つ以上の薬学的賦形剤、担体、アジュバント、及び/又は保存剤をさらに含み得る。
【0046】
現在開示される方法で用いるためのエラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩は、単位剤形に製剤化され得、これは、治療を受けている被験体のための単位投与量として適切な物理的に別々の単位を意味し、各単位は、任意に、適切な薬学的担体と共に、所望の治療効果を生じるように計算された活性材料の予め決定された量を含有する。単位剤形は、単一の1日用量又は複数の1日用量(例えば、1日当たり約1~4回又はそれ以上)のうちの1つについてであり得る。複数の1日用量が使用される場合、単位剤形は、各用量について同じであってもよく、又は異なっていてもよい。特定の態様において、化合物は、制御放出のために製剤化され得る。
【0047】
現在開示されている方法で用いるためのエラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩及び塩又は溶媒和物は、任意の利用可能な従来の方法に従って製剤化され得る。好ましい剤形の例としては、錠剤、散剤、細粒剤(subtle granule)、顆粒剤、被覆錠剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、眼軟膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤、ローション剤等が挙げられる。製剤化には、希釈剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、香味剤、及び必要な場合に安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤等のような一般的に用いられる添加剤を使用し得る。さらに、製剤化はまた、従来の方法に従って、一般に医薬製剤の原料として用いられる組成物を合わせることによって行われる。これらの組成物の例としては、例えば、(1)大豆油、牛脂、及び合成グリセリド等の油、(2)流動パラフィン、スクアラン、及び固形パラフィン等の炭化水素、(3)ミリスチン酸オクチルドデシル及びミリスチン酸イソプロピル等のエステル油、(4)セトステアリルアルコール及びベヘニルアルコール等の高級アルコール、(5)シリコン樹脂(silicon resin)、(6)シリコン油(silicon oil)、(7)ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、固形ポリオキシエチレンヒマシ油、及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー等の界面活性剤、(8)ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、及びメチルセルロース等の水溶性高分子、(9)エタノール及びイソプロパノール等の低級アルコール、(10)グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、及びソルビトール等の多価アルコール、(11)グルコース及びショ糖等の糖類、(12)無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、及びケイ酸アルミニウム等の無機粉末、並びに(13)精製水等が挙げられる。上記製剤で用いるための添加剤としては、例えば、1)希釈剤として、ラクトース、コーンスターチ、スクロース、グルコース、マンニトール、ソルビトール、結晶性セルロース(crystalline cellulose)、及び二酸化ケイ素、2)結合剤として、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、トラガカント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレングリコール-ポリオキシエチレン-ブロックコポリマー、メグルミン、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン等、3)崩壊剤として、デンプン、寒天、ゼラチン粉末、結晶性セルロース、炭酸カルシウム、重炭酸ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン、カルボキシメチルセルロース/カルシウム等、4)滑沢剤として、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、濃縮植物油(condensed plant oil)等、5)添加が薬学的に許容され得る着色剤として十分である任意の着色剤、6)香味剤として、ココアパウダー、メントール、アロマタイザー(aromatizer)、ハッカ油、シナモンパウダー、並びに7)アスコルビン酸またはアルファ-トフェノール(tophenol)等の添加が薬学的に許容される抗酸化剤が挙げられ得る。
【0048】
現在開示されている方法で用いるためのエラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩は、本明細書に記載される活性化合物のうちの任意の1つ以上及び生理学的に許容され得る担体(薬学的に許容される担体又は溶液又は希釈剤とも称される)として医薬組成物に製剤化され得る。かかる担体及び溶液には、本発明の方法で使用された化合物の薬学的に許容され得る塩及び溶媒和物、並びにかかる化合物のうちの2つ以上、該化合物の薬学的に許容され得る塩、及び該化合物の薬学的に許容される溶媒和物を含む混合物が含まれる。かかる組成物は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 17th edition, ed. Alfonso R. Gennaro, Mack Publishing Company, Eaton, Pa. (1985)に記載されるような許容され得る薬学的手順に従って調製され、これは、参照により本明細書に援用される。
【0049】
「薬学的に許容され得る担体」という用語は、それが投与される患者においてアレルギー反応又は他の不都合な効果を生じず、製剤中の他の成分と適合性である担体を言う。薬学的に許容され得る担体は、例えば、意図される投与形態に関して適切に選択され、かつ従来の薬学的実務と一致する、薬学的希釈剤、賦形剤、又は担体を含む。例えば、固体担体/希釈剤としては、ガム、デンプン(例えば、コーンスターチ、アルファ化デンプン)、糖(例えば、ラクトース、マンニトール、スクロース、デキストロース)、セルロース系材料(cellulosic material)(例えば微結晶セルロース)、アクリレート(例えばポリメチルアクリレート)、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タルク、又はこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。薬学的に許容され得る担体は、治療剤の貯蔵寿命又は有効性を増強する湿潤剤又は乳化剤、保存剤或いは緩衝剤等の少量の補助物質をさらに含み得る。
【0050】
遊離形態のエラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩は、従来の方法によって塩に変換され得る。本明細書で使用される「塩」という用語は、塩がエラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩と共に形成され、薬理学的に許容され得る限り、限定されず;塩の好ましい例としては、ハロゲン化水素酸塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩等)、無機酸性塩(例えば、硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、炭酸塩、重炭酸塩等)、有機カルボン酸塩(例えば、酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩等)、有機スルホン酸塩(例えば、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩等)、アミノ酸塩(例えば、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等)、第4級アンモニウム塩、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(マグネシウム塩、カルシウム塩等)等が挙げられる。加えて、塩酸塩、硫酸塩、メタンスルホン酸塩、酢酸塩等は、本発明に従って化合物の「薬理学的に許容され得る塩」として好ましい。
【0051】
エラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩の異性体(例えば、幾何異性体、光学異性体、回転異性体(rotamer)、互変異性体等)は、例えば、再結晶化、ジアステレオマー塩法等の光学分割、酵素分画法、様々なクロマトグラフ法(例えば、薄層クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー、ガラスクロマトグラフィー(glass chromatography)等)を含む一般的な分離手段を用いて、単一異性体に精製し得る。本明細書において「単一異性体」という用語は、100%の純度を有する異性体だけでなく、従来の精製操作によってでさえ存在する、標的物以外の異性体を含む異性体も含む。結晶多形は、時々、エラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩及び/又はフルベストラントについて存在し、その全ての結晶多形は、本発明に含まれる。結晶多形は、時々、単一であり、時々、混合物であり、その両方が、本明細書に含まれる。
【0052】
特定の態様では、エラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩は、プロドラッグ形態であり得、これは、その活性型を達成するために、いくつかの変化(例えば、酸化又は加水分解)を経験しなければならないことを意味する。あるいは、エラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩は、その活性型への親プロドラッグの変化によって生成される化合物であり得る。
【0053】
投与経路
エラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩の投与経路としては、局所投与、経口投与、皮内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、静脈内投与、膀胱内注入、皮下投与、経皮投与、及び経粘膜投与が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの態様において、投与経路は経口である。
【0054】
遺伝子プロファイリング
特定の態様では、本明細書に提供される腫瘍成長の抑制又は腫瘍退縮の方法は、被験体を遺伝子プロファイリングすることをさらに含み、プロファイリングされる遺伝子は、ABL1、AKT1、AKT2、ALK、APC、AR、ARID1A、ASXL1、ATM、AURKA、BAP、BAP1、BCL2L11、BCR、BRAF、BRCA1、BRCA2、CCND1、CCND2、CCND3、CCNE1、CDH1、CDK4、CDK6、CDK8、CDKN1A、CDKN1B、CDKN2A、CDKN2B、CEBPA、CTNNB1、DDR2、DNMT3A、E2F3、EGFR、EML4、EPHB2、ERBB2、ERBB3、ESR1、EWSR1、FBXW7、FGF4、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FLT3、FRS2、HIF1A、HRAS、IDH1、IDH2、IGF1R、JAK2、KDM6A、KDR、KIF5B、KIT、KRAS、LRP1B、MAP2K1、MAP2K4、MCL1、MDM2、MDM4、MET、MGMT、MLL、MPL、MSH6、MTOR、MYC、NF1、NF2、NKX2-1、NOTCH1、NPM、NRAS、PDGFRA、PIK3CA、PIK3R1、PML、PTEN、PTPRD、RARA、RB1、RET、RICTOR、ROS1、RPTOR、RUNX1、SMAD4、SMARCA4、SOX2、STK11、TET2、TP53、TSC1、TSC2、及びVHLからなる群から選択される1つ以上の遺伝子である。他の態様において、プロファイリングされる遺伝子は、AKT1、AKT2、BRAF、CDK4、CDK6、PIK3CA、PIK3R1、及びMTORからなる群から選択される1つ以上の遺伝子である。
【0055】
いくつかの態様では、本発明は、乳癌患者のサブ集団を治療する方法であって、該サブ集団が、上記に開示される遺伝子のうちの1つ以上の発現を増加する、方法を提供し、かつ本開示に記載される投与の態様に従って、有効用量のエラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩で該サブ集団を治療する方法を提供する。
【0056】
用量調節
エラセストラントの腫瘍成長を抑制する能力を確立することに加えて、エラセストラントは、子宮及び下垂体においてERへのエストラジオール結合を阻害する。これらの実験において、子宮及び下垂体の組織におけるERへのエストラジオール結合は、FES-PET画像化によって評価された。エラセストラントによる治療後、ER結合の観察されたレベルは、バックグラウンドレベルであった又はそのレベルを下回った。これらの結果は、ER活性へのエラセストラントの拮抗効果は、リアルタイムの走査を用いて評価され得ることを確立する。これらの結果に基づいて、1つ以上の標的組織においてエストラジオール-ER結合を測定することによって、本明細書に開示される併用療法においてエラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩での治療の効力(the efficacy of treatment elacestrant or solvates (e.g., hydrate) or salts thereof)をモニタリングするための方法が、本明細書に提供され、ここで、結合の減少又は消失が効力を示す。
【0057】
エストラジオール-ER結合に基づいて、本明細書に開示される併用療法において、エラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩の投与量を調節する方法が、さらに提供される。これらの方法の特定の態様では、結合は、第1の投与量の化合物の1つ以上の投与後のいくつかの時点で測定される。エストラジオール-ER結合が影響を及ぼさないか、又は予め決定された閾値を下回る減少(例えば、5%未満、10%未満、20%未満、30%未満、又は50%未満のベースラインに対する結合の減少)を示す場合、第1の投与量は、低すぎると見なされる。特定の態様では、これらの方法は、増加した第2の投与量の化合物を投与するさらなる工程を含む。エストラジオール-ER結合の所望の低下が達成されるまで、投与量を繰り返し増加させて、これらの工程を繰り返し得る。特定の態様では、これらの工程は、本明細書に提供される腫瘍成長を抑制する方法に組み込まれ得る。これらの方法において、エストラジオール-ER結合は、腫瘍成長の抑制の代用、又は成長の抑制を評価する補助手段としての役割を果たし得る。他の態様では、これらの方法は、例えば、癌細胞増殖の阻害を含む、腫瘍成長の抑制以外の目的のために、エラセストラント又はその溶媒和物(例えば水和物)若しくは塩の投与と併用して使用し得る。
【0058】
特定の態様では、併用療法において、エラセストラント又はその塩若しくは溶媒和物(例えば水和物)の投与量を調節するための本明細書に提供される方法は、
(1)第1の投与量のエラセストラント又はその塩若しくは溶媒和物(例えば水和物)(例えば、約350~約500又は約200~約600mg/日)を、3、4、5、6、又は7日間投与すること、
(2)エストラジオール-ER結合活性を検出すること、ここで、
(i)ER結合活性が、検出不可能である、若しくは予め決定された閾値レベルを下回る場合、第1の投与量の投与を継続する(すなわち、投与量レベルを維持する)、又は
(ii)ER結合活性が、検出可能である、若しくは予め決定された閾値レベルを上回る場合、第1の投与量よりも多い第2の投与量(例えば、第1の投与量+約50~約200mg)を3、4、5、6、若しくは7日間投与し、次いで、ステップ(3)に進む、
(3)エストラジオール-ER結合活性を検出すること、ここで、
(i)ER結合活性が、検出不可能である、若しくは予め決定された閾値レベルを下回る場合、第2の投与量の投与を継続する(すなわち、投与量レベルを維持する)、又は
(ii)ER結合活性が、検出可能である、若しくは予め決定された閾値レベルを上回る場合、第2の投与量よりも多い第3の投与量(例えば、第2の投与量+約50~約200mg)を3、4、5、6、若しくは7日間投与し、次いで、ステップ(4)に進むこと、
(4)ER結合活性が検出されなくなるまで、第4の投与量、第5の投与量等により、上記のステップを繰り返すこと、
を含む。
【0059】
特定の態様では、本発明は、ER感受性又はER耐性癌を検出及び/又はそれに投与するために、PET画像化の使用を含む。
【0060】
以下の実施例は、特許請求された発明をよりよく例証するために提供され、本発明の範囲を限定するとして解釈されるべきではない。特定の材料が言及される限り、それは、単に例証の目的のためであり、本発明を限定することを意図しない。当業者は、発明能力の行使なしで、かつ本発明の範囲を逸脱せずに、均等な手段又は反応物を開発し得る。多くの変形が、本明細書に記載される手順でなされ得るが、一方、依然として本発明の範囲内で維持されることを理解されよう。かかる変形が、本発明の範囲内に含まれることが本発明者らの意図である。
【実施例
【0061】
実施例
材料及び方法
試験化合物
以下の実施例に使用されるエラセストラントは、例えば、IRIX Pharmaceuticals,Inc.(Florence,SC)によって製造された(6R)-6-(2-(N-(4-(2-(エチルアミノ)エチル)ベンジル)-N-エチルアミノ)-4-メトキシフェニル)-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-2-オール二塩酸塩であった。エラセストラントは、乾燥粉末として保存され、脱イオン水中の0.5%(w/v)メチルセルロース中の均一の懸濁液として使用するために製剤化され、動物モデルについては、経口投与された。タモキシフェン、ラロキシフェン及びエストラジオール(E2)は、Sigma-Aldrich(St.Louis,MO)から得られ、皮下注射によって投与された。フルベストラントは、Tocris Biosciences(Minneapolis,MN)から得られ、皮下注射によって投与された。他の実験試薬は、別途記述がない限り、Sigma-Aldrichから購入した。
【0062】
PDXモデル
腫瘍を、無胸腺ヌードマウス(Nu(NCF)-Foxn1nu)に断片として接種した。CTG-1211(Champions Oncology)、ST2535(START)、及びWHIM43(Horizon)患者由来の異種移植片断片を、エストラジオールを補充していないマウスに移植した。全てのマウスを、明暗サイクル(人工光の12~14時間概日サイクル)並びに調節された室温及び湿度下で滅菌され埃のないベッディングコブ(bedding cob)を有し滅菌された食餌及び水への随意のアクセスのある個々に換気されたケージ中の病原体のいないハウジングに収容した。腫瘍をVernierカリパスを用いて2回/週測定した;体積を式:(L*W2)*0.52を使用して計算した。エラセストラントを、試験の継続期間の間、経口的に毎日投与した。フルベストラントを、1回/週皮下投与した。
【0063】
定量的リアルタイムPCR(RT-qPCR)
インビボ異種移植片モデル
試験の最後に、腫瘍を、cryoPREPTM Impactor (Covaris)で砕き、全RNAを、RNeasyミニキット(Qiagen)で抽出した。qPCRを、Taqman Fast Virus 1-Step Master Mix及びTaqManTMプローブ(Applied Biosystems)を使用して実施した。Ct値を、2-ΔΔCT法を使用して、内部対照としてGAPDHを用いてPgR(プロゲステロン受容体)mRNAの発現の相対的変化を評価するために分析した。
【0064】
インビトロ異種移植片モデル
処理の最後に、細胞を1-ステップCells-to-Ctキットからの溶解バッファを用いて溶解し、溶解物を製造業者の指示書に従って処理した。qPCRを1-ステップマスターミックス及びTaqManTMプローブ(Applied Biosystems)を使用して実施した。Ct値を、2-ΔΔCT法を使用して、内部対照としてGAPDHを用いてPgR(プロゲステロン受容体)mRNAの発現の相対的変化を評価するために分析した。
【0065】
薬剤効力
全ての試験について、0日目に開始して、腫瘍の寸法をデジタルカリパスにより測定し、個々及び平均の概算腫瘍体積(平均TV±SEM)を含むデータを、各群について記録した;腫瘍体積を、式(Yasui et al. Invasion Metastasis 17:259-269 (1997)、これは参照により本明細書に援用される):TV=幅2x長さx0.52を使用して計算した。各群又は試験を、概算群平均腫瘍体積が腫瘍体積(TV)終点(時間終点は60日であり;体積終点は群平均2cm3であった)に一旦達した場合に終了した;2cm3以上の腫瘍体積に達した個々のマウスを、試験から取り除き、最終測定を、平均が体積終点に達する又は試験が時間終点に達するまで、群平均に含めた。
【0066】
効力計算及び統計分析
%腫瘍成長抑制(%TGI)値を、単一の時点(対照群が腫瘍体積又は時間の終点に達したとき)で計算し、式(Corbett TH et al. In vivo methods for screening and preclinical testing. In: Teicher B, ed., Anticancer Drug Development Guide. Totowa, NJ: Humana. 2004: 99-123.):%TGI=1-Tf-Ti/Cf-Ciによる初期(i)及び最終(f)腫瘍測定を使用して、各治療群(T)対対照(C)について報告した。
【0067】
統計分析
統計分析をGraphPadPrism 7.0を使用して実施し、データを一般的に平均±SEM/SDとして表す。治療群の比較を、1元配置ANOVA統計分析を使用して実施し、該1元配置ANOVA統計分析をDunnett事後検定を用いて実施した。統計を:ns、有意でない;*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001;****p<0.0001)として表す。
【0068】
試料収集
終点において、腫瘍を取り出した。1つの断片を瞬間凍結し、別の断片を少なくとも24時間10%NBF中に配置し、ホルマリン固定しパラフィン包埋した(FFPE)。瞬間凍結した試料を-80℃で貯蔵し;FFPEブロックを室温で貯蔵した。
【0069】
ウエスタンブロット
細胞又は腫瘍を投与後採取し、タンパク質発現を、標準的実務及び以下の抗体を使用して分析した:ERa、PR、(Cell Signaling Technologies, Cat#13258; #3153)及びビンキュリン:Sigma-Aldrich, #v9131)。タンパク質発現を、AzureSpotソフトウェアを使用して定量し、ビンキュリン発現に対して標準化した。
【0070】
実施例
図1を参照すると、エラセストラントは、種々のESR1変異を含むインビトロモデル、例えば、Y537Sクローン1、Y537Sクローン2、D538Gクローン1、D538Gクローン2、及びS463Pクローン1癌細胞株において増殖及びERシグナル伝達を阻害することが示された。上の行に示される代表的な図は、Y537Sクローン1、Y537Sクローン2、D538Gクローン1、D538Gクローン2、及びS463Pクローン1変異癌細胞株についてビヒクル対照で処理された腫瘍細胞を可視化する。下の行に示される図は、100nMのエラセストラントで処理されたY537Sクローン1、Y537Sクローン2、D538Gクローン1、D538Gクローン2、及びS463Pクローン1腫瘍細胞を可視化する。
【0071】
ここで図2を参照すると、エラセストラントは、無胸腺ヌードマウス異種移植片モデルにおいて用量依存性の腫瘍成長の抑制及び腫瘍退縮を示した。図2において、マウス異種移植片モデルにおける経時的な平均+/-SEM腫瘍体積を、ビヒクル対照、エラセストラント(30、60、及び120mg/kg)及びフルベストラント(1mg/用量)で処置した。
【0072】
ここで図3A~3Cを参照すると、エラセストラントは、種々のESR1変異を含むインビトロモデルにおけるERシグナル伝達を阻害することが示され、ここで、代表的なヒストグラムは、インビトロの異種移植片モデルにおいて増殖マーカーの低減を示す。図3Aにおいて、プロゲステロン受容体(PgR)の対照に対する倍率変化は、ビヒクル対照、エラセストラント(10、100、及び1000nM)、E2(10pM)、及びフルベストラント(10、100、1000nM)で処理された野生型、S463P、D538G、及びY537S変異を有する腫瘍細胞モデルについて提供される。図3Bにおいて、エストロゲンにより調節される成長(GREB1)の対照に対する倍率変化が、ビヒクル対照、エラセストラント(10、100、及び1000nM)、E2(10pM)、及びフルベストラント(10、100、1000nM)で処理された野生型、S463P、D538G、及びY537S変異を有する腫瘍細胞モデルにおいて提供される。図3Cにおいて、トレフォイル因子1(TFF1)の対照に対する倍率変化が、ビヒクル対照、エラセストラント(10、100、及び1000nM)、E2(10pM)、及びフルベストラント(10、100、1000nM)で処理された野生型、S463P、D538G、及びY537S変異を有する腫瘍細胞モデルにおいて提供される。
【0073】
ここで図4A~4Cを参照すると、エラセストラントは、ESR1:D538G変異を含む複数のPDXモデルにおける腫瘍成長の用量依存性の抑制を示した。図4Aにおいて、ESR1:D538G変異を有するST2535-HI PDX 異種移植片(タモキシフェン、アロマターゼ阻害剤、及びフルベストラントで以前に処置された)を移植した無胸腺ヌードマウスにおける経時的な平均+/-SEM腫瘍体積を、ビヒクル対照及びエラセストラント(30及び60mg/kg)で処置した。図4Bにおいて、ESR1:D538G変異を有するCTG-1211-HI PDX異種移植片(タモキシフェン、アロマターゼ阻害剤、及びフルベストラントで以前に処置された)を移植した無胸腺ヌードマウスにおける経時的な平均+/-SEM腫瘍体積を、ビヒクル対照、エラセストラント(30及び60 mg/kg)、及びフルベストラント(3mg/用量)で処置した。図4Cにおいて、ESR1:D538G変異を有するWHIM43-HI PDX異種移植片(タモキシフェン、アロマターゼ阻害剤、及びフルベストラントで以前に処置された)を移植した無胸腺ヌードマウスにおける経時的な平均+/-SEM腫瘍体積を、ビヒクル対照、エラセストラント(30及び60mg/kg)及びフルベストラント(3mg/用量)で処置した。
【0074】
ここで図5A~5Fを参照すると、エラセストラントは、無胸腺ヌードマウス異種移植片モデルにおけるESR1:D538G変異を含むPDXモデルにおいてERを分解しERシグナル伝達を阻害することが示された。図5Aにおいて、ESR1:D538G変異を有するST2535-HI PDX異種移植片モデル(タモキシフェン、アロマターゼ阻害剤、及びフルベストラントで以前に処置された)におけるプロゲステロン受容体(PgR)mRNAレベルのビヒクル対照に対する倍率変化は、ビヒクル対照及びエラセストラント(30及び60mg/kg)で処置された。図5Bにおいて、ビヒクル対照及びエラセストラント(30及び60mg/kg)で処置されたESR1:D538G変異を有するST2535-HI PDX異種移植片モデルにおけるPgR発現を示すウエスタンブロットが例示される。図5Cにおいて、ESR1:D538G変異を有するCTG-1211-HI PDX異種移植片モデル(タモキシフェン、アロマターゼ阻害剤、及びフルベストラントで以前に処置された)におけるプロゲステロン受容体(PgR)mRNAレベルのビヒクル対照に対する倍率変化を、ビヒクル対照、エラセストラント(30及び60mg/kg)、及びフルベストラント(3mg/用量)で処置した。図5Dにおいて、ビヒクル対照、エラセストラント(30及び60mg/kg)、及びフルベストラントで処置したESR1:D538G変異を有するCTG-1211-HI PDX異種移植片モデルにおけるPgR発現を示すウエスタンブロットを例示する。図5Eにおいて、ESR1:D538G変異を有するWHIM43-HI PDX異種移植片モデル(タモキシフェン、アロマターゼ阻害剤、及びフルベストラントで以前に処置された)におけるプロゲステロン受容体(PgR)mRNAレベルのビヒクル対照に対する倍率変化を、ビヒクル対照、エラセストラント(30及び60mg/kg)、及びフルベストラント(3mg/用量)で処置した。図5Fにおいて、ビヒクル対照、エラセストラント(30及び60 mg/kg)、及びフルベストラントで処置されたESR1:D538G変異を有するWHIM43-HI PDX異種移植片モデルにおけるPgR発現を示すウエスタンブロットが例示される。
【0075】
ここで図6A~6Bを参照すると、エラセストラントは、ESR1:Y537S変異を含むST941-HI PDXモデルにおいて比較体(comparator)SERDより大きな腫瘍成長抑制を示した。図6Aにおいて、ESR1:Y537S変異を含むST941-HI PDXモデルにおける経時的な平均+/-SEM腫瘍体積を、ビヒクル対照、エラセストラント(10、30、及び60mg/kg) フルベストラント(3mg/用量、皮下、毎日)、serd1用量1、及びserd1用量2で処置した。図6Bにおいて、ESR1:Y537S変異を含むST941-HI PDXモデルにおける経時的な平均+/-SEM腫瘍体積を、ビヒクル対照、エラセストラント(10、30、及び60mg/kg) フルベストラント(3mg/用量)、serd2用量1、及びserd2用量2で処置した。
【0076】
ここで図7A~7Cを参照すると、エラセストラントは、ESR1:Y537S変異を含むST941-HI PDXモデルにおいて比較体SERDよりも大きな腫瘍成長抑制を示した。図7Aにおいて、ビヒクル対照、フルベストラント(3mg/用量)、エラセストラント(30mg/kg)、serd1用量1、serd1用量2、serd2用量1、及びserd2用量2で処置されたESR1:Y537S変異を含むST941-HI PDXモデルにおけるプロゲステロン受容体(PgR)mRNAレベルに関するビヒクル対照に対する倍率変化。図7Bにおいて、ウエスタンブロットが、ビヒクル対照、フルベストラント(3mg/kg)、エラセストラント(30mg/kg)、serd1用量1、及びserd1用量2で処置されたPgR発現を示すESR1:Y537S変異を含むST941-HI PDXモデルについて提供される。図7Cにおいて、ウエスタンブロットが、ビヒクル対照、フルベストラント(3mg/kg)、エラセストラント(30mg/kg)、serd2用量1、及びserd2用量2で処置されたPgR発現を示すESR1:Y537S変異を含むST941-HI PDXモデルについて提供される。
【0077】
図8A~8Bを参照すると、エラセストラント及びフルベストラント並びにこれらのそれぞれのインビトロ活性の評価が提供される。図8Aにおいて、インビトロ細胞生存能力(対照の%)が、ST941-HI PDX細胞株についてLog[濃度(μm)]に関して提供される。図8Bにおいて、プロゲステロン受容体(PgR)mRNAレベルのビヒクル対照に対する倍率変化が、PDX由来のインビトロST941-HI細胞株の処理に使用されたエラセストラント(0、10、100、及び1000nM)及びフルベストラント(0、10、100、及び1000nM)の濃度に関してプロットされる。
【0078】
図9A~9Bを参照すると、エラセストラント及びフルベストラント並びにこれらのそれぞれのインビボ活性の評価が提供される。図9Aにおいて、ESR1:Y537S変異を含むST941-HI PDXを移植したマウスにおける平均+/-SEM腫瘍体積が、時間並びにビヒクル対照、エラセストラント(10、30、及び60mg/kg)及びフルベストラント(3mg/用量)でのこれらの処置に関してプロットされる。図9Bにおいて、ST941-HI PDXモデルにおけるプロゲステロン受容体(PgR)mRNA発現の対照に対する倍率変化が、ビヒクル対照、フルベストラント(3mg/用量)、及びエラセストラント(10、30、及び60mg/kg)でのこれらの処置に関してプロットされる。
【0079】
ここで図10A~10Dを参照すると、エラセストラント及びフルベストラントは、さらなる腫瘍形成性変異を含むESR1変異PDXモデルにおいて部分的な効力を示す。図10Aにおいて、ビヒクル対照、エラセストラント(30、及び60mg/kg)及びフルベストラント(3mg/用量)で処置されたESR1:Y537Shom変異を有するWHIM20 PDX異種移植片を移植したマウスにおける経時的な平均+/-SEM腫瘍体積。図10Bにおいて、ビヒクル対照、エラセストラント(30及び60mg/kg)、及びフルベストラント(3mg/用量)で処置されたESR1:Y537Shom変異を有するWHIM20 PDX異種移植片におけるプロゲステロン受容体(PgR)のビヒクル対照に対する倍率変化が提供される。図10Cにおいて、ビヒクル対照、エラセストラント(30及び60mg/kg)、及びフルベストラント(3mg/用量)で処置されたESR1:Y537Shom変異を有するWHIM20 PDX異種移植片におけるトレフォイル因子1(TFF1)の対照に対する倍率変化が提供される。図10Dにおいて、ビヒクル対照、エラセストラント(30及び60mg/kg)、及びフルベストラント(3mg/用量)で処置されたESR1:Y537Shom変異を有するWHIM20 PDX異種移植片におけるエストロゲンにより調節される成長(GREB1)の対照に対する倍率変化が提供される。図10Eにおいて、PgR発現を示しかつビヒクル対照、フルベストラント(3mg/用量)、及びエラセストラント(30及び60mg/kg)で処置されたESR1:Y537Shom変異を有するWHIM20 PDX異種移植片のウエスタンブロットが提供される。
【0080】
他の態様
本開示において言及される全ての刊行物及び特許は、各個々の刊行物又は特許出願が具体的に及び個々に参照により援用されると示された場合と同程度に参照により本明細書に援用される。参照により援用された特許又は刊行物の任意のものにおける用語の意味が本開示において使用される用語の意味と矛盾する場合、本開示における用語の意味が支配すると意図される。さらに上記議論は、本発明の例示的な態様を単に開示及び記載する。当業者は、かかる議論並びに添付の図面及び特許請求の範囲から、種々の変更、改変及び変形(variation)が、以下の特許請求の範囲に規定される本発明の精神及び範囲から逸脱することなくその中においてなされ得ることを容易に認識する。
本発明の態様として以下のものが挙げられる。
項1
被験体に治療有効量のエラセストラント、又はその薬学的に許容され得る塩若しくは溶媒和物を投与する工程を含む、被験体において変異エストロゲン受容体α陽性癌を抑制及び分解する方法。
項2
変異エストロゲン受容体α陽性癌が、D538G、Y537X 1 、L536X 2 、P535H、V534E、S463P、V392I、E380Q及びその組み合わせ(式中:X 1 はS、N、又はCであり; X 2 はR又はQである)からなる群より選択される1つ以上の変異を含む、項1記載の方法。
項3
変異がY537Sである、項2記載の方法。
項4
変異がD538Gである、項2記載の方法。
項5
変異エストロゲン受容体α陽性癌が、抗エストロゲン、アロマターゼ阻害剤、及びその組み合わせからなる群より選択される薬物に対して耐性である、項1~4いずれか記載の方法。
項6
変異エストロゲン受容体α陽性癌が、乳癌、子宮癌、卵巣癌、及び下垂体癌からなる群より選択される、項1~5いずれか記載の方法。
項7
変異エストロゲン受容体α陽性癌が、進行性又は転移性乳癌である、項1~6いずれか記載の方法。
項8
変異エストロゲン受容体α陽性癌が乳癌である、項1~7いずれか記載の方法。
項9
被験体が閉経後の女性である、項1~8いずれか記載の方法。
項10
被験体が閉経前の女性である、項1~8いずれか記載の方法。
項11
被験体が、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)及び/又はアロマターゼ阻害剤(AI)での以前の治療後に再発又は進行した閉経後の女性である、項1~8いずれか記載の方法。
項12
エラセストラントを、約200mg/日~約500mg/日の用量で被験体に投与する、項1~11いずれか記載の方法。
項13
エラセストラントを、約200mg/日、約300mg/日、約400mg/日、又は約500mg/日の用量で被験体に投与する、項1~12いずれか記載の方法。
項14
エラセストラントを、被験体についての最大許容投与量である用量で被験体に投与する、項1~11いずれか記載の方法。
項15
ABL1、AKT1、AKT2、ALK、APC、AR、ARID1A、ASXL1、ATM、AURKA、BAP、BAP1、BCL2L11、BCR、BRAF、BRCA1、BRCA2、CCND1、CCND2、CCND3、CCNE1、CDH1、CDK4、CDK6、CDK8、CDKN1A、CDKN1B、CDKN2A、CDKN2B、CEBPA、CTNNB1、DDR2、DNMT3A、E2F3、EGFR、EML4、EPHB2、ERBB2、ERBB3、ESR1、EWSR1、FBXW7、FGF4、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FLT3、FRS2、HIF1A、HRAS、IDH1、IDH2、IGF1R、JAK2、KDM6A、KDR、KIF5B、KIT、KRAS、LRP1B、MAP2K1、MAP2K4、MCL1、MDM2、MDM4、MET、MGMT、MLL、MPL、MSH6、MTOR、MYC、NF1、NF2、NKX2-1、NOTCH1、NPM、NRAS、PDGFRA、PIK3CA、PIK3R1、PML、PTEN、PTPRD、RARA、RB1、RET、RICTOR、ROS1、RPTOR、RUNX1、SMAD4、SMARCA4、SOX2、STK11、TET2、TP53、TSC1、TSC2、及びVHLから選択される1つ以上の遺伝子の発現の増大を測定することにより治療について被験体を同定する工程をさらに含む、項1~14いずれか記載の方法。
項16
1つ以上の遺伝子が、AKT1、AKT2、BRAF、CDK4、CDK6、PIK3CA、PIK3R1、及びMTORから選択される、項15記載の方法。
項17
投与後の腫瘍中のエラセストラント又はその塩若しくは溶媒和物の濃度の、血漿中のエラセストラント又はその塩若しくは溶媒和物の濃度に対する比(T/P)は、少なくとも約15である、項1~16いずれか記載の方法。
項18
変異エストロゲン受容体αを有する被験体において薬物耐性のエストロゲン受容体α陽性癌を治療する方法であって、前記方法は:
被験体に治療有効量のエラセストラント、又はその薬学的に許容され得る塩若しくは溶媒和物を投与する工程
を含み、変異エストロゲン受容体αは、D538G、Y537X 1 、L536X 2 、P535H、V534E、S463P、V392I、E380Q及びその組み合わせ(式中:X 1 はS、N、又はCであり;X 2 はR又はQである)からなる群より選択される1つ以上の変異を含む、方法。
項19
癌が、抗エストロゲン、アロマターゼ阻害剤、及びその組み合わせからなる群より選択される薬物に対して耐性である、項18記載の方法。
項20
抗エストロゲンが、タモキシフェン、トレミフェン及びフルベストラントからなる群より選択され、アロマターゼ阻害剤が、エキセメスタン、レトロゾール及びアナストロゾールからなる群より選択される、項19記載の方法。
項21
薬物耐性のエストロゲン受容体α陽性癌が、乳癌、子宮癌、卵巣癌、及び下垂体癌からなる群より選択される、項18~20いずれか記載の方法。
項22
癌が進行性又は転移性乳癌である、項18~21いずれか記載の方法。
項23
癌が乳癌である、項18~21いずれか記載の方法。
項24
被験体が閉経後の女性である、項18~23いずれか記載の方法。
項25
被験体が閉経前の女性である、項18~23いずれか記載の方法。
項26
被験体が、SERM及び/又はAIでの以前の治療後に再発又は進行した閉経後の女性である、項18~23いずれか記載の方法。
項27
前記被験体が、D538G、Y537S、Y537N、Y537C、E380Q、S463P、L536R、L536Q、P535H、V392I及びV534Eからなる群より選択される少なくとも1つの変異エストロゲン受容体αを発現する、項18~26いずれか記載の方法。
項28
変異がY537Sを含む、項18~27いずれか記載の方法。
項29
変異がD538Gを含む、項18~28いずれか記載の方法。
項30
ABL1、AKT1、AKT2、ALK、APC、AR、ARID1A、ASXL1、ATM、AURKA、BAP、BAP1、BCL2L11、BCR、BRAF、BRCA1、BRCA2、CCND1、CCND2、CCND3、CCNE1、CDH1、CDK4、CDK6、CDK8、CDKN1A、CDKN1B、CDKN2A、CDKN2B、CEBPA、CTNNB1、DDR2、DNMT3A、E2F3、EGFR、EML4、EPHB2、ERBB2、ERBB3、ESR1、EWSR1、FBXW7、FGF4、FGFR1、FGFR2、FGFR3、FLT3、FRS2、HIF1A、HRAS、IDH1、IDH2、IGF1R、JAK2、KDM6A、KDR、KIF5B、KIT、KRAS、LRP1B、MAP2K1、MAP2K4、MCL1、MDM2、MDM4、MET、MGMT、MLL、MPL、MSH6、MTOR、MYC、NF1、NF2、NKX2-1、NOTCH1、NPM、NRAS、PDGFRA、PIK3CA、PIK3R1、PML、PTEN、PTPRD、RARA、RB1、RET、RICTOR、ROS1、RPTOR、RUNX1、SMAD4、SMARCA4、SOX2、STK11、TET2、TP53、TSC1、TSC2、及びVHLから選択される1つ以上の 遺伝子の発現の増大を測定することにより治療について被験体を同定する工程をさらに含む、項18~29いずれか記載の方法。
項31
1つ以上の遺伝子が、AKT1、AKT2、BRAF、CDK4、CDK6、PIK3CA、PIK3R1、及びMTORから選択される、項30記載の方法。
項32
エラセストラントを、約200~約500mg/日の用量で被験体に投与する、項18~31いずれか記載の方法。
項33
エラセストラントを、約200mg、約300mg、約400mg、又は約500mgの用量で被験体に投与する、項18~32いずれか記載の方法。
項34
エラセストラントを、約300mg/日の用量で被験体に投与する、項18~33いずれか記載の方法。
項35
投与後の腫瘍中のエラセストラント又はその塩若しくは溶媒和物の濃度の、血漿中のエラセストラント又はその塩若しくは溶媒和物の濃度に対する比(T/P)は、少なくとも約15である、項18~34いずれか記載の方法。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A-B】
図5C-D】
図5E-F】
図6
図7
図8
図9
図10A-D】
図10E