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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】コイルばね
(51)【国際特許分類】
   F16F 1/06 20060101AFI20240603BHJP
   F16F 1/02 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
F16F1/06 A
F16F1/02 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022073234
(22)【出願日】2022-04-27
(62)【分割の表示】P 2020570383の分割
【原出願日】2019-11-26
(65)【公開番号】P2022109282
(43)【公開日】2022-07-27
【審査請求日】2022-04-27
【審判番号】
【審判請求日】2023-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2019019754
(32)【優先日】2019-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山内 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】古瀬 武志
(72)【発明者】
【氏名】田中 怜
【合議体】
【審判長】中屋 裕一郎
【審判官】尾崎 和寛
【審判官】内田 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-107827(JP,A)
【文献】特開2013-36113(JP,A)
【文献】特開2005-138284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/02-1/06
B21F 11/00
B26D 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端末と、前記第1端末の反対側の第2端末とを有する金属製のワイヤにより形成されたコイルばねであって、
前記第1端末は、レーザ光の第1照射痕と、打痕とを有し、
前記第1照射痕は、前記ワイヤの母材よりも軟らかい第1熱影響部を含み、
前記第1熱影響部は、前記第1端末の端面の少なくとも一部に及んでおり、
前記第1照射痕は、前記第1端末における前記ワイヤの外周面の周方向における一部に形成され
前記第2端末は、打痕を有していない、
コイルばね。
【請求項2】
前記第2端末は、レーザ光の第2照射痕を有し、
前記第2照射痕は、前記母材よりも軟らかい第2熱影響部を含み、
前記第2熱影響部は、前記第2端末の端面の少なくとも一部に及んでおり、
前記第2照射痕は、前記第2端末における前記ワイヤの外周面の周方向における一部に形成されている、
請求項1に記載のコイルばね。
【請求項3】
第1端末と、前記第1端末の反対側の第2端末とを有する金属製のワイヤにより形成されたコイルばねであって、
前記第1端末は、レーザ光の第1照射痕と、打痕とを有し、
前記第1照射痕は、前記ワイヤの母材よりも軟らかい第1熱影響部を含み、
前記第1熱影響部は、前記第1端末の端面の少なくとも一部に及んでおり、
前記第2端末は、打痕を有しておらず、レーザ光の第2照射痕を有し、
前記第2照射痕は、前記母材よりも軟らかい第2熱影響部を含み、
前記第2熱影響部は、前記第2端末の端面の少なくとも一部に及んでおり、
前記第2照射痕は、前記第1照射痕よりも小さい、
コイルばね。
【請求項4】
第1端末と、前記第1端末の反対側の第2端末とを有する金属製のワイヤにより形成されたコイルばねであって、
前記第1端末は、レーザ光の第1照射痕と、打痕とを有し、
前記第1照射痕は、前記ワイヤの母材よりも軟らかい第1熱影響部を含み、
前記第1熱影響部は、前記第1端末の端面の少なくとも一部に及んでおり、
前記第1照射痕の全体が前記打痕と重なっており
前記第2端末は、打痕を有していない、
コイルばね。
【請求項5】
第1端末と、前記第1端末の反対側の第2端末とを有する金属製のワイヤにより形成されたコイルばねであって、
前記第1端末は、レーザ光の第1照射痕と、打痕とを有し、
前記第1照射痕は、前記ワイヤの母材よりも軟らかい第1熱影響部を含み、
前記第1熱影響部は、前記第1端末の端面の少なくとも一部に及んでおり、
前記第1照射痕は、前記打痕と重なる部分と、前記打痕と重ならない部分とを含
前記第2端末は、打痕を有していない、
コイルばね。
【請求項6】
第1端末と、前記第1端末の反対側の第2端末とを有するワイヤにより形成されたコイルばねであって、
前記第1端末は、レーザ光の第1照射痕と、打痕とを有し、
前記第1照射痕は、前記ワイヤの母材よりも軟らかい第1熱影響部を含み、
前記第1熱影響部は、前記第1端末の端面の少なくとも一部に及んでおり、
前記第1照射痕の全体が前記打痕と重なっていない、
コイルばね。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コイルばねに関する。
【背景技術】
【0002】
コイルばねを製造する装置として、例えば特許文献1に記載されているコイルばね成形機が知られている。このコイルばね成形機は、螺旋状に成形されるワイヤの長さに基づいて切断部位の位置を予め算出し、その切断部位を高周波加熱によって軟化させた状態でワイヤを切断する。
【0003】
一方、特許文献2に記載されているばね製造装置のように、螺旋状に成形されるワイヤをレーザ光により切断するコイリングマシンも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭62-50028号公報
【文献】特開平6-218476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のコイルばね成形機では、高周波加熱によって切断部位を加熱していることから、切断部位の加温の応答性が良くない。しかも、高周波加熱によって切断部位の加熱を継続している状態で切断することから、切断に用いる部材に高周波加熱の影響が及ぶことがある。さらに、高周波加熱は、切断部位の加熱の応答性が十分でないことや、ワイヤが部分的に加熱された状態でコイリングされることから、ばねの成形精度を一定に維持することが難しくなる虞がある。
【0006】
一方、特許文献2のばね製造装置では、ワイヤを切断することが可能な高出力のレーザ光が必要となる。この場合、レーザ光の照射に起因したスパッタが発生し得るし、レーザ光がワイヤだけでなくばね製造装置の各部にも照射され得るため、これらの対策を講じなければならない。
【0007】
本発明は、品質に優れたコイルばねを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るコイルばねは、第1端末と、前記第1端末の反対側の第2端末とを有する金属製のワイヤにより形成され、前記第1端末は、レーザ光の第1照射痕と、打痕とを有し、前記第1照射痕は、前記ワイヤの母材よりも軟らかい第1熱影響部を含み、前記第1熱影響部は、前記第1端末の端面の少なくとも一部に及んでいる。前記第1照射痕は、前記第1端末における前記ワイヤの外周面の周方向における一部に形成されている。さらに、前記第2端末は、打痕を有していない。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、品質に優れたコイルばねを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1実施形態に係るコイリングマシンの概略的な斜視図である。
図2図2は、図1のコイリングマシンの概略的な正面図である。
図3図3は、第1実施形態に係るコイリングマシンの動作に関するフローチャートである。
図4図4は、第1実施形態に係るコイリングマシンによりワイヤを螺旋状に成形する工程を示す概略的な斜視図である。
図5図5は、加熱ユニット(レーザ加熱機)によってワイヤの一部を加熱して軟化させる工程を示す概略的な斜視図である。
図6図6は、ワイヤの一部を加熱して軟化させる方法の第1例を示す斜視図である。
図7図7は、図6のVII-VII線に沿うワイヤの断面図である。
図8図8は、ワイヤの一部を加熱して軟化させる方法の第2例を示す斜視図である。
図9図9は、図8のIX-IX線に沿うワイヤの断面図である。
図10図10は、切断ユニットによってワイヤを切断する工程を示す概略的な斜視図である。
図11図11は、第2実施形態に係るコイリングマシンにおいてレーザ光が照射されたワイヤの概略的な断面図である。
図12図12は、カッタ、マンドレルおよびレーザ光の照射領域の好適な位置関係の一例を示す断面図である。
図13図13は、図12に示す状態からカッタを下降させてワイヤを切断した状態を示す断面図である。
図14図14は、ワイヤから切断されたコイルばねの概略的な側面図である。
図15図15は、第1照射痕、第2照射痕および打痕の第1例を示すコイルばねの概略的な断面図である。
図16図16は、第1照射痕、第2照射痕および打痕の第2例を示すコイルばねの概略的な断面図である。
図17図17は、第1照射痕、第2照射痕および打痕の第3例を示すコイルばねの概略的な断面図である。
図18図18は、図6に示した形状のレーザ光が照射された後のワイヤの概略的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、コイリングマシン、コイルばねの製造方法およびコイルばねに関するいくつかの実施形態につき、図面を参照しながら説明する。
【0012】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係るコイリングマシン100の要部を示す概略的な斜視図である。図2は、図1のコイリングマシン100の概略的な正面図である。図1および図2に示すように、X方向、Y方向、Z方向およびθ方向を定義する。X方向、Y方向およびZ方向は、互いに直交する。X方向は、ワイヤの送り出し方向である。Z方向は、コイルばねの螺旋が形成される方向である。θ方向は、コイルばねを構成するワイヤが巻かれる方向である。
【0013】
コイリングマシン100は、螺旋成形ユニット10と、加熱ユニット(レーザ加熱機20)と、切断ユニット30と、制御ユニット40とを備えている。
【0014】
螺旋成形ユニット10は、図1および図2に示すように、コイルばねの材料であるワイヤ1を送りながら螺旋状に成形する。このような螺旋成形ユニット10は、一対の駆動ローラ11、一対の従動ローラ12、ワイヤガイド13、第1成形ローラ14、第2成形ローラ15およびピッチツール16を備えている。
【0015】
各駆動ローラ11と各従動ローラ12は、隙間を介して対向している。各駆動ローラ11が回転すると、ワイヤ1を介して各従動ローラ12が回転する。各駆動ローラ11と各従動ローラ12によって挟み込まれたワイヤ1は、図1および図2に示すX方向に移動する。ワイヤガイド13には、ワイヤ1が挿入されている。ワイヤガイド13は、ワイヤ1がX方向に直進するようにガイドして、ワイヤ1を第1成形ローラ14に導く。
【0016】
第1成形ローラ14、第2成形ローラ15およびピッチツール16は、θ方向において順に配置され、かつ、上方から見た場合にZ方向に向かってこれらの位置が異なっている。第1成形ローラ14は、X方向に移動するワイヤ1を図1に示すY方向に円弧状に湾曲させながら移動させつつ、第2成形ローラ15に導く。第2成形ローラ15は、円弧状に移動するワイヤ1をさらに円弧状に湾曲させながら、ピッチツール16に導く。ピッチツール16によってガイドされたワイヤ1は、螺旋状に成形された状態で、図1に示すZ方向に移動する。
【0017】
レーザ加熱機20は、図2に示すように、螺旋状に成形されたワイヤ1の一部が加熱されるようにレーザ光を照射する。このレーザ光の照射により、ワイヤ1に他の部分よりも高温の加熱部位1Vが形成される。このようなレーザ加熱機20は、レーザ発振器21、光ファイバ22およびビームスポット調整器23を備えている。
【0018】
レーザ発振器21には、例えば、レーザ光を生成する半導体レーザを用いることができる。光ファイバ22は、レーザ発振器21で生成されたレーザ光をビームスポット調整器23まで伝送する。ビームスポット調整器23は、レーザ光のビーム形状を矩形や円形に調整する。ビームスポット調整器23としては、例えば、ビームホモジナイザなどの光学素子を用いることができる。
【0019】
レーザ加熱機20は、加熱部位1Vの温度を測定する測定器24をさらに備えてもよい。測定器24は、例えば、ワイヤ1の加熱部位1Vの温度を検出するセンサを備えている。測定器24は、切断ユニット30との干渉を避けるために、切断ユニット30の側方に設けられてもよい。測定器24は、後述するカッタ31との干渉を避けるために、カッタ31の作動と連動して、カッタ31から離れるように移動させる構成とすることもできる。測定器24による測定結果は、例えば、切断ユニット30によるワイヤ1の切断タイミングの制御に用いることができる。
【0020】
なお、測定器24は、必須の構成ではない。すなわち、測定器24を用いることなく、予めワイヤ1の切断に関する各種の条件を設定しておき、当該条件に基づいて切断ユニット30が加熱部位1Vを切断してもよい。
【0021】
レーザ加熱機20は、ビームスポット調整器23をワイヤ1の加熱部位1Vに接近および離間させる移動ステージをさらに備えてもよい。移動ステージは、例えば、直動ステージやロボットハンドによって構成することができる。ビームスポット調整器23の作動距離を十分に長く設定したり、切断ユニット30との干渉が回避できたりすれば、移動ステージを用いる必要はない。
【0022】
切断ユニット30は、図2に示すように、レーザ光の照射が停止された後においてレーザ光が照射される前よりも高温になっているワイヤ1の加熱部位1Vを切断する。このような切断ユニット30は、カッタ31およびマンドレル32を備えている。
【0023】
カッタ31は、第2成形ローラ15とピッチツール16との間であって、それらよりのY方向の上方に配置されている。カッタ31は、刃先がZ軸方向に沿う鋭利な切断刃を先端に有している。カッタ31は、図示せぬ直動ステージによってY方向に沿って上下に移動可能に構成されている。マンドレル32は、円弧状に配置された第1成形ローラ14、第2成形ローラ15およびピッチツール16の内側に配置されている。マンドレル32は、例えば図2に示すようにX-Y平面に沿う形状が半円状であり、Z方向に長尺に延びている。マンドレル32は、螺旋状に成形されたワイヤ1の内周面を円弧面の上方で支持する。
【0024】
制御ユニット40は、螺旋成形ユニット10、レーザ加熱機20および切断ユニット30を制御する。このような制御ユニット40は、コントローラ41を備えている。
【0025】
コントローラ41は、ROM(Read Only Memory)、CPU(Central Processing Unit)およびRAM(Random Access Memory)を含んでいる。ROMは、螺旋成形ユニット10、レーザ加熱機20および切断ユニット30を制御するためのコンピュータプログラムを格納している。CPUは、ROMに格納されているコンピュータプログラムを実行する。RAMは、CPUによるコンピュータプログラムの実行中に、当該コンピュータプログラムの実行に伴って発生する様々なデータを一時的に記憶する。
【0026】
続いて、本実施形態に係るコイリングマシン100を用いたコイルばね2の製造工程を、図3から図10を参照して説明する。
【0027】
図3は、コイリングマシン100の動作に関するフローチャートである。このフローチャートに示す動作は、主にコントローラ41がコンピュータプログラムを実行することにより実現される。コイリングマシン100によるコイルばね2の製造工程は、螺旋成形工程S01と、加熱工程S02と、切断工程S03とを含む。
【0028】
螺旋成形工程S01においては、ワイヤ1が螺旋状に成形される。螺旋成形工程S01が完了した後の加熱工程S02においては、ワイヤ1の一部にレーザ光が照射され、これによりワイヤ1に加熱部位1Vが形成される。加熱部位1Vは、ワイヤ1の他の部分(母材)よりも軟化した部分を含む。加熱工程S02が完了した後の切断工程S03においては、ワイヤ1の加熱部位1Vが切断される。
【0029】
図4は、螺旋成形工程S01の具体例を示すコイリングマシン100の概略的な斜視図である。螺旋成形工程S01において、螺旋成形ユニット10は、駆動ローラ11と従動ローラ12によってワイヤ1をX方向に直進させてワイヤガイド13に導く。ワイヤガイド13から導出されたワイヤ1は、第1成形ローラ14および第2成形ローラ15によって円弧状に成形される。円弧状に成形されたワイヤ1は、ピッチツール16によって所定のピッチの螺旋状に成形されるようにガイドされる。このような動作により、螺旋状のワイヤ1がZ方向に徐々に伸長する。
【0030】
図5から図9を参照して、加熱工程S02について説明する。図5は、加熱工程S02の具体例を示すコイリングマシン100の概略的な斜視図である。加熱工程S02において、レーザ加熱機20は、例えば螺旋状に成形されたワイヤ1のうちマンドレル32の端部の上方(カッタ31の下方)に位置する部分に対して直接的にレーザ光を照射する。このレーザ光のエネルギーによってワイヤ1の母材が加熱されるとともに軟化した加熱部位1Vが形成される。
【0031】
加熱工程S02の実行時には、螺旋成形ユニット10によるワイヤ1の送り出しが停止している。レーザ加熱機20は、例えば所定位置に固定的に配置されており、この位置から停止したワイヤ1の一部に向けてレーザ光を照射する。他の例として、上述の移動ステージをレーザ加熱機20が有する場合、レーザ加熱機20は、図5に示すようにビームスポット調整器23をワイヤ1に対して近づけてからレーザ光を照射してもよい。また、加熱工程S02の実行時に、螺旋成形ユニット10によるワイヤ1の送り出しを停止させず、コイリングによる切断位置の移動に追従してレーザ光の照射位置が移動するように、レーザ加熱機20の動きを制御してもよい。
【0032】
図6は、ワイヤ1の一部を加熱して軟化させる方法の第1例を示すワイヤ1の斜視図である。レーザ加熱機20は、ワイヤ1の表面にレーザ光L1を照射する。レーザ光L1は、ワイヤ1の幅方向に長尺なビームプロファイルを有している。このレーザ光L1が照射されたワイヤ1の照射領域1aやその周囲には、加熱部位1Vが形成される。
【0033】
図7は、図6におけるVII-VII線に沿うワイヤ1の断面図である。加熱部位1Vは、ワイヤ1の表面における照射領域1aの周囲だけでなく、ワイヤ1の内部にも及んでいる。この図の例において、ワイヤ1の幅方向におけるレーザ光L1の幅WD1は、ワイヤ1の直径Rよりも小さい。したがって、レーザ光L1のほとんどがワイヤ1に照射される。
【0034】
図8は、ワイヤ1の一部を加熱して軟化させる方法の第2例を示すワイヤ1の斜視図である。レーザ加熱機20は、ワイヤ1の表面にレーザ光L2を照射する。レーザ光L2は、例えば円形のビームプロファイルを有している。このレーザ光L2が照射されたワイヤ1の照射領域1aやその周囲には、第1例と同様に加熱部位1Vが形成される。
【0035】
図9は、図8におけるIX-IX線に沿うワイヤ1の断面図である。加熱部位1Vは、ワイヤ1の表面における照射領域1aの周囲だけでなく、ワイヤ1の内部にも及んでいる。例えば、レーザ光L2の幅WD2は、ワイヤ1の直径Rよりも十分に小さい。したがって、レーザ光L2のほとんどがワイヤ1に照射される。
【0036】
なお、図6ないし図9の例においては、Y方向と平行なレーザ光L1,L2がワイヤ1のY方向における上面に照射されているが、レーザ光L1,L2の照射方向はこれに限られない。例えば、レーザ光L1,L2は、Y方向と交差する方向からワイヤ1に照射されてもよい。また、レーザ光L1,L2は、ワイヤ1のY方向における下面に照射されてもよい。
【0037】
加熱部位1Vは、図7および図9に示した例よりもワイヤ1のより内部にまで及んでもよい。レーザ加熱機20が発するレーザ光の形状は、第1例および第2例に限られない。レーザ光は、ワイヤ1の1箇所にのみ照射されてもよいし、複数個所に照射されてもよい。
【0038】
第1例および第2例の双方において、加熱部位1Vは、ワイヤ1の母材がレーザ光のエネルギーにより溶融した溶融プールを含んでもよい。この場合において、溶融プールは、照射領域1aだけでなくその周囲に広がってもよい。
【0039】
図10を参照して、切断工程S03について説明する。図10は、切断工程S03の具体例を示すコイリングマシン100の概略的な斜視図である。切断工程S03は、レーザ光の照射が停止された後に実行される。切断工程S03においては、レーザ光が照射される前よりも高温になっているワイヤ1の加熱部位1Vが切断ユニット30により切断される。これにより、コイルばね2が製造される。
【0040】
具体的には、切断工程S03では、ワイヤ1のマンドレル32によって支持されている部分の近傍に向けてカッタ31を下降させる。このときカッタ31によって与えられる衝撃により、ワイヤ1が切断される。
【0041】
加熱部位1Vが溶融プールを含む場合、レーザ光の照射が停止してからカッタ31が動作するまでの間に当該溶融プールが凝固してもよい。また、カッタ31の動作後、カッタ31がワイヤ1の表面に接触した際に加熱部位1Vの熱がカッタ31により奪われることで溶融プールが凝固してもよい。このように、カッタ31の動作前あるいは動作中に溶融プールが凝固することで、溶融した金属がカッタ31に付着することを抑制できる。
【0042】
切断工程S03では、測定器24による加熱部位1Vの温度の測定結果に基づいてカッタ31を動作させることもできる。すなわち、レーザ光の照射の後、加熱部位1Vの温度が予め定められた目標温度まで低下した際にカッタ31が動作してもよい。上記目標温度は、例えば溶融した母材が凝固する温度であってもよい。もちろん、切断工程S03では、レーザ光の照射停止からカッタ31の動作開始までの遅延時間を予め定めておくことで、測定器24を用いることなく加熱部位1Vが切断されてもよい。
【0043】
切断されたコイルばね2は、第1端面51aを含む第1端末51と、第2端面52aを含む第2端末52とを有している。1つのコイルばね2が製造された後、上述の螺旋成形工程S01、加熱工程S02および切断工程S03が再度実行されて次のコイルばね2が製造される。そのため、第1端末51および第2端末52は、いずれも上述の各工程を経て切断されている。
【0044】
ワイヤを切断するために必要なせん断力は、ワイヤを加熱して昇温させる程低下する。また、ワイヤが融点に達していない場合であってもせん断力を低下させることができる。さらに、このような傾向はワイヤの直径によらない。一例として、カッタ31によりワイヤ1を切断する際に、加熱部位1Vの少なくとも一部の温度が500℃以上であることが好ましい。
【0045】
続いて、本実施形態に係るコイリングマシン100およびコイルばね2の製造方法の効果について説明する。本実施形態においては、螺旋状に成形されたワイヤ1の一部がレーザ光によって加熱され、レーザ光の照射が停止された後においてレーザ光が照射される前よりも高温になっている部位(加熱部位1V)が切断部品(カッタ31およびマンドレル32)により切断される。ワイヤ1が加熱されていれば切断に要するせん断力も小さくなる。したがって、本実施形態によればワイヤ1を容易に切断することができる。
【0046】
本実施形態のようにレーザ加熱機20を用いる場合、切断すべき部位をレーザ光によって選択的かつ急速に加熱することができる。レーザ加熱機20を用いる場合、レーザ発振器21の駆動電流の調整により、レーザ光を照射する部位に対する入熱量を任意に設定することができる。また、駆動電流の調整に速やかに追随してレーザ光の出力を上下させることができる。さらに、レーザ加熱機20によるレーザ光の照射を止めることで、加熱部位1Vを急速に自己冷却させることができる。なお、急速な自己冷却とは、冷却のための部材や装置を用いて積極的に加熱部位1Vを冷却しなくても、加熱部位1Vが急冷することを意味する。また、レーザ加熱機20は、ワイヤ1に対するレーザ光の照射角度を調整したり、レンズやミラーを用いたりすることによって、ワイヤ1におけるレーザ光の照射領域1aおよび加熱部位1Vを任意に設定することができる。したがって、レーザ加熱機20は、ワイヤ1の太さや材料および要求されているタクト等に合せて、ワイヤ1の任意の領域を高い応答性によって任意の温度に加熱することができる。
【0047】
また、本実施形態の構成によれば、高温で軟化している状態の加熱部位1Vを切断することから、カッタ31やマンドレル32が切断時にワイヤ1から受ける反力が低減される。このため、カッタ31およびマンドレル32の消耗や破損を抑制することができる。その結果、カッタ31およびマンドレル32の交換周期を従来よりも伸ばしてランニングコストを削減したり、カッタ31およびマンドレル32の材料に必要とされる耐摩耗性等の仕様を下げて従来よりも廉価にこれらを形成したりすることができる。また、カッタ31およびマンドレル32の交換に伴ってコイリングマシン100の稼働率が低下することを抑制できる。
【0048】
また、本実施形態の構成によれば、直径が相対的に太いワイヤ1を用いる場合であっても、切断に必要な時間を過剰に増大させることなく当該ワイヤ1を切断することができる。さらに、コイリングマシン100は、直径が相対的に太いワイヤ1を用いる場合であっても、カッタ31やマンドレル32に相対的に高い切断機能を与える必要がない。したがって、相対的に太いワイヤ1を用いる場合においても、量産性を保つことができるとともに、カッタ31やマンドレル32に必要なコストを抑制することができる。
【0049】
また、本実施形態においてはレーザ光の照射のみでワイヤ1を切断するのではなく、カッタ31をさらに用いてワイヤ1を切断する。このような構成によれば、レーザ光の強度を抑制することができる。すなわち、レーザ加熱機20は、ワイヤ1を切断するためではなく軟化させるためにレーザ光を照射することから、レーザ光のみでワイヤ1を切断する場合と比較してレーザ光の強度を低くすることができる。この結果、強いレーザ光をワイヤ1に照射する場合に生じ得るスパッタやドロスを抑制することができ、さらにアシストガスの吹き付けのための設備やコストが不要となる。したがって、製造されるコイルばね2の清浄度を保って洗浄を不要としたり、コイリングマシン100自体に付着したスパッタの除去に関するメンテナンスの作業等を軽減したりして、コイリングマシン100の稼働率を上げることができる。さらに、スパッタの除去に必要な吸引装置等の設備を簡略化したり、廃止したりすることができる。
【0050】
また、本実施形態の構成によれば、ワイヤ1に対するレーザ光の照射範囲を限定することができる。すなわち、レーザ加熱機20は、ワイヤ1を切断するためではなく軟化させるためにレーザ光を照射することから、切断が予定される位置の全面にレーザ光を照射する必要はなく、例えば図6ないし図9に示すようにワイヤ1の幅方向における一部に対してレーザ光を照射できればよい。具体的には、レーザ加熱機20は、例えば、図6および図8に示したように、ワイヤ1の幅方向における両端部を避けて中央部にレーザ光を照射することができる。この場合、ワイヤ1に対してレーザ光を照射する位置がずれたとしても、ワイヤ1の両端部からレーザ光がはみ出してワイヤ1へのレーザ光の照射量が不足したり、コイリングマシン100自体に熱的な影響を及ぼしたりすることを抑制できる。
【0051】
また、ワイヤ1に照射されるレーザ光がワイヤ1の反対側から漏れることも抑制できる。すなわち、レーザ加熱機20は、ワイヤ1を切断するためではなく軟化させるためにレーザ光を照射することから、ワイヤ1を貫通して分断するようにレーザ光を照射する必要がない。したがって、レーザ光によりワイヤを切断する従来のコイリングマシンと比較して、レーザ光の遮蔽のための構成を大幅に簡略化したり、廃止したりすることができる。
【0052】
また、本実施形態の構成によれば、特に、冷間加工によって螺旋状に成形された後のワイヤ1を加熱して切断する場合、温間加工の場合と比較して、コイルばね2の形状精度を高く保つことができる。
【0053】
仮にレーザ光のみによってワイヤ1を切断する場合、レーザ光の強度を相対的に高める必要があることから、第1端面51aおよび第2端面52aを平らに形成することは難しい。また、レーザ光を用いずにカッタのみによってワイヤ1を切断する場合、強いせん断力をワイヤ1に加える必要があることから各端面51a,52aに大きな凹凸が生じやすい。これらに対し、本実施形態においてはレーザ光の照射だけでなくカッタ31を用いてワイヤ1を切断することから、レーザ光の強度を低くかつカッタ31によるせん断力を小さくできるので、各端面51a,52aを平らに形成することが可能となる。結果として、品質に優れたコイルばね2を得ることができる。
【0054】
上述のようにカッタ31による切断時において加熱部位1Vが少なくとも部分的に500℃以上の温度に加熱されていれば、十分に軟化している(加工抵抗が十分に低減されている)高温の固体状態においてワイヤ1を切断することができる。ワイヤ1の材料として一般的な炭素鋼は、約500℃以上に加熱することによって引張強度(TS:Tensile Strength)が常温時の約1/2以下になり、カッタ31によって容易に切断することができる。
【0055】
上述のように加熱部位1Vに溶融プールが形成される場合には、加熱部位1Vをワイヤ1の深部まで到達させることができる。これにより、ワイヤ1が深部まで軟化し、カッタ31による切断が一層容易になる。
以上の他にも、本実施形態からは種々の好適な効果を得ることができる。
【0056】
[第2実施形態]
第2実施形態について説明する。本実施形態においては主に、上述のコイリングマシン100を用いてワイヤ1を切断するにあたっての好適な条件を開示する。コイリングマシン100の構成や、コイリングマシン100によるコイルばねの製造方法の流れは、第1実施形態と同様である。
【0057】
図11は、レーザ光が照射されたワイヤ1の概略的な断面図である。ここでは、図8に示した形状のレーザ光(L2)がワイヤ1の表面に照射され、溶融プールが形成される場合を想定する。図中のOは、ワイヤ1の外周面におけるレーザ光の照射領域の中心を示す。一例として、この照射中心Oは、レーザ光のビームプロファイルにおいて最も高強度のピーク部分が照射される位置に相当する。また、照射中心Oは、溶融プールの中心と考えることもできる。
【0058】
上述の通り、レーザ光がワイヤ1に照射されると加熱部位1Vが形成される。レーザ光の照射中あるいは照射直後においては、照射中心Oの周囲に溶融プールが形成される。その後の冷却により、溶融プールが凝固して焼入硬化部1Cが形成される。溶融プールの周囲には、溶融はしていないがレーザ光の照射時の熱によりワイヤ1の母材から特性が変化した熱影響部1H(HAZ:Heat Affected Zone)が形成される。このように、加熱部位1Vは、焼入硬化部1Cおよび熱影響部1Hを含む。
【0059】
図11においては、焼入硬化部1C、熱影響部1Hおよびワイヤ1の母材のそれぞれについてビッカース硬さ[HV]を測定した結果を示している。焼入硬化部1Cは、全体的に母材に比べて大きい硬さを有している。一方、熱影響部1Hは、全体的に母材に比べて小さい硬さを有している。熱影響部1Hの硬さは、焼入硬化部1Cの近傍から母材に向けて徐々に大きくなる。
【0060】
このように、加熱部位1Vにおいても硬さの分布が一様でない。そのため、カッタ31およびマンドレル32の位置と、レーザ光の照射領域との関係を適切に定める必要がある。
【0061】
図12は、カッタ31、マンドレル32およびレーザ光の照射領域の好適な位置関係の一例を示す断面図である。上述の螺旋成形工程S01においては、螺旋状に成形されたワイヤ1がカッタ31とマンドレル32の間に送られる。ワイヤ1の送り方向(θ方向)において、カッタ31の端部31aとマンドレル32の端部32aの間には、クリアランスGが設けられている。以下、θ方向におけるクリアランスGの中心を、クリアランス中心Cと呼ぶ。
【0062】
図12の例においては、クリアランス中心Cと照射中心Oとがθ方向にずれている。具体的には、照射中心Oは、クリアランス中心Cよりもカッタ31側(θ方向の下流側)に位置している。
【0063】
図12の例において、加熱部位1Vは、凝固後に上述の焼入硬化部1Cとなる溶融プール1Pを含む。例えば、溶融プール1Pは、クリアランス中心Cと重なっている。また、溶融プール1Pは、カッタ31の端部31aとY方向において重なっている。
【0064】
一方で、溶融プール1Pは、マンドレル32の端部32aとY方向において重なっていない。図12の例においては、マンドレル32の端部32aと、熱影響部1Hのうち溶融プール1Pよりもθ方向の上流側に位置する部分とがY方向において重なっている。
【0065】
図13は、図12に示す状態からカッタ31をY方向に下降させてワイヤ1を切断した状態を示す断面図である。上述のように、カッタ31によってワイヤ1を切断する際には、既に溶融プール1Pが凝固しているか、あるいはカッタ31との接触により熱が奪われて溶融プール1Pが凝固する。したがって、切断中には焼入硬化部1Cが形成されている。なお、切断に際し、加熱部位1Vの内部に溶融プール1Pが一部残存していてもよい。
【0066】
マンドレル32の端部32aから突出したワイヤ1の外周面に対してカッタ31の先端部が衝撃を与えると、加熱部位1Vとその周囲にせん断力が加わり、ワイヤ1が破断する。カッタ31は、例えば最大でワイヤ1の軸付近まで降下する。切断されたワイヤ1、すなわちコイルばね2には、カッタ31による打痕B(凹部)が形成される。図13の例においては、焼入硬化部1Cおよび熱影響部1Hが打痕Bと重なっているが、これらが互いにずれていてもよい。
【0067】
上述のように、熱影響部1Hは、焼入硬化部1Cおよびワイヤ1の母材よりも軟らかい。そのため、カッタ31がワイヤ1に衝撃を与えた際に、加熱部位1Vにおいては熱影響部1Hが破断しやすい。特に、図12に示したように照射中心Oがクリアランス中心Cよりもカッタ31側にずれていれば、熱影響部1Hのうち溶融プール1Pよりもθ方向の上流側に位置する部分に効果的に負荷を与え、当該部分に沿ってワイヤ1を破断させることができる。
【0068】
図14は、図12および図13に示した方法でワイヤ1から切断されたコイルばね2の概略的な側面図である。コイルばね2は、第1端面51aを含む第1端末51と、第2端面52aを含む第2端末52とを有している。
【0069】
第1端面51aは、図13においてワイヤ1から切り離されたコイルばね2の破断面に相当する。第1端末51は、レーザ光の第1照射痕M1と、カッタ31の打痕Bとを有している。第1照射痕M1は、焼入硬化部1Cおよび熱影響部1H(第1熱影響部)を含む。
【0070】
第2端面52aは、このコイルばね2の前に製造されるコイルばね2を切り離した際に、マンドレル32の上方に残されたワイヤ1の破断面に相当する。第2端末52は、レーザ光の第2照射痕M2を有している。第2照射痕M2は、熱影響部1H(第2熱影響部)を含む。図13に示したようにワイヤ1が切断された場合、第2照射痕M2は焼入硬化部1Cを含まない。ただし、第2照射痕M2は、例えば第1照射痕M1よりも少量の焼入硬化部1Cを含んでもよい。
【0071】
第1照射痕M1に含まれる熱影響部1Hは、第1端面51aの少なくとも一部に及んでいる。また、第2照射痕M2に含まれる熱影響部1Hは、第2端面52aの少なくとも一部に及んでいる。一方で、第1照射痕M1に含まれる焼入硬化部1Cは、第1端面51aに及んでいない。ただし、焼入硬化部1Cの一部が第1端面51aに及んでいてもよい。この場合、第1端面51aにおいて、焼入硬化部1Cの面積が熱影響部1Hの面積より小さいことが好ましい。
【0072】
続いて、第1照射痕M1、第2照射痕M2および打痕Bの位置関係につき、いくつかの態様を例示する。
図15は、第1照射痕M1、第2照射痕M2および打痕Bの第1例であり、第1端末51および第2端末52の各々におけるコイルばね2の概略的な断面図を示している。図中左側に示す断面は、図14におけるCA-CA線に沿う第1端末51の断面に相当する。図中右側に示す断面は、図14におけるCB-CB線に沿う第2端末52の断面に相当する。第1端末51および第2端末52の各々において、図中上方の面はコイルばね2の外周面2aであり、図中下方の面はコイルばね2の内周面2bである。
【0073】
図中の破線矢印は、加熱時におけるレーザ光の照射方向D1を表す。実線矢印は、切断時におけるカッタ31の移動方向D2を表す。この図の例においては、照射方向D1および移動方向D2がいずれも図中の上方から各端末51,52に向かっている。ただし、図15に示す断面とは異なる方向から各端末51,52を見た場合に、これら方向D1,D2が交差していてもよい。
【0074】
図中左側に示す第1端末51において、第1照射痕M1は、焼入硬化部1Cおよび熱影響部1Hを含む。また、第1照射痕M1の表面全体が打痕Bと重なっている。図中右側に示す第2端末52において、第2照射痕M2は、熱影響部1Hを含み、焼入硬化部1Cを含んでいない。また、第2端末52には打痕Bが形成されていない。第1照射痕M1、第2照射痕M2および打痕Bは、いずれも外周面2aに形成されている。
【0075】
図16は、第1照射痕M1、第2照射痕M2および打痕Bの第2例であり、図15と同じく第1端末51および第2端末52の各々におけるコイルばね2の概略的な断面図を示している。この図の例においては、照射方向D1と移動方向D2が鋭角(例えば40度)を成している。そのため、第1端末51においては、第1照射痕M1が打痕Bと重なる部分と打痕Bと重ならない部分を含んでいる。このような構成の場合、切断時にカッタ31が加熱部位1V以外の硬い部分(母材)にも触れるので、第1例に比べて打痕Bを小さくできる。
【0076】
図17は、第1照射痕M1、第2照射痕M2および打痕Bの第3例であり、図15と同じく第1端末51および第2端末52の各々におけるコイルばね2の概略的な断面図を示している。この図の例においては、照射方向D1と移動方向D2が互いに反対方向である。第1照射痕M1および第2照射痕M2は、内周面2bに形成されている。打痕Bは、外周面2aに形成されている。第1端末51においては、第1照射痕M1の全体が打痕Bと重なっていない。このような構成の場合、切断時にカッタ31が加熱部位1Vに触れないので、第2例に比べて打痕Bをさらに小さくできる。
【0077】
以上の他にも、第1照射痕M1、第2照射痕M2および打痕Bは種々の態様で形成され得る。例えば、打痕Bは、第1端末51だけでなく、第2端末52に及んでもよい。この場合において、第2端末52の打痕Bは、第1端末51の打痕Bより小さくてもよい。
【0078】
なお、ここまでは図8に示した形状のレーザ光(L2)がワイヤ1に照射される場合を想定したが、図6に示した形状のレーザ光(L1)がワイヤ1に照射される場合であっても同様の構成を適用できる。
【0079】
図18は、図6に示した形状のレーザ光が照射された後のワイヤ1の概略的な平面図である。レーザ光の照射中心Oは、ワイヤ1の軸方向と直交する方向に延びている。したがって、このレーザ光の照射により形成される加熱部位1Vにおいて、溶融プール1P(または凝固後の焼入硬化部1C)は、ワイヤ1の幅方向に長尺な形状を有している。同様に、焼入硬化部1Cの周囲の熱影響部1Hは、ワイヤ1の幅方向に長尺な形状を有している。図18の例においては、熱影響部1Hがワイヤ1の幅方向における一端から他端まで広がっているが、この例に限られない。
【0080】
このような加熱部位1Vが形成されたワイヤ1の切断に際して、照射中心Oをクリアランス中心Cよりもカッタ31側(図中左側)にずらすことにより、照射中心Oとクリアランス中心Cの間に距離Dを設ける。図18の例においては、クリアランス中心Cが溶融プール1Pと重なっている。また、マンドレル32の端部32aが熱影響部1Hのうち溶融プール1Pよりもθ方向の上流側に位置する部分と重なっている。
【0081】
このような状態でカッタ31によりワイヤ1を切断すると、図12および図13の例と同じく熱影響部1Hのうち溶融プール1Pよりもθ方向の上流側に位置する部分に効果的にせん断力を与え、当該部分を破断させることができる。
【0082】
以上説明したように、本実施形態においては、照射中心Oとクリアランス中心Cとをずらすことにより、他の部分に比べて軟らかい熱影響部1Hにおいてワイヤ1を破断させることができる。この場合、例えば焼入硬化部1Cでワイヤ1を破断させる場合に比べ、ワイヤ1のせん断力を小さくすることができる。
【0083】
なお、発明者らは、照射中心Oとクリアランス中心Cを一致させた場合、照射中心Oをクリアランス中心Cよりもカッタ31側にずらした場合、照射中心Oをクリアランス中心Cよりもマンドレル32側にずらした場合の各々につきワイヤ1を切断する実験を複数回にわたって行った。その結果、照射中心Oをクリアランス中心Cよりもカッタ31側にずらした場合の破断面が最も平坦となり、次いで照射中心Oとクリアランス中心Cを一致させた場合の破断面が平坦となった。この結果から、本実施形態のように照射中心Oをクリアランス中心Cよりもカッタ31側にずらすことで、より平坦な第1端面51aおよび第2端面52aを有するコイルばね2を得られることが分かる。
【0084】
ワイヤ1を螺旋状に成形してさらにカッタ31によりワイヤ1を切断する場合、コイルばね2の第1端面51aおよび第2端面52aには一定の残留応力が発生する。このような残留応力は、各端面51a,52aの割れの原因となる。また、コイルばね2を通電により昇温させる工程を経れば残留応力を除去し得る。ただし、この手法においてはコイルばね2の端末の温度が上昇しづらいので、種々の工夫を凝らす必要がある。
【0085】
この点に関し、本実施形態のような条件でワイヤ1を切断して製造されたコイルばね2においては、第1端面51aおよび第2端面52aに熱影響部1Hが広範囲に及んでいる。この場合、熱影響部1Hが他の部分に比べて軟らかいことから、残留応力が低減される。また、上述のような残留応力を除去するための工程も省略することができる。
【0086】
図18に示した例においては、熱影響部1Hがワイヤ1の幅方向における一端から他端まで広がっている。この場合においては、破断面のより広い範囲に熱影響部1Hが及ぶ。したがって、各端面51a,52aの割れを抑制する効果をより顕著に得ることができる。
【0087】
なお本発明を実施するに当たり、コイリングマシン100が備える各要素の構成や配置等の態様を必要に応じて種々に変更して実施できることは言うまでもない。
【0088】
各実施形態においては、コイリングマシン100がカッタ31を用いてワイヤ1の加熱部位1Vを切断する構成を例示した。コイリングマシン100は、このような構成に限定されることなく、回転鋸刃を用いた切削によってワイヤ1の加熱部位1Vを切断してもよい。
【0089】
コイリングマシン100によって製造されるコイルばね2の形態は様々であり、例えばコイル径とピッチがコイルばねの軸線方向に変化していてもよい。すなわち、コイリングマシン100によって製造されるコイルばね2は、円筒コイルばねをはじめとして、たる形コイルばね、鼓形コイルばね、テーパコイルばね、不等ピッチコイルばね、マイナスピッチの部分を有するコイルばね等など、様々な形態のコイルばねであってもよい。
【0090】
[付記]
原出願の特許請求の範囲の記載を以下に付記する。
[請求項1]
螺旋状に成形されたワイヤに対してレーザ光を照射することにより前記ワイヤの一部を加熱するレーザ加熱機と、
前記レーザ光の照射が停止された後において、前記レーザ光が照射される前よりも高温になっている前記ワイヤの部位を切断する切断部品と、
を備えるコイリングマシン。
[請求項2]
前記切断部品は、500℃以上に加熱された前記ワイヤの前記部位を切断する、
請求項1に記載のコイリングマシン。
[請求項3]
前記レーザ加熱機は、前記ワイヤに前記レーザ光を照射することにより、前記ワイヤに溶融プールとその周囲の熱影響部とを形成し、前記ワイヤの前記熱影響部を切断する、
請求項1に記載のコイリングマシン。
[請求項4]
前記切断部品は、
螺旋状に成形された前記ワイヤの内周面を支持するマンドレルと、
前記マンドレルの端部から突出した前記ワイヤの外周面に対して衝撃を与えて前記ワイヤを切断するカッタと、
を備える、請求項1に記載のコイリングマシン。
[請求項5]
前記カッタと前記マンドレルの前記端部との間には、前記ワイヤの送り方向においてクリアランスが設けられ、
前記カッタが前記ワイヤに対して衝撃を与える際に、前記クリアランスの中心と、前記ワイヤにおける前記レーザ光の照射領域の中心とが前記送り方向においてずれている、
請求項4に記載のコイリングマシン。
[請求項6]
前記照射領域の中心は、前記送り方向において前記クリアランスの中心よりも前記カッタ側に位置する、
請求項5に記載のコイリングマシン。
[請求項7]
前記レーザ加熱機は、前記ワイヤに前記レーザ光を照射することにより、前記ワイヤに溶融プールとその周囲の熱影響部とを形成し、
前記カッタが前記ワイヤに対して衝撃を与える際に、前記マンドレルの前記端部と、前記熱影響部のうち前記溶融プールよりも前記送り方向の上流側に位置する部分とが前記カッタの移動方向において重なる、
請求項6に記載のコイリングマシン。
[請求項8]
螺旋状に成形されたワイヤに対してレーザ光を照射し、前記ワイヤの一部を加熱することと、
前記レーザ光の照射が停止された後において、前記レーザ光が照射される前よりも高温になっている前記ワイヤの部位を切断することと、
を含むコイルばねの製造方法。
[請求項9]
前記ワイヤの前記部位を切断する際に、前記部位が500℃以上に加熱されている、
請求項8に記載のコイルばねの製造方法。
[請求項10]
螺旋状に成形された前記ワイヤの内周面を支持するマンドレルとカッタの間に前記ワイヤを送ることと、
前記ワイヤの切断に際し、前記マンドレルの端部から突出した前記ワイヤの外周面に対して衝撃を与えることと、
をさらに含む、請求項8に記載のコイルばねの製造方法。
[請求項11]
前記カッタと前記マンドレルの前記端部との間には、前記ワイヤの送り方向においてクリアランスが設けられ、
前記カッタが前記ワイヤに対して衝撃を与える際に、前記クリアランスの中心と、前記ワイヤにおける前記レーザ光の照射領域の中心とが前記送り方向においてずれている、
請求項10に記載のコイルばねの製造方法。
[請求項12]
前記照射領域の中心は、前記送り方向において前記クリアランスの中心よりも前記カッタ側に位置する、
請求項11に記載のコイルばねの製造方法。
[請求項13]
前記ワイヤに前記レーザ光が照射されることにより、前記ワイヤに溶融プールとその周囲の熱影響部とが形成され、
前記カッタが前記ワイヤに対して衝撃を与える際に、前記マンドレルの前記端部と、前記熱影響部のうち前記溶融プールよりも前記送り方向の上流側に位置する部分とが前記カッタの移動方向において重なる、
請求項12に記載のコイルばねの製造方法。
[請求項14]
第1端末と、前記第1端末の反対側の第2端末とを有するワイヤにより形成されたコイルばねであって、
前記第1端末は、レーザ光の第1照射痕を有し、
前記第1照射痕は、前記ワイヤの母材よりも硬い焼入硬化部と、前記母材よりも軟らかい前記焼入硬化部の周囲の第1熱影響部と、を含み、
前記第1熱影響部は、前記第1端末の端面の少なくとも一部に及んでいる、
コイルばね。
[請求項15]
前記第2端末は、前記第1照射痕よりも小さいレーザ光の第2照射痕を有し、
前記第2照射痕は、前記母材よりも軟らかい第2熱影響部を含み、
前記第2熱影響部は、前記第2端末の端面の少なくとも一部に及んでいる、
請求項14に記載のコイルばね。
[請求項16]
前記第1端末は、前記第1照射痕と重なる打痕を外周面に有している、
請求項14に記載のコイルばね。
【符号の説明】
【0091】
1…ワイヤ、1V…加熱部位、1P…溶融プール、1C…焼入硬化部、1H…熱影響部、2…コイルばね、10…螺旋成形ユニット、11…駆動ローラ、12…従動ローラ、13…ワイヤガイド、14…第1成形ローラ、15…第2成形ローラ、16…ピッチツール、20…レーザ加熱機、21…レーザ発振器、22…光ファイバ、23…ビームスポット調整器、24…測定器、30…切断ユニット、31…カッタ、32…マンドレル、40…制御ユニット、41…コントローラ、51…第1端末、51a…第1端面、52…第2端末、52a…第2端面、100…コイリングマシン、L1,L2…レーザ光、S01…螺旋成形工程、S02…加熱工程、S03…切断工程、M1…第1照射痕、M2…第2照射痕、B…打痕。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18