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特許7497394切り花の殺菌処理による灰色かび病の殺菌処理後の病斑抑制方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】切り花の殺菌処理による灰色かび病の殺菌処理後の病斑抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/00 20060101AFI20240603BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20240603BHJP
   A01N 25/06 20060101ALI20240603BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20240603BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240603BHJP
   A61L 2/20 20060101ALI20240603BHJP
   A61L 101/06 20060101ALN20240603BHJP
【FI】
A01N59/00 A
A01N25/00
A01N25/06
A01N25/02
A01P3/00
A61L2/20
A61L101:06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022128139
(22)【出願日】2022-08-10
(62)【分割の表示】P 2021100420の分割
【原出願日】2018-03-09
(65)【公開番号】P2022145911
(43)【公開日】2022-10-04
【審査請求日】2022-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2017086571
(32)【優先日】2017-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017183373
(32)【優先日】2017-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517147526
【氏名又は名称】長谷 修
(73)【特許権者】
【識別番号】517147537
【氏名又は名称】西澤 隆
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 修介
(72)【発明者】
【氏名】千草 尚
(72)【発明者】
【氏名】長谷 修
(72)【発明者】
【氏名】西澤 隆
(72)【発明者】
【氏名】谷中 沙妃
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/170827(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/170701(WO,A1)
【文献】特開平09-252717(JP,A)
【文献】特開2011-201838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収穫後から輸送前の切り花に対し、次亜塩素酸水の気化物質を、HClO総到達量(前記切り花の周囲雰囲気における単位時間HClO到達量×処理時間)が260μg/m以上、42000μg/m以下まで供給することを特徴とする切り花の殺菌処理による灰色かび病の殺菌処理後の病斑抑制方法(ただし、梱包以後にさらに殺菌処理する場合を除く。)。
【請求項2】
前記単位時間HClO到達量は、5~700μg/(m・分)である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記HClO総到達量を、輸送期間に合わせ3500μg/m以上、23000μg/m以下に設定する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
切り花に次亜塩素酸水の通風せずに自然気化させた気化物質を供給し、前記切り花の周囲雰囲気における単位時間HClO到達量を平均5~60μg/(m・分)に維持する切り花の殺菌処理による灰色かび病の殺菌処理後の病斑抑制方法。
【請求項5】
HClO総到達量(前記切り花の周囲雰囲気における単位時間HClO到達量×処理時間)を24時間以内に7000μg/m以上、23000μg/m以下になるまで、前記周囲雰囲気を前記単位時間HClO到達量に維持し、かつ
48時間以内に前記次亜塩素酸水の気化物質を前記切り花に再供給し、前記周囲雰囲気を前記単位時間HClO到達量に維持することをさらに含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記切り花の周囲雰囲気をさらに湿度80%以上に維持する請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記単位時間HClO到達量を維持した後、前記切り花を湿度80%以上で保管することをさらに含む請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記切り花周辺に到達した次亜塩素酸の単位時間HClO到達量を予測する単位時間HClO到達量予測部を備え、前記単位時間HClO到達量予測部により算出されるHClO総到達量が目的値になるまで、前記次亜塩素酸水の気化物質を供給する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記単位時間HClO到達量予測部は、前記単位時間HClO到達量と前記次亜塩素酸水の気化物質を供給する時間との関係を予め記憶する記憶部を備え、前記単位時間HClO供給量予測部は、前記記憶部からの情報に基づいて前記次亜塩素酸のHClO総到達量が目的値になるまでの予定時間を予測し、前記予定時間に達するまで前記次亜塩素酸水の気化物質を供給する請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記単位時間HClO到達量予測部は、前記切り花周辺に到達した次亜塩素酸のHClO総到達量を測定する測定部を備え、前記次亜塩素酸の単位時間HClO到達量を前記測定部にて測定し、前記HClO総到達量が目的値であるか判定し、前記目的値に達している場合には前記次亜塩素酸水の気化物質の供給を停止する請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、切り花の殺菌処理方法及び殺菌ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
切り花の鮮度保持として、水揚げ時に保存液を添加する処理方法がある。
【0003】
しかし、保存液を用いる場合は、葉/茎等には効果があるが、花弁を直接殺菌するものではないので、花弁に付着した菌を取り除く効果はない。この場合、出荷時に付着していた目視できないほど少ない菌が輸送時に増大してしまい、仲卸や小売店に届くころには観賞用途に利用できないほどの病害となる場合がある。また、切り花の殺菌は、花びらの上面だけでなく、裏面にも処理する必要があり、スプレー噴霧などでは作業性に課題がある。酸性電解水(次亜塩素酸水)は、病害(例えばバラの灰色かび病)抑制に有効であるが、浸漬処理では次亜塩素酸の失活後、切り花表面に水が残る問題もあり、切り花の殺菌用途に利用することについて本格的に導入するほどは普及していないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-8542号公報
【文献】特開2017-56379号公報
【文献】特表2014-518844号公報
【文献】国際公開第2015/071995号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態は、収穫後の切り花を効率よく殺菌することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、収穫後から輸送前の切り花に対し、次亜塩素酸水の気化物質を、HClO総到達量(前記切り花の周囲雰囲気における単位時間HClO到達量×処理時間)が260μg/m以上、42000μg/m 以下まで供給することを特徴とする切り花の殺菌処理による灰色かび病の殺菌処理後の病斑抑制方法(ただし、梱包以後にさらに殺菌処理する場合を除く。)が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】切り花の生産から販売への流通を表すフロー図である。
図2】実施形態に適用可能な切り花の殺菌システムの構成例を概略的に表す図である。
図3】実施形態に適用可能な殺菌システムを備えた切り花の管理システムの一例を表す概略図である。
図4図3の切り花の管理システムにおける切り花の処理方法を表すフロー図である。
図5】実施形態に適用可能な殺菌システムを備えた切り花の管理システムの他の一例を表す概略図である。
図6図5の切り花の管理システムにおける切り花の処理方法を表すフロー図である。
図7】実施形態に使用される電解水を生成可能な電解水生成装置の一例を表す図である。
図8】殺菌処理後に高湿度空間で切り花を保管した場合の経過日数と直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図である。
図9】殺菌処理後に高湿度空間で切り花を保管した場合の経過日数と直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図である。
図10】殺菌処理後に高湿度空間で切り花を保管した場合の経過日数と直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図である。
図11】殺菌処理後に高湿度空間で切り花を保管した場合の経過日数と直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図である。
図12】切り花へのHClO総到達量と、高湿度保管1日目で切り花の花弁に発生する直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図である。
図13】切り花へのHClO総到達量と、高湿度保管2日目で切り花の花弁に発生した直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図である。
図14】切り花へのHClO総到達量と、高湿度保管3日目で切り花の花弁に発生した直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図である。
図15】切り花へのHClO総到達量と、高湿度保管4日目で切り花の花弁に発生した直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図である。
図16】殺菌処理後に高湿度空間で切り花を保管した場合の経過日数と直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図である。
図17】殺菌処理後に高湿度空間で切り花を保管した場合の経過日数と直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図である。
図18】殺菌処理後に高湿度空間で切り花を保管した場合の経過日数と直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図である。
図19】切り花へのHClO総到達量と、高湿度保管1日目の切り花の花弁における病斑発生割合との関係を表すグラフ図である。
図20】切り花へのHClO総到達量と、高湿度保管2日目の切り花の花弁における病斑発生割合との関係を表すグラフ図である。
図21】切り花へのHClO総到達量と、高湿度保管3日目の切り花の花弁における病斑発生割合との関係を表すグラフ図である。
図22】切り花へのHClO総到達量と、高湿度保管4日目の切り花の花弁における病斑発生割合との関係を表すグラフ図である。
図23】第2の実施形態にかかる切り花の殺菌方法に適用可能な殺菌ユニットの一例を表す概略図である。
図24】第2の実施形態にかかる切り花の殺菌方法に適用可能な殺菌ユニットである。
図25】殺菌処理後に高湿度空間で切り花を保管した場合の経過日数と直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図である。
図26】切り花へのHClO総到達量と、高湿度保管1日目で切り花の花弁に発生する直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図である。
図27】切り花へのHClO総到達量と、高湿度保管2日目で切り花の花弁に発生した直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図である。
図28】切り花へのHClO総到達量と、高湿度保管3日目で切り花の花弁に発生した直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図である。
図29】切り花へのHClO総到達量と、高湿度保管4日目で切り花の花弁に発生した直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0009】
実施形態は、第1の実施形態にかかる切り花の殺菌処理方法と、第2の実施形態にかかる切り花の殺菌処理方法を含む。
【0010】
第1の実施形態にかかる切り花の殺菌処理方法では、収穫後から輸送前の切り花に対し、次亜塩素酸水の気化物質を、HClO総到達量が260μg/m以上、42000μg/m以下まで供給する。
【0011】
HClO総到達量(μg/m)は、切り花の周囲雰囲気における単位時間HClO到達量 μg/(m・分)と供給時間とを積算した値であり、対象物(切り花)の単位面積当たりに到達する次亜塩素酸の重量をいう。
【0012】
また、単位時間HClO到達量μg/(m・分)は、単位面積、単位時間当たりに到達するHClOの重量をいう。
【0013】
第1の実施形態にかかる切り花の殺菌処理を行うタイミングは、収穫後から輸送前である。
【0014】
図1に、切り花の生産から販売への流通を表すフロー図を示す。
【0015】
図示するように、切り花の生産段階では、一般に、生産者による花の生産(BL11)、及び収穫(BL12)により、得られた切り花を水揚げ(BL13)し、花束ね等の調整(BL14)、及び梱包(BL15)の後、出荷まで低温で保管され、輸送(BL16)される。
【0016】
輸送された切り花は、市場(BL17)、仲卸(BL18)、小売店等(BL19)を経て、消費者に届けられる。また、市場から仲卸を通さず、直接小売店等に運ばれる場合や、生産者が消費者へ例えばインターネット販売などにより直接販売し、市場(BL17)、仲卸(BL18)、小売店等(BL19)を介さず消費者に届く場合もある。
【0017】
収穫後から輸送前とは、生産段階の収穫(BL12)後、輸送(BL16)より前の水揚げ(BL13)、花束ね等の調整(BL14)、及び梱包(BL15)の作業中またはその前後のいずれかのタイミングに相当する。これらの作業は生産者が行う場合だけでなく、あるいは農業協同組合、商社等の買い付け業者が行う場合がある。
【0018】
例えば、水揚げ(BL13)の段階で、殺菌処理を行う場合には、冷蔵庫内でバケツに根元だけ水を含ませた状態の切り花に対し、冷蔵庫に搬入する前に、あるいは保管すると同時に、HClO総到達量が任意の値となるまで次亜塩素酸水の気化物質を供給することができる。また、例えば、花束ね(BL14)の段階で殺菌処理を行う場合には、冷蔵庫から取り出して、花束ねをする直前に、HClO総到達量が任意の値となるまで次亜塩素酸水の気化物質を供給することができる。
【0019】
国内輸送の場合は、生産者からの出荷後に輸送(BL16)、市場(BL17)、仲卸(BL18)、小売店等(BL19)を経て、消費者に届けられるまでに1~2日を要する。生産者が消費者へインターネット販売などにより直接販売する場合は1日でよいこともある。また、国外へ輸送する場合は、おおよそ3~4日間が必要となる。この過程においてコールドチェーンが切れ、菌が繁殖しやすい高湿度などの条件になると灰色かび病などの病害が発生するリスクがある。
【0020】
この灰色かび病は、バラなどの多くの切り花に発生する病気であり、直径2mm病斑相当数は、4個を超えると、消費者から返品を受けることがあり、10個を超えると、病斑の増え方が速くなり、輸送中の周囲の花にも影響をあたえる可能性があることから、10個以下、好ましくは4個以下、さらに好ましくは1個以下に抑制することが望まれる。
【0021】
直径2mm病斑相当数は、以下の灰色かび病の測定基準により得られる数値である。
【0022】
灰色かび病の測定基準
花全体の表面積を30×40mmの花弁5枚 (面)分相当=6000mmとする。
【0023】
直径2mm弱の病斑の表面積を3mmと算出する。
【0024】
直径4mm弱の病斑の表面積を15mmと算出する。
【0025】
直径9mm弱の病斑の表面積を75mmと算出する。
【0026】
病斑の直径を目視で2、4、及び9mmに類別し、それぞれ病斑数を測定する。各病斑(特に直径2mm病斑)が20個を超えそうな場合は,10-100個単位で測定する。褐変部が大きい場合は花弁1枚あたりに示す割合を目視で測定し、最大値は5枚とする。
【0027】
測定値から病斑面積を求め,直径2mm病斑の数に相当する数(直径2mm病斑相当数)に換算して評価する。
【0028】
第1の実施形態によれば、単位時間HClO到達量が5~350μg/(m・分)であるとき、次亜塩素酸水の気化物質をHClO総量260μg/m以上になるまで供給すれば、高湿度の状況が1日間継続しても、灰色かび病の直径2mm病斑相当数を4個以下に抑制でき、3500μg/m以上になるまで供給すれば、直径2mm病斑相当数を1個以下に抑制できる。
【0029】
また収穫後から輸送前の切り花に対し、次亜塩素酸水の気化物質を、HClO総到達量が4500μg/m以上になるまで供給して殺菌することにより、高湿度の状況が2日間継続しても、直径2mm病斑相当数を10個以下に抑制することが可能であり、8000μg/m以上を供給すると直径2mm病斑相当数を4個以下に抑制でき、更に15000μg/m以上を供給すると直径2mm病斑相当数を1個以下に抑制できる。2日間保管可能であると、出荷~流通~小売店での販売に至るまでの病斑発生を抑止できる。
【0030】
また高湿度の状況が3日間継続に対しては、HClO総到達量が8500μg/m以上を供給すると直径2mm病斑相当数を10個以下に抑制でき、14000μg/m以上を供給すると直径2mm病斑相当数を4個以下に抑制でき、更に22000μg/m以上を供給すると直径2mm病斑相当数を1個以下に抑制できる。
【0031】
また高湿度の状況が4日間継続に対しては、HClO総到達量が14000μg/m以上を供給すると直径2mm病斑相当数を10個以下に抑制でき、19000μg/m以上を供給すると直径2mm病斑相当数を4個以下に抑制でき、更に23000μg/m以上を供給すると直径2mm病斑相当数を1個以下に抑制できる。
【0032】
第1の実施形態によれば、単位時間HClO到達量が350μg/(m・分)より大きく700μg/(m・分)以下であるとき、収穫後から輸送前の切り花に対し、次亜塩素酸水の気化物質をHClO総量260μg/m以上になるまで供給すれば、高湿度の状況が1日間継続しても、灰色かび病の直径2mm病斑相当数を4個以下に抑制でき、3500μg/m以上になるまで供給すれば、直径2mm病斑相当数を1個以下に抑制できる。
【0033】
また収穫後から輸送前の切り花に対し、高湿度の状況が2日間継続しても、次亜塩素酸水の気化物質をHClO総到達量が1600μg/m以上になるまで供給して殺菌することにより、直径2mm病斑相当数を10個以下に抑制することが可能であり、2800μg/m以上を供給すると直径2mm病斑相当数を4個以下に抑制でき、更に7600μg/m以上を供給すると直径2mm病斑相当数を1個以下に抑制できる。
【0034】
また収穫後から輸送前の切り花に対し、高湿度の状況が3日間継続しても、次亜塩素酸水の気化物質をHClO総到達量が3400μg/m以上になるまで供給して殺菌することにより、直径2mm病斑相当数を10個以下に抑制することが可能であり、6700μg/m以上を供給すると直径2mm病斑相当数を4個以下に抑制でき、更に11400μg/m以上を供給すると直径2mm病斑相当数を1個以下に抑制できる。
【0035】
また収穫後から輸送前の切り花に対し、高湿度の状況が3日間継続しても、次亜塩素酸水の気化物質をHClO総到達量が8400μg/m以上になるまで供給して殺菌することにより、直径2mm病斑相当数を10個以下に抑制することが可能であり、10600μg/m以上を供給すると直径2mm病斑相当数を4個以下に抑制でき、更に15200μg/m以上を供給すると直径2mm病斑相当数を1個以下に抑制できる。
【0036】
なお、ここでいう高湿度の状況とは、発病に適した湿度のことで、例えば湿度80~100%のことをいう。
【0037】
高湿度の状況で病斑数を抑えられる日数は、切り花の輸送期間に適用することができる。第1の実施形態によれば、切り花の輸送期間に応じて、HClO総到達量を設定できる。
【0038】
一方で、過剰供給により変色や花の香りの減少など品位低下が懸念されるが、HClO総到達量が42000μg/mまで塩素障害はないことを目視で確認している。
【0039】
次亜塩素酸水の気化物質は、5μg/(m・分)~700μg/(m・分)の単位時間HClO到達量で用いることができる。
【0040】
単位時間HClO到達量が5μg/(m・分)未満の場合、菌の成長に殺菌が追い付かなくなる傾向がある。一方で高濃度では、過剰供給による塩素障害が懸念されるが700μg/(m・分)まで問題ないことを目視で確認している。
【0041】
前記HClO総到達量は、前記輸送期間に合わせ3500μg/m以上、23000μg/m以下に設定することができる。
【0042】
次亜塩素酸水の気化物質のHClO総到達量が3500μg/m未満であると、輸送中に高湿度となった場合に、複数個の病班が発生するリスクが高くなる傾向があり、23000μg/mを超えて供給しても直径2mm病斑相当数の抑制効果がほとんど変わらない場合がある。
【0043】
切り花の周囲雰囲気をさらに湿度80%以上に維持することにより、切り花のみずみずしさを保つことができる。また、次亜塩素酸水の気化物質による処理の後、切り花の周囲雰囲気をさらに湿度80%以上に維持することもできる。
【0044】
実施形態に使用される次亜塩素酸水の気化物質は、次亜塩素酸を含む水溶液である次亜塩素酸水を処理空間に気化させるかあるいは噴霧することにより得られ、少なくとも対象物となる切り花に到達する時にほぼ気化された状態になっており、切り花に触れても濡れることが無いほど小さい、もしくは分子サイズで空間に存在するものをいう。
【0045】
実施形態に使用可能な次亜塩素酸水を気化させるか、あるいは噴霧する方法としては、例えば、フィルタに次亜塩素酸水を含浸させ、このフィルタを通して空気を通風することにより、次亜塩素酸水と空気とを接触させて、次亜塩素酸水を気体に変換して放出する方法、不織布を含む布に次亜塩素酸水を含浸し、通風せずに、自然気化させる方法、あるいは、次亜塩素酸水をスプレー噴霧、もしくは超音波振動子によりミスト化された次亜塩素酸水を、対象物に到達する前に気温による蒸発で気化させる方法等があげられる。なお、フィルタを使用すると、電解水に塩化物が含まれていても、気化されにくいという利点がある。
【0046】
次亜塩素酸水の気化物質のHClO総到達量、及び単位時間HClO到達量は、以下のように求めることができる。
【0047】
空間に噴霧したHClOの対象物への到達量の測定方法には、活性酸素検出用蛍光試薬APF(Aminophenyl Fluorescein)を利用した評価方法としてAPF法がある。APFは中性水溶液中ではほとんど蛍光を示さないが、次亜塩素酸(HClO/OCl-)と反応すると、強蛍光性化合物を生成し、490nmの励起光で515nm付近に強い蛍光を発する。この蛍光強度と次亜塩素酸の添加量に相関があることが確認されている。
【0048】
従って、HClO噴霧空間で殺菌対象として切り花を置く場所に、APF水溶液を入れた任意の容器を任意の時間置き、容器に到達するHClOを回収する。回収液の蛍光強度から次亜塩素酸到達量を算出し、容器の面積、回収時間で規格化することで、単位面積、単位時間当たりに到達する次亜塩素酸の重量すなわち単位時間HClO到達量 μg/(m・分)を求めることができ、単位時間HClO到達量に処理時間を積算することで単位面積当たりに到達するHClOの総重量、すなわちHClO総到達量 μg/mを求めることが出来る。
【0049】
実施形態によれば、次亜塩素酸水の気化物質を使用しているため、撥水性の切り花に対しても、表面を濡らすことなく次亜塩素酸を供給して殺菌を行うことができる。
【0050】
実施形態にかかる切り花の殺菌処理方法には、例えば、下記殺菌システムを適用することができる。
【0051】
実施形態に適用可能な切り花の殺菌システムは、次亜塩素酸を気化する気化部、及び気化部により気化された次亜塩素酸の気化物質を切り花周辺に到達させる搬送部を含む供給部と、供給部から切り花周辺に到達した次亜塩素酸の単位時間HClO到達量を予測する単位時間HClO到達量予測部と、単位時間HClO到達量予測部により予測されるHClO総到達量が目的値になるまで、供給部を制御する制御部を備える。
【0052】
図2に、実施形態に適用可能な切り花の殺菌システムの構成例を概略的に表す図を示す。
【0053】
図示するように、この切り花殺菌システム1は、供給部20と、供給部20を制御する制御部14と、制御部14に接続され、切り花周辺に到達した次亜塩素酸の単位時間HClO到達量を予測する単位時間HClO到達量予測部19とを備えている。
【0054】
供給部20は、タンク10と、配管11と、ポンプ12と、吸気口15a及び排気口15bを有する筐体15と、この筐体15に収容された、次亜塩素酸を気化する気化部16及び次亜塩素酸の気化物質を切り花周辺に到達させるファン17とを備えている。
【0055】
タンク10は、殺菌水の一例である次亜塩素酸水を貯水する。この次亜塩素酸水は、タンク10が備える給水口を介して人手により、或いはタンク10に接続された給水管を介してポンプなどの動力源により、適宜に補充される。
【0056】
配管11は、一端がタンク10の例えば底面に接続されるとともに、他端が気化部16に接続されている。ポンプ12は、タンク10の次亜塩素酸水を気化部16に供給する送液装置として機能するものであり、配管11に設けられている。ポンプ12は、例えば回転数の可変制御により、気化部16に送る次亜塩素酸水の流量を調整することができる。なお、タンク10から気化部16への次亜塩素酸水の送液は、水頭圧等を利用して行われても良い。この場合においては、例えば配管11に開度が可変な電磁弁を設けることにより、気化部16に送る次亜塩素酸水の流量を調整することができる。
【0057】
図2の例において、配管11は筐体15の内部に延び、気化部16に接続されている。
【0058】
気化部16は、配管11を介して供給される次亜塩素酸水を気化し、殺菌成分を空間に放出する。同時に、気化部16は粒径が比較的小さいミストも発生する。このようなミストを発生させ、対象物に到達する前に気化する方式としては、例えば、超音波方式を採用することができる。この場合において、気化部16は、配管11を介して供給される次亜塩素酸水を溜める容器と、超音波によりこの容器に溜められた次亜塩素酸水を振動させ、液面から次亜塩素酸水のミストを発生させる超音波振動子と、を有している。その他にも、気化部16により次亜塩素酸水を気化する方式としては、微細孔を有するノズルから次亜塩素酸水を放出することにより次亜塩素酸水を気化(霧化)する方式などを採用しても良い。ただし、対象物を濡らさずに殺菌することが好ましいため、発生するミスト量は少なく、かつ粒径が小さいことが望ましい。
【0059】
あるいは、気化部16としては、例えば、配管11から滴下される次亜塩素酸水を吸水する吸水フィルタを用いることができる。この吸水フィルタは、空気との接触面積を増やして次亜塩素酸水を効率良く気化させるべく、微細なハニカム構造などの微細構造を有しても良い。さらに、吸水フィルタは、次亜塩素酸水と反応しにくい材料、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系材料、又は無機材料にて形成されるか、或いはこれらの材料にて表面がコーティングされたものであっても良い。このような吸水フィルタを用いれば、次亜塩素酸水による吸水フィルタの腐食や次亜塩素酸水の失活を防ぐことができる。なお、気化部16は、次亜塩素酸水を気化させると同時に、粒径が比較的小さいミストも発生し得る。
【0060】
気化部は、上述した方式の均等物のみならず、サーマル方式など熱による気化方式、その他、気化する機能を有すれば、何でもよい。
【0061】
ファン17は、気化部16により生成された次亜塩素酸水の気化物質及びミストを筐体15の外部に送り出す。具体的には、ファン17の回転に伴って吸気口15aから筐体15に空気が取り込まれ、この空気が気化部16により生成された次亜塩素酸水の気化物質及びミストとともに排気口15bから排出(噴霧)される。ファン17の回転数の可変制御により、筐体15の外部に噴霧する次亜塩素酸水の気化物質等の量や風量を調整することができる。
【0062】
制御部14は、例えば第1殺菌装置1の制御の中枢を担うプロセッサ、各種の設定条件やプロセッサが実行するコンピュータプログラムを記憶したメモリ、及び、各部に供給する電圧を生成する電源装置などを備えている。この制御部14は、ポンプ12、気化部16、及びファン17などを制御する。制御部14には、供給部から切り花周辺に到達した次亜塩素酸の単位時間HClO到達量を予測する単位時間HClO到達量予測部19が接続されている。
【0063】
制御部14は、単位時間HClO到達量予測部19により算出されるHClO総到達量が目的値になるまで、供給部20の運転を制御することができる。
【0064】
例えば、制御部14は、切り花の表面を濡らすことがない程度に、ファン17の回転数を制御することができる。
【0065】
このような次亜塩素酸水の気化物質では、切り花の表面を濡らさずに殺菌することができ、同時に発生する粒径の小さいミストが飛散しても迅速に蒸発するため、切り花の表面等を過度に濡らすことがない。したがって、水への浸積に不向きな切り花への利用や、撥水性があるため一般的な水系の薬剤の場合では殺菌することができない花弁に対し、次亜塩素酸水を気化した物資の場合には次亜塩素酸成分が花弁の内部まで到達することができるなどの理由で殺菌に適している。このように切り花の表面を濡らすことがないミスト(液状ミスト)の粒径は、例えば約50μm以下である。
【0066】
図3に、実施形態に適用可能な殺菌システムを備えた切り花の管理システムの一例を表す概略図を示す。
【0067】
図示するように、この切り花の管理システム30は、切り花を収容する収容部2と、収容部2に収容された切り花に次亜塩素酸の気化物質を供給する殺菌システム40と、管理システム30内の湿度を管理する除湿部3とを有する。
【0068】
殺菌システム40は、単位時間HClO到達量予測部19が、単位時間HClO到達量と供給部20の運転時間との関係を予め記憶する記憶部23をさらに含み、単位時間HClO供給量予測部19にて記憶部23からの情報に基づいて次亜塩素酸のHClO総到達量が目的値になるまでの予定時間を予測し、制御部14にて供給部20を予定時間に達するまで運転すること、及び制御部14が除湿部3と接続されていること以外は図2と同様の構成を有する。
【0069】
図4に、図3の切り花の管理システムにおける切り花の処理方法を表すフロー図を示す。
【0070】
図示するように、この方法では、まず、供給部20の運転を開始し、気化部16においてタンク10から供給された次亜塩素酸水を気化に供し、次亜塩素酸水の気化物質を生成する(BL1)。
【0071】
次亜塩素酸水の気化物質はファン17を用いて筐体15の外部へ搬送して、収容部2に収容された切り花に到達させる(BL2)。
【0072】
記憶部23からの情報に基づいて単位時間HClO到達量予測部19にて次亜塩素酸のHClO総到達量が目的値になるまでの予定時間を予測する(BL3)。
【0073】
続いて、予定時間が経過したか判定する(BL4)。
【0074】
予定時間が経過した場合には、制御部14にて供給部20の運転を停止する。
【0075】
予定時間が経過していない場合には、供給部20の運転を続ける。
【0076】
なお、管理システム30内の湿度は、制御部14にて必要に応じて除湿器を運転させることにより、調節することができる。
【0077】
図5に、実施形態に適用可能な殺菌システムを備えた切り花の管理システムの他の一例を表す概略図を示す。
【0078】
この殺菌システム50は、単位時間HClO到達量予測部19が記憶部23を含む代わりに、単位時間HClO到達量予測部19と接続された、切り花周辺に到達した次亜塩素酸のHClO総到達量を測定する測定部25をさらに含むこと以外は、図3と同様の構成を有する。
【0079】
測定部においても活性酸素検出用蛍光試薬APFを利用することができる。
【0080】
単位時間HClO到達量予測部19が記憶部23をさらに含むことも可能である。
【0081】
図6に、図5の切り花の管理システムにおける切り花の処理方法を表すフロー図を示す。
【0082】
図示するように、この方法では、まず、供給部20の運転を開始し、図4と同様にして、まず、次亜塩素酸水の気化物質を生成し(BL1)、次亜塩素酸水の気化物質を搬送して、収容部2に収容された切り花に到達させる(BL2)。
【0083】
続いて、測定部25にて切り花周辺に到達した次亜塩素酸の単位時間HClO到達量を測定する(BL5)。
【0084】
その後、HClO総到達量が目的値であるか判定する(BL6)。
【0085】
目的値に達している場合には、制御部14にて供給部20の運転を停止する。
【0086】
目的値に達していない場合には、制御部14にて供給部20の運転を続ける。
【0087】
HClO総到達量260μg/m~42000μg/mを目的値とし、単位時間HClO到達量を700μg/(m・分)とするとき、供給部の運転時間は22秒~60分間にすることができる。
【0088】
HClO総到達量260μg/m~42000μg/mを目的値とし、単位時間HClO到達量を5μg/(m・分)とするとき、供給部の運転時間は52分~140時間にすることができる。
【0089】
実施形態に次亜塩素酸水として使用可能な酸性電解水は、以下の装置を用いて生成することができる。
【0090】
図7に、実施形態に使用される電解水を生成可能な電解水生成装置の一例を表す図を示す。
【0091】
図示するように、電解水生成装置は、いわゆる3室型の電解槽(電解セル)100を備えている。電解槽100は、偏平な矩形箱状に形成され、その内部は、陰イオン交換膜(第1隔膜)112および陽イオン交換膜(第2隔膜)114により、中間室115aと、中間室115aの両側に位置する陽極室115bおよび陰極室115cとの3室に仕切られている。陽極室115b内に陽極116が設けられ、陰イオン交換膜112に対向している。陰極室115c内に陰極118が設けられ、陽イオン交換膜114に対向している。陽極116および陰極118は、ほぼ等しい大きさの矩形板状に形成され、中間室15aを挟んで、互いに対向している。
【0092】
電解水生成装置は、電解槽100の中間室115aに電解液、例えば、飽和塩水を供給する電解液供給部119と、陽極室115bおよび陰極室115cに電解原水、例えば、水を供給する水供給部211と、陽極116および陰極118に正電圧および負電圧をそれぞれ印加する電源213と、を備えている。
【0093】
電解液供給部119は、飽和塩水を生成する塩水タンク215と、塩水タンク215から中間室115aの下部に飽和塩水を導く供給配管119aと、供給配管119a中に設けられた送液ポンプ219と、中間室115a内を流れた電解液を中間室115aの上部から塩水タンク215に送る排水配管119bと、を備えている。
【0094】
水供給部211は、水を供給する図示しない給水源と、給水源から陽極室115bおよび陰極室115cの下部に水を導く給水配管211aと、陽極室115bを流れた水を陽極室115bの上部から排出する第1排水配管211bと、陰極室115cを流れた水を陰極室115cの上部から排出する第2排水配管211cと、を備えている。
【0095】
上記のように構成された電解水生成装置により、酸性水(次亜塩素酸水および塩酸)とアルカリ性水(水酸化ナトリウム)を生成する場合、送液ポンプ219を作動させ、電解槽100の中間室115aに飽和塩水を供給するとともに、陽極室115bおよび陰極室115cに水を給水する。同時に、電源213から正電圧および負電圧を陽極116および陰極118にそれぞれ印加する。中間室115aへ流入した塩水中において電離しているナトリウムイオンは、陰極118に引き寄せられ、陽イオン交換膜114を通過して、陰極室115cへ流入する。そして、陰極室115cにおいて、陰極118で水が電気分解されて水素ガスと水酸化ナトリウム水溶液が生成される。生成された水酸化ナトリウム水溶液および水素ガスは、陰極室115cから第1排水配管211bに流出し、図示しない気液分離器により、水酸化ナトリウム水溶液と水素ガスとに分離される。分離された水酸化ナトリウム水溶液(アルカリ性水)は、第1排水配管211bを通って排出される。
【0096】
また、中間室115a内の塩水中において電離している塩素イオンは、陽極116に引き寄せられ、陰イオン交換膜112を通過して、陽極室115bへ流入する。そして、陽極116にて塩素イオンが還元され塩素ガスが発生する。その後、塩素ガスは陽極室115b内で水と反応して次亜塩素酸水と塩酸を生じる。このようにして生成された酸性水(次亜塩素酸水および塩酸)は、陽極室115bから第2排水配管211cを通って流出する。
【0097】
この電解水生成装置は、三室型であるが、他の型式例えば二室型の電解水生成装置等を使用することができる。三室型は酸性電解水に塩化物の混入がほとんどないが、二室型の場合は塩化物が混入する。この場合、フィルタに酸性電解水を含浸させて気化すると、電解水に含まれる塩化物は気化されないという利点がある。
【0098】
第2実施形態にかかる切り花の殺菌処理方法は、切り花に次亜塩素酸水の気化物質を供給し、切り花の周囲雰囲気の単位時間HClO到達量を平均5~60μg/(m・分)に維持する。
【0099】
この方法では、単位時間HClO到達量が比較的低い周囲雰囲気で殺菌処理を行うので、図1に示す切り花の生産から販売への流通において、収穫後から販売まで、すなわち、収穫(BL12)により、得られた切り花を水揚げ(BL13)し、花束ね等の調整(BL14)、及び梱包(BL15)の後、出荷まで低温で保管され、輸送(BL16)、市場(BL17)、仲卸(BL18)を経て、小売店(BL19)にいたるまでのどのタイミングでも適用可能である。このため、例えば流通の過程でコールドチェーンが切れた場合であっても、切り花の病害の発生リスクを低減できる。
【0100】
切り花の周囲雰囲気の単位時間HClO到達量が平均5μg/(m・分)未満であると、菌の成長に殺菌が追い付かなくなる傾向がある。また、出荷後の輸送(BL16)、市場(BL17)、仲卸(BL18)を経て、小売店(BL19)にいたるまでの流通過程において、切り花が外気に触れる可能性が高く、切り花の周囲雰囲気の単位時間HClO到達量が平均60μg/(m・分)を超える周囲雰囲気に十分に維持することが困難となる場合がある。
【0101】
切り花の周囲雰囲気の単位時間HClO到達量が比較的多い範囲例えば単位時間HClO到達量が平均15~60μg/(m・分)である場合には、HClO総到達量(単位時間HClO到達量×処理時間)が24時間以内に7000μg/m以上になるまで維持すれば、高湿度の状況が1日間継続しても、灰色かび病の直径2mm病斑相当数を10個以下に抑制でき、10000μg/m以上になるまで維持すれば、直径2mm病斑相当数を4個以下に抑制でき、16000μg/m以上になるまで維持すれば、直径2mm病斑相当数を1個以下に抑制できる。また、24時間以内に20000μg/m以上になるまで維持すれば、高湿度の状況が2日間継続しても、灰色かび病の直径2mm病斑相当数を10個以下に抑制でき、22500μg/m以上になるまで維持すれば、直径2mm病斑相当数を4個以下に抑制できる。また、この周囲雰囲気をHClO総到達量が23000μg/m以上になるまで維持することにより、高湿度の状況が3日間継続しても、直径2mm病斑相当数を10個以下に抑制することが可能である。
【0102】
また、切り花の周囲雰囲気の単位時間HClO到達量が比較的少ない範囲例えば単位時間HClO到達量が平均5~15μg/(m・分)である場合には、HClO総到達量(単位時間HClO到達量×処理時間)が24時間以内に7000μg/m以上になるまで、周囲雰囲気の単位時間HClO到達量を維持し、かつ48時間以内に次亜塩素酸水の気化物質を再供給し、周囲雰囲気を平均5~15μg/(m・分)の単位時間HClO到達量に維持することができる。また、HClO総到達量が16000μg/m以上になるまで維持した後、48時間以内に次亜塩素酸水の気化物質を再供給し、同様の単位時間HClO到達量に維持することができる。また、HClO総到達量が20000μg/m以上になるまで維持した後、48時間以内に次亜塩素酸水の気化物質を再供給し、同様の単位時間HClO到達量に維持することが可能である。
【0103】
48時間以内に次亜塩素酸水の気化物質を再供給する際、単位時間HClO到達量を平均15~60μg/(m・分)の周囲雰囲気にすることができる。
【0104】
また、単位時間HClO到達量を48時間以上、平均5~15μg/(m・分)の周囲雰囲気に維持することも可能である。
【0105】
第2の実施形態によれば、単位時間HClO到達量がより少ない場合であっても、48時間以内にHClO総到達量(単位時間HClO到達量×処理時間)を平均5~60μg/(m・分)の周囲雰囲気に維持すれば、十分に切り花の殺菌が可能である。
【0106】
また、切り花に次亜塩素酸水の気化物質の供給を行い、切り花の周囲雰囲気の単位時間HClO到達量を平均5~60μg/(m・分)に維持するとともに、切り花の周囲雰囲気をさらに湿度80%以上に維持することができる。これにより、切り花の殺菌を行うと共に、みずみずしさを保つことができる。
【0107】
また、切り花の周囲雰囲気の単位時間HClO到達量を平均5~60μg/(m・分)に維持する工程の後、切り花を湿度80%以上で保管することも可能である。これにより、切り花のみずみずしさを保つことができる。
【0108】
第2の実施形態にかかる切り花の殺菌方法において、次亜塩素酸水の気化物質を供給するための殺菌ユニットを使用することができる。
【0109】
図23に、第2の実施形態にかかる切り花の殺菌方法に適用可能な殺菌ユニットの一例を表す概略図を示す。
【0110】
図示するように、殺菌ユニット60は、上方に開口を有する本体65と、ろ紙64と、ろ紙64を支持する支持体62と、支持体62上に設けられたキャップ63とを有し、次亜塩素酸水65を収容した本体65の開口に、ろ紙64を取り付けた支持体62が挿入されている。この殺菌ユニット60を用いると、次亜塩素酸水65をろ紙64を介して自然気化させることができる。
【0111】
このような殺菌ユニットを切り花が収容された空間に配置して次亜塩素酸水の気化物質を供給することができる。次亜塩素酸水の気化物質の単位時間HClO到達量は、キャップ63を用いてろ紙64上下に移動することにより調整し得る。
【0112】
図24に、第2の実施形態にかかる切り花の殺菌方法に適用可能な殺菌ユニットの他の一例を表す概略図を示す。
【0113】
図示するように、殺菌ユニット70は、花桶本体71と、花桶本体71の中に設けられ、隔壁72を介して分離された内側容器73及び外側容器74と、内側の容器73及び外側の容器74にそれぞれ収容された吸水スポンジ75,76とを有し、内側の吸水スポンジ75には水、外側の吸水スポンジ76には次亜塩素酸水が適用される。隔壁72は、図示しない支持部材により外側容器74に一定の距離をおいて取り付けられている。この殺菌ユニット70を用い、内側容器73に切り花を収容すると、外側容器74から自然気化された次亜塩素酸水の気化物質を切り花に供給することができる。
【0114】
図23及び図24の殺菌ユニットは、例えば、切り花の輸送過程に使用されるコンテナや、小売店のショーケースなどに設置することができる。これらの殺菌ユニットは、次亜塩素酸水の自然気化を利用しているが、図2のようなファンを用いて次亜塩素酸水の気化を行う殺菌システムを用いても良い。
【実施例
【0115】
以下、実施例を示し、実施形態を具体的に説明する。
【0116】
実施例1
バラの灰色かび病の自然発病と次亜塩素酸供給量との関係
有効内容積が約1.3m3(幅1200mm×奥行き600mm×高さ1800mm)の0.3mm厚の農業用塩化ビニルで全面を被覆した試験ブース内に、湿度調整用除湿機、電解水の気化発生装置、及びコンテナ容器を配置した。
【0117】
次亜塩素酸水として、pH6.15、遊離有効塩素(FAC)濃度40mg/kgの酸性電解水を用意し、供給部のタンクに導入して噴霧を行うことにより、10分間エージングした。
【0118】
続けて、バラ生産者から水揚げ直後のバラ(品種 アバランチェ)の切り花を入手し、試験管立てに一定の間隔でさして、コンテナ容器内に設置し、次亜塩素酸水の噴霧による処理時間をそれぞれ0,15,30,60分間に設定して、殺菌処理した。噴霧処理中の試験ブース内の温度は15℃~25℃、相対湿度は60~70%になるよう調整した。
【0119】
次亜塩素酸水の噴霧方法としては、フィルタに次亜塩素酸水を含浸させ、このフィルタを通して空気を通風することにより、次亜塩素酸水と空気を接触させて、次亜塩素酸水を気体に変換して放出する方法を用いた。
【0120】
試験ブース内に20mlのAPF液を入れた9cmペトリ皿をおいて、APF液に吸収されたHClO量をAPF法で測定したところ、単位時間HClO到達量は平均129μg/(m・分)であった。
【0121】
噴霧処理後、バラの切り花を設置したコンテナ容器にろ紙を敷いて水を張り、密閉して容器内を100%の高湿度にした。このコンテナ容器は温度15℃~25℃のブース内に保管し、各々、1,2,3,及び4日間経過後に、灰色かび病菌による発病をそれぞれ4本ずつ調査した。
【0122】
発病の調査は灰色かび病の測定基準により行った。
【0123】
得られた結果を下記表1に示す。
【0124】
【表1】
【0125】
また、表1に基づいて作成した経過日数と直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図を図8に示す。
【0126】
図8中、グラフ101、102、103、及び104は、各々、処理なし、15分処理、30分処理、及び60分処理の結果を表す。
【0127】
表1及び図8から、単位時間HClO到達量が平均129μg/(m・分)において、HClO総到達量が増える程、病害を抑制効果が高まることが確認できる。例えば、殺菌処理後に高湿度空間に2日間保管した場合、直径2mm病斑相当数は、15分処理(HClO総到達量1935μg/m)で25.0個、30分処理(HClO総到達量3870μg/m)で4.75個、60分処理(HClO総到達量7740μg/m)で1.5個まで抑制できることがわかる。
【0128】
実施例2
供給部の風量または次亜塩素酸水の濃度、気化面積等を調整し、単位時間HClO到達量を平均250μg/(m・分)にて、実施例1とは別の日に入手したバラ切り花にて、灰色かび病菌による発病を調査した。
【0129】
得られた結果を下記表2に示す。
【0130】
【表2】
【0131】
また、表2に基づいて作成した経過日数と直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図を図9に示す。
【0132】
図9中、グラフ201、202、203、及び204は、各々、処理なし、15分処理、30分処理、及び60分処理の結果を表す。 表2及び図9から、単位時間HClO到達量平均250μg/(m・分)で、殺菌処理後に高湿度空間に2日間保管した場合、直径2mm病斑相当数は、15分処理(HClO総到達量3750μg/m)で22.25個、30分処理(HClO総到達量7500μg/m)で6.5個、60分処理(HClO総到達量15000μg/m)で0個まで抑制できることがわかる。
【0133】
実施例3
バラ生産者から入手した水揚げ直後のバラ(品種 アバランチェ)の切り花をそれぞれ使用し、次亜塩素酸水の噴霧時間を0,1,2,3時間に設定すること以外は、実施例2と同様にして殺菌処理を行った。
【0134】
試験ブース内のHClO総到達量はAPF法を用いて調査し、単位時間HClO到達量を求めたところ、平均235μg/(m・分)であった。噴霧処理中の試験ブース内は、実施例1と同様に、温度15℃~25℃、相対湿度60~70%になるよう調整した。
【0135】
殺菌処理を行ったバラの切り花については1,2,3,4日経過後に、4本ずつ灰色かび病菌による発病を調査した。
【0136】
殺菌処理で得られた結果を下記表3に示す。
【0137】
表3に基づいて作成した経過日数と直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図を図10に示す。
【0138】
【表3】
【0139】
図10中、グラフ301、302、303、及び304は、各々、処理なし、1時間処理、2時間処理、及び3時間処理の結果を表す。
【0140】
表3及び図10から、単位時間HClO到達量平均235μg/(m・分)で、殺菌処理後に高湿度空間に4日間保管した場合、直径2mm病斑相当数は、1時間処理(HClO総到達量14100μg/m)で0.5個まで抑制できることがわかる。
【0141】
実施例4
供給部の風量または次亜塩素酸水の濃度、気化面積等を調整し、単位時間HClO到達量を平均161μg/(m・分)にて、実施例3とは別の日に入手したバラ切り花にて、灰色かび病菌による発病を調査した。殺菌処理で得られた結果を下記表4に示す。
【0142】
表4に基づいて作成した経過日数と直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図を図11に示す。
【0143】
【表4】
【0144】
図11中、グラフ401、402、403、及び404は、各々、処理なし、15分処理、30分処理、及び60分処理の結果を表す。
【0145】
表4及び図11から、単位時間HClO到達量平均161μg/(m・分)で、殺菌処理後に高湿度空間に4日間保管した場合、直径2mm病斑相当数は、1時間処理(HClO総到達量9660μg/m)で7.5個、2時間処理(HClO総到達量19320μg/m)で6.25個、3時間処理(HClO総到達量28980μg/m)で0個まで抑制できることがわかる。
【0146】
実施例1~4を比較すると、HClO総到達量が同量程度であるが、病班抑制にバラツキがあることがわかる。例えば、実施例1の30分処理(HClO総到達量3870μg/m)と実施例2の15分処理(HClO総到達量3750μg/m)とで高湿度空間に2日間保管後の病斑数は、それぞれ4.75個と22.25個と抑制効果が異なる。
【0147】
例えば、実施例2の60分処理(HClO総到達量15000μg/m)と実施例3の1時間処理(HClO総到達量14100μg/m)とで高湿度空間に4日間保管後の病斑数は、それぞれ16.0個と0.5個と抑制効果が異なる。
【0148】
これは、バラの収穫時で付着している菌数が異なること、付着している菌の成長度合いが異なることがバラツキの原因となる。
【0149】
そこで、切り花の病害抑制に必要なHClO総到達量を定義するために、実施例1から4の結果について、HClO総到達量と直径2mm病斑相当数との関係を調べ、保管日数毎に、HClO総到達量xに対する直径2mm病斑相当数yをプロットし、下記式(1)で表されるジグモイド曲線式
y=d+(a-d)/(1+(x/c)b)…(1)で近似した。
【0150】
図12に、1日目のHClO総到達量と直径2mm病斑相当数との関係を表すデータを示す。
【0151】
ここでは、対照となる無処理区の病斑数yの範囲は1<y<9である。
【0152】
また、このとき、式(1)中、a=4.27468,b=1.47667,c=1617.5583,d=-0.064598、相関係数R2=0.59513である。
【0153】
近似式から推定した直径2mm病斑相当数が4のとき、HClO総到達量は3462μg/m、1のとき、261μg/m、0のとき、27658μg/mである。
【0154】
図12より、HClO総到達量が3462μg/m以上であれば、1日間は、直径2mm病斑相当数を4以下に抑えることができることがわかる。直径2mm病斑相当数を0にするには、27658μg/mとなり、後述の2日目の値より高い結果になっているが、病斑の出始めは実測値がばらつき易く、信頼性が低くなるものと考えられる。
【0155】
図13に、2日目のHClO総到達量と直径2mm病斑相当数との関係を表すデータを示す。
【0156】
ここでは、対照となる無処理区の病斑数yの範囲は28<y<82である。
【0157】
また、このとき、式(1)中、a=63.45682、b=1.47815、c=1572.50324、d=-1.42221、相関係数R2=0.84819である。
【0158】
近似式から推定した直径2mm病斑相当数が10のとき、HClO総到達量は4467μg/m、4のとき7947μg/m、1のとき14171μg/m、0のとき20536μg/mである。
【0159】
図13より、HClO総到達量が4467μg/m以上であれば、2日間は、直径2mm病斑相当数を10以下に抑えることができることがわかる。直径2mm病斑相当数を4個あるいは1個に抑えるには1日目より少量でよいことがわかる。近似式は1日目よりも高い相関が得られた。
【0160】
図14に、3日目のHClO総到達量と直径2mm病斑相当数との関係を表すデータを示す。
【0161】
ここでは、対照となる無処理区の病斑数yの範囲は50<y<115である。
【0162】
また、このとき、式(1)中、a=94.28938、b=1.45731、c=2186.3421、d=-2.41162、相関係数R2=0.86647である。
【0163】
近似式から推定した直径2mm病斑相当数が10のとき、HClO総到達量は8139μg/m、4のとき13425μg/m、1のとき21169μg/m、0のとき27055μg/mである。
【0164】
図14より、HClO総到達量が8139μg/m以上であれば、3日間は、直径2mm病斑相当数を10以下に抑えることができることがわかる。直径2mm病斑相当数を4個あるいは1個に抑えるには2日目より少量でよいことがわかる。なお、無処理で直径2mm病斑相当数が115個を超える高い発生リスクのある切り花については、近似式の範囲外となる。
【0165】
図15に、4日目のHClO総到達量と直径2mm病斑相当数との関係を表すデータを示す。
【0166】
ここでは、対照となる無処理区の病斑数yの範囲は93<y<313である。
【0167】
また、このとき、式(1)中、a=245.01217、b=1.39273、c=2082.32045、d=-7.66145、相関係数R2=0.81374である。
【0168】
近似式から推定した直径2mm病斑相当数が10のとき、HClO総到達量は13355μg/m、4のとき18321μg/m、1のとき22884μg/m、0のとき25065μg/mである。
【0169】
図15より、HClO総到達量が13355μg/m以上であれば、4日間は、直径2mm病斑相当数を10以下に抑えることができることがわかる。直径2mm病斑相当数を4個あるいは1個に抑えるには3日目より少量でよいことがわかる。なお、無処理で直径2mm病斑相当数が313個を超える高い発生リスクのある切り花については、近似式の範囲外となる。
【0170】
下記表5に、経過日数と、近似式から推定した、直径2mm病斑相当数及びHClO総到達量とを、まとめて示す。
【0171】
【表5】
【0172】
従って、単位時間HClO到達量5~350μg/(m・分)のとき、直径2mm病斑相当数を10個以下に抑えるためのHClO総到達量は、高湿度の状況が1日以内である場合は260μg/m以上、2日以内である場合は4500μg/m以上、3日以内である場合は8500μg/m以上、4日以内である場合は14000μg/m以上と定義する。
【0173】
単位時間HClO到達量5~350μg/(m・分)のとき、直径2mm病斑相当数を4個以下に抑えるためのHClO総到達量は、高湿度の状況が1日以内である場合は260μg/m以上、2日以内である場合は8000μg/m以上、3日以内である場合は14000μg/m以上、4日以内である場合は19000μg/m以上と定義する。
【0174】
単位時間HClO到達量5~350μg/(m・分)のとき、直径2mm病斑相当数を1個以下に抑えるためのHClO総到達量は、高湿度の状況が1日以内である場合は3500μg/m以上、2日以内である場合は15000μg/m以上、3日以内である場合には22000μg/m以上、4日以内である場合には23000μg/m以上と定義する。
【0175】
実施例5
次亜塩素酸水として、pH6.15、遊離有効塩素(FAC)濃度40mg/kgの酸性電解水の代わりにpH6.12、遊離有効塩素(FAC)濃度80mg/kgの酸性電解水を使用すること、単位時間HClO到達量が平均679μg/(m・分)であること、及び調査の実施を、1,2,3,4,5,及び6日間経過後にすること、実施例1とは別の日に入手したバラ切り花を用いること以外は、実施例1と同様にして、灰色かび病菌による発病をそれぞれ調査した。
【0176】
得られた結果を下記表6に示す。
【0177】
【表6】
【0178】
また、表6に基づいて作成した経過日数と直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図を図16に示す。
【0179】
図16中、グラフ501、502、503、及び504は、各々、処理なし、15分処理、30分処理、及び60分処理の結果を表す。
【0180】
図中、グラフ501以外のグラフは、ほぼ重なって判別しにくいが、例えば高湿度処理後日数が6日目では2mm病斑相当数が大きい方から順にグラフ502、503、及び504である。
【0181】
表6及び図16から、単位時間HClO到達量平均679μg/(m・分)では、最小時間である15分処理(HClO総到達量10185μg/m)で、殺菌処理後に高湿度空間で保管した場合、直径2mm病斑相当数は3日目まで0個、4日間保管した場合は0.25個まで抑制できることがわかる。
【0182】
実施例6
実施例5とは別の日に入手したバラ切り花を用いること、及び単位時間HClO到達量が平均505μg/(m・分)であること以外は、実施例5と同様にして灰色かび病菌による発病をそれぞれ調査した。
【0183】
得られた結果を下記表7に示す。
【0184】
【表7】
【0185】
また、表7に基づいて作成した経過日数と直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図を図17に示す。
【0186】
図17中、グラフ601、602、603、及び604は、各々、処理なし、15分処理、30分処理、及び60分処理の結果を表す。
【0187】
図中、グラフ601,602以外のグラフは、ほぼ重なって判別しにくいが、例えば高湿度処理後日数が6日目では2mm病斑相当数が大きい方から順にグラフ603、及び604である。
【0188】
表7及び図17から、単位時間HClO到達量平均505μg/(m・分)で、殺菌処理後に高湿度空間に保管した場合、直径2mm病斑相当数は、15分処理(HClO総到達量7575μg/m)で2日間保管後に0.25個と1個以下となり、30分処理(HClO総到達量15150g/m)で4日保管後に1個まで抑制できることがわかる。
【0189】
実施例7
実施例5とは別の日に入手したバラ切り花を用いること、及び単位時間HClO到達が平均379μg/(m・分)であること、及び調査の実施を、1,2,3,及び4日間経過後にすること以外は、実施例5と同様にして灰色かび病菌による発病をそれぞれ調査した。
【0190】
得られた結果を下記表8に示す。
【0191】
【表8】
【0192】
また、表8に基づいて作成した経過日数と直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図を図18に示す。
【0193】
図18中、グラフ701、702、703、及び704は、各々、処理なし、15分処理、30分処理、及び60分処理の結果を表す。
【0194】
図中、グラフ701,702以外のグラフは、ほぼ重なって判別しにくいが、例えば高湿度処理後日数が4日目では2mm病斑相当数が大きい方から順にグラフ703、及び704である。
【0195】
表8及び図18から、単位時間HClO到達量平均379μg/(m・分)で、殺菌処理後に高湿度空間に保管した場合、直径2mm病斑相当数は、30分処理(HClO総到達量11370g/m)で3日保管後は0.25個と1個以下まで抑制できることがわかる。
【0196】
また実施例5及び6及び7の結果から、単位時間HClO到達量が350μg/(m・分)より大きいとき、直径2mm病斑相当数を1個以下に抑えるためのHClO総到達量は、輸送期間が2日以内である場合は7600μg/m以上、3日以内である場合は11400μg/m以上、4日以内である場合は15200μg/m以上であることがわかる。
【0197】
実施例5及び6及び7の結果と、実施例1~4の結果を比較すると、単位時間HClO到達量が350μg/(m・分)より大きいとき、直径2mm病斑相当数を1個以下に抑えるためのHClO総到達量は、輸送期間が3日以内であれば、単位時間HClO到達量5~350μg/(m・分)のときの約半分の量でよいことがわかる。
【0198】
一方で、実施例5,6,7は高濃度であるが故に、HClO総到達量は最小値で5685μg/mであるため、直径2mm病斑相当数4個以下、10個以下に抑制するために必要なHClO総到達量は実験値を基にシグモイド曲線式から求めた。
【0199】
実施例5,6,7のシグモイド曲線式を求めるにあたり、縦軸yを発生割合とした。これは、実施例5,6,7の無処理の病斑数が実施例1~4と比べ少ないため、これまでの低濃度(実施例1~4)と相関を取るためである。
【0200】
無処理の病斑数が少ない理由は、本検証は切り花に自然発症する菌を用いて検証しているため、季節変動や個体差によるバラツキによるものである。
【0201】
発生割合とは、処理後の病斑数を無処理の病斑数の平均値で割ることで、無処理の病斑数の差に影響されないように規格化したものであり、発生割合に対する逆の意味としては病斑の発生を抑制できた割合となるが、ここでは発生割合を用いたシグモイド曲線式を、保管日数毎に導いた結果を以下に示す。
【0202】
図19に、1日目のHClO総到達量と病斑発生割合との関係を表すデータを示す。
【0203】
ここでは、対照となる無処理区の直径2mm病斑相当数は0より大きく9未満であり、無処理の病斑数平均は3.7である。
【0204】
また、このとき、式(1)中、a=1.00000,b=264.32430,c=6533.86133,d=0.00000、相関係数R2=1.00000である。
【0205】
図20に、2日目のHClO総到達量と病斑発生割合との関係を表すデータを示す。
【0206】
ここでは、対照となる無処理区の直径2mm病斑相当数は9より大きく83未満であり、無処理の病斑数平均は45である。
【0207】
また、このとき、式(1)中、a=1.00000、b=1.87196、c=810.61309、d=-0.00071607、相関係数R2=0.99979である。
【0208】
図21に、3日目のHClO総到達量と病斑発生割合との関係を表すデータを示す。
【0209】
ここでは、対照となる無処理区の直径2mm病斑相当数は35より大きく159未満であり、無処理の病斑数平均は86である。
【0210】
また、このとき、式(1)中、a=1、b=1.28774、c=751.81239、d=-0.010432、相関係数R2=0.99823である。
【0211】
図22に、4日目のHClO総到達量と病斑発生割合との関係を表すデータを示す。
【0212】
ここでは、対照となる無処理区の直径2mm病斑相当数は93より大きく342未満であり、無処理の病斑数平均は226である。
【0213】
また、このとき、式(1)中、a=0.99998、b=4.17779、c=4033.08727、d=0.00018378、相関係数R2=0.99965である。
【0214】
次に、シグモイド曲線式から、直径2mm病斑相当数を10個、4個、1個以下に抑制するために必要なHClO総到達量を算出する。手順としては、直径2mm病斑相当数10個、4個、1個を、無処理における病斑数の平均値で割り、それぞれの発生割合yを算出する。更にyをシグモイド曲線式に代入することで、直径2mm病斑相当数を10個、4個、1個以下に抑制するために必要なHClO総到達量xを導くことができる。
【0215】
4日保管を例にとると、無処理の病斑数平均は226であるため、発生割合yは、10個では0.044、4個では0.018、1個では0.004となる。このyをシグモイド曲線式に代入すると、4日保管で直径2mm病斑相当数を10個以下とするに必要なHClO総到達量は8423μg/m、4個以下とするに必要なHClO総到達量は10574μg/m、1個以下とするに必要なHClO総到達量は14896μg/mと導くことができる。
【0216】
同様にして、3日保管で直径2mm病斑相当数を10個以下とするに必要なHClO総到達量は3397μg/m、4個以下とするに必要なHClO総到達量は6707μg/m、1個以下とするに必要なHClO総到達量は14403μg/mと導くことができる。
【0217】
2日保管で直径2mm病斑相当数を10個以下とするに必要なHClO総到達量は1580μg/m、4個以下とするに必要なHClO総到達量は2798μg/m、1個以下とするに必要なHClO総到達量は6017μg/mと導くことができる。
【0218】
1日保管で直径2mm病斑相当数を1個以下とするに必要なHClO総到達量は6558μg/mと導くことができる。1日保管では、4個以上の病斑抑制は、無処理の病斑数平均数3.7個を上回るため算出することはできない。
【0219】
下記表9に、実施例5、6、7の実測値と、シグモイド曲線式から判断した単位時間HClO到達量が350μg/(m・分)を超える高濃度の場合における、経過日数と、直径2mm病斑相当数を10個以下、4個以下、1個以下にするために必要なHClO総到達量とを、まとめて示す。
【0220】
【表9】
【0221】
表中、2日目に直径2mm病斑相当数を1個以下にするための必要なHClO総到達量7600μg/mは、表7のHClO総到達量7575μg/mから推定した。更に3日目に直径2mm病斑相当数を1個以下に必要なHClO総到達量11400μg/mは、表8のHClO総到達量11370μg/mから推定でき、4日目に直径2mm病斑相当数を1個以下に必要なHClO総到達量15200μg/mは、表7のHClO総到達量15150μg/mから推定できる。
【0222】
また、2、3、4日目に直径2mm病斑相当数を4個、10以下にするための必要なHClO総到達量は、シグモイド曲線式から推定できる。
【0223】
1日目に直径2mm病斑相当数を1以下にするための必要なHClO総到達量は、シグモイド曲線式から求めると単位時間HClO到達量が350μg/(m・分)以下の場合で求めた低濃度の表5よりも大きくなることから、1日目に直径2mm病斑相当数を4個、1個以下にするための必要なHClO総到達量は、表5から引用している。
【0224】
従って、単位時間HClO到達量が350μg/(m・分)を超えるとき、直径2mm病斑相当数を10個以下に抑えるためのHClO総到達量は、高湿度の状況が2日以内である場合は1600μg/m以上、3日以内である場合は3400μg/m以上、4日以内である場合は8400μg/m以上と定義する。
【0225】
単位時間HClO到達量が350μg/(m・分)を超えるとき、直径2mm病斑相当数を4個以下に抑えるためのHClO総到達量は、高湿度の状況が1日以内である場合は260μg/m以上、2日以内である場合は2800μg/m以上、3日以内である場合は6700g/m以上、4日以内である場合は10600μg/m以上と定義する。
【0226】
単位時間HClO到達量が350μg/(m・分)を超えるとき、直径2mm病斑相当数を1個以下に抑えるためのHClO総到達量は、高湿度の状況が1日以内である場合は3500μg/m以上、2日以内である場合は7600μg/m以上、3日以内である場合には11400μg/m以上、4日以内である場合には15200μg/m以上と定義する。
【0227】
実施例8
縦420mm、横330mm、及び高さ140mmの大きさのプラスチック製の容器に縦30cm、横20cmの大きさのろ紙を敷き、遊離有効塩素(FAC)濃度73mg/kgの次亜塩素酸水を500ml入れた。
【0228】
バラ生産者から水揚げ直後のバラ(品種 アバランチェ)の切り花を入手し、試験管立てに一定の間隔で挿して、容器内に設置した。縦405mm、横315mm、及び高さ105mmの大きさの透明なフタをかぶせ、容器とフタの間から湿度計を挿入した。
【0229】
容器を周囲温度15℃~25℃の環境で24時間保管し、次亜塩素酸水の自然気化による切り花の殺菌処理を行った。
【0230】
容器の、容器内の湿度はほぼ100%であり、単位時間HClO到達量は平均38μg/(分・m)であった。
【0231】
24時間後、同様の大きさのプラスチック製の容器にろ紙を敷いて水を張り、殺菌処理された切り花を挿した試験管立てをこの容器に移し、密閉して容器内をほぼ100%の高湿度に維持した。容器を周囲温度15℃~25℃の環境でさらに3日間保管した。殺菌処理開始から1,2,3,及び4日間経過後に、灰色かび病菌による発病をそれぞれ4本ずつ調査した。
【0232】
得られた結果を下記表10に示す。
【0233】
また、比較として、次亜塩素酸水500mlの代わりに水を500ml入れること以外は同様にして24時間保管後、さらに高湿度で3日間保管し、保管開始から1,2,3,及び4日間経過後に、灰色かび病菌による発病をそれぞれ4本ずつ調査した。
【0234】
得られた結果を下記表10に示す。
【0235】
実施例9
図23と同様の構成を有する殺菌ユニットを用意し、遊離有効塩素(FAC)濃度70mg/kgの次亜塩素酸水を400ml入れた。
【0236】
ろ紙と電解水を入れる代わりに、プラスチック製の容器に殺菌ユニットを配置すること以外は、実施例8と同様にして、24時間切り花の殺菌処理を行った。
【0237】
容器の、容器内の湿度はほぼ100%であり、単位時間HClO到達量は平均13.4μg/(分・m)であった。
【0238】
その後、同様に、高湿度で3日間保管し、殺菌処理開始から1,2,3,及び4日間経過後に、灰色かび病菌による発病をそれぞれ4本ずつ調査した。
【0239】
得られた結果を下記表10に示す。
【0240】
切り花の殺菌処理を96時間行うこと以外は、実施例9と同様にして、切り花の殺菌処理を行い、殺菌処理開始から1,2,3,及び4日間経過後に、灰色かび病菌による発病をそれぞれ4本ずつ調査した。
【0241】
得られた結果を下記表10に示す。
【0242】
【表10】
【0243】
表10に基づいて作成した経過日数と直径2mm病斑相当数との関係を表すグラフ図を図25に示す。
【0244】
図25中、グラフ1201、1202、1203、及び1204は、各々、水で24時間処理(比較)、殺菌ユニットで酸性電解水を自然気化させた容器内で24時間処理(実施例9)、殺菌ユニットで酸性電解水を自然気化させた容器内で96時間処理(実施例10)、酸性電解水をろ紙に含浸して自然気化させた容器内で24時間処理(実施例8)の結果を表す。
【0245】
表10及び図25から、単位時間HClO到達量平均38μg/(m・分)で、24時間殺菌処理後に高湿度空間に保管した場合、殺菌処理から3日後の直径2mm病斑相当数は5個、単位時間HClO到達量平均14.1μg/(m・分)で24時間殺菌処理後に高湿度空間に保管した場合、殺菌処理から2日後の直径2mm病斑相当数は、15個、単位時間HClO到達量平均14.1μg/(m・分)で、96時間殺菌処理した場合、直径2mm病斑相当数は、32個まで抑制できることがわかる。
【0246】
また、図25に示すように、酸性電解水をろ紙に含浸して自然気化させた容器内で24時間処理した場合は、4日後も十分な殺菌効果が見られるが、殺菌ユニットで酸性電解水を自然気化させた容器内で24時間処理した場合には、殺菌効果が劣っている。しかしながら、殺菌ユニットで酸性電解水を自然気化させた容器内で96時間処理することにより、ろ紙に含浸して自然気化させた容器内で24時間処理した場合と同等の効果が得られていることがわかる。
【0247】
切り花の病害抑制に必要なHClO総到達量を定義するために、実施例8から10の結果について、HClO総到達量と直径2mm病斑相当数との関係を調べ、保管日数毎に、HClO総到達量xに対する直径2mm病斑相当数yをプロットし、上記式(1)で表されるジグモイド曲線式で近似した。
【0248】
図26に、1日目のHClO総到達量と直径2mm病斑相当数との関係を表すデータを示す。
【0249】
ここでは、対照となる無処理区の病斑数yの範囲は10<y<34である。
【0250】
また、このとき、式(1)中、a=0.23833,b=-4.06963,c=7106.00793,d=20.41667、相関係数R2=0.75110である。
【0251】
近似式から推定した直径2mm病斑相当数が10のとき、HClO総到達量は7220μg/m、4のとき、HClO総到達量は10206μg/m、1のとき、15748μg/mである。
【0252】
図26より、HClO総到達量が7220μg/m以上であれば、1日間は、直径2mm病斑相当数を10以下に抑えることができることがわかる。
【0253】
図27に、2日目のHClO総到達量と直径2mm病斑相当数との関係を表すデータを示す。
【0254】
ここでは、対照となる無処理区の病斑数yの範囲は35<y<68である。
【0255】
また、このとき、式(1)中、a=46.08246、b=14.13147、c=18157.4624、d=2.07899、相関係数R2=0.84233である。
【0256】
近似式から推定した直径2mm病斑相当数が10のとき、HClO総到達量は20214μg/m、4のとき22590μg/mである。
【0257】
図27より、HClO総到達量が20214μg/m以上であれば、2日間は、直径2mm病斑相当数を10以下に抑えることができることがわかる。
【0258】
図28に、3日目のHClO総到達量と直径2mm病斑相当数との関係を表すデータを示す。
【0259】
ここでは、対照となる無処理区の病斑数yの範囲は58<y<155である。
【0260】
また、このとき、式(1)中、a=99.02931、b=26.72381、c=20029.0089、d=7.60246、相関係数R2=0.73408である。
【0261】
近似式から推定した直径2mm病斑相当数が10のとき、HClO総到達量は22930μg/mである。
【0262】
図28より、HClO総到達量が22930μg/m以上であれば、3日間は、直径2mm病斑相当数を10以下に抑えることができることがわかる。
【0263】
図29に、4日目のHClO総到達量と直径2mm病斑相当数との関係を表すデータを示す。
【0264】
ここでは、対照となる無処理区の病斑数yの範囲は189<y<235である。
【0265】
また、このとき、式(1)中、a=201.50817、b=11.30435、c=20674.7571、d=21.81753、相関係数R2=0.87720である。
【0266】
近似式から推定した直径2mm病斑相当数が22のとき、HClO総到達量は38036μg/mである。
【0267】
図29より、HClO総到達量が38036μg/m以上であれば、4日間は、直径2mm病斑相当数を22以下に抑えることができることがわかる。
【0268】
下記表11に、経過日数と、近似式から推定した、直径2mm病斑相当数及びHClO総到達量とを、まとめて示す。
【0269】
【表11】
【0270】
表11に示すように、単位時間HClO到達量5~60μg/(m・分)のとき、直径2mm病斑相当数を10個以下に抑えるためのHClO総到達量は、高湿度の状況が1日以内である場合は7000μg/m以上、2日以内である場合は20000μg/m以上、3日以内である場合は23000μg/m以上とする。
【0271】
単位時間HClO到達量5~60μg/(m・分)のとき、直径2mm病斑相当数を4個以下に抑えるためのHClO総到達量は、高湿度の状況が1日以内である場合は10000μg/m以上、2日以内である場合は22500μg/m以上とする。
【0272】
単位時間HClO到達量5~60μg/(m・分)のとき、直径2mm病斑相当数を1個以下に抑えるためのHClO総到達量は、高湿度の状況が1日以内である場合は1600μg/m以上とする。
【0273】
以下に、本願の先の出願特願2017-183373の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[付記1]
[1]
収穫後から輸送前の切り花に対し、次亜塩素酸水の気化物質を、HClO総到達量(単位時間HClO到達量×処理時間)が260μg/m以上になるまで供給することを特徴とする切り花の殺菌処理方法。
[2]
前記HClO総到達量は、42000μg/m以下である[1]に記載の方法。
[3]
前記単位時間HClO到達量は、5~700μg/(m・分)である[1]または[2]に記載の方法。
[4]
前記HClO総到達量は、前記単位時間HClO到達量と輸送期間に応じて設定され、前記単位時間HClO到達量が5~350μg/(m・分)であるとき、前記輸送期間が1日以内である場合は260μg/m以上、2日以内である場合は4500μg/m以上、3日以内である場合は8500μg/m以上、4日以内である場合は14000μg/m以上である[3]に記載の方法。
[5]
前記HClO総到達量は、前記輸送期間が1日以内である場合は260μg/m以上、2日以内である場合は8000μg/m以上、3日以内である場合は14000μg/m以上、4日以内である場合は19000μg/m 以上に設定する[4]に記載の方法。
[6]
前記HClO総到達量は、前記輸送期間が1日以内である場合は3500μg/m以上、2日以内である場合は15000μg/m以上、3日以内である場合には22000μg/m以上、4日以内である場合には23000μg/m以上に設定する[5]に記載の方法。
[7]
前記HClO総到達量は、前記単位時間HClO到達量と輸送期間に応じて設定され、前記単位時間HClO到達量が350μg/(m・分)より大きいとき、前記輸送期間が1日以内である場合は260μg/m以上、2日以内である場合は1600μg/m以上、3日以内である場合は3400μg/m以上、4日以内である場合は8400μg/m以上である[3]に記載の方法。
[8]
前記HClO総到達量は、前記単位時間HClO到達量と輸送期間に応じて設定され、前記単位時間HClO到達量が350μg/(m・分)より大きいとき、前記輸送期間が1日以内である場合は260μg/m以上、2日以内である場合は2800μg/m以上、3日以内である場合は6700μg/m以上、4日以内である場合は10600μg/m以上である[7]に記載の方法。
[9]
前記HClO総到達量は、前記単位時間HClO到達量と輸送期間に応じて設定され、前記単位時間HClO到達量が350μg/(m・分)より大きいとき、前記輸送期間が1日以内である場合は3500μg/m以上、2日以内である場合は7600μg/m以上、3日以内である場合は11400μg/m以上、4日以内である場合は15200μg/m以上である[8]に記載の方法。
また、以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[付記2]
[2-1]
収穫後から輸送前の切り花に対し、次亜塩素酸水の気化物質を、HClO総到達量(前記切り花の周囲雰囲気における単位時間HClO到達量×処理時間)が260μg/m以上、42000μg/m以下まで供給することを特徴とする切り花の殺菌処理方法。
[2-2]
前記単位時間HClO到達量は、5~700μg/(m・分)である[2-1]に記載の方法。
[2-3]
前記HClO総到達量を、輸送期間に合わせ3500μg/m以上、23000μg/m以下に設定する[2-2]に記載の方法。
[2-4]
切り花に次亜塩素酸水の気化物質を供給し、前記切り花の周囲雰囲気における単位時間HClO到達量を平均5~60μg/(m・分)に維持する切り花の殺菌処理方法。
[2-5]
HClO総到達量(前記切り花の周囲雰囲気における単位時間HClO到達量×処理時間)を24時間以内に7000μg/m以上、23000μg/m以下になるまで、前記周囲雰囲気を前記単位時間HClO到達量に維持し、かつ
48時間以内に前記次亜塩素酸水の気化物質を前記切り花に再供給し、前記周囲雰囲気を前記単位時間HClO到達量に維持することをさらに含む[2-4]に記載の方法。
[2-6]
前記切り花の周囲雰囲気をさらに湿度80%以上に維持する[2-1]ないし[2-4]のいずれか1つに記載の方法。
[2-7]
前記単位時間HClO到達量を維持した後、前記切り花を湿度80%以上で保管することをさらに含む[2-1]ないし[2-4]のいずれか1つに記載の方法。
[2-8]
[2-4]ないし[2-7]のいずれか1項に記載の方法に用いられる次亜塩素酸水の気化物質を供給するための殺菌ユニット。
また、以下に、本願出願の分割直前の出願特願2021-100420の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[付記3]
[3-1]
収穫後から輸送前の切り花に対し、次亜塩素酸水の気化物質を、平均で350μg/(m・分)より大きく700μg/(m・分)以下の単位時間HClO到達量で供給するとき、
1日間保管の条件を、HClO総到達量(前記切り花の周囲雰囲気における単位時間HClO到達量×処理時間)が260μg/m以上とするか、2日間保管の条件を、HClO総到達量が1600μg/m以上とするか、3日間保管の条件を、HClO総到達量が3400μg/m以上とするか、あるいは4日間保管の条件を、HClO総到達量が8400μg/m以上とすることを特徴とする切り花の殺菌処理方法。
[3-2]
前記1日間保管の条件を、HClO総到達量が3500μg/m以上とする[3-1]に記載の方法。
[3-3]
前記2日間保管の条件を、HClO総到達量が2800μg/m以上とする[3-1]または[3-2]に記載の方法。
[3-4]
前記2日間保管の条件を、HClO総到達量が7600μg/m以上とする[3-3]に記載の方法。
[3-5]
前記3日間保管の条件を、HClO総到達量が6700μg/m以上とする[3-1]ないし[3-4]のいずれか1に記載の方法。
[3-6]
前記3日間保管の条件を、HClO総到達量11400g/m以上とする[3-5]に記載の方法。
[3-7]
前記4日間保管の条件を、HClO総到達量が10600μg/m以上とする[3-1]ないし[3-6]のいずれか1に記載の方法。
[3-8]
前記4日間保管の条件を、HClO総到達量15200g/m以上とする[3-7]に記載の方法。
[3-9]
前記単位時間HClO到達量は、平均379μg/(m・分)以上である[3-1]ないし[3-8]のいずれか1に記載の方法。
[3-10]
前記単位時間HClO到達量は、平均505μg/(m・分)以上である[3-9]に記載の方法。
[3-11]
前記単位時間HClO到達量は、平均679μg/(m・分)以上である[3-10]に記載の方法。
[3-12]
前記HClO総到達量が42000μg/m以下とする[3-1]ないし[3-11]のいずれか1に記載の方法。
[3-13]
前記HClO総到達量が23000μg/m以下とする[3-12]に記載の方法。
[3-14]
前記切り花の周囲雰囲気をさらに湿度80%以上に維持する[3-1]ないし[3-13]のいずれか1に記載の方法。
[3-15]
前記単位時間HClO到達量を維持した後、前記切り花を湿度80%以上で保管することをさらに含む[3-1]ないし[3-14]のいずれか1に記載の方法。
また、以下に、本願出願の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[付記4]
[4-1]
収穫後から輸送前の切り花に対し、次亜塩素酸水の気化物質を、HClO総到達量(前記切り花の周囲雰囲気における単位時間HClO到達量×処理時間)が260μg/m 以上、42000μg/m 以下まで供給することを特徴とする切り花の殺菌処理方法(ただし、梱包以後にさらに殺菌処理する場合を除く。)。
[4-2]
前記単位時間HClO到達量は、5~700μg/(m ・分)である[4-1]に記載の方法。
[4-3]
前記HClO総到達量を、輸送期間に合わせ3500μg/m 以上、23000μg/m 以下に設定する[4-2]に記載の方法。
[4-4]
切り花に次亜塩素酸水の通風せずに自然気化させた気化物質を供給し、前記切り花の周囲雰囲気における単位時間HClO到達量を平均5~60μg/(m ・分)に維持する切り花の殺菌処理方法。
[4-5]
HClO総到達量(前記切り花の周囲雰囲気における単位時間HClO到達量×処理時間)を24時間以内に7000μg/m 以上、23000μg/m 以下になるまで、前記周囲雰囲気を前記単位時間HClO到達量に維持し、かつ
48時間以内に前記次亜塩素酸水の気化物質を前記切り花に再供給し、前記周囲雰囲気を前記単位時間HClO到達量に維持することをさらに含む[4-4]に記載の方法。
[4-6]
前記切り花の周囲雰囲気をさらに湿度80%以上に維持する[4-1]ないし[4-4]のいずれか1に記載の方法。
[4-7]
前記単位時間HClO到達量を維持した後、前記切り花を湿度80%以上で保管することをさらに含む[4-1]ないし[4-4]のいずれか1に記載の方法。
[4-8]
[4-4]ないし[4-7]のいずれか1に記載の方法に用いられる次亜塩素酸水の気化物質を供給するための殺菌ユニット。
[4-9]
前記切り花周辺に到達した次亜塩素酸の単位時間HClO到達量を予測する単位時間HClO到達量予測部を備え、前記単位時間HClO到達量予測部により算出されるHClO総到達量が目的値になるまで、前記次亜塩素酸水の気化物質を供給する[4-1]ないし[4-3]のいずれか1に記載の方法。
[4-10]
前記単位時間HClO到達量予測部は、前記単位時間HClO到達量と前記次亜塩素酸水の気化物質を供給する時間との関係を予め記憶する記憶部を備え、前記単位時間HClO供給量予測部は、前記記憶部からの情報に基づいて前記次亜塩素酸のHClO総到達量が目的値になるまでの予定時間を予測し、前記予定時間に達するまで前記次亜塩素酸水の気化物質を供給する[4-9]に記載の方法。
[4-11]
前記単位時間HClO到達量予測部は、前記切り花周辺に到達した次亜塩素酸のHClO総到達量を測定する測定部を備え、前記次亜塩素酸の単位時間HClO到達量を前記測定部にて測定し、前記HClO総到達量が目的値であるか判定し、前記目的値に達している場合には前記次亜塩素酸水の気化物質の供給を停止する[4-9]に記載の方法。
【0274】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0275】
1…切り花殺菌システム、2…収容部、3…除湿部、10…タンク、11…配管、12…ポンプ、13…、14…制御部、15…筐体、16…気化部、17…ファン、19…HClO総到達量予測部、20…供給部、23…記憶部、30…管理システム、40…殺菌システム、60,70…殺菌ユニット、100…電解槽、112…第1隔膜、114…第2隔膜、115a…中間室、115b…陽極室、115c…陰極室、119a…供給配管、211…水供給部、211a…給水配管、211c…排水配管、213…電源、215…塩水タンク
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