(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】バインダー、負極スラリー、負極及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240603BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240603BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20240603BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/133
(21)【出願番号】P 2022578868
(86)(22)【出願日】2021-02-08
(86)【国際出願番号】 CN2021076033
(87)【国際公開番号】W WO2022160383
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】202110117695.1
(32)【優先日】2021-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】株式会社AESCジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 若楠
(72)【発明者】
【氏名】孫 化雨
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108306021(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111662418(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111668485(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/139
H01M 4/133
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム化ブロックポリマーを含み、前記リチウム化ブロックポリマーは、B-C-B-Aで示される構造を有するブロックポリマーのリチウムか生成物であり、AはポリマーブロックAを表し、BはポリマーブロックBを表し、CはポリマーブロックCを表し、
前記ポリマーブロックAは、アルケニルギ酸モノマーから重合され、
前記ポリマーブロックBは、芳香族ビニルモノマーから重合され、
前記ポリマーブロックCは、アクリレートモノマーから重合されることを特徴とする
リチウムイオン電池負極用バインダー。
【請求項2】
前記アルケニルギ酸モノマーの構造は、
【化1】
であり、R
11及びR
12は独立して水素又はC
1~4アルキル基であり、
且つ/又は、前記芳香族ビニルモノマー構造は、
【化2】
であり、R
21、R
22、R
23、R
24、R
25、R
26は独立して水素又はC
1~4アルキル基であり、
且つ/又は、前記アクリレートモノマーの構造は、
【化3】
であり、R
31は直鎖又は分枝鎖のC
1~10アルキル基であることを特徴とする請求項1に記載の
リチウムイオン電池負極用バインダー。
【請求項3】
前記アルケニルギ酸モノマーはアクリル酸であり、
且つ/又は、前記芳香族ビニルモノマーはスチレンであり、
且つ/又は、前記アクリレートモノマーの構造は、
【化4】
であり、R
31は、直鎖又は分枝鎖のC
4~8アルキル基であることを特徴とする請求項2に記載の
リチウムイオン電池負極用バインダー。
【請求項4】
前記ブロックポリマーにおいて、前記ポリマーブロックAの重合度は10~50であり、
前記ポリマーブロックBの重合度は200~500であり、
前記ポリマーブロックCの重合度は400~1000であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の
リチウムイオン電池負極用バインダー。
【請求項5】
前記リチウム化ブロックポリマーが、一般式(I)で表される構造を有し、
【化5】
そのうち、nは10~50であり、xは200~500であり、yは400~1000であり、zは200~500であり、R
41はC
4~8アルキル基であり、R
42及びR
43はフェニル基又はC
1~4アルキル基置換フェニル基であることを特徴とする請求項1に記載の
リチウムイオン電池負極用バインダー。
【請求項6】
前記リチウム化ブロックポリマーは、
【化6】
であり、nは10~50であり、xは200~500であり、yは400~1000であり、zは200~500であることを特徴とする請求項1に記載の
リチウムイオン電池負極用バインダー。
【請求項7】
負極活性材料、導電剤、請求項1~6のいずれか一項に記載の
リチウムイオン電池負極用バインダー及び増粘剤を含むことを特徴とするリチウムイオン電池用負極スラリー。
【請求項8】
負極活性材料、導電剤、
リチウムイオン電池負極用バインダー及び増粘剤の質量比はa:b:c:dであり、aは93~97であり、bは3~5であり、cは3~5であり、dは0.5~1.5であり、且つa+b+c+d=100であることを特徴とする請求項7に記載の負極スラリー。
【請求項9】
集電体及び前記集電体上を覆う負極活性材料層を含み、前記負極活性材料層は前記集電体上に請求項7又は8に記載の負極スラリーを塗布して形成されることを特徴とする負極。
【請求項10】
前記負極活性材料はグラファイト及び/又はグラファイト含有化合物を含むことを特徴とする請求項9に記載の負極。
【請求項11】
正極と、請求項9又は10に記載の負極と、セパレータと、電解質と、を備えることを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年1月28日に提出された、出願番号が2021101176951であり、発明の名称が「バインダー、負極スラリー、負極及びリチウムイオン電池」である中国特許出願の優先権を主張し、前記出願の全文は、参照によって本文に組み込まれる。
【0002】
本発明の実施形態は、リチウムイオン電池分野に関し、特にバインダー、負極スラリー、負極及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0003】
負極バインダーは、リチウムイオン電池の重要な補助機能材料の1つであり、電極内部の力学性能の主な源であり、その主な機能は、活性材料と活性材料、集電体と活性材料を結合することである。従来の負極バインダーは、主にスチレンブタジエンゴム、アクリルポリマー、又はアクリレートポリマーなどの材料であり、これらの材料は強い凝集力と優れた電気化学的安定性を備えるが、非導電性であるため、負極の内部インピーダンスを容易に増加させ、更にリチウムイオン電池の急速充電性能を低下させる。
【0004】
上記の問題を解決するために、従来技術では主に次の2つの方法が採用されている。第1、活性材料とバインダーとの親和性を高める。例えば、公告番号JP5373388B2の特許文献には、グラファイト粒子の表面に親水性をもたせ、粒子サイズを均一にし、平均粒径を縮小し、表面の湿潤性を改善し、水性バインダーの親和性を高め、リチウムイオン電池の充電効率の向上に有利である、グラファイト粒子の機械化学処理方法を記載している。但し、この方法は、特殊なグラファイト粒子処理装置を使用する必要があり、コストが高く、負極活性材料がグラファイトではない(例えばシリコン)電池体系では同じ効果を得ることができない。
【0005】
第2、従来のバインダーに代わって、より優れたイオン伝導性能のバインダーを使用する。例:公告番号CN105489898Bの特許文献には、グラフェン、カーボンナノチューブ、架橋ポリマー及び多価金属イオン水溶性塩溶液を含む、電池の全体的な導電率を高めることができる導電性水性バインダーが記載されており、このうち、グラフェンとカーボンナノチューブはそれぞれ架橋ポリマーと化学結合で結合して三次元導電性網目構造を形成し、架橋ポリマーは多価金属イオン水溶性塩溶液で架橋され、三次元結合網目構造を形成する。しかし、導電性水性バインダーは主にさまざまな既存の材料の組み合わせであるため、その組成は複雑であり、導電性水性バインダーを調製するために使用される原材料のコストは比較的高く、大規模な普及が困難であり、シリコン体系の負極に応用する場合、非相溶性の問題がある。
【0006】
したがって、この分野では、イオン伝導性が強く、成分が簡単であり、コストが低く、同時に多種の負極体系を許容し、規模を広げ易い負極バインダーの追求が必要となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態の目的は、イオン伝導能力が強く、粘着性がより良好であるバインダーを提供し、作製する負極の剥離強度を更に高め、それを使用したリチウムイオン電池により優れた急速充電能力及び高い低温性能をもたせることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の技術的問題を解決するために、本発明の第1態様は、リチウム化ブロックポリマーを含み、前記リチウム化ブロックポリマーは、B-C-B-Aで示される構造を有し、AはポリマーブロックAを表し、BはポリマーブロックBを表し、CはポリマーブロックCを表し、
前記ポリマーブロックAは、アルケニルギ酸モノマーから重合され、
前記ポリマーブロックBは、芳香族ビニルモノマーから重合され、
前記ポリマーブロックCは、アクリレートモノマーから重合されるバインダーを提供する。
【0009】
いくつかの好ましい解決策では、前記ポリマーブロックAの重合度は10~50であり、前記ポリマーブロックBの重合度は200~500であり、前記ポリマーブロックCの重合度は400~1000である。
【0010】
いくつかの好ましい解決策では、前記アルケニルギ酸モノマーの構造は、
【化1】
であり、R
11、R
12は独立して水素又はC
1~4アルキル基であり、前記C
1~4アルキル基はメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル又はtert-ブチルから選択され、好ましくは、前記アルケニルギ酸は、アクリル酸である。
【0011】
いくつかの好ましい解決策では、前記芳香族ビニルモノマーの構造は、
【化2】
であり、R
21、R
22、R
23、R
24、R
25、R
26は独立して水素又はC
1~4アルキル基であり、C
1~4アルキル基はメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル又はtert-ブチルから選択され、好ましくは、R
21、R
22、R
23、R
24、R
25、R
26は、水素又はメチルであり、より好ましくは、前記芳香族ビニルはスチレンである。
【0012】
いくつかの好ましい解決策では、前記アクリレートモノマーの構造は、
【化3】
であり、R
31は直鎖又は分枝鎖のC
1~10アルキル基であり;より好ましくは、R
31は直鎖又は分岐のC
4~8アルキル基であり、さらに好ましくは、R
31は、
【化4】
である。
【0013】
本発明のブロックポリマーは、従来の段階的フィード重合法によって製造することができ、前記段階的フィード重合法は、前記ブロックポリマーの具体的なブロック構造に従って各ポリマーブロックブロックA、ポリマーブロックB又はポリマーブロックCを段階的に加え、各ポリマーブロックの段階的な重合を実現する。
【0014】
いくつかの好ましい解決策では、前記リチウム化ブロックポリマーは、一般式(I)によって表される構造を有する。
【化5】
そのうち、nは10~50であり、xは200~500であり、yは400~1000であり、zは200~500であり、
R
41はC
4~8アルキル基であり、好ましくは、R
41は、
【化6】
であり、
R
42及びR
43は、フェニル基又はC
1~4アルキル基置換フェニル基であり、前記C
1~4アルキル基フェニル基は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル又はtert-ブチル置換フェニル基から選択され;好ましくは、R
42及びR
43はフェニル基である。
【0015】
いくつかの好ましい解決策では、前記第1ブロックポリマーは、
【化7】
であり、nは10~50であり、xは200~500であり、yは400~1000であり、zは200~500である。
【0016】
本発明のリチウム化ブロックポリマーは、ブロックポリマーをリチウム化処理することによって調製することができ、前記ブロックポリマーは、本分野における従来の段階的フィード重合法によって調製することができ、前記段階的フィード重合法は、前記ブロックポリマーの具体的ブロック構造に基づいて、各ポリマーブロック(A)、ポリマーブロック(B)又はポリマーブロック(C)を段階的に追加して、各ポリマーブロックの段階的な重合を実現する。例えば、ブロックポリマーB-C-B-A(Aはポリマーブロック(A)を表し、Bはポリマーブロック(B)を表し、Cはポリマーブロック(C)を表す)を調製するステップは、以下を含む:(1)ポリマーブロック(A)と重合体ブロック(B)とを重合反応させて重合体ブロック(B-A)を得る;(2)重合体ブロック(C)を重合体ブロック(B-A)と重合反応させて重合体ブロック(C-B-A)を得る;(3)ポリマーブロックBとポリマーブロック(C-B-A)を反応させ、ブロックポリマーB-C-B-Aを得る。
【0017】
本発明の第2態様は、バインダーの調製方法を提供し、前記調製方法は、以下のステップを含む:
(1)ポリアクリル酸-スチレン-イソオクチルアクリレート(PAA-PSt-PEHA)とスチレンモノマーを重合させてポリアクリル酸-スチレン-イソオクチルアクリレート-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)を得る;及び
(2)ポリアクリル酸-スチレン-イソオクチルアクリレート-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)を水酸化リチウムで処理してバインダーを得る;
【化8】
そのうち、nは10~50であり、xは200~500であり、yは400~1000であり、ステップ(2)において、zは200~500である。
【0018】
ステップ(1)において、前記ポリアクリル酸-スチレン-イソオクチルアクリレート-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)と前記スチレンモノマーとの質量比は、(0.01~0.3):1であることが好ましく、より好ましくは、(0.02~0.27):1である。
【0019】
ステップ(1)において、前記重合反応は開始剤の存在下で行うことが好ましく、前記開始剤としては過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムが好ましい。
【0020】
ステップ(1)において、前記重合反応の温度は、好ましくは50~90℃、より好ましくは60~80℃である。
【0021】
ステップ(1)において、前記重合反応時間は2~8時間が好ましい。
【0022】
ステップ(1)において、前記重合反応後、重合反応生成物であるポリアクリル酸-スチレン-イソオクチルアクリレート-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)を脱イオン水でpH3~6まで洗浄することを更に含む。
【0023】
ステップ(2)において、前記水酸化リチウムは水酸化リチウム水溶液であることが好ましく、前記水酸化リチウム水溶液中の水酸化リチウムの質量分率は5%~15%であることが好ましい。
【0024】
ステップ(1)において、ポリアクリル酸-スチレン-イソオクチルアクリレート(PAA-PSt-PEHA)の調製は、以下のステップを含む:
(A)ポリアクリル酸-スチレン(PAA-PSt)およびイソオクチルアクリレートモノマーを重合して、ポリアクリル酸-スチレン-イソオクチルアクリレート(PAA-PSt-PEHA)を得る;
【化9】
そのうち、ステップ(A)において、nは10~50であり、xは200~500であり、yは400~1000である。
【0025】
ステップ(A)において、ポリアクリル酸-スチレン(PAA-PSt)とイソオクチルアクリレートとの質量比は、好ましくは(0.6~0.9):1、より好ましくは(0.6~0.7):1である。
【0026】
ステップ(A)において、前記重合反応は開始剤の存在下で行うことが好ましく、前記開始剤としては過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム又は過硫酸アンモニウムが好ましく、例えば過硫酸カリウムである。
【0027】
ステップ(A)において、前記重合反応の温度は、好ましくは50~90℃、より好ましくは60~80℃である。
【0028】
ステップ(A)において、前記重合反応時間は、好ましくは2~8時間、より好ましくは2~6時間である。
【0029】
ステップ(A)では、前記ポリアクリル酸-スチレン(PAA-PSt)の調製は次のステップを含む。
【0030】
(I)ポリアクリル酸とスチレンモノマーを取って重合反応させ、ポリアクリル酸-スチレン(PAA-PSt)を得る;
【化10】
そのうち、nは10~50、xは200~500である。
【0031】
ステップ(I)において、前記ポリアクリル酸と前記スチレンモノマーの質量比は、好ましくは1:(3~90)、より好ましくは1:(5~75)である。
【0032】
ステップ(I)において、前記重合反応は、好ましくは開始剤の存在下で行われ、前記開始剤は好ましくは過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム又は過硫酸アンモニウムである。
【0033】
ステップ(I)において、前記重合反応の温度は、好ましくは50~90℃、より好ましくは60~80℃である。
【0034】
ステップ(I)において、前記重合反応時間は、好ましくは2~10時間、より好ましくは2~8時間である。
【0035】
ステップ(I)において、前記ポリアクリル酸の調製方法は限定されないが、好ましくは、前記ポリアクリル酸の調製方法は、RAFT試薬および開始剤の存在下、ポリアクリル酸モノマーを重合反応させ、ポリアクリル酸を得る;前記重合反応において、前記RAFT試薬、前記開始剤及び前記アクリルモノマーの質量比は、(0.5~1.0):(0.2~0.5):(10~20)であることが好ましく、前記重合反応温度は50~90℃が好ましく、60~80℃がより好ましく、前記重合反応時間は、好ましくは10~22時間、より好ましくは12~20時間であり、前記開始剤は、好ましくは過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムであり、前記RAFT試薬は、好ましくは、
【化11】
であり、Rはイソプロピオン酸基、酢酸基、2-シアノ酢酸基又は2-アミノ酢酸基であり;Zは、C
4~12アルキル基、C
4~12アルキルチオ基、フェニル基又はベンジル基であり、例えば、2-メルカプト-S-チオベンゾイル酢酸である。
【0036】
本発明の第3態様は、リチウムイオン電池用負極スラリーを提供し、前記負極スラリーは負極活性材料、導電剤及びバインダー及び増粘剤を含み、前記バインダーは、上記リチウム化ブロックポリマーを含む。
【0037】
いくつかの好ましい解決策では、前記負極活性材料、導電剤、バインダー及び増粘剤の質量比はa:b:c:dであり、aは93~97であり、bは3~5であり、cは3~5であり、dは0.5~1.5であり、且つa+b+c+d=100である。
【0038】
本発明の第4態様は、上記の負極スラリーを含むリチウムイオン電池負極を提供し、前記負極は、集電体と、前記集電体上を覆う負極活性材料層とを含み、前記負極活性材料層は、負極スラリーが集電体上に塗布されて形成される。
【0039】
本発明の負極となる負極活性材料は、リチウムを挿入、離脱できる材料である。結晶性炭素(天然グラファイト、人工グラファイトなど)、非晶質炭素、炭素被覆グラファイト、樹脂被覆グラファイト等の炭素材料、酸化インジウム、酸化ケイ素、酸化スズ、チタン酸リチウム、酸化亜鉛及び酸化物リチウム等の酸化物材料を含むが、これらに限定するものではない。負極活性材料は、リチウム金属又はリチウムと合金を形成できる金属材料であってよい。リチウムと合金を形成できる金属の具体例としては、Cu、Sn、Si、Co、Mn、Fe、Sb、及びAgが挙げられる。これらの金属とリチウムを含む二元又は三元合金も負極活性材料として用いることができる。これらの負極活性材料は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。高エネルギー密度の観点から、前記負極活性材料として、グラファイトなどの炭素材料と、Si、Si合金、Si酸化物などのSi系活性材料を組み合わせることができる。サイクル特性と高エネルギー密度を両立させる観点から、前記負極活性材料としてグラファイト及びSi系活性材料を組み合わせることができる。前記組み合わせは、炭素材料とSi系活性材料の合計質量に対するSi系活性材料の質量の割合が、0.5%以上95%以下、1%以上50%以下、又は2%以上40%以下であってよい。各実施形態において、負極活性材料は、前述の密な相互架橋の網目構造に分散する。
【0040】
本発明の負極の導電剤としては、化学変化を起こさない導電材であり、天然グラファイト、人工グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、炭素繊維、ポリフェニレン誘導体、銅とニッケルとアルミニウムと銀を含む金属粉末及び金属繊維から選択される少なくとも1つであってよい。
【0041】
本発明の負極の集電体は、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、ニッケル発泡体、銅発泡体、及び導電性金属被覆ポリマー材料からなる群から選択される少なくとも1つであってよい。
【0042】
本発明の第5態様は、リチウムイオン電池を提供し、前記リチウムイオン電池は、正極、負極、セパレータ及び電解質を備え、前記負極は、本発明の第4態様で提供される負極である。
【0043】
本発明のリチウムイオン電池の正極としては、正極活性材料を含み、正極活性材料はリチウム含有複合酸化物であってよい。リチウム含有複合酸化物の具体例としては、LiMnO2、LiFeO2、LiMn2O4、Li2FeSiO4LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi5CO2Mn3O2、LizNi(1-x-y)CoxMyO2(x、y及びzが0.01≦x≦0.20、0≦y≦0.20及び0.97≦z≦1.20を満たす数値であり、MはMn、V、Mg、Mo、Nb及びAlから選択される少なくとも1種の元素を表す)、LiFePO4及びLizCO(1-x)MxO2(x及びzは0≦x≦0.1及び0.97≦z≦1.20を満たす数値であり、MはMn、Ni、V、Mg、Mo、Nb及びAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す)が挙げられる。正極活性材料は、LizNi(1-x-y)CoxMyO2(x、y、zは0.01≦x≦0.15、0≦y≦0.15及び0.97≦z≦1.20を満たす数値であり、MはMn、Ni、V、Mg、Mo、Nb及びAlから選択される少なくとも1種の元素である)又はLizCO(1-x)MxO2(x及びzは、0≦x≦0.1及び0.97≦z≦1.20を満たす数値であり、MはMn、V、Mg、Mo、Nb及びAlから選択される少なくとも1種の元素である)が挙げられる。
【0044】
本発明のリチウムイオン電池のセパレータは、特に限定せず、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンの単層又は積層の微多孔膜、織布、不織布等を用いることができる。
【0045】
本発明のリチウムイオン電池の非水電解液は、特に限定せず、本分野で一般的に使用される電解液組成を使用することができ、ここでは詳細に説明しない。
【0046】
本分野における常識に反しない基礎において、上記の各好ましい条件は、任意に組み合わせて、本発明の各好適な実例を得ることができる。
【0047】
本発明で使用される試薬及び原料は、何れも市販品から得ることができる。
【発明の効果】
【0048】
本発明が提供するリチウム化ブロックポリマーは、従来技術と比較して、少なくとも次の利点がある。
(1)本発明は、分子構造設計の観点から、リチウム化ブロックポリマーを提供し、それはより良好なイオン伝導能力を有し、電極の内部インピーダンスを低減するのに有利である。
(2)本発明のリチウム化ブロックポリマーは、低コストであり、同時にさまざまな負極体系を許容し、規模を広げ易い。
(3)本発明のリチウム化ブロックポリマーをバインダーとし、それは粘着性がより良好であり、作製されるリチウムイオン電池負極の剥離強度がより高くなる。
(4)本発明のリチウム化ブロックポリマーをバインダーとして使用すると、作製されるリチウムイオン電池がより優れた急速充電能力、より優れた低温放電能力を有し、高温でのガス発生が少なくなる。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明の実施例の目的、技術的解決策、及び利点をより明確にするために、本発明の各実施形態を、具体的な実施例を参照して以下に詳細に説明する。しかしながら、当業者であれば理解できるように、本発明の各実施形態では、読者に本願のよりよく理解させるために多くの技術的細節を提供している。但し、これらの技術的細節及び以下の各実施形態に基づく様々な変更及び修正がなくても、本願が保護を請求する技術的解決法を実現することができる。以下の実施例において、受胎的な条件を明記していない実験方法は、通常、従来の条件に従うか、製造業者によって提案された条件に従うものである。別途説明のない限り、パーセンテージ及び部は重量によって計算される。
【0050】
実施例1:リチウム化ポリアクリル酸-スチレン-イソオクチルアクリレート-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)の調製
【0051】
ステップ1:ポリアクリル酸(PAA)の調製
【化12】
2-メルカプト-S-チオベンゾイル酢酸(分子量:212.3g/mol)1.0g、精製アクリルモノマー3.0~17.0gを秤量し、混合し、500mLの三口フラスコに注ぎ、さらに過硫酸カリウム0.2~0.5gを秤量し、5~10gの脱イオン水に溶解し、低温で保存して準備し、水浴に入れ、マグネチックスターラーを加え、室温で攪拌して溶解し、窒素を30分間通過させて酸素を除去し、60℃~80℃に昇温し、前述の過硫酸カリウム水溶液を加え、12~20時間反応させて前記のポリアクリル酸(PAA)を調製した。
【0052】
ステップ2:ポリアクリル酸-スチレン(PAA-PSt)の調製
【化13】
スチレンモノマー98.0~245.0gを秤量し、注射器でステップ1の反応フラスコにゆっくりと加え、60~80℃で2~8時間反応を続けて前記のポリアクリル酸-スチレン(PAA-PSt)を得た。
【0053】
ステップ3:ポリアクリル酸-スチレン-イソオクチルアクリレート(PAA-PSt-PEHA)の調製
【化14】
イソオクチルアクリレートモノマー347.0~866.0gを秤量し、注射器でステップ2の反応後のフラスコにゆっくりと加え、60~80℃で2~6時間反応を続け、前記のポリアクリル酸-スチレン-イソオクチルアクリレート-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)を得た。
【0054】
ステップ4:ポリアクリル酸-スチレン-イソオクチルアクリレート-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)の調製
【化15】
スチレンモノマー98.0~245.0gを秤量し、注射器でステップ3の反応後のフラスコにゆっくりと加え、60~80℃で2~8時間反応を続け、反応生成物を脱イオン水でpHが3~6になるまで洗浄し、前記のポリアクリル酸-スチレン-イソオクチルアクリレート-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)を得た。
【0055】
ステップ5:リチウム化ポリアクリル酸-スチレン-イソオクチルアクリレート-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)の調製
【化16】
ステップ4で得られたポリアクリル酸-スチレン-イソオクチルアクリレート-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)500g、質量分率5~15%の水酸化リチウム溶液15~25g(水酸化リチウム0.75~3.75gを含む)を取り、300rpm/hの回転速度で60分間攪拌反応させ、前記リチウム化ポリアクリル酸-スチレン-イソオクチルアクリレート-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)を得た。
【0056】
実施例2 リチウムイオン電池の作製
電池バインダーとして実施例1によって調製されたリチウム化ポリアクリル酸-スチレン-イソオクチルアクリレート-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)を使用して、1Ahのソフトパック(Soft-Packing Battery)電池を作製した。
【0057】
正極極性シートの作製
正極活性材料NCM811、導電性カーボンブラックSuper-P及びバインダーであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を質量比96:2:2で混合し、その後、それらをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に分散させて正極スラリーを得た。スラリーをアルミニウム箔の両面に均一に塗布し、加熱乾燥、圧延及び80℃の真空乾燥を経て、アルミニウムのリード線を超音波溶接機で溶接して、厚さ120~150μmの正極板を得た。
【0058】
負極極性シートの作製
複合負極活性材料(98%人工グラファイト+2%酸化ケイ素)、グラファイト、導電性カーボンブラックSuper-P、実施例1で調製したリチウム化ポリアクリル酸-スチレン-イソオクチルアクリレート-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)及び増粘剤であるカルボキシメチルセルロースナトリウムを質量比95:2:2:1で混合し、脱イオン水に分散させて負極スラリーを得た。銅箔の両面にスラリーを塗布し、加熱乾燥、圧延及び真空乾燥を経て、ニッケルのリード線を超音波溶接機で溶接して厚さ80~100μmの負極板を得た。
【0059】
セルの作製
正極板と負極板の間に厚さ20μmのセパレータを挟み、正極板、負極板及びセパレータからなるサンドイッチ構造を巻き取り、巻き取ったものを平たくしてアルミ箔包装袋に入れ、85℃で48時間真空焼成し、注液するセルを得た。
【0060】
セル注液作成(Liquid Injection Formation)
グローブボックス内のセルに電解質を注入し、真空で密閉し、24時間静置した。次に、以下のステップに従って先ず充電の一般の作成を行った:0.02Cの定電流で3.05Vまで充電し、0.05Cの定電流で3.75Vまで充電し、0.2Cの定電流で4.05Vまで充電し、真空シールした。その後、0.33Cの定電流で4.2Vまで充電し、常温で24時間放置後、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電した。
【0061】
実施例3は、実施例2と同じ方法でリチウムイオン電池を作製しており、差異は、用いる負極活性材料が人工グラファイトであることにある。
【0062】
比較例1 従来のSBRバインダーを適用したリチウムイオン電池の作製
正極極性シートの作製
正極活性材料NCM811、導電性カーボンブラックSuper-P及びバインダーであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を質量比96:2:2で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に分散させて正極スラリーを得た。スラリーをアルミニウム箔の両面に均一に塗布し、加熱乾燥、圧延、80℃の真空乾燥を経て、アルミニウムのリード線を超音波溶接機で溶接して、厚さ120~150μmの正極板を得た。
【0063】
負極極性シートの作製
複合負極活性材料(98%人工グラファイト+2%酸化ケイ素)、導電性カーボンブラックSuper-P、SBR及び増粘剤であるカルボキシメチルセルロースナトリウムを質量比95:2:2:1で混合し、脱イオン水に分散させて負極スラリーを得た。銅箔の両面にスラリーを塗布し、加熱乾燥、圧延及び真空乾燥を経て、ニッケルのリード線を超音波溶接機で溶接して厚さ80~100μmの負極板を得た。
【0064】
セルの作製
正極板と負極板の間に厚さ20μmのセパレータを置き、正極板、負極板及びセパレータからなるサンドイッチ構造を巻き取り、巻き取ったものを平たくしてアルミ箔包装袋に入れ、85℃で48時間真空焼成し、注液するセルを得た。
【0065】
セル注液合成
グローブボックス内のセルに電解質を注入し、真空で密閉し、24時間静置した。次に、以下のステップで、先ずの充電の一般の合成を行った:0.02Cの定電流で3.05Vまで充電そ、0.05Cの定電流で3.75Vまで充電し、0.2Cの定電流で4.05Vまで充電し、真空シールした。さらに0.33Cの定電流で4.2Vまで充電し、常温で24時間放置後、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電した。
【0066】
比較例2は、比較例1と同じ方法でリチウムイオン電池を作製しており、差異は、用いる負極活性材料が人工グラファイトであることにある。
【0067】
試験例1 リチウム化ポリアクリル酸-スチレン-イソオクタノエートアクリレート-スチレン(PAA-PSt-PEHA-PSt)の性能
ポリアクリル酸-スチレン-イソオクタン酸アクリレート-スチレン0.01gをテトラヒドロフラン溶媒5mlに溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより分子量及び分子量分布曲線を測定し、その結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
試験例2 リチウムイオン電池の性能試験
(1)急速充電能力試験
実施例及び比較例で作製した電池を25℃において2Cレートで定電流充電試験を行い、レート充電容量維持率を算出し(電池の2Cレートの充電維持率=電池の2Cレートで充電した後に放出された容量/電池の1/3Cレートで充電した後に放出された容量)、結果を表2に示す。
【0070】
【0071】
(2)剥離強度試験
実施例と比較例の負極極性シートを2cm×10cm幅の短冊状に切り、同じ大きさの長方形のステンレス板に同じ大きさの3M製VHB両面テープを貼り付け(貼り付け前にアルコールできれいに拭く)、一定重量のローラを3往復させてテープと鋼板を密着させ、テープの反対側に極性シート(活性材料面)を精確に密着させ、ローラを同様に3往復させ、最後に万能材料試験機で剥離強度を測定した。
【0072】
機械の下方の挟持具に鋼板の一部を置き、地面に対して垂直に鋼板を挟持し、下方から極性シートの中間位置までそっと剥がし、機械の上方まで180°曲げて挟持具で挟持し、機械調節の挟持具の位置を制御し、試験ソフトウェアを起動し、試験条件を引張速度50mm/minに設定し、初期パラメータを全てゼロにリセットし、試験を開始する。得られた結果を表3に示す。
【0073】
【0074】
(3)高温ガス生成性能試験
実施例及び比較例で作製した電池の初期重量及び初期体積を秤量し(排水法により測定)、60℃環境下に静置し、7日毎に取り出し、常温まで下げて体積を測定し、体積増加率を計算し、毎回測定後60℃に戻し、0.03Cの電流で充電し、28日までで終了とした。得られた結果を表4に示す。
【0075】
【0076】
(4)低温放電能力試験
実施例及び比較例で作製した電池について、-20℃における放電容量維持率を測定した:25℃において、容量分割後に満充電状態の電池を1Cで3.0Vまで放電し、初期放電容量をDC(25℃)として記録した。25℃において、1Cの定電流定電圧で4.2Vまで充電し、カットオフ電流は0.05Cとした。-20℃まで降温し4時間置いた後、1Cで3.0Vまで放電し、放電容量DC(-20℃)を記録した。-20℃での放電容量維持率=100%*DC(-20℃)/DC(25℃)である。得られた結果を表5に示す。
【0077】
【0078】
当業者は、上記の実施形態が本発明を実現するための具体実施例であり、実際の適用において、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、形式及び細節における各種変更を行えることを理解できる。