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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】敷物および敷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   E01C 13/08 20060101AFI20240603BHJP
   A47G 27/02 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
E01C13/08
A47G27/02 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023150390
(22)【出願日】2023-09-15
【審査請求日】2023-09-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔展示日〕 証明書記載の一覧のとおり 〔展示会名、開催場所〕 証明書記載の一覧のとおり 〔ウェブサイトの掲載日、アドレス〕 令和5年8月7日 https://shifton.kpp-gr.com/media/case/a70 〔発行日〕 令和5年2月17日 〔刊行物〕 広報誌「TSUNAGU vol.53 2023 WINTER」 〔発行日〕 令和5年7月27日 〔刊行物〕 日刊工業新聞 令和5年7月27日付15ページ 〔発行日〕 令和5年5月2日 〔刊行物〕 繊維専門日刊紙 繊維ニュース 令和5年5月2日号3面 〔販売日〕 令和5年7月10日 〔販売場所〕 国際紙パルプ商事株式会社(東京都中央区明石町6番24号) 〔放送日〕 令和5年3月19日 〔放送番組〕 お仕事search!それってグッジョブ 〔放送日〕 令和5年7月15日 〔放送番組〕 サタデーウオッチ9
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513076925
【氏名又は名称】王子ファイバー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089026
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 高明
(72)【発明者】
【氏名】平井 雅一
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-078625(JP,U)
【文献】特開2021-110173(JP,A)
【文献】特開昭59-177402(JP,A)
【文献】特開平04-068101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 13/08
A47G 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面方向に伸展形成された基布と、
前記基布に、前記基布の表面側を覆って設けられたパイル材とを備え、
前記パイル材は、パルプにより形成されたパイルを含み、前記パイルが、前記パイル材内部への空気の流入が制限される密度をもって植設されており、
前記パイル材は、前記基布の1インチ平方当たりの前記パイルの数が、縦方向および横方向のそれぞれにおいて10本以上となる密度をもって植設されていることを特徴とする、敷物。
【請求項2】
前記パイル材は、前記基布の1インチ平方当たりの前記パイルの数が、縦方向において14.9本以上、横方向において10本以上となる密度をもって植設されているとともに、前記基布からその表面側に突出する前記パイルの長さが10mmであることを特徴とする、請求項1に記載の敷物。
【請求項3】
グラウンドに敷設される人工芝敷設体または屋内で使用されるラグであることを特徴とする、請求項1または2に記載の敷物。
【請求項4】
マニラ麻パルプまたは木材パルプを蒸解してパルプを製造するパルプ製造工程と、
抄紙により和紙糸の原紙を製造する抄紙工程と、
前記和紙糸の原紙を1mmから4mmの幅に裁断して、テープを作成するスリット工程と、
裁断された前記テープに撚りをかける撚り工程を施すことにより、和紙糸を製造する撚糸工程と、
機械織りにより、表面側に前記和紙糸のパイルが植設された基布を有する紙製敷物を製造する織り工程とを備えたことを特徴とする敷物の製造方法。
【請求項5】
前記基布は、合成樹脂製の不織布からなり、前記基布から前記パイルが抜けることを防止するために前記基布の裏面側に樹脂コーティングを施すバッキング工程をさらに備えたことを特徴とする、請求項4に記載の敷物の製造方法。
【請求項6】
前記和紙糸は、1mmから4mmの幅を有する前記テープに撚りをかけることにより形成されることを特徴とする、請求項4に記載の敷物の製造方法。
【請求項7】
前記パイルは、2本または4本の前記和紙糸を撚り合わせることにより形成されることを特徴とする、請求項4に記載の敷物の製造方法。
【請求項8】
前記織り工程において、前記基布の1インチ平方当たりの前記パイルの数が縦方向および横方向のそれぞれにおいて10本以上となる密度をもって、前記パイルを植設することを特徴とする、請求項4に記載の敷物の製造方法。
【請求項9】
前記織り工程において、前記基布の1インチ平方当たりの前記パイルの数が縦方向において14.9本以上、横方向において10本以上となる密度をもって、前記パイルを植設するとともに、前記基布からその表面側に突出する前記パイルの長さを10mmとすることを特徴とする、請求項8に記載の敷物の製造方法。
【請求項10】
前記敷物が、グラウンドに敷設される人工芝敷設体または屋内で使用されるラグであることを特徴とする、請求項8または9に記載の敷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、敷物および敷物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラグ、カーペットおよび人工芝等、屋内外で使用される敷物の多くは、ポリエチレンやポリプロピレン等の合成樹脂により形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2013-503273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
合成樹脂製の敷物は、生分解性が良好ではなく、焼却により有害物質が発生するため、廃棄の際に問題があった。
【0005】
このような実情に鑑み、本発明は、生分解性が良好であるとともに、焼却による有害物質の発生も抑えられ、環境特性に優れた敷物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、平面方向に伸展形成された基布と、前記基布に、前記基布の表面側を覆って設けられたパイル材とを備えた敷物であり、前記パイル材は、パルプにより形成されたパイルを含み、前記パイルが、前記パイル材内部への空気の流入が制限される密度をもって植設されており、前記パイル材は、前記基布の1インチ平方当たりの前記パイルの数が、縦方向および横方向のそれぞれにおいて10本以上となる密度をもって植設されていることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明にあっては、前記パイル材は、前記基布の1インチ平方当たりの前記パイルの数が、縦方向において14.9本以上、横方向において10本以上となる密度をもって植設されているとともに、前記基布からその表面側に突出する前記パイルの長さが10mmであることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明にあっては、敷物が、グラウンドに敷設される人工芝敷設体または屋内で使用されるラグであることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、マニラ麻パルプまたは木材パルプを蒸解してパルプを製造するパルプ製造工程と、抄紙により和紙糸の原紙を製造する抄紙工程と、前記和紙糸の原紙を1mmから4mmの幅に裁断して、テープを作成するスリット工程と、裁断された前記テープに撚りをかける撚り工程を施すことにより、和紙糸を製造する撚糸工程と、機械織りにより、表面側に前記和紙糸のパイルが植設された基布を有する紙製敷物を製造する織り工程とを備えたことを特徴とする敷物の製造方法である。
【0010】
請求項5に記載の発明にあっては、前記基布は、合成樹脂製の不織布からなり、前記基布から前記パイルが抜けることを防止するために前記基布の裏面側に樹脂コーティングを施すバッキング工程をさらに備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明にあっては、前記和紙糸は、1mmから4mmの幅を有する前記テープに撚りをかけることにより形成されることを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明にあっては、前記パイルは、2本または4本の前記和紙糸を撚り合わせることにより形成されることを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の発明にあっては、前記織り工程において、前記基布の1インチ平方当たりの前記パイルの数が縦方向および横方向のそれぞれにおいて10本以上となる密度をもって、前記パイルを植設することを特徴とする。
【0014】
請求項9に記載の発明にあっては、前記織り工程において、前記基布の1インチ平方当たりの前記パイルの数が縦方向において14.9本以上、横方向において10本以上となる密度をもって、前記パイルを植設するとともに、前記基布からその表面側に突出する前記パイルの長さを10mmとすることを特徴とする。
【0015】
請求項10に記載の発明にあっては、前記敷物が、グラウンドに敷設される人工芝敷設体または屋内で使用されるラグであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、パイル材を構成するパイルがパルプ(紙)により形成されているため、生分解性が良好であるとともに、焼却による有害物質の発生が抑えられ、環境特性に優れた敷物を提供することが可能である。
【0017】
さらに、パイル材内部への空気の流入が制限される密度をもってパイルが植設されているため、パルプ(紙)を用いていながら、防火性能に優れた敷物を提供することが可能である。
【0018】
また、請求項1に記載の発明によれば、パイルが植設されている密度が、基布の1インチ平方当たり、縦方向および横方向のそれぞれにおいて10本以上であることで、パイル材内部への空気の流入を良好に制限して、難燃性を高め、防火性能の向上を図ることが可能である。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば、パイルが植設されている密度が、基布の1インチ平方当たり、縦方向において14.9本以上、横方向において10本以上であることで、パイル材内部への空気の流入をより良好に制限して、防火性能の更なる向上を図ることが可能である。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば、環境特性および防火性能に優れた人工芝敷設体およびラグを提供することが可能である。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、基布に植設されるパイルが、パルプを含む和紙糸を材料とするため、環境特性に優れた敷物を製造し、提供することが可能である。
【0022】
ここで、抄紙により製造された和紙糸の原紙を裁断して、テープを作成し、裁断されたテープに撚りをかけることにより、和紙糸を製造することで、和紙糸に機械織りでの良好な加工性を担保するとともに、基布に植設されたパイルの強度を確保することが可能である。
【0023】
さらに、マニラ麻パルプまたは木材パルプを使用することで、環境性能の点で特に優れた紙製織物を提供することが可能となる。
【0024】
請求項5に記載の発明によれば、合成樹脂製の不織布からなる基布を採用するとともに、基布の裏面側に樹脂コーティングを施すことで、基布に対してパイルを容易に植設可能としながら、植設されたパイルの抜けを良好に防止することが可能である。
【0025】
請求項6に記載の発明によれば、和紙糸の原紙から裁断されるテープの幅を1mmから4mmとしたことで、撚り工程を円滑に実施可能とし、撚糸後の和紙糸に適度な太さおよび強度を持たせ、基布に対してパイルを所要の密度で植設することが可能である。
【0026】
請求項7に記載の発明によれば、複数(具体的には、2本または4本)の和紙糸を撚り合わせることによりパイルを形成したことで、パイルを均一で丈夫なものとし、繰り返しの使用や洗濯にも充分に耐え得る紙製敷物を提供することが可能となる。
【0027】
請求項8に記載の発明によれば、パイルを植設する密度を、基布の1インチ平方当たり、縦方向および横方向のそれぞれにおいて10本以上としたことで、紙製織物においてパイルの隙間への空気の流入を良好に制限して、難燃性を高め、防火性能の向上を図ることが可能である。
【0028】
請求項9に記載の発明によれば、パイルを植設する密度を、基布の1インチ平方当たり、縦方向において14.9本以上、横方向において10本以上としたことで、パイルの隙間への空気の流入をより良好に制限して、防火性能の更なる向上を図ることが可能である。
【0029】
請求項10に記載の発明によれば、環境特性および防火性能に優れた人工芝敷設体およびラグを製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一実施形態に係る敷物(人工芝敷設体)の構成を概略的に示す斜視図である。
図2図1に示すA-A線による拡大断面図である。
図3図1に示すB-B線による拡大断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る敷物の製造方法の基本的な流れを示すフローチャートである。
図5】同上製造方法のスリット工程および撚糸工程を模式的に示す説明図である。
図6】同上製造方法の織り工程を模式的に示す説明図である。
図7】表面温度試験に用いられる設備を示す概略図である。
図8】同上試験における人工芝サンプルと照明灯との位置関係を示す概略図である。
図9】同上試験の結果である表面温度変化を概略的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0032】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る紙製敷物(以下、単に「敷物」という)1は、基布11およびパイル材12を備える。図1は、パイル材12の外形を二点鎖線により概略的に示す。
【0033】
本実施形態において、敷物1は、グラウンドに敷設される人工芝敷設体である。グラウンドの全体または一部にこの敷物1を敷き詰めることで、人工芝を形成可能である。対象とするグラウンドは、屋外または屋内、いずれのグラウンドであってもよい。
【0034】
基布11は、芝を形成するためのパイル121を固定する。基布11は、敷物1の縦および横方向、つまり、敷物1が設置される地面または床面に対して平行な平面方向に広がるように、所定の縦寸法および横寸法を有して形成されている。図1は、敷物1の縦方向をY方向に、横方向をX方向に夫々示す。Z方向は、鉛直上向きの方向、つまり、上方向である。基布11は、ポリエステルまたはポリプロピレン等、適宜の合成樹脂材料により形成可能であり、不織布であってもよいし、合成樹脂製のヤーン(糸)を平織りにした織り布であってもよい。
【0035】
パイル材12は、基布11の表面側を、その全面に亘って覆うように設けられている。パイル材12は、パルプにより形成された多数のパイル121を含み、これら多数のパイル121が、基布11に対し、パイル材12の内部、換言すれば、パイル材12を構成する個々のパイル121または和紙糸1211の隙間への空気の流入が制限される密度をもって植設されている。ここに、パイル材12は、複数または多数のパイル121の集合を意味する。
【0036】
本実施形態において、個々のパイル121は、複数の和紙糸1211を撚り合わせることにより構成されている。つまり、パイル121は、撚り糸の態様をなす。パイル121を構成する和紙糸1211は、抄繊糸とも呼ばれ、本願の出願人により商品名「OJO」のもとで商用に供されている。和紙糸1211は、芝に似せた色(例えば、緑色)に着色されている。
【0037】
敷物1の拡大断面図である図2および図3に示すように、パイル121は、縦方向(Y方向)に沿って列をなすように配置され(図3)、同様の複数の列が横方向(X方向)に一定の間隔を空けて配置されている(図2)。そして、個々のパイル121は、根元部121aが基布11を表面側から裏面側へ貫通し、基布11の裏面上に塗布形成された樹脂コーティング13により、基布11に固定されている。
【0038】
先に述べたように、個々のパイル121は、複数の和紙糸1211を撚り合わせて形成されるものであり、本実施形態では、4本の和紙糸1211を撚り合わせることにより、1本のパイル121が形成されている。ここに、パイル121は、基布11に固定される根元部121aとは反対側の先端部で撚り合わせによる拘束から解放され、個々の(つまり、4本の)和紙糸1211に解けた状態にある。和紙糸1211の一本一本が、芝を模擬する。和紙糸1211を撚り合わせる数は、4本以外の適宜の数、例えば、2本であってもよい。
【0039】
パイル121の密度は、基布11の1インチ平方当たりのパイル121の数が、縦および横方向のそれぞれにおいて10本以上となる密度、本実施形態では、縦方向であるY方向において14.9本以上、横方向であるX方向において10本以上となる密度に設定されている。ここに、単位平方当たりのパイル121の数は、縦方向と横方向とで同じであってもよいし、異なっていてもよい。そして、パイル121は、基布11から上方に突出する部分の高さ寸法、つまり、長さLが10mmに設定されている。
【0040】
以下に、本実施形態に係る敷物1の製造方法について説明する。
【0041】
図4に示すフローチャートにおいて、S101に示すパルプ製造工程では、マニラ麻パルプまたは木材パルプを蒸解して、パルプを製造する。
【0042】
S102に示す抄紙工程では、S101で製造されたパルプを用いて抄紙を行い、和紙糸の原紙Pを製造する。抄紙工程に付随して、原紙Pを着色する染色工程を実施する。
【0043】
S103に示すスリット工程では、S102で製造された原紙Pを所定の幅Wに裁断して、和紙のテープTPを作成する。具体的には、図5(a)に示すように、原紙Pを矢印により示す搬送方向に動かしながら、原紙PにスリットカッターC1を当て、1mmから4mmの幅Wに裁断する。これにより、幅Wを有するテープTPを作成する。
【0044】
S104に示す撚糸工程では、S103で作成されたテープTPに撚りをかけることにより、和紙糸THを製造する。そして、所定の数(本実施形態では、4本)の和紙糸THを撚り合わせることにより、和紙の撚り糸、つまり、パイル121を形成する。パイル121は、クリールスタンドに巻き付けた状態で保管する。図5(b)は、テープTPに撚りをかけて和紙糸THを製造する工程を、同図(c)は、4本の和紙糸THを撚り合わせてパイル121を形成する工程を夫々示す。
【0045】
S105に示す織り工程では、S104で製造されたパイル121を用いてタフト織り機(タフティング機)によりタフティングを行い、基布11の表面側にパイル121が植設された紙製織物1を製造する。
【0046】
具体的には、図6(a)に示すように、矢印(一方向矢印)により示す方向に搬送される基布11に対し、絨毯を織るのと同様の要領でパイル121を織り込む。基布11の裏面11bに対して垂直な方向に往復するニードルNにより、パイル121を基布11の裏面11b側から表面11a側に抜けるように打ち込むとともに、基布11の表面11aに対して平行な方向に往復するキーパーKにより、パイル121をその打込後の位置に固定する。キーパーKによる固定後、ニードルNを引き抜くとともに、キーパーKを元の位置に退避させる。その後、図6(b)に示すように、パイル121先端のループ部分121bをカッターまたはフックナイフC2により切除することで、パイル121の先端部が解放され、パイル121が個々の和紙糸1211に解れる。これにより、2本のパイル121の植設が完了する。
【0047】
S106に示すバッキング工程では、基布11の裏面側にバッキング処理を施す。具体的には、基布11の裏面側にスチレン・ブタジエンゴム(SBR)またはニトリルゴム(NBR)等、適宜の合成樹脂材料を塗布し、テンターと呼ばれる乾燥機によりこの樹脂材料を乾燥させて、樹脂コーティングを形成する。これにより、パイル121を基布11に固定し、基布11からのパイル121の抜けを防止する。
【0048】
このように、本実施形態によれば、パイル材12を構成するパイル121がパルプ(紙)により形成されているため、生分解性が良好であるとともに、焼却による有害物質の発生が抑えられ、環境特性に優れた敷物1を提供することが可能である。
【0049】
具体的には、本実施形態に係る織物1のパイル121または和紙糸1211からは、8種の重金属(アンチモンSb、ヒ素As、バリウムBa、カドミウムCd、クロムCr、鉛Pb、水銀Hg、セレンSe)について、日本工業規格JIS L 1030に定められる試験により得られる検出値がいずれも検出限界値未満であり(アンチモンSb、ヒ素As、バリウムBa、カドミウムCd、クロムCr、鉛Pb、水銀Hg、セレンSe:Sb、As、Cd、Cr、Hgについては5mg/kgが検出限界値であり、Ba、Pb、Seについては10mg/kgが検出限界値である)、未検出の結果が得られるとともに、ホルムアルデヒドについても未検出の結果が得られ(厚生労働省令第34号に定められる有害物質試験法による遊離ホルムアルデヒドの検出値が、1g当たり20μg以下)、対人有害性が極めて低く、安全性の高い敷物1を実現可能である。さらに、JIS L 1902:2015に定められる菌液吸収法により得られる抗菌活性値が2.3であり、抗菌性を有することが証明されている。
【0050】
さらに、パイル材12内部への空気の流入が制限される密度をもってパイル121が植設されているため、パルプ(紙)を用いていながら、防火性能に優れた敷物を提供することが可能である。
【0051】
ここで、パイル121が植設される密度が、基布11の1インチ平方当たり、縦方向および横方向のそれぞれにおいて10本以上であること、具体的には、縦方向において14.9本以上、横方向において10本以上であることで、パイル材12内部への空気の流入を良好に制限して、難燃性を高め、防火性能の向上を図ることが可能である。
【0052】
次に示す実施例1、比較例1および比較例2の敷物のそれぞれについて日本防炎協会認定の防炎性能試験を実施した。試験に合格したのは、実施例1のみであり、他の比較例1および2については不合格であった。実施例1と比較して、比較例1は、パイルの密度が低いことに加え、レベルカットを実施せず、ループ部分を有するパイルが残る点に相違がある。他方で、比較例2は、レベルカットを実施するものの、パイルの密度が低く、単位平方当たりのパイルの重さ(つまり、目付量)が小さい点に相違がある。
【0053】
(1)実施例1
1/10Gタフティング機(タフトゲージ)により、1インチ平方当たりのパイルの数が縦方向に14.9本、横方向に10本の密度で植設し、レベルカットによりパイル先端のループ部分を切除して、パイルの長さが10mm、1平方メートル当たりのパイルの重さが1230gの敷物を得た。
【0054】
(2)比較例1
5/32Gタフティング機により、1インチ平方当たりのパイルの数が縦方向に9.6本、横方向に6.4本の密度で植設して、パイルの長さが14mmまたは5mm、1平方メートル当たりのパイルの重さが812gである、ハイカット・ローループ(1:1)の敷物を得た。
【0055】
(3)比較例2
5/32Gタフティング機により、1インチ平方当たりのパイルの数が縦方向に11本、横方向に6.4本の密度で植設し、レベルカットによりパイル先端のループ部分を切除して、パイルの長さが10mm、1平方メートル当たりのパイルの重さが1100gの敷物を得た。
【0056】
以上に加え、本実施形態によれば、パイル121が紙製であり、パイル材12の通気性も良好であるため、蒸れにくく、日照光による加熱に対して表面温度の上昇が抑制されることから、夏場での屋外使用にあっても快適性を確保することが可能である。
【0057】
本実施形態に係る敷物1(以下「紙製人工芝」という)、パイルをナイロンにより形成した人工芝(以下「ナイロン人工芝」という)、パイルをポリエステルにより形成した人工芝(以下「ポリエステル人工芝」という)のそれぞれについて、図7に示す試験装置により表面温度の測定試験を実施した。
【0058】
紙製人工芝SPL1、ナイロン人工芝SPL2およびポリエステル人工芝SPL3を、それぞれの表面を上向きに、裏面を下向きにした状態で発泡スチロール製の試料台301に載置し、人工芝サンプルの表面に対し、試料台301の上面から所定の高さHに設置された人工太陽照明灯(セリック株式会社製、人工太陽照明灯XC-500EFSS、以下「照明灯」という)201により、人工日照光を所定の時間に亘って照射した。高さHは、例えば、50cmである。
【0059】
そして、照明灯による照射開始後、人工芝サンプルSPL1、SPL2、SPL3の表面温度をサーモカメラ(日本アビオニクス株式会社製、InfReC R550、放射率を1.0に設定)202により、時間ごとに測定した。照射は、複数回(本実施形態では、4回)に亘って実施し、それぞれの回において人工芝サンプルSPL1、SPL2、SPL3の位置を入れ替えて実施した。図8に示すように、照明灯201による人工日照光の照射範囲Rを4つに分割し、図中左上の象限を第1領域Rq1とし、第1領域Rq1から時計回りに並ぶそれぞれの象限を、第2領域Rq2、第3領域Rq3、第4領域Rq4とする。図8中、符号SPLa、SPLb、SPLc、SPLdは、4つの象限Rq1~Rq4のそれぞれに配置された人工芝サンプルを示す。各象限Rq1~Rq4に配置された人工芝サンプルSPLa、SPLb、SPLc、SPLdの中央(つまり、各象限を区画する2本の軸の交点)Cは、照明灯201の中心と合致する。
【0060】
第1回の照射では、第1領域Rq1にナイロン人工芝SPL2を配置し、第2領域Rq2にポリエステル人工芝SPL3を配置し、第3領域Rq3に紙製人工芝SPL1を配置する。残りの第4領域Rq4には人工芝サンプルを配置せず、試料台301の上面を露出させる。第2回の照射では、第2領域Rq2にナイロン人工芝SPL2を配置し、第3領域Rq3にポリエステル人工芝SPL3を配置し、第4領域Rq4に紙製人工芝SPL1を配置する。前述同様に、残りの第1領域Rq4には人工芝サンプルを配置せず、試料台301の上面を露出させる。このように、回を追うごとにそれぞれの領域Rq1~Rq4に配置される人工芝サンプルSPL1、SPL2、SPL3を入れ替え、人工芝サンプルSPL1、SPL2、SPL3のそれぞれについて各回において測定された表面温度Tsplを平均し、その平均値を試験結果とする。
【0061】
図9は、試験の結果として得られた表面温度Tsplの経時変化を、人工芝サンプルSPL1、SPL2、SPL3ごとに示す。照射開始からの経過時間tを横軸に、人工芝サンプルの表面温度Tsplを縦軸に夫々示す。太い実線は、紙製人工芝SPL1の表面温度Tspl1を示し、一点鎖線は、ナイロン人工芝SPL2の表面温度Tspl2を示し、二点鎖線は、ポリエステル人工芝SPL3の表面温度Tspl3を示す。試験室の温度は、20±2℃であった。
【0062】
図9に示すように、表面温度Tsplは、人工芝サンプルSPL1、SPL2、SPL3のいずれについても時間tの経過とともに上昇する傾向があり、紙製人工芝SPL1とそれ以外の人工芝サンプルSPL2、SPL3とでは、表面温度Tsplに有意な差が生じることが認められる。そして、この差には、時間tの経過とともに拡大する傾向があることが分かる。時刻t1(例えば、照射開始から30分後)において、紙製人工芝SPL1の表面温度Tspl1は、55.7℃であり、ナイロン人工芝SPL2の表面温度Tspl2は、71.6℃であり、ポリエステル人工芝SPL3の表面温度Tspl3は、70.2℃であった。
【0063】
日光の照射下での天然芝の表面温度が50℃前後であることから、本実施形態に係る敷物1によれば、合成樹脂材料により形成された人工芝サンプルSPL2、SPL3と比較して表面温度Tspl1の上昇が有意に抑えられ、天然芝に近い使用環境を提供することが可能であることが判明した。
この場合、上記のように、ナイロン人工芝SPL2の表面温度Tspl2は、71.6℃であり、ポリエステル人工芝SPL3の表面温度Tspl3は、70.2℃であることから、利用者は、この表面温度では、ナイロン人工芝SPL2又はポリエステル人工芝SPL3の上を、例えば、裸足で歩行することはできない程度の温度上昇となり、シューズを履いていた場合であっても、相当程度、利用者の足への温度影響及び、熱反射による身体全体への熱の影響が予想される。
これに対し、本実施の形態に係る紙製人工芝SPL1であれば、同一の環境温度条件下であっても、天然芝と同様の温度上昇であることから、利用者は裸足で歩行することも可能であり、かつ、シューズを履いて歩行又は走行した場合における、足への熱による影響、及び身体全身への熱による影響が、ポリステル人工芝、ナイロン人工芝に比して、相当程度抑制されることが分かる。
【0064】
本実施形態では、敷物1がグラウンドに敷設される人工芝敷設体である場合について説明した。パイル121を基布11に植設した後、その先端のループ部分を切除して、パイル121を端面開放状態に切り揃えることで、給水性、乾燥性および排水性がよく、通気性も良好な人工芝敷設体を提供することが可能となる。敷物1は、人工芝敷設体に限らず、屋内で使用されるラグであってもよい。この場合は、パイル121先端のループ部分121bを切除して、カットパイルとするだけでなく、ループ部分121bを切除せずに残し、ループパイルとしてパイル材12を構成することも可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…紙製敷物(人工芝敷設体)
11…基布
11a…基布の表面
11b…基布の裏面
12…パイル材
121…パイル(撚り糸)
121a…根元部
121b…ループ部分
1211…和紙糸
13…樹脂コーティング
201…人工太陽照明灯
202…サーモカメラ
301…試料台
P…和紙糸の原紙
TP…テープ
TH…和紙糸
N…ニードル
K…キーパー
C1…スリットカッター
C2…フックナイフ
SPL…人工芝サンプル
【要約】
【課題】生分解性が良好であるとともに、焼却による有害物質の発生も抑えられ、環境特性に優れた敷物を提供する。
【解決手段】平面方向に伸展形成された基布11と、基布11に、基布11の表面11a側を覆って設けられたパイル材12とを備えた敷物1である。パイル材12は、パルプにより形成されたパイル121を含み、パイル121が、パイル材12内部への空気の流入が制限される密度をもって植設されている。
【選択図】図2
図1
図2
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図8
図9