(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】蓄電管理装置、蓄電装置、および、蓄電部の管理方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/44 20060101AFI20240603BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240603BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
H01M10/44 P
H01M10/48 P
H02J7/00 S
(21)【出願番号】P 2023501942
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2021007280
(87)【国際公開番号】W WO2022180771
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 健志
【審査官】三橋 竜太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-164068(JP,A)
【文献】特開2006-138750(JP,A)
【文献】特開2008-245480(JP,A)
【文献】特開2014-103840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42-10/48
H02J 7/00-7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池とキャパシタとが互いに並列に接続された1つの並列ブロック、または、互いに直列に接続された複数の前記並列ブロックを備える蓄電部を管理するための蓄電管理装置であって、
前記並列ブロックに流れる電流を計測する電流計測部と、
前記並列ブロックの端子電圧を計測する電圧計測部と、
前記電流計測部により測定された前記並列ブロックに流れる電流が過電流閾値を超えたことを必要条件として異常時処理を行う異常判断部と、
前記電流計測部により計測された前記並列ブロックに流れる電流と、前記電圧計測部により計測された前記並列ブロックの端子電圧と、前記二次電池の内部抵抗と、前記キャパシタの内部抵抗と、前記蓄電部の電流継続時間と、前記キャパシタの静電容量と、の少なくとも1つに基づき、前記キャパシタのOCVを推定するOCV推定部と、
前記OCV推定部により推定された前記キャパシタのOCVと基準OCVとの差であるOCV差に応じて、前記過電流閾値を変更する閾値変更部と、
を備える、蓄電管理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄電管理装置であって、
前記基準OCVは、前記二次電池のOCVに相当する値であり、
前記閾値変更部は、前記OCV差の増加に応じて前記過電流閾値の絶対値を小さくする、蓄電管理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の蓄電管理装置であって、
前記キャパシタのOCVが前記基準OCVより高く、かつ、前記OCV差が大きいほど、充電時の前記過電流閾値を小さくする、蓄電管理装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の蓄電管理装置であって、
前記キャパシタのOCVが前記基準OCVより低く、かつ、前記OCV差が大きいほど、放電時の前記過電流閾値を小さくする、蓄電管理装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の蓄電管理装置であって、
さらに、前記二次電池または前記並列ブロックのSOCに応じて前記過電流閾値を補正する閾値補正部を備える、蓄電管理装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の蓄電管理装置であって、
さらに、前記並列ブロックの温度を計測する温度計測部と、
前記二次電池または前記並列ブロックのSOCを推定するSOC推定部と、を備え、
前記OCV推定部は、前記温度計測部により計測された温度と、前記SOC推定部により推定されたSOCとから、あらかじめ記憶された、前記並列ブロックの温度とSOCと電流継続時間とが関連づけられた関連情報を参照して、前記二次電池の内部抵抗と前記キャパシタの内部抵抗とを推定する、蓄電管理装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の蓄電管理装置であって、
さらに、前記電流計測部により計測された前記並列ブロックに流れる電流の所定期間における平均値が、基準平均値を超える場合、前記OCV差に関係なく、前記過電流閾値の絶対値を小さくする強制変更部を備える、蓄電管理装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の蓄電管理装置であって、
さらに、前記キャパシタのOCVが所定の過電圧閾値を超えた場合、前記キャパシタが過電圧状態と判断して所定の過電圧時処理を実行し、前記キャパシタのOCVが所定の低電圧閾値を下回った場合、前記キャパシタが低電圧状態と判断し所定の低電圧時処理を実行する実行部を備える、蓄電管理装置。
【請求項9】
二次電池とキャパシタとが互いに並列に接続された1つの並列ブロック、または、互いに直列に接続された複数の前記並列ブロックを備える蓄電部と、
請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の蓄電管理装置と、備える、蓄電装置。
【請求項10】
二次電池とキャパシタとが互いに並列に接続された1つの並列ブロック、または、互いに直列に接続された複数の前記並列ブロックを備える蓄電部と、
前記並列ブロックに流れる電流を計測する電流計測部と、
前記並列ブロックの端子電圧を計測する電圧計測部と、を備える蓄電部の管理方法であって、
前記電流計測部により測定された前記並列ブロックに流れる電流が過電流閾値を超えたことを必要条件として異常時処理を行う工程と、
前記電流計測部により計測された前記並列ブロックに流れる電流と、前記電圧計測部により計測された前記並列ブロックの端子電圧と、前記二次電池の内部抵抗と、前記キャパシタの内部抵抗と、前記蓄電部の電流継続時間と、前記キャパシタの静電容量と、の少なくとも1つに基づき、前記キャパシタのOCVを推定する工程と、
推定された前記キャパシタのOCVと基準OCVとの差であるOCV差に応じて、前記過電流閾値を変更する工程と、
を含む、蓄電部の管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電管理装置、蓄電装置、および、蓄電部の管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、リチウムイオン二次電池とリチウムイオンキャパシタとが互いに並列に接続された並列ブロックを備える蓄電部が知られている。このような蓄電部によれば、リチウムイオン二次電池によって高容量の特性が発揮され、リチウムイオンキャパシタによって高出力の特性が発揮される(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の蓄電部では、例えば負荷の動作状態に応じて蓄電部に周期的または単発的な大電流が流れることがある。蓄電部に大電流が流れ始める初期段階では、蓄電部に流れる電流は、主として、内部抵抗が小さいリチウムイオンキャパシタに流れる。しかし、放電時においては、大電流が流れ始めた時点からの放電継続時間が長くなるほど、リチウムイオンキャパシタの電圧が低下する。リチウムイオンキャパシタの電圧が低下し、リチウムイオン二次電池との電圧差が拡大すると、蓄電部に流れる電流は、主として、リチウムイオン二次電池に流れるようになり、その結果、リチウムイオン二次電池が過電流状態になるおそれがある。なお、充電時においては、放電時とは逆に、大電流が流れ始めた時点からの充電継続時間が長くなるほど、リチウムイオンキャパシタの電圧が増大してリチウムイオン電池との電圧差が拡大し、その結果、リチウムイオン二次電池が過電流状態になるおそれがある。
【0005】
そこで、リチウムイオン二次電池の過電流状態の発生を抑制するため、蓄電部に流れる電流が一定の過電流閾値を超えた場合に、例えば蓄電部への電流経路を遮断するなどの異常時処理を行うことが考えられる。しかし、このような一定の過電流閾値による異常時処理では、蓄電部に流れる電流が、主として、内部抵抗が小さいリチウムイオンキャパシタに流れる初期段階でも過電流閾値による異常時処理が機能することになる。その結果、リチウムイオンキャパシタによる高出力の特性が十分に発揮されない、という課題が生じる。
【0006】
なお、このような課題は、リチウムイオン二次電池とリチウムイオンキャパシタとの組み合わせに限らず、リチウムイオン系以外の二次電池とキャパシタとが互いに並列に接続された蓄電部にも共通の課題である。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決することが可能な蓄電管理装置、蓄電装置、および、蓄電部の管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本明細書に開示される蓄電管理装置は、二次電池とキャパシタとが互いに並列に接続された1つの並列ブロック、または、互いに直列に接続された複数の前記並列ブロックを備える蓄電部を管理するための蓄電管理装置であって、前記並列ブロックに流れる電流を計測する電流計測部と、前記並列ブロックの端子電圧を計測する電圧計測部と、前記電流計測部により測定された前記並列ブロックに流れる電流が過電流閾値を超えたことを必要条件として異常時処理を行う異常判断部と、前記電流計測部により計測された前記並列ブロックに流れる電流と、前記電圧計測部により計測された前記並列ブロックの端子電圧と、前記二次電池の内部抵抗と、前記キャパシタの内部抵抗と、前記蓄電部の電流継続時間と、前記キャパシタの静電容量と、の少なくとも1つに基づき、前記キャパシタのOCVを推定するOCV推定部と、前記OCV推定部により推定された前記キャパシタのOCVと基準OCVとの差であるOCV差に応じて、前記過電流閾値を変更する閾値変更部と、を備える。
【0009】
電流計測部により測定される並列ブロックに流れる電流は、二次電池に流れる電流とキャパシタに流れる電流とを合算した電流である。ここで、キャパシタに流れる電流は、キャパシタのOCVに相関し、キャパシタでは、二次電池に比べて、充放電時にOCV(電圧)が直線的に変化する。そこで、本発明者は、鋭意検討を重ねることにより、直接に計測されないキャパシタに流れる電流と二次電池に流れる電流とのそれぞれの変化を、キャパシタのOCVの変化に基づき把握することによって、過電流閾値を適切に変更できる、ことを新たに見出した。本蓄電管理装置では、OCV推定部により推定されたキャパシタのOCVと基準OCVとの差に応じて、過電流閾値が変更される。これにより、本蓄電管理装置によれば、キャパシタによる高出力の特性の低下を抑制しつつ、二次電池の過電流状態の発生を抑制することができる。
【0010】
(2)上記蓄電管理装置において、前記基準OCVは、前記二次電池のOCVに相当する値であり、前記閾値変更部は、前記OCV差の増加に応じて前記過電流閾値の絶対値を小さくする構成としてもよい。本蓄電管理装置によれば、例えば基準OCVが所定の固定値である場合に比べて、キャパシタに流れる電流等をより正確に把握できるため、キャパシタによる高出力の特性の低下を抑制しつつ、二次電池の過電流状態の発生をより効果的に抑制することができる。
【0011】
(3)上記蓄電管理装置において、前記キャパシタのOCVが前記基準OCVより高く、かつ、前記OCV差が大きいほど、充電時の前記過電流閾値を小さくする構成としてもよい。本蓄電管理装置によれば、充電時において、キャパシタによる高出力の特性の低下を抑制しつつ、二次電池の過電流状態の発生を抑制することができる。
【0012】
(4)上記蓄電管理装置において、前記キャパシタのOCVが前記基準OCVより低く、かつ、前記OCV差が大きいほど、放電時の前記過電流閾値を小さくする構成としてもよい。本蓄電管理装置によれば、放電時において、キャパシタによる高出力の特性の低下を抑制しつつ、二次電池の過電流状態の発生を抑制することができる。
【0013】
(5)上記蓄電管理装置において、さらに、前記二次電池または前記並列ブロックのSOCに応じて前記過電流閾値を補正する閾値補正部を備える構成としてもよい。本蓄電管理装置によれば、例えば二次電池または並列ブロックのSOCを考慮しない構成に比べて、二次電池または並列ブロックのSOCに伴って変化する二次電池の電流許容範囲に応じて、過電流閾値を適切な値にすることができる。
【0014】
(6)上記蓄電管理装置において、さらに、前記並列ブロックの温度を計測する温度計測部と、前記二次電池または前記並列ブロックのSOCを推定するSOC推定部と、を備え、前記OCV推定部は、前記温度計測部により計測された温度と、前記SOC推定部により推定されたSOCとから、あらかじめ記憶された、前記並列ブロックの温度とSOCと電流継続時間とが関連づけられた関連情報を参照して、前記二次電池の内部抵抗と前記キャパシタの内部抵抗とを推定する構成としてもよい。本蓄電管理装置によれば、例えば二次電池やキャパシタの内部抵抗の変化を考慮しない構成に比べて、キャパシタのOCVを正確に推定し、二次電池の過電流状態の発生を、より効果的に抑制することができる。
【0015】
(7)上記蓄電管理装置において、さらに、前記電流計測部により計測された前記並列ブロックに流れる電流の所定期間における平均値が、基準平均値を超える場合、前記OCV差に関係なく、前記過電流閾値の絶対値を小さくする強制変更部を備える構成としてもよい。本蓄電管理装置によれば、例えば連続的に大量の電流が並列ブロックに流れる異常時において、二次電池の過電流状態の発生を未然に抑制することができる。
【0016】
(8)上記蓄電管理装置において、さらに、前記キャパシタのOCVが所定の過電圧閾値を超えた場合、前記キャパシタが過電圧状態と判断して所定の過電圧時処理を実行し、前記キャパシタのOCVが所定の低電圧閾値を下回った場合、前記キャパシタが低電圧状態と判断し所定の低電圧時処理を実行する実行部を備える構成としてもよい。本蓄電管理装置によれば、キャパシタの過電圧及び低電圧状態の発生を抑制することができる。
【0017】
(9)上記蓄電装置において、二次電池とキャパシタとが互いに並列に接続された1つの並列ブロック、または、互いに直列に接続された複数の前記並列ブロックを備える蓄電部と、上記蓄電管理装置と、備える構成としてもよい。本蓄電装置によれば、キャパシタによる高出力の特性の低下を抑制しつつ、二次電池の過電流状態の発生を抑制することができる。
【0018】
(10)本明細書に開示される蓄電部の管理方法は、二次電池とキャパシタとが互いに並列に接続された1つの並列ブロック、または、互いに直列に接続された複数の前記並列ブロックを備える蓄電部と、前記並列ブロックに流れる電流を計測する電流計測部と、前記並列ブロックの端子電圧を計測する電圧計測部と、を備える蓄電部の管理方法であって、前記電流計測部により測定された前記並列ブロックに流れる電流が過電流閾値を超えたことを必要条件として異常時処理を行う工程と、前記電流計測部により計測された前記並列ブロックに流れる電流と、前記電圧計測部により計測された前記並列ブロックの端子電圧と、前記二次電池の内部抵抗と、前記キャパシタの内部抵抗と、前記蓄電部の電流継続時間と、前記キャパシタの静電容量と、の少なくとも1つに基づき、前記キャパシタのOCVを推定する工程と、推定された前記キャパシタのOCVと基準OCVとの差であるOCV差に応じて、前記過電流閾値を変更する工程と、を含む。本蓄電部の管理方法によれば、キャパシタによる高出力の特性の低下を抑制しつつ、二次電池の過電流状態の発生を抑制することができる。
【0019】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、蓄電管理装置、蓄電装置、その管理方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態における蓄電装置100の構成を概略的に示す説明図
【
図3】蓄電装置100において実行される過電流抑制処理を示すフローチャート
【
図5】蓄電部10が放電状態から停止状態に移行する過程における各要素の変化を示す第1のタイムチャート
【
図6】蓄電部10が放電状態から停止状態に移行する過程における各要素の変化を示す第2のタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0021】
A.実施形態:
A-1.蓄電装置100の構成:
図1は、本実施形態における蓄電装置100の構成を概略的に示す説明図である。蓄電装置100は、蓄電部10と、蓄電管理装置20とを備える。
【0022】
蓄電部10は、1つまたは複数の並列ブロック11が直列に接続された構成を有している。
図1に示すように、本実施形態では、蓄電部10は、複数の並列ブロック11から構成されている。各並列ブロック11は、互いに並列に接続されたリチウムイオン電池(以下、「LIB」という)12bとリチウムイオンキャパシタ(以下、「LIC」という)12cとを備えるため、エネルギー容量が大きくてかつ高出力充放電が可能である。なお、並列ブロック11は、さらに、LIB12bに直列に接続されたLIB抵抗Rbと、LIC12cに直列に接続されたLIC抵抗Rcとを備えている。LIB12bは、特許請求の範囲における二次電池の一例であり、LIC12cは、特許請求の範囲におけるキャパシタの一例である。蓄電部10は、プラス端子42およびマイナス端子44を介して、図示しない負荷および外部電源に接続される。
【0023】
蓄電管理装置20は、蓄電部10を含む蓄電装置100を管理するための装置である。蓄電管理装置20は、電圧計22と、電流計24と、温度計26と、監視部28と、ラインスイッチ40と、制御部60と、記録部72と、履歴部74と、インターフェース(I/F)部76とを備えている。
【0024】
電圧計22は、各並列ブロック11に対して1つ設けられている。各電圧計22は、各並列ブロック11に対して並列に接続され、各並列ブロック11の電圧を計測して、電圧計測値を示す信号を監視部28に向けて出力する。電流計24は、蓄電部10に対して直列に接続されている。電流計24は、蓄電部10(並列ブロック11)に流れる電流を計測して、電流計測値を示す信号を監視部28に向けて出力する。温度計26は、蓄電部10の近くに配置されている。温度計26は、蓄電部10(並列ブロック11)の温度を計測して、温度計測値を示す信号を監視部28に向けて出力する。監視部28は、電圧計22、電流計24および温度計26から受け取った信号に基づき、各並列ブロック11の電圧、蓄電部10に流れる電流および蓄電部10の温度を示す信号を制御部60に向けて出力する。電圧計22および監視部28は、電圧計測部の一例であり、電流計24および監視部28は、電流計測部の一例であり、温度計26および監視部28は、電池温度計測部の一例である。
【0025】
ラインスイッチ40は、蓄電部10とマイナス端子44との間に設置されている。ラインスイッチ40は、制御部60によってオン・オフ制御されることにより、蓄電部10と負荷および外部電源との間の接続を開閉する。
【0026】
制御部60は、例えば、マルチコアCPU、プログラマブルなデバイス(Field Programmable Gate Array(FPGA)、Programmable Logic Device(PLD)等)を用いて構成され、蓄電管理装置20の動作を制御する。制御部60は、OCV(Open Circuit Voltage、開回路電圧)推定部62と、内部抵抗推定部64と、閾値変更部66と、SOC(State of Charge、充電率)推定部68と、異常判断部70と、強制変更部78としての機能を有する。これら各部の機能については、後述の過電流抑制処理の説明に合わせて説明する。
【0027】
記録部72は、例えばROMやRAM、ハードディスクドライブ(HDD)等により構成され、各種のプログラムやデータを記憶したり、各種の処理を実行する際の作業領域やデータの記憶領域として利用されたりする。例えば、記録部72には、後述する過電流抑制処理を実行するためのコンピュータプログラムが格納されている。該コンピュータプログラムは、例えば、CD-ROMやDVD-ROM、USBメモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体(不図示)に格納された状態で提供され、蓄電装置100にインストールすることにより記録部72に格納される。
【0028】
また、記録部72には、内部抵抗推定テーブル(T=0,T=1,T=3・・・)が格納されている。各内部抵抗推定テーブルは、各並列ブロック11に備えられたLIB12bおよびLIC12cのそれぞれの内部抵抗の推定に用いられるテーブルである。
図2は、内部抵抗推定テーブルの一例を示す説明図である。各内部抵抗推定テーブルは、蓄電部10の電流状態の継続時間Tごとにおける、並列ブロック11のSOCと、温度と、LIB12bおよびLIC12cそれぞれの内部抵抗とを関連付けるテーブルである。蓄電部10の電流状態には、蓄電部10が充電されている充電状態と、蓄電部10が放電している放電状態であるか、蓄電部10が充電状態でも放電状態でもない停止状態とがある。内部抵抗推定テーブルに規定される関係は、予め実験的に定められる。電流状態の継続時間Tごとに対応する内部抵抗推定テーブルを参照することにより、蓄電部10のSOCおよび温度に基づき、LIB12bおよびLIC12cそれぞれの内部抵抗を推定することができる。なお、
図2では、LIB12bおよびLIC12cそれぞれの内部抵抗を、Z1,Z2,・・・などと表示しているが、内部抵抗推定テーブルには、実際には内部抵抗の数値が規定されている。
【0029】
履歴部74は、例えばROMやRAM、ハードディスクドライブ(HDD)等により構成され、蓄電装置100に関する各種履歴を記録する。このような履歴としては、例えば、後述する蓄電部10の電流継続時間(放電継続時間、充電継続時間、停止継続時間)が挙げられる。インターフェース部76は、有線または無線により他の装置との通信を行う。例えば、インターフェース部76を介した他の装置との通信により、履歴部74に記録された履歴が更新される。
【0030】
A-2.過電流抑制処理:
次に、蓄電装置100において蓄電管理装置20により実行される過電流抑制処理について説明する。
図3は、蓄電装置100において実行される過電流抑制処理を示すフローチャートである。過電流抑制処理は、蓄電部10または各並列ブロック11が過電流状態であるか否かを判断し、その判断結果に応じた異常時処理を実行するための処理である。過電流状態とは、蓄電部10の充電時では、蓄電部10に流れる電流Ibat(充電電流)の電流値が、充電時の過電流閾値Iocを超えた状態をいい、蓄電部10の放電時では、蓄電部10に流れる電流Ibat(放電電流)の電流値が、放電時の過電流閾値Iodを超えた状態をいう。過電流抑制処理は、蓄電部10全体に対して過電流状態であるか否かを判断し、その判断結果に応じた異常時処理を実行してもよいし、蓄電部10が備える複数の並列ブロック11のそれぞれに対して過電流状態であるか否かを判断し、少なくとも1つの並列ブロック11が過電流状態であると判断された場合に異常時処理を実行してもよい。過電流抑制処理は、例えば、蓄電装置100の起動時に、自動的に、または、管理者からの指示に応じて開始される。なお、以下の説明では、蓄電部10に流れ込む充電電流の電流値を「正」とし、蓄電部10から流れ出る放電電流の電流値を「負」とする。また、蓄電部10が備える1つの並列ブロック11を例に挙げて説明する。
【0031】
過電流抑制処理(
図3)が開始されると、蓄電管理装置20の制御部60は、まずは各種の初期設定を行う(S110)。制御部60は、例えば、LIB12bのOCV(Vob)と、LIC12cのOCV(Voc)とを同じ値(例えば、蓄電装置100の起動時に計測された並列ブロック11の電圧である初期OCV)に設定する。また、充電時の過電流閾値Iocを、初期値Ioc,intに設定する。この初期値Ioc,intは、例えば充電開始時に並列ブロック11に流れ込む最大電流(突入電流)の電流値より若干高い値(絶対値が大きい値)である。また、放電時の過電流閾値Iodを、初期値Iod,intに設定する。この初期値Iod,intは、例えば放電開始時に並列ブロック11から流れ出る最大電流(突入電流)の電流値より若干低い値(絶対値が大きい値)である。
【0032】
次に、蓄電管理装置20の異常判断部70(
図1)は、並列ブロック11が過電流状態(LIC12c単体の過電流状態、LIB12b単体の過電流状態を含む)であるか否かの異常判断処理を行う(S120)。蓄電部10の充電時には、異常判断部70は、並列ブロック11(蓄電部10)に流れる電流Ibat(充電電流)の電流計測値が、充電時の過電流閾値Iocを超えたことを条件に、並列ブロック11が過電流状態であると判断する。蓄電部10の放電時には、異常判断部70は、並列ブロック11に流れる電流Ibat(放電電流)の電流計測値が、放電時の過電流閾値Iodを下回ったことを条件に、並列ブロック11が過電流状態であると判断する。
【0033】
並列ブロック11が過電流状態であると判断された場合(S120:YES)、異常判断部70は、並列ブロック11(蓄電部10)の過電流異常に対応した異常時処理を実行し(S130)、本過電流閾値調整処理を終了する。異常時処理は、例えば、蓄電部10の過電流異常を、インターフェース部76を介して外部に報知する処理や、マイナス端子44を閉状態にして蓄電部10の充放電の実行を禁止する処理などである。
【0034】
一方、並列ブロック11が過電流状態ではなく、正常状態であると判断された場合(S120:NO)、制御部60は、LIC12cのOCV(Voc)が所定範囲内であるか否かを判断する(S140)。ここで、所定範囲とは、例えばLIC12cに定められている仕様上の電圧許容範囲であり、所定の過電圧閾値以下であり、かつ、所定の低電圧閾値以上である。ここで、LIC12cのOCV推定処理については後述する(S220,S320,S430参照)。
【0035】
LIC12cのOCVが所定範囲内でないと判断された場合(S140:NO)、制御部60は、LIC12cのOCVの電圧異常に対応した異常時処理を実行し(S130)、本過電流閾値調整処理を終了する。具体的には、制御部60は、LIC12cのOCVが、所定の過電圧閾値を超えた場合、LIC12cが過電圧状態であると判断して所定の過電圧時処理を実行する。また、制御部60は、LIC12cのOCVが、所定の低電圧閾値を下回った場合、LIC12cが低電圧状態であると判断して所定の低電圧時処理を実行する。なお、本実施形態では、過電圧時処理は、例えば、LIC12cの過電圧異常を、インターフェース部76を介して外部に報知する処理や、マイナス端子44を閉状態にして蓄電部10の充電の実行を禁止する処理などである。低電圧時処理は、例えば、LIC12cの低電圧異常を、インターフェース部76を介して外部に報知する処理や、マイナス端子44を閉状態にして蓄電部10の放電の実行を禁止する処理などである。このとき、制御部60は、特許請求の範囲における実行部として機能する。
【0036】
一方、LIC12cのOCVが所定範囲内であると判断された場合(S140:YES)、LIC12cの電圧異常は発生していないため、制御部60は、蓄電部10の電流状態(充電状態、放電状態、停止状態)を判断する(S150)。例えば、電流計24から出力される信号は、蓄電部10に流れる電流Ibatの有無および流れる向きに応じた信号(当該電流計24に備えられた検出抵抗(図示しない)の両端電圧の高低に応じた信号)であり、制御部60は、電流計24から出力される信号のレベルと、その信号のレベル反転とに基づき、蓄電部10の電流状態(充電状態、放電状態、停止状態)を判断する。
【0037】
A-2-1.放電時:
蓄電部10が放電状態であると判断された場合(S150:放電)、放電時におけるLIB12bに流れる電流IbおよびLIC12cに流れる電流Icの算出と、LIC12cの放電時のOCVの推定とを行う。
【0038】
まず、蓄電管理装置20の内部抵抗推定部64(
図1)は、LIB12bの内部抵抗ZbおよびLIC12cの内部抵抗Zcを推定する(S300)。内部抵抗推定部64は、記録部72から、放電継続時間Tdに対応した内部抵抗推定テーブルを選択し、その選択した内部抵抗推定テーブルを参照することにより、並列ブロック11のSOCおよび温度に基づき、LIB12bおよびLIC12cそれぞれの内部抵抗Zb,Zcを推定する。なお、並列ブロック11の初期SOCは、各種の公知の推定方法により推定することが可能である。例えば、上記初期OCVとSOC-OCV特性を表す曲線とに基づき初期SOCを算出し、その初期SOCと蓄電部10の電流Ibatの電流積算値とに基づき並列ブロック11のSOCを推定することができる。
【0039】
次に、蓄電管理装置20のOCV推定部62(
図1)は、LIB12bに流れる電流Ibと、LIC12cに流れる電流Icとをそれぞれ算出する(S310)。具体的には、次の通りである。
図4は、放電時の並列ブロック11の等価回路である。
図4中の「Ibatd」は放電電流を意味し、「Vbat」は並列ブロック11の端子電圧を意味し、「C」はLIC12cの静電容量を意味する。
図4から明らかなように、LIC12cに流れる電流Ic(放電電流Icd)は、次の式1により求めることができる。
【数1】
また、LIB12bに流れる電流Ib(放電電流Ibd)は、蓄電部10の放電電流IbatdからLIC12cの放電電流Icdを減算することにより求めることができる(Ibd=Ibatd-Icd)。
【0040】
次に、OCV推定部62は、LIC12cの放電時のOCV(Vocd)を推定するためのOCV推定処理を実行する(S320)。この放電時のOCV推定処理では、OCV推定部62は、例えば、次の式2~式5を用いて、LIC12cの放電時のOCVを推定する(
図4参照)。
【数2】
式2中の「Vocd1」は、蓄電部10の放電状態が継続した時間(以下、「放電継続時間」という)に伴うLIB12bおよびLIC12cそれぞれの内部抵抗Zb,Zcの変化を考慮しない場合におけるLIC12cの第1の仮想OCVである。第1の仮想OCVは、次の式3により求めることができる。
【数3】
【0041】
式3中の「Vocd0」は、例えば並列ブロック11の初期OCVである。「C」は、蓄電部10の静電容量である。「Td」は、蓄電部10の放電継続時間である。制御部60は、例えば、所定のサンプリング周期で時間をカウントしており、上述した蓄電部10の電流状態判断(S150)の判断結果を、その判断時のカウントに対応付けて履歴部74に記録する。このため、OCV推定部62は、履歴部74に記憶された履歴から、現時点での放電継続時間Tdを特定することができる。
【0042】
また、式3中の「Ic0」は、放電開始時にLIC12cから流れ出る放電電流(以下、「放電初期電流」)であり、次の式4により求めることができる。
【数4】
式4中の「Icc」は、蓄電部10の放電時においてLIB12bからLIC12cに流れ込む充電電流であり、蓄電装置100の起動後、最初の放電開始時の初期値はゼロである。
【0043】
式2中の「Vocd2」は、蓄電部10の放電継続時間に伴うLIB12bおよびLIC12cそれぞれの内部抵抗Zb,Zcの変化を考慮した場合におけるLIC12cの第2の仮想OCVである。第2の仮想OCVは、次の式5により求めることができる。
【数5】
【0044】
次に、制御部60は、まず、放電時の過電流閾値Iodに対する調整処理(S340~S360)を実行するか否かを判断する。具体的には、制御部60は、現在設定されている放電時の過電流閾値Iodが下限電流閾値Iod,min以下であるか否かを判断する(S330)。下限電流閾値Iod,minは、例えばLIB12bに定められている仕様上の電圧許容範囲の最低値(最低電流値)である。なお、本実施形態では、この判断は、放電時の過電流閾値Iodの絶対値が最低電流値の絶対値以上であるか否かによって行われる。
【0045】
放電時の過電流閾値Iodが下限電流閾値Iod,minを上回ると判断された場合(S330:NO)、次述する放電時の過電流閾値Iodを変更するための処理(S340~S360)を実行せずに、S120に戻る。これにより、放電時の過電流閾値IodがLIB12bの電圧許容範囲外に設定されることが抑制される。
【0046】
一方、放電時の過電流閾値Iodが下限電流閾値Iod,min以下であると判断された場合(S330:YES)、閾値変更部66は、OCV推定処理により推定されたLIC12cのOCVと基準OCVとの差であるOCV差ΔVdに応じて、放電時の過電流閾値Iodを変更する(S340)。本実施形態では、基準OCVは、並列ブロック11のOCVに相当する値であり、例えば、LIB12bのOCVでもよいし、並列ブロック11のOCVでもよい。例えば、SOC推定部68は、並列ブロック11の上記初期OCVと、LIB12bのSOC-OCV特性を表す曲線とに基づき初期SOCを算出し、その初期SOCとLIB12bの電流Ibの電流積算値とに基づきLIB12bのSOCを推定し、そのSOCと、LIB12bのSOC-OCV特性を表す曲線とに基づきLIB12bのOCVを推定することができる。また、上記初期SOC推定処理により推定される並列ブロック11のSOCと、並列ブロック11のOC-OCV特性を表す曲線とに基づき並列ブロック11のOCVを推定することができる。閾値変更部66は、OCV差ΔVdの増加に応じて放電時の過電流閾値Iodの絶対値を小さくする。本実施形態では、放電継続時間の経過に伴って、LIC12cのOCVが、LIB12bのOCVに対して相対的に減少し、OCV差が増加していく。そのOCV差の増加量に応じて、放電時の過電流閾値Iodが高い値に変更される。
【0047】
次に、蓄電管理装置20の強制変更部78は、電流計24により計測された並列ブロック11に流れる電流Ibatの所定期間における平均値(以下、「期間平均電流値という」が、基準平均値を下回るか否かを判断する(S350)。基準平均値は、例えば並列ブロック11に流すことができる電流許容範囲の上限値よりも絶対値が若干小さい値(放電時では、電流許容範囲の上限値よりも若干高い値)である。期間平均電流値が基準平均値を下回ることは、並列ブロック11から比較的に大きな放電電流が連続的に流れている異常状態であることを意味する。そこで、期間平均電流値が基準平均値を下回ると判断された場合(S350:YES)、強制変更部78は、OCV差ΔVdに関係なく、過電流閾値の絶対値を小さくし(S360)、S120に戻る。本実施形態では、放電時の過電流閾値Iodを、S340で設定された放電時の過電流閾値Iodよりも絶対値が小さい値(例えば下限電流閾値Iod,min)に強制的に変更する。これにより、例えば連続的に大量の電流が蓄電部10に流れる異常時において、LIB12bの過電流状態の発生を未然に抑制することができる。一方、期間平均電流値が基準平均値以上であると判断された場合(S350:NO)、連続的に大量の電流が蓄電部10に流れる異常が発生していないため、S340で変更された放電時の過電流閾値Iodが維持され、S120に戻る。
【0048】
A-2-2.充電時:
蓄電部10が充電状態であると判断された場合(S150:充電)、制御部60は、充電時の処理(S200~S260)を実行する。この調整処理は、前述した放電時の処理(S300~S360)と同様であり、本実施形態では、充電時の過電流閾値Iocが「正」であるのに対して、放電時の過電流閾値Iodが「負」である点で異なる。閾値変更部66は、S240において、OCV差の増加に応じて充電時の過電流閾値Iocの絶対値を小さくする。本実施形態では、充電継続時間の経過に伴って、LIC12cのOCVが、LIB12bのOCVに対して相対的に増加し、OCV差が増加していく。そのOCV差の増加量に応じて、充電時の過電流閾値Iodが低い値に変更される。充電時の処理(S200~S260)の詳細説明は割愛する。
【0049】
A-2-3.停止時:
蓄電部10が停止状態であると判断された場合(S150:停止)、制御部60は、まず、LIC12cのOCV(Voc)が、LIB12bのOCV(Vob)と略一致するか否かを判断する(S400)。本実施形態では、LIB12bのOCVは、上記初期OCVである。LIC12cのOCVとLIB12bのOCVとが略一致しないことは、蓄電部10に電流Ibatは流れていないが、例えば蓄電部10が停止状態になる直前の状態が充電状態または放電状態であったことにより、LIC12cのOCVとLIB12bのOCVとの差が残存していることを意味する。このとき、並列ブロック11を構成するLIB12bやLIC12cには、そのOCVとの差を低減させる方向に電流がそれぞれ流れる。
【0050】
そこで、制御部60は、蓄電部10の停止状態におけるLIC12cのOCV差に応じて、過電流閾値を調整するようにしている。なお、LIB12bのOCVは上記初期OCVとみなすことができる。これにより、蓄電部10の停止状態においてLIB12bやLIC12cに電流がまだ流れている最中に蓄電部10の放電や充電が再開された場合において、過電流閾値を、放電や充電の開始直前のLIC12cのOCVとLIB12bのOCVとの差を加味した適切な値から調整することができる。
【0051】
LIC12cのOCVとLIB12bのOCVとが略一致しないと判断された場合(S400:YES)、制御部60は、S300と同様の内部抵抗推定処理を実行し(S410)、次に、停止時におけるLIC12cの充放電電流Icを特定する(S420)。例えば、蓄電部10の直前の状態が放電状態であった場合、蓄電部10の停止状態では、LIB12bからLIC12cに流れる電流によってLIC12cが充電される。停止時当初にLIB12bからLIC12cに流れる充電電流(Icc)は、次の式6により求めることができる。
【数6】
式6の「Vbat」は、停止時の並列ブロック11の端子電圧である。式6の「Voc」は、蓄電部10の直前の状態が充電状態であった場合、S220で推定された充電時のLIC12cのOCVであり、蓄電部10の直前の状態が放電状態であった場合、S320で推定された放電時のLIC12cのOCV(Vocd)である。
【0052】
次に、制御部60は、停止時のLIC12cのOCV(Vocs)を推定する(S430)。この停止時のOCV推定処理では、OCV推定部62は、例えば、次の式7を用いて、LIC12cの停止時のOCVを推定する。すなわち、LIC12cの放電時のOCV(Vocs)は、次の式2により求めることができる。
【数7】
「Ts」は、蓄電部10の停止継続時間である。制御部60は、例えば、履歴部74に記憶された履歴から、現時点での停止継続時間を特定することができる。
【0053】
次に、閾値変更部66は、OCV推定処理により推定されたLIC12cのOCVと基準OCVとの差であるOCV差ΔVdに応じて、停止時の過電流閾値Iosを変更する(S440)。閾値変更部66は、OCV差ΔVdの増加に応じて停止時の過電流閾値Iosの絶対値を小さくする。本実施形態では、直前の状態が放電状態であった場合、停止継続時間の経過に伴って、LIC12cのOCVが、LIB12bのOCVに近づくように増加し、OCV差が減少していく。そのOCV差の減少量に応じて、停止時の過電流閾値Iosが低い値(絶対値が大きい値)に変更される。直前の状態が充電状態であった場合、停止継続時間の経過に伴って、LIC12cのOCVが、LIB12bのOCVに近づくように減少し、OCV差が減少していく。そのOCV差の減少量に応じて、停止時の過電流閾値Iosが高い値(絶対値が大きい値)に変更される。
【0054】
一方、LIC12cのOCVとLIB12bのOCVとが略一致すると判断された場合(S400:NO)、制御部60は、停止時の過電流閾値Iosを変更するための処理(S410~S440)を実行せずに、S120に戻る。これにより、過電流閾値を変更するための処理が無駄に実行されることが抑制される。
【0055】
A-3.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の蓄電装置100では、電流計24により測定される並列ブロック11に流れる電流Ibatは、LIB12bに流れる電流IbとLIC12cに流れる電流Icとを合算した電流である(
図4参照)。ここで、LIC12cに流れる電流Icは、LIC12cのOCVに相関し、LIC12cでは、LIB12bに比べて、充放電時にOCV(端子電圧)が直線的に変化する。そこで、本発明者は、鋭意検討を重ねることにより、直接に計測されないLIC12cに流れる電流IcとLIB12bに流れる電流Ibとのそれぞれの変化を、LIC12cのOCVの変化に基づき把握することによって、過電流閾値Ioc,Iod,Iosを適切に変更できる、ことを新たに見出した。本実施形態では、OCV推定処理(S220,S320,S430)により推定されたLIC12cのOCVと基準OCVとの差に応じて、過電流閾値が変更される。これにより、本実施形態によれば、LIC12cによる高出力の特性の低下を抑制しつつ、LIB12bの過電流状態の発生を抑制することができる。
【0056】
以下、蓄電部10が放電状態から停止状態に移行する場合を例に挙げて説明する。
図5は、蓄電部10が放電状態から停止状態に移行する過程における各要素の変化を示す第1のタイムチャートであり、
図6は、蓄電部10が放電状態から停止状態に移行する過程における各要素の変化を示す第2のタイムチャートである。各図の横軸は、電流継続時間(放電継続時間、停止継続時間)である。また、「電流状態」における「放電」は、蓄電部10の放電状態を意味し、具体的には、ラインスイッチ40のオン状態、または、オン・オフ制御による定電流制御が実行され、蓄電装置100に接続された負荷(例えばモータなど)に一定値の電流が流れている状態である。「電流状態」における「停止」は、蓄電部10の停止状態を意味し、具体的には、ラインスイッチ40が開状態となり、負荷に電力が供給されていない状態である。また、各図では、LIB12bのOCV(Vob)は、略一定であるとされている。
【0057】
図5に示すように、蓄電部10の放電状態になると(t0参照)、並列ブロック11から比較的に大きな放電電流Ibatが流れ始める。並列ブロック11から放電電流Ibatが流れ始める初期段階では、その放電電流Ibatは、主として、内部抵抗が小さいLIC12cからの放電電流Ic(Icd)である。このとき、放電時の過電流閾値Iodは比較的に大きい値(低い値)に設定されているため、放電開始時の立ち上がり電流によって過電流状態であると誤って判断されて、蓄電装置100が作動しないなどの不具合が生じることを抑制できる。
【0058】
その後、放電継続時間Tdの経過(t0~t3参照)に伴ってLIC12cのOCVが低下し、LIC12cのOCVとLIB12bのOCVとの差であるOCV差ΔVが拡大する。それに伴って、LIC12cからの放電電流Icが減少し(高くなり)、LIB12bからの放電電流Ibが増加し(低くなり)、その後、並列ブロック11からの放電電流Ibatは、主として、LIB12bからの放電電流Ib(Ibd)になる。この際、放電時の過電流閾値Iodは、OCV差ΔVに応じて、段階的に小さい値(高い値)に変更される。これにより、放電時の過電流閾値Iodが放電開始の初期値から変更されない構成に比べて、LIB12bが過電流状態になることを抑制することができる。
【0059】
並列ブロック11からの放電電流Ibatが放電時の過電流閾値Iod以下になると(t3参照)、蓄電部10が放電状態から停止状態になる。これにより、LIC12cに十分な電流が流れるときに過電流異常であると判断せずに、その後、LIC12cに十分な電流が流れずにLIB12bに大電流がなれるおそれがあるときに過電流異常と判断し、12bを保護することができる。蓄電部10が停止状態になると、LIB12bからの放電電流IbがLIC12cに流れ込んでLIC12cが充電され始める。その後、停止継続時間Tsの経過(t3~t6)に伴ってOCV差ΔVが減少する。この際、停止時の過電流閾値Iodは、直前の値を引き継ぎつつ、OCV差ΔVに応じて、段階的に大きい値(低い値)に変更される。これにより、LIC12cのOCVとLIB12bのOCVが略一致していない状態で蓄電部10が停止状態から放電状態になった場合においても、LIB12bが過電流状態になることを精度よく抑制することができる。
【0060】
図6の例では、
図5の例に比べて、蓄電部10に放電継続時間が短いパルス電流が流れている場合である。蓄電部10が放電状態から停止状態になり(t2参照)、その後、まもなく放電状態に復帰している(t3参照)、その後、まもなく停止状態になっている(t4参照)。この間、放電継続時間および停止継続時間が比較的に短く、OCV差ΔVの増減が小さいため、過電流閾値Iodが一定に維持されている(t2~t5参照)。このように、本実施形態では、通電状態(放電状態または充電状態)と停止状態とが比較的に短い期間で繰り返される場合には、過電流閾値の変更が抑制され、蓄電部10の電気状態がどのような状態に移行しても適切な値に設定されるよう制御される。
【0061】
本実施形態では、LIC12cのOCV推定処理(S220,S320,S430)において、基準OCVは、並列ブロック11のOCVに相当する値である。本実施形態によれば、例えば基準OCVが所定の固定値である場合に比べて、LIC12cに流れる電流Ic等をより正確に把握できるため、LIC12cによる高出力の特性の低下を抑制しつつ、LIB12bの過電流状態の発生をより効果的に抑制することができる。
【0062】
本実施形態では、LIC12cのOCVが基準OCVより高く、かつ、OCV差が大きいほど、充電時の過電流閾値Iocを小さくする(
図3のS240)。これにより、充電時において、LIC12cによる高出力の特性の低下を抑制しつつ、LIB12bの過電流状態の発生を抑制することができる。
【0063】
本実施形態では、12cのOCVが基準OCVより低く、かつ、OCV差が大きいほど、放電時の過電流閾値Iodを小さくする(
図3のS340)。これにより、放電時において、LIC12cによる高出力の特性の低下を抑制しつつ、LIB12bの過電流状態の発生を抑制することができる。
【0064】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0065】
上記実施形態における蓄電装置100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば上記実施形態では、二次電池としてLIB12bを例示したが、これに限らず、リチウム系以外の二次電池でもよい。また、キャパシタとしてLIC12cを例示したが、これに限らず、リチウム系以外のキャパシタでもよい。また、並列ブロックは、二次電池(LIB12b)とキャパシタ(LIC12c)とが別々のケースにそれぞれ収容されつつ並列に接続された構成でもよいし、二次電池とキャパシタとが同一ケース内で互いに並列に接続された構成でもよい。後者の場合、例えば、1または複数の二次電池と1または複数のキャパシタと電解液とが同一の空間内に収容された構成でもよいし、1または複数の二次電池と1または複数のキャパシタとが互いに異なる空間(セル室、電槽)にそれぞれ収容された構成でもよい。
【0066】
上記実施形態における過電流抑制処理の内容は、あくまで一例であり、種々変形可能である。過電流抑制処理(
図3)において、S140の処理を実施しない構成でもよい。また、LIC12cのOCV推定処理(S220,S320,S430)において、LIB12bおよびLIC12cの内部抵抗を固定値として、内部抵抗推定処理(S200,S300,S410)を実行しない構成でもよい。また、過電流抑制処理(
図3)において、S250,S350の処理を実行しない構成でもよい。
【0067】
過電流閾値の変更(S240,S340,S440)において、基準OCVは、LIB12bのOCVや並列ブロック11のOCVに限らず、例えば、並列ブロック11の端子電圧でもよいし、LIB12bのOCVの変化を無視した固定値(例えばゼロ)でもよい。
【0068】
上記実施形態における式1から式7までの数式は、あくまで一例であり、これに限らず、別の数式を用いてもよい。
【0069】
上記実施形態において、LIB12bまたは並列ブロック11のSOCに応じて過電流閾値を補正してもよい。具体的には、LIBには、SOCが所定下限値(例えば10%)を下回ると、LIB12bのOCVの変化率や内部抵抗が大きくなるものがあるため、そのようなLIBを用いる場合、LIB12bまたは並列ブロック11のSOCの低下に応じて、放電時の過電流閾値の絶対値を、より小さい値に補正することが好ましい。また、LIBには、SOCが所定上限値(例えば90%)を上回ると、LIB12bのOCVの変化率や内部抵抗が大きくなるものがあるため、そのようなLIBを用いる場合、LIB12bまたは並列ブロック11のSOCの上昇に応じて、充電時の過電流閾値の絶対値を、より小さい値に補正することが好ましい。この場合、制御部60は、閾値補正部として機能する。
【符号の説明】
【0070】
10:蓄電部 11:並列ブロック 12b:LIB 12c:LIC 20:蓄電管理装置 22:電圧計 24:電流計 26:温度計 28:監視部 40:ラインスイッチ 42:プラス端子 44:マイナス端子 60:制御部 62:OCV推定部 64:内部抵抗推定部 66:閾値変更部 68:SOC推定部 70:異常判断部 72:記録部 74:履歴部 76:インターフェース部 78:強制変更部 100:蓄電装置 Rb:LIB抵抗 Rc:LIC抵抗 Zb,Zc:内部抵抗