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特許7497527リチウム二次電池用正極、この製造方法及びこれを含むリチウム二次電池
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  • 特許-リチウム二次電池用正極、この製造方法及びこれを含むリチウム二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極、この製造方法及びこれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240603BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240603BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240603BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240603BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240603BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240603BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240603BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/134
H01M4/139
H01M4/36 A
H01M4/38 Z
H01M4/62 Z
H01M10/052
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023524812
(86)(22)【出願日】2022-04-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-07
(86)【国際出願番号】 KR2022006159
(87)【国際公開番号】W WO2022235015
(87)【国際公開日】2022-11-10
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】10-2021-0058926
(32)【優先日】2021-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0052596
(32)【優先日】2022-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ミンス・キム
(72)【発明者】
【氏名】ドン・ヒョプ・ハン
(72)【発明者】
【氏名】キュンシク・ホン
(72)【発明者】
【氏名】ドンソク・シン
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0051610(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0109284(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/134
H01M 4/139
H01M 4/36
H01M 4/38
H01M 4/62
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体;
前記正極集電体の一面に形成された湿式正極活物質層;及び
前記湿式正極活物質層上に形成された乾式正極活物質層;を含み、
前記湿式正極活物質層は、硫黄‐炭素複合体、バインダー及び導電材を含み、
前記乾式正極活物質層は硫黄溶融物内に多孔性炭素材が分散された、炭素含有硫黄溶融物で構成されたものである、リチウム二次電池用正極。
【請求項2】
前記湿式正極活物質層は、硫黄‐炭素複合体40重量%ないし80重量%、バインダー1重量%ないし30重量%、及び導電材0.5重量%ないし30重量%を含むものである、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極。
【請求項3】
前記湿式正極活物質層のローディング量は0.1mAh/cmないし0.5mAh/cm、前記湿式正極活物質層のローディング量は前記乾式正極活物質層のローディング量の2%ないし20%である、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極。
【請求項4】
前記湿式正極活物質層の気孔率は30%ないし90%である、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極。
【請求項5】
前記湿式正極活物質層の密度は0.2g/cmないし1.4g/cmである、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極。
【請求項6】
前記乾式正極活物質層の気孔率は68%以下である、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極。
【請求項7】
前記乾式正極活物質層は内部接着力が10gf/cm以上である、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極。
【請求項8】
(1)硫黄‐炭素複合体、バインダー及び導電材を含む正極スラリーを正極集電体の一面に塗布し、湿式正極活物質層を形成する段階;及び
(2)前記湿式正極活物質層の一面にフリースタンディングフィルム型正極材である乾式正極活物質層を附着する段階;を含む、リチウム二次電池用正極の製造方法。
【請求項9】
前記フリースタンディングフィルム型正極材である乾式正極活物質層は、
(a)硫黄と多孔性炭素材を混合する段階;
(b)前記(a)段階で形成された混合物を熱処理する段階;及び
前記(b)段階で形成された硫黄‐炭素複合体を容器に充填させた後、加圧して炭素含有硫黄溶融物を形成する段階;を含む工程によって製造される、請求項8に記載のリチウム二次電池用正極の製造方法。
【請求項10】
前記熱処理は130℃ないし170℃の温度条件下で遂行される、請求項9に記載のリチウム二次電池用正極の製造方法。
【請求項11】
前記加圧は0.8MPaないし15MPaの圧力条件下で遂行される、請求項9に記載のリチウム二次電池用正極の製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載のリチウム二次電池用正極;
リチウム金属またはリチウム合金を含む負極;
前記正極と負極の間に位置する分離膜;及び
前記正極、負極及び分離膜が含浸された電解質を含むリチウム二次電池。
【請求項13】
前記リチウム二次電池はリチウム‐硫黄二次電池である、請求項12に記載のリチウム二次電池。
【請求項14】
前記正極は硫黄のローディング量が3.0mAh/cmないし5.0mAh/cmである、請求項12に記載のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2021年05月07日付韓国特許出願第2021‐0058926号及び2022年04月28日付韓国特許出願第2022‐0052596号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は本明細書の一部として組み込む。
【0002】
本発明はリチウム二次電池用正極、この製造方法及びこれを含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
最近、電子機器分野と電気自動車分野の急速な発展によって二次電池の需要が増加している。特に、携帯用電子機器の小型化及び軽量化の成り行きによって、それに応えられる高エネルギー密度を持つ二次電池に対する要求が大きくなっている。
【0004】
二次電池の中でリチウム‐硫黄二次電池は硫黄‐硫黄結合を持つ硫黄系化合物を正極活物質として使用し、リチウムのようなアルカリ金属またはリチウムイオンのような金属イオンの挿入及び脱挿入が起きる炭素系物質またはリチウムと合金を形成するシリコーンやスズなどを負極活物質として使用する二次電池である。具体的に、還元反応である放電時の硫黄‐硫黄結合が切れながら硫黄の酸化数が減少し、酸化反応である充電時の硫黄の酸化数が増加して硫黄‐硫黄結合が再度形成される酸化‐還元反応を利用して電気的エネルギーを貯蔵して生成する。
【0005】
特に、リチウム‐硫黄二次電池に正極活物質として使用される硫黄は理論エネルギー密度が1,675mAh/gで、既存のリチウム二次電池に使われる正極活物質に比べて5倍程度高い理論エネルギー密度を持っていて、高出力、高エネルギー密度の発現が可能な電池である。これに加え、硫黄は安価で埋蔵量が豊かであり、需給が容易であって、環境にやさしいという利点のため、携帯用電子機器だけでなく電気自動車のような中大型装置のエネルギー源として注目されている。
【0006】
硫黄は電気伝導度が5×10‐30S/cmで電気伝導性がない不導体なので、電気化学反応によって生成された電子の移動が難しい問題がある。ここで、電気化学的反応サイトを提供することができる炭素のような電気伝導性物質とともに複合化されて硫黄‐炭素複合体で使われている。
【0007】
前記硫黄‐炭素複合体を正極活物質として使用するために、導電材及びバインダーとともにスラリーを製造した後、前記スラリーを集電体に塗布するスラリー工程を通じて正極を製造する方式が一般的に利用されている。
【0008】
しかし、このようなスラリー工程によって製造される正極はスラリー製造の際に使われる導電材及びバインダーによって正極内で正極活物質のローディング量が低下され、エネルギー密度も減少する問題がある。また、スラリー工程は混合、コーティング、乾燥及び圧延のような細部工程を含むので、要される時間と費用が増加する問題がある。
【0009】
ここで、簡素した工程で高ローディングのリチウム二次電池用正極を製造することができる技術開発が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】韓国公開特許第2018‐0055230号
【文献】日本公開特許第2018‐113142号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで、本発明者らは前記問題を解決するために多角的に研究した結果、湿式工程で製造された湿式正極活物質層と乾式工程で製造された乾式正極活物質層が積層された正極を含むリチウム二次電池は、容量、高率特性、過電圧及び寿命特性に優れるということを確認して本発明を完成した。
【0012】
したがって、本発明の目的は電池の容量、高率特性、過電圧及び寿命特性が改善されたリチウム二次電池用正極及びこの製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明のまた他の目的は前記リチウム二次電池用正極を含むリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、本発明は、正極集電体;
前記正極集電体の一面に形成された湿式正極活物質層;及び
前記湿式正極活物質層の上に形成された乾式正極活物質層;を含み、
前記湿式正極活物質層は、硫黄‐炭素複合体、バインダー及び導電材を含み、
前記乾式正極活物質層は、炭素含有硫黄溶融物で構成されたものである、リチウム二次電池用正極を提供する。
【0015】
また、本発明は、(1)硫黄‐炭素複合体、バインダー及び導電材を含む正極スラリーを正極集電体に一面に塗布して、湿式正極活物質層を形成する段階;及び
(2)前記湿式正極活物質層の一面にフリースタンディングフィルム型正極材である乾式正極活物質層を附着する段階;を含むリチウム二次電池用正極の製造方法を提供する。
【0016】
また、本発明は、前記リチウム二次電池用正極;リチウム金属またはリチウム合金を含む負極;前記正極と負極との間に位置する分離膜;及び前記正極、負極及び分離膜が含浸された電解質を含むリチウム二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によるリチウム二次電池用正極は湿式正極活物質層と乾式正極活物質層が積層された構造によって、湿式正極活物質層のみを含む一般的なリチウム二次電池用正極に比べて容量、過電圧、高率特性及び寿命特性が改善された効果を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1、比較例1及び比較例2でそれぞれ製造されたリチウム‐硫黄二次電池用正極の縦断面を示すものである。
図2a】実施例1、比較例1及び比較例2でそれぞれ製造されたリチウム‐硫黄二次電池の充放電の際の比容量と電圧の変化を示すグラフである。
図2b】実施例1、比較例1及び比較例2でそれぞれ製造されたリチウム‐硫黄二次電池の充放電の際の比容量と電圧の変化を示すグラフである。
図3】実施例1、比較例1及び比較例2でそれぞれ製造されたリチウム‐硫黄二次電池の寿命特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をより詳しく説明する。
【0020】
本明細書及び請求範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味で限定して解釈されてはならず、発明者は自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に即して本発明の技術的思想に符合する意味と概念で解釈しなければならない。
【0021】
本発明で使用した用語は、単に特定の実施例を説明するために使われたもので、本発明を限定しようとする意図ではない。単数の表現は文脈上明白に違うことを意味しない限り、複数の表現を含む。本発明において、「含む」または「持つ」などの用語は明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものなどの存在または付加可能性を予め排除しないものとして理解しなければならない。
【0022】
本明細書で使われた用語「湿式正極活物質層」は一般的なリチウム二次電池用正極活物質層を意味するもので、正極活物質、バインダー及び導電材を溶媒に混合及び分散させて製造された正極スラリーを正極集電体上に塗布、乾燥及び圧延する段階を含む工程によって製造されることができる。
【0023】
本明細書で使われた用語「乾式正極活物質層」は、硫黄と多孔性炭素材のみからなる正極活物質層を意味するもので、硫黄と炭素材を熱処理した後、加圧してフリースタンディングフィルム形態で形成されることができる。具体的に、前記乾式正極活物質層は硫黄溶融物の内部に多孔性炭素材が分散された形態を持つ炭素含有硫黄溶融物で構成されたものである。
【0024】
本明細書で使われた用語「気孔率(porosity)」は、ある構造体で全体体積に対して気孔が占める体積の割合を意味し、その単位として%を使用し、孔隙率、多孔度などの用語と相互交換して使用することができる。本発明において、前記気孔率の測定方法は特に限定されず、本発明の一実施例によって、例えばBET(Brunauer‐Emmett‐Teller)測定法または水銀浸透法(Hg porosimeter)によって気孔の大きさと気孔の体積を測定することができる。
【0025】
リチウム二次電池用正極
本発明は湿式正極活物質層及び乾式正極活物質層を含むリチウム二次電池用正極に係り、前記リチウム二次電池用正極は、正極集電体;前記正極集電体の一面に形成された湿式正極活物質層;及び前記湿式正極活物質層の上に形成された乾式正極活物質層;を含み、前記湿式正極活物質層は、硫黄‐炭素複合体、バインダー及び導電材を含み、前記乾式正極活物質層は炭素含有硫黄溶融物で構成されたものである。
【0026】
一般に、前記乾式工程で製造された乾式電極は抵抗要素であるバインダーを含んでいないため、前記湿式電極に比べて内部抵抗が低く、過電圧が少ないので容量が優位にある。また、前記乾式電極は湿式電極対比水分含量が少なくて、水分による負極退化発生の確率が低いので、寿命特性の側面でも優位にある。しかし、従来乾式電極は前記乾式電極と集電体との間の接触抵抗が大きくて、ポーチセル性能の発現に問題がある。
【0027】
本発明による、リチウム二次電池用正極は、集電体、湿式正極活物質層及び乾式正極活物質層が順次積層された構造を持つので、このような従来乾式電極の問題点を改善させることができる。
【0028】
まず、湿式正極活物質層が集電体にコーティングされることで集電体と湿式正極活物質層との間の抵抗が減少されることがある。また、前記湿式正極活物質層の上に乾式正極活物質層を導入することで加圧の際に硫黄が溶融され、湿式正極活物質層と乾式正極活物質層の間の連結性を維持することができる。もし、湿式正極活物質層内に硫黄が含まれていないと、活物質層の間の連結性が維持されにくい。
【0029】
前記湿式正極活物質層は、このような集電体と活物質層の間の接触を円滑にさせてだけでなく高い気孔率を持って物質伝達を円滑にしてくれる役目をすることができる。
【0030】
本発明において、前記正極集電体は後述する正極活物質層を支持し、外部導線と正極活物質層の間で電子を伝達する役目をする。
【0031】
前記正極集電体はリチウム二次電池に化学的変化を引き起こさずに高い電子伝導性を持つものであれば特に制限されるものではない。例えば、前記正極集電体として銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、パラジウム、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面にカーボン、ニッケル、銀などで表面処理したもの、アルミニウム‐カドミウム合金などが使われることができる。
【0032】
前記正極集電体は正極活物質層との結合力を強化させるために正極集電体の表面に微細な凹凸構造を持つか、3次元多孔性構造を採用することができる。これによって、前記正極集電体は、フィルム、シート、ホイル、メッシュ、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態を含むことができる。
【0033】
本発明において、前記湿式正極活物質層は、正極活物質である硫黄‐炭素複合体、バインダー及び導電材を含むことができる。
【0034】
前記正極活物質は前記湿式正極活物質層全体重量を基準にして40ないし80重量%で含まれることができる。具体的に、前記正極活物質の含量は40重量%以上または50重量%以上であって、70重量%以下または80重量%以下である。前記正極活物質の含量が40重量%未満であれば湿式正極活物質層と乾式正極活物質層の連結性が足りないことがあって、80重量%超過であれば物質伝達抵抗が大きくなることがある。
【0035】
前記硫黄‐炭素複合体は前記硫黄が前記多孔性炭素材に担持されている形態の複合体を意味する。例えば、前記硫黄‐炭素複合体は前記多孔性炭素材の表面に硫黄が付着またはコーティングされている状態であってもよい。また、前記硫黄‐炭素複合体は前記硫黄が前記多孔性炭素材の内部気孔に付着、充填またはコーティングされた状態;または前記多孔性炭素材の内部に前記硫黄が浸透されて附着された状態である。
【0036】
また、前記硫黄は、無機硫黄(S)、Li(n≧1、nは整数)、有機硫黄化合物及び炭素‐硫黄ポリマー((C、2.5≦x≦50、n≧2、x及びnは整数)からなる群から選択される1種以上である。
【0037】
また、前記硫黄の含量は前記硫黄‐炭素複合体全体重量を基準にして50重量%以上、55重量%以上または60重量%以上であって、70重量%以下、75重量%以下、80重量%以下である。前記硫黄の含量が50重量%未満であれば電気化学籍活物質である硫黄の割合が減って多孔性炭素材の表面に形成される硫黄コーティング層が薄くなるようになって、硫黄‐炭素複合体がまともに成形されにくいか、または前記多孔性炭素材の内部に含まれる硫黄の量が減少して電池容量が低下することがある。また、前記硫黄の含量が80重量%超過であれば、非伝導性の硫黄が多孔性炭素材の導電構造を遮断して電気化学的活性が遮断されるので、電池駆動が制限的である。
【0038】
また、前記多孔性炭素材は内部に気孔または中空が形成され、比表面積が高い特性を持つことができ、当業界で通常使われる多孔性炭素材であれば、いずれもかまわない。
【0039】
前記多孔性炭素材は、グラファイト(graphite);グラフェン(graphene);デンカブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック及びサーマルブラックの中で選択されるカーボンブラック;単一壁炭素ナノチューブ(SWCNT)及び多重壁炭素ナノチューブ(MWCNT)の中で選択される炭素ナノチューブ(CNT);グラファイトナノファイバー(GNF)、カーボンナノファイバー(CNF)及び活性化炭素ファイバー(ACF)の中で選択される炭素繊維;及び活性炭素からなる群から選択される1種以上であるが、これに制限されない。好ましくは、前記多孔性炭素材は炭素ナノチューブである。
【0040】
また、前記炭素ナノチューブの形態は特に制限されるものではなく、例えば、比表面積200m/gないし500m/g及び粒子の大きさ10μmないし30μmである。この時、前記粒子の大きさは粒子の最長軸に該当する部分の長さを意味するものである。
【0041】
また、前記多孔性炭素材の含量は前記硫黄‐炭素複合体全体重量を基準にして20重量%以上、25重量%以上、30重量%以上または35重量%以上であって、40重量%以下、45重量%以下または50重量%以下である。前記多孔性炭素材が20重量%未満であれば硫黄が充填、付着またはコーティングされることができる表面積と空間の提供が十分ではないため、硫黄の電気化学活用性(反応性)が低下されることがある。前記多孔性炭素材が50重量%超過であれば硫黄の含量が相対的に低下され、リチウム二次電池に適用する時に電池のエネルギー密度が過度に低下されることがある。
【0042】
前記バインダーは正極活物質と導電材などの結合及び集電体に対する結合に助力する成分として、スチレン‐ブタジエンゴム、アクリル化スチレン‐ブタジエンゴム、アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル‐ブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、アクリロニトリル‐スチレン‐ブタジエン共重合体、アクリルゴム、ブチルゴム、フッ化ゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体、ポリブタジエン、ポリエチレンオキサイド、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリエピクロロハイドリン、ポリホスファゲン、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ラテックス、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネイト、シアノエチルセルロース、シアノエチルスクロース、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、ポリイミド、ポリカルボキシレート、ポリカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、リチウムポリアクリレート、ポリメタクリル酸、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン及びポリ(フッ化ビニリデン)‐ヘキサフルオロプロペンからなる群から選択される1種以上を含むことができる。好ましくは、前記バインダーはスチレン‐ブタジエンゴム、ポリテトラフルオロエチレン、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、リチウムポリアクリレート及びポリフッ化ビニリデンからなる群から選択される1種以上を含むことができる。
【0043】
また、前記バインダーは湿式正極活物質層全体重量を基準にして1重量%ないし30重量%で含まれることができ、具体的には、前記バインダーの含量は1重量%以上または3重量%以上であって、15重量%以下または30重量%以下である。前記バインダーの含量が1重量%未満であれば正極活物質と正極集電体との接着力が不十分になることがあって、30重量%を超えれば接着力は向上されるが、その分正極活物質の含量が減少して電池容量が低くなることがある。
【0044】
前記正極に含まれる導電材はリチウム二次電池の内部環境で副反応を引き起こさずに当該電池に化学的変化をもたらすことなく優れる電気伝導性を持つものであれば特に制限されず、代表的には、黒鉛または導電性炭素を使用することができ、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、デンカブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;結晶構造がグラフェンやグラファイトである炭素系物質;炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン;アルミニウム粉末、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性酸化物;及びポリフェニレン誘導体などの導電性高分子;を単独で、または2種以上混合して使用することができるが、必ずこれに限定されるものではない。
【0045】
前記導電材は通常湿式正極活物質層全体重量を基準にして0.5重量%ないし30重量%で含まれることができ、具体的に前記導電材の含量は0.5重量%以上または1重量%以上であって、20重量%以下または30重量%以下である。前記導電材の含量が0.5重量%未満で少なすぎると電気伝導性向上効果を期待しにくいか、電池の電気化学的特性が低下されることがあって、30重量%を超えて多すぎると相対的に正極活物質の量が少なくなって容量及びエネルギー密度が低下されることがある。正極に導電材を含ませる方法は大きく制限されず、正極活物質へのコーティングなど当分野に公知された通常の方法を利用することができる。また、必要に応じて、正極活物質に導電性の第2被覆層が付加されることによって前記のような導電材添加の代わりをすることもある。
【0046】
本発明において、用語「気孔率(porosity)」は、ある構造体で全体体積に対して気孔が占める体積の割合を意味し、その単位として%を使用し、孔隙率、多孔度などの用語と相互交換して使用することができる。本発明において、前記気孔率の測定は特に限定されず、本発明の一実施例によって例えば、BET(Brunauer‐Emmett‐Teller)測定法または水銀浸透法(Hg porosimeter)によってマイクロ(micro)及びメソ細工体積(meso pore volume)を測定することができる。
【0047】
また、前記湿式正極活物質層の密度は0.2ないし1.4g/cmであって、具体的に、前記湿式正極活物質層の密度は0.2g/cm以上、0.3g/cm以上または0.5g/cm以上であって、1.0g/cm以下、1.2g/cm以下または1.4g/cm以下である。前記密度が0.2g/cm未満であれば接触抵抗が大きくなることがあって、1.4g/cm超過であれば物質伝達抵抗が大きくなることがある。
【0048】
また、前記湿式正極活物質層のローディング量は0.1mAh/cmないし0.5mAh/cmであって、具体的に、前記湿式正極活物質層のローディング量は0.1mAh/cm以上、0.2mAh/cm以上または0.3mAh/cm以上であって、0.4mAh/cm以下または0.5mAh/cm以下である。前記湿式正極活物質層のローディング量が前記範囲を満たす場合、電池性能維持に維持力がよいことがある。前記湿式正極活物質層のローディング量は後述するような乾式正極活物質層のローディング量全体を基準にして2ないし20%であって、具体的に2%以上または3%以上であって、10%以下、15%以下または20%以下である。
【0049】
また、前記湿式正極活物質層の気孔率は30%ないし90%であって、具体的には、30%以上、50%以上、60%以上または70%以上であるか、80%以下、85%以下または90%以下であって、このような気孔率の範囲を満たす場合、電池の耐久性を維持しながら電池性能維持力がよいことがある。
【0050】
また、前記湿式正極活物質層の重量は、湿式正極活物質層及び乾式正極活物質層の全体重量を基準にして1ないし15重量%であって、具体的には、1重量%以上、3重量%以上または5重量%以上であって、10重量%以下、13重量%以下または15重量%以下である。前記湿式正極活物質層の重量が1重量%未満であれば、集電体と乾式正極活物質層の間の接着力が低下されることがあって、15重量%超過であれば前記湿式正極活物質層の内部に含まれたバインダーによって電池抵抗として作用することができる。
【0051】
また、前記湿式正極活物質層の厚さは、湿式正極活物質層及び乾式正極活物質層の全体厚さを基準にして1ないし30%であって、具体的には1%以上、5%以上または10%以上であって、20%以下、25%以下または30%以下である。前記湿式正極活物質層の厚さが1%未満であれば、集電体と乾式正極活物質層の間の接着力が低下されることがあって、30%超過であれば、前記湿式正極活物質層の内部に含まれたバインダーによって電池抵抗として作用することができる。
【0052】
本発明において、前記乾式正極活物質層は炭素含有硫黄溶融物を含むものである。前記炭素含有硫黄溶融物は硫黄溶融物内に多孔性炭素材が分散された形態を持つものである。
【0053】
前記乾式正極活物質層は湿式正極活物質層に含まれたバインダーと導電材なしにただ炭素含有硫黄溶融物のみからなるフリースタンディングフィルム形態の正極材を含むものである。
【0054】
前記フリースタンディングフィルム形態の正極材は硫黄と多孔性炭素材を原料にして乾式工程によって製造されるので、正極材内に硫黄と多孔性炭素材のみ含まれていて正極で使用する時にローディング量が高い長所がある。また、前記乾式工程は従来スラリー工程時に要求される混合、脱泡、コーティング、乾燥及び圧延のような一連の工程を省くことができて、工程費用の節減が可能である。また、前記乾式工程はスラリーを使わないため、前記乾式工程によって製造された炭素含有硫黄溶融物にバインダーが全然含まれておらず、バインダー抵抗による電池性能低下を根本的に取り除くことができる。また、前記乾式工程によって製造された炭素含有硫黄溶融物には導電材が全く含まれていないので、凝集力が足りない導電材によって成形性が低下される問題が最小化される。
【0055】
また、前記フリースタンディングフィルム形態の正極材は多孔性炭素材が正極材の骨格を成した状態で、前記炭素材の表面に形成された硫黄溶融物によって接続されてフリースタンディングフィルムの形態を示す。前記多孔性炭素材の中で炭素ナノチューブは構造的な特徴によって連結点がもっと多く、フリースタンディングフィルムの成形時にもっと有利である。具体的に、前記炭素ナノチューブは縦横比が1超過の形態を持つので、互いに接続されてフリースタンディングフィルムを形成するに有利である。
【0056】
また、前記フリースタンディングフィルム形態の正極材は、電極加圧成形後、正極材内の接着力が10gf/cm以上の正極材である。前記接着力は加圧工程時に硫黄が溶融されて周辺の硫黄と結集される性質に起因したものであり、前記正極材の接着力が10gf/cm未満であれば正極間の接着力不足によって電極成形が難しくなることがある。具体的に、前記接着力は10gf/cm以上、15gf/cm以上、20gf/cm以上、25gf/cm以上、30gf/cm以上または35gf/cm以上である。また、前記接着力の上限は50gf/cm以下、60gf/cm以下、70gf/cm以下、80gf/cm以下、90gf/cm以下または100gf/cm以下であるが、これに制限されるものではなく、正極材内の接着力は高いほど成形性、耐久性及び電池性能の側面でよい。
【0057】
また、前記乾式正極活物質層に含まれた炭素含有硫黄溶融物は硫黄50重量%ないし80重量%及び多孔性炭素材20重量%ないし50重量%で構成されたものである。硫黄は前記炭素含有硫黄溶融物の全体重量を基準にして50重量%以上、55重量%以上または60重量%以上可能で、70重量%以下、75重量%以下、80重量%以下が可能である。前記硫黄が50重量%未満であれば電気化学的活物質である硫黄の割合が減って多孔性炭素材の表面に形成される硫黄溶融物の厚さが薄くなるようになって、炭素含有硫黄溶融物がまともに成形されにくいか、または硫黄の量が減少して電池容量が低下されることがある。また、前記硫黄が80重量%超過であれば非伝導性の硫黄が多孔性炭素材の導電構造を遮断して電気化学的活性が遮断されるので電池駆動が制限的である。前記炭素含有硫黄溶融物で硫黄が50重量%ないし80重量%含まれる時、正極材が強い自己凝集力を示すことができ、前記多孔性炭素材が硫黄溶融物内でよく分散されることができるので、フリースタンディング形態の正極がよく形成されることができる。
【0058】
また、前記乾式正極活物質層の気孔率は68%以下、65%以下、60%以下または55%以下であって、45%以上または50%以上である。前記乾式正極活物質層の気孔率が68%超過であれば正極の耐久性が低下されることがあって、45%未満であれば気孔内で電気化学反応が起きる空間が狭くなるので、正常的なセルの駆動が難しくなることがある。
【0059】
また、前記乾式正極活物質層のローディング量は2.5mAh/cmないし5.0mAh/cmであって、前記乾式正極活物質層のローディング量が前記範囲を満たす場合、電池性能維持のための維持力がよい。
【0060】
また、前記乾式正極活物質層の重量は、湿式正極活物質層及び乾式正極活物質層の全体重量を基準にして85ないし99重量%であって、具体的には、85重量%以上、87重量%以上または90重量%以上であって、95重量%以下、97重量%以下または99重量%以下である。前記乾式正極活物質層の重量が85重量%未満であれば、湿式正極活物質層の重量が相対的に大きくなって前記湿式正極活物質層の内部に含まれたバインダーによって電池抵抗として作用することができ、99重量%超過であれば集電体と乾式正極活物質層の間の接着力が低下されることがある。
【0061】
また、前記乾式正極活物質層の厚さは、湿式正極活物質層及び乾式正極活物質層の全体厚さを基準にして70ないし99%であって、具体的には70%以上、75%以上または80%以上であって、90%以下、95%以下または99%以下である。前記乾式正極活物質層の厚さが70%未満であれば、湿式正極活物質層の重量が相対的に大きくなって前記湿式正極活物質層内部に含まれたバインダーによって電池抵抗として作用することができ、99%超過であれば、集電体と乾式正極活物質層の間の接着力が低下されることがある。
【0062】
リチウム二次電池用正極の製造方法
本発明は、また、リチウム二次電池用正極の製造方法に係り、前記リチウム二次電池用正極の製造方法は、(1)硫黄‐炭素複合体、バインダー及び導電材を含む正極スラリーを正極集電体に一面に塗布し、湿式正極活物質層を形成する段階;及び(2)前記湿式正極活物質層の一面にフリースタンディングフィルム型正極材である乾式正極活物質層を附着する段階;を含むものである。
【0063】
以下、各段階別に本発明をより詳しく説明する。
【0064】
本発明において、前記(1)段階では、硫黄‐炭素複合体、バインダー及び導電材を含む正極スラリーを正極集電体の一面に塗布し、湿式正極活物質層を形成することができる。この時、前記硫黄‐炭素複合体、バインダー、導電材及び正極集電体の特性については前述したとおりである。
【0065】
具体的に、前記正極スラリーを正極集電体に塗布し、真空乾燥してリチウム二次電池用正極を形成することができる。前記正極スラリーはスラリーの粘度及び形成しようとする正極の厚さによって適切な厚さで正極集電体に塗布することができ、好ましくは10nmないし1μm範囲内で適切に選択することができる。
【0066】
この時、前記正極スラリーをコーティングする方法として制限はなく、例えば、ドクターブレードコーティング(Doctor blade coating)、ディップコーティング(Dip coating)、グラビアコーティング(Gravure coating)、スリットダイコーティング(Slit die coating)、スピンコーティング(Spin coating)、コンマコーティング(Comma coating)、バーコーティング(Bar coating)、リバースロールコーティング(Reverse roll coating)、スクリーンコーティング(Screen coating)、キャップコーティング(Cap coating)方法などを遂行して製造することができる。
【0067】
また、前記正極スラリーは、前記硫黄‐炭素複合体、バインダー及び導電材を溶媒と混合及び撹拌して製造することができる。
【0068】
前記溶媒としては、前記硫黄‐炭素複合体、バインダー及び導電材を均一に分散させることができるものを使用する。このような溶媒としては、水系溶媒として水が最も好ましく、この時、水は2次蒸溜したDW(Distilled Water)、3次蒸溜したDIW(Deionzied Water)である。ただし、必ずこれに限定するものではなく、必要な場合、水と容易に混合可能な低級アルコールが使われることができる。前記低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、及びブタノールなどがあって、好ましくは、これらは水とともに混合して使われることができる。
【0069】
また、前記正極スラリーを製造するための混合は、通常の混合機、例えば、ペーストミキサー、高速せん断ミキサー、ホモミキサーなどを利用して通常の方法で撹拌することができる。
【0070】
製造された前記正極スラリーを正極集電体上に塗布した後、乾燥して正極を製造することができ、必要に応じて電極密度を向上させるために正極集電体に圧縮成形して製造することができる。
【0071】
本発明において、前記(2)段階では前記湿式正極活物質層の一面にフリースタンディングフィルム型正極材である乾式正極活物質層を附着することができる。
【0072】
本発明において、前記フリースタンディングフィルム型正極材は、(a)硫黄と多孔性炭素材を混合する段階;(b)前記(a)段階で形成された混合物を熱処理する段階;及び(c)前記(b)段階で形成された硫黄‐炭素複合体を容器に充填した後で加圧する段階;を含む工程によって製造されることができる。
【0073】
前記(a)段階では、原料物質である硫黄と多孔性炭素材を混合した混合物を形成することができる。この時、前記硫黄と多孔性炭素材の種類及び適正重量範囲は上述したとおりである。
【0074】
また、前記(b)段階では、前記(a)段階で形成された混合物を熱処理して硫黄‐炭素複合体を形成することができる。
【0075】
前記硫黄と多孔性炭素材の混合物を加熱すれば、硫黄は液体状態に変わるようになり、液体状態の硫黄が多孔性炭素材の内部に入るか、表面にコーティングまたは附着されて硫黄が多孔性炭素材に担持または充填されるか、及び/またはコーティングされた硫黄‐炭素複合体が形成されることができる。例えば、前記多孔性炭素材が炭素ナノチューブである場合、液体状態の硫黄が毛細管現象を通じて炭素ナノチューブの内部に吸い込まれて硫黄が炭素ナノチューブに担持されることがある。
【0076】
前記熱処理は硫黄の融点以上で遂行されることができる。例えば、前記熱処理温度は130℃以上、140℃以上または150℃以上であって、160℃以下、165℃以下または170℃以下である。前記熱処理温度が130℃未満であれば硫黄が溶けないため、炭素材に担持されるか、コーティングされた形態の複合体を形成しにくいことがあって、170℃超過であれば硫黄‐炭素複合体が製造されることはできるが、硫黄が揮発して硫黄の損失と製造装備の劣化を引き起こすことがある。
【0077】
また、前記熱処理時間は硫黄が熱処理によって溶けて多孔性炭素材に担持されることができる程度の適正時間であれば可能で、25分以上または30分以上可能であって、40分以下、45分以下または50分以下可能である。
【0078】
また、前記(c)段階では前記(b)段階で形成された硫黄‐炭素複合体を容器に充填した後、加圧して炭素含有硫黄溶融物からなるフリースタンディングフィルム形態の正極材を製造することができる。
【0079】
硫黄‐炭素複合体は加圧状態で強い自己凝集力を示す特性がある。具体的に、加圧状態で前記硫黄‐炭素複合体表面の硫黄が部分的に溶融され、複合体間の連結性を与えて強い自己凝集力を示すことができる。したがって、粒子状態の硫黄‐炭素複合体に対して圧力をかけると、硫黄が溶融されて硫黄溶融物が形成され、前記硫黄溶融物の内部に炭素材が分散された形態の炭素含有硫黄溶融物が形成される。前記分散された炭素材粒子の間では凝集力が発生し、また、炭素材は骨格の機能をし、それ自体で柔軟性を持つので、フリースタンディングフィルムが形成されるようになる。
【0080】
前記加圧時の圧力は硫黄‐炭素複合体の間に凝集力が充分発生してフリースタンディングフィルムを形成するほどの圧力である。例えば、前記加圧時の圧力は0.8MPa以上、0.9MPa以上または1MPa以上であって、5Mpa以下、8MPa以下、10MPa以下、13MPa以下または15MPa以下可能である。前記加圧時の圧力が0.8MPa未満であれば硫黄‐炭素複合体の間に凝集力が弱くて炭素含有硫黄溶融物からなるフリースタンディングフィルムが形成されないこともあって、15MPa超過であれば正極材の気孔率が低すぎて電極の構造が崩れることがある。
【0081】
リチウム二次電池
また、本発明は前記リチウム二次電池用正極を含むリチウム二次電池を提供する。
【0082】
本発明によるリチウム二次電池は、正極;負極;これらの間に介在される電解質を含み、前記正極として本発明によるリチウム二次電池用正極を含む。
【0083】
前記正極は前述した内容にしたがい、前記フリースタンディングフィルム型正極材を正極活物質層に含み、バインダー層を通じて前記正極活物質層と正極集電体を接合することを特徴とする。
【0084】
特に、本発明の正極は正極活物質層にバインダーや導電材が必要ない乾式工程によって製造されたフリースタンディングフィルム型正極材を含むことで既存電極と比べて多量の硫黄をローディングすることができる。これによって、本発明において、前記正極は硫黄のローディング量、すなわち正極内で正極活物質層の単位面積当たり硫黄の質量は3.0ないし5.0mAh/cmである。このように高い硫黄ローディング量を持つことによって本発明による正極を含むリチウム二次電池は優れる放電容量及び寿命特性を示すことができる。
【0085】
前記負極は負極集電体の少なくとも一面上に負極活物質を含む負極活物質層を形成したり、負極活物質層(例えば、リチウム板金、リチウム金属薄膜、リチウムホイル)を単独で使用することができる。
【0086】
前記負極集電体は負極活物質層の支持のためのもので、正極集電体で説明したとおりである。
【0087】
前記負極活物質層は負極活物質を含み、導電材、バインダーなどをさらに含むことができる。
【0088】
前記負極活物質は、リチウム(Li)を可逆的に挿入(intercalation)または脱挿入(deintercalation)できる物質、リチウムイオンと反応して可逆的にリチウム含有化合物を形成することができる物質、リチウム金属またはリチウム合金を含むことができる。
【0089】
前記リチウムイオン(Li)を可逆的に挿入または脱挿入できる物質は、例えば、結晶質炭素、非晶質炭素またはこれらの混合物である。前記リチウムイオン(Li)と反応して可逆的にリチウム含有化合物を形成することができる物質は、例えば、酸化スズ、窒化チタンまたはシリコーンである。前記リチウム合金は、例えば、リチウム(Li)とナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)、アルミニウム(Al)及びスズ(Sn)からなる群から選択される金属の合金である。
【0090】
好ましくは、前記負極活物質はリチウム金属であって、具体的に、リチウム金属薄膜またはリチウム金属粉末の形態である。
【0091】
前記負極活物質の形成方法は特に制限されず、当業界で通常使われる層または膜の形成方法を利用することができる。例えば、圧搾、コーティング、蒸着などの方法を利用することができる。また、集電体にリチウム薄膜がない状態で電池を組み立てた後、初期充電によって板金上に金属リチウム薄膜が形成される場合も本発明の負極に含まれる。
【0092】
前記導電材は負極活物質と電解質とを電気的に連結させて集電体(current collector)から電子が負極活物質まで移動する経路の役目をする物質として、導電性を持つものであれば制限せずに使用することができる。
【0093】
例えば、前記導電材としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛;スーパーP(Super‐P)、デンカブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素ナノチューブ、フラーレンなどの炭素誘導体;炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン;アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末またはポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリピロールなどの伝導性高分子を単独で、または混合して使用することができる。
【0094】
前記バインダーはバインダー層で説明したとおりである。
【0095】
前記電解質はリチウムイオンを含み、これを媒介にして正極と負極で電気化学的酸化または還元反応を起こすためのものである。
【0096】
前記電解質はリチウム二次電池に通常使われていたものなどがいずれも使用されることができる。
【0097】
例えば、前記電解質で電解質として含まれることができるリチウム塩は、リチウム二次電池用電解質に通常使われるものなどが制限せずに使われることができ、例えば、前記リチウム塩の陰イオンでは、F、Cl、Br、I、NO 、N(CN) 、BF 、ClO 、PF 、(CFPF 、(CFPF 、(CFPF 、(CFPF、(CF、CFSO 、CFCFSO 、(CFSO、(FSO CFCF(CFCO、(CFSOCH、(SF、(CFSO、CF(CFSO 、CFCO 、CHCO 、SCN及び(CFCFSOからなる群から選択されたいずれか一つである。具体的に、前記リチウム塩ではLiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAl0、LiAlCl、LiCFSO、LiCSO、LiN(CSO、LiN(CSO(Lithium bis(perfluoroethylsulfonyl)imide、BETI)、LiN(CFSO(Lithium bis(Trifluoromethanesulfonyl)imide、LiTFSI)、LiN(C2a+1SO)(C2b+1SO)(ただし、a及びbは自然数、好ましくは1≦a≦20で、1≦b≦20である)、リチウムポリ[4,4’‐(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェノキシ]スルホニルイミド(lithium poly[4,4’‐(hexafluoroisopropylidene)diphenoxy]sulfonylimide、LiPHFIPSI)、LiCl、LiI、LiB(C、LiNOなどが使われることができ、この中でもLiTFSI、BETIまたはLiPHFIPSIなどのようなスルホニル基‐含有イミドリチウム化合物がより好ましい。
【0098】
本発明で使われる電解質において、電解質に含まれる有機溶媒としては、リチウム二次電池用電解液に通常使われるものなどが制限されずに使われることができ、代表的にプロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、ジエチルカーボネート(diethyl carbonate、DEC)、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate、DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、ジオキソラン(DOL)、ジメチルスルファオキシド、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ビニレンカーボネート、スルホラン、ガンマ‐ブチロラクトン、プロピレンスルファイト及びテトラハイドロフランからなる群から選択されるいずれか一つまたはこれらの中で2種以上の混合物などが代表的に使われることができる。特に、前記カーボネート系有機溶媒の中で環形カーボネートであるエチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートは高粘度の有機溶媒であって誘電率が高く、電解質内のリチウム塩をよく解離させるので好ましく使われることができ、このような環形カーボネートにジメチルカーボネート及びジエチルカーボネートのような低粘度、低誘電率の線形カーボネートを適当な割合で混合して使用すれば、高い電気伝導率を持つ電解液を作ることができてもっと好ましく使われることができる。
【0099】
前記電解質は前述したリチウム塩と有機溶媒以外に添加剤として硝酸または亜硝酸系化合物をさらに含むことができる。
【0100】
このような硝酸または亜硝酸系化合物としては、本発明で特に限定しないが、硝酸リチウム(LiNO)、硝酸カリウム(KNO)、硝酸セシウム(CsNO)、硝酸バリウム(Ba(NO)、硝酸アンモニウム(NHNO)、亜硝酸リチウム(LiNO)、亜硝酸カリウム(KNO)、亜硝酸セシウム(CsNO)、亜硝酸アンモニウム(NHNO)などの無機系硝酸または亜硝酸化合物;メチルニトラート、ジアルキルイミダゾリウムニトラート、グアニジンニトラート、イミダゾリウムニトラート、ピリジニウムニトラート、エチルニトラート、プロピルニトラート、ブチルニトラート、ペンチルニトラート、オクチルニトラートなどの有機系硝酸または亜硝酸化合物;ニトロメタン、ニトロプロパン、ニトロブタン、ニトロベンゼン、ジニトロベンゼン、ニトロピリジン、ジニトロピリジン、ニトロトルエン、ジニトロトルエンなどの有機ニトロ化合物及びこれらの組み合わせからなる群から選択された1種が可能であり、好ましくは硝酸リチウムを使用する。
【0101】
前記正極と負極の間にはさらに分離膜が含まれることができる。
【0102】
前記分離膜は前記正極と負極を互いに分離または絶縁させ、正極と負極との間にリチウムイオンの輸送ができるようにすることで多孔性非伝導性または絶縁性物質からなることができ、通常リチウム二次電池で分離膜として使われるものであれば特に制限せずに使用可能である。このような分離膜はフィルムのような独立的な部材であってもよく、正極及び/または負極に付加されたコーティング層であってもよい。
【0103】
前記分離膜としては電解質のイオン移動に対して低抵抗でありながら電解質に対する含湿能力に優れるものが好ましい。
【0104】
前記分離膜は多孔性基材からなることができ、前記多孔性基材は通常二次電池に使われる多孔性基材であれば、いずれも使用可能であり、多孔性高分子フィルムを単独でまたはこれらを積層して使用することができるし、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布またはポリオレフィン系多孔性膜を使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0105】
前記多孔性基材の材質では、本発明で特に限定せず、通常的に電気化学素子に使用される多孔性基材であれば、いずれも使用可能である。例えば、前記多孔性基材は、ポリエチレン(polyethylene)、ポリプロピレン(polypropylene)などのポリオレフィン(polyolefin)、ポリエチレンテレフタレート(polyethyleneterephthalate)、ポリブチレンテレフタレート(polybutyleneterephthalate)などのポリエステル(polyester)、ポリアミド(polyamide)、ポリアセタール(polyacetal)、ポリカーボネート(polycarbonate)、ポリイミド(polyimide)、ポリエーテルエーテルケトン(polyetheretherketone)、ポリエーテルスルホン(polyethersulfone)、ポリフェニレンオキサイド(polyphenyleneoxide)、ポリフェニレンスルフィド(polyphenylenesulfide)、ポリエチレンナフタレン(polyethylenenaphthalate)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、セルロース(cellulose)、ナイロン(nylon)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾ―ル(poly(p‐phenylene benzobisoxazole)及びポリアリレート(polyarylate)からなる群から選択された1種以上の材質を含むことができる。
【0106】
前記多孔性基材の厚さは特に制限されないが、1ないし100μm、好ましくは5ないし50μmである。前記多孔性基材の厚さ範囲が前述した範囲に限定されるものではないが、厚さが前述した下限より薄すぎる場合は、機械的物性が低下して電池使用中に分離膜が容易に損傷されることがある。
【0107】
前記多孔性基材に存在する気孔の平均直径及び気孔率も特に制限されないが、それぞれ0.001ないし50μm及び10ないし95%である。
【0108】
前述したリチウム二次電池の形態は特に制限されず、例えば、ゼリー‐ロール形、スタック型、スタック‐フォールディング型(スタック‐Z‐フォールディング型を含む)、またはラミネーション‐スタック型であってもよく、好ましくは、スタック‐フォールディング型である。
【0109】
このような前記負極、分離膜及び正極を順次積層させて電解質を注入した電極組立体を製造した後、これを電池ケースに入れた後、キャッププレート及びガスケットで密封して組立て、リチウム二次電池を製造することができる。
【0110】
この時、リチウム二次電池は使用する正極/負極材質によってリチウム‐硫黄二次電池、リチウム‐空気電池、リチウム‐酸化物電池、リチウム全固体電池など多様な電池で分類可能で、形態によって円筒状、角形、コイン型、ポーチ型などに分類されることができ、サイズによってバルクタイプと薄膜タイプに分けることができる。これらの電池の構造と製造方法は、この分野に広く知られているので詳細な説明は省略する。
【0111】
本発明において、リチウム二次電池は正極として硫黄‐炭素複合体を含むフリースタンディングフィルム形態の正極材を使用するので、リチウム‐硫黄二次電池である。前記リチウム‐硫黄二次電池は負極活物質としてリチウム金属を使用することができる。リチウム‐硫黄二次電池の放電の際に負極ではリチウムの酸化反応が起きて、正極では硫黄の還元反応が発生する。この時、還元された硫黄は負極から移動されてきたリチウムイオンと結合してリチウムポリスルフィドに変換され、最終的にリチウムスルフィドを形成する反応を伴う。
【0112】
また、本発明は前記リチウム二次電池を単位電池で含む電池モジュールを提供する。
【0113】
前記電池モジュールは高温安定性、長いサイクル特性及び高い容量特性などが要求される中大型デバイスの電源として使われることができる。
【0114】
前記中大型デバイスの例としては、電池的モーターによって動力を受けて動くパワーツール(power tool);電気自動車(electric vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)、プラグ‐インハイブリッド電気自動車(plug‐in hybrid electric vehicle、PHEV)などを含む電気車;電気自転車(E‐bike)、電気スクーター(E‐scooter)を含む電気二輪車;電気ゴルフカート(electric golf cart);電力貯蔵用システムなどを挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0115】
以下、本発明を理解しやすくするために好ましい実施例を提示するが、下記実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で多様な変更及び修正が可能であることは当業者にとって自明なことであり、このような変形及び修正が添付の特許請求範囲に属することも当然である。
【0116】
製造例1:硫黄‐炭素複合体製造
硫黄(S)と炭素ナノチューブ(CNT)を固体状態で65:35の重量比で均一に混合し、100rpmの条件で1時間ボールミーリングして混合物を製造した。
【0117】
前記混合物を155℃で35分間熱処理し、硫黄をCNTの気孔内で担持及び表面にコーティングされるようにして硫黄‐炭素複合体(S‐CNT)を製造した。この時、前記CNTは比表面積350m/gのものを使用した。
【0118】
実施例1
(1)正極製造
前記製造例1で得た硫黄‐炭素複合体(S‐CNT)、導電材及びバインダーを90:5:5の重量比で混合してスラリーを製造した後、20μm厚さのアルミニウム集電体上にコーティング後、乾燥及び圧延して湿式正極活物質層を形成した。この時、前記導電材は比表面積300mで、粒子の大きさ20μmであるCNTを使用し、前記バインダーはスチレン‐ブタジエンゴム(styrene butadiene rubber;SBR)を使用した。
【0119】
前記製造例1の硫黄‐炭素複合体(S‐CNT)をモールドに充填させた後、油圧プレスを利用して10MPaの圧力で加圧し、炭素含有硫黄溶融物からなるフリースタンディングフィルム型正極材を製造した。
【0120】
前記フリースタンディングフィルム型正極材を前記湿式正極活物質層の一面に積層(lamination)した後、加圧して乾式正極活物質層を形成した。
【0121】
アルミニウム集電体、湿式正極活物質層及び乾式正極活物質層が順次積層されたリチウム二次電池用正極を製造した。
【0122】
(2)リチウム‐硫黄二次電池製造
前記製造された正極と厚さ150μmのリチウム金属を負極で準備した。
【0123】
電解液はテトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)/ジオキソラン(DOL)/ジメトキシエタン(DME)を1:1:1の体積比で混合した有機溶媒に1M濃度のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)と0.1M濃度の硝酸リチウム(LiNO)を溶解させて製造した。
【0124】
前記正極と負極の間に厚さ20μm及び気孔率45%の多孔性ポリエチレン分離膜を介在して電極組立体を製造し、前記電極組立体をケース内部に位置させた後、ケース内部に前記電解液を注入してポーチセル形態のリチウム‐硫黄二次電池を製造した。
【0125】
比較例1
乾式正極活物質層を形成せず、湿式正極活物質層のみを形成したことを除いて、実施例1と同様の方法で正極及びリチウム‐硫黄二次電池を製造した。
【0126】
比較例2
湿式正極活物質層を形成せず、乾式正極活物質層をアルミニウム集電体の一面に形成したことを除いて実施例1と同様の方法で正極及びリチウム‐硫黄二次電池を製造した。この時、前記アルミニウム集電体上にバインダーである SBR(Styrene Butadiene Rubber)塗布した後、前記乾式正極活物質層を接着させた。
【0127】
比較例3
バインダーを使わないことを除いて、比較例2と同様に実施して、アルミニウム集電体上に乾式活物質層を接着させた。
【0128】
実験例1:電池物性評価
前記実施例及び比較例で製造されたポーチセル形態のリチウム二次電池に対し、下のような方法で、容量、公称電圧、水分含量及び寿命特性を測定したし、その結果を下記切符1に記載した。
【0129】
比較例3は乾式正極活物質層自体の接着力がなく、別途バインダーを使わないと集電体上に接着されないので、正極を製造することができないため、物性評価を実施しなかった。
【0130】
(1)容量
25℃で、0.1C充電/0.1C放電2.5サイクル後、0.2C充電/0.2C放電3サイクル後、0.2C充電/0.3C放電条件にして、25℃及び45℃の温度で容量を測定した。
【0131】
(2)公称電圧(normal voltage)
公称電圧とは、電力系統で与えられた電圧系統を呼ぶための呼称電圧値であって、一般的に起電力よりやや低い値を持ち、通常放電曲線の中心値(mean value of discharge voltage)を意味する。
【0132】
本実験例において、公称電圧は図2a及び図2bに示されたような放電曲線の中心値にして求めた。
【0133】
(3)水分含量
水分測定機器(Metrohm 901KF Tirando)を利用して水分含量を測定した。
【0134】
(4)寿命特性
容量保存率が初期容量の80%になる地点を寿命の最終サイクルにした。
【0135】
【表1】
【0136】
図1は、実施例1、比較例1及び比較例2でそれぞれ製造されたリチウム‐硫黄二次電池用正極の縦断面を示すものである。
【0137】
図1に示されたように、実施例1で製造された正極は、集電体10、湿式正極活物質層20及び乾式正極活物質層30が積層された構造を持つ。前記湿式正極活物質層20は乾式正極活物質層30に比べて相対的に高気孔率を示し、前記乾式正極活物質層30は前記湿式正極活物質層20に比べて相対的に高密度の特性を示す。また、前記湿式正極活物質層20によって集電体10と前記乾式正極活物質層30が直接積層された時に示される抵抗が改善されることができる。また、前記湿式正極活物質層20は乾式正極活物質層30との接着力もよく、集電体10との接着力がよいので、正極の耐久性も改善されることができる。
【0138】
また、比較例1で製造された正極は集電体10及び湿式正極活物質層20が積層された構造を持つ。前記湿式正極活物質層20の内部にはバインダーが含まれているので、抵抗が大きくなる問題がある。
【0139】
また、比較例2で製造された正極は集電体10及び乾式正極活物質層30が積層された構造を持つ。前記集電体10と乾式正極活物質層30の間にはバインダーが塗布されていて、前記バインダーによる接触抵抗が大きくなり、高率特性が低下する問題があり得る。
【0140】
また、前記表1、図2a、図2b及び図3に示すように、実施例1は(乾式及び湿式正極活物質層が形成された正極を含むリチウム‐硫黄二次電池)は比較例1(湿式正極活物質層が形成された正極を含むリチウム‐硫黄二次電池)に比べて容量、高率特性、過電圧及び寿命特性に優れることが分かる。
【0141】
また、実施例1は比較例2(乾式正極活物質層が形成された正極を含むリチウム‐硫黄二次電池)に比べて高率特性、過電圧及び寿命特性に優れることが分かる。0.1Cでの実施例1と比較例2の容量差が大きくないことは、抵抗が大きく作用しない低い充/放電速度に起因したことである。すなわち、図2bに示されたように、放電速度が0.2Cの場合、比較例2の抵抗のため容量が急激に低下することが分かる。
【符号の説明】
【0142】
10:集電体
20:湿式正極活物質層
30:乾式正極活物質層
図1
図2a
図2b
図3