IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝エネルギーシステムズ株式会社の特許一覧

特許7497539光電変換素子の製造方法およびタンデム型太陽電池の製造方法
<>
  • 特許-光電変換素子の製造方法およびタンデム型太陽電池の製造方法 図1
  • 特許-光電変換素子の製造方法およびタンデム型太陽電池の製造方法 図2
  • 特許-光電変換素子の製造方法およびタンデム型太陽電池の製造方法 図3
  • 特許-光電変換素子の製造方法およびタンデム型太陽電池の製造方法 図4
  • 特許-光電変換素子の製造方法およびタンデム型太陽電池の製造方法 図5
  • 特許-光電変換素子の製造方法およびタンデム型太陽電池の製造方法 図6
  • 特許-光電変換素子の製造方法およびタンデム型太陽電池の製造方法 図7
  • 特許-光電変換素子の製造方法およびタンデム型太陽電池の製造方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】光電変換素子の製造方法およびタンデム型太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/57 20230101AFI20240603BHJP
   H10K 30/40 20230101ALI20240603BHJP
   H10K 71/00 20230101ALI20240603BHJP
   H10K 85/50 20230101ALI20240603BHJP
【FI】
H10K30/57
H10K30/40
H10K71/00
H10K85/50
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024023231
(22)【出願日】2024-02-19
【審査請求日】2024-02-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩川 美雪
(72)【発明者】
【氏名】五反田 武志
(72)【発明者】
【氏名】平野 樹
(72)【発明者】
【氏名】山下 勝也
(72)【発明者】
【氏名】戸張 智博
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-101351(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105789451(CN,A)
【文献】国際公開第2022/244413(WO,A1)
【文献】特開2023-135200(JP,A)
【文献】Wenke Zhou et al.,"Reversible Healing Effect of Water Molecules on Fully Crystallized Metal-Halide Perovskite Film",The Journal of Physical Chemistry C,2016年,Vol.120,pp.4759-4765,<DOI: 10.1021/acs.jpcc.5b11465>
【文献】Shangchao Lin et al.,"Molecular Insights into Water Vapor Adsorption and Interfacial Moisture Stability of Hybrid Perovskites for Robust Optoelectronics",International Journal of Heat and Mass Transfer,2021年,Vol.175, Article Number 121334,pp.1-10,<DOI:10.1016/j.ijheatmasstransfer.2021.121334>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-99/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、第1電極層と、一般式ABXで表されるペロブスカイト化合物を含む光電変換層と、キャリア輸送層と、第2電極層とがこの順に配置されている光電変換素子の製造方法であって、
前記第1電極層と、前記光電変換層と、前記光電変換層上に形成された前記キャリア輸送層の少なくとも一部または全部と、を含む中間体を、大気雰囲気中、遮光された状態で、かつ、下記式(1)で表される指標が110以上490以下の範囲となる条件で保管する保管工程を含む、光電変換素子の製造方法。
ただし、Aは、Cs、CH、CHNH、CNH、CNHまたはCNHのうちの一種または2種以上のイオンを含み、Bは、PbまたはSnのうちの一種または2種であり、Xは、F、Cl、Br、IまたはAtのうちの一種または2種以上である。
指標=雰囲気中の水蒸気量(g/m)×保管時間(h) …(1)
【請求項2】
少なくとも、第1電極層と、シリコン層を含む第1光電変換層と、中間層と、一般式ABXで表されるペロブスカイト化合物を含む第2光電変換層と、キャリア輸送層と、第2電極層と、がこの順に配置されているタンデム型太陽電池の製造方法であって、
前記第1電極層と、前記第1光電変換層と、前記中間層と、前記第2光電変換層と、前記第2光電変換層上に形成された前記キャリア輸送層の少なくとも一部または全部と、を含む中間体を、大気雰囲気中、遮光された状態で、かつ、下記式(1)で表される指標が110以上490以下の範囲となる条件で保管する保管工程を含む、タンデム型太陽電池の製造方法。
ただし、Aは、Cs、CH、CHNH、CNH、CNHまたはCNHのうちの一種または2種以上のイオンを含み、Bは、PbまたはSnのうちの一種または2種であり、Xは、F、Cl、Br、IまたはAtのうちの一種または2種以上である。
指標=雰囲気中の水蒸気量(g/m)×保管時間(h) …(1)
【請求項3】
前記保管工程において、雰囲気中の水蒸気量を1~10(g/m)の範囲とする、請求項1に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項4】
前記保管工程において、雰囲気中の水蒸気量を1~10(g/m)の範囲とする、請求項2に記載のタンデム型太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、光電変換素子の製造方法およびタンデム型太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、自然エネルギーを有効に活用するか、または二酸化炭素などの排出が少ない、環境負荷の小さい発電システムに注目が集まっている。その中で、光電変換素子を用いた太陽電池が盛んに研究開発されている。このような太陽電池の製造方法は、生産性の高い製造方法が望ましい。そのようなニーズに応えられる方法として、太陽電池を構成する光電変換層を塗布や印刷で生産する方法が提案されている。このような方法によれば、従来よりも低コストで太陽電池を作製できる可能性がある。ところで、光電変換層としてペロブスカイト層を製造する際は、光電変換効率の向上のために、雰囲気制御を行う必要があるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-82006号公報
【文献】特開2016-82003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、ペロブスカイト層よりなる光電変換層の光電変換効率を向上させることが可能な、光電変換素子の製造方法およびタンデム型太陽電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の光電変換素子の製造方法は、少なくとも、第1電極層と、一般式ABXで表されるペロブスカイト化合物を含む光電変換層と、キャリア輸送層と、第2電極層とがこの順に配置されている光電変換素子の製造方であり、保管工程をもつ。
保管工程は、前記第1電極層と、前記光電変換層と、前記光電変換層上に形成された前記キャリア輸送層の少なくとも一部または全部と、を含む中間体を、大気雰囲気中、遮光された状態で、かつ、下記式(1)で表される指標が110以上490以下の範囲となる条件で保管する工程である。
ただし、Aは、Cs、CH、CHNH、CNH、CNHまたはCNHのうちの一種または2種以上のイオンを含み、Bは、PbまたはSnのうちの一種または2種であり、Xは、F、Cl、Br、IまたはAtのうちの一種または2種以上である。
指標=雰囲気中の水蒸気量(g/m)×保管時間(h) …(1)
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、シングル型太陽電池の構成を示す断面模式図。
図2図2は、第1の実施形態であるシングル型太陽電池の製造方法の第1の例を説明する工程図。
図3図3は、第1の実施形態であるシングル型太陽電池の製造方法の第1の例を説明する工程図であって、保管工程を示す図。
図4図4は、第1の実施形態であるシングル型太陽電池の製造方法の第1の例を説明する工程図であって、透明電極層を製造する工程を示す図。
図5図5は、タンデム型太陽電池の構成を示す断面模式図。
図6図6は、第2の実施形態であるタンデム型太陽電池の製造方法の一例を説明する工程図。
図7図7は、第2の実施形態であるタンデム型太陽電池の製造方法の一例を説明する工程図であって、保管工程を示す図。
図8図8は、第2の実施形態であるタンデム型太陽電池の製造方法の一例を説明する工程図であって、透明電極層を製造する工程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の光電変換素子の製造方法、タンデム型太陽電池の製造方法およびシングル型太陽電池の製造方法を、図面を参照して説明する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1に、第1の実施形態の製造方法により製造される光電変換素子の一例を示す。図1に示す光電変換素子10は、一つの光電変換層を備えたシングル型太陽電池とも呼ばれるもので、基板16上に、第1電極層11、第1キャリア輸送層12、光電変換層13、第2キャリア輸送層14、第2電極層15が積層されている。第1電極層11と第2電極層15は、陽極または陰極となって電気が取り出される。第2電極層15は、金属電極層と透明電極層の一方または両方を含むものである。なお、第2電極層は、光電変換層13の成膜後に成膜される電極層である。
【0009】
光電変換層13は、所謂ペロブスカイト太陽電池の光電変換層として機能する層である。光電変換層13は、基板16側から、基板16と第1電極層11と第1キャリア輸送層12を通して入射した光によって、または、第2電極層15側から、第2電極層15と第2キャリア輸送層14を通して入射した光によって励起され、第1電極層11と第2電極層15に電子または正孔を生じさせる。第1キャリア輸送層12と第2キャリア輸送層14は、光電変換層13と二つの電極層11、15との間に存在する層であり、光電変換層13に対して正孔または電子を輸送する機能を有する。
【0010】
以下、図1に示す光電変換素子であるシングル型太陽電池の構成部材について説明する。
【0011】
基板16は、ほかの構成部材を支持するためのものである。この基板16は、その表面に第1電極層11を形成する必要がある。このため、電極層形成時にかかる熱や、接触する有機溶媒によって変質しないものであることが好ましい。基板16の材料としては、例えば、無アルカリガラス、石英ガラス等の無機材料、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、液晶ポリマー、シクロオレフィンポリマー等の有機材料、ステンレス鋼(SUS)、シリコン等の金属材料等が挙げられる。
【0012】
基板16は、透明なものであっても、不透明なものであってもよく、目的とする光電変換素子の構造によって適切に選択される。例えば、基板16の表面から光が入射する場合や、太陽電池として透過性を要求される場合(例えば窓に設置する場合等)、透明な基板が使用される。また、基板16とは反対側から光が入射する場合には、第2電極層15を透明または半透明として、基板16は不透明なものとすることができる。
【0013】
基板16の厚さは、その他の構成部材を支持するために十分な強度があれば、特に限定されない。
【0014】
基板16が光入射面側に配置される場合、光入射面には、例えばモスアイ構造の反射防止膜を設置することができる。このような構造とすることで、光を効率的に取り込み、セルのエネルギー変換効率を向上させることが可能である。モスアイ構造は表面に100nm程度の規則的な突起配列を有する構造をしており、この突起構造により厚み方向の屈折率が連続的に変化するため、無反射フィルムを媒介させることで屈折率の不連続的な変化面がなくなるため光の反射が減少し、セル効率が向上する。
【0015】
第1電極層11および第2電極層15は、導電性を有するものであれば、従来知られている任意のものから選択することができる。ただし、光入射面側の電極層の材料は、透明または半透明の導電性を有する材料から選択することが好ましい。透明または半透明の電極材料としては、透明の導電性の金属酸化物膜、半透明の金属薄膜等が挙げられる。また、第2電極層は、光電変換層13の成膜後に成膜される。
【0016】
金属酸化物膜として具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、およびそれらの複合体であるインジウム・スズ・オキサイド(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、インジウム・亜鉛・オキサイド(IZO)インジウム・亜鉛・オキサイド等からなる導電性ガラスを用いて作製された膜(NESA等)が用いられる。導電性酸化物として、特に、ITOまたはFTOまたはIZOが好ましい。金属薄膜としては、金、白金、銀、銅等が用いられる。
【0017】
各電極層11、15の厚さは、各電極層11、15の材料がITOの場合には、30~300nmであることが好ましい。各電極層11、15の厚さが30nmより薄いと導電性が低下して抵抗が高くなる傾向にある。抵抗が高くなると光電変換効率低下の原因となることがある。一方、各電極層11、15の厚さが300nmよりも厚いと、ITO膜の可撓性が低くなる傾向にある。この結果、膜厚が厚い場合には応力が作用するとひび割れてしまうことがある。なお、各電極層11、15のシート抵抗は可能な限り低いことが好ましく、10Ω/□以下であることが好ましい。
【0018】
各電極層11、15は、単層構造であっても、異なる仕事関数の材料で構成される層を積層した複層構造であってもよい。図1に示す例では、第2電極層15が、透明電極層15aと、透明電極層15a上に形成された櫛歯状の金属電極層15bとから構成されている。なお、第2電極層15が金属電極層のみから構成されていてもよい。
【0019】
各電極層11、15を電子輸送層に隣接して電極層を形成させる場合は、電極層材料として仕事関数の低い材料を用いることが好ましい。仕事関数の低い材料としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が挙げられる。具体的には、Li、In、Al、Ca、Mg、Sm、Tb、Yb、Zr、Na、K、Rb、Cs、Ba、およびこれらの合金を挙げることができる。また、前記した仕事関数の低い材料から選択される金属と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫などから選択される仕事関数が相対的に高い金属との合金であってもよい。電極層材料に用いることができる合金の例としては、リチウム-アルミニウム合金、リチウム-マグネシウム合金、リチウム-インジウム合金、マグネシウム-銀合金、カルシウム-インジウム合金、マグネシウム-アルミニウム合金、インジウム-銀合金、カルシウム-アルミニウム合金等が挙げられる。このような金属材料を用いる場合、電極層の膜厚は、1nm~500nmであることが好ましく、10nm~300nmであることがより好ましい。膜厚が上記範囲より薄い場合は、抵抗が大きくなり過ぎ、発生した電荷を十分に外部回路へ伝達できないことがある。膜厚が厚い場合には、電極層の成膜に長時間を要するため材料温度が上昇し、他の材料にダメージを与えて性能が劣化してしまうことがある。さらに、材料を大量に使用するため、成膜装置の占有時間が長くなり、コストアップに繋がることもある。
【0020】
電極層材料として有機材料を用いることもできる。例えばポリエチレンジオキシチオフェン(以下、PEDOTということがある)などのポリチオフェン系ポリマーなどが好ましい。このようなポリチオフェン系ポリマーは市販されており、たとえばClevios P H 500、Clevios P H、Clevios P VP Al 4083、Clevios HIL 1,1(いずれも商品名、スタルク社製)などが挙げられる。PEDOTの仕事関数は4.4eVであるが、これに別の材料を組み合わせて電極層の仕事関数を調整することができる。例えば、PEDOTにポリスチレンスルホン酸塩(以下、PSSということがある)を混合することで、仕事関数を5.0~5.8eVの範囲で調製することができる。ただし、導電性高分子化合物と別の材料の組み合わせから形成された層は、導電性高分子化合物の比率が相対的に減少するため、キャリア輸送性が低下する可能性がある。ゆえにこのような場合の電極層の膜厚は50nm以下であることが好ましく、15nm以下であることがより好ましい。
【0021】
光電変換層13は、ペロブスカイト構造を有するものである。このペロブスカイト構造とは、結晶構造のひとつであり、ペロブスカイトと同じ結晶構造をいう。典型的には、ペロブスカイト構造はイオンA、B、およびXからなり、イオンBがイオンAに比べて小さい場合にペロブスカイト構造をとる場合がある。この結晶構造の化学組成は、下記一般式(1)で表すことができる。
【0022】
ABX …(1)
【0023】
ここで、Aは、Cs、CH、CHNH、CNH、CNHまたはCNHのうちの一種または2種以上のイオンを含む。
【0024】
また、Bは、2価の金属イオンであり、Pb2+またはSn2+が好ましいがこれに限定されるものではない。また、Xは、ハロゲンイオンが好ましい。例えばF、Cl、Br、I、およびAtから選択され、Cl、Br、Iが好ましいがこれに限定されるものではない。
【0025】
イオンA、BまたはXを構成する材料は、それぞれ単一であっても混合であってもよい。構成するイオンはABXの化学量論比と必ずしも一致しなくても機能できる。
【0026】
光電変換層13のペロブスカイトを構成するイオンAは、原子量または、イオンを構成する原子量の合計(分子量)が45以上から構成されることが好ましい。更に好ましくは原子量の合計(分子量)が133以下のイオンを含むことが好ましい。これらの条件のイオンAは単体では安定性が低いため、一般的なMA(分子量32)を混合する場合があるが、MAを混合するとシリコンのバンドギャップ1.1eVに近づいて、波長分割して効率を向上させるタンデムとしては、全体の特性が低下してしまうので好ましくない。また、イオンAが複数のイオンの組み合わせであり、Csを含む場合、イオンAの全体個数に対してCsの個数の割合が0.1から0.9であることがより好ましい。
【0027】
この結晶構造は、立方晶、正方晶、直方晶等の単位格子をもち、各頂点にAが、体心にB、これを中心として立方晶の各面心にXが配置している。この結晶構造において、単位格子に包含される、一つのBと6つのXとからなる八面体は、Aとの相互作用により容易にひずみ、対称性の結晶に相転移する。この相転移が結晶の物性を劇的に変化させ、電子または正孔が結晶外に放出され、発電が起こるものと推定されている。
【0028】
光電変換層13の膜厚を厚くすると光吸収量が増えて短絡電流密度(Jsc)が増えるが、キャリア輸送距離が増える分、失活によるロスが増える傾向にある。このため最大効率を得るためには最適な膜厚があり、膜厚は30nm~1000nmが好ましく、60~600nmがさらに好ましい。
【0029】
例えば光電変換層13の厚みを個々に調整すれば、実施形態による光電変換素子10と、その他の一般的な素子を太陽光照射条件では同じ変換効率になるように調整が可能である。しかし、膜質が異なるため200luxなどの低照度条件では、実施形態による光電変換素子10は一般的な素子より高い変換効率を実現できる。
【0030】
第1キャリア輸送層12と第2キャリア輸送層14は、光電変換層13と第1電極層11または第2電極層15に挟まれている。これらの層は、いずれかが正孔輸送層として機能し、他方が電子輸送層として機能する。なお、第2キャリア輸送層14は、2層以上の積層構造を有することもできる。例えば、光電変換層13と接する側は有機物半導体を含む層であり、電極層15に接する側が金属酸化物を含む層であることができる。
【0031】
電子輸送層は、電子を効率的に輸送する機能を有するものである。キャリア輸送層が電子輸送層として機能する場合、この層はハロゲン化合物または金属酸化物のいずれかを含むことが好ましい。ハロゲン化合物としてはLiF、LiCl、LiBr、LiI、NaF、NaCl、NaBr、NaI、KF、KCl、KBr、KI、またはCsFが好適な例として挙げられる。これらのうち、LiFが特に好ましい。
【0032】
金属酸化物としては。酸化チタン、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化リチウム、酸化カルシウム、酸化セシウム、酸化アルミニウムが好適な例として挙げられる。これらのうち、酸化チタンが好ましい。酸化チタンとしては、ゾルゲル法によりチタンアルコキシドを加水分解することによって得られたアモルファス性酸化チタンが好ましい。
【0033】
電子輸送層には、金属カルシウムなどの無機材料を用いることもできる。
【0034】
電子輸送層の厚さは20nm以下であることが好ましい。これは電子輸送層の膜抵抗を低くし、変換効率を高めることができるからである。一方で、電子輸送層の厚さは5nm以上とすることができる。電子輸送層を設け、一定以上の厚さとすることで、正孔ブロック効果を十分に発揮させることができ、発生した励起子が電子と正孔とを放出する前に失活することを防止することができる。この結果、効率的に電流を取り出すことができる。
【0035】
電子輸送層には、n型有機半導体を用いることができる。n型有機半導体としては、フラーレンおよびその誘導体が好ましいが、特に限定されるものではない。具体的には、C60、C70、C76、C78、C84等を基本骨格として構成される誘導体が挙げられる。フラーレン誘導体は、フラーレン骨格における炭素原子が任意の官能基で修飾されていてもよく、この官能基同士が互いに結合して環を形成していてもよい。フラーレン誘導体には、フラーレン結合ポリマーが含まれる。溶媒に親和性の高い官能基を有し、溶媒への可溶性が高いフラーレン誘導体が好ましい。
【0036】
フラーレン誘導体における官能基としては、例えば、水素原子;水酸基;フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;シアノ基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基、チエニル基、ピリジル基等の芳香族複素環基等が挙げられる。具体的には、C60H36、C70H36等の水素化フラーレン、C60、C70等のオキサイドフラーレン、フラーレン金属錯体等が挙げられる。
【0037】
上述した中でも、フラーレン誘導体として、[60]PCBM([6,6]-フェニルC61酪酸メチルエステル)または[70]PCBM([6,6]-フェニルC71酪酸メチルエステル)を使用することが特に好ましい。
【0038】
また、n型有機半導体として、蒸着で成膜することが可能な低分子化合物を用いることができる。ここでいう低分子化合物とは、数平均分子量Mnと質量平均分子量Mwが一致するものである。いずれかが1万以下である。BCP(bathocuproine)、Bphen(4,7-diphenyl-1,10-phenanthroline)、TpPyPB(1,3,5-tri(p-pyrid-3-yl-phenyl)benzene)、DPPS(diphenyl bis(4-pyridin-3-yl)phenyl)silane)がより好ましい。
【0039】
正孔輸送層は、正孔を効率的に輸送する機能を有するものである。第1キャリア輸送層12または第2キャリア輸送層14が正孔輸送層として機能する場合、この層はp型有機半導体材料やn型有機半導体材料を含むことができる。
【0040】
正孔輸送層の材料としてp形有機半導体を用いることができる。p形有機半導体は、例えば、ドナーユニットとアクセプタユニットからなる共重合体を含むものが好ましい。ドナーユニットとしては、フルオレンやチオフェンなどを用いることができる。アクセプタユニットとしては、ベンゾチアジアゾールなどを用いることができる。具体的には、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリピロールおよびその誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、オリゴチオフェンおよびその誘導体、ポリビニルカルバゾールおよびその誘導体、ポリシランおよびその誘導体、側鎖または主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリンおよびその誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリンおよびその誘導体、ポリフェニレンビニレンおよびその誘導体、ポリチエニレンビニレンおよびその誘導体、ベンゾジチオフェン誘導体、チエノ[3,2-b]チオフェン誘導体等を用いることができる。正孔輸送層には、これらの材料を併用してもよいし、これらの材料を構成する共単量体からなる共重合体を用いてもよい。これらのうちポリチオフェンおよびその誘導体は、優れた立体規則性を有し、また溶媒への溶解性は、比較的高いので好ましい。
【0041】
このほか、正孔輸送層の材料として、カルバゾール、ベンゾチアジアゾールおよびチオフェンを含む共重合体であるポリ[N-9’-ヘプタデカニル-2,7-カルバゾール-アルト-5,5-(4’,7’-ジ-2-チエニル-2’,1’,3’-ベンゾチアジアゾール)](以下、PCDTBT(ということがある)などの誘導体を用いてもよい。さらにベンゾジチオフェン(BDT)誘導体とチエノ[3,2-b]チオフェン誘導体の共重重合体も好ましい。例えばポリ[[4,8-ビス[(2-エチルヘキシル)オキシ]ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン-2,6-ジイル][3-フルオロ-2-[(2-エチルヘキシル)カルボニル]チエノ[3,4-b]チオフェンジイル]](以下PTB7ということがある)、PTB7のアルコキシ基よりも電子供与性が弱いチエニル基を導入したPTB7-Th(PCE10、またはPBDTTT-EFTと呼ばれることもある)等も好ましい。さらに、正孔輸送層の材料として、金属酸化物を用いることもできる。金属酸化物の好適な例としては、酸化チタン、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化リチウム、酸化カルシウム、酸化セシウム、酸化アルミニウムが挙げられる。これらの材料は、安価であるという利点を有する。さらに正孔輸送層の材料として、チオシアン酸銅などのチオシアン酸塩を用いてもよい。また、正孔輸送層として、酸化亜鉛自己組織化単分子膜(SAM)の積層構造とすることがより好ましい。
【0042】
SAMは単体で用いてもよく、[2-(9H-カルバゾール-9-イル)エチル]ホスホン酸(2PACz)、[2-(3,6-ジメトキシ-9H-カルバゾール-9-イル)エチル]ホスホン酸(MeO-2PACz)、[4-(3,6-ジメチル-9H-カルバゾール-9-イル)ブチル]ホスホン酸(Me-4PACz)等のカルバゾール誘導体等が好ましい。
【0043】
また、spiro-OMeTADなどの輸送材料を、これらの半導体材料のドーパントとして使用することができる。ドーパントとしては、酸素、4-tert-ブチルピリジン、リチウム-ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド (Li-TFSI)、アセトニトリル、トリス[2-(1H-ピラゾール-1-イル)ピリジン]コバルト(III)トリス(ヘキサフルオロリン酸)塩(商品名「FK102」で市販)、トリス[2-(1H-ピラゾール-1-イル)ピリミジン]コバルト(III)トリス[ビス(トリスフルオロメチルスルフォニル)イミド](MY11)などを使用できる。
【0044】
次に、図1に示す光電変換素子であるシングル型太陽電池の製造方法を説明する。
【0045】
シングル型太陽電池の製造方法は、第1電極層11と、第1キャリア輸送層12と、光電変換層13と、光電変換層13上に形成された第2キャリア輸送層14(キャリア輸送層)の少なくとも一部または全部と、を含む中間体31を、大気雰囲気中、遮光された状態で、かつ、下記式(1)で表される指標が110以上490以下の範囲となる条件で保管する保管工程を含む。
指標=雰囲気中の水蒸気量(g/m)×保管時間(h) …(1)
【0046】
以下、シングル型太陽電池の製造方法を説明する。
【0047】
先ず、図2に示すように、基板16上に、第1電極層11、第1キャリア輸送層12、光電変換層13および第2キャリア輸送層14を形成する。
【0048】
具体的には、基板16上に、第1電極層11および第1キャリア輸送層12を、例えば、スパッタリング法、CVD法、蒸着法、塗布法などの成膜手段によって形成する。これらの成膜手段は、第1電極層11および第1キャリア輸送層12の材質に応じて適宜選択すればよい。
【0049】
次いで、第1キャリア輸送層12上に、一般式ABXで表されるペロブスカイト化合物よりなる光電変換層13を形成する。光電変換層13は任意の方法により形成させることができる。ただし、コストの観点からは塗布法が有利である。よって、光電変換層13は、塗布法で形成することが好ましい。すなわち、ペロブスカイト構造の前駆体化合物と、この前駆体化合物を溶解し得る有機溶媒とを含む塗布液を、第1キャリア輸送層12の上に塗布して塗膜を形成させる。なお、第1キャリア輸送層12の表面は、ペロブスカイト化合物を形成する塗布液に対して高い濡れ性が得られるように事前の表面処理を行っておくことが好ましい。具体的には、UV-オゾン処理やプラズマ処理が挙げられる。
【0050】
ペロブスカイト構造の前駆体化合物は、AXで表される第1アンモニウムハロゲン化物と、BXで表される金属ハロゲン化物との混合物を例示できる。Aは、Cs、CH、CHNH、CNH、CNHまたはCNHのうちの一種または2種以上のイオンを含み、Bは、PbまたはSnのうちの一種または2種であり、Xは、F、Cl、Br、IまたはAtのうちの一種または2種以上である。
【0051】
塗布液に用いられる溶媒は、例えばN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが用いられる。溶媒は材料を溶解できるものであれば制約されず、混合してもよい。光電変換層13は、ペロブスカイト構造を形成するすべての原材料を1つの溶液に溶解させた単一の塗布液を塗布することで形成することができる。また、ペロブスカイト構造を形成する複数の原材料を個別に、複数の溶液としたものを、複数の塗布液として準備し、それを順次塗布してもよい。塗布には、スピンコーター、スリットコーター、バーコーター、ディップコーターなどを用いることができる。
【0052】
塗布液は、添加剤をさらに含んでいてもよい。このような添加剤としては、1,8-ジヨードオクタン(DIO)、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン(CHP)が好ましい。
【0053】
ペロブスカイト構造の前駆体を含む塗布液を2回以上塗布してもよい。このような場合には、最初の塗布で形成される光電変換層13は、格子不整合層となりやすいので、比較的薄い厚さとなる様に塗布されることが好ましい。2回目以降の塗布の条件は、具体的には、スピンコーターの回転数が相対的に早い、スリットコーターやバーコーターのスリット幅が相対的に狭い、ディップコーターの引き上げ速度が相対的に速い、塗布溶液中の溶質濃度が相対的に薄い等の膜厚を薄くするような条件であることが好ましい。
【0054】
ペロブスカイト構造形成反応の完了後は、溶媒を乾燥させるためにアニールを行うことが好ましい。このアニールは光電変換層13に残存する溶媒を取り除くために行われるため、光電変換層13の上に、次の層、例えば第2キャリア輸送層14を形成する前に行うことが好ましい。アニール温度は50℃以上、さらに好ましくは90℃以上であること、上限は200℃以下、さらに好ましくは150℃以下で実施される。アニール温度が低いと溶媒が十分に除去できないことがあり、アニール温度が高過ぎると、光電変換層13の表面の平滑性が失われることがあるので注意が必要である。
【0055】
次に、光電変換層13の上に、第2キャリア輸送層14を、例えば、スパッタリング法、CVD法、蒸着法、塗布法などの成膜手段によって製造する。これらの成膜手段は、第2キャリア輸送層14の材質に応じて適宜選択すればよい。以上のようにして、第2キャリア輸送層14を含む中間体31を形成する。
【0056】
なお、第2キャリア輸送層14は、異なる材質の材料からなる2層の積層構造とすることができる。この場合、中間体31には、第2キャリア輸送層14のうちの光電変換層13と接する側の層を含むようにしてもよい。
【0057】
次に、保管工程を行う。保管工程は、図3に示すように、第2キャリア輸送層14を含む中間体31を、保管庫Hに収容する。保管庫Hの雰囲気は、水蒸気量が調整された大気雰囲気とされている。そして、第2キャリア輸送層14を含む中間体31を、遮光された状態に置く。遮光とは、環境光や人工光が全く入射しない状態をいう。この状態で、第2キャリア輸送層14を含む中間体31を保管する。遮光状態を維持するためには、保管庫H自体に遮光性を持たせてもよく、保管庫H自体に遮光性はないものの、遮光された空間に保管庫Hを設置することで遮光性を維持してもよい。
【0058】
保管条件は、下記式(1)で表される指標が110以上490以下の範囲となる条件とする。指標が110~490の範囲から外れると、光電変換層13の光電変換特性が低下する。また、保管中に遮光状態が破られて環境光が入射しても、光電変換層13の光電変換特性が低下する。式(1)において、保管時間は、例えば、12~48時間とすることが好ましい。この場合、水蒸気量は1~10(g/m)とすることが好ましい。また、雰囲気温度は、5~70℃の範囲とすることが好ましい。また、シングル型太陽電池の場合、指標が190~270の範囲であると、ばらつきが少ない良好な性能が得られるためより好ましい。
【0059】
指標=雰囲気中の水蒸気量(g/m)×保管時間(h) …(1)
【0060】
指標が式(1)の範囲内であれば、水蒸気量および雰囲気温度は複数組み合わせても良い。すなわち、保管中における雰囲気中の水蒸気量(g/m)は、一定である必要はなく、途中で変化させてもよい。例えば、Hの水蒸気量(g/m)でT(hr)保管したのちに、H2の水蒸気量(g/m)でT(hr)保管してもよい。その場合の指標は、指標=H×T+H2×Tで計算すればよく、これが110~490の範囲になればよい。
【0061】
次に、保管工程が終了したら、中間体31を保管庫から取り出して成膜装置に搬入する。そして、図4に示すように、第2キャリア輸送層14上に透明電極層15aを形成する。透明電極層15aは、例えば、スパッタリング法、CVD法、蒸着法などの成膜手段により行う。これらの成膜手段は、透明電極層15aの材質に応じて適宜選択すればよい。
【0062】
更に、透明電極層15a上に金属電極層15bを形成することで、図1に示すような透明電極層15aおよび金属電極層15bからなる第2電極層15が形成される。以上のようにして、図1に示す光電変換素子10よりなるシングル型太陽電池を製造する。
【0063】
本実施形態のシングル型太陽電池の製造方法によれば、第1電極層11と、第1キャリア輸送層12と、光電変換層13と、光電変換層13上に形成された第2キャリア輸送層14の少なくとも一部または全部と、を含む中間体31を、大気雰囲気中、遮光された状態で、かつ、下記式(1)で表される指標が110以上490以下の範囲となる条件で保管することにより、光電変換層13の光電変換特性を向上できる。
【0064】
光電変換層13(ペロブスカイト層)の成膜直後に保管工程を行うと、水分がペロブスカイト層に過剰に入るため、第2キャリア輸送層14(例えばC60層)の形成後に行うべきである。第2キャリア輸送層14を形成した場合でも、水分は第2キャリア輸送層14を透過してペロブスカイト層に入って行くことができ、ペロブスカイト層に作用して、ペロブスカイトの結晶性が改善して光電変換効率が向上すると考えられる。更に、第2キャリア輸送層14およびペロブスカイト層に水分が入ったことで、次工程との界面状態が変化し、キャリア取出しが改善されるため光電変換効率が向上すると考えられる。
また、透明電極層15aはガスバリア性が高い材料であるため、透明電極層15aを備える状態で保管工程を行うと、水分が透明電極層15aにブロックされてペロブスカイト層に十分に作用しないと考えられる。よって、透明電極層の積層前に保管工程を行うことで、好適に光電変換層13の光電変換率が向上する効果を得られる。
【0065】
(第2の実施形態)
図5に、第2の実施形態の製造方法により製造される光電変換素子の一例を示す。図5に示す光電変換素子よりなるタンデム型太陽電池20は、2つの光電変換層を備えたタンデム型太陽電池とも呼ばれるもので、第1電極層27上に、第1光電変換層26、中間層21、第1キャリア輸送層22、第2光電変換層23、第2キャリア輸送層24、第2電極層25が積層されて構成されている。第1電極層27と第2電極層25は、陽極または陰極となり電気が取り出される。また、第2電極層25は、透明電極層25aと金属電極層25bとから構成されている。第2電極層は、第2光電変換層23の成膜後に成膜される電極層である。
【0066】
第1光電変換層26は、所謂シリコン太陽電池の光電変換層として機能する層である。第1光電変換層26は、第2電極層25側から、透明電極層25a、第2キャリア輸送層24、第2光電変換層23、第1キャリア輸送層22および中間層21を通して入射された光によって励起され、第1電極層27と第2電極層25に電子または正孔を生じさせる。なお、第1光電変換層26と第1電極層27との間、および第1光電変換層26と中間層21との間には、第1光電変換層26に対して正孔または電子を輸送する機能を有する機能層があってもよい。
【0067】
また、第2光電変換層23は、所謂ペロブスカイト太陽電池の光電変換層として機能する層である。第2光電変換層23は、透明電極層25aおよび第2キャリア輸送層24を通して入射した光によって励起され、第1電極層27と第2電極層25に電子または正孔を生じさせる。第1キャリア輸送層22と第2キャリア輸送層24は、第2光電変換層23と二つの電極層27、25との間に存在する層であり、第2光電変換層23に対して正孔または電子を輸送する機能を有する。第2光電変換層23を形成するのに先だって、第1キャリア輸送層22に加えて、またはそれらの代わりに、下地層を形成させておくことができる。
【0068】
以下、図5に示す光電変換素子であるタンデム型太陽電池の構成部材について説明する。
【0069】
第1電極層27は、例えば、金、白金、銀、銅等の金属薄膜であってもよい。第1電極層27の厚みは、例えば、80nm~3μmの範囲がよい。
【0070】
第1光電変換層26は、結晶シリコン層で構成される。第1光電変換層26を構成する結晶シリコンは、一般的に光電池に用いられるシリコンと同様の構成を採用することができる。具体的には、単結晶シリコン、多結晶シリコン、ヘテロ接合型シリコンなどの結晶シリコンを含む結晶シリコンなどが挙げられる。また、結晶シリコン層はシリコンウェハーから切り出した薄膜であってもよい。シリコンウェハーとしては、リンやヒ素などをドープしたn型シリコン結晶、ホウ素やガリウムなどをドーピングしたp型シリコン結晶も使用できる。p型シリコン結晶中の電子は長い拡散長を有しているので、結晶シリコンとしてはp型の結晶シリコンが好ましい。第1光電変換層26の厚みは、例えば、80~500μmの範囲がよく、120~300μmがより好ましい。
【0071】
中間層21は、第1光電変換層26と第2光電変換層23とを隔絶しながら電気的に連結し、かつ第2光電変換層23で吸収されなかった光を第1光電変換層26に導く機能を有する。このような機能を発揮するため、中間層21は、例えば、導電性の金属酸化物膜であることが好ましく、より具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、およびそれらの複合体であるインジウム・スズ・オキサイド(ITO)、インジウム・亜鉛・オキサイド(IZO)等が用いられる。このような金属酸化物からなる中間層21は、一般に知られている方法で形成させることができる。具体的には、スパッタリングにより形成できる。中間層21の厚みは、例えば、80~250nmの範囲がよい。
【0072】
第1キャリア輸送層22、第2光電変換層23、第2キャリア輸送層24、透明電極層25aおよび金属電極層25bは、それぞれ、第1の実施形態で説明した第1キャリア輸送層12、光電変換層13、第2キャリア輸送層14、透明電極層15aおよび金属電極層15bと同じ構成のものでよい。すわなち、第2光電変換層23は、ABXで表されるペロブスカイト化合物よりなる層であればよい。
【0073】
次に、図5に示す光電変換素子であるタンデム型太陽電池の製造方法を説明する。
【0074】
図5に示すタンデム型太陽電池の製造方法は、第1電極層27と、第1光電変換層26と、中間層21と、第1キャリア輸送層22と、第2光電変換層23と、第2キャリア輸送層24の少なくとも一部または全部と、を含む中間体41を、大気雰囲気中、遮光された状態で、かつ、下記式(1)で表される指標が110以上490以下の範囲となる条件で保管する保管工程を少なくとも含む。なお、タンデム型太陽電池の場合、指標が170~270の範囲であるとばらつきが少ない良好な性能が得られるためより好ましい。
【0075】
すなわち、先ず、図6に示すように、第1電極層27、第1光電変換層26、中間層21、第1キャリア輸送層22、第2光電変換層23および第2キャリア輸送層24を形成する。
【0076】
具体的には、第1電極層27、第1光電変換層26および中間層21を備えた積層体の上に、第1キャリア輸送層22を、例えば、スパッタリング法、CVD法、蒸着法、塗布法などの成膜手段によって形成する。これらの成膜手段は、第1キャリア輸送層22の材質に応じて適宜選択すればよい。
【0077】
次いで、第1実施形態の第1の製造例の場合と同様にして、第1キャリア輸送層22上に、一般式ABXで表されるペロブスカイト化合物よりなる第2光電変換層23を塗布法により形成し、更に、第2光電変換層23の上に、第2キャリア輸送層24を、例えば、スパッタリング法、CVD法、蒸着法、塗布法などの成膜手段によって製造する。これらの成膜手段は、第2キャリア輸送層24の材質に応じて適宜選択する。以上のようにして、第2キャリア輸送層24を含む中間体41を形成する。
【0078】
次に、保管工程を行う。保管工程は、図7に示すように、第2キャリア輸送層24を含む中間体41を、保管庫Hに収容する。保管庫Hは、大気雰囲気で満たされている。そして、第2キャリア輸送層24を含む中間体41を、遮光された状態に置く。遮光とは、環境光や人工光が全く入射しない状態をいう。この状態で、第2キャリア輸送層24を含む中間体41を保管する。保管条件は、大気雰囲気中、遮光された状態で、かつ、下記式(1)で表される指標が110以上490以下の範囲となる条件とする。遮光状態を維持するためには、保管庫H自体に遮光性を持たせてもよく、保管庫H自体に遮光性はないものの、遮光された空間に保管庫Hを設置することで遮光性を維持してもよい。指標の限定理由、および遮光状態にて保管する理由は、第1の実施形態の場合と同様である。
【0079】
次に、保管工程が終了したら、中間体41を保管庫から取り出して成膜装置に搬入する。そして、図8に示すように、第2キャリア輸送層24上に透明電極層25aを形成する。透明電極層25aは、例えば、スパッタリング法、CVD法、蒸着法などの成膜手段により行う。これらの成膜手段は、透明電極層25aの材質に応じて適宜選択すればよい。
【0080】
更に、透明電極層25a上に金属電極層25bを形成することで、図5に示すような、透明電極層25aおよび金属電極層25bからなる第2電極層25が形成される。以上のようにして、図5に示すタンデム型太陽電池20を製造する。
【0081】
タンデム型太陽電池の製造方法によれば、第2光電変換層23の上にキャリア輸送層24を形成した後に、キャリア輸送層24を含む中間体41を、大気雰囲気中、遮光された状態で、かつ、下記式(1)で表される指標が110以上490以下の範囲となる条件で保管することにより、第2光電変換層23の光電変換特性を向上できる。
【実施例
【0082】
(シングル型太陽電池の中間体1の製造)
図2に示すように、厚さ1.1mmのガラス製の基板16上に、スパッタリング法により厚さ100nmのITOよりなる第1電極層、塗布法により極薄のカルバゾールを含む共重合体よりなる第1キャリア輸送層、塗布法によりABXで表されるペロブスカイト化合物よりなる厚さ600nmの光電変換層、真空蒸着法により厚さ20nmのフラーレンC60よりなる第2キャリア輸送層の一部、を順次形成した。ペロブスカイト化合物において、AはCs、FA、MAとし、BはPbとし、XはI、Brとした。このようにしてシングル型太陽電池の中間体1を製造した。
【0083】
(タンデム型太陽電池の中間体2の製造)
図6に示すように、第1電極層は銀とし、厚さ300μmの単結晶シリコン太陽電池(第1光電変換層)の上面にスパッタリング法により厚さ100nmのITOよりなる中間層、塗布法により極薄のカルバゾールを含む共重合体よりなる第1キャリア輸送層、塗布法によりABXで表されるペロブスカイト化合物よりなる厚さ600nmの第2光電変換層、真空蒸着法により厚さ20nmのフラーレンC60よりなる第2キャリア輸送層を順次形成した。ペロブスカイト化合物において、AはCs、FA、MAとし、BはPbとし、XはI、Brとした。このようにしてタンデム型太陽電池の中間体2を製造した。
【0084】
(シングル型太陽電池の中間体3(比較例)の製造)
また、比較例として、保管工程を行わなかったこと以外は中間体2と同様にして、中間体3を製造した。
【0085】
中間体1~3を製造する際であって、塗布法によりABXで表されるペロブスカイト化合物を形成する際は、塗布液に用いられる溶媒としてDMFとDMSOを用いた。塗布液は、AXおよびBXを含む単一の塗布液とした。塗布手段は、スピンコーターを用いた。ペロブスカイト構造形成反応の完了後、溶媒を乾燥させるために、アニールを100℃、10分時間の条件で行った。
【0086】
次に、保管工程として、中間体1および2を、保管庫に収容して遮光された状態に置いた。この状態で、中間体1および2を保管した。保管庫の雰囲気は水蒸気濃度を調整した大気雰囲気とした。保管条件は表1の通りとした。
【0087】
保管工程終了後、中間体1については、フラーレンC60の上に蒸着法により厚さ5nmのBCPを形成して第2キャリア輸送層とし、その上に蒸着法により厚さ2μmの銀よりなる金属電極層(第2電極層)を形成して、シングル型太陽電池とした。
更に、中間体2については、第2キャリア輸送層の上に、原子層堆積法により厚さ20nmのスズ酸化物とスパッタリング法により厚さ100nmのITOよりなる透明電極層および蒸着法により厚さ1μmの銀よりなる金属電極層(第2電極層)を順次形成して、タンデム型太陽電池とした。
【0088】
得られた太陽電池それぞれについて、光電変換層の光電変換率を測定した。光電変換率の測定は、第1電極層および第2電極層にプローブピンを当て、ソーラーシミュレータにより電流電圧特性を測定した。電流電圧特性の測定は、短絡電流側からの電圧掃引と開放電圧側からの電圧掃引の2条件行った。ソーラーシミュレータは、シングル型太陽電池の場合はキセノンランプの1光源、タンデム型太陽電池の場合はキセノンランプとハロゲンランプの2光源を用いた。光源は、波長AM1.5Gで、受光面に当たる光強度が1SUN(100W/cm)となるよう調整した。
【0089】
保管工程を経た中間体1、2よりなる太陽電池の光電変換効率が、中間体3よりなる太陽電池の光電変換効率よりも1ポイント以上増加した場合を合格とした。結果を表に示す。
【0090】
なお、タンデム型太陽電池は、2つの光電変換層を備えるため、比較対象としたシングル型太陽電池(中間体3から製造された太陽電池)に対して、単結晶シリコンよりなる第1光電変換層の分だけ出力が大きく、そのままでは光電変換率の比較を適切に行うことができない。
【0091】
そこで、光電変換効率の比較にあたり、中間体2から製造したタンデム型太陽電池について、ペロブスカイト層の光電変換効率と、シリコン層の光電変換効率とを分離した。そして、表1には、ペロブスカイト層の光電変換率を記載した。
【0092】
タンデム型太陽電池において、ペロブスカイト層の光電変換効率と、シリコン層の光電変換効率とを分離する処理は、次のようにして行った。
タンデム太陽電池におけるシリコン層の光電変換効率を、次のようにして計算した。
【0093】
シリコン層の変換効率(%)=タンデム太陽電池の短絡電流密度Jsc×タンデム太陽電池におけるシリコン層の開放電圧Voc×シリコン層単独の場合の曲線因子FF
【0094】
そして、タンデム太陽電池の変換効率から、上記式で求めたシリコン層の変換効率を差し引いたものを、タンデム太陽電池におけるペロブスカイト層の光電変換効率とした。
【0095】
なお、本実施例では、タンデム太陽電池の外部量子効率を測定する時に印加する想定のボトムセル(シリコン層)の開放電圧Vocの値を計算に用いた。また、シリコン層単独の場合の曲線因子FFは、シリコン層をタンデム太陽電池に組み込んだ場合でも、曲線因子FFが変化しないとの想定で計算に用いた。
【0096】
【表1】
【0097】
表1に示すように、本実施形態の保管条件を満たすNo.3~11は、光電変換効率に優れていた。
【0098】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、第1電極層と、光電変換層と、光電変換層上に形成されたキャリア輸送層の少なくとも一部または全部と、を含む中間体を、大気雰囲気中、遮光された状態で、かつ、下記式(1)で表される指標が110以上490以下の範囲となる条件で保管する保管工程を含むので、ペロブスカイト化合物よりなる光電変換層の光電変換率を、向上することができる。
【0099】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0100】
10…光電変換素子(シングル型太陽電池)、11、27…第1電極層、12、22…第1キャリア輸送層、13…光電変換層、14、24第2キャリア輸送層、15、25…第2電極層、15a、25a…透明電極層、15b、25b…金属電極層、16…基板、20…タンデム型太陽電池、21…中間層、23…第2光電変換層、26…第1光電変換層、31、32、41…中間体、H…保管庫。
【要約】      (修正有)
【課題】ペロブスカイト層よりなる光電変換層の光電変換効率を向上させることが可能な、光電変換素子の製造方法およびタンデム型太陽電池の製造方法を提供する。
【解決手段】実施形態の光電変換素子の製造方法は、少なくとも、第1電極層と、一般式ABXで表されるペロブスカイト化合物を含む光電変換層と、キャリア輸送層と、第2電極層とがこの順に配置されている光電変換素子の製造方法であり、保管工程をもつ。保管工程は、前記第1電極層と、前記光電変換層と、前記光電変換層上に形成された前記キャリア輸送層の少なくとも一部または全部と、を含む中間体を、大気雰囲気中、遮光された状態で、かつ、下記式(1)で表される指標が110以上490以下の範囲となる条件で保管する工程である。
指標=雰囲気中の水蒸気量(g/m)×保管時間(h)…(1)
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8