(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】湧昇ポンプ
(51)【国際特許分類】
F03B 13/14 20060101AFI20240604BHJP
F04B 19/00 20060101ALI20240604BHJP
F04B 17/00 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
F03B13/14
F04B19/00
F04B17/00 B
(21)【出願番号】P 2020097383
(22)【出願日】2020-06-04
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】597033889
【氏名又は名称】藤本 治生
(72)【発明者】
【氏名】藤本 治生
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】実開昭52-086007(JP,U)
【文献】登録実用新案第3116094(JP,U)
【文献】実開平07-014533(JP,U)
【文献】特開昭53-117146(JP,A)
【文献】実開昭55-012369(JP,U)
【文献】特開昭61-265360(JP,A)
【文献】特開平11-230020(JP,A)
【文献】特開2009-046973(JP,A)
【文献】特開2000-104653(JP,A)
【文献】特開2011-256718(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0294945(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0175728(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 13/00-13/26
F03B 17/00-17/06
F04B 17/00
F04B 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面にある浮体(5)に弁体(1)と湧昇管(2)からなる湧昇ポンプをロープからなる連結体(4)で水中に吊るす構造であって、湧昇管(2)の上側の開口部は斜めに切断され前記弁体(1)は湧昇管(2)の外縁全てまたは一部が前記湧昇管(2)外径より大きい逆止弁である事を特徴とする湧昇ポンプ。
【請求項2】
請求項1の湧昇ポンプの弁体(1)が左右非対称である事を特徴とする湧昇ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は風力、波力、潮力等の自然エネルギーにより底層の海水(または淡水)を表層部に汲み上げたり、反対に表層水を底層に送る事も出来る送水ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで湧昇流の発生には海底へのベンチュリ管水圧による湧昇したり、海底に設置したブロック等の構造物設置による潮流湧昇、太陽電池を利用したインペラー式ポンプでの送水湧昇、泡を用いたエアーリフト湧昇、排水による海底水加熱による水膨張型湧昇装置等であった。
しかし、いずれも管理の簡易性、経済性、強度・耐久性、周辺環境への影響等の課題がありいずれも実用化には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-306016(P2002-306016A)
【文献】特開2003-239266(P2003-239266A)
【文献】特開昭59-106239
【文献】特開昭63-222631
【文献】特開平6-167203
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
波動による多様な浮体の浮き沈み上下運動により駆動し、構造が単純で海洋での使用に耐えうる強度、耐久性を有し、洋上風力発電用巨大浮体構造物から養殖イカダ、航路ブイ、停泊中の小型漁船に至る既設浮体に吊るすだけで利用可能な簡易かつ安価な湧昇ポンプの提供である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は
図1に示すように波動により上下運動を繰り返す水面上の浮体5、連結体4、湧昇管2、および弁体1から構造される。弁体は湧昇管の外径より大きくする事により、湧昇管の外側の水流圧を弁体の開閉に利用し出来、その結果、浮体の僅かな上下動を弁体の開閉運動に変換できる。
【0006】
弁体の開閉周期を短くする為、弁体が閉じる方向に重力、磁力または弾性体、バネなどを利用した。
【0007】
図1に示すように水面にある浮体5と弁体1と湧昇管2からなる湧昇ポンプをワイヤー、ロープ(ゴムなどの弾性ロープを含む)、剛体(連結棒)等からなる連結体4で水中に吊るす。
風、波、潮流により浮体に生じる上下方向の運動が
図2で示す様に湧昇作用をもたらし、設置した海域、湖沼における鉛直方向の水循環を生じる。
【0008】
新たに浮体を用意する事も出来るが、停泊中の船舶、航路ブイ、養魚・養殖用イカダ等の既設浮体を援用する事も出来る。
【0009】
例えば、浮体式洋上風力発電と連結した場合、底層水の湧昇と同時に風車の風邪方向の揺れによるドップラー効果を低減し周波数変動低減する。
【発明の効果】
【0010】
下層、深層水中の栄養塩を光が当たる有光層(水深80mより浅い海底まで)に湧昇する事が出出来、植物プランクトンの発生を促し、陸上における植林と同様のCO2回収効果をもたらす。
【0011】
底層から湧昇された水はCO2、炭酸イオン等を吸収ポテンシャルが高く、大気中のガス体CO2の取り込み量を増やす事が出来る。
【0012】
植物プランクトンの増殖は食物連鎖の底辺を活性化し、周辺に高次元の生態系を構築する。
【0013】
本発明の湧昇ポンプを沿岸域に大量敷設する事により、表層水温の平準化をもたらし、夏涼しく、冬暖かい沿岸域環境を生み出す。夏の高温化の時期であれば表層水を冷却し、水蒸気供給量を低減し結果台風の大型化抑制に一定の効果をもたらすと期待できる。
【0014】
本発明の湧昇ポンプをのり、カキ、ホタテ、ホヤ等の養殖場に敷設する事により、底層に沈降した金属イオン、養分塩類の再循環を促し、養殖海産物の成長促進効果がある。
【0015】
本発明の湧昇ポンプを琵琶湖の様に全層循環停止(または不全)の湖沼の低層付近に設置する事で底層から上層への水流ベクトルを生じ、結果、底層域の貧酸素状態の改善をもたらし、結果として水質改善と漁業資源の回復効果をもたらす。
【0016】
海水へのCO2取り込み量は水温が低いほど溶存しやすい。より低温の湧昇水を表層に汲み上げる事は水温低下の観点からもCO2吸収ポテンシャルを高める効果が期待できる。
【0017】
図5に示す様に湧昇管と湧昇管の間にホースを入れる事により、全体の長さを増し、資源価値のある海洋深層水のくみ上げを行う事が出来る。
【0018】
また、低温の深層水と高温表層水との間で温度差発電、濃度差発電等の新たな発電ポテンシャルを生じる効果がある。
【0019】
一般的に大型となる洋上風力発電浮体の周縁部にはワイヤー等で牽引可能な大型湧昇ポンプの取付けが十分可能であり、栄養塩類を含む大量の底層水の有光層への汲み上げによる植物プランクトンの大量発生による漁礁効果が生じる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
洋上風力発電用の浮体に取り付けた場合、アンカーだけでは回避し得ない揺れ低減装置としての効果を生ずる。同時に風車の揺れ低減は発電周波数の変動を低減できる機器。
【実施例】
【0021】
湧昇管は円筒、角柱を問ないが上下水道、排水などに用いられる塩ビ管(VP,VU管等)汎用品を用いる事が出来る。これらの管は汎用品とし普及、規格化され継手等の部品も充実している。
【0022】
実施場所に応じVU60からVU200(内径200mm)の塩ビ管を湧昇管として用いるがこの場合、弁体には各サイズの継手部品を改良し製作した。
【0023】
深層からの湧昇に於いては
図5に示すように途中にホース管を挿入し、重量、連結手間、コスト等を押さえる事が出来る。
【0024】
弁体は逆止弁として利用する事になるが一般的な逆止弁はパイプ内側に収納されている。
この様な逆止弁の場合、弁体の開閉に関わる力は湧昇管内部の流体の運動エネルギーのみとなる。しかし、湖上や海上での長周期のうねりでは弁の開閉が十分行えない事が実験により判明した。試行を重ねたところ、逆止弁の弁板を湧昇管からはみ出すサイズとし当該湧昇管の外側を流れる水流圧を弁体にプラスする事でこの問題を解決した。
図1はこの様な弁体の開閉状況を表す。
【0025】
図1に示す様に浮体が風力、波力により浮かび上がると湧昇管が水面方向に上昇、逆止弁1は閉じ密閉され湧昇管内の水塊全体が上に引き上げられる。次に底層方向に下がるサイクルでは逆止弁は湧昇管内部を下から上へと流れる押上げ圧力と湧昇管外縁部より弁板のはみ出した面に下から上へ向かう流水圧力により弁体が開き湧昇水が上部開口から排出される。
図2は浮体の上下運動と弁体の位置、湧昇流の状況を示す。
【0026】
弁体の開閉は蝶番3に起点とし開閉するが、何らかの状況で弁体が開きすぎる状態となる場合がある。弁体が開きすぎると弁体が閉じるべきサイクルで閉じなり結果、湧昇不能となる。この様な過開口状況の発生は想定外の物理的負荷を生み、弁体の破損リスクが生じる。対策として通常の弁体1の上に弾性弁体11を弾性弁体固定具12等で固定し、弾性力を調整する事が出来る弾性弁体強度調整具13等を新たに設け過開を防止した。
【0027】
連結体4と湧昇ポンプを繋ぐロープ取付け具14は底層から水と共に押し上げられてくる固形物、ゴミ等のつまりを考慮し、弁体の開口と反対の
図4が示す位置に設けた。
【0028】
図3に示す斜断面を持つ湧昇管10は湧昇水排水の為の弁体可動域を小さくし、同時に湧昇ポンプ全体が上下運動する際の水圧抵抗を減じる事が出来る。
【0029】
また、斜め斜断面を持つ湧昇管に於いては蝶番付近での流体の流れもスムーズとなり底層から引き上げられるゴミ等の滞留やつまりを防止出来る。
【0030】
湧昇プンプには海藻類をはじめプラスティックゴミ等の様々な固形物の通過が予想される。その為、湧昇管内面はもとより弁体部には突起物を出さない組立構造とした。
【0031】
弁体には強度、弾性力のあるポリカーボネート2mm厚板を利用した。VU200等、大口径の弁体には複数枚のポリカーボネート板をシリコーン材で張り合わせる事で強度や柔軟性を持たせる事が出来た。
【0032】
海洋での藻類、貝等の付着や毒性プランクトン、菌類が問題になる場合、銅板等の抗菌・殺菌作用のある金属板を前記ポリカーボネート板に張り合わせ利用出来る。
【0033】
弁体が閉じた際の湧昇管との気密性を高める為、湧昇管と弁体の接合部にシリコーン材によるパッキング処理を施した。
【0034】
弁体の浮力が小さすぎると振幅の小さな浮体の揺れに対し、弁体が完全に閉じない。この課題を解決する為、弁体の任意の場所に後付の重りを取付けるかバネ等の弾性力を用い弁体閉力の強化を行った。
【0035】
図4の弁体固定具12は上部にボルト、ナット方式調整による遊びを持たせた。また、必要に応じてナット等の重りを後付で付加できる構造とした。
【0036】
弁体に掛かる開閉力特性は弁体が湧昇管の外縁からはみ出す大きさ、弁体の質量、弁体に作用する弾性弁体の弾性力等に律されるがその最適解は実施場所や季節等により異なる。
【0037】
外洋で生じる様な大きなうねりの場合、弁体が開口する際、開きすぎると湧昇ポンプ全体が上方に引き上げられるサイクルで弁体が閉じず湧昇しない状況を生じる。この様な状況を防ぐ為、過開口ストッパーが必要となる。弁体の上に弾性弁体11を設け、その弾性力を弾性弁体強度調整具13等は過開口防止の1手段である。
【0038】
弁体の過開口防止手段としてはこの他、蝶番に作用する夾雑体(図示せず)や弁体の開口域調整ロープなど様々な手段が考えられる。
【0039】
塩ビ管を用いる場合、湧昇プンプ全体の重さは口径と長さによって求められる。湧昇ポンプの重さに対し、浮体の浮力が十分でない場合、鉛直上方への引き上げが十分行われない。“浮力<水中での湧昇ポンプの重さ”は想定しない。
【0040】
図5に示すように湧昇管の途中を軽量のホース(潰れてフラットになる排水ホース等)を入れる事で全体の重さを低減し、波が浮体を持ち上げる際の力学ロスを低減する事が出来る。
【0041】
前項の事例を含め、湧昇ポンプの重心は下にある方が湧昇プンプ全体の動きが安定し、より深い水深からの湧昇を可能とする。
【0042】
前項の目的に於いて湧昇管側面の長手方向に矢尻の様な平板(図示せず)を持たせることでより安定した上下方向の運動指向性を高める事が出来る。
【0043】
湧昇管の長さは設置目的により異なるがVU125の4m長の湧昇ポンプであればカキ、ホタテ、のり等の養殖場周辺浮体に干潮時に湧昇管下部が改定に当たらない程度の推進に吊るし、底層の栄養塩を含む海水を上方に押し上げる事が出来る。
【0044】
また、海洋深層水の湧昇を目的とする場合、VP塩ビ管用ジョイントを用いて軽量なVU管を複数本連結し、より大きな浮体にて湧昇する事も可能である。
【0045】
図5に示すように湧昇管の途中に
図5に示す様にホース管を入れる事でパイプの接続作業軽減と軽量化を計る事が出来、より深い水深からの湧昇を可能とする。
【0046】
連結体はロープの様なモノを用いた場合、浮体との湧昇ポンプの上下方向位相差により、ゆるみ、たわみ等のロスが生まれる可能性があるが多様な浮体への取り付けが容易である。
【0047】
連結体に弾性特性のあるゴム、バネの様なモノを用いる事で波の状況に応じ湧昇ポンプの上下運動に於いて共振現象をもたらし、上下方向の変位を増す事が出来る。
【0048】
連結体が棒状剛体の場合、浮体の上下何れ動きも湧昇ポンプに同期し伝えられる。しかし、波浪等による破損リスクは生じる。
【0049】
一般的に港には着岸中の船舶以外、沖合で一定期間停泊している船舶もある。この様な船舶周縁部(特に船首、船尾付近)への湧昇ポンプ吊り下げれば停泊中の湧昇効果で港湾全体の水循環が促進される。
【0050】
一方、沿岸部、港湾部に存在する航路ブイから吊るす事、新たな浮体を設ける事無く前項同様の効果が期待できる。
【0051】
湧昇ポンプが下降した際、湧昇管の最下部が海底(又は湖底)に接する様にし、底泥、砂等を汲み上げる事が出来る。この場合、海底(又は湖底)に当たる部分に金属製の補強用アタッチメントを付けると長期間に渡る衝撃に耐える事が出来る。
【0052】
この様な利用法はエネルギーを必要としない浚渫作用をもたらすし、同時に栄養塩の広域拡散、ヘドロ等の堆積物の嫌気性分解による温室効果の高いメタンガス、魚介類に有害な硫化水素の発生を押さえる事が出来る。
【0053】
底泥中有機物(ヘドロ等)の好気的分解はCO2発生を伴うが、これを上回る温室効果ガスであるメタンガスと有害な硫化水素の生成を抑制し、海藻、魚介類等の生態系の回復をもたらす。
【0054】
前項の様な浚渫的な利用を行う場合、湧昇管最下部を金属製にする事で上総掘りの井戸堀櫓と同じような機能を発揮できる。海底に穴を掘り底泥為とし、周辺から流れ込む栄養分の拡散元とする。
【0055】
また、弁体の付いた湧昇管の最下部下を柔軟性のあるホース管を付けより深い水深からの湧昇を可能とする事も出来る。この場合、ホース管への送水を安定させる為、
図5に示すようにホース管下部に別の湧昇管を取り付ける。
【0056】
本発明の湧昇プンプは同じ水深に平面的に多数敷設する事も出来るが、海底に向け垂らした1本のロープの任意の水深に任意のあ数だけ直列に取付ける事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】浮体の上下運動に伴う湧昇管と弁体の動きから湧昇原理を示す概念図である。
【
図2】複数の湧昇ポンプを浮体に吊るした際の湧昇状況を示す概念図である。
【
図3】斜めに切断した湧昇管に於ける弁体の開閉状況を示す概念図である。
【
図4】弁体上に弾性力のある弾性弁体と弾性弁体強度調整具を付加した状態を示す概念図である。
【
図5】上部湧昇管と下部湧昇管の間にホースを入れた状況を示す概念図である。
【符号の説明】
【0058】
1弁体
2湧昇管
3蝶番
4連結体
5浮体
6湧昇管移動方向
7流水抵抗
8浮体両端の上下移動方向
9湧昇流
10斜断面をもつ湧昇管
11弾性弁体
12弾性弁体固定具
13弾性弁体強度調整具
14ロープ取付け具
15ホース管