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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】車両のフロントサスペンション装置
(51)【国際特許分類】
   B60G 7/00 20060101AFI20240604BHJP
   B62D 21/00 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
B60G7/00
B62D21/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019159400
(22)【出願日】2019-09-02
(65)【公開番号】P2021037806
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100182888
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100196357
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 吉章
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昇平
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼田 隆志
(72)【発明者】
【氏名】内場 友貴
(72)【発明者】
【氏名】佐野 晋
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-158200(JP,A)
【文献】特開2011-178311(JP,A)
【文献】国際公開第2015/155890(WO,A1)
【文献】特開平08-067120(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0272911(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第10338625(DE,A1)
【文献】特開2011-178335(JP,A)
【文献】特開2004-322877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 7/00
B62D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロントサスペンション装置であって、
サブフレームと、
外端に前輪が軸支され、かつ、内端が上記サブフレームに対して軸支されるサスペンションアームと、を備え、
上記サスペンションアームの前輪軸支部よりも後方側に上記サブフレームを車体に対して下方から締結具を介して取付けるサブフレーム取付け部を備え、
上記サスペンションアームに、前輪を介してサスペンションアーム前突荷重が入力された時、当該サスペンションアームを上方に曲げる上方曲げ誘起部を備え、
上記サスペンションアームは、上記サブフレームに対する前側軸支部および上記前輪軸支部よりも後方に位置する後側軸支部を備えたロアアームであり、
上記上方曲げ誘起部が、車両側面視における上記ロアアームの上方湾曲部にて形成され、
上記上方湾曲部は、前輪を介して上記ロアアームに入力される衝突荷重の入力点に対し、上記前輪軸支部と上記後側軸支部との間の位置から図心が上方へオフセットし、その上方へのオフセット量が、上記間の位置よりも後方に位置する上記サブフレーム取付け部まで確保されるように上方へ湾曲していることを特徴とする
車両のフロントサスペンション装置。
【請求項2】
上記ロアアームの上記上方湾曲部の下壁部に凹部が設けられ、
上記凹部は、後方に向けて車幅方向に広く形成され、後縁部が前縁部よりも車幅方向に広く形成された
請求項1に記載の車両のフロントサスペンション装置。
【請求項3】
上記凹部の上記後縁部は、上記サスペンションアームの上記後側軸支部を支持する後側支持部の前縁部と車両前後方向に略一致する部位に形成された
請求項2に記載の車両のフロントサスペンション装置。
【請求項4】
上記ロアアームは、下方が開放した上部材と、上方が開放した下部材とから構成され、
上記下部材の剛性を上記上部材の剛性に対し低下させた
請求項1~3の何れか一項に記載の車両のフロントサスペンション装置。
【請求項5】
上記ロアアームのサブフレームに対する後側軸支部と、サブフレームの車体に対するサブフレーム取付け部とを兼用させた
請求項1~4の何れか一項に記載の車両のフロントサスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両のフロントサスペンション装置に関し、詳しくは、外端に前輪が軸支され、かつ、内端がサブフレームに対して軸支されるサスペンションアームと、を備え、サスペンションアームの前輪軸支部よりも後方側にサブフレームを車体に対して下方から締結具を介して取付けるサブフレーム取付け部を備えた車両のフロントサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フロントサスペンション装置において、サスペンションアームとしてのロアアームを閉断面化すると、パワートレインユニット以外に高重量物、例えば、高電圧バッテリを搭載する高車重の電気自動車であっても、高い支持剛性を実現できることが知られている。
【0003】
この場合、特許文献1に開示されたように、ロアアームの上面部に車幅方向に延びる凹部を形成すると、ロアアームに衝突荷重が作用した時、当該凹部を起点とするロアアームの変形により、衝突エネルギを吸収することができる。
【0004】
しかしながら、特許文献1の構造では、上記凹部を起点としてロアアームが下向きに曲がる。これにより後側の車体取付け部には、下向きの力が作用し、車体取付け部が車体から外れる懸念がある。
車体取付け部が車体から外れた際には、サブフレームの後退量が増加し、サブフレーム上のスタビライザがトーボードに干渉して、トーボードが後退するので、この点において改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-67120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明は、サスペンションアームに衝突荷重が作用した際、その後方側のサブフレーム取付け部の車体からの外れを招くことなく、衝突荷重エネルギを吸収することができる車両のフロントサスペンション装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による車両のフロントサスペンション装置は、サブフレームと、外端に前輪が軸支され、かつ、内端が上記サブフレームに対して軸支されるサスペンションアームと、を備え、上記サスペンションアームの前輪軸支部よりも後方側に上記サブフレームを車体に対して下方から締結具を介して取付けるサブフレーム取付け部を備え、上記サスペンションアームに、前輪を介してサスペンションアーム前突荷重が入力された時、当該サスペンションアームを上方に曲げる上方曲げ誘起部を備え、上記サスペンションアームは、上記サブフレームに対する前側軸支部および上記前輪軸支部よりも後方に位置する後側軸支部を備えたロアアームであり、上記上方曲げ誘起部が、車両側面視における上記ロアアームの上方湾曲部にて形成され、上記上方湾曲部は、前輪を介して上記ロアアームに入力される衝突荷重の入力点に対し、上記前輪軸支部と上記後側軸支部との間の位置から図心が上方へオフセットし、その上方へのオフセット量が、上記間の位置よりも後方に位置する上記サブフレーム取付け部まで確保されるように上方へ湾曲していることを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、サスペンションアームに前輪を介して前突荷重が作用した時、サスペンションアームは上方曲げ誘起部により上向きに曲がる。これにより、サスペンションアームのサブフレーム取付け部には、抜け抗力が生じるので、サブフレーム取付け部の車体からの外れを招くことなく、衝突荷重エネルギを吸収することができる。
【0009】
また上述したように、上述の上方曲げ誘起部が形成されているので、衝突荷重の約6割が前輪を介してロアアームに作用する斜め方向衝突時(例えばオブリーク衝突時)に対して好適となる。つまり、斜め衝突時の荷重を、上方曲げ誘起部の上方への曲げ変形により吸収し、後側軸支部が車体から外れる量を低減することができる。
【0010】
また上述したように、上記上方曲げ誘起部が、車両側面視におけるロアアームの上方湾曲部にて形成されたものであるため、前輪を介してロアアームに入力される衝突荷重の入力点に対し、上方湾曲部の図心が上方へオフセットする量を充分に確保することができ、これにより、上方曲げ誘起部の全体が曲がり、エネルギ吸収量が大きくなり、後側軸支部への入力が低減する。
【0011】
この発明の一実施態様においては、上記ロアアームの上記上方湾曲部の下壁部に凹部が設けられ、上記凹部は、後方に向けて車幅方向に広く形成され、後縁部が前縁部よりも車幅方向に広く形成されたものである。
【0012】
上記構成によれば、下壁部に設けた上記凹部が、上方曲げ誘起の折れ切っ掛けとして作用するので、上方曲げ誘起の安定性を確保することができ、延いては、衝突エネルギ吸収の安定性を確保することができる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、上記凹部の上記後縁部は、上記サスペンションアームの上記後側軸支部を支持する後側支持部の前縁部と車両前後方向に略一致する部位に形成されたものである。
【0014】
この発明の一実施態様においては、上記ロアアームは、下方が開放した上部材と、上方が開放した下部材とから構成され、上記下部材の剛性を上記上部材の剛性に対し低下させたものである。
上記構成によれば、前突荷重入力時におけるロアアームの上方曲げ変形の安定性を確保することができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、上記ロアアームのサブフレームに対する後側軸支部と、サブフレームの車体に対するサブフレーム取付け部とを兼用させたものである。
上記構成によれば、上述の後側軸支部とサブフレーム取付け部との兼用により、サスペンション装置の簡略化を図ることができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、サスペンションアームに衝突荷重が作用した際、その後方側のサブフレーム取付け部の車体からの外れを招くことなく、衝突荷重エネルギを吸収することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の車両のフロントサスペンション装置を示す車両左側の平面図
図2図1の要部拡大平面図
図3図2のA-A線矢視断面図
図4図3の要部拡大図
図5】ロアアームの平面図
図6】ロアアームの底面図
図7】ロアアームの側面図
図8】比較例のロアアームを示す側面図
図9】車両衝突時の作用を説明するための平面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
サスペンションアームに衝突荷重が作用した際、その後方側のサブフレーム取付け部の車体からの外れ量を低減し、衝突荷重エネルギを吸収するという目的を、サブフレームと、外端に前輪が軸支され、かつ、内端が上記サブフレームに対して軸支されるサスペンションアームと、を備え、上記サスペンションアームの前輪軸支部よりも後方側に上記サブフレームを車体に対して下方から締結具を介して取付けるサブフレーム取付け部を備え、上記サスペンションアームに、前輪を介してサスペンションアーム前突荷重が入力された時、当該サスペンションアームを上方に曲げる上方曲げ誘起部を備え、上記サスペンションアームは、上記サブフレームに対する前側軸支部および上記前輪軸支部よりも後方に位置する後側軸支部を備えたロアアームであり、上記上方曲げ誘起部が、車両側面視における上記ロアアームの上方湾曲部にて形成され、上記上方湾曲部は、前輪を介して上記ロアアームに入力される衝突荷重の入力点に対し、上記前輪軸支部と上記後側軸支部との間の位置から図心が上方へオフセットし、その上方へのオフセット量が上記間の位置よりも後方に位置する上記サブフレーム取付け部まで確保されるように上方へ湾曲しているという構成にて実現した。
【実施例
【0019】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面は車両のフロントサスペンション装置を示し、図1は当該車両のフロントサスペンション装置を示す車両左側の平面図、図2図1の要部拡大平面図、図3図2のA-A線矢視断面図、図4図3の要部拡大図である。また、図5はロアアームの平面図、図6はロアアームの底面図、図7はロアアームの側面図である。
なお、図1では車両のフロントサスペンション装置の車両左側の構成のみを示したが、フロントサスペンション装置の車両右側の構成は左側のそれと左右略対称に構成されている。
【0020】
図1図2において、車両のフロントサスペンション装置において、サブフレームSFは、車両前部のエンジンルーム下方部(または電気自動車のモータルーム下方部)に設けられるものである。このサブフレームSFは、左右のサスペンションアームとしての左右のロアアーム10を支持するクロスメンバ本体20と、このクロスメンバ本体20の左右両側前部から車両前方に延びる左右一対の延長フレーム30と、一対の延長フレーム30の前端部を車幅方向に連結する横メンバ40とを備えている。
【0021】
上述の延長フレーム30の前端部には、セットプレート41および取付けプレート42を介してサブクラッシュカン43が取付けられ、左右一対のサブクラッシュカン43,43の前端部には車幅方向に延びるサブバンパビーム44が設けられている。
【0022】
また、上述の延長フレーム30の前端部で、かつセットプレート41の直後部には、上下方向に延びる車体取付け部45が設けられている。この車体取付け部45は、延長フレーム30をフロントサイドフレームに取付けるための部材である。
【0023】
図2に示すように、上述のロアアーム10は、車幅方向外側に位置する前輪軸支部としてのナックル支持部11と、車幅方向内側前部に位置する前側軸支部としてのロアアームブッシュ12と、車幅方向内側後部に位置する後側軸支部としてのロアアームブッシュ13と、を備えている。
【0024】
図1~3に示すように、上述のクロスメンバ本体20はアッパパネル21と、前側のロアパネルと、後側のロアパネル23と、アッパパネル21の左右両側部から車両前方に延びる延設アッパパネル24と、を備えている。
【0025】
上述の延設アッパパネル24と前側のロアパネルとの両者により、アッパパネル21および後側のロアパネル23から車両前方に延びる延設部25が形成されており、上述の左右一対の延長フレーム30の後端部は左右一対の延設部25の前端部に連結固定されている。
【0026】
この延設部25における車幅方向の内外には、図2に示すように、ロアアームブッシュ12と対応する位置に、開口部25a,25bが開口形成されている。
【0027】
図2図3に示すように、クロスメンバ本体20の後部左右から車幅方向外側へ突出するように、アッパパネル21と後側のロアパネル23との両者で、ロアアーム10の後側のロアアームブッシュ13を支持する後側支持部26が形成されている。
【0028】
図2に示すように、上述の延設部25には、ロアアーム10の前側のロアアームブッシュ12を支持するアーム支持ブラケット27を取付けており、このアーム支持ブラケット27で上述のロアアームブッシュ12を支持している。
さらに、図1図2に示すように、クロスメンバ本体20のアッパパネル21には、スタビライザ50を支持するスタビライザ取付けブラケット51が締結固定されている。
【0029】
図2に示すように、スタビライザ50の端部は、コントロールリンク53を介して、図1で示すサスペンションダンパ54のダンパ外筒部に連結されている。
また、クロスメンバ本体20の延設アッパパネル24の基部には、当該延設アッパパネル24から上方に延びる図示しないタワー部が設けられている。このタワー部はクロスメンバ本体20をフロントサイドフレームに取付けるための部材である。
【0030】
図1に示すように、延長フレーム30の前端部から車幅方向外側に突出するスモールオーバラップ衝突対策用の拡張部52が設けられている。
この拡張部52は、車両平面視にて車幅方向外側の側面52aが車体後方に向かって車幅方向内側へ傾斜するように形成されている。つまり、該拡張部52は延長フレーム30の前端部とセットプレート41の背面とに接合固定されており、該拡張部52前端の車幅方向外側への突出量はその後端の車幅方向外側への突出量に対して大となるように形成され、上記側面52aがスラント面に形成されている。
なお、図1図2において、55はサブフレームSFのクロスメンバ本体20とその後方の車体との間に設けられたガセットである。
【0031】
ところで、図1図2に示すように、上述のロアアーム10は車幅方向外端のナックル支持部11に、ナックル14およびハブ部15を介して前輪16が軸支され、車幅方向内端が前後のロアアームブッシュ12,13を介してサブフレームSFに軸支されるサスペンションアームである。
【0032】
また、図3に示すように、ロアアーム10のナックル支持部11よりも車両後方側には、サブフレームSFを車体に対して下方から締結具であるボルト17を介して取付けるサブフレーム取付け部13Aを備えている。
【0033】
図3に示すように、ダッシュロアパネル1の前側部には、エンジンルームまたはモータルームの左右両サイドにおいて車両の前後方向に延びるフロントサイドフレーム2を設けている。このフロントサイドフレーム2は車体剛性部材であって、図3では、フロントサイドフレーム2のキックアップ部を図示している。
【0034】
図3に示すように、フロントサイドフレーム2のキックアップ部前下部には、サブフレーム取付け座3を接合固定しており、このサブフレーム取付け座3の水平部上面にはウエルドナット4が立設固定されている。
【0035】
ロアアーム10のサブフレームSFに対する後側軸支部であるロアアームブッシュ13と、サブフレームSFの車体に対するサブフレーム取付け部13Aと、は兼用するものである。
【0036】
そして、図3に示すように、サブフレーム取付け部13Aを兼ねるロアアームブッシュ13は、下方から上記ウエルドナット4に締結するボルト17を介して、サブフレームSFの後側支持部26と共に、車体であるフロントサイドフレーム2に取付けられている。
【0037】
仮に、ロアアーム10の後側軸支部と、サブフレームSFの車体に対するサブフレーム取付け部とを、それぞれ別々に形成すると、締結具としてのボルトが複数必要となり、当該ボルト間に間隔を設ける必要が生じ、構造が複雑化するうえ、組付け工数も煩雑となる。
【0038】
図3に示すように、サブフレームSFのクロスメンバ本体20におけるアッパパネル21の後側支持部26上面には位置決めピン28が立設固定されており、この位置決めピン28がフロントサイドフレーム2の位置決め孔2aに対して位置決めを行なうよう構成している。
【0039】
ここで、上述のロアアームブッシュ13の内部には、図3図4に示すように、内筒13a、ラバー13bおよび外筒13cが設けられている。
【0040】
図5図6に示すように、ロアアーム10はサブフレームSFに対する前側軸支部としてのロアアームブッシュ12および前輪軸支部としてのナックル支持部11よりも車両後方に位置する後側軸支部であるロアアームブッシュ13を備えている。
【0041】
また、図5図6に示すように、このロアアーム10は、後側のロアアームブッシュ13からナックル支持部11にかけて湾曲形状に形成された後側アーム部18と、この後側アーム部18の湾曲形状のコーナ部と前側のロアアームブッシュ12とを連結する前側アーム部19と、を備えている。
【0042】
図3に示すように、ロアアーム10の後側アーム部18は、下方が開放した上部材18aと、上方が開放した下部材18bとから構成され、上部材18aと下部材18bとの両者で、後側アーム部18が閉断面化されている。また、下部材18bの剛性を上部材18aの剛性に対して低下させている。具体的には、上記上部材18aを高張力鋼板で形成すると共に、下部材18bは高張力鋼板に対して剛性が低い材料にて形成されている。
【0043】
図5図6に示すように、ロアアーム10の前側アーム部19も、上部材19aと下部材19bとで構成されている。
【0044】
しかも、図7に示すように、上述のロアアーム10には、前輪16(図1参照)を介してサスペンションアーム前突荷重としてのロアアーム前突荷重が入力された時、当該ロアアーム10を上方に曲げる上方曲げ誘起部60が備えられている。これにより、ロアアーム10に前輪16を介して前突荷重が作用した時、ロアアーム10は上方曲げ誘起部60により上向きに曲がる。このため、ロアアーム10のサブフレーム取付け部13Aには車両上方への抜け抗力が発生し、サブフレーム取付け部13Aが車体(フロントサイドフレーム2参照)から外れ量を低減し、ロアアーム10の上向きの曲げ変形にて衝突荷重エネルギを吸収し、後側軸支部への入力を低減するよう構成したものである。図4に上方曲げ誘起部60の形成範囲を矢印αにて示す。
【0045】
詳しくは、上述の上方曲げ誘起部60はナックル支持部11と後側のロアアームブッシュ13との間、この実施例では、前側アーム部19の後端とロアアームブッシュ13の前端との間に形成されている。
【0046】
斜め方向衝突時(例えばオブリーク衝突時)の衝突荷重の約6割は前輪16を介してロアアーム10に作用し、残りの約4割は延長フレーム30を介してサブフレームSFに入力されることが知られている。
【0047】
そこで、上方曲げ誘起部60を上記両者11,13間に形成することで、斜め衝突時に対して好適と成し、斜め衝突時の荷重を、上方曲げ誘起部60の上方への曲げ変形で吸収し、ロアアームブッシュ13が車体から外れ量を低減すべく構成したものである。
【0048】
さらに詳しくは、図7に示すように、上記上方曲げ誘起部60は、車両側面視におけるロアアーム10の後側アーム部18の上方湾曲部61にて形成したものである。これにより、前輪16を介してロアアーム10に入力される衝突荷重の入力点P1に対し、上方湾曲部61の図心CRが上方へオフセットする量OF1を充分に確保し、この結果、上方曲げ誘起部60の全体が曲がり、充分なエネルギ吸収量を得るよう構成したものである。
【0049】
加えて、図3図7に示すように、ロアアーム10の後側アーム部18における上方湾曲部61の下部材18bの下壁部には、上方に窪む凹部62が設けられている。これにより、当該凹部62、特に、凹部62の後縁部が上方曲げ誘起の折れ切っ掛けとして作用し、上方曲げ誘起の安定性を確保して、延いては、衝突エネルギ吸収の安定性を確保するよう構成したものである。
【0050】
図8は比較例のロアアームを示す側面図であって、説明の便宜上、図8において図7と同一の部分には同一符号を付している。図8の比較例においては、図7で示した本実施例と異なり、上方曲げ誘起部60、上方湾曲部61および凹部62を一切有していない。このため、図8の比較例においては、衝突荷重の入力点P1に対するロアアーム10の図心CRが上方でオフセットする量OF2は小さい。
【0051】
すなわち、OF1>OF2となる。比較例では、オフセット量OF2が小さいことにより、前輪16を介してロアアーム10に衝突荷重が入力した時、図心CRに作用する曲げモーメントが不充分となって、ロアアーム10を適切に上方曲げ変形させることが困難である。
【0052】
図9は車両衝突時の作用を説明するための平面図であり、以下、図9を参照して衝突時の作用について説明する。
<斜め衝突時の作用>
衝突物70と自車両とが斜め方向に衝突する斜め衝突時には、衝突荷重の約6割が前輪16を介してロアアーム10に作用し、残りの約4割が延長フレーム30を介してサブフレームSFに作用する。
【0053】
ロアアーム10のナックル支持部11に矢印OB1で示す衝突荷重が入力すると、当該荷重が後側アーム部18に荷重伝達され、凹部62の後縁部を上方曲げ誘起の折れ切っ掛けとして上方湾曲部61が上方に湾曲し、上方曲げ誘起部60の全体が曲がって(上方へ山折れ変形して)、衝突エネルギを吸収し、後側軸支部への入力を低減する。
【0054】
この際、ロアアーム10の後側アーム部18は、上部材18aと下部材18bとで耐力に差を設けており、上部材18aの耐力が大きく、下部材18bの耐力が小さいうえ、下部材18bには折れ切っ掛けとしての凹部62が形成されている。これにより下部材18bが先に折曲し、下部材18bの折曲後には上部材18aに応力が集中する。
【0055】
しかも、図7で示したように上方曲げ誘起部60の形成により、図心CRが上方へオフセットする量OF1が大きいので、図心CRに作用する曲げモーメントが充分確保でき、ロアアーム10の後側アーム部18を適切に上方へ曲げ変形させることができる。
【0056】
斜め衝突時に、図9に矢印OB2で示すように、延長フレーム30を介してクロスメンバ本体20に入力された衝突荷重は、サブフレームSFの後側支持部26に伝達されるが、この入力荷重は全体の衝突荷重の4割程度であるから、サブフレーム取付け部13Aの車体からの外れを招くことはない。
【0057】
<スモールオーバラップ衝突時の作用>
フロントサイドフレーム2に衝突荷重がほとんど入力されないスモールオーバラップ衝突時には、衝突荷重の約9割が前輪16を介してロアアーム10に作用し、残りの約1割が延長フレーム30を介してサブフレームSFに作用する。
【0058】
ロアアーム10のナックル支持部11に衝突荷重が入力すると、この荷重は後側アーム部18に伝達され、凹部62の後縁部を折れ切っ掛けとして、後側アーム部18は図9に矢印SOLで示すように、車両後方かつ外方へ曲げ変形する。
【0059】
衝突荷重全体のうちの約1割は、サブフレームSFの後側支持部26に伝達されるが、サブフレーム取付け部13Aの車体からの外れを招くものではない。ここで、上述の凹部62はスモールオーバラップ衝突時に、ロアアーム10を後方かつ外方へ曲げる点についても寄与している。
<フルラップ衝突時の作用>
フルラップ衝突時には、衝突荷重の全体が、図9の矢印FLで示すように、左右一対の延長フレーム30,30を介してクロスメンバ本体20に作用する。
【0060】
このため、スタビライザ50の取付け部であるスタビライザ取付けブラケット51と、後側支持部26と、には図9に矢印a,bで示す後ろ向きの力が作用する。そして、衝突物がある程度侵入してくると後側支持部に大きな荷重が作用し、締結具であるボルト17が外れサブフレームSFを車体から下方へ離脱するものである。これにより、サブフレームに支持されているパワーユニットも下方に下がり、衝突後半においてパワーユニットはダッシュパネルに大きく干渉することなく後退する、つまり、クラッシュストロークを確保することができる。したがって、本構造によると、斜め方向衝突(オブリーク衝突)、スモールオーバラップ衝突、フルラップ衝突について両立が可能になるものである。
【0061】
なお、図中、矢印Fは車両前方を示し、矢印Rは車両後方を示し、矢印INは車幅方向の内方を示し、矢印OUTは車幅方向の外方を示し、矢印UPは車両上方を示す。
【0062】
このように、上記実施例の車両のフロントサスペンション装置は、サブフレームSFと、外端に前輪16が軸支され、かつ、内端が上記サブフレームSFに対して軸支されるサスペンションアーム(ロアアーム10参照)と、を備え、上記サスペンションアーム(ロアアーム10)の前輪軸支部(ナックル支持部11参照)よりも後方側に上記サブフレームSFを車体(フロントサイドフレーム2)に対して下方から締結具(ボルト17参照)を介して取付けるサブフレーム取付け部13Aを備え、上記サスペンションアーム(ロアアーム10)に、前輪16を介してサスペンションアーム前突荷重が入力された時、当該サスペンションアーム(ロアアーム10)を上方に曲げる上方曲げ誘起部60を備えたものである(図1図3参照)。
【0063】
この構成によれば、サスペンションアーム(ロアアーム10)に前輪16を介して前突荷重が作用した時、サスペンションアーム(ロアアーム10)は上方曲げ誘起部60により上向きに曲がる。これにより、サスペンションアーム(ロアアーム10)のサブフレーム取付け部13Aには、抜け抗力が生じるので、サブフレーム取付け部13Aの車体からの外れ量を低減し、衝突荷重エネルギを吸収し、後側軸支部への入力を低減することができる。
【0064】
また、この発明の一実施形態においては、上記サスペンションアームは、サブフレームSFに対する前側軸支部(ロアアームブッシュ12)および上記前輪軸支部(ナックル支持部11)よりも後方に位置する後側軸支部(ロアアームブッシュ13)を備えたロアアーム10であり、上記上方曲げ誘起部60が前輪軸支部(ナックル支持部11)と後側軸支部(ロアアームブッシュ13)との間に形成されたものである(図2参照)。
【0065】
この構成によれば、前輪軸支部(ナックル支持部11)と後側軸支部(ロアアームブッシュ13)との間に上述の上方曲げ誘起部60が形成されているので、衝突荷重の約6割が前輪16を介してロアアーム10に作用する斜め方向衝突時(例えばオブリーク衝突時)に対して好適となる。つまり、斜め衝突時の荷重を、上方曲げ誘起部60の上方への曲げ変形により吸収し、後側軸支部(ロアアームブッシュ13)が車体から外れる量を低減することができる。
【0066】
さらに、この発明の一実施形態においては、上記上方曲げ誘起部60が、車両側面視におけるロアアーム10の上方湾曲部61にて形成されたものである(図3図4図7参照)。
【0067】
この構成によれば、前輪16を介してロアアーム10に入力される衝突荷重の入力点P1に対し、上方湾曲部61の図心CRが上方へオフセットする量OF1を充分に確保することができ、これにより、上方曲げ誘起部60の全体が曲がり、エネルギ吸収量が大きくなり、後側軸支部への入力が低減する。
【0068】
また、この発明の一実施形態においては、上記ロアアーム10は、下方が開放した上部材18aと、上方が開放した下部材18bとから構成され、上記下部材18bの剛性を上記上部材18aの剛性に対し低下させたものである(図3図4参照)。
【0069】
この構成によれば、前突荷重入力時におけるロアアーム10の上方曲げ変形の安定性を確保することができる。
【0070】
さらにまた、この発明の一実施形態においては、上記ロアアーム10の上方湾曲部61の下壁部に凹部62が設けられたものである(図3図4参照)。
【0071】
この構成によれば、下壁部に設けた上記凹部62が、上方曲げ誘起の折れ切っ掛けとして作用するので、上方曲げ誘起の安定性を確保することができ、延いては、衝突エネルギ吸収の安定性を確保することができる。
【0072】
加えて、この発明の一実施形態においては、上記ロアアーム10のサブフレームSFに対する後側軸支部(ロアアームブッシュ13)と、サブフレームSFの車体(フロントサイドフレーム2)に対するサブフレーム取付け部13Aとを兼用させたものである(図4参照)。
【0073】
この構成によれば、上述の後側軸支部(ロアアームブッシュ13)とサブフレーム取付け部13Aとの兼用により、サスペンション装置の簡略化を図ることができる。
【0074】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明のサスペンションアームは、実施例のロアアーム10に対応し、
以下同様に、
前輪軸支部は、ナックル支持部11に対応し、
車体は、フロントサイドフレーム2に対応し、
締結具は、ボルト17に対応し、
前側軸支部は、ロアアームブッシュ12に対応し、
後側軸支部は、ロアアームブッシュ13に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上説明したように、本発明は、サブフレームと、外端に前輪が軸支され、かつ、内端が上記サブフレームに対して軸支されるサスペンションアームと、を備え、上記サスペンションアームの前輪軸支部よりも後方側に上記サブフレームを車体に対して下方から締結具を介して取付けるサブフレーム取付け部を備えた車両のフロントサスペンション装置について有用である。
【符号の説明】
【0076】
SF…サブフレーム
2…フロントサイドフレーム(車体)
10…ロアアーム(サスペンションアーム)
11…ナックル支持部(前輪軸支部)
12…ロアアームブッシュ(前側軸支部)
13…ロアアームブッシュ(後側軸支部)
13A…サブフレーム取付け部
16…前輪
17…ボルト(締結具)
18a…上部材
18b…下部材
26…後側支持部
60…上方曲げ誘起部
61…上方湾曲部
62…凹部
CR…上方湾曲部の図心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9