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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】タイヤ摩耗性能予測方法
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20240604BHJP
   G01M 17/02 20060101ALI20240604BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20240604BHJP
   G06F 30/15 20200101ALI20240604BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20240604BHJP
【FI】
B60C19/00 Z
G01M17/02
G06F30/10
G06F30/15
G06F30/20
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020028570
(22)【出願日】2020-02-21
(65)【公開番号】P2021133693
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】彌榮 洋一
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-206520(JP,A)
【文献】特開2019-006401(JP,A)
【文献】特開2018-119921(JP,A)
【文献】特開2017-156295(JP,A)
【文献】特開2011-047675(JP,A)
【文献】特開2019-026263(JP,A)
【文献】国際公開第2006/090686(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0057951(US,A1)
【文献】特開2020-20796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00-19/12
G01M17/00-17/10
G06F30/00-30/398
111/00-119/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面に接地するトレッド面を有するタイヤが、前後力yと横力xとを同時に受けながら走行する複合走行時のタイヤ摩耗性能を予測するための方法であって、
前記複合走行時の前記トレッド面上の点pに作用する摩耗エネルギー前後成分Eを計算する第1計算工程と、
前記複合走行時の前記点pに作用する摩耗エネルギー横成分Fを計算する第2計算工程と、
前記摩耗エネルギー前後成分E及び前記摩耗エネルギー横成分Fを用いて、前記複合走行時の前記点pに作用する複合摩耗エネルギーGを計算する第3計算工程と、を含み、
前記第1計算工程は、
前記横力xを換算した換算済前後力y’を求めるステップと、
前記前後力yと前記換算済前後力y’との和(y+y’)を計算するステップと、
前記和(y+y’)から摩耗エネルギー前後成分Eを計算するステップと、を含み、
前記第1計算工程は、
前記横力xが0のときの前後力y1、y2…による摩耗エネルギー前後成分E1、E2…を計算するステップと、
前記横力xが0のときの前記前後力y1、y2…と、前記横力xが0のときの前記前後力y1、y2…による前記摩耗エネルギー前後成分E1、E2…と、の第1回帰式を導出するステップとを含み、
前記第1計算工程は、
前記前後力yが0のときのモーメントによる換算済前後力y’1、y’2…を計算するステップと、
前記前後力yが0のときの横力x1、x2…と、前記前後力yが0のときのモーメントによる前記換算済前後力y’1、y’2…との第2回帰式を導出するステップと、を含み、
前記換算済前後力y’は、前記横力xを前記第2回帰式で換算して求められ、
前記摩耗エネルギー前後成分Eは、前記和(y+y’)を前記第1回帰式で換算して求められ、
前記第2計算工程は、
前記前後力yを換算した換算済横力x’を求めるステップと、
前記横力xと前記換算済横力x’との和(x+x’)を計算するステップと、
前記和(x+x’)から摩耗エネルギー横成分Fを計算するステップと、を含み、
前記第2計算工程は、
前記前後力yが0のときの横力x1、x2…による摩耗エネルギー横成分F1、F2…を計算するステップと、
前記前後力yが0のときの前記横力x1、x2…と、前記前後力yが0のときの前記横力x1、x2…による前記摩耗エネルギー横成分F1、F2…との第3回帰式を導出するステップと、を含み、
前記第2計算工程は、
前記横力xが0のときのモーメントによる前記換算済横力x’1、x’2…を計算するステップと、
前記横力xが0のときの前後力y1、y2…と、前記横力xが0のときのモーメントによる前記換算済横力x’1、x’2…との第4回帰式を導出するステップと、を含み、
前記換算済横力x’は、前記前後力yを前記第4回帰式で換算して求められ、
前記摩耗エネルギー横成分Fは、前記和(x+x’)を前記第3回帰式で換算して求められ、
前記複合摩耗エネルギーGから前記複合走行時のタイヤ摩耗性能を予測する予測工程を、さらに含む、
タイヤ摩耗性能予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ摩耗性能予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、車両が前後加速度と横加速度とを同時に受けながら走行する複合走行時のタイヤの摩耗性能を予測するための方法が記載されている。この特許文献1では、前後加速度が単独で作用しているときの前後方向及び左右方向の摩耗エネルギーと、横加速度が単独で作用しているときの前後方向及び左右方向の摩耗エネルギーと、を計算している。前記前後方向の摩耗エネルギーは、タイヤの前後方向せん断力と前後方向すべり量とから求められる。前記左右方向の摩耗エネルギーは、タイヤの左右方向せん断力と左右方向すべり量とから求められる。そして、下記特許文献1では、前記各摩耗エネルギーに単一の係数を加味してタイヤ摩耗性能が予測されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-110976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記計算された摩耗エネルギーに前記単一の係数を加味しただけでは、タイヤに作用する現実の摩耗エネルギーと異なる場合があり、タイヤ摩耗性能予測方法をより正確に予測することへの要望があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、複合走行時のタイヤの摩耗性能を、より正確に予測することができるタイヤ摩耗性能予測方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、路面に接地するトレッド面を有するタイヤが、前後力yと横力xとを同時に受けながら走行する複合走行時のタイヤ摩耗性能を予測するための方法であって、前記複合走行時の前記トレッド面上の点pに作用する摩耗エネルギー前後成分Eを計算する第1計算工程と、前記複合走行時の前記点pに作用する摩耗エネルギー横成分Fを計算する第2計算工程と、前記摩耗エネルギー前後成分E及び前記摩耗エネルギー横成分Fを用いて、前記複合走行時の前記点pに作用する複合摩耗エネルギーGを計算する第3計算工程と、を含み、前記第1計算工程は、前記横力xを換算した換算済前後力y’を求めるステップと、前記前後力yと前記換算済前後力y’との和(y+y’)を計算するステップと、前記和(y+y’)から摩耗エネルギー前後成分Eを計算するステップと、を含む。
【0007】
本発明に係るタイヤ摩耗性能予測方法は、前記第1計算工程が、前記横力xが0のときの前後力y1、y2…による摩耗エネルギー前後成分E1、E2…を計算するステップと、前記横力xが0のときの前記前後力y1、y2…と、前記横力xが0のときの前記前後力y1、y2…による前記摩耗エネルギー前後成分E1、E2…と、の第1回帰式を導出するステップとを含む、のが望ましい。
【0008】
本発明に係るタイヤ摩耗性能予測方法は、前記摩耗エネルギー前後成分Eが、前記和(y+y’)を前記第1回帰式で換算して求められる、のが望ましい。
【0009】
本発明に係るタイヤ摩耗性能予測方法は、前記第1計算工程が、前記前後力yが0のときのモーメントによる換算済前後力y’1、y’2…を計算するステップと、前記前後力yが0のときの横力x1、x2…と、前記前後力yが0のときのモーメントによる前記換算済前後力y’1、y’2…との第2回帰式を導出するステップと、を含む、のが望ましい。
【0010】
本発明に係るタイヤ摩耗性能予測方法は、前記換算済前後力y’が、前記横力xを前記第2回帰式で換算して求められる、のが望ましい。
【0011】
本発明に係るタイヤ摩耗性能予測方法は、前記第2計算工程が、前記前後力yを換算した換算済横力x’を求めるステップと、前記横力xと前記換算済横力x’との和(x+x’)を計算するステップと、前記和(x+x’)から摩耗エネルギー横成分Fを計算するステップと、を含む、のが望ましい。
【0012】
本発明に係るタイヤ摩耗性能予測方法は、前記第2計算工程が、前記前後力yが0のときの横力x1、x2…による摩耗エネルギー横成分F1、F2…を計算するステップと、前記前後力yが0のときの前記横力x1、x2…と、前記前後力yが0のときの前記横力x1、x2…による前記摩耗エネルギー横成分F1、F2…との第3回帰式を導出するステップと、を含む、のが望ましい。
【0013】
本発明に係るタイヤ摩耗性能予測方法は、前記摩耗エネルギー横成分Fが、前記和(x+x’)を前記第3回帰式で換算して求められる、のが望ましい。
【0014】
本発明に係るタイヤ摩耗性能予測方法は、前記第2計算工程が、前記横力xが0のときのモーメントによる前記換算済横力x’1、x’2…を計算するステップと、前記横力xが0のときの前後力y1、y2…と、前記横力xが0のときのモーメントによる前記換算済横力x’1、x’2…との第4回帰式を導出するステップと、を含む、のが望ましい。
【0015】
本発明に係るタイヤ摩耗性能予測方法は、前記換算済横力x’が、前記前後力yを前記第4回帰式で換算して求められる、のが望ましい。
【0016】
本発明に係るタイヤ摩耗性能予測方法は、前記複合摩耗エネルギーGから前記複合走行時のタイヤ摩耗性能を予測する予測工程を、さらに含む、のが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、前後力yと横力xとを同時に受けながら走行する複合走行時のタイヤ摩耗性能を予測するための方法である。前記方法では、前記複合走行時の摩耗エネルギー前後成分E及び摩耗エネルギー横成分Fが計算され、前記摩耗エネルギー前後成分E及び前記摩耗エネルギー横成分Fから複合摩耗エネルギーGが計算される。そして、前記第1計算工程は、前記横力xを換算して換算済前後力y’を求めるステップと、前記前後力yと前記換算済前後力y’との和(y+y’)を計算するステップと、前記和(y+y’)から摩耗エネルギー前後成分Eを計算するステップとを含んでいる。このように、本発明のタイヤ摩耗性能予測方法では、摩耗エネルギー前後成分Eが、前後力yと横力xを換算した換算済前後力y’との和から計算されるので、複合走行時のタイヤの摩耗性能を、より正確に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態のタイヤ摩耗性能予測方法を示すフローチャートである。
図2】設定工程で設定される境界条件の一例を示すグラフである。
図3】(a)は、第1回帰式K1の一例を示すグラフ、(b)は、第3回帰式K3の一例を示すグラフである。
図4】トレッド面に作用する前後力及び横力を概念的に示す平面図である。
図5】(a)は、第2回帰式K2の一例を示すグラフ、(b)は、第4回帰式K4の一例を示すグラフである。
図6】実摩耗量と実施例の予測摩耗量との関係を示すグラフである。
図7】実摩耗量と比較例の予測摩耗量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本発明のタイヤ摩耗性能予測方法(以下、単に「予測方法」ということがある。)は、タイヤT(図4に示す)が複合走行するときの、タイヤ摩耗性能を予測するための方法である。前記「複合走行」とは、タイヤTが前後力yと横力xとを同時に受けながら走行することをいう。本明細書では、「前後」とは、「タイヤ周方向と平行な向き」を意味し、「横」とは、「タイヤ軸方向と平行な向き」を意味する。
【0020】
図1は、本実施形態の予測方法を示すフローチャートである。図1に示されるように、本実施形態の予測方法は、第1計算工程N1、第2計算工程N2、及び、第3計算工程N3を含んでいる。また、予測方法は、例えば、予測工程N4を含んでいる。第1計算工程N1では、複合走行時のタイヤTのトレッド面Ta上の点p(図4に示す)に作用する摩耗エネルギー前後成分Eが計算される。第2計算工程N2では、複合走行時の点pに作用する摩耗エネルギー横成分Fが計算される。第3計算工程N3では、摩耗エネルギー前後成分E及び前記摩耗エネルギー横成分Fを用いて、複合走行時の点pに作用する複合摩耗エネルギーGが計算される。予測工程N4では、複合摩耗エネルギーGに基づいてタイヤTの点pでの摩耗性能が予測される。なお、トレッド面Taは、走行時の路面と接地する面である。
【0021】
本発明の予測方法は、例えば、周知のドラム試験機(図示省略)によって実験的に予測されても良いし、また、例えば、コンピュータによる有限要素法等を用いたコンピュータシミュレーションによって予測されても良い。さらに、予測方法は、例えば、ドラム試験機とコンピュータシミュレーションとをそれぞれ用いて予測しても良い。本実施形態では、有限要素法等を用いたコンピュータシミュレーションが用いられる。
【0022】
コンピュータシミュレーションの場合、例えば、第1計算工程N1よりも前に、周知な入力工程と設定工程とが行われる。入力工程では、本実施形態では、コンピュータに、トレッド面を含むタイヤモデルが入力される。入力工程では、例えば、タイヤに関する情報に基づいて、タイヤが数値解析法により有限個の小さな要素C(i)に離散化される。これにより、タイヤを有限個の要素C(i)で3次元的にモデル化したタイヤモデルが設定される。数値解析法としては、例えば有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法が適宜採用される。
【0023】
要素C(i)としては、例えば、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は6面体ソリッド要素等が用いられる。各要素C(i)には、トレッド面上の複数個の節点P(j)が設けられる。各要素C(i)には、例えば、要素番号、各節点P(j)の番号、各節点P(j)の座標値及び材料特性(例えば密度、ヤング率及び/又は減衰係数等)等の数値データが定義される。
【0024】
設定工程は、本実施形態では、路面モデルの設定、境界条件の設定、タイヤモデルの内圧付加及びタイヤモデルと路面モデルとの接地等を行う。
【0025】
路面モデルの設定は、例えば、タイヤモデルと同様に、評価対象となる路面に関する情報に基づいて、路面を数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素に離散化している。路面モデルとしては、特に限定されるものではなく、平滑な表面を有するものや、アスファルト路面のような微小凹凸、不規則な段差、窪み、うねり又は轍等の実走行路面に近似した凹凸などを有するものが設定される。
【0026】
境界条件の設定は、例えば、タイヤモデルの内圧条件、負荷荷重条件、キャンバー角及びタイヤモデルと路面モデルとの摩擦係数等が設定される。境界条件としては、さらに、走行速度に対応する角速度、並進速度、及び、タイヤTに作用する前後力yとタイヤTに作用する横力xとが設定される。なお、並進速度は、タイヤモデルの接地面での速度である。
【0027】
図2は、境界条件であるタイヤTに作用する前後力y及びタイヤTに作用する横力xの一例である。複合走行時のタイヤTには、異なる大きさの前後力y及び横力xが作用するので、図2に示されるように、複数種類の前後力y及び横力xが設定される。横力x及び前後力yは、本実施形態では、タイヤTを実際の車両に装着して、高速道路、山岳路、及び、一般道を含む経路を走行させ、これら全ての行程中の単位時間ごとに測定されたものが用いられてもよい。これにより、点pには、例えば、前後力y1、横力x1が複数回作用することがあり、前後力y1、横力x2が複数回作用することがあり、前後力y2、横力x1が複数回作用することがあり、…、前後力yq、横力xr(q、rは自然数)が複数回作用することがある。このような走行は、現実の複合走行を実現している。なお、例えば、前記全経路の走行後において、トレッド面Taの点pでの実摩耗量が測定されてもよい。
【0028】
図1に示されるように、次に、第1計算工程N1が行われる。本実施形態の第1計算工程N1では、コンピュータが、タイヤモデルを複合走行させたときの任意の節点Pに作用する摩耗エネルギー前後成分Eを計算する。なお、第1計算工程N1では、コンピュータが、各節点P(j)毎に作用する摩耗エネルギー前後成分Eを計算してもよい。なお、タイヤモデルの節点Pは、タイヤTの点pに対応する。
【0029】
第1計算工程N1は、少なくとも、第5ステップS5ないし第7ステップS7を含んでいる。本実施形態の第5ステップS5では、横力xを換算した換算済前後力y’が求められる。本実施形態の第6ステップS6では、前後力yと前記換算済前後力y’との和(y+y’)が計算される。本実施形態の第7ステップS7では、和(y+y’)から摩耗エネルギー前後成分Eが計算される。
【0030】
また、本実施形態の第1計算工程N1は、第1ステップS1ないし第4ステップS4を、さらに含んでいる。第1ステップS1ないし第4ステップS4は、例えば、第5ステップS5の前に行われる。第1計算工程N1は、本実施形態では、第1ステップS1ないし第7ステップS7が順に行われる。なお、第1計算工程N1は、このような態様に限定されるものではない。
【0031】
本実施形態の第1ステップS1では、横力xが0であるときの前後力y1、y2…ynによる摩耗エネルギー前後成分E1、E2…En(nは、自然数)が計算される。即ち、図2に示されるような前後力y及び横力xの境界条件(分布)では、条件a1(0(横力)、y1(前後力))での摩耗エネルギー前後成分E1、条件a2(0、y2)での摩耗エネルギー前後成分E2、…、条件an(0、yn)での摩耗エネルギー前後成分Enが計算される。本実施形態の第1ステップS1では、条件k(0、0)での摩耗エネルギー前後成分Ekが求められる。
【0032】
摩耗エネルギー前後成分Enは、下記式(1)に示されるように、節点Pに作用する単位時間t当たりの前後せん断力Hn(t)と、前後せん断力Hn(t)による前後すべり量Ln(t)との積である。本実施形態では、各条件a1、a2、…anごとに摩耗エネルギー前後成分E1、E2、…、Enが求められる。
En=Hn(t)×Ln(t) … (1)
【0033】
次に、例えば、第2ステップS2が行われる。本実施形態の第2ステップS2では、横力xが0のときの前後力y1、y2…と、横力xが0のときの前後力y1、y2…による摩耗エネルギー前後成分E1、E2…と、の第1回帰式K1が導出される。図3(a)には、第1回帰式K1の一例が示される。このように、第1回帰式K1は、本実施形態では、下記式(2)のような多項式回帰が採用される。なお、第1回帰式K1は、単回帰が採用されてもよい。本実施形態の第1回帰式K1(後述する各回帰式も含める)は、最小二乗法による回帰分析によって求められる。なお、c1~c3は、係数である。
E=c1×y+c2×y+c3≧0 … (2)
【0034】
図4は、タイヤTのトレッド面Taを概念的に示す平面図である。図4に示されるように、横力xがタイヤTに作用している場合、横力xに基づいてモーメントM1が生じ、点p(p1)には、このモーメントM1によって前後力y’が発生する。発明者らの種々の実験によって、このような前後力y’は、摩耗エネルギー前後成分に大きな影響を与え、タイヤ摩耗性能をより正確に予測するために必要なパラメータであることが突き止められた。このため、本実施形態では、第2ステップS2に引き続いて、横力xによって生じるモーメントM1に基づく前後力y’1、y’2…を計算する第3ステップS3が行われる。本明細書では、このような前後力y’が、換算済前後力y’とされる。第3ステップS3は、例えば、図2に示されるような前後力y及び横力xの境界条件(分布)において、条件b1(x1、0)のときの節点Pに作用する換算済前後力y’1、条件b2(x2、0)のときの節点Pに作用する換算済前後力y’2、…、条件bm(xm、0)のときの節点Pに作用する換算済前後力y’mが計算される。即ち、この実施形態では、前後力yが0のときの横力xから換算済前後力y’が求められる。換算済前後力y’は、例えば、周知のドラム試験機(図示省略)、又は、タイヤを車両に装着して、実験的に求めてもよい。なお、本実施形態の第3ステップS3では、条件k(0、0)での換算済前後力y’は計算されない。
【0035】
次に、例えば、第4ステップS4が行われる。本実施形態の第4ステップS4では、前後力yが0のときの横力x1、x2…と、前後力yが0のときの各モーメントによる換算済前後力y’1、y’2…との第2回帰式K2が導出される。図5(a)には、第2回帰式K2の一例が示される。このように、第2回帰式K2は、本実施形態では、下記式(3)のような単回帰が採用される。なお、第2回帰式K2は、多項式回帰が採用されてもよい。なお、c4、c5は、係数である。
y’=c4×x+c5… (3)
【0036】
次に、任意の前後力と任意の横力とによって節点Pに生じる摩耗エネルギー前後成分Eが求められる。便宜的に、図2に示されるような1つの条件d(xd、yd)における、摩耗エネルギー前後成分Eを求める方法の一例が説明される。
【0037】
先ず、第5ステップS5が行われる。本実施形態の第5ステップS5では、横力xdが第2回帰式K2に基づいて換算済前後力y’dに換算される。
【0038】
次に、第6ステップS6が行われる。本実施形態の第6ステップS6では、第5ステップS5で求められたy’dと、条件dでの前後力ydとの和(yd+y’d)が求められる。
【0039】
次に、第7ステップS7が行われる。本実施形態の第7ステップS7では、和(yd+y’d)が第1回帰式K1に基づいて、摩耗エネルギー前後成分Edに換算(計算)される。摩耗エネルギー前後成分Edは、前後力ydと横力xdとを受けて走行するタイヤモデルの節点Pに作用する摩耗エネルギー前後成分Eとされる。このように、本実施形態の第1計算工程N1では、前後力yに加えて横力xのモーメントによる前後力y’が加味された摩耗エネルギー前後成分Eが計算される。これにより、とりわけ、大きな横力の作用するタイヤ軸方向の両外側のトレッド面Ta上の点において、タイヤ摩耗性能を正確に予測することができる。本実施形態の予測方法では、横力xが0のときの各前後力y1、y2…のみから摩耗エネルギー前後成分Eを求めることができる。
【0040】
なお、第5ステップS5ないし第7ステップS7では、図2に示される全ての条件(x、y)における各摩耗エネルギー前後成分Eが計算されてもよい。これにより、節点Pでの条件(x、y)毎の各摩耗エネルギー前後成分EA1、EA2…EAnが求められる。
【0041】
次に、第2計算工程N2が行われる。本実施形態の第2計算工程N2では、コンピュータが、タイヤモデルを複合走行させたときの任意の節点Pに作用する摩耗エネルギー横成分Fを計算する。なお、第2計算工程N2では、コンピュータが、各節点P(j)毎に作用する摩耗エネルギー横成分Fをそれぞれ計算してもよい。本実施形態の第2計算工程N2は、上述の第1計算工程N1で設定された前後力及び横力を、横力及び前後力に入れ替えて行われる。第2計算工程N2は、例えば、第8ステップS8ないし第14ステップS14を含んでいる。
【0042】
先ず、第8ステップS8が行われる。本実施形態の第8ステップS8では、前後力yが0であるときの横力x1、x2…による摩耗エネルギー横成分F1、F2、…、Fm(mは、自然数)が計算される。即ち、図2に示されるような前後力y及び横力xの境界条件(分布)では、条件b1(x1、0)での摩耗エネルギー横成分F1、条件b2(x2、0)での摩耗エネルギー横成分F2、…、条件bm(xm、0)での摩耗エネルギー横成分Fmが計算される。本実施形態の第8ステップS8では、条件k(0、0)での摩耗エネルギー横成分Fkが求められる。
【0043】
摩耗エネルギー横成分Fmは、下記式(4)に示されるように、節点Pに作用する単位時間t当たりの横せん断力Jm(t)と、横せん断力Jm(t)による横すべり量Qm(t)との積である。本実施形態では、各条件b1、b2、…bmごとに摩耗エネルギー横成分F1、F2、…、Fmが求められる。
Fm=Jm(t)×Qm(t) … (4)
【0044】
次に、例えば、第9ステップS9が行われる。本実施形態の第9ステップS9では、前後力yが0のときの横力x1、x2…と、前後力yが0のときの横力x1、x2…による摩耗エネルギー横成分F1、F2…と、の第3回帰式K3が導出される。図3(b)には、第3回帰式K3の一例が示される。このように、第3回帰式K3は、本実施形態では、下記式(5)のような多項式回帰が採用される。なお、第3回帰式K3は、単回帰が採用されてもよい。なお、e1~e3は、係数である。
F=e1×x+e2×x+e3≧0 … (5)
【0045】
図4に示されるように、前後力yがタイヤTに作用している場合、前後力yに基づくモーメントM2が生じ、点p(p2)には、モーメントM2によって横力x’が発生する。このため、本実施形態では、前後力yによって生じるモーメントM2に基づく横力x’1、x’2…を計算する第10ステップS10が行われる。本明細書では、このような横力x’が、換算済横力x’とされる。第10ステップS10は、例えば、図2に示されるような前後力y及び横力xの境界条件(分布)では、条件a1(0、y1)のときの節点Pに作用する換算済横力x’1、条件a2(0、y2)のときの節点Pに作用する換算済横力x’2、…、条件an(0、yn)のときの節点Pに作用する換算済横力x’nが計算される。即ち、この実施形態では、横力xが0のときの前後力yから換算済横力x’が求められる。換算済横力x’は、例えば、周知のドラム試験機(図示省略)、又は、タイヤを車両に装着して、実験的に求めてもよい。なお、本実施形態の第10ステップS10では、条件k(0、0)での換算済横力x’は計算されない。
【0046】
次に、例えば、第11ステップS11が行われる。本実施形態の第11ステップS11では、横力xが0のときの前後力y1、y2…と、横力xが0のときのモーメントによる換算済横力x’1、x’2…との第4回帰式K4が導出される。図5(b)には、第4回帰式K4の一例が示される。このように、第4回帰式K4は、本実施形態では、下記式(6)のような単回帰が採用される。なお、第4回帰式K4は、多項式回帰が採用されてもよい。なお、e4、e5は、係数である。
x’=e4×y+e5… (6)
【0047】
次に、任意の前後力と任意の横力とによって節点Pに生じる摩耗エネルギー横成分Fが求められる。便宜的に、図2に示されるような1つの条件d(xd、yd)における、摩耗エネルギー横成分Fを求める方法の一例が説明される。
【0048】
先ず、第12ステップS12が行われる。本実施形態の第12ステップS12では、前後力yを換算した換算済横力x’が求められる。第12ステップS12は、本実施形態では、前後力ydが第4回帰式K4に基づいて換算済横力x’dに変換される。
【0049】
次に、横力xと前記換算済横力x’との和(x+x’)を計算する第13ステップS13が行われる。本実施形態の第13ステップS13では、第12ステップS12で求められたx’dと、条件dでの横力xdとの和(xd+x’d)が求められる。
【0050】
次に、第14ステップS14が行われる。本実施形態の第14ステップS14では、和(xd+x’d)を第3回帰式K3で換算することにより、摩耗エネルギー横成分Fdが計算される。摩耗エネルギー横成分Fdは、前後力ydと横力xdとを受けて走行するタイヤモデルの節点Pに作用する摩耗エネルギー横成分Fとされる。このように、本実施形態の第2計算工程N2では、横力xに加えて前後力yのモーメントによる横力x’が加味された摩耗エネルギー横成分Fが計算される。また、本実施形態の予測方法では、前後力yが0のときの各横力x1、x2…のみから摩耗エネルギー横成分Fを求めることができる。
【0051】
なお、第12ステップS12ないし第14ステップS14では、図2に示される全ての条件(x、y)における各摩耗エネルギー横成分Fが計算されてもよい。これにより、節点Pでの条件(x、y)毎の各摩耗エネルギー横成分F1、F2…Fmが求められる。
【0052】
次に、第3計算工程N3が行われる。本実施形態の第3計算工程N3では、摩耗エネルギー前後成分Eと摩耗エネルギー横成分Fとを下記式(7)を用いて複合摩耗エネルギーGが計算される。なお、i1、i2は係数であって、例えば、i1=1、i2=1が採用される。
G=E×i1+F×i2… (7)
【0053】
次に、予測工程N4が行われる。本実施形態の予測工程N4は、下記式(8)に示される総複合摩耗エネルギーVが求められる。総複合摩耗エネルギーVは、節点P(点p)に作用する全走行時間Wでの複合摩耗エネルギーである。Guは、各条件dでの複合摩耗エネルギーGである。Tuは、各条件dでの走行時間を全走行時間W(全ての条件dでの走行時間)で除した比率である。
V=Σ(Gu×Tu)… (8)
【0054】
タイヤ摩耗量Dは、例えば、総複合摩耗エネルギーVとトレッド面Taの材料の摩耗係数Rとの積として、下記式(9)に基づいて計算される。なお、予測工程N4では、総複合摩耗エネルギーVから直接、タイヤの摩耗性能が予測されてもよい。
D=R×V … (9)
【0055】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施し得る。
【実施例
【0056】
図1に示される予測方法に従って、タイヤモデルのトレッド面について、複合走行時のタイヤ摩耗量が予測された(実施例)。比較例として、車両に前後力が単独で作用しているときのタイヤの摩耗エネルギーと車両に横力が単独で作用しているときのタイヤの摩耗エネルギーとを累積して複合走行時のタイヤ摩耗量が予測された。
【0057】
結果が図6及び図7に示される。図6は、実摩耗量と実施例の予測摩耗量との関係を示すグラフである。図7は、実摩耗量と比較例の予測摩耗量との関係を示すグラフである。図6及び図7の横軸は、実摩耗量であり、実験的に複合走行時のタイヤ摩耗量を測定したものである。図6の縦軸は、タイヤ摩耗量を実施例の方法により予測した予測摩耗量である。図7の縦軸は、タイヤ摩耗量を比較例の方法により予測した予測摩耗量である。図6には、点pでの実摩耗量と予測摩耗量の計算値との関係が□印として示され、実摩耗量と予測摩耗量とが同一である直線が、破線で示されている。図7には、点pでの実摩耗量と比較例の予測摩耗量との関係が□印として示され、実摩耗量と予測摩耗量とが同一である直線が、破線で示されている。
【0058】
図6及び図7から明らかなように、実施例の□印は、実摩耗量と予測摩耗量とが同一である破線近傍に分布し、実施例の予測摩耗量が、実摩耗量に近い値となっていることが確認された。従って、実施例は、比較例に対し、複合走行時のタイヤ摩耗性能をより正確に予測していることが確認できた。
【符号の説明】
【0059】
N1 第1工程
N2 第2工程
N3 第3工程
S5 換算済前後力を求めるステップ
S6 和を計算するステップ
S7 摩耗エネルギー前後成分を計算するステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7