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特許7497597避難安全性評価システム、避難安全性評価方法及び避難安全性評価プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】避難安全性評価システム、避難安全性評価方法及び避難安全性評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/16 20240101AFI20240604BHJP
   G08B 5/00 20060101ALI20240604BHJP
   A62B 3/00 20060101ALI20240604BHJP
   G08B 29/00 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
G06Q50/16
G08B5/00 C
A62B3/00 B
G08B29/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020061501
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021162936
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】矢部 周子
(72)【発明者】
【氏名】山口 純一
(72)【発明者】
【氏名】岸上 昌史
【審査官】菅原 浩二
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1991258(KR,B1)
【文献】特開2010-157121(JP,A)
【文献】特開2004-333952(JP,A)
【文献】特開2006-309456(JP,A)
【文献】特開2014-153787(JP,A)
【文献】特開2002-108196(JP,A)
【文献】尾崎 昭剛,矩形領域分割による誘導灯自動配置アルゴリズム,電子情報通信学会論文誌D [online] ,日本,電子情報通信学会,2015年,Vol.J98-D, No.6 ,pp.916-925
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G08B 5/00
A62B 3/00
G08B 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御部を備えた避難安全性評価システムであって、
前記制御部が、
避難口に接続する通路、前記通路に配置された複数の誘導表示が表示された配置図を表示部に出力し、
前記配置図に含まれる前記誘導表示の各々について、前記誘導表示の視認性に応じた有効範囲を特定し、
前記誘導表示の各々について、視認性に応じて設定された前記有効範囲を前記配置図に表示し、
前記通路のうち前記有効範囲が設定されていない領域を検出し、前記有効範囲が設定されていない領域が小さいほど又は前記有効範囲が設定されていない領域の数が少ないほど、避難安全性に関する評価値を高く算出することを特徴とする避難安全性評価システム。
【請求項2】
前記誘導表示の前記有効範囲を、前記誘導表示と正対する方向の距離を最も長くした形状で構成した
請求項1に記載の避難安全性評価システム。
【請求項3】
前記誘導表示の前記有効範囲を、前記誘導表示の大きさ、明るさ、周囲との明るさの対比、及び高さ方向の設置位置のうち少なくとも一つに基づいて決定する
請求項1又は2に記載の避難安全性評価システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記評価値が予め設定された基準値以上となるように、前記誘導表示の増設又は前記有効範囲が大きい前記誘導表示の設定を行なう、請求項1~3のいずれか1項に記載の避難安全性評価システム。
【請求項5】
前記制御部が、
前記配置図に含まれる前記誘導表示の各々について、複数の有効範囲のテンプレートの中から一つの前記テンプレートを選択し、
前記配置図に含まれる前記誘導表示について、前記誘導表示の大きさ、明るさ、及び高さ方向の設置位置の少なくとも一つに応じて選択した前記テンプレートを用いて、前記配置図における前記誘導表示の位置に基づき前記有効範囲を特定し、
特定した前記有効範囲を前記配置図に表示する、請求項1に記載の避難安全性評価システム。
【請求項6】
制御部が、
避難口に接続する通路、前記通路に配置された複数の誘導表示が表示された配置図を表示部に出力する第1表示制御ステップと、
前記配置図に含まれる前記誘導表示の各々について、前記誘導表示の視認性に応じた有効範囲を特定する特定ステップと、
前記誘導表示の各々について、視認性に応じて設定された前記有効範囲を前記配置図に表示する第2表示制御ステップと、
前記通路のうち前記有効範囲が設定されていない領域を検出し、前記有効範囲が設定されていない領域が小さいほど又は前記有効範囲が設定されていない領域の数が少ないほど、避難安全性に関する評価値を高く算出する評価ステップと、を実行する
避難安全性評価方法。
【請求項7】
制御部に、
避難口に接続する通路、前記通路に配置された複数の誘導表示が表示された配置図を表示部に出力する第1表示制御ステップと、
前記配置図に含まれる前記誘導表示の各々について、前記誘導表示の視認性に応じた有効範囲を特定する特定ステップと、
前記誘導表示の各々について、視認性に応じて設定された前記有効範囲を前記配置図に表示する第2表示制御ステップと、
前記通路のうち前記有効範囲が設定されていない領域を検出し、前記有効範囲が設定されていない領域が小さいほど又は前記有効範囲が設定されていない領域の数が少ないほど、避難安全性に関する評価値を高く算出する評価ステップと、を実行させる
避難安全性評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は避難安全性評価システム、避難安全性評価方法及び避難安全性評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
建築物における防災計画を立案することなどを目的として、避難口、通路、居室や店舗の位置等を含む配置図に基づき、非常時に避難者が避難口まで安全に避難することができるか否かについての評価が行われている。例えば、特許文献1では、空間モデル、人間モデル、煙モデル等を用いて、避難者の行動を予測するシステムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-107231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
避難行動では、避難者が避難経路を容易に把握できることが重要である。しかし、上記システムでは、避難者が避難経路を把握できるか否かまでは考慮されていない。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、避難者を適切に避難口に誘導可能であるか否かを含めて避難安全性を評価することを可能とする避難安全性評価システム、避難安全性評価方法及び避難安全性評価プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する避難安全性評価システムは、制御部を備えた避難安全性評価システムであって、前記制御部が、避難口に接続する通路、通路に配置された誘導表示が表示された配置図を表示部に出力し、前記配置図に含まれる前記誘導表示について、前記誘導表示の視認性に応じた有効範囲を特定し、前記誘導表示の視認性に応じて設定された有効範囲を前記配置図に表示する。
【0006】
上記構成によれば、誘導表示の視認性に応じた有効範囲が配置図に表示されるため、誘導表示の視認しやすさを含めて避難経路の避難安全性を評価することが可能となる。
上記避難安全性評価システムについて、前記誘導表示の前記有効範囲を、前記誘導表示と正対する方向の距離を最も長くした形状で構成することが好ましい。
【0007】
上記構成によれば、有効範囲は正対方向の距離が最も長いため、誘導表示の視認性を、実際の視認性に即して適切に設定することができる。
上記避難安全性評価システムについて、前記誘導表示の前記有効範囲は、前記誘導表示の大きさ、明るさ、周囲との明るさの対比、及び高さ方向の設置位置のうち少なくとも一つに基づいて決定されることが好ましい。
【0008】
上記構成によれば、有効範囲は、誘導表示の大きさ、明るさ、周囲との明るさの対比、及び高さ方向の設置位置のうち少なくとも一つに基づいて設定されるため、誘導表示の視認性を、実際の視認性に即して適切に設定することができる。
【0009】
上記避難安全性評価システムについて、前記通路のうち前記有効範囲が表示されていない領域の大きさに応じて、避難安全性に関する評価値を算出する評価部を備えることが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、通路のうち有効範囲が表示されていない領域の大きさに応じて評価値が算出される。このため、算出した評価値を有効に活用することにより、避難安全性をより高めた避難経路を立案することができる。例えば、評価値をユーザが用いるディスプレイに出力し、ユーザが評価値に基づいて有効範囲が表示されていない領域が小さくなるように避難経路を設定すれば、誘導表示の視認性が高められることによって避難安全性がさらに向上した避難経路を立案することができる。
【0011】
上記課題を解決する避難安全性評価方法は、制御部が、避難口に接続する通路、通路に配置された誘導表示が表示された配置図を表示部に出力する第1表示制御ステップと、前記配置図に含まれる前記誘導表示について、前記誘導表示の視認性に応じた有効範囲を特定する特定ステップと、前記誘導表示の視認性に応じて設定された前記有効範囲を前記配置図に表示する第2表示制御ステップと、を実行する。
【0012】
上記課題を解決する避難安全性評価プログラムは、制御部に、避難口に接続する通路、通路に配置された誘導表示が表示された配置図を表示部に出力する第1表示制御ステップと、前記配置図に含まれる前記誘導表示について、前記誘導表示の視認性に応じた有効範囲を特定する特定ステップと、前記誘導表示の視認性に応じて設定された前記有効範囲を前記配置図に表示する第2表示制御ステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、避難者を適切に避難口に誘導可能であるか否かを含めて避難安全性を評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係る避難安全性評価システムの概略図。
図2】同実施形態における避難口及び通路の位置を含む配置図。
図3】従来における誘導表示の有効範囲を示す模式図。
図4】同実施形態における誘導表示の有効範囲を示す図。
図5】同実施形態における避難安全評価方法の処理手順を示すフローチャート。
図6】同実施形態における有効範囲が設定された配置図。
図7】同実施形態における有効範囲が設定された配置図。
図8】第2実施形態における避難安全評価方法の処理手順を示すフローチャート。
図9】変形例における誘導表示の有効範囲を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
図1に示すように、避難安全性評価システム10は、非常時に建築物内に居る者(避難者)が避難口まで避難することが可能であるかを評価するためのシステムである。避難安全性評価システム10は、評価装置11、表示部12及び入力操作部13を備えている。評価装置11は、制御部20及び記憶部21を備えている。制御部20は、CPU等の演算回路、演算回路が読み出し及び書き込みが可能なメモリ等を有する。記憶部21は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等の記憶媒体である。記憶部21は、1つの記憶媒体であってもよいし、複数の記憶媒体から構成されていてもよい。
【0016】
記憶部21には、配置図情報30及び有効範囲情報31と、これらを表示部12に表示するためのプログラムが格納されている。制御部20は、このプログラムを実行することにより、第1表示制御ステップ、特定ステップ、第2表示制御ステップ等といった各種ステップを実行する。配置図情報30は、避難安全性を評価する対象となる建築物内の避難口等の配置を示す情報である。有効範囲情報31は、通路や避難口に配置され経路の目印とされる誘導灯及び誘導標識の有効範囲を示す。この有効範囲の設定方法については後述する。以下、誘導灯及び誘導標識を区別しないで説明する場合には、これらを単に「誘導表示」として説明する。
【0017】
入力操作部13は、ユーザが評価装置11に各種の情報を入力するためのものであり、タッチパネル、キーボード、マウス等から構成される。また、表示部12は、制御部20が出力したデータに基づき画像を表示する。表示部12は、入力操作部13であるタッチパネルと一体型であってもよい。
【0018】
図2は、配置図情報30に基づき表示される配置図40の一例である。配置図情報30は、ユーザが表示部12に表示された図面を確認しつつ入力操作部13を操作することにより作成又は編集されたものである。配置図情報30は、設計支援ツール(例えば、CAD)等で利用可能なデータ形式、汎用的な画像編集アプリケーションで利用可能なデータ形式等であってもよい。配置図情報30には、屋外又は非常階段等へ連通する避難口32の位置、通路33の位置や方向の情報が含まれる。
【0019】
また、配置図情報30には、誘導表示35の位置及び誘導表示35の向きに関する位置情報、誘導表示35によって示される避難口32へ向かう方向(避難方向)に関する情報、誘導表示35の属性情報が含まれる。これらの情報は、ユーザが入力した情報である。誘導表示35の位置は、配置図40の座標系であるX方向及びY方向に加え、これらの座標軸に対して垂直な高さ方向等を用いて表される。つまり、位置情報には、誘導表示35の床面からの高さ位置を含む。誘導表示35の向きは、避難者が視認する表示面の向きであって、配置図40の座標系であるX方向及びY方向を用いて表されるか、又は通路33の進行方向に対して平行方向又は垂直方向等のように表される。誘導表示35の属性情報は、誘導灯及び誘導標識といった種別、誘導表示35の大きさ、明るさ等の情報を含む。誘導表示35の大きさは、面積、縦方向の長さ(高さ)、横方向の長さ(幅)の少なくとも一つである。誘導表示35の明るさは、誘導灯の明るさであって、輝度・光度・照度等で表される。大きさ及び明るさは、それらの2つのパラメータで決定される階級(A級、B級等)で表されてもよい。この誘導表示35は、消防法に従って、出入口や、通路33の曲がり角等に設置する必要がある。また、図示を省略するが、配置図情報30には、部屋36及び部屋36に出入りするドアに関する情報が含まれていてもよい。
【0020】
図3及び図4を参照して、誘導表示35の有効範囲について詳述する。発明者らは、避難者の行動に、誘導表示35の視認性が影響する点に着目した。図3は、従来の誘導表示35の有効範囲100を示す。消防法では、誘導灯の有効範囲について、避難方向を示すシンボルの有無や誘導灯の区分等に分けてその距離が設定されている。有効範囲の距離は一定であり、誘導表示35を基準とした略半円状の範囲となる。
【0021】
しかし、有効範囲100内であっても避難者の位置に応じて誘導表示35の視認しやすさである視認性は異なる。誘導表示35の表示面35Aの正面位置にいる避難者101は、視線方向が、表示面35Aの法線方向110と平行である。この場合には、避難者101は、誘導表示35に気付きやすく視認しやすい。このため、避難者は、避難方向を容易に把握し、適切な避難行動をとることができる。一方、図3中、表示面35Aからみて右側方の位置にいる避難者102は、視認可能な有効面積が小さくなるために、誘導表示35に気付きにくいか、又は気付いたとしても誘導表示35が示す内容を把握しにくくなる。誘導表示35の表示面35Aに対する法線方向110と、避難者の視線方向111とがなす角度のうち小さい角度を「視認角度θ」とするとき、視認角度θが大きくなるほど、誘導表示35の視認性が低下する傾向にある。そこで、発明者らは、視認性を考慮した誘導表示35の有効範囲について検討した。
【0022】
図4は、誘導表示35に対する避難者の視認性を考慮した有効範囲46の一例である。有効範囲46は、誘導表示35から有効範囲46の境界までの距離が、正対方向(正面方向)、左側方、及び右側方といった複数の方向において異なっており、正対方向の距離が最も長くなるように構成されている。誘導表示35を基準とした有効範囲46の距離は、視認角度θが大きくなるほど短くなる。有効範囲46の形状は、誘導表示35の形状等を考慮して定めればよく、これらの形状に限定されるものではない。有効範囲46は、実験やシミュレーションにより算出可能である。
【0023】
また、有効範囲46は、従来の有効範囲100の面積以下であってもよく、有効範囲100以上の面積であってもよい。なお、有効範囲46の最大距離は、消防法により規定された距離以下であることが好ましいが、視認性が確保できる場合には規定された距離よりも長く設定してもよい。
【0024】
有効範囲46は、少なくとも誘導灯及び誘導標識に分けて設定されている。また、誘導灯の有効範囲46は、誘導灯の特性に合わせて設定されていてもよい。例えば、誘導灯の大きさ、明るさ、周囲の明るさとの対比及び高さ方向の設置位置のうち少なくとも一つに基づいて、有効範囲46が設定されてもよい。周囲との明るさとの対比は、誘導表示35が配置される環境での視認性を示し、誘導灯が設置された環境における輝度と誘導灯の輝度との差、他の照明器具からの照明光又は窓からの自然光による誘導灯周囲の輝度と誘導灯の輝度等に基づいて決定される。例えば、周囲に明るい照明器具がなく自然光が入らない環境等に誘導灯が設置された場合には、誘導灯が目立ち視認性が良好となるため有効範囲46は広くなる。また、照明器具の手前に誘導灯が配置された場合には誘導灯が目立たず視認性が悪化するため有効範囲46は狭くなる。
【0025】
次に図5を参照して、制御部20に実行される安全性評価方法について説明する。
制御部20は、ユーザの入力操作に基づく指示に従って、配置図情報30を記憶部21から読み出し、配置図情報30に基づく配置図を表示部12に表示する(ステップS1、第1表示制御ステップ)。
【0026】
次に、制御部20は、ユーザの入力操作に基づく指示に従って、誘導表示35の有効範囲46を特定する(ステップS2、特定ステップ)。また、制御部20は、特定した有効範囲46を配置図40に表示する(ステップS3、第2表示制御ステップ)。有効範囲46を設定する方法としては特に限定されないが、本実施形態では、有効範囲情報31に含まれる複数のテンプレートの中から一つのテンプレートを選択する。テンプレートの各々は、誘導表示35の大きさ及び明るさに応じて作成されたものであり、有効範囲46を表示部12に表示するものである。制御部20は、複数のテンプレートが、当該テンプレートに対応する大きさ及び明るさの情報とともに表示されたリストを表示部12に表示し、ユーザがリストの中から指定したテンプレートを選択してもよい。又は、制御部20は、ユーザが評価装置11に入力した誘導表示35の大きさ、明るさ、及び高さ方向の設置位置に基づき、それらに対応するテンプレートを選択するようにしてもよい。制御部20は、テンプレートを選択すると、誘導表示35の位置とテンプレートとを関連付けて記憶部21に記憶する。
【0027】
図6は、配置図40に表示された全ての誘導表示35に対して有効範囲46を設定した状態を示す。制御部20は、表示面35Aの所定位置(例えば中心点)を基準に、表示面35Aの正面側にテンプレートを表示する。制御部20は、有効範囲46を、有効範囲46とそうでない範囲とを識別可能に表示すればよく、図6に例示されるように破線で画面上に表示してもよいし、通路や部屋の表示色と異なる色で表示してもよい。なお、図6に示す誘導表示35は、全て誘導灯である。ユーザは、表示部12の画面に表示された配置図40を参照して、有効範囲46の相対位置関係を確認する。例えば、通路33aのように、隣り合う有効範囲46が重複している場合、有効範囲46同士が接している場合、隣接する有効範囲46が接していないもののそれらの相対距離が極めて短く許容値以下である場合(例えば数十cm等)は、誘導表示35の視認性が良好であると判定する。そして、視認性が良好であるそれらの有効範囲46が重ねられた区間においては、避難者が避難方向へ容易に移動することが想定されるため、避難安全性が高いと評価する。
【0028】
一方、例えば、図6中、通路33bのように、隣り合う有効範囲46同士が離間し、それらの相対距離が許容値を超える場合、それらの有効範囲46内では誘導表示35の視認性が良好であるものの、それらの有効範囲46に挟まれ、有効範囲46ではない領域について誘導表示35の視認性が悪いと判定する。そしてユーザは、その領域は避難安全性が低いと評価する。
【0029】
図7に示すように、配置図40上で避難安全性が低いと評価された領域に、任意の種類の誘導表示35を追加して、当該領域に有効範囲46が重ねられるようにする。追加した誘導表示35は、その表示態様を、既に配置されている誘導表示35の表示態様と異ならせてもよい。例えば、追加した誘導表示35の表示色を変更する等、既に配置されている誘導表示35との間で識別可能に表示するようにしてもよい。配置図40に誘導表示35が追加されると、制御部20は、誘導表示35の位置、誘導表示の属性(大きさ及び明るさ)と有効範囲46を示すテンプレートとを関連付けて記憶部21に記憶する。図7に示すように、全ての通路33に漏れなく有効範囲46が重ねられていると、実際に通路33の全ての位置から誘導表示35が視認しやすくなるため、避難者は避難経路を把握しやすくなる。
【0030】
また、有効範囲46の相対位置関係を配置図40で確認することにより、ユーザが、有効範囲46の重複が最小限となるように誘導表示35の数や配置等を調整することも可能である。例えば、有効範囲46の重複の度合いが大きい場合には、ユーザは、誘導表示35を表示面35Aの面積が小さく有効範囲46が小さいものに変更したり、又は誘導表示35自体を省略したり、誘導表示35の位置を変更したりすることができる。これにより、誘導表示35を適切に配置することができる。
【0031】
以上説明したように、第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)誘導表示35の視認性に応じた有効範囲46が配置図40に表示されるため、避難者を適切に避難口に誘導可能であるか否かを含めて避難経路の避難安全性を評価することが可能となる。
【0032】
(2)有効範囲46は正対方向の距離が最も長いため、誘導表示35の視認性を、実際の視認性に即して適切に設定することができる。
(3)有効範囲46は、誘導表示の大きさ、明るさ、周囲との明るさの対比、及び高さ方向の設置位置のうち少なくとも一つに基づいて設定されるため、誘導表示35の視認性を、実際の視認性に即して適切に設定することができる。
【0033】
(第2実施形態)
次に、避難安全性評価システム10の第2実施形態を説明する。なお、第2実施形態では、評価装置11が安全性評価を自動的に行う点で第1実施形態と相違する。以下、第1実施形態と同様の部分については同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0034】
避難安全性評価システム10の物理的構成は第1実施形態と同様である。また、評価装置11の記憶部21には、安全性評価処理を実行するための避難安全性評価プログラムが格納されている。制御部20は、このプログラムを実行することにより、第1表示制御ステップ、特定ステップ、第2表示制御ステップ、評価ステップ等といった各種ステップを実行する。
【0035】
図8を参照して、制御部20が実行する安全性評価方法の処理手順について説明する。制御部20は、第1実施形態と同様に、配置図を表示し(ステップS1)、有効範囲46を設定する(ステップS2)。また、制御部20は、通路33のうち有効範囲46が設定されていない領域を検出する(ステップS3)。有効範囲46とそれ以外の範囲とが異なる色で表示する場合には、通路33のうち、有効範囲46の表示色以外の表示色の領域を検出する。また、有効範囲46が破線等の境界線で囲まれている場合には、通路33のうち、その境界線以外の領域を検出する。
【0036】
次いで、制御部20は、全ての通路33のうち有効範囲46が占める度合いに基づいて、避難安全性を評価する(ステップS4、評価ステップ)。例えば、制御部20は、有効範囲46が全ての通路33を包含しているか否かを判定する。有効範囲46が全ての通路33を包含している場合、制御部20は避難安全性が高いことを示す評価値を算出し、有効範囲46が全ての通路33を包含していない場合、避難安全性が低いことを示す評価値を算出してもよい。また、通路33のうち有効範囲46が占める度合いは、例えば、有効範囲46が設定されていない領域の大きさや数を用いてもよい。例えば制御部20は、有効範囲46の間であって有効範囲46が設定されていない領域の最短距離を算出して、最短距離に応じた評価値を算出してもよい。また、制御部20は、通路33の有効範囲46の間であって有効範囲46が設定されていない領域に含まれる画素数等を用いて面積を算出して、面積に応じた評価値を算出してもよい。ここでは、有効範囲46間の最短距離が短くなるほど、又は有効範囲46が設定されていない領域の面積が小さくなるほど、又は有効範囲46が設定されていない領域の数が少なくなるほど、評価値を高く算出する関数を用いる。例えば、この関数は、有効範囲46間の最短距離が基準値以下である場合に、避難安全性が高いことを示す評価値を算出し、有効範囲46間の最短距離が基準値を超える場合に、避難安全性が低いことを示す評価値を算出するようにしてもよい。また、この関数では、有効範囲46間の最短距離が長くなるほど、又は有効範囲46が設定されていない領域の面積が広くなるほど、又は有効範囲46が設定されていない領域の数が多くなるほど、評価値を低く算出する。そして、制御部20は、避難安全性の評価値を表示部12に出力する。
【0037】
以上説明したように、第2実施形態によれば、第1実施形態に記載の(1)~(3)に記載の効果に加えて以下の効果が得られる。
(4)通路33のうち有効範囲46が表示されていない領域の大きさに基づいて、避難安全性を評価した。このため、評価値を高めるように避難経路を設定すれば、誘導表示35の視認性が高められることによって避難安全性がさらに向上した避難経路を立案することができる。
【0038】
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。各実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・第2実施形態では、全ての通路33のうち有効範囲46が占める度合いに基づいて避難安全性を評価した評価値を算出するようにした。これに代えて若しくは加えて、評価値が予め設定された基準値以上となるように、制御部20が、誘導表示35を増設したり、有効範囲46が大きい誘導表示35に変更したレイアウトを自動的に算出したりして、表示部12に出力するようにしてもよい。又は、制御部20が、有効範囲46が通路33の全てを包含しているか否かを判定し、その判定結果を評価値として表示部12に出力してもよい。さらに、有効範囲46が通路33の全てを包含するように誘導表示35を増設したり、有効範囲46が大きい誘導表示35に変更したレイアウトを自動的に算出したりして、表示部12に出力するようにしてもよい。
【0039】
・上記各実施形態では、有効範囲46は各方向において異なる距離を有する範囲としたが、誘導表示35を基準とする距離が一定の範囲としてもよい。又は、上記各実施形態における有効範囲46とこの有効範囲とを組み合わせても良い。図9に示す有効範囲46は、誘導表示35から有効範囲46の境界までの距離が一定である。この有効範囲46は、従来の半円状の有効範囲100のうち、誘導表示35からみて左側方の所定範囲及び右側方の所定範囲を除く、正対方向の範囲である。このようにしても、誘導表示35の視認性に応じた有効範囲を設定することができる。
【0040】
・上記各実施形態では、有効範囲46を設定する方法として、複数のテンプレートから設定対象の誘導表示35に合った一つのテンプレートを選択する方法を用いた。これに代えて若しくは加えて、ユーザが評価装置11に有効範囲46の距離や幅等を入力し、制御部20が入力情報に基づき有効範囲46を作成する方法を用いてもよい。また、制御部20は、誘導表示35によって有効範囲46を変更することなく、固定のテンプレートを用いて有効範囲46を設定してもよい。
【0041】
・上記各実施形態では、制御部20が、ユーザが入力した誘導表示35の位置情報及び属性情報に基づき、配置図40を表示部12に表示するようにした。そして、有効範囲46が設定されていない領域を配置図40上で識別可能に表示した。これに代えて、制御部20は、有効範囲46が設定されていない領域を識別可能に表示する工程を省略して、全ての通路33に有効範囲46が設定された配置図40を表示部12に表示するようにしてもよい。例えば、新たに建築物を建てる場合には、全ての通路33に有効範囲46が設定された配置図40を参照して、誘導表示35を表示すればよい。また、既存の建築物の避難安全性評価を行う場合には、既に設置している誘導表示35と、制御部20が、設置が必要であるとして追加した誘導表示35とを識別可能に表示してもよい。
【0042】
・第1実施形態では、有効範囲46を表すテンプレートから一つのテンプレートを選択することによって、制御部20が誘導表示35に有効範囲46を設定した。これに代えて、ユーザが、入力操作部13を操作して、誘導表示35に合った有効範囲46を表す図形を作成し、その図形を誘導表示35の正面側に配置するようにしてもよい。このようにユーザが有効範囲46を設定する場合であっても、避難者を適切に避難口に誘導可能であるか否かを含めて避難経路の避難安全性を評価することが可能となる。
【0043】
・上記各実施形態では、誘導表示35の位置情報には、配置図40のX方向及びY方向の位置に加え、高さ方向の設置位置を含むものとしたが、位置情報は、配置図40のX方向及びY方向の位置を含み、高さ方方向の設置位置を含まなくてもよい。
【0044】
・制御部20は、一つの演算回路から構成されるものとは限らず、複数の演算回路から構成されていてもよい。また、評価装置11の制御部20の機能は、複数の装置に分散されていてもよい。
【0045】
・評価装置11は、ユーザが用いる端末にネットワークを介して接続されていてもよい。この態様において、評価装置11は、避難安全性の評価結果を端末に送信するようにしてもよい。また、この端末は、誘導表示35に関する情報を入力し、入力した情報を評価装置11に送信するようにしてもよい。この態様によれば、建築物内に設置された誘導表示35に関する情報、誘導表示35が設置された環境に関する情報等を、ユーザが実際に建築物の内部で確認しながら評価装置11に送信することができる。
【0046】
・評価装置11が行う処理の少なくとも一部を、評価装置11にネットワークを介して接続するサーバ装置に実行させるようにしてもよい。例えば、評価装置11は、サーバ装置に対して配置図情報30の送信、評価結果の情報要求を行い、サーバ装置から受信した各種の情報に基づき配置図や評価結果を表示部12に表示するようにしてもよい。また、例えばサーバ装置は、配置図情報30及び有効範囲情報31の登録、避難安全性評価等を行う。このようにしても、避難者を適切に避難口に誘導可能であるか否かを含めて避難経路の避難安全性を評価することが可能となる。
【符号の説明】
【0047】
10…避難安全性評価システム、11…評価装置、12…表示部、13…入力操作部、20…制御部、21…記憶部、31…有効範囲情報、32…避難口、3333a,33b…通路、35…誘導表示、35A…表示面、36…部屋、40…配置図、46…有効範囲、60…参照情報、100…従来の有効範囲、101,102…避難者、110…法線方向、111…視線方向。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9