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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】静電荷現像用トナー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/087 20060101AFI20240604BHJP
   G03G 9/097 20060101ALI20240604BHJP
   G03G 9/093 20060101ALI20240604BHJP
   G03G 9/08 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
G03G9/087 331
G03G9/097 365
G03G9/093
G03G9/08 381
G03G9/087 325
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020076398
(22)【出願日】2020-04-23
(65)【公開番号】P2021173828
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-02-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茂木 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】大西 隼也
(72)【発明者】
【氏名】古川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】門馬 実乃里
(72)【発明者】
【氏名】白井 亜弥
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-184157(JP,A)
【文献】特開2016-224114(JP,A)
【文献】特開2016-110140(JP,A)
【文献】特開2016-080932(JP,A)
【文献】特開2016-004229(JP,A)
【文献】特開2014-077973(JP,A)
【文献】特開2018-031988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08-9/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂及び離型剤を含有するトナー母体粒子を含有する静電荷像現像用トナーであって、
前記結着樹脂が非晶性樹脂及び結晶性樹脂を含有し、
前記結晶性樹脂の含有量が、前記結着樹脂の100質量部に対して4~31質量部の範囲内にあり、前記離型剤の含有量が、前記結着樹脂の100質量部に対して6~20質量部の範囲内にあり、
前記結晶性樹脂が結晶性ポリエステル樹脂を含み、前記結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量が、4000~10000の範囲内にあり、
前記静電荷像現像用トナーを示差走査熱量測定した際の1回目の昇温過程における、前記結晶性樹脂由来の吸熱ピークの立ち上がり温度をT℃、及び吸熱ピーク温度をT℃、並びに、前記離型剤由来の吸熱ピーク温度をT℃としたときに、下記(6)、(7)、(8)及び()の条件を満たすことを特徴とする静電荷像現像用トナー。
(6)Tが60~61℃の範囲内にある。
(7)Tが62~66℃の範囲内にある。
(8)TとTが、下記関係を有する。
≦T+5℃
)TとTが下記関係を有する。
<T≦T+1
【請求項2】
前記トナー母体粒子は、コア粒子と前記コア粒子を被覆するシェル層とを有し、前記結晶性樹脂がコア粒子に含有されることを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
前記静電荷像現像用トナーのフローテスターにより測定される流出開始温度をTfb℃としたときに、さらに下記(5)の条件を満たすことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の静電荷像現像用トナー。
(5)TとTfbが、下記関係を有する。
≦Tfb≦T+10℃
【請求項4】
前記結晶性樹脂の含有量が、前記結着樹脂の100質量部に対して10~20質量部の範囲内にあることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項5】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナーを製造する静電荷像現像用トナーの製造方法であって、
前記結着樹脂及び前記離型剤を含有する微粒子を水系媒体中で加熱撹拌して凝集、融着させてトナー母体粒子前駆体を含む分散液を得る第1の工程と、
前記第1の工程で加熱された前記分散液を、6℃/分以上の降温速度で30℃以下の温度まで冷却する第2の工程と、
前記第2の工程で冷却された前記分散液を、57~62℃の範囲内の温度で30分間以上維持する第3の工程と、
を含む方法で前記トナー母体粒子を製造することを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電荷現像用トナー及びその製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、優れた低温定着性を有するとともに、耐熱保管性、及び定着分離性も併せ持つ静電荷現像用トナー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」という場合がある。)の定着方式としては、常温で圧力ロールのみを用いる圧力定着方式、加熱ロール等を用いる接触加熱型定着方式や、オーブン加熱によるオーブン定着方式、キセノンランプ等によるフラッシュ定着方式、マイクロ波等による電磁波定着方式、溶剤蒸気を用いる溶剤定着方式等の非接触定着方式が採用されている。これらの中でも、信頼性や安全性の面から、熱を用いたオーブン定着方式や接触加熱型定着方式が主に使用されている。
【0003】
特に、加熱ロールやベルト等を用いる接触加熱型定着方式は、通常加熱源を設けた加熱ロール又はベルトと加圧ロール又はベルトとから構成され、加熱ロール又はベルト表面に転写材のトナー画像面を圧接触させながら通過させることにより定着を行うものである。このように、接触加熱型定着方式は、加熱ロール又はベルト表面と転写材のトナー画像面とが直接接触するため、熱効率が有効で迅速に定着を行うことができるという特徴を有しており、広く採用されている。
【0004】
ところで、これらの熱定着方式では、電源を入れてから定着器の温度が使用温度まで迅速に上昇し定着可能な状態となるまでの時間、いわゆるウォームアップタイムの短縮とともに、エネルギー使用量を低減するために、より低温で定着できることが望まれている。
【0005】
特に近年では、省エネルギーの徹底のため使用時以外は定着器への通電を停止することが望まれており、定着器における定着部材の温度は通電とともに瞬時に定着可能な温度に達する必要があるため、より一層低温での定着が必要となっている。また、定着温度を低温化することにより、同じ消費電力であってもプリントスピードの高速化が可能であり、さらに接触加熱型定着方式では加熱ロールなどの定着部材の長寿命化が可能となりコストの面からも好ましい。
【0006】
しかしながら、従来の方法では、トナーの定着温度を低温化させるということは、同時にトナーのガラス転移点をも低下させてしまうことになり、トナーの保存性との両立が困難となる。従って、低温定着化とトナー保存性との両立のためには、トナーのガラス転移点をより高温に保ったまま、高温領域でトナーの粘度が急速に低下するいわゆるシャープメルト性をもつことが必要である。
【0007】
通常トナーに使用される樹脂、すなわち非晶性の樹脂は、ガラス転移点、分子量等がある程度の幅を持つため、シャープメルト性を得るためには、極端に樹脂の組成、分子量をそろえる必要がある。ところが、このような樹脂を得るためには、特殊な製法を用いたり、樹脂をクロマトグラフィー等で処理をすることにより樹脂の分子量を整える必要が生じたりしてしまい、樹脂作製のためのコストが高くならざるを得ず、またその際に不要な樹脂が生じてしまうので、近年の環境保護の観点からも好ましくない。
【0008】
このような低温定着性を実現するために、結着樹脂として結晶性樹脂を使用する方法が検討されている(例えば、特許文献1及び2を参照。)。結晶性樹脂を使用することにより、結晶の融点以下ではトナーの硬さが保持され、融点を超えたところで結晶の融解とともに粘度が急激に低下するため、低温定着が図られる。しかし、これらの特許文献に記載の結晶性樹脂では、転写材への定着性能が十分ではないという問題点があった。
【0009】
転写材への定着性が改善期待される結晶性樹脂としては、結晶性ポリエステル樹脂が挙げられる。結晶性ポリエステル樹脂をトナーに用いる例としては、ガラス転移温度が40℃以上の非結晶性ポリエステルと、融点が130℃~200℃の結晶性ポリエステルとを混合して用いる方法が提案されている(例えば、特許文献3を参照。)。しかし、この方法は優れた粉砕性、耐ブロッキング性を有するものの、結晶性ポリエステル樹脂の融点が高いため、従来以上の低温定着性は達成できない。
【0010】
また、結晶性樹脂として融点が110℃以下の樹脂を用い、非結晶性樹脂を混合させトナーとして使用する例もある(例えば、特許文献4を参照。)。しかしながら、結晶性樹脂に対して非結晶性樹脂を混合する場合には、トナーにおいて融点降下が生じ、トナーブロッキング、紛体流動性の悪化といった問題が生じる。
【0011】
さらに、これらのトナーにおいて、転写材にトナー画像を定着後、定着用の加熱ロール又はベルトが転写材上のトナー画像から離れる際の分離性(定着分離性)を高めるためにトナーに離型剤を含有させることが行われている。しかしながら、これらのトナーでは定着分離性について、トナーの低温定着性及び耐熱保管性とのバランスを考慮した設計がなされているわけではなかった。
【0012】
すなわち、これまでの技術では、低温定着性と耐熱保管性、及び定着分離性の全てを満たすトナーを得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特公昭56-13943号公報
【文献】特公昭63-25335号公報
【文献】特公昭62-39428号公報
【文献】特公平4-30014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、優れた低温定着性を有するとともに、耐熱保管性、及び定着分離性も併せ持つ静電荷像現像用トナー及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、トナー母体粒子が結晶性樹脂と離型剤を含む静電荷像現像用トナーにおいて、当該トナーを示差走査熱量測定した際の結晶性樹脂及び離型剤の融解特性を示すそれぞれの吸熱ピークに着目した。そして、結晶性樹脂の融解開始温度(吸熱ピークの立ち上がり温度)、融点(吸熱ピーク温度)、及び融解開始温度と融点の温度差、並びに結晶性樹脂の融点と離型剤の融点(吸熱ピーク温度)の温度差を特定の範囲内に調整することにより、優れた低温定着性を有するとともに、耐熱保管性、及び定着分離性も併せ持つ静電荷像現像用トナーを提供できることを見いだし、本発明に至った。
すなわち、本発明に係る課題は、以下の手段によって解決される。
【0016】
1.結着樹脂及び離型剤を含有するトナー母体粒子を含有する静電荷像現像用トナーであって、
前記結着樹脂が非晶性樹脂及び結晶性樹脂を含有し、
前記結晶性樹脂の含有量が、前記結着樹脂の100質量部に対して4~31質量部の範囲内にあり、前記離型剤の含有量が、前記結着樹脂の100質量部に対して6~20質量部の範囲内にあり、
前記結晶性樹脂が結晶性ポリエステル樹脂を含み、前記結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量が、4000~10000の範囲内にあり、
前記静電荷像現像用トナーを示差走査熱量測定した際の1回目の昇温過程における、前記結晶性樹脂由来の吸熱ピークの立ち上がり温度をT℃、及び吸熱ピーク温度をT℃、並びに、前記離型剤由来の吸熱ピーク温度をT℃としたときに、下記(6)、(7)、(8)及び()の条件を満たすことを特徴とする静電荷像現像用トナー。
(6)Tが60~61℃の範囲内にある。
(7)Tが62~66℃の範囲内にある。
(8)TとTが、下記関係を有する。
≦T+5℃
)TとTが下記関係を有する。
<T≦T+1
【0017】
2.前記トナー母体粒子は、コア粒子と前記コア粒子を被覆するシェル層とを有し、前記結晶性樹脂がコア粒子に含有されることを特徴とする第1項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0018】
3.前記静電荷像現像用トナーのフローテスターにより測定される流出開始温度をTfb℃としたときに、さらに下記(5)の条件を満たすことを特徴とする第1項又は第2項に記載の静電荷像現像用トナー。
(5)TとTfbが、下記関係を有する。
≦Tfb≦T+10℃
【0023】
.前記結晶性樹脂の含有量が、前記結着樹脂の100質量部に対して10~20質量部の範囲内にあることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0024】
.請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナーを製造する静電荷像現像用トナーの製造方法であって、
前記結着樹脂及び前記離型剤を含有する微粒子を水系媒体中で加熱撹拌して凝集、融着させてトナー母体粒子前駆体を含む分散液を得る第1の工程と、
前記第1の工程で加熱された前記分散液を、6℃/分以上の降温速度で30℃以下の温度まで冷却する第2の工程と、
前記第2の工程で冷却された前記分散液を、57~62℃の範囲内の温度で30分間以上維持する第3の工程と、
を含む方法で前記トナー母体粒子を製造することを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明の上記手段により、優れた低温定着性を有するとともに、耐熱保管性、及び定着分離性も併せ持つ静電荷像現像用トナー及びその製造方法を提供することができる。
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確になっていないが、以下のように推察している。
【0026】
電子写真システムにおいて、数十ミリ秒単位の極短い定着ニップ時間内でトナーを定着可能な粘度までに下げるためには、トナー母体粒子の結着樹脂に結晶性樹脂を含有させ、その可塑化効果をいかに最大限発揮させられるかがポイントになっている。すなわち、紙等の転写材上に載ったトナーが定着ニップ中を通過し終えるまでの時間内で素早く結晶性樹脂の融解を開始させ、素早くトナー母体粒子全体に融解した結晶性樹脂を拡散させる必要がある。拡散速度を上げるためには結晶性樹脂の分子量を下げることが有効な手段である。
【0027】
しかしながら、結晶性樹脂は、幅広い分子量分布を有すること、トナー中の別の資材の影響で結晶欠陥が多数発生すること、非晶性樹脂等への相溶化の観点で幅広い融点分布を持つことから、結晶性樹脂の融点を下げると融解開始温度(融点が一番低い成分が溶け始める温度)も同時に下がってしまう。
【0028】
また、輸送時又は電子写真システムの装置内で高温に曝されるとトナーが凝集して画像不良や流動性悪化による現像剤特性の低下を招く。このようなトナーの凝集を抑制するためには特別な対応を入れない限りは60℃程度の耐熱保管性が必要になってくる。よってトナーの凝集を極力抑制するためには必要以上に低い融点の結晶性樹脂を排除する必要がある。
【0029】
そこで、本発明においては、耐熱保管性の悪化による品質への影響を最低限に抑制するためにトナーを示差走査熱量測定(以下、「DSC」ともいう。)した際の結晶性樹脂の融解開始温度(吸熱ピークの立ち上がり温度T)を57℃以上とした。以下、DSCにより得られるチャートを「DSC曲線」という。さらに、結晶性樹脂は定着時に素早く融解し、素早く非晶性樹脂に濡れ広がる必要があることから、Tと溶け終わりに該当する融点(DSC曲線における吸熱ピーク温度T)の温度差はなるべく小さい方が望ましい。Tが低すぎると耐熱保管性が悪化し、高すぎても融解開始のタイミングが遅れるため低温定着性の効果が薄れてしまう。また、Tは低い方が好ましいが、前述のとおり結晶性樹脂は融点の分布を狭く製造するのが難しい。トナー中の結晶性樹脂の融点Tが高くなりすぎると融解完了のタイミングが遅くなるため、低温定着性の効果が薄れてしまう。本発明のトナーにおいては、これらを全て勘案して、Tの範囲を57~62℃、Tの範囲を60~70℃とし、T≦T+12℃とすることで、耐熱保管性及び低温定着性を担保した。
【0030】
さらに、本発明のトナーにおいては、耐熱保管性及び定着分離性を担保するために、トナー母体粒子に離型剤を含有させ、トナー中の離型剤の融点(DSC曲線における吸熱ピーク温度T)と結晶性樹脂の融点TをT<T≦T+15℃の関係とした。その作用機構は以下のとおりと考えている。
【0031】
定着ニップにおいて加熱されて温度が上昇すると結晶性樹脂が吸熱しながら溶融して非晶性樹脂と相溶して定着する。トナーのDSC曲線において、離型剤由来の吸熱ピークが結晶性樹脂由来の吸熱ピークと重なり合う領域がある場合、定着部材から伝わる熱エネルギーが結晶性樹脂の融解だけでなく離型剤の融解にも消費され、結晶性樹脂の融解が遅れることで結晶性樹脂による可塑化効果が発揮される速度が低下してしまい低温定着化の効果が低減してしまう。離形剤の融点Tが結晶性樹脂の融点T以下の場合は、規定の温度(本発明ではTであり、57℃以上)未満の低融点成分が増えることで耐熱保管性が悪化する。よって、本発明のトナーにおいては、T<Tとした。
【0032】
また、定着時における転写材上のトナー画像と定着ベルトとの分離性については、溶融したトナーの内部凝集力と、溶融したトナーと定着ベルト間の付着力の関係で表すことができる。トナーの内部凝集力が溶融したトナーと定着ベルト間の付着力より小さくなると、溶融したトナーがベルトから離れにくくなり分離不良を引き起こす。軽微な分離不良の場合は、転写材は定着ベルトから剥がれることは可能だが、定着画像上の離型剤がまばらに存在することで画像不良を引き起こす可能性がある。
【0033】
結晶性樹脂の融解による可塑化効果で非晶性樹脂の粘度が急激に低下して、トナーの内部凝集力が大幅に低下した際、離型剤の融点Tが結晶性樹脂の融点Tに対して大幅に高いとトナーと定着ベルト間の付着力を低下させるタイミングが大幅に遅れるため分離不良を引き起こす。よって、本発明のトナーにおいては、離型剤の融点Tは結晶性樹脂の融点T+15℃以内とした。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の静電荷像現像用トナーは、結着樹脂及び離型剤を含有するトナー母体粒子を含有する静電荷像現像用トナーであって、前記結着樹脂が非晶性樹脂及び結晶性樹脂を含有し、前記静電荷像現像用トナーを示差走査熱量測定した際の1回目の昇温過程における、前記結晶性樹脂由来の吸熱ピークの立ち上がり温度をT℃、及び吸熱ピーク温度をT℃、並びに、前記離型剤由来の吸熱ピーク温度をT℃としたときに、上記(1)、(2)、(3)及び(4)の条件を満たすことを特徴とする。
この特徴は、下記各実施形態に共通する技術的特徴である。
【0035】
本発明の実施形態としては、本発明の効果、特に耐熱保管性の効果をより高く発現できる観点から、前記トナー母体粒子は、コア粒子と前記コア粒子を被覆するシェル層とを有し、前記結晶性樹脂がコア粒子に含有されることが好ましい。
【0036】
本発明のトナーの実施形態としては、本発明の効果、特に低温定着性の効果をより高く発現できる観点から、前記トナーのフローテスターにより測定される流出開始温度をTfb℃としたときに、さらに上記(5)の条件を満たすことが好ましい。
【0037】
トナーのTfbは、トナー中の結晶性樹脂が融解した後、いかに素早く非晶性樹脂に拡散して相溶し、非晶性樹脂の粘度をどれだけ素早く低温で低下させられるかの指標となる。上記(5)の条件を満たすことで、トナーの低温定着性をより高いものとすることができる。
【0038】
本発明のトナーの実施形態としては、本発明の効果をより高く発現できる観点から、さらに、上記(6)、(7)及び(8)の条件を満たすことが好ましい。
【0039】
本発明のトナーの実施形態としては、本発明の効果をより高く発現できる観点から、前記結晶性樹脂が結晶性ポリエステル樹脂を含み、前記結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量が2000~25000の範囲内にあることが好ましく、4000~10000の範囲内にあることがより好ましい。結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量が上記範囲内にあることで、結晶性ポリエステル樹脂の非晶性樹脂への拡散速度を適度な範囲に保つことができる。
【0040】
本発明のトナーの実施形態としては、本発明の効果をより高く発現できる観点から、前記結晶性樹脂の含有量が、前記結着樹脂の100質量部に対して4~31質量部の範囲内にあり、前記離型剤の含有量が、前記結着樹脂の100質量部に対して6~20質量部の範囲内にあることが好ましい。さらに、前記結晶性樹脂の含有量が、前記結着樹脂の100質量部に対して10~20質量部の範囲内にあることがより好ましい。
【0041】
本発明の静電荷像現像用トナーの製造方法は、上記本発明の静電荷像現像用トナーを製造する方法であって、上記第1の工程~第3の工程を含む方法で前記トナー母体粒子を製造することを特徴とする。
【0042】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0043】
[静電荷像現像用トナー]
本発明のトナーは、結着樹脂及び離型剤を含有するトナー母体粒子を含有する。トナーはトナー母体粒子の他にトナー母体粒子の表面に付着される外添剤を含んでもよい。トナー母体粒子が含有する結着樹脂は、非晶性樹脂と結晶性樹脂を含有する。トナー母体粒子は、例えば、非晶性樹脂で構成されるマトリクス中に結晶性樹脂のドメイン及び離型剤のドメインが分散された形態を有する。
【0044】
本発明のトナーは、当該トナーを示差走査熱量測定した際の1回目の昇温過程における、上記結晶性樹脂由来の吸熱ピークの立ち上がり温度をT℃、及び吸熱ピーク温度をT℃、並びに、上記離型剤由来の吸熱ピーク温度をT℃としたときに、下記(1)、(2)、(3)及び(4)の条件を満たすことを特徴とする。
【0045】
(1)Tが57~62℃の範囲内にある。
(2)Tが60~70℃の範囲内にある。
(3)TとTが、下記関係を有する。
≦T+12℃
(4)TとTが下記関係を有する。
<T≦T+15℃
【0046】
本発明において、トナーのDSCは、JIS K 7121-1987に準じて行うことができる。測定装置としては、一般的なDSC装置が使用でき、例えば、「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)が挙げられる。
【0047】
測定手順としては、測定試料(トナー)3.0mgをアルミニウム製パン(KITNO.B0143013)に封入し、ホルダーにセットする。リファレンスは空のアルミニウム製パンを使用する。測定条件としては、測定温度0℃~100℃、昇温速度10℃/分で行う。T、T及びTは、1回目の昇温過程において、以下のとおり求められる温度(℃)である。本明細書において、結晶性樹脂由来の吸熱ピーク及び離形剤由来の吸熱ピークという場合、トナーのDSCにおいて、1回目の昇温過程で観察される吸熱ピークをいう。
【0048】
及びTは結晶性樹脂由来の吸熱ピークに関する温度であり、Tは離形剤由来の吸熱ピークに関する温度である。それぞれの吸熱ピークの特定は、トナーの元素分析等に基づいて行うことができる。又は、トナー製造に用いる原料成分の融点により特定することができる。例えば、トナー製造に用いる原料成分としての結晶性樹脂の融点が、離型剤の融点より低い場合は、トナーのDSC曲線において結晶性樹脂由来の吸熱ピークが離型剤由来の吸熱ピークより低温側で測定される。
【0049】
は結晶性樹脂由来の吸熱ピーク(融解ピーク)の立ち上がり温度である。吸熱ピークの立ち上がり温度は、一般的に補外融解開始温度と定められ、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、融解ピークの低温側の曲線にこう配が最大になる点で引いた接線の交点の温度である。
【0050】
及びTはそれぞれ結晶性樹脂由来の吸熱ピーク温度及び離形剤由来の吸熱ピーク温度である。吸熱ピーク温度(融解ピーク温度)は、一般的に融点とされる温度であり、吸熱ピークの頂点の温度とする。
【0051】
上記(1)、(2)、(3)及び(4)の条件を満たすことにおける効果は上に説明したとおりである。(1)の条件に関し、Tは下記(6)の条件を満たすことが好ましい。(2)の条件に関しTは、下記(7)の条件を満たすことが好ましい。また、(3)の条件に関しTとTの関係は下記(8)の条件を満たすことが好ましい。本発明のトナーにおいては、(6)~(8)の条件を全て満たすことが好ましい。
【0052】
(6)Tが60~61℃の範囲内である。
(7)Tが62~66℃の範囲内である。
(8)TとTが、下記関係を有する。
≦T+5℃
【0053】
さらに、(4)の条件に関し、TとTの関係は、(9)の条件として、T≦T+10℃の関係を満たすことが好ましい。
【0054】
本発明のトナーは、上記(1)~(4)の条件を満たすことに加えて、フローテスターにより測定されるトナーの流出開始温度をTfb℃としたときに、下記(5)の条件を満たすことが好ましい。
(5)TとTfbが、下記関係を有する。
≦Tfb≦T+10℃
【0055】
本発明における、フローテスターによるトナーの流出開始温度Tfbの測定は、例えば、以下のようにして行う。
【0056】
具体的には、まず、20℃、50%RHの環境下において、測定試料(トナー)1.1gをシャーレに入れ平らにならし、12時間以上放置した後、成型器「SSP-10A」(島津製作所社製)によって3820kg/cmの力で30秒間加圧し、直径1cmの円柱型の成型サンプルを作製する。次いで、この成型サンプルを、24℃、50%RHの環境下において、フローテスター「CFT-500D」(島津製作所社製)により、荷重196N(20kgf)、開始温度45℃、予熱時間300秒間、昇温速度6℃/分の条件で、円柱型ダイの穴(1mm径×1mm)より、直径1cmのピストンを用いて予熱終了時から押し出し、昇温法の溶融温度測定方法でオフセット値5mmの設定で測定された値を流出開始温度Tfbとする。
【0057】
このようにして測定されるTfbとTの関係が上記(5)の条件を満たすことで、トナーの低温定着性をより高いものとすることができる。(5)の条件に関し、TfbとTの関係は、(10)の条件としてTfb≦T+5℃を満たすことがより好ましい。
【0058】
上記特性を有するトナーの構成成分について以下に説明する。
【0059】
<トナー母体粒子>
本発明のトナーに係るトナー母体粒子は、結着樹脂及び離型剤を含有し、結着樹脂は、非晶性樹脂と結晶性樹脂を含有する。本発明のトナーにおける、上記(1)~(10)の条件に係る特性は、トナー母体粒子により決まる特性である。すなわち、本発明のトナーにおける、上記(1)~(10)の条件に係る特性は、外添剤に影響されない特性である。したがって、本発明のトナーにおける、上記(1)~(10)の条件に係る特性は、トナー母体粒子が含有する、結着樹脂としての非晶性樹脂と結晶性樹脂、及び離型剤の種類及び組成を適宜選択し、製造方法を適宜調整することで調整できる。
【0060】
トナー母体粒子の形態は特に限定されず、例えば、単層構造、コア・シェル構造、多層構造等が挙げられる。特に、耐熱保管性を確保する観点から、コア・シェル構造であることが好ましい。コア・シェル構造とは、具体的には、コア粒子と当該コア粒子を被覆するシェル層とを有する構造をいう。コア・シェル構造のトナー母体粒子を、以下、「コア・シェル粒子」ともいう。なお、シェル層は、コア粒子を完全に被覆するものに限られず、一部コア粒子表面が露出されていてもよい。
【0061】
トナー母体粒子がコア・シェル粒子である場合、上記結晶性樹脂がコア粒子に含有されることが好ましい。より具体的には、コア粒子が非晶性樹脂の一部と結晶性樹脂と離型剤を含有し、シェル層が非晶性樹脂の残部で構成される態様が挙げられる。コア粒子が含有する非晶性樹脂とシェル層を構成する非晶性樹脂は同じであっても異なってもよい。
【0062】
トナー母体粒子は、結着樹脂及び離型剤以外に着色剤、荷電制御剤等の内添剤を含有してもよい。トナー母体粒子がコア・シェル粒子である場合、これらは、コア粒子に内添されることが好ましい。
【0063】
〔結着樹脂〕
本発明に係るトナー母体粒子において、結着樹脂は、非晶性樹脂及び結晶性樹脂を含有する。
【0064】
(結晶性樹脂)
本発明に係る結晶性樹脂としては、本技術分野における従来公知の結晶性樹脂が用いられうる。結晶性樹脂としては、結晶性ポリエステル樹脂が好ましい。トナー母体粒子がコア・シェル粒子である場合、結晶性樹脂はコア粒子中に含有されることが好ましい。
【0065】
本発明に係る結晶性樹脂とは、示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有する樹脂である。明確な吸熱ピークとは、具体的には示差走査熱量測定(DSC)において、例えば昇温速度10℃/分で測定した際、吸熱ピークの半値幅が15℃以内となるピークを示すものを意味する。
【0066】
本発明において、トナー母体粒子の作製に用いる結晶性樹脂の融点Tmpは、63~75℃の範囲内にあることが好ましく、63~70℃の範囲内にあることがより好ましい。結晶性樹脂の融点Tmpが上記範囲内にあることで、得られるトナーに係るTを上記範囲に調整しやすい。
【0067】
結晶性樹脂の融点Tmpは、例えば、トナーのDSCにより得られるDSC曲線からTを求めるのと同様の方法で、結晶性樹脂のDSC曲線から融解ピーク(吸熱ピーク)の頂点の温度として、求めることができる。
【0068】
なお、トナー母体粒子の製造に用いる結晶性樹脂は、トナー母体粒子を製造する際に、例えば、加熱及び冷却等の操作により融解し再結晶する。したがって、原料の結晶性樹脂とトナー母体粒子中の結晶性樹脂においては、異なるDSC挙動を有することがある。本発明のトナーにおける上記(1)~(10)の条件に係り、用いるT及びTは、トナー母体粒子中の結晶性樹脂のDSC挙動に基づく値である。
【0069】
結着樹脂における結晶性樹脂の含有量は、結着樹脂の100質量部に対して4~31質量部の割合であることが好ましく、より好ましくは10~20質量部である。
【0070】
結晶性樹脂の含有割合が上記範囲であることにより、低温定着性を図ることができるだけの量の結晶性樹脂をトナー母体粒子中に導入することができる。
【0071】
結晶性樹脂の含有割合が上記範囲の下限未満である場合においては、低温定着性が十分に得られないおそれがある。また、結晶性樹脂の含有割合が上記範囲の下限未満の場合、非結晶性樹脂に対する相溶性が向上し、結晶性樹脂が結晶化しにくくなるため、トナー母体粒子のガラス転移点(Tg)が低下してしまうことで耐熱保管性の確保が困難となるおそれがある。なお、トナー母体粒子のTgは、後述する非晶性樹脂のTg(以下、「Tg」で示す。)の測定方法と同様の方法で測定可能である。
【0072】
一方、結晶性樹脂の含有割合が上記範囲の上限を超える場合においては、融解時の潜熱を多く奪われることでトナー全体の温度が上がりにくくなるため定着性が悪化するおそれがある。
【0073】
(結晶性ポリエステル樹脂)
結晶性ポリエステル樹脂は、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)と、2価以上のアルコール(多価アルコール)との重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂のうち、上記結晶性樹脂の範疇にある樹脂である。
【0074】
なお、本明細書において、ポリエステル樹脂とは、ポリエステル重合セグメントのみよりなるものと、他成分を50質量%以下の割合で結合させた変性樹脂との両方の意味を含むものとする。ポリエステル重合セグメントに結合させる他成分としては、ビニル系重合セグメントを用いることが好ましい。
【0075】
多価カルボン酸とは、1分子中にカルボキシ基を2個以上含有する化合物である。結晶性ポリエステル樹脂を形成するための多価カルボン酸としては、例えば、コハク酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸;及びこれらカルボン酸化合物の無水物、あるいは炭素数1~3のアルキルエステルなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
多価アルコールとは、1分子中に水酸基を2個以上含有する化合物である。結晶性ポリエステル樹脂を形成するための多価アルコールとしては、例えば、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、1,7-へプタンジオール、1,8-オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブテンジオールなどの脂肪族ジオール;グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトールなどの3価以上の多価アルコールなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
また、本発明に係る結晶性ポリエステル樹脂については、上記のとおり結晶性ポリエステル樹脂の非晶性樹脂への拡散速度を適度な範囲に保つ観点から、重量平均分子量が2000~25000の範囲内にあることが好ましく、4000~10000の範囲内にあることがより好ましい。
【0078】
結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量が上記範囲の下限未満であると、トナー母体粒子の製造過程において、非晶性樹脂への相溶性が上がり過ぎて結晶化を促進するのが困難になり、所定のTまで上げることが困難となる。また、結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量が上記範囲の上限を超えると非晶性樹脂への拡散速度が大きく低下し、Tを超えて素早く非晶性樹脂の粘度を下げることが困難になり、低温定着性が低下してしまう。
【0079】
本明細書において、結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される値である。結晶性ポリエステル樹脂のGPCによる重量平均分子量は、例えば、以下の方法により測定できる。
【0080】
具体的には、装置「HLC-8120GPC」(東ソー社製)及びカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZ-M3連」(東ソー社製)を用いる。カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2mL/分で流す。測定試料(結晶性樹脂)を室温において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mLになるようにテトラヒドロフランに溶解させ、次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得る。上記試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出し、測定試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて算出される。検量線測定用のポリスチレンとしては10点用いる。
【0081】
(非晶性樹脂)
結着樹脂を構成する非晶性樹脂は、結着樹脂における主成分、具体的には50質量%以上を占める成分、として構成されるものである。本発明に係る非晶性樹脂とは、示差走査熱量測定(DSC)において明確な吸熱ピークを示さないものをいう。「明確な吸熱ピーク」とは、結晶性樹脂において説明したとおりである。結着樹脂における非晶性樹脂の含有量は、結着樹脂の100質量部に対して70~96質量部の割合であることが好ましく、より好ましくは80~90質量部である。
【0082】
非晶性樹脂の含有割合が上記範囲であることにより、結晶性樹脂、特には、結晶性ポリエステル樹脂と共に結着樹脂として用いたときに、十分な定着性、及び、十分なトナーの耐熱保管性や定着画像の耐熱性を確保することができる。
【0083】
非晶性樹脂としては、特に限定されない。具体的には、スチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル共重合体樹脂(以下、「スチレンアクリル樹脂」ともいう。)などのビニル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂などが、定着性、及び、トナーの耐熱保管性や定着画像の耐熱性の観点から、好適なものとして挙げられる。スチレンアクリル樹脂は、具体的には、スチレン系単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体を含む単量体の共重合体である。本明細書において、「アクリル樹脂」は、メタクリル樹脂をその範疇に含む。「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及びメタアクリル酸の少なくとも一方を意味する。
【0084】
また、非晶性樹脂としては、オレフィン系樹脂などの上記以外のビニル樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスルホン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、尿素樹脂などを用いることもできる。非晶性樹脂は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0085】
スチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂などのビニル樹脂を形成するための単量体としては、ビニル単量体が挙げられる。ビニル単量体としては、下記のものなどを用いることができる。ビニル単量体としては、1種単独で、又は2種以上を組み合せて使用することができる。
【0086】
(1)スチレン系単量体
スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-フェニルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン及びこれらの誘導体など。
【0087】
(2)(メタ)アクリル酸エステル系単量体
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル及びこれらの誘導体など。
【0088】
(3)ビニルエステル類
プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニルなど。
【0089】
(4)ビニルエーテル類
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなど。
【0090】
(5)ビニルケトン類
ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトンなど。
【0091】
(6)N-ビニル化合物類
N-ビニルカルバゾール、N-ビニルインドール、N-ビニルピロリドンなど。
【0092】
(7)その他
ビニルナフタレン、ビニルピリジンなどのビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドなどのアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体など。
【0093】
また、ビニル単量体としては、例えば、カルボキシ基、スルフォン酸基、リン酸基などのイオン性解離基を有するビニル単量体を用いることが好ましい。具体的には、以下のものがある。
【0094】
カルボキシ基を有するビニル単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステルなどが挙げられる。また、スルフォン酸基を有するビニル単量体としては、例えば、スチレンスルフォン酸、アリルスルフォコハク酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルフォン酸などが挙げられる。さらに、リン酸基を有するビニル単量体としては例えばアシドホスホオキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0095】
さらに、ビニル単量体として、多官能性ビニル類を使用し、ビニル樹脂を、架橋構造を有するものとすることもできる。多官能性ビニル類としては、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレートなどが挙げられる。
【0096】
非晶性ポリエステル樹脂は、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)と、2価以上のアルコール(多価アルコール)との重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂のうち、上記非晶性樹脂の範疇にある樹脂である。
【0097】
非晶性ポリエステル樹脂を形成するための多価カルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼリン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,10-デカンジカルボン酸、1,11-ウンデカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸、1,13-トリデカンジカルボン酸、1,14-テトラデカンジカルボン酸、1,16-ヘキサデカンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、イソドデセニルコハク酸、n-ドデセニルコハク酸、n-オクテニルコハク酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、ピレントリカルボン酸、ピレンテトラカルボン酸などの3価以上の多価カルボン酸などを挙げることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0098】
非晶性ポリエステル樹脂を形成するための多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,18-オクタデカンジオール、1,20-エイコサンジオールなどの脂肪族ジオール;ビスフェノールA、ビスフェノールFなどのビスフェノール類、及びこれらのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物などのビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物;グリセリン、ペンタエリスリトール、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサエチロールメラミン、テトラメチロールベンゾグアナミン、テトラエチロールベンゾグアナミンなどの3価以上のポリオールなどを挙げることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0099】
非晶性樹脂のガラス転移点(Tg)は、トナー母体粒子に用いる原料の非晶性樹脂のTgとして30~50℃程度であることが好ましい。Tgが上記範囲であることにより、得られるトナーの低温定着性が確保される。
【0100】
本発明において、非晶性樹脂のガラス転移点(Tg)は、「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて測定される値である。測定手順としては、測定試料(非晶性樹脂)3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、ホルダーにセットする。リファレンスは空のアルミニウム製パンを使用する。測定条件としては、測定温度0℃~100℃、昇温速度10℃/分、降温速度10℃/分で、Heat-cool-Heatの温度制御で行い、その2nd.Heatにおけるデータ(DSC曲線)をもとに解析を行う。上記DSC曲線における第1変曲点をガラス転移点(Tg)とする。
【0101】
非晶性樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量は、重量平均分子量(Mw)で10000~50000であることが好ましく、より好ましくは25000~35000である。また、数平均分子量(Mn)で5000~20000であることが好ましく、より好ましくは6500~12000である。
【0102】
非晶性樹脂の分子量が上記範囲であることにより、低温定着性及び定着分離性が確実に得られる。非晶性樹脂の分子量が上記範囲の上限を超える場合においては、低温定着性が十分に得られないおそれがある。一方、非晶性樹脂の分子量が上記範囲の下限未満である場合においては、定着分離性が十分に得られないおそれがある。
【0103】
非晶性樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量は、測定試料として非晶性樹脂を用いたことの他は、上記結晶性ポリエステル樹脂の場合と同様にして測定されるものである。
【0104】
トナー母体粒子がコア・シェル粒子である場合、結着樹脂の構成としては、上記のとおりコア粒子が非晶性樹脂の一部と結晶性樹脂を含有し、シェル層が非晶性樹脂の残部で構成される態様が挙げられる。コア粒子を構成する非晶性樹脂とシェル層を構成する非晶性樹脂は同じであっても異なってもよい。
【0105】
コア粒子を構成する非晶性樹脂としては、上記の中でもビニル樹脂が好ましく、スチレンアクリル樹脂が好ましい。また、シェル層を構成する樹脂としては、非晶性樹脂が好ましく、非晶性ポリエステル樹脂やビニル樹脂などがより好ましく、非晶性ポリエステル樹脂が特に好ましい。
【0106】
トナー母体粒子がコア・シェル粒子である場合、シェル層を構成する樹脂の含有割合は、トナー母体粒子が含有する結着樹脂の全量に対して、5~30質量%であることが好ましい。
【0107】
〔離型剤〕
本発明に係るトナー母体粒子は、トナーの定着分離性を確保するために、離型剤を含有する。トナー母体粒子がコア・シェル粒子である場合、離型剤はコア粒子中に含有されることが好ましい。
【0108】
トナー母体粒子の製造に用いる離型剤は、例えば、ワックスで構成され、融点を有する。このトナー母体粒子の製造に用いる離型剤の融点Tmwは、70~95℃の範囲内にあることが好ましく、75~85℃の範囲内にあることがより好ましい。離型剤の融点Tmwが上記範囲内にあることで、得られるトナーにおいて、TとTの関係が、上記(4)の条件を満たしやすくなる。また、得られるトナーにおいて、上記(4)の条件を満足するために、離型剤の融点Tmwは、結晶性樹脂の融点Tmpより高いことが好ましい。
【0109】
離型剤の融点Tmwは、例えば、トナーのDSCにより得られるDSC曲線からTを求めるのと同様の方法で、離型剤のDSC曲線から融解ピーク(吸熱ピーク)の頂点の温度として、求めることができる。なお、Tは、トナー母体粒子中の離型剤のDSC挙動に基づく値である。具体的には、Tは、トナーのDSC曲線から得られる離形剤由来の吸熱ピーク温度である。したがって、離型剤の融点TmwとTは異なる場合もある。
【0110】
離型剤としては、エステル系ワックス又は炭化水素系ワックスを用いることができる。このようなワックスは、合成したものを用いてもよいし、市販のものを精製して用いてもよい。精製方法としては、n-ヘキサン又はヘプタンなどに溶解して再結晶する方法が挙げられる。さらに、これらの離型剤は単独で用いてもよいが、複数を併用してもよい。
【0111】
エステル系ワックスとしては、カルナバワックス、モンタンワックス、ベヘン酸ベヘネート、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1,18-オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、ジステアリルマレエートなどが挙げられる。
【0112】
炭化水素系ワックスとしては、ポリエチレンワックス及びポリプロピレンワックスなどのポリオレフィン系ワックス、石油由来のパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、合成ワックスとしてフィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックスなどを挙げることができる。
【0113】
離型剤の含有割合は、トナー母体粒子中の結着樹脂100質量部に対して、1~20質量部であることが好ましく、より好ましくは5~12質量部である。トナー母体粒子における離型剤の含有割合が上記範囲であることにより、分離性及び定着性が確実に両立して得られる。
【0114】
〔着色剤〕
トナー母体粒子は、任意成分として着色剤を含有してもよい。トナー母体粒子がコア・シェル粒子である場合、着色剤はコア粒子中に含有されることが好ましい。トナー母体粒子が着色剤を含有するものとして構成される場合においては、着色剤としては、カーボンブラック、黒色酸化鉄、染料、顔料などの公知の種々の着色剤を用いることができる。
【0115】
カーボンブラックとしては、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラックなどが挙げられ、黒色酸化鉄としては、例えば、マグネタイト、ヘマタイト、三酸化チタン鉄などが挙げられる。
【0116】
染料としては、例えば、C.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同63、同111、同122、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93、同95などが挙げられる。
【0117】
顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド5、同48:1、同48:3、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同139、同144、同149、同150、同166、同177、同178、同222、同238、同269、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー14、同17、同74、同93、同94、同138、同155、同156、同158、同180、同185、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントブルー15:3、同60などが挙げられる。
【0118】
各色のトナーを得るための着色剤は、各色について、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0119】
着色剤の含有割合は、トナー母体粒子中の結着樹脂100質量部に対して、1~10質量部とされることが好ましく、より好ましくは2~8質量部である。着色剤の含有量が上記範囲の下限未満である場合は、得られるトナーに所望の着色力が得られないおそれがあり、一方、着色剤の含有量が上記範囲の上限を超える場合は、着色剤の遊離やキャリアなどへの付着が発生し、帯電性に影響を与える場合がある。
【0120】
〔荷電制御剤〕
また、本発明に係るトナー母体粒子は、必要に応じて荷電制御剤を含有することができる。
【0121】
荷電制御剤としては、摩擦帯電により正又は負の帯電を与えることのできる物質であれば特に限定されず、公知の種々の正帯電制御剤及び負帯電制御剤を用いることができる。
荷電制御剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して0.01~30質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1~10質量部である。
【0122】
<外添剤>
本発明のトナーにおいては、トナー母体粒子は、そのままトナーとして用いてもよく、トナー母体粒子の表面に外添剤を付着させて用いてもよい。外添剤は、流動性、帯電性、クリーニング性等を改良するために用いられる。外添剤としては、公知の無機微粒子や有機微粒子等の微粒子、滑材が挙げられる。外添剤としては種々のものを組み合わせて使用してもよい。
【0123】
無機微粒子としては、シリカ、チタニア(酸化チタン)、アルミナ、チタン酸ストロンチウム、チタン酸亜鉛、チタン酸カルシウム等による無機微粒子を好ましいものとして挙げられる。これらは2種類以上を組み合わせてもよい。無機微粒子の数平均一次粒径は、10~100nm程度が好ましい。無機微粒子の数平均一次粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて写真撮影した画像について、画像処理解析装置等で100個の水平方向フェレ径を算出し、その平均値を求める方法で測定できる。
【0124】
これらの無機微粒子は、必要に応じて表面修飾により疎水化されていてもよい。疎水化された無機微粒子を用いることで、例えば、無機酸化物粒子の表面に存在するヒドロキシ基に起因して発生する、水分吸着による白色トナー母体粒子(Am)同士の付着を抑制することができる。
【0125】
無機微粒子を表面修飾するために用いる表面修飾剤としては、シランカップリング剤やチタンカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤としては、ジメチルジメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、メチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等が好ましい。また、表面修飾剤として、高級脂肪酸、シリコーンオイルを用いることもできる。シリコーンオイルとしては、オルガノシロキサンオリゴマー、オクタメチルシクロテトラシロキサン、又はデカメチルシクロペンタシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンなどの環状化合物や、直鎖状又は分岐状のオルガノシロキサンを用いることができる。
【0126】
外添剤の添加量は、トナー母体粒子100質量部に対して、好ましくは0.05~5質量部、より好ましくは0.1~3質量部とされる。
【0127】
<トナーの形態>
本発明のトナーは、以下の平均粒径及び平均円形度を有することが好ましい。通常、トナーの平均粒径及び平均円形度は、トナー母体粒子の平均粒径及び平均円形度と同じとして扱ってよい。すなわち、本発明のトナーが外添剤を含有する場合においても、外添剤を添加することで、トナー母体粒子の粒径や円形度に及ぼす影響は、測定誤差の範囲と同じくらいに小さいものである。
【0128】
〔トナーの平均粒径〕
本発明のトナーにおいては、平均粒径が、例えば、体積基準のメジアン径で3~10μmであることが好ましく、より好ましくは5~8μmである。トナーの平均粒径は、製造条件により制御することができる。例えば、トナー母体粒子を後述する乳化重合凝集法で製造する場合、製造時において使用する凝集剤の濃度や有機溶媒の添加量、融着時間、結着樹脂の組成などによって制御することができる。
【0129】
体積基準のメジアン径が上記範囲であることにより、1200dpiレベルの非常に微小なドット画像を忠実に再現することなどができる。
【0130】
トナーの体積基準のメジアン径は「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフト「Software V3.51」を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いて測定・算出されるものである。
【0131】
具体的には、測定試料(トナー)0.02gを、界面活性剤溶液20mL(トナーの分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、超音波分散を1分間行い、トナー分散液を調製し、このトナー分散液を、サンプルスタンド内の「ISOTONII」(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。ここで、この濃度範囲にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャ径を100μmにし、測定範囲である2~60μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒子径が体積基準のメジアン径とされる。
【0132】
〔トナーの平均円形度〕
本発明のトナーにおいては、帯電特性の安定性、低温定着性の観点から、平均円形度が0.930~1.000であることが好ましく、0.950~0.995であることがより好ましい。
【0133】
平均円形度が上記の範囲であることにより、トナーの個々の粒子が破砕しにくくなって摩擦帯電付与部材の汚染が抑制されてトナーの帯電性が安定し、また、形成される画像において画質が高いものとなる。
【0134】
トナーの平均円形度は、「FPIA-3000」(Sysmex社製)を用いて測定した値である。具体的には、測定試料(トナー)を界面活性剤入り水溶液にてなじませ、超音波分散処理を1分間行って分散させた後、「FPIA-3000」(Sysmex社製)によって、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3,000~10,000個の適正濃度で撮影を行い、個々の粒子について下記式(y)に従って円形度を算出し、各粒子の円形度を加算し、全粒子数で除することにより算出した値である。HPF検出数が上記の範囲であれば、再現性が得られる。
式(y):円形度=(粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)
【0135】
[現像剤]
本発明のトナーは、単独で磁性又は非磁性の一成分現像剤として使用してもよく、本発明のトナーとキャリアとを含有する二成分現像剤として使用してもよい。二成分現像剤は、例えば、本発明のトナーとキャリアとを混合することにより、得ることができる。混合の際に用いられる混合装置としては特に制限されないが、例えば、ナウターミキサー、Wコーン及びV型混合機等が挙げられる。二成分現像剤中のトナーの含有量(トナー濃度)は、特に制限されないが、4.0~8.0質量%であると好ましい。
【0136】
トナーを二成分現像剤として使用する場合において、キャリアとしては、鉄、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来から公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、特にフェライト粒子が好ましい。また、キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂などの被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散してなる分散型キャリアなどを用いてもよい。
【0137】
キャリアの体積基準のメジアン径としては20~100μmであることが好ましく、さらに好ましくは25~80μmとされる。キャリアの体積基準のメジアン径は、代表的には湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置「ヘロス(HELOS)」(シンパティック(SYMPATEC)社製)により測定することができる。
【0138】
[トナーの製造方法]
本発明のトナーの製造方法は、得られるトナーが上記(1)~(4)の条件を満たすように製造する方法であれば、特に限定されない。
【0139】
トナー母体粒子は、例えば、粉砕法、乳化分散法、懸濁重合法、分散重合法、乳化重合法、乳化重合凝集法、その他の公知の方法などで製造できる。特に、製造コスト及び得られるトナーにおいて(1)~(4)の条件を満足できるような製造条件を安定して提供できる観点から、乳化重合凝集法が好ましい。トナーが外添剤を含有する場合、当該トナーはトナー母体粒子の表面に外添剤を付着させることで得られる。
【0140】
乳化凝集法は、界面活性剤や分散安定剤によって分散された結着樹脂の微粒子(以下、「結着樹脂微粒子」ともいう。)の水系分散液を、トナー母体粒子に含有させる各種微粒子の分散液、本発明においては、離型剤の微粒子の水系分散液及び任意成分としての各種成分の微粒子の水系分散液と混合し、凝集剤を添加することによって所望のトナー母体粒子の粒径となるまで凝集させ、その後又は凝集と同時に、結着樹脂微粒子間の融着を行い、形状制御を行うことにより、トナー母体粒子を形成する方法である。
【0141】
ここで、「水系分散液」とは、水系媒体中に、分散体(粒子)が分散されてなるものであり、水系媒体とは、主成分(50質量%以上)が水からなるものをいう。水以外の成分としては、水に溶解する有機溶媒を挙げることができ、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらのうち、樹脂を溶解しない有機溶媒であるメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールのようなアルコール系有機溶媒が特に好ましい。
【0142】
結着樹脂微粒子は、組成の異なる結着樹脂よりなる2層以上の多層構造を有するものであってもよく、このような構成の結着樹脂微粒子は、例えば、2層構造を有するものは、常法に従った重合処理(第1段重合)によって樹脂微粒子の分散液を調整し、この分散液に重合開始剤と重合性単量体とを添加し、この系を重合処理(第2段重合)する方法によって得ることができる。
【0143】
本発明のトナーの製造方法において、トナー母体粒子を乳化重合凝集法で製造する例を具体的に示すと、下記第1の工程~第3の工程を含む方法でトナー母体粒子を製造する方法が挙げられる。
第1の工程;上記結着樹脂及び上記離型剤を含有する微粒子を水系媒体中で加熱撹拌して凝集、融着させてトナー母体粒子前駆体を含む分散液を得る工程
第2の工程;第1の工程で加熱された上記分散液を、6℃/分以上の降温速度で30℃以下の温度まで冷却する工程
第3の工程;第2の工程で冷却された上記分散液を、57~62℃の範囲内の温度で30分間以上維持する工程
【0144】
このようにして、第1の工程~第3の工程によりトナー母体粒子が形成される。その後、トナー母体粒子は、例えば、濾過・洗浄工程により分散液から取り出され、乾燥工程により乾燥される。さらに、必要に応じて外添剤の添加工程により、トナー母体粒子の表面に外添剤が添加される。以下、各工程について説明する。
【0145】
(第1の工程)
第1の工程は、(a)トナー母体粒子を構成する各種成分の微粒子の水系分散液を調製する工程(以下、「水系分散液の調製工程」ともいう。)と、(b)水系媒体中において、各種成分の微粒子を凝集、融着させてトナー母体粒子前駆体を形成する工程(以下、「凝集・融着工程」ともいう。)を含む。
【0146】
本発明のトナーは、非晶性樹脂と結晶性樹脂を含有する結着樹脂と離型剤を含有する。(a)工程においては、非晶性樹脂の微粒子(以下、「非晶性樹脂微粒子」ともいう。)の水系分散液、結晶性樹脂の微粒子(以下、「結晶性樹脂微粒子」ともいう。)の水系分散液、離型剤の微粒子(以下、「離型剤微粒子」ともいう。)の水系分散液を調製して、次の(b)の凝集・融着工程に供することができる。
【0147】
なお、以下に説明するとおり、非晶性樹脂微粒子を作製する際に、非晶性樹脂微粒子に離型剤を含有させることが可能であり、そうすることが好ましい。その場合には、離型剤微粒子の水系分散液の調製は省略できる。ここで、第1の工程でいう、「結着樹脂及び離型剤を含有する微粒子」とは、微粒子が集合体として結着樹脂の微粒子(本発明においては非晶性樹脂の微粒子及び結晶性樹脂の微粒子)と離型剤の微粒子の両方を含む場合、及び、微粒子が結着樹脂(例えば、非晶性樹脂)と離型剤の両方を含有する微粒子(本発明においては、さらに結晶性樹脂微粒子)を含む場合のいずれもその範疇に含むものである。
【0148】
また、本発明に係るトナー母体粒子が着色剤を含有する場合には、(a)工程において、上記の各水系分散液に加えて、着色剤微粒子の水系分散液を別に調製して、これを(b)の凝集・融着工程に供することが好ましい。
【0149】
(a)水系分散液の調製工程
〔非晶性樹脂微粒子の水系分散液の調製工程〕
この工程においては、非晶性樹脂による非晶性樹脂微粒子の水系分散液が調製される。非晶性樹脂微粒子の水系分散液は、例えば、非晶性樹脂がスチレンアクリル樹脂などのビニル樹脂である場合においては、非晶性樹脂を得るためのビニル単量体を使用してミニエマルション重合法によって調製することができる。すなわち、例えば、界面活性剤を含有した水系媒体中にビニル単量体を添加し、機械的エネルギーを加えて液滴を形成させ、次いで、水溶性のラジカル重合開始剤からのラジカルにより当該液滴中において重合反応を進行させる。なお、前記液滴中に油溶性の重合開始剤が含有されていてもよい。
【0150】
(界面活性剤)
この工程において使用される界面活性剤としては、従来公知の種々のアニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン界面活性剤などを用いることができる。
【0151】
(重合開始剤)
この工程において使用される重合開始剤は、従来公知の種々のものを用いることができる。重合開始剤の具体例としては、例えば過硫酸塩(過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなど)が好ましく用いられる。その他、アゾ系化合物(4,4’-アゾビス4-シアノ吉草酸及びその塩、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)塩など)、パーオキシド化合物、アゾビスイソブチロニトリルなどを用いてもよい。
【0152】
(連鎖移動剤)
この工程においては、非晶性樹脂の分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては特に限定されるものではなく、例えば2-クロロエタノール、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン及びスチレンダイマーなどを挙げることができる。
【0153】
また、非晶性樹脂微粒子の水系分散液は、例えば非晶性樹脂が非晶性ポリエステル樹脂である場合においては、非晶性ポリエステル樹脂を合成し、この非晶性ポリエステル樹脂を水系媒体中に微粒子状に分散することによって調製することができる。具体的には、非晶性ポリエステル樹脂を有機溶媒中に溶解又は分散させて油相液を調製し、油相液を、転相乳化などによって水系媒体中に分散させて、所望の粒径に制御された状態の油滴を形成させた後、有機溶媒を除去することにより調製することができる。
【0154】
水系媒体の使用量は、油相液100質量部に対して、50~2000質量部であることが好ましく、100~1000質量部であることがより好ましい。水系媒体中には、油滴の分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤などが添加されていてもよい。界面活性剤としては、上記の工程に挙げたものと同様のものを挙げることができる。
【0155】
油相液の調製に使用される有機溶媒としては、油滴の形成後の除去処理が容易である観点から、沸点が低く、かつ、水への溶解性が低いものが好ましく、具体的には、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらは1種単独であるいは2種以上組み合わせて用いることができる。有機溶媒の使用量は、非晶性ポリエステル樹脂100質量部に対して、通常1~300質量部である。油相液の乳化分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができる。
【0156】
本発明に係るトナー母体粒子中には、離型剤が含有されているが、この離型剤は、例えば、この工程において、予め、ビニル樹脂を形成するためのビニル単量体の溶液又は非晶性ポリエステル樹脂の油相液に、溶解又は分散させておくことによってトナー母体粒子中に導入することができる。
【0157】
例えば、ビニル樹脂からなる3層構造の非晶性樹脂微粒子を、第1段重合、第2段重合、及び第3段重合の3段階の重合で作製する際に、第2段重合時に重合液中にビニル樹脂を得るための重合性単量体と共に離型剤を含有させて重合を行うことで、離型剤を含有する非晶性樹脂微粒子が得られる。そして、この離型剤を含有する非晶性樹脂微粒子の水系分散液を(b)の凝集・融着工程に用いる。
【0158】
また、離型剤は、別途離型剤のみよりなる離型剤微粒子の分散液を調製し、(b)の凝集・融着工程において非晶性樹脂微粒子、及び結晶性樹脂微粒子と共に当該離型剤微粒子を凝集させることにより、トナー母体粒子中に導入することもできるが、この工程において予め導入しておく方法を採用することが好ましい。
【0159】
また、本発明に係るトナー母体粒子中に、必要に応じて含有される、荷電制御剤などの他の内添剤は、例えば、この工程において、予め、非晶性樹脂を形成するためのビニル単量体溶液(又は非晶性ポリエステル樹脂の油相液)に溶解又は分散させておくことによってトナー母体粒子中に導入することができる。
【0160】
このような内添剤は、別途内添剤のみよりなる内添剤微粒子の分散液を調製し、凝集・融着工程において非晶性樹脂微粒子、結晶性ポリエステル樹脂微粒子及び着色剤微粒子と共に当該内添剤微粒子を凝集させることにより、トナー母体粒子中に導入することもできるが、この工程において予め導入しておく方法を採用することが好ましい。
【0161】
非晶性樹脂微粒子の平均粒径は、体積基準のメジアン径で100~400nmの範囲にあることが好ましい。本発明において、非晶性樹脂微粒子の体積基準のメジアン径は、「マイクロトラックUPA-150」(日機装社製)を用いて測定される値である。
【0162】
〔結晶性樹脂微粒子の水系分散液の調製工程〕
この工程においては、結晶性樹脂による結晶性樹脂微粒子の水系分散液が調製される。結晶性樹脂としては、結晶性ポリエステル樹脂が好ましい。
【0163】
結晶性樹脂微粒子の水系分散液は、結晶性樹脂を合成し、この結晶性樹脂を水系媒体中に微粒子状に分散することによって調製することができる。具体的には、結晶性樹脂を有機溶媒中に溶解又は分散させて油相液を調製し、油相液を、転相乳化などによって水系媒体中に分散させて、所望の粒径に制御された状態の油滴を形成させた後、有機溶媒を除去することにより調製することができる。
【0164】
水系媒体の使用量は、油相液100質量部に対して、50~2000質量部であることが好ましく、100~1000質量部であることがより好ましい。水系媒体中には、油滴の分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤などが添加されていてもよい。界面活性剤としては、上記の工程に挙げたものと同様のものを挙げることができる。
【0165】
油相液の調製に使用される有機溶媒としては、油滴の形成後の除去処理が容易である観点から、沸点が低く、かつ、水への溶解性が低いものが好ましく、具体的には、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらは1種単独であるいは2種以上組み合わせて用いることができる。有機溶媒の使用量は、結晶性樹脂100質量部に対して、通常1~300質量部である。油相液の乳化分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができる。
【0166】
結晶性樹脂微粒子の平均粒径は、体積基準のメジアン径で100~400nmの範囲にあることが好ましい。本発明において、結晶性樹脂微粒子の体積基準のメジアン径は、「マイクロトラックUPA-150」(日機装社製)を用いて測定される値である。
【0167】
〔着色剤微粒子の水系分散液の調製工程〕
この工程は、トナー母体粒子として着色剤を含有するものを所望する場合に必要に応じて行う工程であって、着色剤を水系媒体中に微粒子状に分散させて着色剤微粒子の水系分散液を調製する工程である。
【0168】
着色剤微粒子の水系分散液は、界面活性剤を臨界ミセル濃度(CMC)以上に添加した水系媒体中に着色剤を分散させることにより得られる。着色剤の分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができ、使用する分散機としては、特に限定されないが、好ましくは超音波分散機、機械的ホモジナイザー、マントンゴーリンや圧力式ホモジナイザーなどの加圧分散機、サンドグラインダー、ゲッツマンミルやダイヤモンドファインミルなどの媒体型分散機が挙げられる。
【0169】
着色剤微粒子は、分散した状態で体積基準のメジアン径が10~300nmとされることが好ましく、さらに好ましくは100~200nm、特に好ましくは100~150nmである。本発明において、着色剤微粒子の体積基準のメジアン径は、電気泳動光散乱光度計「ELS-800」(大塚電子社製)を用いて測定される値である。
【0170】
(b)凝集・融着工程
この工程においては、非晶性樹脂微粒子、結晶性樹脂微粒子、及び離型剤微粒子、並びに必要に応じてその他のトナー構成成分、例えば、着色剤の微粒子が分散した水系媒体中で、これらの微粒子を凝集させて、さらに加熱によって融着させる。なお、上記において、非晶性樹脂微粒子が離型剤を含む場合は、水系媒体中に離型剤微粒子は存在しなくてもよい。
【0171】
凝集・融着工程は、具体的には、水系媒体中に上記の微粒子が分散されてなる水系分散液中に、臨界凝集濃度以上の凝集剤を加え、非晶性樹脂のガラス転移点(Tg)以上の温度に加熱することによって、上記微粒子を凝集、融着させる。これにより、トナー母体粒子前駆体が形成される。
【0172】
凝集・融着工程における加熱温度としては、Tg以上であればよいが、(Tg+10℃)~(Tg+50℃)が好ましく、特に好ましくは(Tg+15℃)~(Tg+40℃)とされる。なお、凝集、融着工程における加熱温度は、結晶性樹脂の融点Tmp以上とすることが好ましい。さらに、凝集、融着工程における加熱温度は、離型剤の融点Tmw以上とすることが好ましい。凝集、融着工程における加熱温度を上記のように設定することで、得られるトナーにける(1)~(4)の条件の達成がより容易となる。
【0173】
〔凝集剤〕
この工程において使用される凝集剤としては、特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩などの金属塩から選択されるものが好適に使用される。金属塩としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウムなどの一価の金属塩;カルシウム、マグネシウム、マンガン、銅などの二価の金属塩;鉄、アルミニウムなどの三価の金属塩などが挙げられる。具体的な金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸マンガンなどを挙げることができ、これらの中で、より少量で凝集を進めることができることから、二価の金属塩を用いることが特に好ましい。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0174】
トナー母体粒子がコア・シェル構造を有する場合においては、例えば、この工程において、非晶性樹脂微粒子、結晶性樹脂微粒子及び離型剤微粒子(ただし、非晶性樹脂微粒子が離型剤を含有する場合は、離型剤微粒子はなくてもよい。)、任意の着色剤微粒子を凝集、融着してコア粒子を形成し、その後、シェル層を形成するためのシェル用樹脂微粒子をコア粒子に凝集させて、融着することにより、形成することができる。シェル用樹脂は、非晶性樹脂であることが好ましい。
【0175】
第1の工程は、必要に応じて熟成工程をさらに含んでもよい。熟成工程においては、(b)の凝集・融着工程によって得られたトナー母体粒子前駆体を熱エネルギーにより所望の形状になるまで熟成処理する工程である。熟成処理は、具体的には、トナー母体粒子前駆体が分散された系を加熱撹拌することにより、トナー母体粒子前駆体の形状を所望の円形度になるまで、加熱温度、撹拌速度、加熱時間などにより調整することにより、行われる。
【0176】
加熱温度は、例えば、非結晶樹脂のガラス転移点(Tg)+30~40℃程度とすることが好ましい。これにより結着樹脂の粘性を大幅に低下させることができ、トナー母体粒子の形状を整えるのに必要な時間を短縮することが可能となる。また、トナー母体粒子が含有する結晶性樹脂及び離型剤の融点以上に加熱することが好ましい。これにより非結晶樹脂が結晶性樹脂によって可塑化され、結着樹脂の粘度が大幅に低下することでトナー母体粒子の形状を整えるのに必要な時間を短縮することが可能となる。
【0177】
(第2の工程)
第2の工程は、上記第1の工程で得られたトナー母体粒子前駆体の分散液を冷却処理する工程である。冷却処理の条件としては、6℃/分以上の降温速度で30℃以下の温度まで冷却する。降温速度は10℃/分以上が好ましい。操作性の観点から降温速度の上限は20℃/分程度である。冷却後の温度は、25℃以下が好ましい。
【0178】
トナー母体粒子前駆体の分散液を6℃/分以上の降温速度で冷却することにより、トナー母体粒子前駆体中で融解した結晶性樹脂及び離型剤等の結晶性成分が結晶化する際に、過冷却状態を大きくすることで結晶核生成を促すことができる。結晶核を多く生成させることで結晶化工程において小さな結晶を多く生成することが可能となり、融点分布を制御しやすくする効果を有する。また、冷却後の温度を30℃以下とすることで、上記効果が十分に得られる。
【0179】
冷却処理の具体的な方法としては特に限定されるものではなく、反応容器の外部より冷媒を導入して冷却する方法や、冷水を直接反応系に投入して冷却する方法などを例示することができる。
【0180】
(第3の工程)
第3の工程は、上記第2の工程で冷却されたトナー母体粒子前駆体の分散液を、57~62℃の範囲内の温度で30分間以上維持する工程である。第3工程を経ることでトナー母体粒子前駆体中の結晶性樹脂の結晶化が促進されて、本発明のトナーにおけるトナー母体粒子が得られる。すなわち、第3工程における加熱温度及び加熱時間により、得られるトナー母体粒子のT及びTが確定する。
【0181】
上記のとおり、トナーのTすなわち、トナー母体粒子のTが耐熱保管性の温度と密接に関係する。具体的には、例えば、耐熱保管性を57℃程度確保しようとした場合、57℃未満の融点を持つ低融点結晶をトナー中から無くす必要がある。この場合、本発明の方法では、第2の工程後の結晶化しきれていない結晶性樹脂を含有するトナー母体粒子前駆体の分散液に対して57℃の温度で熱処理を施すことで57℃未満の低融点結晶を融解し、結晶性樹脂を再結晶化させる。これにより得られるトナー母体粒子中の結晶性樹脂は、吸熱ピークの立ち上がり温度が概ね57℃である結晶に変化させられる。
【0182】
このように、本発明のトナーの製造方法では、第3の工程における加熱温度は、本発明のトナーにおける上記(1)の条件であるTの温度範囲57~62℃と同じ温度とした。第3の工程における加熱温度は、本発明のトナーにおける上記(6)の条件であるTの温度範囲61~62℃とすることが好ましい。Tの温度を57℃以上とすることでトナーの耐熱保管性を十分に担保でき、62℃以下とすることで結晶性樹脂の融解開始のタイミングを適度に低い温度とすることで、トナーの低温定着性が担保できる。
【0183】
また、トナー母体粒子中の結晶性樹脂の吸熱ピーク温度(融点)であるTの温度に関しても、上記第3の工程における加熱温度をTの温度範囲57~62℃とすることでTの範囲を60~70℃に制御することが可能となり、Tの温度を60℃以上とすることでトナーの耐熱保管性を十分に担保でき、70℃以下とすることでトナーの低温定着性が担保できる。
【0184】
第3の工程における加熱時間は、低融点結晶を十分に融解させ、再結晶化を促進させる観点から30分間以上であり、1~5時間の範囲が好ましく、1~3時間の範囲がより好ましい。
【0185】
なお、第2の工程後のトナー母体粒子前駆体の分散液を第3の工程における加熱温度にまで昇温させる際には、急激に熱を加えられた際に発生するトナー同志の凝集を抑制する観点から、例えば、6℃/分以上30℃/分以下の昇温速度程度の条件で行うのが好ましい。
【0186】
また、第3の工程は、2段階以上に分けて行ってもよい。その場合、加熱温度を段階が進むにつれて上げていき、最後の段階の加熱温度を上記57~62℃の温度とする。加熱時間についても最後の段階の加熱時間を30分間以上とする。例えば、2段階の加熱処理を行う場合、最初の加熱を40~55℃の温度範囲で1~10時間の条件で行い、次いで、最後の加熱を57~62℃の温度範囲で30分間以上行うことが好ましい。2段階以上の加熱処理を行うことで、結晶化度の調整と結晶性樹脂の融解開始温度(吸熱ピークの立ち上がり温度)(T)を調整する観点で好ましい。
【0187】
このようにして第3の工程の熱処理の時間と温度を制御することでトナー母体粒子中の結晶性樹脂の融点分布を制御し、低温定着性と耐熱保管性の両立を図ることが可能となる。
【0188】
なお、第3の工程後のトナー母体粒子の分散液の冷却方法は、特に制限されない。徐冷であってもよいが、生産効率の点から、例えば、6℃/分以上の降温速度で行うのが好ましい。
【0189】
(濾過・洗浄工程)
この工程は、第3の工程後の冷却されたトナー母体粒子の分散液から、当該トナー母体粒子を固液分離し、固液分離によって得られたトナーケーキ(ウェット状態にあるトナー母体粒子をケーキ状に凝集させた集合物)から界面活性剤や凝集剤などの付着物を除去して洗浄する工程である。
【0190】
固液分離には、特に限定されずに、遠心分離法、ヌッチェなどを使用して行う減圧濾過法、フィルタープレスなどを使用して行う濾過法などを用いることができる。また、洗浄においては、濾液の電気伝導度が10μS/cm以下になるまで水洗浄することが好ましい。
【0191】
(乾燥工程)
この工程は、洗浄処理されたトナーケーキを乾燥する工程であり、一般的に行われる公知のトナー母体粒子の製造方法における乾燥工程に従って行うことができる。
【0192】
具体的には、トナーケーキの乾燥に使用される乾燥機としては、スプレードライヤー、真空凍結乾燥機、減圧乾燥機などを挙げることができ、静置棚乾燥機、移動式棚乾燥機、流動層乾燥機、回転式乾燥機、撹拌式乾燥機などを使用することが好ましい。
【0193】
乾燥されたトナー母体粒子の水分は、5質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは2質量%以下とされる。なお、乾燥されたトナー母体粒子同士が弱い粒子間引力で凝集している場合には、その凝集体を解砕処理してもよい。ここに、解砕処理装置としては、ジェットミル、ヘンシェルミキサー、コーヒーミル、フードプロセッサーなどの機械式の解砕装置を使用することができる。
【0194】
(外添剤の添加工程)
この工程は、トナー母体粒子に対して外添剤を添加する場合に必要に応じて行う工程である。上記のトナー母体粒子は、そのままトナーとして用いることができるが、流動性、帯電性、クリーニング性などを改良するために、当該トナー母体粒子に、いわゆる流動化剤、クリーニング助剤などの外添剤を添加した状態で使用してもよい。外添剤としては上記した種々のものを組み合わせて使用してもよい。これらの外添剤の添加量は上記のとおりである。
【0195】
トナー母体粒子の表面に外添剤を添加するために用いる混合装置としては、ヘンシェルミキサー、コーヒーミルなどの機械式の混合装置を使用することができる。
【0196】
以上、本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明の実施の形態は上記の例に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
【実施例
【0197】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。また、各成分の物性は、特に断りがない限り、上記の方法で測定された物性である。
【0198】
<実施例1:トナー1の製造>
コア・シェル粒子であるトナー母体粒子とその表面に外添剤を有するトナー1を以下のとおり製造した。なお、結着樹脂については、コア粒子用の非晶性樹脂としてスチレンアクリル樹脂、結晶性樹脂として結晶性ポリエステル樹脂、及びシェル用の非晶性樹脂として非晶性ポリエステル樹脂を用いた。
【0199】
〔微粒子分散液の調製〕
(1)スチレンアクリル樹脂微粒子(離型剤含有)の水系分散液〔1〕の調製
(第1段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8gをイオン交換水3Lに溶解させた溶液を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。その後、過硫酸カリウム10gをイオン交換水200gに溶解させた溶液を添加し、再度液温を80℃とし、スチレン480g、n-ブチルアクリレート250g及びメタクリル酸68gからなるビニル単量体溶液を1時間かけて滴下後、80℃で2時間加熱、撹拌することにより重合を行い、樹脂微粒子〔a1〕の分散液を得た。
【0200】
(第2段重合)
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシルエーテル硫酸ナトリウム9.2gをイオン交換水1500mLに溶解させた溶液を仕込み、98℃に加熱後、上記の樹脂微粒子〔a1〕の分散液288.8g(固形分質量)と、スチレン211.4g、2-エチルヘキシルアクリレート26g及びメタクリル酸25gからなるビニル単量体溶液、n-オクチルメルカプタン3.3g、並びに、離型剤として、N252(製品名、中京油脂社製、ベヘン酸ベヘニル、融点Tmw77℃)240gを90℃で溶解、混合させた混合液とを添加し、循環経路を有する機械式分散機「CLEARMIX」(エム・テクニック社製)により1時間混合分散させて、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。
【0201】
次いで、この分散液に、過硫酸カリウム4.5gをイオン交換水85mLに溶解させた開始剤溶液を添加し、この系を84℃で1時間にわたって加熱撹拌することにより重合を行い、樹脂微粒子〔a2〕の分散液を得た。
【0202】
(第3段重合)
上記の樹脂微粒子〔a2〕の分散液に、過硫酸カリウム6.7gをイオン交換水115mLに溶解させた溶液を添加し、82℃の温度条件下に、スチレン301.7g、n-ブチルアクリレート145g、メタクリル酸28.5g及びメタクリル酸メチル43gからなるビニル単量体溶液と、n-オクチルメルカプタン7.0gとの混合液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間にわたって加熱撹拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却し、これにより、離型剤を含有するスチレンアクリル樹脂よりなる微粒子(離型剤;12質量%、スチレンアクリル樹脂;88質量%)を固形分濃度30質量%で含有するスチレンアクリル樹脂微粒子分散液〔1〕を調製した。
【0203】
この非晶性樹脂微粒子(スチレンアクリル樹脂微粒子)は、体積基準のメジアン径が220nm、重量平均分子量(Mw)が25000、ガラス転移点が40.0℃であった。
【0204】
(2)結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液の調製
(結晶性ポリエステル樹脂の合成)
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、多価カルボン酸としてドデカン二酸(1,10-デカンジカルボン酸)300質量部と、多価アルコールとして1,4-ブタンジオール170質量部とを仕込み、この系を撹拌しながら1時間かけて内温を190℃にまで昇温させ、均一に撹拌された状態であることを確認した後、触媒としてTi(OBu)4を、多価カルボン酸の仕込み量に対して0.003質量%の量で投入した。
【0205】
その後、生成する水を留去しながら、6時間かけて内温を190℃から240℃まで昇温させ、さらに温度240℃の条件で6時間かけて脱水縮合反応を継続して重合を行うことにより、結晶性ポリエステル樹脂〔1〕を得た。この結晶性ポリエステル樹脂〔1〕は、融点Tmpが68℃であり、重量平均分子量(Mw)が7000であった。
【0206】
(結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液の調製)
結晶性ポリエステル樹脂〔1〕200質量部を酢酸エチル200質量部に溶解し、この溶液を撹拌しながら、イオン交換水800質量部にポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムを濃度が1質量%になるよう溶解させた水溶液をゆっくりと滴下した。この溶液を減圧下、酢酸エチルを除去した後、アンモニアでpHを8.5に調整した。その後、固形分濃度を20質量%に調整した。これにより、水系媒体中に結晶性ポリエステル樹脂〔1〕による微粒子が分散された結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕を調製した。結晶性ポリエステル樹脂〔1〕による微粒子の体積基準のメジアン径は200nmであった。
【0207】
(3)非晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液の調製
(非晶性ポリエステル樹脂の合成)
撹拌装置、窒素導入管、温度センサー及び精留塔を備えた反応容器に、多価カルボン酸として、テレフタル酸85質量部、トリメリット酸6質量部、フマル酸18質量部及びドデセニルコハク酸無水物80質量部と、多価アルコールとして、ビスフェノールAプロピレンオキシド付加物381質量部及びビスフェノールAエチレンオキシド付加物62質量部を仕込み、反応系の温度を1時間かけて190℃に上昇させ、反応系内が均一に撹拌されていることを確認した。その後、触媒としてTi(OBu)を、多価カルボン酸全量に対して0.006質量%となる量を投入し、さらに、生成される水を留去しながら反応系の温度を同温度から6時間かけて240℃に上昇させ、さらに240℃に維持した状態で6時間脱水縮合反応を継続して重合反応を行うことにより、非晶性ポリエステル樹脂〔1〕を得た。
【0208】
この非晶性ポリエステル樹脂〔1〕は、重量平均分子量(Mw)が10000、ガラス転移点が60℃であった。
【0209】
(非晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液の調製)
非晶性ポリエステル樹脂〔1〕200質量部を酢酸エチル200質量部に溶解し、この溶液を撹拌しながら、イオン交換水800質量部にポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムを濃度が1質量%になるよう溶解させた水溶液をゆっくりと滴下した。この溶液を減圧下、酢酸エチルを除去した後、アンモニアでpHを8.5に調整した。その後、固形分濃度を20質量%に調整した。これにより、水系媒体中に非晶性ポリエステル樹脂〔1〕による微粒子が分散された非晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕を調製した。非晶性ポリエステル樹脂〔1〕による微粒子の体積基準のメジアン径は130nmであった。
【0210】
(4)着色剤微粒子の水系分散液〔Bk〕の調製
ドデシル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に添加した。この溶液を撹拌しながら、カーボンブラック(リーガル330R:キャボット社製)420質量部を徐々に添加し、次いで、撹拌装置「クレアミックス」(エム・テクニック(株)製)を用いて分散処理することにより、着色剤微粒子の水系分散液〔Bk〕を調製した。得られた水系分散液〔Bk〕について、着色剤微粒子の平均粒径(体積基準のメジアン径)は110nmであった。
【0211】
(5)トナー母体粒子の作製
(第1の工程;(b)凝集・融着工程)
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けたゼブラフラスコ(反応釜)に、スチレンアクリル樹脂微粒子分散液〔1〕1600質量部(固形分換算、離型剤;12質量%、スチレンアクリル樹脂;88質量%)、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕300質量部(固形分換算)、イオン交換水1500質量部と、着色剤微粒子の水系分散液〔Bk〕500質量部(固形分換算)とを仕込み、撹拌装置の回転数を150rpmに調整。次いで液温を25℃に調整した後、濃度25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを10に調整し、撹拌装置の回転数を245rpmに調整した。
【0212】
次いで、塩化マグネシウム・6水和物54.3質量部をイオン交換水54.3質量部に溶解させた水溶液を添加し、その後、系の温度を87℃にまで昇温した。昇温が完了した時点で撹拌装置の回転数を100rpmに落とし、各樹脂微粒子と着色剤微粒子との凝集・融着処理を開始した。
【0213】
この凝集・融着処理の開始後、定期的にサンプリングを行い、粒度分布測定装置「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)を用いて凝集・融着した粒子の体積基準のメジアン径を測定し、体積基準のメジアン径が6.3μmになるまで凝集・融着処理を行い、粒径が到達した時点で撹拌装置の回転数を245rpmに上昇させ、凝集しない程度にせん断をかけることで凝集・融着が進まないようにして、コア粒子の分散液を得た。
【0214】
次に、上記コア粒子の分散液を収容する反応釜の温度を75℃に設定し、温度が到達した時点で非晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕300質量部(固形分換算)を添加し、コア粒子表面にシェル層を形成し、コア・シェル粒子とした。
【0215】
その後、上記反応釜に塩化ナトリウム23.0質量部をイオン交換水96質量部に溶解させた水溶液を添加し、フロー式粒子像解析装置「FPIA-2100」(Sysmex社製)による測定でコア・シェル粒子の平均円形度が0.960になるまで、2時間撹拌を継続した。
【0216】
(第2の工程)
上記において、コア・シェル粒子の平均円形度が0.960に達した時点で、トナー母体粒子前駆体としてのコア・シェル粒子の分散液を6℃/分の条件で30℃にまで冷却して反応を停止させた。
【0217】
(第3の工程)
冷却後、このトナー母体粒子前駆体の分液を再度6℃/分の昇温速度で60℃まで昇温し、当該温度(60℃)で3時間保持することで結晶性ポリエステル樹脂の結晶化を促進させた。その後、6℃/分の降温速度で冷却して反応を停止させ、トナー母体粒子の分散液を得た。冷却後のトナー母体粒子の平均粒径(体積基準のメジアン径)は、6.1μm、平均円形度は0.946であった。
【0218】
(濾過・洗浄及び乾燥工程)
このようにして得られたトナー母体粒子の分散液をバスケット型遠心分離機「MARK III 型式番号60×40」(松本機械(株)製)を用いて固液分離し、ウェットケーキを形成した。このウェットケーキを、上記バスケット型遠心分離機で濾液の電気伝導度が15μS/cmになるまで洗浄と固液分離を繰り返した。その後、「フラッシュジェットドライヤー」(セイシン企業社製)を用い、温度40℃及び湿度20%RHの気流を吹き付けることによって水分量が0.5質量%となるまで乾燥処理し、24℃に冷却することにより、トナー母体粒子〔1〕を得た。このトナー母体粒子〔1〕は、体積基準のメジアン径が6.1μm、平均円形度が0.966であった。
【0219】
(6)外添剤の添加
得られたトナー母体粒子〔1〕100質量部に対して、疎水性シリカ粒子1質量部と疎水性酸化チタン粒子1.2質量部を添加しヘンシェルミキサーを用い、回転翼の周速24m/sの条件で20分間かけて混合し、さらに400メッシュの篩を通過させることによって外添剤を添加し、トナー〔1〕を得た。なお、トナー〔1〕において、外添剤の添加によるトナー母体粒子〔1〕からの形状及び粒径の変化はなかった。
【0220】
<実施例2~比較例3:トナー2~19の製造>
トナー2~19を製造するにあたって、以下のとおり、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔2〕~〔7〕、離型剤含有のスチレンアクリル樹脂微粒子分散液〔2〕~〔4〕を作製した。以下、実施例2~5,6~及び14~16を、それぞれ参考例2~5,6~及び14~16と読み替える。
【0221】
(結晶性ポリエステル樹脂〔2〕の合成)
結晶性ポリエステル樹脂〔1〕の製造工程における脱水縮合反応時間のうち、6時間を3時間に変更したこと以外は同様にして結晶性ポリエステル樹脂〔2〕を作製した。この結晶性ポリエステル樹脂〔2〕は、融点Tmpが67℃であり、重量平均分子量(Mw)が4000であった。
【0222】
(結晶性ポリエステル樹脂〔3〕の合成)
結晶性ポリエステル樹脂〔1〕の製造工程における脱水縮合反応時間のうち、6時間を12時間に変更したこと以外は同様にして結晶性ポリエステル樹脂〔3〕を作製した。この結晶性ポリエステル樹脂〔3〕は、融点Tmpが64℃であり、重量平均分子量(Mw)が20000であった。
【0223】
(結晶性ポリエステル樹脂〔4〕の合成)
結晶性ポリエステル樹脂〔1〕の製造において、1,4-ブタンジオール170質量部を1,6-ヘキサンジオール170質量部に変更し、脱水縮合反応時間のうち、6時間を3時間に変更したこと以外は同様にして結晶性ポリエステル樹脂〔4〕を作製した。この結晶性ポリエステル樹脂〔4〕は、融点Tmpが65℃であり、重量平均分子量(Mw)が5000であった。
【0224】
(結晶性ポリエステル樹脂〔5〕の合成)
結晶性ポリエステル樹脂〔1〕の製造において、1,4-ブタンジオール170質量部を1,6-ヘキサンジオール170質量部に変更し、脱水縮合反応時間のうち、6時間を12時間に変更したこと以外は同様にして結晶性ポリエステル樹脂〔5〕を作製した。この結晶性ポリエステル樹脂〔5〕は、融点Tmpが63℃であり、重量平均分子量(Mw)が20000であった。
【0225】
(結晶性ポリエステル樹脂〔6〕の合成)
結晶性ポリエステル樹脂〔1〕の製造工程における脱水縮合反応時間のうち、6時間を16時間に変更したこと以外は同様にして結晶性ポリエステル樹脂〔6〕を作製した。この結晶性ポリエステル樹脂〔6〕は、融点Tmpが64℃であり、重量平均分子量(Mw)が30000であった。
【0226】
(結晶性ポリエステル樹脂〔7〕の合成)
結晶性ポリエステル樹脂〔1〕の製造において、ドデカン二酸(1,10-デカンジカルボン酸)300質量部をテトラデカン二酸(1,12-ドデカンジカルボン酸)300質量部に変更したこと以外は同様にして結晶性ポリエステル樹脂〔7〕を作製した。この結晶性ポリエステル樹脂〔7〕は、融点Tmpが78℃であり、重量平均分子量(Mw)が7000であった。
【0227】
(結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔2〕の調製)
実施例1の結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕の調製工程における結晶性ポリエステル樹脂〔1〕200質量部を結晶性ポリエステル樹脂〔2〕に変更したこと以外は同様にして結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔2〕を作製した。結晶性ポリエステル樹脂〔2〕による微粒子の体積基準のメジアン径は202nmであった。
【0228】
(結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔3〕の調製)
実施例1の結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕の調製工程における結晶性ポリエステル樹脂〔1〕200質量部を結晶性ポリエステル樹脂〔3〕に変更したこと以外は同様にして結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔3〕を作製した。結晶性ポリエステル樹脂〔3〕による微粒子の体積基準のメジアン径は210nmであった。
【0229】
(結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔4〕の調製)
実施例1の結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕の調製工程における結晶性ポリエステル樹脂〔1〕200質量部を結晶性ポリエステル樹脂〔4〕に変更したこと以外は同様にして結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔4〕を作製した。結晶性ポリエステル樹脂〔4〕による微粒子の体積基準のメジアン径は195nmであった。
【0230】
(結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔5〕の調製)
実施例1の結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕の調製工程における結晶性ポリエステル樹脂〔1〕200質量部を結晶性ポリエステル樹脂〔5〕に変更したこと以外は同様にして結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔5〕を作製した。結晶性ポリエステル樹脂〔5〕による微粒子の体積基準のメジアン径は200nmであった。
【0231】
(結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔6〕の調製)
実施例1の結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕の調製工程における結晶性ポリエステル樹脂〔1〕200質量部を結晶性ポリエステル樹脂〔6〕に変更したこと以外は同様にして結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔6〕を作製した。結晶性ポリエステル樹脂〔6〕による微粒子の体積基準のメジアン径は200nmであった。
【0232】
(結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔7〕の調製)
実施例1の結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕の調製工程における結晶性ポリエステル樹脂〔1〕200質量部を結晶性ポリエステル樹脂〔7〕に変更したこと以外は同様にして結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔7〕を作製した。結晶性ポリエステル樹脂〔7〕による微粒子の体積基準のメジアン径は203nmであった。
【0233】
(スチレンアクリル樹脂微粒子分散液(2)の調製)
実施例1のスチレンアクリル樹脂微粒子分散液〔1〕の調製において第2段重合の工程における離型剤〔N252〕240質量部を離型剤「SELOSOL R-582(製品名、中京油脂社製、パラフィンワックス、融点Tmw70℃)」240質量部に変更したこと以外は同様にしてスチレンアクリル樹脂微粒子の水系分散液(2)を調製した。この非晶性樹脂微粒子は、体積基準のメジアン径が230nm、重量平均分子量(Mw)が25500、ガラス転移点が40.5℃であった。
【0234】
(スチレンアクリル樹脂微粒子の水系分散液(3)の調製)
実施例1のスチレンアクリル樹脂微粒子分散液〔1〕の調製において第2段重合の工程における離型剤〔N252〕240質量部を離型剤「HNP-0190(製品名、日本精鑞社製、マイクロクリスタリンワックス(パラフィンワックス)、融点Tmw83℃)」240質量部に変更したこと以外は同様にしてスチレンアクリル樹脂微粒子の水系分散液(3)を調製した。この非晶性樹脂微粒子は、体積基準のメジアン径が230nm、重量平均分子量(Mw)が25500、ガラス転移点が40.5℃であった。
【0235】
(スチレンアクリル樹脂微粒子の水系分散液(4)の調製)
実施例1のスチレンアクリル樹脂微粒子分散液〔1〕の調製において第2段重合の工程における離型剤〔N252〕240質量部を離型剤「FNP-0090(製品名、日本精鑞社製、パラフィンワックス、融点Tmw90℃)」240質量部に変更したこと以外は同様にしてスチレンアクリル樹脂微粒子の水系分散液(4)を調製した。この非晶性樹脂微粒子は、体積基準のメジアン径が230nm、重量平均分子量(Mw)が25500、ガラス転移点が41.0℃であった。
【0236】
<実施例2>
実施例1の第3の工程における60℃、3時間保持の加熱条件を、57℃、3時間の保持に変更したこと以外は同様にしてトナー〔2〕を得た。トナー〔2〕は、体積基準のメジアン径が6.2μm、平均円形度が0.966であった。
【0237】
<実施例3>
実施例1の第3の工程における60℃、3時間保持の加熱条件を、53℃で5時間保持した後、62℃で1時間保持する、に変更したこと以外は同様にしてトナー〔3〕を得た。このトナー〔3〕は、体積基準のメジアン径が6.2μm、平均円形度が0.966であった。
【0238】
<実施例4>
実施例1の第3の工程における60℃、3時間保持の加熱条件を、50℃で5時間保持した後、59℃で1時間保持する、に変更したこと以外は同様にしてトナー〔4〕を得た。このトナー〔4〕は、体積基準のメジアン径が6.2μm、平均円形度が0.966であった。
【0239】
<実施例5>
実施例1の第3の工程における60℃、3時間保持の加熱条件を、60℃、9時間保持に変更したこと以外は同様にしてトナー〔5〕を得た。このトナー〔5〕は、体積基準のメジアン径が6.1μm、平均円形度が0.966であった。
【0240】
<実施例6>
実施例1で用いた結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕を結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔2〕に変更し、第3の工程における60℃、3時間保持の加熱条件を、48℃で5時間保持した後、60℃で1時間保持する、に変更したこと以外は同様にしてトナー〔6〕を得た。このトナー〔6〕は、体積基準のメジアン径が6.3μm、平均円形度が0.966であった。
【0241】
<実施例7>
実施例1で用いた結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕を結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔3〕に変更し、第3の工程における60℃、3時間保持の加熱条件を、50℃で5時間保持した後、62℃で1時間保持する、に変更したこと以外は同様にしてトナー〔7〕を得た。このトナー〔7〕は、体積基準のメジアン径が6.3μm、平均円形度が0.967であった。
【0242】
<実施例8>
実施例1で用いた結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕を結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔4〕に変更し、第3の工程における60℃、3時間保持の加熱条件を、62℃、3時間の保持に変更したこと以外は同様にしてトナー〔8〕を得た。このトナー〔8〕は、体積基準のメジアン径が6.3μm、平均円形度が0.967であった。
【0243】
<実施例9>
実施例1で用いた結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕を結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔5〕に変更し、第3の工程における60℃、3時間保持の加熱条件を、58℃、3時間の保持に変更したこと以外は同様にしてトナー〔9〕を得た。このトナー〔9〕は、体積基準のメジアン径が6.3μm、平均円形度が0.967であった。
【0244】
<実施例10>
実施例1のトナー製造工程において用いたスチレンアクリル樹脂微粒子分散液〔1〕1600質量部、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕300質量部をそれぞれスチレンアクリル樹脂微粒子分散液〔1〕1690質量部、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕165質量部に変更したこと以外は同様にしてナー〔10〕を得た。このトナー〔10〕は、体積基準のメジアン径が6.3μm、平均円形度が0.967であった。
【0245】
<実施例11>
実施例1のトナー製造工程において用いたスチレンアクリル樹脂微粒子分散液〔1〕1600質量部、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕300質量部をそれぞれスチレンアクリル樹脂微粒子分散液〔1〕1240質量部、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕840質量部に変更したこと以外は同様にしてトナー〔11〕を得た。このトナー〔11〕は、体積基準のメジアン径が6.3μm、平均円形度が0.967であった。
【0246】
<実施例12>
実施例1のトナー製造工程において用いたスチレンアクリル樹脂微粒子分散液〔1〕1600質量部をスチレンアクリル樹脂微粒子分散液〔2〕1600質量部に変更したこと以外は同様にしてトナー〔12〕を得た。このトナー〔12〕は、体積基準のメジアン径が6.2μm、平均円形度が0.967であった。
【0247】
<実施例13>
実施例1のトナー製造工程において用いたスチレンアクリル樹脂微粒子分散液〔1〕1600質量部をスチレンアクリル樹脂微粒子分散液〔3〕1600質量部に変更したこと以外は同様にしてトナー〔13〕を得た。このトナー〔13〕は、体積基準のメジアン径が6.2μm、平均円形度が0.967であった。
【0248】
<実施例14>
実施例1で用いた結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕を結晶性ポリエステル分散液〔6〕に変更し、第3の工程における60℃、3時間保持の加熱条件を、53℃で5時間保持した後、62℃で1時間保持する、に変更したこと以外は同様にしてトナー〔14〕を得た。このトナー〔14〕は、体積基準のメジアン径が6.1μm、平均円形度が0.967であった。
【0249】
<実施例15>
実施例1のトナー製造工程において用いたスチレンアクリル樹脂微粒子分散液〔1〕1600質量部、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕300質量部をそれぞれスチレンアクリル樹脂微粒子分散液〔1〕1740質量部、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕90質量部に変更したこと以外は同様にしてトナー〔15〕を得た。このトナー〔15〕は、体積基準のメジアン径が6.3μm、平均円形度が0.967であった。
【0250】
<実施例16>
実施例1のトナー製造工程において用いたスチレンアクリル樹脂微粒子分散液〔1〕1600質量部、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕300質量部をそれぞれスチレンアクリル樹脂微粒子分散液〔1〕1100質量部、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕1050質量部に変更したこと以外は同様にしてトナー〔16〕を得た。このトナー〔16〕は、体積基準のメジアン径が6.3μm、平均円形度が0.968であった。
【0251】
<比較例1>
実施例1の第3の工程における60℃、3時間保持の加熱条件を、54℃、0.2時間の保持に変更したこと以外は同様にしてトナー〔17〕を得た。このトナー〔17〕は、体積基準のメジアン径が6.2μm、平均円形度が0.966であった。
【0252】
<比較例2>
実施例1で用いた結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔1〕を結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液〔7〕に変更し、第3の工程における60℃、3時間保持の加熱条件を、48℃で5時間保持した後、60℃で1時間保持する、に変更したこと以外は同様にしてトナー〔18〕を得た。このトナー〔18〕は、体積基準のメジアン径が6.3μm、平均円形度が0.966であった。
【0253】
<比較例3>
実施例1のトナー製造工程において用いたスチレンアクリル樹脂微粒子分散液〔1〕1600質量部をスチレンアクリル樹脂微粒子分散液〔4〕1600質量部に変更したこと以外は同様にしてトナー〔19〕を得た。このトナー〔19〕は、体積基準のメジアン径が6.2μm、平均円形度が0.967であった。
【0254】
得られたトナー〔1〕~〔19〕について、各トナーの示差走査熱量測定した際の1回目の昇温過程における、結晶性ポリエステル樹脂由来の吸熱ピークの立ち上がり温度T℃、吸熱ピーク温度T℃、離型剤由来の吸熱ピーク温度T℃、及びフローテスターにおけるトナーの流出開始温度Tfb℃を測定した。結果をトナーの組成、製造条件(第3の工程における加熱条件)と共に表Iに示す。結着樹脂を構成する各樹脂の含有量は、結着樹脂100質量部中の質量部である。離型剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対する質量部である。表中、「StAc樹脂」は、スチレンアクリル樹脂を示す。離型剤の「R-582」は、SELOSOL R-582を示す。
【0255】
【表1】
【0256】
〔現像剤の製造例1~19〕
トナー〔1〕~〔19〕の各々に対して、シリコーン樹脂を被覆した体積基準のメジアン径が60μmのフェライトキャリアを、トナー濃度が6質量%となるように添加し、V型混合機によって混合することにより、現像剤〔1〕~〔19〕を製造した。
【0257】
[トナーの評価]
上記のようにして作製したトナー〔1〕~〔19〕及びこれらをそれぞれ含む現像剤〔1〕~〔19〕を用いて、以下の評価を行った。結果を、表IIに示す。
【0258】
(1)低温定着性の評価
低温定着性は、画像評価装置として市販の複写機「bizhub PRO C6550」(コニカミノルタ社製)における加熱定着ローラの表面温度(ローラの中心部で測定)を100~200℃の範囲に変更できるように改造したものを用いた。現像剤(黒色)としてそれぞれ現像剤〔1〕~〔19〕を搭載し、常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)環境下にて、A4サイズの上質紙上に、トナー付着量8mg/cmのベタ画像(黒色)を定着させる定着実験を、設定される定着温度を120℃から1℃刻みで上昇させるよう変更しながら200℃まで繰り返し行った。目視で低温オフセットによる画像汚れが観察されない定着実験のうち、最低の温度を最低定着温度として評価した。最低定着温度として評価基準が137℃未満のものを合格とした。
【0259】
(評価基準)
◎:130℃未満
〇:130以上134℃未満
△:134以上137℃未満
×:137℃以上
【0260】
(2)定着分離性の評価
低温定着性の評価と同様の画像評価装置を用い、加熱定着ローラの表面温度を160℃とし、搬送方向に対して垂直方向に5cm幅のベタ黒帯状画像を有するA4紙を縦送りで搬送した際における画像側の加熱定着ローラと紙との分離性を下記の評価基準により評価した。本発明においては、評価基準が「〇」又は「△」である場合を合格とする。
【0261】
(評価基準)
〇:紙がカールすることなく加熱定着ローラと分離する。
△:紙が加熱定着ローラと分離するが、紙先端がわずかにカールする(実用上問題ない)。
×:紙が加熱定着ローラと分離するが画像表面の光沢にムラがみられる、もしくは加熱定着ローラに巻きついてしまい加熱定着ローラと分離できない。
【0262】
(3)耐熱保管性の評価
トナー0.5gを内径21mmの10mLガラス瓶に取り蓋を閉めて、タップデンサーKYT-2000(セイシン企業製)で室温にて600回振とうした後、蓋を取った状態で57.5℃、60.0℃、62.5℃の3水準の温度、及び35%RHの環境下に2時間放置した。次いで、トナーを48メッシュ(目開き350μm)の篩上に、トナーの凝集物を解砕しないように注意しながらのせて、パウダーテスター(ホソカワミクロン社製)にセットし、押さえバー、ノブナットで固定し、送り幅1mmの振動強度に調整し、10秒間振動を加えた後、篩上の残存したトナー量の比率(質量%)を測定した。
トナー凝集率は下記式により算出される値である。
トナー凝集率(%)=篩上の残存トナー質量(g)/0.5(g)×100
【0263】
上記3水準の温度でトナー凝集率を測定し、凝集率が50%になる温度を推定し、その温度を50%凝集温度とする。下記に記載の基準によりトナーの耐熱保管性(50%凝集温度)の評価を行い、本発明においては、評価基準がが「◎」、「〇」又は「△」である場合を合格とする。
【0264】
(評価基準)
◎:50%凝集温度が62℃以上(トナーの耐熱保管性が極めて良好)
○:50%凝集温度が60℃以上62℃未満(トナーの耐熱保管性が良好)
△:50%凝集温度が57.5℃以上60℃未満(トナーの耐熱保管性やや劣るが許容レベル)
×:50%凝集温度が57.5℃未満(トナーの耐熱保管性が悪く、使用不可)
【0265】
【表2】
【0266】
表IIから本発明のトナーは、優れた低温定着性を有するとともに、耐熱保管性、及び定着分離性も併せ持つことがわかる。