(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】積層蓋材および包装容器
(51)【国際特許分類】
B65D 65/40 20060101AFI20240604BHJP
B32B 15/085 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
B65D65/40 D
B32B15/085 A
(21)【出願番号】P 2020087374
(22)【出願日】2020-05-19
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】菅野 雅恵
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 幸子
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0051020(US,A1)
【文献】特開昭55-012029(JP,A)
【文献】特開平02-245042(JP,A)
【文献】特開昭62-270913(JP,A)
【文献】特開2002-296551(JP,A)
【文献】特開2009-166884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/40
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、
前記基材層上に形成されたアルミ層と、
前記アルミ層上に形成された接着層と、
前記接着層上に形成されたイージーピール層と、
を備え、
前記接着層は、前記アルミ層側に無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンを主成分とする主層を有し、かつ前記主層のビカット軟化点が110℃以上
114℃以下である、
積層蓋材。
【請求項2】
120℃環境下において、JIS-K6854に準拠して測定した前記アルミ層と前記接着層とのラミネート強度が2.0N/15mm以上である、
請求項1に記載の積層蓋材。
【請求項3】
樹脂製の容器本体と、
前記容器本体に接合されて前記容器本体を密封する、請求項1または2に記載の積層蓋材と、
を備える、
包装容器。
【請求項4】
前記容器本体内に収容された内容物が安息香酸を含有する、
請求項3に記載の包装容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルム、より詳しくは、レトルト処理される包装容器に好適な積層蓋材に関する。この積層蓋材を用いた包装容器についても言及する。
【背景技術】
【0002】
使い捨てコンタクトレンズ等の衛生材料の流通の一態様として、容器内の保存液に浸漬された状態で提供し、使用時に開封して保存液から取り出すものが知られている。コンタクトレンズは滅菌が必要なため、保存液およびコンタクトレンズを収容した容器は、密封された後にレトルト処理によって滅菌されることがある。
このような容器の蓋材としては、内容物の変質や腐敗等を抑制し、それらの機能や性質を保持するために、水蒸気、酸素、その他の内容物を変質させる気体の進入を遮断するガスバリア性を有する積層フィルムが用いられている。
【0003】
ガスバリア性を有する積層フィルムの製造において、ウレタン系の2液硬化型接着剤を用いたドライラミネーションが行われることがある。このような接着剤は、内容物に含まれるアルカリ性物質、香料、界面活性剤、高沸点有機溶剤などにアタックされると、ドライラミネーションの接着力が低下し、層間剥離を生じることが知られている。
【0004】
この問題に関し、特許文献1には、アルコール耐性を有する接着剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
衛生材料の保存液には、アルコールの他に安息香酸が防腐剤として使用されることがある。安息香酸は、接着剤へのアタックが強いため、このような保存液を使用する衛生材料の用途においては、レトルト処理に加えて安息香酸に対する耐性も考慮する必要があり、特許文献1に記載の構成では十分とは言えない。
【0007】
上記事情を踏まえ、本発明は、レトルト処理および安息香酸に対して十分な耐性を有する積層蓋材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様は、基材層と、基材層上に形成されたアルミ層と、アルミ層上に形成された接着層と、接着層上に形成されたイージーピール層とを備える積層蓋材である。
この積層蓋材において、接着層は、無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンを主成分とする主層を有し、かつ主層のビカット軟化点が110℃以上114℃以下である。
【0009】
本発明の第二の態様は、樹脂製の容器本体と、容器本体に接合されて容器本体を密封する、第一の態様に係る積層蓋材とを備える包装容器である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の積層蓋材は、レトルト処理および安息香酸に対して十分な耐性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る積層蓋材を備えた包装容器を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について、
図1および
図2を参照して説明する。
図1は、本実施形態の積層蓋材1を備えた包装容器100を模式的に示す断面図である。包装容器100は、樹脂製の容器本体101と、容器本体101の上部開口を密封する積層蓋材1とを備えている。容器本体101内には、保存液(内容物)PFが充填され、コンタクトレンズCLが保存液PFに浸漬されている。
保存液PFは、防腐剤として安息香酸を含んでいる。包装容器100は、積層蓋材1で密封された後にレトルト処理されることにより、容器本体内に収容された保存液PFおよびコンタクトレンズCLが滅菌されている。
【0013】
図2に、積層蓋材1の模式断面図を示す。
積層蓋材1は、基材層2と、アルミ層3と、イージーピール層4とを備えている。
【0014】
基材層2としては、例えば、樹脂フィルムを用いることができる。
樹脂フィルムを形成する樹脂としては、耐熱性、および各種加工適性の観点からポリエステルが好適であるが、これには限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン-2、6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートやこれらの共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ナイロン-6、ナイロン-66、ナイロン-12等のポリアミド系樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等の水酸基含有重合体等も使用できる。これらの樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
基材層2は、延伸フィルムであってもよく、未延伸フィルムであってもよい。なかでも、機械的強度や寸法安定性に優れる点から、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムが好ましく、二軸延伸フィルムがより好ましい。
基材層2は、1枚の基材フィルムからなる単層構成であってもよく、2枚以上の基材フィルムが積層された複層構成であってもよい。
【0016】
基材層2の厚さは特に限定されないが、例えば3~200μmとすることができ、6~30μmが好ましい。
基材層2は、一方の面に印刷層5を有する。印刷層5には、内容物に関する情報や各種絵柄等を適宜含めることができる。
図2において、印刷層5は容器本体101側の面に形成されているが、反対側の面に形成されてもよいし、両面に形成されてもよい。さらに、印刷層5は省略されてもよい。
【0017】
アルミ層3は、ガスバリア機能を有する。アルミ層3としては、アルミ箔やアルミ蒸着層等を使用できる。本実施形態のアルミ層3は、アルミ箔を接着剤層6で印刷層5に接合することにより形成されている。接着剤層6としては、各種のドライラミネート用接着剤を使用でき、ポリオール成分とイソシアネート成分とからなる2液型接着剤を例示できる。
【0018】
イージーピール層4は、積層蓋材1と容器本体101とを接合して包装容器100の密封状態を保持するとともに、開封動作を容易にする。イージーピール層4としては、公知の各種イージーピールシーラントフィルム(ポリプロピレン系など)を適宜選択して使用できる。
イージーピール層4は、接着層7によりアルミ層3に接合されている。イージーピール層4の接合方法は、接着層7となる樹脂を単層又は共押出する押出ラミネーションとすることができる。
【0019】
接着層7は、アルミ層3と接する側に無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレン(以下、「変性PP」と称する。)を主成分とする主層を有する。接着層7は、主層単層でもよいし、イージーピール層4側に他の層を有してもよい。他の層の材質としては、無変性ポリプロピレンを例示できる。
変性PPは、ポリプロピレンを無水マレイン酸によりグラフト変性したポリプロピレンである。変性PPにおけるポリプロピレンとしては、例えば、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、又はランダムポリプロピレン、プロピレン-αオレフィン共重合体等が挙げられる。αオレフィンとしては、エチレン、1-ブテン等が挙げられる。
【0020】
発明者らは、レトルト処理及び安息香酸への耐性の高い積層蓋材の構成について種々検討した結果、接着層7に変性PPを用いることが好適であることを見出した。さらに検討すると、変性PPの無水マレイン酸グラフトが0.1重量パーセント(wt%)以上1wt%以下である場合に、その効果がより顕著となることが分かった。無水マレイン酸グラフト率が0.1重量%未満であるとアルミ層3との十分な接着強度が得られず、殺菌時等にデラミネーションが発生する可能性が高くなる可能性がある。一方、無水マレイン酸グラフト率が1重量%を超えると、樹脂特性が不安定となる。具体的には、グラフト化の際に使用する反応触媒がPP樹脂本体の分解を促す結果、分子量が小さくなってメルトフローレート(MFR)が極端に上昇し、製膜適性が失われてしまう。その結果、形成される接着層の皮膜強度が低下し、充分な接着強度が得られないという不具合が発生する可能性がある。
【0021】
包装容器100をレトルト処理すると、接着層7は高温により軟化する。接着層7が軟化すると、アルミ層3とイージーピール層4との間で流動し、容器本体101内の内圧上昇に耐えられなくなって密封状態が破綻する原因となる。
発明者らがこの現象について種々検討したところ、接着層7の材料を選択する指標として融点はあまり適切でなく、ビカット軟化点が好適であることを見出した。すなわち、融点がレトルト処理時の温度に対して十分高くても、ビカット軟化点が低いと、融解はしていないものの流動自体は発生するため、密封状態を十分維持できないことが分かった。
【0022】
発明者らの検討では、変性PPを主成分とする層のビカット軟化点が110℃以上であると、レトルト処理の温度に十分近いため、変性PPを主成分とする層がレトルト処理時に過度な流動を生じず、密封状態が維持されやすいことが分かった。ビカット軟化点の測定方法は、JIS K7206:2016(ISO306:2013)に規定されている。
【0023】
接着層7の厚さは、1~30μmが好ましく、1~15μmがより好ましい。接着層7の厚さが下限値以上であれば、アルミ層3とイージーピール層4との間でデラミネーションが生じることを抑制しやすい。接着層7の厚さが上限値以下であれば、積層後のラミネーション加工における熱伝導性に優れ、適正なラミネート強度が得られる。
接着層7の主層は、変性PPを主成分としていれば他の樹脂を含有してもよい。接着層7に用いられる変性PP以外の樹脂として、無変性ポリプロピレンを例示できる。
【0024】
容器本体101を形成する樹脂は、イージーピール層4が接合可能であればよく、イージーピール層4に合わせて同系統の樹脂を選択することができる。
【0025】
容器本体101に保存液PFおよびコンタクトレンズCLを配置し、イージーピール層4を容器本体101に対向させて積層蓋材1を配置する。その後、積層蓋材1と容器本体101との接触部位を加熱および加圧すると、積層蓋材1が容器本体に接合されて容器本体101内が密封された包装容器100が完成する。
【0026】
積層蓋材1は上記構成を有するため、保存液PFが安息香酸を含み、かつ製造後の包装容器100がレトルト処理により滅菌された後でも、密封状態が好適に保持され、アルミ層3とイージーピール層4とのデラミネーション(剥離)も好適に抑制される。その結果、レトルト処理時の温度とほぼ同一である120℃環境下においても、アルミ層3と接着層7とのラミネート強度を2.0N/15mm以上とできる。
積層蓋材1およびこれを備える包装容器100は、安息香酸を含んだり、滅菌処理を必要としたりする各種衛生材料の包装に好適である。また、ドライラミネーションを必要とせず、レトルト処理に伴って接合強度も高まるため、製造において養生工程が不要であり、製造効率が高い。
【0027】
本発明の積層蓋材および包装容器について、実施例を用いてさらに説明する。本発明は、以降の記載のみによってその技術的範囲が狭く解釈されることはない。
【0028】
(実施例1)
基材層として、厚さ16μmのポリエステルフィルム(フタムラ化学社製 FE2001)を準備した。基材層の一方の面に、エステル主鎖の主剤および硬化剤からなる接着剤を用いたドライラミネーションにより、厚さ50μmのアルミ箔を貼り合わせ、接着剤層およびアルミ層を形成した。
イージーピール層として、厚さ30μmのシーラントフィルム(東レフィルム加工社製 9501H)を使用し、押出ラミネーションによりアルミ層上に接着層およびイージーピール層を形成した。接着層として、変性PP(A)(融点ピーク:141℃、密度:0.90g/cm3、MFR:15g/10min)と、無変性ランダムポリプロピレンとの2種の樹脂を用いた。各層の厚さは12μmとし、変性PPからなる主層をアルミ層側に配置した。
以上により、実施例1に係る積層蓋材を作製した。
【0029】
(実施例2)
変性PP(A)に代えて、変性PP(B)(融点ピーク104、135℃、密度0.895g/cm3、MFR9.2g/10min)を使用した点を除き、実施例1と同様の手順で実施例2に係る積層蓋材を作製した。
【0030】
(比較例1)
変性PP(A)に代えて、変性PP(C)(融点ピーク:103、135℃、密度:0.88g/cm3、MFR:10.3g/10min)を使用した点を除き、実施例1と同様の手順で実施例2に係る積層蓋材を作製した。
【0031】
(比較例2)
変性PP(A)に代えて、変性PP(D)(融点ピーク:100、155℃、密度:0.88g/cm3、MFR:8.5g/10min)を使用した点を除き、実施例1と同様の手順で実施例2に係る積層蓋材を作製した。
【0032】
各実施例および比較例の積層蓋材を用いて、以下の評価を行った。
(ビカット軟化点の測定)
ISO306:2013に基づいて変性PPからなる主層のビカット軟化点を測定した。測定は、主層のみからなる厚めのサンプルを作製して行った。
【0033】
(ラミネート強度の測定)
各例の積層蓋材から幅15mmの試験片を切り出した。引っ張り試験機を用い、JIS-K6854に準拠して、120℃の環境下において、アルミ層と接着層とのラミネート強度を測定した。
【0034】
(安息香酸含有内容物およびレトルト処理に対する密封保持性)
PP製の容器本体に飽和安息香酸水溶液を0.6mL充填し、各例の積層蓋材を熱融着で接合して密封した。これにより、各例に係る包装容器を作製した。
各例の包装容器を121℃、30分の条件でレトルト殺菌処理した後、容器本体に穴をあけて飽和安息香酸水溶液を除去し、墨汁を注入して、積層蓋材と容器本体との接合部における墨汁のリークの有無を目視により確認した。
リークが生じていないものを「○(良好、good)」、リークが生じているものを「×(不良、bad)」、の2段階で評価した。
【0035】
結果を表1に示す。
【0036】
【0037】
表1に示すように、接着層において、主層の変性PPのビカット軟化点が110℃以上である各実施例では、120℃環境下におけるアルミ層と接着層とのラミネート強度が高く、レトルト処理後のリークが防止されていた。
一方、主層の変性PPのビカット軟化点が110℃以下である比較例では、120℃環境下におけるラミネート強度が十分でなかった。また、レトルト処理後に密封状態で保持できず、リークが生じた。
レトルト処理後のラミネート強度については、実施例と比較例とで差が認められなかったため、リークを生じさせる経路は、レトルト処理中に比較例の変性PPが柔らかくなりすぎたことにより生じたものと推測された。これは、完成品のラミネート強度を測定するだけではわかりえない、新しい知見である。
【0038】
以上、本発明の一実施形態および実施例について説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態等の内容に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 積層蓋材
2 基材層
3 アルミ層
4 イージーピール層
7 接着層
100 包装容器
101 容器本体
PF 保存液(内容物)