(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】センサレス制御装置、電動オイルポンプ装置、及びセンサレス制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 6/21 20160101AFI20240604BHJP
H02P 6/182 20160101ALI20240604BHJP
【FI】
H02P6/21
H02P6/182
(21)【出願番号】P 2020113397
(22)【出願日】2020-06-30
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000220505
【氏名又は名称】ニデックパワートレインシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【氏名又は名称】成田 友紀
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【氏名又は名称】梶原 慶
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-098580(JP,A)
【文献】特開平05-276788(JP,A)
【文献】特開平07-213093(JP,A)
【文献】特開2010-011539(JP,A)
【文献】特開2011-200068(JP,A)
【文献】特開2017-209407(JP,A)
【文献】特開2013-252027(JP,A)
【文献】特開2015-035858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/21
H02P 6/182
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを位置センサ無しで制御するセンサレス制御装置であって、
複数相のスイッチング素子で構成され、前記モータの各相に電力を供給するモータ駆動回路と、
前記モータの逆起電圧に基づいて前記モータの位相を検出し、前記位相の検出結果を示す位相検出信号を出力する位相検出部と、
前記モータの通電相に印加される駆動電圧の制御パターンを示す電圧制御パターンと、
前記通電相が切り替わる速度である通電切替速度の制御パターンを示す速度制御パターンとを記憶する記憶部と、
上位制御装置から入力される制御指令信号と、前記位相検出信号と、前記電圧制御パターンとに基づいて制御電圧を出力する電圧制御部と、
前記制御電圧と、前記位相検出信号と、前記速度制御パターンとに基づいて前記モータ駆動回路の前記スイッチング素子を制御することにより前記駆動電圧及び前記通電切替速度を制御する通電制御部と、
を備え、
前記モータの起動時において前記位相検出信号によって前記位相を認識できない場合、
前記電圧制御部は、前記電圧制御パターンに基づいて前記制御電圧を時間とともに
増加させ、
前記通電制御部は、前記制御電圧及び前記速度制御パターンに基づいて前記スイッチング素子を制御することにより、前記制御電圧に同期して前記駆動電圧を時間とともに
増加させながら、前記速度制御パターンに基づいて前記通電切替速度を時間とともに
減少させる強制転流制御を行い、
前記強制転流制御が行われる期間に、任意の時点における前記駆動電圧と前記通電切替速度との組み合わせが、前記駆動電圧及び前記通電切替速度を変数とし且つ負の傾きを有する一次関数を常に満たす
センサレス制御装置。
【請求項2】
前記電圧制御部は、前記電圧制御パターンに基づいて前記制御電圧を時間とともに一定の勾配で増加させ、
前記通電制御部は、前記制御電圧及び前記速度制御パターンに基づいて前記スイッチング素子を制御することにより、前記制御電圧に同期して前記駆動電圧を時間とともに一定の勾配で増加させながら、前記速度制御パターンに基づいて前記通電切替速度を時間とともに一定の勾配で減少させる強制転流制御を行う
請求項
1に記載のセンサレス制御装置。
【請求項3】
前記電圧制御部は、前記電圧制御パターンに基づいて前記制御電圧を時間とともに段階的に増加させ、
前記通電制御部は、前記制御電圧及び前記速度制御パターンに基づいて前記スイッチング素子を制御することにより、前記制御電圧に同期して前記駆動電圧を時間とともに段階的に増加させながら、前記速度制御パターンに基づいて前記通電切替速度を時間とともに段階的に減少させる強制転流制御を行う
請求項
1に記載のセンサレス制御装置。
【請求項4】
前記記憶部は、前記モータの位相が特定の位相に固定される直流励磁条件を予め記憶し、
前記モータの起動時において前記位相検出信号によって前記位相を認識できない場合、
前記電圧制御部は、前記電圧制御パターンに基づいて前記制御電圧を出力する前に、前記直流励磁条件に基づいて前記制御電圧を出力し、
前記通電制御部は、前記制御電圧と前記直流励磁条件とに基づいて前記スイッチング素子を制御することにより、特定の通電相に直流駆動電圧を一定時間印加させる
請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載のセンサレス制御装置。
【請求項5】
前記位相検出信号によって前記位相の認識に成功した場合、
前記電圧制御部は、前記制御指令信号と前記位相検出信号とに基づいて前記制御電圧を出力し、
前記通電制御部は、前記制御電圧及び前記位相検出信号に基づいて前記スイッチング素子を制御することにより、前記制御指令信号に応じた駆動電圧を前記通電相に印加させながら、前記位相検出信号によって決定される通電切替速度で前記通電相を切り替える
請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載のセンサレス制御装置。
【請求項6】
シャフトを有するモータと、
前記シャフトの軸方向一方側に位置し、前記モータによって前記シャフトを介して駆動されてオイルを吐出するポンプと、
前記モータを位置センサ無しで制御する請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載のセンサレス制御装置と、
を備える、電動オイルポンプ装置。
【請求項7】
モータを位置センサ無しで制御するセンサレス制御方法であって、
前記モータの起動時に前記モータの位相を認識できない場合、予め決定された電圧制御パターンに基づいて前記モータの通電相に印加される駆動電圧を時間とともに
増加させながら、予め決定された速度制御パターンに基づいて前記通電相の切替え速度である通電切替速度を時間とともに
減少させる強制転流制御を行い、
前記強制転流制御が行われる期間に、任意の時点における前記駆動電圧と前記通電切替速度との組み合わせが、前記駆動電圧及び前記通電切替速度を変数とし且つ負の傾きを有する一次関数を常に満たす
センサレス制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサレス制御装置、電動オイルポンプ装置、及びセンサレス制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両は、変速機に油圧を供給する油圧供給装置として、エンジンの駆動力によって駆動される機械式オイルポンプと、モータによって駆動される電動式オイルポンプとを備える。このようなハイブリッド車両では、機械式オイルポンプが動作不能となるエンジン停止時にモータを制御することにより、電動式オイルポンプによって変速機に必要な油圧を供給することができる。
【0003】
モータの制御方式として、ホールセンサ等の位置センサを使わずにモータの逆起電圧を利用してモータの位相を検出し、その位相の検出結果に基づいてモータの通電制御を行うセンサレス制御が知られている。センサレス制御においてモータの位相を検出するためには、モータの中性点電圧と逆起電圧とが交差する点であるゼロクロス点を検出する必要があるが、モータの回転速度が所定の速度以上でなければ、ゼロクロス点を検出可能な逆起電圧は発生しない。そのため、センサレス制御でモータを起動する場合、モータの回転速度がゼロクロス点を検出可能な速度に達するまで、予め決められた起動シーケンスに従ってモータの通電制御を行うことが一般的である。
【0004】
起動シーケンスの一例として、直流励磁を所定時間行うことによりモータの位相を特定の位相に固定した後、通電相に一定の駆動電圧を印加しながら一定の通電切替速度で強制的に通電相を切り替える強制転流制御を行う起動シーケンスが知られている。この起動シーケンスによってモータの回転速度がゼロクロス点を検出可能な速度に達すると強制転流制御は終了し、以降はゼロクロス点の検出によって得られるモータの位相検出結果に基づいてモータのセンサレス制御が行われる。
【0005】
特許文献1には、強制転流制御時に捕捉したゼロクロス点の検出パターンが、予め記憶した規則的な変化パターンと合致する場合に、強制転流制御からセンサレス制御に移行するセンサレスモータの起動方法が記載されている。この起動方法では、強制転流制御時のパターン切換タイミング時間が所定時間より短いときに、遅れ角制御を行ってセンサレス制御に移行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、モータを適切に回転させるためには、モータの仕様に依存するF-V特性に従ってモータに印加する駆動電圧Vを回転速度Fに応じた適切な値に制御する必要がある。回転速度Fと駆動電圧Vとは比例関係にあるので、F-V特性は正の傾きを有する一次関数で表される。回転速度Fと駆動電圧Vとの組み合わせがF-V特性から離れるほどモータの回転は不安定となり、適切にモータを制御することが困難となる。
【0008】
また、モータがオイルポンプ等の負荷に接続されると、モータを回転させるのに必要なエネルギーが増加するため、負荷に接続されたモータを負荷無しの場合と同一の回転速度で回転させるのに必要な駆動電圧は大きくなる。すなわち、同一のモータであっても、モータのF-V特性は負荷の大きさに依存して変化する。
【0009】
上記のようにセンサレス制御でモータを起動する場合、予め決められた駆動電圧及び通電切替速度の組み合わせで強制転流制御が行われるが、モータの実際の回転速度は必ずしも通電切替速度と一致せず、駆動電圧の大きさと負荷の大きさとに依存する。そのため、様々な負荷条件下でのF-V特性を実験的に予め取得しておき、センサレス制御でモータを起動する際に実際の負荷の大きさに応じたF-V特性に適合する駆動電圧及び通電切替速度の組み合わせで強制転流制御を行うことが望ましいが、それを実施することは現実的に困難である。
【0010】
そこで、現実的な手法として、一つの特定の負荷条件下で得られたF-V特性に基づいて駆動電圧及び通電切替速度を調整しながら強制転流制御を行うことにより、ゼロクロス点を検出可能な速度までモータを回転させることの可能な駆動電圧及び通電切替速度の組み合わせを予め実験的に決定しておく手法が採用される場合が多い。この場合、モータの起動時には、上記の手法で決定された駆動電圧及び通電切替速度の組み合わせで強制転流制御が行われるが、実際の負荷条件が実験で使われた負荷条件から大きく逸脱する場合には、実際の負荷条件に適合しない駆動電圧及び通電切替速度の組み合わせで強制転流制御を行うことになる。その結果、モータの起動時にゼロクロス点を検出可能な速度までモータを回転させることができず、モータの起動に失敗する虞がある。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みて、センサレス制御でモータを起動するときに負荷の大きさに関係なくモータの起動を成功させることができるセンサレス制御装置、電動オイルポンプ装置、及びセンサレス制御方法を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のセンサレス制御装置における一つの態様は、モータを位置センサ無しで制御するセンサレス制御装置であって、複数相のスイッチング素子で構成され、前記モータの各相に電力を供給するモータ駆動回路と、前記モータの逆起電圧に基づいて前記モータの位相を検出し、前記位相の検出結果を示す位相検出信号を出力する位相検出部と、を備える。また、本発明の一態様におけるセンサレス制御装置は、前記モータの通電相に印加される駆動電圧の制御パターンを示す電圧制御パターンと、前記通電相が切り替わる速度である通電切替速度の制御パターンを示す速度制御パターンとを記憶する記憶部を備える。また、本発明の一態様におけるセンサレス制御装置は、上位制御装置から入力される制御指令信号と、前記位相検出信号と、前記電圧制御パターンとに基づいて制御電圧を出力する電圧制御部を備える。さらに、本発明の一態様におけるセンサレス制御装置は、前記制御電圧と、前記位相検出信号と、前記速度制御パターンとに基づいて前記モータ駆動回路の前記スイッチング素子を制御することにより前記駆動電圧及び前記通電切替速度を制御する通電制御部を備える。本発明の一態様におけるセンサレス制御装置では、前記モータの起動時において前記位相検出信号によって前記位相を認識できない場合、前記電圧制御部は、前記電圧制御パターンに基づいて前記制御電圧を時間とともに変化させ、前記通電制御部は、前記制御電圧及び前記速度制御パターンに基づいて前記スイッチング素子を制御することにより、前記制御電圧に同期して前記駆動電圧を時間とともに変化させながら、前記速度制御パターンに基づいて前記通電切替速度を時間とともに変化させる強制転流制御を行う。前記強制転流制御が行われる期間に、任意の時点における前記駆動電圧と前記通電切替速度との組み合わせが、前記駆動電圧及び前記通電切替速度を変数とし且つ負の傾きを有する一次関数を常に満たす。
【0013】
本発明の電動オイルポンプ装置における一つの態様は、シャフトを有するモータと、前記シャフトの軸方向一方側に位置し、前記モータによって前記シャフトを介して駆動されてオイルを吐出するポンプと、前記モータを位置センサ無しで制御する上記態様のセンサレス制御装置と、を備える。
【0014】
本発明のセンサレス制御方法における一つの態様は、モータを位置センサ無しで制御するセンサレス制御方法であって、前記モータの起動時に前記モータの位相を認識できない場合、予め決定された電圧制御パターンに基づいて前記モータの通電相に印加される駆動電圧を時間とともに変化させながら、予め決定された速度制御パターンに基づいて前記通電相の切替え速度である通電切替速度を時間とともに変化させる強制転流制御を行い、前記強制転流制御が行われる期間に、任意の時点における前記駆動電圧と前記通電切替速度との組み合わせが、前記駆動電圧及び前記通電切替速度を変数とし且つ負の傾きを有する一次関数を常に満たす。
【発明の効果】
【0015】
本発明の上記態様によれば、センサレス制御でモータを起動するときに負荷の大きさに関係なくモータの起動を成功させることができるセンサレス制御装置、電動オイルポンプ装置、及びセンサレス制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本実施形態におけるセンサレス制御装置を備える電動オイルポンプ装置を模式的に示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本実施形態におけるセンサレス120°通電方式で使用される通電パターン及び位相パターンの一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本実施形態におけるセンサレス120°通電方式の基本原理を示すタイミングチャートである。
【
図4】
図4は、本実施形態におけるモータのF-V特性と負荷との関係を示す図である。
【
図5】
図5は、本実施形態において記憶部に記憶される電圧制御パターン及び速度制御パターンの一例を示す図ある。
【
図6】
図6は、本実施形態において記憶部に記憶される電圧制御パターン及び速度制御パターンの別の例を示す図である。
【
図7】
図7は、本実施形態において記憶部に記憶される電圧制御パターン及び速度制御パターンの別の例を示す図である。
【
図8】
図8は、本実施形態において記憶部に記憶される電圧制御パターン及び速度制御パターンの別の例を示す図である。
【
図9】
図9は、本実施形態におけるセンサレス制御装置の動作を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態におけるセンサレス制御装置10を備える電動オイルポンプ装置100を模式的に示す回路ブロック図である。
図1に示すように、電動オイルポンプ装置100は、センサレス制御装置10と、電動オイルポンプ40とを備える。電動オイルポンプ40は、モータ20と、ポンプ30とを備える。電動オイルポンプ装置100は、例えばハイブリッド車両に搭載されるトランスミッションにオイルを供給する装置である。
【0018】
センサレス制御装置10は、電動オイルポンプ40のモータ20をホールセンサ等の位置センサ無しで制御する装置である。すなわち、センサレス制御装置10は、モータ20の逆起電圧を利用してモータ20の位相を検出し、その位相の検出結果に基づいてモータ20の通電制御を行う。センサレス制御装置10の詳細については後述する。
【0019】
モータ20は、例えばインナーロータ型の三相ブラシレスDCモータであって、且つホールセンサ等の位置センサを有しないセンサレスモータである。モータ20は、シャフト21と、U相端子22uと、V相端子22vと、W相端子22wと、U相コイル23uと、V相コイル23vと、W相コイル23wと、を有する。
【0020】
また、
図1では図示を省略するが、モータ20は、モータハウジングと、モータハウジングに収容されたロータ及びステータとを有する。ロータは、モータハウジングの内部において、軸受け部品によって回転可能に支持される回転体である。ステータは、モータハウジングの内部において、ロータの外周面を囲った状態で固定され、ロータを回転させるのに必要な電磁力を発生させる。
【0021】
シャフト21は、ロータの径方向内側を軸方向に貫通した状態でロータと同軸接合される軸状体である。U相端子22u、V相端子22v及びW相端子22wは、それぞれモータハウジングの表面から露出する金属端子である。詳細は後述するが、U相端子22u、V相端子22v及びW相端子22wは、それぞれセンサレス制御装置10のモータ駆動回路11と電気的に接続される。U相コイル23u、V相コイル23v及びW相コイル23wは、それぞれステータに設けられた励磁コイルである。U相コイル23u、V相コイル23v及びW相コイル23wは、モータ20の内部でスター結線される。
【0022】
U相コイル23uは、U相端子22uと中性点Nとの間に電気的に接続される。V相コイル23vは、V相端子22vと中性点Nとの間に電気的に接続される。W相コイル23wは、W相端子22wと中性点Nとの間に電気的に接続される。U相コイル23u、V相コイル23v及びW相コイル23wの通電状態がセンサレス制御装置10によって制御されることにより、ロータを回転させるのに必要な電磁力が発生する。ロータが回転することにより、シャフト21もロータに同期して回転する。
【0023】
ポンプ30は、モータ20のシャフト21の軸方向一方側に位置し、モータ20によってシャフト21を介して駆動されオイル200を吐出する。ポンプ30は、オイル吸入口31及びオイル吐出口32を有する。オイル200は、オイル吸入口31からポンプ30の内部に吸入された後、オイル吐出口32から不図示のトランスミッションに吐出される。このように、ポンプ30とモータ20とがシャフト21の軸方向に隣り合って接続されることにより、電動オイルポンプ40が構成される。
【0024】
センサレス制御装置10は、モータ駆動回路11と、位相検出部12と、記憶部13と、電圧制御部14と、通電制御部15と、を備える。センサレス制御装置10は、モータ20と、車載バッテリ300と、上位制御装置400とのそれぞれに電気的に接続される。なお、車載バッテリ300及び上位制御装置400は、センサレス制御装置10及び電動オイルポンプ装置100の構成要素ではない。
【0025】
車載バッテリ300は、ハイブリッド車両に搭載される複数のバッテリの一つであり、例えば12V系の車載システムに対して12Vの電源電圧VMを供給する。上位制御装置400は、例えばハイブリッド車両に搭載される複数のECU(Electric Control Unit)の一つであり、電動オイルポンプ装置100によるトランスミッションへの油圧供給動作を制御する制御指令信号CSをセンサレス制御装置10に出力する。
【0026】
モータ駆動回路11は、複数相のスイッチング素子で構成され、モータ20の各相に電力を供給する回路である。具体的には、モータ駆動回路11は、U相上側アームスイッチQUHと、V相上側アームスイッチQVHと、W相上側アームスイッチQWHと、U相下側アームスイッチQULと、V相下側アームスイッチQVLと、W相下側アームスイッチQWLと、を有する。本実施形態において各アームスイッチは、例えばNチャネル型MOS-FETである。
【0027】
U相上側アームスイッチQUHのドレイン端子、V相上側アームスイッチQVHのドレイン端子、及びW相上側アームスイッチQWHのドレイン端子は、それぞれ車載バッテリ300の正極端子と電気的に接続される。U相下側アームスイッチQULのソース端子、V相下側アームスイッチQVLのソース端子、及びW相下側アームスイッチQWLのソース端子は、それぞれ車載バッテリ300の負極端子と電気的に接続される。なお、車載バッテリ300の負極端子は車内グランドと電気的に接続される。
【0028】
U相上側アームスイッチQUHのソース端子は、モータ20のU相端子22uと、U相下側アームスイッチQULのドレイン端子とのそれぞれに電気的に接続される。V相上側アームスイッチQVHのソース端子は、モータ20のV相端子22vと、V相下側アームスイッチQVLのドレイン端子とのそれぞれに電気的に接続される。W相上側アームスイッチQWHのソース端子は、モータ20のW相端子22wと、W相下側アームスイッチQWLのドレイン端子とのそれぞれに電気的に接続される。
【0029】
U相上側アームスイッチQUHのゲート端子、V相上側アームスイッチQVHのゲート端子、及びW相上側アームスイッチQWHのゲート端子は、それぞれ通電制御部15と電気的に接続される。また、U相下側アームスイッチQULのゲート端子、V相下側アームスイッチQVLのゲート端子、及びW相下側アームスイッチQWLのゲート端子も、それぞれ通電制御部15と電気的に接続される。
【0030】
上記のように、モータ駆動回路11は、3つの上側アームスイッチと3つの下側アームスイッチとを有する3相フルブリッジ回路によって構成されたインバータである。このように構成されたモータ駆動回路11は、通電制御部15によって各アームスイッチがスイッチング制御されることにより、車載バッテリ300から供給される直流電力を三相電力に変換してモータ20に出力する。
【0031】
本実施形態では、モータ20の通電方式としてセンサレス120°通電方式を用いる場合を例示する。以下では、説明の便宜上、センサレス120°通電方式の基本原理を説明した後に、位相検出部12、記憶部13、電圧制御部14、及び通電制御部15の構成について説明する。なお、以下で説明するセンサレス120°通電方式の基本原理は、あくまで一例であり、本発明はこれに限定されない。
【0032】
センサレス120°通電方式を用いる場合、各アームスイッチは、
図2に示す通電パターンに基づいてスイッチング制御される。
図2に示すように、120°通電方式の通電パターンは、6つの通電パターンPA1、PA2、PA3、PA4、PA5及びPA6を含む。
図2において、「Q
UH」から「Q
WL」までの列に並ぶ「1」及び「0」のうち、「1」は該当するアームスイッチがオンに制御されることを意味し、「0」は該当するアームスイッチがオフに制御されることを意味する。
【0033】
図3において、時刻t10から時刻t11までの通電期間P1は、各アームスイッチが通電パターンPA1に基づいてスイッチング制御される期間を示す。この通電期間P1では、U相上側アームスイッチQ
UHとW相下側アームスイッチQ
WLとがオンとなり、且つ残りのアームスイッチがオフとなる。通電期間P1では、U相上側アームスイッチQ
UHのみ所定のスイッチングデューティ比でスイッチング制御される。スイッチングデューティ比は、後述の電圧制御部14から出力される制御電圧VCによって制御される。通電期間P1では、U相端子22uからW相端子22wに向かってU相コイル23u及びW相コイル23wに駆動電流が流れる。すなわち、通電期間P1における通電相は、U相及びW相である。
【0034】
図3において、時刻t11から時刻t12までの通電期間P2は、各アームスイッチが通電パターンPA2に基づいてスイッチング制御される期間を示す。この通電期間P2では、U相上側アームスイッチQ
UHとV相下側アームスイッチQ
VLとがオンとなり、且つ残りのアームスイッチがオフとなる。通電期間P2でも、U相上側アームスイッチQ
UHのみ所定のスイッチングデューティ比でスイッチング制御される。通電期間P2では、U相端子22uからV相端子22vに向かってU相コイル23u及びV相コイル23vに駆動電流が流れる。すなわち、通電期間P2における通電相は、U相及びV相である。
【0035】
図3において、時刻t12から時刻t13までの通電期間P3は、各アームスイッチが通電パターンPA3に基づいてスイッチング制御される期間を示す。この通電期間P3では、W相上側アームスイッチQ
WHとV相下側アームスイッチQ
VLとがオンとなり、且つ残りのアームスイッチがオフとなる。通電期間P3では、W相上側アームスイッチQ
WHのみ所定のスイッチングデューティ比でスイッチング制御される。通電期間P3では、W相端子22wからV相端子22vに向かってW相コイル23w及びV相コイル23vに駆動電流が流れる。すなわち、通電期間P3における通電相は、W相及びV相である。
【0036】
図3において、時刻t13から時刻t14までの通電期間P4は、各アームスイッチが通電パターンPA4に基づいてスイッチング制御される期間を示す。この通電期間P4では、W相上側アームスイッチQ
WHとU相下側アームスイッチQ
ULとがオンとなり、且つ残りのアームスイッチがオフとなる。通電期間P4でも、W相上側アームスイッチQ
WHのみ所定のスイッチングデューティ比でスイッチング制御される。通電期間P4では、W相端子22wからU相端子22uに向かってW相コイル23w及びU相コイル23uに駆動電流が流れる。すなわち、通電期間P4における通電相は、W相及びU相である。
【0037】
図3において、時刻t14から時刻t15までの通電期間P5は、各アームスイッチが通電パターンPA5に基づいてスイッチング制御される期間を示す。この通電期間P5では、V相上側アームスイッチQ
VHとU相下側アームスイッチQ
ULとがオンとなり、且つ残りのアームスイッチがオフとなる。通電期間P5では、V相上側アームスイッチQ
VHのみ所定のスイッチングデューティ比でスイッチング制御される。通電期間P5では、V相端子22vからU相端子22uに向かってV相コイル23v及びU相コイル23uに駆動電流が流れる。すなわち、通電期間P5における通電相は、V相及びU相である。
【0038】
図3において、時刻t15から時刻t16までの通電期間P6は、各アームスイッチが通電パターンPA6に基づいてスイッチング制御される期間を示す。この通電期間P6では、V相上側アームスイッチQ
VHとW相下側アームスイッチQ
WLとがオンとなり、且つ残りのアームスイッチがオフとなる。通電期間P6でも、V相上側アームスイッチQ
VHのみ所定のスイッチングデューティ比でスイッチング制御される。通電期間P6では、V相端子22vからW相端子22wに向かってV相コイル23v及びW相コイル23wに駆動電流が流れる。すなわち、通電期間P6における通電相は、V相及びW相である。
【0039】
以上のような6つの通電パターンに従って各アームスイッチがスイッチング制御されることにより、モータ20のシャフト21を一定方向に360°回転させる回転磁界が発生する。その結果、時刻t10から時刻t16までの期間において、モータ20のシャフト21は一定方向に360°回転する。言い換えれば、通電期間P1から通電期間P6のそれぞれの期間において、モータ20のシャフト21は一定方向に60°回転する。
【0040】
通電パターンが切り替わる速度、すなわち、通電相が切り替わる速度が通電切替速度Fである。通電切替速度Fの単位は「Hz」である。1つの通電パターンでスイッチング制御が行われる期間をP(秒)としたとき、通電切替速度Fsは、「Fs=1/P」で表される。通電切替速度Fは、転流周波数と呼ばれる場合もある。
【0041】
図3に、モータ20のU相端子22u、V相端子22v及びW相端子22wのそれぞれに現れる電圧の波形を示す。
図3において、「Vu」は、U相端子22uに現れるU相端子電圧である。「Vv」は、V相端子22vに現れるV相端子電圧である。「Vw」は、W相端子22wに現れるW相端子電圧である。なお、実際のU相端子電圧Vu、V相端子電圧Vv、及びW相端子電圧Vwの波形は、スイッチングデューティ比と同じデューティ比を有する波形となるが、
図3では便宜上、電圧波形の包絡線のみを示す。
【0042】
U相端子電圧Vuは、通電期間P1及びP2においてスイッチングデューティ比で決定される実効電圧値となり、通電期間P4及びP5においてグランドレベルの値、つまり0Vとなる。V相端子電圧Vvは、通電期間P5及びP6においてスイッチングデューティ比で決定される実効電圧値となり、通電期間P2及びP3において0Vとなる。W相端子電圧Vwは、通電期間P3及びP4においてスイッチングデューティ比で決定される実効電圧値となり、通電期間P1及びP6において0Vとなる。このように、センサレス120°通電方式では、モータ20の駆動に必要な駆動電圧が印加される相が120°ごとに切り替わる。
【0043】
通電期間P3においてU相コイル23uに駆動電流は流れないが、U相コイル23uに蓄積されたエネルギーによってU相下側アームスイッチQULのボディダイオードを介してU相コイル23uに一定時間だけ還流電流が流れる。その結果、期間P3の開始時点から一定時間だけU相端子電圧Vuが0Vになるリンギング現象が発生する。その後、U相端子電圧Vuは、U相コイル23uに発生する逆起電圧と一致する。通電期間P3において逆起電圧は、通電期間P3の中央、つまり通電期間P3の開始時点からモータ20が30°回転したタイミングで、中性点Nの電圧である中性点電圧VNに対して高圧側から低圧側へ向かって交差する。
【0044】
同様に、通電期間P6においてU相コイル23uに駆動電流は流れないが、U相コイル23uに蓄積されたエネルギーによってU相上側アームスイッチQUHのボディダイオードを介してU相コイル23uに一定時間だけ還流電流が流れる。その結果、通電期間P6の開始時点から一定時間だけU相端子電圧Vuが電源電圧VMになるリンギング現象が発生する。その後、U相端子電圧Vuは、U相コイル23uに発生する逆起電圧と一致する。通電期間P6において逆起電圧は、通電期間P6の中央、つまり通電期間P6の開始時点からモータ20が30°回転したタイミングで中性点電圧VNに対して低圧側から高圧側へ向かって交差する。
【0045】
上記のように、モータ20が360°回転する間に、通電期間P3及びP6にのみU相端子22uに逆起電圧が露出する。同様の原理により、モータ20が360°回転する間に、通電期間P1及びP4にのみV相端子22vに逆起電圧が露出し、通電期間P2及びP5にのみW相端子22wに逆起電圧が露出する。センサレス120°通電方式では、モータ20の位相を検出するために、中性点電圧VNと逆起電圧とが交差する点であるゼロクロス点を検出する必要がある。
【0046】
図3において、「Zu」は、U相端子22uに露出する逆起電圧が中性点電圧V
N以下になるタイミングでローレベルとなり、U相端子22uに露出する逆起電圧が中性点電圧V
Nより高くなるタイミングでハイレベルとなるU相ゼロクロス点検出信号である。「Zv」は、V相端子22vに露出する逆起電圧が中性点電圧V
N以下になるタイミングでローレベルとなり、V相端子22vに露出する逆起電圧が中性点電圧V
Nより高くなるタイミングでハイレベルとなるV相ゼロクロス点検出信号である。「Zw」は、W相端子22wに露出する逆起電圧が中性点電圧V
N以下になるタイミングでローレベルとなり、W相端子22wに露出する逆起電圧が中性点電圧V
Nより高くなるタイミングでハイレベルとなるW相ゼロクロス点検出信号である。
【0047】
なお、例えばコンパレータにU相端子電圧Vuと中性点電圧V
Nとを入力するだけでは、
図3に示すU相ゼロクロス点検出信号Zuは得られない。実際には、コンパレータの出力電圧に所定の波形処理を施すことにより、中性点電圧V
Nと逆起電圧とが交差するゼロクロス点でのみエッジが現れるU相ゼロクロス点検出信号Zuを生成する。V相ゼロクロス点検出信号Zv及びW相ゼロクロス点検出信号Zwについても同様の方法で生成する。
【0048】
図3において、「Hu」は、U相ゼロクロス点検出信号Zuに対して30°の位相遅れを有するU相位相検出信号である。「Hv」は、V相ゼロクロス点検出信号Zvに対して30°の位相遅れを有するV相位相検出信号である。「Hw」は、W相ゼロクロス点検出信号Zwに対して30°の位相遅れを有するW相位相検出信号である。
【0049】
なお、時間軸上で隣り合う2つのゼロクロス点の間の時間に、モータ20は60°回転する。そのため、時間軸上で隣り合う2つのゼロクロス点の間の時間を計測し、その計測結果の半分の時間だけU相ゼロクロス点検出信号Zuを遅らせることにより、U相ゼロクロス点検出信号Zuに対して30°の位相遅れを有するU相位相検出信号Huを生成することができる。V相位相検出信号Hv及びW相位相検出信号Hwについても同様の方法で生成する。
【0050】
図3に示すように、U相位相検出信号Hu、V相位相検出信号Hv及びW相位相検出信号Hwの電圧レベルは、6つの通電パターンに依存して規則的に変化することがわかる。以下では、U相位相検出信号Hu、V相位相検出信号Hv及びW相位相検出信号Hwの電圧レベルが通電パターンに依存して変化するパターンを位相パターンと呼称する。
図2に示すように、センサレス120°通電方式の位相パターンは、6つの位相パターンPB1、PB2、PB3、PB4、PB5及びPB6を含む。
図2において、「H
U」、「H
V」及び「H
W」の列に並ぶ「1」及び「0」のうち、「1」は該当する位相検出信号がハイレベルであることを意味し、「0」は該当する位相検出信号がローレベルであることを意味する。
【0051】
センサレス120°通電方式では、3つの位相検出信号Hu、Hv及びHwに基づいて通電期間ごとに位相パターンを認識し、位相パターンの認識結果に基づいて次の通電期間で使用する通電パターンが決定される。そして、位相パターンが変化するタイミングで通電パターンが次の通電パターンに切り替えられる。
【0052】
図3に示すように、例えば通電期間P1において、位相検出信号Hu、Hv及びHwから通電期間P1の位相パターンは位相パターンPB1であることが認識される。通電期間P1の位相パターンが位相パターンPB1であるので、通電パターンPA2が次の通電期間P2で使用する通電パターンとして決定される。そして、位相パターンPB1が変化するタイミング、すなわちV相位相検出信号Hvに立下りエッジが発生するタイミングで、通電パターンが通電パターンPA1から通電パターンPA2に切り替えられる。
【0053】
センサレス120°通電方式では、上記のような位相パターンの認識、通電パターンの決定、及び通電パターンの切り替えを、モータ20に発生する逆起電圧を利用して生成された位相検出信号Hu、Hv及びHwに同期して行うことにより、ホールセンサ等の位置センサを使わずにモータ20の通電制御を行うことができる。以下では、モータ20に発生する逆起電圧を利用して生成された位相検出信号Hu、Hv及びHwに同期してモータ20の通電制御を行うことを、「センサレス同期制御」と呼称する。
【0054】
以上がセンサレス120°通電方式の基本原理である。センサレス120°通電方式において位相検出信号Hu、Hv及びHwを生成するためには、モータ20の中性点電圧VNと逆起電圧とが交差する点であるゼロクロス点を検出する必要があるが、モータ20の回転速度が所定の速度以上でなければ、ゼロクロス点を検出可能な逆起電圧は発生しない。そのため、センサレス120°通電方式でモータ20を起動する場合、モータ20の回転速度が、ゼロクロス点を検出可能な逆起電圧が発生する速度に達するまで、位相検出信号Hu、Hv及びHwによって位相パターンを認識できない、つまりモータ20の位相を認識できないため、センサレス同期制御を行うことができない。そのため、センサレス120°通電方式でモータ20を起動する場合、モータ20の回転速度が、ゼロクロス点を検出可能な逆起電圧が発生する速度に達するまで、予め決められた起動シーケンスに従ってモータ20の通電制御を行う必要がある。
【0055】
起動シーケンスの一例として、直流励磁を所定時間行うことによりモータの位相を特定の位相に固定した後、通電相に一定の駆動電圧を印加しながら一定の通電切替速度で強制的に通電相を切り替える強制転流制御を行う起動シーケンスが知られている。
【0056】
図4に示すように、モータ20を適切に回転させるためには、モータ20の仕様に依存するF-V特性に従ってモータ20に印加する駆動電圧Vを回転速度Fに応じた適切な値に制御する必要がある。回転速度Fと駆動電圧Vとは比例関係にあるので、F-V特性は正の傾きを有する一次関数で表される。回転速度Fと駆動電圧Vとの組み合わせがF-V特性から離れるほどモータ20の回転は不安定となり、適切にモータ20を制御することが困難となる。
【0057】
また、モータ20がポンプ30等の負荷に接続されると、モータ20を回転させるのに必要なエネルギーが増加するため、負荷に接続されたモータ20を負荷無しの場合と同一の回転速度で回転させるのに必要な駆動電圧は大きくなる。すなわち、モータ20のF-V特性は負荷の大きさに依存して変化する。
図4において、正の傾きを有する一次関数LF0は、負荷T0のF-V特性を表す。
図4において、正の傾きを有する一次関数LF1は、負荷T0よりも小さい負荷T1のF-V特性を表す。
図4において、正の傾きを有する一次関数LF4は、負荷T0よりも大きい負荷T4のF-V特性を表す。
図4に示すように、F-V特性を表す一次関数の傾きは負荷に依存せずに一定であるが、F-V特性を表す一次関数の切片は負荷に依存して変化する。すなわち、負荷が小さいほど、F-V特性を表す一次関数の切片は大きくなり、負荷が大きいほど、F-V特性を表す一次関数の切片は小さくなる。
【0058】
上記のように強制転流制御でモータ20を起動する場合、予め決められた駆動電圧及び通電切替速度の組み合わせで強制転流制御が行われるが、モータ20の実際の回転速度は必ずしも通電切替速度と一致せず、駆動電圧の大きさと負荷の大きさとに依存する。そのため、
図4に示すように、様々な負荷条件下でのF-V特性を実験的に予め取得しておき、センサレス制御でモータ20を起動する際に実際の負荷の大きさに応じたF-V特性に合致する駆動電圧及び通電切替速度の組み合わせで強制転流制御を行うことが望ましいが、それを実施することは現実的に困難である。
【0059】
そこで、現実的な手法として、一つの特定の負荷条件下で得られたF-V特性に基づいて駆動電圧及び通電切替速度を調整しながら強制転流制御を行うことにより、ゼロクロス点を検出可能な速度までモータを回転させることの可能な駆動電圧及び通電切替速度の組み合わせを予め実験的に決定しておく手法が採用される場合が多い。この場合、モータの起動時には、上記の手法で決定された駆動電圧及び通電切替速度の組み合わせで強制転流制御が行われるが、実際の負荷条件が実験で使われた負荷条件から大きく逸脱する場合には、実際の負荷条件に適合しない駆動電圧及び通電切替速度の組み合わせで強制転流制御を行うことになる。その結果、モータの起動時にゼロクロス点を検出可能な速度までモータを回転させることができず、モータの起動に失敗する虞がある。
【0060】
例えば、
図4において、負荷T0のF-V特性に基づいて強制転流制御に用いられる駆動電圧V0及び通電切替速度F0が決定されたと仮定する。負荷T0より大きい負荷T4がモータ20に接続されると、負荷T0のF-V特性に基づいて決定された駆動電圧V0は、負荷T4のF-V特性から低圧側に大きく逸脱するとともに、負荷T0のF-V特性に基づいて決定された通電切替速度F0は、負荷T4のF-V特性から高速側に大きく逸脱する。その結果、負荷T4のF-V特性に適合する駆動電圧V4よりも非常に低い駆動電圧V0がモータ20に印加されるとともに、負荷T4のF-V特性に適合する通電切替速度F4よりも非常に高い通電切替速度F0で通電相(通電パターン)が切り替えられることにより、モータ20が負荷に拘束されて回転しない虞がある。
【0061】
一方、負荷T0より小さい負荷T1がモータ20に接続されると、負荷T0のF-V特性に基づいて決定された駆動電圧V0は、負荷T1のF-V特性から高圧側に大きく逸脱するとともに、負荷T0のF-V特性に基づいて決定された通電切替速度F0は、負荷T1のF-V特性から低速側に大きく逸脱する。その結果、負荷T1のF-V特性に適合する駆動電圧V1よりも非常に高い駆動電圧V0がモータ20に印加されるとともに、負荷T1のF-V特性に適合する通電切替速度F1よりも非常に低い通電切替速度F0で通電相が切り替えられることにより、モータ20に大きな振動が発生して制御不能に陥る虞がある。
【0062】
このような問題を解決するために、本実施形態では、モータ20の起動時にモータ20の位相を認識できない場合、予め決定された電圧制御パターンに基づいてモータ20の通電相に印加される駆動電圧を時間とともに変化させながら、予め決定された速度制御パターンに基づいて通電切替速度を時間とともに変化させる強制転流制御を行う。ただし、強制転流制御が行われる期間に駆動電圧及び通電切替速度を無制限に変化させるのではなく、「強制転流制御が行われる期間に、任意の時点における駆動電圧と通電切替速度との組み合わせが、駆動電圧及び通電切替速度を変数とし且つ負の傾きを有する一次関数を常に満たす」という条件を満足しながら、駆動電圧及び通電切替速度を変化させる。
【0063】
具体的には、本実施形態の強制転流制御では、例えば
図4に示すように、負荷T1のF-V特性に適合する駆動電圧V1から負荷T4のF-V特性に適合する駆動電圧V4までの範囲で駆動電圧Vを時間とともに変化させながら、負荷T1のF-V特性に適合する通電切替速度F1から負荷T4のF-V特性に適合する通電切替速度F4までの範囲で通電切替速度Fを変化させる。強制転流制御が行われる期間に、任意の時点における駆動電圧Vと通電切替速度Fとの組み合わせが、駆動電圧V及び通電切替速度Fを変数とし且つ負の傾きを有する一次関数LFを常に満たす。言い換えれば、強制転流制御が行われる期間に、駆動電圧Vを横軸とし且つ通電切替速度Fを縦軸とする2軸座標平面において、任意の時点における駆動電圧Vと通電切替速度Fとの交点が、一次関数LFで表される直線上に常に位置する。
【0064】
上記のような強制転流制御をモータ20の起動時に行うことにより、駆動電圧Vと通電切替速度Fとの組み合わせに適合するF-V特性が、負荷T1のF-V特性から負荷T4のF-V特性までの範囲で時間とともに変化する。つまり、安定的にモータ20を制御可能なF-V特性の範囲を拡大させることができ、その結果、モータ20の起動時に負荷の大きさに関係なくゼロクロス点を検出可能な逆起電圧が発生する回転速度までモータ20を安定的に回転させることができ、モータ20の起動を成功させることができる。
【0065】
なお、駆動電圧Vを横軸とし且つ通電切替速度Fを縦軸とする2軸座標平面において、負の傾きを有する一次関数LFは、例えば負荷T0のF-V特性を表す正の傾きを有する一次関数LF0に対して直角に交差することが好ましい。
【0066】
以下、上記のセンサレス120°通電方式の基本原理の説明と、本実施形態でモータ20の起動時に実施する強制転流制御の説明とを基に、本実施形態のセンサレス制御装置10が備える位相検出部12、記憶部13、電圧制御部14、及び通電制御部15について説明する。
【0067】
位相検出部12は、モータ20の逆起電圧に基づいてモータ20の位相を検出し、位相の検出結果を示す位相検出信号Hu、Hv及びHwを電圧制御部14及び通電制御部15に出力する。位相検出部12は、モータ20のU相端子22u、V相端子22v及びW相端子22wのそれぞれと電気的に接続される。また、位相検出部12は、W相上側アームスイッチQWHのドレイン端子との電気的に接続される。位相検出部12には、U相端子電圧Vuと、V相端子電圧Vvと、W相端子電圧Vwと、電源電圧VMとが入力される。
【0068】
位相検出部12は、ゼロクロス点検出回路12aと、信号遅延回路12bとを有する。ゼロクロス点検出回路12aは、電源電圧VMから中性点電圧VN(=VM/2)を生成する。また、ゼロクロス点検出回路12aは、U相端子電圧Vu及び中性点電圧VNに基づいて、U相ゼロクロス点検出信号Zuを生成して信号遅延回路12bに出力する。U相ゼロクロス点検出信号Zuは、U相端子22uに露出する逆起電圧が中性点電圧VN以下になるタイミングでローレベルとなり、U相端子22uに露出する逆起電圧が中性点電圧VNより高くなるタイミングでハイレベルとなる。
【0069】
上述したように、例えばコンパレータにU相端子電圧Vuと中性点電圧V
Nとを入力するだけでは、
図3に示すU相ゼロクロス点検出信号Zuは得られない。そこで、ゼロクロス点検出回路12aは、U相端子電圧Vuと中性点電圧V
Nとが入力されるコンパレータの出力電圧に所定の波形処理を行うことにより、中性点電圧V
NとU相端子22uに露出する逆起電圧とが交差するゼロクロス点でのみエッジが現れるU相ゼロクロス点検出信号Zuを生成する。
【0070】
また、ゼロクロス点検出回路12aは、V相端子電圧Vv及び中性点電圧VNに基づいて、V相ゼロクロス点検出信号Zvを生成して信号遅延回路12bに出力する。V相ゼロクロス点検出信号Zvは、V相端子22vに露出する逆起電圧が中性点電圧VN以下になるタイミングでローレベルとなり、V相端子22vに露出する逆起電圧が中性点電圧VNより高くなるタイミングでハイレベルとなる。ゼロクロス点検出回路12aは、V相端子電圧Vvと中性点電圧VNとが入力されるコンパレータの出力電圧に所定の波形処理を行うことにより、中性点電圧VNとV相端子22vに露出する逆起電圧とが交差するゼロクロス点でのみエッジが現れるV相ゼロクロス点検出信号Zvを生成する。
【0071】
さらに、ゼロクロス点検出回路12aは、W相端子電圧Vw及び中性点電圧VNに基づいて、W相ゼロクロス点検出信号Zwを生成して信号遅延回路12bに出力する。W相ゼロクロス点検出信号Zwは、W相端子22wに露出する逆起電圧が中性点電圧VN以下になるタイミングでローレベルとなり、W相端子22wに露出する逆起電圧が中性点電圧VNより高くなるタイミングでハイレベルとなる。ゼロクロス点検出回路12aは、W相端子電圧Vwと中性点電圧VNとが入力されるコンパレータの出力電圧に所定の波形処理を行うことにより、中性点電圧VNとW相端子22wに露出する逆起電圧とが交差するゼロクロス点でのみエッジが現れるW相ゼロクロス点検出信号Zwを生成する。
【0072】
信号遅延回路12bは、U相ゼロクロス点検出信号Zuに対して30°の位相遅れを有するU相位相検出信号Huを生成して電圧制御部14及び通電制御部15に出力する。また、信号遅延回路12bは、V相ゼロクロス点検出信号Zvに対して30°の位相遅れを有するV相位相検出信号Hvを生成して電圧制御部14及び通電制御部15に出力する。さらに、信号遅延回路12bは、W相ゼロクロス点検出信号Zwに対して30°の位相遅れを有するW相位相検出信号Hwを生成して電圧制御部14及び通電制御部15に出力する。このように、信号遅延回路12bは、3つの位相検出信号Hu、Hv及びHwを電圧制御部14及び通電制御部15に出力する。
【0073】
上述したように、時間軸上で隣り合う2つのゼロクロス点の間の時間に、モータ20は60°回転する。信号遅延回路12bは、時間軸上で隣り合う2つのゼロクロス点の間の時間を計測し、その計測結果の半分の時間だけU相ゼロクロス点検出信号Zuを遅らせることにより、U相ゼロクロス点検出信号Zuに対して30°の位相遅れを有するU相位相検出信号Huを生成する。信号遅延回路12bは、V相位相検出信号Hv及びW相位相検出信号Hwについても同様の方法で生成する。
【0074】
記憶部13は、センサレス120°通電方式によってモータ20を制御するのに必要な各種データを記憶する。記憶部13は、EEPROMなどの不揮発性メモリと、RAMなどの揮発性メモリとを含む。記憶部13は、
図2に示す通電パターン及び位相パターンを予め記憶する。また、記憶部13は、モータ20の位相が特定の位相に固定される直流励磁条件を予め記憶する。さらに、記憶部13は、駆動電圧Vの制御パターンを示す電圧制御パターンと、通電切替速度Fの制御パターンを示す速度制御パターンとを予め記憶する。
【0075】
例えば、
図5に示すように、電圧制御パターンは、駆動電圧Vが駆動電圧V1から駆動電圧V4まで時間tとともに一定の勾配で増加するパターンである。駆動電圧V1は、負荷T1のF-V特性に適合する駆動電圧Vの値であり、駆動電圧V4は、負荷T4のF-V特性に適合する駆動電圧Vの値である。駆動電圧V1は、駆動電圧V4より低い。また、
図5に示すように、速度制御パターンは、通電切替速度Fが通電切替速度F1から通電切替速度F4まで時間tとともに一定の勾配で減少するパターンである。通電切替速度F1は、負荷T1のF-V特性に適合する通電切替速度Fの値であり、通電切替速度F4は、負荷T4のF-V特性に適合する通電切替速度Fの値である。通電切替速度F1は、通電切替速度F4より高い。
【0076】
図5において、例えば時点t0における駆動電圧Vと通電切替速度Fとの組み合わせである「V1、F1」は、一次関数LFを満たす。また、時点t100における駆動電圧Vと通電切替速度Fとの組み合わせである「V0、F0」も、一次関数LFを満たす。さらに、時点t200における駆動電圧Vと通電切替速度Fとの組み合わせである「V4、F4」も、一次関数LFを満たす。このように、本実施形態において、電圧制御パターン及び速度制御パターンは、「任意の時点における駆動電圧Vと通電切替速度Fとの組み合わせが、駆動電圧V及び通電切替速度Fを変数とし且つ負の傾きを有する一次関数LFを常に満たす」という条件を満足する。
【0077】
また、
図6に示すように、電圧制御パターンの別の例として、駆動電圧Vが駆動電圧V4から駆動電圧V1まで時間tとともに一定の勾配で減少する電圧制御パターンを記憶部13に記憶させてもよい。また、
図6に示すように、速度制御パターンの別の例として、通電切替速度Fが通電切替速度F4から通電切替速度F1まで時間tとともに一定の勾配で増加する速度制御パターンを記憶部13に記憶させてもよい。
図6に示す電圧制御パターン及び速度制御パターンも、「任意の時点における駆動電圧Vと通電切替速度Fとの組み合わせが、駆動電圧V及び通電切替速度Fを変数とし且つ負の傾きを有する一次関数LFを常に満たす」という条件を満足する。
【0078】
また、
図7に示すように、電圧制御パターンの別の例として、駆動電圧Vが駆動電圧V1から駆動電圧V4まで時間tとともに段階的に増加する電圧制御パターンを記憶部13に記憶させてもよい。また、
図7に示すように、速度制御パターンの別の例として、通電切替速度Fが通電切替速度F1から通電切替速度F4まで時間tとともに段階的に減少する速度制御パターンを記憶部13に記憶させてもよい。
図7に示す電圧制御パターン及び速度制御パターンも、「任意の時点における駆動電圧Vと通電切替速度Fとの組み合わせが、駆動電圧V及び通電切替速度Fを変数とし且つ負の傾きを有する一次関数LFを常に満たす」という条件を満足する。
【0079】
さらに、
図8に示すように、電圧制御パターンの別の例として、駆動電圧Vが駆動電圧V4から駆動電圧V1まで時間tとともに段階的に減少する電圧制御パターンを記憶部13に記憶させてもよい。また、
図8に示すように、速度制御パターンの別の例として、通電切替速度Fが通電切替速度F4から通電切替速度F1まで時間tとともに段階的に増加する速度制御パターンを記憶部13に記憶させてもよい。
図8に示す電圧制御パターン及び速度制御パターンも、「任意の時点における駆動電圧Vと通電切替速度Fとの組み合わせが、駆動電圧V及び通電切替速度Fを変数とし且つ負の傾きを有する一次関数LFを常に満たす」という条件を満足する。
【0080】
電圧制御部14は、上位制御装置400から入力される制御指令信号CSと、位相検出部12から入力される位相検出信号Hu、Hv及びHwと、記憶部13に記憶された電圧制御パターンを含む各種データとに基づいて制御電圧VCを通電制御部15に出力する。制御電圧VCによってスイッチングデューティ比が決定され、スイッチングデューティ比によって通電相に印加される駆動電圧Vの値、つまり実効電圧値が決定される。
【0081】
通電制御部15は、電圧制御部14から入力される制御電圧VCと、位相検出部12から入力される位相検出信号Hu、Hv及びHwと、記憶部13に記憶された速度制御パターンを含む各種データとに基づいてモータ駆動回路11の各アームスイッチを制御することにより、駆動電圧V及び通電切替速度Fを制御する。
【0082】
モータ20の起動時において位相検出信号Hu、Hv及びHwによってモータ20の位相、つまり位相パターンを認識できない場合、電圧制御部14及び通電制御部15は、強制転流制御を行う強制転流モードとなる。強制転流モードにおいて、電圧制御部14は、記憶部13に記憶された電圧制御パターンに基づいて制御電圧VCを時間とともに変化させ、通電制御部15は、電圧制御部14から入力される制御電圧VC及び記憶部13に記憶された速度制御パターンに基づいて各アームスイッチを制御することにより、制御電圧VCに同期して駆動電圧Vを時間とともに変化させながら、速度制御パターンに基づいて通電切替速度Fを時間とともに変化させる強制転流制御を行う。強制転流制御が行われる期間に、任意の時点における駆動電圧Vと通電切替速度Fとの組み合わせが、駆動電圧V及び通電切替速度Fを変数とし且つ負の傾きを有する一次関数LFを常に満たす。
【0083】
モータ20の起動時において位相検出信号Hu、Hv及びHwによって位相パターンを認識できない場合、電圧制御部14及び通電制御部15は、強制転流モードになる前に直流励磁制御を行う直流励磁モードとなる。直流励磁モードにおいて、電圧制御部14は、電圧制御パターンに基づいて制御電圧VCを出力する前に、記憶部13に記憶された直流励磁条件に基づいて制御電圧VCを出力し、通電制御部15は、電圧制御部14から入力される制御電圧VCと直流励磁条件とに基づいて各アームスイッチを制御することにより、特定の通電相に直流駆動電圧を一定時間印加させる。
【0084】
強制転流モードでの動作中において、位相検出信号Hu、Hv及びHwによって位相パターンの認識に成功した場合、電圧制御部14及び通電制御部15は、センサレス同期制御を行うセンサレス同期制御モードとなる。センサレス同期制御モードにおいて、電圧制御部14は、上位制御装置400から入力される制御指令信号CSと、位相検出信号Hu、Hv及びHwとに基づいて制御電圧VCを出力し、通電制御部15は、電圧制御部14から入力される制御電圧VC及び位相検出信号Hu、Hv及びHwに基づいて各アームスイッチを制御することにより、制御指令信号CSに応じた駆動電圧Vを通電相に印加させながら、位相検出信号Hu、Hv及びHwによって決定される通電切替速度Fで通電相を切り替える。
【0085】
以下では、上記のように構成されたセンサレス制御装置10の動作について
図9に示すタイミングチャートを参照しながら説明する。
図9において、時刻t1に上位制御装置400から電圧制御部14に制御指令信号CSが入力される。例えば、制御指令信号CSは、目標回転速度を表す電圧値を有するアナログ電圧信号である。電圧制御部14は、時刻t1に制御指令信号CSが入力されると、記憶部13に記憶された6つの位相パターンのなかに、位相検出信号Hu、Hv及びHwの状態に合致する位相パターンがあるか否かを判定する。
【0086】
時刻t1においてモータ20は停止状態のため、逆起電圧は発生しない。その場合、ゼロクロス点検出回路12aはゼロクロス点を検出できないため、
図9に示すように、ゼロクロス点検出回路12aから出力されるゼロクロス点検出信号Zu、Zv及びZwは全てローレベルとなる。その結果、信号遅延回路12bから出力される位相検出信号Hu、Hv及びHwも全てローレベルとなる。この場合、位相検出信号Hu、Hv及びHwによってモータ20の位相パターンを認識することはできない。従って、時刻t1において電圧制御部14は、位相検出信号Hu、Hv及びHwの状態に合致する位相パターンは無いと判断して直流励磁モードに移行する。
【0087】
電圧制御部14は、時刻t1に直流励磁モードに移行すると、記憶部13に記憶された直流励磁条件に基づいて例えば15%~25%のスイッチングデューティ比を表す電圧値を有する制御電圧VCを通電制御部15に出力する。また、電圧制御部14は、直流励磁モードに移行した時刻t1から計時動作を開始する。
【0088】
通電制御部15は、時刻t1に例えば15%~25%のスイッチングデューティ比を表す電圧値を有する制御電圧VCが入力されると、記憶部13に記憶された6つの位相パターンのなかに、位相検出信号Hu、Hv及びHwの状態に合致する位相パターンがあるか否かを判定する。上記のように、時刻t1において位相検出信号Hu、Hv及びHwは全てローレベルである。従って、時刻t1において通電制御部15は、位相検出信号Hu、Hv及びHwの状態に合致する位相パターンは無いと判断する。通電制御部15は、例えば15%~25%のスイッチングデューティ比を表す電圧値を有する制御電圧VCが入力されたときに、位相検出信号Hu、Hv及びHwの状態に合致する位相パターンが無い場合、直流励磁モードに移行する。
【0089】
通電制御部15は、時刻t1に直流励磁モードに移行すると、電圧制御部14から入力される制御電圧VCと、記憶部13に記憶された直流励磁条件に基づいて各アームスイッチのスイッチング制御を開始する。具体的には、例えば、
図9に示すように、通電制御部15は、U相上側アームスイッチQ
UH、W相上側アームスイッチQ
WH、及びV相下側アームスイッチQ
VLをオンに制御し、残りのアームスイッチをオフに制御する。このとき、通電制御部15は、制御電圧VCによって決定されるスイッチングデューティ比、つまり例えば15%~25%のスイッチングデューティ比でU相上側アームスイッチQ
UH及びW相上側アームスイッチQ
WHを制御する。
【0090】
以上のような直流励磁モードにおける電圧制御部14及び通電制御部15の動作により、
図9に示すように、時刻t1以降、U相端子電圧Vu及びW相端子電圧Vwは、例えば15%~25%のスイッチングデューティ比に対応する電圧値となり、V相端子電圧Vvは0Vになる。その結果、直流励磁モードにおいて、特定の通電相に直流駆動電圧が印加される。このような直流励磁制御により、モータ20のシャフト21は、特定の位相まで回転して停止する。つまり、直流励磁制御により、モータ20の位相は特定の位相で固定される。電圧制御部14は、時刻t1から開始した計時動作により、例えば時刻t2にモータ20のシャフト21が特定の位相で固定されるのに必要な時間が経過したことを検知すると、強制転流モードに移行する。
なお、実際のU相端子電圧Vu、V相端子電圧Vv、及びW相端子電圧Vwの波形は、スイッチングデューティ比と同じデューティ比を有する波形となるが、
図10では便宜上、電圧波形の包絡線のみを示す。
【0091】
電圧制御部14は、時刻t2に強制転流モードに移行すると、記憶部13に記憶された電圧制御パターンに従って制御電圧VCを通電制御部15に出力する。例えば、
図5に示すように、駆動電圧Vが時間tとともに一定の勾配で増加する電圧制御パターンが記憶部13に記憶されている場合、電圧制御部14は、時刻t2から時間tとともに一定の勾配で増加する制御電圧VCを出力する。
【0092】
別の例として、
図6に示すように、駆動電圧Vが時間tとともに一定の勾配で減少する電圧制御パターンが記憶部13に記憶されている場合、電圧制御部14は、時刻t2から時間tとともに一定の勾配で減少する制御電圧VCを出力する。別の例として、
図7に示すように、駆動電圧Vが時間tとともに段階的に増加する電圧制御パターンが記憶部13に記憶されている場合、電圧制御部14は、時刻t2から時間tとともに段階的に増加する制御電圧VCを出力する。別の例として、
図8に示すように、駆動電圧Vが時間tとともに段階的に減少する電圧制御パターンが記憶部13に記憶されている場合、電圧制御部14は、時刻t2から時間tとともに段階的に減少する制御電圧VCを出力する。
【0093】
通電制御部15は、時刻t2に電圧制御パターンに従う制御電圧VCが入力されたとき、位相検出信号Hu、Hv及びHwの状態に合致する位相パターンが無い場合、強制転流モードに移行する。通電制御部15は、時刻t2に強制転流モードに移行すると、電圧制御部14から入力される制御電圧VCと、記憶部13に記憶された速度制御パターン及び通電パターンに基づいて各アームスイッチのスイッチング制御を開始する。
【0094】
具体的には、
図9に示すように、通電制御部15は、時刻t2以降、速度制御パターンに従って決定される通電切替速度Fと同じ周波数を有するパルス信号である通電切替タイミング信号STを生成する。記憶部13に記憶された速度制御パターンが、例えば
図5に示すように、通電切替速度Fが時間tとともに一定の勾配で減少するパターンである場合、通電切替タイミング信号STの周波数は、時刻t2から時間tとともに一定の勾配で減少する。
【0095】
別の例として、
図6に示すように、通電切替速度Fが時間tとともに一定の勾配で増加する速度制御パターンが記憶部13に記憶されている場合、通電切替タイミング信号STの周波数は、時刻t2から時間tとともに一定の勾配で増加する。別の例として、
図7に示すように、通信切替速度Fが時間tとともに段階的に減少する速度制御パターンが記憶部13に記憶されている場合、通電切替タイミング信号STの周波数は、時刻t2から時間tとともに段階的に減少する。別の例として、
図8に示すように、通電切替速度Fが時間tとともに段階的に増加する速度制御パターンが記憶部13に記憶されている場合、通電切替タイミング信号STの周波数は、時刻t2から時間tとともに段階的に増加する。
【0096】
通電制御部15は、通電切替タイミング信号STの立上がりエッジに同期して通電パターンを切り替える。例えば、
図9に示すように、時刻t2に通電切替タイミング信号STに立上がりエッジが発生すると、通電制御部15は、まず、直流励磁制御によって固定されたモータ20の位相に対して適切な回転磁界が発生する通電パターンPA4に従って各アームスイッチのスイッチング制御を開始する。つまり、時刻t2から通電切替タイミング信号STに次の立上がりエッジが発生する時刻t3までの通電期間において、W相上側アームスイッチQ
WHとU相下側アームスイッチQ
ULとがオンとなり、且つ残りのアームスイッチがオフとなる。この通電期間では、W相上側アームスイッチQ
WHが、電圧制御パターンに従って変化する制御電圧VCによって決定されるスイッチングデューティ比でスイッチング制御される。従って、この通電期間に通電相に印加される駆動電圧V、つまりW相端子電圧Vwの実効電圧値は、電圧制御パターンに従って変化する。
【0097】
図9に示すように、時刻t3に通電切替タイミング信号STに次の立上がりエッジが発生すると、通電制御部15は、通電パターンPA4を通電パターンPA5に切替え、通電パターンPA5に従って各アームスイッチのスイッチング制御を開始する。つまり、時刻t3から通電切替タイミング信号STに次の立上がりエッジが発生する時刻t4までの通電期間において、V相上側アームスイッチQ
VHとU相下側アームスイッチQ
ULとがオンとなり、且つ残りのアームスイッチがオフとなる。この通電期間では、V相上側アームスイッチQ
VHが、電圧制御パターンに従って変化する制御電圧VCによって決定されるスイッチングデューティ比でスイッチング制御される。従って、この通電期間に通電相に印加される駆動電圧V、つまりV相端子電圧Vvの実効電圧値は、電圧制御パターンに従って変化する。
【0098】
図9に示すように、時刻t4に通電切替タイミング信号STに次の立上がりエッジが発生すると、通電制御部15は、通電パターンPA5を通電パターンPA6に切替え、通電パターンPA6に従って各アームスイッチのスイッチング制御を開始する。つまり、時刻t4から通電切替タイミング信号STに次の立上がりエッジが発生する時刻t5までの通電期間において、V相上側アームスイッチQ
VHとW相下側アームスイッチQ
WLとがオンとなり、且つ残りのアームスイッチがオフとなる。この通電期間では、V相上側アームスイッチQ
VHが、電圧制御パターンに従って変化する制御電圧VCによって決定されるスイッチングデューティ比でスイッチング制御される。従って、この通電期間に通電相に印加される駆動電圧V、つまりV相端子電圧Vvの実効電圧値は、電圧制御パターンに従って変化する。
【0099】
図9に示すように、時刻t5に通電切替タイミング信号STに次の立上がりエッジが発生すると、通電制御部15は、通電パターンPA6を通電パターンPA1に切替え、通電パターンPA1に従って各アームスイッチのスイッチング制御を開始する。つまり、時刻t5から通電切替タイミング信号STに次の立上がりエッジが発生する時刻t6までの通電期間において、U相上側アームスイッチQ
UHとW相下側アームスイッチQ
WLとがオンとなり、且つ残りのアームスイッチがオフとなる。この通電期間では、U相上側アームスイッチQ
UHが、電圧制御パターンに従って変化する制御電圧VCによって決定されるスイッチングデューティ比でスイッチング制御される。従って、この通電期間に通電相に印加される駆動電圧V、つまりU相端子電圧Vuの実効電圧値は、電圧制御パターンに従って変化する。
【0100】
図9に示すように、時刻t6に通電切替タイミング信号STに次の立上がりエッジが発生すると、通電制御部15は、通電パターンPA1を通電パターンPA2に切替え、通電パターンPA2に従って各アームスイッチのスイッチング制御を開始する。つまり、時刻t6から通電切替タイミング信号STに次の立上がりエッジが発生する時刻t7までの通電期間において、U相上側アームスイッチQ
UHとV相下側アームスイッチQ
VLとがオンとなり、且つ残りのアームスイッチがオフとなる。この通電期間では、U相上側アームスイッチQ
UHが、電圧制御パターンに従って変化する制御電圧VCによって決定されるスイッチングデューティ比でスイッチング制御される。従って、この通電期間に通電相に印加される駆動電圧V、つまりU相端子電圧Vuの実効電圧値は、電圧制御パターンに従って変化する。
【0101】
図9に示すように、時刻t7に通電切替タイミング信号STに次の立上がりエッジが発生すると、通電制御部15は、通電パターンPA2を通電パターンPA3に切替え、通電パターンPA3に従って各アームスイッチのスイッチング制御を開始する。つまり、時刻t7から通電切替タイミング信号STに次の立上がりエッジが発生する時刻t8までの通電期間において、W相上側アームスイッチQ
WHとV相下側アームスイッチQ
VLとがオンとなり、且つ残りのアームスイッチがオフとなる。この通電期間では、W相上側アームスイッチQ
WHが、電圧制御パターンに従って変化する制御電圧VCによって決定されるスイッチングデューティ比でスイッチング制御される。従って、この通電期間に通電相に印加される駆動電圧V、つまりW相端子電圧Vwの実効電圧値は、電圧制御パターンに従って変化する。
【0102】
以上のように、センサレス制御装置10は、強制転流モードで動作する場合に、予め決定された電圧制御パターンに基づいてモータ20の通電相に印加される駆動電圧Vを時間とともに変化させながら、予め決定された速度制御パターンに基づいて通電切替速度Fを変化させる強制転流制御を行う。強制転流制御が行われる期間に、任意の時点における駆動電圧Vと通電切替速度Fとの組み合わせは、駆動電圧V及び通電切替速度Fを変数とし且つ負の傾きを有する一次関数LFを常に満たす。
【0103】
例えば、
図5に示すように、駆動電圧Vが時間tとともに一定の勾配で増加する電圧制御パターンと、通電切替速度Fが時間tとともに一定の勾配で減少する速度制御パターンとが記憶部13に記憶されている場合、強制転流制御が開始される時刻t2以降、モータ20の通電相に印加される駆動電圧Vは電圧制御パターンに従って時間tとともに一定の勾配で増加するとともに、通電切替タイミング信号STの周波数、つまり通電切替速度Fは速度制御パターンに従って時間tとともに一定の勾配で減少する。
【0104】
別の例として、
図6に示すように、駆動電圧Vが時間tとともに一定の勾配で減少する電圧制御パターンと、通電切替速度Fが時間tとともに一定の勾配で増加する速度制御パターンとが記憶部13に記憶されている場合、強制転流制御が開始される時刻t2以降、モータ20の通電相に印加される駆動電圧Vは電圧制御パターンに従って時間tとともに一定の勾配で減少するとともに、通電切替タイミング信号STの周波数、つまり通電切替速度Fは速度制御パターンに従って時間tとともに一定の勾配で増加する。
【0105】
別の例として、
図7に示すように、駆動電圧Vが時間tとともに段階的に増加する電圧制御パターンと、通電切替速度Fが時間tとともに段階的に減少する速度制御パターンとが記憶部13に記憶されている場合、強制転流制御が開始される時刻t2以降、モータ20の通電相に印加される駆動電圧Vは電圧制御パターンに従って時間tとともに段階的に増加するとともに、通電切替タイミング信号STの周波数、つまり通電切替速度Fは速度制御パターンに従って時間tとともに段階的に減少する。
【0106】
別の例として、
図8に示すように、駆動電圧Vが時間tとともに段階的に減少する電圧制御パターンと、通電切替速度Fが時間tとともに段階的に増加する速度制御パターンとが記憶部13に記憶されている場合、強制転流制御が開始される時刻t2以降、モータ20の通電相に印加される駆動電圧Vは電圧制御パターンに従って時間tとともに段階的に減少するとともに、通電切替タイミング信号STの周波数、つまり通電切替速度Fは速度制御パターンに従って時間tとともに段階的に増加する。
なお、
図5から
図8のいずれの例においても、強制転流制御が開始される時刻t2以降、任意の時点における駆動電圧Vと通電切替速度Fとの組み合わせは、駆動電圧V及び通電切替速度Fを変数とし且つ負の傾きを有する一次関数LFを常に満たす。
【0107】
上記の強制転流制御をモータ20の起動時に行うことにより、駆動電圧Vと通電切替速度Fとの組み合わせに適合するF-V特性が、負荷T1のF-V特性から負荷T4のF-V特性までの範囲で時間とともに変化する。つまり、安定的にモータ20を制御可能なF-V特性の範囲を拡大させることができ、その結果、モータ20の起動時に負荷の大きさに関係なくゼロクロス点を検出可能な逆起電圧が発生する回転速度までモータ20を安定的に回転させることができる。
【0108】
図9に示すように、モータ20の回転速度が、ゼロクロス点を検出可能な逆起電圧が発生する速度に達するまでは、ゼロクロス点検出信号Zu、Zv及びZwは全てローレベルであり、位相検出信号Hu、Hv及びHwも全てローレベルである。ここで、時刻t12において、モータ20の回転速度が、ゼロクロス点を検出可能な逆起電圧が発生する速度に達すると仮定する。
【0109】
時刻t12において、モータ20の回転速度が、ゼロクロス点を検出可能な逆起電圧が発生する速度に達すると、時刻t12以降、各端子電圧Vu、Vv及びVwにゼロクロス点が発生するタイミングに同期して、ゼロクロス点検出信号Zu、Zv及びZwに立上がりエッジまたは立下りエッジが発生するようになる。その結果、時刻t12以降、ゼロクロス点検出信号Zu、Zv及びZwに対して30°の位相遅れをもって、位相検出信号Hu、Hv及びHwに立上がりエッジまたは立下りエッジが発生するようになる。
【0110】
図9に示すように、時刻t14から時刻t20までの期間において、位相検出信号Hu、Hv及びHwによって認識される位相パターンは、PB4、PB5、PB6、PB1、PB2、及びPB3の順で変化する。電圧制御部14及び通電制御部15は、強制転流モード中に位相検出信号Hu、Hv及びHwの状態を監視し、上記のように、位相検出信号Hu、Hv及びHwによって認識される位相パターンが、記憶部13に記憶された6つの位相パターンと同じ規則的な順序で現れたことを検知すると、位相検出信号Hu、Hv及びHwによって位相の認識に成功したと判断してセンサレス同期制御モードに移行する。電圧制御部14及び通電制御部15は、時刻t20に位相検出信号Huに発生する立下りエッジに同期してセンサレス同期制御モードに移行する。
【0111】
電圧制御部14は、時刻t20にセンサレス同期制御モードに移行すると、位相検出信号Hu、Hv及びHwに基づいてモータ20の回転速度を算出する。例えば、電圧制御部14は、時刻t20に位相検出信号Huに発生する立下りエッジと、時刻t19に位相検出信号Hwに発生した立上がりエッジとの間の時間、つまりモータ20が60°回転する時間を計測することにより、モータ20の回転速度を算出する。電圧制御部14は、回転速度の算出結果と制御指令信号CSによって示される目標回転速度との偏差がゼロになる制御電圧VCをPI演算によって決定し、決定した制御電圧VCを通電制御部15に出力する。
【0112】
通電制御部15は、時刻t20にセンサレス同期制御モードに移行すると、通電切替タイミング信号STの生成を停止し、位相検出信号Hu、Hv及びHwに発生するエッジに同期して通電パターンを切り替える。例えば、通電制御部15は、時刻t20に位相検出信号Huに発生する立下りエッジに同期して、通電パターンを通電パターンPA4に切り替え、通電パターンPA4に従って各アームスイッチのスイッチング制御を開始する。
【0113】
つまり、時刻t20から位相検出信号Hvに立上がりエッジが発生する時刻t21までの通電期間において、W相上側アームスイッチQWHとU相下側アームスイッチQULとがオンとなり、且つ残りのアームスイッチがオフとなる。この通電期間では、W相上側アームスイッチQWHが、制御電圧VCによって決定されるスイッチングデューティ比でスイッチング制御される。従って、この通電期間に通電相に印加される駆動電圧Vは、回転速度の算出結果と目標回転速度との偏差をゼロにする電圧値となる。通電制御部15は、位相検出信号Hu、Hv及びHwの状態に基づいて、この通電期間における位相パターンが位相パターンPB4であることを認識する。通電制御部15は、認識した位相パターンPB4に基づいて通電パターンPA5を次の通電期間で使用する通電パターンとして決定する。
【0114】
図9に示すように、電圧制御部14は、時刻t21に位相検出信号Hvに立上がりエッジが発生すると、この立下りエッジと、時刻t20に位相検出信号Huに発生した立下がりエッジとの間の時間を計測することにより、モータ20の回転速度を算出する。電圧制御部14は、回転速度の算出結果と制御指令信号CSによって示される目標回転速度との偏差がゼロになる制御電圧VCをPI演算によって決定し、決定した制御電圧VCを通電制御部15に出力する。
【0115】
通電制御部15は、時刻t21に位相検出信号Hvに立上がりエッジが発生すると、この立上がりエッジに同期して通電パターンを通電パターンPA5に切り替え、通電パターンPA5に従って各アームスイッチのスイッチング制御を開始する。つまり、時刻t21から位相検出信号Hwに立下りエッジが発生する時刻t22までの通電期間において、V相上側アームスイッチQVHとU相下側アームスイッチQULとがオンとなり、且つ残りのアームスイッチがオフとなる。この通電期間では、V相上側アームスイッチQVHが、制御電圧VCによって決定されるスイッチングデューティ比でスイッチング制御される。従って、この通電期間に通電相に印加される駆動電圧Vは、回転速度の算出結果と目標回転速度との偏差をゼロにする電圧値となる。通電制御部15は、位相検出信号Hu、Hv及びHwの状態に基づいて、この通電期間における位相パターンが位相パターンPB5であることを認識する。通電制御部15は、認識した位相パターンPB5に基づいて通電パターンPA6を次の通電期間で使用する通電パターンとして決定する。
【0116】
以上のように、センサレス制御装置10は、センサレス同期制御モードで動作する場合に、位相パターンの認識、通電パターンの決定、及び通電パターンの切り替えを、モータ20に発生する逆起電圧を利用して生成された位相検出信号Hu、Hv及びHwに同期して行うことにより、ホールセンサ等の位置センサを使わずにモータ20の通電制御を行う。このようなセンサレス同期制御が行われることにより、モータ20の回転速度は制御指令信号CSによって指示される目標回転速度に維持される。なお、センサレス同期制御における通電切替速度Fは、位相検出信号Hu、Hv及びHwにエッジが発生するタイミングによって自動的に制御される。
【0117】
以上説明したように、本実施形態では、モータ20の起動時にモータ20の位相を認識できない場合、予め決定された電圧制御パターンに基づいてモータ20の通電相に印加される駆動電圧Vを時間とともに変化させながら、予め決定された速度制御パターンに基づいて通電切替速度Fを変化させる強制転流制御を行う。強制転流制御が行われる期間に、任意の時点における駆動電圧Vと通電切替速度Fとの組み合わせは、駆動電圧V及び通電切替速度Fを変数とし且つ負の傾きを有する一次関数LFを常に満たす。
上記の強制転流制御をモータ20の起動時に行うことにより、安定的にモータ20を制御可能なF-V特性の範囲を拡大させることができ、その結果、モータ20の起動時に負荷の大きさに関係なくゼロクロス点を検出可能な逆起電圧が発生する回転速度までモータ20を安定的に回転させることができる。従って、本実施形態によれば、センサレス制御でモータ20を起動するときに負荷の大きさに関係なくモータ20の起動を成功させることができる。
【0118】
本実施形態では、上記の強制転流制御の一例として、予め決定された電圧制御パターンに基づいてモータ20の通電相に印加される駆動電圧Vを時間とともに一定の勾配で増加させながら、予め決定された速度制御パターンに基づいて通電切替速度Fを時間とともに一定の勾配で減少させる。
また、本実施形態では、上記の強制転流制御の別の例として、予め決定された電圧制御パターンに基づいてモータ20の通電相に印加される駆動電圧Vを時間とともに一定の勾配で減少させながら、予め決定された速度制御パターンに基づいて通電切替速度Fを時間とともに一定の勾配で増加させる。
これら2つの例に従って強制転流制御を行うことにより、安定的にモータ20を制御可能なF-V特性の範囲が線形的に変化する。その結果、実際にモータ20に接続された負荷のF-V特性に適合する駆動電圧V及び通電切替速度Fの組み合わせでモータ20が駆動される可能性が高まり、モータ20の起動時にゼロクロス点を検出可能な逆起電圧が発生する回転速度まで、よりモータ20を安定的に回転させることができる。
【0119】
本実施形態では、上記の強制転流制御の別の例として、予め決定された電圧制御パターンに基づいてモータ20の通電相に印加される駆動電圧Vを時間とともに段階的に増加させながら、予め決定された速度制御パターンに基づいて通電切替速度Fを時間とともに段階的に減少させる。
また、本実施形態では、上記の強制転流制御の別の例として、予め決定された電圧制御パターンに基づいてモータ20の通電相に印加される駆動電圧Vを時間とともに段階的に減少させながら、予め決定された速度制御パターンに基づいて通電切替速度Fを時間とともに段階的に増加させる。
これら2つの例に従って強制転流制御を行うことにより、安定的にモータ20を制御可能なF-V特性の範囲が段階的に変化する。その結果、F-V特性の範囲が線形的に変化する上記2つの例と比較して、実際にモータ20に接続された負荷のF-V特性に適合する駆動電圧V及び通電切替速度Fの組み合わせでモータ20が駆動される可能性は低くなるが、通電制御の処理負荷を軽減することができる。
【0120】
また、本実施形態では、モータ20の起動時に、強制転流制御を行う前に直流励磁制御を行う。これにより、強制転流制御を行う前に、モータ20の位相が特定の位相に固定されるため、強制転流制御を開始したときにスムーズにモータ20を回転させ始めることができる。
【0121】
また、本実施形態では、強制転流制御中にモータ20の回転速度がゼロクロス点を検出可能な逆起電圧が発生する速度に達した後に、センサレス同期制御を行う。これにより、ホールセンサ等の位置センサを使わずに、モータ20の回転速度を上位制御装置400から入力される制御指令信号CSによって指示される目標回転速度に制御することができる。
【0122】
〔変形例〕
本発明は上記実施形態に限定されず、本明細書において説明した各構成は、相互に矛盾しない範囲内において、適宜組み合わせることができる。
例えば、上記実施形態では、電圧制御パターンの例として、駆動電圧が時間とともに一定の勾配で増加するパターンと、駆動電圧が時間とともに一定の勾配で減少するパターンと、駆動電圧が時間とともに段階的に増加するパターンと、駆動電圧が時間とともに段階的に減少するパターンとを示した。また、上記実施形態では、速度制御パターンの例として、通電切替速度が時間とともに一定の勾配で増加するパターンと、通電切替速度が時間とともに一定の勾配で減少するパターンと、通電切替速度が時間とともに段階的に増加するパターンと、通電切替速度が時間とともに段階的に減少するパターンとを示した。本発明の電圧制御パターン及び速度制御パターンは、これらに限定されず、「任意の時点における駆動電圧Vと通電切替速度Fとの組み合わせが、駆動電圧V及び通電切替速度Fを変数とし且つ負の傾きを有する一次関数を常に満たす」という条件を満足するパターンであれば他のパターンを用いてもよい。
【0123】
また、上記実施形態では、センサレス制御の方式として、センサレス120°通電方式を用いる場合を例示したが、本発明におけるセンサレス制御の方式はセンサレス120°通電方式に限定されない。位置センサを使わない制御方式であれば、180°通電方式などの別の方式を使用してもよい。
また、上記実施形態では、モータ20の起動時に、強制転流制御を行う前に直流励磁制御を行う場合を例示したが、必ずしも直流励磁制御を行う必要はない。
【符号の説明】
【0124】
10…センサレス制御装置、11…モータ駆動回路、12…位相検出部、12a…ゼロクロス点検出回路、12b…信号遅延回路、13…記憶部、14…電圧制御部、15…通電制御部、20…モータ、30…ポンプ、40…電動オイルポンプ、100…電動オイルポンプ装置、200…オイル、300…車載バッテリ、400…上位制御装置