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  • 特許-メンテナンス時期判定システム 図1
  • 特許-メンテナンス時期判定システム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】メンテナンス時期判定システム
(51)【国際特許分類】
   G08B 25/00 20060101AFI20240604BHJP
   F16N 29/04 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
G08B25/00 510G
F16N29/04
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020118396
(22)【出願日】2020-07-09
(65)【公開番号】P2022015508
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩道 行正
(72)【発明者】
【氏名】藤井 博史
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-245245(JP,A)
【文献】特開2005-233437(JP,A)
【文献】特開2004-127037(JP,A)
【文献】国際公開第2007/046505(WO,A1)
【文献】特開2009-032066(JP,A)
【文献】国際公開第2006/043511(WO,A1)
【文献】特開2002-310765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08B 23/00-31/00
G01M 13/00-13/045
F16N 29/00-29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発生回数検出部と発生頻度検出部と判別部を備え、
前記発生回数検出部は、所定の第1の単位時間内に異常検知センサが検出した警報信号の発生回数を計数し、
前記発生頻度検出部は、第1の単位時間をより小さい単位時間に分割した第2の単位時間内に検出された前記警報信号の発生回数を計数し、
前記判別部は、
第1の単位時間内に検出された前記警報信号の発生回数が第1の回数以上となった第1の状態が生じた場合であって、かつ、
(1)第2の単位時間内に検出された前記警報信号の発生回数が第2の回数以上となった第2の状態、
または、
(2)連続するそれぞれの第2の単位時間内に検出された前記警報信号の発生回数が、共に第3の回数以上となった第3の状態
が生じた場合に、メンテナンス時期の判別結果を出力することを特徴とするメンテナンス時期判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造ライン等の種々の部品等のメンテナンス時期判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な製造ラインにおいては、種々のセンサが用いられ異常を検出している。例えば特許文献1では、製造ラインから発生する音や振動を分析し周波数スペクトルにより異常の判定を行う音響・振動センサを用いて異常を検出している。これらの製造ラインにおいては消耗品となる部材やオイル等が必ず存在しメンテナンス時期をセンサで調べることが行われている。また、特許文献2の[0013]~[0014]では、注油などのメンテナンス時期を知るために油切れに由来する音響を検出する音響・振動センサが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2006/043511号
【文献】特開平9-260465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、錆びや油切れを音響・振動センサを用いて検出するのは困難が伴う。例えば、歯車の歯に疵が生じたときには、回転軸の回転速度に対応して疵が生じた歯が他の歯車の歯と噛み合うときに特有の音響・振動が生じる、その周期は疵の付いた歯車の回転速度と同期する。しかし、錆びや潤滑油切れ(以下、「油切れ」という)の場合、これといった周期が捉えられないことがあり、正常な時に発する音響の周波数とは異なる周波数の音響が出たときを油切れと判断するなどすることが特許文献2[0014]に記載されている。しかし、完全に油切れが起き、致命的な状態になったのであればいざ知らず、油切れの予兆となるような音響・振動を雑音から分離して検出することは難しい。また、近くで大きな音がしたときなど無関係な音響・振動により誤検出が起きやすい。
誤検出を防ぐために精度を上げることや、補償機構を設けることもできるがコストがかかるし、誤検知を完全に防ぐことは難しい。
そのため、メンテナンス時期の判断は、製造ラインを動かす作業者の経験に頼るしかなかった。
【0005】
そこで、本発明は、新たなメンテナンス時期判定システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために、本発明は、発生回数検出部と発生頻度検出部と判別部を備え、前記発生回数検出部は、所定の第1の単位時間内にセンサが検出した警報信号の発生回数を計数し、前記発生頻度検出部は、第1の単位時間をより小さい単位時間に分割した第2の単位時間内に検出された前記警報信号の発生回数を計数し、前記判別部は、第1の単位時間内に検出された前記警報信号の発生回数が第1の回数以上となった第1の状態が生じた場合であって、かつ、(1)第2の単位時間内に検出された前記警報信号の発生回数が第2の回数以上となった第2の状態、または、(2)連続するそれぞれの第2の単位時間内に検出された前記警報信号の発生回数が、共に第3の回数以上となった第3の状態が生じた場合に、メンテナンス時期の判別結果を出力することを特徴とするメンテナンス時期判定システムとした。
【発明の効果】
【0007】
メンテナンス時期を判定できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例の全体構成図
図2】実施例の警報信号の発生回数の説明図(A)第1の単位時間に検出された発生回数のグラフ(B)第2の単位時間に検出された発生回数のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における
同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0010】
(実施例)
実施例は、異常検知センサとして音響・振動センサ6を使用した動力伝達系7に係るメンテナンス時期判定システム1である。製造ラインは、通例様々な動力伝達系7を有するから、音響・振動センサ6(異常検知センサ)は、多数設けられ、それぞれ独立に所定の動力伝達系7を監視する。
図1は、実施例の全体構成図である。動力伝達系7の適切箇所に音響・振動センサ6(異常検知センサ)が設けられている。音響振動センサ6(異常検知センサ)からは、音響・振動データ61が常に分析部63へと送られている。分析部63は、音響・振動データ61を分析するものであって、実施例では周波数及びパワースペクトル密度を短時間FFTにより解析している。分析部63における分析は、FFTに限らずウエーブレット変換などの周波数や周期を分析する直交変換が用いられてもよい。分析部63は、故障や故障の可能性を検出可能な周波数があらかじめ入力されており、係る周波数や周期のパワースペクトル密度値が閾値以上になると、警報部62へと警報信号631を出力する。例えば、歯車71の歯に疵が付くと、歯車の回転周期ごとに音や振動が起き、音響の周波数と共に周期を検出することで、どの歯車に異常が起きているかを検出することができる。また、ベアリングの疵であれば、ボール、内輪、外輪などのベアリングを構成する部品ごとに特有の周期で音や振動が起きる。
【0011】
これらの検出は、一般的な音響・振動分析でもなされていることである。
以下、混乱を避けるためメンテナンス時期判定システム1に送られる油切れの兆候を示す検出結果に関する警報信号631を「油切れ警報信号6311」いい、他のトラブルに基づく警報信号を「631」とし区別することとする。
実施例の検出対象である油切れの兆候は、特有の周期や周波数を持たないことが多い。例えば、動力伝達系7のどの歯車71で油切れが起きているかによっても周期や周波数が異なるし、さらに、その時の回転速度によっても周期や周波数が異なる。そのため、実施例の分析部63は、あらかじめ入力されている他の原因で生じる周波数や周期以外の音響・振動であって、正常な時に発する音響の周波数とは異なる周波数や周期の音響が出たときを油切れの兆候があると判断するようになっている。そして、メンテナンス時期判定システム1は、分析部63から送られた油切れ警報信号6311のみを受け取るようになっている。なお、分析部63は、油切れ以外の警報信号631、例えば、所定の歯車に疵が生じたときなどの警報信号631は、メンテナンス時期判定システムに送らないように設定されていてもよい。
【0012】
従来、音響・振動センサ6(異常検知センサ)の分析部63は、油切れの兆候を検知すると、警報部62へ油切れ警報信号6311を送ると共に、製造ライン制御装置8へも警報信号631を送り、製造ラインを停止させる。前述したように油切れは検知が難しく、油切れの警報を受けた作業者は、誤検出の可能性が高いとして確認しないまま再起動ボタン81を押して再起動することが多い。このような再起動を繰り返すと、やがて大きなトラブルに発展し、製造ラインを大規模にオバーホールせざるを得なくなる。
実施例のメンテナンス時期判定システム1では、油切れの兆候を示す油切れ警報信号6311が分析部63から出力されたというだけでは、製造ラインを停止させず、警報部62から警報を出さないようにすることも可能となる。
実施例のメンテナンス時期判定システム1は、既存の製造ラインの分析部63に追加して設けることも可能である。
【0013】
(メンテナンス時期判定システムの概要)
メンテナンス時期判定システム1は、(1)発生回数検出部2、(2)発生頻度検出部3、(3)判別部4および(4)報知部5から成る。順に、それらの機能を説明する。なお、本発明でいう(1)~(4)は、実体物のある装置や部品でもよいし、ソフトウエア上のモジュールでもよい。また、一つの装置に搭載されていてもよいし、ネットワーク上で分散配置されたものが繋がれ仮想的にメンテナンス時期判定システム1として存在してもよい。本発明でいうメンテナンス時期判定システム1としての機能を備えるのであれば、形態を問わない。
【0014】
(発生回数検出部)
分析部63から送られた油切れ警報信号6311は、発生回数検出部2へと送られる。そして、発生回数検出部2は、送られてきた油切れ警報信号6311が入力されると、所定の第1の単位時間t1内に検出された油切れ警報信号6311の発生回数を計数し、合計数を算出する。図2は実施例の油切れ警報信号6311の発生回数の説明図であり、図2(A)は、説明のために作成された第1の単位時間t1に検出された発生回数のグラフである。縦軸は第1の単位時間t1内に発生した油切れ警報信号6311の発生回数であり、横軸は単位時間t1を単位とする時間を示す。
第1の単位時間t1は、測定しようとする対象に応じて適宜決められるようになっている。比較的高速で回転する動力伝達系7であれば短めに、また、ゆっくり回転する動力伝達系7では長めに設定する等適宜である。
【0015】
(発生頻度検出部)
分析部63から送られた警報信号631は、発生頻度検出部3へと送られる。図1では、直接分析部63から油切れ警報信号6311が送られているように図示されているが、発生回数検出部2を経由して油切れ警報信号6311が送られてもよく、結果的に発生頻度検出部3が機能するのであれば、どのように油切れ警報信号6311が発生頻度検出部3に送られてもよい。
【0016】
図2(B)は、説明のために作成された第2の単位時間t2に検出された発生回数のグラフである。縦軸は油切れ警報信号6311の発生回数であり、横軸は第1の単位時間t1をより小さい単位時間に分割した第2の単位時間t2を単位とする時間である。図2(B)では、第1の単位時間t1を18分割したものを第2の単位時間t2としている。
第2の単位時間t2をどのように設定するかは、適宜である。発生頻度検出部3では、第2の単位時間t2内で受け取った油切れ警報信号6311の発生回数を計数する。
【0017】
(判別部)
図1に示すように、判別部4は、発生回数検出部2から送られた第1の単位時間t1内に検出された油切れ警報信号6311の発生回数情報を受け取ると共に、発生頻度検出部3から送られた第2の単位時間t2内に検出された発生回数情報を受け取る。
図2(A)に示すように、判別部4は、第1の単位時間t1内に第1の回数42を閾値として第1の回数42以上の発生回数を検出したか否かを判断する。この第1の発生回数42以上の発生回数を検出した場合を「第1の状態45」と呼ぶ。図2(A)では、発生回数が第1の状態45となっているものが2回検出されている。
次いで、第1の状態45が検出されると、図2(B)に図示した分析に移る。第1の状態45になったか否かは、第1の単位時間t1が終了した時点で判断されるから、実施例において次の図2(B)に図示した分析は、第1の単位時間t1が終了してから始まる。メンテナンス時期判定システム1は、危険な状態になったことを報知するものではなく、メンテナンス時期を判定し報知するものであり、第1の単位時間t1単位での判定で足りるからである。
もちろん、第1の単位時間t1が終了する前に第1の発生回数42を超える第1の状態が検出された時点で、図2(B)に図示した分析に移ることを妨げるものではない。
【0018】
判別部4は、第2の単位時間t2内に検出された油切れ警報信号6311の発生回数が第2の回数43以上となった第2の状態46となるか否かを判断する。判別部4が、第2の状態46となったと判断すると、判別部4は報知部5へ判別結果41を出力する。第2の単位時間t2という短時間で第2の回数43を超える多くの油切れ警報信号6311が発生したということは、誤検出などではなくメンテナンスの必要がある可能性が高いからである。仮に何らかの誤検出により生じたとしても、作業者が、確認のため動力伝達系7を調べるに越したことはない。誤検出があまりに多ければ、作業者は、第2の回数43を増やすなどして対応することも可能である。
【0019】
また、判別部4は、連続するそれぞれの第2の単位時間t2内に検出された油切れ警報信号6311の発生回数が、共に第3の回数44以上となった第3の状態47となったか否かを判断する。連続するそれぞれの第2の単位時間t2とは、図2(B)のグラフでいえば隣接する第2の単位時間t2に相当する。そして、第3の回数44以上の油切れ警報信号6311の回数が、連続するそれぞれの第2の単位時間t2で検出された第3の状態47が図2(B)に図示されている。このような場合、判別部4は、報知部5へ判別結果41を出力する。
連続するそれぞれの第2の単位時間t2において、第3の状態47となったということは、定常的に油切れ警報信号6311が発生している可能性が高いことを示し、やはり誤検出などではなくメンテナンスのために確認する必要があるからである。
【0020】
以上の判別部4の説明をまとめると、まず、判別部4は、第1の単位時間t1内に検出された油切れ警報信号6311の発生回数が第1の回数42以上となった第1の状態45が生じたか否かを判断する。
そして、第1の状態45となったときのみ、次の2つの判断を行う。
(1)判別部4は、第2の単位時間t2内に検出された油切れ警報信号6311の発生回数が第2の回数43以上となった第2の状態46が起きたか否かを判断する。
(2)連続するそれぞれの第2の単位時間t2内に検出された油切れ警報信号6311の発生回数が、共に第3の回数44以上となった第3の状態47が起きたか否かを判断する。
そして、判別部4は、第1の状態45が起き、かつ、(1)の第2の状態46になったときに報知部5へ判別結果41を出力する。
また、判別部4は、第1の状態45が起き、かつ、(2)の第3の状態47になったときに報知部5へ判別結果41を出力する。
【0021】
分析部63は、前述したように、正常な時に発する音響の周波数とは異なる周波数や周期の音響が出たときを油切れの兆候があると判断するようになっているが、油切れの兆候を示す油切れ警報信号6311を発する閾値を下げて、頻繁に油切れ警報信号6311を発するようにすることもできる。このようにすることで、検出が困難な油切れの兆候となる音響・振動を見過ごすことが無くなる。頻繁に油切れ警報信号6311が分析部63から出力されたとしても、メンテナンス時期判定システム1の判別部4が別途、油切れの兆候を判断し、メンテナンス時期が来たかどうかを判別するから、作業者が頻繁に発生する油切れ警報信号6311に悩まされることはない。分析部63が油切れの兆候を示す油切れ警報信号6311を出力したとしても、製造ライン制御装置8を介して製造ラインを止める必要もないし、警報部62から油切れの警報を出さないようにすることもできる。
【0022】
(報知部)
報知部5は、判別部4からの判別結果41を受け、報知を行う。報知のやり方は、任意であり、ディスプレイに表示する、音声で知らせるなど作業場所に適したやり方で報知を行う。
【0023】
以上で述べたように、実施例では、発生回数検出部2と発生頻度検出部3を分けて説明した。しかし、発生回数検出部2と発生頻度検出部3は、共に油切れ警報信号6311の回数を計数するという点では同じであり、単位時間が第1の単位時間t1と第2の単位時間t2で異なるだけである。したがって、発生回数検出部2と発生頻度検出部3を統合して一つのものとすることもでき、これもまた本発明に含まれる。
また、前述したように、発生回数検出部2、発生頻度検出部3、判別部4および報知部5の主要部は、ソフトウエア上のモジュールであってもよく、これらを一体としたソフトウエアを組み込んだ装置をメンテナンス時期判定システム1としてもよいことは言うまでもない。
【0024】
また、実施例で説明したのは油切れの兆候に関するものであるが、本発明は、誤検出が起きやすいセンサなどあらゆるセンサや検出対象物に適用できる。
実施例で示したように、新たなメンテナンス時期判定システムを提供できた。
【0025】
また、本発明のメンテナンス時期判定システム1は、製造ライン等の様々な装置に搭載できる。
【0026】
以上、本発明に係る実施例を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成は、これらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
また、前述の実施例や変形例は、その目的および構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 メンテナンス時期判定システム
2 発生回数検出部
3 発生頻度検出部
4 判別部
41 判別結果
42 第1の回数
43 第2の回数
44 第3の回数
45 第1の状態
46 第2の状態
47 第3の状態
5 報知部
6 音響・振動センサ(異常検知センサ)
61 音響・振動データ
62 警報部
63 分析部
631 警報信号
6311 油切れ警報信号
7 動力伝達系
71 歯車
8 製造ライン制御装置
81 再起動ボタン
t1 第1の単位時間
t2 第2の単位時間
図1
図2