(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】金属光沢を有する印刷物
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20240604BHJP
B32B 27/10 20060101ALI20240604BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B32B27/10
B32B27/20 A
(21)【出願番号】P 2020119067
(22)【出願日】2020-07-10
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】松永 直也
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-024159(JP,A)
【文献】特開2016-088095(JP,A)
【文献】特開2005-120503(JP,A)
【文献】特表2016-511776(JP,A)
【文献】特開昭63-319154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00-7/26
B41M 1/00-9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙を基材とした印刷物であって、
紙基材層には、紙基材層側から少なくとも、アンカーコート層/金属粉を含有するインキ層/表面保護層が順次形成されており、
アンカーコート層は、顔料を含んだ層であり、
表面保護層の表面粗さは、
カットオフ値を0.8mmとしたときの、JIS B0601:2001の算術平均粗さ(Ra
0.8)が以下の条件
0.4μm≦Ra
0.8≦0.51μm
を満た
し、
前記顔料は、青色顔料としてのカラーインデックス番号ピグメントブルー15:6を樹脂組成物に分散させて用いられ、
前記カラーインデックス番号ピグメントブルー15:6が、全固形分に対して質量分率で15~50%であることを特徴とする、金属光沢を有する印刷物。
【請求項2】
前記アンカーコート層は、ハードコート層であり硬化型樹脂組成物が顔料を含んでなることを特徴とする、請求項1に記載の金属光沢を有する印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
印刷物は社会の隅々にまでいきわたって、人々の暮らしを支えている。書籍や新聞などの文字による情報伝達のほか、カラー印刷が普及してからは、様々な分野で絵柄印刷が活用され、写真などの印刷のほか、包装材料や建装材料などにも印刷技術が多く使われ、人々の暮らしに便利さと潤いを与えている。特に金属の粉末を含んだインキを用いた印刷物は、金属光沢の意匠性を表現することができ、高級感や金属感を表現することが可能である。
【背景技術】
【0002】
このような環境の中、印刷による意匠表現は進歩を遂げてきたが、たとえば金属による高輝度や、金属が光を反射するリアルな意匠の表現が求められる場合には、通常の印刷インキによる表現では不十分な場合が多く、金属の真空蒸着を用いたりすることが行われてきた。
【0003】
しかしながら、プラスチックフィルムに真空蒸着法を用いる場合には、金属光沢の表現には効果的であるものの、真空中での金属の蒸着工程を別に設けることが必要であり、容易に実施することが困難であった。また基材が通常の紙である場合には、真空蒸着によっても金属光沢の表現は十分なものとは言えなかった。加えて真空蒸着では、印刷のような繊細な表現は困難であった。
【0004】
特許文献1には、基材上に金属鱗片を含む光沢印刷層を設けた印刷物が提案されているが、ここでは目的が主に防眩性に重きを置いたものになっており、金属の表面に光が反射して作られる金属光沢の表現としては不十分なものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる状況に鑑みてなされたものであり、紙を基材として、金属蒸着の手段を用いることなく、高い金属光沢の意匠表現が可能な印刷物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、
紙を基材とした印刷物であって、
紙基材層には、紙基材層側から少なくとも、アンカーコート層/金属粉を含有するインキ層/表面保護層が順次形成されており、
アンカーコート層は、顔料を含んだ層であり、
表面保護層の表面粗さは、
カットオフ値を0.8mmとしたときの、JIS B0601:2001の算術平均粗さ(Ra0.8)が以下の条件
0.4μm≦Ra0.8≦0.51μm
を満たし、
前記顔料は、青色顔料としてのカラーインデックス番号ピグメントブルー15:6を樹脂組成物に分散させて用いられ、
前記カラーインデックス番号ピグメントブルー15:6が、全固形分に対して質量分率で15~50%であることを特徴とする、金属光沢を有する印刷物である。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、
前記アンカーコート層は、ハードコート層であり硬化型樹脂組成物が顔料を含んでなる
ことを特徴とする、請求項1に記載の金属光沢を有する印刷物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、紙を基材として、金属蒸着の手段を用いることなく、高い金属光沢の意匠表現が可能な印刷物を提供することが可能である。すなわちアンカーコート層は顔料を含んだ層であり、紙基材の凹凸を有する表面の平滑性を向上させることに効果的である。
【0010】
またアンカーコート層中の顔料が、入射光線を吸収して、金属粉を含有するインキ層の下の面からの反射を抑えることによって、金属光沢の意匠表現の向上にも効果的である。
【0011】
また表面保護層の表面粗さは、カットオフ値を0.8mmとしたときの、JIS B0601:2001の算術平均粗さ(Ra0.8)が以下の条件
0.4μm≦Ra0.8≦0.51μm
を満たすことによって、表面保護層の表面の乱反射を抑制して、金属粉を含有するインキ層の質感を損なわずに表現することが可能である。
【0012】
特に請求項2に記載の発明によれば、アンカーコート層は、ハードコート層であり硬化型樹脂組成物が顔料を含んでなることによって、より平滑な面を形成することができ、金属光沢の表現に一層効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明に係る金属光沢を有する印刷物の、一実施態様を説明をするための部分断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を
図1を参照しながら、更に詳しい説明を加える。ただし本発明は、ここに示す例にのみ限定されるものではない。本発明は、請求項によって特定されるものである。
【0015】
本発明は、紙を基材とした印刷物である。特に金属粉を含有するインキで印刷した部分を設けた印刷物であって、この部分が金属光沢を有するものである。特に金属による高輝度や、金属が光を反射するリアルな意匠の表現が可能な、金属光沢を有する印刷物(10)である。
【0016】
紙基材層(1)には、紙基材層(1)側から少なくとも、アンカーコート層(2)/金属粉を含有するインキ層(3)/表面保護層(4)が順次形成されており、金属光沢を有する印刷物(10)を形成している。
【0017】
本発明において、アンカーコート層(2)は、顔料を含んだ層とする。顔料を含んだアンカーコート層(2)を設けることにより、紙基材層(1)の表面の凹凸を平滑にすることができる。また金属光沢を有する印刷物(10)全体の表面、すなわち表面保護層(4)の表面を平滑にすることができる。
【0018】
これらの効果によって、金属粉を含有するインキ層(3)によってもたらされる金属光沢は、より金属感を伴った意匠表現とすることができる。金属粉は、表現しようとする金属によって、例えばアルミニウム粉を用いることが可能であり、その粒度を適宜選択して用いることができる。
【0019】
アンカーコート層(2)は、ハードコート層であり硬化型樹脂組成物が顔料を含んだ層
とすることができ、この場合には紙基材層(1)の表面の凹凸を平滑にすることに、より一層効果的である。
【0020】
我々は、本発明を検討過程において鋭意試行を重ねた結果、以下のことを見出した。すなわち、アンカーコート層(2)が顔料を含んで構成されることに加えて、表面保護層(4)の表面粗さは、
カットオフ値を0.8mmとしたときの、JIS B0601:2001の算術平均粗さ(Ra0.8)が以下の条件
0.4μm≦Ra0.8≦0.51μm
を満たすことが、金属光沢を有する印刷物(10)において、金属による高輝度や、金属が光を反射するリアルな意匠の表現に一層有効であることを見出した。
【0021】
アンカーコート層(2)に用いる顔料は、例えば青色顔料などを樹脂組成物に分散して用いることができる。例えば青色顔料を用いる場合の例として、カラーインデックス番号ピグメントブルー15:6が、樹脂組成物に分散された状態で、全固形分に対して質量分率で5~80%とすることができ、より好ましくは15~50%の範囲とすることができる。
【0022】
なお、この場合カラーインデックス番号ピグメントブルー15:6による発色、耐熱性を阻害しない範囲で、ピグメントブルー15:1、15:2、15:3、15:4など、他の青色顔料、さらにその他の着色顔料を併用することも可能である。
【0023】
アンカーコート層(2)が顔料を含むことによって、紙基材(1)の凹凸の隙間に顔料が入り込んで平滑性を向上させることに効果的であり、またアンカーコート層(2)中の顔料が入射光線を吸収して、金属粉を含有するインキ層(3)の下の面からの反射を抑えることによって、金属光沢の意匠表現の向上にも効果的である。
【0024】
このようにして本発明によれば、紙を基材として、金属蒸着の手段を用いることなく、高い金属光沢の意匠表現が可能な、金属光沢を有する印刷物(10)を提供することが可能である。
【実施例】
【0025】
以下本発明を、実施例および比較例によって更に具体的な説明を加える。ただし本発明は、ここに示す例にのみ限定されるものではない。本発明は、請求項によって特定されるものである。
【0026】
評価用試料として、アンカーコート層の顔料の含有の有無、また表面粗さの異なる印刷物を作成し、評価は表面から見た金属光沢を目視で観察、比較することとした。
【0027】
<実施例1>
印刷物の層構成,および表面粗さ(R0.8)は下記のとおりである。
紙基材側から、
紙基材層(1)/アンカーコート層(2)/金属粉を含有するインキ層(3)/表面保護層(4)
アンカーコート層(2)には顔料を含む。
表面粗さ(R0.8)=0.47
とした。
【0028】
<実施例2>
印刷物の層構成,および表面粗さ(R0.8)は下記のとおりである。
紙基材側から、
紙基材層(1)/アンカーコート層(2)/金属粉を含有するインキ層(3)/表面保護層(4)
アンカーコート層(2)には顔料を含む。
表面粗さ(R0.8)=0.42
とした。
【0029】
<実施例3>
印刷物の層構成,および表面粗さ(R0.8)は下記のとおりである。
紙基材側から、
紙基材層(1)/アンカーコート層(2)/金属粉を含有するインキ層(3)/表面保護層(4)
アンカーコート層(2)には顔料を含む。
表面粗さ(R0.8)=0.51
とした。
【0030】
<比較例1>
印刷物の層構成,および表面粗さ(R0.8)は下記のとおりである。
紙基材側から、
紙基材層(1)/アンカーコート層(2)/金属粉を含有するインキ層(3)/表面保護層(4)
アンカーコート層(2)には顔料を含まない。(この部分は本発明に規定する範囲を逸脱する。)
表面粗さ(R0.8)=0.64。(この部分は本発明に規定する範囲を逸脱する。)
とした。
【0031】
<比較例2>
印刷物の層構成,および表面粗さ(R0.8)は下記のとおりである。
紙基材側から、
紙基材層(1)/アンカーコート層(2)/金属粉を含有するインキ層(3)/表面保護層(4)
アンカーコート層(2)には顔料を含まない。(この部分は本発明に規定する範囲を逸脱する。)
表面粗さ(R0.8)=0.62。(この部分は本発明に規定する範囲を逸脱する。)
とした。
【0032】
<比較例3>
印刷物の層構成,および表面粗さ(R0.8)は下記のとおりである。
紙基材側から、
紙基材層(1)/アンカーコート層(2)/金属粉を含有するインキ層(3)/表面保護層(4)
アンカーコート層(2)には顔料を含まない。(この部分は本発明に規定する範囲を逸脱する。)
表面粗さ(R0.8)=0.65。(この部分は本発明に規定する範囲を逸脱する。)
とした。
【0033】
評価した結果、金属光沢は、実施例1~実施例3において高い金属光沢の意匠表現が得られ、比較例1~比較例3に比べて優れていた。
【0034】
これは、アンカーコート層(2)に顔料を含む実施例1~実施例3においては、表面粗
さは本発明に規定する範囲内となっており、アンカーコート層(2)の顔料の含有の有無が、表面保護層(4)の平滑性にも影響を与えたものと考えられ、表面粗さが本発明の規定する範囲内であることを可能にしたと考えられる。
【0035】
すなわち、この表面の平滑性が、金属粉を含有するインキ層(3)の金属感を、乱反射で阻害することなく、高い金属光沢の意匠表現を可能にしたものである。
【0036】
このようにして本発明によれば、紙を基材として、金属蒸着の手段を用いることなく、高い金属光沢の意匠表現が可能な印刷物を提供することが可能であることを検証することができた。
【符号の説明】
【0037】
1・・・紙基材層
2・・・アンカーコート層
3・・・金属粉を含有するインキ層
4・・・表面保護層
10・・・金属光沢を有する印刷物