(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】エアレスタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29D 30/02 20060101AFI20240604BHJP
B60C 7/00 20060101ALN20240604BHJP
【FI】
B29D30/02
B60C7/00 H
(21)【出願番号】P 2020138472
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】杉谷 信
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-058541(JP,A)
【文献】国際公開第2014/188912(WO,A1)
【文献】特開平06-294459(JP,A)
【文献】特開2018-094825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/02
B60C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接地面を有する環状のゴム部材であるトレッドリングと、前記トレッドリングのタイヤ半径方向内側に配される金属製のハブと、前記トレッドリングと前記ハブとを連結するスポーク部とを備えたエアレスタイヤの製造方法であって、
前記トレッドリングと前記ハブとを準備する工程と、
第1金型に前記ハブを配置する工程と、
前記第1金型内の前記ハブの周囲に、第1熱可塑性高分子材料を射出して前記ハブと前記スポーク部とが一体硬化したスポーク複合体を成形する工程と、
前記第1金型から前記スポーク複合体を取り出して、前記スポーク部を収縮させる工程と、
前記トレッドリングと、前記スポーク部の収縮を終えた前記スポーク複合体とを接合する工程とを含む、
エアレスタイヤの製造方法。
【請求項2】
第2金型に、前記トレッドリングと、前記スポーク部の収縮を終えた前記スポーク複合体とを配置する工程と、
前記第2金型内の前記トレッドリングと前記スポーク複合体との隙間に、第2熱可塑性高分子材料を射出して前記トレッドリングと前記スポーク複合体とを一体硬化させる工程とを含む、
請求項1に記載のエアレスタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記第1熱可塑性高分子材料及び前記第2熱可塑性高分子材料は、ポリウレタン系、ポリエステル系又はポリアミド系の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーである、請求項2に記載のエアレスタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記第1熱可塑性高分子材料及び前記第2熱可塑性高分子材料は、同一の高分子材料を含む、請求項2又は3に記載のエアレスタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記第1熱可塑性高分子材料及び前記第2熱可塑性高分子材料は、同一の材料である、請求項2ないし4のいずれか1項に記載のエアレスタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記第1熱可塑性高分子材料及び前記第2熱可塑性高分子材料の少なくとも一方が、ポリアミド系の高分子材料である、請求項2ないし5のいずれか1項に記載のエアレスタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記第1金型は、前記ハブを配置するための第1キャビティと、前記第1キャビティに連なり、かつ、前記第1キャビティに配置された前記ハブの周囲に前記スポーク部を成形するための第2キャビティとを備える、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のエアレスタイヤの製造方法。
【請求項8】
前記第2金型は、前記トレッドリングを配置するための第3キャビティと、前記第3キャビティに配置された前記トレッドリングのタイヤ半径方向内側に前記スポーク複合体を配置するための第4キャビティと、前記第3キャビティと前記第4キャビティとの間に、前記トレッドリングと前記スポーク複合体とを連結する連結部を形成するための第5キャビティとを備える、請求項2ないし6のいずれか1項に記載のエアレスタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアレスタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、エアレスタイヤが記載されている。このエアレスタイヤは、接地面を有する円筒状のトレッドリングと、車軸に固定される金属製のハブと、これらの間を放射状に延びて連結する複数のスポーク部とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のようなエアレスタイヤの典型的な製造方法は、次のとおりである。まず、トレッドリングとハブとが準備される。次に、これらのトレッドリングとハブとが、前記スポーク部を成形するための金型に配置される。次に、前記金型内の前記トレッドリングと前記ハブとの間に、樹脂を流し込んでスポーク部が成形される。これにより、前記トレッドリング、前記ハブ及び前記スポーク部が互いに一体化したエアレスタイヤが得られる。
【0005】
ところが、従来の製造方法で作られたエアレスタイヤは、前記スポーク部と前記トレッドリング部との接合部において剥離が生じやすいという問題があった。このような問題について、発明者らは、鋭意研究を行った結果、成形後にスポーク部で生じるいわゆる成形収縮が前記接合部での剥離を促進していることが分かった。
【0006】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、トレッドリングとスポーク部との間での剥離を長期に亘って抑制し、耐久性を向上することができるエアレスタイヤの製造方法を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、接地面を有する環状のゴム部材であるトレッドリングと、前記トレッドリングのタイヤ半径方向内側に配される金属製のハブと、前記トレッドリングと前記ハブとを連結するスポーク部とを備えたエアレスタイヤの製造方法であって、前記トレッドリングと前記ハブとを準備する工程と、第1金型に前記ハブを配置する工程と、前記第1金型内の前記ハブの周囲に、第1熱可塑性高分子材料を射出して前記ハブと前記スポーク部とが一体硬化したスポーク複合体を成形する工程と、前記第1金型から前記スポーク複合体を取り出して、前記スポーク部を収縮させる工程と、前記トレッドリングと、前記スポーク部の収縮を終えた前記スポーク複合体とを接合する工程とを含む、エアレスタイヤの製造方法である。
【0008】
本発明の他の態様では、第2金型に、前記トレッドリングと、前記スポーク部の収縮を終えた前記スポーク複合体とを配置する工程と、前記第2金型内の前記トレッドリングと前記スポーク複合体との隙間に、第2熱可塑性高分子材料を射出して前記トレッドリングと前記スポーク複合体とを一体硬化させる工程とを含むことができる。
【0009】
本発明の他の態様では、前記第1熱可塑性高分子材料及び前記第2熱可塑性高分子材料は、ポリウレタン系、ポリエステル系又はポリアミド系の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーであっても良い。
【0010】
本発明の他の態様では、前記第1熱可塑性高分子材料及び前記第2熱可塑性高分子材料は、同一の高分子材料を含むことができる。
【0011】
本発明の他の態様では、前記第1熱可塑性高分子材料及び前記第2熱可塑性高分子材料は、同一の材料であっても良い。
【0012】
本発明の他の態様では、前記第1熱可塑性高分子材料及び前記第2熱可塑性高分子材料の少なくとも一方が、ポリアミド系の高分子材料であっても良い。
【0013】
本発明の他の態様では、前記第1金型は、前記ハブを配置するための第1キャビティと、前記第1キャビティに連なり、かつ、前記第1キャビティに配置された前記ハブの周囲に前記スポーク部を成形するための第2キャビティとを備えることができる。
【0014】
本発明の他の態様では、前記第2金型は、前記トレッドリングを配置するための第3キャビティと、前記第3キャビティに配置された前記トレッドリングのタイヤ半径方向内側に前記スポーク複合体を配置するための第4キャビティと、前記第3キャビティと前記第4キャビティとの間に、前記トレッドリングと前記スポーク複合体とを連結する連結部を形成するための第5キャビティとを備えることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、上記の工程を採用したことにより、トレッドリングとスポーク部との間での剥離を長期に亘って抑制し、ひいては、耐久性に優れたエアレスタイヤを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態の製造方法で製造されたエアレスタイヤの側面図である。
【
図2】本実施形態の製造方法で製造されたエアレスタイヤの斜視図である。
【
図4】本実施形態のスポーク複合体の側面図である。
【
図6】ハブが配置された第1金型に第1熱可塑性高分子材料を射出した状態の平面図である。
【
図7】本実施形態のスポーク複合体の収縮を示す平面図である。
【
図9】トレッドリング及びスポーク複合体が配置された第2金型の平面図である。
【
図10】トレッドリング及びスポーク複合体が配置された第2金型に第2熱可塑性高分子材料を射出した状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
【0018】
図面は、本発明の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれていることが理解されなければならない。また、複数の実施形態がある場合、明細書を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0019】
[エアレスタイヤの基本構造]
本発明の製造方法の説明に先立ち、まず、エアレスタイヤの基本構造が説明される。
【0020】
図1は、本実施形態の製造方法により製造されたエアレスタイヤ1の側面図、
図2は、その斜視図、
図3は
図1の要部拡大断面図である。
図1ないし3に示されるように、エアレスタイヤ1は、トレッドリング2と、そのタイヤ半径方向内側に配されるハブ3と、トレッドリング2とハブ3とを連結するスポーク部4とを備える。
【0021】
[トレッドリング]
トレッドリング2は、環状のゴム部材であって、例えば、加硫ゴムで形成される。トレッドリング2のタイヤ半径方向の外側面は、地面と接触するための接地面2aとして形成される。この接地面2aには、各種の排水用の溝(図示省略)が形成されても良い。また、トレッドリング2のタイヤ半径方向の内周面2bには、後述のスポーク部4が接合されている。
【0022】
好ましい態様では、トレッドリング2には、
図3に示されるように、内部に補強コード層2cが配される。補強コード層2cは、例えば、複数の有機繊維コード又はスチールコードが所定の向きに配向された層からなる。このような補強コード層2cは、トレッドリング2のタイヤ周方向及び/又はタイヤ軸方向の剛性を高め、操縦安定性を向上させるのに役立つ。さらに、トレッドリング2には、一部に樹脂材料が添加又は複合されても良い。
【0023】
[ハブ]
ハブ3は、車軸を固定するためのもので、金属製である。ハブ3は、例えば、ディスク部3aと、そのタイヤ半径方向外側に形成された円筒状部3bとを一体に備える。ディスク部3aは、トレッドリング2と同芯に配されている。ディスク部3aには、例えば、センターボア3cや取付孔3dなどが形成されている。
【0024】
[スポーク部]
スポーク部4は、トレッドリング2とハブ3との間に形成され、これらを一体に連結している。
【0025】
スポーク部4は、樹脂材料で形成されている。スポーク部4は、タイヤ走行時の振動を吸収し、乗り心地性能を向上させる機能を有することから、その樹脂材料は、例えば、荷重支持能力を十分に発揮し得る強度を持つものが望ましい。本実施形態のスポーク部4は、熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーといった熱可塑性高分子材料で構成される。熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリオレフィン系、ポリスチレン系、それらの混合物等が使用される。耐熱性や強度の面を考慮すると、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、及び、それらの混合物の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーが望ましい。
【0026】
本実施形態のスポーク部4は、例えば、タイヤ半径方向外側のアウターリング部4aと、タイヤ半径方向内側のインナーリング部4bと、複数のスポークエレメント4cとを一体的に備えている。
【0027】
アウターリング部4aは、例えば、トレッドリング2の内周面2bに接合された環状体である。
【0028】
インナーリング部4bは、ハブ3の外周面(より具体的には、円筒状部3bの外周面)に接合された環状体である。
【0029】
各スポークエレメント4cは、それぞれ、タイヤ半径方向に延びて、アウターリング部4aとインナーリング部4bとを互いに接続している。各スポークエレメント4cは、例えば、走行時に撓むことで、トレッドリング2に入力された衝撃を緩和することができる。スポークエレメント4cの形状等は、図示の態様に限定されるものではなく、例えば、タイヤ半径方向又は周方向にジグザグ状に延びるものや、タイヤ周方向断面において、網目状にのびるもの等、種々の態様が採用される。
【0030】
[エアレスタイヤの製造方法]
次に、エアレスタイヤ1の製造方法が説明される。
【0031】
[トレッドリング及びハブの準備]
本実施形態の製造方法は、トレッドリング2とハブ3とを準備する工程を含む。トレッドリング2は、例えば、慣例にしたがって、未加硫ゴム材料やコード材料等を所定形状に成型し、これを金型等で加硫することにより得られる。また、ハブ3は、鋳造、鍛造、切削等の各種の方法により製造される。
【0032】
[スポーク複合体の製造]
本実施形態の製造方法は、
図4に示されるように、ハブ3とスポーク部4とが一体硬化したスポーク複合体7を成形する工程を含む。スポーク複合体7は、例えば、
図5に示されるような第1金型10を用いて成形される。
【0033】
図5には、第1金型10の平面図が示されている。第1金型10は、例えば、下型10Aと、下型10Aに対して相対的に上下方向に移動可能な上型10Bとを含む。
図5は、上型10Bと下型10Aとを閉じた状態で、それらの合わせ面11よりも下側を示し、上型10Bが断面として表れている。
【0034】
図5に示されるように、第1金型10の下型10Aには、円柱状の凹部からなるキャビティ20が形成されている。キャビティ20は、本質的に、円形をなす底面12と、底面12から立ち上がる内周面13とを含み、その上部は、上型10Bで閉じられる。
【0035】
また、キャビティ20は、第1キャビティ21と第2キャビティ22とを含む。
図5では、これらの理解を助けるために、第1キャビティ21と第2キャビティ22との境界が仮想線で示されている。
【0036】
第1キャビティ21は、予め準備されたハブ3を配置するための空間である。第1キャビティ21には、底面12から上向きに延びる突出軸14及び15が設けられている。ハブ3は、その軸心を上下方向として、第1キャビティ21に配置され、実質的に第1キャビティ21を埋める。換言すると、ハブ3の外周面が、本質的に、第1キャビティ21と第2キャビティ22との前記境界を規定する。
【0037】
また、ハブ3のセンターボア3cや取付孔3dは、それぞれ第1キャビティ21の突出軸14及び15に差し込まれる。これは、第1キャビティ21に、ハブ3を正確に位置合わせするのに役立つ。
【0038】
第2キャビティ22は、第1キャビティ21に配置されたハブ3の周囲にスポーク部4を成形するための空間である。第2キャビティ22は、第1キャビティ21の外側に連なり、環状に延びている。本実施形態の第2キャビティ22は、下型10Aの底面12、底面12から上向きに延びる突起16、キャビティ20の内周面13、第1キャビティ21に配置されたハブ3の外周面、及び、上型10Bで画定される。
【0039】
また、上型10Bは、下方に延びるスポーク形成用の複数の突起17を備える。これらの突起17は、下型10Aと上型10Bとを閉じたときに、下型10Aの突起16、16間に進入し、第2キャビティ22を画定する。なお、図示していないが、第2キャビティ22には、その中に熱可塑性高分子材料を射出するためのゲートが連通している。
【0040】
各突起16、17と、第1キャビティ21の内周面13との間には、スポーク部4のアウターリング部4aを形成するための環状の隙間が形成されている。同様に、各突起16、17と、ハブ3の外周面との間には、スポーク部4のインナーリング部4bを形成するための環状の隙間が形成されている。さらに、円周方向に交互に並ぶ複数の突起16、17の間には、それぞれ、スポークエレメント4cを形成するための隙間が形成されている。
【0041】
以上のように構成された第1金型10を用いて、スポーク複合体7を成形する好ましい手順は次の通りである。
【0042】
例えば、ハブ3の外周面に、ショットブラストなどの下地処理及び/又は接着剤が塗布される。これは、ハブ3とスポーク部4との接着力を高めるのに役立つ。
【0043】
次に、第1金型10に上記ハブ3が配置される。具体的には、第1金型10を開き、その下型10Aの第1キャビティ21に、ハブ3が配置される。
【0044】
次に、上型10Bを下型10Aに嵌合させ、第1金型10が閉じられる。
【0045】
次に、
図6に示されるように、第2キャビティ22に、ゲート(図示省略)を介して、溶融した第1熱可塑性高分子材料8が射出、すなわち加圧注入される。これにより、ハブ3の周囲の第2キャビティ22に、第1熱可塑性高分子材料8が充填される。なお、この射出には、慣例にしたがって様々な射出装置が採用され得る。
【0046】
次に、第1金型10内で第1熱可塑性高分子材料8が冷却、硬化される(冷却工程)。これにより、
図4に示したように、ハブ3とスポーク部4とが一体硬化したスポーク複合体7が得られる。
【0047】
[スポーク部の収縮]
本実施形態の製造方法は、スポーク部4が硬化した後、第1金型10を開き、第1金型10からスポーク複合体7を取り出す工程を含む。また、
図7に示されるように、本実施形態の製造方法は、取り出されたスポーク複合体7のスポーク部4を、収縮させる工程を含む。
【0048】
第1熱可塑性高分子材料8は、金型から取り出された後、数パーセント程度の成形収縮が起こる。したがって、第1熱可塑性高分子材料8で構成されたスポーク部4も、時間の経過とともに、その体積が収縮し、例えば、その外径も縮む(
図7は、理解しやすいように、収縮前の外径が仮想線で示されている。)。発明者らの実験によれば、スポーク部4のこのような成形収縮が、これまでのエアレスタイヤのスポーク部とトレッドリングとの接合部での早期剥離の原因の一つであることがわかった。
【0049】
本実施形態は、トレッドリング2に接合するのに先立ち、予めスポーク部4を収縮させる。これにより、スポーク部4は、その内部応力(特に、スポークエレメント4cがタイヤ半径方向に収縮しようとする応力)が除去され、ひいては、トレッドリング2との接合強度が向上する。具体的には、スポーク部4が十分に成形収縮をし終えるまで、スポーク複合体7は、例えば、室温(25℃±3℃)で、自由な状態に放置される。収縮の進行度合いは、スポーク部4の構造、第1熱可塑性高分子材料8の種類、射出温度等の条件によって異なる。したがって、放置時間については、これらに諸条件に応じて、さらには生産性などを考慮して、適宜設定され得る。放置時間の一例として、概ね、0.5~24時間程度が望ましい。
【0050】
[トレッドリングとスポーク複合体との接合]
本実施形態では、トレッドリング2と、スポーク部4の収縮を終えたスポーク複合体7とを接合する工程を含む。この工程は、様々な態様で行われる。最も簡単な態様では、トレッドリング2の内周面2bと、スポーク複合体7の外周面(スポーク部4のアウターリング部4aの外周面)とが、接着剤を介して固着される。これにより、エアレスタイヤ1が製造される。
【0051】
他の態様では、
図8に示されるような第2金型30を用いて、トレッドリング2と、スポーク部4の収縮を終えたスポーク複合体7とを接合することができる。以下、この工程が具体的に説明される。
【0052】
[トレッドリング及びスポーク複合体の第2金型への配置]
図8には、第2金型30の平面図が示されている。この工程では、第2金型30に、トレッドリング2と、スポーク部4の収縮を終えたスポーク複合体7とが配置される。
【0053】
第2金型30は、例えば、下型30Aと、下型30Aに対して相対的に上下方向に移動可能な上型(図示省略)とを含む。
図8は、上型30Bと上型とを閉じた状態で、それらの合わせ面よりも下側を示している。
【0054】
第2金型30の下型30Aには、円柱状の凹部からなるキャビティ40が形成されている。キャビティ40は、本質的に、円形をなす底面41、底面41から立ち上がる内周面42とを含み、その上部は上型で閉じられる。
【0055】
また、キャビティ40は、第3キャビティ43と、第4キャビティ44と、第5キャビティ45とを含む。
図8では、これらの理解を助けるために、第3キャビティ43、第4キャビティ44及び第5キャビティ45の各境界が仮想線で示されている。
【0056】
第3キャビティ43は、トレッドリング2を配置するための環状の空間である。本実施形態では、トレッドリング2の外周面は、キャビティ40の内周面42にほぼ揃えて配置される。したがって、この状態において、トレッドリング2の内周面に対応する位置が、第3キャビティの43のタイヤ半径方向の内側の境界である。
【0057】
第4キャビティ44は、スポーク複合体7を配置するための空間である。本実施形態の第4キャビティ44は、第3キャビティのタイヤ半径方向内側に形成される。第4キャビティ44には、例えば、底面41から上向きに延びる突出軸31及び32が設けられている。スポーク複合体7のハブ3は、その軸心を上下方向として、第4キャビティ44に配置される。換言すると、スポーク複合体7の外周面が、本質的に、第4キャビティ44のタイヤ半径方向の外側の境界を規定する。
【0058】
第5キャビティ45は、第3キャビティ43と第4キャビティ44との間に形成される。本実施形態の第5キャビティ45は、周方向に環状に形成されている。第5キャビティ45は、トレッドリング2とスポーク複合体7とを連結するための連結部(後述)を形成するための空間である。第5キャビティ45には、そこに第2熱可塑性樹脂を射出するためのゲート(図示省略)が連通している。
【0059】
図8及び
図9に示されるように、第2金型30には、第3キャビティ43にトレッドリング2が、また、第4キャビティ44にスポーク複合体7がそれぞれ配置される。これにより、第2金型30内にて、スポーク複合体7がトレッドリング2のタイヤ半径方向内側に位置決めされる。また、トレッドリング2とスポーク複合体7との間には、タイヤ周方向に連続する隙間、すなわち、第5キャビティ45が形成される。好ましい態様では、例えば、トレッドリング2の内周面に、予め、表面処理及び/又は接着剤が塗布されても良い。
【0060】
[第2熱可塑性高分子材料の射出]
本実施形態の製造方法は、
図10に示されるように、第2金型30内のトレッドリング2とスポーク複合体7との隙間(すなわち、第5キャビティ45)に、第2熱可塑性高分子材料9を射出し、トレッドリング2とスポーク複合体7とを一体硬化させる工程を含む。第5キャビティ45に充填された第2熱可塑性高分子材料9は、トレッドリング2とスポーク複合体7との両方に接触し、その状態で硬化する。これにより、第2熱可塑性高分子材料9は、トレッドリング2とスポーク複合体7とを一体に連結する連結部50となる。第2熱可塑性高分子材料9が硬化することで、
図1~3に示したようなエアレスタイヤ1が成形される。
【0061】
なお、第2熱可塑性高分子材料9の射出圧力によるスポーク複合体7の各スポークエレメント4cの変形等を抑制するために、第4キャビティ44には、例えば、スポークエレメント4cの形状を保持するための各種の支持部材等が設けられても良い(図示省略)。
【0062】
[エアレスタイヤの取り出し]
上記の工程の後、第2金型30を開き、エアレスタイヤ1が取り出される。
以上のようにして製造されたエアレスタイヤ1は、スポーク複合体7のスポーク部4は、既に収縮を終えた状態でトレッドリング2に接合されている。したがって、成形後のエアレスタイヤ1には、その自由状態において、スポーク部4に内部収縮力が殆ど又は全く発生しない。このため、本実施形態のエアレスタイヤ1は、スポーク部4とトレッドリング2との間の接合強度が高く、そこでの剥離が長期に亘って抑制され、ひいては、優れた耐久性を発揮する。
【0063】
ここで、スポーク部4とトレッドリング2との間には、第2熱可塑性高分子材料9からなる連結部50が介在しており、この連結部50にも成形収縮が生じ得る。しかしながら、連結部50は、スポーク部4に比べると十分にその体積が小さく、ひいては、連結部50に残存する内部応力(内部収縮力)は、トレッドリング2とスポーク部4との間の剥離には殆ど影響を及ぼさない程度に小さく、無視することができる。このような観点では、連結部50のタイヤ半径方向の厚さtは、極力小さいことが望まれることから、例えば、5mm以下、より好ましくは3mm以下とされるのが望ましい。
【0064】
一方、連結部50の厚さtが過度に小さくなると、トレッドリング2とスポーク複合体7との接合強度が低下するおそれがあるため、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1mm以上とされるのが望ましい。連結部50の厚さは、トレッドリング2の内周面2bの半径と、収縮を考慮したスポーク複合体7の外周面の半径とを適宜設定することにより、調整することができる。
【0065】
第2熱可塑性高分子材料9は、特に限定されるわけではないが、例えば、第1熱可塑性高分子材料8と同様に、ポリウレタン系、ポリエステル系又はポリアミド系の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーが好適である。好ましい態様では、スポーク部4を構成する第1熱可塑性高分子材料8及び連結部50を構成する第2熱可塑性高分子材料9は、同一の高分子材料を含むことが望ましい。これにより、スポーク部4と連結部50との接合結合がより高められる。とりわけ、第1熱可塑性高分子材料8及び第2熱可塑性高分子材料9は、(添加剤等も含めて)同一の材料であるのが特に望ましい。
【0066】
また、第1熱可塑性高分子材料8及び第2熱可塑性高分子材料9の少なくとも一方が、ポリアミド系の熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーを含むことが望ましい。ポリアミド系の樹脂又はエラストマーは、接着性に優れることから、スポーク部4と連結部50との接合結合がより高められる点で望ましい。
【0067】
また、第2熱可塑性高分子材料を第1熱可塑性高分子材料の射出温度と同じかそれ以上で射出されることが望ましい。それによって、一度硬化した第1熱可塑性高分子材料の表面が幾分溶融して、第2熱可塑性高分子材料との接合が強くなるからである。
【0068】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な開示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、種々変更して実施することができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明のより具体的かつ非限定的な実施例が説明される。
【0070】
図1~3の基本構造をなすエアレスタイヤ(タイヤサイズ145/70R12に相当するタイヤ)を試作し、耐久性が評価された。実施例のエアレスタイヤの製造方法は、次の通りである。
【0071】
加硫ゴムからなるトレッドリング及びアルミニウム合金からなるハブが準備された。トレッドリングの表面はゴムからなるが、内部には、外側補強コード層及び内側補強コード層が配置されている。詳細は、以下の通りである。
<外側補強コード層>
・プライ数:2枚
・補強コード:スチールコード
・コードの角度:+21度/-21度
<内側補強コード層>
・プライ数:1枚
・補強コード:スチールコード
・コードの角度:0度(螺旋巻き)
トレッドリングは、170℃×20分の条件で加硫された。
【0072】
次に、ハブの外周面に、接着剤(ロード・ファー・イーストコーポレーション社製の商品名「ケムロック」)を塗布し、その後、ハブを第1金型の第1キャビティに配置した。
【0073】
次に、第1金型の第2キャビティにスポーク部を成形するために、約220℃の射出温度で第1熱可塑性高分子材料(熱可塑性ポリウレタン樹脂)を射出した。
【0074】
第1熱可塑性高分子材料の硬化後、第1金型からスポーク複合体を取り出した。スポーク複合体は、スポーク部が自由に収縮できるような自由状態で室温(25℃)まで冷却させた。冷却後、しばらく放置した。放置時間は1時間とされた。
【0075】
次に、トレッドリング部の内周面に接着剤(ロード・ファー・イーストコーポレーション社製の商品名「ケムロック」)を塗布し、第2金型の第3キャビティに配置した。また、スポーク部の収縮を終えたスポーク複合体を第2金型の第4キャビティに配置した。スポーク複合体の外周面とトレッドリングの内周面との間には、厚さ約2mmの隙間(第5キャビティ)がタイヤ周方向に連続するように第2金型が調整された。
【0076】
次に、第2金型の第5キャビティに、第2熱可塑性高分子材料として、第1熱可塑性高分子材料と同じ熱可塑性ポリウレタン樹脂を射出成形し、硬化させることでエアレスタイヤを製造した。
【0077】
また、比較のために、金型に、予め準備されたトレッドリング及びハブを配置し、これらの間に熱可塑性ウレタンを射出成形してスポーク部を一体成形してエアレスタイヤを製造した。
【0078】
そして、実施例及び比較例それぞれについて、10本のエアレスタイヤを製造し、それらについて、耐久試験が行われた。耐久試験は、ドラム試験機を用い、速度60km/hr、荷重2kNの条件にて各タイヤを走行させた。そして、タイヤに損傷が発生するまでの走行時間の平均値(N=10)が測定された。
【0079】
試験の結果は、実施例は、比較例に比べて耐久性能が180%向上していることが確認できた。
【符号の説明】
【0080】
1 エアレスタイヤ
2 トレッドリング
2a 接地面
3 ハブ
4 スポーク部
7 スポーク複合体
8 第1熱可塑性高分子材料
9 第2熱可塑性高分子材料
10 第1金型
20 第1金型のキャビティ
21 第1キャビティ
22 第2キャビティ
30 第2金型
40 第2金型のキャビティ
43 第3キャビティ
44 第4キャビティ
45 第5キャビティ
50 連結部