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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】トランジスタ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20240604BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20240604BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20240604BHJP
   H01L 21/283 20060101ALI20240604BHJP
   H01L 29/423 20060101ALI20240604BHJP
   H01L 29/49 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
H01L29/78 617V
H01L21/28 K
H01L21/28 301B
H01L21/283 C
H01L29/58 G
H01L29/78 617K
H01L29/78 617T
H01L29/78 618B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020176408
(22)【出願日】2020-10-21
(65)【公開番号】P2022067695
(43)【公開日】2022-05-09
【審査請求日】2023-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】三橋 史典
(72)【発明者】
【氏名】舘野 泰範
(72)【発明者】
【氏名】足立 真寛
(72)【発明者】
【氏名】山本 喜之
【審査官】田付 徳雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0056161(US,A1)
【文献】特開2019-021656(JP,A)
【文献】特開2017-152643(JP,A)
【文献】特開2000-150898(JP,A)
【文献】特開2012-001431(JP,A)
【文献】特開2017-195358(JP,A)
【文献】特開平07-283166(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0092054(US,A1)
【文献】特開2004-214627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336
H01L 21/28
H01L 21/283
H01L 29/423
H01L 29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート電極と、ソース電極と、前記ソース電極と離れて配置されるドレイン電極と、を備え、前記ソース電極から前記ドレイン電極へ向かう方向をゲート長方向とするトランジスタであって、
第1面を有する絶縁性のベース部と、
前記第1面上に配置されるグラフェン膜と、
ゲート長方向と垂直なゲート幅方向に延びる帯状の形状を有し、前記第1面と対向する面と反対側の面である前記グラフェン膜の第2面上に配置されるゲート絶縁膜と、を備え、
前記ソース電極は、前記ベース部に搭載され、前記グラフェン膜と接触するように配置され、
前記ドレイン電極は、前記ベース部に搭載され、前記グラフェン膜と接触し、ゲート長方向において前記ゲート絶縁膜を挟んで前記ソース電極と反対側に配置され、
前記ゲート電極は、ゲート幅方向に延びる帯状の形状を有し、第2面と対向する面と反対側の面である前記ゲート絶縁膜の第3面上に配置され、
前記ゲート電極は、
前記ゲート絶縁膜に接触して配置され、アルミニウムおよび酸素から構成される第1層と、
前記第1層上に配置され、ゲート長方向の長さが、前記ゲート絶縁膜のゲート長方向の長さよりも長い第2層と、を含み、
前記ゲート長方向における前記第2層の両端部のうちの前記グラフェン膜と対向する領域は、角部を丸めるように凹んでおり、
ゲート幅方向に垂直であって前記ゲート電極を含む断面において、前記第1層のゲート長方向の端部に含まれる酸素の含有割合は、前記第1層のゲート長方向の中央部に含まれる酸素の含有割合よりも多い、トランジスタ。
【請求項2】
前記第1層の厚さは、1nm以上20nm以下である、請求項1に記載のトランジスタ。
【請求項3】
前記第1層に含まれる酸素の含有割合は、アルミニウム1に対して0以上2以下である、請求項1または請求項2に記載のトランジスタ。
【請求項4】
前記断面において、前記ソース電極および前記ドレイン電極と前記ゲート絶縁膜とのゲート長方向の間隔はそれぞれ、0μm以上1μm以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のトランジスタ。
【請求項5】
前記グラフェン膜の原子層の数は、1以上5以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のトランジスタ。
【請求項6】
前記断面において、前記第2層のゲート長方向の長さは、100nm以上20μm以下である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のトランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トランジスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、炭素原子がsp混成軌道を形成して平面的に結合した物質である。このような炭素原子の結合状態に起因して、グラフェンにおけるキャリア(電子および正孔)の移動度は、極めて高い。グラフェンをトランジスタのチャネルとして有効に利用することができれば、高周波での利用等、トランジスタの性能の向上を図ることができる。
【0003】
SiC(炭化珪素)から構成される基板を加熱して珪素原子を離脱させることで基板の表層部をグラフェンに変換し、このグラフェンをチャネル領域として利用したトランジスタを得る方法が提案されている(たとえば、非特許文献1参照)。非特許文献1に開示されたトランジスタにおいては、グラフェン上に絶縁膜を形成し、その上にT型のゲート電極を形成している。ゲート電極および絶縁膜を挟むようにして、ソース電極およびドレイン電極が形成されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Zelei Guo et al.、“Record Maximum Oscillation Frequency in C-face Epitaxial Graphene Transistors”、Nano Letters 13,3,942(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に開示のトランジスタにおいては、形成したT型のゲート電極および絶縁膜をマスクとしたセルフアラインを利用してソース電極およびドレイン電極を形成している。このような製造方法によると、T型のゲート電極のゲート長方向の両端部と、ソース電極およびドレイン電極との空間的な距離が近くなってしまう。その結果、ソース電極またはドレイン電極とゲート電極とが接触してショートするおそれがある。また、T型のゲート電極のゲート長方向の両端部がゲート電極の自重や製造時における応力によって垂れ下がるおそれがある。このような場合も、ゲート電極がソース電極やドレイン電極と接触してショートしてしまうおそれがある。このように、製造時における電極同士の接触に基づくショート不良が多いと、歩留まりが低くなり、生産効率が低下してしまう。そこで、生産効率の向上を図ることができるトランジスタを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従ったトランジスタは、ゲート電極と、ソース電極と、ソース電極と離れて配置されるドレイン電極と、を備え、ソース電極からドレイン電極へ向かう方向をゲート長方向とする。トランジスタは、第1面を有する絶縁性のベース部と、第1面上に配置されるグラフェン膜と、ゲート長方向と垂直なゲート幅方向に延びる帯状の形状を有し、第1面と対向する面と反対側の面であるグラフェン膜の第2面上に配置されるゲート絶縁膜と、を備える。ソース電極は、ベース部に搭載され、グラフェン膜と接触するように配置される。ドレイン電極は、ベース部に搭載され、グラフェン膜と接触し、ゲート長方向においてゲート絶縁膜を挟んでソース電極と反対側に配置される。ゲート電極は、ゲート幅方向に延びる帯状の形状を有し、第2面と対向する面と反対側の面であるゲート絶縁膜の第3面上に配置される。ゲート電極は、ゲート絶縁膜に接触して配置され、アルミニウムおよび酸素から構成される第1層と、第1層上に配置され、ゲート長方向の長さが、ゲート絶縁膜のゲート長方向の長さよりも長い第2層と、を含む。ゲート幅方向に垂直であってゲート電極を含む断面において、第1層のゲート長方向の端部に含まれる酸素の含有割合は、第1層のゲート長方向の中央部に含まれる酸素の含有割合よりも多い。
【発明の効果】
【0007】
上記トランジスタによれば、生産効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施の形態1におけるトランジスタの構造を示す概略断面図である。
図2図2は、実施の形態1におけるトランジスタの製造方法の代表的な工程を示すフローチャートである。
図3図3は、グラフェン膜が形成されたベース部(基板)の概略断面図である。
図4図4は、グラフェン膜がパターニングされた状態を示す概略断面図である。
図5図5は、絶縁膜を形成した状態を示す概略断面図である。
図6図6は、ゲート電極を形成した状態を示す概略断面図である。
図7図7は、ウェットエッチング終了後の状態を示す概略断面図である。
図8図8は、第1層の有無とトランジスタの歩留まりとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示に係るトランジスタは、ゲート電極と、ソース電極と、ソース電極と離れて配置されるドレイン電極と、を備え、ソース電極からドレイン電極へ向かう方向をゲート長方向とする。トランジスタは、第1面を有する絶縁性のベース部と、第1面上に配置されるグラフェン膜と、ゲート長方向と垂直なゲート幅方向に延びる帯状の形状を有し、第1面と対向する面と反対側の面であるグラフェン膜の第2面上に配置されるゲート絶縁膜と、を備える。ソース電極は、ベース部に搭載され、グラフェン膜と接触するように配置される。ドレイン電極は、ベース部に搭載され、グラフェン膜と接触し、ゲート長方向においてゲート絶縁膜を挟んでソース電極と反対側に配置される。ゲート電極は、ゲート幅方向に延びる帯状の形状を有し、第2面と対向する面と反対側の面であるゲート絶縁膜の第3面上に配置される。ゲート電極は、ゲート絶縁膜に接触して配置され、アルミニウムおよび酸素から構成される第1層と、第1層上に配置され、ゲート長方向の長さが、ゲート絶縁膜のゲート長方向の長さよりも長い第2層と、を含む。ゲート幅方向に垂直であってゲート電極を含む断面において、第1層のゲート長方向の端部に含まれる酸素の含有割合は、第1層のゲート長方向の中央部に含まれる酸素の含有割合よりも多い。
【0010】
本開示のトランジスタは、絶縁性のベース部上に配置されるグラフェン膜を含む。グラフェン膜におけるキャリア(電子および正孔)の移動度は、極めて高い。したがって、トランジスタのチャネル領域としてグラフェン膜を利用することにより、高周波での動作が可能となる。また、本開示のトランジスタによれば、ゲート電極は、ゲート絶縁膜のゲート長方向の長さよりも長い第2層を含む。このような第2層を含むT型のゲート電極は、ゲート絶縁膜のゲート長方向の長さを短くして、ソース電極とドレイン電極との距離を短くすることができる。よって、電極間の抵抗を小さくすることができ、高周波の応答性を高めることができる。
【0011】
本発明者らは、T型のゲート電極を含むトランジスタについて、検討を行った。そして、上記構造を有するトランジスタについて、製造時にゲート電極とソース電極およびドレイン電極のそれぞれとが接触するおそれを回避すべく鋭意検討し、ゲート電極とソース電極およびドレイン電極のそれぞれとの空間的な距離を確保すれば良いと考えた。
【0012】
本開示のトランジスタによれば、ゲート電極は、ゲート絶縁膜の第3面上に配置され、アルミニウムおよび酸素から構成される第1層を含む。第1層のゲート長方向の端部に含まれる酸素の含有割合は、第1層のゲート長方向の中央部に含まれる酸素の含有割合よりも多い。このような構成によると、ゲート絶縁膜上にアルミニウムおよび酸素を含む第1層を形成する際に、アルミニウムおよび酸素を含む第1層において、ゲート長方向の端部が自然酸化し、絶縁性のアルミナ(Al)を形成する。形成されたアルミナは、元となるアルミニウムと比較して、酸素を取り込むことにより3倍程度体積が膨張する。この時、第1層のゲート長方向の端部がゲート電極のうちの第2層のゲート長方向の端部を持ち上げるようにして膨張する。よって、ゲート電極のうちの第2層のゲート長方向の端部を、後にソース電極およびドレイン電極が形成される領域から遠ざけることができる。すなわち、ゲート電極とソース電極およびドレイン電極のそれぞれとの空間的な距離を確実に確保することができる。
【0013】
また、トランジスタの製造時においてゲート絶縁膜にウェットエッチングを実施してソース電極およびドレイン電極が形成される領域を確保する際に、第1層のゲート長方向の端部のアルミナがウェットエッチングによって除去され、アルミニウムが露出する場合がある。このような場合でも、露出したアルミニウムが再度自然酸化され、アルミナが形成される。このようにして、第1層のゲート長方向の端部にアルミナが位置する構造を維持することができる。その結果、ゲート電極と、ソース電極およびドレイン電極との空間的な距離をそれぞれ大きく確保することができ、製造時において、ゲート電極と、ソース電極およびドレイン電極のそれぞれとが接触してショートするおそれを低減することができる。その結果、歩留まりが低くなることを抑制して、トランジスタの生産効率の向上を図ることができる。
【0014】
上記トランジスタにおいて、第1層の厚さは、1nm以上20nm以下であってもよい。このようにすることにより、ゲート電極と、ソース電極およびドレイン電極との空間的な距離をそれぞれ大きく確保しながら、第1層における第2層のゲート長方向の端部の持ち上げを確実にすることができる。
【0015】
上記トランジスタにおいて、第1層に含まれる酸素の含有割合は、アルミニウム1に対して0以上2以下であってもよい。このようにすることにより、より確実に電極同士の接触によるショートのおそれを低減しながら、生産効率の向上を図ることができる。
【0016】
上記トランジスタにおいて、ソース電極およびドレイン電極とゲート絶縁膜とのゲート長方向の間隔はそれぞれ、0μm以上1μm以下であってもよい。このようにすることにより、ソース電極とトレイン電極との距離を短くして、高周波の応答性をより高めることができる。
【0017】
上記トランジスタにおいて、グラフェン膜の原子層の数は、1以上5以下であってもよい。このようにすることにより、キャリアの高い移動度を安定して確保することができるグラフェン膜を備えるトランジスタとすることができる。
【0018】
上記トランジスタにおいて、第2層のゲート長方向は、100nm以上20μm以下であってもよい。このようにすることにより、ゲート抵抗の低下を図りつつ、生産効率の向上を図ることができる。
【0019】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示のトランジスタの一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰り返さない。
【0020】
(実施の形態1)
本開示の実施の形態1に係るトランジスタについて説明する。図1は、実施の形態1におけるトランジスタの構造を示す概略断面図である。図1において、ベース部およびグラフェン膜の厚さ方向は、矢印Tで示す向きまたはその逆の向きで示される。トランジスタのゲート長方向は、後述するソース電極16からドレイン電極17へ向かう方向としている。ゲート長方向は、矢印Wで示す向きまたはその逆の向きで示される。図1は、ゲート長方向に垂直な方向であるゲート幅方向に垂直であってゲート電極を含む断面である。
【0021】
図1を参照して、実施の形態1におけるトランジスタ11は、MOSFET(Metal-oxide-semiconductor Field Effect Transistor)である。トランジスタ11は、絶縁性のベース部12と、グラフェン膜13と、ゲート絶縁膜14と、ゲート電極15と、ソース電極16と、ドレイン電極17と、を含む。
【0022】
ベース部12は、炭化珪素(SiC)から構成されている。炭化珪素は、六方晶SiCであって、たとえば6H構造を有する。なお、ベース部12は、六方晶であって4H構造を有してもよい。ベース部12は、ベース部12の厚さ方向の一方に位置する第1面12aを有する。
【0023】
グラフェン膜13は、ベース部12の第1面12a上に配置される。グラフェン膜13は、ベース部12上の所定の箇所に配置されている。グラフェン膜13は、厚さ方向における一方の主面13bが第1面12aと対向して配置される。グラフェン膜13は、厚さ方向において主面13bと反対側に位置する他方の主面である第2面13aを有する。グラフェン膜13の原子層の数は、1以上5以下である。このようにすることにより、キャリアの高い移動度を安定して確保することができるグラフェン膜13を備えるトランジスタ11とすることができる。
【0024】
ゲート絶縁膜14は、第1面12aと対向する面と反対側の面であるグラフェン膜13の第2面13a上に配置される。ゲート絶縁膜14は、一方の主面14bが第2面13aと対向して配置される。ゲート絶縁膜14は、ゲート長方向と垂直なゲート幅方向に延びる帯状の形状を有する。トランジスタ11のゲート幅方向は、T-W平面に垂直な方向である。ゲート絶縁膜14は、ベース部12の厚さ方向において主面14bと反対側に位置する他方の主面である第3面14aを有する。ゲート絶縁膜14は、たとえばアルミナ(Al)から構成されている。ゲート絶縁膜14は、たとえばALD(Atomic Layer Deposition)により成膜されている。ゲート絶縁膜14の厚さDとしては、たとえば30nmが選択される。ゲート絶縁膜14のゲート長方向の長さLは、後述するゲート電極15の第1層21のゲート長方向の長さと同じであり、第2層22のゲート長方向の長さLよりも小さい。
【0025】
ゲート電極15は、第2面13aと対向する面と反対側の面であるゲート絶縁膜14の第3面14a上に配置される。ゲート電極15は、ゲート長方向と垂直なゲート幅方向に延びる帯状の形状を有する。ゲート電極15の構成については、後に詳述する。
【0026】
ソース電極16は、ベース部12に搭載されている。具体的には、ソース電極16は、第1面12aおよび第2面13a上に配置されている。ソース電極16は、グラフェン膜13と接触するように配置されている。本実施形態においては、ソース電極16は、ゲート長方向において、ゲート絶縁膜14と間隔をあけて配置されている。すなわち、ゲート長方向において、ソース電極16とゲート絶縁膜14との間に、空隙18aを有する。ソース電極16とゲート絶縁膜14のゲート長方向の間隔Lは、1μm以下である。ソース電極16は、グラフェン膜13とオーミック接触が可能な導電体、たとえばニッケル(Ni)/金(Au)から構成されている。ソース電極16は、蒸着法により形成されている。具体的には、ニッケルの厚さが10nmとなり、金の厚さが15nmとなるように各元素が蒸着され、成膜されている。
【0027】
ドレイン電極17は、ベース部12に搭載されている。具体的には、ドレイン電極17は、第1面12aおよび第2面13a上に配置されている。ドレイン電極17は、グラフェン膜13と接触するように配置されている。本実施形態においては、ドレイン電極17は、ゲート長方向において、ゲート絶縁膜14と間隔をあけて配置されている。すなわち、ゲート長方向において、ドレイン電極17とゲート絶縁膜14との間に、空隙18bを有する。ドレイン電極17とゲート絶縁膜14のゲート長方向の間隔Lは、1μm以下である。ドレイン電極17は、ソース電極16と離れて配置されている。具体的には、図1に示す断面において、ドレイン電極17は、ゲート絶縁膜14を挟んでソース電極16と反対側に配置される。ドレイン電極17は、グラフェン膜13とオーミック接触が可能な導電体、たとえばニッケル(Ni)/金(Au)から構成されている。ソース電極16は、蒸着法により形成されている。具体的には、ニッケルの厚さが10nmとなり、金の厚さが15nmとなるように各元素が蒸着され、成膜されている。
【0028】
次に、ゲート電極15の構成について説明する。ゲート電極15は、第1層21と、第2層22と、を含む。第1層21は、ゲート絶縁膜14に接触して配置される。第1層21は、一方の主面21bが第3面14aと対向して配置される。第1層21は、ベース部12の厚さ方向において主面21bと反対側に位置する他方の主面である第4面21aを有する。第1層21は、アルミニウム(Al)および酸素(O)から構成される。第1層21は、蒸着法により形成されている。具体的には、アルミニウムの厚さDが3nmとなるように第3面14a上にアルミニウムが蒸着され、成膜されている。図1に示す断面において、第1層21のゲート長方向の両端部23a,23bに含まれる酸素の含有割合は、第1層21のゲート長方向の中央部24に含まれる酸素の含有割合よりも多い。また、第1層21に含まれる酸素の含有割合は、アルミニウム1に対して0以上2以下である。具体的には、中央部24は、アルミニウムから構成されている。両端部27a,27bは、アルミナから構成されている。両端部27a,27bを構成するアルミナは、第3面14a上に蒸着したアルミニウムの酸化により形成される。酸化は、たとえば大気雰囲気中に露出することによる自然酸化であってもよい。
【0029】
第2層22は、第4面21a上に配置される。第2層は、一方の主面22bが第4面21aと対向して配置される。第2層22は、導電体、たとえばニッケル(Ni)/金(Au)から構成されている。第2層22は、蒸着法により形成されている。具体的には、ニッケルの厚さが25nmとなり、金の厚さが150nmとなるように各元素が蒸着され、成膜されている。また、図1に示す断面において、第2層22のゲート長方向の長さLは、ゲート絶縁膜14のゲート長方向の長さLよりも大きい。上記トランジスタ11は、T型のゲート構造を有する。
【0030】
上記トランジスタ11において、ゲート電極15に印加される電圧が閾値電圧未満の状態、すなわち、トランジスタ11がオフの状態では、ソース電極16とドレイン電極17との間(チャネル領域)に位置するグラフェン膜13にはキャリアとなる電子が十分に存在しない。よって、ソース電極16とドレイン電極17との間に電圧が印加されても、非導通の状態が維持される。一方、ゲート電極15に印加される電圧が閾値電圧以上の状態、すなわち、トランジスタ11がオンの状態となると、チャネル領域にキャリアとなる電子が生成する。よって、キャリアとなる電子が生成したチャネル領域によってソース電極16とドレイン電極17とが電気的に接続された状態となる。このような状態でソース電極16とドレイン電極17との間に電圧が印加されると、ソース電極16とドレイン電極17との間に電流が流れる。
【0031】
次に、実施の形態1におけるトランジスタ11の製造方法について、簡単に説明する。図2は、実施の形態1におけるトランジスタ11の製造方法の代表的な工程を示すフローチャートである。
【0032】
図2を参照して、実施の形態におけるトランジスタ11の製造方法では、まず工程(S10)として、ベース部12を準備する基板準備工程が実施される。ベース部12として、たとえば基板が用いられる。この工程(S10)では、たとえば直径2インチ(50.8mm)の6H-SiCから構成される基板が準備される。具体的には、たとえばSiCから構成されるインゴットをスライスすることにより、SiCから構成される基板が得られる。基板の表面が研磨された後、洗浄等のプロセスを経て、主面の平坦性および清浄性が確保される。
【0033】
次に、工程(S20)としてグラフェン膜形成工程が実施される。図3は、グラフェン膜が形成されたベース部12(基板)の概略断面図である。この工程(S20)は、たとえばチャンバーを含む加熱装置(図示せず)を用いて実施することができる。加熱装置に含まれるチャンバー内にベース部12を配置し、チャンバー内の雰囲気を不活性ガスに置換した後、チャンバー内を減圧下で昇温する。そして、チャンバー内のベース部12をたとえば1700℃程度に加熱して10分間維持する。そうすると、ベース部12の第1面12a側から珪素原子が離脱し、第1面12aを含むベース部12の表層部がグラフェン膜13に変換される。このようにして、第2面13aを有するグラフェン膜13が形成される。
【0034】
次に、工程(S30)としてグラフェン膜パターニング工程が実施される。図4は、グラフェン膜13がパターニングされた状態を示す概略断面図である。図4を参照して、この工程(S30)は、たとえばグラフェン膜13を所定の構造にパターニングすることにより実施することができる。具体的には、たとえば残すべきグラフェン膜13上にマスクを形成し、露出したグラフェン膜13をドライエッチングにより除去した後、マスクを除去することにより実施することができる。第1面12a上に残ったグラフェン膜13が、後にトランジスタ11のチャネル領域を構成する。
【0035】
次に、工程(S40)として絶縁膜形成工程が実施される。図5は、絶縁膜を形成した状態を示す概略断面図である。図5を参照して、この工程(S40)は、たとえば、パターニングされたグラフェン膜13の第2面13aを含む第1面12a側のベース部12の全面を覆うように絶縁膜19を成膜することにより実施される。成膜方法は、たとえばALDを用いることができる。絶縁膜19としては、たとえばアルミナ(Al)が用いられる。
【0036】
次に、工程(S50)としてゲート電極形成工程が実施される。ゲート電極15は、ゲート電極15を配置する領域以外の領域にマスクを形成し、ゲート電極15を構成する各元素を蒸着させながら実施する。
【0037】
ここではまず、ゲート電極15の形成に関し、第1層21を形成する。第1層21の形成に関しては、マスクを施した絶縁膜19に対し、マスクの開口部分にアルミニウムを蒸着させる。この場合、たとえば3nmの厚さとなるようにアルミニウムを蒸着させる。その後、第2層22を形成する。具体的には、たとえば厚さ25nmとなるようにニッケルを蒸着させ、その後、たとえば厚さ150nmとなるように金を蒸着させる。その後、マスクを除去する。
【0038】
図6は、ゲート電極15を形成した状態を示す概略断面図である。図6を参照して、マスクを除去した後においては、破線で示す第1層21のゲート長方向の両端部を含む領域26a,26bは、大気に曝される。そうすると、両端部27a,27bのアルミニウムが自然酸化し、アルミナを形成する。この時、第1層21のゲート長方向の両端部27a,27bがゲート電極15のうちの第2層22のゲート長方向の端部28a,28bをそれぞれ持ち上げるようにして膨張する。なお、第1層21において、両端部27a,27bの酸素の含有割合は、中央部29の酸素の含有割合よりも多くなる。このようにして、ゲート電極15のうちの第2層22のゲート長方向の両端部28a,28bを、後にソース電極16およびドレイン電極17が形成される領域から遠ざけることができる。
【0039】
次に、工程(S60)として絶縁膜除去工程が実施される。この工程は、形成したゲート電極15をマスクとしたウェットエッチングにより実施することができる。弱アルカリ性の溶液を用いてウェットエッチングを実施すると、マスク(ゲート電極15)によって覆われていない部分の絶縁膜19が除去される。この時、ゲート電極15の下部に配置される絶縁膜19においても、ゲート長方向に若干エッチングされる。すなわち、第1層21のゲート長方向の長さが短くなるようにエッチングされる。エッチングにより第1層21のゲート長方向の両端部27a,27bのアルミナが除去される場合がある。
【0040】
図7は、ウェットエッチング終了後の状態を示す概略断面図である。図7を参照して、ウェットエッチングにより、ゲート電極15が配置された領域以外の絶縁膜19が除去される。また、第1層21のゲート長方向においてもエッチングが進行し、両端部27a,27bのアルミナもエッチングにより除去される。そうすると、再び中央部29のアルミニウムのうちのゲート長方向の両端の領域が、再び大気に曝されることになる。そうすると、図7に示すように、第1層21のゲート長方向の両端部23a,23bに、再び自然酸化によりアルミナが形成される。
【0041】
次に、工程(S70)としてオーミック電極形成工程が実施される。この工程(S70)では、オーミック電極、本実施形態においては、ソース電極16およびドレイン電極17が形成される。この場合、具体的には、たとえば厚さが10nmとなるようにニッケルを蒸着させ、その後、たとえば厚さが15nmとなるように金を蒸着させる。このようにして、図1に示す実施の形態1におけるトランジスタ11が製造される。
【0042】
上記トランジスタ11によると、絶縁性のベース部12上に配置されるグラフェン膜13を含む。グラフェン膜13におけるキャリア(電子および正孔)の移動度は、極めて高い。したがって、トランジスタ11のチャネル領域としてグラフェン膜13を利用することにより、高周波での動作が可能となる。また、上記トランジスタ11によれば、ゲート電極15は、ゲート絶縁膜14のゲート長方向の長さよりも長い第2層を含む。このような第2層22を含むT型のゲート電極15は、ゲート絶縁膜14のゲート長方向の長さを短くして、ソース電極16とドレイン電極17との距離を短くすることができる。よって、電極間の抵抗を小さくすることができ、高周波の応答性を高めることができる。
【0043】
また、上記トランジスタ11によると、ゲート電極15は、ゲート絶縁膜14の第3面14a上に配置され、アルミニウムおよび酸素から構成される第1層21を含む。第1層21のゲート長方向の端部23a,23bに含まれる酸素の含有割合は、第1層21のゲート長方向の中央部24に含まれる酸素の含有割合よりも多い。このような構成によると、ゲート絶縁膜14上にアルミニウムおよび酸素を含む第1層21を形成する際に、アルミニウムおよび酸素を含む第1層21において、ゲート長方向の両端部27a,27bが自然酸化し、絶縁性のアルミナ(Al)を形成する。この時、第1層21のゲート長方向の両端部27a,27bがゲート電極15のうちの第2層22のゲート長方向の両端部28a,28bを持ち上げるようにして膨張する。よって、ゲート電極15のうちの第2層22のゲート長方向の両端部28a,28bを、後にソース電極16およびドレイン電極17が形成される領域から遠ざけることができる。すなわち、ゲート電極15とソース電極16およびドレイン電極17のそれぞれとの空間的な距離を確実に確保することができる。
【0044】
また、上記トランジスタ11の製造時においてゲート絶縁膜14にウェットエッチングを実施してソース電極16およびドレイン電極17が形成される領域を確保する際に、第1層21のゲート長方向の両端部28a,28bのアルミナがウェットエッチングによって除去され、アルミニウムが露出する場合がある。このような場合でも、露出したアルミニウムが再度自然酸化され、アルミナが形成される。このようにして、第1層21のゲート長方向の両端部23a,23bにアルミナが位置する構造を維持することができる。その結果、ゲート電極15と、ソース電極16およびドレイン電極17との空間的な距離をそれぞれ大きく確保することができ、製造時において、ゲート電極15と、ソース電極16およびドレイン電極17のそれぞれとが接触してショートするおそれを低減することができる。その結果、歩留まりが低くなることを抑制して、トランジスタ11の生産効率の向上を図ることができる。
【0045】
本実施形態においては、第1層21の厚さは、3nmであり、1nm以上20nm以下である。このようなトランジスタ11は、ゲート電極15と、ソース電極16およびドレイン電極17との空間的な距離をそれぞれ大きく確保しながら、第1層21における第2層22のゲート長方向の両端部28a,28bの持ち上げを確実にすることができるトランジスタとなっている。さらに好ましくは、第1層21の厚さは、1nm以上5nm以下とするのがよい。
【0046】
本実施形態において、第1層に含まれる酸素の含有割合は、アルミニウム1に対して0以上2以下である。このようなトランジスタ11は、より確実に電極同士の接触によるショートのおそれを低減しながら、生産効率の向上を図ることができるトランジスタとなっている。
【0047】
本実施形態において、ソース電極およびドレイン電極とゲート絶縁膜とのゲート長方向の間隔はそれぞれ、1μm以下である。このようなトランジスタ11は、ソース電極16とドレイン電極17との距離を短くして、高周波の応答性をより高めることができるトランジスタとなっている。
【0048】
本実施形態において、第2層22のゲート長方向の長さは、100nm以上20μm以下である。このようなトランジスタ11は、ゲート抵抗の低下を図りつつ、生産効率の向上を図ることができるトランジスタとなっている。さらに好ましくは、第2層22のゲート長方向の長さは、100nm以上5μm以下とするのがよい。
【0049】
図8は、第1層21の有無とトランジスタの歩留まりとの関係を示すグラフである。図8において、縦軸は歩留まり(%)を示し、横軸は、第1層の有無を示す。図8を参照して、第1層21を含まないトランジスタの場合、歩留まりは非常に低く、10%程度である。これに対し、第1層21を含む実施の形態1におけるトランジスタ11の場合、歩留まりは、58%となり、非常に高い歩留まりとなっていることが把握できる。
【0050】
(他の実施の形態)
なお、上記の実施の形態においては、ゲート長方向においてソース電極16およびドレイン電極17のそれぞれとゲート絶縁膜14との間に空隙18a,18bを有することとしたが、これに限らず、ソース電極16とドレイン電極17のそれぞれとゲート絶縁膜14との間に空隙18a,18bを有しない構成としてもよい。すなわち、ゲート長方向においてソース電極16およびドレイン電極17のそれぞれとゲート絶縁膜14とが接触していてもよい。具体的には、ソース電極16およびドレイン電極17とゲート絶縁膜14とのゲート長方向の間隔はそれぞれ、0μm以上1μm以下であってもよい。このようにすることにより、ソース電極16とドレイン電極17との距離を短くして、高周波の応答性をより高めることができる。さらに好ましくは、ソース電極16およびドレイン電極17とゲート絶縁膜14とのゲート長方向の間隔はそれぞれ、0μm以上0.5μm以下とするのがよい。
【0051】
また、上記の実施の形態においては、絶縁膜19としてアルミナを用いることとしたが、これに限らず、他の材質の絶縁膜を用いてもよい。ゲート電極15等、電極を構成する材質についても、他の材料を用いることにしてもよい。
【0052】
なお、上記の実施の形態においては、トランジスタは、MOSFETである場合について説明したが、これに限らず、本開示のトランジスタは、たとえばMESFET(Metal-semiconductor Field Effect Transistor)であってもよいし、MISFET(Mrtal-insulator-semiconductor Field Effect Transistor)であってもよい。
【0053】
また、上記の実施の形態においては、ベース部としての基板の材質として炭化珪素を用いることとしたが、これに限らず、基板の材質は、たとえばサファイアであってもよいし、シリコン単体であってもよい。すなわち、基板としてサファイア基板やシリコン基板を用いることにしてもよい。
【0054】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本開示のトランジスタは、生産効率の向上が求められる場合に特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0056】
11 トランジスタ
12 ベース部
12a 第1面
13b,14b,21b,22b 主面
13 グラフェン膜
13a 第2面
14 絶縁膜
14a 第3面
15 ゲート電極
16 ソース電極
17 ドレイン電極
18a,18b 空隙
19 絶縁膜
21 第1層
21a 第4面
22 第2層
23a,23b,27a,27b,28a,28b 端部
24,29 中央部
26a,26b 領域
T,W 矢印
,L 長さ
,L 間隔
,D 厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8