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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】時計部品の製造方法、及び時計部品
(51)【国際特許分類】
   G04B 19/06 20060101AFI20240604BHJP
   G04B 37/22 20060101ALI20240604BHJP
   G04B 19/04 20060101ALI20240604BHJP
   G04B 3/04 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
G04B19/06 G
G04B37/22 Z
G04B19/04 C
G04B3/04 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020181709
(22)【出願日】2020-10-29
(65)【公開番号】P2022072339
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】上原 航
(72)【発明者】
【氏名】由永 あい
【審査官】藤澤 和浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-183961(JP,A)
【文献】特開2020-49511(JP,A)
【文献】特開2015-20195(JP,A)
【文献】特開2020-147849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー照射部と金属製の基材とを相対移動させながらレーザーを照射することで前記基
材に装飾を施す、時計部品の製造方法であって、
前記基材に対して前記レーザーを照射して、前記基材に凹部を形成する第1工程と、
前記凹部が形成された前記基材に対して、前記第1工程の照射強度よりも弱い照射強度で
、前記レーザーを照射して、前記基材をクリーニングする第2工程と、
前記クリーニング後の前記基材に表面処理を行う第3工程と、
を含むこと、を特徴とする時計部品の製造方法であって、
前記第2工程では、
前記凹部に連続する前記基材の表面を含む領域に前記レーザーを照射する場合、および、
前記凹部に連続する前記基材の表面を含む領域および前記凹部を含む領域に前記レーザー
を照射する場合があり、
前者の場合の前記レーザーの照射強度は、後者の場合の前記レーザーの照射強度よりも弱
いこと、
を特徴とする時計部品の製造方法。
【請求項2】
前記レーザーは、パルスレーザーであり、 前記照射強度は、パルスの出力、パルスの繰
返し周波数、前記相対移動の移動速度、前 記レーザー照射部と前記基材との距離、のう
ちの少なくとも1つによって変更すること、
を特徴とする請求項1に記載の時計部品の製造方法。
【請求項3】
前記基材は、真鍮、純鉄、ステンレス鋼、洋白、チタン、及びタングステンのいずれか
の純金属、又はいずれかの金属を含む合金であること、
を特徴とする請求項1に記載の時計部品の製造方法。
【請求項4】
前記表面処理は、メッキ、蒸着、スパッタ、のうちのいずれかで被膜を形成すること、
を特徴とする請求項1に記載の時計部品の製造方法。
【請求項5】
前記凹部における酸化膜の厚さは、前記基材の表面における酸化膜の厚さよりも厚いこと

を特徴とする請求項1に記載の時計部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計部品の製造方法、及び時計部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、文字板などの時計部品にロゴや紋様などの装飾を施した時計が知られていた。特許文献1には、時計部品の装飾をすべき基材表面を、フェムト秒レーザーを用いて深堀りする、時計部品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-183961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーザーを用いた深掘りは、レーザー光を吸収した基材表面が瞬時に溶融し、蒸発、飛散することで行われる加工である。しかしながら、特許文献1に記載の時計部品の製造方法は、基材表面から飛散した物質がデブリと呼ばれる微粒子となって加工部の周辺に再付着するので、時計部品及びそれを使用した時計のデザイン品質が低下する恐れがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
時計部品の製造方法は、レーザー照射部と金属製の基材とを相対移動させながらレーザーを照射することで前記基材に装飾を施す、時計部品の製造方法であって、前記基材に対して前記レーザーを照射して、前記基材に凹部を形成する第1工程と、前記凹部が形成された前記基材に対して、前記第1工程の照射強度よりも弱い照射強度で、前記レーザーを照射して、前記基材をクリーニングする第2工程と、前記クリーニング後の前記基材に表面処理を行う第3工程と、を含む。
【0006】
時計部品は、レーザー照射部と金属製の基材とを相対移動させながらレーザーを照射させることで前記基材に装飾を施した時計部品であって、前記基材と、前記基材に対して前記レーザーを照射することで形成された凹部と、前記凹部が形成された前記基材に対して、前記凹部を形成させた照射強度よりも弱い照射強度で、前記レーザーを照射することでクリーニングした前記基材に施された表面処理層と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態1に係る時計部品としての文字板を備える時計の概略構成を示す平面図。
図2】文字板の装飾部を示す平面図。
図3図2におけるA-A線での断面図。
図4】レーザー照射装置を説明する図。
図5】文字板の製造方法を説明するフローチャート。
図6】文字板の製造過程を示す平面図。
図7A】文字板の製造過程を示す断面図。
図7B】文字板の製造過程を示す断面図。
図7C】文字板の製造過程を示す断面図。
図8A】基材のX線スペクトルを示す図。
図8B】基材のX線スペクトルを示す図。
図9】実施形態2に係わる時計部品としての文字板の断面図。
図10】文字板の製造過程を示す断面図。
図11A】文字板の製造過程における画像。
図11B】文字板の製造過程における画像。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.実施形態1
1-1.時計、及び時計部品の構成
実施形態1に係る時計部品としての文字板を備えた時計の概略構成について図を参照して説明する。本実施形態の時計は、3針式のアナログ式の腕時計であり、カレンダー機能を備えている。
【0009】
図1に示すように、時計1は、外装ケース30、カバーガラス40、文字板10、秒針21、分針22、時針23、リュウズ50などを備えている。
外装ケース30は、円筒状のステンレスやチタンなどの硬質金属で形成されている。円筒状の外装ケース30の一方の開口はカバーガラス40で覆われ、他方の開口は裏蓋で塞がれている。時計1のカバーガラス40側は表面側であり、裏蓋側は裏面側である。
【0010】
外装ケース30の内周には、円盤状の文字板10が備えられている。文字板10の表面側の外周部には、円周を12分割する時刻目盛りとなる棒状のバーインデックス24が設けられる。12時方向には、デザインの異なるバーインデックス24aが配置される。文字板10の3時方向の位置には、日付や曜日が表示されるカレンダー窓25が設けられている。また、文字板10の12時方向の位置には、ロゴの装飾60が施されている。ロゴとは、ブランド名や社名などが図案化、装飾化された文字であるロゴタイプや、ロゴタイプとシンボルマークとを組み合わせたロゴマークなどである。
【0011】
文字板10とカバーガラス40との間には、時刻を指し示す秒針21、分針22、時針23の3つの指針が設けられている。文字板10と裏蓋との間には、指針を駆動するためのムーブメントが収納されている。文字板10の中央には、文字板10を貫通する指針軸が設けられている。秒針21,分針22,時針23は、ムーブメントの駆動力により回転駆動する指針軸の先端に接続されている。文字板10、秒針21、分針22、時針23、カレンダー窓25などは、カバーガラス40を透して、視認される。
【0012】
外装ケース30の外側面における3時方向の位置には、リュウズ50が備えられている。リュウズ50を回動させることにより、現在時刻の修正やカレンダー表示の修正などが可能に設けられている。
【0013】
図2及び図3に示すように、装飾60は、例えば「S」の文字60aを含んでいる。文字板10は、金属製の基材11、凹部12、表面処理層としての被膜13を有している。
【0014】
凹部12は、レーザー照射装置80によるレーザー加工により形成する。図4に示すように、レーザー照射装置80はレーザー照射部84を備える。レーザー照射装置80は基材11とレーザー照射部84とを相対移動させる機構を備える。例えば、レーザー照射装置80は、レーザー照射部84と基材11とを文字60aの外形に沿って相対移動させながら、基材11の表面11aにレーザー85を照射する。レーザー照射部84は、レーザー発光部84a及び集光光学系84bを備える。集光光学系84bは、レーザー85を集光部85aに集光する。集光部85aは、集光光学系84bの光軸84c上に形成される。集光部85aではレーザー85のエネルギーが大きいので、レーザー85の光を吸収した基材11の表面11aが瞬時に溶融し、蒸発、飛散する。これにより凹部12を形成することができる。
【0015】
レーザー発光部84aから出力されるレーザー85は、フェムト秒レーザーであることが好ましい。1フェムト秒は10-15秒である。フェムト秒レーザーは、持続時間が数フェムト秒から数百フェムト秒程度の超短パルスを生成するパルスレーザーである。これにより、凹部12周辺への熱影響が少なく熱損傷の少ない加工を行うことができる。本実施形態の装飾60は、基材11に形成された凹部12に囲われた領域が、文字60aとして視認される。
【0016】
被膜13は、基材11の表面処理により施された金属膜である。本実施形態の文字板10は、基材11の表面11aと凹部12とに被膜13が形成されている。
【0017】
1-2.時計部品の製造方法
時計部品としての文字板10の製造方法について図5図6、及び図7A図7Cを参照して説明する。本実施形態の製造方法では、ロゴの装飾60が形成される。
【0018】
ステップS101は、基材11を準備する基材準備工程である。図6に示す基材11は、文字板10の基材となる金属製の平板である。初期状態では、図6に示すように、基材11は略正方形をなしており、その中央が円形の文字板10の形成エリアとなっている。好適例において、基材11は、約40mm角の正方形で、厚さ約0.3mmの真鍮製の板材を用いている。文字板10の直径は、約33mmである。基材11の材料としては、真鍮、純鉄、ステンレス鋼、洋伯、チタン、及びタングステンのいずれかの純金属、又はいずれかの金属を含む合金を使用することができる。金属材料は、酸化することにより、その表面に自然酸化膜が形成される。図7Aに示すように、金属製の基材11の表面11aには、厚さ10nm程度の極薄い自然酸化膜である表面酸化膜15が生成されている。
【0019】
初期状態の基材11には、その対角線上に2つの基準穴19が設けられている。製造工程において、基材11は、基準穴19に対応する基準ピンが設けられた治具に、10枚から20枚単位でセットされ、位置決めされた状態で各工程において加工される。なお、製造工程においては、基材11は1枚ずつ流動、加工することとしてもよい。
【0020】
ステップS102は、基材11に対してレーザー85を照射して、基材11に凹部12を形成する第1工程である。レーザー85は、レーザー照射装置80のレーザー照射部84を、図7Aに示す基材11の表面11aに対して移動させながら、基材11の表面11aに照射される。基材11に照射するレーザー85の照射強度は、パルスの出力、パルスの繰返し周波数、基材11とレーザー照射部84とを相対移動させる移動速度、レーザー照射部84と基材11との距離のうちの少なくとも1つによって変更することができる。第1工程では、パルスの出力64%、パルスの繰返し周波数505kHz、移動速度1000mm/sの照射強度でレーザー85を照射した。これにより、図7Bに示すような深さ約4μmの溝状の凹部12が形成される。なお、パルスの出力は、レーザー照射装置80の最大出力に対する出力を%で示している。使用したレーザー照射装置80は、GFマシニングソリューションズ株式会社 AGIECHARMILLES LASER P400である。
【0021】
図7Bに示すように、レーザー85の照射により、溶融した基材11の物質は、飛散して微粒子となって、凹部12に連続する基材11の表面11aに付着する。基材11の表面11aに付着した微粒子は、デブリ16と呼ばれる。凹部12に連続する基材11の表面11aとは、凹部12の側壁12aと基材11の表面11aとが交わる凹部12の縁から遠ざかる方向に連続する基材11の表面11aを意味する。基材11の表面11aに付着するデブリ16の量は、凹部12の縁から基材11の表面11aに沿って、遠ざかるにしたがって漸減する。
【0022】
レーザー照射された部位には、凹部12が形成されるとともに、基材11の材料である金属材料が露出するので、その表面には新たな自然酸化膜が生成される。自然酸化膜は、温度に比例して成長速度が速くなる。図7Bに示すように、凹部12が形成された直後の凹部の表面は、レーザー照射により温度が高い状態にあるため、凹部12には、レーザー照射されていない基材11の表面11aに存在する表面酸化膜15よりも厚い自然酸化膜である凹部酸化膜15aが形成される。
【0023】
ステップS103は、凹部12が形成された基材11に対してレーザー85を照射して、基材11をクリーニングする第2工程である。実施形態1における第2工程では、基材11の表面11aに付着したデブリ16と、基材11の表面11aの表面酸化膜15及び凹部12に生成された凹部酸化膜15aと、を同時に除去するクリーニングを行う。デブリ16及び表面酸化膜15、凹部酸化膜15aを除去する場合は、凹部12の領域CAとデブリ16が付着した凹部12に連続する基材11の表面11aの領域DAとを含む、基材11の全面にレーザー85を照射する。レーザー85は、凹部12を形成したときに照射したレーザー85の照射強度より弱い照射強度で基材11に照射される。第2工程では、パルスの出力34%、パルスの繰返し周波数505kHz、移動速度1300mm/sの照射強度でレーザー85を照射した。
【0024】
図8A及び図8Bは、エネルギー分散型X線(EDX)分析装置を用いて、基材11を定性分析した結果である。図8Aは、図7Bに示す基材11の表面11aのX線スペクトルである。図8Bは、図7Cに示す基材11の表面11aのX線スペクトルである。特性X線は幅の狭いピークとして表示され、その中心のエネルギーを知ることで元素を知ることが出来る。図8A及び図8Bに示す矢印は、酸素元素のピークを表す。図8Bに示すように、基材11の表面11aをレーザー照射によりクリーニングすることにより、酸素元素のピークが小さくなり、その濃度は、10.4%から3.4%に減少した。第2工程において、基材11に照射するレーザー85の照射強度を調整することにより、表面酸化膜15及び凹部酸化膜15aは、基材11の厚さ方向に一部、又は全部を除去することが可能となる。表面酸化膜15の上に付着したデブリ16は、表面酸化膜15と共に除去される。これにより、図7Cに示すように、基材11に生成された表面酸化膜15及び凹部酸化膜15aと、表面酸化膜15の上に付着したデブリ16とを除去することができる。
【0025】
ステップS104は、クリーニング後の基材11に表面処理を行う第3工程である。第3工程では、凹部12が形成された基材11に対する表面処理として被膜13を形成する。例えば、表面処理は、電解や無電解のメッキによって行われ、基材11の表面11a及び凹部12が所定の厚さの金属膜で覆われる。被膜13の材料としては、金、銀、銅、クロム、ニッケルなどが採用される。被膜13は、メッキの他、蒸着、スパッタのうちのいずれかで形成することができる。これにより、図3に示した断面形状を有する文字板10が完成する。なお、被膜13は、複数の材料が積層された積層膜であってもよい。また、被膜13は、金属以外の樹脂や漆を基材11にパターン形成したものであってもよい。なお、第2工程を実施せずに第3工程を行った場合には、デブリの影響によりメッキ面の光沢感が損なわれ、曇ったような風合いとなってしまう。
【0026】
第1工程から第3工程により形成された装飾60を有する正方形の基材11から円形の文字板10を切り出すことにより本フローは終了する。
【0027】
以上述べたように、実施形態1に係る時計部品の製造方法、及び時計部品によれば、以下の効果を得ることができる。
【0028】
時計部品の製造方法は、基材11に対してレーザー85を照射して、基材11に凹部12を形成する第1工程と、凹部12が形成された基材11に対して、第1工程の照射強度よりも弱い照射強度で、レーザー85を照射して、基材11をクリーニングする第2工程と、クリーニング後の基材11に表面処理を行う第3工程と、を含んでいる。
凹部12を形成させる第1工程でのレーザー照射では、凹部12の周辺にデブリ16が付着する。本実施形態の製造方法は、第1工程の照射強度よりも弱い照射強度のレーザー照射により、基材11をクリーニングする第2工程を有しているので、基材11にダメージを与えることなくデブリ16を除去することができる。これにより、第3工程で外観の良好な被膜13が形成される。したがって、デザイン品質を向上させた時計部品、及び時計のデザイン品質を向上させる時計部品の製造方法を提供することができる。
【0029】
第2工程では、凹部12の領域CAとデブリ16が付着した凹部12に連続する基材11の表面11aの領域DAとを含む領域にレーザー85を照射する。
第1工程で形成した凹部12には、凹部酸化膜15aが生成される。第2工程で、凹部12と、凹部12に連続する基材11の表面11aと、にレーザー85を照射することで、表面酸化膜15及び凹部酸化膜15aとデブリ16とを同時に除去することが可能になる。
【0030】
基材11に照射するレーザー85は、パルスレーザーである。照射強度は、パルスの出力、パルスの繰返し周波数、相対移動の移動速度、レーザー照射部84と基材11との距離、のうちの少なくとも1つによって変更することが可能である。これにより、基材11に照射するレーザー85の照射強度を好適に変更することができる。
【0031】
基材11は、真鍮、純鉄、ステンレス鋼、洋白、チタン、及びタングステンのいずれかの純金属、又はいずれかの金属を含む合金であるので、レーザー85によって、好適に装飾60を施すことができる。
【0032】
被膜13は、メッキ、蒸着、スパッタ、のうちのいずれかで形成するので、基材11に被膜13を容易に形成することができる。
【0033】
時計部品は、基材11と、基材11に対してレーザー85を照射することで形成された凹部12と、凹部12が形成された基材11に対して、凹部12を形成させた照射強度よりも弱い照射強度で、レーザー85を照射することでクリーニングした基材11に形成された被膜13と、を有する。
凹部12を形成させるレーザー照射では、凹部12の周辺にデブリ16が付着する。デブリ16が付着した基材11は、凹部12を形成させた照射強度よりも弱い照射強度のレーザー照射によりクリーニングされるので、基材11にダメージを与えることなくデブリ16が除去される。これにより、被膜13は、良好な外観を有している。したがって、デザイン品質を向上させた時計部品、及び時計のデザイン品質を向上させる時計部品を提供することができる。
【0034】
2.実施形態2
実施形態2に係る時計部品としての文字板の構成、及び時計部品の製造方法について説明する。なお、本実施形態の時計部品の製造方法を説明するフローチャートは、実施形態1と同じであるので、その図示は省略する。また、本実施形態で実施するステップS101,S102は、実施形態1と同じであるので、その説明は省略する。本実施形態の製造方法は、ステップS103において基材11にレーザー85を照射する領域、及びステップS104において被膜13を形成する領域が実施形態1と異なる。
【0035】
図9に示すように文字板110は、金属製の基材11、凹部12、被膜13を有している。基材11の表面11aと凹部12とには、表面酸化膜15及び凹部酸化膜15aが除去されずに残っている。被膜13は、基材11の表面11aだけに形成されている。凹部12は、ステップS102の第1工程で形成され、ロゴなどの装飾60の文字60aを視認させる。
【0036】
実施形態2におけるステップS103の第2工程では、図7Bに示した基材11の表面11aに付着したデブリ16のみを除去するクリーニングを行う。デブリ16のみを除去する場合は、デブリ16が付着した凹部12に連続する基材11の表面11aの領域DAを含む、領域にレーザー85を照射する。レーザー85は、実施形態1における第2工程で照射したレーザー85の照射強度より弱い照射強度で基材11に照射される。すなわち、デブリ16は、表面酸化膜15や凹部酸化膜15aを除去するために照射するレーザー85の照射強度よりも弱い照射強度のレーザー85で除去することが可能である。換言すると、レーザー85の照射強度を変更することにより、表面酸化膜15及び凹部酸化膜15aを残してデブリ16だけを除去することが可能になる。実施形態2における第2工程では、パルスの出力28%、パルスの繰返し周波数505kHz、移動速度1300mm/sの照射強度でレーザー85を照射した。これにより、図10に示すように、基材11に生成された表面酸化膜15の上に付着したデブリ16のみを除去することができる。
【0037】
図11A及び図11Bは、基材11の画像である。図11Aは、図7Bに示す基材11の表面11a側を撮像した画像である。図11Bは、図10に示す基材11の表面11a側を撮像した画像である。図11Aに示すように、凹部12に連続する基材11の表面11aには、凹部12を形成したときに付着したデブリ16が、黒く視認できる。図11Bに示すように、基材11の表面11aをレーザー照射によりクリーニングすることにより、黒く視認されたデブリ16が減少し、基材11の表面11aの輝度が向上し、明るく視認される。このレーザー85の照射では、表面酸化膜15及び凹部酸化膜15aは、除去されない。したがって、凹部12は、基材11の表面11aにおける表面酸化膜15よりも厚い凹部酸化膜15aで覆われている。酸化膜は、透過する光を吸収するので、凹部12の輝度が低下し、暗く視認される。
【0038】
実施形態2におけるステップS104の第3工程では、凹部12を除く基材11の表面11aに対して表面処理を行い、被膜13を形成する。これにより、図9に示した断面形状を有する文字板110が完成する。
【0039】
以上述べたように、実施形態2に係る時計部品の製造方法によれば、以下の効果を得ることができる。
【0040】
第2工程では、デブリ16が付着した凹部12に連続する基材11の表面11aの領域DAを含む領域にレーザー85を照射する。
凹部12を形成させる第1工程でのレーザー照射では、凹部12の周辺にデブリ16が付着する。第2工程で、凹部12に連続する基材11の表面11aにレーザー85を照射することで、デブリ16を除去することが可能になる。
【0041】
第2工程において、凹部12に連続する基材11の表面11aの領域DAを含む領域にレーザー85を照射する場合、すなわち、デブリ16を除去するためのレーザー85の照射強度は、凹部12に連続する基材11の表面11aの領域DAと凹部12の領域CAとを含む領域にレーザー85を照射する場合、すなわち、デブリ16と表面酸化膜15及び凹部酸化膜15aとを除去するためのレーザー85の照射強度よりも弱い。
デブリ16は、表面酸化膜15や凹部酸化膜15aを除去するときよりも弱い照射強度で除去することが可能であるので、デブリ16と表面酸化膜15及び凹部酸化膜15aとのうちのデブリ16だけを選択的に除去することができる。
【0042】
凹部12における凹部酸化膜15aの厚さは、基材11の表面11aにおける表面酸化膜15の厚さよりも厚い。
酸化膜は、透過する光を吸収するので、薄い表面酸化膜15で覆われた基材11の表面11aよりも、厚い凹部酸化膜15aで覆われた凹部12を暗く視認させることが可能になる。これにより、コントラストの優れた装飾を形成することができる。また、基材11の表面11aには被膜13が形成されているので、さらにコントラストを向上させることができる。
【0043】
なお、実施形態1、及び実施形態2では、12時方向の位置に設けられるロゴの装飾60を有する時計部品としての文字板10,110を例示したが、装飾は、文字板の特定されない位置に設けられる図形、模様、英数字、マークや、文字板の背景模様などであってもよい。また、時計部品としては、外装ケース30、リュウズ50、秒針21、分針22、時針23や、図示しない裏蓋、ベゼル、ダイヤルリングなどであってもよい。
【0044】
また、本実施形態の時計部品の製造方法によれば、第2工程で照射するレーザー85の照射強度を変更することにより、デブリ16だけを除去して表面酸化膜15及び凹部酸化膜15aを残す加工や、デブリ16と表面酸化膜15及び凹部酸化膜15aとを除去する加工や、デブリ16を除去して表面酸化膜15及び凹部酸化膜15aを厚さ方向に一部削除して膜厚を変更する加工を行うことができる。
【0045】
また、デブリ16を除去する目的の他に、基材11上に形成された表面酸化膜15及び凹部酸化膜15aを、部分的に除去したり、部分的に厚さを異ならせたりすることもできる。さらには、第2工程で表面酸化膜15や凹部酸化膜15aの厚さを異ならせた領域と、第3工程で形成する被膜13の領域との組み合わせにより、複雑な装飾60を形成することができる。
例えば、第1工程で形成した凹部12の一部だけに、第2工程でレーザー85を照射して、凹部12に形成された凹部酸化膜15aの厚さを部分的に異ならせることができる。また、第3工程で被膜13を形成する領域に、第2工程でレーザー85を照射して、その部分だけ表面酸化膜15や凹部酸化膜15aを除去、又は厚さを異ならせることができる。逆に、第3工程で被膜13を形成しない領域に、第2工程でレーザー85を照射して、その部分だけ表面酸化膜15や凹部酸化膜15aを除去、又は厚さを異ならせることができる。これにより、視覚効果を異ならせた装飾60を形成することができる。
【0046】
実施形態1で例示した第2工程では、基材11の全面にレーザー85を照射するものと説明したが、基材11の全面ではなく要部のみにレーザー85を照射してもよい。例えば、凹部12の領域CAにはレーザー85を照射せず、凹部12に連続する領域DAのみにレーザー85を照射してもよい。
【0047】
本実施形態では、表面処理として被膜13を形成した時計部品、及び被膜13を形成する時計部品の製造方法を例示したが、基材11の表面11aを鏡面研磨する表面処理であってもよい。これにより、基材11の風合いを活かした光沢面を有する時計部品を形成することができる。
【符号の説明】
【0048】
1…時計、10,110…文字板、11…基材、11a…表面、12…凹部、13…被膜、15…表面酸化膜、15a…凹部酸化膜、16…デブリ、60…装飾、80…レーザー照射装置、84…レーザー照射部、85…レーザー。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9
図10
図11A
図11B