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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 17/04 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
C03B17/04 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020202717
(22)【出願日】2020-12-07
(65)【公開番号】P2022090358
(43)【公開日】2022-06-17
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】西橋 洋
(72)【発明者】
【氏名】板津 裕之
(72)【発明者】
【氏名】中川 楽
(72)【発明者】
【氏名】天山 和幸
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 隆則
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-026754(JP,A)
【文献】特開2009-292681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ガラスを管ガラス又は棒状ガラスに成形する円筒状のスリーブと、前記スリーブを収容する成形室とを備えるダンナー方式のガラス製造装置を用い、前記成形室の上壁に設けられた供給口に挿入された供給ノズルから流下する溶融ガラスを、回転する前記スリーブに巻き付けて、前記スリーブの先端部から外部へ引き出すことにより管ガラス又は棒状ガラスを成形する成形工程を備えるガラス物品の製造方法であって、
前記成形工程の前に、前記供給口と前記供給ノズルとの間を通過して前記成形室の外部へと流出する気体の流出路を、前記成形室の温度上昇に伴う前記供給ノズル及び前記上壁の少なくとも一方の膨張に基づいて封止する封止工程を備えることを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項2】
前記供給ノズルは、
外筒部及び内筒部を備える二重円筒形状のノズル本体と、
前記ノズル本体の内部に設けられ、前記内筒部の変形を抑制する形状保持部とを備え、
前記形状保持部と前記外筒部との間には、前記外筒部の半径方向内側への変形を許容するための緩衝構造が設けられている請求項1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス製造装置は、軸方向に弾性変形可能な環状のシール部材を備え、
前記シール部材は、前記供給ノズルの外周面に設けられるフランジと前記上壁の上面との間において、前記供給ノズルの外周を囲むように配置されている請求項1又は請求項2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項4】
前記シール部材は、白金又は白金合金により構成され、
前記上壁の上面には、白金又は白金合金により構成される被覆層が設けられている請求項3に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項5】
前記上壁の前記供給口の内周面には、白金又は白金合金により構成される被覆層が設けられている請求項1~4のいずれか一項に記載のガラス物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ダンナー法を用いて管ガラスを製造するガラス製造装置が開示されている。上記ガラス製造装置は、溶融ガラスを貯留する溶融ポットと、溶融ポットから溶融ガラスが供給されるマッフル炉と、マッフル炉内に配置されたスリーブとを備える。上記ガラス製造装置においては、マッフル炉内のスリーブ上に溶融ガラスを供給することによりスリーブに巻き付いた溶融ガラスを、スリーブ先端から空気を送り込みながら引き出すことにより管ガラスが成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-137207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記ガラス製造装置のマッフル炉内に溶融ガラスを供給する方法として、マッフル炉の天井を構成する上壁に設けた孔状の供給口を設けるとともに、溶融ポット内の溶融ガラスを流出させる供給ノズルを供給口に挿入し、供給口に挿入された供給ノズルから溶融ガラスを流下させる方法が考えられる。この場合、マッフル炉の上壁と供給ノズルとの間には、温度上昇に伴う供給ノズルの膨張を許容するための隙間を設ける必要があるが、この隙間に起因して、製造される管ガラスの品質が低下するおそれがある。
【0005】
詳述すると、マッフル炉の上壁と供給ノズルとの間に隙間が存在する場合、高温状態にあるマッフル炉内には、溶融ガラスの揮発性成分を含む気体が成形室の上壁の隙間に向かって流れる上昇気流が発生する。この上昇気流が上記隙間へと達すると、上記隙間を通過して炉外へと流出する際、供給口及びその周辺の温度が低いため、揮発性成分が供給口の内面や供給口周辺の上壁に凝集して付着する。供給口内面や供給口周辺の上壁に付着した揮発性成分の凝集物が増えてくると、スリーブに巻き付いた溶融ガラスに落下し、溶融ガラスに付着した凝集物により製品不良が発生する。
【0006】
また、供給口周辺の上壁に付着した凝集物は、上壁を構成する耐火物と反応して耐火物を侵食する。これにより、供給口が拡大するためマッフル炉内に上昇気流が更に生じやすくなり、上壁に対する凝集物の付着が促進されるとともに、スリーブに巻き付いた溶融ガラスへの凝集物、及び凝集物と耐火物との反応物の落下の発生が促進され、製品不良が増大する。
【0007】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ダンナー法を用いたガラス物品の製造方法に関して、成形室の上壁と、成形室に溶融ガラスを供給する供給ノズルとの間の隙間に起因するガラス物品の品質の低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するガラス物品の製造方法は、溶融ガラスを管ガラス又は棒状ガラスに成形する円筒状のスリーブと、前記スリーブを収容する成形室とを備えるダンナー方式のガラス製造装置を用い、前記成形室の上壁に設けられた供給口に挿入された供給ノズルから流下する溶融ガラスを、回転する前記スリーブに巻き付けて、前記スリーブの先端部から外部へ引き出すことにより管ガラス又は棒状ガラスを成形する成形工程を備えるガラス物品の製造方法であって、前記成形工程の前に、前記供給口と前記供給ノズルとの間を通過して前記成形室の外部へと流出する気体の流出路を、前記成形室の温度上昇に伴う前記供給ノズル及び前記上壁の少なくとも一方の膨張に基づいて封止する封止工程を備える。
【0009】
上記構成によれば、供給口と供給ノズルとの間を通過して成形室の外部へと流出する気体の流出路が封止されることにより、成形室内において上壁の隙間に向かって流れる上昇気流の発生が抑制される。これにより、揮発性成分の凝集物が供給口の内面や供給口の周辺の上壁に付着することが低減される。その結果、供給口の内面や供給口の周辺の上壁に付着した凝集物やその反応物がスリーブに巻き付いた溶融ガラスに落下することによるガラス物品の品質の低下を抑制できる。
【0010】
上記ガラス物品の製造方法において、前記ガラス製造装置は、前記供給ノズルは、外筒部及び内筒部を備える二重円筒形状のノズル本体と、前記ノズル本体の内部に設けられ、前記内筒部の変形を抑制する形状保持部とを備え、前記形状保持部と前記外筒部との間には、前記外筒部の半径方向内側への変形を許容するための緩衝構造が設けられていることが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、外筒部が膨張した際に、外筒部と上壁とが接触することにより流出路を封止できる。また、緩衝構造が設けられているため、外筒部と上壁とが接触した際に、内筒部はほとんど変形せず、内筒部の内側を流れる溶融ガラスの流動態様が大きく変化することはない。したがって、外筒部と上壁との接触に起因する供給ノズルの詰まりを抑制できる。
【0012】
上記ガラス物品の製造方法において、前記ガラス製造装置は、軸方向に弾性変形可能な環状のシール部材を備え、前記シール部材は、前記供給ノズルの外周面に設けられるフランジと前記成形室の上壁の上面との間において、前記供給ノズルの外周を囲むように配置されていることが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、上壁が膨張した際に、フランジと上壁との間でシール部材が圧縮される。これにより、フランジ及び上壁に対してシール部材が密着して流出路を封止できる。
【0014】
上記ガラス物品の製造方法において、前記シール部材は、白金又は白金合金により構成され、前記上壁の上面には、白金又は白金合金により構成される被覆層が設けられていることが好ましい。上記構成によれば、シール部材と上壁の上面とを溶着させて、シール部材と上壁との間のシール性を高めることが容易である。
【0015】
上記ガラス物品の製造方法において、前記上壁の前記供給口の内周面には、白金又は白金合金により構成される被覆層が設けられていることが好ましい。上記構成によれば、揮発性成分の凝集物が上壁を構成する耐火物と反応して耐火物を侵食することを抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、成形室の上壁と、成形室に溶融ガラスを供給する供給ノズルとの間の隙間に起因するガラス物品の品質の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ガラス製造装置の断面図。
図2】常温での供給ノズルの周囲の拡大断面図。
図3】膨張時における供給ノズルの周囲の拡大断面図。
図4】(a)~(e)は、変更例のシール部材の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
ガラス物品の製造方法の一例として、管ガラスの製造方法について説明する。まず、管ガラスの製造方法に用いられるダンナー方式のガラス製造装置について説明する。
【0019】
図1に示すように、ガラス製造装置10は、溶融ガラスを貯留する溶融ポット11と、溶融ポット11から供給された溶融ガラスを管ガラスに成形するスリーブ12と、スリーブ12を収容するマッフル炉13とを備えている。図1においては、溶融ポット11を断面表示せず、スリーブ12及びマッフル炉13を断面表示している。
【0020】
溶融ポット11は、溶融ガラスを貯留する装置であり、溶融ガラスをマッフル炉13に供給するための供給ノズル11aを備えている。供給ノズル11aは、下方に向かって延びる筒状の部材であり、下端部分に溶融ガラスを流下させる開口が設けられている。供給ノズル11aは、溶融ポット11の本体部分に対して一体に固定されている。
【0021】
スリーブ12は、耐火物により構成される円筒状の部材であり、その先端部は、先端側へ向って縮径するテーパー形状に形成されている。スリーブ12の基端部には、スリーブ12を軸線周りに回転させる駆動装置(図示略)が連結されている。
【0022】
マッフル炉13は、溶融ポット11の下流に配置された箱状の炉であり、天井を構成する第1上壁20と、底部を構成する下壁21と、マッフル炉13内に収容されたスリーブ12の周囲を囲む側壁22とを備えている。スリーブ12の基端に対向する側壁22には、スリーブ12の基端部と駆動装置とを連結するシャフト(図示略)が挿通されるスリーブ用開口22aが設けられている。スリーブ12の先端に対向する側壁22には、スリーブに巻き付いた溶融ガラスをマッフル炉13外へ引き出すための引出口(図示略)が設けられている。
【0023】
マッフル炉13の内部には、炉内を、スリーブ12を収容する成形室A1と、成形室A1を囲む燃焼室A2とに区画する区画壁23が設けられている。燃焼室A2は、区画壁23を介して成形室A1を加熱するための密閉空間であり、その内部には、バーナー、電気ヒーター等の加熱部24が配置されている。区画壁23は、スリーブ12の軸方向に延びる断面略U字状の壁であり、その上端が第1上壁20に接続されるとともに、スリーブ12の軸方向の両端が側壁22に接続されている。
【0024】
マッフル炉13の第1上壁20における、成形室A1に収容されたスリーブ12の上方に位置する部分には、孔状の第1供給口20aが設けられている。この第1供給口20aに対して、溶融ポット11の供給ノズル11aが上方から挿入されている。第1上壁20の上部には、第2上壁25が配置されている。
【0025】
第2上壁25は、第1供給口20aにおける供給ノズル11aの周りの隙間Sを上方側から覆う部材であり、第1上壁20とは別体のブロック材により構成されている。第2上壁25は、供給ノズル11aが挿通される第2供給口25aを備えている。供給ノズル11aの外周面と第2供給口25aの内周面との間の隙間Sは、供給ノズル11aの外周面と第1供給口20aとの間の隙間Sよりも狭くなっている。
【0026】
本実施形態においては、第1上壁20及び第2上壁25によって成形室A1の上壁が構成されるとともに、第1供給口20a及び第2供給口25aによって上壁の供給口が構成される。また、図2に示すように、第2上壁25の上面及び第2供給口25aの内周面には、上面及び内周面を被覆する白金又は白金合金により構成される被覆層25bが設けられている。
【0027】
マッフル炉13を構成する第1上壁20、下壁21、側壁22、区画壁23、及び第2上壁25は、耐火物により構成されている。上記耐火物としては、例えば、アルミナジルコン質耐火物、ムライト質耐火物、アルミナ質耐火物等の酸化物系耐火物、炭化珪素質耐火物、窒化アルミニウム質耐火物、窒化珪素質耐火物等の非酸化物系耐火物が挙げられる。
【0028】
図2に示すように、供給ノズル11aは、白金又は白金合金により構成される二重円筒構造のノズル本体30を備えている。ノズル本体30は、内筒部31と、半径方向に間隔をあけて内筒部31の外周に配置される外筒部32と、内筒部31及び外筒部32の先端を塞ぐ端壁部33とを備えている。
【0029】
内筒部31の内周面は、溶融ガラスの流路を構成する部位であり、溶融ポット11からマッフル炉13への溶融ガラスの供給に適した形状に形成される。外筒部32は、供給ノズル11aの外周を構成する部位である。外筒部32の外径は、第1上壁20の第1供給口20a及び第2上壁25の第2供給口25aの内径よりも小さくなるように設定されている。
【0030】
外筒部32の外周面と第2供給口25aの内周面との間隔は、外筒部32の外周面と第1供給口20aの内周面との間隔よりも狭く、例えば、1~10mmである。
ノズル本体30の内部には、ノズル本体30の内部を半径方向に内側と外側に区画する筒状の仕切部材34が挿入されている。仕切部材34は、例えば、アルミナ等の耐火物管により構成される。ノズル本体30の内部における半径方向内側の部分、即ち、仕切部材34と内筒部31との間には、耐火物により構成されて、内筒部31の形状を保持するための形状保持部35が設けられている。ノズル本体30の内部において、形状保持部35は、内筒部31の外周面の全周に接するように配置されている。本実施形態において、形状保持部35は、セメントの硬化物であり、仕切部材34と内筒部31との間に充填されたセメントを硬化させることにより形状保持部35が形成されている。
【0031】
ノズル本体30の内部における半径方向外側の部分、即ち、外筒部32と仕切部材34との間には、外筒部32の半径方向内側への変形を許容するための緩衝構造が設けられている。本実施形態においては、外筒部32と仕切部材34との間に、クッション性を有する緩衝材36を配置することによって上記緩衝構造が形成されている。緩衝材36としては、例えば、ガラスやセラミックスからなる綿、不織布等が挙げられる。上記緩衝構造の大きさ、即ち、外筒部32と仕切部材34との間の半径方向の間隔は、例えば、2~10mmである。また、ノズル本体30における緩衝材36が収容されている空間は、閉じられた密閉空間である。緩衝構造は、外筒部32における第1供給口20a及び第2供給口25aの各内周面と対向する部分の内側に位置する部分に設けられている。
【0032】
ノズル本体30において、成形室A1の第2上壁25から露出する外筒部32には、外筒部32の外周面から半径方向外方に突出する環状のフランジ37が設けられている。フランジ37の下面と、上壁の上面、即ち、第2上壁25の上面との間には、供給ノズル11aのノズル本体30の外周を囲む環状のシール部材40が配置されている。シール部材40は、白金又は白金合金により構成される。また、シール部材40は、軸方向である上下方向に弾性変形可能に構成される。本実施形態では、軸方向の中央部に折れ曲がり部分を有し、断面が内側に凸となる横向き略V字状の皿バネをシール部材40として用いている。
【0033】
図1及び図2に示すように、第2上壁25の上部には、供給ノズル11aのフランジ37及び第2上壁25の周囲を囲むように保温材38が配置されている。保温材38は、耐火物により構成されるブロック状の部材である。保温材38を構成する耐火物としては、マッフル炉13の壁部を構成する耐火物と同様のものを用いることができる。
【0034】
次に、ガラス製造装置10を用いたダンナー方式による管ガラスの製造方法について、本実施形態の作用とともに説明する。なお、以下では、第1上壁20及び第2上壁25を含む上位概念として上壁と記載するとともに、第1供給口20a及び第2供給口25aを含む上位概念として供給口と記載する場合がある。
【0035】
管ガラスの製造方法は、管ガラスを成形する成形工程と、成形工程の前に行われる封止工程とを備えている。
成形工程では、溶融ポット11内で溶融された溶融ガラスを供給ノズル11aから流下させることにより、マッフル炉13内のスリーブ12の基端部へ溶融ガラスを供給する。供給された溶融ガラスが、駆動装置により回転するスリーブ12に巻き付くことにより円筒状に成形される。この際、スリーブ12の先端に設けられた孔からブローエアを噴出させることにより、溶融ガラスは、円筒状の連続した管ガラスとして成形される。その後、成形された管ガラスの先端を、スリーブ12の先端部から、マッフル炉13の引出口を通じて炉外へと引き出して連続的に管引き成形するとともに、管引き成形された管ガラスを所定の長さごとに切断する。
【0036】
図1及び図2に示すように、成形室A1の上壁に設けられた供給口に挿入された供給ノズル11aを通じて成形室A1内に溶融ガラスを供給するガラス製造装置10の場合、上壁に設けられた供給口と供給ノズル11aとの間に隙間Sが設けられる。この隙間Sが外気へと通じる構成であると、隙間Sを通じて成形室A1内の気体を流出させる流出路Rが形成される。流出路Rが形成されているガラス製造装置10である場合、成形工程において高温状態にある成形室A1内には、溶融ガラスの揮発性成分を含む気体が成形室A1の上壁の隙間Sに向かって流れる上昇気流AFが発生する。
【0037】
この上昇気流AFが隙間Sへと達すると、隙間Sを通過して炉外へと流出する際、供給口及びその周辺は成形室A1内に比べて温度が低いため、揮発性成分が凝集して供給口の内面や供給口の周辺の上壁に付着する。供給口の内面や供給口の周辺の上壁に付着した揮発性成分の凝集物が増えてくると、スリーブ12に巻き付いた溶融ガラスに落下し、溶融ガラスに付着した凝集物により製品不良が発生する。
【0038】
また、供給口の周辺の上壁に付着した凝集物は、上壁を構成する耐火物と反応して耐火物を侵食する。これにより、供給口が拡大するためマッフル炉13内に上昇気流AFが更に生じやすくなり、上壁に対する凝集物の付着が促進されるとともに、スリーブ12に巻き付いた溶融ガラスへの凝集物、及び凝集物と耐火物との反応物の発生が促進され、製品不良が増大する。
【0039】
本実施形態の製造方法では、成形工程の前に、隙間Sを通じて成形室A1内の気体を流出させる流出路Rを、成形室A1の温度上昇に伴う供給ノズル11a及び上壁の膨張に基づいて封止する封止工程を行う。
【0040】
詳述すると、封止工程では、供給ノズル11aから流下する溶融ガラスを、回転するスリーブ12に巻き付けて、スリーブ12の先端部から引き出すことにより管ガラスを成形する成形工程に先立って、成形室A1内の温度を上昇させる操作が行われる。
【0041】
図3に示すように、成形室A1内の温度上昇に伴って供給ノズル11aの温度が上昇すると、供給ノズル11aのノズル本体30の外筒部32、第1上壁20、及び第2上壁25が膨張する。なお、図2は、成形室A1内の温度上昇前の常温の状態を図示している。供給口の周囲においては、外筒部32が供給ノズル11aの半径方向外方へと膨張するとともに、第1上壁20及び第2上壁25が供給ノズル11aの半径方向内側へと膨張する。
【0042】
これにより、ノズル本体30の外筒部32と第1上壁20が近接するとともに、ノズル本体30の外筒部32と第2上壁25とが接触する。接触後は、第2上壁25に対して相対的に柔らかい外筒部32が第2上壁25により径方向内側に押し込まれるように変形する。図3においては、外筒部32と第2上壁25とが接触した状態を図示している。ノズル本体30の外筒部32と第2上壁25とが接触することにより、供給ノズル11aの外周面と第2供給口25aの内周面との間の隙間Sが塞がれて流出路Rが封止される。
【0043】
ここで、供給ノズル11aのノズル本体30は、溶融ガラスの流路を構成する部位である内筒部31と外筒部32とを備える二重円筒構造をなしている。そして、二重円筒構造のノズル本体30の内部に、内筒部31の変形を抑制する形状保持部35と、外筒部32の半径方向内側への変形を許容する緩衝構造としてのクッション性を有する緩衝材36が設けられている。そのため、膨張により外筒部32の外周面と第2上壁25とが接触した場合には、外筒部32が部分的に変形するが、外筒部32の変形による応力が緩衝材36にて緩和されることにより、内筒部31はほとんど変形しない。したがって、外筒部32と第2上壁25とが接触した場合においても、内筒部31の内側を流れる溶融ガラスの流動態様が大きく変化することはなく、第2上壁25との接触による供給ノズル11aの詰まりを抑制できる。
【0044】
また、成形室A1内の温度上昇に伴って第1上壁20及び第2上壁25の温度が上昇すると、第1上壁20及び第2上壁25が上方へと膨張して第2上壁25の上面が上方に移動する。これにより、供給ノズル11aのフランジ37と第2上壁25との間の間隔が狭まり、フランジ37と第2上壁25との間に配置されたシール部材40が圧縮される。その結果、フランジ37及び第2上壁25に対してシール部材40が密着し、流出路Rが封止される。加えて、成形室A1内の温度上昇によって、それぞれ白金又は白金合金により形成されるシール部材40、フランジ37、及び第2上壁25に設けられた被覆層25bが互いの接触部分において密着する。これにより、シール部材40により流出路Rを封止するシール性が更に高められる。
【0045】
なお、本実施形態において、隙間Sを通じて成形室A1内の気体を流出させる流出路Rを、成形室A1の温度上昇に伴う供給ノズル11a及び上壁の膨張に基づいて封止する部材(シール部)は、第2上壁25、供給ノズル11a及びシール部材40である。第2上壁25と供給ノズル11aは、供給ノズル11a及び上壁の半径方向の膨張を利用して、供給ノズル11aの軸方向に沿って流れる気流を塞ぐ。シール部材40は、上壁の上方への膨張を利用して、供給ノズル11aの半径方向外方へ流れる気流を塞ぐ。
【0046】
上記のとおり、隙間Sを通じて成形室A1と外気とを連通する流出路Rが封止されることにより、隙間Sを通過する上昇気流AFの流量が低減されて、揮発性成分の凝集物が供給口の内周面、及びその周辺の上壁に付着することが低減される。また、流出路Rが封止されることにより、供給ノズル11a周りの温度低下が抑制されて、揮発性成分の凝集が抑制される。その結果、供給口の内周面、及びその周辺の上壁に付着した凝集物やその反応物がスリーブ12に巻き付いた溶融ガラスに落下することによるガラス物品の品質の低下を抑制できる。
【0047】
次に、本実施形態の効果について記載する。
(1)ダンナー方式のガラス製造装置10を用いたガラス物品の製造方法は、成形室A1の上壁に設けられた供給口に挿入された供給ノズル11aから流下する溶融ガラスを、回転するスリーブ12に巻き付けて、スリーブ12の先端部から外部へ引き出すことにより管ガラス又は棒状ガラスを成形する成形工程を備えている。ガラス製造方法は、更に、成形工程の前に、供給口と供給ノズル11aとの間を通過して成形室A1の外部へと流出する気体の流出路Rを、成形室A1の温度上昇に伴う供給ノズル11a及び上壁の膨張に基づいて封止する封止工程を備えている。
【0048】
上記構成によれば、供給口と供給ノズル11aとの間を通過して成形室A1の外部へと流出する気体の流出路Rが封止されることにより、揮発性成分の凝集物が供給口の内面や供給口の周辺の上壁に付着することが低減される。これにより、供給口の内周面及び供給口の周辺の上壁に付着した凝集物やその反応物がスリーブ12に巻き付いた溶融ガラスに落下することによるガラス物品の品質の低下を抑制できる。
【0049】
(2)供給ノズル11aは、外筒部32及び内筒部31を備える二重円筒形状のノズル本体30と、ノズル本体30の内部に設けられ、内筒部31の変形を抑制する形状保持部35とを備えている。形状保持部35と外筒部32との間には、外筒部32の半径方向内側への変形を許容するための緩衝構造が設けられている。
【0050】
上記構成によれば、外筒部32が膨張した際に、外筒部32と上壁とが接触することにより流出路Rを封止できる。また、緩衝構造が設けられているため、外筒部32と上壁とが接触した際に、内筒部31はほとんど変形せず、内筒部31の内側を流れる溶融ガラスの流動態様が大きく変化することはない。したがって、外筒部32と上壁との接触に起因する供給ノズル11aの詰まりを抑制できる。
【0051】
また、組付け時における外筒部32の外周面と上壁との間の隙間Sの寸法に関して、従来技術では、膨張時においても外筒部32の外周面と上壁とが接触しないように膨張分を吸収できる大きさとする必要があった。これに対して、上記構成によれば、膨張時に外筒部32の外周面と上壁とを接触させることができるため、組付け時における外筒部32の外周面と上壁との間の隙間Sを従来技術よりも狭くできる。したがって、流出路R自体をより狭い通路とすることができる。
【0052】
(3)ノズル本体30における外筒部32の内側には、緩衝構造としての緩衝材36が配置されている。
上記構成によれば、外筒部32と上壁とが接触した際、外筒部32の変形による応力が緩衝材36に吸収される。そのため、外筒部32と上壁との接触に起因して内筒部31が変形することをより効果的に抑制できる。
【0053】
(4)ガラス製造装置10は、軸方向に弾性変形可能な環状のシール部材40を備えている。シール部材40は、供給ノズル11aの外周面に設けられるフランジ37と成形室A1の上壁の上面との間において、供給ノズル11aの外周を囲むように配置されている。
【0054】
上記構成によれば、上壁が膨張した際に、フランジ37と上壁との間でシール部材40が圧縮される。これにより、フランジ37及び上壁に対してシール部材40が密着して流出路Rを封止できる。
【0055】
(5)第2上壁25の上面に白金又は白金合金により構成される被覆層25bが設けられている。
上記構成によれば、シール部材40と第2上壁25とを溶着させて、シール部材40と第2上壁25との間のシール性を高めることが容易である。
【0056】
(6)第2上壁25の第2供給口25aの内周面には、白金又は白金合金により構成される被覆層25bが設けられている。
上記構成によれば、揮発性成分の凝集物が第2上壁25を構成する耐火物と反応して耐火物を侵食することを抑制できる。
【0057】
(7)シール部材40の周囲に保温材38を配置した状態として成形工程を行っている。
上記構成によれば、シール部材40の周囲に保温材38を配置することにより第1供給口20aの周囲の温度低下が抑制されて、揮発性成分の凝集が更に抑制される。
【0058】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・供給ノズル11aは、溶融ポット11の本体部分と一体として設けてもよいし別体として設けてもよい。
【0059】
・第1上壁20の第1供給口20aの内周面に、被覆層25bと同様の被覆層を設けてもよい。
・第2上壁25の上面に設けられる被覆層25b及び第2供給口25aの内周面に設けられる被覆層25bの一方又は両方を省略してもよい。
【0060】
・第2上壁25を省略してもよい。この場合には、第1上壁20の上面とフランジ37との間にシール部材40を配置するとともに、膨張時において、第1上壁20の第1供給口20aの内周面と外筒部32とを接触させるように隙間Sを形成する。
【0061】
・供給ノズル11aにおける外筒部32の内側にクッション性を有する緩衝材36を配置する構成に代えて、外筒部32の内側に空間を有する中空構造の供給ノズル11aとすることにより、外筒部32の半径方向内側への変形を許容する緩衝構造としてもよい。
【0062】
・供給ノズル11aの軸方向における緩衝構造の形成位置は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、外筒部32の外周面と上壁との間の隙間Sが最も狭くなる部分の内側の部分に設けられていればよい。
【0063】
・シール部材40は、成形室A1内の温度上昇によって、フランジ37及び上壁の上面の一方又は両方に溶着するものであってもよいし、溶着しないものであってもよい。また、シール部材40は、フランジ37の下面に一体に形成されていてもよい。
【0064】
・シール部材40は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上下方向に圧縮された際に、供給ノズル11a周りの全周にわたって、供給ノズル11aのフランジ37及び上壁の上面のそれぞれに対する密着性が上昇する弾性変形可能な環状部材であればよい。
【0065】
例えば、図4に示すようなシール部材40であってもよい。図4(a)に示すシール部材40は、軸方向の中央部に折れ曲がり部分を有し、断面が外側に凸となる横向き略V字状の環状部材である。図4(b)に示すシール部材40は、断面が内側に凸となる略C字状の環状部材である。図4(c)に示すシール部材40は、軸方向の中央部に折れ曲がり部分を有する蛇腹形状の環状部材である。図4(d)に示すシール部材40は、中空管状の環状部材である。図4(e)に示すシール部材40は、断面が外側に凸となる略C字状の環状部材である。なお、図2図4(a)、及び図4(c)に示すような、折れ曲がり部分を有する形状である場合、その折れ曲がり部分の角部は、尖った形状であってもよいし、丸みのある形状であってもよい。また、複数のシール部材40を上下方向に重ねて用いてもよい。
【0066】
・隙間Sを通じて成形室A1内の気体を流出させる流出路Rを封止するシール部として機能する部分は、供給ノズル11a及びシール部材40のいずれか一方のみであってもよい。つまり、供給ノズル11aをシール部として機能しない通常の供給ノズルに変更する、又はシール部材40を省略してもよい。なお、シール部材40を省略する場合、供給ノズル11aのフランジ37を設ける必要はない。
【0067】
・保温材38を省略してもよい。
・本発明の製造方法により製造されるガラス物品は、棒状ガラスであってもよい。成形工程において、スリーブ12の先端に設けられた孔からブローエアを噴出させる処理を省略することにより、棒状ガラスを成形できる。
【符号の説明】
【0068】
A1…成形室
11a…供給ノズル
12…スリーブ
20…上壁
20a…供給口
30…ノズル本体
31…内筒部
32…外筒部
35…形状保持部
36…緩衝材
37…フランジ
40…シール部材
図1
図2
図3
図4