(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】操作システム
(51)【国際特許分類】
B63H 25/02 20060101AFI20240604BHJP
B63B 49/00 20060101ALI20240604BHJP
B63H 20/08 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
B63H25/02 Z
B63B49/00 Z
B63H20/08 510
(21)【出願番号】P 2021004883
(22)【出願日】2021-01-15
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】荒木 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】江藤 勇太
(72)【発明者】
【氏名】石田 友菜
【審査官】宇佐美 琴
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-066978(JP,A)
【文献】特開2013-14256(JP,A)
【文献】米国特許第05238432(US,A)
【文献】特開平6-092290(JP,A)
【文献】特表2008-546591(JP,A)
【文献】米国特許第06273771(US,B1)
【文献】独国特許出願公開第102004059619(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 1/00-25/52
B63B 1/00-85/00
B63J 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に設けられる操作システムであって、
第1の操作スイッチおよび第2の操作スイッチを有するスイッチユニットと、
機能切替スイッチと、
船舶推進機の前後方向における傾斜角を変化させる傾斜角制御機構を作動させることにより前記傾斜角を変更する操作を行う傾斜角変更操作機能、および複数種類の情報を表示するゲージの画面を切り替える操作を行う画面切替操作機能のうちのいずれか一方の機能を前記スイッチユニットに割り当て、前記機能切替スイッチの操作に応じ、前記スイッチユニットに割り当てられた機能を前記傾斜角変更操作機能から前記画面切替操作機能へ、または前記画面切替操作機能から前記傾斜角変更操作機能へ切り替えるスイッチ制御部と、
前記船舶が位置している地点の水深を測定する水深測定装置と、
前記水深測定装置により測定された水深が第1の水深基準値以下であるか否かを判断する水深判断部とを備え、
前記スイッチ制御部は、前記水深測定装置により測定された水深が前記第1の水深基準値以下であることが前記水深判断部により判断されたときに前記画面切替操作機能が前記スイッチユニットに割り当てられている場合には、前記スイッチユニットに割り当てられた機能を前記画面切替操作機能から前記傾斜角変更操作機能へ自動的に切り替えることを特徴とする操作システム。
【請求項2】
前記水深測定装置により測定された水深が前記第1の水深基準値以下であることが前記水深判断部により判断されたときに、所定の画像もしくは文字列を前記ゲージに表示し、ランプを点灯もしくは点滅させ、所定の音声を出力し、または前記船舶の乗員が感知可能な振動を発生させる報知部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の操作システム。
【請求項3】
前記スイッチユニットは、前記船舶推進機を制御することによって前記船舶の推進力に関する操作を行う推進力操作装置に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の操作システム。
【請求項4】
前記水深判断部は、前記船舶の速度、潮流の速度、風速、または波高に基づいて、前記第1の水深基準値を増加または減少させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の操作システム。
【請求項5】
前記水深測定装置は魚群探知機であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の操作システム。
【請求項6】
前記水深判断部は、前記水深測定装置により測定された水深が、前記第1の水深基準値よりも小さい値である第2の水深基準値以下であるとき、前記傾斜角制御機構を作動させ、前記船舶推進機の前記傾斜角を自動的に増加させることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の操作システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶、または船舶に設けられた機器を操作するための操作システムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶のコンソール、または操縦席の周囲には、リモートコントロール装置、ステアリング装置、ゲージ等が設けられている。リモートコントロール装置は船舶推進機を遠隔操作するための装置であり、ステアリング装置は船舶を操舵するための装置である。ゲージは、船舶の速度、船舶推進機の動力源の回転数、燃料の残量、燃費、緯度・経度等、種々の情報を表示する装置である(例えば、下記の特許文献1を参照)。
【0003】
航行中、船舶の操縦者は、リモートコントロール装置のレバーを操作して船舶の速度を変え、またはステアリング装置のステアリングホイールを操作して船舶の向きを変える。操縦者は、自己が操縦している船舶と、他の船舶、漂流物、または水面付近まで隆起した水中の岩礁等との接触を未然に防ぐために、主に船舶の前方を監視しながら、リモートコントロール装置のレバーおよびステアリングホイールを操作する。また、操縦者は、ときどき、短い時間、ゲージに視線を移し、ゲージの画面中に表示された船舶の速度や燃料の残量等を確認する。
【0004】
また、船舶推進機の中には、船舶推進機の前後方向における傾斜角を電気制御または油圧制御により変化させる傾斜角制御機構を備えているものがある。船舶推進機の前後方向における傾斜角は、一般に、トリム角またはチルト角と呼ばれる。以下、単に「船舶推進機の傾斜角」と述べた場合には、それは、船舶推進機の前後方向における傾斜角を意味する。
【0005】
傾斜角制御機構を備えた船舶推進機を遠隔操作するためのリモートコントロール装置には、船舶推進機の傾斜角を変更するためのPTT(パワートリムアンドチルト)スイッチユニットが設けられている。PTTスイッチユニットは、船舶推進機の傾斜角を増加させるアップボタン、および船舶推進機の傾斜角を減少させるダウンボタンを有している。PTTスイッチユニットは、リモートコントロール装置のレバーのグリップの近傍に配置されており、操縦者は、レバーを握った手の指でPTTスイッチユニットのアップボタンまたはダウンボタンを押すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、航走する際には、航走中の船舶の姿勢が水面と略平行となるように船舶推進機の傾斜角を設定する。以下、このような船舶推進機の傾斜角を「標準航走傾斜角」ということとする。
【0008】
しかしながら、船舶により浅瀬の領域等を移動する場合には、船舶推進機の傾斜角を標準航走傾斜角に設定した状態では船舶推進機のプロペラまたはスケグが水底に接触してしまうことがある。したがって、船舶により浅瀬の領域等を移動する場合には、船舶推進機の傾斜角を標準航走傾斜角よりも増加させ、水中におけるプロペラの上下方向の位置を、船舶推進機の傾斜角が標準航走傾斜角であるときの位置よりも上昇させる。これにより、船舶推進機のプロペラまたはスケグが水底に接触することを未然に防ぐことができる。もっとも、このように船舶推進機の傾斜角が標準航走傾斜角よりも増加した状態では、高速の航走が不安定となるため、船舶が浅瀬の領域等を出た後、水深が十分に深い領域を引き続き移動する際には、船舶推進機の傾斜角を標準航走傾斜角に戻す。
【0009】
ところで、浅瀬の領域または水面下に岩礁のある領域等、船舶推進機に接触するおそれのある障害物が水面下に存在する領域を船舶で移動する際には、水面下の状況に応じて船舶推進機の傾斜角を度々変更しなければならない場合があり、それゆえ、PTTスイッチユニットの使用頻度が高くなる。一方、水深が深い沖合等、船舶推進機に接触するおそれのある障害物が水面下に存在しない領域を船舶で移動する際には、船舶推進機の傾斜角を標準航走傾斜角から変更する必要性が低くなり、それゆえ、PTTスイッチユニットの使用頻度が低くなる。
【0010】
そこで、PTTスイッチユニットに、船舶推進機の傾斜角を変更する操作を行う機能の他、ゲージの画面を切り替える操作を行う機能を持たせ、かつPTTスイッチユニットのこれらの機能を切り替える切替スイッチを例えばリモートコントロール装置等に設けることが考えられる。これにより、船舶推進機に接触するおそれのある障害物が水面下に存在しない領域を船舶で移動する際には、操縦者は、上記切替スイッチを操作し、PTTスイッチユニットの機能を、船舶推進機の傾斜角を変更する操作を行う機能から、ゲージの画面を切り替える操作を行う機能に切り替え、PTTスイッチユニットの操作によってゲージの画面を容易に切り替えることができる。
【0011】
しかしながら、PTTスイッチユニットに、船舶推進機の傾斜角を変更する操作を行う機能と、ゲージの画面を切り替える操作を行う機能とを持たせ、これらの機能を、操縦者による切替スイッチの操作に基づいて切り替えることとした場合、次のような問題がある。
【0012】
例えば、悪天候下における航行時には、操縦者において水面下の状況を認識し難くなる。そのため、浅瀬の領域または水面下に岩礁のある領域等に船舶が入ったことの操縦者による認識が遅れることがある。このような場合、操縦者は、浅瀬の領域または水面下に岩礁のある領域等に船舶が入ったことを認識してから、直ちに、船舶推進機の傾斜角を増加させて、船舶推進機のプロペラ等が水底または岩礁に接触することを回避しなければならない。このとき、PTTスイッチユニットの機能が、ゲージの画面を切り替える操作を行う機能に切り替えられている場合には、操縦者は、上記切替スイッチを操作して、PTTスイッチユニットの機能を、船舶推進機の傾斜角を変更する操作を行う機能に切り替えない限り、PTTスイッチユニットの操作により船舶推進機の傾斜角を変更することができない。その結果、船舶推進機の傾斜角を迅速に増加させることができず、船舶推進機のプロペラ等と水底または岩礁等との接触を回避することが困難になるおそれがある。
【0013】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、スイッチユニットに、船舶推進機の傾斜角を変更する操作を行う機能と、ゲージの画面を切り替える操作を行う機能とを持たせ、これらの機能を切り替えることとした場合でも、船舶推進機に接触するおそれのある障害物が水面下に存在する領域に船舶が入った場合には、船舶推進機の傾斜角を迅速に増加させることができる操作システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は、船舶に設けられる操作システムであって、 第1の操作スイッチおよび第2の操作スイッチを有するスイッチユニットと、機能切替スイッチと、船舶推進機の前後方向における傾斜角を変化させる傾斜角制御機構を作動させることにより前記傾斜角を変更する操作を行う傾斜角変更操作機能、および複数種類の情報を表示するゲージの画面を切り替える操作を行う画面切替操作機能のうちのいずれか一方の機能を前記スイッチユニットに割り当て、前記機能切替スイッチの操作に応じ、前記スイッチユニットに割り当てられた機能を前記傾斜角変更操作機能から前記画面切替操作機能へ、または前記画面切替操作機能から前記傾斜角変更操作機能へ切り替えるスイッチ制御部と、前記船舶が位置している地点の水深を測定する水深測定装置と、前記水深測定装置により測定された水深が第1の水深基準値以下であるか否かを判断する水深判断部とを備え、前記スイッチ制御部は、前記水深測定装置により測定された水深が前記第1の水深基準値以下であることが前記水深判断部により判断されたときに前記画面切替操作機能が前記スイッチユニットに割り当てられている場合には、前記スイッチユニットに割り当てられた機能を前記画面切替操作機能から前記傾斜角変更操作機能へ自動的に切り替える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、スイッチユニットに、船舶推進機の傾斜角を変更する操作を行う機能と、ゲージの画面を切り替える操作を行う機能とを持たせ、これらの機能を切り替えることとした場合でも、船舶推進機に接触するおそれのある障害物が水面下に存在する領域に船舶が入った場合には、船舶推進機の傾斜角を迅速に増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例の操作システム等を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施例の操作システムが設けられた船舶を示す説明図である。
【
図3】船外機の前後方向における傾斜角を示す説明図である。
【
図4】コンソールから取り外された状態の本発明の実施例の操作システムにおけるリモートコントロール装置を示す外観図である。
【
図5】本発明の実施例の操作システムにおけるゲージを示す外観図である。
【
図6】本発明の実施例の操作システムにおける傾斜角変更操作処理を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の実施例の操作システムにおける画面切替操作処理を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の実施例の操作システムにおけるゲージの画面を示す説明図である。
【
図9】本発明の実施例の操作システムにおける接触回避処理を示すフローチャートである。
【
図10】本発明の実施例の操作システムにおけるゲージの画面中に「SHALLOW」の文字列が表示された状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態の操作システムは、船舶に設けられる操作システムであって、スイッチユニット、機能切替スイッチ、スイッチ制御部、水深測定装置および水深判断部を備えている。
【0018】
スイッチユニットは、第1の操作スイッチおよび第2の操作スイッチを有している。スイッチ制御部は、船舶推進機の前後方向における傾斜角を変化させる傾斜角制御機構を作動させることにより船舶推進機の前後方向における傾斜角を変更する操作を行う傾斜角変更操作機能、および複数種類の情報を表示するゲージの画面を切り替える操作を行う画面切替操作機能のうちのいずれか一方の機能をスイッチユニットに割り当て、機能切替スイッチの操作に応じ、スイッチユニットに割り当てられた機能を傾斜角変更操作機能から画面切替操作機能へ、または画面切替操作機能から傾斜角変更操作機能へ切り替える。
【0019】
水深測定装置は、船舶が位置している地点の水深を測定する。水深判断部は、水深測定装置により測定された水深が第1の水深基準値以下であるか否かを判断する。
【0020】
さらに、スイッチ制御部は、水深測定装置により測定された水深が第1の水深基準値以下であることが水深判断部により判断されたときに画面切替操作機能がスイッチユニットに割り当てられている場合には、スイッチユニットに割り当てられた機能を画面切替操作機能から傾斜角変更操作機能へ自動的に切り替える。
【0021】
このような構成を有する操作システムによれば、浅瀬の領域または水面下に岩礁のある領域等、船舶推進機に接触するおそれのある障害物が水面下に存在する領域に船舶が入った場合に、船舶推進機の傾斜角を迅速に増加させることができる。したがって、船舶推進機が水面下の障害物(水底、岩礁等)に接触することを回避することができる。
【0022】
以下、具体的に説明する。船舶が位置している地点の水底が平地である場合、水深測定装置は、その地点の水面から水底までの距離を水深として測定する。したがって、船舶が位置している地点の水底が平地である場合、水深測定装置により測定される水深は、その地点の水面から水底までの距離を示す。また、船舶が位置している地点が岩礁の上方である場合には、水深測定装置は、その地点の水面から岩礁までの距離を水深として測定する。したがって、船舶が位置している地点が岩礁の上方である場合には、水深測定装置により測定される水深は、その地点の水面から岩礁までの距離を示す。
【0023】
水深判断部は、水深測定装置により測定された水深が第1の水深基準値以下であるか否かを判断する。ここで、第1の水深基準値を、例えば、水面から船舶推進機の最下部までの距離に所定の距離を加算した値とする。またはこれに代え、第1の水深基準値を、例えば、水面から船体の最下部までの距離に所定の距離を加算した値としてもよい。また、上記所定の距離は、例えばおよそ1m~数mとすることが好ましい。これにより、水深判断部の判断結果に基づいて、船舶推進機の最下部と、水底または岩礁との距離が上記所定の距離以下であるか否か、すなわち、船舶推進機の最下部が水底または岩礁に接近しているか否かを認識することができる。
【0024】
スイッチ制御部は、水深測定装置により測定された水深が第1の水深基準値以下であることが水深判断部により判断されたときに、すなわち、船舶推進機の最下部が水底または岩礁に接近していることが認識されたときに、スイッチユニットに割り当てられた機能を傾斜角変更操作機能へ自動的に切り替える。これにより、船舶が浅瀬の領域または水面下に岩礁のある領域に入った場合、操縦者が機能切替スイッチを操作しなくても、スイッチユニットが、船舶推進機の傾斜角を変更する操作を行うスイッチユニットとして機能するようになる。したがって、船舶が浅瀬の領域または水面下に岩礁のある領域に入った場合に、操縦者は、直ちにスイッチユニットを操作して、船舶推進機の傾斜角を迅速に増加させることができる。
【0025】
よって、本発明の実施形態の操作システムによれば、例えば悪天候下における航行時において、浅瀬の領域または水面下に岩礁のある領域等、船舶推進機に接触するおそれのある障害物が水面下に存在する領域に船舶が入ったことの操縦者による認識が遅れた場合でも、操縦者は、スイッチユニットを操作して、船舶推進機の傾斜角を速やかに増加させ、船舶推進機のプロペラ等が水底または岩礁等に接触することを回避することができる。
【実施例】
【0026】
(操作システム)
図1は本発明の実施例の操作システム1等を示している。
図2は操作システム1が設けられた船舶51を示している。
図3は船舶推進機としての船外機61の前後方向における傾斜角を示している。
【0027】
本発明の実施例の操作システム1は、
図1に示すように、リモートコントロール装置2、ゲージ15、魚群探知機31、速度計32、潮流計33、風速計34、波高計35および警報装置36を備えている。これらは、いずれも船舶51に設けられている。また、リモートコントロール装置2およびゲージ15は、船舶51に設けられた通信線37に接続されている。また、魚群探知機31、速度計32、潮流計33、風速計34、波高計35および警報装置36はゲージ15に接続されている。また、通信線37には、BCM(ボートコントロールモジュール)57および2つのECM(エンジンコントロールモジュール)65が接続されている。リモートコントロール装置2、ゲージ15、BCM57および2つのECM65は通信線37を介してそれぞれ相互に通信することができる。本実施例においては、通信線37に接続されたこれらの機器間の通信方式としてCAN(Controller Area Network)が用いられている。
【0028】
図2に示すように、本実施例においては、船舶51の船体52のトランサム53に2機の船外機61がクランプブラケット62を介して取り付けられている。BCM57はCPU(中央演算処理装置)およびメモリ等を備えたモジュールであり、2機の船外機61を連動させる機能を有している。BCM57は船舶に設けられている。ECM65はCPUおよびメモリ等を備えたモジュールであり、船外機61の動力源であるエンジン、およびエンジンの動力をプロペラ63に伝達する方向の切替等を行うシフトアクチュエータ等を制御する機能を有している。ECM65は、船外機61ごとに設けられ、自己が制御する船外機61に取り付けられている。
【0029】
また、各船外機61には、
図1に示すように、PTTモータ66およびモータ駆動回路67が設けられている。PTTモータ66は船外機61の前後方向における傾斜角を変えるモータである。モータ駆動回路67はPTTモータ66の駆動を制御する回路である。各船外機61のECM65にはモータ駆動回路67が接続され、モータ駆動回路67にはPTTモータ66が接続されている。船外機61の前後方向における傾斜角とは、
図3に示すように、船外機61のトリム角T1およびチルト角T2である。以下、単に「船外機61の傾斜角」と述べた場合には、それは、船外機61の前後方向における傾斜角を意味する。なお、各船外機61において、ECM65、PTTモータ66およびモータ駆動回路67は傾斜角制御機構の具体例である。
【0030】
リモートコントロール装置2は主として船舶51の推進力に関する操作を行う装置である。リモートコントロール装置2は、2機の船外機61を制御し、これら船外機61により生成される船舶51の推進力の方向および大きさを変えることができる。また、リモートコントロール装置2は2機の船外機61を同時に制御することができる。具体的に説明すると、リモートコントロール装置2から出力された制御信号は、まずBCM57に送信され、次にBCM57から2機の船外機61のECM65にそれぞれ送信される。各船外機61のECM65は、このようにリモートコントロール装置2からBCM57を介して送信された制御信号に従って電子スロットルまたはシフトアクチュエータ等を制御する。また、リモートコントロール装置2は、
図2に示すように、船舶51に設けられたコンソール54の上面における右側に取り付けられている。なお、リモートコントロール装置2は推進力操作装置の具体例である。
【0031】
図4は、コンソール54から取り外した状態のリモートコントロール装置2を示している。リモートコントロール装置2は、
図4に示すように、本体3、レバー4、グリップ5、スイッチユニット6および機能切替ボタン9を備えている。さらに、リモートコントロール装置2は、
図1に示すように、スイッチ制御部10を備えている。
【0032】
レバー4は、2機の船外機61を制御して船舶51の推進力の方向および大きさを変更する操作を行う機能を有している。
図4に示すように、レバー4は本体3に前後方向に回動可能に取り付けられている。レバー4の先端側にはグリップ5が取り付けられている。船舶51の操縦者は、グリップ5を握り、レバー4を前側(
図4中の矢印Fの方向)に回動させることで、船舶51を前進させることができ、レバー4の前側への回動角を変えることで、船舶51の前進速度を変えることができる。また、操縦者は、グリップ5を握り、レバー4を後側(
図4中の矢印Rの方向)に回動させることで、船舶51を後進させることができ、レバー4の後側への回動角を変えることで、船舶51の後進速度を変えることができる。
【0033】
スイッチユニット6は傾斜角変更操作機能および画面切替操作機能を有している。傾斜角変更操作機能とは、各船外機61の傾斜角を変更する操作を行う機能である。画面切替操作機能とは、ゲージ15の画面を切り替える操作を行う機能である。また、スイッチユニット6はアップボタン7およびダウンボタン8を有している。また、スイッチユニット6は、レバー4の先端部におけるグリップ5の左側に配置されている。操縦者はグリップ5を握った手の指でスイッチユニット6を操作することができる。本実施例においては、操縦者は、右手でグリップ5を握り、右手の親指でスイッチユニット6のアップボタン7およびダウンボタン8をそれぞれ押すことができる。なお、アップボタン7は第1の操作スイッチの具体例であり、ダウンボタン8は第2の操作スイッチの具体例である。
【0034】
機能切替ボタン9は、スイッチユニット6が有する上記2つの機能を切り替える操作を行う機能を有している。機能切替ボタン9は本体3に設けられている。なお、機能切替ボタン9および後述の機能切替ボタン21はそれぞれ機能切替スイッチの具体例である。
【0035】
スイッチ制御部10は、傾斜角変更操作機能および画面切替操作機能のうちのいずれか一方をスイッチユニット6に割り当てる機能を有している。また、スイッチ制御部10は、機能切替ボタン9の操作に応じ、またはゲージ15から送信される制御信号(具体的には、機能手動切替信号または機能自動切替信号)に応じ、スイッチユニット6に割り当てられた機能を傾斜角変更操作機能から画面切替操作機能へ、または画面切替操作機能から傾斜角変更操作機能へ切り替える機能を有している。また、スイッチ制御部10は、アップボタン7またはダウンボタン8が押されたときに、その時点に割り当てられているスイッチユニット6の機能に応じた制御信号(具体的には、傾斜角増加信号、傾斜角減少信号、画面順方向切替信号または画面逆方向切替信号)をBCM57またはゲージ15に送信する機能を有している。スイッチ制御部10はCPUおよびメモリ等を備え、リモートコントロール装置2の本体3の内部に設けられている。後述するように、スイッチ制御部10は傾斜角変更操作処理および画面切替操作処理を行う。後述の傾斜角変更操作処理および画面切替操作処理の説明により、傾斜角変更操作機能、画面切替操作機能、機能切替ボタン9の機能、およびスイッチ制御部10の機能の詳細が明らかになる。
【0036】
ゲージ15は、操縦者等、船舶51の乗員に向けて複数種類の情報を提供する機能を有している。具体的には、ゲージ15は、船舶51および各船外機61に関する情報、航行に関する情報、船舶51の位置に関する情報、天候に関する情報、船舶51が存在している海、湖または川に関する情報等を提供する。船舶51および各船外機61に関する情報は、例えば、船舶51の速度、エンジン回転数、シフトポジション、トリム角、燃料残量、バッテリ残量、燃費等である。航行に関する情報は、例えば、運転時間、トリップ時間、トリップ距離等である。船舶51の位置に関する情報は、例えば、船舶51が位置する地点の緯度および経度である。天候に関する情報は例えば風速である。船舶51が存在している海、湖または川に関する情報は、例えば、潮流、波高、うねり等である。
【0037】
ゲージ15は、
図2に示すように、コンソール54の上面における左側に取り付けられている。なお、コンソール54には、ゲージ15およびリモートコントロール装置2の他に、各船外機61のエンジンを始動させ、または停止させる始動/停止ボタン55、船舶51の操舵を行うステアリングホイール56等が設けられている。
【0038】
図5はゲージ15を示している。ゲージ15は、
図5に示すように、筐体16、ディスプレイ17、タッチパネル18、2つの画面切替ボタン19、20、および機能切替ボタン21を備えている。さらに、ゲージ15は、
図1に示すように、ゲージ制御部22を備えている。
【0039】
ディスプレイ17は、船舶51の乗員に向けて提供する上記情報を表示する装置であり、例えば液晶ディスプレイ装置である。タッチパネル18はゲージ15を操作する装置であり、
図5に示すようにディスプレイ17上に配置されている。2つの画面切替ボタン19、20は、ゲージ15の画面を切り替える操作を行うためのボタンである。各画面切替ボタン19、20は筐体16の上面の下部に配置されている。
【0040】
機能切替ボタン21は、リモートコントロール装置2の本体3に設けられた機能切替ボタン9と同じ機能を有するボタンである。すなわち、機能切替ボタン21は、リモートコントロール装置2のスイッチユニット6が有する上記2つの機能(傾斜角変更操作機能および画面切替操作機能)を切り替える操作を行う機能を有している。機能切替ボタン21は、ゲージ15の筐体16の上面の下部に配置されている。
【0041】
ゲージ制御部22はCPUおよびメモリ等を備え、ゲージ15の筐体16の内部に設けられている。また、
図1に示すように、ゲージ制御部22は、例えば、ゲージ制御部22のCPUがゲージ制御部22のメモリに記憶されたコンピュータプログラムを読み取って実行することにより、表示制御部23、水深判断部24、報知部25および外部機器制御部26として機能する。
【0042】
表示制御部23は、船舶51の乗員に向けて提供する上記情報をディスプレイ17に表示する制御を行う。また、表示制御部23はディスプレイ17の画面を切り替える制御を行う。水深判断部24は、魚群探知機31により測定された水深の測定値が後述する第1の水深基準値Pまたは第2の水深基準値Q以下であるか否かを判断する。報知部25は、魚群探知機31により測定された水深の測定値が第1の水深基準値P以下(または第2の水深基準値Q以下)である場合に、ディスプレイ17に「SHALLOW」の文字列を表示し、かつ警報装置36から警報音声を出力する。外部機器制御部26は、魚群探知機31により測定された水深の測定値が第1の水深基準値P以下(または第2の水深基準値Q以下)である場合に機能自動切替信号をリモートコントロール装置2に送信する。また、外部機器制御部26は、魚群探知機31により測定された水深の測定値が第2の水深基準値Q以下である場合に傾斜角自動設定信号をBCM57に送信する。また、外部機器制御部26は、ゲージ15の機能切替ボタン21が押されたときに機能手動切替信号をリモートコントロール装置2に送信する。後述するようにゲージ制御部22は接触回避処理を行う。後述の接触回避処理の説明により、水深判断部24、報知部25および外部機器制御部26のそれぞれの機能の詳細が明らかになる。
【0043】
また、上述したように、ゲージ15には、魚群探知機31、速度計32、潮流計33、風速計34、波高計35および警報装置36が接続されている。魚群探知機31は、水中に向けて超音波を発射し、水中の物体に当たって反射した超音波を検出することで、水中の魚の位置の検出または水深の測定等を行う装置である。魚群探知機31は水深測定装置の具体例である。速度計32は船舶51の速度を測定する装置である。潮流計33は船舶51の周囲の潮流の速度等を測定する装置である。風速計34は船舶51の周囲の風速を測定する装置である。波高計35は船舶51の周囲の波高を測定する装置である。警報装置36は警報音声(例えばサイレン音またはブザー音等)を出力する装置である。
【0044】
(傾斜角変更操作処理)
図6は傾斜角変更操作処理を示している。リモートコントロール装置2のスイッチ制御部10は、リモートコントロール装置2の作動開始時には(例えば出航のために船舶51に設けられた各機器および各装置に電源が投入されたときには)、スイッチユニット6に傾斜角変更操作機能を割り当てる。すなわち、スイッチ制御部10は、リモートコントロール装置2の作動開始時に、傾斜角変更操作機能を実現するための傾斜角変更操作処理を実行する。
【0045】
図6に示す傾斜角変更操作処理において、スイッチ制御部10は、リモートコントロール装置2のアップボタン7が押されたか否かを判断し(ステップS1)、アップボタン7が押されたときには、傾斜角増加信号をBCM57に送信する(ステップS2)。BCM57に送信された傾斜角増加信号は、BCM57から2機の船外機61のECM65にそれぞれ送信される。傾斜角増加信号を受信した各船外機61のECM65はモータ駆動回路67を制御し、PTTモータ66を一の方向に回転させる。これにより、各船外機61の傾斜角が増加する。
【0046】
また、スイッチ制御部10は、傾斜角変更操作処理において、リモートコントロール装置2のダウンボタン8が押されたか否かを判断し(ステップS3)、ダウンボタン8が押されたときには、傾斜角減少信号をBCM57に送信する(ステップS4)。BCM57に送信された傾斜角減少信号は、BCM57から2機の船外機61のECM65にそれぞれ送信される。傾斜角減少信号を受信した各船外機61のECM65はモータ駆動回路67を制御し、PTTモータ66を上記一の方向とは逆の方向に回転させる。これにより、各船外機61の傾斜角が減少する。
【0047】
また、スイッチ制御部10は、傾斜角変更操作処理において、リモートコントロール装置2の機能切替ボタン9が押されたか否かの判断、およびゲージ15から機能手動切替信号を受信したか否かの判断をそれぞれ行い(ステップS5)、機能切替ボタン9が押されたとき、または機能手動切替信号を受信したときには、スイッチユニット6に割り当てられた機能を、傾斜角変更操作機能から画面切替操作機能に切り替える(ステップS6)。機能手動切替信号は、ゲージ15に設けられた機能切替ボタン21が押されたときに、ゲージ15の外部機器制御部26からリモートコントロール装置2に送信される信号である。
【0048】
傾斜角変更操作処理が行われることにより、操縦者は、リモートコントロール装置2のアップボタン7を押すことにより、各船外機61の傾斜角を増加させることができる。また、操縦者は、リモートコントロール装置2のダウンボタン8を押すことにより、各船外機61の傾斜角を減少させることができる。また、操縦者は、リモートコントロール装置2の機能切替ボタン9、またはゲージ15の機能切替ボタン21を押すことにより、リモートコントロール装置2のスイッチユニット6の機能を傾斜角変更操作機能から画面切替操作機能に切り替えることができる。
【0049】
(画面切替操作処理)
図7は画面切替操作処理を示している。
図8(A)は、ゲージ15のディスプレイ17に表示されるメイン画面Dの一例を示している。
図8(B)は、メイン画面D内に択一的に表示される複数のサブ画面E1~E9を示している。
【0050】
上述したように、傾斜角変更操作処理において、リモートコントロール装置2のスイッチ制御部10は、機能切替ボタン9が押されたとき、または機能手動切替信号を受信したときに、スイッチユニット6に割り当てられた機能を傾斜角変更操作機能から画面切替操作機能に切り替える。すなわち、スイッチ制御部10は、機能切替ボタン9が押されたとき、または機能手動切替信号を受信したときに、傾斜角変更操作処理を終了し、続いて、画面切替操作機能を実現するための画面切替操作処理を実行する。
【0051】
図7に示す画面切替操作処理において、スイッチ制御部10は、リモートコントロール装置2のアップボタン7が押されたか否かを判断し(ステップS11)、アップボタン7が押されたときには、画面順方向切替信号をゲージ15に送信する(ステップS12)。ゲージ15の表示制御部23は、リモートコントロール装置2のスイッチ制御部10から送信された画面順方向切替信号に従って、ゲージ15のサブ画面を順方向に切り替える。
【0052】
図8(A)に示すように、ゲージ15のディスプレイ17には、表示制御部23の制御に基づき、メイン画面Dが表示される。
図8(A)に示す例では、メイン画面Dに、現在時刻、船外機61のエンジン回転数、船外機61のシフトポジション、および船外機61のトリム角が表示されている。また、メイン画面Dの左下部には、表示制御部23の制御に基づき、複数のサブ画面E1~E9のうちのいずれか1つが表示される。例えば、
図8(B)に示すように、表示制御部23は、運転時間を表示するサブ画面E1、トリップ時間を表示するサブ画面E2、トリップ距離を表示するサブ画面E3、バッテリ残量および水温を表示するサブ画面E4、瞬間流量を表示するサブ画面E5、瞬間燃費を表示するサブ画面E6、平均燃料を表示するサブ画面E7、総燃料消費量を表示するサブ画面E8、および緯度・経度を表示するサブ画面E9をメイン画面Dの左下部に択一的に表示することができる。表示制御部23は、リモートコントロール装置2のスイッチ制御部10から送信された画面順方向切替信号に従って、ゲージ15のサブ画面を順方向に、例えば、サブ画面E1、サブ画面E2、サブ画面E3、…といった順に切り替える。
【0053】
また、リモートコントロール装置2のスイッチ制御部10は、
図7に示す画面切替操作処理において、リモートコントロール装置2のダウンボタン8が押されたか否かを判断し(ステップS13)、ダウンボタン8が押されたときには、画面逆方向切替信号をゲージ15に送信する(ステップS14)。ゲージ15の表示制御部23は、リモートコントロール装置2のスイッチ制御部10から送信された画面逆方向切替信号に従って、ゲージ15のサブ画面を逆方向に、例えば、サブ画面E9、サブ画面E8、サブ画面E7、…といった順に切り替える。
【0054】
また、リモートコントロール装置2のスイッチ制御部10は、画面切替操作処理において、リモートコントロール装置2の機能切替ボタン9が押されたか否かの判断、およびゲージ15から機能手動切替信号を受信したか否かの判断をそれぞれ行い(ステップS15)、機能切替ボタン9が押されたとき、または機能手動切替信号を受信したときには、スイッチユニット6に割り当てられた機能を、画面切替操作機能から傾斜角変更操作機能に切り替える(ステップS16)。
【0055】
また、リモートコントロール装置2のスイッチ制御部10は、画面切替操作処理において、ゲージ15から機能自動切替信号を受信したか否かを判断し(ステップS17)、機能自動切替信号を受信したときにも、スイッチユニット6に割り当てられた機能を、画面切替操作機能から傾斜角変更操作機能に切り替える(ステップS16)。機能自動切替信号は、後述の接触回避処理において、魚群探知機31により測定された水深の測定値が第1の水深基準値P以下(または第2の水深基準値Q以下)であるときに、ゲージ15の外部機器制御部26からリモートコントロール装置2に送信される信号である(
図9中のステップS26またはステップS29を参照)。
【0056】
画面切替操作処理が行われることにより、操縦者は、リモートコントロール装置2のアップボタン7を押すことにより、ゲージ15のサブ画面を順方向に切り替えることができる。具体的には、操縦者は、アップボタン7を1回押すことで、サブ画面を1画面進めることができる(例えば、サブ画面E1をサブ画面E2に切り替えることができる)。また、操縦者は、リモートコントロール装置2のダウンボタン8を押すことにより、ゲージ15のサブ画面を逆方向に切り替えることができる。具体的には、操縦者は、ダウンボタン8を1回押すことで、サブ画面を1画面戻すことができる(例えば、サブ画面E9をサブ画面E8に切り替えることができる)。また、操縦者は、リモートコントロール装置2の機能切替ボタン9、またはゲージ15の機能切替ボタン21を押すことにより、リモートコントロール装置2のスイッチユニット6の機能を画面切替操作機能から傾斜角変更操作機能に切り替えることができる。さらに、接触回避処理において、魚群探知機31により測定された水深の測定値が第1の水深基準値P以下(または第2の水深基準値Q以下)であるときには、操縦者がリモートコントロール装置2の機能切替ボタン9またはゲージ15の機能切替ボタン21を操作しなくても、スイッチユニット6の機能が画面切替操作機能から傾斜角変更操作機能に自動的に切り替わる。
【0057】
なお、操縦者は、ゲージ15の画面切替ボタン19、20を押すことによっても、ゲージ15のサブ画面を切り替えることができる。
【0058】
(接触回避処理)
図9は接触回避処理を示している。
図10は、ゲージ15のディスプレイ17に表示されるメイン画面D中に「SHALLOW」の文字列41が表示された状態を示している。接触回避処理は、各船外機61の最下部(例えばプロペラ63またはスケグ64)が、水底または水面下の岩礁等、水面下の障害物に接触することを回避する処理である。接触回避処理は操作システム1が稼働している間に所定の短い間隔(例えばおよそ0.5秒~数秒間隔)で繰り返し実行される。
【0059】
接触回避処理の具体的な内容を
図9に基づいて説明する前に、接触回避処理の原理について説明する。接触回避処理においては、船外機61(2機の船外機61のうちのいずれか一方の船外機61)の最下部が水底または水面下の岩礁等に接近しており、船外機61の最下部が水底または水面下の岩礁等に接触する可能性が高い状態(以下、この状態を「第1の状態」という。)であるか否かを判断する。そして、第1の状態のときには、船外機61の最下部が水底または水面下の岩礁等に接近していることを、操縦者等、船舶51の乗員に報知する。また、第1の状態のときに、リモートコントロール装置2のスイッチユニット6に画面切替操作機能が割り当てられている場合には、スイッチユニット6に割り当てられた機能を画面切替操作機能から傾斜角変更操作機能へ自動的に切り替える。
【0060】
また、接触回避処理においては、船外機61(2機の船外機61のうちのいずれか一方の船外機61)の最下部が水底または水面下の岩礁等に極めて接近しており、船外機61の最下部が水底または水面下の岩礁等に接触する可能性が上記第1の状態と比較して高い状態(以下、この状態を「第2の状態」という。)であるか否かを判断する。そして、第2の状態のときには、船外機61の最下部が水底または水面下の岩礁等に接近していることを操縦者等に報知し、スイッチユニット6に割り当てられた機能を画面切替操作機能から傾斜角変更操作機能へ自動的に切り替え、さらに、各船外機61のPTTモータ66を作動させ、各船外機61の傾斜角を自動的に増加させる。
【0061】
また、接触回避処理においては、上記第1の状態であるか否かの判断を、船舶51が位置している地点の水深が第1の水深基準値P以下であるか否かを判断することによって行う。第1の水深基準値Pは、水面から船外機61(2機の船外機61のうちのいずれか一方の船外機61)の最下部までの距離に第1の接近限界距離を加算した値である。また、第1の水深基準値Pを、水面から船体52の最下部までの距離に第1の接近限界距離を加算した値としてもよい。第1の接近限界距離は所定の値である。第1の接近限界距離を例えばおよそ1m~数mとすることが好ましい。本実施例における第1の接近限界距離は2mである。すなわち、本実施例における第1の水深基準値Pは、水面から船外機61の最下部までの距離に2mを加算した値である。この判断方法によれば、船外機61の最下部と船舶51の下方の水底または岩礁等との間の距離が第1の接近限界距離以下(2m以下)となったときに、上記第1の状態であると判断されることとなる。
【0062】
また、接触回避処理においては、上記第2の状態であるか否かの判断を、船舶51が位置している地点の水深が第2の水深基準値Q以下であるか否かを判断することによって行う。第2の水深基準値Qは、水面から船外機61(2機の船外機61のうちのいずれか一方の船外機61)の最下部までの距離に第2の接近限界距離を加算した値である。また、第2の水深基準値Qを、水面から船体52の最下部までの距離に第2の接近限界距離を加算した値としてもよい。第2の接近限界距離は所定の値である。第2の接近限界距離を第1の接近限界距離の2分の1以下とすることが好ましい。第2の接近限界距離を第1の接近限界距離の2分の1以下とすることで、第2の水深基準値Qは第1の水深基準値Pよりも小さい値となる。本実施例における第2の接近限界距離は0.8mである。すなわち、本実施例における第2の水深基準値Qは、水面から船外機61の最下部までの距離に0.8mを加算した値である。この判断方法によれば、船外機61の最下部と船舶51の下方の水底または岩礁等との間の距離が第2の接近限界距離以下(0.8m以下)となったときに、上記第2の状態であると判断されることとなる。
【0063】
また、船舶51の速度が速く、潮流が速く、風が強く、または波が高いときには、移動している船舶51から見た場合に、船舶51の下方の地形が変化する速さが増す。したがって、このようなときには、船舶51の速度が遅く、潮流が遅く、風が弱く、かつ波が低いときと比較して、船外機61の最下部と水底または水面下の岩礁等との接触を回避する措置をとるべきタイミングを早めることが望ましい。また、船舶51の速度が速く、潮流が速く、風が強く、または波が高いときには、船舶51の上下方向における変位量が大きくなる。したがって、このようなときには、船外機61の最下部が水底等に接触する可能性が高いと考えられる船外機61の最下部と水底等との間の距離が、船舶51の速度が遅く、潮流が遅く、風が弱く、かつ波が低いときと比較して大きくなる。これらのことを考慮し、接触回避処理では、第1の水深基準値Pおよび第2の水深基準値Qを、船舶51の速度、潮流の速度、風速、および波高に基づいて変化させる。具体的には、次の基準a~基準dのうちの少なくとも1つを満たすときに、第1の水深基準値Pおよび第2の水深基準値Qをそれぞれ所定量または所定割合増加させる。
基準a:船舶51の速度が所定の船舶速度基準値(例えば50km/h)を超えている
基準b:潮流の速度が所定の潮流速度基準値(例えば3.7km/h)を超えている
基準c:風速が所定の風速基準値(例えば10m/s)を超えている
基準d:波高が所定の波高基準値(例えば2m)を超えている
例えば、上記基準a~基準dのうちの少なくとも1つを満たすときに、第1の接近限界距離および第2の接近限界距離をそれぞれ1.5倍~5倍にする。本実施例においては、上記基準a~基準dのうちの少なくとも1つを満たすときに、第1の接近限界距離および第2の接近限界距離をそれぞれ2倍にする。具体的には、上記基準a~基準dのうちの少なくとも1つを満たすときに、第1の接近限界距離を4mとし、第2の接近限界距離を1.6mとする。その結果、上記基準a~基準dのうちの少なくとも1つを満たすときに、第1の水深基準値Pは、水面から船外機61の最下部までの距離に4mを加算した値となり、第2の水深基準値Qは、水面から船外機61の最下部までの距離に1.6mを加算した値となる。
【0064】
では、
図9に基づいて、接触回避処理の具体的な内容を説明する。接触回避処理において、まず、ゲージ15の水深判断部24が、速度計32、潮流計33、風速計34および波高計35から、船舶51の速度、潮流の速度、風速、および波高のそれぞれの測定値を取得する(ステップS21)。
【0065】
続いて、水深判断部24は、取得した船舶51の速度、潮流の速度、風速、および波高のそれぞれの測定値に基づいて、上記基準a~基準dのうちの少なくとも1つが満たされたか否かを判断し、上記基準a~基準dがいずれも満たされないときには、第1の水深基準値Pを、水面から船外機61の最下部までの距離に2mを加算した値に設定し、第2の水深基準値Qを、水面から船外機61の最下部までの距離に0.8mを加算した値に設定する。一方、上記基準a~基準dのうちの少なくとも1つが満たされたときには、第1の水深基準値Pを、水面から船外機61の最下部までの距離に4mを加算した値に設定し、第2の水深基準値Qを、水面から船外機61の最下部までの距離に1.6mを加算した値に設定する(ステップS22)。
【0066】
続いて、水深判断部24は、魚群探知機31から、船舶51が位置している地点の水深の測定値Mを取得する(ステップS23)。なお、例えば、船舶51が位置している地点の水底が平地である場合、魚群探知機31により測定される水深は、その地点の水面から水底までの距離となる。また、船舶51が位置している地点が岩礁の上方である場合、魚群探知機31により測定される水深は、その地点の水面から岩礁までの距離となる。
【0067】
続いて、水深判断部24は、魚群探知機31から取得した水深の測定値Mが、第2の水深基準値Qよりも大きく、かつ第1の水深基準値P以下であるか否かを判断する(ステップS24)。
【0068】
魚群探知機31から取得した水深の測定値Mが、第2の水深基準値Qよりも大きく、かつ第1の水深基準値P以下であるときには(ステップS24:YES)、ゲージ15の報知部25が、水底または水面下の岩礁等に船外機61の最下部が接近していることを報知する処理を行う(ステップS25)。具体的には、報知部25は、
図10に示すように、ゲージ15のメイン画面D中に「SHALLOW」の文字列41を表示する。「SHALLOW」は、船外機61の最下部が水底または水面下の岩礁等に接近していることを示す文字列である。「SHALLOW」の文字列41はテキストでもよいし画像でもよい。また、このとき、報知部25は、船外機61の最下部が水底または水面下の岩礁等に接近していることを報知する処理として、警報装置36から警報音声を出力させる。
【0069】
なお、船外機61の最下部が水底または水面下の岩礁等に接近していることを報知する処理として、「SHALLOW」以外の文字列またはマークを表示してもよいし、船舶51に設けられた警報ランプを点灯または点滅させてもよいし、船舶51の乗員が感知可能な振動を発生させてもよい。船舶51の乗員が感知可能な振動を発生させる方法としては、例えばステアリングホイール56またはリモートコントロール装置2のレバー4にバイブレータを設け、そのバイブレータを作動させる方法が考えられる。
【0070】
さらに、魚群探知機31から取得した水深の測定値Mが、第2の水深基準値Qよりも大きく、かつ第1の水深基準値P以下であるときには、ゲージ15の外部機器制御部26が機能自動切替信号をリモートコントロール装置2に送信する(ステップS26)。外部機器制御部26から送信された機能自動切替信号はリモートコントロール装置2のスイッチ制御部10により受信される。スイッチ制御部10は、機能自動切替信号を受信したときに、スイッチユニット6に割り当てられている機能が画面切替操作機能である場合には、スイッチユニット6に割り当てられた機能を画面切替操作機能から傾斜角変更操作機能へ切り替える(
図7中のステップS17、S16を参照)。
【0071】
一方、ステップS24の判断結果が否であるときには(ステップS24:NO)、続いて、水深判断部24は、魚群探知機31から取得した水深の測定値Mが第2の水深基準値Q以下であるか否かを判断する(ステップS27)。
【0072】
魚群探知機31から取得した水深の測定値Mが第2の水深基準値Q以下であるときには(ステップS27:YES)、報知部25が、ステップS25と同様に、船外機61の最下部が水底または水面下の岩礁等に接近していることを報知する処理を行い(ステップS28)、かつ外部機器制御部26が、ステップS26と同様に、機能自動切替信号をリモートコントロール装置2に送信する(ステップS29)。さらに、魚群探知機31から取得した水深の測定値Mが第2の水深基準値Q以下であるときには、外部機器制御部26が傾斜角自動設定信号をBCM57に送信する(ステップS30)。外部機器制御部26から送信された傾斜角自動設定信号は、BCM57に受信され、BCM57により各船外機61のECM65に送信される。そして、各船外機61のECM65が傾斜角自動設定信号を受信したとき、各船外機61のECM65は、モータ駆動回路67を制御し、PTTモータ66を駆動させ、船外機61の傾斜角を所定の接触回避角度まで自動的に増加させる。これにより、操縦者がスイッチユニット6を操作しなくても、各船外機61の傾斜角が接触回避角度まで増加する。接触回避角度は、例えば、船外機61の最下部が船体52の船底よりも高い位置となり、かつプロペラ63が水面から上に出ないような傾斜角であることが好ましい。
【0073】
さらに、傾斜角自動設定信号をBCM57に送信して各船外機61の傾斜角を自動的に増加させたときには、報知部25がゲージ15のディスプレイ17に、各船外機61の傾斜角を自動的に増加させた旨を表示し、各船外機61の傾斜角を自動的に増加させたことを操縦者に知らせる(ステップS31)。
【0074】
一方、ステップS27の判断結果が否のとき、すなわち、魚群探知機31から取得した水深の測定値Mが第1の水深基準値Pよりも大きいときには(ステップS27:NO)、この時点において、船外機61の最下部が水底または水面下の岩礁等に接近していることを報知する処理が実行されている場合には、その処理を停止させる(ステップS32)。具体的には、ゲージ15のメイン画面Dから「SHALLOW」の文字列41を消し、また、警報音声を停止させる。
【0075】
以上説明した通り、本発明の実施例の操作システム1は、船外機61の最下部が水底または水面下の岩礁等に接近しており、船外機61の最下部が水底または水面下の岩礁等に接触する可能性が高い状態となったとき、リモートコントロール装置2のスイッチユニット6に割り当てられた機能を画面切替操作機能から傾斜角変更操作機能へ自動的に切り替える。これにより、操縦者は、スイッチユニット6を操作することにより、各船外機61の傾斜角を迅速に増加させることができる。操縦者は、各船外機61の傾斜角を増加させるに当たり、リモートコントロール装置2の機能切替ボタン9、またはゲージ15の機能切替ボタン21を押してスイッチユニット6の機能を画面切替操作機能から傾斜角変更操作機能に手動で切り替えなくてもよい。したがって、例えば悪天候下における航行時において、浅瀬の領域または水面下に岩礁のある領域等に船舶51が入ったことの操縦者による認識が遅れた場合でも、操縦者は、直ちにスイッチユニット6を操作して、各船外機61の傾斜角を速やかに増加させ、船外機61のプロペラ63またはスケグ64等が水底または水面下の岩礁等に接触することを回避することができる。
【0076】
また、本発明の実施例の操作システム1は、船外機61の最下部が水底または水面下の岩礁等に接近しており、船外機61の最下部が水底または水面下の岩礁等に接触する可能性が高い状態となったとき、船外機61の最下部が水底または水面下の岩礁等に接近していることを操縦者等に報知する。したがって、例えば悪天候下における航行時等、浅瀬の領域または水面下に岩礁のある領域等に船舶51が入ったことを操縦者が認識し難い状況であっても、操縦者は、浅瀬の領域または水面下に岩礁のある領域等に船舶51が入ったこと確実に認識することができる。よって、操縦者は、船外機61または船体52と水底または水面下の岩礁等との接触を回避する措置を迅速にとることができる。
【0077】
また、本発明の実施例の操作システム1は、船外機61の最下部が水底または水面下の岩礁等に極めて接近しており、船外機61の最下部が水底または水面下の岩礁等に接触する可能性が極めて高い状態となったときには、各船外機61の傾斜角を自動的に増加させる。したがって、船外機61のプロペラ63またはスケグ64等が水底または水面下の岩礁等に接触することを確実に回避することができる。
【0078】
また、本発明の実施例の操作システム1は、船舶51の速度が速く、潮流が速く、風が強く、または波が高いときには、船舶51の速度が遅く、潮流が遅く、風が弱く、かつ波が低いときと比較して、第1の水深基準値Pおよび第2の水深基準値Qを増加させる。これにより、船舶51の速度が速く、潮流が速く、風が強く、または波が高いときには、船舶51の速度が遅く、潮流が遅く、風が弱く、かつ波が低いときと比較して、スイッチユニット6の機能が傾斜角変更操作機能に切り替わるタイミング、船外機61の最下部が水底または水面下の岩礁等に接近していることが操縦者等に報知されるタイミング、および各船外機61の傾斜角が自動的に増加するタイミングが早くなる。したがって、操縦者は、船舶51の速度が速く、潮流が速く、風が強く、または波が高いときでも、船外機61または船体52と水底または水面下の岩礁等との接触を回避する措置を確実にとることができる。
【0079】
また、本発明の実施例の操作システム1は、船外機61の最下部が水底または水面下の岩礁等に接近しており、船外機61の最下部が水底または水面下の岩礁等に接触する可能性が高い状態であるか否かの判断を、魚群探知機31から取得された水深の測定値に基づいて行う。したがって、当該判断を、魚群の探知の目的で既に船舶51に搭載されている魚群探知機31を利用して容易かつ安価に行うことができる。
【0080】
また、本発明の実施例の操作システム1では、リモートコントロール装置2のレバー4の先端部に設けられたスイッチユニット6に画面切替操作機能を割り当てることができる。これにより、操縦者は、リモートコントロール装置2のレバー4を握った状態で、ゲージ15の画面を切り替えることができる。したがって、操縦者は、船舶51の前方の監視や船舶51の速度調節を行いながら、スイッチユニット6を操作してゲージ15の画面を切り替え、所望の情報をゲージ15から迅速に取得することができる。
【0081】
なお、上記実施例では、スイッチユニットを設ける装置として、コンソール54の上面に取り付けられるトップマウントタイプのリモートコントロール装置2を例にあげたが、本発明はこれに限らない。スイッチユニットを設ける装置は、船体の側板の内面であって操縦席に近い箇所等に取り付けられるサイドマウントタイプまたはフラッシュマウントタイプのリモートコントロール装置でもよい。スイッチユニットを設ける装置は、ティラーハンドルでもよい。
【0082】
また、船外機61の傾斜角の増減を制御する方式は、上記実施例のように電気制御方式に限らず、油圧制御方式でもよい。また、船外機の動力源はエンジンに限らず、電動モータでもよい。また、船舶に設ける船外機の個数は限定されない。また、本発明は、船内外機または船内機等、他の種類の船舶推進機が設けられた船舶にも適用することができる。また、本発明は種々の船舶に適用することができる。
【0083】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う操作システムもまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0084】
1 操作システム
2 リモートコントロール装置(推進力操作装置)
6 スイッチユニット
7 アップボタン(第1の操作スイッチ)
8 ダウンボタン(第2の操作スイッチ)
9 機能切替ボタン(機能切替スイッチ)
10 スイッチ制御部
15 ゲージ
17 ディスプレイ
21 機能切替ボタン(機能切替スイッチ)
22 ゲージ制御部
23 表示制御部
24 水深判断部
25 報知部
26 外部機器制御部
31 魚群探知機(水深測定装置)
32 速度計
33 潮流計
34 風速計
35 波高計
36 警報装置
41 文字列
51 船舶
61 船外機(船舶推進機)
65 ECM(傾斜角制御機構)
66 PTTモータ(傾斜角制御機構)
67 モータ駆動回路(傾斜角制御機構)