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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】産業車両
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/43 20240101AFI20240604BHJP
   G05D 1/246 20240101ALI20240604BHJP
【FI】
G05D1/43
G05D1/246
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021006386
(22)【出願日】2021-01-19
(65)【公開番号】P2022110773
(43)【公開日】2022-07-29
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】服部 晋悟
(72)【発明者】
【氏名】岸田 匡弘
(72)【発明者】
【氏名】松尾 力
(72)【発明者】
【氏名】田島 将太
(72)【発明者】
【氏名】港 智史
(72)【発明者】
【氏名】佐治 恒士郎
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-140490(JP,A)
【文献】国際公開第2013/069147(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/43
G05D 1/246
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業車両が用いられる領域の環境を示す環境地図を記憶した地図記憶部と、
前記領域に存在する物体を検出するための外界センサと、
前記領域に設けられた誘導体を検出するための誘導体センサと、
前記産業車両の自己位置を推定する自己位置推定部と、を備え、
前記自己位置推定部は、前記外界センサの検出結果と前記環境地図とを用いて自己位置推定を行う地図自己位置推定部を含み、
前記産業車両は、
前記領域に予め設定された第1領域、及び前記領域に予め設定された第2領域であって前記地図自己位置推定部による自己位置推定の精度が前記第1領域よりも低くなる前記第2領域のうち前記産業車両がいずれに位置しているかを前記自己位置推定部により推定された前記自己位置から判定する判定部と、
前記地図自己位置推定部により推定された前記自己位置に基づき前記産業車両を走行させる第1走行制御部と、
前記誘導体を用いて前記産業車両を走行させる第2走行制御部と、
前記産業車両が前記第1領域に位置している場合には前記第1走行制御部による走行が行われ、前記産業車両が前記第2領域に位置している場合には前記第2走行制御部による走行が行われるように切り替えを行う切替部と、を備える産業車両。
【請求項2】
前記自己位置推定部は、前記誘導体センサにより検出された前記誘導体を用いて自己位置推定を行う誘導体自己位置推定部を含み、
前記第2走行制御部は、前記誘導体自己位置推定部により推定された前記自己位置に基づき前記産業車両を走行させる請求項1に記載の産業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、産業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示の産業車両は、レーザスキャナと、外界センサと、制御装置と、を備える。制御装置は、レーザスキャナを用いた自己位置推定と、外界センサを用いた自己位置推定と、を行うことができる。レーザスキャナを用いた自己位置推定は、産業車両の用いられる領域に設けられた反射体を用いて行われる。外界センサを用いた自己位置推定は、外界センサの検出結果と環境地図とを照合することで行われる。産業車両の用いられる領域は、確実領域と、不確実領域と、を含む。確実領域は、自己位置推定の精度が要求されない領域である。不確実領域は、自己位置推定の精度が要求される領域である。制御装置は、産業車両が確実領域内に位置している場合であってレーザスキャナによる自己位置推定を行えなくなった場合、外界センサを用いて自己位置推定を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-140490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、産業車両が確実領域内に位置している場合であってレーザスキャナによる自己位置推定を行えなくなった場合に、外界センサを用いて自己位置推定を行っている。この場合、産業車両の自己位置に応じた適切な走行が行われているとはいえない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する産業車両は、産業車両が用いられる領域の環境を示す環境地図を記憶した地図記憶部と、前記領域に存在する物体を検出するための外界センサと、前記領域に設けられた誘導体を検出するための誘導体センサと、前記産業車両の自己位置を推定する自己位置推定部と、を備え、前記自己位置推定部は、前記外界センサの検出結果と前記環境地図とを用いて自己位置推定を行う地図自己位置推定部を含み、前記産業車両は、前記領域に設定された第1領域、及び前記領域に設定された第2領域であって前記地図自己位置推定部による自己位置推定の精度が前記第1領域よりも低くなる前記第2領域のうち前記産業車両がいずれに位置しているかを前記自己位置推定部により推定された前記自己位置から判定する判定部と、前記地図自己位置推定部により推定された前記自己位置に基づき前記産業車両を走行させる第1走行制御部と、前記誘導体を用いて前記産業車両を走行させる第2走行制御部と、前記産業車両が前記第1領域に位置している場合には前記第1走行制御部による走行が行われ、前記産業車両が前記第2領域に位置している場合には前記第2走行制御部による走行が行われるように切り替えを行う切替部と、を備える。
【0006】
切替部は、自己位置から第1走行制御部による走行が行われるか、第2走行制御部による走行が行われるかを切り替えることができる。これにより、第1領域では第1走行制御部、第2領域では第2走行制御部による走行が行われる。第2領域は、地図自己位置推定部による自己位置推定の精度が第1領域よりも低い領域なので、第2領域では誘導体を用いた走行が行われる。自己位置によって第1走行制御部による走行と、第2走行制御部による走行とを切り替えることで、第2領域で第1走行制御部による走行が行われることを抑制できる。このため、産業車両の自己位置に応じた適切な走行を行うことができる。
【0007】
上記産業車両について、前記自己位置推定部は、前記誘導体センサにより検出された前記誘導体を用いて自己位置推定を行う誘導体自己位置推定部を含み、前記第2走行制御部は、前記誘導体自己位置推定部により推定された前記自己位置に基づき前記産業車両を走行させてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、自己位置に応じた適切な走行を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】産業車両が用いられる領域を示す模式図。
図2】産業車両の概略構成図。
図3】第1自己位置推定処理を示すフローチャート。
図4】第2自己位置推定処理を示すフローチャート。
図5】走行処理を示すフローチャート。
図6】ヒートマップの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、産業車両の一実施形態について説明する。
図1に示すように、産業車両10は、予め定められた領域Aで用いられる。産業車両10としては、例えば、フォークリフト、及びトーイングトラクタを挙げることができる。領域Aとしては、例えば、倉庫、工場、公共施設、商用施設、港湾、及び空港を挙げることができる。領域Aには、建屋Bが存在している。建屋Bは、柱Pと、壁Wと、建屋Bの内外を繋ぐ出入口Dと、を備える。領域Aには、停車位置A11が設定されている。停車位置A11は、トラックが停車する位置である。停車位置A11は、建屋Bの外に位置している。停車位置A11は、出入口Dの正面に位置している。
【0011】
建屋B内には、第1領域A1と、第2領域A2とが設定されている。第2領域A2は、出入口Dを含む領域である。第1領域A1は、第2領域A2とは異なる領域である。なお、建屋B外であっても、産業車両10の走行する領域Aは、第1領域A1あるいは第2領域A2に区分されている。
【0012】
領域Aには、誘導体Rが設けられている。誘導体Rは、産業車両10の走行の際に、産業車両10を誘導するために用いられる。本実施形態の誘導体Rは、反射体である。反射体とは、光を照射された際の反射光が、反射体とは異なる物体に比べて強い物体である。本実施形態の反射体は、光を再帰反射する。誘導体Rは、第2領域A2に設けられている。
【0013】
図2に示すように、産業車両10は、駆動機構11と、外界センサ21と、制御装置30と、補助記憶装置41と、を備える。
駆動機構11は、産業車両10を走行させるための機構である。駆動機構11は、走行モータ12と、操舵モータ13と、を含む。走行モータ12は、産業車両10の駆動輪を回転させるためのモータである。操舵モータ13は、産業車両10の操舵輪を操舵するためのモータである。駆動機構11は、走行モータ12、及び操舵モータ13を制御するモータドライバを含む。
【0014】
外界センサ21は、産業車両10の周辺に存在する物体の3次元座標を制御装置30に認識させることができるセンサである。外界センサ21としては、例えば、ミリ波レーダー、ステレオカメラ、ToF(Time of Flight)カメラ、及びLIDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)を挙げることができる。本実施形態では、外界センサ21としてLIDARを用いている。外界センサ21は、周囲にレーザーを照射し、レーザーが当たった点から反射された反射光を受光することで点までの距離を導出する。レーザーが当たった点は、物体の表面の一部を表す点である。点の位置は、極座標系の座標で表すことができる。極座標系における点の座標は、直交座標系の座標に変換することができる。極座標系から直交座標系への変換は、外界センサ21によって行われてもよいし、制御装置30で行われてもよい。本実施形態では、外界センサ21により極座標系から直交座標系への変換が行われているとする。外界センサ21は、センサ座標系での点の座標を導出する。センサ座標系は、外界センサ21を原点とする3軸直交座標系である。外界センサ21は、レーザーを照射することにより得られた複数の点の座標を点群データとして制御装置30に出力する。
【0015】
制御装置30は、プロセッサ31と、記憶部32と、を備える。プロセッサ31としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はDSP(Digital Signal Processor)が用いられる。記憶部32は、RAM(Random access memory)及びROM(Read Only Memory)を含む。記憶部32は、処理をプロセッサ31に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。記憶部32、即ち、コンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。制御装置30は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェア回路によって構成されていてもよい。処理回路である制御装置30は、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、ASICやFPGA等の1つ以上のハードウェア回路、或いは、それらの組み合わせを含み得る。
【0016】
補助記憶装置41は、制御装置30が読み取り可能な情報を記憶している。補助記憶装置41としては、例えば、ハードディスクドライブ、及びソリッドステートドライブを挙げることができる。
【0017】
補助記憶装置41は、産業車両10が用いられる領域Aの環境を示す環境地図MDを記憶している。環境地図MDとは、領域Aに存在する物体の形状、領域Aの広さ等、領域Aの物理的構造に関する情報である。本実施形態において環境地図MDは、領域Aの構造を地図座標系の座標で表したデータである。地図座標系は、例えば、2軸直交座標系である。地図座標系は、領域Aの任意の一点を原点とする座標系である。
【0018】
環境地図MDには、第1領域A1、及び第2領域A2が対応付けられている。即ち、環境地図MD上での位置が第1領域A1に対応するか、第2領域A2に対応するかを制御装置30が判定できるようにしている。補助記憶装置41は、環境地図MDを記憶した地図記憶部である。
【0019】
補助記憶装置41は、誘導体Rの位置情報IDを記憶している。誘導体Rの位置情報IDは、環境地図MD上での誘導体Rの位置を示す情報である。誘導体Rの位置とは、地図座標系での誘導体Rの座標である。
【0020】
制御装置30は、自己位置推定部33と、判定部36と、第1走行制御部37と、第2走行制御部38と、切替部39と、を備える。自己位置推定部33は、第1自己位置推定部34と、第2自己位置推定部35と、を含む。第1自己位置推定部34は、地図自己位置推定部である。第2自己位置推定部35は、誘導体自己位置推定部である。自己位置推定部33、判定部36、第1走行制御部37、第2走行制御部38及び切替部39は、プロセッサ31が記憶部32あるいは補助記憶装置41に記憶されたプログラムを実行することで機能する機能要素である。
【0021】
制御装置30は、産業車両10の自己位置を推定する。自己位置とは、環境地図MD上での産業車両10の位置である。即ち、自己位置とは、地図座標系での産業車両10の一点を示す座標である。産業車両10の一点は任意であるが、例えば、産業車両10の水平方向での中心位置を挙げることができる。制御装置30は、第1自己位置推定処理と、第2自己位置推定処理と、を行う。第1自己位置推定処理は、外界センサ21によって検出された物体と環境地図MDとを用いて自己位置推定を行う処理である。第2自己位置推定処理は、外界センサ21により検出された誘導体Rと誘導体Rの位置情報IDとを用いて自己位置推定を行う処理である。
【0022】
第1自己位置推定処理について説明する。
図3に示すように、ステップS1において、制御装置30は、外界センサ21の検出結果を取得する。これにより、制御装置30は、産業車両10の周囲の形状を点群データとして取得することができる。
【0023】
次に、ステップS2において、制御装置30は、点群データと環境地図MDとを照合することで、自己位置を推定する。制御装置30は、点群データから得られたランドマークと同一形状のランドマークを環境地図MDから抽出する。制御装置30は、環境地図MDからランドマークの位置を認識する。ランドマークの位置と産業車両10との位置関係は、外界センサ21の検出結果から把握できる。従って、制御装置30は、ランドマークの位置を認識することで、自己位置を推定することができる。ランドマークとは外界センサ21により識別可能な特徴を有する物体である。ランドマークは、位置の変化しにくい物理的構造物である。ランドマークとしては、例えば、壁W、及び柱Pを挙げることができる。第1自己位置推定処理では、例えば、NDT(Normal Distributions Transform)を用いて自己位置が推定される。第1自己位置推定処理を行うことで、制御装置30は、自己位置推定部33、及び第1自己位置推定部34として機能している。第1自己位置推定部34は、外界センサ21の検出結果と環境地図MDとを用いて自己位置推定を行う。
【0024】
第2自己位置推定処理について説明する。
図4に示すように、ステップS11において、制御装置30は、外界センサ21の検出結果を取得する。これにより、制御装置30は、産業車両10の周囲の形状を点群データとして取得することができる。
【0025】
次に、ステップS12において、制御装置30は、点群データから誘導体Rを抽出する。制御装置30は、外界センサ21から取得した点のうち、反射光の強度が所定値以上の点は、誘導体Rに照射されたことで得られた点であると判定する。制御装置30は、反射光の強度が所定値以上の点により構成される物体を誘導体Rとして抽出する。これにより、制御装置30は、点群データから誘導体Rを抽出することができる。本実施形態において、外界センサ21が誘導体Rを検出するための誘導体センサとして機能している。
【0026】
次に、ステップS13において、制御装置30は、ステップS12で得られた誘導体Rと誘導体Rの位置情報IDとを照合することで、自己位置を推定する。即ち、誘導体Rをランドマークとして自己位置推定が行われる。第2自己位置推定処理では、例えば、モンテカルロローカリゼーションを用いて自己位置が推定される。第2自己位置推定処理を行うことで、制御装置30は、自己位置推定部33、及び第2自己位置推定部35として機能している。第2自己位置推定部35は、外界センサ21により検出された誘導体Rと誘導体Rの位置情報IDとを用いて自己位置推定を行う。
【0027】
制御装置30は、走行処理を行う。走行処理は、領域A内で産業車両10を走行させる処理である。制御装置30が走行処理を行うことで、産業車両10は領域A内を自動で走行する。走行処理は、所定の制御周期で繰り返し行われる。
【0028】
走行処理について説明する。
図5に示すように、ステップS21において、制御装置30は、目標経路を生成する。目標経路とは、目標位置までの経路である。目標位置とは、産業車両10が移動する目標となる地点である。目標位置は、予め設定された位置であってもよいし、上位制御装置によって指示される位置であってもよい。目標位置は、領域A内で設定される。ステップS21の処理を行うことで、制御装置30は、目標位置までの目標経路を生成する経路生成部を備えているといえる。
【0029】
次に、ステップS22において、制御装置30は、産業車両10が第1領域A1に位置しているか、第2領域A2に位置しているかを判定する。制御装置30は、自己位置推定部33により推定した自己位置が第1領域A1に該当する場合、産業車両10が第1領域A1に位置していると判定する。制御装置30は、自己位置推定部33により推定した自己位置が第2領域A2に該当する場合、産業車両10が第2領域A2に位置していると判定する。制御装置30は、産業車両10が第1領域A1に位置している場合には、第1自己位置推定部34により推定された自己位置を用いてステップS22の判定を行う。制御装置30は、産業車両10が第2領域A2に位置している場合には、第2自己位置推定部35により推定された自己位置を用いてステップS22の判定を行う。産業車両10が第1領域A1に位置していると判定された場合、制御装置30は、ステップS23の処理を行う。産業車両10が第2領域A2に位置していると判定された場合、制御装置30は、ステップS24の処理を行う。ステップS22の処理を行うことで、制御装置30は、判定部36を備えているといえる。判定部36は、第1領域A1及び第2領域A2のうち産業車両10がいずれの領域に位置しているかを自己位置から判定する。
【0030】
なお、制御装置30は、産業車両10が第1領域A1に位置している場合には、第2自己位置推定部35による自己位置推定を行わず、第1自己位置推定部34による自己位置推定を行ってもよい。制御装置30は、産業車両10が第2領域A2に位置している場合には、第1自己位置推定部34による自己位置推定を行わず、第2自己位置推定部35による自己位置推定を行ってもよい。即ち、制御装置30は、自己位置に応じて、第1自己位置推定部34による自己位置推定を行うか、第2自己位置推定部35による自己位置推定を行うかを切り替えてもよい。制御装置30は、産業車両10の位置に関わらず、第1自己位置推定部34による自己位置推定、及び第2自己位置推定部35による自己位置推定の両方を行ってもよい。
【0031】
ステップS23において、制御装置30は、第1自己位置推定部34により推定された自己位置に基づき産業車両10を走行させる。制御装置30は、駆動機構11を制御することで、産業車両10が目標経路に追従するように制御を行う。制御装置30は、目標経路と産業車両10との偏差が所定量未満になるように制御を行う。偏差とは、例えば、目標経路と産業車両10の基準位置とのずれ量である。本実施形態では、基準位置を産業車両10の自己位置としており、目標経路と自己位置とのずれ量が偏差である。ステップS23の処理を行うことで、制御装置30は、第1走行制御部37を備えているといえる。第1走行制御部37は、第1自己位置推定部34により推定された自己位置に基づき産業車両10を走行させる。制御装置30は、ステップS23の処理を終えると、ステップS25の処理を行う。
【0032】
ステップS24において、制御装置30は、誘導体Rにより産業車両10を走行させる。本実施形態において、制御装置30は、第2自己位置推定部35により推定された自己位置に基づき産業車両10を走行させる。ステップS24の処理は、第1自己位置推定部34により推定された自己位置に代えて第2自己位置推定部35により推定された自己位置を用いる点を除いて、ステップS23の処理と同様である。ステップS24の処理を行うことで、制御装置30は、第2走行制御部38を備えているといえる。第2走行制御部38は、誘導体Rにより産業車両10を走行させる。また、ステップS22~ステップS24の処理を行うことで、制御装置30は、切替部39を備えているといえる。切替部39は、第1走行制御部37による走行と、第2走行制御部38による走行との切り替えを行う。制御装置30は、ステップS24の処理を終えると、ステップS25の処理を行う。
【0033】
ステップS25において、制御装置30は、産業車両10の走行を停止させるか否かを判定する。制御装置30は、目標経路と産業車両10との偏差が所定量以上になった場合、あるいは、自己位置を推定できない場合には産業車両10の走行を停止させると判定する。ステップS25の判定結果が否定の場合、制御装置30は、ステップS26の処理を行う。ステップS25の判定結果が肯定の場合、制御装置30は、ステップS27の処理を行う。
【0034】
ステップS26において、制御装置30は、産業車両10の走行を継続させる。
ステップS27において、制御装置30は、産業車両10の走行を停止させる。
次に、第1領域A1及び第2領域A2を設定する方法、並びに、誘導体Rの位置決め方法について説明する。
【0035】
まず、産業車両10の用いられる領域Aの3次元モデルを生成する。3次元モデルは、領域Aの物理的構造を示す点群データを取得した上で、点群データで表される形状の表面をメッシュ化することで生成される。本実施形態の3次元モデルは、メッシュモデルである。3次元モデルは、サーフェスモデルであってもよい。
【0036】
領域Aの点群データを取得する際には、実際に産業車両10を走行させることで、外界センサ21から点群データを取得してもよい。人、あるいは、移動体により外界センサを移動させることで、領域Aの点群データを取得してもよい。人、あるいは、移動体により外界センサを移動させる場合であっても、外界センサ21と同様の外界センサを用いることができる。移動体としては、領域A内を移動できるものであればよい。移動体としては、例えば、荷の搬送を行う搬送車、乗用車、及び無人飛行体を挙げることができる。
【0037】
3次元モデルを生成した後には、シミュレーションを行うことで、ヒートマップを作成する。ヒートマップは、領域Aの環境のみで自己位置推定を行う場合、言い換えれば、誘導体Rが設けられていない環境で自己位置推定を行う場合の自己位置推定の精度を示す。ヒートマップは、第1自己位置推定部34によって自己位置を推定する場合の自己位置推定の精度を示しているともいえる。
【0038】
シミュレーションは、領域Aの状況、及び産業車両10の状況を変更した複数のパターンで行われる。領域Aの状況は、例えば、停車位置A11に停車しているトラックの有無、領域Aに荷や人が存在しているか否か、及び、シャッターや扉が存在している場合にはこれらの開閉状況を挙げることができる。産業車両10の状況としては、例えば、産業車両10の姿勢、及び、産業車両10が走行しているか否かを挙げることができる。産業車両10の姿勢とは、地図座標系の座標軸に対する産業車両10の傾きである。
【0039】
図6には、建屋Bについてシミュレーションを行うことで得られたヒートマップを示す。図6は、建屋Bをモデル化したものであるが、説明の便宜上、壁W、柱P、出入口Dに対応する位置に図1に示す建屋Bと同一の符号を付している。ヒートマップは、色によって数値を視覚化したものであるが、図示の都合上、図6では色に代えて、ドットの濃淡で数値を視覚化している。上記したように、シミュレーションは、複数のパターンで行われるが、図6に示すヒートマップは、1つのパターンで得られたヒートマップである。
【0040】
図6に示すヒートマップでは、自己位置推定の精度の低くなる位置ほどドットの密度が高くなる。自己位置推定の精度は、ランドマークの少ない箇所ほど低くなる傾向にある。自己位置推定の精度は、ランドマークとは異なる物体が多いほど低くなる傾向にある。出入口Dでは、人、あるいは、産業車両10とは異なる産業車両の往来が多くなりやすい。これらが物体として検出されることで、自己位置推定の精度が低下する一因となる。停車位置A11には、トラックが停車する。トラックが物体として検出されることで、自己位置推定の精度が低下する一因となる。図6から把握できるように、出入口Dの周辺では、自己位置推定の精度が低い。一方で、出入口Dから離れており、かつ、ランドマークとなる柱Pに近い位置では、出入口Dの周辺に比べて自己位置推定の精度が高い。
【0041】
ヒートマップにより得られた結果から、自己位置推定の精度が閾値より高い領域を第1領域A1、自己位置推定の精度が閾値以下の領域を第2領域A2として設定する。閾値としては、目標経路と産業車両10との偏差が所定量未満とならないような値に設定される。第2領域A2は、第1自己位置推定部34による自己位置推定の精度が第1領域A1よりも低くなる領域である。詳細にいえば、第1領域A1とは、第1自己位置推定部34による自己位置に基づき走行を行った場合に、目標経路と産業車両10との偏差が所定量未満となる領域である。第2領域A2とは、第1自己位置推定部34による自己位置に基づき走行を行った場合に、目標経路と産業車両10との偏差が所定量以上となり得る領域である。
【0042】
誘導体Rの位置、及び誘導体Rの数は、第2領域A2に産業車両10が位置している場合に、誘導体Rを用いた走行を産業車両10が行えるように決められる。本実施形態では、誘導体Rを用いて第2自己位置推定部35による自己位置推定が行われるため、産業車両10が第2領域A2に位置している際に外界センサ21によって誘導体Rを検出できるように誘導体Rの位置、及び誘導体Rの数が決められる。詳細にいえば、第2自己位置推定部35による自己位置に基づき産業車両10が第2領域A2を走行した場合に、目標経路と産業車両10との偏差が所定量未満となるように誘導体Rの位置、及び誘導体Rの数は決められる。本実施形態において、誘導体Rは第2領域A2に設けられているが、誘導体Rは第1領域A1に設けられてもよい。
【0043】
上記した例では、建屋B内を例に挙げて説明を行ったが、建屋B以外であっても、同様の手法により第1領域A1及び第2領域A2の設定、並びに、誘導体Rの位置及び誘導体Rの数が決められる。
【0044】
本実施形態の作用について説明する。
制御装置30は、第1走行制御部37による環境地図MDを用いた走行を行うか、第2走行制御部38による誘導体Rを用いた走行を行うかを自己位置に応じて切り替える。第1領域A1では、第1走行制御部37による走行が行われる。第1領域A1は、第1走行制御部37による走行によって、産業車両10と目標経路との偏差を所定量未満とすることができる領域である。第1領域A1で第1走行制御部37による走行を行うことで、制御装置30は、目標経路との偏差を所定量未満としつつ産業車両10を走行させることができる。
【0045】
第2領域A2では、第2走行制御部38による走行が行われる。第2領域A2は、第1走行制御部37による走行を行うと、産業車両10と目標経路との偏差が所定量以上となり得る領域である。シミュレーションを行い、第2領域A2で第2走行制御部38による走行を行った場合に、産業車両10と目標経路との偏差を所定量未満とできるように誘導体Rを設けている。これにより、第2領域A2で第2走行制御部38による走行を行うことで、制御装置30は、目標経路との偏差を所定量未満としつつ産業車両10を走行させることができる。
【0046】
上記したように、自己位置に応じて第1走行制御部37による走行と、第2走行制御部38による走行とを切り替えることで、第1領域A1であっても第2領域A2であっても目標経路との偏差を所定量未満にすることができる。従って、自己位置に応じて、第1走行制御部37による走行と第2制御部による走行の適切な切り替えを行うことができる。
【0047】
仮に、第1自己位置推定部34により自己位置を推定できなくなった場合に第1走行制御部37による走行を第2走行制御部38による走行に切り替えたとする。この場合、産業車両10と目標経路との偏差が所定量以上となりやすい。これは、自己位置を推定できなくなる前には自己位置推定の精度が低下しているおそれがあり、偏差が大きくなりやすいことが一因である。更に、自己位置が推定できなくなることで、第2走行制御部38による走行への切り替えが行われる前には偏差を算出しにくく、これにより偏差が大きくなりやすいことが一因である。第2自己位置推定部35により自己位置を推定できなくなった場合に第2走行制御部38による走行を第1走行制御部37による走行に切り替えた場合であっても同様のことがいえる。
【0048】
領域Aの全体に誘導体Rを設けて、第2走行制御部38による走行のみを行うことも考えられる。しかしながら、この場合、誘導体Rを設ける手間がかかること、誘導体Rのコストが増加することといった課題が生じる。
【0049】
本実施形態のように、自己位置に応じて第1走行制御部37による走行と、第2走行制御部38による走行とを切り替えることで、第2走行制御部38による走行のみを行う場合に比べて誘導体Rを減らすことができる。従って、誘導体Rを設けることなく走行を行うことができる第1走行制御部37による利点を享受しつつ、第1領域A1であっても第2領域A2であっても目標経路と産業車両10との偏差を所定量未満とすることができる。
【0050】
本実施形態の効果について説明する。
(1)制御装置30は、第1領域A1では第1走行制御部37、第2領域A2では第2走行制御部38による走行が行われるようにしている。第2領域A2は、第1自己位置推定部34による自己位置推定の精度が第1領域A1よりも低い領域であり、第2領域A2で第1走行制御部37による走行を行うと、目標経路と産業車両10との偏差が所定量以上となるおそれがある。自己位置によって第1走行制御部37による走行と、第2走行制御部38による走行とを切り替えることで、第2領域A2で第1走行制御部37による走行が行われることを抑制できる。このため、産業車両10の自己位置に応じた適切な走行を行うことができる。
【0051】
(2)自己位置推定部33は、第1自己位置推定部34と、第2自己位置推定部35と、を含む。第1自己位置推定部34は、環境地図MDを用いて自己位置を推定する。第2自己位置推定部35は、誘導体Rを用いて自己位置を推定する。これにより、産業車両10の周辺環境に応じた自己位置推定を行うことができる。
【0052】
また、第2領域A2で第2走行制御部38による走行を行った場合に、産業車両10と目標経路との偏差を所定量未満とできるように誘導体Rを設けている。これにより、第1領域A1であっても、第2領域A2であっても目標経路との偏差を所定量未満にすることができる。
【0053】
実施形態は、以下のように変更して実施することができる。実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
○第1自己位置推定部34は、環境地図MDを用いた自己位置推定と、デッドレコニングによる自己位置推定との組み合わせにより自己位置を推定してもよい。デッドレコニングとは、車輪の回転量を検出する回転数センサ、加速度センサ及びジャイロセンサの少なくとも1つを用いることで、自己移動量を推定することである。産業車両10が屋外で用いられる場合であれば、第1自己位置推定部34は、環境地図MDを用いた自己位置推定と、GNSS(Global Navigation Satellite System)による自己位置推定との組み合わせにより自己位置を推定してもよい。
【0054】
同様に、第2自己位置推定部35は、誘導体Rを用いた自己位置推定と、デッドレコニングによる自己位置推定との組み合わせにより自己位置を推定してもよい。第2自己位置推定部35は、誘導体Rを用いた自己位置推定と、GNSSによる自己位置推定との組み合わせにより自己位置を推定してもよい。
【0055】
○第2自己位置推定部35は、誘導体Rを用いた三角測量により自己位置を推定してもよい。この場合、誘導体Rは3つ以上設けられる。
○第2走行制御部38は、誘導体Rを用いた走行を行えればよく、誘導体Rの種類は任意に変更してもよい。
【0056】
第2走行制御部38による走行を行う際の誘導体Rとして、磁気ガイドを用いてもよい。磁気ガイドとしては、例えば、磁気テープ及び磁気マーカーを挙げることができる。磁気ガイドは、第2領域A2に設けられる。磁気ガイドは、産業車両10を走行させる経路に沿って設けられる。産業車両10は、誘導体センサとして磁気ガイドの磁束を検出する磁気センサを備える。制御装置30は、磁気センサにより磁気ガイドの磁束を検出しながら、経路に沿って産業車両10を走行させる。この場合、自己位置推定部33は、第1自己位置推定部34を備え、第2自己位置推定部35を備えない。第1走行制御部37による走行と、第2走行制御部38による走行とは、第1自己位置推定部34により推定された自己位置に応じて切り替えられる。
【0057】
第2走行制御部38による走行を行う際の誘導体Rとして、マーカーを用いてもよい。マーカーとしては、例えば、ドットコード、QRコード(登録商標)、及びARマーカーを用いることができる。産業車両10は、誘導体センサとしてカメラを備える。マーカーは、産業車両10が第2領域A2に位置している際に、カメラに撮像されるように設けられる。制御装置30は、カメラを用いた画像認識処理によりカメラの座標系におけるマーカーの位置を導出する。制御装置30は、カメラの取付位置、及びカメラの座標系におけるマーカーの位置から自己位置を推定することができる。
【0058】
第2走行制御部38による走行を行う際の誘導体Rとして、無線信号を送信する複数の無線機を用いてもよい。無線信号は、電磁誘導又は電波として送信される。産業車両10は、誘導体センサとして無線信号を受信する受信機を備える。無線機には、それぞれ、固有のIDコードが付与されている。補助記憶装置41には、誘導体Rの位置情報IDとして、それぞれの無線機の位置を示す情報が記憶されている。無線機は、IDコードを示す情報を含む無線信号を送信する。制御装置30は、受信機により受信した無線信号の受信強度や伝搬時間を距離に換算する。制御装置30は、多点測位により、自己位置を推定することができる。
【0059】
○制御装置30が、自己位置に応じて、第1自己位置推定部34による自己位置推定を行うか、第2自己位置推定部35による自己位置推定を行うかを切り替える場合であっても、産業車両10の起動時には第1自己位置推定部34による自己位置推定と第2自己位置推定部35による自己位置推定の両方を行ってもよい。産業車両10の起動時とは、産業車両10が停止状態から起動状態にされた時である。停止状態とは、キーオフ状態と呼ばれることもある。起動状態は、キーオン状態と呼ばれることもある。産業車両10の起動時には、自己位置が推定されておらず、自己位置が第1領域A1に該当するか、第2領域A2に該当するかを判定することができない。この場合、第1自己位置推定部34による自己位置推定、及び第2自己位置推定部35による自己位置推定の両方を行うことで、自己位置が第1領域A1に該当するか、第2領域A2に該当するかを判定してもよい。第1自己位置推定部34により推定された自己位置と第2自己位置推定部35により推定された自己位置とが異なる場合、第1自己位置推定部34及び第2自己位置推定部35のうち、予め定められた方の推定結果を採用してもよい。第1自己位置推定部34により推定された自己位置と第2自己位置推定部35により推定された自己位置とが異なる場合、尤度が高いほうを採用してもよい。
【0060】
○領域Aに、第1領域A1と第2領域A2との境界を含む第3領域を設定してもよい。第3領域は、第1領域A1と第2領域A2との境界から第1領域A1及び第2領域A2の両側に所定の範囲で拡がる領域である。第3領域は、第1領域A1の一部及び第2領域A2の一部を含む領域といえる。第3領域は、第1自己位置推定部34による自己位置推定が行われる場合であっても、第2自己位置推定部35による自己位置推定が行われる場合であっても、目標経路と産業車両10との偏差を所定量未満とできるように設定される。制御装置30は、第1領域A1であって第3領域とは異なる領域に産業車両10が位置している場合には、第2自己位置推定部35による自己位置推定を行わず、第1自己位置推定部34による自己位置推定を行う。制御装置30は、第2領域A2であって第3領域とは異なる領域に産業車両10が位置している場合には、第1自己位置推定部34による自己位置推定を行わず、第2自己位置推定部35による自己位置推定を行う。制御装置30は、第3領域に産業車両10が位置している場合には、第1自己位置推定部34による自己位置推定と、第2自己位置推定部35による自己位置推定との両方を行う。
【0061】
○第1自己位置推定部34による自己位置推定のアルゴリズムと、第2自己位置推定部35による自己位置推定のアルゴリズムとは同一であってもよい。即ち、第1自己位置推定部34は、環境地図MDを用いて自己位置を推定し、第2自己位置推定部35は誘導体Rの位置情報IDを用いて自己位置を推定していればよい。
【0062】
○外界センサ21としては、産業車両10の周辺に存在する物体の2次元座標を制御装置30に認識させることができるセンサであってもよい。この種のセンサとしては、例えば、照射角度を変更しながらレーザーを照射する2次元のレーザーレンジファインダを挙げることができる。
【0063】
○誘導体センサは、外界センサ21とは別のセンサであってもよい。
○環境地図MDは記憶部32に記憶されていてもよい。誘導体Rの位置情報IDは記憶部32に記憶されていてもよい。
【0064】
○第1自己位置推定部34、第2自己位置推定部35、判定部36、第1走行制御部37、第2走行制御部38、及び切替部39は、それぞれ、別の装置であってもよい。
【符号の説明】
【0065】
A…領域、A1…第1領域、A2…第2領域、MD…環境地図、R…誘導体、10…産業車両、21…誘導体センサとしての外界センサ、30…制御装置、33…自己位置推定部、34…地図自己位置推定部としての第1自己位置推定部、35…誘導体自己位置推定部としての第2自己位置推定部、36…判定部、37…第1走行制御部、38…第2走行制御部、39…切替部、41…地図記憶部としての補助記憶装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6