(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】鋳造用金型
(51)【国際特許分類】
B22C 9/06 20060101AFI20240604BHJP
B22C 9/10 20060101ALI20240604BHJP
B22C 9/22 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
B22C9/06 C
B22C9/10 T
B22C9/22 A
(21)【出願番号】P 2021016260
(22)【出願日】2021-02-04
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷川 弘晃
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-151715(JP,A)
【文献】特開2013-132685(JP,A)
【文献】特開昭60-102248(JP,A)
【文献】特開平05-253663(JP,A)
【文献】実開昭60-005749(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2007/0131377(US,A1)
【文献】中国実用新案第201855922(CN,U)
【文献】米国特許第8434546(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 9/06
B22C 9/10
B22C 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上型と下型と横型と中子とを備える鋳造用金型であって、
前記中子は、本体部と、前記本体部に連続する幅木部と、を有し、
前記下型は、前記幅木部を収容する収容部を有し、
前記幅木部を、前記収容部の内側面に向かって付勢する付勢部材を、さらに備え
、
前記付勢部材は、一端が前記幅木部に接触するピン部材と、前記ピン部材における前記幅木部と接触する側とは反対の他端側に配置され、前記ピン部材を前記幅木部に向けて付勢するバネと、を有し、
前記下型には、前記ピン部材の一部を収容する横方向の第1貫通孔が形成され、
前記第1貫通孔に連続し前記ピン部材の一部と前記バネとを収容する横方向の第2貫通孔が形成され、前記下型を横方向から支持する板状部材と、前記第2貫通孔における前記第1貫通孔に連続する側とは反対側の開口を封止するキャップ部材と、をさらに備える、
鋳造用金型。
【請求項2】
上型と下型と横型と中子とを備える鋳造用金型であって、
前記中子は、本体部と、前記本体部に連続する幅木部と、を有し、
前記下型は、前記幅木部を収容する収容部を有し、
前記幅木部を、前記収容部の内側面に向かって付勢する付勢部材を、さらに備え、
前記付勢部材は、一端が前記幅木部に接触するピン部材と、前記ピン部材における前記幅木部と接触する側とは反対の他端側に配置され、前記ピン部材を前記幅木部に向けて付勢するバネと、を有し、
前記収容部と前記幅木部とのうちの少なくとも一方には、前記収容部の内側面と前記幅木部の外側面との隙間においてクリアランスの大きさが前記隙間における他の部分の大きさよりも小さい1つ以上の小クリアランス部を形成するための突出部が形成されている、
鋳造用金型。
【請求項3】
請求項
2に記載の鋳造用金型であって、
前記本体部は、長手方向を有する外観形状を有し、
前記幅木部の上端部は、前記本体部における前記長手方向の一端において前記本体部に接続され、
前記隙間のうち、横方向における内側であって縦方向における下側と、横方向における外側であって縦方向における上側と、にそれぞれ前記小クリアランス部を有し、
前記隙間のうち前記横方向における外側であって縦方向における上側の前記小クリアランス部は、前記収容部に形成された前記突出部により形成され、
前記ピン部材は、前記隙間のうち前記横方向における外側であって縦方向における上側の前記小クリアランス部を通って、前記幅木部に接触する、鋳造用金型。
【請求項4】
請求項
1から請求項3のいずれか一項に記載の鋳造用金型において、
前記ピン部材の前記一端は、半球状の外観形状を有する、鋳造用金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋳造用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋳造により製造される製品の内部に開口部や空洞を形成するために、中子が用いられている。中子は、その一部がアルミニウム等の金属の溶湯が流入されるキャビティ内に配置されるように金型に固定される。一般に中子は砂と樹脂とで形成され、溶湯よりも低い比重を有するため、溶湯内において浮力を受ける。かかる浮力による中子の位置ずれを防止するため、中子のうち金型に固定される部分である幅木部と、下型において幅木部を収容する収容部との間のクリアランスを適切に管理することが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構成では、幅木部と下型の収容部との間のクリアランスを適切に管理することが困難であるという問題がある。例えば、下型の熱間変形や、幅木部および下型の製造ばらつき、幅木部の収容時の姿勢のばらつき、下型の摩耗による経年変化などを考慮して適切にクリアランスを設定しなければならず、作業者に大きな負担を強いていた。また、定期的にクリアランスの調整を行わねばならず、この点においても作業者に大きな負担を強いていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
[形態1]上型と下型と横型と中子とを備える鋳造用金型であって、前記中子は、本体部と、前記本体部に連続する幅木部と、を有し、前記下型は、前記幅木部を収容する収容部を有し、前記幅木部を、前記収容部の内側面に向かって付勢する付勢部材を、さらに備え、前記付勢部材は、一端が前記幅木部に接触するピン部材と、前記ピン部材における前記幅木部と接触する側とは反対の他端側に配置され、前記ピン部材を前記幅木部に向けて付勢するバネと、を有し、前記下型には、前記ピン部材の一部を収容する横方向の第1貫通孔が形成され、前記第1貫通孔に連続し前記ピン部材の一部と前記バネとを収容する横方向の第2貫通孔が形成され、前記下型を横方向から支持する板状部材と、前記第2貫通孔における前記第1貫通孔に連続する側とは反対側の開口を封止するキャップ部材と、をさらに備える、鋳造用金型。
[形態2]上型と下型と横型と中子とを備える鋳造用金型であって、前記中子は、本体部と、前記本体部に連続する幅木部と、を有し、前記下型は、前記幅木部を収容する収容部を有し、前記幅木部を、前記収容部の内側面に向かって付勢する付勢部材を、さらに備え、前記付勢部材は、一端が前記幅木部に接触するピン部材と、前記ピン部材における前記幅木部と接触する側とは反対の他端側に配置され、前記ピン部材を前記幅木部に向けて付勢するバネと、を有し、前記収容部と前記幅木部とのうちの少なくとも一方には、前記収容部の内側面と前記幅木部の外側面との隙間においてクリアランスの大きさが前記隙間における他の部分の大きさよりも小さい1つ以上の小クリアランス部を形成するための突出部が形成されている、鋳造用金型。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、上型と下型と横型と中子とを備える鋳造用金型が提供される。この鋳造用金型において、前記中子は、本体部と、前記本体部に連続する幅木部と、を有し、前記下型は、前記幅木部を収容する収容部を有し、前記幅木部を、前記収容部の内側面に向かって付勢する付勢部材を、さらに備える。
この形態の鋳造用金型によれば、幅木部を収容部の内側面に向かって付勢する付勢部材を備えるので、幅木部を収容部に押し当てることができる。このため、幅木部と収容部との摩擦力を利用して、中子が溶湯の浮力により位置ずれすることを抑制でき、簡易に中子の位置ずれを抑制して作業者の負担を軽減できる。
(2)上記形態の鋳造用金型において、前記付勢部材は、一端が前記幅木部に接触するピン部材と、前記ピン部材における前記幅木部と接触する側とは反対の他端側に配置され、前記ピン部材を前記幅木部に向けて付勢するバネと、を有してもよい。
この形態の鋳造用金型によれば、付勢部材は、ピン部材と、ピン部材を幅木部に向けて付勢するバネとを有するので、下型やピン部材において摩耗等による経年変化が生じても継続して幅木部を収容部に押し付けることができる。このため、メンテナンスに要する作業者の負担を軽減できる。
(3)上記形態の鋳造用金型において、前記ピン部材の前記一端は、半球状の外観形状を有してもよい。
この形態の鋳造用金型によれば、ピン部材において幅木部に接触する一端の外観形状が半球状であるので、非常に狭い領域で(いわゆる1点で)、幅木部とピン部材とを接触させることができる。このため、幅木部の姿勢やピン部材の姿勢の如何に関わらず、接触位置をほぼ一定にでき、安定した付勢力で幅木部を収容部に押し付けることができる。
(4)上記形態の鋳造用金型において、前記横型には、前記ピン部材の一部を収容する横方向の第1貫通孔が形成され、前記第1貫通孔に連続し前記ピン部材の一部と前記バネとを収容する横方向の第2貫通孔が形成され、前記下型を横方向から支持する板状部材と、前記第2貫通孔における前記第1貫通孔に連続する側とは反対側の開口を封止するキャップ部材と、をさらに備えてもよい。
この形態の鋳造用金型によれば、幅木部を収容部に収容し、各型を閉じた後に、板状部材の開口からピン部材を挿入してキャップ部材により開口を封止できる。したがって、幅木部を収容部に収容する際にピン部材が邪魔になることを回避できる。
(5)上記形態の鋳造用金型において、前記収容部と前記幅木部とのうちの少なくとも一方には、前記収容部の内側面と前記幅木部の外側面との隙間においてクリアランスの大きさが前記隙間における他の部分の大きさよりも小さい1つ以上の小クリアランス部を形成するための突出部が形成されていてもよい。
この形態の鋳造用金型によれば、収容部と幅木部とのうちの少なくとも一方には、小クリアランス部を形成するための突出部が形成されているので、小クリアランス部を利用することによっても幅木部が収容部において位置ずれすることを抑制でき、中子の位置ずれをより抑制できる。また、隙間において小クリアランス部以外の部分はクリアランスの大きさが比較的大きいので、幅木部を収容部に収容する際の作業性を向上できる。
(6)上記形態の鋳造用金型において、前記本体部は、長手方向を有する外観形状を有し、前記幅木部の上端部は、前記本体部における前記長手方向の一端において前記本体部に接続され、前記隙間のうち、横方向における内側であって縦方向における下側と、横方向における外側であって縦方向における上側と、にそれぞれ前記小クリアランス部を有し、前記隙間のうち前記横方向における外側であって縦方向における上側の前記小クリアランス部は、前記収容部に形成された前記突出部により形成され、前記ピン部材は、前記隙間のうち前記横方向における外側であって縦方向における上側の前記小クリアランス部を通って、前記幅木部に接触してもよい。
幅木部の上端部が本体部における長手方向の一端と接続されているので、溶湯の浮力により、幅木部において横方向における内側であって縦方向における下側を回転中心として、幅木部において横方向における外側であって縦方向における上側が下方に向かうように、中子は回転しようとする。しかし、上記形態の鋳造用金型によれば、ピン部材は、隙間のうち横方向における外側であって縦方向における上側の小クリアランス部を通って幅木部に接触しているので、かかる回転を小さな力でより確実に抑制できる。
本開示は、種々の形態で実現することも可能である。例えば、鋳造方法、鋳造用金型の製造方法、中子固定方法、中子固定用部材などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の一実施形態としての鋳造用金型の構成を示す断面図。
【
図2】中子と収容部の詳細構成を模式的に示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.実施形態:
A1.装置構成:
図1は、本開示の一実施形態形態としての鋳造用金型100の構成を示す断面図である。鋳造用金型100は、シリンダヘッドを鋳造するために用いられる。
図1には、鋳造用金型100に加えて、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸が示されている。X軸およびY軸は、水平面と平行である。Z軸は鉛直方向と平行である。+Z方向が鉛直上方であり、-Z方向が鉛直下方である。他の図面(
図2)のX軸、Y軸およびZ軸は、
図1のX軸、Y軸およびZ軸に対応する。本実施形態において、「X軸方向」とは、+X方向と-X方向の総称を意味する。同様に、「Y軸方向」とは+Y方向と-Y方向の総称を意味し、「Z軸方向」とは+Z方向と-Z方向の総称を意味する。なお、
図1では、鋳造用金型100のうち、吸気ポートが形成される部位を含む一部のみを示し、他の部位(
図1向かって左側の部位)は、図示の便宜上省略されている。
【0009】
鋳造用金型100は、上型40と、下型60と、横入子50と、板状部材30と、中子10と、付勢部材20と、キャップ部材80とを備える。上型40と、下型60と、横入子50とにより、シリンダヘッドを形成するためのキャビティ110が形成されている。かかるキャビティ110には、アルミニウム合金の溶湯が充填される。なお、アルミニウム合金に限らず他の任意の種類の金属溶湯が充填されてもよい。本実施形態において、上型40と、下型60と、横入子50と、板状部材30とは、いずれも鋼により形成されている。
【0010】
上型40は、鋳造用金型100において+Z方向の端部に配置され、シリンダヘッドの上端部を形作る。
【0011】
下型60は、鋳造用金型100において-Z方向の端部に配置され、シリンダヘッドの下端部およびシリンダヘッドの下方側端部を形作る。下型60は、台座70に載置されている。台座70には、厚さ方向に貫通する溶湯供給孔75が形成されている。溶湯供給孔75の一端はキャビティ110に連通しており、溶湯供給孔75を介してキャビティ110に溶湯が供給される。また、下型60の上端部には、+Z方向に突出する部位があり、かかる部位には、X軸方向に貫通する第1貫通孔63が形成されている。第1貫通孔63には、付勢部材20の一部(後述のピン部材21の先端部)が挿入されている。下型60には、収容部65が形成されている。収容部65には、中子10の一部(後述する幅木部12)が収容される。収容部65は、+Z方向の端部が開口し、Z軸方向に延設された有底の穴として構成されている。収容部65は、-Z方向に向かうにつれて断面積が小さくなるカップ状の概略形状を有する。
【0012】
横入子50は、上型40と下型60とに挟まれて配置され、シリンダヘッドの上方側端部を形作る。板状部材30は、鋳造用金型100において-X方向の端部に配置されている。板状部材30の+X方向の面は、下型60の-X方向の端面、および横入子50の-X方向の端面に接している。板状部材30は、横入子50および下型60を横方向から支持する。板状部材30は、横入子50に連結されており、連結板とも呼ばれる。横入子50と板状部材30とが連結された状態の部材を横型と呼ぶこともある。板状部材30には、厚さ方向に貫通する段付きの第2貫通孔31が形成されている。第2貫通孔31は、+X方向に位置する径が小さな部分(小径部)と、-X方向に位置する径が大きな部分(大径部)とにより構成されている。第2貫通孔31には、付勢部材20の一部(後述のピン部材21の後端部および後述のバネ23)が挿入されている。第2貫通孔31は、上述の下型60に形成されている第1貫通孔63と連通している。
【0013】
中子10は、砂と凝固用の樹脂材料とからなる材料により形成されている。中子10は、シリンダヘッドにおける吸気ポートを形成するために用いられる。中子10は、本体部11と、本体部11に連続する幅木部12とを備え、本体部11と幅木部12とが一体形成された構造を有する。
【0014】
図2は、中子10と収容部65の詳細構成を模式的に示す説明図である。
図2では、上型40、下型60の一部、板状部材30、台座70など、鋳造用金型100における一部の構成要素が省略されている。
【0015】
図1および
図2に示すように、本体部11は、キャビティ110内に配置され、吸気ポートを形作る。本体部11は、長手方向を有する先細りの円柱形状を有する。本体部11の長手方向は、水平方向および垂直方向に対して傾斜した方向である。換言すると、本体部11は、-X方向に向かうにつれて+Z方向に位置するようにキャビティ110内に配置されている。本体部11の-X方向且つ+Z方向の端部は、幅木部12の上端部に連続する。
【0016】
幅木部12は、中子10を金型(下型60)に固定するために用いられる。幅木部12は、上方端部が最も大きく、-Z方向に向かうにつれて小さくなるテーパ状の断面形状を有する柱状部材である。幅木部12は、収容部65に収容されている。
【0017】
図2に示すように、収容部65の内側面と、幅木部12の外側面との隙間Gaには、2つの小クリアランス部(第1小クリアランス部sc1および第2小クリアランス部sc2)が含まれている。第1小クリアランス部sc1は、隙間Gaにおいて、横方向における内側であって縦方向における下側、換言すると、+X方向且つ-Z方向に位置している。第2小クリアランス部sc2は、隙間Gaにおいて、横方向における外側であって縦方向における上側、換言すると、-X方向且つ+Z方向に位置している。2つの小クリアランス部sc1、sc2は、隙間Gaにおける他の部分に比べて、収容部65の内側面と幅木部12の外側面との間の距離が小さい。これらの2つの小クリアランス部sc1、sc2は、下型60に形成されている2つの突出部(第1突出部61および第2突出部62)により実現されている。第1突出部61は、収容部65において、横方向における内側であって縦方向における下側、換言すると、+X方向且つ-Z方向に位置している。第2突出部62は、収容部65において、横方向における外側であって縦方向における上側、換言すると、-X方向且つ+Z方向に位置している。2つの小クリアランス部sc1、sc2は、収容部65内における幅木部12の位置ずれを抑制する。具体的には、2つの小クリアランス部sc1、sc2では、収容部65の内側側面と幅木部12の外側側面との距離、すなわちX軸方向に沿った距離が他の部分よりも小さいため、幅木部12のX軸方向に沿った位置ずれを抑制できる。また、収容部65の内側側面と幅木部12の外側側面との距離が他の部分よりも小さいので、幅木部12と収容部65とが接し易く、摩擦力により、幅木部12が鉛直方向(Z軸方向)にずれることが抑制される。
【0018】
付勢部材20は、幅木部12を収容部65の内側面に向かって付勢する。
図1に示すように、付勢部材20は、下型60に形成されている第1貫通孔63と、板状部材30に形成されている第2貫通孔31とに亘って配置されている。
図1に示すように、付勢部材20は、ピン部材21と、バネ23とを備える。
【0019】
ピン部材21は、棒状の外観形状を有し、長手方向がX軸方向と平行となるように、配置されている。本実施形態において、ピン部材21は、鋼により形成されている。なお、鋼に限らず、樹脂やセラミックスなど任意の材料により形成されてもよい。ピン部材21の+X方向の端部側の一部は、第1貫通孔63に収容されている。ピン部材21の+X方向の端は、半球状の外観形状を有し、幅木部12に接触している。
図2に示すように、ピン部材21は、第2小クリアランス部sc2を通って幅木部12に接触している。ピン部材21の+X方向の端が半球状に構成されていることにより、非常に狭い領域で(いわゆる1点で)、幅木部12とピン部材21とを接触させることができる。このため、幅木部12の姿勢やピン部材21の姿勢の如何に関わらず、接触位置をほぼ一定にでき、安定した付勢力で幅木部を収容部に押し付けることができる。
【0020】
図1に示すように、ピン部材21において-X方向の端部寄りの位置には、鍔部22が形成されている。ピン部材21において鍔部22と鍔部22よりも-X方向側の部分とは、第2貫通孔31に収容されている。鍔部22は、第2貫通孔31の大径部に収容されている。第2貫通孔31の小径部の径の大きさは、ピン部材21における鍔部22を除く他の部分の径よりも小さい。このため、鍔部22の+X方向への移動は制限される。バネ23は、本実施形態では、コイルバネによって構成されている。バネ23の+X方向の端部は、鍔部22の-X方向の端面に接している。他方、バネ23の-X方向の端部は、キャップ部材80の+X方向の端面に接している。バネ23は、ピン部材21を+X方向に付勢する。これにより、ピン部材21の+X方向の先端は、幅木部12に接し、幅木部12を+X方向に(収容部65の内側面に向けて)付勢する。なお、ピン部材21の接触(付勢)により幅木部12が損傷しない程度のばね定数が、予め実験等により特定され、特定されたばね定数のバネが、バネ23として採用されている。また、バネ23のストローク量は、底付きしないストローク量が予め実験等により特定され、特定されたストローク量に基づき、第2貫通孔31のX軸方向の長さが設定されている。
【0021】
上述のように、ピン部材21がバネ23によって+X方向に付勢されていることにより、ピン部材21を、幅木部12に常時接触させることができる。例えば、中子10の出し入れの繰り返しにより、下型60が摩耗して収容部65の形状が初期状態から変化した場合であっても、幅木部12にピン部材21を接触させることができる。また、ピン部材21の先端が摩耗して初期状態から経年変化した場合であっても、幅木部12にピン部材21を接触させることができる。また、中子10の製造バラツキにより幅木部12の形状、特に、幅木部12の上部のX軸方向の寸法が一定でないとしても、幅木部12にピン部材21を接触させることができる。
【0022】
図1に示すように、キャップ部材80は、第2貫通孔31における第1貫通孔63に連続する側とは反対側の開口、換言すると、第2貫通孔31における-X方向の端部の開口を封止する。キャップ部材80は、バネ23の-X方向の端に接触し、バネ23からの応力を受け、バネに反力を加える。本実施形態において、キャップ部材80は、鋼により形成されている。なお、鋼に限らず、樹脂やセラミックスなど任意の材料により形成されてもよい。
【0023】
なお、図示は省略しているが、鋳造用金型100における図示を省略した部分、すなわち、
図1における向かって左側の省略されている部分も、上述した右側の構成と同様な構成を有する。
【0024】
A2.鋳造用金型100の組み付け手順:
まず、台座70に下型60を載置する。収容部65に中子10の幅木部12を収容する。横入子50と上型40とを配置する。板状部材30を側面に配置する。付勢部材20を第1貫通孔63および第2貫通孔31に収容する。第2貫通孔31の開口をキャップ部材80で封止する。板状部材30の外側面S1を図示しないシリンダでX軸方向に押圧することにより、型締めを行う。これにより、付勢部材20が幅木部12を収容部65の内側面に向けて付勢し、収容部65における幅木部12の位置ずれが抑制される。このため、その後キャビティ110に溶湯が充填され、本体部11が溶湯から浮力を受けた場合でも、中子10が位置ずれすることが抑制される。
【0025】
A3.付勢部材20の配置位置による効果:
上述のように、付勢部材20により幅木部12が収容部65の内側面に向けて付勢されることにより、収容部65における幅木部12の位置ずれが抑制される。また、2つの小クリアランス部sc1、sc2が形成されていることによっても収容部65における幅木部12の位置ずれが抑制される。これらの効果を、
図2を用いてより詳しく説明する。
【0026】
本体部11の長手方向の一端は、幅木部12の上端部に接続されている。このため、
図2に示すように、本体部11に対して溶湯の浮力F1が+Z方向に加わると、幅木部12は、+X方向且つ-Z方向の端部付近を中心として、太い矢印によって示す回転方向D1に回転しようとする。このとき、回転中心となる点p1は、小クリアランス部sc1を形成する第1突出部61の近傍となる。そして、付勢部材20(ピン部材21)が幅木部12に接触している点p2は、幅木部12において-X方向且つ+Z方向の端部付近である。したがって、回転中心である点p1から大きく離れた点p2において幅木部12を回転方向D1とは略反対方向に付勢するので、幅木部12の回転をより小さな力により確実に抑えることができる。
【0027】
以上説明した実施形態の鋳造用金型100によれば、幅木部12を収容部65の内側面に向かって付勢する付勢部材20を備えるので、幅木部12を収容部65に押し当てることができる。このため、幅木部12と収容部65との摩擦力を利用して、中子10が溶湯の浮力により位置ずれすることを抑制でき、簡易に中子10の位置ずれを抑制して作業者の負担を軽減できる。
【0028】
また、付勢部材20は、ピン部材21と、ピン部材21を幅木部12に向けて付勢するバネ23とを有するので、下型60やピン部材21において摩耗等による経年変化が生じても継続して幅木部12を収容部65に押し付けることができる。このため、メンテナンスに要する作業者の負担を軽減できる。
【0029】
また、ピン部材21において幅木部12に接触する一端の外観形状が半球状であるので、非常に狭い領域で(いわゆる1点で)、幅木部12とピン部材21とを接触させることができる。このため、幅木部12の姿勢やピン部材21の姿勢の如何に関わらず、接触位置をほぼ一定にでき、安定した付勢力で幅木部12を収容部65に押し付けることができる。
【0030】
また、幅木部12を収容部65に収容し、各型40、50、60を閉じた後に、板状部材30の開口からピン部材21を第1貫通孔63および第2貫通孔31に挿入してキャップ部材80により開口を封止できる。したがって、幅木部12を収容部65に収容する際にピン部材21が邪魔になることを回避できる。
【0031】
また、収容部65には、小クリアランス部sc1、sc2を形成するための突出部61、62が形成されているので、小クリアランス部sc1、sc2を利用することによっても幅木部12が収容部65において位置ずれすることを抑制でき、中子10の位置ずれをより抑制できる。また、隙間Gaにおいて小クリアランス部sc1、sc2以外の部分はクリアランスの大きさが比較的大きいので、幅木部12を収容部65に収容する際の作業性を向上できる。
【0032】
幅木部12の上端部が本体部11における長手方向の一端と接続されているので、溶湯の浮力により、幅木部12において横方向における内側であって縦方向における下側(点p1)を回転中心として、幅木部において横方向における外側であって縦方向における上側が下方に向かうように、中子は回転しようとする。しかし、本実施形態の鋳造用金型100によれば、ピン部材21は、隙間Gaのうち横方向における外側であって縦方向における上側の小クリアランス部sc2を通って幅木部12に接触しているので、かかる回転を小さな力でより確実に抑制できる。
【0033】
B.他の実施形態:
(B1)上記実施形態において、付勢部材20は、ピン部材21とバネ23とにより構成されていたが、本開示はこれに限定されない。付勢部材20の構成として、幅木部12を収容部65の内側面に押し付けることが可能な任意の構成を採用してもよい。例えば、コイルバネで構成されたバネ23に代えて、板バネにより構成されたバネを用いてもよい。また、バネに代えて、耐熱性の高い任意の種類の弾性体を用いてもよい。また、バネのみにより付勢部材20を構成してもよい。これらの構成においても、実施形態と同様な効果を奏する。
【0034】
(B2)上記実施形態において、ピン部材21の+X方向の端は、半球状の外観形状を有していたが、本開示はこれに限定されない。平面状の外観形状、凹状の外観形状など、幅木部12に応力を加えることが可能な任意の外観形状であってもよい。
【0035】
(B3)上記実施形態では、付勢部材20の一部は板状部材30に形成された第2貫通孔31に収容されていたが、本開示はこれに限定されない。例えば、下型60の貫通孔の位置および大きさを変更して、付勢部材20の全体を収容可能な貫通孔に形成し、かかる貫通孔に付勢部材20を収容するようにしてもよい。また、かかる貫通孔の開口をキャップ部材80に封止することにより、上記実施形態と同様な効果を奏する。
【0036】
(B4)上記実施形態では、小クリアランス部sc1、sc2は、収容部65に形成された突出部61、62により形成されていたが、本開示はこれに限定されない。突出部61、62に代えて、または、突出部61、62に加えて、幅木部12に突出部を設けて、かかる突出部により小クリアランス部sc1、sc2を形成してもよい。かかる構成においても、上記実施形態と同様な効果を奏する。また、これとは逆に、上記実施形態において、小クリアランス部sc1、sc2を省略してもよい。かかる構成においても、付勢部材20により幅木部12が収容部65の内側面に向けて付勢されるので、上記実施形態と同様な効果を奏する。
【0037】
(B5)上記実施形態では、ピン部材21は、第2小クリアランス部sc2を通って幅木部12に接触していたが、本開示はこれに限定されない。隙間Gaにおける第2小クリアランス部sc2とは異なる部分を通って幅木部12に接触してもよい。このとき、幅木部12においてピン部材21が接触する位置は、横方向の外側であって縦方向の上側でなくてもよい。例えば、横方向の外側であって縦方向の中央や下側であってもよい。
【0038】
(B6)上記実施形態では、ピン部材21は、幅木部12の側面に接触していたが、側面に代えて、上面に接触してもよい。かかる構成においては、横入子50および上型40に付勢部材20を収容する貫通孔を形成し、ピン部材21を上方から下方に向けて付勢して幅木部12を下方に付勢するようにしてもよい。かかる構成においては、幅木部12は、収容部65の内側面のうち、下方の面(底面)に押し付けられることとなる。かかる構成においても、上記実施形態と同様な効果を奏する。
【0039】
(B7)上記実施形態では、中子10は、シリンダヘッド内の吸気ポートを形成するための中子であったが、本開示はこれに限定されない。例えば、シリンダヘッド内の排気ポートを形成するための中子や、EGRを形成するための中子や、ウォータージャケットを形成するための中子等、任意の中子を用いる鋳造用金型に対して、本開示を適用してもよい。
【0040】
本開示は、上記各実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0041】
10…中子、11…本体部、12…幅木部、20…付勢部材、21…ピン部材、22…鍔部、23…バネ、30…板状部材、31…第2貫通孔、40…上型、50…横入子、60…下型、61…第1突出部、62…第2突出部、63…第1貫通孔、65…収容部、70…台座、75…溶湯供給孔、80…キャップ部材、100…鋳造用金型、110…キャビティ、D1…回転方向、F1…浮力、Ga…隙間、S1…外側面、p1…点、p2…点、sc1…第1小クリアランス部、sc2…第2小クリアランス部