(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20240604BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240604BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C08L79/08
C08K3/04
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2021503500
(86)(22)【出願日】2020-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2020005507
(87)【国際公開番号】W WO2020179391
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2019041764
(32)【優先日】2019-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 敦史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勇希
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/020020(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103589152(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0093581(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0328785(US,A1)
【文献】国際公開第2016/147997(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0004097(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、C08K3
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、該式(1)の繰り返し構成単位と該式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する該式(1)の繰り返し構成単位の含有比が20モル%以上、40モル%未満である熱可塑性ポリイミド樹脂(A)、及びナノ炭素材料(B)を含有する熱可塑性ポリイミド樹脂組成物であって、
前記ナノ炭素材料(B)の含有量が、前記熱可塑性ポリイミド樹脂組成物全質量中0.5~3質量%であり、
前記ナノ炭素材料(B)がグラフェンであり、
前記熱可塑性ポリイミド樹脂組成物の形態がペレットである、熱可塑性ポリイミド樹脂組成物。
【化1】
(R
1は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6~22の2価の基である。R
2は炭素数5~16の2価の鎖状脂肪族基である。X
1及びX
2は、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。)
【請求項2】
前記グラフェンが、単層、2~9層、及び10~25層の構造からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の熱可塑性ポリイミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記グラフェンの厚みが0.1~100nmである、請求項1又は2に記載の熱可塑性ポリイミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記グラフェンの比表面積が50~800m
2/gである、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリイミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記グラフェンの酸素含有量が、グラフェン全原子量中3~40原子量%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリイミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリイミド樹脂組成物を熱成形して得られる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリイミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は分子鎖の剛直性、共鳴安定化、強い化学結合によって、高熱安定性、高強度、高耐溶媒性を有する有用なエンジニアリングプラスチックであり、幅広い分野で応用されている。また結晶性を有しているポリイミド樹脂はその耐熱性、強度、耐薬品性をさらに向上させることができることから、金属代替等としての利用が期待されている。しかしながらポリイミド樹脂は高耐熱性である反面、熱可塑性を示さず、成形加工性が低いという問題がある。
【0003】
ポリイミド成形材料としては高耐熱樹脂ベスペル(登録商標)等が知られているが(特許文献1)、高温下でも流動性が極めて低いため成形加工が困難であり、高温、高圧条件下で長時間成形を行う必要があることからコスト的にも不利である。これに対し、結晶性樹脂のように融点を有し、高温での流動性がある樹脂であれば容易にかつ安価で成形加工が可能である。
【0004】
そこで近年、熱可塑性を有するポリイミド樹脂が報告されている。熱可塑性ポリイミド樹脂はポリイミド樹脂が本来有している耐熱性に加え、成形加工性にも優れる。そのため熱可塑性ポリイミド樹脂は、汎用の熱可塑性樹脂であるナイロンやポリエステルが適用できなかった過酷な環境下で使用される成形体への適用も可能である。
【0005】
更に近年では、熱可塑性ポリイミド樹脂に炭素材料を添加し、新たな効果を得る検討もなされている。
例えば、特許文献2には、熱可塑性ポリイミド樹脂と、特定の外径及び特定のアスペクト比を有するカーボンナノチューブとを含んでなる熱可塑性ポリイミド樹脂組成物が開示されている。そして、特許文献2に開示された熱可塑性ポリイミド樹脂組成物によれば、帯電防止性を有し、耐熱性が200℃以上の導電性プラスチックフィルムが得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-28524号公報
【文献】特開2004-346143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2では、200℃の恒温槽に2時間という短い時間放置した後の寸法変化について評価しているが、数日間という長期間放置した後の長期耐熱性についてまで検討されていない。このため、より過酷な環境下での使用を想定した長期耐熱性については、更なる検討が求められている。
また、特許文献2では、熱可塑性ポリイミド樹脂組成物を用いて導電性プラスチックフィルムとした際の色味や色相等について、特段の検討はなされていない。
近年においては、ポリイミド樹脂組成物を用いて成形体とした際、長期耐熱性の他にも、意匠性の観点から成形体に高い黒色度が要求される場合がある
成形体が高い黒色度を有すると、高級感を醸し出す効果や、質感と透明感のある漆黒性を表現できる効果などが期待できる。
高い黒色度が求められる成形体としては、例えば、携帯電話、液晶テレビ、スピーカー、ゲーム機、及びノートパソコンに代表される電化製品の筐体;インテリアパネル、ドアハンドル、ステアリング、カーオーディオ、及びカーナビゲーションフレームに代表される自動車用内装部材;ルーフスポイラー、及びウィンドウガーニッシュに代表される自動車用外装部材;家具類に用いる部材;楽器類に用いる部材;等が挙げられる。
【0008】
そこで、本発明の課題は、長期耐熱性に優れ、かつ黒色度が高い成形体、及びこれが得られるポリイミド樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特定の異なるポリイミド構成単位を特定の比率で組み合わせたポリイミド樹脂(A)と、ナノ炭素材料(B)とを含有するポリイミド樹脂組成物が上記課題を解決できることを見出した。
すなわち本発明は、下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、該式(1)の繰り返し構成単位と該式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する該式(1)の繰り返し構成単位の含有比が20~70モル%であるポリイミド樹脂(A)、及びナノ炭素材料(B)を含有するポリイミド樹脂組成物を提供する。
【化1】
(R
1は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6~22の2価の基である。R
2は炭素数5~16の2価の鎖状脂肪族基である。X
1及びX
2は、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリイミド樹脂組成物によれば、長期耐熱性に優れ、かつ黒色度が高い成形体が得られる。本発明の成形体は、例えば、各種産業部材、ギア、軸受、ベルト等の家電製品用部材、電線等の被覆材、カバーレイフィルム、航空用途、電化製品の筐体、自動車用内装部材、自動車用外装部材、家具類に用いる部材、及び楽器類に用いる部材等に適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[ポリイミド樹脂組成物]
本発明のポリイミド樹脂組成物は、下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、該式(1)の繰り返し構成単位と該式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する該式(1)の繰り返し構成単位の含有比が20~70モル%であるポリイミド樹脂(A)、及びナノ炭素材料(B)を含有するポリイミド樹脂組成物である。
【化2】
(R
1は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6~22の2価の基である。R
2は炭素数5~16の2価の鎖状脂肪族基である。X
1及びX
2は、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。)
このような本発明のポリイミド樹脂組成物によれば、長期耐熱性に優れ、かつ黒色度が高い成形体が得られる。
【0012】
<ポリイミド樹脂(A)>
本発明に用いるポリイミド樹脂(A)は、下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、該式(1)の繰り返し構成単位と該式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する該式(1)の繰り返し構成単位の含有比が20~70モル%である。
【化3】
(R
1は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6~22の2価の基である。R
2は炭素数5~16の2価の鎖状脂肪族基である。X
1及びX
2は、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。)
【0013】
本発明に用いるポリイミド樹脂(A)は熱可塑性樹脂であり、その形態としては粉末又はペレットであることが好ましい。熱可塑性ポリイミド樹脂は、例えばポリアミド酸等のポリイミド前駆体の状態で成形した後にイミド環を閉環して形成される、ガラス転移温度(Tg)を持たないポリイミド樹脂、あるいはガラス転移温度よりも低い温度で分解してしまうポリイミド樹脂とは区別される。
【0014】
式(1)の繰り返し構成単位について、以下に詳述する。
R1は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6~22の2価の基である。ここで、脂環式炭化水素構造とは、脂環式炭化水素化合物から誘導される環を意味し、該脂環式炭化水素化合物は、飽和であっても不飽和であってもよく、単環であっても多環であってもよい。
脂環式炭化水素構造としては、シクロヘキサン環等のシクロアルカン環、シクロヘキセン等のシクロアルケン環、ノルボルナン環等のビシクロアルカン環、及びノルボルネン等のビシクロアルケン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはシクロアルカン環、より好ましくは炭素数4~7のシクロアルカン環、さらに好ましくはシクロヘキサン環である。
R1の炭素数は6~22であり、好ましくは8~17である。
R1は脂環式炭化水素構造を少なくとも1つ含み、好ましくは1~3個含む。
【0015】
R
1は、好ましくは下記式(R1-1)又は(R1-2)で表される2価の基である。
【化4】
(m
11及びm
12は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、好ましくは0又は1である。m
13~m
15は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、好ましくは0又は1である。)
【0016】
R
1は、特に好ましくは下記式(R1-3)で表される2価の基である。
【化5】
なお、上記の式(R1-3)で表される2価の基において、2つのメチレン基のシクロヘキサン環に対する位置関係はシスであってもトランスであってもよく、またシスとトランスの比は如何なる値でもよい。
【0017】
X1は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。前記芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、及びテトラセン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環及びナフタレン環であり、より好ましくはベンゼン環である。
X1の炭素数は6~22であり、好ましくは6~18である。
X1は芳香環を少なくとも1つ含み、好ましくは1~3個含む。
【0018】
X
1は、好ましくは下記式(X-1)~(X-4)のいずれかで表される4価の基である。
【化6】
(R
11~R
18は、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基である。p
11~p
13は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、好ましくは0である。p
14、p
15、p
16及びp
18は、それぞれ独立に、0~3の整数であり、好ましくは0である。p
17は0~4の整数であり、好ましくは0である。L
11~L
13は、それぞれ独立に、単結合、エーテル基、カルボニル基又は炭素数1~4のアルキレン基である。)
なお、X
1は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基であるので、式(X-2)におけるR
12、R
13、p
12及びp
13は、式(X-2)で表される4価の基の炭素数が10~22の範囲に入るように選択される。
同様に、式(X-3)におけるL
11、R
14、R
15、p
14及びp
15は、式(X-3)で表される4価の基の炭素数が12~22の範囲に入るように選択され、式(X-4)におけるL
12、L
13、R
16、R
17、R
18、p
16、p
17及びp
18は、式(X-4)で表される4価の基の炭素数が18~22の範囲に入るように選択される。
【0019】
X
1は、特に好ましくは下記式(X-5)又は(X-6)で表される4価の基である。
【化7】
【0020】
次に、式(2)の繰り返し構成単位について、以下に詳述する。
R2は炭素数5~16の2価の鎖状脂肪族基であり、好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10である。ここで、鎖状脂肪族基とは、鎖状脂肪族化合物から誘導される基を意味し、該鎖状脂肪族化合物は、飽和であっても不飽和であってもよく、直鎖状であっても分岐状であってもよく、酸素原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
R2は、好ましくは炭素数5~16のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数6~14、更に好ましくは炭素数7~12のアルキレン基であり、なかでも好ましくは炭素数8~10のアルキレン基である。前記アルキレン基は、直鎖アルキレン基であっても分岐アルキレン基であってもよいが、好ましくは直鎖アルキレン基である。
R2は、好ましくはオクタメチレン基及びデカメチレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、特に好ましくはオクタメチレン基である。
【0021】
また、R
2の別の好適な様態として、エーテル基を含む炭素数5~16の2価の鎖状脂肪族基が挙げられる。該炭素数は、好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10である。その中でも好ましくは下記式(R2-1)又は(R2-2)で表される2価の基である。
【化8】
(m
21及びm
22は、それぞれ独立に、1~15の整数であり、好ましくは1~13、より好ましくは1~11、更に好ましくは1~9である。m
23~m
25は、それぞれ独立に、1~14の整数であり、好ましくは1~12、より好ましくは1~10、更に好ましくは1~8である。)
なお、R
2は炭素数5~16(好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10)の2価の鎖状脂肪族基であるので、式(R2-1)におけるm
21及びm
22は、式(R2-1)で表される2価の基の炭素数が5~16(好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10)の範囲に入るように選択される。すなわち、m
21+m
22は5~16(好ましくは6~14、より好ましくは7~12、更に好ましくは8~10)である。
同様に、式(R2-2)におけるm
23~m
25は、式(R2-2)で表される2価の基の炭素数が5~16(好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10)の範囲に入るように選択される。すなわち、m
23+m
24+m
25は5~16(好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10)である。
【0022】
X2は、式(1)におけるX1と同様に定義され、好ましい様態も同様である。
【0023】
式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する、式(1)の繰り返し構成単位の含有比は20~70モル%である。式(1)の繰り返し構成単位の含有比が上記範囲である場合、一般的な射出成型サイクルにおいても、ポリイミド樹脂を十分に結晶化させ得ることが可能となる。該含有量比が20モル%未満であると成形加工性が低下し、70モル%を超えると結晶性が低下するため、耐熱性が低下する。
式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する、式(1)の繰り返し構成単位の含有比は、高い結晶性を発現する観点から、好ましくは65モル%以下、より好ましくは60モル%以下、更に好ましくは50モル%以下である。
中でも、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する式(1)の繰り返し構成単位の含有比は20モル%以上、40モル%未満であることが好ましい。この範囲であるとポリイミド樹脂(A)の結晶性が高くなり、より耐熱性に優れる樹脂組成物を得ることができる。
上記含有比は、成形加工性の観点からは、好ましくは25モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは32モル%以上であり、高い結晶性を発現する観点から、より更に好ましくは35モル%以下である。
【0024】
ポリイミド樹脂(A)を構成する全繰り返し構成単位に対する、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計の含有比は、好ましくは50~100モル%、より好ましくは75~100モル%、更に好ましくは80~100モル%、より更に好ましくは85~100モル%である。
【0025】
ポリイミド樹脂(A)は、さらに、下記式(3)の繰り返し構成単位を含有してもよい。その場合、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する、式(3)の繰り返し構成単位の含有比は、好ましくは25モル%以下である。一方で、下限は特に限定されず、0モル%を超えていればよい。
前記含有比は、耐熱性の向上という観点からは、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、一方で結晶性を維持する観点からは、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下である。
【化9】
(R
3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の2価の基である。X
3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。)
【0026】
R3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の2価の基である。前記芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、及びテトラセン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環及びナフタレン環であり、より好ましくはベンゼン環である。
R3の炭素数は6~22であり、好ましくは6~18である。
R3は芳香環を少なくとも1つ含み、好ましくは1~3個含む。
また、前記芳香環には1価もしくは2価の電子求引性基が結合していてもよい。1価の電子求引性基としてはニトロ基、シアノ基、p-トルエンスルホニル基、ハロゲン、ハロゲン化アルキル基、フェニル基、アシル基などが挙げられる。2価の電子求引性基としては、フッ化アルキレン基(例えば-C(CF3)2-、-(CF2)p-(ここで、pは1~10の整数である))のようなハロゲン化アルキレン基のほかに、-CO-、-SO2-、-SO-、-CONH-、-COO-などが挙げられる。
【0027】
R
3は、好ましくは下記式(R3-1)又は(R3-2)で表される2価の基である。
【化10】
(m
31及びm
32は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、好ましくは0又は1である。m
33及びm
34は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、好ましくは0又は1である。R
21、R
22、及びR
23は、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基、又は炭素数2~4のアルキニル基である。p
21、p
22及びp
23は0~4の整数であり、好ましくは0である。L
21は、単結合、エーテル基、カルボニル基又は炭素数1~4のアルキレン基である。)
なお、R
3は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の2価の基であるので、式(R3-1)におけるm
31、m
32、R
21及びp
21は、式(R3-1)で表される2価の基の炭素数が6~22の範囲に入るように選択される。
同様に、式(R3-2)におけるL
21、m
33、m
34、R
22、R
23、p
22及びp
23は、式(R3-2)で表される2価の基の炭素数が12~22の範囲に入るように選択される。
【0028】
X3は、式(1)におけるX1と同様に定義され、好ましい様態も同様である。
【0029】
ポリイミド樹脂(A)は、さらに、下記式(4)で示される繰り返し構成単位を含有してもよい。
【化11】
(R
4は-SO
2-又は-Si(R
x)(R
y)O-を含む2価の基であり、R
x及びR
yはそれぞれ独立に、炭素数1~3の鎖状脂肪族基又はフェニル基を表す。X
4は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。)
X
4は、式(1)におけるX
1と同様に定義され、好ましい様態も同様である。
【0030】
ポリイミド樹脂(A)の末端構造には特に制限はないが、炭素数5~14の鎖状脂肪族基を末端に有することが好ましい。
該鎖状脂肪族基は、飽和であっても不飽和であってもよく、直鎖状であっても分岐状であってもよい。ポリイミド樹脂(A)が上記特定の基を末端に有すると、耐熱老化性に優れる樹脂組成物を得ることができる。
炭素数5~14の飽和鎖状脂肪族基としては、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、ラウリル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、2-メチルペンチル基、2-メチルヘキシル基、2-エチルペンチル基、3-エチルペンチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘキシル基、イソノニル基、2-エチルオクチル基、イソデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基等が挙げられる。
炭素数5~14の不飽和鎖状脂肪族基としては、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、1-ヘプテニル基、2-ヘプテニル基、1-オクテニル基、2-オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基等が挙げられる。
中でも、上記鎖状脂肪族基は飽和鎖状脂肪族基であることが好ましく、飽和直鎖状脂肪族基であることがより好ましい。また耐熱老化性を得る観点から、上記鎖状脂肪族基は好ましくは炭素数6以上、より好ましくは炭素数7以上、更に好ましくは炭素数8以上であり、好ましくは炭素数12以下、より好ましくは炭素数10以下、更に好ましくは炭素数9以下である。上記鎖状脂肪族基は1種のみでもよく、2種以上でもよい。
上記鎖状脂肪族基は、特に好ましくはn-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、イソノニル基、n-デシル基、及びイソデシル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはn-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、及びイソノニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、最も好ましくはn-オクチル基、イソオクチル基、及び2-エチルヘキシル基からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
またポリイミド樹脂(A)は、耐熱老化性の観点から、末端アミノ基及び末端カルボキシ基以外に、炭素数5~14の鎖状脂肪族基のみを末端に有することが好ましい。上記以外の基を末端に有する場合、その含有量は、好ましくは炭素数5~14の鎖状脂肪族基に対し10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0031】
ポリイミド樹脂(A)中の上記炭素数5~14の鎖状脂肪族基の含有量は、優れた耐熱老化性を発現する観点から、ポリイミド樹脂(A)を構成する全繰り返し構成単位の合計100モル%に対し、好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.1モル%以上、更に好ましくは0.2モル%以上である。また、十分な分子量を確保し良好な機械的物性を得るためには、ポリイミド樹脂(A)中の上記炭素数5~14の鎖状脂肪族基の含有量は、ポリイミド樹脂(A)を構成する全繰り返し構成単位の合計100モル%に対し、好ましくは10モル%以下、より好ましくは6モル%以下、更に好ましくは3.5モル%以下である。
ポリイミド樹脂(A)中の上記炭素数5~14の鎖状脂肪族基の含有量は、ポリイミド樹脂(A)を解重合することにより求めることができる。
【0032】
ポリイミド樹脂(A)は、360℃以下の融点を有し、かつ150℃以上のガラス転移温度を有することが好ましい。ポリイミド樹脂(A)の融点は、耐熱性の観点から、より好ましくは280℃以上、更に好ましくは290℃以上であり、高い成形加工性を発現する観点からは、好ましくは345℃以下、より好ましくは340℃以下、更に好ましくは335℃以下である。また、ポリイミド樹脂(A)のガラス転移温度は、耐熱性の観点から、より好ましくは160℃以上、より好ましくは170℃以上であり、高い成形加工性を発現する観点からは、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下、更に好ましくは200℃以下である。
ポリイミド樹脂(A)の融点、ガラス転移温度は、いずれも示差走査型熱量計により測定することができる。
またポリイミド樹脂(A)は、結晶性、耐熱性、機械的強度、耐薬品性を向上させる観点から、示差走査型熱量計測定により、該ポリイミド樹脂(A)を溶融後、降温速度20℃/分で冷却した際に観測される結晶化発熱ピークの熱量(以下、単に「結晶化発熱量」ともいう)が、5.0mJ/mg以上であることが好ましく、10.0mJ/mg以上であることがより好ましく、17.0mJ/mg以上であることが更に好ましい。ポリイミド樹脂(A)の結晶化発熱量の上限値は特に限定されないが、通常、45.0mJ/mg以下である。
ポリイミド樹脂(A)の融点、ガラス転移温度、結晶化発熱量は、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0033】
ポリイミド樹脂(A)の5質量%濃硫酸溶液の30℃における対数粘度は、好ましくは0.2~2.0dL/g、より好ましくは0.3~1.8dL/gの範囲である。対数粘度が0.2dL/g以上であれば、得られるポリイミド樹脂組成物を成形体とした際に十分な機械的強度が得られ、2.0dL/g以下であると、成形加工性及び取り扱い性が良好になる。対数粘度μは、キャノンフェンスケ粘度計を使用して、30℃において濃硫酸及び上記ポリイミド樹脂溶液の流れる時間をそれぞれ測定し、下記式から求められる。
μ=ln(ts/t0)/C
t0:濃硫酸の流れる時間
ts:ポリイミド樹脂溶液の流れる時間
C:0.5(g/dL)
【0034】
ポリイミド樹脂(A)の重量平均分子量Mwは、好ましくは10,000~150,000、より好ましくは15,000~100,000、更に好ましくは20,000~80,000、より更に好ましくは30,000~70,000、より更に好ましくは35,000~65,000の範囲である。ポリイミド樹脂(A)の重量平均分子量Mwが10,000以上であれば機械的強度が良好になり、150,000以下であれば成形加工性が良好である。
ポリイミド樹脂(A)の重量平均分子量Mwは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を標準試料としてゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)法により測定することができる。
【0035】
(ポリイミド樹脂(A)の製造方法)
ポリイミド樹脂(A)は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させることにより製造することができる。該テトラカルボン酸成分は少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸及び/又はその誘導体を含有し、該ジアミン成分は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミン及び鎖状脂肪族ジアミンを含有する。
【0036】
少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸は4つのカルボキシ基が直接芳香環に結合した化合物であることが好ましく、構造中にアルキル基を含んでいてもよい。また前記テトラカルボン酸は、炭素数6~26であるものが好ましい。前記テトラカルボン酸としては、ピロメリット酸、2,3,5,6-トルエンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸等が好ましい。これらの中でもピロメリット酸がより好ましい。
【0037】
少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸の誘導体としては、少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸の無水物又はアルキルエステル体が挙げられる。前記テトラカルボン酸誘導体は、炭素数6~38であるものが好ましい。テトラカルボン酸の無水物としては、ピロメリット酸一無水物、ピロメリット酸二無水物、2,3,5,6-トルエンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。テトラカルボン酸のアルキルエステル体としては、ピロメリット酸ジメチル、ピロメリット酸ジエチル、ピロメリット酸ジプロピル、ピロメリット酸ジイソプロピル、2,3,5,6-トルエンテトラカルボン酸ジメチル、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸ジメチル、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジメチル、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ジメチル、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジメチル等が挙げられる。上記テトラカルボン酸のアルキルエステル体において、アルキル基の炭素数は1~3が好ましい。
【0038】
少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸及び/又はその誘導体は、上記から選ばれる少なくとも1つの化合物を単独で用いてもよく、2つ以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンの炭素数は6~22が好ましく、例えば、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、カルボンジアミン、リモネンジアミン、イソフォロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルプロパン等が好ましい。これらの化合物を単独で用いてもよく、これらから選ばれる2つ以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが好適に使用できる。なお、脂環式炭化水素構造を含むジアミンは一般的には構造異性体を持つが、シス体/トランス体の比率は限定されない。
【0040】
鎖状脂肪族ジアミンは、直鎖状であっても分岐状であってもよく、炭素数は5~16が好ましく、6~14がより好ましく、7~12が更に好ましい。また、鎖部分の炭素数が5~16であれば、その間にエーテル結合を含んでいてもよい。鎖状脂肪族ジアミンとして例えば1,5-ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタン-1,5-ジアミン、3-メチルペンタン-1,5-ジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン、1,10-デカメチレンジアミン、1,11-ウンデカメチレンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミン、1,13-トリデカメチレンジアミン、1,14-テトラデカメチレンジアミン、1,16-ヘキサデカメチレンジアミン、2,2’-(エチレンジオキシ)ビス(エチレンアミン)等が好ましい。
鎖状脂肪族ジアミンは1種類あるいは複数を混合して使用してもよい。これらのうち、炭素数が8~10の鎖状脂肪族ジアミンが好適に使用でき、特に1,8-オクタメチレンジアミン及び1,10-デカメチレンジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好適に使用できる。
【0041】
ポリイミド樹脂(A)を製造する際、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンと鎖状脂肪族ジアミンの合計量に対する、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンの仕込み量のモル比は20~70モル%であることが好ましい。該モル量は、好ましくは25モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは32モル%以上であり、高い結晶性を発現する観点から、好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下、更に好ましくは40モル%未満、更に好ましくは35モル%以下である。
【0042】
また、上記ジアミン成分中に、少なくとも1つの芳香環を含むジアミンを含有してもよい。少なくとも1つの芳香環を含むジアミンの炭素数は6~22が好ましく、例えば、オルトキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,2-ジエチニルベンゼンジアミン、1,3-ジエチニルベンゼンジアミン、1,4-ジエチニルベンゼンジアミン、1,2-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノベンゼン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、α,α’-ビス(4-アミノフェニル)1,4-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(3-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,6-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン等が挙げられる。
【0043】
上記において、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンと鎖状脂肪族ジアミンの合計量に対する、少なくとも1つの芳香環を含むジアミンの仕込み量のモル比は、25モル%以下であることが好ましい。一方で、下限は特に限定されず、0モル%を超えていればよい。
前記モル比は、耐熱性の向上という観点からは、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、一方で結晶性を維持する観点からは、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下である。
また、前記モル比は、ポリイミド樹脂(A)の着色を少なくする観点からは、好ましくは12モル%以下、より好ましくは10モル%以下、更に好ましくは5モル%以下、より更に好ましくは0モル%である。
【0044】
ポリイミド樹脂(A)を製造する際、前記テトラカルボン酸成分と前記ジアミン成分の仕込み量比は、テトラカルボン酸成分1モルに対してジアミン成分が0.9~1.1モルであることが好ましい。
【0045】
またポリイミド樹脂(A)を製造する際、前記テトラカルボン酸成分、前記ジアミン成分の他に、末端封止剤を混合してもよい。末端封止剤としては、モノアミン類及びジカルボン酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。末端封止剤の使用量は、ポリイミド樹脂(A)中に所望量の末端基を導入できる量であればよく、前記テトラカルボン酸及び/又はその誘導体1モルに対して0.0001~0.1モルが好ましく、0.001~0.06モルがより好ましく、0.002~0.035モルが更に好ましい。
中でも、末端封止剤としてはモノアミン類末端封止剤が好ましく、ポリイミド樹脂(A)の末端に前述した炭素数5~14の鎖状脂肪族基を導入して耐熱老化性を向上させる観点から、炭素数5~14の鎖状脂肪族基を有するモノアミンがより好ましく、炭素数5~14の飽和直鎖状脂肪族基を有するモノアミンが更に好ましい。
末端封止剤は、特に好ましくはn-オクチルアミン、イソオクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-ノニルアミン、イソノニルアミン、n-デシルアミン、及びイソデシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはn-オクチルアミン、イソオクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-ノニルアミン、及びイソノニルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、最も好ましくはn-オクチルアミン、イソオクチルアミン、及び2-エチルヘキシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0046】
ポリイミド樹脂(A)を製造するための重合方法としては、公知の重合方法が適用でき、国際公開第2016/147996号に記載の方法を用いることができる。
【0047】
<ナノ炭素材料(B)>
本発明のポリイミド樹脂組成物は、上述したポリイミド樹脂(A)と、ナノ炭素材料(B)とを含有する。
このような本発明のポリイミド樹脂組成物によれば、長期耐熱性に優れ、かつ黒色度が高い成形体が得られる。
黒色度は、色差計を用いて反射法により測定される明度(L値)によって評価され、本明細書においてL値が20未満である場合、黒色度が高いと評価できる。
ポリイミド樹脂組成物の明度(L値)は、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0048】
本発明により奏される効果の詳細なメカニズムは明らかではないが、ナノ炭素材料(B)の炭素原子が蜂の巣状(ハニカム状)に互いに強固に共有結合したシート状のグラフェン構造を有することに起因して、酸素遮断効果が発揮されることが推測される。そして、このシート状のグラフェン構造を有するナノ炭素材料(B)を含有するポリイミド樹脂組成物を用いて作製された成形体によれば、その成形体の表面は長期に渡って酸素劣化が生じ難くなり、長期耐熱性に優れ、かつ黒色度が高い成形体が得られることが推測される。
【0049】
本明細書において「ナノ炭素材料(B)」とは、炭素原子が蜂の巣状(ハニカム状)に互いに強固に共有結合したシート状のグラフェン構造を基にした材料のうち、0.1~1000nmの大きさ(厚さ)の構造からなる材料、又は0.1~1000nmの大きさ(厚さ)の構成単位からなる材料を指していう。
ナノ炭素材料(B)の大きさ(厚さ)は、長期耐熱性に優れ、かつ黒色度が高い成形体が得られ易いことから、好ましくは0.1~900nm、より好ましくは0.1~800nm、更に好ましくは0.1~700nmである。
【0050】
ナノ炭素材料(B)としては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン、グラフェン等が挙げられる。これらのナノ炭素材料(B)の中でも、長期耐熱性に優れ、かつ黒色度が高い成形体が得られ易いことから、グラフェン、及びカーボンナノチューブからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、更にグラフェンがより好ましい。
また、ナノ炭素材料(B)は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン等の場合、一次粒子の最も短い径の長さが0.1~1000nmの範囲にあれば、一次粒子が複数個凝集した二次粒子もナノ炭素材料(B)に含まれる。
なお、ここで「一次粒子」とは、単一の結晶核の成長によって生成した粒子のことを指していう。
【0052】
(グラフェン)
グラフェンの場合、その厚みが0.1~1000nmの範囲にあれば、ナノ炭素材料(B)に含まれる。
グラフェンの厚みは、長期耐熱性に優れ、かつ黒色度が高い成形体が得られ易いことから、好ましくは0.1~100nm、より好ましくは0.1~50nm、更に好ましくは0.1~10nmである。
ここでいう「厚み」は、単層の場合は一層の厚みを指し、多層の場合は層全体の厚みを指す。
グラフェンの厚みは、例えば、中型プローブ顕微鏡システム((株)日立ハイテクノロジーズ製「AFM5500M」を用いて測定することができる。
【0053】
グラフェンは、シート状の単層又は多層構造からなり、長期耐熱性に優れ、かつ黒色度が高い成形体が得られ易いことから、単層、2~9層、及び10~25層の構造からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
更に、グラフェンは、長期耐熱性に優れ、かつ黒色度が高い成形体を得る効果が高いことから、単層構造からなるグラフェンがより好ましい。
【0054】
グラフェンの比表面積は、長期耐熱性に優れ、かつ黒色度が高い成形体が得られ易いことから、好ましくは50~800m2/g、より好ましくは100~700m2/g、更に好ましくは200~600m2/gである。
グラフェンの比表面積は、BET法により求めることができる。
【0055】
グラフェンは、酸素を含有していてもよい。
グラフェンの酸素含有量は、長期耐熱性に優れ、かつ黒色度が高い成形体が得られ易いことから、グラフェン全原子量(100原子量%)中、好ましくは3~40原子量%、より好ましくは5~30原子量%、更に好ましくは10~20原子量%である。
【0056】
ポリイミド樹脂組成物中のナノ炭素材料(B)の含有量は、長期耐熱性に優れ、かつ黒色度が高い成形体が得られ易いことから、好ましくは0.05~10質量%、より好ましくは0.05~8質量%、更に好ましくは0.07~5質量%、更に好ましくは0.07~3質量%、更に好ましくは0.09~3質量%、更に好ましくは0.5~3質量%である。また、光沢度に優れた成形体が得られ易い観点からは、ポリイミド樹脂組成物中のナノ炭素材料(B)の含有量の上限は、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。また、長期耐熱性に優れた成形体が得られ易い観点からは、ポリイミド樹脂組成物中のナノ炭素材料(B)の含有量の下限は、好ましくは0.15質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上である。
【0057】
ナノ炭素材料(B)は公知の方法で製造することができる。また、ナノ炭素材料(B)として市販のグラフェンを用いることもできる。市販のグラフェンとしては、例えば、石原ケミカル(株)製の「N002―PD」、「N002―PDE」、「N002―PDR」、「N006―P」、「N008」等が挙げられる。
【0058】
<添加剤>
本発明のポリイミド樹脂組成物には、充填材、艶消剤、核剤、可塑剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、着色剤、摺動性改良剤、酸化防止剤、導電剤、樹脂改質剤等の添加剤を、必要に応じて配合することができる。
上記添加剤の配合量には特に制限はないが、ポリイミド樹脂(A)由来の物性を維持しつつ添加剤の効果を発現させる観点から、ポリイミド樹脂組成物中、通常、50質量%以下であり、好ましくは0.0001~30質量%、より好ましくは0.001~15質量%、更に好ましくは0.01~10質量%である。
【0059】
また本発明のポリイミド樹脂組成物には、その特性が阻害されない範囲で、ポリイミド樹脂(A)以外の他の樹脂を配合することができる。当該他の樹脂としては、高耐熱性の熱可塑性樹脂が好ましく、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂(A)以外のポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリフェニレンエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトンケトン樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、成形加工性、強度及び耐溶剤性の観点から、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、及びポリエーテルエーテルケトン樹脂からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
ポリイミド樹脂(A)と他の樹脂とを併用する場合、ポリイミド樹脂組成物の特性が阻害されない範囲であれば、その配合比率には特に制限はない。
【0060】
但し、本発明のポリイミド樹脂組成物中のポリイミド樹脂(A)及びナノ炭素材料(B)の合計含有量は、本発明の効果を得る観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。また、上限は100質量%である。
【0061】
本発明のポリイミド樹脂組成物は任意の形態をとることができるが、ペレットであることが好ましい。
本発明のポリイミド樹脂組成物及びこれに用いるポリイミド樹脂(A)は熱可塑性を有するため、例えばポリイミド樹脂(A)、ナノ炭素材料(B)、及び必要に応じて各種任意成分を添加してドライブレンドした後、押出機内で溶融混練してストランドを押出し、ストランドをカットすることによりペレット化することができる。また、当該ペレットを各種成形機に導入して後述の方法で熱成形することにより、所望の形状を有する成形体を容易に製造することができる。
【0062】
[成形体]
本発明は、前記ポリイミド樹脂組成物を含む成形体を提供する。
本発明のポリイミド樹脂組成物は熱可塑性を有するため、熱成形することにより容易に本発明の成形体を製造できる。熱成形方法としては射出成形、押出成形、ブロー成形、熱プレス成形、真空成形、圧空成形、レーザー成形、溶接、溶着等が挙げられ、熱溶融工程を経る成形方法であればいずれの方法でも成形が可能である。中でも射出成形を行う場合には、成形温度や成形時の金型温度を高温に設定することなく成形可能であるため好ましい。例えば射出成形においては、成形温度360℃以下、金型温度220℃以下での成形が可能である。
【0063】
成形体を製造する方法としては、ポリイミド樹脂組成物を290~350℃で熱成形する工程を有することが好ましい。具体的な手順としては、例えば以下の方法が挙げられる。
まず、ポリイミド樹脂(A)に、ナノ炭素材料(B)及び必要に応じて各種任意成分を添加してドライブレンドした後、これを押出機内に導入して、好ましくは290~350℃で溶融して押出機内で溶融混練及び押出し、ペレットを作製する。あるいは、ポリイミド樹脂(A)を押出機内に導入して、好ましくは290~350℃で溶融し、ここにナノ炭素材料(B)及び各種任意成分を導入して押出機内でポリイミド樹脂(A)と溶融混練し、押出すことで前述のペレットを作製してもよい。
上記ペレットを乾燥させた後、各種成形機に導入して好ましくは290~350℃で熱成形し、所望の形状を有する成形体を製造することができる。
本発明のポリイミド樹脂組成物は290~350℃という比較的低い温度で押出成形等の熱成形を行うことが可能であるため、成形加工性に優れ、所望の形状を有する成形品を容易に製造することができる。熱成形時の温度は、好ましくは310~350℃である。
【0064】
本発明のポリイミド樹脂組成物は長期耐熱性に優れ、かつ黒色度が高い成形体が得られることから、例えば各種産業部材、ギア、軸受、ベルト等の家電製品用部材、電線等の被覆材、カバーレイフィルム、航空用途、電化製品の筐体、自動車用内装部材、自動車用外装部材、家具類に用いる部材、及び楽器類に用いる部材等に適用できる。
【実施例】
【0065】
次に実施例を挙げて本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、各製造例、実施例及び比較例における各種測定及び評価は以下のように行った。
【0066】
<赤外線分光分析(IR測定)>
ポリイミド樹脂のIR測定は日本電子(株)製「JIR-WINSPEC50」を用いて行った。
【0067】
<対数粘度μ>
ポリイミド樹脂を190~200℃で2時間乾燥した後、該ポリイミド樹脂0.100gを濃硫酸(96%、関東化学(株)製)20mLに溶解したポリイミド樹脂溶液を測定試料とし、キャノンフェンスケ粘度計を使用して30℃において測定を行った。対数粘度μは下記式により求めた。
μ=ln(ts/t0)/C
t0:濃硫酸の流れる時間
ts:ポリイミド樹脂溶液の流れる時間
C:0.5g/dL
【0068】
<融点、ガラス転移温度、結晶化温度、結晶化発熱量>
ポリイミド樹脂の融点Tm、ガラス転移温度Tg、結晶化温度Tc、及び結晶化発熱量ΔHmは、示差走査熱量計装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「DSC-6220」)を用いて測定した。
窒素雰囲気下、ポリイミド樹脂に下記条件の熱履歴を課した。熱履歴の条件は、昇温1度目(昇温速度10℃/分)、その後冷却(降温速度20℃/分)、その後昇温2度目(昇温速度10℃/分)である。
融点Tmは昇温2度目で観測された吸熱ピークのピークトップ値を読み取り決定した。ガラス転移温度Tgは昇温2度目で観測された値を読み取り決定した。結晶化温度Tcは冷却時に観測された発熱ピークのピークトップ値を読み取り決定した。
また結晶化発熱量ΔHm(mJ/mg)は冷却時に観測された発熱ピークの面積から算出した。
【0069】
<半結晶化時間>
ポリイミド樹脂の半結晶化時間は、示差走査熱量計装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「DSC-6220」)を用いて測定した。
窒素雰囲気下、420℃で10分保持し、ポリイミド樹脂を完全に溶融させたのち、冷却速度70℃/分の急冷操作を行った際に、観測される結晶化ピークの出現時からピークトップに達するまでにかかった時間を計算した。なお、表1中、半結晶化時間が20秒以下である場合は「<20」と表記した。
【0070】
<重量平均分子量>
ポリイミド樹脂の重量平均分子量(Mw)は、昭和電工(株)製のゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)測定装置「Shodex GPC-101」を用いて下記条件にて測定した。
カラム:Shodex HFIP-806M
移動相溶媒:トリフルオロ酢酸ナトリウム2mM含有HFIP
カラム温度:40℃
移動相流速:1.0mL/min
試料濃度:約0.1質量%
検出器:IR検出器
注入量:100μm
検量線:標準PMMA
【0071】
<Lab値及びYI値>
各例で得たポリイミド樹脂組成物のペレットを、色差計(日本電色工業(株)製「ZE2000」)を用いて反射法によりLab値とYI値を測定した。
ここで、Lは明度を表し、値が大きいほど白色度が高く、値が小さいほど黒色度が高いことを示す。aは赤-緑の程度を表し、値が大きいほど赤みが強く、値が小さいほど緑味が強いことを示す。bは黄-青の程度を表し、値が大きいほど黄色味が強く、値が小さいほど青みが強いことを示す。また、YIは黄色度であり、値が小さいほど黄色味が弱く、色相が良好であることを意味する。
なお、L値は、以下の基準で評価した。
A:L値が20未満である場合、黒色度が高い。
B:L値が20以上である場合、黒色度が低い。
【0072】
<比誘電率及び誘電正接>
各例で得たポリイミド樹脂組成物のペレットを用いてISO316で規定される80mm×10mm×厚さ4mmの成形体を作製し、試験片として測定に使用した。インピーダンスアナライザー(アジレント社製「4294A」)を用い、室温(23℃)、10GHzにて、誘電率及び誘電正接を測定した。
【0073】
<光沢度>
各例で得たポリイミド樹脂組成物のペレットを用いてISO316で規定される80mm×10mm×厚さ4mmの成形体を作製し、試験片として測定に使用した。光沢度計(日本電色工業(株)社製「VG-2000」)を用い、JIS K5101-5-3:2004に準拠して、60°光沢度(入射角60°受光角60°)を測定した。
なお、60°光沢度は、以下の基準で評価した。
A:60°光沢度の値が60GU以上である。
B:60°光沢度の値が60GU未満である。
【0074】
<曲げ強度及び曲げ弾性率>
各例で得たポリイミド樹脂組成物のペレットを用いてISO316で規定される80mm×10mm×厚さ4mmの成形体を作製し、試験片として測定に使用した。ベンドグラフ((株)東洋精機製作所製)を用い、ISO178に準拠して、室温(23℃)、試験速度2mm/分で曲げ試験を行い、曲げ弾性率(GPa)及び曲げ強度(MPa)を測定した。
なお、長期耐熱性試験に供する前の試験片の曲げ強度を「X」とした。
【0075】
<長期耐熱性試験>
各例で得たポリイミド樹脂組成物のペレットを用いてISO316で規定される80mm×10mm×厚さ4mmの成形体を6つ作製し、作製した6つの成形体のうち3つを第1試験片、残り3つを第2試験片として、以下に示す熱老化を行った。
【0076】
3つの第1試験片は、それぞれ送風定温恒温器(ヤマト科学(株)製「DN610」)に導入し、200℃、7日間(168h)静置し、熱老化させた。
【0077】
3つの第2試験片は、第1試験片と同様にそれぞれ送風定温恒温器に導入し、170℃、42日間(1008h)静置し、熱老化させた。
【0078】
(曲げ弾性率、曲げ強度)
上記の熱老化した3つの第1試験片、3つの第2試験片を対象とし、ベンドグラフ((株)東洋精機製作所製)を用い、ISO178に準拠して、室温(23℃)、試験速度2mm/分で曲げ試験を行い、曲げ弾性率(GPa)及び曲げ強度(MPa)をそれぞれ測定した。
なお、200℃熱老化(7日間(168h))後に測定された3つの第1試験片の曲げ強度の平均値を「Y1」とした。
また、170℃熱老化(42日間(1008h))後に測定された3つの第2試験片の曲げ強度の平均値を「Y2」とした。
【0079】
(200℃曲げ強度保持率)
200℃熱老化(7日間(168h))後の第1試験片の曲げ強度保持率(%)を、下記式1により算出した。
式1:(Y1/X)×100(%)
また、200℃熱老化試験後の試験片の曲げ強度保持率の値を以下の基準で評価した。
A:曲げ強度保持率が70%以上
B:曲げ強度保持率が50%以上70%未満
C:曲げ強度保持率が40%以上50%未満
D:曲げ強度保持率が40%未満
【0080】
(170℃曲げ強度保持率)
170℃熱老化(42日間(1008h))後の第2試験片の曲げ強度保持率(%)を、下記式2により算出した。
式2:(Y2/X)×100(%)
また、170℃熱老化試験後の試験片の曲げ強度保持率の値を以下の基準で評価した。
A:曲げ強度保持率が80%以上
B:曲げ強度保持率が70%以上80%未満
C:曲げ強度保持率が50%以上70%未満
D:曲げ強度保持率が50%未満
【0081】
[製造例1]ポリイミド樹脂1の製造
ディーンスターク装置、リービッヒ冷却管、熱電対、4枚パドル翼を設置した2Lセパラブルフラスコ中に2-(2-メトキシエトキシ)エタノール(日本乳化剤(株)製)500gとピロメリット酸二無水物(三菱ガス化学(株)製)218.12g(1.00mol)を導入し、窒素フローした後、均一な懸濁溶液になるように150rpmで撹拌した。一方で、500mLビーカーを用いて、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(三菱ガス化学(株)製、シス/トランス比=7/3)49.79g(0.35mol)、1,8-オクタメチレンジアミン(関東化学(株)製)93.77g(0.65mol)を2-(2-メトキシエトキシ)エタノール250gに溶解させ、混合ジアミン溶液を調製した。この混合ジアミン溶液を、プランジャーポンプを使用して徐々に加えた。滴下により発熱が起こるが、内温は40~80℃に収まるよう調整した。混合ジアミン溶液の滴下中はすべて窒素フロー状態とし、撹拌翼回転数は250rpmとした。滴下が終わったのちに、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール130gと、末端封止剤であるn-オクチルアミン(関東化学(株)製)1.284g(0.010mol)を加えさらに撹拌した。この段階で、淡黄色のポリアミド酸溶液が得られた。次に、撹拌速度を200rpmとした後に、2Lセパラブルフラスコ中のポリアミド酸溶液を190℃まで昇温した。昇温を行っていく過程において、液温度が120~140℃の間にポリイミド樹脂粉末の析出と、イミド化に伴う脱水が確認された。190℃で30分保持した後、室温まで放冷を行い、濾過を行った。得られたポリイミド樹脂粉末は2-(2-メトキシエトキシ)エタノール300gとメタノール300gにより洗浄、濾過を行った後、乾燥機で180℃、10時間乾燥を行い、317gのポリイミド樹脂1の粉末を得た。
ポリイミド樹脂1のIRスペクトルを測定したところ、ν(C=O)1768、1697(cm-1)にイミド環の特性吸収が認められた。対数粘度は1.30dL/g、Tmは323℃、Tgは184℃、Tcは266℃、結晶化発熱量は21.0mJ/mg、半結晶化時間は20秒以下、Mwは55,000であった。
【0082】
製造例1におけるポリイミド樹脂の組成及び評価結果を表1に示す。なお、表1中のテトラカルボン酸成分及びジアミン成分のモル%は、ポリイミド樹脂製造時の各成分の仕込み量から算出した値である。
【0083】
【0084】
表1中の略号は下記の通りである。
・PMDA;ピロメリット酸二無水物
・1,3-BAC;1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン
・OMDA;1,8-オクタメチレンジアミン
【0085】
[実施例1~5、比較例1~3]
製造例1で得られたポリイミド樹脂1と、表2に示すナノ炭素材料(B)又はその他の炭素材料とを、表2に示す配合比率でドライブレンドにより十分混合した。得られた混合粉末をラボプラストミル((株)東洋精機製作所製)を用いてバレル温度350℃、スクリュー回転数70rpmで溶融混練してストランドを押し出した。押出機より押し出されたストランドを空冷後、ペレタイザー((株)星プラスチック製「ファンカッターFC-Mini-4/N」)でカットすることによりペレット化し、190℃、10時間乾燥を行い、ポリイミド樹脂組成物のペレットを得た。
なお、ポリイミド樹脂組成物のペレットは、長さ3~4mm、直径2~3mmであった。
得られたペレットを用いて、前記方法により各種評価を行ない、その結果を表2に示した。
【0086】
【0087】
表2に示した各成分の詳細は下記の通りである。
<ポリイミド樹脂(A)>
(A1)製造例1で得られたポリイミド樹脂1、Mw:55,000
<ナノ炭素材料(B)>
(B1)N002-PDE:単層酸化グラフェン、石原ケミカル(株)製、厚み1nm未満、酸素含有量10~20原子量%、比表面積400m2/g
(B2)N002-PDR:単層グラフェン、石原ケミカル(株)製、厚み1nm未満、比表面積400m2/g
<(B)以外の炭素材料>
(b1)UP-5N:薄片化黒鉛粉末、日本黒鉛商事(株)製、平均粒径5μm、見掛密度0.1g/cm3
(b2)CGC-20:球状化黒鉛粉末、日本黒鉛商事(株)製、平均粒径20μm、見掛密度0.45g/cm3、比表面積4.5m2/g
【0088】
表2に記載されている評価結果より、以下のことが分かる。
比較例1~3のポリイミド樹脂組成物は、ナノ炭素材料(B)を含有しないことに起因して、得られる成形体は長期耐熱性に劣るものであった。
これに対して、実施例1~5のポリイミド樹脂組成物は、特定のポリイミド樹脂(A)とナノ炭素材料(B)とを含有することに起因して、比較例1~3のポリイミド樹脂組成物よりも、得られる成形体は長期耐熱性に優れるものであった。
また、実施例1~5のポリイミド樹脂組成物は、黒鉛粉末を含有する比較例2、3のポリイミド樹脂組成物よりも、得られる成形体は高い黒色度を有するものであった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のポリイミド樹脂組成物によれば、長期耐熱性に優れ、かつ黒色度が高い成形体が得られる。本発明の成形体は、例えば、各種産業部材、ギア、軸受、ベルト等の家電製品用部材、電線等の被覆材、カバーレイフィルム、航空用途、電化製品の筐体、自動車用内装部材、自動車用外装部材、家具類に用いる部材、及び楽器類に用いる部材等に適用できる。