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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】高分子材料の解析方法
(51)【国際特許分類】
   G16C 10/00 20190101AFI20240604BHJP
   G16C 20/30 20190101ALI20240604BHJP
   G16Z 99/00 20190101ALI20240604BHJP
【FI】
G16C10/00
G16C20/30
G16Z99/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022108547
(22)【出願日】2022-07-05
(65)【公開番号】P2024007219
(43)【公開日】2024-01-18
【審査請求日】2023-09-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】馬場 昭典
【審査官】渡邉 加寿磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-211755(JP,A)
【文献】特開2005-121536(JP,A)
【文献】米国特許第8244504(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0275094(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16C 10/00-99/00
G06Q 10/00-99/00
G16Z 99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の原子で構成された分子鎖を含む高分子材料を解析するための方法であって、
コンピュータに、前記分子鎖をモデリングした分子モデルを入力する工程と、
前記コンピュータが、下記式(1)に基づいて、前記分子モデルのエントロピー弾性Fを計算する工程とを含む、
高分子材料の解析方法。
【数1】
ここで、
F:エントロピー弾性
:ボルツマン定数
T:絶対温度
K:分子モデルのKuhnセグメント数
-1(x):逆ランジュバン関数
R:分子モデルの末端間距離
L:分子モデルの全長
d:第1補正項
C:第2補正項
【請求項2】
前記分子モデルを入力する工程は、複数の粒子及び複数の粒子間結合を有する第1分子モデルを入力する工程と、
前記第1分子モデルのうち、前記複数の粒子及び複数の粒子間結合の一部を抽出して、前記分子モデルを定義する工程とを含む、請求項1に記載の高分子材料の解析方法。
【請求項3】
前記第1分子モデルは、互いに異なる分子鎖間を連結した架橋分子モデルであり、
前記架橋分子モデルは、架橋粒子又は架橋結合が一つ以上含まれる、請求項2に記載の高分子材料の解析方法。
【請求項4】
前記エントロピー弾性Fを計算する工程に先立ち、前記第1補正項dをフィッティングパラメータとして同定する工程を含み、
前記同定する工程は、
前記分子鎖を用いた実験又は前記分子モデルを用いたシミュレーションから求められるエントロピー弾性の観測値G2と、上記式(1)のエントロピー弾性G1とが近づくように、前記第1補正項dを同定する工程とを含む、請求項1又は2に記載の高分子材料の解析方法。
【請求項5】
前記第2補正項Cは、前記分子モデルの末端間距離Rと前記分子モデルの全長Lとの比R/Lの関数に基づいて特定される、請求項1又は2に記載の高分子材料の解析方法。
【請求項6】
前記関数は、下記式(2)である、請求項5に記載の高分子材料の解析方法。
【数2】
ここで、
0、c2及びc4:フィッティングパラメータ
【請求項7】
前記エントロピー弾性Fを計算する工程に先立ち、前記コンピュータが、前記分子モデルの末端間距離Rと全長Lとの比R/Lと、エントロピー弾性の観測値G2との関係を取得する工程と、
前記コンピュータが、前記エントロピー弾性の観測値G2と、上記式(1)のエントロピー弾性G1とが近づくように、前記フィッティングパラメータc0、c2及びc4を同定する工程を含む、請求項6に記載の高分子材料の解析方法。
【請求項8】
前記第1補正項dは、-1であり、かつ、前記第2補正項Cは、1である、請求項1又は2に記載の高分子材料の解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高分子材料の解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、高分子材料モデルの作成方法が記載されている。この作成方法では、高分子材料の少なくとも一部の体積に相当する予め定められた仮想の空間に、複数のポリマー粒子モデルを含むポリマーモデルを配置する工程が実施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6353290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の高分子材料モデルを用いて、高分子材料の粘弾性を解析するためには、例えば、高分子材料の応力を、高分子材料を構成する各粒子の応力の総和として算出する方法が考えられる。しかしながら、このような方法では、粒子の運動や配置についての熱揺らぎの影響を十分に小さくするために、多数の粒子の応力の総和を取る必要があり、個々の高分子鎖のエントロピー弾性を精度よく見積もることは困難である。
【0005】
また、高分子材料の平衡時の熱揺らぎや、外力による変形等に伴って、高分子材料を構成する分子鎖が伸縮することから、伸縮時の分子鎖のエントロピー弾性を、末端間距離と全長の比に基づいて理論的に計算する方法が考えられる。このようなエントロピー弾性は、例えば、Langevin chainに基づいて計算することができる。
【0006】
Langevin chainは、平衡長での比R/Lが0に近似できるような十分に長い分子鎖において、エントロピー弾性を計算することができる。しかしながら、このような方法では、例えば、分子鎖が数千モノマー程度であっても鎖長が短く、平衡長での比R/Lが0に近似できないため、平衡長付近のエントロピー弾性を精度良く計算できないという問題があった。
【0007】
本開示は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、分子鎖の伸縮時のエントロピー弾性を精度よく計算することが可能な方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、複数の原子で構成された分子鎖を含む高分子材料を解析するための方法であって、コンピュータに、前記分子鎖をモデリングした分子モデルを入力する工程と、前記コンピュータが、下記式(1)に基づいて、前記分子モデルのエントロピー弾性Fを計算する工程とを含む、高分子材料の解析方法である。
【数1】
ここで、F:エントロピー弾性
:ボルツマン定数
T:絶対温度
K:分子モデルのKuhnセグメント数
-1(x):逆ランジュバン関数
R:分子モデルの末端間距離
L:分子モデルの全長
d:第1補正項
C:第2補正項
【発明の効果】
【0009】
本開示の高分子材料の解析方法では、上記の工程を採用することにより、分子鎖が短い場合においても、分子鎖の伸縮時のエントロピー弾性を精度良く計算することが可能となる。また、高分子材料モデルに分子鎖間の架橋が含まれる場合において、架橋点の間の部分的な分子鎖の伸縮時のエントロピー弾性を精度よく計算することが可能となる。さらに、高分子材料モデルにフィラーが含まれ、かつ、フィラーの間を直接つなぐ分子鎖が含まれる場合には、そのような部分的な分子鎖の伸縮時のエントロピー弾性を精度よく計算することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】高分子材料のシミュレーション方法を実行するためのコンピュータの一例を示す斜視図である。
図2】ポリブタジエンの構造式である。
図3】高分子材料の解析方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図4】粗視化分子モデル(Kremer-Grestモデル)の概念図である。
図5】粗視化分子モデルが配置されたセルの一例を示す概念図である。
図6】Langevin chainに基づくエントロピー弾性と、末端間距離と全長との比との関係を示すグラフである。
図7】粗視化分子モデル(理想鎖モデル)の概念図である。
図8】本実施形態のエントロピー弾性と、末端間距離と全長との比との関係を示すグラフである。
図9】本開示の他の実施形態の高分子材料の解析方法の処理手順を示すフローチャートである。
図10】Kremer-Grestモデルの分子動力学計算から算出されたエントロピー弾性と、末端間距離と全長との比との関係を示すグラフである。
図11】パラメータ特定工程の処理手順を示すフローチャートである。
図12図10の平衡長付近の拡大図である。
図13】Kremer-Grestモデルの分子動力学計算から算出されたエントロピー弾性と式(1)のエントロピー弾性との比と、末端間距離と全長との比との関係を示すグラフである。
図14】実施例1~4及び比較例1のエントロピー弾性と末端間距離と全長との比との関係を示すグラフである。
図15図14の平衡長付近の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態が図面に基づき説明される。各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本開示の内容理解のためのものであって、本開示は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0012】
本実施形態の高分子材料の解析方法(以下、単に「解析方法」ということがある。)では、複数の原子で構成された分子鎖を含む高分子材料が解析される。本実施形態では、分子鎖の伸縮時のエントロピー弾性が計算される。本実施形態の解析方法には、コンピュータ1が用いられる。
【0013】
[コンピュータ]
図1は、高分子材料のシミュレーション方法を実行するためのコンピュータ1の一例を示す斜視図である。本実施形態のコンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成されている。本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。記憶装置には、本実施形態の解析方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。
【0014】
[高分子材料]
高分子材料は、複数の原子で構成された分子鎖を含むものであれば、特に限定されない。本実施形態の高分子材料は、ゴム(本例では、cis-1,4ポリブタジエン(以下、単に「ポリブタジエン」ということがある。))である場合が例示されるが、特に限定されるわけではない。また、高分子材料は、例えば、複数のゴムで構成されていてもよいし、フィラー(例えば、シリカやカーボン)等が配合されたものでもよい。また、高分子材料は、現時点では存在しない新たな構造を有するものでもよい。
【0015】
[分子鎖]
図2は、ポリブタジエンの構造式である。ポリブタジエンを構成する分子鎖2は、複数の原子(本例では、炭素原子及び水素原子)で構成されている。本実施形態の分子鎖2は、メチレン基(-CH-)とメチン基(-CH-)とからなるモノマー3の{-[CH-CH=CH-CH]-}が、重合度nで連結されて構成されている。この分子鎖2の両末端は、メチレン基(-CH-)に替えて、メチル基(-CH)で構成される。
【0016】
[高分子材料の解析方法(第1実施形態)]
次に、本実施形態の解析方法が説明される。図3は、高分子材料の解析方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0017】
[分子モデルを入力]
本実施形態の解析方法では、先ず、分子鎖2を表現した分子モデル5が、コンピュータ1(図1に示す)に入力される(工程S1)。本実施形態の工程S1では、分子モデル5として、Kremer-Grestモデル5Bが入力される。図4は、分子モデル5(Kremer-Grestモデル5B)の概念図である。
【0018】
本実施形態のKremer-Grestモデル5Bは、図2に示した分子鎖2を構成する複数の原子よりも少ない複数の粒子6を用いて、分子鎖2が表現されたものである。本実施形態のKremer-Grestモデル5Bは、複数の粒子6と、粒子6、6間を結合する結合鎖7とを含んで構成されている。
【0019】
本実施形態の粒子6は、後述の分子動力学に基づく構造緩和の計算において、運動方程式の質点として取り扱われる。このため、粒子6には、例えば、質量、体積、直径又は電荷などのパラメータが定義される。
【0020】
粒子6は、図2に示したポリマーのモノマー3又はモノマー3の一部分をなす構造単位を置換したものである。1つの分子モデル5(本例では、Kremer-Grestモデル5B)を構成する粒子6の合計数は、従来と同様に適宜設定(例えば、10~5000程度)することができる。
【0021】
本実施形態の結合鎖7は、粒子6、6間に設定された第2ポテンシャルP2によって定義される。本実施形態の第2ポテンシャルP2は、LJポテンシャルとFENEポテンシャルとの和で定義されうる。LJポテンシャル及びFENEポテンシャルの詳細や定数等は、論文1( Kurt Kremer & Gary S. Grest 著、「Dynamics of entangled linear polymer melts: A molecular-dynamics simulation」、J. Chem Phys. vol.92, No.8, 15 April 1990、p5057-5086)に記載のとおりである。
【0022】
分子モデル5は、Kremer-Grestモデル5Bに、結合角相互作用を追加したモデルであってもよい。結合角相互作用は、例えば、論文2( A. Baba and Y. Masubuchi著、「Quantitative bridging between full-atomistic and bead-spring models for polybutadiene and poly(butadiene-styrene) copolymers」、J. Chem. Phys.Volume 154、 Issue 4, 28 January 2021, Article number 044901 )に基づいて設定される。このような分子モデル5は、結合角相互作用が追加されないKremer-Grestモデル5Bに比べて、分子鎖の剛直性をより正確に表現できる点で好ましい。分子モデル5(本例では、Kremer-Grestモデル5B)は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
【0023】
[セルを入力]
次に、本実施形態の解析方法では、高分子材料の一部に対応する仮想空間であるセルが、コンピュータ1(図1に示す)に入力される(工程S2)。図5は、分子モデル5が配置されたセル10の一例を示す概念図である。図5では、一部の分子モデル5が代表して示されている。
【0024】
本実施形態のセル10は、少なくとも互いに向き合う一対の面11、11(本実施形態では、互いに向き合う三対の面11、11)を有している。本実施形態のセル10は、直方体又は立方体(本実施形態では、立方体)として定義されている。
【0025】
セル10の各面11、11は、周期境界条件が定義されている。セル10の一辺の各長さL1は、例えば、分子モデル5の拡がりを示す量である慣性半径(図示省略)の2倍以上が望ましい。これにより、後述の分子動力学に基づく構造緩和計算において、周期境界条件による自己のイメージとの衝突の発生を防ぐことができる。セル10は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
【0026】
[分子モデルを配置]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1(図1に示す)が、セル10の内部に、複数の分子モデル5(本例では、Kremer-Grestモデル5B)を配置する(工程S3)。本実施形態の工程S3では、複数の分子モデル5がランダムに配置される。分子モデル5の個数は、例えば、コンピュータ1の計算能力、セル10の大きさ、及び、分子モデル5の大きさ等に基づいて、適宜設定されうる。
【0027】
分子モデル5を配置する手順は、特に限定されない。本実施形態の工程S3では、例えば、モンテカルロ法に基づいて、セル10の内部に、複数の分子モデル5がランダムに配置される。このような分子モデル5の初期配置には、例えば、市販ソフト(例えば、(株)JSOL社製のソフトマテリアル総合シミュレーター(J-OCTA)に含まれるCOGNAC)が用いられうる。
【0028】
また、工程S3では、セル10の内部に、高分子材料に配合されるフィラーをモデリングしたフィラーモデル(図示省略)が配置されてもよい。これにより、フィラーの影響を考慮した分子鎖の伸縮時のエントロピー弾性Fを計算すことが可能となる。分子モデル5が配置されたセル10は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
【0029】
[相互作用を定義]
次に、本実施形態の解析方法では、粒子6、6間に、相互作用が定義される(工程S4)。本実施形態の相互作用は、一対の分子モデル5、5(本例では、Kremer-Grestモデル5B、5B)の粒子6、6間に定義された第1ポテンシャルP1として定義される。第1ポテンシャルP1は、適宜設定することができ、例えば、引力及び斥力が作用するものが定義される。本実施形態の第1ポテンシャルP1は、例えば、LJポテンシャルで定義することができる。LJポテンシャルの詳細や定数等は、上記論文1に記載のとおりである。第1ポテンシャルP1は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
【0030】
[構造緩和を計算]
次に、本実施形態の解析方法では、コンピュータ1(図1に示す)が、分子動力学に基づく分子モデル5(本例では、Kremer-Grestモデル5B)の構造緩和を計算する(工程S5)。本実施形態の構造緩和計算では、例えば、セル10において所定の時間、分子モデル5の粒子6が古典力学に従うものとして、ニュートンの運動方程式が適用される。そして、各時刻での粒子6の動きが、単位時間ステップ毎に追跡される。
【0031】
分子動力学計算では、セル10において、圧力及び温度が一定、又は、体積及び温度が一定に保たれる。これにより、工程S5では、実際の高分子材料の分子運動に近似させて、分子モデル5(本例では、Kremer-Grestモデル5B)の初期配置が緩和される。本実施形態では、分子モデル5の初期配置が十分に緩和されるまで行われる。これにより、高分子材料をモデリングした高分子材料モデル12が作成される。構造緩和の計算には、例えば、上記の市販ソフトが用いられうる。なお、上述の分子モデル5を入力する工程S1において、例えば、構造緩和後の配置を持つ(構造緩和された)分子モデル5が入力される場合など、構造緩和計算の必要がない場合には、相互作用の定義(工程S4)及び構造緩和計算(工程S5)が省略されてもよい。高分子材料モデル12は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
【0032】
[エントロピー弾性を計算]
次に、本実施形態の解析方法では、コンピュータ1(図1に示す)が、構造緩和後の分子モデル5(本例では、Kremer-Grestモデル5B)のエントロピー弾性Fを計算する(工程S6)。本実施形態の工程S6では、エントロピー弾性Fの計算に先立ち、高分子材料モデル12を対象に、予め定められた条件(例えば、引張)に基づく変形計算が実施される。なお、このような変形計算が実施される態様に限定されるわけではなく、例えば、解析の目的に応じて、変形計算が省略されてもよい。
【0033】
本実施形態では、予め定められた変形条件に基づいて、高分子材料モデル12の変形が計算される。変形条件は、例えば、高分子材料に求められる性能(耐久性や剛性など)に基づいて適宜設定される(本例では、引張が設定される)。高分子材料モデル12の変形計算(シミュレーション)は、例えば、OCTAに含まれるCOGNACを用いて処理することができる。このような高分子材料モデル12の変形計算により、分子モデル5(本例では、Kremer-Grestモデル5B)の伸縮が計算される。
【0034】
次に、本実施形態の工程S6では、変形後の高分子材料モデル12を対象に、分子モデル5(本例では、Kremer-Grestモデル5B)のエントロピー弾性Fが計算される。エントロピー弾性Fは、高分子材料モデル12を構成する複数の分子モデル5のうち、一つの分子モデル5のエントロピー弾性Fが計算されてもよいし、複数の分子モデル5毎にエントロピー弾性Fが計算されてもよい。
【0035】
ところで、分子動力学計算で得られる個々の分子鎖のエントロピー弾性Fを、例えば、個々の粒子に働く応力の総和や、分子鎖の末端間距離の頻度分布から精度よく計算するには、粒子の運動や配置についての大きな熱揺らぎの影響を十分に小さくすることが重要である。このような熱揺らぎの影響を小さくするには、応力等についての膨大な計算を実施して、それらの平均を取る必要があるため容易ではない。このため、従来では、例えば、Langevin chain(ランジュバン鎖)に基づいて、エントロピー弾性Fが計算(予測)されていた。Langevin chainの詳細は、論文3( Kuhn and Grun, Kolloid Z. 101, 248 (1942) )に記載のとおりである。
【0036】
Langevin chainに基づくエントロピー弾性Fは、下記式(3)に基づいて計算される。図6は、Langevin chainに基づくエントロピー弾性Fと、末端間距離Rと全長Lとの比R/Lとの関係を示すグラフである。
【0037】
【数3】
ここで、
F:エントロピー弾性
:ボルツマン定数
T:絶対温度
K:分子モデルのKuhnセグメント数
-1(x):逆ランジュバン関数
R:分子モデルの末端間距離
L:分子モデルの全長
【0038】
図6に示されるように、Langevin chainでは、平衡長での比R/Lが0に近似できるような十分に長い分子鎖について、平衡長(比R/L=0)では、エントロピー弾性の最小値が最小値の0となる。また、比R/Lが大きくなる伸長時においては、比R/Lが大きくなるに従って、エントロピー弾性Fが大きくなる。特に、平衡長付近での伸長に対してエントロピー弾性が線形に増加する傾向や、比R/Lが1に近づくに従って急激に増加する傾向といった高分子鎖の典型的な挙動を定性的に再現できるという特長がある。
【0039】
一方、鎖長が短い分子鎖では、平衡長での比R/Lが0(最小値)よりも大きな値となる。例えば、理想鎖の場合には、後述のとおり、NKが十分に大きい場合、<R>/L~NK -1/2となる。図7は、理想鎖モデル5Aの概念図である。
【0040】
理想鎖モデル5Aは、分子鎖を折れ線で表した数学的なモデルである。図7では、理想鎖モデル5Aを理解しやすくするために、粒子6が大きさのある球で表現され、かつ、結合鎖7が太さのある円筒で表現されているが、実際には、粒子6が大きさの無い点として定義され、かつ、結合鎖7が太さのない線分として定義されている。これらの粒子6及び結合鎖7は、現実的な分子鎖と異なり、互いに重なり合っていてもよい。また、各結合鎖7の長さ(すなわち、結合鎖7で互いに結合する粒子6、6間の長さ)は、Kuhn長lKと呼ばれる一定の値に定義されている。
【0041】
また、同じ粒子6に結合する二つの結合鎖7のなす角度は、(本例では、三次元空間上で)ランダムに選択される。ここで、粒子6、6間の結合数の総数(すなわち、結合鎖7の総数)は、Kuhnセグメント数NKと呼ばれる。このKuhnセグメント数NKが用いられることにより、全長(末端間の結合鎖7に沿った道のり)Lは、lK×NKで表わされる。このような理想鎖モデル5Aの末端間距離Rの二乗平均は、NKが十分に大きい場合、中心極限定理に基づいて、<R2>~L2/NKで表される。すなわち、平衡長は、<R>~L/NK 1/2で表され、平衡長での比R/Lは、<R>/L~NK -1/2で表わされる。
【0042】
一方、Langevin chainでは、平衡長での比R/Lが0に固定されており、平衡長よりも小さくなる(すなわち、比R/LがNK -1/2未満となる)収縮時のエントロピー弾性Fを計算することができない。このように、Langevin chainでは、分子鎖2(図2に示す)の伸縮時のエントロピー弾性Fを、特に収縮時において、適切に計算することができない。とりわけ、粒子6の合計数が小さい分子モデル5(鎖長が小さい分子鎖)は、粒子6の合計数が大きい分子モデル5に比べて、平衡長よりも小さく収縮する状態が頻繁に現れるため、収縮時のエントロピー弾性Fを計算することが重要である。
【0043】
本実施形態では、下記式(1)に基づいて、分子モデル5のエントロピー弾性Fが計算される。図8は、本実施形態のエントロピー弾性Fと、末端間距離Rと全長Lとの比R/Lとの関係を示すグラフである。
【0044】
【数1】
ここで、
F:エントロピー弾性
:ボルツマン定数
T:絶対温度
K:分子モデルのKuhnセグメント数
-1(x):逆ランジュバン関数
R:分子モデルの末端間距離
L:分子モデルの全長
d:第1補正項
C:第2補正項
【0045】
上記式(1)は、有限鎖長の分子モデルについて、末端間距離のエントロピー弾性Fの数値解によく近似する式として考案したものである。上記式(3)のLangevin chainに基づくエントロピー弾性Fに対し、上記式(1)のエントロピー弾性Fでは、先ず、回転自由度項-2(R/L)-1が追加されている。この回転自由度項-2(R/L)-1は、分子鎖全体の三次元回転の自由度によるエントロピー弾性Fへの影響を考慮するためのものである。
【0046】
この回転自由度項-2(R/L)-1の導出手順について説明する。先ず、分子モデルの一対の末端のうち、一方の末端から見たときの他方の末端の位置は、一方の末端を中心として、末端間距離Rと全長Lとの比R/Lを半径とするような球面上に必ず存在する。この球面の表面積Aは、4π(R/L)であり、表面積Aの自由エネルギーへの寄与は、ln(1/A)=-2ln(R/L)+定数で表される。これをR/Lについて一階微分して得られる-2(R/L)-1が、エントロピー弾性Fへの寄与である。この項は、まさに上記式(1)の回転自由度項-2(R/L)-1に等しい。
【0047】
このように、上記式(1)において、回転自由度項-2(R/L)-1が追加されることにより、図8に示されるように、エントロピー弾性Fが0となる平衡長での比R/Lが0よりも大きくなる。また、NKが十分に大きい場合には、対応する理想鎖の平衡長での比<R>/L~NK -1/2に近い値となる。これにより、平衡長よりも小さくなる収縮時の分子モデルのエントロピー弾性Fを、精度よく計算することが可能となる。
【0048】
次に、上記式(1)のエントロピー弾性Fでは、新たに第1補正項dが考慮されている。この第1補正項dは、分子鎖の末端によるエントロピー弾性Fへの影響を補正するためのものである。たとえば、理想鎖モデル5A(図7に示す)では、図4に示した分子モデル5(本例では、Kremer-Grestモデル5B)を構成する粒子6、6間の結合部分(結合鎖7)のうち、最初の結合部分13の結合長は、分子モデル5の末端間距離Rを確実にKuhn長lKだけ増加させるため、末端間距離Rの頻度分布の広がりに影響せず、ひいては、エントロピー弾性Fに寄与しない。このため、第1補正項dは、-1(すなわち、最初の結合部分13に対応する結合一つ分のエントロピー弾性Fへの寄与を差し引くことを意味する値)に等しくなる。
【0049】
同様に、図4に示したKremer-Grestモデルなどの他の粗視化モデルにおいても、最初の末端付近のエントロピー弾性Fへの寄与が、それ以外のエントロピー弾性Fに比べて小さくなる傾向がある。このため、第1補正項dは、-1に近似する値になるとみなされうる。なお、第1補正項dの値は、分子モデル5の定義や分子鎖の鎖長などに依存して増減し得るため、適宜調整されることが望ましい。
【0050】
このように、上記式(1)において、第1補正項dが設定されることにより、エントロピー弾性Fの鎖長依存性が、従来に比べて精度よく計算されうる。とりわけ、平衡長付近において、エントロピー弾性Fの鎖長依存性が、精度良く計算されうる。なお、分子鎖の末端によるエントロピー弾性Fへの影響の補正が省略できるとみなされうる場合(例えば、鎖長が十分に長い場合など)には、第1補正項dに、0が設定されてもよい。
【0051】
さらに、上記式(1)のエントロピー弾性Fでは、新たに第2補正項Cが考慮されている。この第2補正項Cは、分子鎖内の相互作用によるエントロピー弾性Fへの影響を補正するためのものである。エントロピー弾性Fへの影響は、分子モデル5の定義や分子鎖の鎖長などに依存して変化し得るため、第2補正項Cの値が、適宜調整されることが望ましい。このような第2補正項Cにより、平衡長よりも大きく伸長した際の、理想鎖モデル5Aのエントロピー弾性Fとのズレを補正することができる。これにより、分子モデル5のエントロピー弾性Fを、精度よく計算することが可能となる。なお、分子モデル5が平衡長よりも十分大きく伸長しない場合や、上述のエントロピー弾性Fのズレが無視できるほど小さい場合には、C=1が用いられてもよい。
【0052】
本実施形態の工程S6では、図5に示した高分子材料モデル12の変形計算によって伸縮した分子モデル5(本例では、Kremer-Grestモデル5B)について、Kuhnセグメント数NK、末端間距離R及び全長Lが上記式(1)に代入される。なお、上記式(1)の絶対温度Tは、高分子材料モデル12のセル10に設定された温度に基づいて設定される。これにより、本実施形態では、分子鎖2(図2に示す)の伸縮時のエントロピー弾性Fを、精度よく計算することができる。
【0053】
[エントロピー弾性を評価]
次に、本実施形態の解析方法では、分子モデル5(図5に示す)のエントロピー弾性Fが、良好か否かが判断される(工程S7)。エントロピー弾性Fが良好か否かの判断は、例えば、高分子材料に求められる性能(例えば、応力や剛性等)に基づいて、適宜実施することができる。本実施形態では、エントロピー弾性Fが予め定められた閾値よりも大きい場合に良好であると判断されている。閾値は、例えば、高分子材料に求められる性能に基づいて、適宜設定される。
【0054】
工程S7において、エントロピー弾性Fが良好であると判断された場合(工程S7で「Yes」)、評価対象の高分子材料の分子鎖(例えば、高分子材料の分子鎖2(図2に示す)の構造や条件等)に基づいて、高分子材料が製造される(工程S8)。
【0055】
一方、工程S7において、エントロピー弾性Fが良好でないと判断された場合(工程S7で「No」)、高分子材料の分子鎖2(図2に示す)の構造や条件等を変更して(工程S9)、工程S1~S7が再度実施される。
【0056】
このように、本実施形態の解析方法では、分子鎖の伸縮時のエントロピー弾性Fが良好となるまで、高分子材料の分子鎖2(図2に示す)の構造や条件等が変更される。これにより、本実施形態の解析方法では、所望の性能(例えば、応力や剛性等)を有する高分子材料を確実に開発及び製造することが可能となる。
【0057】
[高分子材料の解析方法(第2実施形態)]
これまでの実施形態の工程S1では、図2に示した分子鎖2に基づいて、分子モデル5(図4に示す)が定義されたが、このような態様に限定されない。例えば、エントロピー弾性Fの計算対象である分子モデル5とは別の第1分子モデルから、粒子および粒子間結合の一部が抽出された分子モデル5が定義されてもよい。
【0058】
この実施形態の工程S1では、複数の粒子6及び複数の粒子間結合(結合鎖7)を有する第1分子モデル(図示省略)を入力する工程と、第1分子モデルのうち、複数の粒子6及び複数の粒子間結合(結合鎖7)の一部を抽出して、分子モデル5(図4に示す)を定義する工程とが実施される。これにより、第1分子モデルの一部分を構成する分子モデル5のエントロピー弾性Fを計算することが可能となる。
【0059】
第1分子モデル(図示省略)は、互いに異なる分子鎖間を連結した架橋分子モデルであってもよい。この架橋分子モデルは、架橋粒子又は架橋結合が一つ以上含まれるのが好ましい。これにより、架橋を含む第1分子モデルについて、架橋を経由する分子鎖モデルや、その分子鎖モデルの一部分のエントロピー弾性Fを計算することが可能となる。
【0060】
[高分子材料の解析方法(第3実施形態)]
これまでの実施形態では、理想鎖モデル5A(図7に示す)の末端間距離のエントロピー弾性Fの数値解に近似する上記式(1)が用いられたが、このような態様に限定されない。例えば、Kremer-Grestモデル5Bの末端間距離のエントロピー弾性Fの数値解に近似する式が用いられてもよい。
【0061】
Kremer-Grestモデル5B(図4に示す)は、理想鎖モデル5A(図7に示す)とは異なり、分子モデル5の重なりやすり抜けが許容されないため、分子鎖間の絡み合いを適切に表現できる。図9は、本開示の他の実施形態の高分子材料の解析方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0062】
[エントロピー弾性を計算(第3実施形態)]
この実施形態のエントロピー弾性Fを計算する工程S6では、これまでの実施形態と同様に、エントロピー弾性Fの計算に先立ち、構造緩和後の高分子材料モデル12(図5に示す)を対象に、予め定められた条件(例えば、引張)に基づく変形計算が実施される。このような高分子材料モデル12の変形計算により、分子モデル5の伸縮が計算される。なお、解析の目的に応じて、構造緩和の計算や変形計算が省略されてもよい。
【0063】
次に、この実施形態の工程S6では、これまでの実施形態と同様に、変形後の高分子材料モデル12を対象に、上記式(1)に基づいて、分子モデル5のエントロピー弾性Fが計算される。なお、上記式(1)のKuhnセグメント数NKには、分子鎖の鎖長及び剛直性が対応付けられた理想鎖モデル5AでのKuhnセグメント数NKが代入される必要がある。このため、この実施形態では、Kremer-Grestモデル5Bでの粒子6、6間の結合数を、Kuhnセグメント数NKに換算したものが、上記式(1)のKuhnセグメント数NKに代入される。Kuhnセグメント数NKへの換算は、適宜実施することができ、例えば、上記論文2に基づいて、全長Lと、長鎖長極限におけるKuhn長lKとを用いて、それらの比L/lKが、Kuhnセグメント数NKに等しいとすることで換算しうる。これにより、分子モデル5(Kremer-Grestモデル5B)の収縮時のエントロピー弾性Fを精度よく計算することが可能となる。
【0064】
ところで、Kremer-Grestモデル5B(図4に示す)は、理想鎖モデル5A(図7に示す)とは異なり、相互作用(例えば、第2ポテンシャルP2)が定義されている。このため、とりわけ伸び切り(比R/Lが1)付近において、Kremer-Grestモデル5Bを用いた計算機シミュレーションで得られるエントロピー弾性の観測値G2は、Kremer-Grestモデル5Bに対応する理想鎖モデル5Aの理論値GC1とは異なる値が計算される。なお、エントロピー弾性の観測値G2は、分子鎖を用いた実験で求められてもよい。
【0065】
対応する理想鎖モデル5Aのエントロピー弾性の理論値GC1は、適宜取得することができる。例えば、理論値GC1は、対応するKuhnセグメント数NKを持つ理想鎖モデル5Aについて、例えばKuhnセグメント数NKを整数に近似した上で、モンテカルロ法による計算機シミュレーションに基づいて取得されてもよいし、あるいは単に、上記式(1)の第2補正項Cに1が代入されることで計算されてもよい。なお、上記式(1)に基づいて理論値GC1が取得される場合、第1補正項dは、-1が代入されてもよいし、適宜調整されてもよい。図10は、Kremer-Grestモデル5Bのエントロピー弾性の観測値G2、及び、対応する理想鎖モデル5Aのエントロピー弾性の理論値GC1と、末端間距離R及び全長Lの比R/Lとの関係を示すグラフである。図12は、図10の平衡長付近の拡大図である。
【0066】
図12に示されるように、Kremer-Grestモデル5B(図4に示す)のエントロピー弾性の観測値G2では、エントロピー弾性が0となる平衡長について、比R/Lが0よりも大きい。これに対して、上記式(3)を用いて計算されたLangevin chainのエントロピー弾性の理論式G3では、平衡長での比R/Lは0に等しい。また、理想鎖モデル5Aのエントロピー弾性の理論値GC1(上記式(1)の第1補正項dに-1を代入し、かつ、第2補正項Cに1を代入して算出)は、平衡長付近について、エントロピー弾性の観測値G2に近似している。
【0067】
図12では、観測値G2の平衡長と、理論値GC1の平衡長の間に僅かなズレが残っている。このような場合、エントロピー弾性の理論値GC1と観測値G2がよりよく一致するように、第1補正項dへの-1の代入に代えて、後述のように、第1補正項dがフィッティングパラメータに用いられることで調整されてもよいし、他のフィッティングパラメータに加えて共にフィッティングされることで調整されてもよい。
【0068】
また、図10に示されるように、Kremer-Grestモデル5Bのエントロピー弾性の観測値G2は、理想鎖モデル5Aのエントロピー弾性の理論値GC1に比べて、伸び切りに近い(比R/Lが1に近い)領域で大きく増加している。これは、Kremer-Grestモデル5Bでは、粒子6、6間の相互作用が追加されているために、粒子6、6間の結合角が60°及び120°付近の値を取りやすく、その分、伸び切りに近い180°付近の角度を取ることが、理想鎖モデル5Aに比べて少なくなるためである。なお、分子モデル5の伸長が小さい場合には、このような影響は無視しうる。しかしながら、高分子材料モデル12に大きなひずみを与えた場合や、高分子材料モデル12にフィラーをモデリングしたフィラーモデル(図示省略)等が含まれている場合において、分子モデル5が大きく伸長しうる状況においては、このようなエントロピー弾性の観測値G2の増加を考慮して、Kremer-Grestモデル5Bのエントロピー弾性Fを計算することが重要である。このようなエントロピー弾性Fを計算するには、上記式(1)の第2補正項Cが比R/Lの関数で表される(特定される)ことが望ましい。
【0069】
R/Lの関数は、エントロピー弾性Fに近似可能な第2補正項Cを求めることができれば、適宜設定することができる。この実施形態の関数には、下記式(2)が設定される。
【0070】
【数2】
ここで、
0、c2及びc4:フィッティングパラメータ
【0071】
上記式(2)のフィッティングパラメータc0、c2及びc4は、適宜設定することができる。これらのフィッティングパラメータc0、c2及びc4は、エントロピー弾性Fを計算する工程S6に先立って、予め特定されるのが望ましい。
【0072】
[パラメータ特定工程]
この実施形態では、図9に示されるように、エントロピー弾性Fを計算する工程S6に先立ち、フィッティングパラメータを特定する工程(パラメータ特定工程S10)が実施される。パラメータ特定工程S10は、エントロピー弾性Fを計算する工程S6に先立って実施されれば、実施されるタイミングは、特に限定されない。図11は、パラメータ特定工程S10の処理手順を示すフローチャートである。
【0073】
[Kremer-Grestモデルのエントロピー弾性の観測値G2の関係を取得]
この実施形態のパラメータ特定工程S10では、先ず、コンピュータ1(図1に示す)が、Kremer-Grestモデル5Bの末端間距離Rと全長Lとの比R/Lと、エントロピー弾性の観測値G2との関係を取得する(工程S11)。比R/Lとエントロピー弾性の観測値G2との関係は、適宜取得することができる。この実施形態では、平衡状態の複数のKremer-Grestモデル5B(図4に示す)を作成して、これらのKremer-Grestモデル5Bのエントロピー弾性の観測値G2が計算される。
【0074】
この実施形態の工程S11では、先ず、一定の鎖長の複数のKremer-Grestモデル5Bが作成される。この実施形態では、例えば、複数のKremer-Grestモデル5Bを対象とする分子動力学(ニュートンの運動方程式)に基づく構造緩和の計算、又は、特許文献(特開2019-185753号公報)に記載の粗視化分子モデルの作成方法が実施される。これにより、様々な比R/Lを有する平衡状態のKremer-Grestモデル5Bが複数作成されうる。
【0075】
次に、この実施形態の工程S11では、複数のKremer-Grestモデル5Bのエントロピー弾性の観測値G2が計算される。エントロピー弾性の観測値G2は、Kremer-Grestモデル5Bの末端間距離Rの出現頻度に基づいて、末端間距離Rと全長Lとの比R/Lとしたときの確率密度関数p(R/L)を算出し、この確率密度関数p(R/L)を用いてボルツマン分布を仮定したときの自由エネルギーE(R/L)=-kBT・ln(p(R/L))を、比R/Lで微分したdE/d(R/L)として得られる。本実施形態では、一階微分は、比R/Lについての差分を用いて近似的に計算される。一階微分の算出には、カーネル密度推定が代わりに用いられてもよい。比R/Lと観測値G2との関係は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
【0076】
[対応する理想鎖モデルのエントロピー弾性GC1の関係を取得]
次に、この実施形態のパラメータ特定工程S10では、コンピュータ1(図1に示す)に、対応する理想鎖モデル5Aの末端間距離Rと全長Lとの比R/Lと、エントロピー弾性の理論値GC1との関係が入力される(工程S12)。比R/Lとエントロピー弾性の理論値GC1との関係は、上記式(1)の第2補正項Cを1とすることで特定することができる。第1補正項dの値は、-1が用いられてもよいし、適宜調整されてもよい。しかしながら、上述のとおり、上記式(1)において、第2補正項Cを1とした場合は、分子鎖2が大きく伸縮した時のエントロピー弾性は、対応するKremer-Grestモデル5Bのエントロピー弾性の観測値G2とは乖離しうることに注意する。
【0077】
この実施形態の工程S12では、対応する理想鎖モデル5Aのエントロピー弾性の理論値GC1が、上記式(1)において、第2補正項Cを1とし、かつ、第1補正項dの値を-1又は適宜調整されて、比R/Lとエントロピー弾性の理論値GC1との関係が特定される。比R/Lとエントロピー弾性の理論値GC1との関係は、コンピュータ1に記憶される。
【0078】
[フィッティングパラメータを同定]
次に、この実施形態のパラメータ特定工程S10では、コンピュータ1が、フィッティングパラメータc0、c2及びc4を同定する(工程S13)。この実施形態の工程S13では、Kremer-Grestモデルのエントロピー弾性の観測値G2と、対応する理想鎖モデル5Aのエントロピー弾性の理論値GC1との比G2/GC1に、上記式(2)で示される第2補正項Cが近似するように、フィッティングパラメータc0、c2及びc4が同定される。
【0079】
この実施形態の工程S13では、先ず、Kremer-Grestモデルのエントロピー弾性の観測値G2と、対応する理想鎖モデルのエントロピー弾性の理論値GC1との比G2/GC1が取得される。図13は、Kremer-Grestモデルのエントロピー弾性の観測値G2と、対応する理想鎖モデルのエントロピー弾性の理論値GC1との比G2/GC1と、末端間距離Rと全長Lとの比R/Lとの関係を示すグラフである。
【0080】
次に、この実施形態の工程S13では、Kremer-Grestモデルのエントロピー弾性の観測値G2と、上記式(1)に基づいて第2補正項Cを上記式(2)とした場合のエントロピー弾性G1とが近づくように(すなわち、エントロピー弾性の比G2/GC1に、上記式(2)で示される第2補正項Cが近似するように)、フィッティングパラメータc0、c2及びc4が同定される。エントロピー弾性の比G2/G1は、対応する理想鎖モデルのエントロピー弾性の理論値GC1に対するKremer-Grestモデルのエントロピー弾性の観測値G2の増加率を示している。
【0081】
フィッティングパラメータc0、c2及びc4の同定には、例えば、Levenberg-Marquardt法を用いることができる。同定されたフィッティングパラメータc0、c2及びc4は、コンピュータ1に記憶される。
【0082】
この実施形態の解析方法では、工程S6において、フィッティングパラメータc0、c2及びc4が同定された上記式(2)の第2補正項Cが、上記式(1)に代入される。これにより、この実施形態の解析方法では、Kremer-Grestモデルのエントロピー弾性Fを、精度良く計算することができる。
【0083】
これまでの実施形態では、上記式(1)の第1補正項dに、予め定められた数値(例えば、-1)が代入されたが、このような態様に限定されない。上述したように、第1補正項dは、数値(-1)の代入に代えて、フィッティングパラメータc0、c2及びc4と同様に、フィッティングパラメータとして同定されてもよい。
【0084】
この実施形態では、図9及び図11に示したパラメータ特定工程S10(エントロピー弾性Fを計算する工程S6に先立って実施)と同様に、エントロピー弾性の観測値G2と、上記式(1)のエントロピー弾性G1とが近づくように、第1補正項dが同定されるのが好ましい。この場合、第2補正項Cの値は、定数(例えば、1など)が代入されても良いし、第1補正項dとともに、上記式(2)のフィッティングパラメータc0、c2及びc4として同定されてもよい。
【0085】
このように、この実施形態では、第1補正項dが同定されることにより、定数(例えば、-1)が代入されていたこれまでの実施形態に比べて、エントロピー弾性Fの鎖長依存性が、より精度良く計算されうる。さらに、この実施形態では、第1補正項dとともに、上記式(2)のフィッティングパラメータc0、c2及びc4が同定されることで、エントロピー弾性Fをより精度良く計算することが可能となる。
【0086】
以上、本開示の特に好ましい実施形態について詳述したが、本開示は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。分子モデル5は、Kremer-Grestモデル5Bや、Kremer-Grestモデル5Bに結合角相互作用を追加したモデル(図示省略)に限定されるわけではなく、例えば、DPDモデルなどの他のバネビーズモデルであってもよい。また、分子モデル5は、粗視化分子モデルに限定されるわけではなく、例えば、全原子モデルや、ユナイテッドアトムモデルであってもよい。全原子モデルや、ユナイテッドアトムモデルである場合は、上記論文2に基づいて、粗視化分子モデルと対応づけることで、粗視化分子モデルと同様にエントロピー弾性Fが計算され得る。また、分子モデル5は、入力に先立って、粒子や粒子間の結合が抽出されたものであってもよい。抽出される前の分子モデルには、分子鎖同士が架橋されていてもよく、また、フィラーなどの分子鎖以外の粒子が含まれていてもよい。
【実施例
【0087】
[実施例A]
図3に示した処理手順に基づいて、複数の原子で構成された分子鎖を含む高分子材料が解析された(実施例1)。実施例1では、粗視化分子モデルとして、Kremer-Grestモデルが入力された。さらに、実施例1では、1つの粗視化分子モデルを構成する粒子の合計数が20に設定され、さらに、論文2に基づいて換算されたKuhnセグメント数NKが11.0であった。そして、上記式(1)の第1補正項dの値に-1が代入され、かつ、第2補正項Cの値に1が代入されて、エントロピー弾性Fが計算された。
【0088】
比較のために、上記の構造緩和後の粗視化分子モデル(Kremer-Grestモデル)に対応する理想鎖モデルのエントロピー弾性Fが、Langevin chainに基づく上記式(3)を用いて計算された(比較例1)。そして、実施例1及び比較例1のエントロピー弾性Fが、粗視化分子モデルの構造緩和が計算された後に、末端間距離Rの比R/Lに対する頻度分布に基づいて計算されたエントロピー弾性の観測値G2(シミュレーション結果)と比較された。
【0089】
図10の「G3」は、比較例1のエントロピー弾性と、末端間距離と全長との比との関係を示すグラフである。図10の「GC1」は、実施例1のエントロピー弾性と、末端間距離と全長との比との関係を示すグラフである。図10の「G2」は、構造緩和後の粗視化分子モデルのエントロピー弾性の観測値と、末端間距離と全長との比との関係を示すグラフである。
【0090】
テストの結果、実施例1のエントロピー弾性(図10のGC1)は、エントロピー弾性の観測値に対して、平衡長の値、及び、平衡長よりも小さくなる収縮時や平衡長近傍でのエントロピー弾性を精度良く再現することができた。一方、比較例1のエントロピー弾性(図10のG3)は、収縮時のエントロピー弾性を計算することができず、比R/Lの広い範囲で、エントロピー弾性の観測値との間にズレが生じた。したがって、実施例1は、分子鎖が大きく伸長する場合を除いて、エントロピー弾性の観測値を、時間をかけて計算しなくても、分子鎖の伸縮時のエントロピー弾性を精度良く計算することができた。
【0091】
[実施例B]
図9に示した処理手順に基づいて、複数の原子で構成された分子鎖を含む高分子材料が解析された(実施例2~4)。実施例2~4では、粗視化分子モデルとして、Kremer-Grestモデルが入力された。さらに、実施例2では、1つの粗視化分子モデルを構成する粒子の合計数が20に設定され、論文2に基づいて換算されたKuhnセグメント数NKが11.0であった。そして、上記式(1)に基づいて、第2補正項Cを上記式(2)とした場合のエントロピー弾性Fが計算された。
【0092】
実施例2~4では、エントロピー弾性の観測値G2と、上記式(1)のエントロピー弾性G1とが近づくように、第1補正項d、又は、第2補正項Cのフィッティングパラメータc0、c2、c4が同定された。
【0093】
実施例2では、第1補正項dが同定され、第2補正項Cの値には1が設定された。実施例3では、第1補正項dの値には-1が設定され、第2補正項Cのフィッティングパラメータc0、c2及びc4が同定された。実施例4では、第1補正項d及びフィッティングパラメータc0、c2及びc4が同定された。これらのフィッティングは、図11に示した処理手順に基づいて実施された。
【0094】
比較のために、上記の粗視化分子モデルのエントロピー弾性Fが、Langevin chainに基づく上記式(3)、及び、上記式(1)を用いて、第1補正項dの値を-1、第2補正項Cを1として計算された(比較例1及び実施例1)。そして、実施例2~4、実施例1及び比較例1のエントロピー弾性Fが、上記の粗視化分子モデル(Kremer-Grestモデル)の構造緩和が計算された後に末端間距離Rの比R/Lに対する頻度分布に基づいて計算されたエントロピー弾性の観測値G2(シミュレーション結果)とそれぞれ比較された。
【0095】
テストの結果、実施例4(第1補正項d及びフィッティングパラメータc0、c2及びc4を同定)では、エントロピー弾性(図10のG1)が、分子鎖が大きく伸長する場合を含め、比R/Lの広い範囲で、Kremer-Grestモデルのエントロピー弾性の観測値(図10のG2)とよく一致した。一方、比較例1のエントロピー弾性(図10のG3)は、収縮時のエントロピー弾性を計算することができず、また、比R/Lの広い範囲で、エントロピー弾性の観測値との間にズレが生じた。実施例1のエントロピー弾性(図10のGC1)は、実施例4(図10のG1)と同様に、収縮時及び平衡長近傍のエントロピー弾性を適切に評価することができたが、分子鎖が大きく伸長する場合の応力の増加の傾向がKremer-Grestモデル(図10の観測値G2)と異なるため、実施例4(図10のG1)に比べて、エントロピー弾性の観測値G2(シミュレーション結果)との間にズレが生じた。したがって、実施例4(図10のG1)では、エントロピー弾性の観測値G2(シミュレーション結果)をよく再現可能な分子鎖の伸縮時のエントロピー弾性を、短時間で精度よく計算することができた。
【0096】
図14は、実施例1~4及び比較例1のエントロピー弾性と末端間距離と全長との比との関係を示すグラフである。図15は、図14の平衡長付近の拡大図である。
【0097】
図14に示されるように、実施例3(フィッティングパラメータc0、c2及びc4のみ同定)、及び、実施例4(第1補正項d及びフィッティングパラメータc0、c2及びc4を同定)は、分子鎖が大きく伸長する場合を含め、比R/Lの広い範囲で、Kremer-Grestモデルのエントロピー弾性の観測値(図14のG2)とよく一致した。一方、実施例2(第1補正項dのみ同定)では、分子鎖が大きく伸長する場合の応力の増加の傾向が十分に再現できなかった。したがって、第2補正項Cのフィッティングパラメータc0、c2及びc4がフィッティングされることによって、分子鎖が大きく伸長する場合の応力の増加の傾向を再現することができた。
【0098】
平衡長の位置については、図15に示されるように、実施例2(第1補正項dのみ同定)及び実施例4(第1補正項d及びフィッティングパラメータc0、c2及びc4を同定)は、Kremer-Grestモデルのエントロピー弾性の観測値(図15のG2)とよく一致した。一方、実施例3(フィッティングパラメータc0、c2及びc4のみ同定)は、観測値G2からわずかにズレが生じた。したがって、第1補正項dがフィッティングされることによって、平衡長の位置をより良く一致させることができた。
【0099】
[付記]
本開示は以下の態様を含む。
【0100】
[本開示1]
複数の原子で構成された分子鎖を含む高分子材料を解析するための方法であって、
コンピュータに、前記分子鎖をモデリングした分子モデルを入力する工程と、
前記コンピュータが、下記式(1)に基づいて、前記分子モデルのエントロピー弾性Fを計算する工程とを含む、
高分子材料の解析方法。
【数1】
ここで、
F:エントロピー弾性
:ボルツマン定数
T:絶対温度
K:分子モデルのKuhnセグメント数
-1(x):逆ランジュバン関数
R:分子モデルの末端間距離
L:分子モデルの全長
d:第1補正項
C:第2補正項
[本開示2]
前記分子モデルを入力する工程は、複数の粒子及び複数の粒子間結合を有する第1分子モデルを入力する工程と、
前記第1分子モデルのうち、前記複数の粒子及び複数の粒子間結合の一部を抽出して、前記分子モデルを定義する工程とを含む、本開示1に記載の高分子材料の解析方法。
[本開示3]
前記第1分子モデルは、互いに異なる分子鎖間を連結した架橋分子モデルであり、
前記架橋分子モデルは、架橋粒子又は架橋結合が一つ以上含まれる、本開示2に記載の高分子材料の解析方法。
[本開示4]
前記エントロピー弾性Fを計算する工程に先立ち、前記第1補正項dをフィッティングパラメータとして同定する工程を含み、
前記同定する工程は、
前記分子鎖を用いた実験又は前記分子モデルを用いたシミュレーションから求められるエントロピー弾性の観測値G2と、上記式(1)のエントロピー弾性G1とが近づくように、前記第1補正項dを同定する工程とを含む、本開示1ないし3のいずれかに記載の高分子材料の解析方法。
[本開示5]
前記第2補正項Cは、前記分子モデルの末端間距離Rと前記分子モデルの全長Lとの比R/Lの関数に基づいて特定される、本開示1ないし4のいずれかに記載の高分子材料の解析方法。
[本開示6]
前記関数は、下記式(2)である、本開示5に記載の高分子材料の解析方法。
【数2】
ここで、
0、c2及びc4:フィッティングパラメータ
[本開示7]
前記エントロピー弾性Fを計算する工程に先立ち、前記コンピュータが、前記分子モデルの末端間距離Rと全長Lとの比R/Lと、エントロピー弾性の観測値G2との関係を取得する工程と、
前記コンピュータが、前記エントロピー弾性の観測値G2と、上記式(1)のエントロピー弾性G1とが近づくように、前記フィッティングパラメータc0、c2及びc4を同定する工程を含む、本開示6に記載の高分子材料の解析方法。
[本開示8]
前記第1補正項dは、-1であり、かつ、前記第2補正項Cは、1である、本開示1ないし7のいずれかに記載の高分子材料の解析方法。
【符号の説明】
【0101】
S1 分子モデルを入力する工程
S6 分子モデルのエントロピー弾性を計算する工程
図1
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