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  • 特許-電子デバイス用バリアフィルム 図1
  • 特許-電子デバイス用バリアフィルム 図2
  • 特許-電子デバイス用バリアフィルム 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】電子デバイス用バリアフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/06 20190101AFI20240604BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240604BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20240604BHJP
   H10K 50/844 20230101ALI20240604BHJP
【FI】
B32B7/06
B32B27/18 Z
B32B9/00 A
H10K50/844
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022206844
(22)【出願日】2022-12-23
(62)【分割の表示】P 2018069257の分割
【原出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2023029449
(43)【公開日】2023-03-03
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 千歩
(72)【発明者】
【氏名】小賦 雄介
(72)【発明者】
【氏名】林 賢治
(72)【発明者】
【氏名】川久保 祐孝
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-182744(JP,A)
【文献】国際公開第2018/232065(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H10K 50/844
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥剤シートと、該乾燥剤シートに剥離可能に挟持されている電子デバイス用バリアフィルムとからなり、
前記乾燥剤シートが、乾燥剤が分散されている吸湿性樹脂層と、該吸湿性樹脂層の一方の表面に設けられた表面保護樹脂層とを含み、
前記吸湿性樹脂層の他方の表面が、電子デバイス用バリアフィルムに対面するように配置されている積層体。
【請求項2】
前記電子デバイス用バリアフィルムは、無機バリア層を少なくとも1層有する請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記電子デバイス用バリアフィルムは、前記無機バリア層の下地として、プラスチック基材層を有している請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記プラスチック基材層が、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂或いは環状オレフィン系樹脂から形成されている請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
前記電子デバイス用バリアフィルムは、水分トラップ層を備えている請求項1~4の何れかに記載の積層体。
【請求項6】
前記水分トラップ層が、イオン性ポリマーを含む層である請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
前記電子デバイス用バリアフィルムは、前記プラスチック基材層と、該基材層上に設けられた前記無機バリア層とを有しており、該無機バリア層上に水分トラップ層が設けられている請求項3または4に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、太陽電池などに代表される電子デバイスの封止材として使用されるバリアフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年において開発され、実用されている各種の電子デバイス、例えば有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)、太陽電池、タッチパネル、電子ペーパーなどでは、水分による電荷のリーク等を回避するため、高度の水分バリア性が要求される。
【0003】
ところで、各種プラスチック基材の特性、特にガスバリア性を改善するための手段として、プラスチック基材の表面に、蒸着により、ケイ素酸化物などからなる無機薄膜(無機バリア層)を形成することが知られており(特許文献1)、このような無機薄膜を備えたフィルムは、バリアフィルムとして広く使用されている。このようなバリアフィルムは、上記のような電子デバイスに要求される水分バリア性を満足させるには不十分であると共にプラスチック基材に用いられる樹脂の残留水分がデバイスを著しく劣化させる。
【0004】
また、このような要求を満たすため、吸湿性を有するイオン性ポリマーをマトリックスとする水分トラップ層が積層された構造を有する水分バリア性積層体も知られている(特許文献2)。
【0005】
上記のような水分トラップ層は、蒸着等によりプラスチックフィルムの表面に形成されている無機バリア層上に、イオン性ポリマーを含むトラップ層形成用の塗布組成物を塗布し、硬化させることにより成膜されるものであり、このような層の形成により優れた水分バリア性を示すというものである。
【0006】
しかしながら、高い水分バリア性を発揮し得るバリアフィルムを用いたとしても、依然としてプラスチック基材に用いられる樹脂の残留水分によりデバイスが劣化する課題は解決できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-255579号公報
【文献】特開2015-96320号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、優れた水分バリア性を示すと同時に、プラスチック基材に用いられる樹脂の残留水分によるデバイスの劣化を抑制し、水分バリア性の持続性に優れた電子デバイス用バリアフィルムを備えた積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、乾燥剤シートと、該乾燥剤シートに剥離可能に挟持されている電子デバイス用バリアフィルムとからなり、
前記乾燥剤シートが、乾燥剤が分散されている吸湿性樹脂層と、該吸湿性樹脂層の一方の表面に設けられた表面保護樹脂層とを含み、
前記吸湿性樹脂層の他方の表面が、電子デバイス用バリアフィルムに対面するように配置されている積層体が提供される。
【0010】
本発明においては、次の態様を好適に採用することができる。
(1)前記電子デバイス用バリアフィルムは、無機バリア層を少なくとも1層有すること。
(2)前記電子デバイス用バリアフィルムは、前記無機バリア層の下地として、プラスチック基材層を有していること。
(3)前記プラスチック基材層が、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂或いは環状オレフィン系樹脂から形成されていること。
(4)前記バリアフィルムは、水分トラップ層を備えていること。
(5)前記水分トラップ層が、イオン性ポリマーを含む層であること。
(6)前記電子デバイス用バリアフィルムは、前記プラスチック基材層と、該基材層上に設けられた前記無機バリア層とを有しており、該無機バリア層上に水分トラップ層が設けられていること。
【発明の効果】
【0011】
本発明の積層体が備えている電子デバイス用バリアフィルム(以下、単にバリアフィルムと呼ぶ)は、各種電子デバイスの封止材として使用され、デバイス内部への水分の侵入を有効に回避するものであるが、このバリアフィルムは、水分透過率(23℃、RH50%)が10-4g/m/day以下に設定されていると同時に、含水率が2000ppm以下、さらには100ppm以下に維持されていることが好ましい。即ち、このバリアフィルムは、優れた水分バリア性を有していると同時に、含水率が著しく低く維持されているため、これを使用に供したとき、含有水分量が極めて少ないため、優れた水分バリア性を長期にわたって発揮することが可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のバリアフィルムの層構造の一例を示す概略側断面図。
図2】本発明のバリアフィルムの保存形態の一例を示す図。
図3】本発明のバリアフィルムの保存に使用する乾燥剤シートの層構造の一例を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のバリアフィルムは、水分透過率(23℃、RH50%)が10-4g/m/day以下、より好ましくは10-5g/m/day以下、最も好ましくは10-6g/m/day以下に設定されており、含水率が2000ppm以下、特に100ppm以下に維持されている。このような水分透過率が低く且つ含水率が低く設定されている本発明のバリアフィルムは、無機バリア層を複数重ね或いは水分を吸収して捕捉する水分トラップ層を備えた多層構造とすることにより、より酸素等に対するバリア性や水分に対するバリア性をより向上させ、各種デバイスの封止材としての性能向上を図ることができる。
このようなバリアフィルムの層構造の一例が図1に示されている。
【0014】
図1に示す例において、全体として1で示されている本発明のバリアフィルムは、無機バリア層3を備えており、この無機バリア層3は、適宜、下地層であるプラスチック基材層5に保持されている。また、無機バリア層3上には、水分バリア性を向上させるための水分トラップ層7が必要に応じて設けられる。
即ち、本発明のバリアフィルム1は、所定の水分透過率及び含水率を満足する限りにおいて、無機バリア層3の単層フィルムであってよいが、より高い水分バリア性が要求される各種電子デバイスの封止材として使用する場合には、要求される水分バリア性を満足させるため、無機バリア層1上に、水分トラップ層7が設けられた多層構造とされ、このような層全体として、上述した水分透過率を示し、さらには、含水率が所定の範囲に設定される。
【0015】
<無機バリア層3>
無機バリア層3は、プラスチック基材層5を下地として形成される層であり、例えば特開2015-96320号公報等により公知のものであってよく、スパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティングなどに代表される物理蒸着や、プラズマCVDに代表される化学蒸着などによって形成される無機質の蒸着膜、例えば各種金属乃至金属酸化物により形成される膜であることが、高い酸素バリア性を確保できると言う点で好適であり、特に、凹凸を有する面にも均一に成膜され、酸素のみならず水分に対しても優れたバリア性を発揮するという点で、プラズマCVDにより形成されていることが好ましい。
【0016】
尚、プラズマCVDによる蒸着膜は、所定の真空度に保持されたプラズマ処理室内に無機バリア層3の下地となるフィルム形態のプラスチック基材層5を配置し、膜形成する金属若しくは該金属を含む化合物のガス(反応ガス)及び酸化性ガス(通常酸素やNOxのガス)を、適宜、アルゴン、ヘリウム等のキャリアガスと共に、ガス供給管を用いて、金属壁でシールドされ且つ所定の真空度に減圧されているプラズマ処理室に供給し、この状態でマイクロ波電界や高周波電界などによってグロー放電を発生させ、その電気エネルギーによりプラズマを発生させ、上記化合物の分解反応物をプラスチック基材層5の表面に堆積させて成膜することにより得られる。
【0017】
上記の反応ガスとしては、一般に、下地の基材層5の界面に炭素成分を含む柔軟な領域を有し且つその上に酸化度の高いバリア性に優れた領域を有する膜を形成できるという観点から有機金属化合物、例えばトリアルキルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物や、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機ケイ素化合物等のガスを用いることが好ましく、特に、酸素に対するバリア性の高い無機バリア層3を比較的容易に効率良く形成できるという点で、有機ケイ素化合物が最も好ましい。
【0018】
このような有機ケイ素化合物の例としては、ヘキサメチルジシラン、ビニルトリメチルシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等の有機シラン化合物、オクタメチルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン等の有機シロキサン化合物等が使用される。また、これら以外にも、アミノシラン、シラザンなどを用いることもできる。
上述した有機金属化合物は、単独でも或いは2種以上の組合せでも用いることができる。
【0019】
また、上述した無機バリア層3の厚みは、下地となるプラスチック基材層5の厚みに応じて、所定の水分透過率を満足させ得るような厚みに設定され、一般に、4乃至500nm、特に30乃至400nm程度の厚みを有していればよい。
【0020】
さらに、上記の無機バリア層3は、蒸着等の手法によらず、コーティング等によってプラスチック基材層5上に形成することもできる。即ち、コーティングにより形成される無機バリア層3は、上述した蒸着等により形成されるものと比較すると、酸素バリア性等の特性は低いが、要求される酸素等に対するバリア性の程度によっては、コーティングにより無機バリア層3を形成することもできる。
【0021】
コーティングにより形成される無機バリア層3としては、ポリシラザンや、重縮合性のシラン化合物(例えばアルコキシシランなど)、重縮合性のアルミナ化合物(例えばアルコキシアルミニウムなど)を成膜成分として含み、適宜、シリカやアルミナ等の無機微粒子が混合された有機溶媒溶液を用い、これを所定の面に塗布し、加熱し、有機溶媒を揮散して成膜するものが代表的である。
【0022】
<プラスチック基材層5>
プラスチック基材層5は、既に述べたとおり、後述する無機バリア層3の下地となるものであり、通常、熱可塑性或いは熱硬化性の樹脂により、その形態に応じて、射出乃至共射出成形、押出乃至共押出成形、フィルム乃至シート成形、圧縮成形性、注型重合等により成形される。
【0023】
一般的には、成形性やコスト等の観点から、熱可塑性樹脂が好適である。
このような熱可塑性樹脂の例としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテンあるいはエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン同志のランダムあるいはブロック共重合体等のポリオレフィン、環状オレフィンコポリマーや環状オレフィンポリマー等の環状オレフィン系樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等のエチレン・ビニル化合物共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ABS、α-メチルスチレン・スチレン共重合体等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のポリビニル化合物、ナイロン6、ナイロン6-6、ナイロン6-10、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の熱可塑性ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフエニレンオキサイドや、その他、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フッ素樹脂、アリル樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ケトン樹脂、アミノ樹脂、或いはポリ乳酸などの生分解性樹脂等により形成される。さらに、これらのブレンド物や、これら樹脂が適宜共重合により変性されたもの(例えば、酸変性オレフィン樹脂など)であってもよい。
【0024】
また、基材層5は、エチレン・ビニルアルコール共重合体の如き酸素バリア性に優れたガスバリア性樹脂などにより形成されていることも好適であり、さらには、このようなガスバリア性樹脂により形成された層を含む多層構造を有していてもよい。
【0025】
本発明においては、入手のし易さ、コスト、成形性、或いは酸素や酸素に対して多少なりともバリア性を示し、さらには、後述する無機バリア層3の下地として好適であるという観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂や、ポリイミド樹脂、環状オレフィンコポリマーや環状オレフィンポリマー等の環状オレフィン系樹脂のフィルムを基材層5として使用することがより好適である。
【0026】
上述したプラスチック基材層5の厚みは特に制限されないが、この厚みが過度に厚いと、このバリアフィルム1の水分透過率が大きくなり、前述した水分透過率を満足させることが困難となるおそれがある。また、バリアフィルム1のフレキシブル性がなくなるため、この基材層5の厚みは、通常、200μm以下とし、より好ましくは125μm以下とし、この範囲でバリアフィルム1の水分透過率が前述した範囲となるように設定される。
【0027】
<水分トラップ層7>
本発明において、水分トラップ層7は、このバリアフィルム1の厚み方向に流れる水分を遮断するものであり、高い水分バリア性が要求される場合に設けられる。
この水分トラップ層7は、水分遮断性を示すものであれば、特に制限されず、所定の樹脂層中にゼオライト等の吸湿剤を分散させたものなど、それ自体公知の層であってよい。しかしながら、特に、水分に対する高いバリア性が要求される場合、例えば10-5g/m/day以下、さらには、10-6g/m/day以下の水分透過率((23℃、RH50%)を実現させるためには、特開2015-96320号等に開示されているイオン性ポリマーにより水分トラップ層7を形成することが好ましく、さらには、このイオン性ポリマーをマトリックスとし、このマトリックス中にイオン性ポリマーよりも到達湿度が低い吸湿剤を分散させることにより水分トラップ層7を形成することが好適である。特に、このようなイオン性ポリマーをマトリックスとするものは、水分捕捉性が優れ、さらに到達湿度が低い吸湿剤が分散されているものは、水分吸収に起因する膨潤などの変形を有効に回避することができるからである。
【0028】
水分トラップ層7の形成に好適に使用されるイオン性ポリマーには、カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとがある。
【0029】
カチオン性ポリマーは、水中で正の電荷となり得るカチオン性基、例えば、1~3級アミノ基、4級アンモニウム基、ピリジル基、イミダゾール基、4級ピリジニウムなどを分子中に有しているポリマーである。このようなカチオン性ポリマーは、カチオン性基が、求核作用が強く、かつ水素結合により水を補足するため、吸湿性を有するマトリックスを形成することができる。
カチオン性ポリマー中のカチオン性基量は、一般に、このポリマーの吸水率(JIS K-7209-1984)が湿度80%RH及び30℃雰囲気下において20%以上、特に30%~45%となるような量であればよい。
【0030】
また、カチオン性ポリマーとしては、アリルアミン、エチレンイミン、ビニルベンジルトリメチルアミン、[4-(4-ビニルフェニル)-メチル]-トリメチルアミン、ビニルベンジルトリエチルアミン等のアミン系単量体;ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の含窒素複素環系単量体;及び、それらの塩類;に代表されるカチオン性単量体の少なくとも1種を、適宜、共重合可能な他の単量体と共に、重合乃至共重合し、さらに必要により、酸処理により部分中和させて得られるものが使用される。
このようなカチオン性ポリマーについては、特開2015-96320号等に詳述されており、その詳細は省略するが、一般的には、ポリアリルアミンが成膜性等の観点から好適である。
【0031】
一方、アニオン性ポリマーは、水中で負の電荷となり得るアニオン性の官能基、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基や、これらの基が部分的に中和された酸性塩基を分子中に有しているポリマーである。このような官能基を有するアニオン性ポリマーは、上記官能基が水素結合により水を補足するため、吸湿性マトリックスを形成することができる。
アニオン性ポリマー中のアニオン性官能基量は、官能基の種類によっても異なるが、前述したカチオン性ポリマーと同様、ポリマーの吸水率(JIS K-7209-1984)が湿度80%RH及び30℃雰囲気下において20%以上、特に30%~45%となるような量であればよい。
【0032】
上記のような官能基を有するアニオン性ポリマーとしては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸等のカルボン酸系単量体;α-ハロゲン化ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等のスルホン酸系単量体;ビニルリン酸等のホスホン酸系単量体;及びこれら単量体の塩類;などに代表されるアニオン性単量体の少なくとも1種を、適宜、共重合可能な他の単量体と共に重合乃至共重合させ、さらに必要により、アルカリ処理により部分中和させて得られるものが使用される。
このようなアニオン性ポリマーについても、特開2015-96320号等に詳述されており、その詳細は省略するが、一般的には、ポリ(メタ)アクリル酸及びその部分中和物(例えば一部がNa塩であるもの)である。
【0033】
また、上記のイオン性ポリマー中に配合することにより膨潤による変形を好適に防止できる吸湿剤、即ち、イオン性ポリマーよりも到達湿度が低い吸湿剤としては、例えば、湿度80%RH及び温度30℃の環境条件での到達湿度が6%以下のものを挙げることができる。即ち、この吸湿剤の到達湿度がイオン性ポリマーよりも高いと、マトリックスに吸収された水分の閉じ込めが十分でなく、水分の放出等を生じ易くなるが、イオン性ポリマーよりも到達湿度の低い吸湿剤がイオン性ポリマー中に配合されている場合には、低湿度雰囲気でも水分を効果的にトラップすることができるばかりか、イオン性ポリマーに吸収された水分を該吸湿剤により捕捉することができるため、水分の放出を抑制し、高い水分バリア性を発揮させることができる。
【0034】
また、上記のような吸湿剤は、一般に湿度80%RH及び温度30℃雰囲気下において50%以上の吸水率(JIS K-7209-1984)を有しており、無機系及び有機系のものがある。
無機系の吸湿剤としては、ゼオライト、アルミナ、活性炭、モンモリロナイト等の粘土鉱物、シリカゲル、酸化カルシウム、硫酸マグネシウムなどを挙げることができる。
有機系の吸湿剤としては、アニオン系ポリマー若しくはその部分中和物の架橋物を挙げることができる。このアニオン系ポリマーとしては、カルボン酸系単量体((メタ)アクリル酸や無水マレイン酸など)、スルホン酸系単量体(ハロゲン化ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸など)、ホスホン酸系単量体(ビニルリン酸など)及びこれら単量体の塩類等に代表されるアニオン性単量体の少なくとも1種を、重合或いは他の単量体と共重合させて得られるものを挙げることができる。特に透明性が求められる用途においては、有機系の吸湿剤が有効である。例えば、架橋ポリ(メタ)アクリル酸Naの微細粒子などが代表的な有機系吸湿剤である。
【0035】
また、上記の吸湿剤の中では、比表面積が大となり、高い吸湿性を示すという観点から粒径が小さな吸湿剤が好ましく(例えば、平均一次粒子径が100nm以下、特に80nm以下)、特に粒径の小さな有機系ポリマーの吸湿剤が最適である。
即ち、有機系ポリマーの吸湿剤は、イオン性ポリマーのマトリックスに対する分散性が極めて良好であり、均一に分散させることができるばかりか、これを製造するための重合法として乳化重合や懸濁重合などを採用することにより、その粒子形状を微細で且つ揃った球形状とすることができ、これをある程度以上配合することにより、極めて高い透明性を確保することが可能となる。
また、有機系の微細な吸湿剤では、前述した到達湿度が著しく低く、高い吸湿性を示すばかりか、架橋によって膨潤による体積変化も極めて少なくすることができ、従って、体積変化を抑制しながら、環境雰囲気を絶乾状態もしくは絶乾状態に近いところまで湿度を低下させる上で最適である。
このような有機系の吸湿剤の微粒子としては、例えば架橋ポリアクリル酸Na微粒子(平均粒子径約70nm)がコロイド分散液(pH=10.4)の形で東洋紡株式会社よりタフチックHU-820Eの商品名で市販されている。
【0036】
本発明において、上記のような吸湿剤の量は、その特性を十分に発揮させ、水分バリア性の著しい向上及び膨潤による寸法変化を有効に抑制させると同時に、無機バリア層3が示すバリア性よりも高い水分バリア性を長期間にわたって確保するという観点から、イオン性ポリマーの種類に応じて設定される。
例えば、カチオン性ポリマー中に上記の吸湿剤を分散させて水分トラップ層7を形成する場合には、一般に、カチオン性ポリマー100質量部当り、50質量部以上、特に100乃至900質量部の量で存在することが好ましく、更には200乃至600重量部の量であることがより好ましい。また、アニオン性ポリマー中に吸湿剤を分散させる場合には、アニオン性ポリマー100重量部当り、50重量部以上、特に100乃至1300重量部の量で存在することが好ましく、更には150乃至1200重量部の量であることがより好ましい。
【0037】
また、上記のようなイオン性ポリマーを用いて形成される水分トラップ層7では、イオン性ポリマーに架橋構造が導入されていることが好適である。即ち、イオン性ポリマー中に架橋構造が導入されていると、水を吸収したとき、イオン性ポリマーの分子が架橋によって互いに拘束されることとなり、膨潤(水分吸収)による体積変化を抑制し、機械的強度や寸法安定性の向上がもたらされる。
このような架橋構造は、水分トラップ層7を形成するための塗布組成物中に架橋剤を配合しておくことにより導入することができる。特にアニオン性ポリマーの場合、カチオン性ポリマーとは異なって、水素結合による水の補足のみなので、吸湿に適した空間の網目構造(架橋構造)をマトリックス中に導入することにより、その吸湿性を大きく高めることができる。
【0038】
このような架橋構造を導入するための架橋剤は、カチオン性ポリマーに架橋構造を導入する場合と、アニオン性ポリマーに架橋構造を導入する場合とで若干異なっている。
【0039】
カチオン性ポリマー用の架橋剤としては、例えば特開2015-96320号等にも記載されているように、カチオン性基と反応し得る架橋性官能基(例えば、エポキシ基)と、加水分解と脱水縮合を経て架橋構造中にシロキサン構造を形成し得る官能基(例えば、アルコシシリル基)を有している化合物を使用することができ、具体的には、下記式(1):
X-SiR (OR3-n (1)
式中、Xは、末端にエポキシ基を有する有機基であり、
及びRは、それぞれ、メチル基、エチル基、もしくはイソプロピル
基であり、
nは、0、1、もしくは2である、
で表されるシラン化合物が好適に使用される。
【0040】
このようなシラン化合物は、官能基としてエポキシ基とアルコキシシリル基とを有しており、エポキシ基がカチオン性ポリマーの官能基(例えばNH)と付加反応する。一方アルコキシシリル基は、加水分解によりシラノール基(SiOH基)を生成し、縮合反応を経てシロキサン構造を形成して成長することにより、最終的にカチオン性ポリマー鎖間に架橋構造を形成する。これにより、カチオン性ポリマーのマトリックスには、シロキサン構造を有する架橋構造が導入されることとなる。
しかも、カチオン性ポリマーはアルカリ性であり、この結果、カチオン性ポリマーを含むコーティング組成物を塗布して水分トラップ層Bを形成する際、カチオン性基とエポキシ基の付加反応やシラノール基間の脱水縮合も速やかに促進され、容易に架橋構造を導入することができる。
【0041】
本発明において、上記式(1)中のエポキシ基を有する有機基Xとしては、γ-グリシドキシアルキル基が代表的であり、例えばγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランやγ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランが架橋剤として好適に使用される。
また、上記式(1)中のエポキシ基が、エポキシシクロヘキシル基のような脂環式エポキシ基であるものも架橋剤として好適である。例えば、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのような脂環式エポキシ基を有する化合物を架橋剤として使用した場合には、マトリックスの架橋構造中に、シロキサン構造と共に、脂環構造が導入される。このような脂環構造の導入は、吸湿に適した空間の網目構造を形成するというマトリックスの機能を更に効果的に発揮させることができる。
【0042】
さらに、上記の架橋構造中に脂環構造を導入するために、複数のエポキシ基と脂環基とを有している化合物、例えば、下記式(2):
G-O(C=O)-A-(C=O)O-G (2)
式中、Gは、グリシジル基であり、
Aは、脂肪族環を有する2価の炭化水素基、例えばシクロアルキレン基である、
で表されるジグリシジルエステルを、架橋剤として使用することができる。このようなジグリシジルエステルの代表的なものは、下記の式(2-1)で表される。
【化1】
【0043】
即ち、式(2)のジグリシジルエステルは、アルコキシシリル基を有していないが、架橋構造中に脂環構造を導入するため、マトリックス中に吸湿に適した空間の網目構造を形成するという点で効果的である。
【0044】
上述した架橋剤は、カチオン性ポリマー100重量部当り、5乃至60重量部、特に15乃至50重量部の量で使用することが望ましく、このような架橋剤の少なくとも70重量%以上、好ましくは80重量%以上が、前述した式(1)のシラン化合物であることが望ましい。
【0045】
また、アニオン性ポリマーに架橋構造を導入するための架橋剤としては、やはり特開2015-96320号等に記載されているように、アニオン性ポリマーが有しているイオン性基と反応し得る架橋性官能基(例えばエポキシ基)を2個以上有している化合物を使用することができ、カチオン性マトリックス用のコーティング組成物でも挙げられた式(2):
G-O(C=O)-A-(C=O)O-G (2)
式中、Gは、グリシジル基であり、
Aは、脂肪族環を有する2価の炭化水素基、例えばシクロアルキレン基である、
で表されるジグリシジルエステルが好適に使用される。
【0046】
即ち、上記式(2)のジグリシジルエステルにおいては、エポキシ基がアニオン性基と反応し、2価の基Aによる脂環構造を含む架橋構造がマトリックス中に形成される。このような脂環構造を含む架橋構造によりされ、膨潤の抑制がもたらされる。
特に、上記のジグリシジルエステルの中でも好適なものは、先にも挙げられており、特に、吸湿に適した空間の網目構造を形成できるという観点から、先の式(2-1)で表されるジグリシジルエステルが最も好適である。
【0047】
このようなアニオンポリマー用の架橋剤は、アニオン性ポリマー100重量部当り、1乃至50重量部、特に10乃至40重量部の量で使用することが望ましい。
【0048】
水分トラップ層7の形成は、所定の吸湿性のポリマーや吸湿剤等を有機溶媒に溶解ないし分散させたコーティング組成物を塗布し、加熱して成膜した後、乾燥雰囲気中、減圧下に保持して形成される層中に存在する水分を放出させることにより形成される。
また、上記のようなコーティング組成物を他の有機フィルムに塗布し、同様にして水分トラップ層7を形成した後、ドライラミネート接着剤等を用いて、この水分トラップ層7を、上記積層フィルムに形成されている無機バリア層3に接着させることにより形成することもできる。この場合、図1の水分トラップ層7上には、水分トラップ層7を形成するときの下地となるフィルムが有機層として形成され、無機バリア層3と水分トラップ層7との間には、接着剤層が介在することとなる。
【0049】
本発明のバリアフィルム1は、既に述べた通り、水分透過率が極めて小さい所定の範囲に設定されるものである。即ち、水分透過率を所定の範囲に設定するためには、上述した図1に示されている層構造に限定されるものではなく、例えば無機バリア層3と水分トラップ層7が複数形成された層構造とすることができる。このような構造は、適宜、ドライラミネート接着剤等を使用し、図1の層構造を有す積層体(バリアフィルム1)の複数枚を、相互に接着させることにより得ることができる。
【0050】
<バリアフィルム1の含水率>
ところで、本発明のバリアフィルム1は、水分透過率が極めて小さい所定の範囲に設定されているものであるが、このような水分透過率によるバリア性を十分に発揮させるために、含水率が2000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下に維持されていなければならない。即ち、含水率が小さい範囲に設定されていなければ、電子デバイスの封止に使用した時、デバイス内部を乾燥状態に保持することが困難となってしまうからである。
【0051】
上述したバリアフィルム1中の水分トラップ層7は、成膜時には乾燥処理され、上記のような含水率となっているが、そのままでは、実際の使用時までに、徐々に大気中の水分を吸湿し、この結果、含水率が上記範囲よりも高くなってしまう。
このために、本発明のバリアフィルム1は、実際の使用時までに、含水率が増大しないように保存しておかなければならない。
尚、含水率は、バリアフィルム1を絶乾状態に保持した時の重量と、測定時の重量差(即ち含水量)から下記式により容易に算出することができる。
含水率(%)=100×(A-B)/B
式中、Aは、バリアフィルム1の測定重量であり、
Bは、バリアフィルム1を加熱乾燥したときの重量である。
【0052】
このような保存形態としては、例えば、ヒートシール層を表面に有する金属箔(例えばアルミ箔)からなる包装フィルムにより形成されたパウチの内部に、上記のバリアフィルム1を真空パックしておくことが挙げられるが、最も簡便な保存形態として、図2に示す保存形態を好適に採用することができる。
【0053】
図2において、上述した本発明のバリアフィルム1には、2枚の乾燥剤シート13,13が引き剥がし可能に貼り付けられている。即ち、この乾燥剤シート13,13により、外部からのバリアフィルム1中への水分の侵入が有効に防止され、しかも、バリアフィルム1中に水分が存在している水分を吸湿して除去することができ、これにより、バリアフィルム1の含水率を上述した範囲内に維持しておくことが可能となる。
【0054】
図2において使用されている乾燥剤シート13としては、シリカゲル等の乾燥剤が樹脂中に分散されている公知のものを使用することもできるが、より確実に、含水率を前述した範囲に維持するために、図3に示す構造の乾燥剤シート13を用いることが好適である。
【0055】
図3において、この乾燥剤シート13は、吸湿性樹脂層15と、吸湿性樹脂層15の一方の面に設けられた表面保護樹脂層17とを有しており、吸湿性樹脂層15の他方の表面(表面保護樹脂層17が設けられていない側の面)が吸湿性機能面19となっており、この面19がバリアフィルム1に貼り付けられる。
【0056】
係る乾燥剤シート13において、吸湿性樹脂層15は、乾燥剤が分散されている樹脂層であり、乾燥剤としては、それ自体公知の無機系或いは有機系の乾燥剤が使用される。
無機系の乾燥剤としては、ゼオライト、アルミナ、活性炭、モンモリロナイト等の粘土鉱物、シリカゲル、酸化カルシウム、酸化バリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウムなどを挙げることができる。
有機系の乾燥剤としては、アニオン系ポリマー若しくはその部分中和物の架橋物を挙げることができる。このアニオン系ポリマーとしては、カルボン酸系単量体((メタ)アクリル酸や無水マレイン酸など)、スルホン酸系単量体(ハロゲン化ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸など)、ホスホン酸系単量体(ビニルリン酸など)及びこれら単量体の塩類等に代表されるアニオン性単量体の少なくとも1種を、重合或いは他の単量体と共重合させて得られるものを挙げることができる。
【0057】
本発明においては、バリアフィルム1から放出される水分を効果的に捕捉できるという観点から、ゼオライトやシリカゲル等の物理的吸着により水分を捕捉する乾燥剤よりも、水との反応による化学吸着性を示す乾燥剤、例えば、酸化カルシウムが好適に使用される。
【0058】
また、上記の乾燥剤は、樹脂中に均一に分散することができ、かつ比表面積が大きいという観点から、その粒径が小さいことが好ましく、例えば、レーザ回折散乱法で測定した体積換算での平均一次粒子径(D50)が20μm以下であることが好適であり、通常、マトリックスである樹脂100質量部当り5~80質量部の量で吸湿性樹脂層15中に分散されていることが好適である。
【0059】
さらに、上記吸湿性樹脂層15におけるマトリックスである樹脂としては、特に制限されず、公知の熱可塑性樹脂を使用することができるが、一般的には、後述する表面保護樹脂層17やバリアフィルム1に対する貼付性、或いはコストなどの観点から、オレフィン系樹脂、例えば低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテンあるいはエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン同士のランダムあるいはブロック共重合体、あるいは環状オレフィン共重合体などが好適に使用される。
本発明においては、上記のオレフィン系樹脂の中でも、特に吸湿性が低く、吸湿性樹脂層15からの水分の放出が有効に防止され、使用前における乾燥剤の失活を防止するという点で、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン(PP)及びこれらのブレンド物が好適であり、中でも、低密度ポリエチレン(LDPE)及び直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)が好ましい。
【0060】
また、表面保護樹脂層17は、雰囲気中からの吸湿性樹脂層15中への水分の侵入を防止するための層であり、このような水分バリア性を確保するため、40℃、90%RHでの水分透過率が40g/m/day以下、特に20g/m/day以下のように、高い水分バリア性を示すことが好ましい。即ち、この水分透過率が高いと後述する乾燥処理を施す前の製造工程や取り回しの段階で、雰囲気中からの水分の侵入により、吸湿性樹脂層15中の乾燥剤の吸湿性が短時間で損なわれてしまう。
【0061】
表面保護樹脂層17を形成する樹脂としては、上記のような水分透過率を確保できるものであれば特に制限されないが、薄い厚みで上記水分透過率を満足させ得るという観点から、吸湿性樹脂層15の形成に使用されるオレフィン樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の熱可塑性ポリエステルが好適であり、より好ましくはオレフィン系樹脂が使用され、吸湿性樹脂層15との接着性が良好であるという観点から、エチレン系樹脂或いはプロピレン系樹脂が最適である。
上記のような樹脂を用いて表面保護樹脂層17を形成することにより、例えばその厚みが40μm以下、特に30μm以下で所定の水分透過率を満足させることができる。
【0062】
上記の説明から理解されるように、本発明で用いる乾燥剤シート13では、表面保護樹脂層17によって、雰囲気中からの吸湿樹脂層15中への水分の侵入が防止され、また、吸湿性樹脂層17の他方の面が吸湿性機能面19となって、この面19から侵入する水分が乾燥剤によって捕捉されることとなる。
【0063】
本発明では、このような乾燥剤シート13の吸湿性機能面19をバリアフィルム1に貼り付け、図2に示されているように、バリアフィルム1を乾燥剤シート13により挟持することにより、バリアフィルム1の含水率を所定の範囲に維持させることができる。
尚、バリアフィルム1をロールに巻き取って保管する場合には、乾燥剤シート13は水分トラップ層7の面に設けられていればよく、バリアフィルム1を乾燥剤シート13により挟持する必要はない。
尚、乾燥剤シート13の貼り付けは、吸湿性機能面19を形成している樹脂のブロッキング性を利用し、吸湿性機能面を直接バリアフィルム1の表面に一時的に貼り付けることもできるが、一般的には、粘着剤を用いて貼り付けることが、保管、搬送時等における剥離等の不都合を確実に防止する上で好適である。
【0064】
このような粘着剤を用いてバリアフィルム1に貼り付ける場合、吸湿性機能面19とバリアフィルム1との間には粘着剤層が形成されるが、この粘着剤層(図2では示されていない)は、吸湿性機能面19の吸湿性を阻害するものであってはならず、従って、この粘着剤層は、前述した表面保護樹脂層17よりも水分透過率が高く、例えば40℃、90%RHでの水分透過率が40g/m/day以上、特に60g/m/day以上であることが好適である。
【0065】
上記の粘着剤としては、(メタ)アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤等の公知の粘着剤を使用することができ、これらの粘着剤により上記のような水分透過率が確保されるように一定厚み以下(例えば、30μm以下)の粘着剤層を形成すればよい。
また、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、軟質ポリオレフィン(LLDPE)、メタロセンポリオレフィン系エラストマー等も粘着剤として使用することもできる。
【0066】
また、上記の粘着剤は、この乾燥剤シート13を貼り付けるバリアフィルム1の表面に対する粘着力が0.3N/25mm以下となるように調整されていることが好ましい。この粘着力が高すぎると、乾燥剤シート13を引き剥がしたとき、バリアフィルム1の表面(例えば、水分トラップ層の表面)を損傷させる虞があるからである。
なお、粘着力の調整は、乾燥剤シート13を貼り付けるバリアフィルム1の表面の材質に応じて、粘着剤を形成している高分子中に架橋構造を導入したり、或いは粘着剤中に滑剤等を配合することなどにより行うことができる。
【0067】
上述した乾燥剤シート13は、例えば、吸湿性樹脂層15形成用の乾燥剤含有樹脂組成物と表面保護樹脂層17形成用の樹脂とを用いて共押出により容易に成形することができ、粘着剤を用いる場合には、上記で形成された吸湿性樹脂層15の表面に粘着剤をロール塗布し、或いは溶剤含有の粘着剤塗布組成物を塗布し、適宜乾燥すればよい。また、粘着剤として使用する樹脂との3層共押出により成形することもできる。
【0068】
<用途>
本発明のバリアフィルム1は、水分透過率が極めて小さい範囲に抑制され、優れた水分バリア性を示すものであるが、これを加熱乾燥した後、例えば、上記のように乾燥剤シート13に挟持して保管しておくことにより、その含水率を長期にわたって2000ppm以下に維持しておくことができる。例えば、図2のようにバリアフィルム1を2枚の乾燥剤シート13に挟持したものを大気中に放置しておいたとき、数か月以上にわたって、バリアフィルム1の含水率が600ppm以下に維持されていたことを確認している。
【0069】
従って、上記のように低含水率に維持されていたバリアフィルム1は、乾燥剤シート13を引き剥がした後、所定の電子デバイスの封止材として使用される。例えば、感圧粘着剤などを用いて、このバリアフィルム1をデバイスに貼付け、該デバイスを封じることにより、このデバイス内部を乾燥状態に保持することができる。即ち、本発明のバリアフィルム1は、含水率が非常に低い範囲に維持されている状態で使用に供されるため、その優れた水分バリア性が長期わたって発揮されるため、デバイス内部を乾燥状態に安定に保持することが可能となる。
本発明のバリアフィルム1が適用される電子デバイスとしては、特に制限されず、有機EL素子、太陽電池、タッチパネル、電子パネルなど、特に水分による電荷のリークを嫌う有機デバイスなど、種々の電子デバイスに適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1:バリアフィルム
3:無機バリア層
5:プラスチック基材層
7:水分トラップ層
13:乾燥剤シート
15:吸湿性樹脂層
17:表面保護樹脂層
19:吸湿性機能面
図1
図2
図3