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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】弾性波装置
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
H03H9/25 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022208018
(22)【出願日】2022-12-26
(62)【分割の表示】P 2021513611の分割
【原出願日】2020-04-03
(65)【公開番号】P2023036845
(43)【公開日】2023-03-14
【審査請求日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2019073691
(32)【優先日】2019-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大門 克也
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/086441(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/031202(WO,A1)
【文献】特開平09-331229(JP,A)
【文献】特開2017-228841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/145-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板である支持基板と、
前記支持基板上に設けられている窒化ケイ素膜と、
前記窒化ケイ素膜上に設けられている酸化ケイ素膜と、
前記酸化ケイ素膜上に設けられており、YカットX伝搬のタンタル酸リチウムを用いた圧電体層と、
前記圧電体層上に設けられており、複数の電極指を有するIDT電極と、
を備え、
前記IDT電極の電極指ピッチにより規定される波長をλとしたときに、前記圧電体層の膜厚が1λ以下であり、
前記圧電体層のオイラー角が、(0±5°の範囲内,θ,0±5°の範囲内)であり、
前記圧電体層のオイラー角におけるθが117.5°≦θ<129.5°であり、
前記圧電体層のオイラー角におけるθと、前記窒化ケイ素膜の膜厚との関係が、下記の
表1に示す組み合わせである、弾性波装置。
【表1】
【請求項2】
シリコン基板である支持基板と、
前記支持基板上に設けられている窒化ケイ素膜と、
前記窒化ケイ素膜上に設けられている酸化ケイ素膜と、
前記酸化ケイ素膜上に設けられており、YカットX伝搬のタンタル酸リチウムを用いた圧電体層と、
前記圧電体層上に設けられており、複数の電極指を有するIDT電極と、
を備え、
前記IDT電極の電極指ピッチにより規定される波長をλとしたときに、前記圧電体層の膜厚が1λ以下であり、
前記圧電体層のオイラー角が、(0±5°の範囲内,θ,0±5°の範囲内)であり、
前記圧電体層のオイラー角におけるθが85.5°≦θ<95.5°であり、
前記圧電体層のオイラー角におけるθと、前記窒化ケイ素膜の膜厚との関係が、下記の表2に示す組み合わせである、弾性波装置。
【表2】
【請求項3】
1層の前記窒化ケイ素膜と、
1層の前記酸化ケイ素膜と、
を備える、請求項1または2に記載の弾性波装置。
【請求項4】
メインモードとしてSH波を用いる、請求項1または2に記載の弾性波装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、弾性波装置は携帯電話機のフィルタなどに広く用いられている。下記の特許文献1には、弾性波装置の一例が開示されている。この弾性波装置においては、支持基板、高音速膜、低音速膜及び圧電膜がこの順序で積層されており、圧電膜上にIDT電極(Inter Digital Transducer)が設けられている。上記積層構造が設けられていることにより、Q値が高められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2012/086639号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の弾性波装置においては、用いる支持基板の面方位を、例えばSi(111)とした場合などには、高次モードを十分に抑制することができないおそれがあった。
【0005】
本発明の目的は、高次モードを効果的に抑制することができる、弾性波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る弾性波装置のある広い局面では、シリコン基板である支持基板と、前記支持基板上に設けられている窒化ケイ素膜と、前記窒化ケイ素膜上に設けられている酸化ケイ素膜と、前記酸化ケイ素膜上に設けられており、YカットX伝搬のタンタル酸リチウムを用いた圧電体層と、前記圧電体層上に直接的にまたは間接的に設けられており、複数の電極指を有するIDT電極とが備えられており、前記IDT電極の電極指ピッチにより規定される波長をλとしたときに、前記圧電体層の膜厚が1λ以下であり、前記圧電体層のオイラー角が、(0±5°の範囲内,θ,0±5°の範囲内)または(0±5°の範囲内,θ,180±5°の範囲内)であり、前記圧電体層のオイラー角におけるθが、互いに等価である95.5°≦θ<117.5°または-84.5°≦θ<-62.5°であり、前記圧電体層のオイラー角におけるθと、前記窒化ケイ素膜の膜厚との関係が、下記の表1または表2に示す組み合わせである。
【0007】
【表1】
【0008】
【表2】
【0009】
本発明に係る弾性波装置の他の広い局面では、シリコン基板である支持基板と、前記支持基板上に設けられている窒化ケイ素膜と、前記窒化ケイ素膜上に設けられている酸化ケイ素膜と、前記酸化ケイ素膜上に設けられており、YカットX伝搬のタンタル酸リチウムを用いた圧電体層と、前記圧電体層上に設けられており、複数の電極指を有するIDT電極とが備えられており、前記IDT電極の電極指ピッチにより規定される波長をλとしたときに、前記圧電体層の膜厚が1λ以下であり、前記圧電体層のオイラー角が、(0±5°の範囲内,θ,0±5°の範囲内)であり、前記圧電体層のオイラー角におけるθが117.5°≦θ<129.5°であり、前記圧電体層のオイラー角におけるθと、前記窒化ケイ素膜の膜厚との関係が、下記の表3に示す組み合わせである。
【0010】
【表3】
【0011】
本発明に係る弾性波装置のさらに他の広い局面では、シリコン基板である支持基板と、前記支持基板上に設けられている窒化ケイ素膜と、前記窒化ケイ素膜上に設けられている酸化ケイ素膜と、前記酸化ケイ素膜上に設けられており、YカットX伝搬のタンタル酸リチウムを用いた圧電体層と、前記圧電体層上に設けられており、複数の電極指を有するIDT電極とが備えられており、前記IDT電極の電極指ピッチにより規定される波長をλとしたときに、前記圧電体層の膜厚が1λ以下であり、前記圧電体層のオイラー角が、(0±5°の範囲内,θ,0±5°の範囲内)であり、前記圧電体層のオイラー角におけるθが85.5°≦θ<95.5°であり、前記圧電体層のオイラー角におけるθと、前記窒化ケイ素膜の膜厚との関係が、下記の表4に示す組み合わせである。
【0012】
【表4】
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る弾性波装置によれば、高次モードを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の平面図である。
図2図2は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の、IDT電極における一対の電極指付近を示す、図1中のI-I線に沿う正面断面図である。
図3図3は、シリコン基板の(111)面を説明するための模式図である。
図4図4は、圧電体層のオイラー角におけるθが96°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。
図5図5は、圧電体層のオイラー角におけるθが97°≦θ≦103°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。
図6図6は、圧電体層のオイラー角におけるθが104°≦θ≦110°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。
図7図7は、圧電体層のオイラー角におけるθが111°≦θ≦117°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。
図8図8は、支持基板の伝搬角Ψと高次モードの位相との関係を示す図である。
図9図9は、図8の拡大図である。
図10図10は、支持基板の伝搬角Ψと高次モードの位相との関係を示す図である。
図11図11は、本発明の第2の実施形態に係る弾性波装置の、IDT電極における一対の電極指付近を示す正面断面図である。
図12図12は、本発明の第1の実施形態及び第2の実施形態の弾性波装置の位相特性を示す図である。
図13図13は、図12の拡大図である。
図14図14は、圧電体層のオイラー角におけるθ及び窒化ケイ素層の膜厚と、レイリー波の位相との関係を示す図である。
図15図15は、圧電体層のオイラー角におけるθ及び酸化アルミニウム層の膜厚と、レイリー波の位相との関係を示す図である。
図16図16は、圧電体層のオイラー角におけるθ及び窒化アルミニウム層の膜厚と、レイリー波の位相との関係を示す図である。
図17図17は、圧電体層のオイラー角におけるθが118°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。
図18図18は、圧電体層のオイラー角におけるθが119°≦θ≦122°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。
図19図19は、圧電体層のオイラー角におけるθが123°≦θ≦126°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。
図20図20は、圧電体層のオイラー角におけるθが127°≦θ≦129°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。
図21図21は、圧電体層のオイラー角におけるθが130°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。
図22図22は、圧電体層のオイラー角におけるθが75°≦θ≦85°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。
図23図23は、圧電体層のオイラー角におけるθが86°≦θ≦88°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。
図24図24は、圧電体層のオイラー角におけるθが89°≦θ≦95°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。
図25図25は、本発明の第5の実施形態に係る弾性波装置の、IDT電極における一対の電極指付近を示す正面断面図である。
図26図26は、圧電体層のオイラー角におけるθ及びSiN保護膜の膜厚と、レイリー波及び高次モードの位相との関係を示す図である。
図27図27は、圧電体層のオイラー角におけるθ及びAl保護膜と、レイリー波及び高次モードの位相との関係を示す図である。
図28図28は、圧電体層のオイラー角におけるθ及びAlN保護膜の膜厚と、レイリー波及び高次モードの位相との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0016】
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0017】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の平面図である。
【0018】
弾性波装置1は圧電性基板2を有する。圧電性基板2上にはIDT電極3が設けられている。IDT電極3に交流電圧を印加することにより、弾性波が励振される。圧電性基板2上におけるIDT電極3の弾性波伝搬方向両側には、一対の反射器8A及び反射器8Bが設けられている。本実施形態の弾性波装置1は弾性波共振子である。もっとも、本発明に係る弾性波装置1は弾性波共振子には限定されず、複数の弾性波共振子を有するフィルタ装置や、該フィルタ装置を含むマルチプレクサなどであってもよい。
【0019】
IDT電極3は、対向し合う第1のバスバー16及び第2のバスバー17を有する。IDT電極3は、第1のバスバー16にそれぞれ一端が接続されている複数の第1の電極指18を有する。さらに、IDT電極3は、第2のバスバー17にそれぞれ一端が接続されている複数の第2の電極指19を有する。複数の第1の電極指18と複数の第2の電極指19とは互いに間挿し合っている。
【0020】
IDT電極3は、圧電性基板2側から、Ti層、Al層及びTi層がこの順序で積層された積層金属膜からなる。反射器8A及び反射器8Bの材料も、IDT電極3と同様の材料である。なお、IDT電極3、反射器8A及び反射器8Bの材料は上記に限定されない。あるいは、IDT電極3、反射器8A及び反射器8Bは単層の金属膜からなっていてもよい。
【0021】
図2は、第1の実施形態に係る弾性波装置の、IDT電極3における一対の電極指付近を示す、図1中のI-I線に沿う正面断面図である。
【0022】
弾性波装置1の圧電性基板2は、支持基板4と、支持基板4上に設けられている窒化ケイ素膜5と、窒化ケイ素膜5上に設けられている酸化ケイ素膜6と、酸化ケイ素膜6上に設けられている圧電体層7とを有する。圧電体層7上に、上記IDT電極3、反射器8A及び反射器8Bが設けられている。
【0023】
本実施形態の支持基板4はシリコン基板である。支持基板4の面方位はSi(111)である。ここで支持基板4の面方位とは支持基板4の圧電体層7側の面方位である。Si(111)とは、ダイヤモンド構造を有するシリコンの結晶構造において、ミラー指数[111]で表される結晶軸に直交する(111)面においてカットした基板であることを示す。なお、(111)面は、図3に示す面である。もっとも、その他の結晶学的に等価な面も含む。本実施形態では、支持基板4の(111)面のオイラー角は(-45°,-54.7°,Ψ)である。ここで、支持基板4のオイラー角におけるΨは、支持基板4の伝搬角である。支持基板4の伝搬角とは、(111)面において弾性波伝搬方向とシリコンの結晶軸[1-10]とのなす角である。結晶の対称性から、Ψ=Ψ+120°となる。
【0024】
弾性波装置1において、窒化ケイ素膜5を構成する窒化ケイ素はSiNであり、酸化ケイ素膜6を構成する酸化ケイ素はSiOである。もっとも、窒化ケイ素膜5における窒素の比率及び酸化ケイ素膜6における酸素の比率は上記に限定されない。
【0025】
圧電体層7はタンタル酸リチウム層である。より具体的には、圧電体層7には、YカットX伝搬のLiTaOが用いられている。ここで、IDT電極3の電極指ピッチにより規定される波長をλとしたときに、圧電体層7の膜厚は1λ以下である。なお、ある層(膜)の「膜厚」とは、その層の厚み方向の大きさのことであり、支持基板4、窒化ケイ素膜5、酸化ケイ素膜6、及び、圧電体層7が積層されている方向の大きさのことである。圧電体層7のオイラー角は、(0±5°の範囲内,θ,0±5°の範囲内)または(0±5°の範囲内,θ,180±5°の範囲内)である。圧電体層7のオイラー角におけるθは、互いに等価である、95.5°≦θ<117.5°または-84.5°≦θ<-62.5°である。
【0026】
本実施形態の特徴は以下の構成を有することにある。1)圧電性基板2が、シリコン基板である支持基板4、窒化ケイ素膜5、酸化ケイ素膜6及びYカットX伝搬のタンタル酸リチウムを用いた圧電体層7がこの順序で積層された積層体からなること。2)圧電体層7の膜厚が1λ以下であること。3)圧電体層7のオイラー角におけるθと、窒化ケイ素膜5の膜厚との関係が、下記の表5または表6に示す組み合わせであること。それによって、高次モードを抑制することができる。この詳細を以下において説明する。なお、表5に示す場合を説明した後に、表6に示す場合を説明する。
【0027】
【表5】
【0028】
【表6】
【0029】
第1の実施形態と同様の積層構造を有する弾性波装置において、圧電体層のオイラー角におけるθ及び窒化ケイ素膜の膜厚と、高次モードの位相との関係を求めた。表5には、高次モードが-70°以下となり、高次モードを効果的に抑制することができる、θ及び窒化ケイ素膜の膜厚の範囲を示している。ここで、弾性波装置の条件は以下の通りである。
【0030】
支持基板:材料…シリコン(Si)、面方位…Si(111)、(111)面におけるオイラー角…(-45°,-54.7°,46°)
窒化ケイ素膜:膜厚…0.0005λ以上、1.5λ以下
酸化ケイ素膜:膜厚…0.15λ
圧電体層:材料…YカットX伝搬のLiTaO、膜厚…0.2λ、オイラー角…(0°,96°≦θ≦117°,0°)
IDT電極:材料…圧電性基板側からTi/Al/Ti、各層の膜厚…圧電性基板側から0.006λ/0.05λ/0.002λ
IDT電極の波長λ:2μm
【0031】
なお、図4図7には、圧電体層のオイラー角におけるθを96°≦θ≦117°の範囲において変化させた場合の結果を示す。なお、例えばθがθである場合に高次モードなどのスプリアスの抑制の効果がある場合、θ±0.5°程度の範囲内であれば同様の効果があることがわかっている。よって、表5には、95.5°≦θ<96.5°の範囲の場合から、116.5°≦θ<117.5°の範囲の場合までを記載している。同様に、表5以外の表においても、θ±0.5°以内の範囲として記載する場合がある。
【0032】
図4は、圧電体層のオイラー角におけるθが96°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。図5は、圧電体層のオイラー角におけるθが97°≦θ≦103°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。図6は、圧電体層のオイラー角におけるθが104°≦θ≦110°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。図7は、圧電体層のオイラー角におけるθが111°≦θ≦117°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。
【0033】
図4に示すように、θが96°の場合には、窒化ケイ素膜の膜厚が0.0005λ以上、0.746λ以下の範囲内の場合において、高次モードの位相が-70°以下となっている。この結果が表5に示されている。同様に、図5図7に示すように、圧電体層のオイラー角におけるθを97°から1°刻みで117°まで変化させた場合において、高次モードの位相が-70°以下となる窒化ケイ素膜の膜厚の範囲を表5に示す。以上のように、圧電体層のオイラー角におけるθと、窒化ケイ素膜の膜厚との関係が、表5に示す組み合わせである本実施形態においては、高次モードを効果的に抑制できることがわかる。このように高次モードを抑制できることは、以下の理由によるものと考えられる。
【0034】
例えば、共振周波数の2倍付近の高次モードはレイリー系のモードであり、伝搬方向成分と、深さ方向成分とを有する。圧電体層を構成する圧電体のカット角のある一定の範囲においては、レイリー波の結合係数が小さくなる。同様に、圧電体のカット角は高次モードにも影響すると考えられる。加えて、高次モードに対しては、支持基板を構成するシリコンの面方位も影響していると考えられる。そのため、波が支持基板まで到達する程度の窒化ケイ素膜の膜厚とすることにより、高次モードを抑制することができると考えられる。
【0035】
圧電体層7のオイラー角におけるθが95.5°≦θ<117.5°の場合と等価である-84.5°≦θ<-62.5°の場合においても、上記と同様に高次モードを抑制することができる。よって、θと窒化ケイ素膜5の膜厚との関係が、表6に示す組み合わせである場合においても、高次モードを抑制することができる。
【0036】
ところで、上記においては、支持基板の(111)面における伝搬角Ψが46°の場合を示したが、これに限定されない。以下の構成を有することにより、圧電体層のオイラー角におけるθが95.5°≦θ<117.5°または-84.5°≦θ<-62.5°の場合において、高次モードをより一層に抑制することができる。1)窒化ケイ素膜の膜厚が0.5λ以下であり、支持基板の面方位がSi(111)であること。2a)圧電体層のオイラー角が(0±5°の範囲内,θ,0±5°の範囲内)であり、nを任意の整数(0,±1,±2)とし、圧電体層のオイラー角におけるθが95.5°≦θ<117.5°、または、-84.5°≦θ<-62.5°のときに、支持基板の伝搬角Ψが60°±50°+120°×nの範囲内であること。2b)圧電体層のオイラー角が(0±5°の範囲内,θ,180±5°の範囲内)であり、nを任意の整数(0,±1,±2)とし、圧電体層のオイラー角におけるθが95.5°≦θ<117.5°のとき、または、θが-84.5°≦θ<-62.5°のときに、支持基板の伝搬角Ψが0°±50°+120°×nの範囲内であること。この詳細を説明する。なお、上記2a)の場合を説明した後に、上記2b)の場合を説明する。
【0037】
第1の実施形態と同様の積層構造を有する弾性波装置において、圧電体層のオイラー角におけるθ、窒化ケイ素膜の膜厚及び支持基板の伝搬角Ψと、高次モードの位相との関係を求めた。弾性波装置の条件は以下の通りである。
【0038】
支持基板:材料…シリコン(Si)、面方位…Si(111)、(111)面におけるオイラー角…(-45°,-54.7°,0°≦Ψ<360°)
窒化ケイ素膜:膜厚…0.5λ以下
酸化ケイ素膜:膜厚…0.15λ
圧電体層:材料…YカットX伝搬のLiTaO、膜厚…0.2λ、オイラー角…(0°,96°≦θ≦117°,0°)
IDT電極:材料…圧電性基板側からTi/Al/Ti、各層の膜厚…圧電性基板側から0.006λ/0.05λ/0.002λ
IDT電極の波長λ:2μm
【0039】
図8は、支持基板の伝搬角Ψと高次モードの位相との関係を示す。図9は、図8の拡大図である。ここで、Ψ=Ψ+120°であるため、図8においてはΨが0°~120°の場合を示している。
【0040】
図8に示すように、伝搬角Ψの大きさに関わらず高次モードの位相は-77°未満となっており、高次モードは十分に抑制されている。特に、図9に示すように、Ψが10°以上である場合には、高次モードの位相の値がより一層小さくなっていることがわかる。同様に、Ψが110°以下である場合において高次モードの位相の値がより一層小さくなっている。Ψが60°±50°+120°×nの範囲内である場合に、高次モードをより一層抑制できることがわかる。
【0041】
さらに、図8に示すように、支持基板の伝搬角Ψが26°に近づくように大きくなるほど、高次モードの位相の値が急激に小さくなっており、26°≦Ψ≦60°の場合には高次モードの位相はさらにより一層抑制されている。同様に、Ψが94°に近づくように小さくなるほど、高次モードの位相の値が急激に小さくなっており、60°≦Ψ≦94°の場合には高次モードはさらにより一層抑制されている。よって、Ψが60°±34°+120°×nの範囲内である場合には、高次モードをさらにより一層抑制することができる。(0°,-84°≦θ≦-63°,0°)のときも同様である。
【0042】
次に、図8の関係を求めたときの弾性波装置の条件から、圧電体層のオイラー角の(φ,θ,ψ)におけるψの条件のみを異ならせて、ψ、窒化ケイ素膜の膜厚及び支持基板の伝搬角Ψと、高次モードの位相との関係を求めた。
【0043】
圧電体層:材料…YカットX伝搬のLiTaO、膜厚…0.2λ、オイラー角…(0°,96°≦θ≦117°,180°)
【0044】
図10は、支持基板の伝搬角Ψと高次モードの位相との関係を示す図である。
【0045】
図10に示すように、伝搬角Ψの大きさに関わらず高次モードの位相は-77°未満となっており、高次モードは十分に抑制されている。特にΨが-50°以上である場合には、高次モードの位相の値がより一層小さくなっていることがわかる。同様に、Ψが50°以下である場合において高次モードの値がより一層小さくなっている。Ψが0°±50°+120°×nの範囲内である場合に、高次モードをより一層抑制できることがわかる。
【0046】
さらに、図10に示すように、伝搬角Ψが-34°に近づくように大きくなるほど、高次モードの位相の値が急激に小さくなっており、-34°≦Ψ≦0°の場合には高次モードの位相はさらにより一層抑制されている。同様に、Ψが34°に近づくように小さくなるほど、高次モードの位相の値が急激に小さくなっており、0°≦Ψ≦34°の場合には高次モードはさらにより一層抑制されている。よって、Ψが0°±34°+120°×nの範囲内である場合には、高次モードをさらにより一層抑制することができる。
【0047】
図11は、第2の実施形態に係る弾性波装置の、IDT電極における一対の電極指付近を示す正面断面図である。
【0048】
本実施形態は、圧電体層7とIDT電極3との間に誘電体層28が設けられている点において第1の実施形態と異なる。第1の実施形態では、圧電体層7上に直接的にIDT電極3が設けられているが、本実施形態のように、圧電体層7上に誘電体層28を介して間接的にIDT電極3が設けられていてもよい。
【0049】
誘電体層28を伝搬するバルク波の音速は、圧電体層7を伝搬する弾性波の音速よりも高い。本実施形態においては、誘電体層28は窒化ケイ素層である。なお、誘電体層28は相対的に高音速であればよく、窒化ケイ素層には限定されない。
【0050】
ここで、以下において、第2の実施形態の構成を有する弾性波装置及び第1の実施形態の構成を有する弾性波装置の位相特性を示す。各弾性波装置の条件は以下の通りである。
【0051】
支持基板:材料…シリコン(Si)、面方位…Si(111)、(111)面におけるオイラー角…(-45°,-54.7°,47°)
窒化ケイ素膜:膜厚…0.15λ
酸化ケイ素膜:膜厚…0.15λ
圧電体層:材料…YカットX伝搬のLiTaO、膜厚…0.2λ、オイラー角…(0°,110°,0°)
IDT電極:材料…圧電性基板側からTi/Al/Ti、各層の膜厚…圧電性基板側から0.006λ/0.05λ/0.002λ
IDT電極の波長λ:2μm
【0052】
図12は、第1の実施形態及び第2の実施形態の弾性波装置の位相特性を示す図である。図13は、図12の拡大図である。図12及び図13において、実線は第2の実施形態の結果を示し、破線は第1の実施形態の結果を示す。
【0053】
図12及び図13に示すように、第1の実施形態及び第2の実施形態においては、高次モードを効果的に抑制することができている。特に、第2の実施形態では、高次モードをより一層抑制できていることがわかる。第2の実施形態においては、高音速な誘電体層が設けられているため、高次モードの音速は高くなる。それによって、高次モードがバルク方向に漏洩するため、高域側の高次モードをより一層抑制することができる。
【0054】
ここで、例えば、メインモードとしてSH波などを用いる場合には、レイリー波がスプリアスとなる。誘電体層28がSiN層である場合において、後述する構成を有することにより、スプリアスとしてのレイリー波をも抑制することができる。この詳細を説明する。
【0055】
第2の実施形態の構成を有する弾性波装置の、圧電体層のオイラー角におけるθ及び誘電体層の膜厚と、レイリー波の位相との関係を求めた。弾性波装置の条件は以下の通りである。
【0056】
支持基板:材料…シリコン(Si)、面方位…Si(111)、(111)面におけるオイラー角…(-45°,-54.7°,47°)
窒化ケイ素膜:膜厚…0.15λ
酸化ケイ素膜:膜厚…0.15λ
圧電体層:材料…YカットX伝搬のLiTaO、膜厚…0.2λ、オイラー角…(0°,96°≦θ≦117°,0°)
IDT電極:材料…圧電性基板側からTi/Al/Ti、各層の膜厚…圧電性基板側から0.006λ/0.05λ/0.002λ
IDT電極の波長λ:2μm
誘電体層:材料…SiN、膜厚…0.0025λ以上、0.0975λ以下
【0057】
図14は、誘電体層が窒化ケイ素層である場合の、圧電体層のオイラー角におけるθ及び窒化ケイ素層の膜厚と、レイリー波の位相との関係を示す図である。
【0058】
図14に示す、ハッチングにより示した範囲以外の範囲は、レイリー波の位相が-70°以下となる範囲である。ここで、図14に示す関係を下記の式1により示す。なお、式1においては、窒化ケイ素層の膜厚をSiN膜厚と記載する。
【0059】
【数1】
【0060】
圧電体層のオイラー角におけるθ及び窒化ケイ素層の膜厚は、式1により導出されるレイリー波の位相が-70°以下となる範囲内の角度及び膜厚であることが好ましい。この場合には、高次モードを抑制できることに加えて、レイリー波をも効果的に抑制することができる。
【0061】
上述したように、誘電体層は窒化ケイ素層には限定されない。例えば、誘電体層が酸化アルミニウム層または窒化アルミニウム層である場合にも、高次モードに加えてレイリー波を効果的に抑制することができる。これを以下において示す。
【0062】
圧電体層のオイラー角におけるθ及び酸化アルミニウム層の膜厚と、レイリー波の位相との関係を求めた。他方、圧電体層のオイラー角におけるθ及び窒化アルミニウム層の膜厚と、レイリー波の位相との関係を求めた。なお、弾性波装置の条件は、誘電体層の材料がAlまたはAlNである点以外においては、図14の関係を求めた条件と同じである。
【0063】
図15は、誘電体層が酸化アルミニウム層である場合の、圧電体層のオイラー角におけるθ及び酸化アルミニウム層の膜厚と、レイリー波の位相との関係を示す図である。
【0064】
図15に示す、ハッチングにより示した範囲以外の範囲は、レイリー波の位相が-70°以下となる範囲である。ここで、図15に示す関係を下記の式2により示す。なお、式2においては、酸化アルミニウム層の膜厚をAl膜厚と記載する。
【0065】
【数2】
【0066】
圧電体層のオイラー角におけるθ及び酸化アルミニウム層の膜厚は、式2により導出されるレイリー波の位相が-70°以下となる範囲内の角度及び膜厚であることが好ましい。この場合には、高次モードを抑制できることに加えて、レイリー波をも効果的に抑制することができる。
【0067】
図16は、誘電体層が窒化アルミニウム層である場合の、圧電体層のオイラー角におけるθ及び窒化アルミニウム層の膜厚と、レイリー波の位相との関係を示す図である。
【0068】
図16に示す、ハッチングにより示した範囲以外の範囲は、レイリー波の位相が-70°以下となる範囲である。ここで、図16に示す関係を下記の式3により示す。なお、式3においては、窒化アルミニウム層の膜厚をAlN膜厚またはAlNβと記載する。
【0069】
【数3】
【0070】
圧電体層のオイラー角におけるθ及び窒化アルミニウム層の膜厚は、式3により導出されるレイリー波の位相が-70°以下となる範囲内の角度及び膜厚であることが好ましい。この場合には、高次モードを抑制できることに加えて、レイリー波をも効果的に抑制することができる。
【0071】
ところで、第1の実施形態及び第2の実施形態においては、圧電体層のオイラー角におけるθが95.5≦θ<117.5°の場合を示した。以下において、117.5°≦θ<129.5°または85.5°≦θ<95.5°の場合においても、高次モードを抑制することができる構成を示す。117.5°≦θ<129.5°である点以外は第1の実施形態と同様の構成を有する第3の実施形態の詳細を、図17図21を用いて説明する。85.5°≦θ<95.5°である点以外は第1の実施形態と同様の構成を有する第4の実施形態の詳細を、図22図24を用いて説明する。
【0072】
第3の実施形態の弾性波装置は、以下の構成を有することにより、高次モードを抑制することができる。1)圧電性基板がシリコン基板である支持基板、窒化ケイ素膜、酸化ケイ素膜、及びタンタル酸リチウムを用いた圧電体層がこの順序で積層された積層体からなること。2)圧電体層の膜厚が1λ以下であること。3)圧電体層のオイラー角におけるθと、窒化ケイ素膜の膜厚との関係が、下記の表7に示す組み合わせであること。
【0073】
【表7】
【0074】
図4図7の関係を求めたときの弾性波装置の条件から、圧電体層のオイラー角におけるθの条件のみを異ならせて、θ及び窒化ケイ素膜の膜厚と、高次モードの位相との関係を求めた。
【0075】
圧電体層:材料…YカットX伝搬のLiTaO、膜厚…0.2λ、オイラー角…(00°,118°≦θ≦129°,0°)
【0076】
図17は、圧電体層のオイラー角におけるθが118°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。図18は、圧電体層のオイラー角におけるθが119°≦θ≦122°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。図19は、圧電体層のオイラー角におけるθが123°≦θ≦126°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。図20は、圧電体層のオイラー角におけるθが127°≦θ≦129°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。図21は、圧電体層のオイラー角におけるθが130°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。
【0077】
図17に示すように、θが118°の場合には、窒化ケイ素膜の膜厚が0.0005λ以上、0.092λ以下の範囲内または0.166λ以上、0.597λ以下の範囲内において、高次モードの位相が-70°以下となっている。この結果が表7に示されている。同様に、図18図20に示すように、圧電体層のオイラー角におけるθを119°から1°刻みで129°まで変化させた場合において、高次モードの位相が-70°以下となる窒化ケイ素膜の膜厚の範囲を表7に示す。
【0078】
他方、図21に示すように、θが130°の場合においては、窒化ケイ素膜の膜厚が1.5λ以下の範囲において高次モードの位相が-70°を超えており、高次モードの位相を十分に抑制することは困難である。以上のように、圧電体層のオイラー角におけるθと、窒化ケイ素膜の膜厚との関係が、表7に示す組み合わせである場合においては、高次モードを効果的に抑制できることがわかる。
【0079】
第4の実施形態の弾性波装置は、以下の構成を有することにより、高次モードを抑制することができる。1)圧電性基板がシリコン基板である支持基板、窒化ケイ素膜、酸化ケイ素膜、及びタンタル酸リチウムを用いた圧電体層がこの順序で積層された積層体からなること。2)圧電体層の膜厚が1λ以下であること。3)圧電体層のオイラー角におけるθと、窒化ケイ素膜の膜厚との関係が、下記の表8に示す組み合わせであること。
【0080】
【表8】
【0081】
図4図7の関係を求めたときの弾性波装置の条件から、圧電体層のオイラー角におけるθの条件のみを異ならせて、θ及び窒化ケイ素膜の膜厚と、高次モードの位相との関係を求めた。
【0082】
圧電体層:材料…YカットX伝搬のLiTaO、膜厚…0.2λ、オイラー角…(00°,86°≦θ≦95°,0°)
【0083】
図22は、圧電体層のオイラー角におけるθが75°≦θ≦85°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。図23は、圧電体層のオイラー角におけるθが86°≦θ≦88°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。図24は、圧電体層のオイラー角におけるθが89°≦θ≦95°である場合の、窒化ケイ素膜の膜厚と高次モードの位相との関係を示す図である。
【0084】
図22に示すように、θが75°≦θ≦85°の場合には、窒化ケイ素膜の膜厚が1.5λ以下の範囲において高次モードの位相が-70°を超えており、高次モードの位相を十分に抑制することは困難である。
【0085】
これに対して、図23に示すように、θが86°の場合には、窒化ケイ素膜の膜厚が0.0005λ以上、0.03λ以下の範囲内または0.43λ以上、0.46λ以下の範囲内において、高次モードの位相が-70°以下となっている。この結果が表8に示されている。同様に、図23及び図24に示すように、圧電体層のオイラー角におけるθを87°から1°刻みで95°まで変化させた場合において、高次モードの位相が-70°以下となる窒化ケイ素膜の膜厚の範囲を表8に示す。以上のように、圧電体層のオイラー角におけるθと、窒化ケイ素膜の膜厚との関係が、表8に示す組み合わせである場合においては、高次モードを効果的に抑制できることがわかる。
【0086】
図25は、第5の実施形態に係る弾性波装置の、IDT電極における一対の電極指付近を示す正面断面図である。
【0087】
本実施形態は、IDT電極3を覆うように、圧電体層7上に設けられている保護膜39を有する点において第1の実施形態と異なる。本実施形態の保護膜39の材料は窒化ケイ素である。より具体的には、保護膜39は、材料をSiNとするSiN保護膜である。なお、保護膜39を構成する窒化ケイ素における窒素の比率は上記に限定されない。あるいは、保護膜39の材料は窒化ケイ素には限定されず、例えば、窒化アルミニウムや酸化アルミニウムであってもよい。
【0088】
本実施形態の弾性波装置は、後述する構成を有することにより、高次モードを抑制できることに加えて、スプリアスとしてのレイリー波をも抑制することができる。この詳細を説明する。
【0089】
第5の実施形態の構成を有する弾性波装置の、圧電体層のオイラー角におけるθ及び保護膜の膜厚と、レイリー波の位相との関係を求めた。弾性波装置の条件は以下の通りである。
【0090】
支持基板:材料…シリコン(Si)、面方位…Si(111)、(111)面におけるオイラー角…(-45°,-54.7°,46°)
窒化ケイ素膜:膜厚…0.15λ
酸化ケイ素膜:膜厚…0.15λ
圧電体層:材料…YカットX伝搬のLiTaO、膜厚…0.2λ、オイラー角…(0°,96°≦θ≦117°,0°)
IDT電極:材料…圧電性基板側からTi/Al/Ti、各層の膜厚…圧電性基板側から0.006λ/0.05λ/0.002λ
IDT電極の波長λ:2μm
保護膜:材料…SiN、膜厚…0.005λ以上、0.05λ以下
【0091】
図26は、圧電体層のオイラー角におけるθ及びSiN保護膜の膜厚と、レイリー波及び高次モードの位相との関係を示す図である。
【0092】
図26に示す、ハッチングにより示した範囲以外の範囲は、高次モードの位相が-70°以下であり、かつレイリー波の位相が-70°以下となる範囲である。ここで、図26に示す、圧電体層のオイラー角におけるθ及びSiN保護膜の膜厚と、レイリー波の位相との関係を下記の式4により示す。同様に、θ及びSiN保護膜の膜厚と、高次モードの位相との関係を下記の式5により示す。なお、式4及び式5においては、SiN保護膜の膜厚を単にSiN保護膜と記載する。
【0093】
【数4】
【0094】
【数5】
【0095】
本実施形態においては、圧電体層のオイラー角におけるθ及びSiN保護膜の膜厚が、式4により導出されるレイリー波の位相が-70°以下となり、かつ式5により導出される高次モードの位相が-70°以下となる範囲内の角度及び膜厚である。それによって、高次モードを抑制できることに加えて、レイリー波をも効果的に抑制することができる。
【0096】
式4により導出されるレイリー波の位相の下限としては、-90°とすることが好ましい。それによって、レイリー波をより確実に、かつ効果的に抑制することができる。式5により導出される高次モードの位相の下限としては、-90°とすることが好ましい。それによって、高次モードをより確実に、かつ効果的に抑制することができる。後述する式6及び式8並びに式7及び式9においても同様である。
【0097】
ここで、保護膜はSiN保護膜には限定されない。例えば、保護膜の材料が酸化アルミニウムまたは窒化アルミニウムである場合にも、高次モードに加えてレイリー波を効果的に抑制することができる。これらを第5の実施形態の第1の変形例及び第2の変形例として、以下において示す。第1の変形例においては、保護膜は、材料をAlとするAl保護膜である。第2の変形例においては、保護膜は、材料をAlNとするAlN保護膜である。もっとも、保護膜を構成する酸化アルミニウムまたは窒化アルミニウムにおける酸素または窒素の比率は上記に限定されない。
【0098】
圧電体層のオイラー角におけるθ及びAl保護膜の膜厚と、レイリー波及び高次モードの位相との関係を求めた。なお、弾性波装置の条件は、保護膜の材料がAlである点以外においては、図26の関係を求めた条件と同じである。
【0099】
保護膜:材料…Al、膜厚…0.005λ以上、0.05λ以下
【0100】
図27は、圧電体層のオイラー角におけるθ及びAl保護膜と、レイリー波及び高次モードの位相との関係を示す図である。
【0101】
図27に示す、ハッチングにより示した範囲以外の範囲は、高次モードの位相が-70°以下であり、かつレイリー波の位相が-70°以下となる範囲である。ここで、図27に示す、圧電体層のオイラー角におけるθ及びAl保護膜の膜厚と、レイリー波の位相との関係を下記の式6により示す。同様に、θ及びAl保護膜の膜厚と、高次モードの位相との関係を下記の式7により示す。なお、式6及び式7においては、Al保護膜の膜厚を単にAl保護膜と記載する。
【0102】
【数6】
【0103】
【数7】
【0104】
第1の変形例においては、圧電体層のオイラー角におけるθ及びAl保護膜の膜厚は、式6により導出されるレイリー波の位相が-70°以下となり、かつ式7により導出される高次モードの位相が-70°以下となる範囲内の角度及び膜厚である。それによって、高次モードを抑制できることに加えて、レイリー波をも効果的に抑制することができる。
【0105】
他方、圧電体層のオイラー角におけるθ及びAlN保護膜の膜厚と、レイリー波及び高次モードの位相との関係を求めた。なお、弾性波装置の条件は、保護膜の材料がAlNである点以外においては、図26の関係を求めた条件と同じである。
【0106】
保護膜:材料…AlN、膜厚…0.005λ以上、0.05λ以下
【0107】
図28は、圧電体層のオイラー角におけるθ及びAlN保護膜の膜厚と、レイリー波及び高次モードの位相との関係を示す図である。
【0108】
図28に示す、ハッチングにより示した範囲以外の範囲は、レイリー波の位相が-70°以下となる範囲である。ここで、図28に示す、圧電体層のオイラー角におけるθ及びAlN保護膜の膜厚と、レイリー波の位相との関係を下記の式8により示す。同様に、θ及びAlN保護膜の膜厚と、高次モードの位相との関係を下記の式9により示す。なお、式8及び式9においては、AlN保護膜の膜厚を単にAlN保護膜と記載する。
【0109】
【数8】
【0110】
【数9】
【0111】
第2の変形例においては、圧電体層のオイラー角におけるθ及びAlN保護膜の膜厚は、式8により導出されるレイリー波の位相が-70°以下となり、かつ式9により導出される高次モードの位相が-70°以下となる範囲内の角度及び膜厚である。それによって、高次モードを抑制できることに加えて、レイリー波をも効果的に抑制することができる。
【符号の説明】
【0112】
1…弾性波装置
2…圧電性基板
3…IDT電極
4…支持基板
5…窒化ケイ素膜
6…酸化ケイ素膜
7…圧電体層
8A,8B…反射器
16,17…第1,第2のバスバー
18,19…第1,第2の電極指
28…誘電体層
39…保護膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28